(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】CCケモカイン受容体9(CCR9)の阻害剤と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4709 20060101AFI20220217BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220217BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61P1/04
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020082164
(22)【出願日】2020-05-07
(62)【分割の表示】P 2017518197の分割
【原出願日】2015-10-05
【審査請求日】2020-06-02
(32)【優先日】2014-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507416218
【氏名又は名称】ケモセントリックス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】カレン エブスワース
(72)【発明者】
【氏名】ユー ワーン
(72)【発明者】
【氏名】イービン ズオン
(72)【発明者】
【氏名】ペングリー ジャーン
(72)【発明者】
【氏名】ジョアンヌ タン
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/130811(WO,A1)
【文献】American Journal of Gastroenterology,2014年10月01日,Vol.109, Suppl.2,pp.S523-524,Abstract Number 1771
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 39/00-39/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケモカイン受容体CCR9阻害剤を含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減用組成物であって、
前記組成物は、抗TNFα遮断抗体と併用投与され、
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は、以下の化合物:
【化1】
、又はその医薬的に許容される塩、又はそれらのN-オキシドである、組成物。
【請求項2】
前記炎症性腸疾患はクローン病(CD)または潰瘍性大腸炎(UC)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物と前記抗TNFα遮断抗体を複合製剤で投与する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物と前記抗TNFα遮断抗体を逐次投与する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物を前記抗TNFα遮断抗体より先に投与する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物を前記抗TNFα遮断抗体の投与後に投与する、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
治療に有効な量のケモカイン受容体CCR9阻害剤と治療に有効な量の抗TNFα遮断抗体と医薬的に許容される担体または賦形剤とを含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減のための組成物であって、
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗TNFα遮断抗体は、請求項1に記載されたものと同一である、
組成物。
【請求項8】
治療に有効な量のケモカイン受容体CCR9阻害剤と治療に有効な量の抗TNFα遮断抗体と有効な投与のための説明書とを含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減のためのキットであって、
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗TNFα遮断抗体は、請求項1に記載されたものと同一である、
キット。
【請求項9】
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗TNFα遮断抗体は逐次投与用に製剤化されている、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗TNFα遮断抗体は同時投与用に製剤化されている、請求項8に記載のキット。
【請求項11】
抗TNFα遮断抗体を含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減用組成物であって、
前記組成物は、ケモカイン受容体CCR9阻害剤と併用投与され、
前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗TNFα遮断抗体は、請求項1に記載されたものと同一である、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2014年10月6日出願の米国特許仮出願第62/060,454号に対する優先権を主張し、同出願の開示の全内容をあらゆる目的で参照により援用する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は、口、食道、胃、小腸、大腸(結腸)、直腸、肛門など、胃腸(GI)管での一部または全体に影響を及ぼす一群の慢性炎症性疾患である。IBDとしてはクローン病(Crohn’s disease;CD)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)、および不確定大腸炎が挙げられる。CDとUCは臨床的、内視鏡的、病理学的特徴によって区別できる。
【0003】
CDは胃腸管の任意の部分に関与する可能性のある慢性炎症の疾患である。この疾患の特徴的な症状としては、重度の腹痛、頻繁な下痢、直腸出血、便意切迫感、右下腹部の腫脹が挙げられる。
【0004】
UCは間欠的に寛解する、大腸の慢性炎症性疾患である。この疾患の特徴は、直腸および上方に向かって結腸へと広がる粘膜表面の病変を主に伴う炎症を繰り返し発症することである。急性発症の特徴は、慢性的な下痢症または便秘症、直腸出血、痙攣、および腹痛である。
【0005】
IBDの特徴は炎症と血液中の白血球(リンパ球、顆粒球、単核球、マクロファージなど)の腸の粘膜内層または上皮内層への浸潤である。IBDにはリンパ球、好中球、マクロファージ、樹状細胞などの複数の炎症細胞型が関与する。たとえばTリンパ球は、Tリンパ球表面にある接着分子と内皮にあるその同族リガンドが協調的に相互作用することにより胃腸管の粘膜に浸潤する。たとえば、一部のTリンパ球やBリンパ球の表面で発現したα4β7インテグリンは、そのリガンドの1つで胃腸管の内皮細胞にある粘膜アドレシン細胞接着分子1(mucosal addressin cell adhesion molecule 1;MAdCAM-1)に結合することによってこれらの細胞の移動を誘導する。IBDではケモカイン受容体とリガンド(たとえば受容体CCR9とそのリガンドCCL25)も炎症細胞(たとえばエフェクターメモリーヘルパーT細胞)の腸上皮への移動に関与する。
【0006】
IBDを治療するための現在の治療法としては、手術または抗腫瘍壊死因子(抗TNFα)抗体(たとえばインフリキシマブおよびアダリムマブ)、アミノサリチラート、全身性コルチコステロイド、免疫抑制剤(たとえばチオプリンおよびメトトレキサート)、およびそれらの組み合わせの使用が挙げられる。しかし、このような薬物治療に反応しない、または耐容性がないIBD患者もいる。
【0007】
以上のことから、リンパ球浸潤に関連する複数の経路および/または複数の細胞型を遮断できる有効なIBD治療計画がこの疾患の治療に役立つ可能性があることは明らかである。本発明はこのような医薬組成物および関連する治療方法を用いた治療を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面では、本開示は哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減の方法を提供し、この方法は、適量のケモカイン受容体CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン遮断抗体を投与することを含む。態様によっては、前記炎症性腸疾患はクローン病(CD)または潰瘍性大腸炎(UC)である。
【0009】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が1500未満の小分子受容体阻害剤である。このCCR9に対する小分子受容体阻害剤の分子量は、約1495、1450、1400、1300、1200、1100、1000、900、800、700、600、500、またはそれ以下であってよい。
他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が750未満の小分子受容体阻害剤である。このCCR9に対する小分子受容体阻害剤の分子量は、約745、700、650、600、550、500、450、400、350、300、またはそれ以下であってよい。
【0010】
態様によっては、本明細書に記載の小分子CCR9阻害剤は、式(I)で表す化合物またはその塩であってよい:
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、L、A
1、A
2、A
3、A
4、A
5、A
6、A
7、およびA
8は以下に定義するとおりである)。
【0011】
態様によっては、前記抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))、あるいはそのバイオシミラー(biosimilar)、バイオベター(biobetter)、または生物学的同等物である。他の態様では、抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))である。
【0012】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗α4β7インテグリン遮断抗体を複合製剤で投与する。他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗α4β7インテグリン遮断抗体を逐次投与する。さらに他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤を前記抗α4β7インテグリン遮断抗体より先に投与する。別の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤を前記抗α4β7インテグリン遮断抗体の投与後に投与する。
【0013】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は以下の式を有する化合物である:
【化2】
【0014】
別の側面では、本開示は、治療に有効な量のケモカイン受容体CCR9阻害剤と治療に有効な量の抗α4β7インテグリン遮断抗体と医薬的に許容される担体または賦形剤とを含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減のための組成物を提供する。
【0015】
態様によっては、前記炎症性腸疾患はクローン病(CD)または潰瘍性大腸炎(UC)である。
【0016】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が1500未満の小分子受容体阻害剤である。他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が750未満の小分子受容体阻害剤である。前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤化合物は本明細書に記載の式(I)で表される化合物またはその塩であってよい。
【0017】
態様によっては、前記抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))、あるいはそのバイオシミラー、バイオベター、または生物学的同等物である。他の態様では、前記抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))である。
【0018】
さらに別の側面では、本開示は、治療に有効な量のケモカイン受容体CCR9阻害剤と治療に有効な量の抗α4β7インテグリン遮断抗体と有効な投与のための説明書とを含む、哺乳動物の炎症性腸疾患の治療または発症低減のためのキットを提供する。
【0019】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗α4β7インテグリン遮断抗体は逐次投与用に製剤化されている。他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤と前記抗α4β7インテグリン遮断抗体は同時投与用に製剤化されている。
【0020】
態様によっては、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が1500未満の小分子受容体阻害剤である。他の態様では、前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤は分子量が750未満の小分子受容体阻害剤である。前記ケモカイン受容体CCR9阻害剤化合物は本明細書に記載の式(I)で表される化合物またはその塩であってよい。場合によっては、前記小分子受容体阻害剤はバーサーノン(Traficet-EN(商標))またはCCX507である。
【0021】
態様によっては、前記抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))、あるいはそのバイオシミラー、バイオベター、または生物学的同等物である。他の態様では、前記抗α4β7インテグリン遮断抗体はベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))である。
【0022】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1Aおよび
図1Bは、CCR9の小分子阻害剤(CCX507)はレチノイン酸により分化したヒトT細胞がMAdCAM-1と結合するのを制限することを示している。
図1Aは、ヒト末梢血単核球(PBMC)がレチノイン酸およびIL-12の存在下でCD3εおよびCD28によって活性化したことを示す。腸に作用する因子であるCCR9およびα4β7の発現を2つのパラメータのドットプロットとして示す。CCR9陽性・α4β7陽性細胞の割合を示す。
【
図1B】
図1Aおよび
図1Bは、CCR9の小分子阻害剤(CCX507)はレチノイン酸により分化したヒトT細胞がMAdCAM-1と結合するのを制限することを示している。
図1Bは、生体外で分化させたヒトCCR9陽性・α4β7陽性T細胞の静的な結合試験のデータを示す。簡潔には、CCR9陽性・α4β7陽性細胞をCCX507の存在下(1μM)または非存在下でhCCL25(500nM)と混合したものを、MAdCAM-1-Fcでコートしたプレートに添加した。各条件でMAdCAM-1と接着した細胞数をCyQUANT(登録商標)で定量し、相対蛍光単位(RFU)で示した。
【
図2A】
図2A、
図2B、および
図2Cは、養子T細胞移入のマウスモデルの生体内でのCCX507の薬力学的有効性を示す。
