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特許7026037差動装置用測定具、および、差動装置の潤滑油量測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】差動装置用測定具、および、差動装置の潤滑油量測定方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20220217BHJP
   F16H 48/00 20120101ALI20220217BHJP
【FI】
F16H57/04 B
F16H48/00
F16H57/04 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018233072
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020094639
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】石野 涼太
(72)【発明者】
【氏名】関口 亜久人
(72)【発明者】
【氏名】大金 治
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-140128(JP,A)
【文献】特開平9-14406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動ギヤ機構を収容するための収容空間と前記収容空間の内外を連通する連通孔とが形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通する貫通孔を有する円筒状であり、所定の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースの回転中に、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油の流入量を測定するための差動装置用測定具であって、
前記差動ギヤ機構が収容されていない前記収容空間において、回転する前記デフケースに干渉しないように配置されるとともに、前記回転軸に略直交する方向側に開口し、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油を収集する凹部を有する収集部と、
前記回転軸部の前記貫通孔に挿通されるとともに、前記収集部の前記凹部に連通し、前記回転軸部を介して前記デフケースの外部まで延びている導出流路を有する導出部と、
を備える、
差動装置用測定具。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置用測定具において、
前記デフケースの前記連通孔が前記収集部の前記凹部に対向した状態で、前記連通孔から前記収容空間側を見たとき、前記凹部の内周線は、全周にわたって、前記連通孔と一致、または、前記連通孔より外側に位置する、
差動装置用測定具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の差動装置用測定具において、
前記凹部側から見た前記収集部の外周線と、前記回転軸を含む仮想平面上における前記ケース本体の内壁とは、全周にわたって、近接している、
差動装置用測定具。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記収集部の前記凹部の開口端と前記回転軸との間の距離は、前記デフケースの前記連通孔と前記回転軸との間の最短距離以下である、
差動装置用測定具。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記収集部は、複数の前記凹部を有しており、前記導出部には、前記複数の凹部のそれぞれに個別に連通する複数の前記導出流路が形成されている、
差動装置用測定具。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記収集部の前記凹部の底部は、前記導出部の前記導出流路側に向かって下方に傾斜している、
差動装置用測定具。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記回転軸に沿った方向視で、前記凹部の底部は、前記底部の中心側に向かって下方に傾斜している、
差動装置用測定具。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記導出流路の底は、前記凹部側から前記導出部の導出端に向かって下方に傾斜している、
差動装置用測定具。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の差動装置用測定具において、
前記導出流路の底には、前記導出流路の導出端側を向く段差面が形成されている、
差動装置用測定具。
【請求項10】
差動ギヤ機構を収容するための収容空間と前記収容空間の内外を連通する連通孔とが形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通する貫通孔を有する円筒状であり、所定の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースの回転中に、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油の流入量を測定する差動装置の潤滑油量測定方法であって、
前記差動ギヤ機構が収容されていない前記収容空間内において、回転する前記デフケースに干渉しないように配置されるとともに、前記回転軸に略直交する方向側に開口し、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油を収集する凹部を有する収集部と、前記回転軸部の前記貫通孔に挿通されるとともに、前記収集部の前記凹部に連通し、前記回転軸部を介して前記デフケースの外部まで延びている導出流路を有する導出部と、を備える差動装置用測定具を、前記凹部が上側に開口した姿勢で固定する固定工程と、
前記デフケースを回転させる回転工程と、
前記導出流路から導出される潤滑油の量を測定する測定工程と、
を含む、
差動装置の潤滑油量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、差動装置用測定具、および、差動装置の潤滑油量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
差動装置は、差動ギヤ機構と、その差動ギヤ機構を収容するデフケース(ディファレンシャルケース)と、を備える。差動ギヤ機構は、例えば、デフケースに支持されるピニオンシャフトと、該ピニオンシャフトに回転可能に支持された一対のピニオンギヤと、左右の駆動シャフトにそれぞれ連結されるとともに一対のピニオンギヤに噛み合う一対のサイドギヤと、を有する。デフケースは、ケース本体と回転軸部とを有する。ケース本体には、差動ギヤ機構を収容するための収容空間と、該収容空間の内外を連通する連通孔と、が形成されている。回転軸部は、ケース本体から突出し、かつ、該ケース本体の収容空間に連通する貫通孔を有する円筒状であり、所定の回転軸を中心に回転可能に軸支される。
