(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
C23C14/24 A
(21)【出願番号】P 2018057921
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591097632
【氏名又は名称】長州産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】末永 真吾
(72)【発明者】
【氏名】山下 和吉
(72)【発明者】
【氏名】濱永 教彰
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-293968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に配置された複数の噴射ノズル、及び
上記複数の噴射ノズルと平行に基板を保持する基板保持部
を備え、
上記複数の噴射ノズル及び上記基板の少なくとも一方が、上記基板の平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成された蒸着装置であって、
上記複数の噴射ノズルが、
上記移動方向に垂直な第1直線上に配置され、それぞれ上記基板に対して垂直に設けられる複数の第1噴射ノズルからなる第1ノズル群、
上記第1直線に対して平行かつ上記移動方向に沿って前方に位置する第2直線上に配置され、それぞれ上記基板の法線方向から上記第1直線側に傾斜して設けられる複数の第2噴射ノズルからなる第2ノズル群、及び
上記第1直線に対して平行かつ上記移動方向に沿って後方に位置する第3直線上に配置され、それぞれ上記基板の法線方向から上記第1直線側に傾斜して設けられる複数の第3噴射ノズルからなる第3ノズル群
のうちの少なくとも2のノズル群から構成され
、
上記基板保持部が上記基板を保持したときの上記複数の噴射ノズルと上記基板との距離(mm)をL
1
、上記第1直線と上記第2直線との距離(mm)をL
2
、上記第1直線と上記第3直線との距離(mm)をL
3
、上記複数の第2噴射ノズルの上記基板の法線に対する傾斜角をθ
2
、上記複数の第3噴射ノズルの上記基板の法線に対する傾斜角をθ
3
としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たし、
上記θ
2
及びθ
3
が、それぞれ10°以上40°以下であることを特徴とする蒸着装置。
0.9L
2
≦L
1
tan(θ
2
/2)≦1.1L
2
・・・(1)
0.9L
3
≦L
1
tan(θ
3
/2)≦1.1L
3
・・・(2)
【請求項2】
請求項
1に記載の蒸着装置を用いて共蒸着を行う工程を備える蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルや太陽電池等の金属電極配線、有機EL層、半導体層、その他の有機材料薄膜や無機材料薄膜等は、真空蒸着法等の蒸着によって形成されることがある。蒸着は、通常、坩堝内の蒸着材を加熱することにより、蒸着材を気化させ、気化した蒸着材を基板表面に向けて噴射し、この基板表面に蒸着材を堆積させることにより行われる。基板表面に堆積された蒸着材が、薄膜を形成する。また、蒸着の際には、所定形状を有するマスクにより基材表面を被覆しておくことで、パターニングされた蒸着膜を形成することができる。このような蒸着を行う蒸着装置は、通常、蒸着材を収容する坩堝等が内部に配置され、気化した蒸着材を噴射する噴射ノズルを有する蒸着源と、基板を保持する基板保持部とを備える。
【0003】
蒸着装置の一つとして、噴射ノズル(蒸着源)に対して基板を相対的に移動させながら蒸着を行うことができる蒸着装置が採用されている(特許文献1参照)。
図5に示すように、このような蒸着装置100は、複数の噴射ノズル102(蒸着源101)及び基板Xの少なくとも一方が、基板Xの噴射ノズル102に対する平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成されている。具体的に
