(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】慢性創傷を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/10 20060101AFI20220217BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220217BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220217BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220217BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220217BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20220217BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20220217BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20220217BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20220217BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220217BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20220217BHJP
A61L 15/20 20060101ALI20220217BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20220217BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20220217BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20220217BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20220217BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/12
A61K9/70 405
A61K9/06
A61K31/7016
A61K31/4166
A61K38/18
A61K38/22
A61K45/00
A61L15/60 100
A61L15/20 100
A61L15/28 100
A61L15/44 100
A61L15/32 100
A61L27/60
A61P17/02
(21)【出願番号】P 2018542712
(86)(22)【出願日】2017-02-08
(86)【国際出願番号】 US2017017044
(87)【国際公開番号】W WO2017139398
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-02-07
(32)【優先日】2016-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518283746
【氏名又は名称】ハッケンサック ユニヴァーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】アスラム ルマナ
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0171284(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0180365(US,A1)
【文献】国際公開第2014/150174(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/100063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/80
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00
A61P 17/02
A61L 15/00-15/64
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の慢性非治癒創傷の治療用医薬組成物であって、前記医薬組成物が、等しい部(1:1 v/v)で、粒状糖と、固体、半固体、擬塑性又は塑性構造をもたらす水膨潤性ポリマー材料(ハイドロゲルバイオマテリアル)とを含み、平均創傷閉鎖率をコントロールに比べて高めるのに有効であり、
前記コントロールがハイドロゲルバイオマテリアルであり、
a.前記ハイドロゲルバイオマテリアルが、精製水、グリセロール、ヒドロキシエチルセルロース、並びに、
乳酸ナトリウム及びアラントイン、を含み、
i. 前記精製水がハイドロゲルバイオマテリアルの70
体積%であり、
ii. 前記グリセロールがハイドロゲルバイオマテリアルの30
体積%であり、及び
b.前記医薬組成物が
i) 局所投与剤、又は
ii) ドレッシング材の表面の被覆材、
の形態である、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記平均創傷閉鎖率が、前記コントロールに比べて約50%~約100%の範囲にわたる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記平均創傷閉鎖率が、前記コントロールより少なくとも50%高く、又は前記コントロールより少なくとも95%高く、又は前記コントロールより少なくとも99%高い、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ドレッシング材が、フィルムドレッシング材、半透性フィルムドレッシング材、ハイドロゲルドレッシング材、ハイドロコロイドドレッシング材、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される閉鎖性ドレッシング材及び非接着性パッドドレッシング材を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記平均創傷閉鎖率が、創傷面積の平均変化率、創傷体積の平均変化率又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記創傷面積の平均変化率、創傷体積の平均変化率又はそれらの組み合わせが、3次元カメラシステムによって決定される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、抗炎症薬、鎮痛薬、抗感染薬、成長因子及びそれらの組み合わせから成る群より選択される、少なくとも1種の追加治療薬をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗感染薬が抗生物質である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記成長因子が、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)から成る群より選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記慢性非治癒創傷が、糖尿病性創傷、静脈性創傷、外科的創傷、癌性創傷、褥瘡、動脈性潰瘍及びそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、
慢性非治癒創傷における
i.創傷及び組織浮腫;及び/又は
ii.壊死組織;及び/又は
iii.疼痛
を低減させるのに有効である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
a.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷内の微生物を殺すのに有効であり;又は
b.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷における創傷治癒を速めるのに有効であり;又は
c.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷におけるコラーゲン合成及び新血管新生を増加させるのに有効であり;又は
d.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷における
i.フィブリン;又は
ii.瘡蓋;又は
iii.バイオフィルム
を除去するのに有効であり;又は
e.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷内の肉芽組織を増加させるのに有効であり;又は
f.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷における上皮化を速めるのに有効であり;又は
g.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷から
液体を排出するのに有効であり;又は
h.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷から炎症液を引き出すのに有効であり;又は
i.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷における創傷床感染を制御するのに有効であり;又は
j.前記医薬組成物が、前記慢性非治癒創傷における創傷床調製を達成するのに有効である
請求項1記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照することによりその内容全体を本明細書に援用する2016年2月8日に提出された米国仮出願第62/292,384号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
記載発明は、細胞生物学及び分子生物学、治療薬及び治療的使用方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
1. 皮膚の解剖学及び生理学
皮膚は体内で最大の器官であり、数層から成り、生物のホメオスタシスにおいて重要な役割を果たす(
図1)。創傷表面上のその再接近は、ずっと創傷治癒の相当部分の完了の主兆候であった。欠損のこの再閉鎖が、細菌、毒素、及び機械的力からの保護を含む皮膚の保護機能を回復させるのみならず、必須体液を保持するためのバリアを与える。角質層から始まる数層で構成される表皮は皮膚の最外層である。皮膚の最内層は真皮深層である。皮膚は、熱調節、代謝機能(ビタミンD代謝)、及び免疫機能を含めた多くの機能を有する(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3
rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M.Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0004】
表皮
表皮は、環境に対する体の緩衝ゾーンとみなすことができる。表皮は、外傷からの保護を与え、毒素及び微生物を排除し、保護エンベロープ内に生命維持に必要な体液を保持する半透膜を与える。伝統的に、表皮は数層に分割され、そのうちの2つが生理学的に最も重要な層に相当する。基底細胞層、つまり胚芽層は再生細胞の主起源なので重要な層である。創傷治癒プロセスにおいて、この層はほとんどの場合に有糸分裂を受ける領域である。組織層と顆粒層を含む上面表皮は正常な表皮バリア機能形成の他の領域である(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M.Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0005】
表皮が傷つけられると、体は外部病原体による侵入及び体液の損失を受ける。表皮の創傷は主に細胞遊走によって治癒する。表皮細胞のクラスターが損傷領域中に遊走して欠陥を覆う。これらの細胞は食作用性であり、デブリ及び血餅の表面を浄化する。修復細胞は、主に真皮の付属器である局所ソース及び隣接する無傷皮膚領域に起源を持つ。治癒は迅速に起こり、皮膚は再生されて傷跡が残らない。疱疹が表皮創傷の例である。疱疹は小さいベシクル又はより大きい水疱(直径が1cmより大きい疱疹)であり得る (例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M.Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0006】
角質層及び酸外套
角質層は無血管性多層構造体であり、環境に対するバリアとして機能し、経表皮水分喪失を阻止する。通常の表面皮膚pHは、健康な人では4~6.5であり;体の皮膚面積に応じて変化する。この低pHが、皮膚のバリア機能を増強する酸外套を形成する。最近の研究は、角質層における酸外套の形成に酵素活性が関与することを示した。まとめると、酸外套及び角質層は、水その他の極性化合物への皮膚の浸透性を低くし、微生物による侵入から皮膚を間接的に保護する。角質層の損傷は、皮膚のpH、ひいては、細菌による皮膚感染への皮膚の感受性を高める(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M.Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0007】
表皮の他の層
角質層下の表皮の他の層としては、透明層、顆粒層、胚芽層、及び基底層がある。それぞれ特殊機能を有する生細胞を含有する(
図2)。例えば表皮内のメラノサイトによって産生されるメラニンは、皮膚の色の原因である。ランゲルハンス細胞は免疫プロセシングに関与する(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3
rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0008】
皮膚の付属器
毛包、皮脂腺、汗腺、爪、及び趾爪といった皮膚の付属器は、表皮から発生し、真皮内に突出する(
図1)。毛包及び皮脂腺及び汗腺は、真皮を貫通しない創傷(中間層損傷(partial-thickness wounds)と称する)の再上皮化のため上皮細胞に貢献する。皮脂腺は、皮膚を潤滑化し、皮膚を柔らかくかつフレキシビルに保つ分泌に関与する。皮脂腺は顔内に最も多く、手掌及び足底には希薄である。汗腺分泌は皮膚のpHを制御して皮膚感染を予防する。汗腺、真皮血管、及び皮膚内の小筋肉(鳥肌の原因)は、体表面の温度を制御する。皮膚内の神経末端は、疼痛、接触、熱、及び冷気に対する受容体を含む。これらの神経末端の損失は、外力への組織の耐性を下げることによって皮膚の崩壊のリスクを高める(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3
rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0009】
基底膜は、表皮及び真皮を分離もし、連結もする。基底膜内の表皮細胞が分割すると、一方の細胞は留まり、他方の細胞は顆粒層を経て角質層表面まで遊走する。表面で、細胞は死んでケラチンを形成する。表面上の乾燥ケラチンはスケールと呼ばれる。患者が糖尿病である場合、角化症(ケラチンの肥厚化層)が踵に見られることが多く、皮脂腺及び汗腺機能の損失を示している。基底膜は加齢と共に委縮し;基底膜と真皮との間の分離は、高齢者において皮膚が裂ける一因である(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (c) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0010】
真皮
真皮、つまり真の皮膚は、表皮を支持して栄養を与える脈管構造体である。さらに、真皮内には、疼痛、圧力、熱、及び冷気に関する信号を伝達する感覚神経末端がある。真皮は二層に分かれている:表在性真皮は細胞外マトリックス(コラーゲン、エラスチン、及び基底質)から成り、血管、リンパ管、上皮細胞、結合組織、筋肉、脂肪、及び神経組織を含有する。真皮の血管供給は、表皮に栄養を与え、体温を調節する原因となる。線維芽細胞は、皮膚に弾性を与える皮膚のコラーゲン及びエラスチン成分産生の原因となる。線維芽細胞によってフィブロネクチン及びヒアルロン酸が分泌される(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0011】
深層真皮は、皮下脂肪の上に位置し;それは血管とコラーゲン線維の大きい網目構造を含有して引張強度を与える。深層真皮は、黄色で主にコラーゲンで構成された弾性線維結合組織からも成る。この組織層には線維芽細胞も存在する。血管に富んだ真皮は、皮下組織又は筋肉より長い時間にわたって圧力に耐える。皮膚内のコラーゲンは、皮膚にその強靭性を与える(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0012】
皮膚創傷、例えば、亀裂又は膿疱は、表皮、基底膜、及び真皮を巻き込む。典型的に、皮膚傷害は迅速に治癒する。真皮内の亀裂は、血清、血液、又は膿汁を滲出させて、血餅又は痂皮の形成をもたらし得る。膿疱は、膿汁が詰まったベシクルであり、感染毛包を呈することが多い(例えば、McLafferty E et al., Nursing Standard 27(3): 35-42; Evans N D et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, Vol.28, December 2013, 397-409; Wound Care: A Collaborative Practice Manual, 3rd edition, edited by Carrie Sussman and Barbara M. Batesensen, Copyright (C) 2007, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore MD and Philadelphia PA参照)。
【0013】
2. 創傷及び創傷タイプ
創傷は、正常な解剖学的構造及び機能への損傷又は破壊から生じる(Robson MC et al., Curr Probl Surg 2001; 38: 72-140; Velnar T et al., The Journal of International Medical Research 2009; 37: 1528-1542)。これは、皮膚の上皮完全性の単純な破壊から、腱、筋肉、血管、神経、実質器官及び骨さえ等の他の構造体への損傷を伴うより深い皮下組織まで及び得る(Alonso JE et al., Surg Clin North Am 1996; 76: 879-903)。原因及び形態と無関係に、創傷は局所組織環境を傷つけ、破壊する。
創傷は、種々の判断基準に従って分類される(Robson MC et al., Curr Probl Surg 2001; 38: 72-140; Velnar T et al., The Journal of International Medical Research 2009; 37: 1528-1542)。判断基準のうち、時間が傷害管理及び創傷修復に重要な役割を果たす。従って、創傷はそれらの治癒の時間枠に基づいて臨床的に急性又は慢性と分類可能である(Velnar T et al., The Journal of International Medical Research 2009; 37: 1528-1542; Robson MC et al., Curr Probl Surg 2001; 38: 72-140; Velnar T et al., The Journal of International Medical Research 2009; 37: 1528-1542; Lazurus GS et al., Arch Dermatol 1994; 130: 489-493)。
【0014】
3. 急性創傷
自ら修復し、通常は時宜を得て整然と治癒経路に従うことによって進行し、最終結果として機能的にも解剖学的にも回復する創傷は、急性創傷と分類される。典型的に、急性創傷の治癒は、5~10日又は30日以内の範囲にわたる。急性創傷は、例えば、組織の外傷による損失の結果として又は外科手技の結果として、得られる可能性がある。
急性創傷は、共通の健康問題であり、米国では一年に1100万人が急性創傷を受け、約300,000人が入院する(Singer AJ and Dagum AB, N Engl J Med 2008 Sep 4; 359(10): 1037-46; Hostetler SG et al., Wounds 2006; 18: 340-351)。急性創傷治癒は、予測できる組織修復につながる秩序だったプロセスであり、組織完全性の修復において血小板、ケラチノサイト、免疫監視細胞、微小血管細胞、及び線維芽細胞が重要な役割を果たす(Singer AJ and Clark RA N Engl J Med 1999 Sep 2; 341(10): 738-746; Falanga V Lancet 2005 Nov 12; 366(9498): 1736-43)。
【0015】
4. 慢性創傷
慢性創傷は、治癒の通常の段階を経て進行し損ね、整然と時宜を得た様式で修復できない創傷である(Robson MC et al., Curr Probl Surg 2001; 38: 72-140; Szycher M and Lee SJ, J Biomater Appl 1992; 7: 142-213; Velnar T et al., The Journal of International Medical Research 2009; 37: 1528-1542)。治癒プロセスは不完全であり、止血、炎症、増殖又は再構築期において1以上の段階を長引かせる種々の要因によって妨害される。これらの要因としては、感染、組織低酸素、壊死、滲出液及び過剰レベルの炎症性サイトカインが挙げられる(Vanwijck R, Bull Mem Acad R Med Belg 2001; 115: 175-184)。
米国では2030年までに65歳以上の高齢者数がほぼ2倍になると予測され(3500万人から5300万人へ)、2000年生まれの子供の35%という高い糖尿病発症リスクのため、糖尿病及び加齢関連の非治癒慢性創傷の予測リスクは劇的に増え続ける。年間の慢性創傷ケアコストは今や米国だけで十億ドルを超え、全EU財源の約2%に相当する(Gosain A and DiPetro LA, World J Surg 2004 Mar; 28(3): 321-326; Narayan KM et al., JAMA 2003 Oct 8; 290(4): 1884-90; Ramsey SD et al., Diabets Care 1999 Mar; 22(3): 382-387; Bitsch M et al., Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 2005; 39(3): 162-169)。
【0016】
慢性創傷は血管性潰瘍(例えば、静脈性及び動脈性潰瘍)、褥瘡及び糖尿病性潰瘍に分類することができる。これらのそれぞれが共有するいくつかの一般的特徴としては、持続するか又は過剰な炎症期、持続性感染症、薬物耐性菌バイオフィルムの形成、及び修復刺激に対して真皮及び/又は表皮細胞が応答できないことが挙げられる(Eming SA et al., J Invest Dermatol 2007 Mar; 127(3): 514-525; Edwards R and Harding KG; Curr Opin Infect Dis 2004 Apr; 17(2): 91-96; Wolcott RD et al., J Wound Care 2008 Aug; 17(8): 333-341)。全体として、これらの病態生理学的現象はこれらの創傷の治癒の失敗をもたらす。しかしながら、根底にある病理学は様々なタイプの慢性創傷において逸脱する。
【0017】
静脈性潰瘍
静脈性潰瘍は、深部及び表在静脈の静脈弁機能不全に続発して起こる深刻な病理学的変化を呈し、これが一定の血液の逆流につながり、静脈圧の上昇をもたらす。血管壁透過性の圧力誘導変化は、フィブリンその他の血漿成分の血管周囲空間への漏出につながる。フィブリンの蓄積は創傷治癒に負の効果を与える。フィブリンはコラーゲン合成を下方制御し、毛細血管周囲のフィブリンカフの形成をもたらし、これは正常な血管機能のためのバリアを作り出し、血液由来成長因子を捕捉する(Pardes JB et al., J Cell Physiol 1995 Jan; 162(1): 9-14; Higley HR et al., Br J Dermatol 1995 Jan; 132(1): 79-85; Walker DJ, Orthop Nurs 1999 Sept-Oct; 18(5): 65-74, 95)。
