(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】デュアル層トレッドを有する空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20220217BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220217BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20220217BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220217BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220217BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C11/00 C
B60C11/00 D
B60C11/13 B
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017218913
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-10-19
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513158760
【氏名又は名称】ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】クロード・シュヴァイツァー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ルイ・マリー・フェリシアン・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ボードー・アーレンス
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジオ・アゴスティーニ
(72)【発明者】
【氏名】ローレント・カルメロ・ジョセフ・アンドレ・プラファタ
(72)【発明者】
【氏名】ガボール・カスザス
(72)【発明者】
【氏名】カレン・カラス・バーク
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145026(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174100(WO,A1)
【文献】特表2015-515533(JP,A)
【文献】特開2011-195804(JP,A)
【文献】特開昭56-131640(JP,A)
【文献】特開2008-120940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0069560(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0069561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 1/00
B60C 11/13
C08L 101/00
C08K 3/04
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスと、カーカスの半径方向外側に位置しかつタイヤのサイドウォール間に伸びるトレッドとを含む空気入りタイヤであって、
トレッドは、半径方向最外部のトレッド走行面を提供し、
トレッドは第一のゴムコンパウンドを含む第一のトレッド層と第二のゴムコンパウンドを含む第二のトレッド層とを含み、
第二のトレッド層は第一のトレッド層に半径方向に隣接して配置され、
第一のゴムコンパウンドは第二のゴムコンパウンドと組成が異なり、
第二のトレッド層は、トレッド走行面に向かって半径方向外側に伸びる、一つ又は複数の、第二のトレッド層と一体成形された延長部を含み、そして
第二のトレッド層の各一体成形された延長部は周方向に連続した溝と、溝の側面に配置された補強ゾーンとを含み、
第一のゴムコンパウンドは、
-25℃より高いガラス転移温度を有する第1のゴム及び-40℃より低いガラス転移温度を有する第2のゴムからなる粘弾性的に非混和性のポリマーブレンドと、50phr未満のフィラーとを含み;そして
第二のゴムコンパウンドは、
ジエン系エラストマー、
50~120phrのフィラー、ここでフィラーのうち少なくとも20phrは少なくとも100g/kgのヨウ素吸収数を有する高表面積カーボンブラックである、
1~45phrのメチレン受容体、
1~25phrのメチレン供与体、及び
1~30phrの、カルバミン酸樹脂と1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマーと芳香族炭化水素樹脂とからなる群から選ばれる少なくとも一つの添加剤
を含む
ことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
補強ゾーンが、溝の軸方向対向側に配置された第一及び第二の補強ゾーンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
少なくとも一つの補強ゾーンが、溝の半径方向最内面からトレッド走行面に半径方向に伸びていることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
少なくとも一つの補強ゾーンが、溝の半径方向最内面から半径方向に及び半径方向に部分的にトレッド走行面に伸びていることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項5】
メチレン受容体が、レソルシノール、レソルシノール誘導体、一価フェノール及びそれらの誘導体、二価フェノール及びそれらの誘導体、多価フェノール及びそれらの誘導体、未変性フェノールノボラック樹脂、変性フェノールノボラック樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、レソルシノールノボラック樹脂及びそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
空気入りタイヤは、典型的にはタイヤの転がり抵抗に相当量寄与するトレッドを含む。タイヤの動作中、トレッド溝の変形は、その後にトレッドコンパウンドの発熱をもたらすことがあり、その逆も同じであるので、転がり抵抗の増大を招く。さらに、溝の変形はタイヤ性能にも悪影響を及ぼしうる。特に、溝が変形すると、タイヤの剛性が不十分となるほか、タイヤと路面の接触にも好ましくない。
【0002】
米国特許出願公開第2010/0154948 A1号は、溝補強材を有するタイヤトレッドを開示している。特に、記載のタイヤは、周方向リブを分離する少なくとも一つの周方向溝を有しており、各周方向溝は二つの側面とその間にある基部とを有している。トレッドの周方向に対して-20度~+20度に配向された補強短繊維を有するコンパウンドの層を含む補強構造が、各周方向溝の側面に固定されている。
【0003】
米国特許第6,213,181 B1号は、周方向溝を含むトレッドを有するタイヤを開示している。この溝は、使用者の主観的不満の原因となる異常の形成を低減するために溝壁ライニング(内張り)を有している。ライニングは各溝の全高に及び、残りのトレッドのコンパウンドとは異なるコンパウンドで製造されている。特に、溝ライニングに使用されているコンパウンドは、残りのトレッドに使用されているトレッドコンパウンドより柔らかい。
【0004】
米国特許第8,104,523号は、少なくとも一つのカーカスプライと該カーカスプライに関連付けられた少なくとも一つの環状補強構造とを有するカーカス構造と、カーカス構造に対して半径方向外側の位置にあり、弾性材料で製造されたトレッドバンドと、カーカス構造とトレッドバンドとの間に挟まれたベルト構造と、そして、カーカス構造上にあって軸方向に対向した1対のサイドウォールとを有する空気入りタイヤを開示している。ここで、前記トレッドバンドは、i)半径方向に伸びた、実質的に第一の弾性材料の少なくとも一つの第一のセクター;ii)半径方向に伸び、少なくとも一つの第一のセクターの軸方向反対側に位置する実質的に第二の弾性材料の複数の第二のセクター;iii)少なくとも一つの第一のセクターに形成され、実質的にトレッドバンドの周方向展開部全体にわたって伸びている少なくとも一つの縦溝を有する。
【0005】
米国特許公開第2014/0069561号は、周方向リブを分離する複数の周方向溝を含むタイヤトレッドを開示している。各溝は、底部と二つの側壁、及び複数の横方向に分離された補強材を含み、一つの補強材は各周方向溝に隣接して配置され、各補強材は、トレッドの半径方向内面から半径方向に、隣接する周方向溝の少なくとも底部にまで伸び、その溝の底部を形成している。
【0006】
