(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】二軸延伸シートおよびその成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220217BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20220217BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
B29C55/12
C08L25/08
(21)【出願番号】P 2018103133
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕卓
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169391(JP,A)
【文献】特開2008-248156(JP,A)
【文献】特開2016-30818(JP,A)
【文献】特開2016-98255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/12
C08L 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン単量体単位とメタクリル酸単量体単位を84/16~94/6の質量比で含有し、重量平均分子量が12万~25万であるスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、
重量平均分子量が35万~55万である多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)および
ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(C)
を含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、
前記スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)と前記多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の質量比(A)/(B)が70/30~95/5であり、
前記二軸延伸シート中のゴム成分の含有量が0.05~0.3質量%であり、
前記二軸延伸シート中のゴム成分が形成するゴム粒子の平均粒子径が1.2~12μmである二軸延伸シート。
【請求項2】
MD方向とTD方向の配向緩和応力がいずれも0.8~2.0MPaの範囲であり、かつMD方向とTD方向の引張弾性率がいずれも2800~3400MPaである請求項1に記載の二軸延伸シート。
【請求項3】
MD向とTD方向の延伸倍率がいずれも2.0~4.5倍である請求項1または請求項2に記載の二軸延伸シート。
【請求項4】
厚みが0.01mm~0.7mmである請求項1~3のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
【請求項5】
ゲル含有量が1.0質量%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
【請求項6】
スチレン単量体の含有量が1000ppm以下であり、かつスチレンオリゴマーの総含有量が10000ppm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。
【請求項8】
食品包装容器である請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装容器の用途に好適に用いることができるスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シート、およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンの延伸シート、特に二軸延伸シートは、透明性、剛性に優れることから、二次成形されて、主に食品用軽量容器等の成形品に大量に使用されている。また、沸騰水に直接接触する用途や、電子レンジで加熱する用途への使用を目的として、原料であるポリスチレンに耐熱性を付与する試みがなされている。例えば、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体などのスチレン系共重合体は、透明性、剛性を損なわずに耐熱性を向上させている。
【0003】
これらの食品容器に使用されるシートは、環境性やリサイクル性、容器の低コスト化を考慮して、ほとんどがリサイクルされて使用されている。また、特に食品容器や蓋はシート状物を容器状に成形した後は、打ち抜いて容器単独として使用する。そのため、不要な部分は打ち抜き屑(スケルトン)となり、容器の形状によっては30%以上の打ち抜き屑が発生する場合もある。
【0004】
このため、ほとんどの成形加工場では、この打ち抜き屑は単独で、または耐衝撃性スチレン系樹脂(ハイインパクトポリスチレン、HIPS)シートの打ち抜き屑と混合してリサイクルして使用され、原料の無駄を低減し、製造コストの低減化が図られている。
【0005】
しかしながら、上記で挙げたスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のコポリマーからなるスチレン系耐熱性樹脂シートは、スチレン単量体単位からなるスチレン系樹脂(以後、汎用ポリスチレンと記載することもある。)との相溶性が悪く、実質的に両者を混合して再利用することができない。そのため、これらのスチレン系耐熱性樹脂シートの屑は、廃棄されるか、若しくは同じ材料に戻すことしか出来ず、製造コストが増大し、廃棄物量も多くなるため、汎用ポリスチレンと比較して二酸化炭素の排出量が増加するという問題があった。
【0006】
一方、近年は環境に対する配慮が進み、環境負荷低減のために、従来品よりも薄肉化することによって、製造や運搬に必要なエネルギー量を低減させて、二酸化炭素の排出量を減少できるシートが望まれている。
【0007】
従来品よりも薄肉化することを達成するためには、シートを高強度化する必要がある。そのため、シートの加工条件やゴム成分に様々な工夫を加えてシートを高強度化する試みがいくつかなされている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-51680号公報
