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特許7026044神経性状態および神経変性状態の治療としての長時間作用型GLP-1rアゴニスト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】神経性状態および神経変性状態の治療としての長時間作用型GLP-1rアゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20220217BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220217BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220217BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220217BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220217BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K38/22
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/70
A61K9/72
A61K47/60
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018532682
(86)(22)【出願日】2016-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 US2016068378
(87)【国際公開番号】W WO2017112889
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2018-08-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】62/387,319
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(72)【発明者】
【氏名】リー, ソルキ
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン, テッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】コ, ハン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン, ヴァリーナ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ユン, スン ピル
(72)【発明者】
【氏名】スカリー, マグダレーナ
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090129(JP,A)
【文献】特表2015-526523(JP,A)
【文献】特表2014-520798(JP,A)
【文献】特表2007-528719(JP,A)
【文献】The Journal of Clinical Investigation,2013,123(6),p.2730-2736
【文献】医学のあゆみ、Vol.241,No.7,p.501-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEG化エクセナチドを含む長時間作用型GLP-1rアゴニストを含む、神経変性疾患または障害を処置するための組成物であって、神経変性疾患または障害に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体に、薬学的有効量の前記組成物が投与され、前記神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和するか、ミクログリアおよびアストロサイトからなる群から選択される常在自然免疫細胞の活性化が遮断または低減されるか、あるいは、前記神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和することを特徴と、前記GLP-1rアゴニストが、非ヒト霊長類またはヒトにおいて12時間から200時間の間のin vivoでの半減期を有し、そして、前記組成物が週に2回以下の頻度で非経口的に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
PEG化エクセナチドを含む長時間作用型GLP-1rアゴニストを含む、神経変性疾患または障害を処置するための組成物であって、前記PEG化エクセナチドのPEG部分が20,000Da~100,000Daの間の分子量を有し、神経変性疾患または障害に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体に、薬学的有効量の前記組成物が投与され、前記神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和するか、ミクログリアおよびアストロサイトからなる群から選択される常在自然免疫細胞の活性化が遮断または低減されるか、あるいは、前記神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和することを特徴とし、前記組成物が週に2回以下の頻度で非経口的に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
GLP-1rの上方調節を介して、異常に凝集したタンパク質による免疫細胞の活性化が阻害される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
長時間作用型GLP-1rアゴニストの前記量が、活性化された前記自然免疫細胞から分泌される炎症性および/または神経毒性メディエーターの分泌を阻害するのに有効である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記異常に凝集したタンパク質が、α-シヌクレイン、β-アミロイドまたはtauである、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記長時間作用型GLP-1rアゴニストが、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、IL-6、およびC1qからなる群より選択される炎症性または神経毒性メディエーターを適切な対照と比較して低減するために有効な量で存在する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
長時間作用型GLP-1rアゴニストの前記有効量が、活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトの細胞集団を低減させる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項9】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
前記神経変性疾患がハンチントン病である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
前記神経変性疾患が筋萎縮性側索硬化症である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項12】
前記PEG化エクセナチドがNLY001であり、前記PEG化エクセナチドのPEGが50,000Daの分子量を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が皮下投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、丸剤、顆粒剤、散剤、塩、結晶、液剤、懸濁剤、ゲル剤、クリーム剤、ペースト剤、フィルム、パッチ剤、および吸入剤からなる群より選択される形態で投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、1カ月に1回から4回の間投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、週に1回投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、2週間ごとに投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、およそ1カ月に1回投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、2カ月に1回投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項20】
投与が、6カ月に1回~3回の範囲で投与することを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、ヒトに0.001mg/kgから100mg/kgの間の範囲内の用量で投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、ヒトに0.001mg/kgから10mg/kgの間の範囲内の用量で投与されることを特徴とする、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、前記被験体に約10年の期間にわたって投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項24】
処置の効果が少なくとも1年にわたって持続する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項25】
アルファ-シヌクレインの予め形成された原線維により誘導されるドーパミン作動性ニューロンの喪失からの保護をなす、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項26】
アルツハイマー病ニューロンにおけるアミロイド-ベータおよび/またはtau毒性からの保護をなす、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項27】
前記被験体において、対照と比べて、運動技能、記憶技能および認知技能が改善される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項28】
前記被験体において、対照と比べて、シナプスおよび/またはシナプス機能が保護される、神経発生が増強される、アポトーシスが低減する、ニューロンが酸化ストレスから保護される、プラーク形成が低減する、および慢性炎症応答が防止される、請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2015年12月23日に出願された米国仮出願第62/387,319号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)への優先権の利益を主張する。
【0002】
連邦政府によって資金提供を受けた研究または開発に関する声明
この発明は、National Institutes of Health(NIH)によって付与されたR21 CA 198243およびP50 CA103175の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
神経変性疾患は、ニューロンの死を含めた、ニューロンの構造または機能の進行性の喪失によって誘導される様々な状態を包含する。パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病(HD)を含めた多様な神経変性疾患は、神経変性プロセスが原因で生じる。
【0004】
パーキンソン病(PD)は、遅発性の進行性神経変性障害であり、米国人約百万人および世界的に7百万人~1千万人に影響を及ぼしている。症候性運動機能障害はドーパミン補充により緩和されるが、その効果は疾患が進行するにつれて低減し、それにより、重度の運動変動およびジスキネジアなどの許容されない副作用が導かれる。さらに、この待機的な治療手法は、疾患の基礎をなす機構に対処するものではない。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な神経変性疾患の1つであり、世界的に、認知症の症例の80%超を占める。アルツハイマー病により、精神的な、行動の、機能低下および学習能力の進行性の喪失が導かれる。現在認可されている処置、例えばアセチルコリンエステラーゼ阻害薬では単に症候の改善をもたらすだけであり、疾患プロセスは改変されない。アミロイドおよびtauに基づく治療薬を含めたいくつもの新しい戦略が臨床開発中であるが、本明細書に記載の発明以前には、ヒトにおける明白な有効性が証明された薬物は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人が長生きするようになり、より多くの人でこれらの一般的な消耗性の神経性障害が発生している。本明細書に記載の発明以前には、ヒトにおいてこの疾患を処置するまたはこの疾患の進行を停止させることができる、証明された神経保護療法は特定されていない。したがって、この厳しい進行性の慢性障害を処置する治療戦略の実質的なまだ対処されていない必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、中枢神経系に対する神経保護効果および疾患修飾効果を有する長時間作用型GLP-1r(グルカゴン様ペプチド1受容体)アゴニストの開発に少なくとも一部基づく。高分子量を有するにもかかわらず、中枢神経系障害、例えば神経変性疾患のマウスモデルにおいて、脳における高い生物活性ならびに有意な神経保護効果および疾患修飾効果を有する、皮下投与される長時間作用型エクセナチドが開発された。免疫グロブリンFc、アルブミン、またはPEGなどの高分子量の半減期延長担体と融合した、工学的に操作されたペプチド薬は、分子を、トランスフェリン受容体などのBBB受容体を標的とするように再度工学的に操作しなければ(Yu Y.J.ら、2014年、Sci. Transl. Med.、6巻(261号):261ra154頁)、血液脳関門(BBB)を容易に横断できない(Pardridge, W.M.、2005年、NeuroRx、2巻(1号):3~14頁)。本明細書には、非ヒト霊長類における半減期および平均滞留時間がBYETTA(登録商標)エクセナチド(半減期が2時間であるエキセンディン-4)およびリラグルチド(半減期が13時間である)と比較して有意に改善されたPEG化エクセナチド(NLY001)が記載されている。PEG化エクセナチドは、エクセナチドに部位特異的に付着させたポリエチレングリコール(PEG)分子によって生物学的活性が維持される(WO2013002580、参照により本明細書に組み込まれる)。この化合物は、半減期および効力が大きいので、週に1回、月に2回または月に1回の臨床的な投薬頻度に適している。この投薬頻度は、現行の1日2回の処置(エクセナチド、BYETTA(登録商標))または1日1回の処置(リラグルチド、VICTOZA(登録商標))に対する改善になる。しかし、高分子量の担体と融合したペプチド薬と同様に、このPEG化エクセナチドは、パーキンソン病(PD)またはアルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患における有効性が全身注射後に示されるとは予測されなかった。本明細書に記載の通り、1つの予想外の発見は、臨床的に関連するトランスジェニックPDおよびAD動物モデルにおいて、長時間作用型GLP-1rアゴニストであるPEG化エクセナチドの皮下投与により、脳における活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトを効率的に標的とすることによる明白な抗パーキンソン病効果および抗アルツハイマー病効果が実証されたことである。本明細書には、PDおよびAD、ならびにハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)などのミクログリアの活性化が中心的な病因の疾患である他の神経変性状態を処置するための、長時間作用型GLP-1rアゴニストの利用が記載されている。
【0008】
神経変性疾患の確立および/または進行に関与する重要な細胞であるミクログリアの活性化および反応性アストロサイトを選択的に遮断するまたは逆転させて神経毒性経路のカスケードの誘発を停止させるための組成物および方法が特定されている。当該方法は、長時間作用型GLP-1rアゴニストを被験体に投与するステップを含む。
【0009】
一実施形態では、哺乳動物の被験体における神経変性疾患を処置または防止するための方法は、BBBを透過し、PD脳において、「オフタイム(off time)」も「オフターゲットの(off-target)」毒性も伴わずに、継続的にGLP-1rを活性化する能力を有する長時間作用型GLP-1rアゴニストを投与するステップを含む。例えば、長時間作用型GLP-1rアゴニストであるNLY001は、PDモデルの脳およびADモデルの脳内に効率的に蓄積し、重要なことに、短時間作用型GLP-1rアゴニストのGLP-1r内部移行と比較して遅いGLP-1r内部移行を示す。脳における構成的なGLP-1r活性化は、GLP-1rアゴニストの相乗的な抗炎症特性および神経保護特性の最大化に寄与する。
【0010】
一実施形態では、ニューロン細胞を保護する方法は、グリオーシス(ミクログリアおよびアストロサイトの活性化)を遮断すること、ならびに活性化ミクログリアにおいて上方調節されたGLP-1rを標的とすることによって活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトからの毒性分子の放出を遮断することにより作用する。
【0011】
したがって、神経変性疾患または障害を処置する方法であって、神経変性疾患または障害に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体に長時間作用型GLP-1rアゴニストを含む薬学的有効量の組成物を投与して、神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和するステップを含む方法が本明細書において提示される。適切な長時間作用型GLP-1rアゴニストとしては、PEG化GLP-1r類似体、Fc融合GLP-1類似体、アルブミン融合GLP-1類似体、またはその誘導体が挙げられる。例示的な態様では、長時間作用型GLP-1rアゴニストは、PEG化エクセナチド類似体を含む。一部の場合では、神経変性疾患または障害は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、1型脊髄小脳失調症(SCA1)、およびプリオン障害からなる群より選択される。場合によって、神経変性障害は、パーキンソン病およびアルツハイマー病である。例示的な実施形態では、方法は、神経変性疾患または障害、例えば、パーキンソン病またはアルツハイマー病に罹患しているかまたはそれが発生するリスクがある患者を特定するステップをさらに含む。
【0012】
長時間作用型GLP-1rアゴニストにより常在自然免疫細胞の活性化が遮断されることが好ましい。例えば、自然免疫細胞は、ミクログリアおよび/またはアストロサイトを含む。一部の場合では、GLP-1rの上方調節を介して、異常に凝集したタンパク質による免疫細胞の活性化が阻害される。例えば、異常に凝集したタンパク質は、α-シヌクレイン、β-アミロイドまたはtauを含む。長時間作用型GLP-1rアゴニストの量は、活性化された自然免疫細胞から分泌される炎症性および/または神経毒性メディエーターの分泌を阻害するために有効な量である。