米国特許公開第2014/0069560号は、少なくとも一つのゴム成分、約50phr~約120phrのフィラーを含み、フィラーの少なくとも20phrは高表面積カーボンブラックであり、10phr~30phrはフェノール樹脂であるゴム組成物;そのようなゴム組成物を含むタイヤトレッド又はタイヤを開示している。
【0007】
米国特許公開第2016/0167440号は、周方向リブを分離する複数の周方向溝を含むトレッドを含むタイヤを開示している。各溝は、底部と二つの側壁;一つ又は複数の溝補強材を含み、各溝補強材は、前記一つ又は複数の溝補強材のいずれとも横方向に間隔を置き;各溝補強材は一つの周方向溝に隣接して配置され;少なくとも一つの周方向溝はそれに隣接する溝補強材を持たず;各溝補強材は、トレッドの半径方向内面から半径方向外側に、隣接する周方向溝の少なくとも底部にまで伸び、その溝の底部の少なくとも一部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2010/0154948 A1号
【文献】米国特許第6,213,181 B1号
【文献】米国特許第8,104,523号
【文献】米国特許公開第2014/0069561号
【文献】米国特許公開第2014/0069560号
【文献】米国特許公開第2016/0167440号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、空気入りタイヤであって、カーカスと、カーカスの半径方向外側に位置し、タイヤのサイドウォール間に伸びるトレッドとを含み;トレッドは、半径方向最外部のトレッド走行面を提供し;トレッドは、第一のゴムコンパウンドを含む第一のトレッド層と、第二のゴムコンパウンドを含む第二のトレッド層とを含み;第二のトレッド層は、第一のトレッド層に半径方向に隣接して配置され;第一のゴムコンパウンドは、第二のゴムコンパウンドと組成的に異なり;第二のトレッド層は、トレッド走行面に向かって半径方向外側に伸びる、第二のトレッド層の一つ又は複数の一体成形された延長部を含み;第二のトレッド層の各一体成形延長部は、周方向に連続した溝と、溝の側面に配置された補強ゾーンとを含み;
第一のゴムコンパウンドは、100重量部の少なくとも一つのジエン系エラストマー、及び1~150phrのシリカを含み;そして
第二のゴムコンパウンドは、ジエン系エラストマー、50~120phrのフィラー(少なくとも20phrのフィラーは少なくとも100g/kgのヨウ素吸収数を有する高表面積カーボンブラックである)、1~45phrのメチレン受容体、1~25phrのメチレン供与体、及び1~30phrの少なくとも一つの添加剤(カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる)を含む空気入りタイヤに向けられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【
図2】
図2は、別の態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【
図3】
図3は、別の態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【
図4】
図4は、別の態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【
図5】
図5は、別の態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【
図6】
図6は、別の態様によるタイヤトレッドの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
空気入りタイヤであって、カーカスと、カーカスの半径方向外側に位置し、タイヤのサイドウォール間に伸びるトレッドとを含み;トレッドは、半径方向最外部のトレッド走行面を提供し;トレッドは、第一のゴムコンパウンドを含む第一のトレッド層と、第二のゴムコンパウンドを含む第二のトレッド層とを含み;第二のトレッド層は、第一のトレッド層に半径方向に隣接して配置され;第一のゴムコンパウンドは、第二のゴムコンパウンドと組成的に異なり;第二のトレッド層は、トレッド走行面に向かって半径方向外側に伸びる、第二のトレッド層の一つ又は複数の一体成形された延長部を含み;第二のトレッド層の各一体成形延長部は、周方向に連続した溝と、溝の側面に配置された補強ゾーンとを含み;
第一のゴムコンパウンドは、100重量部の少なくとも一つのジエン系エラストマー、及び1~150phrのシリカを含み;そして
第二のゴムコンパウンドは、ジエン系エラストマー、50~120phrのフィラー(少なくとも20phrのフィラーは少なくとも100g/kgのヨウ素吸収数を有する高表面積カーボンブラックである)、1~45phrのメチレン受容体、1~25phrのメチレン供与体、及び1~30phrの少なくとも一つの添加剤(カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる)を含む空気入りタイヤを開示する。
【0012】
図1~6にタイヤトレッドの様々な態様を示す。
図1は、第二のトレッド層の半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層が軸方向に実質的に完全にトレッドを横断して伸びているタイヤトレッドの態様を示す。
図1を参照すると、断面で示されたタイヤトレッド10は、2層の接地トレッドを含む。すなわち、第二のトレッド層としての内側トレッド16の半径方向外側に配置された、第一のトレッド層としての外側トレッド14を含む2層の接地トレッドで、トレッドベース34は内側トレッド16の半径方向内側にある。トレッドベース34は、軸方向最外部のウィング32を含んでいてもよい。
【0013】
外側トレッド14は、ショルダー部31に配置されたショルダーゾーン30と、リブ25に配置されたリブゾーン28を含む。内側トレッド16は、タイヤの周囲に、周方向に連続して伸びる一つ又は複数の溝20を含む。各溝20は、接地走行面12から溝の最内面22へ半径方向に測定された深さdを有する。各溝20は、軸方向の両側で二つの補強ゾーンと境界を接しており、補強ゾーン24はショルダーゾーン30に隣接し、補強ゾーン26はリブゾーン28に隣接している。各溝20と二つの隣接補強ゾーンは一緒になって、内側トレッド16の一体成形された延長部を含む。一体成形とは、補強ゾーン24、26が内側トレッド16全体の一部で、単一の第二のゴムコンパウンドから製造されていることを意味する。
【0014】
リブ25のそれぞれは、リブゾーン28を含み、二つの補強ゾーン26がリブゾーン28の軸方向反対側に配置されている。リブゾーン28は、走行面12から、半径方向内側に、実質的に距離dに等しい距離まで伸びている。
【0015】
外側トレッド14は、第一のゴムコンパウンドで製造されている。
図1に示す態様においては、リブゾーン28とショルダーゾーン30は、同じ第一のゴムコンパウンドで製造されている。他の態様において、リブゾーン28とショルダーゾーン30は、二つ以上の異なるゴムコンパウンドで製造されていてもよい。
【0016】
図2は、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面に向かって部分的に伸び、第二のトレッド層が軸方向に実質的に完全にトレッドを横断して伸びているタイヤトレッドの態様を示す。そのような態様は他にも想定されるが、簡潔にするために示していない。ここで、
図2を参照すると、補強ゾーン224と226が溝220の対向側に配置され、二つの補強ゾーン226がリブ225のリブゾーン228の軸方向反対側に配置されているタイヤトレッド210の代替の態様が示されている。補強ゾーン226は、第二のトレッド層216から半径方向外側にトレッド走行面212に向かって部分的に伸びている。補強ゾーン224は、トレッド走行面212まで完全に伸びている。
【0017】
図3は、第二のトレッド層の半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層が軸方向に部分的にトレッドを横断して伸び、ショルダーゾーンがトレッドベースから伸びているタイヤトレッドの態様を示す。そのような態様は他にも想定されるが、簡潔にするために示していない。
図3は、タイヤトレッド310の別の態様を示している。トレッド310は、第二のトレッド層316の軸方向反対側に配置され、トレッドベース334から半径方向外側に伸びているショルダーゾーン330を含む。これは、ショルダーゾーン30が第二のトレッド層16から半径方向外側に伸びている
図1のトレッド10とは対照をなす。
【0018】
図4は、第二のトレッド層の半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層が軸方向に部分的にトレッドを横断して伸び、軸方向に別個の部分に分断され、ショルダーゾーンがトレッドベースから伸びているタイヤトレッドの態様を示す。そのような態様は他にも想定されるが、簡潔にするために示していない。