【文献】特開2007-237732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シートを高強度化することによって容器の成形性が低下し、特に絞り比の大きい容器の成形時には賦型性が悪くなるなどの問題が生じていた。
【0010】
本発明の課題は、薄肉化しても製膜性、透明性、シート強度および成形性が良好であるため、二酸化炭素の排出量を低減でき、かつ耐熱性にも優れたスチレン系樹脂組成物からなる延伸シートおよびその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、スチレン系樹脂組成物と、それを用いた延伸シートやフィルムについて鋭意検討を重ねた結果、スチレン-メタクリル酸共重合樹脂、多分岐型スチレン系共重合樹脂および耐衝撃性スチレン系樹脂を含有した樹脂組成物を用いることよって、その目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下のような構成を有している。
(1)スチレン単量体単位とメタクリル酸単量体単位を84/16~94/6の質量比で含有し、重量平均分子量が12万~25万であるスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、重量平均分子量が35万~55万である多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)およびゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、前記スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)と前記多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の質量比(A)/(B)が70/30~95/5であり、前記二軸延伸シート中のゴム成分の含有量が0.05~0.3質量%であり、前記二軸延伸シート中のゴム成分が形成するゴム粒子の平均粒子径が1.2~12μmである二軸延伸シート。
(2)MD方向とTD方向の配向緩和応力がいずれも0.8~2.0MPaの範囲であり、かつMD方向とTD方向の引張弾性率がいずれも2800~3400MPaである前記(1)に記載の二軸延伸シート。
(3)MD向とTD方向の延伸倍率がいずれも2.0~4.5倍である前記(1)または前記(2)に記載の二軸延伸シート。
(4)厚みが0.01mm~0.7mmである前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
(5)ゲル含有量が1.0質量%以下である前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
(6)スチレン単量体の含有量が1000ppm以下であり、かつスチレンオリゴマーの総含有量が10000ppm以下である前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。
(7)前記(1)~(6)のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。
(8)食品包装容器である前記(7)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二軸延伸シートおよびその成形品は、薄肉化しても、製膜性、透明性、シート強度および成形性が良好であるため、二酸化炭素の排出量を低減でき、かつ耐熱性にも優れている。そのため、電子レンジで加熱する用途の食品包装容器等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について以下に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態の二軸延伸シートは、スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)と、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)と、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(C)とを含むスチレン系樹脂組成物からなる。また、二軸延伸シートは、前記スチレン系樹脂組成物を押出成形し、得られた未延伸のシートを二軸延伸することによって得ることができる。
【0016】
本実施形態の二軸延伸シートにおいて、MD方向(Machine Direction方向)とは、シート製膜時の流れ方向であり、縦方向ともいう。また、TD方向(Transverse Direction方向)とは、シート製膜時の流れ方向と直角の方法であり、横方向ともいう。
【0017】
以下、スチレン系樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
(スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A))
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)において、スチレンとメタクリル酸の共重合比率は、所望とする耐熱性と機械的強度等によって種々設定可能である。耐熱性、機械的強度、シートにしたときの透明性のバランスに優れた樹脂が容易に得られる点から、スチレン単量体単位とメタクリル酸単量体単位の合計量を100質量%としたときに、スチレン単量体単位とメタクリル酸単量体単位を84/16~94/6の質量比で含有することが必要である。メタクリル酸単量体単位の含有量が6質量%未満であると、耐熱性が不足し、また電子レンジ加熱時に穴あき、変形が起こりやすくなる。メタクリル酸単量体単位の含有量は、好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上である。一方、メタクリル酸単量体単位の含有量が16質量%を超えると、流動性の低下による製膜性の低下、二次成形時の賦型性の低下などの加工性の低下に加え、ゲル発生によるシート外観の低下が起こりやすくなる。メタクリル酸単量体単位の含有量は、好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。また、スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)は、必要に応じて、発明の効果を損なわない限りにおいて、スチレンとメタクリル酸以外の他の単量体を適宜、共重合させてもよい。他の単量体の含有率は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5%質量以下、さらに好ましくは3質量%以下である。他の単量体の含有率が10質量%を超えると、スチレンまたはメタクリル酸の比率が低下し、十分な透明性、機械的強度及び耐熱性が得られない場合がある。