図2Aは、短期間のT細胞輸送モデルの生体内でのCCX507の薬力学的範囲を確認するのに使用した実験計画を示す。
【
図2B】
図2A、
図2B、および
図2Cは、養子T細胞移入のマウスモデルの生体内でのCCX507の薬力学的有効性を示す。
図2BはCCX507(5~30mg/kg)、
図2Cは抗α4β7インテグリン遮断抗体の存在下でのOT-I由来CD8陽性上皮内リンパ球(IEL)の数を棒グラフで示す。
【
図2C】
図2A、
図2B、および
図2Cは、養子T細胞移入のマウスモデルの生体内でのCCX507の薬力学的有効性を示す。
図2BはCCX507(5~30mg/kg)、
図2Cは抗α4β7インテグリン遮断抗体の存在下でのOT-I由来CD8陽性上皮内リンパ球(IEL)の数を棒グラフで示す。
【
図3】
図3は、回腸および結腸でのヒトCCR9遺伝子発現の関連を示す。クローン病患者の生検試料を入手した。回腸末端および結腸の試料から正規化した遺伝子発現を導いた。
図3は、CCR9の発現量に対する選択した遺伝子の発現量を表す色分け図を示す。
【
図4A】
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dは、CCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用は単剤療法による治療計画に比べて大腸炎からの保護に優れていたことを示す。
図4Aは、抗α4β7インテグリン遮断抗体および抗TNFα抗体の投与計画を示す。
【
図4B】
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dは、CCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用は単剤療法による治療計画に比べて大腸炎からの保護に優れていたことを示す。
図4Bは、野生型マウス(FVB)、ならびに溶媒対照(1%HPMC)、ラットIgG2aアイソタイプ対照、CCX507、抗α4β7インテグリン遮断抗体、およびCCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の組み合わせをそれぞれ与えたマウスの結腸を表す代表的な写真を示す。
【
図4C】
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dは、CCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用は単剤療法による治療計画に比べて大腸炎からの保護に優れていたことを示す。
図4CはCCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体、
図4DはCCX507と抗TNFα遮断抗体の場合について、定量した結腸対体重の比を散布図で示す。
【
図4D】
図4A、
図4B、
図4C、および
図4Dは、CCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用は単剤療法による治療計画に比べて大腸炎からの保護に優れていたことを示す。
図4CはCCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体、
図4DはCCX507と抗TNFα遮断抗体の場合について、定量した結腸対体重の比を散布図で示す。
【
図5A】
図5Aおよび
図5Bはマウスの結腸組織の組織学的分析の結果を示す。
図5Aは、各群の組織病理学的スコアの平均を表す、個々のマウスの近位結腸と遠位結腸の両方の代表的な画像を示す。右図に、CCX507と抗α4β7抗体を併用した場合を示す。
【
図5B】
図5Aおよび
図5Bはマウスの結腸組織の組織学的分析の結果を示す。
図5Bは、試験したすべてのマウスの組織学的スコアの合計を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(I.序論)
本開示は、CCR9阻害剤(たとえばCCR9の小分子阻害剤)とα4β7インテグリンに対する抗体による併用療法が炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、不確定大腸炎など)の治療で相乗的に作用する可能性があるという予想外の知見に部分的に基づいている。本明細書では治療が必要な対象(たとえばヒトまたは対象動物)のIBDを治療するための方法、組成物、およびキットについて記載する。態様によっては、この方法はIBD患者に治療に有効な量のCCX507(バーサーノン)とベドリズマブを投与して、患者の臨床反応を誘発するか臨床的寛解を維持することを含む。
【0025】
(II.定義)
本発明の化合物、組成物、方法、および工程を記載する場合、以下の用語は、他に指示がない限り、以下の意味を有する。
【0026】
本明細書で使用する場合、「a」、「an」、または「the」は、ある構成要素を1個有する側面も2個以上有する側面も含む。たとえば、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明確に他の指示がない限り、指示対象が複数である場合も含む。したがって、たとえば「細胞(a cell)」という記載は複数のこのような細胞を含み、「前記薬剤(the agent)」という記載は当業者に公知の1つ以上の薬剤の記載を含み、その他も同様である。
【0027】
「約」という用語は一般に、測定量に対し測定の性質または精度を考慮して許容可能な程度の誤差を意味するものとする。一般的な誤差の程度の例は、所与の値または値域の20パーセント(%)以内(10%以内が好ましく、5%以内がより好ましい)である。あるいは、特に生物系では、「約」という用語は、所与の値の10倍以内(5倍以内が好ましく、2倍以内がより好ましい)の値を意味する場合がある。本明細書に記載の数量は他に特に記載しない限りおよその数量であり、すなわち、「約」という用語は明記されていない場合にも推測できる。
【0028】
「炎症性腸疾患」または「IBD」という用語は、たとえばクローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、不確定性大腸炎(IC)、CDかUCかが未確定のIBD(「未確定」)などの胃腸障害を含む。炎症性腸疾患(たとえばCD、UC、IC、未確定)は、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)などその他のあらゆる胃腸管系障害、症候群、異常とは区別される。IBD関連疾患の例としてはコラーゲン性大腸炎およびリンパ球性大腸炎が挙げられる。
【0029】
「潰瘍性大腸炎」または「UC」という用語は、直腸に広がり上方へ進行する粘膜表面の病変を特徴とする、間欠的に再燃する慢性の結腸または大腸の炎症性腸疾患(IBD)である。異なる型の潰瘍性大腸炎は炎症の位置および程度に応じて分類される。UCの例としては潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、および潰瘍性汎(全)大腸炎が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
「クローン病」または「CD」という用語は、胃腸管の任意の部分に関与する可能性のある慢性炎症の疾患を指す。一般に小腸の遠位部(すなわち回腸)と盲腸が影響を受ける。他に、この疾患が小腸、結腸、または肛門直腸領域に限定される場合もある。CDは十二指腸や胃を含むこともあり、さらに稀ではあるが食道や口を含むこともある。UCの例としては、回結腸炎、回腸炎、胃十二指腸クローン病、空回腸炎、および大腸クローン病(肉芽腫性)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
「対象」、「個体」または「患者」という用語は、哺乳動物(霊長類(たとえばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない)などの動物を指す。
【0032】
「CCケモカイン受容体9」、「CCR9」、または「ケモカイン受容体CCR9」という用語は、ケモカインCCL25(TECK、SCYA25ともいう)の受容体を指す。ヒトCCR9のポリペプチド配列は、たとえばGenBank受入番号NP_001243298、NP_006632、NP_112477、およびXP_011531614に記載されている。ヒトCCR9のmRNA(コード)配列は、たとえばGenBankの受入番号NM_001256369、NM_006641、NM_031200、およびXM_011533312に記載されている。
【0033】
「CCケモカイン受容体9阻害剤」、「CCR9阻害剤」、または「ケモカイン受容体CCR9阻害剤」という用語は、受容体CCR9ポリペプチド、その変異体、またはその断片の阻害剤または拮抗剤を指す。
【0034】
「小分子阻害剤」という用語は、標的の分子、生体分子、タンパク質、またはその他の生物由来物質を不活性化、阻害、または拮抗する小分子または低分子量の有機化合物を指す。
【0035】
「α4β7インテグリン」という用語は、α4鎖とβ7鎖などの2種類の異なる鎖を有するヘテロ二量体インテグリン分子を指す。ヒトインテグリンα4鎖のポリペプチド配列は、たとえばGenBank受入番号NP_000876に記載されている。ヒトインテグリンα4鎖のmRNA(コード)配列は、たとえばGenBank受入番号NM_000885に記載されている。ヒトインテグリンβ7鎖のポリペプチド配列は、たとえばGenBank受入番号NP_000880、XP_005268908、およびXP_005268909に記載されている。ヒトインテグリンβ7鎖のmRNA(コード)配列は、たとえばGenBank受入番号NM_000889、XM_05268851、およびXM_05268852に記載されている。α4β7インテグリンをLPAMともいう。
【0036】
「抗α4β7インテグリン遮断抗体」または「抗α4β7インテグリン中和抗体」という用語は、α4β7インテグリン(α4β7インテグリンヘテロ二量体)ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体またはその断片を指す。場合によっては、抗α4β7インテグリン遮断抗体はα4β7インテグリンとそのリガンドのいずれか1つとの相互作用を遮断する。
【0037】
「バイオシミラー」という用語は、FDA承認を受けた生物学的製剤(基準製剤)と非常に類似し、かつ基準製剤と薬物動態、安全性、有効性の点で臨床的に意味のある違いがない生物学的製剤を指す。
【0038】
「生物学的同等物 (bioequivalent)」という用語は、FDA承認を受けた生物学的製剤(基準製剤)と薬学的に同等であり、かつ同様の生物学的利用能を有する生物学的製剤を指す。たとえば、FDAによれば、「生物学的同等性」という用語は、「適切に設計した試験で同様の条件のもと同一モル投与量を投与した場合に、薬学的同等物または薬学的代替物の有効成分または活性部分が薬物作用部位で有用になる割合や程度に有意差がないこと」と定義されている(United States Food and Drug Administration, “Guidance for Industry: Bioavailability and Bioequivalence Studies for Orally Administered Drug Products - General Considerations,” 2003, Center for Drug Evaluation and Research)。
【0039】
「バイオベター (biobetter)」という用語は、FDA認可を受けた生物学的製剤(基準製剤)と同じ分類にあるが同一ではなく、基準製剤に比べて安全性、有効性、安定性などが改善された生物学的製剤を指す。
【0040】
「治療に有効な量」という用語は、対象となる状態または症状を改善するのに十分な治療剤の量を指す。たとえば、所与のパラメータに対し、治療に有効な量は少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、または少なくとも100%の増減を示す。治療の有効性を「―倍」高いまたは低いと表現することもできる。たとえば、治療に有効な量は対照と比べて少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、5倍、またはそれ以上の効果を有する可能性がある。
【0041】
「投与(する)」という用語およびその派生語は、生物学的作用の必要な部位へ薬剤または組成物を送達できるように用いられ得る方法を指す。このような方法としては、非経口投与(たとえば、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、血管内注射、くも膜下腔内注射、鼻腔内注射、硝子体内注射、点滴注射、局所注射など)、経粘膜注射、経口投与、坐剤の投与、および局所投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者は疾患に関連する1つ以上の症状を予防または軽減するため治療に有効な量の本発明の化合物を投与するさらなる方法を知っている。
【0042】
「治療(する)」という用語は、哺乳動物(特にヒトまたは動物)などの患者の疾患または医学的状態(炎症など)の治療を指し、患者の疾患または医学的状態の改善(すなわちその疾患または医学的状態を取り除くか退行させること);患者の疾患または医学的状態の抑制(すなわちその疾患または医学的状態の発症を遅らせるか止めること);あるいは患者の疾患または医学的状態の症状の軽減が挙げられる。この用語は、特定の疾患の罹患または発症のリスクを予防または低減するため、あるいは疾患の再発のリスクを予防または低減するための疾患の予防的治療を包含する。
【0043】
「アルキル」は、それ自体または別の置換基の一部として、指定数の炭素原子を有する(すなわち、C1~8は炭素原子が1個~8個であるという意味である)、直鎖状、環状、分岐鎖状、またはその組み合わせであってよい炭化水素基を指す。「シクロアルキル」という用語は、それ自体または別の置換基の一部として、指定数の炭素原子を有する環状アルキル基を指し、「アルキル」という用語の部分集合である。「アルキル」という用語の別の部分集合としては、2つの異なる種類の非環状アルキル基を指す「直鎖」アルキル基および「分岐鎖」アルキル基が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタンなどが挙げられる。ここに列挙した例で、アルキルの例であるメチル、エチル、n-プロピル、およびn-ブチルは「直鎖アルキル」基の例でもある。同様に、イソプロピルおよびt-ブチルは「分岐鎖アルキル」基の例でもある。シクロペンチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、およびビシクロ[2.2.2]オクタンは「シクロアルキル」基の例である。態様によっては、シクロプロピルは別の2つの部分の間で架橋基として用いられ、-CH(CH2)CH-と表される場合がある。「アルキル基」は、他に指示がない限り、置換されていても置換されていなくてもよい。置換アルキルの例としては、ハロアルキル、チオアルキル、アミノアルキルなどが挙げられる。適切な置換アルキルのさらなる例としては、ヒドロキシイソプロピル、-C(CH3)2-OH、アミノメチル、2-ニトロエチル、4-シアノブチル、2,3-ジクロロペンチル、3-ヒドロキシ-5-カルボキシヘキシル、2-アミノエチル、ペンタクロロエチル、トリフルオロメチル、2-ジエチルアミノエチル、2-ジメチルアミノプロピル、エトキシカルボニルメチル、メタニルスルファニルメチル、メトキシメチル、3-ヒドロキシペンチル、2-カルボキシブチル、4-クロロブチル、およびペンタフルオロエチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換アルキルに適切な置換基としては、ハロゲン、-CN、-CO2R’、-C(O)R’、-C(O)NR’R’’、オキソ(=Oまたは-O-)、-OR’、-OC(O)R’、-OC(O)NR’R’’-NO2、-NR’C(O)R’’、-NR’’’C(O)NR’R’’、-NR’R’’、-NR’CO2R’’、-NR’S(O)R’’、-NR’S(O)2R’’’、-NR’’’S(O)NR’R’’、-NR’’’S(O)2NR’R’’、-SR’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-NR’-C(NHR’’)=NR’’’、-SiR’R’’R’’’、-OSiR’R’’R’’’、-N3、置換または非置換のC6~10アリール、置換または非置換の5員~10員のヘテロアリール、および置換または非置換の3員~10員のヘテロシクリルが挙げられる。可能な置換基の数は0~(2m’+1)の範囲であり、ここでm’は上記ラジカルに含まれる炭素原子の総数である。置換アルキルに関して、R’、R’’、およびR’’’は、それぞれ独立して、水素、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC2~8アルケニル、置換または非置換のC2~8アルキニル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のアリールアルキル、置換または非置換のアリールオキシアルキルなどの様々な基を指す。R’とR’’が同じ窒素原子に結合している場合、それらはその窒素原子と共に3員環、4員環、5員環、6員環、または7員環を形成してもよい(たとえば、-NR’R’’は1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含む)。また、R’とR’’、R’’とR’’’、またはR’とR’’’は、それらが結合している原子と共に置換または非置換の5員環、6員環、または7員環を形成してもよい。