図4は、タイヤトレッド410の別の態様を示している。そこでは第二のトレッド層416が軸方向に別個の補強部分416a、416bに分割され、それぞれトレッドベース434から半径方向外側に走行面412まで完全に伸びている。それに応じて第一のトレッド層414のリブゾーン428もトレッドベース434から半径方向外側に走行面412まで伸びている。
【0019】
図5は、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面に向かって部分的に伸び、第二のトレッド層が軸方向に部分的にトレッドを横断して伸び、軸方向に別個の部分に分断され、ショルダーゾーンがトレッドベースから伸びているタイヤトレッドの態様を示す。そのような態様は他にも想定されるが、簡潔にするために示していない。
図5は、タイヤトレッド510の別の態様を示している。そこではタイヤトレッド410とは対照的に、軸方向に別個の補強部分516aは、補強部分516aから半径方向外側にトレッド走行面512に向かって部分的に伸びている補強ゾーン524、526aを含む。補強部分516bは、部分的に伸びている補強ゾーン526bと、完全に伸びている補強ゾーン526cを含む。補強部分416a、416bの補強ゾーン424、426が走行面412まで完全に伸びているのとは対照的である。
【0020】
図6は、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面まで完全に伸び、第二のトレッド層のいくつかの半径方向補強延長部が走行面に向かって部分的に伸び、第二のトレッド層が軸方向に部分的にトレッドを横断して伸び、軸方向に別個の部分に分断され、別個の部分はそれぞれ溝の片側に配置され、ショルダーゾーンがトレッドベースから伸びているタイヤトレッドの態様を示す。そのような態様は他にも想定されるが、簡潔にするために示していない。
図6は、タイヤトレッド610の態様を示している。そこでは第二のトレッド層616が単一の補強ゾーンを含む補強部分616a、616bを有している。補強部分616aは半径方向に完全に伸びている補強ゾーン624を含み、補強部分616bは半径方向に部分的に伸びている補強ゾーン626を含む。この態様では、ショルダーゾーン630bは、第一のトレッド層614内のリブゾーン628bと軸方向に連続している。ショルダーゾーン630aとリブゾーン628aは、第一のトレッド層614において軸方向に別個である。
【0021】
外側トレッドのリブゾーン及びショルダーゾーンに使用される第一のゴムコンパウンドは、良好な転がり抵抗とウェットグリップ特性を持つように設計された比較的軟質のコンパウンドである。補強ゾーンを含む内側トレッドに使用される第二のゴムコンパウンドは、リブ及び溝を強化するために設計された比較的剛性のコンパウンドである。
【0022】
一態様において、第二のゴムコンパウンドは、ジエン系エラストマー、50~120phrのフィラー(少なくとも20phrのフィラーは少なくとも100g/kgのヨウ素吸収数を有する高表面積カーボンブラックである)、1~45phrのメチレン受容体、1~25phrのメチレン供与体、及び10~30phrの少なくとも一つの添加剤(カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる)を含む。
【0023】
“メチレン受容体”という用語は当業者には公知で、メチレン供与体がそれと反応してメチロールモノマーと考えられるものを形成する反応物のことを言うのに使用される。メチレンブリッジの形成によりメチロールモノマーが縮合すると樹脂が形成される。後にメチレンブリッジを形成する部分に寄与する初期反応はメチレン供与体で、他方の反応物がメチレン受容体である。メチレン受容体として使用できる代表的な化合物は、レソルシノール、レソルシノール誘導体、一価フェノール及びそれらの誘導体、二価フェノール及びそれらの誘導体、多価フェノール及びそれらの誘導体、未変性フェノールノボラック樹脂、変性フェノールノボラック樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、レソルシノールノボラック樹脂及びそれらの混合物などであるが、これらに限定されない。メチレン受容体の例は、米国特許第6,605,670号;米国特許第6,541,551号;米国特許第6,472,457号;米国特許第5,945,500号;米国特許第5,936,056号;米国特許第5,688,871号米国特許第5,665,799号;米国特許第5,504,127号;米国特許第5,405,897号;米国特許第5,244,725号;米国特許第5,206,289号;米国特許第5,194,513号;米国特許第5,030,692号;米国特許第4,889,481号;米国特許第4,605,696号;米国特許第4,436,853号;及び米国特許第4,092,455号に開示されているものなどであるが、これらに限定されない。変性フェノールノボラック樹脂の例は、カシューナッツ油変性フェノールノボラック樹脂、タル油変性フェノールノボラック樹脂及びアルキル変性フェノールノボラック樹脂などであるが、これらに限定されない。一態様において、メチレン受容体は、反応性フェノール-ホルムアルデヒド樹脂である。適切な反応性フェノール-ホルムアルデヒド樹脂は、Schenectedy Chemicals社製のSMD 30207などである。
【0024】
メチレン受容体のその他の例は、環置換による活性化フェノール及びカシューナッツ油変性ノボラック型フェノール樹脂などである。環置換による活性化フェノールの代表的な例は、レソルシノール、クレゾール、t-ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、エチルフェノール及びそれらの混合物などである。カシューナッツ油変性ノボラック型フェノール樹脂は、Schenectady Chemicals Inc.社より、表示名SP6700で市販されている。全ノボラック型フェノール樹脂を基にした油変性率は10~50パーセントの範囲でありうる。カシューナッツ油で変性されたノボラック型フェノール樹脂を製造するには様々な方法が使用できる。例えば、フェノール、クレゾール及びレソルシノールなどのフェノール類を、酸触媒を用いて、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド及びベンズアルデヒドなどのアルデヒドと反応させればよい。酸触媒の例は、シュウ酸、塩酸、硫酸及びp-トルエンスルホン酸などである。触媒反応後、樹脂を油で変性する。
【0025】
第二のゴムコンパウンド中のメチレン受容体の量は様々でありうる。一態様において、メチレン受容体の量は1~45phrの範囲である。別の態様において、メチレン受容体の量は2~30phrの範囲である。
【0026】
in-situ樹脂が第二のゴムコンパウンド内で形成されるが、それにはメチレン受容体とメチレン供与体の反応が関与している。“メチレン供与体”という用語は、メチレン受容体と反応でき、in-situで樹脂を生成する化合物を意味するものとする。本発明での使用に適切なメチレン供与体の例は、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、イミノ-メトキシメチルメラミン、イミノ-イソブトキシメチルメラミン、ラウリルオキシメチルピリジニウムクロリド、エトキシメチルピリジニウムクロリドトリオキサン及びヘキサメトキシメチルメラミンなどである。さらに、メチレン供与体は、一般式:
【0027】
【0028】
のN-置換オキシメチルメラミンでもよい。式中、Xは、水素又は1~8個の炭素原子を有するアルキルであり、R1、R2、R3、R4及びR5は、水素、1~8個の炭素原子を有するアルキル、基-CH2OX又はそれらの縮合生成物からなる群から個別に選ばれる。具体的なメチレン供与体は、ヘキサキス-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N”-トリメチル/N,N’,N”-トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、N,N’,N”-ジメチロールメラミン、N-メチロールメラミン、N,N’-ジメチロールメラミン、N,N’,N”-トリス(メトキシメチル)メラミン及びN,N’,N”-トリブチル-N,N’,N”-トリメチロール-メラミンなどである。メラミンのN-メチロール誘導体は公知法によって製造される。
【0029】
第二のゴムコンパウンド中に存在しうるメチレン供与体の量は様々でありうる。一態様において、存在するメチレン供与体の量は約1~25phrの範囲であろう。一態様において、メチレン供与体の量は約2~20phrの範囲である。
【0030】
第二のゴムコンパウンドは、10~30phrの、カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一つの添加剤も含む。