図5においては、基板Xが、右方向に移動可能に構成されている。また、蒸着装置100においては、複数の噴射ノズル102が、蒸着源101に、基板Xの相対的移動方向に垂直な方向に直線状に配置されている。このような蒸着装置100によれば、大型の基板Xに対して連続的に蒸着を行うことができる。
【0004】
一方、蒸着法の一種として、共蒸着法が知られている。共蒸着法は、異なる種類の蒸着材を用い、複数種の蒸着材が混合された蒸着膜を形成する方法である(特許文献2参照)。例えば、ホスト材料としての半導体材料と、ドーパント材料とを適当な比率で混合した共蒸着を行うことで、p型又はn型の半導体薄膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/203632号
【文献】特開2017-82272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述のような連続蒸着可能な蒸着装置において2種の蒸着材を用いる共蒸着方法に対応させようとした場合、
図6に示す蒸着装置200のように、蒸着源201に第1の蒸着材を噴射する第1噴射ノズル202と第2の蒸着材を噴射する第2噴射ノズル203とを一の直線上に交互に配置した構成とすることが考えられる。しかし、このような蒸着装置200においては、2種の噴射ノズル202、203の配置などの蒸着源201の構造が複雑になる。
【0007】
そこで、
図7に示す蒸着装置300のように、第1の蒸着材を噴射する複数の第1噴射ノズル302と、第2の蒸着材を噴射する複数の第2噴射ノズル303とを平行に配置することが考えられる。しかしこの場合、
図8に示すように、基板X表面に形成される第1噴射ノズル302による第1の蒸着材の分布曲線Z
1のピークと、第2噴射ノズル303による第2の蒸着材の分布曲線Z
2のピークとにずれが生じる。従って、位置(膜の表面からの距離)によって濃度(成分比)が大きく異なる共蒸着膜が形成されることになり好ましくない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、蒸着材の濃度の均一性の高い共蒸着膜を得ることができる蒸着装置、及びこのような蒸着装置を用いた蒸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、平面上に配置された複数の噴射ノズル、及び上記複数の噴射ノズルと平行に基板を保持する基板保持部を備え、上記複数の噴射ノズル及び上記基板の少なくとも一方が、上記基板の平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成された蒸着装置であって、上記複数の噴射ノズルが、上記移動方向に垂直な第1直線上に配置され、それぞれ上記基板に対して垂直に設けられる複数の第1噴射ノズルからなる第1ノズル群、上記第1直線に対して平行かつ上記移動方向に沿って前方に位置する第2直線上に配置され、それぞれ上記基板の法線方向から上記第1直線側に傾斜して設けられる複数の第2噴射ノズルからなる第2ノズル群、及び上記第1直線に対して平行かつ上記移動方向に沿って後方に位置する第3直線上に配置され、それぞれ上記基板の法線方向から上記第1直線側に傾斜して設けられる複数の第3噴射ノズルからなる第3ノズル群のうちの少なくとも2のノズル群から構成されることを特徴とする蒸着装置である。
【0010】
上記基板保持部が上記基板を保持したときの上記複数の噴射ノズルと上記基板との距離(mm)をL1、上記第1直線と上記第2直線との距離(mm)をL2、上記第1直線と上記第3直線との距離(mm)をL3、上記複数の第2噴射ノズルの上記基板の法線に対する傾斜角をθ2、上記複数の第3噴射ノズルの上記基板の法線に対する傾斜角をθ3としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。