【0018】
動脈性潰瘍
動脈性潰瘍は、静脈性潰瘍より一般的でない。動脈性潰瘍は、動脈内腔の狭小化及び虚血につながり得るアテローム性動脈硬化症又は塞栓症に起因する動脈不全の結果であり、軽度の外傷の時宜を得た治癒を妨げる(Bonham PA, AACN Clin Issues 2003 Nov; 14(4): 442-456)。一般的に膝と足首との間に生じる静脈性潰瘍とは異なり、動脈性脚創傷は、動脈灌流に遠位の任意のスポット、例えばつま先等に現れ得る。動脈性潰瘍は、年間に100,000名のアメリカ人が発症すると推定される(Sieggreen MY and Kline RA, Nurse Pract 2004 Sep; 29(9): 46-52)。治療的加圧で改善されることが多い静脈性潰瘍とは異なり、動脈不全と関係がある慢性創傷は、血行再建による動脈機能の回復後にだけ治療が成功し得る(Bonham PA, AACN Clin Issues 2003 Nov; 14(4): 442-456)。肢の血行再建のための現在の選択肢はかなり限定され、それには再建術(血管形成術)又は薬剤介入がある。創傷の血行再建の失敗は、ほとんど不可避的に動脈性潰瘍患者の肢切断につながるので、創傷床への血液供給の回復を可能にする新規技術が研究中である(Grey JE et al., BMJ 2006 Feb 11: 332(7537): 347-350)。
【0019】
褥瘡
褥瘡は、持続性の緩和されない圧力の結果として発症し、皮膚に加えられた力と根底にある筋肉組織を共有し、酸素分圧の低下、虚血再灌流傷害、及び組織壊死につながる(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。褥瘡は、運動不全及び知覚低下(神経障害)を有する患者に一般的であり、上記動脈及び静脈不全を有する個体において悪化する(Defloor T, J Clin Nurs 1999 Mar; 8(2): 206-16)。
【0020】
糖尿病性潰瘍
加齢及び糖尿病の合併症は動脈と静脈の両不全及び悪化した褥瘡と関連する血管病態をもたらし、悪化させる恐れがある。糖尿病患者における慢性創傷(すなわち、糖尿病性潰瘍)の発症につながる他の異常としては、神経障害(血管障害と関連することが多い)、筋肉代謝の欠乏、及び高血糖に起因することが多いいくつかの微小血管病態が挙げられる(Falanga V, Lancet 2005 Nov 12; 366(9498): 1736-43)。慢性、特に糖尿病性創傷に見られる巨視的病態は、環境要因への応答に対する低い分裂促進的/運動源性可能性及び応答不能を含め、細胞表現型異常に関連することが多い(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。
【0021】
慢性創傷の特徴づけ
記載した全ての創傷が異なる起源を有し得るにもかかわらず、各創傷は、慢性的に炎症した創傷床及び治癒の失敗を特徴とする(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。創傷床への炎症細胞の過剰な動員は、感染によって引き起こされることが多く、細胞の血管外漏出は、常在性内皮細胞による血管細胞接着分子1(VCAM1)及び間質細胞接着分子(ICAM1)の不釣合な発現によって促進される。慢性創傷内部に蓄積した炎症細胞は、種々の反応性酸素種(ROS)を生成し、細胞外マトリックス(ECM)及び細胞膜の構造要素を傷つけ、早過ぎる細胞老化をもたらす(Ben-Porath I and Weinberg RA, Int J Biochem Cell Biol 2005 May; 37(5): 861-976)。これらの直接的な負の効果に加えて、ROSは炎症誘発性サイトカインと共に、正常な細胞機能に必要なECM及び成長因子の成分を低下及び失活させるセリンプロテイナーゼ及びマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の産生を誘発する(Eming SA et al., J Invest Dermatol 2007 Mar; 127(3): 514-525)。タンパク質分解によるプロテイナーゼインヒビターの不活化がこのプロセスを増強する。成長因子の産生は、急性創傷に対して慢性創傷において増加することが多いが、それらの質及びバイオアベイラビリティは顕著に低減する(Mast BA and Schultz GS, Wound Repair Regen 1996 Oct; 4(4): 411-420; Lauer G et al., J Invest Dermatol 2000 Jul; 115(1): 12-18)。
【0022】
5. 正常な(急性)創傷治癒期
創傷治癒は、可溶性媒介物質、血液細胞、細胞外マトリックス、及び実質細胞を巻き込む動的な相互作用的プロセスである。創傷修復プロセスは、以下の4つの一次的及び空間的重なり期に分割することができる:(1)凝固期;(2)炎症期、(3)増殖き、及び(4)再構築期。
【0023】
凝固期
傷害直後、血小板が損傷血管に付着し、遊離反応を惹起し、止血反応を始め、過剰な出血を阻止して創傷領域の仮保護を与える血液凝固カスケードを生じさせる。1ダースの成長因子、サイトカイン、及び他の生存因子又はアポトーシス誘発因子を優に超えて血小板が遊離する(Weyrich AS and Zimmerman GA, Trends Immunol 2004 Sep; 25(9): 489-495)。血小板遊離反応の主要成分としては、血小板由来成長因子(PDGF)及び形質転換成長因子A1及び2(TGF-A1及びTGF-2)があり、これらが白血球、好中球、及びマクロファージ等の炎症細胞を誘引する(Singer AF and Clark RA, N Engl J Med 1999 Sep 2; 341(10): 738-746)。
【0024】
炎症期
炎症期は、毛細血管損傷によって引き起こされ、血餅/フィブリンとフィブロネクチンで構成される仮マトリックスの形成をもたらす。この仮マトリックスが組織欠陥を満たし、エフェクター細胞の流入を可能にする。血餅中に存在する血小板が、炎症細胞の動員に参加する複数のサイトカイン(とりわけ、好中球、単球、及びマクロファージ等)、線維芽細胞、及び内皮細胞(EC)を放出する。
【0025】
増殖期
炎症期後に増殖期があり、この期には、活発な血管形成が新しい毛細血管を作り出し、創傷部位への栄養送達を可能にして、特に線維芽細胞の増殖を支援する。肉芽組織内に存在する線維芽細胞は、活性化されて平滑筋様表現型を獲得すると、筋線維芽細胞と呼ばれる。筋線維芽細胞は、仮のマトリックスに取って代わる細胞外マトリックス(ECM)成分を合成し、沈着させる。これらの成分は、微小線維束又は張力線維内に組織化されたα平滑筋アクチンによって媒介される収縮性をも有する。プロト筋線維芽細胞の出現によって線維芽細胞の筋線維芽細胞分化が始まる。プロト筋線維芽細胞の張力線維はβ及びγ細胞質アクチンのみを含有する。プロト筋線維芽細胞は、分化した筋線維芽細胞に発達することができ、それらの張力線維はα平滑筋アクチンを含有する。
【0026】
再構築期
最終治癒期は、肉芽組織の徐々の再構築及び再上皮化を伴う。この再構築プロセスは、タンパク質分解酵素、特にマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)及びそれらのインヒビター(TIMP、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター)に大いに媒介される。再上皮化中に、肉芽組織の主成分であるIII型コラーゲンが、真皮の主構造成分であるI型コラーゲンに徐々に置き換わる。皮膚の弾性に寄与し、かつ肉芽組織で欠けていたエラスチンも再び現れる。血管細胞及び筋線維芽細胞のアポトーシスを介して細胞密度が正常化する。
【0027】
5.1. 炎症
組織損傷は、血管の破壊及び血液成分の血管外漏出を引き起こす。血餅は、再び止血を確立し、細胞遊走のための仮の細胞外マトリックスを形成する。血小板は、止血栓の形成を促進するのみならず、マクロファージ及び線維芽細胞を誘引して活性化する血小板由来成長因子等のいくつかの創傷治癒媒介物質をも分泌する(Heldin, C. and Westermark B., In: Clark R., ed. The molecular and cellular biology of wound repair, 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp.249-273, (1996))。しかしながら、出血の非存在下では、血小板は創傷治癒に必須ではなく;凝固及び活性化補体経路によって、及び炎症性白血球を損傷部位(Id.)へ補充することが分かっている損傷又は活性化した実質細胞によって多数の血管作動性媒介物質及び走化性因子が生成されると示唆された。
【0028】
浸潤性好中球は、外来粒子及び細菌の創傷領域を浄化してから、結痂(健康皮膚から脱落するか又はマクロファージによって貪食される死組織)と共に押し出される。特定の走化性因子、例えば細胞外マトリックスタンパク質、形質転換成長因子β(TGF-β)、及び単球走化性因子タンパク質-1(MCP-1)の断片等に応答して、単球も創傷部位に浸潤して活性化マクロファージになり、これが肉芽組織の形成を惹起する成長因子(例えば血小板由来成長因子及び血管内皮成長因子)を放出する。マクロファージは、それらのインテグリン受容体、微生物の貪食性を刺激する作用及びマクロファージによる細胞外マトリックスの断片によって細胞外マトリックスの特定タンパク質に結合する(Brown, E. Phagocytosis, Bioessays, 17:109-117 (1995))。研究により、細胞外マトリックスへの付着性も単球を刺激して炎症性又は修復マクロファージへの変態を受けると報告された。これらのマクロファージは、炎症と修復との間の移行において重要な役割を果たす(Riches, D., In Clark R., Ed. The molecular and cellular biology of wound repair, 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp.95-141)。例えば、付着性は、単球及びマクロファージが、単球及びマクロファージの生存に必要なサイトカインであるコロニー刺激因子-1(CSF-1);強力な炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α);及び線維芽細胞にとって強力な走化性因子及び分裂促進因子である血小板由来成長因子(PDGF)を発現するように誘導する。単球及びマクロファージによって発現されることが分かっている他のサイトカインとしては、形質転換成長因子(TGF-α)、インターロイキン-1(IL-1)、形質転換成長因子β(TGF-β)、及びインスリン様成長因子-I(IGF-I)がある(Rappolee, D. et al., Science, 241, pp. 708-712 (1988))。マクロファージ欠損動物は創傷修復できないので、単球由来及びマクロファージ由来成長因子は、創傷における新組織形成の開始及び波及に必要であると示唆された(Leibovich, S. and Ross, R., Am J Pathol, 78, pp 1-100 (1975))。
【0029】
創傷治癒は、多数の成長因子、サイトカイン、及びケモカインによって調節される複雑な生物学的プロセスである。MAPK活性化タンパク質キナーゼ2(MK2)は、サイトカイン及びケモカインの発現の主レギュレーターであり、創傷部位において局所及び循環免疫調節細胞を補充することができる。培養ケラチノサイトを用いた最近の研究により、低分子干渉RNA用いてMK2を枯渇させると、腫瘍壊死因子(TNF)及びインターロイキン-8(IL-8)を含めたいくつかのサイトカインを産生するケラチノサイトの能力を著しく障害することが示された(Johansen et al., J Immunol, 176:1431-1438, 2006)。同様に、インビボ研究により、いくつかのサイトカイン及びケモカイン、例えばインターロイキン-6(IL-6)、ランテス(Regulated on Activation Normal T cell Expressed and Secreted)(RANTES)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、及びインターロイキン-1β(IL-1β)等の発現レベルがMK2ノックアウトマウスの創傷において顕著に低減していることが示された。これらのデータは、MK2シグナル伝達が、創傷浸潤免疫調節細胞のサイトカイン及びケモカインを産生する能力を制御する重要な生化学経路を表すことを示唆している。
【0030】
5.2. 上皮化
創傷の再上皮化は、損傷後数時間以内で始まる。皮膚の付属器、例えば毛包等からの上皮細胞は、創傷空間から凝固血液及び損傷間質を迅速に除去する。同時に、該細胞は、細胞内トノフィラメントの退縮(Paladini, R. et al., J. Cell Biol, 132, pp. 381-397 (1996));細胞間の物理的結合を与えるほとんどの細胞間デスモソームの分解;並びに細胞の運動及び遊走を可能にする末梢細胞質アクチンフィラメントの形成を含めた表現型の変化を受ける(Goliger, J. and Paul, D.Mol Biol Cell, 6, pp. 1491-1501 (1995); Gabbiani, G. et al., J Cell Biol, 76, PP. 561-568 (1978))。さらに、上皮細胞の側方移動を可能にする、表皮と基底膜との間の半接着斑結合の崩壊のため、上皮細胞及び真皮細胞はもはや互いに付着しない。上皮細胞上のインテグリン受容体の発現は、それらが、創傷の周縁部に間質性I型コラーゲンと共に散在し、かつ創傷空間内にフィブリン血栓と混交している種々の細胞外マトリックスタンパク質(例えば、フィブロネクチン及びビトロネクチン)と相互作用できるようにする(Clark, R., J Invest Dermatol, 94, Suppl, pp. 128S-134S (1990))。遊走する上皮細胞は創傷を切開し、生組織から乾燥結痂を分離する。切開経路は、遊走上皮細胞がそれらの細胞膜上に発現するインテグリンの配列によって決まるように見える。
【0031】
上皮細胞がコラーゲン性真皮とフィブリン結痂との間を遊走する場合に必要とされる細胞外マトリックスの分解は、上皮細胞によるコラゲナーゼの産生(Pilcher, B. et al., J Cell Biol, 137, pp. 1445-1457 (1997))、並びに上皮細胞によって産生されたプラスミノーゲン活性化因子によるプラスミンの活性化(Bugge, T.et al., Cell, 87, 709-719 (1996))に左右される。プラスミノーゲン活性化因子は、コラゲナーゼをも活性化し(マトリックスメタロプロテイナーゼ-1)(Mignatti, P. et al., Proteinases and Tissue Remodeling.In Clark, R.Ed.The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, 427-474 (1996))、コラーゲン及び細胞外マトリックスタンパク質の分解をも促進する。
【0032】
損傷1~2日後、活発に遊走する細胞の背後で創傷周縁部の上皮細胞が増殖し始める。再上皮化中の上皮細胞の遊走及び増殖に対する刺激は決定されていないが、いくつかの可能性が示唆されている。創傷周縁部に隣接細胞が存在しないこと(「自由縁」効果)が上皮細胞の遊走にも増殖にも信号を伝え得る。成長因子の局所放出及び成長因子受容体の発現増加もこれらのプロセスを刺激し得る。リードコンテンダー(contender)としては、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子-α(TGF-α)、及びケラチノサイト成長因子(KGF)が挙げられる(Nanney, L. and King, L.Epidermal Growth Factor and Transforming Growth Factor-α. In Clark, R.Ed.The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp. 171-194 (1996); Werner, S. et al., Science, 266, pp. 819-822 (1994); Abraham, J. and Klagsburn, M. Modulation of Wound Repair by Members of the Fiborblast Growth Factor family. In Clark, R. Ed. The molecular and cellular biology of wound repair.2nd Ed. New York, Plenum Press, pp. 195-248 (1996))。結果として再上皮化が起こるにつれて、基底膜タンパク質が、創傷の周縁部からのジッパー様様式で内向きの非常に秩序だった配列で修復する(Clark R. et al., J. Invest Dermatol, 79, pp. 264-269 (1982))。上皮細胞は、再び確立された基底膜及び根底にある真皮に再びしっかり付着するとすぐに、それらの正常な表現型に戻る。
【0033】
5.3. 肉芽組織の形成
損傷の約4日後に、肉芽組織と呼ばれることが多い新間質が創傷空間に侵入し始める。多数の新しい末梢血管が、新間質をその顆粒状外観で与える。同時にマクロファージ、線維芽細胞、及び血管が創傷空間中に移動する(Hunt, T. ed. Wound Healing and Wound Infection: Theory and Surgical Practice. New York, Appleton-Century-Crofts (1980))。マクロファージは、線維増殖及び血管形成を刺激するのに必要な成長因子の継続的出所を提供し;線維芽細胞は、細胞内殖の支援に必要な新しい細胞外マトリックスを産生し;血管は、細胞代謝の持続に必要な酸素と栄養を運ぶ。
【0034】
成長因子、特に血小板由来成長因子-4(PDGF-4)及び形質転換成長因子β1(TGF-β1)(Roberts, A. and Sporn, M, Transforming Growth Factor-1, In Clark, R. ed. The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp. 275-308 (1996))は、細胞外マトリックス分子(Gray, A. et al., J Cell Sci, 104, pp. 409-413 (1993); Xu, J. and Clark, R., J Cell Biol, 132, pp. 239-149 (1996))と協力して創傷周囲の組織の線維芽細胞を刺激して、適切なインテグリン受容体を増殖させ、発現させ、創傷空間に遊走させることが示された。血小板由来成長因子は、慢性褥瘡(Robson, M. et al., Lancet, 339, pp. 23-25 (1992)及び糖尿病性潰瘍(Steed, D., J Vasc Surg, 21, pp. 71-78 (1995))の治癒を速めると報告された。いくつかの他の例では、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が慢性褥瘡の治療に有効であった(Robson, M. et al., Ann Surg, 216, pp. 401-406 (1992)。
【0035】
仮のマトリックスと呼ばれる(Clark, R.et al., J.Invest Dermatol, 79, pp.264-269, 1982)新たに生じた細胞外マトリックスの構造分子は、細胞遊走用のスキャフォールド又は導管を与えることによって、肉芽組織の形成に寄与する。これらの分子としては、フィブリン、フィブロネクチン、及びヒアルロン酸がある(Greiling, D. and Clark R., J.Cell Sci, 110, pp. 861-870 (1997))。フィブロネクチンと、線維芽細胞上のフィブロネクチン、フィブリン、又は両方に結合する適切なインテグリン受容体との出現が、肉芽組織の形成の律速段階であると示唆された。線維芽細胞は、細胞外マトリックスの合成、沈着及び再構築の原因となり、細胞外マトリックスの自体は、これらの仕事を行ない、一般的にそれらの環境と相互作用する線維芽細胞の能力に正又は負の効果を有し得る(Xu, J. and Clark, R., J Cell Sci, 132, pp. 239-249 (1996); Clark, R. et al., J Cell Sci, 108, pp. 1251-1261)。
【0036】
架橋フィブリンの血餅中又はタイトに織られた細胞外マトリックス中への細胞移動は、細胞遊走用経路を切断できる活発なタンパク質分解系を必要とする。血清由来プラスミンに加えて、種々の線維芽細胞由来酵素が、この仕事の可能性のある候補であると示唆された。例えばプラスミノーゲン活性化因子、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼA、及びストロメライシンが挙げられる(Mignatti, P. et al., Proteinases and Tissue Remodeling. In Clark, R. Ed. The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, 427-474 (1996); Vaalamo, M. et al., J Invest Dermatol, 109, pp. 96-101 (1997))。創傷への遊走後、線維芽細胞は細胞外マトリックスの合成を開始する。仮の細胞外マトリックスは、おそらく形質転換成長因子β1(TGF-β1)のシグナル伝達に応答して、コラーゲン性マトリックスで徐々に置き換えられる(Clark, R. et al., J Cell Sci, 108, pp. 1251-1261 (1995); Welch, M. et al., J. Cell Biol, 110, pp. 133-145 (1990))。
大量のコラーゲンマトリックスが創傷内に沈着されるとすぐに、線維芽細胞はコラーゲンの産生を停止し、線維芽細胞に富む肉芽組織は、相対的に無細胞の瘢痕に置き換わる。創傷内の細胞は、不明のシグナルによって引き起こされるアポトーシスを受ける。これらのプロセスの調節不全が線維性障害、例えばケロイド形成、肥厚性瘢痕、モルフェア、及び強皮症等を引き起こすと報告された。
【0037】
5.4. 新血管新生
新しい血管の形成(新血管新生)は、新たに生じた肉芽組織を維持するために必要である。血管形成は、創傷床内の細胞外マトリックス並びに内皮細胞の遊走及び分裂促進的刺激に依存する複雑なプロセスである(Madri, J. et al., Angiogenesis in Clark, R. Ed. The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp. 355-371 (1996))。血管形成が主に末梢血管束の隆起及び伸長並びに既存血管からの発芽を特徴とし、一方、新血管新生は、通常は血管を含有しない組織内での血管の増殖又は特定組織内で通常は見られない異なるタイプの血管の増殖を特徴とするという点で、新血管新生は血管形成とは異なる。血管形成の誘発は、最初に酸性又は塩基性線維芽細胞成長因子に起因した。その後、多くの他の分子が血管形成活性を有することが分かっており、例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、アンジオゲニン、アンジオトロピン(angiotropin)、アンジオポエチン-1、及びトロンボスポンジンが挙げられる(Folkman, J. and D’Amore, P, Cell, 87, pp. 1153-1155 (1996))。
【0038】
低酸素張力及び乳酸増加が血管形成を刺激することも示唆された。これらの分子は、マクロファージ及び内皮細胞による塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)及び血管内皮成長因子(VEGF)の産生を刺激することによって血管形成を誘発する。例えば、創傷の活性化上皮細胞が大量の血管内皮細胞成長因子(VEGF)を分泌すると報告された(Brown, L. et al., J Exp Med, 176, 1375-1379 (1992))。
塩基性線維芽細胞成長因子は、創傷修復の最初の3日間の血管形成段階を整えるが、血管内皮細胞成長因子は、4~7日目の肉芽組織の形成中の血管形成に重要であると仮定された(Nissen, N. et al., Am J Pathol, 152, 1445-1552 (1998))。