【0031】
一態様において、第二のゴムコンパウンドは、芳香族炭化水素樹脂を含む。適切な芳香族炭化水素樹脂は、スチレン/α-メチルスチレン樹脂、クマロン-インデン樹脂などである。
【0032】
一態様において、芳香族炭化水素樹脂はスチレンとα-メチルスチレンのコポリマー樹脂である。適切なスチレン/α-メチルスチレン樹脂は、スチレンとアルファメチルスチレンから誘導される。一側面において、その分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)と組み合わせたそのガラス転移温度(Tg)の特徴は、ゴム組成物における樹脂の適切な適合性を提供し、適合性の程度はゴム組成物の性質に直接関連すると考えられている。
【0033】
第二のゴムコンパウンドの中にスチレン/アルファメチルスチレン樹脂が存在することは、トレッドゴム組成物の観察された粘弾性、例えば、以下に一般的に記載されているような異なる温度/周波数/歪における複素及び貯蔵弾性率、損失弾性率、タンデルタ及び損失コンプライアンスのため、ここでは有益と考えられている。
【0034】
複素及び貯蔵弾性率、損失弾性率、タンデルタ及び損失コンプライアンスの特性は、当業者には一般的に周知であると理解されている。これらについては以下で概説する。
樹脂の分子量分布は、樹脂の分子量平均(Mw)対分子量数平均(Mn)の値の比として視覚化され、本明細書においては、比較的狭い範囲と見なされる約1.5/1~約2.5/1の範囲であると考えられている。これは、ポリマーマトリックスとの選択的適合性のため、及び想定されるタイヤの使用条件(広い温度範囲にわたる湿潤及び乾燥条件下)のために有益であると考えられている。
【0035】
コポリマー樹脂のガラス転移温度Tgは、本明細書においては、多少は製造されたタイヤの使用目的及びタイヤトレッド用のポリマーブレンドの性質にもよるが、約20℃~約100℃、あるいは約30℃~約80℃と考えられている。樹脂のTGの適切な測定法はASTM D6604に準拠するDSC又はそれと同等の方法である。
【0036】
スチレン/アルファメチルスチレン樹脂は、本明細書においては、スチレンとアルファメチルスチレンの比較的短鎖コポリマーで、スチレン/アルファメチルスチレンのモル比が約0.40~約1.50の範囲と考えられている。一側面において、そのような樹脂は、例えば、炭化水素溶媒中でのスチレンとアルファメチルスチレンのカチオン共重合により適切に製造できる。
【0037】
従って、想定されるスチレン/アルファスチレン樹脂は、例えば、その化学構造、すなわちそのスチレン及びアルファメチルスチレンの含量及び軟化点、そしてまた所望であれば、そのガラス転移温度、分子量及び分子量分布によって特徴付けることができる。
【0038】
一態様において、スチレン/アルファメチルスチレン樹脂は、約40~約70パーセントのスチレン由来単位、及びそれに対応して約60~約30パーセントのアルファメチルスチレン由来単位で構成される。一態様において、スチレン/アルファメチルスチレン樹脂は、約80℃~約145℃の範囲のASTM No.E-28による軟化点を有する。
【0039】
一態様において、第二のゴムコンパウンド中のスチレン/アルファメチルスチレン樹脂の量は、5~25phrの範囲である。一態様において、第二のゴムコンパウンド中のスチレン/アルファメチルスチレン樹脂の量は、10~20phrの範囲である。
【0040】
適切なスチレン/アルファメチルスチレン樹脂は、Eastman社よりResin 2336として、又はArizona Chemical社よりSylvares SA85として市販されている。
【0041】
一態様において、第二のゴムコンパウンドは、一官能性又は多官能性アルデヒドAと、少なくとも一つのカルバメート基-O-CO-NH2及び有機基を有する有機化合物Cとから誘導されるカルバミン酸樹脂を含み、前記有機基は、1~30個の炭素原子を有する直鎖、分枝又は環状脂肪族基、及びアラルキル基からなる群から選ばれる一価基R、又は2~30個の炭素原子を有する直鎖、分枝又は環状脂肪族二価基、及び8~30個の炭素原子を有するビスアルキルアリール基からなる群から選ばれる二価有機基-R’-でありうる。
【0042】
一態様において、Rは2~8個の炭素原子を有する。
一態様において、脂肪族カルバメートが化合物Cとして使用され、エチルカルバメート、ブチルカルバメート、ヘキシルカルバメート及び2-エチルヘキシルカルバメートからなる群から選ばれる。
【0043】
一態様において、アルアリファチック(芳香族-脂肪族:araliphatic)カルバメートが化合物Cとして使用され、ベンジルカルバメート及びα,α-ジメチルベンジルカルバメートからなる群から選ばれる。
【0044】
一態様において、ジカルバメートが化合物Cとして使用され、エチレンビスカルバメート、1,2-プロピレンビスカルバメート、1,3-プロピレンビスルカルバメート、及び1,4-ブチレンビスカルバメートからなる群から選ばれる。
【0045】
一態様において、ジカルバメートが化合物Cとして使用され、キシリレンビスカルバメート及びテトラメチルキシリレンビスカルバメートからなる群から選ばれる。
一態様において、一官能性アルデヒドがアルデヒドAとして使用され、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、n-ペンタナール、及びn-ヘキサナールからなる群から選ばれる。
【0046】
一態様において、多官能性アルデヒドがアルデヒドAとして使用され、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、及びグルタルアルデヒドからなる群から選ばれる。
【0047】
一態様において、カルバミン酸樹脂は、n-ブチルカルバメート及びホルムアルデヒドから誘導される。
一態様において、第二のゴムコンパウンド中のカルバミン酸樹脂(存在する場合)の量は、1~15phrの範囲である。一態様において、第二のゴムコンパウンド中のカルバミン酸樹脂(存在する場合)の量は、2~10phrの範囲である。
【0048】
適切なカルバミン酸樹脂は、Allnex社より、Alnovol(登録商標)UF410などとして市販されている。
一態様において、第二のゴム組成物は液体ポリマーを含む。
【0049】
適切な液体ポリマーは、硫黄及びポリマーマトリックスと反応して架橋を形成できる二重結合を持つべきである。これらの架橋は、可塑剤が周囲のコンパウンドに移動するのを防止するので、補強成分の引張特性及び耐久性が維持される。
【0050】
適切な液体ポリマーは、共役ジオレフィン(又はジエン)モノマーから誘導される。そのような液体ポリマーは、共役ジオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーから誘導された反復単位も含有しうる。例えば、液体ポリマーは、スチレンなどのビニル芳香族モノマーから誘導された反復単位も含有しうる。ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム及びスチレン-イソプレン-ブタジエンゴムは、液体ポリマーとして使用できるポリマーのいくつかの代表例である。
【0051】
液体ポリマーは、共役ジオレフィンモノマーの低分子量ゴム状ポリマーである。これらの低分子量ゴム状ポリマーは、典型的には、一つ又は複数の共役ジオレフィンモノマーから誘導される反復単位も含む。そのような低分子量ゴムは、当然ながら、共役ジオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーから誘導された反復単位も含有しうる。例えば、低分子量ゴム状ポリマーは、スチレンなどのビニル芳香族モノマーから誘導された反復単位を含有できる。低分子量ポリブタジエンゴム、低分子量ポリイソプレンゴム、低分子量スチレン-ブタジエンゴム、低分子量イソプレン-ブタジエンゴム、低分子量スチレン-イソプレンゴム及び低分子量スチレン-イソプレン-ブタジエンゴムは、本発明の湿潤剤を製造するために変性できる低分子量ゴム状ポリマーのいくつかの代表例である。低分子量ゴム状ポリマーは、典型的には、約1000~約25,000の範囲内の数平均分子量を有する。低分子量ゴム状ポリマーは、さらに典型的には、約2000~約15,000の範囲内の数平均分子量を有する。
【0052】
数平均分子量は、ASTM 3536に従って実施されるように、ポリスチレン較正標準を用いるゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により測定できる。GPCは、ポリマーが分子サイズに従って分離され、最大分子が最初に溶出する周知の方法である。クロマトグラフは、市販のポリスチレン分子量基準を用いて較正される。使用される検出器は、好ましくは紫外線検出器である。単鎖として存在する鎖の画分を、GPC曲線下面積の比、すなわち(単鎖ピーク面積)/(総面積)として決定する。