【0013】
一部の場合では、GLP-1rアゴニストは、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、IL-6、およびC1qからなる群より選択される炎症性または神経毒性メディエーターを適切な対照と比較して低減するために有効な量で投与される。一態様では、GLP-1rアゴニストは、活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトの細胞集団を低減するために有効な量で投与される。
【0014】
一実施形態では、脳内のTNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6もしくはC1qならびに/または活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトのレベルを、被験体において、適切な対照と比較して、正常レベルまで低減する、正常レベルに維持するまたは正常レベルまで回復させる。
【0015】
一実施形態では、アルファ-シヌクレイン(α-syn)(レビー小体)およびアミロイド斑およびtauなどの脳タンパク質の異常な沈着物のレベルを、被験体において、適切な対照と比較して、正常レベルまで低減させる、正常レベルに維持する、または正常レベルまで回復させる。
【0016】
一実施形態では、処置により、被験体において、適切な対照と比較して、運動欠陥が緩和されるまたは回復する、記憶機能が改善される、かつ/または、寿命が長くなる。
【0017】
適切な投与形式としては、経口投与、静脈内投与、局所投与、非経口投与、腹腔内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、病巣内投与、頭蓋内投与、鼻腔内投与、眼内投与、心臓内投与、硝子体内投与、骨内投与、脳内投与、動脈内投与、関節内投与、皮内投与、経皮投与、経粘膜投与、舌下投与、経腸投与、唇下投与(sublabial administration)、吹送投与(insufflation administration)、坐薬投与、吸入投与、および皮下投与が挙げられる。例示的な投与形式として、皮下投与が挙げられる。
【0018】
一部の場合では、組成物は、丸剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、塩、結晶、液剤(liquid)、血清、シロップ剤、懸濁剤、ゲル剤、クリーム剤、ペースト剤、フィルム、パッチ剤、および吸入剤を含む群より選択される形態で投与される。
【0019】
一態様では、本明細書に記載の組成物、例えばPEG化エクセナチドは、1カ月に約1~4回投与される。例えば、組成物は、およそ週に1回または週に2回投与される。あるいは、組成物は、およそ2週間に1回投与される。他の場合では、組成物は、1カ月に1回投与される。他の場合では、組成物は、2カ月に1回投与される。他の態様では、組成物は、6カ月に約1~3回投与される。あるいは、本発明の組成物は、1年に約1~12回、例えば、1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回、4カ月に1回、5カ月に1回、6カ月に1回、7カ月に1回、8カ月に1回、9カ月に1回、10カ月に1回、11カ月に1回、または12カ月に1回、投与される。
【0020】
本明細書に記載の組成物、例えばPEG化エクセナチドは、in vivoでの半減期が増大している、例えば、少なくとも2時間~200時間であることが好ましい。例えば、PEG化エクセナチドのin vivoでの半減期は、2時間、6時間、12時間、20時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、88時間、100時間、112時間、124時間、150時間、175時間、または200時間である。例示的な実施形態では、本発明の組成物の非ヒト霊長類におけるin vivoでの半減期は、88時間である。
【0021】
本明細書に記載の組成物は、0.001mg/kg~100mg/kg、例えば、0.001mg/kg、0.01mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kg、または100mg/kgの用量で投与される。例えば、齧歯類モデルでは、組成物は、0.2mg/kgから20mg/kgの間の用量で投与される。ヒトでは、組成物は、0.001mg/kgから10mg/kgの間の用量で投与することができる。
【0022】
一態様では、本明細書に記載の組成物は、被験体に、1から20年の間、例えば、1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年、11年、12年、13年、14年、15年、16年、17年、18年、19年、または20年にわたって投与される。場合によって、本明細書に記載の組成物は、10年にわたって投与される。一態様では、処置の効果は少なくとも1年にわたって持続する。
【0023】
本明細書に記載の組成物により、アルファ-シヌクレインに関連するドーパミン作動性ニューロンの喪失からの保護がなされることが好ましい。一態様では、本明細書に記載の組成物により、アルツハイマー病ニューロンにおけるアミロイド-ベータおよび/またはtau毒性からの保護がなされる。例えば、本明細書に記載の組成物により、アミロイド斑およびtauに関連するニューロンの喪失からの保護がなされる。一態様では、本明細書に記載の組成物により、被験体において、対照と比べて、運動技能および認知技能ならびに記憶技能が改善される。別の態様では、本明細書に記載の組成物により、被験体において、対照と比べて、シナプスおよび/またはシナプス機能が保護される、神経発生が増強される、アポトーシスが低減する、ニューロンが酸化ストレスから保護される、プラーク形成が低減する、ならびに、慢性炎症応答が防止される。
【0024】
長時間作用型グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP-1r)アゴニストおよび1つまたは複数のポリエチレングリコール(PEG)部分またはその誘導体を含む組成物も本明細書において提示される。一部の場合では、長時間作用型GLP-1rアゴニストは、PEG化GLP-1類似体またはその誘導体を含む。一部の場合では、長時間作用型GLP-1rアゴニストは、Fc融合GLP-1類似体またはアルブミン融合GLP-1類似体またはその誘導体を含む。一部の場合では、GLP-1rアゴニストは、エキセンディン-4類似体および/またはその誘導体である。一部の場合では、エキセンディン-4類似体は、ペプチドである。例えば、ペプチドは、配列:HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS(配列番号1)を含む。
【0025】
一態様では、PEG部分または誘導体は、直鎖状PEG、分枝状PEG、星状PEG、櫛状PEG(Comb PEG)、デンドリマーPEG、PEGスクシンイミジルプロピオネート、PEG N-ヒドロキシスクシンイミド、PEGプロピオンアルデヒド、PEGマレイミド、直鎖状メトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG)、分枝状mPEG、星状mPEG、櫛状mPEG、デンドリマーmPEG、mPEGスクシンイミジルプロピオネート、mPEG N-ヒドロキシスクシンイミド、mPEGプロピオンアルデヒド、およびmPEGマレイミドからなる群より選択される。一部の場合では、分枝状PEG部分または誘導体は、単量体、二量体および/または三量体PEG部分、またはその誘導体を含む。一部の場合では、PEG部分または誘導体は、三量体メトキシポリエチレングリコールマレイミドである。
【0026】
別の態様では、PEG部分は、少なくとも1,000ダルトンのPEG部分を含む。一部の場合では、PEG部分は、1,000~1,000,000ダルトンの範囲内のPEG部分を含む。他の例では、PEG部分は、10,000~500,000ダルトンの範囲内のPEG部分を含む。他の場合では、PEG部分は、20,000~250,000ダルトンの範囲内のPEG部分を含む。他の態様では、PEG部分は、30,000~100,000ダルトンの範囲内のPEG部分を含む。あるいは、PEG部分は、40,000~80,000ダルトンの範囲内のPEG部分を含む。例示的な実施形態では、本明細書に記載されているPEG化エクセナチドは、50,000ダルトンのPEG部分でPEG化されたエクセナチドである、NLY001である。
【0027】
定義
特に明記されているかまたは文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当技術分野における通常の許容度(tolerance)の範囲内、例えば、平均値から2標準偏差以内に入ると理解される。「約」とは、明示された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内に入ると理解することができる。別段文脈から明らかでない限り、本明細書において提示される数値は全て、「約」という用語で修飾される。
【0028】
「薬剤」とは、任意の小さな化合物、抗体、核酸分子、またはポリペプチド、またはその断片を意味する。
【0029】
「変更」とは、本明細書に記載のものなどの当技術分野で公知の標準の方法によって検出される遺伝子またはポリペプチドの発現レベルまたは活性の変化(増大または低下)を意味する。本明細書で使用される場合、変更は、発現レベルの少なくとも1%の変化、例えば発現レベルの、少なくとも2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の変化を含む。例えば、変更は、発現レベルの少なくとも5%~10%の変化、好ましくは、発現レベルの25%の変化、より好ましくは40%の変化、および最も好ましくは50%またはそれよりも大きな変化を含む。
【0030】
「好転させる(ameliorate)」とは、疾患の発生または進行を、低下させる、抑制する、減弱させる、縮小する、抑止する、または安定化することを意味する。
【0031】
分子に「結合する」とは、その分子に対して物理化学的な親和性を有することを意味する。
【0032】
「含む(comprising)」という移行用語は、「含む(including)」、「含有する」または「特徴とする」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加的な、列挙されていないエレメントまたは方法のステップは排除されない。対照的に、「からなる」という移行句は、特許請求の範囲において指定されていない、いかなる要素、ステップ、または成分も排除するものである。「から本質的になる」という移行句は、特許請求された発明の指定の材料またはステップ「ならびに基本的な特性および新規の特性に実質的に影響を及ぼさないもの」に特許請求の範囲を限定するものである。
【0033】
「対照」または「参照」とは、比較の標準を意味する。本明細書で使用される場合、「対照と比較して変化した」試料または被験体は、正常試料、未処置の試料、または対照試料に由来する試料と統計学的に異なるレベルを有するものと理解される。対照試料としては、例えば、培養物、1つもしくは複数の実験室試験動物、または1つもしくは複数のヒト被験体内の細胞が挙げられる。対照試料を選択し、試験する方法は、当業者の能力の範囲内である。分析物は、細胞または生物体によって特徴的に発現または産生される天然に存在する物質(例えば、抗体、タンパク質)であってもよく、レポーター構築物によって産生される物質(例えば、β-ガラクトシダーゼまたはルシフェラーゼ)であってもよい。検出に使用する方法に応じて、変化の量および測定は変動し得る。統計的有意性の決定、例えば、陽性の結果を構成する平均値からの標準偏差の数は、当業者の能力の範囲内である。
【0034】
「検出する」とは、検出しようとする分析物の存在、非存在または量を特定することを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「診断すること(diagnosing)」という用語は、病理または症状を分類すること、病理の重症度(例えば、グレードまたはステージ)を決定すること、病理の進行をモニタリングすること、病理の転帰を予想すること、および/または回復の見込みを決定することを指す。
【0036】
製剤または製剤成分の「有効量」および「治療有効量」という用語は、所望の効果をもたらすための、製剤または成分の単独または組合せでの十分な量を意味する。例えば、「有効量」とは、疾患、例えば前立腺がんの症状を未処置の患者と比べて、好転させるために必要な、化合物の単独でまたは組合せでの量を意味する。疾患の治療的処置のために本発明を実施するために使用される活性化合物の有効量は、投与の様式、被験体の年齢、体重、および全体的な健康に応じて変動する。最終的には担当する医師または獣医師が適切な量および投薬レジメンを決定する。そのような量は、「有効」量と称される。
【0037】
「断片」とは、ポリペプチドまたは核酸分子の一部を意味する。この部分は、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含有することが好ましい。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000ヌクレオチドまたはアミノ酸を含有し得る。
【0038】
「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋な」という用語は、ネイティブな状態において見出される場合には通常付随する成分が種々の程度で取り除かれた材料を指す。「単離する」とは、元々の供給源または周囲からのある程度の分離を意味する。「精製する」とは、単離よりも高い、ある程度の分離を意味する。
【0039】
「長時間作用型GLP-1rアゴニスト」とは、少なくとも1時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1カ月、または少なくとも2カ月にわたって有効であるGLP-1rアゴニストを意味する。
【0040】
「マーカー」とは、疾患または障害に関連して発現レベルまたは活性が変更される任意のタンパク質またはポリヌクレオチドを意味する。
【0041】
「モジュレートする」とは、変更(増大または低下)させることを意味する。そのような変更は、本明細書に記載のものなどの当技術分野で公知の標準の方法によって検出される。
【0042】
「神経変性疾患または障害」とは、ニューロンの死を含めた、ニューロンの構造または機能の進行性の喪失に関する一般的な用語を意味する。筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、およびハンチントン病を含めた多くの神経変性疾患は、神経変性プロセスの結果として生じる。そのような疾患は、不治であり、ニューロン細胞の進行性の変性および/または死がもたらされる。
【0043】
「正常な量」という用語は、疾患または障害と診断されていないことが分かっている個体における、複合体の正常な量を指す。分子の量を、試験試料において測定し、参照限界、識別限界、またはリスクを規定する閾値などの技法を利用して「正常対照レベル」と比較して、カットオフ点および異常な値(例えば、前立腺がんに関して)を定義することができる。「正常対照レベル」とは、一般には、前立腺がんに罹患していないことが分かっている被験体において見出される1つもしくは複数のタンパク質(もしくは核酸)のレベルまたは複合タンパク質指標(もしくは複合核酸指標)を意味する。そのような正常対照レベルおよびカットオフ点は、分子を単独で使用するか他のタンパク質と組み合わせて指標にする式で使用するかに基づいて変動し得る。あるいは、正常対照レベルは、以前に試験された、臨床的に関連する時間枠(time horizon)にわたって疾患または障害に転換しなかった被験体からのタンパク質パターンのデータベースであってよい。
【0044】
決定されるレベルは、対照レベルまたはカットオフレベルもしくは閾値レベルと同じであるか、対照レベルまたはカットオフレベルもしくは閾値レベルと比べて、上昇または低下し得る。一部の態様では、対照の被験体は、種、性別、民族性、年齢群、喫煙状況、ボディマス指数(BMI)、現在の治療レジメンの状況、病歴、またはこれらの組合せが同じであるが、問題の疾患に罹患していないかまたは疾患のリスクがないという点で診断されている被験体とは異なる、対応する対照である。
【0045】
対照レベルと比べて、決定されるレベルは上昇したレベルであり得る。本明細書で使用される場合、レベル(例えば、発現レベル、生物学的活性レベルなど)に関して「上昇した」という用語は、対照レベルを上回る任意の%の上昇を指す。レベルの上昇は、対照レベルと比べて、少なくともまたは約1%の上昇、少なくともまたは約5%の上昇、少なくともまたは約10%の上昇、少なくともまたは約15%の上昇、少なくともまたは約20%の上昇、少なくともまたは約25%の上昇、少なくともまたは約30%の上昇、少なくともまたは約35%の上昇、少なくともまたは約40%の上昇、少なくともまたは約45%の上昇、少なくともまたは約50%の上昇、少なくともまたは約55%の上昇、少なくともまたは約60%の上昇、少なくともまたは約65%の上昇、少なくともまたは約70%の上昇、少なくともまたは約75%の上昇、少なくともまたは約80%の上昇、少なくともまたは約85%の上昇、少なくともまたは約90%の上昇、または少なくともまたは約95%の上昇であり得る。
【0046】
対照レベルと比べて、決定されるレベルは、低下したレベルであり得る。本明細書で使用される場合、レベル(例えば、発現レベル、生物学的活性レベルなど)に関して「低下した」という用語は、対照レベルを下回る任意の%の低下を指す。レベルの低下は、対照レベルと比べて、少なくともまたは約1%の低下、少なくともまたは約5%の低下、少なくともまたは約10%の低下、少なくともまたは約15%の低下、少なくともまたは約20%の低下、少なくともまたは約25%の低下、少なくともまたは約30%の低下、少なくともまたは約35%の低下、少なくともまたは約40%の低下、少なくともまたは約45%の低下、少なくともまたは約50%の低下、少なくともまたは約55%の低下、少なくともまたは約60%の低下、少なくともまたは約65%の低下、少なくともまたは約70%の低下、少なくともまたは約75%の低下、少なくともまたは約80%の低下、少なくともまたは約85%の低下、少なくともまたは約90%の低下、または少なくともまたは約95%の低下であり得る。
【0047】
「薬学的に許容される担体」という句は、当技術分野において認められており、本発明の化合物を哺乳動物に投与するために適した、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを含む。担体としては、主題の薬剤の身体の1つの器官または部分から身体の別の器官または部分への運搬または輸送に関与する、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料が挙げられる。各担体は、製剤の他の成分と適合し、患者に対し傷害性ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体としての機能を果たし得る材料のいくつかの例としては、ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのその誘導体;粉末化トラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバターおよび坐薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油; プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張性食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに医薬製剤において用いられる他の無毒性の適合性物質が挙げられる。