血管形成因子に加えて、適切な細胞外マトリックス及び仮の細胞外マトリックス用内皮細胞受容体が血管形成に必要であることが示された。創傷に隣接し、また創傷内で増殖する微小血管の内皮細胞は、血管壁内に一時的に増加した量のフィブロネクチンを沈着させる(Clark, R. et al., J. Exp Med, 156, 646-651 (1982))。血管形成は、内皮細胞による機能性フィブロネクチン受容体の発現を必要とするので(Brooks, P. et al., Science, 264, 569-571 (1994))、血管周囲のフィブロネクチンは、創傷への内皮細胞の移動用導管として作用すると示唆された(Pintucci, G. et al., Semin Thromb Hemost, 22, 517-524 (1996))。
【0039】
血管形成につながる一連の事象が以下のように提案された。損傷が組織の破壊及び低酸素を引き起こす。細胞破壊後即座に酸性及び塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)等の血管形成因子がマクロファージから放出され、かつ上皮細胞による血管内皮細胞成長因子の産生が低酸素によって刺激される。結合組織中に放出されたタンパク質分解酵素が細胞外マトリックスタンパク質を分解する。これらのタンパク質の断片が末梢血単球を損傷部位に補充し、そこでそれらは活性化マクロファージになって血管形成因子を放出する。特定のマクロファージ血管形成因子、例えば塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が内皮細胞を刺激して、プラスミノーゲン活性化因子及びプロコラゲナーゼを放出させる。プラスミノーゲン活性化因子はプラスミノーゲンをプラスミンとプロコラーゲンに変換してコラゲナーゼを活性化し、これらの2つのプロテアーゼと協力して基底膜を消化する。基底膜の断片化は、血管形成因子によって刺激された内皮細胞が遊走して損傷部位で新しい血管を形成できるようにする。創傷が新しい肉芽組織で満たされるとすぐに、血管形成が終わり、新しい血管の多くはアポトーシスの結果として崩壊する(Ilan, N. et al., J Cell Sci, 111, 3621-3631 (1998))。このプログラム細胞死は、種々のマトリックス分子、例えばトロンボスポンジン1及び2等、並びに抗血管形成因子、例えばアンジオスタチン、エンドスタチン、及びアンジオポエチン2等によって調節されると示唆された(Folkman, J., Angiogenesis and angiogenesis inhibition: an overview, EXS, 79, 1-8, (1997))。
【0040】
5.5. 創傷収縮及び細胞外マトリックス再編成
創傷収縮は、細胞、細胞外マトリックス、及びサイトカインの複雑かつ組織化された相互作用を伴う。治癒の第2週の間に、線維芽細胞は、細胞の形質膜の細胞質面に沿って配置された大きい束のアクチン含有微小線維並びに細胞-細胞結合及び細胞-マトリックス結合を特徴とする筋線維芽細胞表現型を装う(Welch, M. et al., J Cell Biol, 110, 133-145 (1990); Desmouliere, A. and Gabbiani, G. The role of the myofibroblast in wound healing and fibrocontractive diseases. In Clark, R. Ed. The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, pp.391-423 (1996))。筋線維芽細胞の出現は、結合組織コンパクション及び創傷収縮の開始に相当する。この収縮は、形質転換成長因子(TGF)-β1又はβ2及び血小板由来成長因子(PDGF)による刺激、インテグリン受容体を介したコラーゲンマトリックスへの線維芽細胞の付着、及びコラーゲンの個々の束間の架橋を必用とすると示唆された(Montesano, R. and Orci, Proc Natl Acad Sci USA, 85, 4894-4897 (1988); Clark, R. et al., J Clin Invest, 84, 1036-1040 (1989); Schiro, J. et al., Cell, 67, 403-410 (1991); Woodley, D. et al., J Invest Dermatol, 97, 580-585 (1991))。
【0041】
肉芽組織から瘢痕への移行中のコラーゲンの再構築は、低速のコラーゲンの持続性合成及び代謝に左右される。創傷内のコラーゲンの分解は、マクロファージ、上皮細胞、及び内皮細胞、並びに線維芽細胞によって分泌される、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)と称するいくつかのタンパク質分解酵素によって制御される(Mignatti, P. et al., Proteinases and Tissue Remodeling. In Clark, R. Ed. The molecular and cellular biology of wound repair. 2nd Ed. New York, Plenum Press, 427-474 (1996))。種々の創傷修復期は、マトリックスメタロプロテイナーゼとメタロプロテイナーゼの組織インヒビターとの個別の組み合わせに頼ると示唆された(Madlener, M. et al, Exp Cell Res, 242, 201-210 (1998))。
創傷は、最初の3週間でそれらの最終強度の約20パーセントだけ獲得し、その間に線維性コラーゲンが相対的に速く蓄積されて、創傷の収縮によって再構築された。その後、創傷が引張強度を獲得する速度は遅く、これは、コラーゲンのずっと遅い蓄積速度及びより大きいコラーゲン束の形成によるコラーゲンの再構築及び分子間の架橋数の増加を反映している。それにもかかわらず、創傷は決して非損傷皮膚と同じ破壊強度(皮膚が破壊する張力)を獲得せず、かつ最大強度で、瘢痕は正常皮膚のたった70パーセントの強度であることが示唆された(Levenson, S. et al., Ann Surg, 161. 293-308 (1965))。
【0042】
6. 慢性創傷治癒
顕著な治療介入なしで一般的に治癒する急性創傷とは異なり、全てのタイプの慢性創傷は、患者及び介護者にとって大きな課題となる。今や慢性創傷を治癒できないのは、創傷床内に生じる細胞と分子の両異常が原因であると理解されている(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。しかしながら、慢性創傷患者及び医療提供者にとって創傷の原因の正確な診断、有効な治療の選択、及び創傷再発の予防が課題のままである(Bonham PA, AACN Clin Issues 2003 Nov; 14(4): 442-456)。
【0043】
6.1 慢性創傷細胞における表現型異常
慢性損傷に存在する上皮由来細胞及び真皮由来細胞の表現型異常としては、低密度の成長因子受容体及びそれらが環境要因に正確に応答するのを阻止する低い分裂促進ポテンシャルがある。例えば、慢性糖尿病性、慢性非糖尿病性創傷を有する患者、又は静脈不全を有する患者から単離した線維芽細胞は、別々に又は組み合わせて適用した血小板由来成長因子(PDGF-AB)、インスリン様成長因子(IGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び上皮成長因子(EGF)に対して低い分裂促進応答を有し;受容体密度低下の原因のようである(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314; Loot MA et al., Eur J Cell Biol 2002 Mar; 81(3): 153-160; Seidman C et al.,Ann Vasc Surg.2003; 17: 239-244; Vasquez R et al., Vasc Endovascular Surg 2004 Jul-Aug; 38(4): 355-360)。さらに、レプチン受容体欠損糖尿病マウスから、及び慢性静脈不全を有する患者から単離した線維芽細胞は、正常な線維芽細胞に比べて運動性が低下した(Raffetto JD et al., J Vasc Surg 2001 Jun; 33(6): 1233-1241; Lerman OZ et al., Am J Pathol 2003 Jan; 162(1): 303-312)。これらの細胞異常は、肉芽組織の形成及びECM沈着を妨害し、非治癒創傷の形成につながる。
【0044】
慢性潰瘍由来のケラチノサイトは、「慢性創傷関連」表現型を有することも報告されている(Usui ML et al., J Histochem Cytochem 2008 Jul; 56(7): 687-696)。増殖マーカーKi67を過剰発現することによって、これらの細胞は、いくつかの細胞周期関連遺伝子、例えばサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)及びサイクリンB1の発現を上方制御し、過剰増殖状態を示唆する(Stojadinovic O et al., J Cell Mol Med 2008 Dec; 12(6B): 2675-2690)。しかしながら、これらの慢性創傷由来ケラチノサイトは、障害された遊走ポテンシャルを示す。この障害の機構は完全には分かっていないが、重要な上皮ECM成分であり、かつ損傷誘発ケラチノサイト遊走の基質であるラミニン332(以前はラミニン5として知られる)の産生低下に関連づけられている(Usui ML et al., J Histochem Cytochem 2008 Jul; 56(7): 687-696)。これらの細胞は、A-カテニン/c-myc経路の高い活性化を有し、かつ分化マーカー、特にケラチン10及びケラチン2を発現しない(Stojadinovic O et al., AM J Pathol 2005 Jul; 167(1): 59-69)。最後に、種々の成長因子をコードするいくつかの遺伝子が下方制御又は上方制御される。例えば、血管上皮成長因子(VEGF)、エピレギュリン、及び形質転換成長因子-A2(TGF-A2)発現は低下するが、PDGF及び血小板由来上皮成長因子コード化遺伝子は上方制御される(Stojadinovic O et al., J Cell Mol Med 2008 Dec; 12(6B): 2675-2690)。
【0045】
6.2 ECM微小環境の障害が慢性創傷の維持に寄与する
慢性創傷床の微小環境はマトリックスで表される。慢性及び急性創傷に見られるECMの化学組成の差異についての情報はほとんどなく、議論の余地がある(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。しかしながら、慢性創傷ではいくつかのマトリックス成分の沈着が急性創傷と比べて異なること分かっている。例えば、慢性創傷は、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸、及びテネイシンの持続性又は不完全な発現を特徴とし、これは細胞の増殖及び遊走の障害をもたらす(Loots MA et al., J Invest Dermatol 1998 Nov; 111(5): 850-857; Agren MS et al., J Invest Dermatol 1999 Apr; 112(4): 463-469)。最近、ラミニン332、すなわち損傷後のケラチノサイトの運動性(基層結合時にECMタンパク質によって誘発される遊走を意味する)の走触性基質として働く基底膜成分の産生低下が、障害された再上皮化及び創傷治癒の理由の1つであることが分かった(Usui ML et al., J Histochem Cytochem 2008 Jul; 56(7): 687-696)。重要な構造成分の形質転換後変化を含めたECMの変化は、損傷への細胞応答に負の影響を及ぼすこともある。例えば、マトリックス糖化は、糖尿病患者に見られることが多く、速過ぎる細胞老化、アポトーシス、細胞の増殖、遊走の抑制、及び血管形成による新芽形成の原因であるか又はこれらに関連するようである(Kuo PC et al., In Vitro Cell Dev Biol Anim 2007 Nov-Dec; 43(10): 338-343)。糖化は、マトリックスの不安定性を増大させ、マトリックスアセンブリ及びコラーゲンとその結合パートナー、例えばヘパラン硫酸プロテオグリカン等との間の相互作用を破壊する(Reigle KL et al., J Cell Biochem 2008 Aug 1; 104(5): 1684-1698; Liao H et al., Bimaterials 2009 Mar; 30(9): 1689-1696)。高グルコースは、線維芽細胞、マクロファージ、及び内皮細胞によるMMP産生を刺激し、その結果、細胞生存及び創傷治癒に有害なマトリックス分解の周期に寄与する(Death AK et al., Atherosclerosis 2003 Jun; 168(2): 263-269)。糖化及び低酸素条件下での不完全な分子間架橋に起因するマトリックスの不安定性及びMMPによる過剰なマトリックス分解も治癒プロセスに有害である(Dalton SJ et al., J Invest Dermatol 2007 Apr; 127(4): 958-968)。マトリックスの不安定性は、細胞の生存及び機能、究極的に、損傷治癒に必要な正常な細胞-マトリックス相互作用を妨げる。
【0046】
6.3 バイオフィルム及び慢性創傷床
感染は、創傷治癒遅延の原因となる外因子であり、創傷の慢性化、罹患率、及び死亡率に寄与する(Bader MS, Am Fam Physician 2008 Jul 1; 78(1): 71-79)。105を超える生細菌又は任意数のグループAの溶血性連鎖球菌という高い細菌数は有害と考えられる。生細菌(及びその後に産生される細菌毒素)は、過剰な炎症反応及び組織損傷を誘発し、膿瘍、セルライト、骨髄炎、又は肢欠損(糖尿病患者)をもたらし得る(Edwards R and Harding KG, Curr Opin Infect Dis 2004 Apr; 17(2): 91-96; Ovington L, Ostomy Wound Manage 2003 July; 49(7A Suppl): 8-12)。さらに、動員された炎症細胞は、創傷床内に存在するECM及び成長因子を分解するいくつかのプロテアーゼ(例えば、MMP)を産生する(Demidova-Rice TN et al., Adv Skin Wound Care 2012 July; 25(7): 304-314)。慢性創傷とコロニー形成する細菌は、バイオフィルムと呼ばれる多微生物性コミュニティーを形成することが多い(James GA et al., Wound Repair Regen 2008 Jan-Feb; 16(1): 37-44)。これらの複雑な構造体は、分泌されたポリマーマトリックスに埋め込まれた微生物細胞で構成される。ポリマーマトリックスは、宿主の免疫監視/防御からの細菌の逃避及び抗生物質治療への耐性を可能にする細菌細胞の生存に最適な環境を与える(Martin JM et al., J Invest Dermatol 2010 Jan; 130(1): 38-48)。バイオフィルムは慢性創傷内に蔓延し、動物モデルにおいて再上皮化を著しく遅らせるが、それらが正確に治癒をどのようにして遅らせるかは不明なままである(Falanga V. Wound healing and its impairment in the diabetic foot. Lancet. 2005;366:1736-43; James GA, Swogger E, Wolcott R, et al. Biofilms in chronic wounds. Wound Repair Regen.2008;16(1):37-44; Schierle Clark F., De la Garza Mauricio, Mustoe Thomas A., Galiano Robert D. Staphylococcal biofilms impair wound healing by delaying reepithelialization in a murine cutaneous wound model. Wound Repair Regen.2009;17:354-9)。細菌生存上昇及び病原因子の産生増強がもっともらしい説明である。それにもかかわらず、細胞外バイオフィルム成分は、宿主細胞の機能性に毒性の表現型を有するか又は呈し、ひいては治癒を妨害する可能性がある。RNAIII阻害ペプチドでバイオフィルム形成を妨げると、細菌のバイオフィルムによって誘発される創傷治癒遅延を逆転させることが実証された(Schierle Clark F., De la Garza Mauricio, Mustoe Thomas A., Galiano Robert D. Staphylococcal biofilms impair wound healing by delaying reepithelialization in a murine cutaneous wound model. Wound Repair Regen. 2009;17:354-9; Cirioni O, Ghiselli R, Minardi D, et al. RNAIII-inhibiting peptide affects biofilm formation in a rat model of staphylococcal ureteral stent infection. Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:4518-20)。
【0047】
7. 慢性創傷ケア
慢性創傷治療に成功するためには、創傷床内に存在する分子及び細胞成分の詳細な理解を必要とする。現在、様々な病因の慢性(及び急性)創傷は、創傷治癒の現代の知識に基づき、下記アクロニムTIMEによって知られる多段階手法を用いて治療されている:外科的デブリードマン又は清拭薬、例えば細菌コラゲナーゼを用いて創傷の中又は周囲から生育不能組織(T)を除去し;感染及び炎症(I)を抗生物質及び抗炎症製剤で最小限にし;モイスチャー(M)のアンバランスを通常は注意深く選択したドレッシング材で補正し;並びに成長因子等の特定治療薬の適用によって上皮化(E)及び肉芽組織形成を促進する(Demidova-Rice T N et al. Acute and Impaired Wound Healing: Pathophysiology and Current Methods for Drug Delivery, Part 1: Normal and Chronic Wounds: Biology, Causes, and Approaches to Care.Adv Skin Wound Care.2012 Jul; 25(7): 304-314;Tomic-Canic M, Ayello EA, Stojadinovic O, Golinko MS, Brem H. Using gene transcription patterns (bar coding scans) to guide wound debridement and healing. Adv Skin Wound Care. 2008;21:487-92)。
【0048】
TIME戦略の使用は、常に十分なわけではなく、現在の療法に応答しないままの創傷もある。従って、個別化療法を可能にする精巧な方法が興味深い選択肢となる。この目的に向けて、創傷の「バーコーディング(bar coding)」と呼ばれる創傷診断技術が提案された(Tomic-Canic M, Ayello EA, Stojadinovic O, Golinko MS, Brem H. Using gene transcription patterns (bar coding scans) to guide wound debridement and healing. Adv Skin Wound Care.2008;21:487-92)。「バーコーディング」診断は、創傷慢性度のマーカー、例えば成長因子、成長因子受容体、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、A-カテニン/c-myc経路のメンバー、及びケラチノサイト分化マーカー等の同定を可能にする慢性創傷体液のサンプリング及び/又は組織バイオプシーの収集を利用する。創傷バーコーディングは、デブリードマンの案内役にも治療レジメンにも使用可能である。例えば、A-カテニン/c-mycポジティブ細胞の存在によって、死組織除去の必要レベルを決定することができる。それらは増殖し得るが、遊走及び分化し得ないので、除去しなければならない(Demidova-Rice T N et al. Acute and Impaired Wound Healing: Pathophysiology and Current Methods for Drug Delivery, Part 1: Normal and Chronic Wounds: Biology, Causes, and Approaches to Care. Adv Skin Wound Care. 2012 Jul; 25(7): 304-314)。
さらに、個々の患者のニーズ又はバーコーディング結果に基づいて治療戦略を調整することができる。例えば、創傷内に存在する細胞が、酵素結合免疫吸着アッセイにより決定したところ低レベルの成長因子、成長因子受容体、及び高レベルのMMPを表す場合、成長因子又は患者由来の「遺伝子操作した」細胞を投与して、創傷の微小環境を治癒表現型に回復させる助けをすることができる。
【0049】
7.1 創傷床調製
創傷床調製という用語は、内因性治癒を速めるか又は先端的及び補助的創傷治療の有効性を促進するための創傷の管理を指す。創傷床調製は、慢性非治癒創傷の生化学的な細胞と分子の環境を急性治癒創傷に変えるプロセスを含む。創傷床調製の例を表1に示す。
【0050】
【0051】
組織壊死の管理
創底を覆う生育不能壊死組織は、創傷の深さと状態の評価を不明瞭にする。さらに、壊死組織の存在は、細菌成長のための病巣であり、局所創傷感染の兆候を不明瞭にし得る物理的バリアとして働く。壊死組織内の細菌コロニーは、治癒プロセス中に細胞外マトリックス成分に悪影響を与える損傷メタロプロテイナーゼを産生する恐れがある。細菌は、創傷治癒に必要な欠乏した局所資源(例えば、酸素、栄養及び構成要素)に対して競合することもある(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
組織管理は、治癒プロセスを妨害する壊死又は失活組織、細菌及び細胞を除去して、創傷汚染及び組織破壊を低減させるプロセスである。その目的は、機能的細胞外マトリックスを有する生存可能な創底を回復させることである。慢性創傷は、老化細胞の壊死負荷、細胞外マトリックス、炎症性酵素及び細菌コロニー含有バイオフィルムの除去によって急性創傷に変換される(Panuncialman J, Falanga V. The science of wound bed preparation. Clin Plast Surg. 2007;34:621-32)。
【0052】
デブリードマンのための選択肢としては、外科的、機械的、自己分解的、酵素的及び生物学的方法がある。外科的方法が最速手段であり、創傷の重症度及び広がりの正確な評価を可能にする。外科的方法は、壊死結痂又は壊疽を有する生命又は肢を危うくする感染症において特に重要である。外科的デブリードマンは、壊死組織の迅速な排除が必要である広範な又は癒着性結痂を有する創傷にとっても必要を示される。しかしながら、正常な健康組織が同時に除去され得るので、外科的デブリードマンは選択されない(Panuncialman J, Falanga V. The science of wound bed preparation. Clin Plast Surg. 2007;34:621-32)。外科的デブリードマンは、患者の出血傾向及び疼痛耐性並びに外科的専門知識の利用能によって制限され得る。