【0053】
適切な液体ポリマーは、Cray Valley/Total社よりRicon(登録商標)として市販されている。
カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる添加剤は、第二のゴムコンパウンド中に1~30phrの範囲の量で存在する。一態様において、添加剤は第二のゴムコンパウンド中に10~20phrの量で存在する。
【0054】
第一及び第二のゴムコンパウンドは、独立に、オレフィン性不飽和を含有する一つ又は複数のゴム又はエラストマーを含む。“オレフィン性不飽和を含有するゴム又はエラストマー”又は“ジエン系エラストマー”という語句は、天然ゴム及びその各種未加工形及び再生形、ならびに各種合成ゴムのどちらも含むものとする。本発明の記載において、“ゴム”及び“エラストマー”という用語は、別段の規定のない限り互換的に使用されうる。“ゴム組成物”、“配合ゴム”及び“ゴムコンパウンド”という用語は、各種成分及び材料とブレンド又は混合されているゴムのことを言うのに互換的に使用され、そのような用語はゴム混合又はゴム配合分野の当業者には周知である。代表的な合成ポリマーは、ブタジエン及びその同族体及び誘導体、例えばメチルブタジエン、ジメチルブタジエン及びペンタジエンのホモ重合生成物、ならびにブタジエン又はその同族体もしくは誘導体とその他の不飽和モノマーとから形成されるようなコポリマーである。後者に含まれるものとしては、アセチレン、例えばビニルアセチレン;オレフィン、例えばイソブチレン(イソプレンと共重合してブチルゴムを形成する);ビニル化合物、例えばアクリル酸、アクリロニトリル(ブタジエンと重合してNBRを形成する)、メタクリル酸及びスチレン(後者の化合物はブタジエンと重合してSBRを形成する)のほか、ビニルエステル及び各種不飽和アルデヒド、ケトン及びエーテル、例えばアクロレイン、メチルイソプロペニルケトン及びビニルエチルエーテルなどが挙げられる。合成ゴムの具体例は、ネオプレン(ポリクロロプレン)、ポリブタジエン(シス-1,4-ポリブタジエンを含む)、ポリイソプレン(シス-1,4-ポリイソプレンを含む)、ブチルゴム、ハロブチルゴム、例えばクロロブチルゴム又はブロモブチルゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、1,3-ブタジエン又はイソプレンとスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートなどのモノマーとのコポリマー、ならびにエチレン/プロピレンターポリマー(エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)としても知られる)、特にエチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエンターポリマーなどである。使用できるゴムの追加例は、アルコキシ-シリル末端官能化溶液重合ポリマー(SBR、PBR、IBR及びSIBR)、ケイ素結合及びスズ結合星状枝分れポリマーなどである。好適なゴム又はエラストマーはポリイソプレン(天然又は合成)、ポリブタジエン及びSBRである。
【0055】
一側面において、少なくとも一つの追加ゴムは、好ましくはジエン系ゴムの少なくとも二つである。例えば、シス1,4-ポリイソプレンゴム(天然又は合成、ただし天然が好適)、3,4-ポリイソプレンゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、乳化重合及び溶液重合由来スチレン/ブタジエンゴム、シス1,4-ポリブタジエンゴム及び乳化重合調製ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーなどの二つ以上のゴムの組合せが好適である。
【0056】
本発明の一側面において、約20~約28パーセントの結合スチレンという比較的従来的なスチレン含量を有する乳化重合由来スチレン/ブタジエン(E-SBR)が使用されうる。又は用途によっては、中程度~比較的高い結合スチレン含量、すなわち約30~約45パーセントの結合スチレン含量を有するE-SBRが使用されうる。
【0057】
乳化重合調製E-SBRとは、スチレンと1,3-ブタジエンが水性エマルジョンとして共重合されることを意味する。そのようなことは当業者には周知である。結合スチレン含量は、例えば、約5~約50パーセントの間で変動しうる。一側面において、E-SBRは、アクリロニトリルも含有してE-SBARとしてターポリマーゴムを形成することもできる。その場合、ターポリマー中に例えば約2~約30重量パーセントの量の結合アクリロニトリルが含有される。
【0058】
約2~約40重量パーセントの結合アクリロニトリルをコポリマー中に含有する乳化重合調製スチレン/ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーゴムも、本発明で使用するためのジエン系ゴムとして想定されている。
【0059】
溶液重合調製SBR(S-SBR)は、典型的には、約5~約50、好ましくは約9~約36パーセントの範囲の結合スチレン含量を有する。S-SBRは、例えば、有機炭化水素溶媒の存在下、有機リチウム触媒作用によって都合よく製造できる。
【0060】
一態様において、シス1,4-ポリブタジエンゴム(BR)が使用されうる。そのようなBRは、例えば、1,3-ブタジエンの有機溶液重合によって製造できる。BRは、例えば、少なくとも90パーセントのシス1,4-含量を有することによって都合よく特徴付けできる。
【0061】
シス1,4-ポリイソプレン及びシス1,4-ポリイソプレン天然ゴムは、ゴム分野の当業者には周知である。
本明細書中で使用され、従来の慣例に従う用語“phr”は、“100重量部のゴム、又はエラストマーあたりの各材料の重量部”を意味する。
【0062】
第一及び第二のゴムコンパウンドは、独立に、70phrまでのプロセスオイルも含みうる。プロセスオイルは、エラストマーを伸展するために典型的に使用される伸展油としてゴム組成物に包含されうる。プロセスオイルは、オイルをゴム配合中に直接添加することによってゴム組成物に含めることもできる。使用されるプロセスオイルは、エラストマー中に存在する伸展油と配合中に添加されるプロセスオイルの両方を含みうる。適切なプロセスオイルは、当該技術分野で知られている各種油、例えば芳香族系油、パラフィン系油、ナフテン系油、植物油、及び低PCA油、例えばMES油、TDAE油、SRAE油及び重ナフテン系油などである。適切な低PCA油は、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するものなどである。IP346法の手順は、英国石油学会(Institute of Petroleum)出版のStandard Methods for Analysis & Testing of Petroleum and Related Products 及び British Standard 2000 Parts、2003年、第62版に見出すことができる。
【0063】
第一及び第二のゴムコンパウンドは、独立に、シリカ、カーボンブラック、又はシリカとカーボンブラックの組合せを含みうる。
第一及び第二のゴムコンパウンドは、独立に、約1~約150phrのシリカを含みうる。別の態様においては、10~100phrのシリカが使用されうる。
【0064】
ゴムコンパウンドに使用できる一般的に用いられるケイ質顔料は、従来型の熱分解ケイ質顔料及び沈降ケイ質顔料(シリカ)を含む。一態様において、沈降シリカが使用される。本発明で使用される従来型ケイ質顔料は、例えば、ケイ酸ナトリウムなどの可溶性ケイ酸塩の酸性化によって得られるような沈降シリカである。
【0065】
そのような従来型シリカは、例えば、窒素ガスを用いて測定されたBET表面積を有することを特徴としうる。一態様において、BET表面積は、1グラムあたり約40~約600平方メートルの範囲でありうる。別の態様において、BET表面積は、1グラムあたり約80~約300平方メートルの範囲でありうる。表面積を測定するBET法は、Journal of the American Chemical Society、第60巻、304ページ(1930)に記載されている。
【0066】
従来型シリカは、約100~約400、あるいは約150~約300の範囲のジブチルフタレート(DBP)吸収値を有することによって特徴付けることもできる。
従来型シリカは、電子顕微鏡による測定で例えば0.01~0.05ミクロンの範囲の平均極限粒径を有すると予測されうるが、シリカ粒子は、それよりさらに小さい、又はおそらくは大きいサイズであってもよい。
【0067】