0.8L2≦L1tan(θ2/2)≦1.2L2 ・・・(1)
0.8L3≦L1tan(θ3/2)≦1.2L3 ・・・(2)
【0011】
上記θ2及びθ3が、それぞれ45°以下であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、当該蒸着装置を用いて共蒸着を行う工程を備える蒸着方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸着材の濃度の均一性の高い共蒸着膜を得ることができる蒸着装置、及びこのような蒸着装置を用いた蒸着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置の説明図である。
【
図3】
図3は、参考例の傾斜角が10°、20°、30°、40°又は50°の噴射ノズルを用いたときの蒸着材の分布曲線である。
【
図4】
図4は、実施例1の蒸着装置を用いたときの第1の蒸着材及び第2の蒸着材の各分布曲線である。
【
図5】
図5は、従来の蒸着装置の一例を示す模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、従来の蒸着装置を変形した蒸着装置を示す模式的斜視図である。
【
図7】
図7は、従来の蒸着装置を変形した、
図6とは異なる蒸着装置を示す模式的斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7の蒸着装置を用いた場合の蒸着材の分布曲線等を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係る蒸着装置及び蒸着方法について詳説する。
【0016】
<蒸着装置>
図1の蒸着装置10は、複数の蒸着源11及び基板保持部12を備える。なお、蒸着装置10は、適切な真空度が維持される真空チャンバ(図示しない)内に配置される。真空チャンバには、真空チャンバ内の気体を排出させて、真空チャンバ内の圧力を低下させる真空ポンプ、真空チャンバ内に一定の気体を注入して、真空チャンバ内の圧力を上昇させるベンティング手段などが備えられていてよい。
【0017】
複数の蒸着源11は、それぞれ、上側先端に設けられた開口(噴射口)から、気化した蒸着材を噴射する複数の噴射ノズル13(第1噴射ノズル13a、第2噴射ノズル13b、第3噴射ノズル13c)を有する。複数の噴射ノズル13は、一の平面上に配置されている。各蒸着源11は、固体状の蒸着材を収容し、加熱により蒸着材を気化させ、気化した蒸着材を複数の噴射ノズル13から噴射するように構成されている。
【0018】
各蒸着源11は、具体的には、例えば蒸着材収容室と拡散室とが連設された構成とすることができる。拡散室の上面に、複数の噴射ノズル13が配置される。蒸着材収容室内には、坩堝が配置され、この坩堝内に固体状の蒸着材が収納される。気化した坩堝内の蒸着材は、蒸着材収容室から拡散室に移動する。坩堝には、気化効率を考慮し、蒸着材と共に、熱的及び化学的に安定しており、かつ蒸着材よりも熱伝導率の高い粒状の伝熱媒体が収納されていてもよい。あるいは、粒状の伝熱媒体と、この伝熱媒体を被覆する蒸着材とで構成される複合材を坩堝に収納してもよい。また、坩堝の周囲には、加熱手段としてのヒータ等が配置される。加熱手段により坩堝中の蒸着材が加熱され、蒸着材が気化する。
【0019】
なお、後に詳述するように、複数の噴射ノズル13は、複数の第1噴射ノズル13aからなる第1ノズル群13Aと、複数の第2噴射ノズル13bからなる第2ノズル群13Bと、複数の第3噴射ノズル13cからなる第3ノズル群13Cとから構成されている。1の蒸着源11に複数の第1噴射ノズル13aが、他の1の蒸着源11に複数の第2噴射ノズル13bが、残りの1の蒸着源11に複数の第3噴射ノズル13cがそれぞれ設けられている。複数の第1噴射ノズル13aは第1の蒸着材を噴射し、複数の第2噴射ノズル13b及び複数の第3噴射ノズル13cは第2の蒸着材を噴射するようにそれぞれ構成されている。また、蒸着源11においては、加熱手段や、図示しない蒸着材の流路に設けられたバルブ等により、蒸着材の放出量を制御可能に構成されている。