Versajetハイドロサージェリー(hydrosurgery)は、接線方向のハイドロディセクション(hydro-dissection)を用いる外科的デブリードマンの技術的進歩を代表する。Versajetの生理食塩水ビームのエネルギーが、周囲の健康組織への最小限の損傷で接線方向に創傷表面を切除する。それは、細菌除去において強力パルス洗浄システムと同じくらい有効である(Granick MS, Tenenhaus M, Knox KR, Ulm JP. Comparison of wound irrigation and tangential hydrodissection in bacterial clearance of contaminated wounds: Results of a randomized, controlled clinical study.Ostomy Wound Manage.2007;53:64-6)。それは、急性及び慢性創傷の外科的創傷床調製に必要な外科術数を減らすことによって治療成果を改善する。Versajetは、熱傷の外科的デブリードマンを促進し、熱傷創切除においてさらなる精度を増大させる実行可能な簡単かつ安全な技術であると記述された(Granick M, Boykin J, Gamelli R, Schultz G, Tenenhaus M. Toward a common language: surgical wound bed preparation and debridement. Wound Repair Regen. 2006;14()(Suppl 1):S1-10; Gravante G, Delogu D, Esposito G, Montone A. Versajet hydrosurgery versus classic escharectomy for burn debridment: A prospective randomized trial.J Burn Care Res. 2007;28:720-4)。
【0053】
機械的デブリードマンは、ウェット-トゥ-ドライドレッシング及び圧力洗浄等の方法を含む。ウェット-トゥ-ドライドレッシングは、湿ったガーゼを創傷表面と直接接触させて放置し、乾燥したらいずれの癒着している瘡蓋組織をも一緒に除去することによって行なわれる。それは、ドレッシング材を交換するときに過剰な痛み及び出血をもたらし、新たな治癒上皮を除去する。圧力洗浄は、ルーズかつ表在性の壊死組織を除去するためにカニューレを介した注射器からの生理食塩水による強制洗浄である。この技術は、溶液を収集してデッドスペースに捕捉し得るときには使用する必要はない(Sibbald RG, Goodman L, Woo KY, Krasner DL, Smart H, Tariq G, et al.Special considerations in wound bed preparation 2011: An update(c) Adv Skin Wound Care. 2011;24:415-36)。
伝統的に創傷デブリードマンに用いられているエジンバラ大学の石灰溶液(Edinburg University Solution of Lime)(EUSOL)は、次亜塩素酸カルシウム(calcium hypochloride)及びホウ酸を含有する安価な漂白消毒薬である。この溶液は、塹壕足炎の治療のため第一次世界大戦中に開発された(Patton MA. Eusol: The continuing controversy. BMJ. 1992;304:1636)。EUSOLは、瘡蓋創傷の化学的デブリードマンのために通常はウェット-トゥ-ドライドレッシング材として1日3~4回投与される。EUSOLは、その組織毒性及びきれいな肉芽創の治癒遅延のため過去20~30年にわたって論争の対象であったが、正しく投与すれば、EUSOLは未だにデブリードマンにおいて役割を果たす。
【0054】
自己分解的デブリードマンは、壊死組織を消化及び除去する体本来の能力を用いる。保湿ドレッシング材を創傷に適用して、内因性酵素又は貪食細胞によって壊死組織を液化できるようにする湿性創傷治癒環境を与える。ポリウレタンフィルムに覆われたハイドロゲルの適用が、このタイプのデブリードマンに用いられるドレッシングの例である。この方法は、実施が比較的容易であり、技術的スキルの必要性は限定的であり、最小限の疼痛を伴う。しかしながら、この方法は時間がかかり、侵襲的感染症及び創傷縁解離のリスクがある。自己分解的デブリードマンは、最小限の壊死負荷を有する創傷、麻酔を必要とするさらに攻撃的なデブリードマンを必要とする創傷又は疼痛に耐えられない患者において必要を示される(Knox KR, Datiashvili RO, Granick MS. Surgical wound bed preparation of chronic and acute wounds. Clin Plast Surg. 2007;34:633-41)。
【0055】
酵素的デブリードマンは、清拭薬としてコラゲナーゼ及びパパイン尿素等の製造酵素を用いて壊死組織を溶かす。パパインは、バルクデブリードマンに有用な広域スペクトルの酵素であり、コラゲナーゼは生細胞により穏やかである。酵素的デブリードマンは、非外科患者に適しており、湿性創傷治癒と効果的に併用することができる。酵素的デブリードマンは高価であり、選択された慢性創傷の治療に果たされる役割は限定される(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
生物学的デブリードマン(マゴットデブリードマン療法又はMDTとしても知られる)では、グリーンバタフライ(green butterfly)(ルシラ・セリカタ(Lucila serricata))の幼虫が壊死組織を消化し、殺菌酵素を分泌する。これらの幼虫は、創傷床を郭清する能力を有し、抗菌活性をもたらし、創傷治癒をも刺激する(Marineau ML et al. Maggot Debridement Therapy in the Treatment of Complex Diabetic Wounds. Hawaii Med J. 2011; 70(6): 121-124)。MDTは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及び/又はβ溶血性連鎖球菌に感染した創傷に有効である。生物学的デブリードマンは、外科的デブリードマン後又は外科的デブリードマンに適合しない患者のための二次デブリードマンであるとみなされる。この治療によって生じる不快感のためこの治療は不評である(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0056】
細菌バランスの回復
慢性創傷床は、創傷の持続的開放、不十分な血流及び根底にある疾患プロセスのため様々な種の細菌又は真菌生物によってコロニー形成されることが多い。細菌バランスは、細菌の密度と病原性に関して細菌負荷を制御することによって達成される(Panuncialman J, Falanga V. The science of wound bed preparation. Clin Plast Surg. 2007;34:621-32)。創傷床内の細菌の存在は、汚染、コロニー形成及び臨界的コロニー形成から侵襲的感染症に及ぶ。臨界的コロニー形成は、局所組織損傷を引き起こし始めている増幅微生物の存在である。それが、宿主防御がコロニー形成下で生物のバランスを維持できない点である。それは、創傷床の色の変化、脆弱かつ不健康な肉芽組織、異臭、漿液滲出増加及び創傷部位の痛み等の兆候によって臨床的に認められる。臨界的コロニー形成は、侵襲的感染症の発症前でさえ、創傷治癒が遅延し始めるレベルなので、臨界的コロニー形成を明らかにすることは重要である(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0057】
組織1g当たり106以上の細菌レベルが創傷治癒に悪影響を与えるので、一般的にこれらのレベルが感染症とみなされる。創傷内の増幅微生物の存在は、毒素、競合代謝及び炎症のため宿主に傷害を引き起こす。急性及び亜急性創傷では、感染症は、進行性発赤、創傷周囲の皮膚の温まり、浮腫、増加する疼痛及び圧痛、腐敗臭及びドレナージ低下又は化膿性ドレナージの局所兆候として臨床的に認識される。全身の兆候としては、発熱、頻脈及び敗血症の場合は精神状態の変化さえが挙げられる。患者は白血球数の増加を有することもある。しかしながら、3月齢を超える慢性創傷は、進行性炎症及び体質的症状を有する可能性が低い(Gardner SE, Frantz RA, Doebbeling BN. The validity of the clinical signs and symptoms used to identify localized chronic wound infection. Wound Repair Regen.2001; 9:178-86)。慢性創傷感染症は、増加する潰瘍サイズ、増加する滲出液産生及び脆弱な不健康肉芽組織によって認識される(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective.Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0058】
慢性創傷は細菌によってコロニー形成されることが多いので、実験データの取得及び解釈は臨床所見と関連付けて行なうべきである。組織バイオプシーがより理想的であるが、正しく行なわれた深部創傷スワブも有用である。定量的細菌数とは別に、創傷床内の4種以上の生物の存在は、特に特定生物は相乗作用を示すので、創傷治癒遅延を予測することができる(Trengove NJ, Stacey MC, McGechie DF, Mata S. Qualitative bacteriology and leg ulcer healing. J Wound Care.1996;5:277-80)。
臨界的にコロニー形成された創傷は、局所抗菌ドレッシング材で治療すべきである。持続放出銀ドレッシング材は、特にシュードモナス(pseudomonas)又はMRSA感染が懸念されるときに、それらの有効性、低耐性及び広域スペクトルの抗菌作用のため人気を得た。ポビドンヨード等の毒性溶液の代わりに低毒性の局所消毒溶液(例えば生理食塩水又はクロルヘキシジン溶液)で創傷を浄化すべきである。局所消毒薬は、広域スペクトルの細菌適用範囲及び創傷床への高濃度での送達という利点を有する。創傷デブリードマンは、バイオフルムを含め、細菌負荷を直接低減させるので、重要な補助療法である。バイオフィルムは、抗菌薬の作用にさらに容易に耐える多糖の保護コートで包囲された細菌コロニーである。運動性細菌のこれらのコロニーからの周期的遊離が感染をもたらし得る。全身的抗生物質は、侵襲的創傷感染症又は敗血症の存在下でのみ必要を示される。免疫抑制を引き起こす、宿主の全身因子にも取り組むべきである(例えば糖尿病のコントロールにおいて)。創傷床調製に関して臨床的意味を有する他の因子には、根底にある骨髄炎と併発した骨曝露がある。これは、広範な全身用抗生物質及び外科的管理、例えばデブリードマン、及び十分な軟組織被覆を必要としう得る(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0059】
モイスチャーバランスの達成
湿性創傷環境は、感染率を高めることなく創傷の再上皮化を加速させる。これらの原理は創傷床調製のモイスチャーバランスの基本的部分である(Falanga V. Wound Bed Preparation in Practice. EWMA Position Document. London: Medical Education Partnership Ltd; 2004. Wound bed preparation: Science applied to practice; pp.2-5)。モイスチャーバランスの達成は、温かい湿性創傷床の生成と維持及び創傷治癒にプラスの影響を与えるモイスチャー成分、例えば成長因子等の刺激を必要とする。成長因子及びサイトカインの最適効果並びにケラチノサイト、内皮細胞及び線維芽細胞等の増殖細胞の成長のためには適量のモイスチャーが必要である。他方で、過剰の創傷体液はマトリックスメタロプロテイナーゼ及びセリンプロテアーゼを含有し、必須の細胞外マトリックス材料を分解するか又は傷つける恐れがある過剰のモイスチャーは、創傷縁の解離につながることもある。他方で、不十分なモイスチャーは、細胞の活性を抑制し、結痂形成を促進し得る(Sibbald RG, Goodman L, Woo KY, Krasner DL, Smart H, Tariq G, et al. Special considerations in wound bed preparation 2011: An update(c) Adv Skin Wound Care.2011;24:415-36)。従って、モイスチャーバランスは、治癒に最適な湿性治癒環境を維持するという繊細なプロセスである。この要件は、閉塞性、半閉塞性、吸収性から水分補給ドレッシング材に及ぶ、湿性創傷治癒を促進する抗範囲の保湿ドレッシング材の開発につながった。
【0060】
滲出液は、創傷床のモイスチャー状態によって決まるいくつかのドレッシング材の使用によって直接管理可能である。例えば、高滲出性創傷においては、フォーム等の吸収性ドレッシング材が適しているが、乾燥創傷結痂においては、ハイドロコロイド等の包帯閉塞性又は半閉塞性ドレッシング材が適切なモイスチャーバランスを達成するために適している(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。静脈性潰瘍及び周囲浮腫を有する創傷においては、創傷部位から体液を除去するために圧縮及び肢の挙上の使用を適用すべきである。モイスチャーバランスは、浮腫(例えば心不全において)を減らす全身療法、又は特定疾患では炎症応答を減らすための薬物療法の使用によって間接的に達成することができる(Attinger CE, Janis JE, Steinberg J, Schwartz J, Al-Attar A, Couch K. Clinical approach to wounds: Debridement and wound bed preparation including the use of dressings and wound-healing adjuvants. Plast Reconstr Surg. 2006;117:72 S-109)。
【0061】
生物学的ドレッシング材(例えば、皮膚同種移植片、自家皮膚移植片)も慢性創傷の管理を助けることができる。これらのドレッシング材は、体液、タンパク質及び電解質損失に対する機械的バリアを形成する。従って、これらのドレッシング材は、組織の乾燥及び微生物の侵襲を阻止する。皮膚同種移植片を自家皮膚移植前の試験として使用することができる(Mat Saad AZ, Khoo TL, Dorai AA, Halim AS. The versatility of a glycerol-preserved skin allograft as an adjunctive treatment to free flap reconstruction. Indian J Plast Surg. 2009;42:94-9; Mat Saad AZ, Halim AS, Khoo TL. The use of glycerol-preserved skin allograft in conjunction with reconstructive and flap surgery: Seven years of experience. J Reconstr Microsurg. 2011;27:103-8)。
【0062】
陰圧創傷閉鎖法(例えば、フォームドレッシング材)を用いて、重い滲出性創傷を管理することができる。陰圧創傷閉鎖法は浮腫を減らすこともでき、組織内灌流の改善に寄与する。それは、創傷のサイズ及び複雑さを低減させることによって創傷床調製でも重要な役割を果たす。陰圧が加えられと、創傷は即座に収縮(巨視的変形)する。このタイプの療法は、小組織ブレブのフォームドレッシング材中への伸長に起因する微視的変形効果を有する。これらの機械的効果が細胞骨格を変え、結果として血管形成の刺激、細菌負荷の低減及び肉芽組織の形成を含めた一連の生物学的効果をもたらす(Borgquist O, Gustafsson L, Ingemansson R, Malmsjo M.Micro- and macromechanical effects on the wound bed of negative pressure wound therapy using gauze and foam. Ann Plast Surg. 2010;64:789-93)。フォームドレッシング材に付着している壊死組織はドレッシング材交換中に除去され、また湿性創傷床は、湿性環境内に存在する内因性プロテイナーゼの自己分解作用を可能にするので、この療法を機械的及び自己分解的創傷デブリードマンの手段として使用することもできる。
【0063】
上皮の前進
上皮細胞/ケラチノサイト遊走及び創傷収縮に関する創傷縁の進行は創傷治癒の重要な指標の1つである。これらのプロセスの静止が観察されたら、臨床医は、創傷治癒の失敗の可能な理由として、細胞機能障害及び生化学的アンバランスを含めた初期の考察要素(T.I.M.E.)を考慮すべきである。例えば、ケラチノサイトは、壊死組織、バイオフィルム、過剰肉芽組織、フィブリン性瘡蓋の上、胼胝又は過角化性縁が存在するところでは増殖及び遊走することができない。これらの有害な環境は、適切なデブリードマンによって除去されるべきである。感染並びに過剰な炎症の制御を達成して、プロテアーゼレベルを正常レベルに低減させ、結果として上皮細胞の複製に必要とされる繊細な生化学的バランスを維持しなければならない。創傷の最適なモイスチャーレベルは、創傷縁を前進させることによる証拠として上皮化を促進することになる。微視的には、慢性創傷の縁に細胞の老化が存在することがあり、治癒を達成するために治療介入が必要である(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0064】
細胞機能障害の修正及び生化学的バランスの回復
特に慢性非治癒創傷を取り扱うとき、創傷床調製の他の要素は、細胞機能障害の修正及び生化学的バランスの回復である。慢性創傷は、細胞外マトリックス分子及び成長因子の異常な発現に起因する細胞の機能障害及び調節不全を含めた種々の要因から生じる持続性炎症期に固着されると考えられる。慢性創傷においては、整然と、かつ時宜を得た様式で進行して解剖学的及び機能的完全性をもたらすことに治癒プロセスが失敗した。これらの慢性創傷は、細胞外マトリックスの不完全な再構築、持続性炎症及び再上皮化の失敗を特徴とする(Mustoe TA, O’Shaughnessy K, Kloeters O. Chronic wound pathogenesis and current treatment strategies: A unifying hypothesis.J Plast Reconstr Surg. 2006;117:35-41; Hasan A, Murata H, Falabella A, Ochoa S, Zhou L, Badiava E, et al. Dermal fibroblasts from venous ulcers are unresponsive to action of transforming growth factor-beta I. J Dermatol Sci. 1997;16:59-66; Agren MS, Steenfos HH, Dabelsteen S, Hansen JB, Dabelsteen E. Proliferation and mitogenic response to PDGF-BB of fibroblasts isolated from chronic leg ulcers is ulcer-dependent.J Invest Dermatol. 1999;112:463-9; Cook H, Davies KJ, Harding KG, Thomas DW. Defective extracellular matrix reorganization by chronic wound fibroblasts is associated with alterations in TIMP-1, TIMP-2 and MMP-2 activity. J Invest Dermatol. 2000;115:225-33)。対照的に、正常な創傷治癒プロセスは、細胞成分、細胞外マトリックス分子及び生化学的媒介物質/酵素、例えば成長因子、サイトカイン及びプロテアーゼ等の間の複雑な相互作用を伴う。慢性非治癒創傷ではこれらの整然とした細胞及び生化学的プロセスが失われる。これらのプロセスは厳密に制御され、一方の秩序が他方に影響することになる。フィブロネクチン及びトロンボスポンジン等の細胞外マトリックス分子の発現は、規定の時間経過に従う。しかしながら、それらは慢性創傷では過剰発現するようであり、これは細胞の機能障害及び調節不全に起因すると考えられている(Falanga V, Grinnell F, Gilchrist B, Maddox YT, Moshell A. Workshop on the pathogenesis of chronic wounds. J Invest Dermatol. 1994;102:125-7)。
【0065】
慢性創傷の滲出液の生化学的内容物は、急性創傷の滲出液とは異なる。炎症性サイトカイン、成長因子、酵素及びそれらのインヒビターのバランスが変化し、内皮細胞、線維芽細胞及びケラチノサイト等の細胞の増殖を遅くするか又は完全に遮断さえする。これらの効果は、創傷治癒の進行を阻止することがある(Schultz GS, Sibbald RG, Falanga V, Ayello EA, Dowsett C, Harding K, et al. Wound bed preparation: A systematic approach to wound management. Wound Repair Regen. 2003;11(Suppl 1):S1-28)。
正常な循環下では、2種の炎症促進性サイトカイン、すなわち腫瘍因子-α(TNF-α)及びインターロイキン(IL-1)のレベルが数日後にピークになり、感染の非存在下では超低レベルに戻る。しかしながら、非治癒創傷ではこれらのサイトカインが持続的に増える。慢性創傷が治癒の兆候を示すと、炎症性サイトカインの濃度は、急性創傷における濃度に近い値まで低減する。これは低レベルの炎症性サイトカインと創傷治癒の進行との密接な関係を示唆している(Schultz GS, Sibbald RG, Falanga V, Ayello EA, Dowsett C, Harding K, et al. Wound bed preparation: A systematic approach to wound management. Wound Repair Regen. 2003;11(Suppl 1):S1-28)。
【0066】
線維芽細胞は、正常な創傷治癒において細胞の相互作用及び生化学的相互作用を組織化する際に中心的役割を果たすと考えられている。線維芽細胞は、コラーゲン線維を合成して治癒創傷に強度を与え、さらに重要なことにフィブロネクチン、トロンボスポンジン、インテグリン及びビトロネクチンを産生して、基底層を形成する。これらの分子は、血管形成のため及び上皮化のために、内皮細胞及びケラチノサイト遊走のスキャフォールド及びテンプレートを与える細胞外マトリックスの成分でもある。線維芽細胞は、サイトカイン及びプロテアーゼ、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ及びエラスターゼ等の発現を媒介することによって、細胞外マトリックス分子のレベルを調節する際にも役割を果たす。慢性創傷においては、急性創傷におけるよりそのレベルが高いプロテアーゼによる急速な分解のため、及びメタロプロテイナーゼの組織インヒビター(TIMP)の非存在又は低レベルのためフィブロネクチンレベル低い(Halim AS et al. Wound bed preparation from a clinical perspective. Indian J Plast Surg. 2012 May-Aug; 45(2): 193-202)。
【0067】
慢性創傷から単離された線維芽細胞は、成長因子(例えば、血小板由来成長因子(PDGF)-β及び形質転換成長因子(TGF)-β)に応答できない等の細胞の機能障害をも示す。いくつかの研究は、慢性創傷の種々の創傷床由来の線維芽細胞が、正常な刺激メッセージに非効率的に応答する未熟な又は老化した又は未分化表現型を呈することを実証した(Mustoe TA, O’Shaughnessy K, Kloeters O. Chronic wound pathogenesis and current treatment strategies: A unifying hypothesis. J Plast Reconstr Surg. 2006;117:35-41; Stanley AC, Park HY, Phillips TJ, Russakovsky V, Menzoian JO. Reduced growth of dermal fibroblasts from chronic venous ulcers can be stimulated with growth factors. J Vasc Surg. 1997;26:994-9; Henderson EA. The potential effect of fibroblast senescence on wound healing and the chronic wound environment. J Wound Care.2006;15:315-8; Menke NB, Ward KR, Witten TM, Bonchev DG, Diegelmann RF. Impaired wound healing. Clin Dermatol.2007;25:19-25)。