様々な市販シリカが使用できる。例えば、本明細書における単なる例として及び制限なしに挙げると、PPG Industries社から商標Hi-Sil、表示名210、243などとして市販されているシリカ;Rhodia社から例えば表示名Z1165MP及びZ165GRとして入手できるシリカ;及びDegussa AG社から例えば表示名VN2及びVN3として入手できるシリカなどである。有機シランで前処理された又は有機シランと予備反応させたシリカ、例えばPPG社製のAgilon(登録商標)400なども使用できる。
【0068】
一般的に使用されるカーボンブラックが従来型フィラーとしてシリカと組み合わせて1~150phrの範囲の量で使用できる。別の態様では10~100phrのカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックはシリカと共に使用することができるが、一態様において、カーボンブラックは、タイヤに黒色を付与するのに必要な量である1~10phr以外は本質的に使用されない。そのようなカーボンブラックの代表例は、N110、N121、N134、N220、N231、N234、N242、N293、N299、N315、N326、N330、N332、N339、N343、N347、N351、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N683、N754、N762、N765、N774、N787、N907、N908、N990及びN991などである。これらのカーボンブラックは、9~145g/kgの範囲のヨウ素吸収及び34~150cm3/100gの範囲のDBP数を有している。
【0069】
一態様において、第二のゴムコンパウンドは、20phrまでの高表面積カーボンブラックを含む。そのような高表面積カーボンブラックは、ASTM D-1510又は同等規格によって測定されるそのヨウ素吸収数によって特徴付けることができる。一態様において、高表面積カーボンブラックは、少なくとも100mg/gのヨウ素吸収数を有する。一態様において、高表面積カーボンブラックは、少なくとも180mg/gのヨウ素吸収数を有する。適切な高表面積カーボンブラックは、Cabot社からVulcan CRX1391として入手できる。
【0070】
シリカとカーボンブラックの組合せが組成物に使用されてもよい。一態様において、シリカのカーボンブラックに対する重量比は1以上である。
他のフィラーも第一及び第二のゴムコンパウンドに独立に使用できる。例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの粒子状フィラー、米国特許第6,242,534号;6,207,757号;6,133,364号;6,372,857号;5,395,891号;又は6,127,488号(これらに限定されない)に開示されているような架橋粒子状ポリマーゲル、及び米国特許第5,672,639号(これに限定されない)に開示されているような可塑化デンプン複合フィラーなどであるが、これらに限定されない。そのようなその他のフィラーは1~30phrの範囲の量で使用されうる。
【0071】
一態様において、第一及び第二のゴムコンパウンドは独立に従来型の硫黄含有有機ケイ素化合物を含有しうる。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3’-ビス(トリメトキシ又はトリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドである。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及び/又は3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。
【0072】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許第6,608,125号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、Momentive Performance Materials社からNXTTMとして市販されている3-(オクタノイルチオ)-1-プロピルトリエトキシシラン、CH3(CH2)6C(=O)-S-CH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3を含む。
【0073】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許公開第2003/0130535号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物はDegussa社製Si-363である。
【0074】
第一及び第二のゴムコンパウンド中の硫黄含有有機ケイ素化合物の量は、独立に、使用されるその他の添加剤の量に応じて変動する。一般的に言えば、該化合物の量は0.5~20phrの範囲であろう。一態様において、その量は1~10phrの範囲であろう。
【0075】
当業者であれば、第一及び第二のゴムコンパウンドは、独立に、ゴム配合分野で一般的に知られている方法によって配合されるであろうことは容易に分かるはずである。例えば、様々な硫黄加硫可能成分ゴムを、一般的に使用されている様々な添加剤材料、例えば、硫黄供与体、硬化補助剤、例えば活性化剤及び遅延剤及び加工添加剤、例えばオイル、粘着付与樹脂を含む樹脂及び可塑剤、フィラー、顔料、脂肪酸、酸化亜鉛、ワックス、抗酸化剤及びオゾン劣化防止剤及びしゃく解剤などと混合する。当業者には分かる通り、硫黄加硫可能材料及び硫黄加硫済材料(ゴム)の使用目的に応じて、上記添加剤は選択され、従来量で一般的に使用される。硫黄供与体の代表例は、元素硫黄(遊離硫黄)、アミンジスルフィド、ポリマー性ポリスルフィド及び硫黄オレフィン付加物などである。一態様において、硫黄加硫剤は元素硫黄である。硫黄加硫剤は、0.5~8phrの範囲、あるいは1.5~6phrの範囲の量で使用されうる。粘着付与樹脂の典型的な量は、使用される場合、約0.5~約10phr、通常約1~約5phrを含む。加工助剤の典型的な量は約1~約50phrを含む。抗酸化剤の典型的な量は約1~約5phrを含む。代表的抗酸化剤は、例えばジフェニル-p-フェニレンジアミン及びその他、例えばThe Vanderbilt Rubber Handbook(1978),344~346ページに開示されているものであろう。オゾン劣化防止剤の典型的な量は約1~5phrを含む。脂肪酸の典型的な量は、使用される場合、ステアリン酸などでありうるが、約0.5~約3phrを含む。酸化亜鉛の典型的な量は約2~約5phrを含む。ワックスの典型的な量は約1~約5phrを含む。微晶質ワックスが使用されることが多い。しゃく解剤の典型的な量は約0.1~約1phrを含む。典型的なしゃく解剤は、例えば、ペンタクロロチオフェノール及びジベンズアミドジフェニルジスルフィドであろう。
【0076】
促進剤は、加硫に要する時間及び/又は温度を制御するため、及び加硫物の性質を改良するために使用される。一態様において、単一促進剤系、すなわち一次促進剤が使用されうる。一次促進剤(一つ又は複数)は、約0.5~約4、あるいは約0.8~約1.5phrの範囲の総量で使用されうる。別の態様では、活性化及び加硫物の性質を改良するために、一次及び二次促進剤の組合せが使用されうる。その場合、二次促進剤は少量、例えば約0.05~約3phrの量で使用される。これらの促進剤の組合せは、最終性質に対して相乗効果をもたらすことが期待され、いずれかの促進剤を単独で使用して製造されたものよりも多少良好である。さらに、標準的な加工温度には影響されないが、通常の加硫温度で満足のいく硬化をもたらす遅延作用促進剤を使用することもできる。加硫遅延剤も使用できる。本発明に使用されうる適切なタイプの促進剤は、アミン、ジスルフィド、グアニジン、チオウレア、チアゾール、チウラム、スルフェンアミド、ジチオカルバメート及びキサンテートである。一態様において、一次促進剤はスルフェンアミドである。二次促進剤を使用する場合、二次促進剤は、グアニジン、ジチオカルバメート又はチウラム化合物であろう。
【0077】
一態様において、第一のゴムコンパウンドは、50phr未満のフィラーと、-25℃より高いガラス転移温度を有する第一のゴム及び-40℃より低いガラス転移温度を有する第二のゴムからなる粘弾性的に非混和性のポリマーブレンドとの組合せを含む。この第二の低Tgゴムは、連続相又は同時存在する複数の連続相を形成し、第一の高Tgゴムは分散相又同時存在する複数の連続相を形成するはずである。エラストマー又はエラストマー組成物のガラス転移温度、又はTgと言う場合、本明細書においては、各エラストマー又はエラストマー組成物のその未硬化状態か又はエラストマー組成物の場合おそらくは硬化状態のガラス転移温度を表す。Tgは、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の昇温速度で、ピーク中点として適切に決定できる。
【0078】