【0020】
基板保持部12は、複数の噴射ノズル13と平行な向きに基板Xを保持する。換言すれば、基板保持部12は、複数の噴射ノズル13と対向するように基板Xを保持する。基板保持部12は、基板Xを着脱可能に保持する。基板保持部12は、従来公知の蒸着装置に備わる基板保持部と同様のものとすることができる。なお、基板Xにおいて、複数の噴射ノズル13と対向する側の面(
図1における下面)には、所定形状のパターンを有する蒸着用のマスク(図示しない)が設けられていてよい。
【0021】
基板Xと複数の噴射ノズル13とが平行とは、例えば、基板Xと、複数の噴射ノズル13における各開口の中心を通る平面とが、平行な状態である。あるいは、基板Xと、複数の噴射ノズル13が配置された面とが平行な状態であってよい。
【0022】
蒸着装置10においては、複数の噴射ノズル13(又は蒸着源11全体)及び基板Xの少なくとも一方が、基板Xの複数の噴射ノズル13との平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成されている。すなわち、複数の噴射ノズル13と基板Xとは、互いに相対的に移動しながら蒸着を行うことができる。
図1においては、複数の噴射ノズル13(すなわち、蒸着源11全体)は固定され、基板Xが左側から右側へ移動するよう構成されている。このとき、基板保持部12は、基板Xとともに移動するよう構成されていてもよいし、基板保持部12の位置は固定され、基板Xのみが移動するよう構成されていてもよい。一方、他の形態として、基板Xは固定され、複数の噴射ノズル13(又は蒸着源11全体)が移動するように構成されていてもよい。
【0023】
複数の噴射ノズル13は、平面上(平面状)に配置されている。すなわち、複数の噴射ノズル13の各開口の中心は、一の平面上に配置されている。なお、この平面とは、複数の噴射ノズル13の配置状態を示すための仮想の面であり、例えば実際に一つの蒸着源上の一つの面に対して全ての噴射ノズル13が配置されていることを意味するものではない。複数の噴射ノズル13は、第1ノズル群13A、第2ノズル群13B及び第3ノズル群13Cから構成されている。
【0024】
第1ノズル群13Aは、複数の第1噴射ノズル13aからなる。各第1噴射ノズル13aは、複数の噴射ノズル13及び基板Xの少なくとも一方の移動方向(
図1における左右方向、基板Xの相対的移動方向)に垂直な第1直線A上に配置されている。各第1噴射ノズル13aが第1直線A上に配置されているとは、各第1噴射ノズル13aにおいて蒸着材を噴射する開口の中心が、第1直線A上に位置することを意味する。換言すれば、各開口の中心が第1直線A上に位置するよう、各第1噴射ノズル13aは配置されている。また、各第1噴射ノズル13aは、基板Xに対して垂直に設けられている。具体的には、筒状構造の各第1噴射ノズル13aは、その中心軸が基板Xに対して垂直となる姿勢で設けられている。各第1噴射ノズル13aの開口面は、各第1ノズル13aの中心軸に垂直である。なお、
図1においては、第1直線A上に配置された4つの第1噴射ノズル13aを図示している。複数の第1噴射ノズル13aは、それぞれ第1の蒸着材を噴射する。
【0025】
第2ノズル群13Bは、複数の第2噴射ノズル13bからなる。各第2噴射ノズル13bは、第2直線B上に配置されている。各第2噴射ノズル13bが第2直線B上に配置されているとは、各第2噴射ノズル13bにおいて蒸着材を噴射する開口の中心が、第2直線B上に位置することを意味する。換言すれば、各開口の中心が第2直線B上に位置するよう、各第2噴射ノズル13bは配置されている。第2直線Bは、第1直線Aに対して平行、かつ基板Xの相対的移動方向に沿って前方(