【0048】
「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ペプチド」とは、本明細書に記載の通り、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関係なく、天然に存在するまたは天然に存在しないポリペプチドまたはペプチドの全部または一部を構成する2つよりも多くの天然アミノ酸または非天然アミノ酸の任意の鎖を意味する。
【0049】
「精製された」または「生物学的に純粋な」核酸またはタンパク質は、他の材料が十分に取り除かれており、したがって、いかなる不純物によるタンパク質の生物学的性質への実質的な影響も受けず、他の有害な結果も引き起こさない。すなわち、この発明の核酸またはペプチドは、組換えDNA技法によって生成された場合には細胞性材料、ウイルス材料、もしくは培養培地が実質的に取り除かれていれば、または化学的に合成された場合には化学的前駆体もしくは他の化学物質が実質的に取り除かれていれば、精製されたものである。純度および均一性は、一般には、分析化学技法、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを使用して決定される。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルにおいて本質的に1つのバンドを生じることを意味し得る。修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化に供され得るタンパク質に関しては、異なる修飾により、異なる単離されたタンパク質が生じ得、これは、別々に精製することができる。
【0050】
「実質的に純粋な」とは、ヌクレオチドまたはポリペプチドが天然では付随する成分から分離されていることを意味する。一般には、ヌクレオチドおよびポリペプチドは、天然では関連するタンパク質および天然に存在する有機分子が重量で少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、またはさらには99%取り除かれていれば、実質的に純粋である。
【0051】
本明細書において提示される範囲は、範囲内に入る全ての値の略記であることが理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群からの任意の数、数の組合せ、または部分範囲、ならびに上述の整数の間に入る小数の値、例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、および1.9などの全てを含むものと理解される。部分範囲に関しては、範囲のいずれかの終点から伸びた「入れ子状の部分範囲」が特に意図されている。例えば、例示的な1~50の範囲の入れ子状の部分範囲は、一方の方向に1~10、1~20、1~30、および1~40、または他方の方向に50~40、50~30、50~20、および50~10を含む。
【0052】
「低減する」とは、少なくとも1%、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の負の変更を意味する。
【0053】
「参照」とは、標準または対照の状態を意味する。
【0054】
「参照配列」とは、配列比較または遺伝子発現比較のための基礎として使用される、定義された配列である。参照配列は、指定の配列のサブセットまたはその全体、例えば、全長cDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全なcDNAまたは遺伝子配列であってよい。ポリペプチドに関しては、参照ポリペプチド配列の長さは、一般に、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、およびなおより好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸、または約100アミノ酸である。核酸に関しては、参照核酸配列の長さは、一般に、少なくとも約40ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、およびなおより好ましくは約100ヌクレオチドまたは約300または約500ヌクレオチドまたはその辺りもしくはその間の任意の整数である。
【0055】
本明細書で使用される場合、「薬剤を得ること」のような「得ること」とは、薬剤を合成すること、購入すること、または他の方法で獲得することを含む。
【0056】
「被験体」とは、これだけに限定されないが、ヒト、またはウシ科の動物、ウマ科の動物、イヌ科の動物、ヒツジ、またはネコ科の動物などの非ヒト哺乳動物を意味する。被験体は、処置を必要とする哺乳動物、例えば、疾患またはそれに対する素因を有すると診断された被験体であることが好ましい。哺乳動物は、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ならびに家畜または食品消費のために飼育されている動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、およびヤギである。好ましい実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0057】
「実質的に同一の」とは、ポリペプチドまたは核酸分子が参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか1つ)と少なくとも50%の同一性を示すことを意味する。そのような配列は、アミノ酸レベルまたは核酸レベルで、比較のために使用される配列と少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、およびより好ましくは90%、95%またはさらには99%同一であることが好ましい。
【0058】
「試料」という用語は、本明細書で使用される場合、in vitroにおける評価のために得た生体試料を指す。本明細書に開示されている方法に関しては、試料または患者試料は、任意の体液または組織を含み得ることが好ましい。一部の実施形態では、体液として、これだけに限定されないが、被験体から得た血液、血漿、血清、リンパ液、母乳、唾液、粘液、精液、膣分泌物、細胞抽出物、炎症性流体、脳脊髄液、糞便、硝子体液、または尿が挙げられる。一部の態様では、試料は、血液試料、血漿試料、血清試料、および尿試料のうちの少なくとも2つの複合パネルである。例示的な態様では、試料は、血液またはその画分(例えば、血漿、血清、白血球フェレーシスによって得られる画分)を含む。好ましい試料は、全血、血清、血漿、または尿である。試料は、組織または体液の部分的に精製された画分であってもよい。
【0059】
参照試料は、疾患もしくは状態流体(condition fluid)を有さないドナーに由来するか、または疾患もしくは状態を有する被験体の正常な組織に由来する「正常な」試料であってよい。参照試料はまた、未処置のドナーまたは活性薬剤で処置していない細胞培養物(例えば、未処置またはビヒクルのみの投与)に由来するものであってもよい。参照試料はまた、細胞もしくは被験体を薬剤もしくは治療介入に接触させる前の「ゼロ時点」で、または前向き研究の開始時に取得することもできる。
【0060】
「特異的に結合する」とは、化合物または抗体が、本発明のポリペプチドを天然に含む試料、例えば生体試料中の本発明のポリペプチドを認識し、それに結合するが、他の分子は実質的に認識せず、それに結合しないことを意味する。
【0061】
「被験体」という用語は、本明細書で使用される場合、示されている障害に罹患しやすい動物界の全てのメンバーを含む。一部の態様では、被験体は哺乳動物であり、一部の態様では、被験体は、ヒトである。方法は、イヌおよびネコなどの伴侶動物ならびにウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜、および他の家畜化された動物および野生動物にも適用可能である。
【0062】
特定の疾患、状態、または症候群に「罹患しているかまたは罹患している疑いがある」被験体は、十分な数の危険因子を有するか、または十分な数もしくは組合せの疾患、状態、もしくは症候群の徴候もしくは症状を示し、したがって、適格な個体により、その被験体が疾患、状態、または症候群に罹患していることが診断されるかまたは疑われる。心疾患、神経変性障害などに関連する状態に罹患しているかまたは罹患している疑いがある被験体を特定するための方法は、当業者の能力の範囲内である。特定の疾患、状態、または症候群に罹患している被験体、およびそれに罹患している疑いがある被験体は、2つの別個の群であるとは限らない。
【0063】
本明細書で使用される場合、特定の疾患または状態「にかかりやすい」または「になりやすい」または「の素因がある」または「が発生するリスクがある」とは、個体が、遺伝因子、環境因子、健康因子および/または他の危険因子に基づいて、母集団よりも疾患または状態が発生する可能性が高いことを指す。疾患が発生する可能性の増大は、約10%、20%、50%、100%、150%、200%、またはそれよりも大きな増大であり得る。
【0064】
「実質的に同一の」とは、ポリペプチドまたは核酸分子が、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すことを意味する。そのような配列は、比較のために使用される配列とアミノ酸レベルまたは核酸レベルで、少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、およびより好ましくは90%、95%またはさらには99%同一であること好ましい。
【0065】
「処置する」、「処置すること」、「処置」などの用語は、本明細書で使用される場合、有害な状態、障害、または疾患を患っている臨床的な症候がある個体に、症状の重症度および/もしくは発生頻度の低減をもたらすため、症状および/もしくはそれらの根底にある原因を排除するため、ならびに/または、損傷の改善または矯正を容易にするために、薬剤または製剤を投与することを指す。除外するものではないが、障害または状態の処置は、障害、状態またはそれに関連する症状が完全に排除されることを必要としないことが理解されよう。
【0066】
「PEG化」という用語は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖と、薬物、治療用タンパク質または小胞などの分子およびマクロ構造の共有結合性および非共有結合性の両方の付着または合体(amalgamation)のプロセスを指す。
【0067】
「防止する」、「防止すること」、「防止」、「予防的処置」などの用語は、特定の有害な状態、障害、または疾患が発生するリスクがあるか、それにかかりやすいか、またはその素因がある、臨床的に無症候の個体に薬剤または組成物を投与することを指し、したがって、症状の出現および/またはそれらの根底にある原因の防止に関する。
【0068】
一部の場合では、本発明の組成物は、経口的にまたは全身的に投与される。他の投与形式としては、直腸、局所、眼内、頬側、膣内、槽内、脳室内、気管内、経鼻、経皮的、埋め込み物内/上、または非経口経路が挙げられる。「非経口」という用語は、皮下、髄腔内、静脈内、筋肉内、腹腔内、または注入を含む。静脈内または筋肉内経路は、特に、長期間にわたる療法および予防法には適さない。しかし、救急の状況では好ましい可能性がある。本発明の組成物を含む組成物は、血液などの生理的流体に添加することができる。経口投与は、患者ならびに投薬スケジュールに対する利便性から、予防的処置に好ましい。非経口モダリティ(皮下または静脈内)は、より急性な疾病に対して、または胃腸不耐性、イレウス、もしくは重大な疾病の他の付随物に起因して経腸投与が許容できない患者に対する療法において好ましい可能性がある。吸入療法は、肺血管疾患(例えば、肺高血圧症)に最も適する可能性がある。
【0069】
医薬組成物は、急速に分裂している細胞、例えばがん細胞における細胞周期の抑止に使用するためのキットまたは医薬システムに組み立てることができる。本発明のこの態様によるキットまたは医薬システムは、バイアル、チューブ、アンプル、ビン、シリンジ、またはバッグなどの1つまたは複数の容器手段が密閉されたボックス、カートン(carton)、チューブなどの運搬手段を含む。本発明のキットまたは医薬システムは、キットを使用するための付随指示も含んでよい。
【0070】
特に明記されているかまたは文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、「または」という用語は、包括的であると理解される。特に明記されているかまたは文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、単数または複数であることが理解される。
【0071】
特に明記されているかまたは文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当技術分野における通常の許容度の範囲内、例えば、平均値から2標準偏差以内に入ると理解される。約とは、明示された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%の範囲内に入ると理解することができる。別段文脈から明らかでない限り、本明細書において提示される全ての数値は、約という用語によって修飾される。
【0072】
本明細書における変数の任意の定義における化学基の一覧の列挙は、その変数の任意の単一の基または列挙されている基の組合せとしての定義を含む。本明細書における変数または態様の実施形態の列挙は、その実施形態を、任意の単一の実施形態または任意の他の実施形態もしくはその一部との組合せとして含む。
【0073】
「治療有効量」とは、臨床結果を含めた、有益なまたは所望の結果をもたらすために十分な量である。有効量は、1回または複数回の投与で投与することができる。
【0074】
本明細書において提示される組成物または方法はいずれも、本明細書において提示される他の組成物および方法の任意の1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0075】
本発明の他の特徴および利点は、以下の好ましい実施形態についての記載から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。特に定義されていなければ、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料が下に記載されている。本明細書において引用されている公開された外国特許および特許出願は全て、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において引用されている受託番号によって示されるGenbankおよびNCBI付託物は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において引用されている他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献は全て、参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含めた本明細書に支配される。さらに、材料、方法および実施例は単に例示的なものであり、それに限定されるものではない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
神経変性疾患または障害を処置する方法であって、神経変性疾患または障害に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体に、長時間作用型GLP-1rアゴニストを含む薬学的有効量の組成物を投与して、前記神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を緩和するステップを含む、方法。
(項目2)
それを必要とする被験体に、有効量の長時間作用型GLP-1rアゴニストを投与して、常在自然免疫細胞の活性化を遮断するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
GLP-1rの上方調節を介して、異常に凝集したタンパク質による免疫細胞の活性化が阻害される、項目2に記載の方法。
(項目4)
長時間作用型GLP-1rアゴニストの前記量が、活性化された前記自然免疫細胞から分泌される炎症性および/または神経毒性メディエーターの分泌を阻害するのに有効である、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記自然免疫細胞が、ミクログリアおよび/またはアストロサイトである、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記異常に凝集したタンパク質が、α-シヌクレイン、β-アミロイドまたはtauである、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記長時間作用型GLP-1rアゴニストが、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、IL-6、およびC1qからなる群より選択される炎症性または神経毒性メディエーターを適切な対照と比較して低減するために有効な量で存在する、項目2に記載の方法。
(項目8)
長時間作用型GLP-1rアゴニストの前記有効量が、活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトの細胞集団を低減させる、項目5に記載の方法。
(項目9)
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記神経変性疾患がハンチントン病である、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記神経変性疾患が筋萎縮性側索硬化症である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記長時間作用型GLP-1rアゴニストが、PEG化GLP-1r類似体、Fc融合GLP-1類似体、アルブミン融合GLP-1類似体、またはその誘導体を含む、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記長時間作用型GLP-1rアゴニストが、PEG化エクセナチド類似体を含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記組成物が、経口投与、静脈内投与、局所投与、非経口投与、腹腔内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、病巣内投与、頭蓋内投与、鼻腔内投与、眼内投与、心臓内投与、硝子体内投与、骨内投与、脳内投与、動脈内投与、関節内投与、皮内投与、経皮投与、経粘膜投与、舌下投与、経腸投与、唇下投与、吹送投与、坐薬投与、吸入投与、または皮下投与によって投与される、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記組成物が皮下投与される、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記組成物が、丸剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、塩、結晶、液剤、血清、シロップ剤、懸濁剤、ゲル剤、クリーム剤、ペースト剤、フィルム、パッチ剤、および吸入剤からなる群より選択される形態で投与される、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記組成物が、1カ月に1回から4回の間投与される、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記組成物が、週に1回投与される、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記組成物が、2週間ごとに投与される、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記組成物が、およそ1カ月に1回投与される、項目1に記載の方法。