第一のゴムの例は、結合スチレン含量が45重量%より多い3,4-ポリイソプレン又はスチレン-ブタジエンゴムである。適切な3,4-ポリイソプレンは、Karbochem社からIsogrip(Tg=-10℃)として入手できる。適切なスチレン-ブタジエンゴムは、当該技術分野で公知の通り、溶液重合又は乳化重合により製造できる。
【0079】
一態様において、第一のゴムは乳化重合スチレンブタンジエンゴムで、45重量パーセントを超える結合スチレン、5個未満の反復単位を含有するブロック内に98パーセントを超えるスチレン由来反復単位、及び-25℃より高いTgを含む。
【0080】
乳化重合スチレン-ブタジエンゴム(ESBR)は、1,3-ブタジエン及びスチレンから誘導された反復単位を含む。これらのスチレン-ブタジエンゴムは、少なくとも45重量パーセントのスチレン由来単位及び55重量パーセント未満の1,3-ブタジエン由来単位を含有する。“由来単位”とは、スチレンと1,3-ブタジエンモノマーの重合後にポリマー中に存在するモノマー残基を意味する。
【0081】
ESBRでは、スチレン及びブタジエンから誘導された反復単位の分布は本質的にランダムである。“ランダム”という用語は、本明細書においては、スチレン由来反復単位の全量の5パーセント未満が5個以上のスチレン反復単位を含有するブロック内にあることを意味する。言い換えれば、95パーセントを超えるスチレン由来反復単位が5個未満の反復単位を含有するブロック内にあるということである。多量のスチレン由来反復単位はスチレン反復単位を1個しか含有しないブロック内にある。1個のスチレン反復単位を含有するそのようなブロックは、両側に1,3-ブタジエンから誘導された反復単位が結合している。
【0082】
ESBRでは、スチレン由来反復単位の全量の2パーセント未満が5個以上のスチレン反復単位を含有するブロック内にある。言い換えれば、98パーセントを超えるスチレン由来反復単位が5個未満の反復単位を含有するブロック内にあるということである。一態様において、スチレン由来反復単位の全量の1パーセント未満が5個以上のスチレン反復単位を含有するブロック内にある。一態様において、スチレン由来反復単位の全量の0.5パーセント未満が5個以上のスチレン反復単位を含有するブロック内にある。
【0083】
スチレン-ブタジエンゴム中のスチレン反復単位(「スチレンブロック長」又は「スチレン配列」とも言う)の特徴付けは、以下のように、Tanakaら,Rubber Chem.Technol.1986,vol 59,p16の方法に従い、オゾン分解を用いて実施できる。スチレン-ブタジエンポリマーの不均質性の特徴付けは、化学分解を用いて達成される。これは、乾燥ポリマーのオゾン分解の後、GC(ガスクロマトグラフィー)及びGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析をすることにより実現される。この方法では、ゴムの0.5グレーン(grain)のサンプルをトルエン中に溶解し、10℃に冷却し、オゾン発生装置から生成したオゾン雰囲気に曝露する。得られた溶液を回収してGCカラムクロマトグラフィーにかけ、各ピークを単離してGPCにより特徴付けする。各ピークの分子量を利用してスチレン反復単位の数を決定する。
【0084】
第一のゴムとして適切なスチレン-ブタジエンゴムは、例えば、米国特許第6,458,884号に開示されている手順に従い、多重CSTRにて、連続法で製造できる。
第一のゴムとしてのESBRは、-25℃より高いガラス転移温度を有する。エラストマー又はエラストマー組成物のガラス転移温度、又はTgと言う場合、本明細書においては、各エラストマー又はエラストマー組成物のその未硬化状態か又はエラストマー組成物の場合おそらくは硬化状態のガラス転移温度を表す。Tgは、例えばASTM D7426又はその同等規格に従って、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の昇温速度で、ピーク中点として適切に決定できる。
【0085】
第二のゴムの例は、天然ゴム、高シス合成ポリイソプレン、又は高シスポリブタジエンである。一態様において、第二のゴムは、95パーセントを超えるシス1,4含量及び-80~-110℃の範囲のTgを有するポリブタジエンである。適切なポリブタジエンゴムは、例えば、1,3-ブタジエンの有機溶液重合によって製造できる。BRは、例えば、少なくとも90パーセントのシス1,4含量及び約-95℃~約-105℃の範囲のガラス転移温度Tgを有することによって都合よく特徴付けできる。適切なポリブタジエンゴムは、-108℃のTg、96%のシス1,4含量を有するGoodyear社製Budene(登録商標)1229など、市販されている。
【0086】
この態様において、第一のゴムコンパウンドは、任意に、粘着付与樹脂、例えばアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂又はアルキルフェノールアセチレン樹脂を含んでいてもよい。
【0087】
第一のゴムコンパウンドに関するそのような態様において、特定組成の適切な第一のゴムと適切な第二のゴムの使用は、少なくとも二つのポリマー相を有するゴム組成物をもたらしうる。
【0088】
このように、比較的低Tgの第二のゴムは、比較的高Tgの第一のゴムとは比較的不相溶性又は非混和性であると考えられる。それは、両ポリマーの全転移温度範囲を包含する温度範囲内(典型的には約-110℃~約+150℃でありうる)のタンデルタ対ゴム組成物の硬化温度のグラフ表示又はプロット上のそれらの各タンデルタピークからも明らかである。“転移温度”という用語は、結晶性又は部分結晶性材料の場合、ガラス転移温度Tgと融解温度Tmの両方を含むことを意味する。
【0089】
従って、ゴム組成物のポリマーは、第一のゴム相と第二のゴム相を含む少なくとも二つの相で存在しうる。
特に、この態様の第一のゴム組成物の-110℃~150℃という広い範囲内のタンデルタ対温度曲線のグラフプロットは、曲線に2つのピークを生じうる。1つのピークは比較的低い温度範囲内にその頂点があって第二のゴムに対応し、第二のピークは高い温度範囲内にその頂点があり、第一のゴムに対応している。
【0090】
このように、ポリマー不相溶性の一つの表れは、硬化エラストマー組成物における二重のタンデルタピークの存在である。タンデルタ値は、それらの曲線内に含まれているピークと共に、当業者に周知の方法により、硬化コンパウンドの動的機械的試験によって決定できる。
【0091】
あるいは、第一のゴムと第二のゴムの非混和性は、原子間力顕微鏡法などで視覚的に見ることもできる。ゴム組成物の顕微鏡写真は、一般的に、第一のゴムが第二のゴムの連続相の中に分散相領域として現れ、第一のゴムと第二のゴムの視覚的に異なるポリマー相を示しうる。
【0092】
第一及び第二のゴムコンパウンドの混合は、独立に、ゴム混合分野の当業者に公知の方法によって達成できる。例えば、成分は典型的には少なくとも二つの段階、すなわち、少なくとも一つのノンプロダクティブ段階とそれに続くプロダクティブ混合段階で混合される。硫黄加硫剤を含む最終硬化剤は典型的には最終段階で混合される。この段階は従来、“プロダクティブ”混合段階と呼ばれ、そこでは混合が典型的にはその前のノンプロダクティブ混合段階(一つ又は複数)の混合温度より低い温度、又は極限温度で行われる。“ノンプロダクティブ”及び“プロダクティブ”混合段階という用語は、ゴム混合分野の当業者には周知である。ゴム組成物は熱機械的混合工程に付されてもよい。熱機械的混合工程は、一般的に、140℃~190℃のゴム温度を生ずるために適切な時間の間、ミキサー又は押出機内での機械的作業を含む。熱機械的作業の適切な時間は、運転条件、ならびに成分の体積及び性質に応じて変動する。例えば、熱機械的作業は1~20分であろう。
【0093】
本発明の空気入りタイヤは、レース用タイヤ、乗用車用タイヤ、航空機用タイヤ、農業用、土工機械用、オフロード用、トラック用タイヤなどでありうる。一態様において、タイヤは乗用車又はトラック用タイヤである。タイヤはラジアルでもバイアスでもよい。
【0094】
本発明の空気入りタイヤの加硫は、一般的に約100℃~200℃の範囲の従来温度で実施される。一態様において、加硫は約110℃~180℃の範囲の温度で実施される。成形機又は金型内での加熱、過熱蒸気又は熱風による加熱といった通常の加硫プロセスのいずれも使用できる。そのようなタイヤは、当業者に公知の、そして容易に明らかな様々な方法によって構築、付形、成型及び硬化できる。
【0095】
本発明を以下の実施例によって説明するが、下記実施例は単に例示を目的としたものであって、本発明の範囲又はそれを実施できる様式の制限と見なされてはならない。特に明記しない限り、部及びパーセンテージは重量によって示されている。
【実施例】
【0096】
以下の実施例1~5では、第二のゴムコンパウンドとして使用可能な、ゴム組成物中の様々な樹脂の組合せを例示する。一連のゴムコンパウンドを、表1、3、5、7、9及び11に示された配合処方に従って、多段階混合手順で混合した。コンパウンドの様々な物理的性質を試験し、結果を表2、4、6、8、10、及び12に示す。表から分かるように、特許請求されている樹脂の使用により、300%モジュラス、伸び、引張強さ、及び硬さに示されているように、好適な性質が示されている。