【0018】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、12万~25万であり、好ましくは14万~22万、より好ましくは15万~20万である。重量平均分子量が12万未満であると、流動性が過剰であるため、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、シート外観の低下が発生しやすくなる。また、重量平均分子量が25万を超えると、流動性が不足するため、製膜時の厚みムラ、ダイラインなどの製膜性の低下、シート外観の低下が発生する。
【0019】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnは、2.0~3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2~2.8である。Mw/Mnが3.0を超えると、容器成形時の熱板接触による表面荒れが発生し易くなる。一方、Mw/Mnが2.0未満であると、流動性低下による製膜時の厚みムラや容器成形時の賦型不良が発生し易くなる。また、Z平均分子量(Mz)とMwとの比Mz/Mwは、1.5~2.0であることが好ましく、より好ましくは1.6~1.9である。Mz/Mwが1.5未満であると、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、延伸配向の不足が発生し易くなる。一方、Mz/Mwが2.0を超えると、流動性低下による製膜時の厚みムラやダイラインなどのシート外観低下が発生し易くなる。
【0020】
なお、上述の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、以下に記載のGPC測定方法において、単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED-B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
【0021】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)の重合方法としては、ポリスチレン等で工業化されている塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知の重合方法が挙げられる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンおよびキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類が使用できる。
【0022】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)の重合時に、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤を使用することができる。重合開始剤としては、有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾネート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)、エチル-3,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等が挙げられる。連鎖移動剤の具体例としては、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマーおよびテルピノーレン等が挙げられる。
【0023】
(多分岐型スチレン系共重合樹脂(B))
多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)とは、スチレンを含むビニル系モノマーと、溶剤可溶性多官能ビニル化合物共重合体(以下、「多官能ビニル共重合体」と記載する。)とを共重合させた樹脂である。多官能ビニル共重合体とは、多官能ビニルモノマーと単官能ビニルモノマーとの共重合体である。多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)をスチレン系樹脂組成物に含有させることによって、スチレン系樹脂組成物に、二軸延伸シート製膜時または容器成形時に分子の絡み合い作用を向上させることができ、歪硬化性を発現させることができる。その結果、シートの強度を向上させ、成形時の厚み偏肉を低減させて容器としての強度を向上させることができる。
【0024】
多官能ビニル共重合体を構成する多官能ビニルモノマーとしては、ジビニルベンゼンに代表されるジビニル芳香族化合物類やエチレングリコールジ(メタ)アクリレートに代表される脂肪族、脂環式(メタ)アクリレート類等が用いられる。これらの多官能ビニルモノマーの中でも、ジビニルベンゼンが好ましい。一方、多官能ビニル共重合体を構成する単官能ビニルモノマーとしては、スチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、2-フェノキシエチルメタクリレート等のアクリル系モノマーが用いられる。多官能ビニルモノマーと単官能ビニルモノマーとの共重合モル比は、10/90~90/10が好ましく、30/70~90/10がより好ましい。
【0025】
多官能ビニル共重合体は、多官能ビニルモノマーに由来する重合性官能基を有しているため、スチレンを含むビニル系モノマーと共重合させることが可能である。