【0068】
慢性糖尿病性創傷は、グルコースの局所欠乏を引き起こすことによって線維芽細胞、白血球及びマクロファージの活性を高め、不必要な乳酸副生物の量を増やし、これらは創傷環境に有害である(Simonsen L, Holstein P, Larsen K, Bullow J. Glucose metabolism in chronic diabetic foot ulcers measured in vivo usingmicrodialysis. Clin Physiol. 1998;18:355-9; Stolle LB, Riegels-Nielsen P. The metabolism if the diabetic foot. In vivo investigation with microdialysis. Acta Orthop Scand. 2004;75:106-8)。糖尿病マウスの創傷から単離されたマクロファージはエフェロサイトーシス(貪食細胞によるアポトーシス細胞の除去又はクリアランスのプロセスを意味する)において顕著な障害を示した。エフェロサイトーシスの障害は、創傷組織内のアポトーシス細胞の顕著に高い負荷並びに炎症促進生サイトカインの高い発現及び抗炎症性サイトカインの低い発現と関連した(Khanna S, Biswas S, Shang Y, Collard E, Azad A, Kauh C, et al. Macrophage Dysfunction Impairs Resolution of Inflammation in the Wounds of Diabetic Mice. PLoS ONE.2010;5:e9539)。
【0069】
Liuらは、慢性糖尿病性下肢潰瘍では内皮前駆細胞の不十分な存在のため局所血管形成障害があることを示した。しかしながら、この欠損は、創傷への循環内皮前駆細胞の動員を促進し、かつ外因性ストロマ細胞由来因子(SDF)-1αの投与と相乗的に働く高気圧酸素治療を用いて修正可能である(Liu ZJ, Velazquez OC. Hyperoxia, Endothelial progenitor cell mobilization, and diabetic wound healing. Antioxid Redox Signal. 2008;10:1869-82)。不十分な血管形成の失敗は、細胞遊走並びに成熟肉芽組織の形成とその後の再上皮化に必要なコラーゲン合成の支援に影響を及ぼす(Brem H, Stojadinovic O, Diegelmann RF, Entero H, Lee B, Pastar I. Molecular markers in patients with chronic wounds to guide surgical debridement. Mol Med. 2007;13:30-9)。
他のパラメーターと同様に、細胞及び生化学的異常を修正するためには、原因となる要因を除去又は治療すべきである。該問題は、例えば、糖尿病における血糖コントロール、褥瘡における圧力再分配、動脈不全における血行再建及び静脈性潰瘍における圧縮治療を必要とする(Sibbald RG, Goodman L, Woo KY, Krasner DL, Smart H, Tariq G, et al. Special considerations in wound bed preparation 2011: An update(c) Adv Skin Wound Care. 2011;24:415-36)。
【0070】
慢性創傷を管理するための古典的方法の1つは、外科術により創傷縁を除去することで創傷を急性創傷に変換することによる。バイオプシー及び生化学分析を用いた複数の研究により細胞機能障害及び化学的異常が創傷のこの領域に見られることが分かっている(Mustoe TA, O’Shaughnessy K, Kloeters O.Chronic wound pathogenesis and current treatment strategies: A unifying hypothesis. J Plast Reconstr Surg. 2006;117:35-41; Stanley AC, Park HY, Phillips TJ, Russakovsky V, Menzoian JO. Reduced growth of dermal fibroblasts from chronic venous ulcers can be stimulated with growth factors. J Vasc Surg. 1997;26:994-9; Henderson EA. The potential effect of fibroblast senescence on wound healing and the chronic wound environment. J Wound Care. 2006;15:315-8; Menke NB, Ward KR, Witten TM, Bonchev DG, Diegelmann RF. Impaired wound healing. Clin Dermatol. 2007;25:19-25; Jude EB, Blakytny R, Bulmer J, Boulton AJ, Ferguson MW.Transforming growth factor-beta 1, 2, 3 and receptor type I and II in diabetic foot ulcers. Diabet Med. 2002;19:440-7; Blakytny R, Jude EB, Martin Gibson J, Boulton AJ, Ferguson MW.Lack of insulin-like growth factor-1 (IGF-1) in the basal keratinocyte layer of diabetic skin and diabetic foot ulcers. J Pathol.2000;190:589-94)。生化学的アンバランスは、様々なドレッシング材を用いて滲出液を制御することによって管理可能である(例えば、陰圧創傷閉鎖法)。
【0071】
しかしながら、妥当な創傷床調製によってさえ、治療に抵抗性のまま又は進行が遅いままの創傷がある。これは、創傷内で産生されたタンパク質分解酵素、サイトカイン及び成長因子の不十分な活性からの持続的な細胞及び生化学的混乱の結果であり得、持続する炎症、不十分な血管形成、細胞外マトリックス分解並びに細胞の増殖及び遊走の失敗につながる(Herrick SE, Sloan P, McGurk M, Freak L, McCollum CN, Ferguson MW. Sequential changes in histologic pattern and extracellular matrix deposition during the healing of chronic venous ulcers. Am J Pathol. 1992;141:1085-95)。これらの異常の逆転を目標とする先端的療法には、遺伝子操作した皮膚コンストラクト、血小板由来成長因子、ケラチノサイト成長因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、エステル化ヒアルロン酸、プロテアーゼ調節マトリックス及び免疫グロブリンが含まれる(Fivenson D, Scherschun L.Clinical and economic impact of Apligraf for the treatment of non-healing venous leg ulcers. Int J Dermatol. 2003;42:960-5; Da Costa RM, Ribeiro Jesus FM, Aniceto C, Mendes M. Randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-ranging study of granulocytemacrophage colony stimulating factor in patients with chronic venous leg ulcers. Wound Repair Regen. 1999;7:17-25; Robson MC, Phillips TJ, Falanga V, Odenheimer DJ, Parish LC, Jensen JL, et al.Randomised trial of topically applied Repifermin (recombinant human keratinocyte growth factor-2) to accelerate wound healing in venous ulcers. Wound Repair Regen. 2001;9:347-52; Colletta V, Dioguardi D, Di Lonardo A, Maggio G, Torasso F. A trial to assess the efficacy and tolerability of Hyalofill-F in non-healing venous leg ulcers. J Wound Care. 2003;12:357-60; Sibbald RG, Torrance G, Hux M, Attard C, Milkovich N. Cost-effectiveness of becaplermin for non-healing neuropathic diabetic foot ulcers. Ostomy Wound Manage. 2003;49:76-84; Vevas A, Sheehan P, Pham HT. A randomised controlled trial of Promogran (a collagen/oxidized regenerated cellulose dressing) vs standard treatment in the management of diabetic foot ulcer. Arch Surg. 2002;137:822-7; Felts AG, Grainger DW, Slunt JB. Locally delivered antibodies combined with systemic antibiotics confer synergistic protection against antibiotic-resistant burn wound infection. J Trauma.2000;49:873-8)。これらの治療は、一般的に成長因子を産生/置換し、血管形成を刺激し、炎症細胞を調節し、細胞増殖を促進し、かつ過剰なプロテアーゼ活性を制御する。しかしながら、該治療は高価であり、多くの臨床医及び開業医には利用できない。
【0072】
8. 慢性非治癒創傷の治療
8.1 補助薬
慢性創傷の治療を容易にするために種々多様な商業的に入手可能な補助薬が市販されている。残念ながら、ランダム化対照試験は、促進及び適用に遅れを取り続けている。動脈性潰瘍の治療時にシロスタゾールを用いて、機能状態、足関節・上腕血圧指数(ABI)、及び生活の質の改善が実証された(Hiatt WR. Pharmacologic therapy for peripheral arterial disease and claudication. J Vas Surg.2002;36:1283-91)。神経障害性潰瘍及び褥瘡治療のために血小板由来成長因子の適用があるので、ペントキシフィリン及び二分子層人工皮膚ドレッシング材の適用が両方とも静脈性潰瘍の治療のために弾性多層高圧包帯法と併用して検証された(Jull AB, Waters J, Arroll B.Pentoxifylline for treating venous leg ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2002;1:CD001733; Miell JM, Wieman J, Steed DL, Perry BH, Sampson AR, Schwab BH. Efficacy and safety of becaplemin (recombinant human platelet-derived, growth factor-BB) in patients with non-healing, lower extremity diabetic ulcers: a combined analysis of four randomized studies. Wound Rep Reg. 1999;7:335-46; Wound Healing Society. Guidelines for the best care of chronic wounds. Wound Repair Regen.2006;14:647-710)。Regranex(登録商標)(ベクプレルミン)を用いる悪性腫瘍に関する最近の関心は、その使用に関する特殊な懸念を引き起こした(Werdin F.Eplasty. 2009; 9: e19)。電気刺激、超音波処理、低エネルギーレーザー、脊髄刺激、及び高気圧酸素治療の適用は、それらの使用を示唆する理論的、合理的、及び前臨床研究で有望な療法である(Wound Healing Society. Guidelines for the best care of chronic wounds. Wound Repair Regen. 2006;14:647-710)。慢性創傷ケアにおけるそれらの有効性に関する品質ランダム化対照試験は、現在のところ不足している。困難な創傷を治すための補助としての陰圧創傷閉鎖療法のためにいくらか支援がある(Wound Healing Society. Guidelines for the best care of chronic wounds. Wound Repair Regen. 2006;14:647-710)。統計的に、レーザー療法及び光線療法が潰瘍治癒を改善することは示されていない(Wound Healing Society. Guidelines for the best care of chronic wounds. Wound Repair Regen. 2006;14:647-710)。
【0073】
ハチミツ(又は濃縮糖製剤)が創傷に適用されて、感染を予防し、おそらく治癒を加速した。ハチミツは、主にその高い糖含量を介して直接微生物を殺すことによって働くと考えられる。しかしながら、研究により慢性非治癒創傷の治療においてハチミツ又は濃縮糖製剤の使用に対する明白な利益は示されていない。Robsonらによる研究により、抗菌性ハチミツ(すなわち、Medihoney(登録商標))が下肢潰瘍を患う105名の患者において創傷治癒を有意には改善しないことが分かった(Robson V et al., J. Adv Nurs. 2009; 65: 565-575)。逆に、Jullらは、皮膚潰瘍又は熱傷を有する140名の患者の2つの試験において局所ハチミツが生理食塩水ガーゼ及びスルファジアジン銀に比べて治癒時間を改善することを示した(Jull A B et al., Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28; 2: CD005083)。さらに、Debureと同僚は、感染した肺切除術腔のために粒状糖で治療している64歳男性の事例を報告した(Debure A et al., Lancet. 1987; 1(8540): 1034-1035)。この患者は、浸透圧ギャップ並びに及び尿及び血液中のスクロースレベル上昇を伴う重篤な低ナトリウム血症及び急性腎不全を発症した(Debure A et al., Lancet. 1987; 1(8540): 1034-1035)。感染腔から糖が除去されるとすぐに、患者は尿流を再開し、スクロース誘発浸透圧性ネフローゼとの診断が下された(Debure A et al., Lancet. 1987; 1(8540): 1034-1035)。
【0074】
8.2 新興治療技術
新興技術は、将来の創傷ケアへの新規手法を提示する。近い将来には、遺伝子療法は、治癒に重要な遺伝子又は遺伝子由来メッセンジャーを指示時点で創傷中に直接送達できるようにし得る(Hirsch T, Spielmann M, Velander P, et al. Insulin-like growth factor-1 gene therapy and cell transplantation in diabetic wounds. J Gene Med. 2008;10(11):1247-52)。皮膚及び胚性幹細胞からの複合等価物並びに骨髄由来幹細胞の適用がさらなる可能性のある選択肢のようである(Stoff A, Rivera AA, Sanjib Banerjee N, et al. Promotion of incisional wound repair by human mesenchymal stem cell transplantation. Exp Dermatol. 2008)。これらの将来の開発者は、将来の調査のために公共及び専門家の支援に非常に頼ることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0075】
残念ながら、有効な創傷ケアへの主な障壁の1つは、この主題に対して臨床医及び一般的開業医が示す興味、熱意、及び知識が欠如し続けていることである(Werdin F. Eplasty. 2009; 9: e19)。従って、全てのタイプの慢性非治癒創傷での使用に安全な、対費用効果が高く、容易に利用できる創傷治癒化合物に対する必要性が存在する。
記載発明は、慢性非治癒創傷を治療し、並びに創傷治癒を促進し、速めるのに有効な、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0076】
発明の概要
一態様によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、該医薬組成物は、平均創傷閉鎖率をコントロールに比べて増加させるのに有効である、方法を提供する。
別の態様によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物は、慢性非治癒創傷内の微生物を殺すため;又は慢性非治癒創傷における創傷治癒を速めるため;又は慢性非治癒創傷におけるコラーゲン合成及び新血管新生を増加させるため;又は慢性非治癒創傷におけるフィブリン、瘡蓋及びバイオフィルムを除去するため;又は慢性非治癒創傷内の肉芽組織を増加させるため;又は慢性非治癒創傷における上皮化を速めるため;又は慢性非治癒創傷から液体を排出するため;又は慢性非治癒創傷から炎症液を引き出すため;又は慢性非治癒創傷における創傷床感染を制御するため;又は慢性非治癒創傷における創傷床調製を達成するために有効である、方法を提供する。
【0077】
一実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールに比べて、約50%~約100%の範囲に及ぶ。別の実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより少なくとも50%高い。別の実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより少なくとも95%高い。別の実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより少なくとも99%高い。
一実施形態によれば、コントロールはハイドロゲルバイオマテリアルである。別の実施形態によれば、ハイドロゲルバイオマテリアルは、精製水、グリセロール、ヒドロキシエチルセルロース、乳酸ナトリウム及びアラントインを含む。別の実施形態によれば、精製水がハイドロゲルバイオマテリアルの約70%であり、グリセロールがハイドロゲルバイオマテリアルの約30%である。
一実施形態によれば、医薬組成物は、等部(1:1 v/v)の粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む。別の実施形態によれば、医薬組成物は局所投与される。別の実施形態によれば、医薬組成物はドレッシング材の少なくとも1つの表面に被覆される。別の実施形態によれば、ドレッシング材は、閉塞性ドレッシング材及び非接着性パッド(Telfa(商標))を含む。
一実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、創傷面積の平均変化率、創傷体積の平均変化率又はその組み合わせである。別の実施形態によれば、創傷面積の平均変化率、創傷体積の平均変化率又はその組み合わせは、3次元カメラシステムによって決定される。
【0078】
一実施形態によれば、医薬組成物は、少なくとも1種の追加治療薬をさらに含む。別の実施形態によれば、少なくとも1種の追加治療薬は、抗炎症薬、鎮痛薬、抗感染薬、成長因子及びその組み合わせから成る群より選択される。別の実施形態によれば、抗感染薬は抗生物質である。別の実施形態によれば、成長因子は、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)から成る群より選択される。
一実施形態によれば、医薬組成物は、補助治療と組み合わせて投与される。別の実施形態によれば、補助治療は、高気圧酸素治療(HBO)、遺伝子治療、幹細胞治療、バイオ工学皮膚、皮膚等価物、代用皮膚、皮膚移植片及びその組み合わせから成る群より選択される。
一実施形態によれば、慢性非治癒創傷は、糖尿病性創傷、静脈性創傷、外科的創傷、癌性創傷、褥瘡、動脈性潰瘍及びその組み合わせから成る群より選択される。
一実施形態によれば、医薬組成物は、創傷及び組織浮腫;壊死組織;並びに慢性非治癒創傷における疼痛を低減させるのに有効である。
本特許又は出願書類は、少なくとも1枚のカラーで作製した図面を含む。カラー図面を含む本特許公報又は特許出願公開公報のコピーは、要求及び必要な料金の支払いによって特許庁より提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】皮膚の解剖学的形態を描く図を示す(Stedman’s Medical Dictionary, 27th Ed., Lippincott, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (2000)の1647ページから得た)。
【
図5】11日間の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=12)、群2(創傷用ゲルのみ;n=12)及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン(betadine);n=12)の動物の左側及び右側創傷の面積減少の比較箱ヒゲ図を示し、日11の研究終了評価前に、創傷後の日3、6、及び9に各群の3匹のマウスを犠牲にした。日2までに、粒状糖+創傷用ゲル(群1)で治療した創傷は、他の2つの群の創傷より早く面積減少を達成した。この傾向は日7まで持続し、この時、創傷用ゲルのみで治療した創傷は群1とは有意に異ならないが、群3の創傷より有意に大きい面積減少を達成した(日1: P=1.000; 日2 P=0.0284; 日3: P=0.0343; 日4:P=0.0653; 日5: P=0.0035; 日6: P= 0.0147; 日7: P= 0.0804; 日8:P=0.9004; 日9: P=0.7756; 日10: P=0.0290; 日11: P=0.1720)。
【
図6】日3の左側及び右側創傷の面積減少のウォーターフォールロットを示す。左側及び右側創傷1~24は、日3の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=12)の動物からであり;左側及び右側創傷25~48は、日3の群2(創傷用ゲルのみ;n=12)の動物からであり;左側及び右側創傷49~72は、日3の群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=12)の動物からである。群1の創傷の面積減少(ベースラインからの変化)は、群2の創傷で報告された面積減少より大きかった。群3ではまばらなプラスの面積減少が観察された。
【
図7】日6の左側及び右側創傷の面積減少のウォーターフォールプロットを示す。左側及び右側創傷1~18は、日6の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9)の動物からであり;左側及び右側創傷19~36は、日6の群2(創傷用ゲルのみ;n=9)の動物からであり;左側及び右側創傷37~54は、日6の群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物からである。群1の創傷の面積減少(ベースラインからの変化)は、群2の創傷で報告された面積減少より大きかった。群3ではまばらなプラスの面積減少が観察された。