【0097】
実施例1
【0098】
【0099】
【0100】
実施例2
【0101】
【0102】
【0103】
実施例3
【0104】
【0105】
【0106】
実施例3
【0107】
【0108】
【0109】
実施例4
【0110】
【0111】
【0112】
実施例5
【0113】
【0114】
【0115】
実施例6
本実施例では、第一及び第二のトレッド層を用いて構築されたトレッドを有するタイヤT2及びT3を、単一キャップ構造のトレッドを有する対照タイヤT1と比較する。全タイヤとも、同一の第一のゴムコンパウンドを含んでいた。タイヤT2は、
図1に示されているようなトレッド設計を用いて構築された。比較タイヤT2は、米国特許第8919404号の教示に従って、補強第二層として第二のゴムコンパウンドを含んでいた。発明タイヤT3は、実施例5に示された第二のゴムコンパウンドを含んでいた。タイヤ試験の結果を表13に示す。表13から分かるように、タイヤT3は、対照タイヤT1及び比較タイヤT2と比べて優れたコーナリング剛性を示している。
【0116】
【0117】
実施例7
本実施例では、第一のゴム組成物に使用可能な第一及び第二のゴムの組合せを例示する。
【0118】
【0119】
【0120】
[発明の態様]
1.空気入りタイヤであって、カーカスと、カーカスの半径方向外側に位置し、タイヤのサイドウォール間に伸びるトレッドとを含み;トレッドは、半径方向最外部のトレッド走行面を提供し;トレッドは、第一のゴムコンパウンドを含む第一のトレッド層と、第二のゴムコンパウンドを含む第二のトレッド層とを含み;第二のトレッド層は、第一のトレッド層に半径方向に隣接して配置され;第一のゴムコンパウンドは、第二のゴムコンパウンドと組成的に異なり;第二のトレッド層は、トレッド走行面に向かって半径方向外側に伸びる、第二のトレッド層の一つ又は複数の一体成形された延長部を含み;第二のトレッド層の各一体成形延長部は、周方向に連続した溝と、溝の側面に配置された補強ゾーンとを含み;
第一のゴムコンパウンドは、100重量部の少なくとも一つのジエン系エラストマー、及び1~150phrのシリカを含み;そして
第二のゴムコンパウンドは、ジエン系エラストマー、50~120phrのフィラー(少なくとも20phrのフィラーは少なくとも100g/kgのヨウ素吸収数を有する高表面積カーボンブラックである)、1~45phrのメチレン受容体、1~25phrのメチレン供与体、及び1~30phrの少なくとも一つの添加剤(カルバミン酸樹脂、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマー、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる)を含む空気入りタイヤ。
【0121】
2.補強ゾーンが、溝の軸方向対向側に配置された第一及び第二の補強ゾーンを含む、1記載の空気入りタイヤ。
3.少なくとも一つの補強ゾーンが、溝の半径方向最内面からトレッド走行面に半径方向に伸びている、1記載のタイヤ。
【0122】
4.少なくとも一つの補強ゾーンが、溝の半径方向最内面から半径方向に及び半径方向に部分的にトレッド走行面に伸びている、1記載のタイヤ。
5.メチレン受容体が、レソルシノール、レソルシノール誘導体、一価フェノール及びそれらの誘導体、二価フェノール及びそれらの誘導体、多価フェノール及びそれらの誘導体、未変性フェノールノボラック樹脂、変性フェノールノボラック樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、レソルシノールノボラック樹脂及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、1記載の空気入りタイヤ。
【0123】
6.メチレン受容体がフェノールホルムアルデヒド樹脂である、1記載の空気入りタイヤ。
7.メチレン供与体が、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、イミノ-メトキシメチルメラミン、イミノ-イソブトキシメチルメラミン、ラウリルオキシメチルピリジニウムクロリド、エトキシメチルピリジニウムクロリドトリオキサン及びヘキサメトキシメチルメラミン、及び一般式:
【0124】
【0125】
[式中、Xは、水素又は1~8個の炭素原子を有するアルキルであり、R1、R2、R3、R4及びR5は、水素、1~8個の炭素原子を有するアルキル、基-CH2OX又はそれらの縮合生成物からなる群から個別に選ばれる]のN-置換オキシメチルメラミンからなる群から選ばれる、1記載の空気入りタイヤ。
【0126】
8.メチレン受容体の量が2~30phrの範囲である、1記載の空気入りタイヤ。
9.メチレン供与体の量が2~20phrの範囲である、1記載の空気入りタイヤ。
10.スチレンとα-メチルスチレンのコポリマー樹脂が、40~70重量パーセントのスチレン由来単位と、60~30重量パーセントのα-メチルスチレン由来単位を含む、1記載の空気入りタイヤ。
【0127】
11.スチレンとα-メチルスチレンのコポリマー樹脂が、80℃~145℃の範囲のASTM No.E-28による軟化点を有する、1記載の空気入りタイヤ。
12.スチレンとα-メチルスチレンのコポリマー樹脂の量が5~25phrの範囲である、1記載の空気入りタイヤ。
【0128】
13.第二のゴム組成物がカルバミン酸樹脂をさらに含む、1記載の空気入りタイヤ。
14.第二のゴム組成物がさらに、一官能性又は多官能性アルデヒドAと、少なくとも一つのカルバメート基-O-CO-NH2及び有機基を有する有機化合物Cとから誘導されるカルバミン酸樹脂を含み、前記有機基は、1~30個の炭素原子を有する直鎖、分枝又は環状脂肪族基、及びアラルキル基からなる群から選ばれる一価基R、又は2~30個の炭素原子を有する直鎖、分枝又は環状脂肪族二価基、及び8~30個の炭素原子を有するビスアルキルアリール基からなる群から選ばれる二価有機基-R’-でありうる、1記載の空気入りタイヤ。
【0129】
15.第二のゴム組成物がさらに、n-ブチルカルバメートとホルムアルデヒドから誘導されるカルバミン酸樹脂を含む、1記載の空気入りタイヤ。
16.カルバミン酸樹脂の量が1~15phrの範囲である、13記載の空気入りタイヤ。
【0130】
17.第二のゴム組成物が、1000~25000の範囲の数平均分子量を有する液体ジエン系ポリマーを含む、1記載の空気入りタイヤ。
18.第一のゴムコンパウンドが、50phr未満のフィラー、-25℃より高いガラス転移温度を有する第一のゴム、及び-40℃より低いガラス転移温度を有する第二のゴムを含む、1記載の空気入りタイヤ。
【0131】
19.第一のゴムが、45重量%を超える結合スチレン含量を有する3,4-ポリイソプレン又はスチレン-ブタジエンゴムであり、第二のゴムが、天然ゴム、高シス合成ポリイソプレン、及び95パーセントを超えるシス1,4含量及び-80~-110℃の範囲のTgを有する高シスポリブタジエンからなる群から選ばれる、18記載の空気入りタイヤ。
【0132】
20.第一のゴムが、45重量パーセントを超える結合スチレン、5個未満の反復単位を含有するブロック内に98パーセントを超えるスチレン由来反復単位、及び-25℃より高いTgを含む乳化重合スチレンブタンジエンゴムである、18記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0133】
10 タイヤトレッド
12 走行面
14 外側トレッド
16 内側トレッド
20 溝
22 溝最内面
24 補強ゾーン
25 リブ
26 補強ゾーン
28 リブゾーン
30 ショルダーゾーン
31 ショルダー部
32 ウィング
34 トレッドベース
210 タイヤトレッド
212 走行面
214
216 第二のトレッド層
220 溝
224 補強ゾーン
225 リブ
226 補強ゾーン
228 リブゾーン
310 タイヤトレッド
316 第二のトレッド層
330 ショルダーゾーン
334 トレッドベース
410 タイヤトレッド
412 走行面
414 第一のトレッド層
416 第二のトレッド層
416a 補強部分
416b 補強部分
424 補強ゾーン
426 補強ゾーン
428 リブゾーン
434 トレッドベース
510 タイヤトレッド
512 走行面
516a 補強部分
516b 補強部分
524 補強ゾーン
526a 補強ゾーン
526b 補強ゾーン
526c 補強ゾーン
534
610 タイヤトレッド
614 第一のトレッド層
616 第二のトレッド層
616a 補強部分
616b 補強部分
624 補強ゾーン
626 補強ゾーン
628a リブゾーン
628b リブゾーン
630a ショルダーゾーン
630b ショルダーゾーン