【0044】
「アルコキシ」は-O-アルキルを指す。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシなどが挙げられる。
【0045】
「アルケニル」は、直鎖状、環状、分岐鎖状、またはその組み合わせであってよい不飽和炭化水素基を指す。2個~8個の炭素原子を有するアルケニル基が好ましい。アルケニル基は、1個、2個、または3個の炭素-炭素二重結合を含んでもよい。アルケニル基の例としては、エテニル、n-プロペニル、イソプロペニル、n-ブタ-2-エニル、n-ヘキサ-3-エニル、シクロヘキセニル、シクロペンテニルなどが挙げられる。アルケニル基は、他に指示がない限り、置換されていても置換されていなくてもよい。
【0046】
「アルキニル」は、直鎖状、環状、分岐鎖状、またはその組み合わせであってよい不飽和炭化水素基を指す。2個~8個の炭素原子を有するアルキニル基が好ましい。アルキニル基は、1個、2個、または3個の炭素-炭素三重結合を含んでもよい。アルキニル基の例としては、エチニル、n-プロピニル、n-ブタ-2-イニル、n-ヘキサ-3-イニルなどが挙げられる。アルキニル基は、他に指示がない限り、置換されていても置換されていなくてもよい。
【0047】
「アルキルアミノ」は、-N(アルキル)2または-NH(アルキル)を指す。アルキルアミノ基が2個のアルキル基を含む場合、それらのアルキル基は共に炭素環または複素環を形成してもよい。なお、アルキルアミノ基のアルキル基は置換されていても置換されていなくてもよい。アルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ、tert-ブチルアミノ、ジメチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、モルホリノなどが挙げられる。
【0048】
「アミノアルキル」は置換アルキル基としてモノアミノアルキル基またはポリアミノアルキル基(1個~2個のアミノ基で置換されていることが最も一般的である)を指す。例としては、アミノメチル、2-アミノエチル、2-ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0049】
「アリール」は、1つの環(二環式)、あるいは縮合しても共有結合してもよい複数の環(二環式が好ましい)を有する多価不飽和芳香族炭化水素基を指す。炭素原子を6個~10個有するアリール基が好ましく、この炭素原子数は、たとえばC6~10と表すことができる。アリール基の例としては、フェニル、ナフタレン-1-イル、ナフタレン-2-イル、ビフェニルなどが挙げられる。アリール基は、他に指示がない限り、置換されていても置換されていなくてもよい。置換アリールは1個以上の置換基で置換されていてもよい。アリールに適した置換基としては、置換または非置換のC1~8アルキル、および置換アルキルについて上述した置換基が挙げられる。
【0050】
「ハロ」または「ハロゲン」は、それ自体または置換基の一部として、塩素、臭素、ヨウ素、またはフッ素原子を指す。
【0051】
「ハロアルキル」は置換アルキル基として、モノハロアルキル基またはポリハロアルキル基(1個~3個のハロゲン原子で置換されていることが最も一般的である)を指す。例としては、1-クロロエチル、3-ブロモプロピル、トリフルオロメチルなどが挙げられる。
【0052】
「ヘテロシクリル」は、窒素、酸素、硫黄から選択される少なくとも1個(一般的には1個~5個)の異種原子を有する、飽和または不飽和の非芳香族基を指す。これらの基は0個~5個の窒素原子、0個~2個の硫黄原子、および0個~2個の酸素原子を含むのが好ましく、0個~3個の窒素原子、0個~1個の硫黄原子、および0個~1個の酸素原子を含むのがより好ましい。複素環基の例としては、ピロリジン、ピペリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ブチロラクタム、バレロラクタム、イミダゾリジノン、ヒダントイン、ジオキソラン、フタルイミド、ピペリジン、1,4-ジオキサン、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリン-S-オキシド、チオモルホリン-S,S-ジオキシド、ピペラジン、ピラン、ピリドン、3-ピロリン、チオピラン、ピロン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、キヌクリジンなどが挙げられる。好ましい複素環基は単環式であるが、アリール環系またはヘテロアリール環系と縮合すなわち共有結合していてもよい。
【0053】
例示の複素環基は以下の式(AA)で表される基であってよい:
【化3】
【0054】
ここで、式(AA)はM1またはM2の自由原子価によって結合する。M1は、O、NRe、またはS(O)lを表し、M2はCRfRg、O、S(O)l、またはNReを表し、ここで、Rf、Rg、またはReを1個取り除いてM1またはM2(たとえばCRf、CRg、またはNなど)の自由原子価を作る必要のある場合がある。lは0、1、または2であり、jは1、2、または3であり、kは1、2、または3であり、ただし、j+kは3、4、または5である。Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgは、水素、ハロゲン、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC2~8アルケニル、置換または非置換のC2~8アルキニル、-CORh、-CO2Rh、-CONRhRi、-NRhCORi、-SO2Rh-SO2NRhRi、-NRhSO2Ri-NRhRi、-ORh、-SiRhRiRj、-OSiRhRiRj、-Q1CORh、-Q1CO2Rh、-Q1CONRhRi、-Q1NRhCORi、-Q1SO2Rh、-Q1SO2NRhRi、-Q1NRhSO2Ri、-Q1NRhRi、-Q1ORh(ここで、Q1はC1~4アルキレン、C2~4アルケニレン、およびC2~4アルキニレンからなる群より選択される構成要素であり、Rh、Ri、およびRjは、水素およびC1~8アルキルからなる群より独立して選択される)からなる群より独立して選択される。ここで、置換基Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rg、Rh、Ri、およびRの各々の脂肪族部分は、ハロゲン、-OH、-ORn、-OC(O)NHRn、-OC(O)NRnRo、-SH、-SRn、-S(O)Rn、-S(O)2Rn-S(O)2NHRn、-S(O)2NRnRo、-NHS(O)2Rn、-NRnS(O)2Ro、-C(O)NH2、-C(O)NHRn、-C(O)NRnRo、-C(O)Rn、-NHC(O)Ro、-NRnC(O)Ro、-NHC(O)NH2、-NRnC(O)NH2、-NRnC(O)NHRo、-NHC(O)NHRn、-NRnC(O)NRoRp、-NHC(O)NRnRo、-CO2H、-CO2Rn、-NHCO2Rn、-NRnCO2Ro、-CN、-NO2、-NH2、-NHRn、-NRnRo、-NRnS(O)NH2、および-NRnS(O)2NHRo(ここで、Rn、Ro、およびRpは、独立して非置換C1~8アルキルである)からなる群より選択される1個~3個の構成要素で置換されていてもよい。また、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgのいずれか2つは共に架橋環系またはスピロ環系を形成してもよい。
【0055】
Ra+Rb+Rc+Rdで水素以外の基の数は0、1、または2であることが好ましい。より好ましくは、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgは水素、ハロゲン、置換または非置換のC1~8アルキル、-C(O)Rh、-CO2Rh、-C(O)NRhRh、-NRhCORi、-SO2Rh、-SO2NRhRi、-NSO2RhRi、-NRhRi、および-ORhからなる群より独立して選択され、ここで、RhおよびRiは水素および非置換C1~8アルキルからなる群より独立して選択され;置換基Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgの各々の脂肪族部分は、ハロゲン、-OH、-ORn、-OC(O)NHRn、-OC(O)NRnRo、-SH、-SRn、-S(O)Ro、-SO2Rn、-SO2NH2、-SO2NHRn、-SO2NRnORo、-NHSO2Rn、-NRnSO2Ro、-C(O)NH2、-C(O)NHRn、-C(O)NRnRo、-C(O)Rn、-NHC(O)Rn、-NRnC(O)Ro、-NHC(O)NH2、-NRnC(O)NH2、-NRnC(O)NHRo、-NHC(O)NHRn、-NRnC(O)NRnRo、-NHC(O)NRnRo、-CO2H、-CO2Rn、-NHCO2Rn、-NRnCO2Ro、-CN、-NO2、-NH2、-NHRn、-NRnRo、-NRnS(O)NH2、および-NRnS(O)2NHRo(ここで、Rn、Ro、およびRpは独立して非置換C1~8アルキルである)からなる群より選択される1個~3個の構成要素で置換されていてもよい。
【0056】
Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgは独立して水素またはC1~4アルキルであることがより好ましい。別の好ましい態様では、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、およびRgのうち少なくとも3つは水素である。
【0057】
「ヘテロアリール」は、少なくとも1個の異種原子を有する芳香族基である。例としては、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、トリアジニル、キノリニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、フタラジニル、ベンゾトリアジニル、プリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンズイソオキサゾリル、イソベンゾフリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンゾトリアジニル、チエノピリジニル、チエノピリミジニル、ピラゾロピリミジニル、イミダゾピリジン、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、インダゾリル、プテリジニル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、ピロリル、チアゾリル、フリル、およびチエニルが挙げられる。好ましいヘテロアリール基は少なくとも1個のアリール環窒素原子を有するもの、たとえばキノリニル、キノキサリニル、プリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチアゾリル、インドリル、キノリル、イソキノリルなどである。好ましい6員のヘテロアリール系としては、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、トリアジニルなどが挙げられる。好ましい5員のヘテロアリール系としては、イソチアゾリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チエニル、フリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、ピロリル、チアゾリルなどが挙げられる。
【0058】
ヘテロシクリルおよびヘテロアリールは、環内の任意の利用可能な炭素原子または異種原子で結合できる。各ヘテロシクリルおよびヘテロアリールは1個以上の環を有してよい。複数の環が存在する場合、それらは縮合すなわち共有結合してよい。各ヘテロシクリルおよびヘテロアリールは、窒素、酸素、硫黄から選択される少なくとも1個(一般的には1個~5個)の異種原子を有さなければならない。これらの基は0個~5個の窒素原子、0個~2個の硫黄原子、および0個~2個の酸素原子を有することが好ましく、0個~3個の窒素原子、0個~1個の硫黄原子、および0個~1個の酸素原子を有することがより好ましい。ヘテロシクリル基およびヘテロアリール基は、他に指示のない限り、置換されていても置換されていなくてもよい。置換された基の場合、置換は炭素原子または異種原子に存在してもよい。たとえば、置換がオキソ(=Oまたは-O-)である場合、得られる基はカルボニル(-C(O)-)またはN-オキシド(-N+-O-)あるいは-S(O)-または-S(O)2-を有してもよい。
【0059】
置換アルキル、置換アルケニル、および置換アルキニルに適切な置換基としては、ハロゲン、-CN、-CO2R’、-C(O)R’、-C(O)NR’R’’、オキソ(=Oまたは-O-)、-OR’、-OC(O)R’、-OC(O)NR’R’’-NO2、-NR’C(O)R’’、-NR’’’C(O)NR’R’’、-NR’R’’、-NR’CO2R’’、-NR’S(O)2R’’’、-SR’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-SiR’R’’R’’’、-N3、置換または非置換のC6~10アリール、置換または非置換の5員~10員のヘテロアリール、および置換または非置換の3員~10員のヘテロシクリルが挙げられ、置換基数は0~(2m’+1)の範囲であり、ここでm’は上記ラジカルに含まれる炭素原子の総数である。
【0060】
置換アリール、置換ヘテロアリール、および置換ヘテロシクリルに適切な置換基としては、ハロゲン、-CN、-CO2R’、-C(O)R’、-C(O)NR’R’’、オキソ(=Oまたは-O-)、-OR’、-OC(O)R’、-OC(O)NR’R’’-NO2、-NR’C(O)R’’、-NR’C(O)NR’’R’’’、-NR’R’’、-NR’CO2R’’、-NR’S(O)2R’’、-SR’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-NR’-C(NHR’’)=NR’’’、-SiR’R’’R’’’、-N3、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC2~8アルケニル、置換または非置換のC2~8アルキニル、置換または非置換のC6~10アリール、置換または非置換の5員~10員のヘテロアリール、および置換または非置換の3員~10員のヘテロシクリルが挙げられる。可能な置換基の数は、0~芳香環系にある自由原子価の総数の範囲である。