また、多官能ビニル共重合体は、溶剤可溶性である。ここで、溶剤とは、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)を重合する際に使用される溶剤であり、具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等である。多官能ビニル共重合体の重量平均分子量は、5000~7万であることが好ましい。多官能ビニル共重合体の重量平均分子量が前記数値範囲内にあると、上記溶剤に可溶となる。
【0026】
スチレンを含むビニル系モノマーは、スチレンが100%であってもよく、スチレンと他のビニル系モノマーを含む混合物であってもよい。他のビニル系モノマーとしては、スチレンと共重合可能なオレフィン性二重結合を有するものであればよく、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー類、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマーや無水マレイン酸、フマル酸等のα,β-エチレン不飽和カルボン酸類、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のイミド系モノマー類が挙げられる。これらの他のビニル系モノマーは1種もしくは2種以上を併用して使用することもできる。スチレンと他のビニル系モノマーの混合割合は、スチレン50~100モル%、他のビニル系モノマー0~50モル%であることが好ましい。
【0027】
多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の製造用原料としては、スチレンを含むビニル系モノマー、多官能ビニル共重合体、および必要に応じて溶剤、重合触媒、連鎖移動剤等が用いられる。多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の重合方法としては、所謂、連続塊状重合法が好適に用いられる。重合装置としては、原料を均一混合した後に、直列及び並列の少なくとも一方に配列された1個以上の反応器と未反応モノマー等を除去する揮発分除去工程を備えた設備に連続的にモノマー類を送入し、段階的に重合を進行させる装置が使用される。反応器の様式としては、完全混合型の槽型反応器、プラグフロー性を有する塔型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無いが、連続生産においてゲル状物の生成を抑制するためには、多官能ビニル共重合体が未反応の状態で、反応器壁面の境膜中に高濃度に滞留する状態を発現させないことが重要であり、第一の反応器として完全混合型の槽型反応器を選択することが好ましい。
前記多官能ビニル共重合体は、重合溶剤等に溶解した状態で、必要に応じて上記の反応器の途中から添加することもできる。
【0028】
多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、35万~55万であり、40万~50万であることが好ましい。多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の重量平均分子量が35万未満であると、容器成形時の賦型性が低下し、容器強度も低下する恐れがある。また、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の重量平均分子量が55万を超えると、製膜時の厚みムラ、ダイラインなどが発生し易くなり、製膜性が低下したり、シート外観が低下する。
【0029】
(耐衝撃性スチレン系樹脂(C))
耐衝撃性スチレン系樹脂(C)とは、いわゆるハイインパクトポリスチレン(HIPS)である。耐衝撃性スチレン系樹脂(C)としては、ゴム成分が含まれるスチレン系樹脂であれば良く、スチレンの単独重合体中にゴム成分が含まれているもの、ゴム成分にポリスチレンがグラフト重合しているもの等、いずれも好適に用いることができる。ゴム成分は、マトリックス樹脂となるポリスチレン中に、独立して粒子状になって分散していてもよいし、ゴム成分にポリスチレンがグラフト重合して粒子状に分散しているものであってもよい。耐衝撃性スチレン系樹脂(C)中のゴム成分の含有量は、5~30質量%が好ましく、8~15質量%がより好ましい。
【0030】
ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体などが挙げられる。特に、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体として含まれていることが好ましい。
【0031】
二軸延伸シート中のゴム成分は、主として、スチレン系樹脂組成物中の耐衝撃性スチレン系樹脂(C)が含有するゴム成分に由来する。二軸延伸シート中のゴム成分の含有量は0.05~0.3質量%である。ゴム成分の含有量が0.05質量%未満であると、シートの剛性や耐折性の改善効果が十分発揮できないおそれがある。一方、ゴム成分の含有量が0.3質量%を超えると、シートの透明性が低下するおそれがある。二軸延伸シート中のゴム成分の含有量は、0.1~0.2質量%であることがより好ましい。
【0032】
ここで、二軸延伸シート中のゴム成分の含有量は、以下の一塩化ヨウ素法によって定量することができる。二軸延伸シートをクロロホルムに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合と反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する。
【0033】
二軸延伸シート中のゴム成分が形成するゴム粒子の平均粒子径は、1.2~12μmであり、2.0~8.0μmであることが好ましい。平均粒子径が1.2μm未満ではシートの剛性や耐折性の改善効果が十分発揮できないおそれがある。一方、平均粒子径が12μmを超えると、シート外観が低下したり、透明性が低下するおそれがある。
【0034】
二軸延伸シート中のゴム成分の平均粒子径は、超薄切片法にて観察面がシート平面と平行方向となるよう切削し、四酸化オスミウム(OsO4)にてゴム成分を染色した後、透過型顕微鏡にて粒子100個の粒子径を測定し、以下の式により算出した値である。
平均粒子径=Σni(Di)4/Σni(Di)3