【0003】
デフケースには、動力源からの動力が伝達されるリングギヤが固定されている。リングギヤが回転駆動されると、このリングギヤの回転に伴って、デフケースが回転駆動されることにより、その駆動力が、一対のピニオンギヤと一対のサイドギヤとを介して、左右の駆動シャフトに伝達される。また、デフケースの回転中において、潤滑油が、デフケースに形成された連通孔を介して収容空間に流入し、差動ギヤ機構に供給されることにより、差動ギヤ機構の円滑な動作が維持される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-105838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
差動ギヤ機構の円滑な動作を維持するためには、回転中のデフケースの収容空間に適切な量の潤滑油を流入させる必要がある。しかし、従来、回転中のデフケースの収容空間への潤滑油の流入量を測定する手段がなかった。このため、差動装置を実際に駆動させて、差動ギヤ機構の各構成部材の焼き付きや破損等を確認することにより、適切な量の潤滑油を差動ギヤ機構に供給できているか否かを判断せざるを得なかった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することが可能な差動装置用測定具、および、差動装置の潤滑油量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の差動装置用測定具は、差動ギヤ機構を収容するための収容空間と前記収容空間の内外を連通する連通孔とが形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通する貫通孔を有する円筒状であり、所定の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースの回転中に、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油の流入量を測定するためのものであって、前記差動ギヤ機構が収容されていない前記収容空間において、回転する前記デフケースに干渉しないように配置されるとともに、前記回転軸に略直交する方向側に開口し、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油を収集する凹部を有する収集部と、前記回転軸部の前記貫通孔に挿通されるとともに、前記収集部の前記凹部に連通し、前記回転軸部を介して前記デフケースの外部まで延びている導出流路を有する導出部と、を備える。
【0008】
本差動装置用測定具は、収集部と導出部とを備える。収集部は、デフケースの収容空間において、回転するデフケースに干渉しないように配置されており、デフケースの回転に伴って連通孔を介して収容空間に流入する潤滑油を収集する凹部を有する。導出部は、デフケースの回転軸部の貫通孔に挿通されており、収集部の凹部に連通し、回転軸部を介してデフケースの外部まで延びている導出流路を有する。このような差動装置用測定具を、デフケースの収容空間内に配置し、収集部の凹部が上側に開口した姿勢で固定する。そして、デフケースが回転すると、その回転に伴って飛散した潤滑油やデフケースに向けて供給される潤滑油が、回転中のデフケースの連通孔を介して収容空間に流入し、収集部の凹部に収集され、導出部からデフケースの外部に導出される。このため、導出部から導出された潤滑油の量を測定することにより、回転中のデフケースの収容空間への潤滑油の流入量を測定することができる。その結果、差動ギヤ機構の各構成部材の焼き付きや破損等を実際に確認しなくても、適切な量の潤滑油を差動ギヤ機構に供給できているか否かを判断することができる。
【0009】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記デフケースの前記連通孔が前記収集部の前記凹部に対向した状態で、前記連通孔から前記収容空間側を見たとき、前記凹部の内周線は、全周にわたって、前記連通孔と一致、または、前記連通孔より外側に位置する。これにより、デフケースの連通孔を介して収容空間に流入した潤滑油の収集率が向上し、潤滑油の流入量を精度良く測定することができる。
【0010】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記凹部側から見た前記収集部の外周線と、前記回転軸を含む仮想平面上における前記ケース本体の内壁とは、全周にわたって、近接している。これにより、デフケースの収容空間に流入した潤滑油を漏れなく収集でき、潤滑油の流入量を、さらに精度良く測定することができる。
【0011】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記収集部の前記凹部の開口端と前記回転軸との間の距離は、前記デフケースの前記連通孔と前記回転軸との間の最短距離以下である。これにより、凹部の距離がデフケースの連通孔と回転軸との間の最短距離よりも長い場合と比べて、デフケースが回転しても連通孔が収容部によって塞がれ難く、潤滑油の流入量を、より精度良く測定することができる。
【0012】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記収集部は、複数の前記凹部を有しており、前記導出部には、前記複数の凹部のそれぞれに個別に連通する複数の前記導出流路が形成されている。これにより、複数の導出流路のそれぞれからの潤滑油の導出量に基づき、例えば、デフケースの収容空間への潤滑油の供給バランス(分布)を把握することができる。
【0013】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記収集部の前記凹部の底部は、前記導出部の前記導出流路側に向かって下方に傾斜している。これにより、凹部に収集された潤滑油を導出部側に円滑に流すことができる。
【0014】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記回転軸に沿った方向視で、前記凹部の底部は、前記底部の中心側に向かって下方に傾斜している。これにより、一度凹部に入った潤滑油が、凹部の底部で跳ね返って凹部の外に飛び出ることを抑制することができる。
【0015】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記導出流路の底は、前記凹部側から前記導出部の導出端に向かって下方に傾斜している。これにより、収集部の凹部から導出流路に流入した潤滑油を、自重による自由落下により、導出流路の導出側に円滑に導くことができる。
【0016】
また、本発明の差動装置用測定具は、前記導出流路の底には、前記導出流路の導出端側を向く段差面が形成されている。これにより、導出流路に流れる潤滑油が凹部側に逆流することを抑制することができる。
【0017】