【0061】
上記で使用したように、R’、R’’、およびR’’’は、それぞれ独立して、水素、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC2~8アルケニル、置換または非置換のC2~8アルキニル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のアリールアルキル、置換または非置換のアリールオキシアルキルなどの様々な基を指す。R’とR’’が同じ窒素原子に結合している場合、それらはその窒素原子と共に3員環、4員環、5員環、6員環、または7員環を形成してもよい(たとえば、-NR’R’’は1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含む)。また、R’とR’’、R’’とR’’’、またはR’とR’’’は、それらが結合している原子と共に置換または非置換の5員環、6員環、または7員環を形成してもよい。
【0062】
アリール環またはヘテロアリール環の隣接する原子の置換基のうち2個は、必要に応じて、式-T-C(O)-(CH2)q-U-(式中、TとUは独立して-NR’’’’-、-O-、-CH2-または単結合であり、qは0~2の整数である)の置換基に置き換えられてもよいし、あるいは、式-A’-(CH2)r-B’-(式中、A’とB’は独立して-CH2-、-O-、-NR’’’’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’’’’-、または単結合であり、rは1~3の整数である)の置換基に置き換えられてもよい。このようにして形成された新しい環の単結合のうちの1つは必要に応じて二重結合に置き換えられてもよい。あるいは、アリール環またはヘテロアリール環の隣接する原子の置換基のうち2個は、必要に応じて式-(CH2)s-X-(CH2)t-(式中、sとtは独立して0~3の整数であり、Xは-O-、-NR’’’’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR’-である)の置換基に置き換えられてもよい。-NR’’’’-および-S(O)2NR’’’’の置換基R’’’’は水素または非置換C1~8アルキルである。
【0063】
「異種原子」は酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、ケイ素(Si)を含むものとする。
【0064】
「医薬的に許容される」担体、希釈剤、または賦形剤は、製剤に含まれる他の成分と適合し、かつ患者に有害でない担体、希釈剤、または賦形剤である。
【0065】
「医薬的に許容される塩」は、哺乳動物などの患者への投与が許容される塩(たとえば、所与の投与計画について哺乳動物での安全性が許容されている塩)を指す。このような塩は、本明細書に記載の化合物に見られる特定の置換基に応じて、医薬的に許容される無機塩基類または有機塩基類、および医薬的に許容される無機酸または有機酸から得ることができる。本発明の化合物が相対的に酸性である官能基を有する場合、その化合物の中性形態を無溶媒または適切な不活性溶媒中で十分な量の所望の塩基と接触させることにより塩基付加塩を得ることができる。医薬的に許容される無機塩基類から得られる塩としては、アルミニウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅塩、三価鉄塩、二価鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、二価マンガン塩、三価マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。医薬的に許容される有機塩基類から得られる塩としては、一級アミン、二級アミン、三級アミン、四級アミン(置換アミン、環状アミン、天然アミンなど)の塩が挙げられ、たとえば、アルギニン、べタイン、カフェイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどである。本発明の化合物が相対的に塩基性の官能基を有する場合、その化合物の中性形態を無溶媒または適切な不活性溶媒中で十分な量の所望の酸と接触させることにより酸付加塩を得ることができる。医薬的に許容される酸から得られる塩としては、酢酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、馬尿酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、ムチン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0066】
また、アルギン酸塩などのアミノ酸の塩やグルクロン酸またはガラクツロン酸などの有機酸の塩も含まれる(たとえば、Berge, S. M., et al, “Pharmaceutical Salts”, J. Pharmaceutical Science, 1977, 66:1-19を参照のこと)。本発明のある特定の化合物は、化合物を塩基付加塩または酸付加塩に変換できる塩基性官能基と酸性官能基の両方を有する。
【0067】
中性形態の化合物は、塩を塩基または酸と接触させ、親化合物を従来の方法で単離することによって生成できる。親化合物の形態は、上記の様々な塩形態とは極性溶媒への溶解性などの特定の物理的性質が異なるが、それ以外の点では、本発明の目的に関して塩は親化合物の形態と同等である。
【0068】
「その塩」は、ある酸の水素が金属陽イオンまたは有機陽イオンなどの陽イオンに置き換えられたときに形成される化合物を指す。塩は医薬的に許容される塩であるのが好ましいが、このことは患者への投与を意図しない中間体化合物の塩には必要ではない。
【0069】
塩形態に加えて、本発明はプロドラッグ形態の化合物を提供する。プロドラッグは状況によっては親薬物よりも投与が容易な場合があるため、有用であることが多い。たとえば、プロドラッグは経口投与によって生物学的に利用でき、親薬物はそうではないという場合がある。また、プロドラッグは親薬物よりも医薬組成物での溶解性が高い場合がある。プロドラッグの加水分解による切断または酸化による活性化を利用するものなど、様々な種類のプロドラッグ誘導体が当技術分野で公知である。限定するものではないが、プロドラッグの一例は、エステル(「プロドラッグ」)として投与されるが代謝によって加水分解され活性実体であるカルボン酸になる本発明の化合物である。さらなる例としては本発明の化合物のペプチジル誘導体が含まれる。
【0070】
本明細書に記載の化合物のプロドラッグは、生理学的条件下で容易に化学変化し本発明の化合物となる化合物である。また、プロドラッグは生体外環境で化学的または生化学的な方法で本発明の化合物に変換できる。たとえば、プロドラッグを適切な酵素または化学試薬と共に経皮パッチの保存容器に入れると、ゆっくりと本発明の化合物に変換できる。
【0071】
プロドラッグは、化合物に存在する官能基を、通常の操作または生体内で修飾が切断され親化合物になるような方法で修飾することによって調製できる。プロドラッグとしては、ヒドロキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基、またはカルボキシル基が、対象哺乳動物に投与すると切断されて遊離のヒドロキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基、またはカルボキシル基をそれぞれ形成する任意の基に結合している化合物が挙げられる。プロドラッグの例としては、本発明の化合物に含まれるアルコール官能基およびアミン官能基の酢酸エステル誘導体、ギ酸エステル誘導体、および安息香酸エステル誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。プロドラッグの調製、選択、使用についてはT. Higuchi and V. Stella, "Pro-drugs as Novel Delivery Systems," A.C.S. Symposium Series, Vol. 14;"Design of Prodrugs", ed. H. Bundgaard, Elsevier, 1985;およびBioreversible Carriers in Drug Design, ed. Edward B. Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987に記載されており、各文献の全内容を参照により援用する。
【0072】
本発明の化合物は、その医薬的に許容される代謝物の形態で存在してもよい。「代謝物」という用語は、本発明の化合物(またはその塩)の医薬的に許容される形態の代謝誘導体を指す。側面によっては、代謝物は生体内で活性化合物に容易に変換できる化合物の機能的誘導体であってもよい。他の側面では、代謝物は活性化合物であってもよい。
【0073】
「酸同配体」という用語は、特に明記しない限り、酸性官能基を有し、かつカルボン酸と同様の活性レベル(あるいは溶解度など、化合物のその他の特徴)を提供する立体特性および電子的特性を有する、カルボン酸を置換できる基を指す。代表的な酸同配体としては、ヒドロキサム酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルホンアミド、アシルスルホンアミド、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸、テトラゾール、およびオキソオキサジアゾールが挙げられる。
【0074】
本発明のある化合物は、非溶媒和形態でも水和形態などの溶媒和形態でも存在できる。一般に、溶媒和形態と非溶媒和形態の両方を本発明の範囲内に包含するものとする。本発明のある化合物は、複数の結晶形または非結晶形(すなわち多形)で存在してもよい。一般に、本発明で考慮する使用に関してすべての物理的形態は同等であり、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0075】
本発明のある化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体および個々の異性体(たとえば別個のエナンチオマー)は、すべて本発明の範囲に包含するものとする。本発明の化合物はさらに、その化合物を構成する原子の1つ以上に非天然の割合の原子同位体を含んでもよい。たとえば、化合物をトリチウム(3H)、ヨウ素125(125I)、または炭素14(14C)などの放射性同位元素で放射標識してもよい。放射性同位体に限らず、本発明の化合物のあらゆる同位体変動は本発明の範囲に包含されるものとする。
【0076】
本発明の化合物は、検出可能な標識を含んでもよい。検出可能な標識は、低濃度(通常はマイクロモル未満であり、ナノモル未満の可能性が高く、場合によってはピコモル未満)で検出でき、かつ分子の特性(たとえば、分子量、質量対電荷比、放射活性、酸化還元電位、発光、蛍光、電磁的特性、結合特性など)の違いによって他の分子と容易に区別できる基である。検出可能な標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、磁気的、電磁的、光学的または化学的な手段などで検出できる。
【0077】
広範囲の検出可能な標識が本発明の範囲に包含され、ハプテン標識(たとえばビオチン、またはセイヨウワサビペルオキシダーゼ抗体などの検出可能な抗体と共に用いられる標識);質量タグ標識(たとえば安定同位体標識);放射性同位体標識(3H、125I、35S、14C、または32Pなど);金属キレート標識;蛍光標識(フルオレセイン、イソチオシアナート、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、リン光標識、化学発光標識などの発光標識(一般に0.1より高い量子収率を有する);電気活性標識および電子伝達標識;酵素修飾因子による標識(補酵素、有機金属触媒、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)で一般に用いられるその他の標識など);光増感剤標識;Dynabeads(登録商標)などの磁気ビーズ標識;比色標識(たとえば、コロイド状の金、銀、セレン、またはその他の金属、および金属ゾルによる標識(米国特許第5,120,643号明細書を参照のこと;この文献の全内容をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する)、あるいは着色ガラスビーズまたは着色プラスチック(ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズによる標識など);ならびにカーボンブラックによる標識が挙げられる。これらの検出可能な標識の使用について教示する特許としては、米国特許第3,817,837号、3,850,752号、3,939,350号、3,996,345号、4,277,437号、4,275,149号、4,366,241号、6,312,914号、5,990,479号、6,207,392号、6,423,551号、6,251,303号、6,306,610;6,322,901号、6,319,426号、6,326,144号、および6,444,143号明細書が挙げられ、これらの全内容をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する。
【0078】
検出可能な標識は市販のものであるか、当業者に公知の方法で調製してもよい。検出可能な標識は、任意の適切な位置に配置できる反応性官能基を利用して化合物に共有結合させることができる。検出可能な標識を結合させる方法は当業者に公知である。反応性基をアルキル、またはアリール核に連結した置換アルキル鎖に結合する場合、アルキル鎖の末端位置に配置してもよい。
【0079】
(III.態様の詳細な説明)
(A.併用療法による炎症性腸疾患の治療)
本開示は、CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体を含む併用療法に基づく方法、組成物、およびキットを提供する。この療法は、対象においてクローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)などのIBDを治療するのに有用である。本発明は、CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体を相乗的に組み合わせることがIBDの治療に有効であるという予想外の知見に部分的に基づいている。
(1.クローン病)
【0080】
本発明の組成物、方法、およびキットは、CD(すべての型のCDを含む)の患者に使用できる。CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の併用療法を有効な量で実施し、CD患者の臨床反応を誘発するか臨床的寛解を維持することができる。態様によっては、併用療法によってCDの1つ以上の症状を緩和、軽減、またはその重症度を最低限にする。
【0081】
CDの症状としては、下痢、発熱、疲労、腹痛または腹部痙攣、血便、口内炎、食欲の減退、体重減少、および肛門周囲疾患が挙げられる。CDのさらなる症状または特徴は、内視鏡検査(たとえば、食道胃十二指腸内視鏡検査、大腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査、超音波内視鏡検査、およびバルーン内視鏡検査)や胃腸管の生検試料の組織学的検査によって評価できる。この疾患の重症度は、軽度~中等度、中等度~重度、重度/劇症型に分類できる。CDに関するさらなる説明は、たとえばLichtenstein et al., Am J Gastroenterol, 2009, 104(2):2465-83に記載されている。