ここで、niは測定個数、Diは測定した粒子径を示す。
【0035】
(スチレン系樹脂組成物)
スチレン系樹脂組成物において、前記スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)と前記多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の質量比(A)/(B)は、70/30~95/5であり、80/20~90/10であることが好ましい。前記多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の質量比が30を超えると、製膜時の厚みムラ、ダイラインなどの製膜性の低下が発生し易くなり、シート外観が低下し、耐熱性が低下する恐れがある。一方、前記多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の質量比が5を下回ると容器成形時の賦型性が低下し、容器強度も低下する恐れがある。また、スチレン系樹脂組成物における耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の含有量は、前記した耐衝撃性スチレン系樹脂(C)に由来するゴム成分の含有量が二軸延伸シート中のゴム成分の含有量として0.05~0.3質量%となるように、適宜調整して設定される。耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の含有量は、通常は、スチレン系樹脂組成物に対して0.5~3.0質量%である。
【0036】
スチレン系樹脂組成物には、用途に応じて各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油等の添加剤、ガラス繊維、カーボン繊維およびアラミド繊維等の補強繊維、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウムなどの充填剤が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂組成物をシート化したときの外観の観点から、酸化防止剤およびゲル化防止剤を単独または2種類以上を併用して配合することが好ましい。これらの添加剤は、各成分樹脂の重合工程または脱揮工程、造粒工程にて添加しても良いし、スチレン系樹脂組成物を製造するときに添加しても良い。
上記添加剤の添加量に制限はないが、スチレン系樹脂組成物のシートの透明性を損なわない範囲で添加することが好ましい。
【0037】
(二軸延伸シート)
本実施形態の二軸延伸シートは、前記のスチレン系樹脂組成物を二軸延伸加工して得られるものである。二軸延伸は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれであってもよい。
【0038】
二軸延伸シートは、例えば、次のような方法で製造することができる。まず、前記スチレン系樹脂組成物を押出機により溶融混練して、ダイ(特にTダイ)から押し出して未延伸シートを製造する。次に、未延伸シートをMD方向およびTD方向の二軸方向に逐次又は同時に延伸することによって、二軸延伸シートが製造される。
【0039】
二軸延伸シートの厚みは、シートおよび容器の強度、特に剛性を確保するために、0.01mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上である。一方、賦型性および経済性の観点から、二軸延伸シートの厚みは、0.7mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.6mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。
【0040】
二軸延伸シートの縦方向および横方向の延伸倍率はいずれも、2.0~4.5倍の範囲にあることが好ましい。延伸倍率が2.0倍未満では、十分に高い強度を有したシートを得ることができないおそれがある。一方、延伸倍率が4.5倍を超えると、熱成形時の収縮率が大き過ぎることにより賦形性が損なわれるおそれがある。二軸延伸シートの縦方向および横方向の延伸倍率はいずれも、2.1~3.0倍の範囲にあることがより好ましい。
【0041】
なお、延伸倍率の測定方法は、以下のとおりである。二軸延伸シートの試験片に対して、MD方向およびTD方向に100mm長の直線を引く。JIS K7206:2016に従って測定したシートのビカット軟化温度より30℃高い温度のオーブンに、上記試験片を60分間静置し収縮させた後の、上記直線の長さL[mm]を測定する。MD方向およびTD方向の延伸倍率(倍)はそれぞれ、次式によって算出した数値である。
延伸倍率(倍)=100/L
【0042】
二軸延伸シートのMD方向およびTD方向の配向緩和応力はいずれも、0.8~2.0MPaの範囲にあることが好ましく、0.9~1.1MPaであることがより好ましい。配向緩和応力が0.8MPa未満では従来品よりもシートを薄肉化した際に、強度が足りず、実用的に使用できなくなるおそれがある。一方、配向緩和応力が2.0MPaを超えると熱成形時の収縮応力が大き過ぎることにより賦形性が損なわれるおそれがある。また、シートの耐折性および賦形性のバランスの観点から、MD向およびTD方向の配向緩和応力の差は0.2MPa以下であると好ましい。二軸延伸シートの配向緩和応力は、ASTM D1504に従って、シートを構成する樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高い温度のシリコーンオイル中でのピーク応力値として測定した値である。
【0043】
二軸延伸シートのMD向とTD方向の引張弾性率がいずれも2800~3400MPaであることが好ましく、2900~3100MPaであることがより好ましい。引張弾性率は、JIS K 7161に従って測定することができる。MD向とTD方向の引張弾性率がいずれも上記の範囲内にあると、良好な容器強度や賦型性を発揮することができる。
【0044】
二軸延伸シート中のゲル含有量は、二次成形時の加工性、外観の透明性の観点から、少ないことが好ましい。二軸延伸シート中のゲル含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。二軸延伸シート中のゲル含有量は、二軸延伸シートをMEK(2-ブタノン)溶剤に溶かし、遠心分離を行い、溶剤不溶分を沈降させ、上澄みを除去した後に乾燥させ、秤量することによって求めることができる。