図1における左方向)に位置する直線である。また、各第2噴射ノズル13bは、基板Xの法線方向から第1直線A(第1噴射ノズル13a)側に傾斜して設けられている。具体的には、筒状構造の各第2噴射ノズル13bは、その少なくとも先端部分の中心軸が、基板Xに対して第1直線A側に傾斜する姿勢で設けられている。各第2噴射ノズル13bの中心軸は、平面視(
図1の状態において上から見た状態)において、第2直線Bに垂直である。各第2噴射ノズル13bの開口面は、各第2ノズル13bの中心軸に垂直である。なお、
図1においては、第2直線B上に配置された4つの第2噴射ノズル13bを図示している。複数の第2噴射ノズル13bは、それぞれ第2の蒸着材を噴射する。
【0026】
第3ノズル群13Cは、複数の第3噴射ノズル13cからなる。各第3噴射ノズル13cは、第3直線C上に配置されている。各第3噴射ノズル13cが第3直線C上に配置されているとは、各第3噴射ノズル13cにおいて蒸着材を噴射する開口の中心が、第3直線C上に位置することを意味する。換言すれば、各開口の中心が第3直線C上に位置するよう、各第3噴射ノズル13cは配置されている。第3直線Cは、第1直線Aに対して平行、かつ基板Xの相対的移動方向に沿って後方(
図1における右方向)に位置する直線である。また、各第3噴射ノズル13cは、基板Xの法線方向から第1直線A(第1噴射ノズル13a)側に傾斜して設けられている。具体的には、筒状構造の各第3噴射ノズル13cは、その少なくとも先端部分の中心軸が、基板Xに対して第1直線A側に傾斜する姿勢で設けられている。各第3噴射ノズル13cの中心軸は、平面視(
図1の状態において上から見た状態)において、第3直線Cに垂直である。各第3噴射ノズル13cの開口面は、各第3ノズル13cの中心軸に垂直である。なお、
図1においては、第3直線C上に配置された4つの第3噴射ノズル13cを図示している。複数の第3噴射ノズル13cは、それぞれ第2の蒸着材を噴射する。
【0027】
図1の蒸着装置10においては、第2直線B上に配置された4つの第2噴射ノズル13b、第1直線A上に配置された4つの第1噴射ノズル13a、及び第3直線C上に配置された4つの第3噴射ノズル13cが、この順に互いに平行に配置されている。また、4つの第1噴射ノズル13a、4つの第2噴射ノズル13b、及び4つの第3噴射ノズル13cの各噴射ノズルは、それぞれ等間隔に配置されている。基板Xの相対的移動方向視において、4つの第1噴射ノズル13a、4つの第2噴射ノズル13b、及び4つの第3噴射ノズル13bは、重なり合うように配置されている。
【0028】
当該蒸着装置10においては、中央に設けられた複数の第1噴射ノズル13aが、第1の蒸着材を噴射し、複数の第1噴射ノズル13aの前後に設けられた複数の第2噴射ノズル13b及び第3噴射ノズル13cが、第2の蒸着材を噴射するよう構成されている。また、複数の第1噴射ノズル13aは、垂直に設けられているのに対し、複数の第2噴射ノズル13b、及び複数の第3噴射ノズル13cは、それぞれ第1の噴射ノズル13a側に傾斜して設けられている。このため、複数の第2噴射ノズル13bから噴射される第2の蒸着材の分布曲線のピークは、複数の第1噴射ノズル13aから噴射される第1の蒸着材の分布曲線のピークに近づく。同様に、複数の第3噴射ノズル13cから噴射される第2の蒸着材の分布曲線のピークは、複数の第1噴射ノズル13aから噴射される第1の蒸着材の分布曲線のピークに近づく。特に、当該蒸着装置10においては、複数の第2噴射ノズル13b、及び複数の第3噴射ノズル13cの双方から第2の蒸着材を噴射しているため、第1の蒸着材の分布曲線と、第2の蒸着材の分布曲線とが、より近似した形となる。すなわち、基板Xの位置によらず、第1の蒸着材と第2の蒸着材とが、同様の比率で混合されることになる。従って、当該蒸着装置10によれば、2種の蒸着材の濃度(成分比)の均一性が高い共蒸着膜を得ることができる。すなわち、当該蒸着装置10から形成される共蒸着膜は、濃度のムラが小さい。