【
図8】日9の左側及び右側創傷の面積減少のウォーターフォールプロットを示す。左側及び右側創傷1~12は、日9の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=6)の動物からであり;左側及び右側創傷13~24は、日9の群2(創傷用ゲルのみ;n=6)の動物からであり;左側及び右側創傷25~36は、日9の群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=6) の動物からである。群1の6/12の創傷は、日9までに少なくとも90%の面積減少を達成し;群2の4/12の創傷は、日9までに少なくとも90%の面積減少を達成し、群3の4/12の創傷は、90%の面積減少を達成した。
【
図9】日11の左側及び右側創傷の面積減少のウォーターフォールプロットを示す。左側及び右側創傷1~6は、日11の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=3)の動物からであり;左側及び右側創傷7~12は、日11の群2(創傷用ゲルのみ;n=3)の動物からであり;左側及び右側創傷13~18は、日11の群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=3)の動物からである。群1の5/6の創傷は、日11までに100%の面積減少で治癒し;群2の4/6の創傷は、日11までに100%の面積減少を達成した。群3の3/6の創傷は、日11までに100%の面積減少を達成したが、2つの創傷は70%未満の面積減少だった。
【
図10】群1(粒状糖+創傷用ゲル)、群2(創傷用ゲルのみ)及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン)の動物について経時的な(日1~日6)上皮化を有する創傷の百分率のグラフを示す。
【
図11】日6の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9);群2(創傷用ゲルのみ;n=9);及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物の左側及び右側創傷の面積減少(%)の箱ヒゲ図を示す。面積減少は3つの群間で有意に異なった(Wilcoxon P-値=0.0147)。
【
図12】11日の観察期間中に治癒した創傷の百分率のグラフを示す。グラフは、治癒した創傷の絶対数が糖創傷用ゲル群(群1)で他の全ての群に比べて高かったことを示す。
【
図13】日2の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9);群2(創傷用ゲルのみ;n=9);及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物の左側及び右側創傷の面積減少(%)の箱ヒゲ図を示す。
【
図14】日3の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9);群2(創傷用ゲルのみ;n=9);及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物の左側及び右側創傷の面積減少(%)の箱ヒゲ図を示す。
【
図15】日9の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9);群2(創傷用ゲルのみ;n=9);及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物の左側及び右側創傷の面積減少(%)の箱ヒゲ図を示す。
【
図16】日11の群1(粒状糖+創傷用ゲル;n=9);群2(創傷用ゲルのみ;n=9);及び群3(粒状糖+創傷用ゲル+ベタダイン;n=9)の動物の左側及び右側創傷の面積減少(%)の箱ヒゲ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0080】
発明の詳細な説明
用語集
本明細書で使用する用語「擦過創」は、摩擦による体表面の擦過又は剥脱を指す。
本明細書で使用する用語「投与する」は、与えるか又は適用する手段を意味する。本明細書で使用する用語「投与すること」には、インビボ投与のみならず、エクスビボでの組織への直接投与も含まれる。一般的に、投与は、所望により、通常の無毒の医薬的に許容される担体、補助薬、及びビヒクルを含有する用量単位製剤で局所的に、或いは局所的な、限定するものではないが、注射、インプラント術、移植術、又は非経口術等の手段により得る。
本明細書で使用する用語「アラントイン」は、化合物(5-ウレイドヒダントイン)、C4H6N4O3を指し、多くの植物中並びに霊長類の尿膜液、羊膜液及び胎児尿中に見られる白色結晶性物質として存在する。それは、霊長類以外の哺乳類の尿中にも尿代謝産物として見られ、尿酸の酸化によって合成的に生成可能である。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」には、例として、天然起源及び非天然起源の両抗体が含まれる。詳細には、用語「抗体」には、ポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体、並びにその断片が含まれる。さらに、用語「抗体」には、キメラ抗体及び全合成抗体、及びその断片が含まれる。
抗体は血清タンパク質であり、それらの分子はそれらの標的に関する小化学分類に相補性である小面積のそれらの表面を有する。抗体1分子当たり少なくとも2個、抗体のタイプによっては10、11、又は一部の種では12個もあるこれらの相補性領域(抗体結合部位又は抗原結合部位と呼ばれる)は、抗原上のそれらに対応する相補性領域(抗原決定基又はエピトープ)と反応して、多価抗原のいくつかの分子と結合して格子を形成し得る。
全抗体分子の基本構造単位は、4個のポリペプチド鎖、2個の同一軽(L)鎖(それぞれ約220個のアミノ酸を含有する)及び2個の同一重(H)鎖(それぞれ通常は約440個のアミノ酸を含有する)から成る。2個の重鎖と2個の軽鎖は、非共有及び共有(ジスルフィド)結合によって一緒に維持されている。この分子は、2つの同一の半分で構成され、それぞれ軽鎖のN末端領域及び重鎖のN末端で構成された同一の抗原結合部位を有する。通常は軽鎖と重鎖の両方が協力して抗原結合表面を形成する。
【0082】
ヒト抗体は、2種類の軽鎖、κ及びλを示し;免疫グロブリンの個々の分子は一般的に一方又は他方のみである。正常な血清では、分子の60%がκ決定基を有し、30%がλを有することが分かっている。多くの他の種は、2種類の軽鎖を示すが、それらの比率は異なることが分かっている。例えば、マウス及びラットでは、λ鎖は全体の数パーセントだけを構成し;イヌ及びネコでは、κ鎖が非常に少なく;ウマは、如何なるκ鎖をも持たないように見え;ウサギは、系統及びb座アロタイプに応じて5~40%のλ鎖を有することがあり;ニワトリの軽鎖は、κよりλに相同性である。
哺乳類には、5クラスの抗体、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、それぞれそれ自体のクラスの重鎖α(IgAについて)、δ(IgDについて)、ε(IgEについて)、γ(IgGについて)及びμ(IgMについて)を有する。さらに、IgG免疫グロブリンの4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)があり、それぞれγ1、γ2、γ3、及びγ4重鎖を有する。その分泌形態では、IgMは5個の4鎖単位で構成された五量体であり、IgMに全部で10個の抗原結合部位を与える。各五量体は、2個の隣接尾部領域間に共有結合によって挿入されているJ鎖の1つのコピーを含有する。
5個全ての免疫グロブリンクラスは、それらが広範な電気泳動移動度を示し、かつ均一でないという点で他の血清タンパク質と異なる。この不均一性(例えば、個々のIgG分子は、正味の電荷が互いに異なる)は、免疫グロブリンの内在特性である。
【0083】
鍵穴に鍵を指し込むことと比べられることが多い相補性の原理は、2個の反応分子が互いに非常に密接に接近でき、かつ実際に非常に近いので、一方の分子の突出する構成原子又は基が他方の分子の相補的くぼみ又は凹所に適合できるときにだけ効果的に作用できる比較的弱い結合力(疎水性水素結合、ファンデルワールス力、及びイオン相互作用)を必要とする。抗原-抗体相互作用は、多くのレベルで顕性な高度の特異性を示す。分子レベルまで引き下げると、特異性は、抗原への抗体の結合部位が、非関連抗原の結合決定基と全く類似しない相補性を有することを意味する。2つの異なる抗原の抗原決定基がいくつかの構造的類似性を有するときはいつでも、いくつかの抗体の結合部位への一方の決定基の他方の決定基へのある程度の適合が起こることがあり、この現象が交差反応を引き起こす。抗原-抗体反応の相補性又は特異性の理解には交差反応が非常に重要である。免疫学的特異性又は相補性は、抗原の中の少量の不純物/汚染物の検出を可能にする。
モノクロナール抗体(mAb)は、免疫化ドナーから得たマウス脾臓細胞をマウスメラノーマ細胞系と融合させて、選択培地内で成長する株化マウスハイブリドーマクローンを生じさせることによって作製可能である。ハイブリドーマ細胞は、抗体分泌B細胞とメラノーマ細胞のインビトロ融合から生じる不死化ハイブリッド細胞である。培養内における抗原特異性B細胞の主な活性化を指すインビトロ免疫化は、マウスモノクロナール抗体を生成する別の確立された手段である。
【0084】
末梢血リンパ球由来の免疫グロブリン重鎖(VH)及び軽鎖(Vκ及びVλ)可変遺伝子の多様なライブラリーもポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅法によって増幅可能である。重鎖及び軽鎖可変ドメインがポリペプチドスペーサー(一本鎖Fv又はscFv)で連結されている単一ポリペプチド鎖をコードする遺伝子は、PCRを用いて重鎖及び軽鎖V遺伝子をランダムに組み合わせることによって作製可能である。次にファージの先端でのマイナーコートタンパク質への融合によってコンビナトリアルライブラリーを糸状バクテリオファージの表面のディスプレイ用にクローン化することができる。
先導選択の技術は、げっ歯類免疫グロブリンV遺伝子とシャッフルしたヒト免疫グロブリンV遺伝子に基づいている。この方法は、(i)ヒトλ軽鎖のレパートリーを、興味ある抗原と反応性のマウスモノクロナール抗体の重鎖可変部(VH)ドメインとシャッフルすること;(ii)当該抗原上の半ヒトFabを選択すること;(iii)選択したλ軽鎖遺伝子を、第2のシャッフルでヒト重鎖のライブラリー用の「ドッキングドメイン」として用いて、ヒト軽鎖遺伝子を有するクローンFab断片を単離すること;(v)該遺伝子を含有する哺乳類細胞発現ベクターをエレクトロポレーションによってマウスメラノーマ細胞にトランスフェクトすること;及び(vi)抗原と反応性のFabのV遺伝子を、完全IgG1、すなわちマウスメラノーマ内のλ抗体分子として発現させること;を必要とする。
【0085】
本明細書で使用する用語「抗生物質」は、主に感染性疾患の治療に用いられる、細菌その他の微生物の成長を抑制するか、又はそれらを殺す能力を有する一群の化学物質のいずれをも意味する。抗生物質の例としては、限定するものではないが、ペニシリンG;メチシリン;ナフシリン;オキサシリン;クロキサシリン;ジクロキサシリン;アンピシリン;アモキシシリン;チカルシリン;カルベニシリン;メズロシリン;アズロシリン;ピペラシリン;イミペネム;アズトレオナム;セファロチン;セファクロル;セフォキシチン;セフロキシム;セフォニシド;セフメタゾール;セフォテタン;セフプロジル;ロラカルベフ;セフェタメト;セフォペラゾン;セフォタキシム;セフチゾキシム;セフトリアキソン;セフタジジム;セフェピム;セフィキシム;セフポドキシム;セフスロジン;フレロキサシン;ナリジクス酸;ノルフロキサシン;シプロフロキサシン;オフロキサシン;エノキサシン;ロメフロキサシン;シノキサシン;ドキシサイクリン;ミノサイクリン;テトラサイクリン;アミカシン;ゲンタマイシン;カナマイシン;ネチルマイシン;トブラマイシン;ストレプトマイシン;アジスロマイシン;クラリスロマイシン;エリスロマイシン;エリスロマイシンエストラート;エリスロマイシンエチルスクシナート;エリスロマイシングルコヘプトナート;エリスロマイシンラクトビオナート;エリスロマイシンステアラート;バンコマイシン;テイコプラニン;クロラムフェニコール;クリンダマイシン;トリメトプリム;スルファメトキサゾール;ニトロフラントイン;リファンピン;ムピロシン;メトロニダゾール;セファレキシン;ロキシスロマイシン;コアモキシクラブアナート;ピペラシリンとタゾバクタムの組み合わせ;並びにそれらの種々の塩、酸、塩基、及び他の誘導体が挙げられる。抗細菌性抗生物質としては、限定するものではないが、ペニシリン、セファロスポリン、カルバセフェム、セファマイシン、カルバペネム、モノバクタム、アミノグリコシド、グリコペプチド、キノロン、テトラサイクリン、マクロライド、及びフルオロキノロンが挙げられる。
【0086】
本明細書で使用する用語「抗真菌薬」は、真菌の成長を抑制するか又は真菌を殺す能力を有する一群の化学物質のいずれをも意味する。抗真菌薬としては、限定するものではないが、アムホテリシンB、カンジシジン、デルモスタチン、フィリピン、フンギクロミン、ハキマイシン、ハマイシン、ルセンソマイシン、メパルトリシン、ナタマイシン、ナイスタチン、ペシロシン、ペリマイシン、アザセリン、グリセオフルビン、オリゴマイシン、ネオマイシン、ピロルニトリン、シッカニン、ツベルシジン、ビリジン、ブテナフィン、ナフチフィン、テルビナフィン、ビホナゾール、ブトコナゾール、クロルダントイン、クロルミダゾール、クロコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、エニルコナゾール、フェンチコナゾール、フルトリマゾール、イソコナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ミコナゾール、オモコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、チオコナゾール、トルシクラート、トリンダート、トルナフタート、フルコナウル、イトラコナゾール、サペルコナゾール、テルコナゾール、アクリソルシン、アモロルフィン、ビフェナミン、ブロモサリチルクロルアニリド、ブクロスアミド、プロピオン酸カルシウム、クロルフェネシン、シクロピロクス、クロキシキン、コパラフィナート、ジアムタゾール、エキサラミド、フルシトシン、ハレタゾール、ヘキセチジン、ロフルカルバン、ニフラテル、ヨウ化カリウム、プロピオン酸、ピリチオン、サリチルアニリド、プロピオン酸ナトリウム、スルベンチン、テノニトロゾール、トリアセチン、ウジョチオン、ウンデシレン酸、及びプロピオン酸亜鉛が挙げられる。
【0087】
本明細書で使用する用語「抗感染薬」は、感染性微生物、例えば、細菌、ウイルス、線虫、寄生虫等のような感染病原体の伝播を抑制できる薬剤を指す。例示抗感染薬としては、抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗原虫薬等が挙げられる。
本明細書で使用する用語「抗炎症薬」は、炎症を低減させる薬剤を指す。本明細書で使用する用語「ステロイド系抗炎症薬」は、17炭素4環系を含有する多数の化合物のいずれか1つを指し、ステロール、種々のホルモン(タンパク質同化ステロイドとして)、及びグリコシドが含まれる。用語「非ステロイド系抗炎症薬」は、それらの作用がアスピリン様である大群の薬剤を指し、例えば、イブプロフェン(Advil)(登録商標)、ナプロキセンナトリウム(Aleve)(登録商標)、及びアセトアミノフェン(Tylenol)(登録商標)が挙げられる。
用語「生分解性」は、本明細書で使用する場合、単純な化学プロセスによって、体酵素の作用によって又は他の同様の生物活性機構によって経時的に能動的又は受動的に分解することになる材料を指す。
本明細書で使用する用語「生物模倣型」は、生存生物によって作られた天然材料を模造又は「模倣」する材料、物質、デバイス、プロセス、又はシステムを指す。
本明細書で使用する用語「熱傷」は、熱、炎、化学薬品、電気、又は放射線との接触によって引き起こされる組織への損傷を指す。第1度熱傷は発赤を示し;第2度熱傷は発疱疹(水疱細胞病)を示し;第3度熱傷は皮膚全体に壊死(細胞死)を示す。第1度及び第2度の熱傷は部分厚熱傷であり、第3度の熱傷は全厚熱傷である。
【0088】
本明細書で使用する用語「担体」は、生物に顕著な刺激をもたらさず、記載発明の組成物のペプチドの生物活性及び特性を抑止しない材料を指す。担体は、治療する哺乳動物への投与に適したものにするのに十分に高い純度及び十分に低い毒性のものでなければならない。担体は、不活性であってよく、或いは医薬的利益を有し得る。用語「賦形剤」、「担体」、又は「ビヒクル」は、本明細書に記載の医薬的に許容される組成物の製剤及び投与に適したキャリア材料を指すために互換的に使用される。本明細書で有用な担体及びビヒクルには、無毒であり、他成分と相互作用しない当業者に周知のいずれの該材料も含まれる。
本明細書で使用する用語「凝固因子」は、血液の凝固を促進する因子を指す。例示凝固因子としては、限定するものではないが、トロンビン、プロトロンビン、フィブリノーゲン等が挙げられる。
本明細書で使用する用語「成分」は構成部分、要素又は含有物(ingredient)を指す。
本明細書で使用する用語「状態」は、様々な健康状態を指し、根底にあるいずれかの機構又は秩序、損傷によって引き起こされる障害又は疾患、並びに健康な組織及び器官の促進を含める意図である。
本明細書で使用する用語「接触」及びその全ての文法形は、触れているか又は直近若しくは局所的近接の状態を指す。
【0089】
本明細書で使用する用語「サイトカイン」は、他細胞に種々の効果を及ぼす、細胞によって分泌される低分子可溶性タンパク質を指す。サイトカインは、成長、発生、創傷治癒、及び免疫応答を含めた多くの重要な生理的機能を媒介する。サイトカインは、細胞膜内にあるそれらの細胞特異性受容体に結合し、該細胞において特徴的なシグナル伝達カスケードを開始できるようにすることによって作用し、究極的に標的細胞に生化学的変化及び表現型変化をもたらすことになる。一般的に、サイトカインは、局所的に作用するが、ホルモン用語法を使用すると、オートクリン、パラクリン又は内分泌性さえの効果を有し得る。サイトカインには、多くのインターロイキン、並びにいくつかの造血性成長因子を包含するI型サイトカイン;II型サイトカイン、例えばインターフェロン及びインターロイキン10等;腫瘍壊死因子(「TNF」)関連分子、例えばTNF-α及びリンホトキシン等;免疫グロブリンスーパーファミリーメンバー、例えばインターロイキン1(「IL-1」)等;及び種々多様の免疫及び炎症機能において極めて重要な役割を果たす分子のファミリーであるケモカインが含まれる。同一サイトカインでも細胞状態に応じて細胞に異なる効果を及ぼすことがあり;炎症性サイトカインは、実質的に全ての有核細胞、例えば、内皮/上皮細胞及びマクロファージによって産生され得る。サイトカインは、多くの場合、他のサイトカインの発現、及び他のサイトカインのトリガーカスケードを調節する。
【0090】
本明細書で使用する用語「免疫調節細胞」は、ケモカイン、サイトカインその他の免疫応答媒介物質を発現させることによって、免疫応答を増強又は減少させることができる細胞を指す。
本明細書で使用する用語「炎症性サイトカイン」又は「炎症媒介物質」は、それらの作用において炎症促進性又は抗炎症性のどちらかを調節し得る、炎症プロセスの分子媒介物質を指す。これらの可溶性拡散性分子は、組織損傷及び感染の部位で局所的にも、より遠位部位でも作用する。炎症プロセスによって活性化される炎症媒介物質もあるが、他の炎症媒介物質は、急性炎症に応答して又は他の可溶性炎症媒介物質によって細胞性ソースから合成及び/又は放出される。炎症応答の炎症媒介物質の例としては、限定するものではないが、血漿プロテアーゼ、補体、キニン、凝固及び線維素溶解性タンパク質、脂質媒介物質、プロスタグランジン、ロイコトリエン、血小板活性化因子(PAF)、ペプチド及びアミン、例えば、限定するものではないが、ヒスタミン、セロトニン、及びニューロペプチド等、炎症促進性サイトカイン、例えば、限定するものではないが、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IF-γ)、及びインターロイキン-12(IL-12)等が挙げられる。
【0091】
炎症促進性媒介物質のうち、IL-1、IL-6、及びTNF-αは、急性期応答で肝細胞を活性化して、補体を活性化する急性期タンパク質を合成することが分かっている。補体は、病原体と相互作用して、それらを貪食細胞で破壊できるようにマークする血漿タンパク質系である。補体タンパク質は、病原体によって直接又は病原体結合抗体によって間接的に活性化されて、病原体の表面で起こり、種々のエフェクター機能を有する活性成分を作り出す一連の反応をもたらすことができる。IL-1、IL-6、及びTNF-αは、骨髄内皮をも活性化して好中球を動員し、かつ内因性発熱物質として機能して、体温を上昇させ、体から感染を排除するのを助ける。サイトカインの主効果は、視床下部に作用し、体温調節を変え、かつ筋肉及び脂肪細胞に作用して、筋肉及び脂肪細胞の異化作用を刺激して体温を上げることである。高温では、細菌及びウイルスの複製が減少し、その上、適応免疫系がより効率的に作動する。
本明細書で使用する用語「インターロイキン(IL)」は、白血球によって分泌され、白血球に作用するサイトカインを指す。インターロイキンは、細胞の成長、分化、及び動員を調節し、かつ炎症等の免疫応答を刺激する。インターロイキンの例としては、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、及びインターロイキン-12(IL-12)が挙げられる。
本明細書で使用する用語「腫瘍壊死因子」又は「TNF」は、抗原又は感染に応答して白血球細胞によって作られるサイトカインを指し、腫瘍細胞の壊死(死)を誘発し、かつ種々多様の炎症促進作用を有する。腫瘍壊死因子は、脂質代謝、血液凝固、インスリン耐性への効果、及び内皮細胞裏打ち血管の機能を有する多機能性サイトカインでもある。
【0092】
本明細書で使用する用語「疾患」又は「障害」は、健康の障害又は異常な機能性の状態を指す。
用語「用量」及び「投与量」を互換的に用いて、一度に全て又は所定期間内に分別量で摂取又は適用すべき薬物又は他の療法の量を表す。
本明細書で使用する用語「薬物」は、疾患の予防、診断、軽減、治療、又は治癒に用いる治療薬又は他のいずれの物質をも指す。
用語「有効量」は、所望の生物学的効果を実現するのに必要又は十分な量を指す。
本明細書で使用する用語「切除術創傷」は、組織の外科的除去又は切除の結果生じる創傷を指す。用語「切除術創傷」としては、限定するものではないが、裂傷、擦過創、切創、穿刺創、又は皮膚の上皮層内の断裂(真皮層まで、皮下脂肪までさえ、皮下脂肪を越えてまで伸長し得る)が挙げられる。
本明細書で使用する用語「細胞外マトリックス」は、細胞の成長又は細胞の培養を支援できる組織由来材料又は生合成材料を指す。
本明細書で使用する用語「細胞外マトリックス沈着」は、細胞による線維要素(例えば、コラーゲン、エラスチン、及びレティキュリン)、リンクタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ラミニン)、及び空間充填分子(例えば、グリコサミノグリカン)の分泌を指す。
【0093】
本明細書で使用する用語「製剤」は、処方、レシピ又は手順に従って調製された混合物を指す。
本明細書で使用する用語「肉芽形成」は、治癒プロセスにおいて創面に小さい赤色の粒子様隆起が生じるプロセスを指す。
本明細書で使用する用語「肉芽腫性炎症」は、多核巨細胞及び結合組織の有無にかかわらず、レギュラー乃至類上皮マクロファージの優勢を特徴とする炎症反応を指す。
本明細書で使用する用語「親水性」は、水等の極性物質に対して親和性を有する材料又は物質を指す。本明細書で使用する用語「親油性」は、極性又は水性環境に比べて非極性環境を好むか又は非極性環境に対して親和性を有することを指す。
本明細書で使用する用語「高張力創傷」は、関節の領域又は関節近傍の領域、例えば肘若しくは膝の領域又は肘若しくは膝近傍の領域に生じた創傷を指す。「高張力創傷」の他の領域としては、胸骨中胸部(midsternal chest)及び帝王切開術後切断面創傷がある。
本明細書で使用する用語「IC50値」は、所定の生物学的プロセス又はプロセスの成分の50%を抑制するのに必要なインヒビター(すなわち、酵素、細胞、又は細胞受容体)の濃度を指す。
本明細書で使用する用語「非常に近接して」は、非常に近い距離を指す。