【0045】
二軸延伸シートは、スチレン単量体の含有量が1000ppm以下であることが好ましい。スチレン単量体の含有量が1000ppmよりも多いと、シートを成形加工する際に成形加工機の金型等に付着し、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを引き起こしてその後の成形容器の外観を損なう懸念がある。なお、スチレン単量体の定量は、下記記載のガスクロマトグラフィーを用い、内部標準法にて測定することができる。
装置名:GC-12A(島津製作所社製)
カラム:ガラスカラム φ3[mm]×3[m]
定量法:内部標準法(シクロペンタノール)
【0046】
また、二軸延伸シート中のスチレンオリゴマーの総含有量は、10000ppm以下であり、5000ppm以下であることが好ましい。スチレンオリゴマーが10000ppmよりも多いと、シートを成形加工する際に成形品の外観を損ねたり、金型汚れを引き起こす懸念がある。スチレンオリゴマーとは、スチレン単量体のダイマーやトリマーのことを指し、それらの構造異性体も含まれる。
【0047】
スチレンオリゴマーの定量は、試料200mgを2mLの1,2-ジクロロメタン(内部標準物質含有)に溶解させた後、メタノールを2mL添加して樹脂を析出させ、静置後の上澄み液を用いてガスクロマトグラフにて以下の条件で測定した。
ガスクロマトグラフ:HP-5890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:DB-1(ht) 0.25mm×30m 膜厚0.1μm
インジェクション温度:250℃
カラム温度:100-300℃
検出器温度:300℃
スプリット比:50/1
内部標準物質:n-エイコサン
キャリアーガス:窒素
【0048】
二軸延伸シートには、必要に応じて、公知の離型剤・剥離剤(例えばシリコーンオイル)、防曇剤(例えばショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、二酸化珪素等)、帯電防止剤(例えば各種ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等)の内の1種または2種以上を混合して、延伸シートの片面または両面に塗布してもよい。
【0049】
上記の化合物を延伸シートの表面に塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ロールコーター、ナイフコーター、グラビアロールコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。また、噴霧、浸漬等の方法を採用することもできる。
【0050】
二軸延伸シートから成形品を得る方法としては、特に制限はなく、従来の延伸シートの二次成形方法において慣用されている方法を用いることができる。例えば、真空成形法や圧空成形法等の熱成形方法によって二次成形を行うことができる。これらの方法は例えば高分子学会編「プラスチック加工技術ハンドブック」日刊工業新聞社(1995)に記載されている。
【0051】
本発明の二軸延伸シートの成形品の用途としては、食品包装容器等が本発明の特徴が十分に発揮されるため、特に好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を用いて、本発明の二軸延伸シートをより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
二軸延伸シートの製造に用いる原料となる樹脂は、以下に記載する方法で調製した。
(実験例1)
【0053】
[スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)の製造]
内容量200Lのジャケット、攪拌機付きオートクレーブに純水100kg、ポリビニルアルコール100gを加え、130rpmで攪拌した。続いてスチレン72.0kg、メタクリル酸4.0kgおよびt-ブチルパーオキサイド20gを仕込み、オートクレーブを密閉して、110℃に昇温して5時間重合を行った(ステップ1)。また、4.0kgのメタクリル酸を、重合温度が110℃に達した時点から2時間かけて、均等に追加添加した(ステップ2)。さらに140℃で3時間保持し、重合を完結させた(ステップ3)。得られたビーズを洗浄、脱水、乾燥した後、押出し、表1に記載のペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)を得た。これを熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、スチレン単量体単位/メタクリル酸単量体単位の質量比は、90/10であった。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、7万、18万、35万であった。
【0054】
実験例1の各種原料仕込み量を調整し、表1~3に記載の各種スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)を複数種類得た。
(実験例2)
【0055】
[多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)の製造]
ジビニルベンゼン160g、エチルビニルベンゼン94g、スチレン223g、2-フェノキシエチルメタクリレート633g、トルエン1080gを3Lの反応容器に投入し、50℃で57gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、6時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回、油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多官能ビニル共重合体(α)を得た。
【0056】