【0029】
以下、複数の第2噴射ノズル13b、及び複数の第3噴射ノズル13cの好ましい傾斜角等について、
図2等を参照にしつつ説明する。なお、
図2は、当該蒸着装置10を第1直線A方向視した状態を示した図である。基板保持部12が基板Xを保持したときの複数の噴射ノズル13(第1噴射ノズル13a、第2噴射ノズル13b、及び第3噴射ノズル13c)と基板Xとの距離(mm)をL
1、第1直線Aと第2直線Bとの距離(mm)をL
2、第1直線Aと第3直線Cとの距離(mm)をL
3(図示せず)、複数の第2噴射ノズル13bの基板Xの法線に対する傾斜角をθ
2、複数の第3噴射ノズル13cの基板Xの法線に対する傾斜角をθ
3(図示せず)としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。なお、第2噴射ノズル13bの基板Xの法線に対する傾斜角θ
2は、
図2において、第2噴射ノズル13bの中心軸Qと、基板Xの法線Pとのなす角である。
0.8L
2≦L
1tan(θ
2/2)≦1.2L
2 ・・・(1)
0.8L
3≦L
1tan(θ
3/2)≦1.2L
3 ・・・(2)
【0030】
後述する実施例にて示されるように、基板の法線方向に対する噴射ノズルの傾斜角をθとした場合、この噴射ノズルから基板に対して噴射される蒸着材のピーク位置は、噴射ノズルの直上の位置から、約L
1tan(θ/2)ずれた位置となる(L
1は、噴射ノズルと基板との距離)。従って、
図2に示されるように、実質的にL
2=L
1tan(θ
2/2)の関係が成り立つとき、第2噴射ノズル13bから噴射される蒸着材の分布曲線のピーク位置は、第1噴射ノズル13aから噴射される蒸着材の分布曲線のピーク位置と一致することとなる。なお、
図2においては、第1噴射ノズル13aと第2噴射ノズル13bとの関係を示しているが、第1噴射ノズル13aと第3噴射ノズル13cとの関係においても同様である。従って、上記式(1)及び式(2)が満たされる場合、第1の蒸着材の分布曲線と第2の蒸着材の分布曲線とは、より近似することとなり、2種の蒸着材の濃度(成分比)の均一性が高い共蒸着膜を得ることができる。すなわち、当該蒸着装置10から形成される共蒸着膜の濃度のムラをより低減することができる。
【0031】
上記効果を高めるためには、L1tan(θ2/2)の下限は、0.9L2が好ましく、0.95L2がより好ましい。一方、L1tan(θ2/2)の上限は、1.1L2が好ましく、1.05L2がより好ましい。同様に、L1tan(θ3/2)の下限は、0.9L3が好ましく、0.95L3がより好ましい。一方、L1tan(θ3/2)の上限は、1.1L3が好ましく、1.05L3がより好ましい。
【0032】
第2噴射ノズル13bの傾斜角θ2、及び第3噴射ノズル13cの傾斜角θ3は、0°超であれば特に限定されないが、下限としては5°が好ましく、10°がより好ましく、15°がさらに好ましく、20°がよりさらに好ましく、25°がよりさらに好ましい。一方、傾斜角θ2及び傾斜角θ3の上限としては、例えば60°又は50°であってもよいが、45°が好ましく、35°がより好ましいこともある。傾斜角θ2及び傾斜角θ3を上記範囲とすることで、第2噴射ノズル13b及び第3噴射ノズル13cから噴射される蒸着材の分布曲線がより好ましい形状となり、蒸着材の濃度均一性を高めることができる。
【0033】
なお、複数の噴射ノズル13と基板Xとの距離L1としては、例えば300mm以上1000mm以下とすることができる。また、第1直線Aと第2直線Bとの距離L2、及び第1直線Aと第3直線Cとの距離L3の下限としては、60mmが好ましく、80mmがより好ましい。また、上記距離L2及び距離L3の上限としては、180mmが好ましく、160mmがより好ましい。
【0034】