さらに、本発明の差動装置の潤滑油量測定方法は、差動ギヤ機構を収容するための収容空間と前記収容空間の内外を連通する連通孔とが形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通する貫通孔を有する円筒状であり、所定の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースの回転中に、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油の流入量を測定する方法であって、前記差動ギヤ機構が収容されていない前記収容空間において、回転する前記デフケースに干渉しないように配置されるとともに、前記回転軸に略直交する方向側に開口し、前記連通孔を介して前記収容空間に流入する潤滑油を収集する凹部を有する収集部と、前記回転軸部の前記貫通孔に挿通されるとともに、前記収集部の前記凹部に連通し、前記回転軸部を介して前記デフケースの外部まで延びている導出流路を有する導出部と、を備える差動装置用測定具を、前記凹部が上側に開口した姿勢で固定する固定工程と、前記デフケースを回転させる回転工程と、前記導出流路から導出される潤滑油の量を測定する測定工程と、を含む。
【0018】
本差動装置の潤滑油量測定方法では、上記構成の差動装置用測定具を、デフケースの収容空間内に配置し、収集部の凹部が上側に開口した姿勢で固定する。そして、デフケースを回転させる。すると、その回転に伴って飛散した潤滑油やデフケースに向けて供給される潤滑油が、回転中のデフケースの連通孔を介して収容空間に流入し、収集部の凹部に収集され、導出部の導出流路からデフケースの外部に導出される。そこで、導出流路から導出された潤滑油の量を測定する。これにより、回転中のデフケースの収容空間への潤滑油の流入量を測定することができる。その結果、差動ギヤ機構の各構成部材の焼き付きや破損等を実際に確認しなくても、適切な量の潤滑油を差動ギヤ機構に供給できているか否かを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態における差動装置1を示す平面図である。
図2】第1実施形態における差動装置用測定具100の一部を示す平面図である。
図3】第1実施形態における差動装置用測定具100とデフケース10との一部を示す斜視図である。
図4】第1実施形態における差動装置用測定具100とデフケース10とを示す平面図である。
図5】第1実施形態における差動装置用測定具100とデフケース10とを示す断面図である。
図6】第1実施形態における差動装置用測定具100とデフケース10とを示す断面図である。
図7】差動装置用測定具100を用いた差動装置1の潤滑油量測定方法を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態における差動装置用測定具100aとデフケース10aとを示す断面図である。
図9】第2実施形態における差動装置用測定具100aとデフケース10aとを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1実施形態:
本実施形態における差動装置用測定具100(以下、単に「測定具100」という)は、後述するように、差動装置1の差動ギヤ機構50に代えて配置され、回転中のデフケース10の収容空間22への潤滑油Uの流入量を測定するために用いられる。まずは、差動装置1の構成について説明する。
【0021】
A-1.差動装置1の構成:
図1は、第1実施形態における差動装置1を示す平面図である。なお、図1では、後述のミッションケース2と軸受5,6とシール部材7とについては断面が示されている。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向(紙面手前方向)を上方向といい、Z軸負方向(紙面奥行き方向)を下方向といい、X軸正方向を右方向といい、X軸負方向を左方向といい、Y軸正方向を前方向といい、Y軸負方向を後ろ方向というものとする。後述の図2以降も同様である。
【0022】
図1に示すように、差動装置1は、例えば自動車のミッションケース2内に、図示しない変速装置と共に収容されている。ミッションケース2の右側壁には、所定の回転軸(本実施形態では左右方向(X軸方向)に沿った回転軸X1)を中心とする円形の右側孔3が形成されており、右側孔3の左側(ミッションケース2の内部空間側)には、回転軸X1を中心とする環状の右側軸受5が配置されている。ミッションケース2の左側壁には、回転軸X1を中心とする円形の左側孔4が形成されており、左側孔4の右側(ミッションケース2の内部空間側)には、回転軸X1を中心とする環状の左側軸受6が配置されている。
【0023】
差動装置1は、デフケース10と、差動ギヤ機構50と、を備える。
【0024】
A-1-1.デフケース10の構成:
デフケース10は、ミッションケース2内において上述の一対の軸受5,6に回転可能に支持されているとともに、差動ギヤ機構50を内部に収容する。具体的には、デフケース10は、ケース本体20と、一対の回転軸部(右側回転軸部30および左側回転軸部40)と、を有する。なお、デフケース10は、例えば金属によって形成されている。
【0025】
ケース本体20は、例えば中空の略球状体である。ケース本体20の内部には、差動ギヤ機構50を収容するための収容空間22が形成されている。ケース本体20の周壁には、収容空間22からケース本体20の外部に開口する一対の開口部24が形成されている。一対の開口部24は、ケース本体20の周壁のうち、差動ギヤ機構50(回転軸X1)を挟んで互いに対向する位置に形成されている。図1では、一方の開口部24は、差動ギヤ機構50の手前(Z軸正方向側)に位置しているため、図示されており、他方の開口部24は、差動ギヤ機構50の背後(Z軸負方向側)に隠れている。なお、差動装置1の組み立て工程において、差動ギヤ機構50の構成部品は、この開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22内に挿入される。開口部24は、特許請求の範囲における連通孔に相当する。
【0026】
ケース本体20の外周面には、回転軸X1を中心とする環状のフランジ26が設けられており、このフランジ26にリングギヤ28がボルト29を介して締結されている。リングギヤ28は、変速装置の出力ギヤ8と噛み合っている。なお、リングギヤ28は、ボルト29を用いずに、例えば溶接等によってフランジ26に接合されていてもよい。また、リングギヤ28が、ケース本体20に一体に形成されていてもよい。
【0027】
後述の図3等に示すように、右側回転軸部30は、右側貫通孔32が形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20の周壁の右側外表面から右側に突出するように形成されている。左側回転軸部40は、左側貫通孔42が形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20の周壁の左端外表面から左側に突出するように形成されている。右側回転軸部30と左側回転軸部40とは、いずれも、円筒形状の中心軸が回転軸X1に略一致する。右側回転軸部30の右側貫通孔32と、左側回転軸部40の左側貫通孔42とは、いずれも、ケース本体20の収容空間22に連通している。右側回転軸部30は、ミッションケース2に配置された右側軸受5に回転可能に軸支されており、左側回転軸部40は、ミッションケース2に配置された左側軸受6に回転可能に軸支されている。これにより、デフケース10は、ミッションケース2内において回転軸X1を中心に回転可能になっている。