一方、直列に接続された内容積40Lの完全混合性を有する槽型反応器を2個と、プラグフロー性を有する静的混合機を内蔵した内容積20Lの塔型反応器と、予熱器と真空槽を有するフラッシュチャンバー型の揮発分除去設備を有した連続塊状重合設備を用意した。当該連続塊状重合設備に、スチレン85質量部、エチルベンゼン15質量部、また上記の多官能ビニル共重合体(α)0.5質量部を均一に混合した後に15L/hrで連続的に送入した。第1の槽型反応器は135℃、第2の槽型反応器は135℃、第3の塔型反応器は入口部を145℃、出口部が165℃になるように段階的に温度を上昇させた。その後、225℃に加熱した予熱器に移送し、圧力を665Pa(5Torr)に調整した予熱器の真下の真空槽に投入することにより、未反応モノマーと溶剤とを除去した。そして、真空槽からギアポンプにてストランド状に樹脂を抜き出しながらカットすることで多分岐型スチレン系共重合樹脂を得た。 GPCで重量平均分子量Mwを測定した結果、45万であった。
【0057】
上記の多官能ビニル化合物共重合体(α)の添加量を変更して、表1~3に記載の重量平均分子量の異なる計5種類の多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)を準備した。
(実験例3)
【0058】
[耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の製造]
ゴム状重合体として3.4質量%のローシスポリブタジエンゴム(旭化成製、商品名ジエン55AS)を使用し、91.6質量%のスチレンと、溶剤として5.0質量%のエチルベンゼンに溶解して重合原料とした。また、ゴムの酸化防止剤(チバガイギー製、商品名イルガノックス1076)0.1質量部を添加した。この重合原料を翼径0.285mの錨型撹拌翼を備えた14リットルのジャケット付き反応器(R-01)に12.5kg/hrで供給した。反応温度は140℃、回転数は2.17sec-1で反応させた。得られた樹脂液を直列に配置した2基の内容積21リットルのジャケット付きプラグフロー型反応器に導入した。1基目のプラグフロー型反応器(R-02)では、反応温度が樹脂液の流れ方向に120~140℃、2基目のプラグフロー型反応器(R-03)では、反応温度が樹脂液の流れ方向に130~160℃の勾配を持つようにジャケット温度を調整した。得られた樹脂液は230℃に加熱後、真空度5torrの脱揮槽に送られ、未反応単量体、溶剤を分離・回収した。その後、脱揮槽からギヤポンプで抜き出し、ダイプレートを通してストランドとした後、水槽を通してペレット化し、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を得た。得られた樹脂の樹脂率は70%であった。ここで、樹脂率とは、下記式によって算出される。
樹脂率(%)=100×(ポリマー量)/{(仕込んだモノマー量)+(溶剤量)}
また、得られた樹脂中のゴム成分含有量は10.0質量%、ゴム粒子の平均粒子径は5μmであった。
【0059】
上記と同様の方法で、各種原料仕込み量を調整して、表1~3に記載のゴム成分含有量が10.0質量%であって、ゴム粒子の平均粒子径の異なる計5種類の耐衝撃性スチレン系樹脂(C)を製造した。
(実施例1)
【0060】
以下に、二軸延伸シートの作成例を記す。
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)(Mw=18万)90質量部、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)(Mw=45万)10質量部、また、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)(ゴム成分含有量10.0質量%、ゴム粒子の平均粒子径5μm)1質量部の各ペレットをハンドブレンドした。ペレット押出機(真空ベント付き二軸同方向押出機TEM35B(東芝機械製))を用い、押出温度230℃、回転数250rpm、ベント脱揮圧力-760mmHgにてダイプレートを通してストランドとした。その後、水槽にて冷却したのち、ペレタイザーを通してペレット化し、スチレン系樹脂組成物を得た。なお、ベント脱揮圧力は、常圧に対する差圧値として示した。上記スチレン系樹脂組成物をシート押出機(Tダイ幅500mm、リップ開度1.5mm、φ40mmのエキストルーダー(田辺プラスチック機械社製))を用い、押出温度230℃、吐出量20kg/hにて未延伸シートを得た。このシートをバッチ式二軸延伸機(東洋精機社製)を用いて予熱し、延伸温度128℃、歪み速度0.1/secで、MD3.5倍、TD3.5倍に延伸し、厚み0.25mmの二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)は1.00MPa/1.00MPa、引張弾性率(MD/TD)は3100MPa/3100MPaであった。また、二軸延伸シート中のゴム成分含有量は0.1質量%、ゴム粒子の平均粒子径は5μm、ゲル含有量は0.8質量%であり、スチレン単量体の含有量は500ppm、スチレンオリゴマーの総含有量は5000ppmであった。
(実施例2~13、比較例1~12)
【0061】
表1、表3に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とした以外は、実施例1と同様の方法で厚み0.25mmの二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表1、表3に示した。
(実施例14~17)
【0062】
表1、表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例14は延伸温度を132℃、実施例15は延伸温度を130℃、実施例16は延伸温度を126℃、実施例17は延伸温度を124℃、とした以外は、実施例1と同様の方法で厚み0.25mmの二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表1、表2に示した。
(実施例18~21)
【0063】
表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例18は延伸温度を124℃・延伸倍率(MD/TD)を1.8倍、実施例19は延伸温度を126℃・延伸倍率(MD/TD)を2.5倍、実施例20は延伸温度を130℃・延伸倍率(MD/TD)を4.0倍、実施例21は延伸温度を132℃・延伸倍率(MD/TD)を4.7倍、とした以外は、実施例1と同様の方法で厚み0.25mmの二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表2に示した。