第2噴射ノズル13bの傾斜角θ2と第3噴射ノズル13cの傾斜角θ3とは、等しくても異なっていてもよいが、等しいことが好ましい。また、第1直線Aと第2直線Bとの距離L2と、第1直線Aと第3直線Cとの距離L3とは、等しくても異なっていてもよいが、等しいことが好ましい。特に、傾斜角θ2と傾斜角θ3とが等しく、かつ距離L2と距離L3とが等しいことが好ましい。このような場合、第2噴射ノズル13bと第3噴射ノズル13cとが、第1噴射ノズル13aを基準として対称に配置されていることとなり、第2噴射ノズル13b及び第3噴射ノズル13cから噴射される蒸着材の分布曲線がより好ましい形状となるため、蒸着材の濃度均一性を高めることができる。
【0035】
<蒸着方法>
本発明の一実施形態に係る蒸着方法は、当該蒸着装置10を用いて共蒸着を行う工程を備える。
【0036】
当該蒸着方法は、当該蒸着装置10を用いること以外は従来公知の蒸着方法と同様に行うことができる。すなわち、基板Xを相対的に移動させながら、複数の第1噴射ノズル13aから第1の蒸着材を噴射させ、複数の第2噴射ノズル13b及び複数の第3噴射ノズル13cから第2の蒸着材を噴射させることにより、基板Xの表面(
図1、2における下面)に、第1の蒸着材及び第2の蒸着材とを共蒸着させる。当該蒸着方法によれば、2種の蒸着材の濃度(成分比)の均一性が高い共蒸着膜を得ることができる。すなわち、当該蒸着方法により形成される共蒸着膜は、濃度のムラが小さい。
【0037】
なお、例えば、当該蒸着装置10において、上記距離L1、L2、L3及び傾斜角θ2、θ3のうちの一部又は全部が調整可能に構成されていてもよい。この場合、例えば、各蒸着材のピーク位置が一致するように、あるいは、上記式(1)、(2)の関係が満たされるように上記距離L1、L2、L3及び傾斜角θ2、θ3を調整した後、共蒸着を行うことができる。
【0038】
なお、第1の蒸着材の蒸着量(噴射量)と第2の蒸着材の蒸着量(噴射量)との比は、目的の共蒸着膜の組成に応じて適宜調整することができる。例えば、第1の蒸着材をドーパント成分とし、第2の蒸着材をホスト成分とした場合、第2の蒸着材に対して、少量の第1の蒸着材を共蒸着させることができる。例えば、第1の蒸着材と第2の蒸着材との噴射量(蒸着量)の比を1:9とした場合、蒸着膜のどの領域においても1:9に近い濃度比で第1の蒸着材と第2の蒸着材とが存在する共蒸着膜を得ることができる。なお、当該蒸着装置10の使用に際し、各第1噴射ノズル13aからの第1の蒸着材の噴射量は等しくなるように、かつ、各第2噴射ノズル13b及び各第3噴射ノズル13cからの第2の蒸着量の噴射量は等しくなるように蒸着を行うことが好ましい。
【0039】
<他の実施形態>
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲でその構成を変更することもできる。例えば、上記実施形態における
図1の蒸着装置10においては、複数の噴射ノズル13は、第1ノズル群13A、第2ノズル群13B、及び第3ノズル群13Cの3つの群から構成されているが、第1ノズル群13A、第2ノズル群13B、及び第3ノズル群13Cのうちの2つの群から構成してもよい。すなわち、本発明の蒸着装置は、第1ノズル群及び第2ノズル群から構成されていてもよく、第2ノズル群及び第3ノズル群から構成されていてもよく、第1ノズル群及び第3ノズル群から構成されていてもよい。このような場合、一方の群の各噴射ノズルから第1の蒸着材を噴射し、他方の群の各噴射ノズルから第2の蒸着材を噴射する構成とすることで、共蒸着膜を形成することができる。但し、
図1の蒸着装置10のように、複数の噴射ノズルを3つのノズル群から構成し、第1噴射ノズルから第1の蒸着材を噴射し、第2及び第3噴射ノズルから第2の蒸着材を噴射する構成とすることで、蒸着材の濃度の均一性がより高い共蒸着膜を得ることができる。
【0040】
また、
図1の蒸着装置10においては、第1噴射ノズルから第1の蒸着材を噴射し、第2噴射ノズルから第2の蒸着材を噴射し、第3噴射ノズルから第3の蒸着材を噴射するように構成されていてもよい。さらに、複数の第1~第3噴射ノズル以外の噴射ノズルをさらに有していてもよい。