(項目22)
前記組成物が、2カ月に1回投与される、項目1に記載の方法。
(項目23)
投与するステップが、6カ月に1回~3回の範囲で投与することを含む、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記組成物のin vivoでの半減期が、非ヒト霊長類またはヒトにおいて12時間から200時間の間である、項目1に記載の方法。
(項目25)
前記組成物が、ヒトに0.001mg/kgから100mg/kgの間の範囲内の用量で投与される、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記組成物が、ヒトに0.001mg/kgから10mg/kgの間の範囲内の用量で投与される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記組成物が、前記被験体に約10年の期間にわたって投与される、項目28に記載の方法。
(項目28)
処置の効果が少なくとも1年にわたって持続する、項目1に記載の方法。
(項目29)
アルファ-シヌクレインの予め形成された原線維により誘導されるドーパミン作動性ニューロンの喪失からの保護をなす、項目1に記載の方法。
(項目30)
アルツハイマー病ニューロンにおけるアミロイド-ベータおよび/またはtau毒性からの保護をなす、項目1に記載の方法。
(項目31)
前記被験体において、対照と比べて、運動技能、記憶技能および認知技能が改善される、項目1に記載の方法。
(項目32)
前記被験体において、対照と比べて、シナプスおよび/またはシナプス機能が保護される、神経発生が増強される、アポトーシスが低減する、ニューロンが酸化ストレスから保護される、プラーク形成が低減する、および慢性炎症応答が防止される、項目1に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、PEG化エクセナチドであるNLY001の薬物動態(PK)プロファイルを示す。図1は、カニクイザルにおける、皮下投与されたエクセナチドおよびNLY001のPKプロファイルを示す(n=2)。t1/2:半減期、MRT:平均滞留時間。エクセナチドおよびOlaedinの半減期は、それぞれ2.7±0.9hおよび88.0±10.9hである。エクセナチドおよびOlaedinの平均滞留時間は、それぞれ2.5±0.3hおよび114.0±17.5hである。
【0077】
図2図2は、(図2A)α-シヌクレインPFF活性化初代ミクログリア細胞(n=4)、ならびに(図2B)健常者およびパーキンソン病の患者に由来するヒト死後脳組織(n=10)、および(図2C)健常者およびアルツハイマー病の患者に由来するヒト死後脳組織(n=6)における、mRNA GLP-1r発現プロファイルを示す一連の棒グラフである。P<0.05、***P<0.001。
【0078】
図3図3は、活性化ミクログリア-ニューロン共培養実験を示す概略図である。初代ミクログリアを、α-シヌクレインによって、NLY001を伴ってまたは伴わずに活性化し、ミクログリアを初代ニューロンと72時間にわたって共培養し、その後、ニューロン死アッセイを行った。
【0079】
図4図4Aおよび図4Bは、補完的なPDマウスモデルである(図4A)α-シヌクレインPFF誘導性PDモデルおよび(図4B)A53T α-シヌクレイントランスジェニックPDモデルにおける実験戦略を示す時系列を示す図である。
【0080】
図5図5は、α-シヌクレインPFF誘導性PDマウスにおけるNLY001処置により、脳内へのα-シヌクレインの蓄積が有意に阻害されることを示す一連の顕微鏡写真である。図5は、脳組織におけるα-シヌクレインLBに対して選択的な抗体を用いた免疫染色を示す(褐色、矢印)。
【0081】
図6図6は、PBSまたはNLY001を用いたhA53T α-シヌクレイントランスジェニック(Tg)PDマウスについてのカプラン-マイヤー生存曲線分析を示す。マウスを、6カ月齢時にビヒクル(PBS)またはNLY001を用いて処置した。
【0082】
図7図7は、ADマウスモデルにおける実験戦略を示す時系列を示す。
【0083】
図8図8は、NLY001で処置した3×Tg-ADマウスに対するモリス水迷路(MWM)試験の結果を示すグラフである。±S.E.M、1群当たりn=7匹のマウス。###WT+PBS群に対してp<0.001。**3×Tg AD+PBSに対してP<0.01、**3×Tg AD+PBSに対してP<0.001。
【0084】
図9図9は、ビヒクル(PBS)またはNLY001で処置した野生型(WT)マウスおよび3×Tg-ADマウスの代表的なビデオ追跡を示す一連の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
神経変性疾患は、ニューロンの死を含めた、ニューロンの構造または機能の進行性の喪失によって誘導される様々な状態を包含する。パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病(HD)を含めた多様な神経変性疾患は、神経変性プロセスが原因で生じる。
【0086】
パーキンソン病(PD)は、遅発性の進行性神経変性障害であり、米国人約百万人および世界的に7百万人~1千万人に影響を及ぼしている。症候性運動機能障害はドーパミン補充により緩和されるが、その効果は疾患が進行するにつれて低減し、それにより、重度の運動変動およびジスキネジアなどの許容されない副作用が導かれる。さらに、この待機的な治療手法は、疾患の基礎をなす機構に対処するものではない(Nagatsua, T.およびM. Sawadab、Parkinsonism Relat Disord、2009年、15巻、補遺1:S3~8頁)。
【0087】
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な神経変性疾患の1つであり、世界的に、認知症の症例の80%超を占める。アルツハイマー病により、精神的な、行動の、機能低下および学習能力の進行性の喪失が導かれる(Anand Rら、Neuropharmacology、2014年、76巻、パートA:27~50頁)。現在認可されている処置、例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬では単に症候の改善のみがもたらされ、疾患プロセスは改変されない。アミロイドおよびtauに基づく治療薬を含めたいくつもの新しい戦略が臨床開発中であるが、ヒトにおいて明白な有効性が証明された薬物はまだ存在しない。
【0088】
人が長生きするほど、より多くの人でこれらの一般的な消耗性の神経性障害が発生する。本明細書に記載の発明以前には、ヒトにおいて当該疾患を処置するまたはこの疾患の進行を停止させることができる、証明された神経保護療法は特定されていない。したがって、この厳しい進行性の慢性障害を処置する治療戦略の実質的なまだ対処されていない必要性が存在する。
【0089】
本明細書に記載の発明以前には、神経変性障害の基礎をなす病原機構は、複雑であり、大部分が不明であった。神経変性障害病理に関連する多くの因子の中で、ミクログリアおよび神経炎症がこの障害の重要な起源因子(originator)のうちの1つであると考えられている(Sanchez-Guajardoら、Neuroscience、2015年、302巻:47~58頁)。PDおよびADの文脈において、活性化ミクログリアの優勢な有害な役割が考察されてきた。脳における疾患の進行中に、休止状態のミクログリアが活性化を受け、それにより神経炎症およびニューロン損傷が直接、または腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-1α(IL-1α)、IL-1β、IL-6もしくはC1qなどの炎症促進性サイトカインを含めた毒性分子の放出を介したアストロサイト活性化によって引き起こされる(Hirsch ECら、Lancet Neurol、2009年、8巻:382~397頁;Saijo Kら、Cell、2009年、137巻:47~59頁;Farber Kら、J Neurosci Res、200. 87巻(3号):644~652頁)。本来、活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトは、神経変性疾患に関する主要な上流標的である。したがって、オフターゲットの毒性を伴わずにミクログリアの活性化を遮断し、毒性分子の放出をシャットダウンすることができる高度に選択的な薬剤を設計することにより、神経変性疾患における顕著な治療効果がもたらされる可能性がある。しかし、脳において副作用を伴わずに活性化ミクログリアを選択的に標的とするための確固とした方法がないことにより、この戦略は妨害される。
【0090】
本明細書に記載の発明以前には、神経変性疾患を防止する、止める、および/または好転させる療法が必要であった。したがって、本発明の目的は、オフターゲットの毒性を伴わずに神経変性疾患を処置および防止するための組成物および方法を提供することである。本発明の別の目的は、神経変性疾患において正常細胞は無傷のままにしながらミクログリアの活性化を遮断するまたは低減するための組成物および方法を提供することである。本発明の別の目的は、神経変性疾患において正常細胞は無傷のままにしながら反応性アストロサイトを遮断するまたは低減するための組成物および方法を提供することである。本発明の別の目的は、神経変性疾患において正常細胞は無傷のままにしながら活性化ミクログリアおよび/または反応性アストロサイトからニューロンを保護するための組成物および方法を提供することである。
【0091】
したがって、本発明は、パーキンソン病(PD)およびアルツハイマー病(AD)を、脳における高い生物活性を有する長時間作用型GLP-1r(グルカゴン様ペプチド1受容体)アゴニストを用いて処置するための組成物および方法の開発に少なくとも一部基づく。特に、本明細書に記載の通り、GLP-1類似体(例えば、エクセナチド)のPEG化された形態は、既存の処置と比較して長い半減期で疾患修飾効果を示す。これにより、PDおよび/またはADに罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体の処置において、より低頻度の投薬およびより良好な患者のコンプライアンスが可能になる。
【0092】
被験体は、1つまたは複数の他の非神経性の状態の存在下または非存在下でPDまたはADに罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体であってよい。非神経性の状態としては、1型糖尿病、2型糖尿病、がんなどの増殖性疾患、自己免疫疾患、ならびに炎症および感染などの他の局所または全身性疾患が挙げられる。
【0093】
本明細書に記載の通り、本発明は、例えば週に1回または月に1回注射可能な、PDおよびADにおける疾患修飾効果を有する、ペプチドに基づく薬物を含む。FDAに認可されたペプチド(BYETTA(登録商標))であり、グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP-1r)アゴニストであるエクセナチドが、最近数多くのPD患者において調査され、結果から、運動および認知症状の改善が実証されており、このことから、潜在的なPD療法が示される(Aviles-Olmos, I.ら、J Clin Invest、2013年、123巻(6号):2730~6頁;Simuni, T.およびP. Brundin、J Parkinsons Dis、2014年、4巻(3号):345~7頁)。下に詳細に記載されている通り、このグルカゴン様ペプチド1受容体(GLP-1r)アゴニストの適用についての理論的根拠は、神経変性の動物モデルにおいてGLP-1rアゴニストにより機能的に有益な神経可塑性を促進する神経保護効果が媒介されることが実証された実験的研究に基づく。エクセナチドの臨床結果は、薬物を投与した1年後にさえ運動および認知症状が改善されていることを実証するものである(Aviles-Olmos, I.ら、J Clin Invest、2013年、123巻(6号):2730~6頁;Simuni, T.およびP. Brundin、J Parkinsons Dis、2014年、4巻(3号):345~7頁)。PDを処置するエクセナチドの能力は、第2相臨床試験において調査されている。しかし、エクセナチドは半減期が短く(ヒトt1/2は2時間またはそれ未満である)、1日2回の皮下(s.c.)注射が必要であり、これは、特に進行期のPD患者にとって都合が悪く、難しい。本明細書に記載の組成物は、PDにおいて、投薬頻度を低減して、例えば、月に1回の投薬でエクセナチドと同様の薬理学的利益をもたらすものである。
【0094】
エクセナチド(エキセンディン-4)は、2型糖尿病(T2D)におけるインスリン放出を容易にする、GLP-1rのペプチドアゴニストであり、現在、T2Dに対してBYETTA(登録商標)として市場に出ている(Meier, J.J.、Nat Rev Endocrinol、2012年、8巻(12号):728~42頁)。このペプチドは、インスリン放出をグルコース依存的な様式で管理するものであり、したがって、非糖尿病患者に対して安全である。エクセナチドにより、神経変性プロセスの範囲も低減する(Holscher, C.、J Endocrinol、2014年、221巻(1号):T31~41頁)。前臨床モデルでは、ADマウスモデルおよびPDマウスモデルの脳において、エクセナチドは血液脳関門(BBB)を横断し、ADでは記憶形成またはPDでは運動活動を保護し、シナプスおよびシナプス機能を保護し、神経発生を増強し、アポトーシスを低減し、ニューロンを酸化ストレスから保護し、ならびにプラーク形成および慢性炎症応答を低減する。最近の臨床試験では、エクセナチドを用いて12カ月にわたって処置された、中程度に進行したPD患者では、運動および認知症状の改善が示され、この効果は処置終了後12カ月もの間持続した(Aviles-Olmos, I.ら、J Clin Invest、2013年、123巻(6号):2730~6頁;Simuni, T.およびP. Brundin、J Parkinsons Dis、2014年、4巻(3号):345~7頁)。
【0095】
短時間作用型GLP-1rアゴニスト(エクセナチドおよびリラグルチド)は、PDおよびADの毒素に基づく急性動物モデルにおいて神経保護効果を示す(Holscher, C.、J Endocrinol、2014年、221巻(1号):T31~41頁)。臨床的な関連性のある遺伝的α-シヌクレイン関連PD動物モデルにおいて抗PD有効性が実証されたGLP-1rアゴニストは存在しないことに留意するべきである。ADでは、短時間作用型GLP-1rアゴニストは、毒素に基づくADモデルにおいて神経保護特性を示したが、遺伝的ADトランスジェニック(Tg)マウスにおけるその抗AD効果については議論の余地がある。例えば、リラグルチドは、長期間にわたる処置の後、毒素に基づくモデルでは抗PD有効性を示したが、遺伝的AD Tgマウスモデルにおいて同様の効果の実証はできなかった(Hansen HHら、PLoS One.、2016年、11巻(7号):e0158205頁)。一般に、毒素により誘導された神経変性疾患モデルにおいてのみ有効性が証明された化合物は、多くの場合、臨床試験が不成功に終わった。最近、AD患者において、リラグルチドでは長期間にわたる処置後に認知スコアを変化させることができなかったことが報告された。総合して、これは、患者における上首尾の臨床試験を保証するために、PD(α-シヌクレインPD表現型)またはAD(アミロイドおよびtau表現型)病理生物学に関連する臨床的に関連するモデルにおいて強力な治療有効性を有する代替GLP-1rアゴニストが必要であることを意味する。本明細書に記載の組成物は、それぞれPDおよびADの神経変性プロセスの密接なモデルを示すとみなされるα-シヌクレイン関連PDモデルおよび3×Tg-ADモデルにおいて長時間作用型GLP-1rアゴニストの強力な抗PD治療有効性および抗AD治療有効性をもたらすものである。
【0096】
エクセナチドは、他のペプチド薬と同じく、血流中では本質的に寿命が短く、不安定であり、したがって、頻繁な注射が必要になる。PEG化は、タンパク質薬の半減期を延長するためのゴールドスタンダード(gold standard)の方法であるが(Harris, J.M.およびR.B. Chess、Nat Rev Drug Discov、2003年、2巻(3号):214~21頁)、一般に、小さなペプチド薬には、大きなPEG分子とのコンジュゲーションによりペプチドの生物学的活性が低下する(例えば、ネイティブなペプチドに対して1%未満の生物学的活性まで)ことも多いので、適用されない。本明細書に詳細に記載されている通り、強力な長時間作用型ペプチドに能力を付与するために、短時間作用型ペプチドの循環半減期を延長させながら、同時に、エクセナチドの治療活性を保存する独特のPEG化技術が開発された(特許公報WO2013002580およびUS20130217622、参照により本明細書に組み込まれる)。NLY001は、このPEG化技術が使用された長時間作用型の形態のエクセナチドであり、週に1回、月に2回または月に1回のT2D処置として調査されており(図1)、市場に出ている他のGLP-1rアゴニストと比較して有望な結果が伴っている。
【0097】
NLY001は、長時間作用型のPEG化された形態のエクセナチドとして、半減期が延長したものである(霊長類において88時間)。NLY001の長時間作用特徴は、依然として組成物がエクセナチドと同じ標的および作用機序に従うことを可能にする独特の半減期伸長技術によって工学的に操作される。GLP-1rのペプチドアゴニストであるエクセナチドは、GLP-1rを刺激することによってT2D患者におけるインスリン放出を容易にするのに加えて、多数の神経変性プロセスを遅延させる(Holscher, C.、J Endocrinol、2014年、221巻(1号): T31~41頁)。このペプチドは、インスリン放出をグルコース依存的な様式で管理するものであり、したがって、非糖尿病患者に対して安全である。
【0098】
長時間作用型エクセナチドに基づく療法として、NLY001は、エクセナチドと比較して改善された薬物送達手法をもたらすが、その薬理学的効果は維持される。例えば、下に詳細に記載されている通り、エクセナチドと同様に、NLY001により、PDにおける運動および認知症状が改善される。本明細書に記載の発明以前に特定されたエクセナチド療法とは異なり、NLY001は、患者に、単回または月に2回の注射で送達され、これにより、1日に多数回の注射が防止され、療法に対するコンプライアンスが改善される。
【0099】