本明細書で使用する用語「切開性創傷」は、鋭い器具によってのように、すぱっと切れた切り口によってできた創傷を指す。
【0094】
本明細書で使用する用語「炎症」は、血管新生化組織が傷害に応答する生理プロセスを指す。例えば、参照することによりここに援用するFUNDAMENTAL IMMUNOLOGY, 4th Ed., William E. Paul, ed. Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia (1999)の1051-1053ページを参照されたい。炎症プロセス中、炎症応答の可溶性炎症媒介物質は、身体的窮迫を引き起こす因子を阻止及び排除しようとして全身様式で細胞成分と一緒に働く。本明細書で使用する用語「炎症媒介物質」は、炎症プロセスの分子性媒介物質を指す。これらの可溶性の拡散性分子は、組織の損傷及び感染の部位で局所的にもより遠位な部位でも作用する。炎症プロセスによって活性化される炎症媒介物質もあるが、他の炎症媒介物質は、急性炎症に応答して又は他の可溶性炎症媒介物質によって細胞性ソースから合成及び/又は放出される。炎症応答の炎症媒介物質の例としては、限定するものではないが、血漿プロテアーゼ、補体、キニン、凝固及び線維素溶解性タンパク質、脂質媒介物質、プロスタグランジン、ロイコトリエン、血小板活性化因子(PAF)、ペプチド及びアミン、例えば、限定するものではないが、ヒスタミン、セロトニン、及びニューロペプチド等、炎症促進性サイトカイン、例えば、限定するものではないが、インターロイキン-1、インターロイキン-4、インターロイキン-6、インターロイキン-8、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン-γ、及びインターロイキン12等が挙げられる。
【0095】
本明細書では、用語「抑制すること」、「抑制する」又は「抑制」を用いて、プロセスの量又は速度を低減させること、又はプロセスを全体的に停止させること、又はプロセスの作用若しくは機能を低減させ、制限し、又は遮断することを指す。抑制としては、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%だけの物質の量、割合、作用機能、又はプロセスの減少若しくは低減が含まれる。本明細書では、用語「さらに抑制すること」、「さらに抑制する」又は「さらなる抑制」を用いて、第1のプロセスの量若しくは速度を低減させること、又は第1のプロセスを全体的に停止させること、又は第1のプロセスの作用若しくは機能を低減させ、制限し、若しくは遮断することに加えて、第2のプロセスの量若しくは速度を低減させること、又は第2のプロセスを全体的に停止させること、又は第2のプロセスの作用若しくは機能を低減させ、制限し、若しくは遮断することを指す。本明細書で使用する用語「抑制プロファイル」は、複数のタンパク質若しくは酵素の量若しくは割合の低減又は複数のタンパク質若しくは酵素の作用を低減させ、遮断し、若しくは制限することの特徴的パターンを指す。本明細書では、用語「実質的に抑制すること」、「実質的に抑制する」、「実質的に抑制された」、又は「実質的な抑制」を用いて、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%だけのキナーゼ活性の抑制を指す。
【0096】
本明細書で使用する用語「傷害」は、物理的又は化学的であり得る外部因子又は外力によって引き起こされた体の構造若しくは機能への損傷又は害を指す。
本明細書で使用する用語「裂傷」は、裂かれ砕かれた創傷又は偶発的な切創を指す。
本明細書で使用する用語「顕性化」は、病気の特徴的な兆候又は症状の提示又は開示を指す。従って、本明細書で使用する用語「皮膚の顕性化」は、皮膚に関する病気の特徴的な兆候若しくは症状の提示又は開示を指す。
本明細書で使用する用語「機械活性(mechano-active)ドレッシング材」は、創傷に張力を加えるため、創傷近傍の皮膚表面に除去可能に固定されるように構成される、創傷用の医療用又は外科用被覆材を指す。
本明細書で使用する用語「修飾する(modulate)」は、特定の基準又は比率に調節し、変更し、適応させ、又は調整することを意味する。
本明細書で使用する用語「新血管新生」は、酸素及び栄養の供給の改善の結果による血管の新たな成長を指す。同様に、用語「血管形成」は、新しい末梢血管の発生を伴う血管新生プロセスを指す。
【0097】
本明細書で使用する用語「医薬的に許容される担体」は、ヒトその他の脊椎動物への投与に適した1種以上の適合性固体若しくは液体フィラー、希釈剤又は被包物質を指す。所望の薬効を実質的に害することになる相互作用がないような様式で医薬組成物の成分を混合することもできる。
用語「医薬的に許容される塩」は、堅実な医学的判断の範囲内にあり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なしでヒト及び下等動物の組織と接触して用いるのに適しており、かつ妥当な利益/危険比で釣り合っている当該塩を意味する。医薬に使用するとき、塩は医薬的に許容されるべきであるが、便宜上医薬的に許容されない塩を用いて医薬的に許容される塩を調製してもよい。該塩としては、限定するものではないが、下記酸から調製される塩が挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、及びベンゼンスルホン酸。また、該塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属、例えばカルボン酸基のナトリウム、カリウム又はカルシウム塩として調製可能である。「医薬的に許容される塩」は、堅実な医学的判断の範囲内にあり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なしでヒト及び下等動物の組織と接触して用いるのに適しており、かつ妥当な利益/危険比で釣り合っている当該塩を意味する。医薬的に許容される塩は技術上周知である。例えば、P.H.Stahlらは「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley VCH, Zurich, Switzerland: 2002)」に医薬的に許容される塩を詳述している。塩は、本発明の範囲内に記載の化合物の最後の単離及び精製中にインサイツ調製されることがあり、或いはフリーの塩基官能基を適切な有機酸と反応させることによって別に調製してもよい。代表的な酸付加塩としては、限定するものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、カンファー酸塩、カンファースルスホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p-トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩が挙げられる。また、塩基性窒素含有基を、低級アルキルハロゲン化物、例えばメチル、エチル、プロピル、及びブチル塩化物、臭化物及びヨウ化物等;硫酸ジアルキル、例えば硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル;長鎖ハロゲン化物、例えばデシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリル塩化物、臭化物及びヨウ化物;アリールアルキルハロゲン化物、例えばベンジル及びフェネチル臭化物等の薬剤で四級化してもよい。それによって、水溶性若しくは油溶性又は水分散性若しくは油分散性生成物が得られる。医薬的に許容される酸付加塩の形成に利用し得る酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸のような無機酸及びシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸のような有機酸が挙げられる。塩基付加塩は、本発明の範囲内に記載の化合物の最後の単離及び精製中に、カルボン酸含有部分を適切な塩基、例えば医薬的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩等或いはアンモニア又は有機一級、二級若しくは三級アミンと反応させることによってインサイツ調製され得る。医薬的に許容される塩としては、限定するものではないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属に基づくカチオン、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウムの塩等並びに無毒の四級アンモニア及びアミンカチオン、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン等が挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等がある。医薬的に許容される塩は、技術上周知の標準的手順を用いて、例えば、アミン等の十分に塩基性の化合物を、生理的に許容されるアニオンを与える適切な酸と反応させることによって得てもよい。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム又はリチウム)又はアルカリ土類金属(例えばカルシウム又はマグネシウム)塩も作製可能である。
【0098】
本明細書で使用する用語「医薬組成物」は、標的状態又は疾患を予防し、その強度を軽減し、治癒させるかそうでなくても治療するために利用する組成物(全ての活性成分及び不活性成分を含有する生成物を意味する)を指す。
本明細書で使用する用語「予防する」は、事象、行為又は作用が起こり、発生し、又は生じるのを避け、邪魔し、又は防ぐことを指す。
本明細書で使用する用語「穿刺創」は、狭小の先細物体に精製されるように、開口部が深さに比べて相対的に小さい創傷を指す。
本明細書で使用する用語「低減させる」又は「低減させること」又は「低減された」又は「低減させるため」は、度合、強度、範囲、サイズ、量、密度又は数の減少、低下、減弱又は軽減を指す。例えば、本明細書で使用する用語「低減させる」又は「低減させること」又は「低減された」又は「低減させるため」は、障害の発症リスクのある個体における障害の度合、強度、範囲、サイズ、量、密度又は数の減少、低下、減弱又は軽減を意味する。
【0099】
本明細書で使用する用語「再上皮化」は、裸出面(例えば、創傷)を覆う上皮の再形成を指す。
用語「遊離」及びその種々の文法形は、下記プロセスの組み合わせによる活性薬物成分の溶解及び溶解又は可溶化種の拡散を指す:(1)マトリックスの水和、(2)マトリックス中への溶液の拡散;(3)薬物の溶解;及び(4)溶解薬物のマトリックスからの拡散。
本明細書で使用する用語「再構築」は、肉芽組織の置換及び/又は脈管切除を指す。
本明細書で使用する用語「スキャフォールド」は、細胞の成長及び/又は組織の形成を増強又は促進するために用いられる物質又は構造体を指す。スキャフォールドは、典型的に細胞成長のテンプレートを与える三次元多孔性構造体である。
用語「同様の」は、類似する、匹敵する、又は似ているという用語と互換的に用いて、共通の形質又は特徴を有すること意味する。
用語「対象」又は「個体」又は「患者」を互換的に用いて、哺乳類起源のいくつかの動物種、例えば、限定するものではないが、ラット、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ハムスター、フェレット、カモノハシ、ブタ、イヌ、モルモット、ウサギ等及び霊長類、例えば、サル、類人猿、又はヒト等を表す。
【0100】
「該治療が必要な対象」という表現を用いて、該表現の文脈及び用法が別の意味を指示しない限り、皮下瘢痕をもたらし得る創傷を有するか又は患うことになる患者を指す。
本明細書で使用する用語「実質的に純粋」は、治療薬が生物系内で又は合成中に関わり得る物質から実質的に分離されているような治療薬の状態を表す。一部の実施形態によれば、実質的に純粋な治療薬は少なくとも70%純粋、少なくとも75%純粋、少なくとも80%純粋、少なくとも85%純粋、少なくとも90%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも96%純粋、少なくとも97%純粋、少なくとも98%純粋、又は少なくとも99%純粋である。
本明細書で使用する用語「感受性の」は、リスクのある集団のメンバーを指す。
本明細書で使用する用語「症状」は、特定疾患又は障害に起因及び付随し、その指標として役立つ現象を指す。
本明細書で使用する用語「症候群」は、ある疾患又は状態を示す症状パターンを指す。
本明細書で使用する用語「部分」は、分子の官能基を指す。本明細書で使用する用語「標的部分」は、特定の標的、細胞型又は組織に分子を方向づける分子に付着した官能基を指す。
【0101】
本明細書で使用する用語「治療薬」は、治療効果をもたらす薬物、分子、核酸、組成物その他の物質を指す。本明細書で使用する用語「活性な」は、本発明の組成物の、意図した治療効果に関与する含有物、成分又は構成要素を指す。用語「治療薬」及び「活性薬」は互換的に使用する。本明細書で使用する用語「治療成分」は、ある集団の百分率で特定疾患徴候の進行を排除、低減、又は阻止する治療的に有効な投薬(すなわち、用量及び投与頻度)を指す。一般的に用いられる治療成分の例は、ある集団の50%において特定疾患の徴候に対して治療的に有効である特定投薬の用量を表すED50である。
1種以上の活性薬の用語「治療量」、「治療的に有効な量」又は「有効量」は、意図した治療利益をもたらすのに十分な量である。利用可能な活性薬の有効量は、一般的に0.1mg/kg(体重)~約50mg/kg(体重)の範囲にある。しかしながら、投薬レベルは、傷害のタイプ、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、状態の重症度、投与経路、及び利用する特定の活性薬を含めた種々の因子に基づく。従って、投薬計画は非常に広範に変動し得るが、外科医は標準的方法を用いて日常的に判断することができる。
本明細書で使用する用語「治療効果」は、治療の帰結、すなわち望ましく、かつ有益であると判定される治療の結果を指す。治療効果には、直接又は間接的に、疾患徴候の進行の静止、低減、又は排除が含まれ得る。治療効果には、直接又は間接的に、疾患徴候の進行の静止、低減又は排除も含まれ得る。
【0102】
本明細書で使用する用語「局所的」は、適用点に、又は適用点の直下に組成物を投与することを指す。「局所的に適用すること」という表現は、上皮表面を含め、1以上の表面上に適用することを表す。局所投与は、当該分野で周知の技術及び手順に従って調製される経皮パッチ又はイオントフォレーシスデバイ等の経皮投与の使用を含むこともある。用語「経皮送達システム」、「経皮パッチ」又は「パッチ」は、皮膚の上に置いて、皮膚を介して該剤形の経路によって時効性用量の薬物を全身循環による分配に利用できるようにする接着システムを指す。経皮パッチは、種々多様の医薬品、例えば、限定するものではないが、動揺病用のスコポラミン、狭心症の治療用のニトログリセリン、高血圧症用のクロニジン、閉経後適応症用のエストラジオール、及び禁煙用のニコチン等の送達に用いられる広く受け入れられている技術である。記載発明に用いるのに適したパッチとしては、限定するものではないが、(1)マトリックスパッチ;(2)リザーバーパッチ;(3)接着パッチ中の多積層薬;及び(4)接着パッチ中のモノリシック薬物;参照することによりその全体をここに援用するTRANSDERMAL AND TOPICAL DRUG DELIVERY SYSTEMS, pp.249-297 (Tapash K. Ghosh et al.eds., 1997)が挙げられる。これらのパッチは、一般的に商業的に入手可能である。
【0103】
本明細書で使用する用語「外傷性創傷」は、傷害の結果である創傷を指す。
用語「治療する」又は「治療すること」には、疾患、状態、障害又は傷害の進行を抑止し、実質的に抑制し、遅くし、又は逆転させ、疾患、状態、障害又は傷害の臨床的又は審美的症状を実質的に寛解させ、疾患、状態、障害又は傷害の臨床的又は審美的症状の外観を実質的に予防し、及び有害又は厄介な症状から保護することが含まれる。本明細書で使用する用語「治療する」又は「治療すること」は、さらに下記の1つ以上を達成することを指す:(a)疾患、状態、障害又は傷害の重症度を下げること;(b)治療している疾患、状態、障害又は傷害の特徴的症状の発生を制限すること;(c)治療している疾患、状態、障害又は傷害の特徴的症状の悪化を制限すること;(d)以前に疾患、状態、障害又は傷害を有したことがある患者の該疾患、状態、障害又は傷害の再発を制限すること;及び(e)疾患、状態、障害又は傷害に対して以前に症候性であった患者の症状の再発を制限すること。
【0104】
本明細書で使用する用語「潰瘍」は、通常は炎症又は虚血から生じる膿及び壊死(周囲組織の死)の形成を特徴とする皮膚の病変を指す。
本明細書で使用する用語「創傷」は、物理的(例えば、機械的)力、生物学的又は化学的手段によって引き起こされた、構造体の正常な連続性の破壊を指す。用語「創傷」には、限定するものではないが、切開性創傷、切除術創傷、外傷性創傷、裂傷、穿刺創、切創等が含まれる。本明細書で使用する用語「創傷サイズ」は、物理的(例えば、機械的)力、生物学的又は化学的手段によって引き起こされた、構造体の正常な連続性の破壊の物理的寸法を指す。
本明細書で使用する用語「全厚創傷」は、皮下組織下の方、おそらく筋肉又は骨に関わる皮膚の第2層(真皮)を貫いて伸長する組織の破壊を指し;この組織は雪のように白いか、灰色、又は褐色に見え、堅い皮革様テクスチャーを有する。
本明細書で使用する用語「部分厚創傷は、皮膚の第1層(上皮)を貫くが、真皮を貫いては伸長していない組織の破壊を指す。
【0105】
本明細書で使用する用語「ビタミン」は、特に代謝プロセスの調節において補酵素及び補酵素前駆体として作用する、ほとんどの動物の栄養に必須である少量の種々の有機物質のいずれをも指す。本発明の文脈で使用可能なビタミンの非限定例としては、ビタミンAとその類似体及び誘導体:レチノール、レチナール、パルミチン酸レチニル、ニコチン酸、トレチノイン、イソトレチノイン(合わせてレチノイドとして知られる)、ビタミンE(トコフェロールとその誘導体)、ビタミンC(L-アスコルビン酸とそのエステルその他の誘導体)、ビタミンB3(ナイアシンアミドとその誘導体)、αヒドロキシ酸(例えばグリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等)及びβヒドロキシ酸(例えばサリチル酸等)が挙げられる。
本明細書で使用する用語「創傷閉鎖」は、創傷縁が再結合して連続バリアを形成するような創傷の治癒を指す。
本明細書で使用する用語「創傷治癒」は、時間的及び空間的治癒プログラムの誘導による再生プロセスを指し、これには炎症、肉芽形成、新血管新生、線維芽細胞、内皮細胞及び上皮細胞の遊走、細胞外マトリックス沈着、再上皮化、及び再構築のプロセスが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
組成物
一実施形態によれば、記載発明は、等部(1:1 v/v)の粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を提供する。
用語「ハイドロゲル」は、ゼラチン状又はゼリー様塊を生成するのに必要な水性成分を含有する固体、半固体、擬塑性又は塑性構造をもたらす水膨潤性ポリマー材料を指す。ハイドロゲルは、一般的に種々のポリマー、例えば親水性ポリマー、アクリル酸、アクリルアミド及び2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)等を含む。ハイドロゲルは、水分補給と過剰体液吸収のバランスを取ることによって創傷床のモイスチャーバランスを実現する。ハイドロゲルの例としては、限定するものではないが、合成、刺激感受性、ポリペプチドベース、ハイブリッド及びDNAベースハイドロゲルが挙げられる。
合成ハイドロゲルは、例えば、制御型ラジカル重合、例えば原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加-開裂移動(reversible addition-fragmentation transfer)(RAFT)重合、及びニトロキシド媒介重合によって;並びに鎖架橋によって生成され得る。鎖架橋は、スライディング架橋剤を利用する。それぞれ異なるポリエチレングリコール(PEG)鎖(アダマンタン等のかさ高い基でエンドキャップされた)上を縫うようにして通る2つのシクロデキストリン分子を化学的に架橋させることによってスライディング二環架橋剤が生成される。これらの架橋剤は、水中における高度の膨潤及び断裂のない高い延伸比を特徴とする。
【0107】
合成ハイドロゲルの非限定としては、ダブルネットワーク(DN)及びナノコンポジット(粘土充填)ハイドロゲルが挙げられる。ダブルネットワーク(DN)は、一方は高度に架橋し、他方はルーズに架橋している2つの親水性ネットワークで形成された相互貫入ネットワーク(IPN)のサブセットである。例えば、2つの機械的に弱い親水性ネットワーク、すなわちポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びポリアクリルアミドで構成されたDNは、ハイドロゲルに硬度と靭性を両方とも示す機械特性を与える。
ナノコンポジット(粘土充填)ハイドロゲルは、多機能架橋剤としてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とヘクトライト、[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na0.66に基づく有機-無機ハイブリッドである。NIPAAmモノマーを含有する水性媒体に剥離粘土プレートレットが分散し;ポリNIPAAm鎖が一端又は二端で粘土表面にグラフトしている。
【0108】
刺激感受性ハイドロゲルは、pH、温度、イオン強度、溶媒タイプ、電場、磁場、光、及びキレート化種の存在等の外部刺激によって媒介される、膨潤の連続又は不連続変化を受ける。刺激応答性ハイドロゲルの大半は、比較的少数の合成ポリマー、特に(メタ)アクリル酸誘導体及びそれらのコポリマーの通常の(伝統的)合成方法を用いて作製される。刺激感受性ハイドロゲルは、ポリペプチドベースであってもよい。これらには、限定するものではないが、エラスチン及び絹のような天然の構造タンパク質のブロックコポリペプチド組換え体セグメントから形成されたハイドロゲル、直列反復絹様及びエラスチン様ペプチドブロック、及び2つのコイルドコイルブロックと隣接しているランダムポリペプチド配列の組換え体トリブロックコポリマーが含まれる。ペプチド及び/又はタンパク質セグメントを用いて、分解性、温度誘導相転移、及び生物学的に活性な分子の存在への感受性をハイドロゲル構造に導入した。オリゴペプチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、立体特異性D,L-乳酸オリゴマー等の生物分子を用いて、抗原-抗体結合を介して、又は未変化の天然タンパク質によって水溶性合成ポリマーを架橋した。
【0109】
ハイドロゲルは、疎水性相互作用、例えば(短い)疎水性Aブロックでキャッピングされた親水性Bブロックを含有するABAトリブロックコポリマー中のAブロックの相互作用によって駆り立てられたブロック及びグラフトコポリマーから自己組織化し得る。コイルドコイル等の性質に見られる認識モチーフを用いて、ハイドロゲル形成コポリマーをデザインすると、正確に定義された三次元構造の形成の可能性を高める。コイルドコイル、すなわち2つ以上のα-ヘリックス鎖で形成されたスーパーコイルは、ブロック及びグラフトコポリマーから自己組織化されたハイドロゲルの例である。典型的なコイルドコイルの主配列は、七つ組と名付けられた7-残基リピートで構成されている。七つ組のアミノ酸残基は、便宜上「a、b、c、d、e、f、g」として表される。位置「a」及び「d」の疎水性残基がへリックス間疎水性コアを形成し、へリックス間に安定化界面を与える。位置「e」及び「g」の荷電残基が静電相互作用を形成し、これがコイルドコイルの安定性に寄与し、へリックス間の特異的会合を媒介する。
ブロックAがコイルドコイル形成ペプチドであり、ブロックBがランダムコイルである、ABAブロックコポリマーもハイドロゲルに自己組織化する。自己組織化は、ヘリカル端のオリゴマー化と、中心の水溶性高分子電解質セグメントの膨潤との間のバランスとして起こる。温度及び/又はpH応答性は、コイルドコイルドメインのアミノ酸配列を操作することによって達成可能である。それらの構造のマイナーな修飾が自己組織化ハイドロゲルの刺激感受性に強い影響を与える。例えば、タンパク質含有コイルドコイルの熱安定性は、コイルドコイルドメイン内のアミノ酸を置換することによって、予測可能な方法で操作可能である。
【0110】
ハイブリッドハイドロゲルは、共有結合又は非共有結合によって相互連結された少なくとも2つの別々のクラスの分子、例えば、合成ポリマー及び生体高分子由来の成分を有するハイドロゲル系である。合成ポリマーに比べて、タンパク質及びタンパク質モジュールは、詳細に明らかにされた均一構造、一貫した機械的性質、及び協同的フォールディング/アンフォールディング転移を有する。ペプチドドメインは、構造形成に関してナノメートルレベルで、ある程度の制御を与えることができ;合成部分はハイブリッド材料の生体適合性に寄与し得る。