(実施例22~25)
【0064】
表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例22は厚みを0.008mm、実施例23は厚みを0.02mm、実施例24は厚みを0.60mm、実施例25は厚みを0.80mm、とした以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表2に示した。
(実施例26)
【0065】
表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例26は、実施例1と同条件下で二度押出機を通してペレット化した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表2に示した。
(実施例27)
【0066】
表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例27は、ペレット押出機(真空ベント付き二軸同方向押出機TEM35B(東芝機械製))を用い、押出温度230℃、回転数250rpm、ベント脱揮圧力-250mmHgにてダイプレートを通してストランドとした以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表2に示した。
(実施例28)
【0067】
表2に記載のスチレン-メタクリル酸共重合樹脂(A)、多分岐型スチレン系共重合樹脂(B)、耐衝撃性スチレン系樹脂(C)の種類および配合量とし、実施例28は、ペレット押出機(真空ベント付き二軸同方向押出機TEM35B(東芝機械製))を用い、押出温度230℃、回転数250rpm、またベント脱揮をせずに、ダイプレートを通してストランドとした以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの配向緩和応力(MD/TD)、引張り弾性率、及び二軸延伸シート中のゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径、ゲル含有量、スチレン系単量体の含有量、スチレンオリゴマーの総含有量を表2に示した。
【0068】
得られた二軸延伸シートについて、以下に記載した方法にて各種性能を測定し、評価を行った。◎、○、△、×の相対評価においては、◎、○、△のときを合格と判定した。結果を表1~3に記載した。
【0069】
(1)製膜性
未延伸シートにMD方向およびTD方向に20mm間隔で直線を5本ずつ格子状に引いた時の交点25点についてマイクロゲージを用いて厚みを測定し、その標準偏差σを下記基準で評価した。
◎:σが0.03mm未満
○:σが0.03mm以上、0.05mm未満
△:σが0.05mm以上、0.07mm未満
×:σが0.07mm以上
【0070】
(2)シート外観
二軸延伸シート350mm×350mmの範囲について、1)面積100mm2以上のロール付着跡、2)面積10mm2以上の気泡、3)透明および不透明異物、4)付着欠陥、5)幅3mm以上のダイライン(製膜時にTダイ出口で発生するシート流れ方向に走る欠陥)を欠点とし、欠点の個数を下記基準で評価した。
◎:0個
○:0個(但し、面積10mm2未満の気泡、幅3mm未満のダイラインは有り)
△:1~2個
×:3個以上
【0071】
(3)透明性(ヘーズ)
JIS K-7361-1に従って、ヘーズメーターNDH5000(日本電色社)を用いて、二軸延伸シートのヘーズを測定した。
◎:ヘーズ2.0%未満
○:ヘーズ2.0%以上、3.0%未満
△:ヘーズ3.0%以上、5.0%未満
×:ヘーズ5.0%以上
【0072】
(4)剛性
弁当容器の本体(寸法:縦163×横223×深さ30mm)に500gの錘を入れ、後記する弁当蓋を嵌合させた弁当容器を5段重ね、24時間静置後の蓋材の変形状態を確認した。
◎:形状変化なし。
○:撓むが、荷重を外すと元に戻る。
△:変形有り。
×:割れ有り。
【0073】
(5)耐折性
ASTM D2176に従って、シート押出方向(MD方向)とそれに垂直な方向(TD方向)の耐折曲げ強さを測定し、最小値を求め、以下のように評価した。
◎:7回以上
○:5回以上、7回未満
△:2回以上、5回未満
×:2回未満
【0074】
(6)賦型性
熱板成形機HPT?400A(脇坂エンジニアリング社製)にて、熱板温度150℃、加熱時間2.0秒の条件で、弁当蓋(寸法 蓋:縦165×横225×高さ26mm)を成形し、賦型性を下記基準にて評価した。
◎:良好
○:コーナー部に僅かな形状不良、但し、目視では目立たないレベル
△:コーナー部にやや形状不良
×:寸法と異なる形状またはコーナー部に著しい形状不良
【0075】
(7)金型汚れ性
上記弁当蓋の成形時、金型等の汚れの転写を下記基準にて評価した。
◎:転写なし(透明、白濁なし)
○:僅かに転写あり(不透明、表面が若干白濁)
△:一部に転写あり(不透明、表面が白濁)
×:全体に転写あり(不透明、表面が白濁)
【0076】
(8)耐熱性
上記成形条件で得られた弁当蓋を110℃に設定した熱風乾燥機に60分間入れた後、容器の変形を目視で観察した。
◎:変形なし
○:軽微な変形、
△:外寸変化5%未満
×:大変形、外寸変化5%以上
【0077】
(9)容器強度
上記成形条件で得られた弁当蓋を、本体容器に嵌合させ、上部より均等に面荷重をかけて10mm押し込んだ後、荷重を外した後の蓋の状態について評価した。
◎:変形無し。
○:僅かな変形。
△:外寸の変化率が5%未満の変形。
×:大変形、外寸の変化率が5%以上。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
表1~3の結果から、実施例1~28で得られた本発明の規定を満たす二軸延伸シートはいずれも、製膜性、透明性、シート強度、成形性、容器強度、耐熱性のいずれにおいても、優れた性能を有するものであった。
【0082】
一方、比較例1~12で得られた本発明の規定を満たさない二軸延伸シートについてはいずれも、製膜性、透明性、シート強度、成形性、容器強度、耐熱性のいずれかの性能において望ましくない結果であった。