NLY001は、小さなエクセナチドペプチド(約4,000Da)にコンジュゲートした高分子量ポリ(エチレングリコール)ポリマー(PEG、50,000Da)を有するので、血液脳関門(BBB)を横切ることができない可能性があることから、PDおよびADにおける薬理学的有効性がエクセナチドと同様であるのは完全に予想外であった(Pardridge, W.M.、NeuroRx、2005年、2巻(1号):3~14頁)。下に詳細に記載されている通り、PDおよびAD動物モデルの脳において、皮下投与されたNLY001が有意に高く蓄積し、いくつもの新しく確立されたPD動物モデル(Luk, K.C.ら、Science、2012年、338巻(6109号):949~53頁も参照されたい)およびAD動物モデルにおける明白な有益な効果が実証されることが予想外に発見された。下に詳細に記載されている通り、結果から、NLY001の投与により、アルファ-シヌクレインの予め形成された原線維(PFF)により誘導されるドーパミン作動性ニューロンの喪失からの保護がなされる、PFFにより誘導されるレビー小体様病理が低減する、PFFにより誘導される線条体ドーパミン末端(striatal dopamine terminal)密度の低減が阻害される、およびPFFによって誘導される行動欠陥が回復する、ならびにTg PDモデルの寿命が延長されることが実証される。重要なことに、NLY001により、脳において、ミクログリアの活性化が有意に遮断され、反応性アストロサイトの形成が減少する。総合すると、以下に詳細に記載されている所見から、NLY001がアルファ-シヌクレインPFFにより誘導される行動欠陥に対する有益な神経保護/疾患修飾効果を有することが明確に示される。同様に、Tg ADモデルでは、NLY001による処置により、記憶障害が好転され、ADの特質であるアミロイド凝集およびtau形成が低減した。PD試験と一致して、NLY001は、AD脳におけるミクログリアの活性化および反応性アストロサイトの集団を有意に阻害することが実証された。
【0100】
高分子量の半減期延長担体を保有する長時間作用型GLP-1rアゴニスト様GLP-1ペプチド類似体の抗PD有効性は、以前は分かっていなかった。本明細書に記載されている所見から、長時間作用型GLP-1rアゴニストの、いくつもの補完的な動物モデル(予め形成された原線維により誘導されるα-シヌクレイン病PDマウスモデル、A53T α-シヌクレインTgマウスモデルおよび3×Tg ADマウスモデル)における抗PD効果および抗AD効果が実証され、作用の機構が解明される。長時間作用型エクセナチドにより、PDおよびAD療法が改革され、それと相まって、患者のコンプライアンスが著しく改善される-週1回または月1回の処置の選択肢。注射の頻度が有意に低いエクセナチドに基づく療法の導入は、影響を受けている患者および家族にとって有効な処置選択肢である。
【0101】
PDの病理発生は、1)活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトによって誘導される神経炎症および神経毒性、2)ミトコンドリア機能障害、3)シナプス機能障害、および4)低レベルの神経栄養因子に起因する。エクセナチドの神経保護作用の機序は不確実であるが、増加している証拠から、PDの神経変性プロセスに寄与するこれらのプロセスの一部または全部を調節する/遅延させることが示唆される。したがって、下に詳細に記載されている通り、同様にNLY001によっても、これらの経路に有益な神経保護効果が付与される。下記の通り、新しく確立された、α-シヌクレインの予め形成された原線維(PFF)PDマウスモデルおよびA53T Tg PDマウスモデルでは、異常なレベルの活性酸素種(ROS)が示され、それにより、酸化ストレスの増大、その後、ミトコンドリア機能障害が導かれ、細胞間伝達経路を介してPD様レビー小体(LB)病理が再現される。これらのプロセスは全てPDの疾患プロセスに寄与する。本明細書に詳細に記載されている通り、2つの補完的なPDのマウスモデルへのNLY001の投与により、α-シヌクレイン関連PD病理からの保護がなされるので、NLY001も同様にこれらの経路に関与し、それを操作する。
【0102】
PDおよびADを含めた神経変性疾患の病因は、現在、大部分が明確に定義されている。神経変性疾患における免疫活性化の増大に関する証拠が存在する。大多数の研究は、PDおよびAD病理の脳の常在自然免疫細胞であるミクログリアおよびアストロサイトの役割に焦点を合わせていた(Sanchez-Guajardo Vら、Neuroscience.、2015年、302巻:47~58頁、Perry VHら、Nat Rev Neurol.、2014年、10巻:217~224頁)。神経変性ならびにα-シヌクレインおよびβ-アミロイドなどの異常に凝集したタンパク質の蓄積に応答して、休止状態のミクログリアが活性化された状態になり、それらの増殖を駆動し、アストロサイト(A1アストロサイト)を活性化するTNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、およびC1qを含めた種々のサイトカインおよび神経毒性分子を放出する。したがって、活性化ミクログリア、または活性化ミクログリアによって誘導される反応性アストロサイトから放出されるそのような炎症性メディエーターは、ニューロン損傷を引き起こし、神経変性疾患の進行に寄与する。したがって、活性化ミクログリアは、神経変性疾患における主要な上流の有害作用因子と記載することができる。オフターゲットの毒性を伴わずにミクログリアの活性化を阻害することが、神経変性プロセスを防止する、止める、および/または逆転させるための論理的な戦略である。しかし、本明細書に記載の発明以前には、ミクログリアの活性化を特異的に標的とするためのトランスレーショナルな方法がないことにより、この戦略が妨害された。例えば、NSAID(de Jong Dら、PLoS ONE.、2008年、23巻:e1475頁)、ロシグリタゾン(Gold Mら、Dement Geriatr Cogn Disord.、2010年、30巻:131~146頁)、スタチン(Feldman HHら、Neurology.、2010年、74巻:956~964頁)およびプレドニゾン(Aisen PSら、Neurology.、2000年、54巻:588~593頁)を含めた種々の抗炎症剤の臨床試験で、ADの進行を遅らせることが失敗に終わっている。期待外れの臨床試験結果は、BBB透過性が限定されることおよび/または重要な炎症促進性および神経毒性サイトカインの抑制が不十分であることに起因する。
【0103】
試験により、ミクログリアおよびアストロサイト活性化ならびに活性化された常在自然免疫細胞からの炎症性分子および神経毒性分子の放出を選択的に標的として、遮断し、したがって、神経変性疾患の進行を防止する、止める、および/または好転させるための独特の戦略が記載されている。予想外に、異常に凝集したタンパク質によって活性化されたミクログリアによりGLP-1rが上方調節され、活性化ミクログリアに結合した長時間作用型GLP-1rアゴニストによりTNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、およびC1qを含めた毒性分子の放出が有意に阻害され、ニューロンが保護されることが発見された。驚いたことに、GLP-1r内部移行アッセイにより、長時間作用型GLP-1rアゴニストが短時間作用型GLP-1rアゴニスト(エクセナチドおよびリラグルチド)と比較してGLP-1rの遅い内部移行を示し、GLP-1r再利用の速度が低減し、したがって、脳において持続的にGLP-1rを活性化し、GLP-1rシグナル伝達を誘導することが可能であることが発見された。短時間作用型GLP-1rアゴニストで処置された患者は、長期間にわたる処置中に治療効果が損なわれる「オフタイム」を経験する。対照的に、NLY001は、BBBを透過し、「オフタイム」およびオフターゲットの毒性を伴わずに持続的に脳においてGLP-1rを活性化する能力を有する。長時間作用型GLP-1rアゴニストのそのような独特の性質は、神経変性疾患におけるGLP-1rアゴニストの相乗的な抗炎症特性および神経保護特性を最大にするために欠かせない。
【0104】
パーキンソン病
パーキンソン病(PD、特発性または原発性パーキンソニズム、低運動性固縮症候群(hypokinetic rigid syndrome)(HRS)、または振戦麻痺としても公知)は、主に運動系に影響を及ぼす中枢神経系の変性疾患である。パーキンソン病の運動症状は、中脳の領域である黒質におけるドーパミン生成細胞の死に起因する。この細胞死の原因は、ほとんど理解されていない。疾患の経過の初期において最も明白な症状は動きに関連したものであり、これらとして、ふるえ、固縮、動きが遅いことならびに歩行(walking)および歩行(gait)が困難であることが挙げられる。後に、思考および行動の問題が生じる可能性があり、認知症が一般に疾患の進行期に生じ、うつ病が最も一般的な精神医学的症状である。他の症状としては、感覚、睡眠および感情的な問題が挙げられる。パーキンソン病は、高齢者により一般的であり、大多数の場合が50歳を過ぎてから生じ、若年成人で見られる場合は、若年発症PD(YOPD)と称される。
【0105】
主要な運動症状は、集合的に「パーキンソニズム」または「パーキンソン症候群」と称される。疾患は、原発性または二次性であり得る。原発性パーキンソン病は、特発性(原因不明)と称されるが、一部の非定型的な症例には遺伝的由来があり、一方、二次性パーキンソニズムは、毒素のような公知の原因により生じる。疾患の病理は、ニューロン内のレビー小体へのタンパク質の蓄積、ならびに中脳のある特定の部分におけるドーパミンの不十分な形成および活性を特徴とする。レビー小体が位置する場所は、多くの場合、個体の症状の発現および程度に関連する。典型的な症例の診断は、主に症状に基づき、確認のために神経画像処理などの検査を行う。
【0106】
パーキンソン病の診断には、医師による病歴の取得および神経学的検査の実施が伴う。疾患が明白に特定される臨床検査は存在しないが、時には脳スキャンを使用して、同様の症状を生じさせる可能性がある障害を除外する。人にレボドパを供給することができ、結果得られた運動障害の軽減により診断が確認される傾向がある。剖検の際の中脳におけるレビー小体の所見は、通常、その人がパーキンソン病を有する証拠とみなされる。時間をわたっての疾病の進行により、それがパーキンソン病ではないことが明らかになる可能性があり、一部の当局は、診断を定期的に再調査することを推奨している。パーキンソン症候群が二次的に生じる可能性がある他の原因は、アルツハイマー病、多発性脳梗塞および薬剤性パーキンソン症候群である。進行性核上性麻痺および多系統萎縮症などのパーキンソンプラス症候群(Parkinson plus syndrome)は除外しなければならない。抗パーキンソン病薬は、一般には、パーキンソンプラス症候群の症状の制御に関しては有効性が低い。進行速度が速いこと、初期の認知機能障害または姿勢不安定(postural instability)、発症時の最小限の振戦または対称性により、PD自体ではなくパーキンソンプラス病であることが示され得る。遺伝的形態は通常PDに分類されるが、遺伝の常染色体優性または劣性パターンを有する疾患実体には家族性パーキンソン病および家族性パーキンソニズムという用語が使用される。
【0107】
PD Society Brain Bank基準では、動きが遅いこと(運動緩徐)に加えて、固縮、安静時振戦、または姿勢不安定のいずれかが必要である。PDと診断する前にこれらの症状の他の可能性のある原因を除外する必要がある。最後に、発症または進展中に以下の特徴:片側発症、安静時振戦、時間内の進行、運動症状の非対称性、少なくとも5年にわたるレボドパへの応答、少なくとも10年の臨床経過および過剰なレボドパの摂取によって誘導されるジスキネジアの出現のうち3つまたはそれより多くが必要である。剖検時に評価される診断基準の正確度は75~90%であり、神経学者などの専門家による率が最も高い。PDの人のコンピュータ断層撮影法(CT)および従来の磁気共鳴画像法(MRI)脳スキャンは、通常、正常に見える。それにもかかわらず、これらの技法は、基底核腫瘍、血管の病理および水頭症などの、パーキンソニズムの二次的原因であり得る他の疾患を除外するために有用である。MRIの特定の技法である拡散MRIが定型パーキンソニズムと非定型パーキンソニズムの間の識別に有用であることが報告されているが、その正確な診断的価値はまだ調査中である。基底核におけるドーパミン作動性機能は、異なるPETおよびSPECT放射性トレーサーを用いて測定することができる。例は、SPECT用のイオフルパン(123I)(商品名DaTSCAN)およびイオメトパン(Dopascan)またはPET用のフルオロデオキシグルコース(18F)およびDTBZ。基底核におけるドーパミン作動性活性の低減のパターンがPDの診断の助けになり得る。
【0108】
処置、一般には、薬品L-DOPAおよびドーパミンアゴニストにより、疾患の初期症状が改善される。疾患が進行し、ドーパミン作動性ニューロンが継続的に失われるにつれて、最終的にこれらの薬物は症状の処置に有効でなくなり、同時に、不随意のもがく動きを特徴とする合併症が生じる。薬物が有効ではない重症の症例において最後の手段として、運動症状を低減するために外科手術および脳深部刺激が使用されている。症候性運動機能障害はドーパミン補充により緩和されるが、その有効性は疾患が進行するにつれて低減し、それにより、重度の運動変動およびジスキネジアなどの許容されない副作用が導かれる。さらに、疾患の進行を停止する療法は存在しない(Lang, A.E.およびA.M. Lozano、N Engl J Med、1998年、339巻(15号):1044~53頁;Lang, A.E.およびA.M. Lozano、N Engl J Med、1998年、339巻(16号):1130~43頁)。さらに、この待機的な治療手法は、疾患の基礎をなす機構に対処するものではない(Nagatsua, T.およびM. Sawadab、Parkinsonism Relat Disord、2009年、15巻、補遺1:S3~8頁)。
【0109】
パーキンソニズムという用語は、主要な症状が安静時振戦、硬直、動きが遅いことおよび姿勢不安定である運動症候群に対して使用される。パーキンソン症候群は、それらの起源に応じて4つの亜型に分けることができる:原発性または特発性、二次性または後天性、遺伝性パーキンソニズム、およびパーキンソンプラス症候群または多系統変性症。通常は運動障害に分類されるPDでは、感覚欠損、認知困難または睡眠問題などの、いくつかの非運動型の症状も生じる。パーキンソンプラス病は、追加的な特徴を示す原発性パーキンソニズムである。それらとして、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびレビー小体型認知症が挙げられる。
【0110】
病態生理に関して、PDは、脳にtauタンパク質が神経原線維変化の形態で蓄積するアルツハイマー病などの他の疾患とは対照的に、アルファ-シヌクレインタンパク質が脳内にレビー小体の形態で異常に蓄積することに起因するシヌクレイン病(synucleiopathy)と考えられる。それにもかかわらず、タウオパチーとシヌクレイン病の間には、臨床的および病理学的な重複が存在する。アルツハイマー病の最も典型的な症状である認知症がPDの進行期に生じ、一方、PDの影響を受けている脳において神経原線維変化が見出されることが一般的である。レビー小体型認知症(DLB)は、PD、特に認知症を伴うPD症例のサブセットと類似性を有する別のシヌクレイン病である。しかし、PDとDLBの関係は複雑であり、依然として明らかにする必要がある。これらは、連続したものの一部を示す場合もあり、別々の疾患である場合もある。
【0111】
特定の遺伝子の変異によりPDが引き起こされることが決定的に示されている。これらの遺伝子は、アルファ-シヌクレイン(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2またはダーダリン(dardarin))、PTENにより誘導される推定キナーゼ1(PINK1)、DJ-1およびATP13A2をコードする。ほとんどの場合、これらの変異を有する人ではPDが発生する。しかし、LRRK2を例外として、これらはPDのほんの少数の症例にしか関与しない。最も広範囲にわたって試験されたPD関連遺伝子はSNCAおよびLRRK2である。SNCA、LRRK2およびグルコセレブロシダーゼ(GBA)を含めた遺伝子の変異は、散発性PDの危険因子であることが見出されている。GBAの変異により、ゴーシェ病が引き起こされることが公知である。散発症例における浸透度が低い変異した対立遺伝子を検索するゲノムワイド関連解析により、現在多くの陽性の結果がもたらされている。
【0112】
アルファ-シヌクレインタンパク質はレビー小体の主要な成分であるので、SNCA遺伝子の役割はPDにおいて重要である。黒質およびいくつかの他の脳領域の組織病理学(顕微解剖学)により、残りの神経細胞の多くにおけるニューロンの喪失およびレビー小体が示される。ニューロンの喪失は、アストロサイト(星状グリア細胞)の死およびミクログリア(別の型のグリア細胞)の活性化を伴う。レビー小体は、PDの重要な病理学的特徴である。
【0113】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、認知症の症例の60%~70%を占める。アルツハイマー病は、多くの場合ゆっくりと開始するが、時間をわたって次第に悪化する慢性の神経変性疾患である。最も一般的な初期症状は、短期記憶喪失である。疾患が進行すると、症状として、言語の問題、気分変動、意欲低下、見当識障害、行動の問題、および身の回りの管理不十分が挙げられる。徐々に、体の機能が失われ、最終的に死に至る。進行の速度は変動し得るが、診断後の平均余命は3~9年である。アルツハイマー病の原因はほとんど理解されていない。リスクの約70%は、多くの遺伝子が関与する遺伝的なものと考えられている。他の危険因子としては、頭部傷害、高血圧症、またはうつ病の病歴が挙げられる。疾患プロセスは脳内のプラークおよびもつれに関連する。
【0114】
アルツハイマー病は、大脳皮質およびある特定の皮質下領域におけるニューロンおよびシナプスの喪失を特徴とする。この喪失の結果、側頭葉および頭頂葉、ならびに前頭皮質および帯状回の一部における変性を含めた、影響を受けている領域の肉眼で見える萎縮が生じる。アルツハイマー病は、異常にフォールディングされたA-ベータタンパク質およびtauタンパク質の脳内への蓄積によって引き起こされるタンパク質ミスフォールディング疾患(プロテオパチー)であるという仮説が立てられている。プラークは、ベータ-アミロイドと称される(A-ベータまたはAβとも書かれる)39~43アミノ酸長の小さなペプチドでできている。ベータ-アミロイドは、ニューロンの膜を通って透過する膜貫通タンパク質である、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と称される、より大きなタンパク質に由来する断片である。APPは、ニューロンの成長、生存および傷害後修復に欠かせない。アルツハイマー病では、未知のプロセスにより、APPが、酵素によってタンパク質分解を介してより小さな断片に分割される。これらの断片のうちの1つからベータ-アミロイドの原線維が生じ、これが、老人斑として公知の、高密度の構成でニューロンの外側に沈着する凝集塊を形成する。
【0115】