【0028】
A-1-2.差動ギヤ機構50の構成:
差動ギヤ機構50は、ピニオンシャフト52と、一対のピニオンギヤ54と、右側サイドギヤ56および左側サイドギヤ58と、を備える。ピニオンギヤ54とサイドギヤ56,58とは、いずれもベベルギヤにより構成されている。ピニオンシャフト52は、回転軸X1に略直交する方向に沿って配置され、両端部がケース本体20の周壁に貫通形成された孔23(後述の図5及び図6参照)に挿入され固定されている。一対のピニオンギヤ54は、互いに離間するように配置され、ピニオンシャフト52に回転可能に支持されている。なお、ピニオンギヤ54は、一対に限られず、例えば3個または4個、あるいはそれ以上の個数を備える構成とされていてもよい。また、ピニオンシャフト52は、デフケース10(ケース本体20)に固定されずに、例えばリングギヤ28に固定されていてもよい。固定方法としては、本実施形態と同様の方法に限られず、例えば固定具を用いた方法や溶接等でもよい。
【0029】
右側サイドギヤ56は、一対のピニオンギヤ54の右側に位置し、かつ、一対のピニオンギヤ54の両方に噛み合うように配置されている。また、右側サイドギヤ56は、図示しない右側の車軸に連結される右側駆動シャフト62に固定されており、この右側駆動シャフト62と一体的に回転可能になっている。左側サイドギヤ58は、一対のピニオンギヤ54の左側に位置し、かつ、一対のピニオンギヤ54の両方に噛み合うように配置されている。また、左側サイドギヤ58は、図示しない左側の車軸に連結される左側駆動シャフト64に固定されており、この左側駆動シャフト64と一体的に回転可能になっている。なお、右側駆動シャフト62は、ミッションケース2に形成された右側孔3にシール部材7を介して回転可能に軸支されている。左側駆動シャフト64は、ミッションケース2に形成された左側孔4にシール部材7を介して回転可能に軸支されている。
【0030】
以上の構成により、差動装置1では、図示しない動力源からの動力が変速装置に伝達されて出力ギヤ8が回転すると、該出力ギヤ8と噛み合っているリングギヤ28が回転する。リングギヤ28が回転すると、該リングギヤ28の回転に伴って、デフケース10が回転軸X1を中心に回転する。デフケース10が回転すると、一対のピニオンギヤ54および一対のサイドギヤ56,58を介して、右側駆動シャフト62と左側駆動シャフト64とがそれぞれ回転駆動される。
【0031】
ここで、ミッションケース2内には、デフケース10が回転していない停止状態で、潤滑油Uが例えば回転軸X1より下の所定の位置まで貯留されている。すなわち、デフケース10の停止状態では、デフケース10のうち、回転軸X1より下側の一部分が、貯留された潤滑油Uに浸かっている。デフケース10が回転すると、そのデフケース10の回転に伴ってミッションケース2内で潤滑油Uが飛散し、その飛散した潤滑油Uの一部が、例えばミッションケース2の内壁に当たって跳ね返り、ケース本体20に形成された開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22に流入し、差動ギヤ機構50に供給される。例えば、図1に示すように、ケース本体20の開口部24が上側に開口しているときには、主に、ミッションケース2の上側の内壁に当たって跳ね返った潤滑油Uが、開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22に流入する。また、ケース本体20の開口部24が横側に開口しているときには、主に、ミッションケース2の横側の内壁に当たって跳ね返った潤滑油Uが、開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22に流入する。これにより、差動ギヤ機構50の構成部材の焼き付きや破壊等の発生が抑制され、差動ギヤ機構50の円滑な動作が維持される。なお、ミッションケース2内で飛散した潤滑油Uの他の一部は、デフケース10の各回転軸部30,40と各軸受5,6との間に供給される。これにより、回転軸部30,40等の焼き付きや破壊等の発生が抑制され、デフケース10の円滑な動作が維持される。
【0032】
A-2.測定具100の構成:
図2は、第1実施形態における測定具100の一部を示す平面である。図2には、図1に対して、デフケース10におけるケース本体20の収容空間22に、差動ギヤ機構50に代えて、測定具100が配置された状態が示されている。図3は、第1実施形態における測定具100とデフケース10との一部を示す斜視図である。図3には、測定具100とデフケース10とについて、回転軸X1を含むXZ平面における断面が示されている。図4は、第1実施形態における測定具100とデフケース10とを示す平面図である。図4には、図3において上方から見た測定具100とデフケース10とが示されている。また、図4では、デフケース10と測定具100との一部が二点鎖線で示されている。図5および図6は、第1実施形態における測定具100とデフケース10とを示す断面図である。図5には、図4のV-V線における測定具100とデフケース10との断面が示されており、図6には、図4のVI-VI線における測定具100とデフケース10との断面が示されている。なお、図3から図6では、リングギヤ28およびボルト29が省略されている。
【0033】
図2から図6に示すように、測定具100は、収集部110と、右側導出部210および左側導出部220と、を備える。なお、測定具100は、例えば、樹脂や金属により形成されている。
【0034】
A-2-1.収集部110の構成:
収集部110は、デフケース10の収容空間22において、回転するデフケース10に干渉しないように配置されている。収集部110は、凹部118を有し、凹部118は、回転軸X1に略直交する方向側に開口し、ケース本体20の開口部24を介して収容空間22に流入する潤滑油Uを収集する。以下、具体的に説明する。
【0035】
図3から図6に示すように、収集部110は、上方に開放した平皿状であり、略平板状の底部112と、底部112の周縁部から上方に立ち上がるように形成された周壁部114と、を有する。すなわち、収集部110の凹部118は、底部112と周壁部114とによって構成されている。凹部118側(図3から図6では上側)から見た収集部110の外形は、回転軸X1を含む仮想平面上におけるデフケース10の内壁の形に対応している。具体的には、上記仮想平面上における収容空間22を構成するケース本体20の内壁の形は、略円形であり、これに対応して、凹部118側から見た収集部110の外形は、略円形である。なお、凹部118側から見た底部112の形状は、略円形であり、凹部118側から見た周壁部114の形状は、略円環状である。
【0036】
図5に示すように、収集部110は、デフケース10の収容空間22において、上下方向の略中央に位置している。また、図4に示すように、デフケース10の開口部24が収集部110の凹部118に対向した状態で、開口部24から収容空間22側を見たとき、収集部110の凹部118(周壁部114)の内周線L1は、全周にわたって、開口部24と一致、または、開口部24より外側に位置する。これにより、デフケース10の開口部24を介して収容空間22に流入した潤滑油Uの収集率が向上し、潤滑油Uの流入量を精度良く測定することができる。