【0082】
CDの重症度および併用療法への臨床反応は、クローン病活性指数すなわちCDAIなどの臨床指標で決定できる(Best et al., Gastroenterology, 1976, 70:439-44)。この指標はCD患者の症状を定量するのに用いられる。CDAIはCDの臨床反応または寛解を定義するのに用いることができる。CDAIは8つの因子で構成され、それぞれを加重係数すなわち乗数で調整した後に加算(合計)する。この8つの因子には、液状便の回数、腹痛、全般的な健康状態、腸外合併症、下痢止め薬、腹部腫瘤、ヘマクリット、体重が含まれる。クローン病の寛解は、一般にCDAIが150点未満に低下または減少することだと定義されている。重症は一般に450点を超える値と定義されている。ある側面では、クローン病患者の特定の薬物に対する反応はCDAIが基準(治療0週後)から70点より多く低下することだと定義されている。
【0083】
CDAIなどの臨床指標によって、本明細書に記載の併用療法がクローン病患者の臨床反応または臨床的寛解を誘導するかどうかを確認できる。態様によっては、患者のCDAIスコアが併用療法後に基準から70点以上減少した場合、その患者には臨床反応がある。治療の誘導期の終わりに患者のCDAIスコアが150点未満に低下した場合、患者はCDの臨床的寛解期にある。
【0084】
(2.潰瘍性大腸炎)
本発明の組成物、方法、およびキットは、UC(すべての型のUCを含む)の患者に使用できる。CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の併用療法を有効な量で投与し、UCの患者の臨床反応を誘発するか臨床的寛解を維持することができる。態様によっては、併用療法によってUCの1つ以上の症状を緩和、軽減、またはその重症度を最低限にする。
【0085】
UCの症状としては、下痢、腹痛または腹部痙攣、直腸痛、直腸出血、便意切迫感、排便不能、体重減少、疲労、発熱、貧血が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この疾患の重症度は、軽度~中等度、中等度~重度、重度/劇症型に分類できる。たとえばKornbluth et al., Am J Gastroenterol, 2004, 99(7):1371-85を参照のこと。
【0086】
UCの疾患活性および治療への反応は、複合的な指標点数化システムを用いた定量分析によって評価できる。一般に、UCの疾患活性を評価する場合、臨床医は、少なくとも4つの因子または変数、すなわち臨床症状、生活の質、内視鏡検査による評価、および組織学的検査による評価を考慮する。たとえば、大腸炎活性指数(CAI)は、大腸内視鏡検査に基づく結腸の炎症、下痢、腹痛および腹部痙攣、血便の病徴を取り入れた定量的測定値である。大腸内視鏡検査によるUCの重症度指数(UC Endoscopic Index of Severity;UCEIS)などの標準化された内視鏡検査スコアシステムは患者の疾患指標スコアを確立するのに有用である。その他の有用な疾患活性指標としては、Mayo Clinic Score(たとえば、Rutgeert et al., N Eng J Med, 2005, 353(23):2462-76を参照のこと)や修正版Mayo Disease Activity Index(MMDAI)(たとえば、Schroeder et al., N Eng J Med, 1987, 317(26):1625-9を参照のこと)。Mayo Clinicの点数化システムで用いる4つの因子は、排便頻度、直腸出血、内視鏡検査の所見、および医師による疾患重症度の全般的評価(たとえば日常的な腹部不快感や全般的な健康感)を含む。
【0087】
MMDAIは、Mayo Clinic Scoreと比較すると内視鏡検査スコアが1の場合の「脆弱性」が削除されている。したがって、脆弱性があることは内視鏡検査スコアが2または3であることを反映する。MMDAIでは4つのサブスコア(排便頻度、直腸出血、内視鏡検査での所見、医師の全般的評価)が評価され、それぞれ0~3点で最高合計スコアは12点である。
【0088】
態様によっては、本明細書に記載の併用療法に対するUC患者の臨床反応は、MMDAIスコアで基準から2点以上の減少および基準から25%以上の減少、ならびに/または直腸出血サブスコアの1点以上の減少に相当する。他の態様では、臨床反応はMayo Clinic Scoreで3点以上の減少または基準から30%の減少に相当する。
【0089】
併用療法を受けたUC患者の臨床的寛解は、MMDAIの下位尺度による直腸出血に関するスコアが0点であり排便頻度と医師の評価に関するスコアの合計が2点以下であることに相当する可能性がある。他の態様では、UC患者の臨床的寛解は、Mayo Clinic Scoreが2点以下であり各サブスコア(排便頻度、直腸出血、内視鏡検査による所見、および医師の全般的評価)で2点以上のものがないことを指す。
(B.CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の併用療法)
【0090】
本明細書では、IBD患者の炎症の軽減にCCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の相乗効果を利用する、方法、組成物、およびキットを提供する。CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の両方を含む併用療法は、いずれかの化合物/抗体を単独で用いる場合よりもIBDの1つ以上の症状の治療に有効である。
【0091】
(1.ケモカイン受容体9(CCR9)阻害剤)
本発明はCCR9活性を調節する化合物を提供する。具体的には、本発明は抗炎症活性または免疫調節活性を有する化合物を提供する。本発明の化合物は、ケモカイン受容体機能を特異的に調節または阻害することによって不適切なT細胞輸送を妨害すると考えられる。ケモカイン受容体は、ケモカインなどの細胞外リガンドと相互作用し、そのリガンドに対する細胞応答(たとえば走化性、細胞内カルシウムイオン濃度の増加など)を媒介する内在性膜タンパク質である。したがって、ケモカイン受容体機能の調節(たとえばケモカイン受容体とリガンドの相互作用の妨害)によってケモカイン受容体が関与する反応を阻害または低減でき、さらにはケモカイン受容体が関与する状態や疾患を治療または予防できる。
【0092】
何らかの特定の理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載の化合物はCCR9とそのリガンドであるCCL25との相互作用を妨害すると考えられる。たとえば、本発明の化合物は強力なCCR9拮抗剤として作用し、この拮抗活性は、CCR9に関する顕著な病状の1つである炎症についての動物試験でさらに確認されている。本発明が意図する化合物としては、本明細書に記載の例示の化合物およびその塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
たとえば、有用な化合物は強力なCCR9拮抗剤として作用し、この拮抗活性はCCR9の顕著な病状の1つである炎症の動物試験でさらに確認されている。したがって、本明細書に記載の化合物は、炎症性腸疾患(たとえば潰瘍性大腸炎およびクローン病)を治療するための医薬組成物および方法に有用である。
【0094】
態様によっては、CCR9阻害剤(たとえば本開示の小分子CCR9阻害剤)は式(I)で表される化合物またはその塩である:
【化4】
【0095】
(式中、R1は、置換または非置換のC2~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、置換または非置換のC1~8アルキルアミノ、および置換または非置換のC3~10ヘテロシクリルからなる群より選択され;
【0096】
R2はH、F、Cl、あるいは置換または非置換のC1~8アルコキシであるか;
【0097】
R1とR2は、それらが結合している炭素原子と共に非芳香族炭素環または複素環を形成し;
【0098】
R3は、H、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、あるいはハロであり;
【0099】
R4はHまたはFであり;
【0100】
R5はH、F、Cl、または-CH3であり;
【0101】
R6は、H、ハロ、-CN、-CO2Ra、-CONH2、-NH2、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、あるいは置換または非置換のC1~8アミノアルキルであり;
【0102】
RaはHあるいは置換または非置換のC1~8アルキルであり;
【0103】
ここで、R5とR6は共に炭素環を形成してもよく;
【0104】
Lは結合、-CH2-、または-CH(CH3)-であり;
【0105】
A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、およびA8の各々は、N、N-O、および-CR8-からなる群より独立して選択され、ここでA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、およびA8のうち1個~2個はNまたはN-Oであり;
【0106】
各R8は、H、ハロ、-CN、-OH、オキソ、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、-NR20R21、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、および置換または非置換のヘテロシクリルからなる群より独立して選択され;かつ
【0107】
R20およびR21はそれぞれ独立して、Hあるいは置換または非置換のC1~8アルキルである)。
【0108】
式(I)の態様によっては、A1またはA2の1つはNまたはN-Oであり、A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、およびA8の残りは-CR8-であり、ここで各R8は独立して選択される。
【0109】
態様によっては、A2、A3、A4、およびA5のうち2つはNまたはN-Oであり、A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、およびA8 の残りは-CR8-であり、ここで各R8は独立して選択される。
【0110】
態様によっては、式(I)の化合物または組成物は、式(II)で表されるか、その塩である:
【化5】
【0111】
(式中、R1は、置換または非置換のC2~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、置換または非置換のC1~8アルキルアミノ、および置換または非置換のC3~10ヘテロシクリルからなる群より選択され;
【0112】
R2は、H、F、Cl、あるいは置換または非置換のC1~8アルコキシであるか;
【0113】
R1とR2は、それらが結合している炭素原子と共に非芳香族炭素環または複素環を形成し;
【0114】
R3は、H、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、あるいはハロであり;
【0115】
R4はHまたはFであり;
【0116】
R5はH、F、Cl、または-CH3であり;
【0117】
R6は、H、ハロ、-CN、-CO2Ra、-CONH2、-NH2、置換または非置換のC1~8アミノアルキル、置換または非置換のC1~8アルキル、あるいは置換または非置換のC1~8アルコキシであり;
【0118】
RaはHあるいは置換または非置換のC1~8アルキルであり;
【0119】
ここで、R5とR6は共に炭素環を形成してもよく;
【0120】
Lは結合、-CH2-、または-CH(CH3)-であり;かつ
【0121】
Zは、
【化6】
およびそのN-オキシドからなる群より選択され;
【0122】
ここで、Z基は置換されていなくても1個~3個の独立して選択された置換基R8で置換されていてもよく;
【0123】
各R8は、H、ハロ、-CN、-OH、オキソ、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、-NR20R21、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、および置換または非置換のヘテロシクリルからなる群より独立して選択され;かつ
【0124】
R20およびR21はそれぞれ独立して、Hあるいは置換または非置換のC1~8アルキルである)。
【0125】
式(II)の態様によっては、Zは、置換または非置換のキノリニル、置換または非置換のイソキノリニル、置換または非置換の1,6-ナフチリジニル、置換または非置換のシンノリニル、置換または非置換のフタラジニル、置換または非置換のキナゾリニルからなる群より選択される。
【0126】
一態様では、本明細書に記載の式(I)の化合物または組成物は、式(IIIa)または(IIIb)で表されるか、その塩である:
【化7】
【0127】
(式中、R1は、置換または非置換のC2~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、置換または非置換のC1~8アルキルアミノ、および置換または非置換のC3~10ヘテロシクリルからなる群より選択され;
【0128】
R2は、H、F、Cl、あるいは置換または非置換のC1~8アルコキシであるか;
【0129】
R1とR2は、それらが結合している炭素原子と共に非芳香族炭素環または複素環を形成し;
【0130】
R3は、H、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、あるいはハロであり;
【0131】
R4はHまたはFであり;
【0132】
R5はH、F、Cl、または-CH3であり;
【0133】
R6は、H、ハロ、-CN、-CO2Ra、-CONH2、-NH2、置換または非置換のC1~8アミノアルキル、置換または非置換のC1~8アルキル、あるいは置換または非置換のC1~8アルコキシであり;
【0134】
Raは、Hあるいは置換または非置換のC1~8アルキルであり;
【0135】
あるいは、ここでR5とR6は、それらが結合している炭素原子と共に炭素環を形成し;
【0136】
各R8は、H、ハロ、-CN、-OH、オキソ、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、-NR20R21、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、および置換または非置換のヘテロシクリルからなる群より独立して選択され;
【0137】
R20とR21はそれぞれ独立して、H、あるいは置換または非置換のC1~8アルキルであり;かつ
【0138】
nは0、1、2、または3である)。
【0139】
式(IIIa)または(IIIb)あるいはその塩の一態様では、R1は、-CH2CH3、-CH(CH3)2、-C(CH3)3、-C(CH3)2CH2CH3、-C(CH2CH2)CN、-C(OH)(CH3)2、-OCH3、-OCH2CH3、-OCH(CH3)2、-OC(CH3)3、-OCH2CH(CH3)2、-OCF3、およびモルホリノからなる群より選択され;R2は、H、F、またはClであるか;R1とR2は共に-OC(CH3)2CH2-または-C(CH3)2CH2CH2-を形成してもよく;R3は、H、-CH3、または-OCH3であり;R4はHまたはFであり;R5はHであり;R6は、H、-CH3、-CH2CH3、-CH(CH3)2、-C3H7、-CH2F、-CHF2、-CF2CH3、-CF3、-CH2OCH3、-CH2OH、-CH2CN、-CN、または-CONH2であり;かつ各R8は、H、F、Cl、Br、-CH3、-OH、-OCH3、-OCH2CH3、-NH2、-N(CH3)2、および-CNからなる群より独立して選択される。場合によっては、R1は-C(CH3)3である。
【0140】