可能性の高い診断(probable diagnosis)は、病歴および認知力テストに基づき、他の可能性のある原因を除外するために医用画像および血液検査を伴う。最初の症状は、多くの場合、正常な老化と間違えられる。明確な診断のためには脳組織の検査が必要である。アルツハイマー病は、完全な医学的評価によって診断される。人がアルツハイマー病を有するかどうかを決定することができる1つの臨床的検査は存在しない。通常、いくつかの検査を実施して、認知症のあらゆる他の原因を除外する。診断の唯一の決定的方法は、生検または剖検から得た脳組織の検査である。検査(例えば、血液検査および脳画像診断など)を使用して、認知症様症状の他の原因を除外する。臨床検査およびスクリーニングは、全血球算定;電解質パネル;スクリーニング代謝パネル;甲状腺機能検査;ビタミンB-12葉酸レベル;梅毒の検査、および病歴に応じてヒト免疫不全抗体の検査;尿検査;心電図(ECG);胸部X線;コンピュータ断層撮影(CT)頭部スキャン;および脳波(EEG)を含む。腰椎穿刺も全体的な診断において情報価値があり得る。
【0116】
リスクを低下させる薬品またはサプリメントは存在しない。進行を止めたりまたは逆転させたりする処置は存在しないが、一部の処置により、症状が一時的に改善する。
【0117】
GLP-1アゴニスト(例えば、エクセナチド)
エクセナチド(BYETTA(登録商標)、Bydureonとして販売されている)は、2型糖尿病の処置に関して2005年4月に認可された、インクレチン模倣物の群に属するグルカゴン様ペプチド-1アゴニスト(GLP-1アゴニスト)薬品である。BYETTA(登録商標)の形態のエクセナチドは、いつでも、その日の最初の食事および最後の食事の前60分以内に腹部、大腿、または腕の皮下注射として(皮下に)投与される。2012年1月27日時点でBydureonの商標の下で週に1回の注射が認可されている。Bydureonは、Amylin Pharmaceuticalsにより製造され、Astrazenecaにより販売されている。
【0118】
エクセナチドは、アメリカドクトカゲの唾液中に見出されるホルモンであるエキセンディン-4の合成バージョンである。エクセナチドは、グルコース代謝およびインスリン分泌の調節因子であるヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)と同様の生物学的性質を示す。添付文書によると、エクセナチドは、膵臓ベータ細胞によるグルコース依存性インスリン分泌を増強し、不適切に上昇したグルカゴン分泌を抑制し、胃内容排出の速度を落とすが、作用機構はまだ研究中である。
【0119】
エクセナチドは、血糖調節効果(glucoregulatory effect)を有するインスリン分泌促進物質である、39アミノ酸のペプチドである。エクセナチドのペプチド配列は、H(His)G(Gly)E(Glu)G(Gly)T(Thr)F(Phe)T(Thr)S(Ser)D(Asp)L(Leu)S(Ser)K(Lys)Q(Gln)M(Met)E(Glu)E(Glu)E(Glu)A(Ala)V(Val)R(Arg)L(Leu)F(Phe)I(Ile)E(Glu)W(Trp)L(Leu)K(Lys)N(Asn)G(Gly)G(Gly)P(Pro)S(Ser)S(Ser)G(Gly)A(Ala)P(Pro)P(Pro)P(Pro)S(Ser)(配列番号1)である。エクセナチドは、糖尿病が他の経口薬では十分に制御されなかった患者に対して、2005年4月28日にFDAによって認可された。この薬品は、1日当たり2回、充填済みペン様デバイスを使用して皮下注射される。
【0120】
インクレチンホルモンGLP-1およびグルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)は、食物摂取後に腸のLおよびK内分泌細胞によって産生される。GLP-1およびGIPにより、膵臓内のランゲルハンス島のベータ細胞からのインスリン分泌が刺激される。糖尿病の状態ではGLP-1のみによってインスリン分泌が引き起こされるが、GLP-1自体は、in vivoでの半減期が非常に短いので、糖尿病に対する臨床処置としての効果はない。エクセナチドは、GLP-1に対して50%のアミノ酸相同性を有し、また、in vivoでの半減期がより長い。したがって、エクセナチドを、哺乳動物においてインスリン分泌を刺激し、血中グルコースを低下させるその能力について試験し、糖尿病の状態において有効であることが見出された。齧歯類での試験では、エクセナチドにより膵臓内のベータ細胞の数が増加することも示されている。
【0121】
商業的には、エクセナチドは、直接化学合成によって作製される。歴史的に、エクセナチドは、アメリカドクトカゲの唾液中に天然に分泌され、尾部に濃縮されるタンパク質であるエキセンディン-4として発見された。エキセンディン-4は、哺乳動物GLP-1と広範囲にわたる相同性および機能を共有するが、DPP-IV(哺乳動物においてGLP-1を破壊する)による分解に対する抵抗性に関して治療的利点があり、したがって、より長い薬理学的半減期が可能になる。エキセンディン-4の生化学的特性により、エクセナチドを真性糖尿病の処置戦略として考察し、開発することが可能になった。その後の臨床的検査により、同じく望ましいグルカゴンおよび食欲抑制効果の発見が導かれた。
【0122】
1日2回のBYETTA(登録商標)形態のエクセナチドにより、インスリンレベルは直ちに(投与から約10分以内)上昇し、インスリンレベルはそれから1、2時間にわたり実質的に下がる。食後に摂る用量の血糖に対する効果は、前もって摂った場合よりもはるかに小さい。血糖に対する効果は、6~8時間後に減少する。この薬は、BYETTA(登録商標)形態では、2つの用量:5mcg.および10mcgで利用可能である。処置は、多くの場合、5mcgで開始する。有害作用が有意でなければ投与量を増大する。週1回のBydureon形態は、注射間の時間およびいつ食事を摂るかの影響を受けない。Bydureonには、血糖低下のために24時間のカバレッジ(coverage)がもたらされるという利点があり、BYETTA(登録商標)には、摂食直後に起こる血糖スパイクのより良好な制御がもたらされるという利点がある。BydureonのFDAラベルによれば、Bydureonにより、HbA1c血糖が平均1.6%低下し、一方、BYETTA(登録商標)ではHbA1c血糖が平均0.9%低下する。BYETTA(登録商標)およびBydureonのどちらにも同様の体重減少の利益がある。FDAに認可されたBydureonラベルによれば、悪心のレベルは、Bydureon患者の方がBYETTA(登録商標)患者よりも低い。
【0123】
一部の実施形態では、本発明は、PDおよびADを処置するための、他の(非エクセナチド)型の長時間作用型GLP-1アゴニストの使用に基づく。一部の場合では、長時間作用型GLP-1アゴニストは、Fc融合GLP-1(例えば、デュラグルチド、エフペグレナチド(efpeglenatide))またはその誘導体を含む。一部の場合では、長時間作用型GLP-1アゴニストは、アルブミン融合GLP-1(例えば、アルビグルチド)またはその誘導体を含む。PDまたはADを処置するために使用されるFc融合GLP-1組成物の例は、デュラグルチドである。デュラグルチドは、週1回使用することができる、2型糖尿病を処置するためのグルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト(GLP-1アゴニスト)である。デュラグルチドは、ヒトIgG4のFc断片と共有結合により連結したGLP-1(7-37)からなり、それにより、GLP-1部分がジペプチジルペプチダーゼ4による不活化から保護される。GLP-1は、血液中のグルコース(血糖(glycemia))のレベルの正常化に関与するホルモンである。GLP-1は、通常、食事に応答して、胃腸粘膜のL細胞から分泌される。デュラグルチドは、グルカゴン様ペプチド1受容体に結合し、胃内容排出の速度を落とし、膵ベータ細胞によるインスリン分泌を増加させる。同時に、当該化合物は、糖尿病患者において不適切であることが分かっている上昇したグルカゴン分泌を、膵臓のアルファ細胞を阻害することにより低減する。PDまたはADを処置するために使用されるGLP-1組成物のアルブミン融合物の例は、アルビグルチドである。アルビグルチドは、2型糖尿病の処置に使用されるグルカゴン様ペプチド-1アゴニスト(GLP-1アゴニスト)薬物である。アルビグルチドは、ヒトアルブミンと融合した、ジペプチジルペプチダーゼ4抵抗性グルカゴン様ペプチド-1二量体である。アルビグルチドの半減期は4~7日である。
【0124】
ポリエチレングリコール(PEG)
ポリエチレングリコール(PEG)は、工業製造から薬まで多くの適用を有するポリエーテル化合物である。PEGの構造(括弧内の繰り返し要素に留意されたい)は、:H-(O-CH2-CH2)n-OHである。PEGは、その分子量に応じてポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても公知である。PEG、PEO、またはPOEは、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。この3つの名称は化学的に同義であるが、歴史的に、生物医学分野ではPEGが好ましく、一方、PEOはポリマー化学の分野においてより広く用いられている。異なる適用には異なるポリマー鎖長が必要であるので、PEGは、分子質量が20,000g/mol未満のオリゴマーおよびポリマーを指し、PEOは分子質量が20,000g/molを超えるポリマーを指し、POEはあらゆる分子質量のポリマーを指す。PEGおよびPEOは、それらの分子量に応じて液体または低融点の固体である。PEGは、エチレンオキシドの重合によって調製され、300g/molから10,000,000g/molまでの広範囲の分子量にわたって市販されている。分子量が異なるPEGおよびPEOは異なる適用に使用され、また、鎖長効果に起因して異なる物理特性(例えば、粘度)を有するが、それらの化学的性質はほぼ同一である。重合プロセスのために使用される開始剤に応じて、異なる形態のPEGも利用可能である-最も一般的な開始剤は、単官能性メチルエーテルPEG、またはメトキシポリ(エチレングリコール)、略してmPEGである。低分子量PEGは、より純粋なオリゴマーとしても入手可能であり、単分散、均一、または個別(discrete)と称される。非常に高純度のPEGは結晶性であり、結晶構造をX線回析によって決定することが可能になることが最近示されている。純粋なオリゴマーの精製および分離は難しく、この型の品質の価格は、多くの場合、多分散PEGの10~1000倍である。
【0125】
PEGは、種々の幾何学で利用することができる。分枝状PEGは、中心コア基から発する3~10本のPEG鎖を有する。星状PEGは、中心コア基から発する10~100本のPEG鎖を有する。櫛状PEGは、通常はポリマー骨格に移植された多数のPEG鎖を有する。多くの場合PEGの名称に含まれる数字は、それらの平均分子量を示す(例えば、n=9のPEGは、平均分子量がおよそ400ダルトンであり、PEG 400と表示される)。大多数のPEGは、分子量の分布を有する分子を含む(すなわち、多分散である)。サイズ分布は、その重量平均分子量(Mw)およびその数平均分子量(Mn)によって統計学的に特徴付けることができ、その比は多分散指数(Mw/Mn)と称される。MWおよびMnは、質量分析によって測定することができる。
【0126】
PEG化は、PEG構造を別のより大きな分子、例えば、治療用タンパク質に共有結合によりカップリングする行為であり、カップリング後、当該タンパク質はPEG化タンパク質と称される。PEG化インターフェロンアルファ-2aまたは-2bは、C型肝炎への感染に対して一般に使用される注射可能な処置である。PEGは、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ベンゼン、およびジクロロメタンに可溶性であり、ジエチルエーテルおよびヘキサンに不溶性である。PEGを疎水性分子とカップリングさせて非イオン性界面活性剤を作製する。PEGは、エチレンオキシドおよび1,4-ジオキサンなどの潜在的に毒性の不純物を含有する。エチレングリコールおよびそのエーテルは、損傷を受けた皮膚に適用した場合、腎毒性である。
【0127】
ポリエチレングリコール(PEG)および関連するポリマー(PEGリン脂質構築物)は、生物医学的適用に使用される場合には超音波処理されることも多い。しかし、PEGは、超音波溶解による分解(sonolytic degradation)に対して非常に感受性が高く、また、PEG分解生成物は哺乳動物細胞に対して毒性であり得る。したがって、最終的な材料が、実験結果にアーチファクトを導入する可能性がある、実証されていない夾雑物を含有しないことを確実にするために、潜在的なPEG分解を評価することが必須である。
【0128】
PEGおよびメトキシポリエチレングリコールは、名称の後ろの数字によって示される分子量に応じて、液体から固体までコンシステンシーにおいて変動する。これらは、界面活性剤として、食物中、化粧品中、製剤学で、バイオ医薬品中、分散剤として、溶媒として、軟膏剤中、坐薬基剤中、錠剤賦形剤として、および緩下剤として、を含め、多数の適用において商業的に使用されている。いくつかの特定の群は、ラウロマクロゴール、ノノキシノール、オクトキシノール、およびポロキサマーである。
【0129】
ポリエチレングリコールは、エチレンオキシドと水、エチレングリコール、またはエチレングリコールオリゴマーとの相互作用によって作製される。反応は、酸性または塩基性触媒によって触媒される。出発材料としては水ではなくエチレングリコールおよびそのオリゴマーが好ましい。なぜなら、これらにより、多分散性が低い(分子量分布が狭い)ポリマーの創出が可能になるからである。ポリマー鎖長は、反応物の比に依存する。
HOCH2CH2OH+n(CH2CH2O)→HO(CH2CH2O)n+1H
【0130】
触媒の型に応じて、重合の機構は、陽イオン性または陰イオン性であり得る。エチレンオキシドの重合は、発熱性プロセスである。
【0131】
ポリエチレンオキシド、または高分子量ポリエチレングリコールは、懸濁重合により合成される。重縮合プロセスの過程中、成長しているポリマー鎖を溶液中に保持することが必要である。反応は、マグネシウム有機元素化合物、アルミニウム有機元素化合物、またはカルシウム有機元素化合物によって触媒される。溶液からのポリマー鎖の凝固を防止するために、ジメチルグリオキシムなどのキレート化添加剤を使用する。低分子量ポリエチレングリコールを調製するためには水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、または炭酸ナトリウム(Na2CO3)などのアルカリ触媒を使用する。
【0132】
PEGは、多くの医薬製品に賦形剤として使用される。低分子量バリアントは、経口液剤および軟カプセル剤に溶媒として使用され、固体バリアントは、軟膏剤の基剤、錠剤の結合剤、フィルムコーティング、および滑沢剤として使用される。PEGは、点眼剤を滑沢にすることにも使用される。
【0133】
ポリエチレングリコールは、毒性が低く、種々の製品に使用される。ポリマーは、水性環境および非水性環境において種々の表面に対して滑沢コーティングとして使用される。PEGは柔軟な水溶性ポリマーであるので、非常に高い浸透圧(およそ数十気圧)を創出するために使用することができる。PEGは、生物学的な化学物質と特異的な相互作用を有する可能性は低い。これらの性質により、PEGは、生化学および生体膜実験において、特に浸透ストレス技法を使用する場合に、浸透圧を適用するための最も有用な分子のうちの1つになっている。
【0134】
PEG化(PEGylation)(ペグ化(pegylation)と称されることも多い)は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖と、薬物、治療用タンパク質または小胞などの分子およびマクロ構造の共有結合性および非共有結合性の両方の付着または合体のプロセスであり、プロセス後、PEG化された(PEGylated)(ペグ化された(pegylated))と記載される。PEG化は、PEGの反応性誘導体を標的分子と一緒にインキュベートすることによって慣例的に達成される。PEGの薬物または治療用タンパク質への共有結合による付着により、薬剤を宿主の免疫系から「遮蔽する」(免疫原性および抗原性を低減する)ことができ、また、薬剤の流体力学的サイズ(溶液中でのサイズ)を増大させ、腎クリアランスの低減によってその循環時間を延長することができる。PEG化により、疎水性の薬物およびタンパク質に水溶性をもたらすこともできる。
【0135】
PEG化は、多くの治療薬の安全性および効率を改善することが可能な、ポリマーPEGの鎖を分子、最も典型的にはペプチド、タンパク質、および抗体断片に付着させるプロセスである。PEG化により、コンフォメーション、静電結合、疎水性などの変化を含めた生理化学的性質の変更が生じる。これらの物理的変化および化学的変化により、治療剤の全身的な保持が増大する。また、治療用部分の細胞受容体に対する結合親和性に影響を及ぼし得、吸収および分布パターンが変更され得る。
【0136】
PEGは、コンジュゲーションに関して特に魅力的なポリマーである。薬学的適用に関連したPEG部分の特異的な特徴は、水溶性、溶液中での高い移動性、毒性の欠如および低免疫原性、体からの容易なクリアランス、および変更された体内分布である。
【0137】
PEG化プロセス
PEG化の第1のステップは、一方の末端または両方の末端におけるPEGポリマーの適切な官能化である。各末端で同じ反応性部分を用いて活性化されたPEGは、「ホモ二官能性」として公知であり、存在する官能基が異なる場合には、PEG誘導体は「ヘテロ二官能性」または「ヘテロ官能性」と称される。PEGを所望の分子に付着させるために、PEGポリマーの化学的に活性なまたは活性化された誘導体を調製する。
【0138】
タンパク質コンジュゲーションのための全体的なPEG化プロセスは、2つの型、すなわち、液相バッチプロセスおよびオンカラム流加プロセスに広範に分類される。単純にかつ一般に、採用されるバッチプロセスは、試薬を、適切な緩衝溶液中、好ましくは4℃から6℃の間の温度で混合し、その後、所望の産物を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)および膜または水性二相系を含めた、その物理化学的性質に基づいて適切な技法を使用して分離および精製することを伴う。
【0139】
PEG誘導体に適した官能基の選択は、PEGとカップリングする分子上の利用可能な反応性基の型に基づく。タンパク質に関しては、典型的な反応性アミノ酸として、リシン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシンが挙げられる。N末端アミノ基およびC末端カルボン酸をアルデヒド官能性ポリマーとのコンジュゲーションによる部位特異的部位として使用することもできる。第1世代PEG誘導体を形成するために使用される技法は、一般に、PEGポリマーを、ヒドロキシル基に対して反応性の基、一般には、無水物、酸塩化物、クロロホルメートおよびカーボネートと反応させることである。第2世代PEG化化学では、アルデヒド、エステル、アミドなどのより効率的な官能基がコンジュゲートに利用可能になっている。
【0140】
PEG化の適用はますます進行し洗練されてきているので、コンジュゲーション用のヘテロ二官能性PEGの必要性が増している。これらのヘテロ二官能性PEGは、2つの実体の連結において、親水性の柔軟かつ生体適合性のスペーサーが必要な場合に非常に有用である。ヘテロ二官能性PEGの好ましい末端基は、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミン、カルボン酸およびNHSエステルである。粘度が低減し、また、器官への蓄積がない、ポリマーの形状が分枝状、Y形または櫛形である第3世代PEG化薬剤が利用可能である。PEG化化合物のクリアランス時間が予測できないことにより、高分子量化合物の肝臓内への蓄積が導かれ、それにより、毒性学的な結果が分かっていない封入体が導かれる可能性がある。さらに、鎖長の変更により、予想外のin vivoクリアランス時間が導かれる可能性がある。