【0037】
収集部110(周壁部114)の外周線L2は、全周にわたって、上記仮想平面上におけるケース本体20の内壁より内側に位置する。このため、収集部110は、収容空間22において、回転するデフケース10に干渉しない。本実施形態では、図4に示す状態において、収集部110の外周線L2と、ケース本体20の内壁とは、全周にわたって、近接している。ここでいう「近接している」とは、収集部110(周壁部114)の外周線L2と、ケース本体20の内壁とが、両者の間に形成される潤滑油Uの膜を介して密着する程度の隙間を介して隣接していることを意味する。これにより、デフケース10の収容空間22に流入した潤滑油Uを漏れなく収集でき、潤滑油Uの流入量を、さらに精度良く測定することができる。
【0038】
図5に示すように、収集部110の凹部118(周壁部114)における開口端(上端)と回転軸X1との間の距離D1は、デフケース10の開口部24と回転軸X1との間の最短距離D2以下であることが好ましく、各導出部210,220の半径D3以上であることが好ましい。これにより、凹部118の距離D1がデフケース10の開口部24と回転軸X1との間の最短距離D2よりも長い場合と比べて、デフケース10が回転しても開口部24が周壁部114によって塞がれ難く、潤滑油Uの流入量を、より精度良く測定することができる。また、凹部118の距離D1が各導出部210,220の半径D3よりも小さい場合と比較して、潤滑油Uを確実に収集することができる。
【0039】
図3から図5に示すように、収集部110の凹部118は、隔壁部116によって、右側凹部118Aと左側凹部118Bとに分けられている。本実施形態では、右側凹部118Aと左側凹部118Bとは、同一形状であり、同一の容積である。隔壁部116は、凹部118側(図3から図6では上側)から見て、回転軸X1に直交する方向(Y軸方向)に沿って直線状に延びている。隔壁部116の両端は、それぞれ、周壁部114まで延びている。なお、隔壁部116は、底部112の一部を上側に起伏させるように形成されている。
【0040】
図5に示すように、右側凹部118Aの底面(底部112の上面)は、隔壁部116側から右側導出部210側に向かって下方(回転軸X1から離間する方向)に傾斜している。左側凹部118Bの底面は、隔壁部116側から左側導出部220側に向かって下方に傾斜している。これにより、各凹部118A,118Bに収集された潤滑油Uを各導出部210,220側に円滑に流すことができる。
【0041】
また、図6に示すように、回転軸X1に沿った方向(X軸方向)視で、各凹部118A,118Bの底面は、周壁部114側から底部112の中心側に向かって下方に傾斜している。これにより、一度凹部118に入った潤滑油Uが凹部118の底面で跳ね返って凹部118の外に飛び出ることを抑制することができる。なお、凹部118(118A,118B)の底面は、直線状に傾斜していてもよいし、曲線状に傾斜していていもよい。
【0042】
A-2-2.右側導出部210および左側導出部220の構成:
図3および図5に示すように、右側導出部210と左側導出部220とは、互いに同一サイズの略円筒状である。右側導出部210は、収集部110(周壁部114)の右側外表面から右側に突出するように形成され、デフケース10における右側回転軸部30の右側貫通孔32内に挿通され支持されている。右側導出部210の導出側の先端部は、右側貫通孔32の外部まで延びている。左側導出部220は、収集部110の左側外表面から左側に突出するように形成されており、デフケース10における左側回転軸部40の左側貫通孔42内に挿通され支持されている。左側導出部220の導出側の先端部は、左側貫通孔42の外部まで延びている。各導出部210,220は、各回転軸部30,40の貫通孔32,42に対して、相対回転可能になっており、また、各導出部210,220の先端部は、ミッションケース2の外部で回転不能に固定されている。このため、測定具100は、収集部110の凹部118が上側に開口した姿勢で固定されており(図2から図6参照)、デフケース10は、測定具100とは独立に回転可能になっている。
【0043】
なお、図5に示すように、各導出部210,220は、各回転軸部30,40の貫通孔32,42内に配置され該貫通孔32,42より小さい外径を有する径小部213,223と、貫通孔32,42の外部に配置され該貫通孔32,42より大きい外径を有する径大部214,224とを有する。径小部213,223と径大部214,224との間には、第1の段差面215,225が形成されている。
【0044】
図3および図5に示すように、右側導出部210における中空空間は、右側導出流路212とされている。右側導出流路212は、収集部110の周壁部114に形成された切り欠きを介して右側凹部118Aに連通しており、かつ、右側回転軸部30の右側貫通孔32を介してデフケース10の外部まで延びている。左側導出部220における中空空間は、左側導出流路222とされている。左側導出流路222は、収集部110の周壁部114に形成された切り欠きを介して左側凹部118Bに連通しており、かつ、左側回転軸部40の左側貫通孔42を介してデフケース10の外部まで延びている。
【0045】
図5に示すように、右側導出流路212の底(谷筋)は、右側凹部118A側から右側導出部210の導出端(右端)に向かって下方(回転軸X1から離間する方向)に傾斜している。左側導出流路222の底(谷筋)は、左側凹部118B側から左側導出部220の導出端(左端)に向かって下方に傾斜している。これにより、収集部110の凹部118から各導出流路212,222に流入した潤滑油Uを、自重による自由落下により、各導出流路212,222の導出側に円滑に導くことができる。また、図3および図5に示すように、各導出流路212,222の底には、各導出流路212,222の導出端側を向く第2の段差面216,226が2つずつ形成されている。これにより、各導出流路212,222に流れる潤滑油Uが凹部118側に逆流することを抑制することができる。なお、右側導出流路212と左側導出流路222とは、長さと形状と流路抵抗とがいずれも互いに同じであることが好ましい。
【0046】
A-3.測定具100を用いた差動装置1の潤滑油量測定方法:
上述の測定具100を用いて、デフケース10の回転中に開口部24を介して収容空間22に流入する潤滑油Uの流入量を測定する潤滑油量測定方法について説明する。なお、この潤滑油量測定方法は、例えば、デフケース10の設計・開発段階で実施される。図7は、測定具100を用いた潤滑油量測定方法を示すフローチャートである。
【0047】