式(IIIa)または式(IIIb)の別の態様では、R2はHまたはFであり;R3はHであり;R4はHであり;かつR6は-CH3、-CH2F、-CHF2、または-CF3である。
【0141】
一態様では、式(IIIa)または(IIIb)の化合物および組成物あるいはその塩は、以下からなる群より選択される:
【化8-1】
【化8-2】
【0142】
態様によっては、CCR9阻害剤(たとえば本明細書に記載の小分子CCR9阻害剤化合物および組成物)は、以下からなる群より選択される:
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
およびそのN-オキシド。
【0143】
態様によっては、好ましい置換基R1は以下のとおりである。式(I、II、IIIa、IIIb)では、R1は、置換または非置換のC2~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、置換または非置換のC1~8アルキルアミノ、および置換または非置換のC3~10ヘテロシクリルからなる群より選択される。R1が置換アルキルである場合、このアルキル基はハロまたはヒドロキシで置換されているのが好ましい。R1が置換アルコキシである場合、このアルコキシ基はハロで置換されているのが好ましい。R1は非置換C2~8アルキル(C3~8シクロアルキルを含む)、C2~8ハロアルキル、C1~8ヒドロキシアルキル、非置換C1~8アルコキシ、C1~8ハロアルコキシ、およびC1~8アルキルアミノが好ましく;非置換C2~8アルキル、C2~8ハロアルキル、非置換C1~8アルコキシ、およびC1~8アルキルアミノがより好ましく;非置換C2~8アルキル、非置換C1~8アルコキシ、およびモルホリノがさらに好ましく;非置換C2~8がさらに好ましく;t-ブチルが最も好ましい。
【0144】
態様によっては、好ましい置換基R6は以下のとおりである。式(I、II、IIIa、IIIb)では、R6は、H、ハロ、-CN、-CO2Ra、-CONH2、-NH2、置換または非置換のC1~8アルキル、置換または非置換のC1~8アルコキシ、あるいは置換または非置換のC1~8アミノアルキルである。R6が置換アルキルである場合、このアルキル基は、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、またはシアノで置換されているのが好ましい。R6は、-CN、-CONH2、-NH2、非置換C1~8アルキル、非置換C1~8ハロアルキル、および非置換C1~8アルコキシが好ましく;非置換C1~8アルキルまたは非置換C1~8ハロアルキルがより好ましく;非置換C1~8アルキルがさらに好ましく;メチルが最も好ましい。
【0145】
態様によっては、本発明の小分子CCR9阻害剤化合物は、
【化17】
である。
【0146】
一態様では、前記小分子CCR9阻害剤はバーサーノン(Traficet-EN(商標))またはCCX507である。
【0147】
本明細書に記載のCCR9阻害剤化合物およびその調製方法についての詳細な説明は、たとえば、米国特許第8,916,601号明細書、米国特許出願公開第2013/0267492号、第2013/0059893号、第2012/0245138号、第2012/0165303号、第2011/0021523号、第2010/0331302号、第2010/0227902号、第2010/0190762号、第2010/0152186号、第2010/0056509号、第2009/0163498号、および第2009/0005410号明細書に記載されており、これらの文献の開示内容全体をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する。
【0148】
本明細書に記載の化合物は様々な標準の有機化学変換を利用して合成できる。本発明の標的化合物の合成に広く用いられる特定の一般的反応の種類については実施例に要約する。具体的には、スルホンアミドの形成およびアザアリールのN-オキシドの形成の一般的な手順を記載し、通常のように用いた。
【0149】
網羅的であることを意図するものではないが、本発明の化合物の調製に使用するできる代表的な有機合成変換を本明細書に挙げる。これらの代表的な変換としては、標準の官能基操作;還元(ニトロからアミノなど);アルコールやアザアリールなどの官能基の酸化;ニトリル、メチル、ハロゲンなどの様々な基を導入するためのイプソ(IPSO)置換または他の機構によるアリール置換;保護基の導入と除去;グリニャールの形成および求電子剤との反応;金属によるクロスカップリング(Buchwald反応、Suzuki反応、Sonogashira反応などが挙げられるがこれらに限定されるものではない);ハロゲン化および他の芳香族求電子置換反応;ジアゾニウム塩の形成およびこれらの種の反応;エーテル化;ヘテロアリール環を導く環化縮合、脱水、酸化、および還元;アリールの金属化および金属交換反応とその後のアリール金属種と求電子剤(酸塩化物またはワインレブアミドなど)との反応;アミド化;エステル化;求核置換反応;アルキル化;アシル化;スルホンアミド形成;クロロスルホニル化;エステル加水分解および関連する加水分解などが挙げられる。
【0150】
本願で特許請求する特定の分子は、異なるエナンチオマー形態およびジアステレオマー形態で存在する可能性があり、これらの化合物のこのような変異体はすべて本発明の範囲に含まれる。特に、R8がOHであり窒素に対しオルトである場合、式-N=C(OH)-で示すが、互変異性体-NH-C(O)-もこの式の範囲に含むものとする。
【0151】
以下の合成の説明には市販業者から得た前駆体がある。市販業者としては、Aldrich Chemical Co.、Acros Organics、Ryan Scientific Incorporated、Oakwood Products Incorporated、Lancaster Chemicals、Sigma Chemical Co.、Lancaster Chemical Co.、TCI-America、Alfa Aesar、Davos Chemicals、GFS Chemicalsが挙げられる。
【0152】
(2.CCR9阻害剤の医薬製剤)
別の側面では、本開示はCCR9活性を調節する組成物または製剤を提供する。一般に、ヒトまたは動物などの対象でケモカイン受容体活性を調節するための組成物または製剤は、本明細書に記載の化合物と医薬的に許容される賦形剤または希釈剤を含む。
【0153】
本明細書で使用する「組成物」という用語は、特定量の特定成分を含む生成物、さらには特定量の特定成分の組み合わせから直接的または間接的に得られる任意の生成物を包含するものとする。「医薬的に許容される」は、担体、希釈剤、または賦形剤が製剤のその他の成分と適合しなければならず、患者に有害であってはならないことを意味する。
【0154】
本発明の化合物を投与するための医薬組成物は、単位剤形で提供するのが好都合な場合があり、薬学の分野で周知の任意の方法のいずれかによって調製できる。すべての方法は、有効成分を1種以上の補助成分を構成する担体と組み合わせる工程を含む。一般に、医薬組成物は、有効成分を液体担体または微粉化した固体担体あるいはその両方と均一かつ密接に組み合わせ、次いで必要に応じて生成物を所望の製剤に成形することによって調製される。医薬組成物は、疾患の過程または状態に対して所望の効果を得るのに十分な量の目的の活性化合物を含む。
【0155】
態様によっては、本開示のCCR9阻害剤は結晶形態を有する医薬化合物である。CCR9阻害剤のこのような結晶形態の例は、たとえば米国特許第9,133,124号明細書に記載されており(ただし、それらに限定されるものではない)、その開示内容全体をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する。
【0156】
有効成分を含有する医薬組成物は、経口使用に適した形態(たとえば、錠剤、トローチ剤、ドロップ剤、水性または油性懸濁剤、分散性の散剤または顆粒剤、乳剤および自己乳化剤(米国特許第6,451,399号明細書のものなど)、硬カプセル剤または軟カプセル剤、あるいはシロップ剤またはエリキシル剤など)であってよい。経口使用が意図される組成物は、医薬組成物を製造するための当技術分野で公知の任意の方法に従って調製できる。このような組成物は、医薬として洗練された(pharmaceutically elegant)味の良い製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、および保存剤から選択される1つ以上の薬剤を含有してもよい。錠剤は有効成分を、毒性がなく医薬的に許容され錠剤の製造に適したその他の賦形剤との混合物として含有する。これらの賦形剤は、たとえば、不活性希釈剤(セルロース、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、グルコース、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムなど);造粒剤および崩壊剤(たとえば、トウモロコシデンプンまたはアルギン酸);結合剤(たとえば、PVP、セルロース、PEG、デンプン、ゼラチン、またはアカシアゴム);および滑沢剤(たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルク)であってよい。錠剤はコーティングのないものでもよいし、腸溶性コーティングまたはそれ以外の公知の技術によるコーティングを施して胃腸管での崩壊や吸収を遅らせることでより長時間にわたって作用が持続するようにしてもよい。たとえば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延用物質を用いてよい。また、徐放性のため、米国特許第4,256,108号、第4,166,452号、および第4,265,874号明細書に記載の技術で錠剤をコートして浸透圧性の治療用錠剤を形成してもよい。
【0157】
経口使用のための製剤はさらに、有効成分を不活性固体希釈剤(たとえば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合した硬ゼラチンカプセル、あるいは有効成分を水または油性媒体(たとえば、ピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油)と混合した軟ゼラチンカプセルとして提供してもよい。また、水と混和しない成分(油など)と共に乳剤を調製し、界面活性剤(モノ-、ジグリセリド、PEGエステルなど)で安定化することができる。
【0158】
水性懸濁剤は、有効成分を水性懸濁剤の製造に適した賦形剤との混合物として含有する。このような賦形剤は、懸濁化剤(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴム)であり;分散剤または湿潤剤は天然のリン脂質(たとえばレシチン)であってもよいし、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(たとえばステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(たとえばヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物(たとえばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物(たとえばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)であってよい。水性懸濁剤は、1種以上の保存剤(たとえばp-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル)、1種以上の着色剤、1種以上の香味剤、および1種以上の甘味剤(スクロースまたはサッカリンなど)も含有してよい。
【0159】
油性懸濁剤は、有効成分を植物油(たとえばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油)あるいは鉱油(流動パラフィンなど)に懸濁化することによって製剤化できる。油性懸濁剤は、増粘剤(たとえばミツロウ、固形パラフィン、またはセチルアルコール)を含有してもよい。味の良い経口製剤を提供するために、甘味剤(上に挙げたものなど)や香味剤を添加してもよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの酸化防止剤を添加することによって保存できる。
【0160】
水を添加することによって水性懸濁剤を調製するのに適した分散性の散剤または顆粒剤は、有効成分を分散剤または湿潤剤、懸濁化剤、および1種以上の保存剤との混合物として提供する。適切な分散剤または湿潤剤と懸濁化剤の例は、既に上記で挙げたものである。追加の賦形剤(たとえば甘味剤、香味剤、および着色剤)も含んでもよい。
【0161】
本発明の医薬組成物は水中油型の乳剤の形態であってもよい。油相は、植物油(たとえばオリーブ油またはラッカセイ油)または鉱油(たとえば流動パラフィン)、あるいはそれらの混合物であってよい。適切な乳化剤としては、天然ゴム(たとえばアカシアゴムまたはトラガカントゴム)、天然のリン脂質(たとえばダイズレシチン)、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導されるエステルまたは部分エステル(たとえばモノオレイン酸ソルビタン)、ならびにこのような部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(たとえばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)が挙げられる。この乳剤はさらに甘味剤および香味剤を含んでもよい。
【0162】
シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤(たとえば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、またはスクロース)と共に製剤化できる。このような製剤はさらに、鎮痛剤、保存剤、香味剤、および着色剤を含んでもよい。経口溶液剤は、たとえばシクロデキストリン、PEG、および界面活性剤と組み合わせて調製できる。
【0163】
医薬組成物は、水性または油性の滅菌注射懸濁剤の形態であってもよい。この懸濁剤は、上記の適切な分散剤または湿潤剤と懸濁化剤を用いて、公知技術に従って製剤化できる。この滅菌注射製剤は、毒性がなく非経口的に許容される希釈剤または溶媒に溶解した滅菌注射溶液または懸濁剤(たとえば1,3-ブタンジオール溶液)であってもよい。使用できる許容可能な溶媒としては、水、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム溶液が挙げられる。また、滅菌した懸濁油(axed oil)が溶媒または懸濁化用媒体として従来から使用されている。この目的には合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの任意の低刺激性不揮発性油を使用してよい。また、オレイン酸などの脂肪酸も注射剤の調製に使用される。
【0164】
本明細書に開示の化合物は、薬物を直腸投与するための坐剤の形態でも投与できる。このような組成物は、常温では固体であるが直腸温度では液体であることにより直腸内で溶けて薬物を放出する適切な非刺激性の賦形剤と薬物を混合することによって調製できる。このような物質はカカオバターおよびポリエチレングリコールである。また、化合物は、溶液剤または軟膏剤による眼内送達によって投与できる。さらに、イオン注入パッチなどによって本発明の化合物の経皮送達が達成できる。
【0165】
局所使用には、本発明の化合物を含有するクリーム剤、軟膏剤、ゼリー剤、溶液剤または懸濁剤を使用する。本明細書で使用する場合、局所使用には口腔洗浄剤およびうがい薬の使用も含むものとする。
【0166】
本発明の医薬組成物および方法は、本明細書に記載の、治療活性を有する他の化合物(上記の病態の治療に使用されるものなど)をさらに含んでもよい。