【0141】
GLP-1rアゴニスト(NLY001、PB-119、LY2428757)のPEG化
下記の通り、エキセンディン-4類似体(例えば、エクセナチド)またはGLP-1類似体の収率を選択的PEG化によって上昇させることができ、薬品の処置効果を増大させることができる。そのような技術により、分子量、代謝部位の防御および免疫原性部位の阻害が増大し、それにより、in vivo半減期および安定性が増大し、免疫原性が低下する。さらに、PEGが結合したペプチドおよびタンパク質は、PEGによって分子量が増大していることに起因して、その腎臓排泄が低減し、したがって、PEG化には、効果を薬物動態的にかつ薬力学的に増大させるという利点がある。
【0142】
また、本発明によるポリエチレングリコールまたはその誘導体は、直鎖型または分枝型であり、分枝型に関しては、好ましくは二量体型または三量体型を使用することができ、より好ましくは三量体型を使用することができる。具体的には、ポリエチレングリコール誘導体は、例えば、メトキシポリエチレングリコールスクシンイミジルプロピオネート、メトキシポリエチレングリコールN-ヒドロキシスクシンイミド、メトキシポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、メトキシポリエチレングリコールマレイミド、またはこれらの誘導体の多数の分枝型である。ポリエチレングリコール誘導体は、直鎖状メトキシポリエチレングリコールマレイミド、分枝型メトキシポリエチレングリコールマレイミドまたは三量体メトキシポリエチレングリコールマレイミドであることが好ましく、三量体メトキシポリエチレングリコールマレイミドであることがより好ましい。
【0143】
本明細書に記載の通り、ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたエキセンディン-4類似体(例えば、エクセナチド)を調製した後、類似体の分子構造を、質量分析装置、液体クロマトグラフィー、X線回析分析、旋光分析、およびPEG化エクセナチドを構成する代表的な要素の計算値と測定値の比較によって確認することができる。
【0144】
本発明の組成物を薬品として使用する場合、ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたエキセンディン-4類似体(例えば、エクセナチド)を含有する医薬組成物は、臨床的投与の場合、それだけに限定されないが、以下の種々の経口投与形態または非経口投与形態に製剤化した後に投与することができる。
【0145】
経口投与用の製剤に関しては、例えば、錠剤、ペレット、硬/軟カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤などが存在し、これらの製剤は、活性成分に加えて、希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン)、滑り改変剤(slip modifier)(例:シリカ、タルク、ステアリン酸およびそのマグネシウムまたはカルシウム塩ならびに/またはポリエチレングリコール)を含む。錠剤は、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリジンなどの結合剤も含んでよく、また、必要であれば、デンプン、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩もしくは煮沸混合物などの崩壊剤、ならびに/または吸収剤、着色剤、矯味矯臭剤および甘味剤を含んでよい。
【0146】
ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたエキセンディン-4類似体を含有する医薬組成物は、非経口投与することができ、投与は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、胸腔内注射、または局所投与によって行う。
【0147】
ポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたエキセンディン-4類似体(例えば、エクセナチド)は、水中で安定剤または緩衝液と混合して非経口投与用製剤に製剤化することによって液剤または懸濁剤として調製することができ、これをアンプルまたはバイアル単位投与形態に調製することができる。組成物は滅菌されたものである、かつ/または、防腐薬、安定剤、水和化剤(hydrator)または乳化刺激剤、浸透圧制御用塩および/または緩衝液、ならびに処置のために有益な他の物質などのアジュバントを含んでよく、混合、顆粒化またはコーティングの伝統的な方法に従って製剤化することができる。
【0148】
本発明によるポリエチレングリコールまたはその誘導体でPEG化されたエキセンディン-4類似体(例えば、エクセナチド)を含有する医薬組成物のヒト身体の用量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態および疾患のレベルに応じて変動し得、医師または薬剤師の決定に従って、好ましくは1日当たり0.01~200mg/kgの用量で経口経路または非経口経路によって投与することができる。
【0149】
血液脳関門(BBB)
血液脳関門(BBB)は、中枢神経系(CNS)において循環血液を脳細胞外液(BECF)から分離する高度に選択的な透過性関門である。血液脳関門は、非常に高い電気抵抗率を有する密着結合によって接続した脳内皮細胞によって形成される。血液脳関門を創出するためにアストロサイトが必要である。血液脳関門により、脂質可溶性分子、水、および一部の気体の受動拡散による通過、ならびに神経機能に極めて重要なアミノ酸およびグルコースなどの分子の選択的な輸送が可能になる。血液脳関門は、全ての脳毛細血管に沿って存在し、通常の循環中には存在しない毛細血管周囲の密着結合からなる。内皮細胞により、顕微鏡レベルの物体(例えば、細菌)および大きなまたは親水性分子の脳脊髄液(CSF)中への拡散は制限されるが、小さな疎水性分子(例えば、O2、CO2、ホルモン)の拡散は許容される。関門の細胞により、グルコースなどの代謝産物が、特定のタンパク質を用いて関門を横切って能動輸送される。
【0150】
この「関門」は、溶質の通過を制限する、CNS血管における内皮細胞間の密着結合の選択性から生じる。血液と脳の界面において、内皮細胞は、より小さなサブユニット、頻繁には例えばオクルジン、クローディン、接合部接着分子(JAM)、またはESAMなどの膜貫通タンパク質である生化学的二量体で構成されるこれらの密着結合によって縫合される。これらの膜貫通タンパク質のそれぞれが、zo-1および関連タンパク質を含む別のタンパク質複合体によって内皮細胞に繋ぎ止められている。
【0151】
血液脳関門は、脳毛細血管内皮によって形成され、大分子神経療法薬の約100%および全ての小分子薬物の98%超を脳から排除する。治療剤を脳の特定の領域に送達することの難しさを克服することに、大多数の脳障害の処置に関する難題が生じる。神経保護的な役割において、血液脳関門は、多くの潜在的に重要な診断剤および治療剤の脳への送達を妨げるように機能する。診断および療法において他の点で有効であり得る治療用分子および抗体は、適切な量でBBBを横断しない。脳への薬物標的化の機構は、BBBを「通って」または「後ろから」進むことを伴う。BBBを通る薬物送達/剤形のモダリティには、浸透手段によって;ブラジキニンなどの血管作動性物質の使用によって生化学的に;またはさらには高密度焦点式超音波(HIFU)への限局的曝露によってBBBを崩壊させることを伴う。BBBを通過するために使用される他の方法は、グルコース担体およびアミノ酸担体などの担体媒介性輸送体;インスリンまたはトランスフェリンに対する受容体媒介性トランスサイトーシス;ならびにp-糖タンパク質などの能動的流出輸送体の遮断を含めた内在性輸送系の使用が伴い得る。しかし、トランスフェリン受容体などのBBB輸送体を標的とするベクターは、BBBを横切って大脳実質内に運ばれるのではなく、毛細血管の脳内皮細胞内に捕捉されたままになることが見出されている。BBBの後ろからの薬物送達のための方法としては、脳内埋め込み(例えば、針を使用して)および対流増加送達(convection-enhanced distribution)が挙げられる。さらに、BBBの迂回にマンニトールを使用することができる。
【0152】
トランスフェリン受容体などの血液脳関門受容体を標的とする能力を有さないペプチドまたはタンパク質生物学的薬物はBBBを横切ることができないことが周知である。PEG化エクセナチド類似体またはGLP-1類似体は高分子量であり、また、血液脳関門受容体を標的とするリガンドを欠くので、本明細書に記載の組成物が血液脳関門を横切り、PDおよびADを処置することは予想外であった。
【0153】
限定するものと解釈されるべきではない以下の実施例によって本発明がさらに例示される。本出願ならびに図面を通して引用されている全ての参考文献、特許および公開特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0154】
(実施例1:活性化ミクログリアはGLP-1rを上方調節し、GLP-1rのアゴニストはミクログリアの活性化を選択的に遮断し、多数の神経毒性分子の放出を阻害する。)
【0155】
活性化ミクログリアは、神経変性疾患の起源因子のうちの1つである。ミクログリアの活性化により、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6、およびC1qなどの炎症促進性および神経毒性メディエーターの産生が増強される。結果として、これらの炎症性メディエーターにより、直接またはアストロサイト活性化を介して神経炎症およびニューロン損傷が誘導される。例えば、TNF-αは、ニューロンを含めた種々の脳細胞によって非常に低いレベルで発現されるが、ミクログリアおよびアストロサイトが病原体または損傷によって活性化されると、高レベルのTNF-αを発現し放出する。活性化ミクログリアによって産生されるTNF-αがニューロン細胞におけるアポトーシスを誘発するために必要であり、十分であり(Guadagno Jら、Cell Death and Disease.、2013年、4巻:e538頁)、TNF-αがPD、AD、多発性硬化症および他の神経変性疾患などの種々の脳病理に寄与する証拠があることが報告されている。本明細書に記載の発明以前には、ヒトにおけるミクログリア活性化およびアストロサイト活性化を選択的に標的とし、影響を及ぼす、臨床的に試験された確固とした方法は存在していなかった。
【0156】
結果
長時間作用型GLP-1rアゴニストであるNLY001は、休止状態のミクログリアから変換された活性化ミクログリアを標的とし、神経変性疾患における多数の炎症性および神経毒性メディエーターを同時に阻害したことが特定された。初代ミクログリアを、異常に凝集したタンパク質、例えばα-シヌクレインの予め形成された原線維(PFF)によって活性化すると、活性化ミクログリアによりGLP-1rのmRNAレベルが上方調節された(図2A図2B、および図2C)。PDおよびADの患者由来の脳組織は、健康な脳組織と比較して上方調節されたGLP-1rを示す(図2A図2B、および図2C)。重要なことに、ミクログリアをα-シヌクレインPFF(1μg/ml)およびNLY001(1μM)を用いて6時間にわたって処置すると、NLY001によりミクログリアの活性化が遮断され、TNF-α、IL-1α、IL-1βおよびIL-6を含めた多数の炎症性メディエーターの放出が有意に低減した。in vivoでは、皮下投与されたNLY001により、TNF-α、IL-1α、IL-1β、IL-6およびC1qのレベルが同時に阻害されたことが発見された(表1)。この結果から、長時間作用型GLP-1rアゴニストが、上方調節されたGLP-1rを介して活性化ミクログリアを選択的に標的とすることができ、神経変性疾患においてニューロン損傷を誘導する可能性がある多数の炎症性および毒性メディエーターの放出を同時にシャットダウンすることができることが示される。
【0157】
【表1】
【0158】
(実施例2:NLY001は、ニューロンを活性化ミクログリアにより媒介されるニューロン細胞死から保護する。)
【0159】
材料および方法
α-シヌクレインPFFにより誘導されるミクログリア神経毒性に対するNLY001の効果を決定するために、NLY001を試験して、NLY001により、初代ニューロンが、α-シヌクレインPFFによって活性化されたミクログリアにより媒介されるニューロン細胞死から保護されるかどうかを確かめた。これに取り組むために、ミクログリア細胞を、α-シヌクレインPFF(1μg/ml)によって、NLY001(1μM)を伴ってまたは伴わずに、6時間にわたって活性化し、次いで、培養培地を洗い流した。その後、図3に記載されている通り、初代ニューロンを活性化ミクログリアと72時間にわたって共培養した。ニューロン毒性をPI染色によって評価した。
【0160】
結果
表2に要約されている通り、α-シヌクレインPFFにより活性化されたミクログリア細胞と共培養したニューロンでは細胞死の増大が示された。対照的に、ニューロンをPFFおよびNLY001を用いて処置したミクログリアと共培養した場合には、ニューロン細胞死の有意な低減が実証された。この結果は、NLY001により、神経変性疾患の進行中、異常に凝集したタンパク質によって活性化された変換したミクログリア細胞またはアストロサイトからニューロン細胞を保護することができることを意味する。
【0161】
【表2】
【0162】
(実施例3:長時間作用型GLP-1rアゴニストNLY001は、短時間作用型GLP-1rアゴニストと比較して遅いGLP-1r内部移行を介してGLP-1rを構成的に活性化する。)
【0163】
神経変性疾患の臨床的に関連するトランスジェニックマウスモデルにおける短時間作用型GLP-1rアゴニストの有効性は不明である。例えば、リラグルチド(1日1回の注射)は、長期間にわたる処置後の2×Tg ADモデルにおけるβ-アミロイド斑負荷量に対する効果を示さなかった(Hansen HHら、PLoS One.、2016年、11巻(7号):e0158205頁)。PDでは、臨床的に関連するTgまたは変異体PDモデルにおいて有効性が実証されたGLP-1rアゴニスト(短時間作用型または長時間作用型)はなかった。全体として、短時間作用型GLP-1rアゴニストは、急性の毒素に基づくPDモデルおよびADモデルでは有効性が証明されたが、慢性のトランスジェニックモデルでは有効性は証明されなかった。短時間作用型GLP-1rアゴニストは、慢性PDまたはADモデルにおいては低減した有効性を示すまたは有効性を示さない可能性がある。歴史的に、毒素に基づく神経変性モデルにおいてのみ有効性が証明された化合物の大部分が、臨床試験が失敗に終わっている。対照的に、実施例に記載の通り、NLY001は、多数のおよび補完的な慢性PDモデルおよびADモデルにおいて強力な抗PD有効性および抗AD有効性が明白に実証された。
【0164】
短時間作用型GLP-1rアゴニストとは異なり、NLY001は、長時間作用型GLP-1rアゴニストであり、予想外にBBBを透過し、神経変性疾患の脳内への高い蓄積を示す(表)。短時間作用型GLP-1rアゴニストは、脳内のGLP-1rを持続的に活性化する能力を欠くので、神経変性疾患を有する慢性Tgモデルにおいては有効でない。活性なGLP-1リガンドを脳に持続的に送達することが可能なNLY001の血漿中半減期の延長に加えて、分子レベルで、NLY001は、短時間作用型GLP-1rアゴニストと比較してGLP-1r内部移行を有意に遅延させ、したがって、GLP-1シグナル伝達を増幅することができることが特定された(表3)。したがって、NLY001は、長い血漿中半減期とBBBを透過する能力を組み合わせて、短時間作用型GLP-1rアゴニストと比較して、「オフタイム」を伴わずに、GLP-1rを持続的に活性化し、脳内の標的細胞におけるGLP-1シグナル伝達を誘導することができる。
【0165】
短時間作用型GLP-1rおよび長時間作用型GLP-1rのGLP-1r内部移行特性を、PathHunter GLP1RA activated GRPC Internalization Assay kit(DisoverRX、CA)を使用することによって調査した。簡単に述べると、このキットは、製造者のマニュアルに記載されている通り、アレスチン(arresting)と活性化された受容体との相互作用を酵素断片の補完を使用して検出する。PathHunter eXpressにより活性化したGPCR内部移行細胞を96ウェルプレートにプレーティングし(1ウェル当たり細胞10個)、2種の短時間作用型GLP-1rアゴニスト(エクセナチドおよびリラグルチド)ならびに長時間作用型GLP-1rアゴニストであるNLY001を10-12~10-6Mの濃度で用いて刺激した。刺激後、製造者により推奨されるプロトコールに従ってシグナルを検出した。表3に要約されている通り、NLY001により、短時間作用型GLP-1rアゴニストであるエクセナチドおよびリラグルチドと比較して、アゴニスト刺激についてのEC50(nM)に関してGLP-1r内部移行の10~20倍の遅延が実証された。
【0166】
【表3】
【0167】
(実施例4:NLY001は、α-シヌクレイン関連グリオーシス(ミクログリアおよびアストロサイト活性化)を低減し、α-シヌクレイン凝集を阻害し、LB/LN病理を好転させ、α-シヌクレインPFF誘導性PDマウスにおける運動欠陥を緩和する。)
【0168】
材料および方法
動物
実験手順は全て、Johns Hopkins Medical Institute Animal Care and Use Committeeにより承認されたLaboratory Animal Manual of the National Institute of Health Guide to the Care and Use of Animalsのガイドラインに従った。α-シヌクレインPFF誘導性PDマウスを調製した(Luk, K.C.ら、Science、2012年、338巻(6109号):949~53頁)。α-シヌクレインPFFを定位注射するために、12週齢の雄マウスを、キシラジン(xylazene)およびケタミンを用いて麻酔した。注射カニューレ(26.5ゲージ)を線条体(前後、ブレグマから3.0mm;中外側、0.2mm;背腹側(dorsoventral)、2.6mm)中に片側性に(右半球に適用)定位的に適用した。注入を毎分0.2μlの速度で実施し、α-シヌクレインPFF(PBS中5μg/ml)2μlまたは同じ体積のPBSマウスに注射した。頭部の皮膚を縫合によって閉じ、外科手術後の創傷治癒および回復をモニターした。立体解析のために、線条体α-シヌクレインPFF注射の6カ月後に動物の心臓内に氷冷PBS、その後4%パラホルムアルデヒドを灌流し、固定した。脳を取り出し、免疫組織化学的検査または免疫蛍光法のために処理した。片側性線条体α-シヌクレインPFF注射の6カ月後に行動試験を実施した。図4Aに記載されている通り、NLY001(3mg/kg)による処置を片側性線条体α-シヌクレインPFF注射の1カ月後に、1週間当たり2回、達成した。
【0169】
NLY001のα-シヌクレインPFFにより誘導される行動欠陥に対する有益な神経保護効果
α-シヌクレインPFF注射後6カ月の時点でビヒクル(PBS)またはNLY001で処置したマウスにおいて4つの異なる行動試験を行った。