【0041】
また、複数の噴射ノズル13の数も特に限定されるものではない。但し、良好な分布を形成する観点から、第1噴射ノズル、第2噴射ノズル及び第3噴射ノズルの数は、それぞれ同じであることが好ましい。例えば、第1噴射ノズル、第2噴射ノズル、及び第3噴射ノズルの数は、それぞれ例えば3以上20以下とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
<参考例>
傾斜角θを10°、20°、30°、40°又は50°とした噴射ノズルを用い、基板までの距離L
1500mmにおける蒸着材の分布曲線を求めた。得られた分布曲線を
図3に示す。また、各噴射ノズルの分布曲線におけるピーク位置L
2’、L
1tan(θ/2)、及びこれらの比を表1に示す。なお、ピーク位置L
2’は、噴射ノズルの直上の位置からの距離(mm)である。
【0044】
【0045】
表1に示されるように、傾斜した噴射ノズルを用いた蒸着材の分布曲線のピーク位置L2’は、ほぼL1tan(θ/2)の値に一致することがわかる。すなわち、第1噴射ノズルと第2噴射ノズル又は第3噴射ノズルとの距離をほぼL1tan(θ/2)とすることにより、第1噴射ノズルによる蒸着材の分布曲線のピーク位置と第2噴射ノズル又は第3噴射ノズルによる蒸着材の分布曲線のピーク位置とがほぼ一致することになることがわかる。
【0046】
<実施例1>
図1に記載した構造に対し、複数の噴射ノズル13が第1ノズル群13A及び第2ノズル群13Bから構成される(第3ノズル群13Cを有さない)点が異なる構造の蒸着装置を用い、基板に対して真空蒸着を行った。L
1=500mm、L
2=134mm、θ
2=30°とし、L
1tanθ
2/2=L
2とした。第1ノズル群の各第1噴射ノズルから第1の蒸着材を噴射させ、第2ノズル群の各第2噴射ノズルから第2の蒸着材を噴射させた。また、第1の蒸着材と第2の蒸着材とは、蒸着量が等しくなるように調整した。
【0047】
上記実施例1の蒸着装置によって得られた蒸着膜における第1の蒸着材及び第2の蒸着材の各分布曲線を
図4に示す。また、成膜エリアを-200mm~200mmの範囲と想定し、保持された基板における第1ノズル群の直上の位置(対向位置)からの前後方向の位置-200mm、-150mm、-100mm、-50mm、0mm、50mm、100mm、150mm及び200mmのそれぞれの箇所における第1の蒸着材及び第2の蒸着材の蒸着速度を測定した。結果を表2に示す。あわせて、上記各箇所における第2の蒸着材の濃度(第1の蒸着材の蒸着量及び第2の蒸着材の蒸着量の合計に対する第2の蒸着材の蒸着量の割合)を求めた。この濃度もあわせて表2に示す。
【0048】
【0049】
表2に示されるように、実施例1の蒸着装置においては、-200mmから200mmの間の成膜領域において、第2の蒸着材の濃度の差が2.3%以下であり、濃度の均一性の高い蒸着膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の蒸着装置及び蒸着方法は、ディスプレイパネルや太陽電池等の金属電極配線、半導体層、有機EL層、その他の有機材料薄膜や無機材料薄膜等の成膜に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 蒸着装置
11 蒸着源
12 基板保持部
13 噴射ノズル
13A 第1ノズル群
13B 第2ノズル群
13C 第3ノズル群
13a 第1噴射ノズル
13b 第2噴射ノズル
13c 第3噴射ノズル
X 基板
A 第1直線
B 第2直線
C 第3直線
L1 複数の噴射ノズルと基板との距離
L2 複数の第1噴射ノズルと複数の第2噴射ノズルとの距離
P 基板の法線
Q 第2噴射ノズルの中心軸
θ2 第2噴射ノズルの傾斜角
100、200、300 蒸着装置
101、201 蒸着源
102、202、203、302、303 噴射ノズル
Z1、Z2 分布曲線