【0167】
(3.抗α4β7インテグリン遮断抗体)
炎症性腸疾患(たとえばクローン病や潰瘍性大腸炎)の治療に用いるのに適した抗α4β7インテグリン抗体としては、α4β7インテグリンとそのリガンド(粘膜アドレシン細胞接着分子(MadCAM-1)、フィブロネクチン、血管細胞接着分子(VCAM)など)のうちいずれか1つとの結合を阻害する、任意の所望の供給源に由来する抗体が挙げられる。抗α4β7インテグリン抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ウサギ抗体、改変抗体(キメラ抗体、ヒト化抗体など)、および抗体の抗原結合性断片(Fab断片、Fv断片、scFv断片、Fab’断片、およびF(ab’)2断片など)であってよい。
【0168】
態様によっては、前記抗α4β7インテグリン抗体は、α4鎖にあるエピトープ、β7鎖にあるエピトープ、またはα4鎖とβ7鎖の会合によって形成される複合エピトープと結合する。場合によっては、前記抗α4β7インテグリン抗体は、α4鎖とβ7鎖の会合によって形成されるエピトープと結合し、α4鎖とβ7鎖が会合または複合されない場合、α4鎖にあるエピトープともβ7鎖にあるエピトープとも結合しない。
【0169】
本明細書に記載の方法で使用するための抗α4β7インテグリン抗体の例(ただし、これらに限定されるものではない)としては、ベドリズマブ(ENYVIO(登録商標))、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標))、AMG181(Amgen)、ならびにたとえば国際特許公開第2012/151248号、米国特許第7,147,851号、第7,402,410号、第8,444,981号、第8,454,961号、第8,454,962号、第8,871,490号明細書、および米国特許出願公開第2015/0086563号明細書に記載のものが挙げられる(これらの文献の開示内容全体をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する)。他の有用な抗α4β7インテグリン抗体としては、本明細書に記載の抗α4β7インテグリン抗体のいずれかの生物学的同等物、バイオシミラー、およびバイオベターが挙げられる。
【0170】
態様によっては、本開示の抗α4β7インテグリン抗体は、基準の抗α4β7インテグリン抗体(ベドリズマブ、AMG181、または当業者に公知のその他の抗α4β7インテグリン抗体など)と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する抗体である。場合によっては、抗体の変異体は、基準抗体の特定のアミノ酸位置に1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、および/または付加を有するが、抗原結合活性を保持する。
【0171】
当業者は、「配列同一性パーセント」は配列の比較ウィンドウまたは指定領域で2つの最適に整列した配列を比較することによって決定でき、ここで、比較ウィンドウ内のポリペプチド配列の部分は、2つの配列を最適に整列した場合、基準配列(付加や欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を有してもよいことを認識している。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置の数を決定して一致した位置の数を求め、その一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを求めることによって計算できる。配列同一性パーセントは、配列比較アルゴリズムBLASTまたはBLAST2.0で初期設定パラメータを用いて測定するか、手動で整列し目視で調査することによって測定できる。
【0172】
抗体やその断片、変異体、および誘導体は、当業者に認識されている様々な標準の方法で作製できる。たとえば、Harlow, E. and Lane DP. Antibodies: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor : Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988を参照のこと。抗原結合性断片(Fab断片およびF(ab’)2断片など)は遺伝子操作により作製できる。キメラ抗体やさらに操作したモノクローナル抗体の作製手順としては、Riechmann et al., Nature, 1988,332:323、Liu et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 1987, 84:3439、Larrick et al., Bio/Technology, 1989, 7:934、およびWinter et al., TIPS, 1993, 14:139に記載のものが挙げられる。ヒト型抗体または一部がヒト由来の抗体の作製のための遺伝子導入動物の作製・使用方法の例は、たとえばDavis et al., 2003, Production of human antibodies from transgenic mice, Lo, ed. Antibody Engineering Methods and Protocols, Humana Press, NJ:191-200に記載されている。
【0173】
(4.抗α4β7インテグリン抗体の医薬製剤)
本明細書では、抗体を安定化し、抗体凝集物の形成を低減し、抗体の分解を遅らせ、かつ/または抗体の免疫原性を最小限にすることができる抗α4β7インテグリン抗体の製剤を提供する。この製剤は、酸化防止剤またはキレート剤、少なくとも1種の遊離アミノ酸、界面活性剤、非還元糖、および/または緩衝剤を含むことができる。
【0174】
酸化防止剤またはキレート剤は、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジメルカプロール、ジエチレントリアミン五酢酸、またはN,N-ビス(カルボキシメチル)グリシンであってよく、クエン酸塩またはEDTAが好ましい。遊離アミノ酸は、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、およびそれらの組み合わせであってよい。界面活性剤は、ポリソルベート20;ポリソルベート80;TRITON(登録商標)(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)(非イオン性界面活性剤);ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、またはステアリルスルホベタイン;ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン、またはステアリルサルコシン;リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、またはセチルベタイン;ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルムアミドプロピルベタイン、またはイソステアラミドプロピルベタイン(たとえばラウラミドプロピルベタイン);ミリスタミドプロピルジメチルアミン、パルムアミドプロピルジメチルアミン、またはイソステアラミドプロピルジメチルアミン;ココイルメチルタウリンナトリウムまたはオレイルメチルタウリン二ナトリウム;モノパルミチン酸ソルビタン;ポリエチルグリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、およびポリオキシエチレンとポリオキシプロピレングリコールの共重合体であってよく、ポリソルベート80が好ましい。
【0175】
緩衝剤は、製剤のpH値を約5.0~約7.5、約5.5~約7.5、約6.0~約7.0、または約6.3~約6.5に調整できる緩衝剤であってよい。緩衝剤の例としては、酢酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、カコジル酸塩、2-[N-モルホリノ]エタンスルホン酸(MES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス[ヒドロキシメチル]メタン(Bis-Tris)、N-[2-アセトアミド]-2-イミノ二酢酸(ADA)、グリシルグリシン、およびその他の有機酸緩衝剤が挙げられ(ただし、これらに限定されるものではない)、ヒスチジンまたはクエン酸塩が好ましい。
【0176】
態様によっては、抗α4β7インテグリン抗体は凍結乾燥製剤(たとえば乾燥形態)である。場合によっては、凍結乾燥製剤は、抗α4β7インテグリン抗体と1つ以上の賦形剤(非還元糖、緩衝剤、遊離アミノ酸、および/または界面活性剤など)を含む。
【0177】
場合によっては、凍結乾燥製剤は、少なくとも約50mg、少なくとも約60mg、少なくとも約70mg、少なくとも約80mg、少なくとも約90mg、少なくとも約100mg、少なくとも約120mg、少なくとも約140mg、少なくとも約180mg、少なくとも約200mg、少なくとも約220mg、少なくとも約240mg、少なくとも約280mg、少なくとも約300mg、少なくとも約400mg、少なくとも約500mg、少なくとも約600mg、少なくとも約700mg、少なくとも約800mg、少なくとも約900mgの抗α4β7インテグリン抗体を含有する。場合によっては、凍結乾燥製剤は一回分の投与量として1個の小瓶に保存される。
【0178】
態様によっては、抗α4β7インテグリン抗体は液体製剤である。このような製剤は、抗α4β7インテグリン抗体と、緩衝剤、非還元糖、および/または遊離アミノ酸を含んでよい。
【0179】
液体製剤に含まれる抗体の量は、少なくとも約25mg/ml~約200mg/ml(たとえば、25mg/ml~約200mg/ml、25mg/ml~約150mg/ml、25mg/ml~約100mg/ml、50mg/ml~約200mg/ml、50mg/ml~約150mg/ml、50mg/ml~約100mg/ml、100mg/ml~約200mg/ml、または150mg/ml~約200mg/ml)の抗α4β7インテグリン抗体であってよい。
【0180】
非還元糖は、マンニトール、ソルビタール、スクロース、トレハロース、ラフィノース、スタキオース、メレジトース、デキストラン、マルチトール、ラクチトール、イソマルツロース、パラチニット(登録商標)、およびそれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されるものではない。態様によっては、非還元糖の抗α4β7インテグリン抗体に対する比は、少なくとも400:1(モル:モル)、少なくとも400:1(モル:モル)、少なくとも400:1(モル:モル)、少なくとも600:1(モル:モル)、少なくとも625:1(モル:モル)、少なくとも650:1(モル:モル)、少なくとも700:1(モル:モル)、少なくとも750:1(モル:モル)、少なくとも800:1(モル:モル)、少なくとも1000:1(モル:モル)、少なくとも1100:1(モル:モル)、少なくとも1200:1(モル:モル)、少なくとも1300:1(モル:モル)、少なくとも1400:1(モル:モル)、少なくとも1500:1(モル:モル)、少なくとも1600:1(モル:モル)、少なくとも1700:1(モル:モル)、少なくとも1800:1(モル:モル)、少なくとも1900:1(モル:モル)、または少なくとも2000:1(モル:モル)である。
【0181】
抗α4β7インテグリン抗体の製剤の例としては、たとえば、米国特許出願公開第2012/0282249号、第2014/0377251号、および第2014/0341885号明細書に記載のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの文献の開示内容全体をあらゆる目的で参照により本明細書に援用する。
【0182】
(C.併用療法の投与方法)
別の側面では、本開示は、IBD(たとえばCDおよびUC)の治療のための併用療法を提供する。この併用療法は治療に有効な量のCCR9阻害剤と治療に有効な量の抗α4β7インテグリン遮断抗体を含む。治療剤を併用すると様々な障害の治療または予防に相乗的に作用することができる。この方法を用いることにより、各薬剤の用量をより少なくして治療の有効性を得ることができるため、有害な副作用の可能性を低減できる。
【0183】
「治療に有効な量」という用語は、研究者、獣医、医師、またはその他の治療提供者が求める、細胞、組織、系、または動物(ヒトなど)の生物学的または医学的応答を誘発する対象化合物の量を意味する。
【0184】
本開示の化合物、抗体、および製剤は、病状や患者の状態に応じて、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、下大静脈内(ICV)、嚢内への注射または点滴、皮下注射、あるいは留置)吸入、鼻内、膣内、直腸内、舌下、または局所的投与経路によって投与できる。また、これらの化合物および抗体は、単独または組み合わせで、各投与経路に適した従来の非毒性かつ医薬的に許容される担体、補助剤、および溶媒を含む適切な投与単位の製剤として製剤化できる。本開示はさらに、本開示の化合物および抗体を徐放性製剤で投与することを意図する。
【0185】
IBD(クローン病およびUCなど)の治療では、CCR9阻害剤の適切な用量レベルは一般に1日あたり約0.001~100mg/kg(患者の体重)であり、1回の投与でも複数回の投与でも投与できる。用量レベルは1日あたり約0.01~約50mg/kgが好ましく;1日あたり約0.05~10mg/kgがより好ましい。適切な用量は、1日あたり約0.01~50mg/kg、1日あたり約0.05~10mg/kg、または1日あたり約0.1~5mg/kgであってよい。この範囲内では、投与量は1日あたり0.005~0.05mg/kg、1日あたり0.05~0.5mg/kg、1日あたり0.5~5.0mg/kg、または1日あたり5.0~50mg/kgであってよい。
【0186】
経口投与の場合、CCR9阻害剤は、治療を受ける患者に対する用量を症状によって調整するため、有効成分を1.0~1000ミリグラム(特に、1.0mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、20.0mg、25.0mg、50.0mg、75.0mg、100.0mg、150.0mg、200.0mg、250.0mg、300.0mg、400.0mg、500.0mg、600.0mg、750.0mg、800.0mg、900.0mg、および1000.0mg)含む錠剤の形態で提供されるのが好ましい。
【0187】
CCR9阻害剤は、1日に1回~4回の計画で投与してもよく、1日に1回または2回が好ましい。
【0188】
IBD(クローン病およびUCなど)の治療では、抗α4β7インテグリン抗体の適切な用量レベルによって、ヒト患者のIBDの寛解を誘導するのに有効な抗体またはその製剤の量が得られる。態様によっては、抗α4β7インテグリン抗体の治療に有効な量は、治療の誘導期の終わりに抗α4β7インテグリン抗体の平均血清中トラフ濃度を約5μg/ml~約60μg/ml(たとえば、約5μg/ml~約60μg/ml、約10μg/ml~約50μg/ml、約15μg/ml~約45μg/ml、約20μg/ml~約30μg/ml、約25μg/ml~約35μg/ml、または約30μg/ml~約60μg/ml)とするのに十分な量である。
【0189】
抗体の適切な用量は、約0.1mg/kg、約0.3mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kg、または約10mg/kgから投与できる。
【0190】
態様によっては、合計投与量は、約6mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約275mg、約300mg、約325mg、約350mg、約375mg、約400mg、約425mg、約450mg、約475mg、約500mg、約525mg、約550mg、約575mg、約650mg、またはそれ以上である。