【0170】
ポール試験:動物を行動手順室内で30分間、馴化させた。ポールを、直径9mmの2.5ft金属棒から作製し、包帯ガーゼを巻いた。簡単に述べると、マウスを、ポールの上部(ポールの上部から3インチ)に頭部を上に向けて置いた。ポールの基部に到達するのにかかった総時間を記録した。実際の試験の前に、マウスを連続して2日間訓練し、各訓練セッションは、3つの試験試行からなるものであった。試験日に、マウスを3セッションで評価し、総時間を記録した。試験および記録を止める時間の最大カットオフが30秒であった。結果を総時間(秒)で表した。α-シヌクレインPFF注射により、ポールの基部に到達するまでの時間の有意な増大が導かれたが、NLY001による処置により、α-シヌクレインPFFにより誘導される行動欠陥が健康なマウスと同様に低減した(表4)。
【0171】
ロータロッド試験:ロータロッド試験のために、マウスを加速するロータロッドシリンダーの上に載せ、動物がローダロッド上に留まる時間を測定した。速度を5分以内に4rpmから40rpmまでゆっくりと上昇させた。動物が横木から落ちたら、またはデバイスを掴み、横木上を歩こうとせずに2連続回転にわたり回ったら、試行を終了した。動物を試験前に3日間訓練した。運動試験データは、対照と比較した、ロータロッド上での平均持続時間(3回の試行)の百分率として示されている。NLY001による処置により、ロータロッド成績がPBS処置したPFF誘導性PDモデルと比較して有意に改善された(表4)。
【0172】
シリンダー試験:自発運動を、動物を小さな透明なシリンダー(高さ、15.5cm;直径、12.7cm)内に入れることによって測定した。自発的活動を5分間記録した。前肢の接触、後肢で立ち上がること(rear)、およびグルーミングの数を測定した。マウスの型およびNLY001による処置に関して盲検とされた実験者が記録ファイルをスローモーションで観察し、格付けした。α-シヌクレインPFF誘導性PDマウスでは、シリンダー課題で前肢の使用に欠陥が示されたが、NLY001で処置したPDマウスでは、両前肢の使用の釣り合いが取れ、運動欠陥が緩和される(表4)。
【0173】
アンフェタミンにより誘導される常同的回転:5mg/kgのアンフェタミン(Sigma-Aldrich)をマウスに腹腔内投与した。マウスを直径20cmの白色紙シリンダーに入れ、30分間モニターした。アンフェタミン投与後20分から30分の間、マウスの行動を3回の1分間隔で撮影した。各マウスについて、1分セッションの間の全身同側性回転(時計回り)をビデオ記録から計数した。α-シヌクレイン注射により、アンフェタミンにより誘導される回転行動が7倍増大し、これにより、ドーパミンニューロンの喪失が示される。対照的に、NLY001により、アンフェタミンにより誘導される回転が防止され、これにより、ドーパミンニューロンが機能的であることが示される(表4)。
【0174】
【表4】
【0175】
NLY001は、α-シヌクレインPFF誘導性PDマウスにおいてドーパミン作動性(DA)ニューロンをレスキューし、LB病理を好転させる。
【0176】
病的なα-シヌクレインの蓄積は、DAニューロンの変性に関連付けられる。本明細書に記載の通り、全身投与されたNLY001の、α-シヌクレインPFF接種によって誘導されるDAニューロン喪失に対して保護する能力を調査した。マウスを屠殺し、DAニューロンの喪失を、不偏立体解析学(unbiased stereology)を使用し、SNpcにおけるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性およびニッスル陽性ニューロンの数を計数することによって測定した。さらに、線条体(STR)における相対的なTH陽性線維の密度を光学濃度測定によって分析した。SNpcおよびSTR切片の免疫染色ならびにTH陽性染色DAニューロンおよび線維密度の定量化により、PFFを注射したマウスにおいて、PBSで処置した対照と比較して、ドーパミン作動性ニューロンの有意な喪失が示される。対照的に、NLY001の投与により、PFFにより誘導されるTH-ニューロンの喪失が有意に保護される(表5)。
【0177】
【表5】
【0178】
次に、NLY001の、α-シヌクレインPFF接種によって誘導されるLB/レビー神経突起(LN)様病理の拡散を好転させる能力を調査した。上記の通り処置した後、注射部位(STR)および黒質(SN)におけるヒトLB/LNのマーカーである高リン酸化α-シヌクレインの沈着を、p-SynSer129抗体を使用して可視化した。p-SynSer129陽性ニューロンでは、PFFを注射したマウスの線条体およびSNにおいて、PBSで処置した対照と比較して、LB/LN様病理の有意な増大が示された。図5に示されている通り、NLY001により、PD脳におけるLB/LN病理が低減した。
【0179】
NLY001は、PD脳におけるグリオーシスを、α-シヌクレイン関連ミクログリアおよびアストロサイト活性化を低減することによって阻害する。
【0180】
SNpc領域に由来するミクログリアおよびアストロサイトを抗Iba-1抗体(1:1000、Wako)または抗GFAP抗体(1:2000、Dako)で染色し、その後、ビオチンとコンジュゲートした抗ウサギ抗体およびABC試薬と一緒にインキュベートした。次いで、SigmaFast DAB Peroxidase Substrate(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)を使用して切片を発色させた。SNpc領域内のミクログリアの数およびアストロサイトの密度を、ImageJソフトウェアを用いて測定した。PDモデルでは、Iba-1陽性の細胞集団(活性化ミクログリア)およびGFAP陽性の細胞集団(反応性アストロサイト)が高度に増大する。PFF誘導性PDモデルにおいて、NLY001による処置により、ミクログリアの活性化が有意に遮断され、反応性アストロサイトの形成が減少した(表6)。
【0181】
【表6】
【0182】
(実施例5:NLY001は、A53T Tg PDマウスにおいて、α-シヌクレイン関連グリオーシス(ミクログリアおよびアストロサイト活性化)を低減し、α-シヌクレイン凝集を阻害し、LB/LN病理を好転させ、寿命を延長する。)
【0183】
動物
A53T α-シヌクレイントランスジェニックマウス(A53T)をJackson Lab(B6;Prnp-SNCA*A53T、PMID:12084935)から得た。当該マウスはC57BL/6マウス(Jackson Lab)と交配したものであり、本試験のために生成された。図4Bに記載されている通り、NLY001およびPBSを野生型(WT)対照マウスおよびA53T PDマウスに、6カ月齢を過ぎてから、10カ月齢および死亡日まで皮下処置した(3mg/kg、週に2回)。
【0184】
NLY001はPD脳中にWTマウス脳と比較して有意に高く蓄積する。
【0185】
マウスを10カ月齢時に屠殺し、脳(小脳および半球)内のNLY001の濃度を上記のイムノアッセイによって測定した。NLY001を脳組織からC-18 SEP-Column(Phoenix Pharmaceuticals,Inc.)を使用して抽出し、Exendin-4 EIA kit(Phoenix Pharmaceuticals Inc)によって分析した。驚いたことに、皮下投与されたNLY001はBBBを透過し、PD脳(A53T)中に健康なWTマウス脳と比較して有意に高く(10~30倍)蓄積した(表7)。
【0186】
【表7】
【0187】
PDモデルではNLY001による処置により体重が増加する。
【0188】
進行PDのマウスモデルは、一般に、体重の減少を示す。診療所では、PDにおける体重減少は、重大な問題である。体重減少が併発するPDの経過の結果、全体的な処置転帰が不良になり、生活の質が低下する。糖尿病/肥満症患者に対する認可されたGLP-1rアゴニストは、長期間にわたる処置の間、体重を効率的に低減することが公知である。リラグルチドは2型糖尿病における長期間の体重減少に対して特に有効であることが示されており、高用量のリラグルチドが抗肥満薬として最近認可された(Sexenda)。他のGLP-1rアゴニストとは異なり、NLY001は、神経変性疾患モデルにおいて体重を低減せず、疾患の進行を好転させる一方、体重を増加させる(表8)。
【0189】
【表8】
【0190】
NLY001は、A53T α-シヌクレインTgマウスの寿命を延長させる。
【0191】
A53T α-シヌクレインTgマウスは、四肢麻痺、自律神経障害(automic dysfunction)および早期死亡を導く脳幹および脊髄ニューロンの変性が原因で、寿命の短縮を示す(Lee MKら、Proc Natl Acad Sci U S A.、2002年、99巻(13号):8969~8973頁)。最も影響を受けている動物では、疾患は急速に進行して死亡に至り、この潜在的な原因は摂食できないことおよび脱水である。本研究において、A53T マウスは、11カ月齢から14カ月齢までにわたる早期致死を示した。対照的に、NLY001による処置により、A53Tの寿命が有意に延長された(図6および表9)。
【0192】
【表9】
【0193】
NLY001は、PD脳におけるグリオーシスを阻害し、A53T α-シヌクレインTg PDマウスにおけるα-シヌクレイン凝集を低減する。
【0194】
ミクログリアおよびアストロサイト活性化を上記の通り分析した。脳内のミクログリアの数およびアストロサイトの密度を、ImageJソフトウェアを用いて測定した。A53T Tg PDモデルでは、Iba-1陽性の細胞集団(活性化ミクログリア)およびGFAP陽性の細胞集団(反応性アストロサイト)が高度に増大した。NLY001による処置により、A53T Tg PDモデルにおけるミクログリアの活性化が有意に遮断され、反応性アストロサイトの形成が減少した(表10)。重要なことに、PBSまたはNLY001で処置した、10カ月齢のA53T Tg マウスおよび年齢を釣り合わせた同腹仔対照に由来する脳幹の洗浄剤不溶性画分中のα-シヌクレインp-ser129、α-シヌクレイン凝集およびβ-アクチンの相対的なタンパク質発現を免疫ブロットによって分析した。さらに、A53T Tgマウスの脳幹におけるユビキチン陽性封入体の形成をp-α-シヌクレイン免疫組織化学画像によって分析した。PFF誘導性PDマウスにおいて見られるように、NLY001により、A53T Tg PDマウスにおけるα-シヌクレイン凝集が有意に遮断された。結果が表11に要約されている。
【0195】
【表10】
【0196】
【表11】
【0197】
(実施例:NLY001は、3×Tg ADマウスにおけるアルツハイマー病様病理および記憶障害を好転させる。)
【0198】
材料および方法
動物:3×Tg ADマウスをJackson Labから得た。これらの広く使用されているマウスは、家族性アルツハイマー病に関連する3つの変異、AAP Swedish、MAPT 3P01LおよびPSEN1 M126Vを含有する。3×Tgマウスは、プラークおよびもつれ病理の両方を示す。B-アミロイド沈着は、進行性であり、4カ月のうち3カ月の早さで細胞内に出現し、細胞外沈着が前頭皮質内に6カ月までに出現し、12カ月までにより広範囲になる。本研究では、6カ月齢の雄3×Tg ADマウスを使用した。図7に記載されている通り、7カ月齢を過ぎた野生型(WT)対照マウスおよび3×Tg ADマウスに、NLY001およびPBS(1mg/kgおよび10mg/kg、週に2回)を5カ月にわたって皮下処置した。
【0199】
NLY001は3×Tg ADマウスにおける記憶を改善する。ビヒクル(PBS)またはNLY001で処置したマウスにおいて2つの異なる行動試験(Webster SJら、Front Genet.、2014年、5巻:88頁)を行った。
【0200】
モリス水迷路試験(MWM):モリス水迷路は、特徴のない内部表面を有する白色の円形プール(直径100cmおよび高さ35cm)である。円形プールに水および非毒性の水溶性白色染料を満たした。プールを面積が等しい4つの四分円に分割した。プラットフォーム(直径8cmおよび高さ10cm)をプールの四分円のうちの1つの中央に置き、水面には見えないように水面下1cmに沈めた。プールを種々の顕著な視覚的手掛かりを含有する試験室に置いた。泳ぐマウスそれぞれの、開始場所からプラットフォームまでの位置をビデオ追跡システム(ANY-maxe system、WoodDale、IL、USA)によってモニターした。実験の前日は、プラットフォームの非存在下で60秒間泳ぐ訓練に専念させた。次いで、マウスに、3回の試行セッションを毎日、5日連続で行い、試行間の間隔は15分とし、逃避潜時を記録した。このパラメータを試行の各セッションについておよび各マウスについて平均した。マウスがプラットフォームの場所を見つけたら、その上に10秒間留まることを許容した。マウスが60秒以内にプラットフォームの場所を見つけられなかった時には、実験者がマウスをプラットフォーム上に10秒間載せ、次いで、プールから出した。6日目に、探索試験にプラットフォームをプールから取り除くことを伴った。その試験は、60秒のカットオフ時間を用いて実施した。マウスがプールに入る点および逃避のためのプラットフォームの位置は試行1と試行2の間では変えなかったが、その後は毎日変えた。
【0201】
図8および図9に記載されている通り、PBSで処置した3×Tg ADマウスでは、WTマウスと比較して、学習に欠陥が示された。4日目および5日目に、PBSで処置した3×Tgマウスは、隠れたプラットフォームの場所を見つけるのにWT同腹仔よりも多くの時間を消費した。対照的に、NLY001で処置した3×Tg ADマウスでは、PBSで処置した3×Tgマウスと比較して成績の有意な改善が示され、これにより、NLY001による処置により、3×Tgマウスにおける空間的学習の機能障害が緩和されたことが示される。空間的学習の記憶強度を評価するために、5日目に探索試行を行った。NLY001で処置した3×Tgマウスは、PBSで処置した3×Tg ADマウスと比較して、標的四分円内のプラットフォームを探すのに有意に多くの時間を消費した(表12)。NLY001による処置は、泳ぐ速度および距離には影響を及ぼさなかった。
【0202】
【表12】
【0203】
受動的回避試験:NLY001学習/記憶の効果を、動物に暗環境に対するそれらの天然の嗜好を抑制することにより放電を回避するように学習させるステップスルー受動的回避手順によって評価した。試験は、マウスを明るいチャンバー内に入れ、マウスが暗いチャンバーに移ると、軽度の(0.25mA/1s)フットショックを受けるという訓練から開始した。暗い(ショック)区画に進入するこの最初の潜時がベースライン尺度としての機能を果たした。訓練の24時間後の探索試行の間、マウスを再度明るい区画に入れ、暗い区画に戻るまでの潜時を受動的恐怖回避の指標として測定した。NLY001による処置により、受動的回避試験によって評価される3×Tg ADマウスにおける学習がPBSで処置した3×Tg ADマウスと比較して有意に改善された(表13)。
【0204】
【表13】
【0205】
NLY001はWTマウス脳と比較してAD脳に有意に高く蓄積する。
【0206】
PDモデルに関して記載されている通り、試験後にマウスを屠殺し、全脳内のNLY001の濃度を上記の通りイムノアッセイによって測定した。NLY001を脳組織からC-18 SEP-Columnを使用して抽出し、Exendin-4 EIA kitによって分析した。PDモデルにおいて証明された通り、皮下投与されたNLY001はBBBを透過し、3×Tg AD脳内に健康なWTマウス脳と比較して2~5倍高く蓄積した。
【0207】
NLY001はミクログリアおよびアストロサイト活性化を低減することによってAD脳におけるグリオーシスを阻害する。
【0208】
固定した脳組織由来のミクログリアおよびアストロサイトを、上記の通り、抗Iba-1抗体または抗GFAP抗体で染色し、その後、ビオチンとコンジュゲートした抗ウサギ抗体およびABC試薬と一緒にインキュベートした。ADモデルでは、Iba-1陽性の細胞集団(活性化ミクログリア)およびGFAP陽性の細胞集団(反応性アストロサイト)が高度に増大する。NLY001による処置により、3×Tg ADモデルにおいてミクログリアの活性化が有意に遮断され、反応性アストロサイトの形成が減少する。さらに、GLP-1rがIba-1陽性細胞(活性化ミクログリア)では高度に発現するが、MAP2陽性細胞(ニューロン)ではそうではないことも検証された。この結果により、in vitroにおける所見、長時間作用型GLP-1rアゴニストが、脳内のミクログリアを含めた常在自然免疫細胞に発現しているGLP-1rに結合することによってグリオーシスを遮断し、炎症性分子および神経毒性分子の放出をシャットダウンすることが裏付けられる。
【0209】
NLY001による処置により3×Tg ADマウスの脳における炎症性分子および神経毒性分子の発現が低減する。
【0210】
3×TgマウスにおけるNLY001の抗AD有効性が活性化ミクログリアおよび反応性アストロサイトから分泌される炎症性分子および神経毒性分子の放出の阻害に起因するか否かをさらに確認するために、脳組織ホモジネートをリアルタイムPCRによってTNF-α、IL-1β、IFN-γ、IL-6、およびC1qについて分析した。炎症性マーカーの発現レベルが3×TgマウスにおいてWTマウスと比較して有意に高いことが見出された。表14に要約されている通り、in vitro細胞の試験結果と一致して、NLY001で処置した3×Tgマウスでは、炎症性および神経症マーカーの発現の有意な低減が実証された。
【0211】
【表14】
【0212】
均等物
【0213】
当業者は、慣例的な実験だけを使用して、本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を理解する、または確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0214】
他の実施形態
本発明がその詳細な説明と併せて記載されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示するものであり、限定するものではない。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲内に入る。
【0215】
本明細書で言及される特許および科学文献は、当業者が利用可能な知見を確立するものである。本明細書において引用されている米国特許および公開されたまたは公開されていない米国特許出願は全て、参照により組み込まれる。本明細書において引用されている公開された外国特許および特許出願は全て、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において引用されている受託番号によって示されるGenbankおよびNCBI付託物は、これによって参照により組み込まれる。本明細書において引用されている他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献は全て、参照により本明細書に組み込まれる。
【0216】
本発明はその好ましい実施形態を参照して具体的に示されており、記載されているが、その中の形態および詳細の種々の変化を、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、なすことができることが当業者には理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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