図7に示すように、まず、測定具100を、差動ギヤ機構50が収容されていないデフケース10の収容空間22に配置して固定する(固定工程 S110)。具体的には、図2に示すように、測定具100を、収集部110の凹部118が上側に開口した姿勢で固定する。なお、測定具100をデフケース10に配置する方法は、次の通りである。例えば、デフケース10が複数の要素に分解可能な構造である場合、分解された複数の要素の間に測定具100を配置した後に、複数の要素を組み付ける。また、デフケース10が分解不能な一体構造である場合、予め、収集部110と導出部210,220とを、互いに別体として、デフケース10に個別に配置し、その後に、収集部110と導出部210,220とを接合する。ここで、差動装置1の実機に近い状況を再現するために、ケース本体20に貫通形成されたピニオンシャフト52固定用の孔23は封止材等で塞いでおくことが好ましい。
【0048】
次に、デフケース10のケース本体20の少なくとも一部分が、ミッションケース2内に貯留された潤滑油Uに浸かった状態でデフケース10を回転させる(回転工程 S120)。具体的には、ミッションケース2内に潤滑油Uを供給することにより、デフケース10のうち、例えば、回転軸X1より下側の一部分がミッションケース2内に貯留された潤滑油U内に浸かるようにする。そして、動力源からの動力を変速装置に伝達して出力ギヤ8を回転駆動させることにより、デフケース10を回転させる。これにより、デフケース10の回転に伴ってミッションケース2内で潤滑油Uが飛散し、その飛散した潤滑油Uの一部が、例えばミッションケース2の内壁に当たって跳ね返り、ケース本体20に形成された開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22に流入し、測定具100の収集部110に収集される(図5および図6の白抜き矢印参照)。
【0049】
そして、上記回転工程中において、右側導出流路212と左側導出流路222とのそれぞれから導出される潤滑油Uの量を測定する(測定工程 S130)。具体的には、右側導出流路212から導出される潤滑油Uの単位時間当たりの導出量と、左側導出流路222から導出される潤滑油Uの単位時間当たりの導出量とを個別に測定する。これにより、差動装置1の潤滑油量測定方法が完了する。なお、デフケース10の開口部24を介して収容空間22に流入する潤滑油Uの単位時間当たりの流入量は、デフケース10の回転速度によって異なる。このため、変速装置によって、デフケース10の回転速度を、所定時間ごとに段階的に上げていき、各回転速度における潤滑油Uの単位時間(例えば1分間)の導出量を測定することが好ましい。
【0050】
A-4.潤滑油Uの導出量(潤滑油量)の測定結果の利用例:
潤滑油Uの導出量(潤滑油量)の測定結果は、例えば、次のように、デフケース10の設計・開発に利用することができる。
【0051】
(1)デフケース10における開口部24の開口面積の設計
図1に示すように差動ギヤ機構50が収容された差動装置1において、差動ギヤ機構50を円滑に動作させるために、回転中のデフケース10の開口部24から収容空間22に流入させるべき潤滑油Uの単位時間当たりの流入量(以下、「基準流入量」という)が分かっているとする。デフケース10の回転中に、右側導出流路212と左側導出流路222との両方からの潤滑油Uの単位時間当たりの導出量の合計を測定し、その導出量の合計が基準流入量より少ない場合には、差動ギヤ機構50において焼き付きや破壊等が発生するおそれがある。そこで、例えば、デフケース10における開口部24の開口面積を大きくするよう設計変更すべきことが分かる。一方、導出量の合計が基準流入量より大幅に多い場合には、例えば、デフケース10における開口部24の開口面積を小さくするよう設計変更してデフケース10の強度向上を図ることができることが分かる。また、導出量の合計が基準流入量以上であれば、例えば差動ギヤ機構50を構成する各ギヤの表面粗さをこれ以上小さくする加工を必要としないことがわかる。
【0052】
(2)デフケース10における開口部24の開口形の左右バランスの設計
右側導出流路212からの潤滑油Uの単位時間当たりの導出量と、左側導出流路222からの潤滑油Uの単位時間当たりの導出量とが略同一である場合、差動ギヤ機構50に対して潤滑油Uが左右バランスよく供給されていることが分かる。これに対して、例えば、右側導出流路212からの潤滑油Uの単位時間当たりの導出量が、左側導出流路222からの潤滑油Uの単位時間当たりの導出量より多い場合、差動ギヤ機構50の右側に潤滑油Uが多く供給されていることが分かる。そこで、デフケース10における開口部24の右側の開口面積を小さくしたり、左側の開口面積を大きくするよう設計変更すべきことがわかる。
なお、上記(1)(2)の場合において、デフケース10の設計変更をせずに、例えば、ミッションケース2の内壁の形状を変更したり、デフケース10に向けて潤滑油Uを強制的に供給したりしてもよい。
【0053】
A-5.本実施形態の作用効果:
例えば、デフケース10の回転中に、開口部24を介して収容空間22内に流入する潤滑油Uの流入量を測定できれば、適切な量の潤滑油Uを差動ギヤ機構50に供給できているか否かを判断することができる。
【0054】
そこで、本実施形態の測定具100は、収集部110と導出部210,220とを備える。収集部110は、デフケース10の収容空間22において、回転するデフケース10に干渉しないように配置されている。収集部110は、凹部118を有しており、凹部118は、デフケース10の回転に伴って開口部24を介して収容空間22に流入する潤滑油Uを収集する。導出部210,220は、デフケース10の回転軸部30,40の貫通孔32,42に挿通されている。導出部210,220は、導出流路212,222を有しており、導出流路212,222は、収集部110の凹部118に連通し、回転軸部30,40を介してデフケース10の外部まで延びている。このような測定具100を、デフケース10の収容空間22内に配置し、収集部110の凹部118が上側に開口した姿勢で固定する(図7のS110)。そして、デフケース10を回転させると(図7のS120)、その回転に伴って飛散した潤滑油Uが、回転中のデフケース10の開口部24を介して収容空間22に流入し、収集部110の凹部118に収集され、導出部210,220から外部に導出される。このため、導出部210,220から導出された潤滑油Uの量を測定することにより(図7のS130)、回転中のデフケース10の収容空間22への潤滑油Uの流入量を測定することができる。その結果、差動ギヤ機構50の各構成部材の焼き付きや破損等を実際に確認しなくても、適切な量の潤滑油Uを差動ギヤ機構50に供給できているか否かを判断することができる。
【0055】
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態における差動装置用測定具100a(以下、単に「測定具100a」という)とデフケース10aとを示す断面図である。図8には、測定具100aとデフケース10aとのXZ平面における断面が示されている。図9は、第2実施形態における測定具100aとデフケース10aとを示す平面図である。但し、デフケース10aと後述の右側治具310とは、一部のみ図示されており、デフケース10aの一部が二点鎖線で示されている。第2実施形態の測定具100aの構成の内、上記第1実施形態の測定具100と同一の構成については、同一符号を付すことによって、その説明を省略する。
【0056】