【0191】
態様によっては、誘導期は少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間、少なくとも約7週間、少なくとも約8週間、少なくとも約9週間、または少なくとも約10週間である。
【0192】
誘導期中の治療計画は、抗α4β7インテグリン抗体またはその製剤の高用量での投与、高頻度の投与、あるいは高用量の投与と高頻度の投与の組み合わせを含んでよい。場合によっては、誘導期中、ある投与量を1日に1回、1日おき、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、10日に1回、2週間に1回、3週間に1回、または1カ月に1回、投与する。
【0193】
態様によっては、誘導期の投与は治療の開始時(治療0日後)に一度と、治療開始の約2週間後に一度行う。誘導期の継続期間は6週間であってよい。他の態様では、誘導期の継続期間は6週間であり、最初の2週間に複数回の誘導投与を行う。たとえば、ヒト患者が重症のIBDを有するか抗TNFα治療に反応しない場合、誘導期の継続期間は軽度から中等度のIBD患者の場合よりも長くなる。
【0194】
また、IBDの治療では、抗α4β7インテグリン抗体の適切な用量レベルによって、ヒト患者のIBDの寛解を維持するのに有効な抗体またはその製剤の量が得られる。したがって、治療の維持期では、治療に有効な抗α4β7インテグリン抗体の量は、治療の維持期中に抗α4β7インテグリン抗体の定常状態の平均血清中トラフ濃度を約1μg/ml~約25μg/ml(たとえば、約1μg/ml~約25μg/ml、約1μg/ml~約20μg/ml、約1μg/ml~約15μg/ml、約1μg/ml~約10μg/ml、約1μg/ml~約5μg/ml、約5μg/ml~約25μg/ml、約5μg/ml~約20μg/ml、約5μg/ml~約15μg/ml、約5μg/ml~約10μg/ml、約15μg/ml~約25μg/ml、約15μg/ml~約20μg/ml、約10μg/ml~約25μg/ml、約10μg/ml~約20μg/ml、約10μg/ml~約15μg/ml、または約20μg/ml~約25μg/mlの抗α4β7インテグリン抗体の誘導期の終わりでの定常状態の平均血清中トラフ濃度)とするのに十分な量である。
【0195】
維持期の投与量は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、8週間に1回、9週間に1回、または10週間に1回、投与できる。維持期中の態様によっては、維持期中は同一投与量を投与する。維持期中の他の態様では、維持期の間、1つ以上の異なる投与量を投与する。また、疾患の経過に応じて投与の頻度を上げてもよい。
【0196】
抗α4β7インテグリン抗体またはその製剤は、注射(たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、動脈内注射、腹腔内注射、硝子体内注射など)によって投与できる。製剤が固体または凍結乾燥形態である場合、抗体の投与方法は乾燥製剤を液体製剤に再構成することを含んでよい。態様によっては、抗体またはその製剤は局所投与(たとえば、パッチ剤、クリーム剤、噴霧剤、または坐剤で)できる。他の態様では、局所投与経路としては、鼻内投与、吸入投与、または経皮投与が挙げられる。
【0197】
しかし、当然のことだが、任意の特定の患者に対する具体的な投与量および投与頻度は変動してもよく、使用する具体的な化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、遺伝的特徴、全般的な健康状態、性別、食事、投与の方式および期間、排泄率、薬物の組み合わせ、特定の状態の重症度、治療を受ける宿主などの様々な要因に依存する。
【0198】
本明細書に記載のCCR9阻害剤と本開示の抗α4β7インテグリン抗体の重量比は変動してもよく、各成分の有効投与量に依存する。一般には各成分の有効投与量を使用する。したがって、たとえば、CCR9阻害剤を抗α4β7インテグリン抗体と併用する場合、CCR9阻害剤の抗α4β7インテグリン抗体に対する重量比は、一般に約1000:1~約1:1000の範囲であり、約200:1~約1:200が好ましい。
【0199】
併用療法は、CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の共投与、CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の逐次投与、CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体を含む組成物の投与、または別個の組成物(1つの組成物はCCR9阻害剤、別の組成物は抗α4β7インテグリン抗体を含有する)の同時投与を含む。
【0200】
共投与は、本発明のCCR9阻害剤を本発明の抗α4β7インテグリン抗体の0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、20時間、または24時間以内に投与することを含む。共投与はさらに、同時、ほぼ同時(たとえば、互いに約1分、5分、10分、15分、20分、または30分以内)、または任意の順序で逐次的に投与することを含む。また、CCR9阻害剤および抗α4β7インテグリン抗体はそれぞれ、1日あたりの好ましい用量レベルが得られるように、1日1回または2回、3回、またはそれ以上の回数でそれぞれ投与できる。
【0201】
併用療法は、治療計画の誘導期または維持期に実施できる。誘導期では、併用療法は治療の抗体に対する免疫寛容を誘導し、臨床反応を誘導し、かつ/またはIBDの1つ以上の症状を改善するのに有効な量で実施できる。また、維持期の間にIBDの1つ以上の症状の再発、または疾患の寛解期からの再燃があった場合、誘導期の治療に相当する量を患者に投与してよい。維持期の間、併用療法は、誘導治療の間に達成された反応を継続するため、および/またはIBDの症状再発または再燃を予防するのに有効な量で実施できる。
【0202】
態様によっては、抗炎症性化合物(たとえば、スルファサラジン、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、5-アミノサリチル酸含有抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症性化合物、およびステロイド系抗炎症性化合物);IBDの管理のために一般に投与される抗生物質(たとえば、シプロフロキサシンおよびメトロニダゾール);あるいは別の生物学的薬剤(たとえばTNFα拮抗剤)などの1種以上の追加の有効成分を本明細書に開示の併用療法と併せて投与できる。
【0203】
(D.キット)
側面によっては、本明細書では、本明細書に開示のCCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体を含む、胃腸管の炎症を特徴とする疾患または障害(たとえば、CD、UC、不確定性大腸炎などのIBD)の治療に有用なキットを提供する。キットは、CCR9阻害剤化合物(たとえば小分子CCR9阻害剤)を含有する医薬組成物と抗α4β7インテグリン抗体を含有する医薬組成物とを含んでよい。態様によっては、CCR9阻害剤化合物はバーサーノン(Traficet-EN(商標))またはCCX507である。態様によっては、抗α4β7インテグリン抗体はベドリズマブである。場合によっては、キットは、書面による資料(たとえば、化合物、抗体、またはその医薬組成物の使用説明書)を含む。限定するものではないが、このキットは、緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および本明細書に開示のいずれかの方法を実施するための説明を含む同封の添付文書を含んでもよい。
【実施例】
【0204】
(IV.実施例)
以下の実施例は本願の発明を例示するために記載するものであり、発明を限定するものではない。
【0205】
(実施例1:CCR9阻害剤と抗α4β7インテグリン抗体の併用療法による炎症性腸疾患の治療)
(A.序論)
循環細胞の様々な組織へのホーミングは、特定のケモカイン受容体および細胞接着分子を含む高度に協調した処理である。腸へ細胞が輸送されるには、ケモカイン受容体CCR9が関与する、CCL25として知られるケモカインへの走化性が必要である。また、CCL25によるCCR9の活性化は細胞表面のα4β7インテグリンのMAdCAMを発現する腸毛細血管内皮との高親和性結合を引き起こし、それにより強い拘束と腸組織への血管外遊出を起こす。
【0206】
結腸クローン病患者から得たヒト結腸生検試料を分析すると、CCR9の遺伝子発現量とTNF-αの遺伝子発現量、さらにはα4インテグリンおよびβ7インテグリンの遺伝子発現量の間で強い正の相関を示した。この結果から、腸の炎症に関与する遺伝子の調節は結腸と強く関連し結腸で厳密に調節されることがわかった。α4β7インテグリンに対するヒト化抗体であるベドリズマブは、中等度から重度の潰瘍性大腸炎やクローン病の患者を治療するために近年承認された。しかし、腸へのホーミングに関与するケモカイン受容体CCR9の拮抗剤と併用した場合のベドリズマブの効果は調査されていない。
【0207】
(B.方法)
以下のように接着試験を実施した。ヒトのリンパ球を全PBMCから単離し、1μMのレチノイン酸(Sigma)と1ng/mLのヒトIL12(R&D Systems)の存在下でα-CD3εおよびα-CD28(1μg/mL;R&D Systems)により活性化した。さらに、生体外で活性化したT細胞を1μMのレチノイン酸(RA)と1ng/mLのヒトIL12の存在下で5日間かけて増殖させた。増殖した細胞を、APC結合抗CCR9抗体(カタログ番号248621;R&D Systems)および結合抗α4β7インテグリン抗体(Act-1)で染色した。染色した細胞を流動細胞計測法で分析した。増殖したT細胞でのCCR9およびα4β7インテグリンの発現を、
図1Aの2つのパラメータの散布図として示した。
【0208】
生体外で活性化したT細胞を、0.3μg/mLのMAdCAM-1-Fc融合タンパク質(R&D Systems)で一晩かけてコートした96ウェルプレートに、DMSOのみ、500ngのヒトCCL25(hCCL25;CCR9のリガンド)のみ、1μMのCCX507(小分子CCR9阻害剤)のみ、または500ngのhCCL25と1μMのCCX507という条件下で加えた。接着した細胞をCyQUANT(登録商標)Cell Proliferation Assay(Thermo Fisher)で定量した。結果を
図1Bに示す。データから、α4β7インテグリンに結合してリンパ球の輸送を促すことのできるMAdCAM-1にRAで分化させたヒトT細胞が結合するのをCCX507が制限することがわかる。
【0209】
生体内での薬力学的分析を以下のように実施した。
図2Aは、実験に使用した養子T細胞移入モデルを示す。この方法の詳細は、たとえばTubo et al., PLOS One, 2012, 7(11):e50498に記載されている。簡潔には、T細胞受容体(TCR)遺伝子導入ドナーマウス(OT-1)(B6.CD45.2)からCD8陽性T細胞を単離した。白血球を脾臓とリンパ節から単離した。単離したCD8陽性T細胞を野生型マウス(B6.CD45.1)に養子移入した。1×10
6個~1×10
7個のナイーブCD8陽性T細胞をレシピエントマウスに腹腔内注射した。
【0210】
移入の24時間後、レシピエントマウスCD45.1をコレラ毒素のみまたはコレラ毒素と卵白アルブミンに経口曝露した。コレラ毒素に曝露したマウスを腸炎症マウスモデルとして用いた。96時間後、白血球を脾臓、リンパ節、小腸、結腸、血液、および肝臓から単離した。曝露の96時間後、小腸内のドナー由来CD8陽性T細胞の数を流動細胞計測法で確認した。この方法の詳細は、たとえばTubo et al., PLOS One, 2012, 7(11):e50498に記載されている。
【0211】
さらに、コレラ毒素に曝露したマウスに、5~30mg/kgのCCX507またはある投与量の抗α4β7インテグリン抗体を投与した。ドナー(OT-1)由来CD8陽性上皮内リンパ球(IEL)の数を計測した。結果を
図2Bに示す。
【0212】
QuantiGene(登録商標)Plex Assay(Affymetrix)を以下のように実施した。クローン病患者の回腸と結腸の生検試料を対応させて液体窒素で瞬間冷凍した。試料を製造業者のプロトコールに従って均質化した。特別注文による37プレックスパネル(Affymetrix)を用いて遺伝子の発現を分析し、その発現をハウスキーピング遺伝子シクロフィリンに対して正規化した。
図3は、CCR9の発現量と選択した遺伝子の発現量との比較を示す。
【0213】
ピロキシカムで促進した大腸炎(化学的に誘発した大腸炎)のマウスモデルを以下のように作製した。7週齢のMdr1a
-/-マウスおよびFVB(対照)株に、200ppmのピロキシカム(Sigma)を粉末飼料給餌瓶(Dyets, Inc.)で粉末飼料と混合したものを10日~12日間与えた。実験期間中、通常の飼料は金網の蓋の上に置いた。各マウスに100μgの抗α4β7インテグリン遮断抗体(DATK32)を1日おきに(q2d)腹腔内注射で(IP)投与した。ピロキシカムを粉末飼料に加えた最初の11日間は、各マウスに300μgの抗TNFα抗体(XT3.11)を毎日(qd)腹腔内注射で(IP)投与した。ピロキシカムを除去した後は各マウスに300μgの抗TNFα抗体(XT3.11)を1日おきに(q2d)腹腔内(IP)投与した。試験期間中、30mg/kgのCCX507(小分子CCR9阻害剤)を毎日(qd)皮下注射で(SC)投与した。試験に用いたマウスを、動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee;IACUC)で承認されている方法で観察・処理した。
図4Aは実験設計を示す。
【0214】
図4Bは、溶媒対照(1%HPMC)、ラットIgG2Aアイソタイプ対照、CCX507(小分子CCR9阻害剤分子)のみ、抗α4β7インテグリン遮断抗体のみ、または抗α4β7インテグリン遮断抗体とともにCCX507を、それぞれ与えたマウスの結腸を表す代表的な画像を示す。
図4Cおよび
図4Dは定量した結腸対体重の比を示す。
図4CはCCX507と抗α4β7インテグリン遮断抗体の併用療法の場合、
図4DはCCX507と抗TNFα遮断抗体の併用療法の場合を示す。GraphPad Prism(登録商標)(GraphPad Software)で統計分析を行った。p値を以下のように表す:すなわち、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001、****はp<0.0001を示す。
【0215】
剖検時にホルマリン固定した結腸組織を、独立した病理学者が盲検法で組織病理学的に評価した。炎症、腺上皮の喪失、びらんの組織学的スコアを加算して組織学的スコアの合計を求めた。このスコアは各切片(マウス1匹につき合計6個の切片を切り取った)の罹患組織の割合に基づく。
【0216】
図5Aは、各群の組織病理学的スコアの平均を表す、個々のマウスの近位結腸と遠位結腸の両方の代表的な画像を示す。CCX507と抗α4β7抗体を併用した場合を右図に示す。
【0217】
試験したすべてのマウスの組織学的スコアの合計を
図5Bに示す。GraphPad Prism(登録商標)で統計分析を行った。p値を以下のように表す:すなわち、*はp<0.05、****はp<0.0001を示す。
【0218】
明確に理解するために例示や実施例によって上記発明をある程度詳細に説明したが、当業者は添付の特許請求の範囲内で何らかの変更や修正を行ってもよいことを認識している。また、本明細書に記載した各参考文献は、各文献を参照により個々に援用した場合と同様に、その全体が参照により本明細書に援用される。