本実施形態における測定具100aも、上記第1実施形態の測定具100と同様、図示しない差動装置の差動ギヤ機構に代えて配置され、回転中のデフケース10aの収容空間22aへの潤滑油Uの流入量を測定するために用いられる。
【0057】
B-1.デフケース10aの構成:
図8および図9に示すように、デフケース10aは、ケース本体20aと、一対の回転軸部(右側回転軸部30aおよび左側回転軸部40a)と、を有する。
【0058】
ケース本体20aは、例えば中空の略半球状体である。ケース本体20aの内部には、差動ギヤ機構を収容するための収容空間22aが形成されている。ケース本体20aの周壁には、収容空間22aからケース本体20aの外部に開口する一対の開口部24aが形成されている。一対の開口部24aは、ケース本体20aの周壁のうち、デフケース10aの回転軸X1aを挟んで互いに対向する位置に形成されている。開口部24aは、特許請求の範囲における連通孔に相当する。
【0059】
ケース本体20aの外周面には、回転軸X1aを中心とする環状のフランジ26aが設けられており、このフランジ26aに図示しないリングギヤが固定される。
【0060】
右側回転軸部30aは、右側貫通孔32aが形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20aの周壁の右側外表面から右側に突出するように形成されている。左側回転軸部40aは、左側貫通孔42aが形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20aの周壁の左端外表面から左側に突出するように形成されている。右側回転軸部30aと左側回転軸部40aとは、いずれも、円筒形状の中心軸が回転軸X1aに略一致する。右側回転軸部30aの右側貫通孔32aと、左側回転軸部40aの左側貫通孔42aとは、いずれも、ケース本体20aの収容空間22aに連通している。
【0061】
B-2.測定具100aの構成:
測定具100aは、収集部110aと、1つの導出部210aと、を備える。
【0062】
B-2-1.収集部110aの構成:
収集部110aは、デフケース10aの収容空間22aにおいて、回転するデフケース10aに干渉しないように配置されている。収集部110aは、凹部118aを有し、凹部118aは、回転軸X1aに略直交する方向側に開口し、ケース本体20aの開口部24aを介して収容空間22aに流入する潤滑油Uを収集する。以下、具体的に説明する。
【0063】
図8および図9に示すように、収集部110aは、上方に開放した箱状であり、略平板状の底部112aと、底部112aの周縁部から上方に立ち上がるように形成された周壁部114aと、を有する。すなわち、収集部110aの凹部118aは、底部112aと周壁部114aとによって構成されている。凹部118a側(図8および図9では上側)から見た収集部110aの外形は、回転軸X1aを含む仮想平面上におけるデフケース10aの内壁の形に対応している。具体的には、上記仮想平面上における収容空間22aを構成するケース本体20の内壁の形は、左側が直線(すなわち、左側の内壁が平面)になっており、これに対応して、凹部118a側から見た収集部110aの外形は、略矩形である(図9参照)。なお、凹部118a側から見た底部112aの形状は、略矩形であり、凹部118a側から見た周壁部114aの形状は、略矩形枠状である。
【0064】
図8に示すように、収集部110aは、デフケース10aの収容空間22aにおいて、上下方向の略中央に位置している。また、図9に示すように、デフケース10aの開口部24aが収集部110aの凹部118aに対向した状態で、開口部24aから収容空間22a側を見たとき、収集部110aの凹部118a(周壁部114a)の内周線L1aは、全周にわたって、開口部24aより外側に位置する。これにより、デフケース10aの開口部24aを介して収容空間22aに流入した潤滑油Uの収集率が向上し、潤滑油Uの流入量を精度良く測定することができる。
【0065】
図8に示すように、凹部118aの底面(底部112aの上面)は、導出部210a側に向かって下方(回転軸X1aから離間する方向)に傾斜している。これにより、凹部118aに収集された潤滑油Uを導出部210a側に円滑に流すことができる。
【0066】
B-2-2.導出部210aの構成:
図8および図9に示すように、導出部210aは、略円筒状である。導出部210aは、収集部110a(周壁部114a)の右側外表面から右側に突出するように形成され、デフケース10aにおける右側回転軸部30aの右側貫通孔32a内に挿通されている。導出部210aの導出側の先端部は、右側貫通孔32aの外部まで延びている。
【0067】
ここで、本実施形態では、測定具100aは、右側治具310を介して支持される。右側治具310は、左側部分がデフケース10aの収容空間22a内に配置され、右側部分が右側回転軸部30aの右側貫通孔32a内に挿通されており、右側貫通孔32aに対して相対回転可能になっている。右側治具310には、右側挿通孔312aが形成されており、この右側挿通孔312a内に、測定具100aの導出部210aが挿通され支持されている。測定具100aは、導出部210aの先端部がミッションケースの外部で回転不能に固定されることにより、収集部110aの凹部118aが上側に開口した姿勢で固定されており、デフケース10aは、測定具100aとは独立に回転可能になっている。なお、測定具100aは、右側治具310に対して回転不能に固定されており、右側挿通孔312aに対する導出部210aの相対回転に伴う摩耗の抑制が図られている。但し、測定具100aは、右側治具310に対して相対回転可能になっていてもよい。デフケース10aにおける左側回転軸部40a側には、左側治具320が配置されている。左側治具320は、右側部分がデフケース10aの収容空間22a内に配置され、左側部分が左側回転軸部40aの左側貫通孔42a内に挿通されている。左側治具320には、左側挿通孔322aが形成されている。左側回転軸部40aの左側貫通孔42aは、左側治具320と収集部110aとによって塞がれる。これにより、差動ギヤ機構が収容空間22aに収容された差動装置の実機に近い状況が再現されている。
【0068】
図8に示すように、導出部210aにおける中空空間は、導出流路212aとされている。導出流路212aは、収集部110aの周壁部114aに形成された切り欠きを介して凹部118aに連通しており、かつ、右側回転軸部30aの右側貫通孔32aを介してデフケース10aの外部まで延びている。
【0069】
図8に示すように、導出流路212aの底(谷筋)は、凹部118a側から導出部210aの導出側(右端)に向かって下方(回転軸X1aから離間する方向)に傾斜している。これにより、収集部110aの凹部118aから導出流路212aに流入した潤滑油Uを、自重による自由落下により、導出流路212aの導出側に円滑に導くことができる。また、各導出流路212aの底には、導出流路212aの導出端側を向く第3の段差面216aが形成されている。これにより、導出流路212aに流れる潤滑油Uが凹部118a側に逆流することを抑制することができる。
【0070】
B-3.本実施形態の作用効果:
本実施形態の測定具100aを、デフケース10aの収容空間22a内に配置し、収集部110aの凹部118aが上側に開口した姿勢で固定する(図8および図9参照)。そして、デフケース10aを回転させると、その回転に伴って飛散した潤滑油Uが、回転中のデフケース10aの開口部24aを介して収容空間22aに流入し、収集部110aの凹部118aに収集され、導出部210aから外部に導出される。このため、導出部210aから導出された潤滑油Uの量を測定することにより、回転中のデフケース10aの収容空間22aへの潤滑油Uの流入量を測定することができる。その結果、差動ギヤ機構の各構成部材の焼き付きや破損等を実際に確認しなくても、適切な量の潤滑油Uを差動ギヤ機構に供給できているか否かを判断することができる。
【0071】
C.変形例:
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
上記実施形態におけるデフケース10,10aの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施形態では、デフケース10,10aは、一対の開口部24,24aが形成された構成であったが、例えば、開口部が1つだけ形成された構成や開口部が3つ以上形成された構成であってもよいし、開口部が形成されていない構成であってもよい。また、上記各実施形態では、連通孔として、開口部24,24aを例示したが、これに限らず、例えば、第1実施形態において、デフケース10における各回転軸部30,40の貫通孔32,42を構成する内周面に形成された螺旋形状の溝などでもよい。このような構成でも、測定具100の各導出部210,220に対するデフケース10の相対回転に伴い、溝の螺旋形状による螺子ポンプ作用により、潤滑油Uがデフケース10の収容空間22内に流入し、測定具100の収集部110に収集される。
【0073】
上記実施形態における測定具100,100aの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記第1実施形態では、測定具100の収集部110の形状は、上方に開放した平皿状であったが、これに限らず、例えば、凹部の底が深いコップ状であってもよい。また、凹部118側から見た収集部110の外形は、略円形に限らず、例えば矩形や楕円形などであってもよい。また、凹部118側から見た底部112の形状は、略円形に限らず、例えば矩形や楕円形などであってもよい。凹部118側から見た周壁部114の形状は、略円環状に限らず、例えば矩形枠状や楕円環状であってもよい。
【0074】
上記各実施形態において、デフケース10,10aの開口部24,24aが収集部110,110aの凹部118,118aに対向した状態で、開口部24,24aから収容空間22,22a側を見たとき、収集部110,110aの凹部118,118aの内周線L1,L1aの少なくとも一部は、開口部24,24aより内側に位置していてもよい。
【0075】
上記第1実施形態において、測定具100の凹部118側から見た収集部110の外周線L2と、デフケース10におけるケース本体20の内壁とは、少なくとも一部分が近接していなくてもよい。
【0076】
上記第1実施形態において、収集部110の凹部118における開口端と回転軸X1との間の距離D1は、デフケース10の開口部24と回転軸X1との間の最短距離D2より長くてもよい。
【0077】
上記第1実施形態において、右側凹部118Aと左側凹部118Bとは、形状と容積との少なくとも1つが異なっている構成であってもよい。
【0078】
上記第1実施形態において、例えば、収集部110の凹部118は、分けられておらず単一の収集空間を有する構成であってもよい。また、凹部118は、3つ以上の凹部に分けられた構成であってもよい。このような構成の場合、導出部には、3つ以上の凹部のそれぞれに個別に連通する導出流路が形成されていることが好ましい。これにより、3つ以上の凹部のそれぞれに収集された潤滑油の流入量を個別に測定することができる。なお、1つの導出部に複数の導出流路が形成されている構成であってもよい。
【0079】
上記第1実施形態において、隔壁部116は、凹部118側から見て、回転軸X1に直交する方向(Y軸方向)に対して傾斜した方向に延びていてもよいし、曲線状であってもよい。また、収集部110の凹部118は、例えば、凹部118側から見て、回転軸X1に平行な隔壁部によって前後方向に分けられた構成であってもよい。このような構成の差動装置用測定具を用いて差動装置の潤滑油量測定方法を実行することにより、差動ギヤ機構に対して前後方向における潤滑油の供給バランスを把握することができる。
【0080】
上記第2実施形態において、収集部110aの凹部118aが複数の凹部に分けられており、複数の凹部のそれぞれに連通する導出流路が1つの導出部210aに形成されている構成であってもよい。
【0081】
上記各実施形態において、凹部118,118aの底面は、導出部210,220,210a側に向かって下方(回転軸X1から離間する方向)に傾斜していなくてもよい。例えば、各凹部118,118aの底面は、平坦面であってもよい。
【0082】
上記第1実施形態において、右側導出部210と左側導出部220とは、形状とサイズとの少なくとも1つが互いに異なっていてもよい。また、上記各実施形態において、各導出部210,220,210aは、略円筒状以外に、例えば、断面半円状で、上面に導出流路を構成する溝が形成された構成であってもよい。
【0083】
上記各実施形態において、各導出流路212,222,212aの底(谷筋)は、凹部118,118a側から導出部210,220,210aの導出端に向かって水平状でもよいし、上方(回転軸X1から接近する方向)に傾斜していてもよい。
【0084】
上記各実施形態において、各導出流路212,222,212aの底に、上記段差面216,226,216aが3つ以上形成されていてもよいし、全く形成されていなくてもよい。
【0085】
また、上記各実施形態の測定具100,100aにおける各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。また、上記各実施形態における測定具100,100aを用いた差動装置の潤滑油量測定方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0086】
1:差動装置 10,10a:デフケース 20.20a:ケース本体 22,22a:収容空間 24,24a:開口部(連通孔) 30,30a:右側回転軸部(回転軸部) 32,32a:右側貫通孔(貫通孔) 40,40a:左側回転軸部(回転軸部) 42,42a:左側貫通孔(貫通孔) 50:差動ギヤ機構 100,100a:差動装置用測定具 110,110a:収集部 112,112a:底部 118,118a:凹部 118A:右側凹部(凹部) 118B:左側凹部(凹部) 210:右側導出部(導出部) 210a:導出部 212:右側導出流路(導出流路) 212a:導出流路 216,216a,226:段差面 220:左側導出部(導出部) 222:左側導出流路(導出流路) D1:距離 D2:最短距離 L1,L1a:内周線 L2:外周線 U:潤滑油 X1,X1a:回転軸
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図9