ハイブリッドハイドロゲル合成は、例えば、遺伝子操作したコイルドコイルタンパク質モチーフの親水性合成N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマー骨格への非共有結合性付着を必要とし得る。物理的架橋は、コイルドコイルドメインの自己組織化によって確立される。温度誘発ハイドロゲル崩壊は、コイルドコイルドメインの、細長いへリックスからアンフォールド状態への構造転移に相当する。HPMAコポリマー前駆体とコイルドコイルモジュールの架橋によって形成されたハイドロゲルは、コイルドコイルモジュールの融点で劇的な体積変化(10倍まで解膨潤)を受ける。
【0111】
グラフトコポリマーも自己組織化してハイブリッドハイドロゲルになる。このハイブリッドハイドロゲル系は、親水性ポリマー骨格及び1対の反対に荷電したペプチドグラフトから成るHPMAコポリマーに基づいている。2つの別々の五つ組七つ組(pentaheptad)ペプチドが二量体形成モチーフを作り出し、物理的架橋剤として働く。
ハイドロゲルの自己組織化は、DNA認識によって媒介されることもある。バイオマテリアルのデザインにおいて生物学的認識モチーフとしてDNA配列を用いた。例えば、親水性ポリマー骨格上にグラフトされた相補性オリゴヌクレオチドの生物学的認識は、グラフトコポリマーのハイドロゲルへの自己組織化を媒介する。別のデザインにおいては、アクリルアミドを、架橋剤としてジメタクリロイル化5′,3′-ジアミノアルキル修飾(一本鎖)ssDNAと共重合させることによってハイドロゲルを合成し得る。DNAモチーフを用いて、ナノ粒子を巨視的材料に、及びデンドリマーをハイドロゲルに組織化することができる。酵素触媒プロセスを用いてハイドロゲル形成を媒介してもよい。例えば、相補性粘着末端を含有する分岐DNA分子とパリンドローム配列をハイブリダイズさせた後に、T4 DNAリガーゼでライゲーションする。DNAがハイブリッドコポリマーの超分子の変化を引き起こすこともある。例えば、ジブロックコポリマー、ssDNA-b-ポリプロピレンオキシドは、水溶液中で球状ミセルを形成する。長いDNAテンプレートで媒介される分子認識を用いて、これらのミセルを両親媒性ロッドに変換することができる。
【0112】
一実施形態によれば、ハイドロゲルは、精製水、グリセロール、ヒドロキシエチルセルロース、乳酸ナトリウム及びアロエベラゲルを含む。いくつかの実施形態によれば、ハイドロゲルは、精製水、グリセロール、ヒドロキシエチルセルロース、乳酸ナトリウム及びアラントインを含む。アラントインの用途としては、限定するものではないが、細胞外マトリックスの含水量を増やし、細胞の複製を促進し、創傷治癒を促進し、瘢痕治癒を促進し、及び熱傷の治癒を促進するための皮膚保護剤、抗刺激剤が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、精製水はハイドロゲルの約70%である。いくつかの実施形態によれば、グリセロールはハイドロゲルの約30%である。
【0113】
一実施形態によれば、医薬組成物を局所送達し得る。医薬組成物の局所形態としては、限定するものではないが、ローション、軟膏、膏薬、ゲル、ペースト、粉末及びクリームが挙げられる。液体の場合は注入、滴下、又は噴霧によって;軟膏、ローション、クリーム、ゲル等の場合は擦り込むことによって;粉末の場合は振りかけることによって;液体又はエアロゾル組成物の場合は噴霧によって;或いは他の適切な手段で医薬組成物を適用してよい。局所投与は、一般的に全身効果よりはむしろ局所効果を与える。
別の実施形態によれば、投与は、医薬組成物を含むドレッシング材による。別の実施形態によれば、ドレッシング材の少なくとも1つの表面に医薬組成物を含浸させる。別の実施形態によれば、ドレッシング材の少なくとも1つの表面を医薬組成物で被覆する。別の実施形態によれば、ドレッシング材は、ガーゼドレッシング材、チュールドレッシング材、アルギナートドレッシング材、ポリウレタンドレッシング材、シリコーンフォームドレッシング材、合成ポリマースキャフォールドドレッシング材、非接着性パッドドレッシング材及びその組み合わせから選択される。別の実施形態によれば、ドレッシング材は、フィルムドレッシング材、半透性フィルムドレッシング材、ハイドロゲルドレッシング材、ハイドロコロイドドレッシング材、及びその組み合わせから成る群より選択される閉鎖ドレッシング材である。別の実施形態によれば、投与は代用真皮により、この場合、代用真皮に医薬組成物が埋め込まれて三次元スキャフォールドを形成している。別の実施形態によれば、代用真皮が、天然生体材料、構造的生体材料、又は合成材料で作られる。別の実施形態によれば、天然生体材料は、ヒト屍体皮膚、ブタ屍体皮膚、又はブタ小腸粘膜下層を含む。別の実施形態によれば、天然生体材料はマトリックスを含む。別の実施形態によれば、天然生体材料は基本的に、細胞レムナントを十分に欠いているマトリックスから成る。別の実施形態によれば、天然生体材料は、コラーゲン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、エラスチン、又はその組み合わせを含む。別の実施形態によれば、構造的生体材料は、二層の非細胞化(non-cellularized)真皮再生テンプレート又は単層の細胞化真皮再生テンプレートである。別の実施形態によれば、合成代用真皮は、ハイドロゲルを含む。別の実施形態によれば、合成代用真皮は、アミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパルタートを有するRGDペプチドをさらに含む。
【0114】
ガーゼドレッシング材は、創傷表面にくっついて、除去するときに創傷床を破壊することがある。結果としてガーゼドレッシング材は、一般的に軽傷に用いるか又は二次ドレッシング材として用いる。
チュールドレッシング材は創傷表面にくっつかない。チュールドレッシング材は、平坦な浅い創傷に用いるのに適しており、皮膚が敏感な患者に有用である。チュールドレッシング材の例としては、限定するものではないが、Jelonet(登録商標)及びParanet(登録商標)がある。
アルギナートドレッシング材は、アルギン酸カルシウム(海藻成分)で構成される。創傷と接触すると、ドレッシング材中のカルシウムが創傷体液からのナトリウムと交換され、これがドレッシング材を、湿性創傷環境を維持するゲルに変える。これらのドレッシング材は、滲出性創傷に優れ、皮膚脱落創傷のデブリードマンに役立つ。一般に、アルギナートドレッシング材は、乾き及び痂皮形成をもたらすので、低滲出性創傷には用いない。アルギナートドレッシング材は毎日交換する。アルギナートドレッシング材の例としては、限定するものではないが、Kaltostat(登録商標)及びSorbsan(登録商標)がある。
【0115】
ポリウレタン又はシリコーンフォームドレッシング材は、大量の滲出液を吸収するようにデザインされる。それらは湿性創傷環境を維持するが、デブリードマンのためにはアルギナート又はハイドロゲルほど有用でない。一般に、それらは、乾き及び痂皮形成をもたらすので、低滲出性創傷には用いない。ポリウレタン又はシリコーンフォームドレッシング材の例としては、限定するものではないが、Allevyn(登録商標)及びLyofoam(登録商標)が挙げられる。
コラーゲンドレッシング材は、一般的にパッド、ゲル又は粒子の形態で提供される。それらは、創傷床に新たに生じたコラーゲンの沈着を促し、滲出液を吸収し、湿性環境を与える。
非接着性パッドドレッシング材は、軽い滲出性創傷、急性創傷及び皮膚裂傷に使用するのに適している。それらは、創傷表面にくっつくことなくいずれの軽い排水性創傷にも創傷保護を与える。非接着性パッドドレッシング材の例としては、限定するものではないが、Telfa(商標)パッド及びTelfa(商標)Island Dressingが挙げられる。
【0116】
他の適切なドレッシング材としては、閉鎖性ドレッシング材がある。本明細書で使用する用語「閉鎖性ドレッシング材」は、空気又は細菌が創傷又は病変に達しないようにし、モイスチャー、熱、体液、及び薬物を保持するドレッシング材を指す。ガーゼ及びTelfa(商標)パッド(非接着性パッド)等の伝統的ドレッシング材は、創傷表面の乾燥を促進し、その上、創傷表面に接着する。重症傷害(例えば、潰瘍)の治療に用いると、新たに生じた上皮からのドレッシング材ストリップの除去が、出血及び治癒プロセスの延長を引き起こす。創傷は乾き、ひびが入るので、移動は痛く、抑制されることが多い。研究により、閉鎖性ドレッシング材は、創傷床の隣に水分を捕捉することによって乾燥及び結痂形成を防止することが示された。このようないくつかの実施形態によれば、閉鎖性ドレッシング材は全体的閉鎖性ドレッシング材である。いくつかの他の実施形態によれば、閉鎖性ドレッシング材は、半透性ドレッシング材である。本発明の目的の閉鎖性ドレッシング材の例には、限定するものではないが、フィルムドレッシング材(全体的閉鎖性ドレッシング材)、半透性フィルムドレッシング材、ハイドロゲルドレッシング材、ハイドロコロイドドレッシング材、又はその組み合わせがある。
【0117】
フィルムドレッシング材及び半透性フィルムドレッシング材は、創傷を覆うために使用できる数枚の材料を含む。該ドレッシング材は、無菌材料を含み得る。該フィルムを製造し得る適切な材料としては、ポリウレタン及びキチンがある。フィルムドレッシング材(又は半透性フィルムドレッシング材)は、それらが必要とされる部位にそれら保持するためにアクリル接着剤等の接着剤で被覆してもよい。このタイプのドレッシング材は透明であってよく、結果として創傷治癒の進行をチェックすることができる。これらのドレッシング材は、一般的に低滲出液を有する浅い創傷に適している。フィルム又は半透性フィルムドレッシング材の例としては、限定するものではないが、OpSite(登録商標)及びTegaderm(登録商標)が挙げられる。
ハイドロゲルドレッシング材は、ポリマーゲルをそのままの状態に保つ繊維の複雑なネットワーク中の水で主に構成されている。水が遊離して創傷を湿潤状態に保つ。壊死又は瘡蓋創傷床にこれらのドレッシング材を用いて再び水分補給し、死組織を除去することができる。それらは、中程度乃至重度の滲出性創傷には用いられない。ハイドロゲルドレッシング材の例としては、限定するものではないが、Tegagel(登録商標)、Intrasite(登録商標)が挙げられる。
【0118】
ハイドロコロイドドレッシング材は、疎水性接着剤マトリックスで連結されたゼラチン及びペクチン等の親水性粒子で構成され、外側フィルム又はフォーム層で覆われている。ハイドロコロイドを創傷に適用すると、創傷接触領域内のいずれの滲出液も吸収されて膨潤ゲルが形成され、これが創傷を満たし、ドレッシング材の残部に制御された吸収勾配を与える。これがデブリードマン及び治癒を促進する温かい湿性環境を作り出す。選択されるハイドロコロイドドレッシング材に応じて、それらは、軽度乃至重度の滲出液を伴う創傷、皮膚脱落又は肉芽形成創傷に用いるのに適し得る。この種類のドレッシング材は、多くの形態で入手可能であるが(接着性又は非接着性パッド、ペースト、粉末)、最も一般的には粘着パッドとして入手可能である。ハイドロコロイドドレッシング材の例には、限定するものではないが、DuoDERM(登録商標)及びTegasorb(登録商標)がある。
特定創傷に用いるの適した創傷治癒ドレッシング材は、創傷のタイプ、創傷のサイズ、及び創傷の治癒の進行に関連して選択され得る。
いくつの実施形態によれば、ドレッシング材は、閉鎖性パッド及び非接着性パッドを含む。非接着性パッドとしては、限定するものではないが、Telfa(商標)パッドがある。
【0119】
局所投与は、当該分野で周知の技術及び手順に従って調製される経皮パッチ又はイオントフォレーシスデバイス等の経皮投与の使用を伴うこともある。用語「経皮送達システム」、「経皮パッチ」又は「パッチ」は、皮膚の上に置いて、皮膚を介して該剤形の経路によって時効性用量の薬物を全身循環による分配に利用できるようにする接着システムを指す。経皮パッチは、種々多様の医薬品、例えば、限定するものではないが、動揺病用のスコポラミン、狭心症の治療用のニトログリセリン、高血圧症用のクロニジン、閉経後適応症用のエストラジオール、及び禁煙用のニコチン等の送達に用いられる広く受け入れられている技術である。記載発明に用いるのに適したパッチとしては、限定するものではないが、(1)マトリックスパッチ;(2)リザーバーパッチ;(3)接着パッチ中の多積層薬;及び(4)接着パッチ中のモノリシック薬物;参照することによりその全体をここに援用するTRANSDERMAL AND TOPICAL DRUG DELIVERY SYSTEMS, pp. 249-297 (Tapash K. Ghosh et al. eds., 1997))が挙げられる。これらのパッチは、一般的に商業的に入手可能である。
【0120】
一実施形態によれば、記載発明の医薬組成物は担体を含む。担体としては、限定するものではないが、放出剤、例えば持続放出又は遅延放出担体が挙げられる。該実施形態によれば、担体は、より効率的な投与を可能にする、例えば、ポリペプチドの頻度を減らし及び/又は投薬量を減らすことになり、取り扱いの容易さを改善し、かつ疾患、障害、状態、症候群等への効果を伸長又は遅延させるために粒状糖及びハイドロゲルを持続放出又は遅延放出できるいずれの材料でもあり得る。該担体の非限定例としては、天然及び合成ポリマーのリポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェア、又はマイクロカプセル等が挙げられる。リポソームは、種々のリン脂質、例えば、限定するものではないが、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリン等から形成可能である。
【0121】
慢性非治癒創傷の治療方法
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は慢性非治癒創傷の治療に有効である。慢性非治癒創傷の非限定例には、糖尿病性創傷、静脈性創傷、外科的創傷、癌性創傷、褥瘡、動脈性潰瘍等がある。糖尿病性創傷としては、限定するものではないが、糖尿病性足部潰瘍がある。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における創傷及び組織浮腫を低減させるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における壊死組織を低減させるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷内の微生物を殺すのに有効である、方法を提供する。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、細菌耐性のリスクもなく微生物を殺すのに有効である。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷の創傷治癒を加速させるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷におけるコラーゲン合成及び新血管新生を増加させるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷からフィブリン、瘡蓋及びバイオフィルムを除去するのに有効である、方法を提供する。
【0122】
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における肉芽組織を増加させるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における上皮化を速めるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷から液体を排出するのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷から炎症液を引き出すのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における疼痛を低減させるのに有効である、方法を提供する。
【0123】
理論に制約されるものではないが、医薬組成物の粒状糖の浸透圧特性は、組織から及び微生物の細胞体から過剰の液体を除去するのに有効である。これが創傷及び組織浮腫を低減させ、微生物を脱水して殺す。化学的手段ではなく物理的手段によって微生物を殺すので、医薬組成物に対する細菌耐性のリスクが低下する。粒状糖の浸透圧特性は、過剰の有害かつ破壊的ケモカインを有する慢性炎症液を創傷から引き出すためにも有効であり、その結果、治癒しつつある肉芽組織の破壊を防止し、創傷細胞が健康な肉芽組織を構築できるようにする。糖の浸透圧特性は、穏やかなデブリードマン並びに瘡蓋及び壊死組織及び過剰肉芽の除去を促進し、慢性非治癒創傷の疼痛を減らすためにも有効である。創傷及び周囲浮腫は、慢性創傷に見られる炎症、ケモカイン、及び細菌負荷の増加に起因し、これが慢性創傷に伴う疼痛の理由である。浸透性を有する創傷から水を引き出すことによって、粒状糖が浮腫を減らし、ひいては創傷関連炎症痛を低減させる。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷における創傷床感染を制御するのに有効である、方法を提供する。
創傷床調製は、慢性非治癒創傷の生化学的な細胞及び分子環境を急性治癒創傷に変えるプロセスを含む。表2に示すように、記載発明の医薬組成物は、他の創傷治癒製品とは対照的に、全スペクトルの創傷床調製を達成する。
【0124】
表2. 創傷床調製プロセス:他の一般的に用いられる創傷ケア製品と比べた医薬組成物
【0125】
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、コントロールに比べて平均創傷閉鎖率を高めるのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約50%~約100%高い範囲にわたる。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約50%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約60%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約70%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約75%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約80%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約85%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約90%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約95%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約99%高い。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、コントロールより約100%高い。
【0126】
いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、創傷面積の平均変化率として測定可能である。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、創傷体積の平均変化率である。いくつかの実施形態によれば、平均創傷閉鎖率は、創傷面積の平均変化率と創傷体積の平均変化率の組み合わせである。
いくつかの実施形態によれば、創傷閉鎖は、創傷面積の減少として測定可能である。いくつかの実施形態によれば、創傷閉鎖は、創傷体積の減少である。いくつかの実施形態によれば、創傷閉鎖は、創傷面積の減少と創傷体積の減少の組み合わせである。
いくつかの実施形態によれば、創傷面積の変化率及び/又は創傷体積の変化率は、ARANZ MedicalからのARANZ Silhouetteカメラシステム等の3次元カメラシステムを用いることによって決定可能である。ARANZ Silhouetteカメラシステムは、3D測定イメージング及び文書化システムであり、包括的創傷監視支援に沿った正確な測定及び治癒傾向を提供する。ARANZ Silhouetteカメラシステムは、3つの主要部分、すなわちケアイメージングデバイス点、スマートなソフトウェア及び創傷情報データベースで構成されている。この特殊カメラは創傷イメージを捕らえる。このカメラはユーザーが調整できる設定はなく、それ自体の光源を有し;レーザー線は、最適の焦点及び組成に合わせてカメラを位置付け;1つだけ移動部分、すなわち創傷イメージを捕えるボタンがある。ソフトウェアは、カメラによって獲得したデータに基づいた創傷の3Dモデルを作成し、モデルから測定値を導き出し、標準化ノートを記録する。情報データベースは、カメラ及びソフトウェアから得た情報を記憶及び固定する安全なインターネットでアクセスできるデータベースである。ARANZ Silhouetteカメラシステムから導びかれる測定値は、面積については約2%、周囲長については1%、平均深さについては5%及び体積については5%以内にある可能性が高い(95%信頼区間)。評価者間及び評価者内信頼性は、面積及び周囲長については<1%、平均深さ及び体積については<2%である。これは、異なる評価者によってさえ、経時的な反復測定がサイズと寸法の創傷変化として小さい差異を検出ことになり、提示される治癒傾向は統計的に有意義であり、臨床的に有用であることを示している。
【0127】
いくつかの実施形態によれば、コントロールはハイドロゲルバイオマテリアルである。
いくつかの実施形態によれば、記載発明は、対象の慢性非治癒創傷の治療方法であって、粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、医薬組成物が、慢性非治癒創傷を治癒するのに有効である、方法を提供する。
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約50%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約60%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約70%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約75%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約80%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約90%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約95%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約99%を治癒するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、慢性非治癒創傷の約100%を治癒するのに有効である。
【0128】
併用療法
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、少なくとも1種の追加治療薬をさらに含む。
いくつかの実施形態によれば、追加治療薬は抗炎症薬である。
いくつかの実施形態によれば、抗炎症薬はステロイド系抗炎症薬である。本明細書で使用する用語「ステロイド系抗炎症薬」は、17-炭素4-環系を含有する多数の化合物のいずれか1つを指し、これには、ステロール、種々のホルモン(タンパク質同化ステロイドとして)、及びグリコシドが含まれる。ステロイド系抗炎症薬の代表例としては、限定するものではないが、コルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロン、α-メチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリソン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクロロロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロゾン、フルラドレノロン、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフロロゾン、酢酸フルラドレノロン、メドリゾン、アムシナフェル、アムシナフィド、ベタメタゾンとそのエステルのバランス、クロロプレドニゾン、酢酸クロルプレドニゾン、クロコルテロン、クレシノロン、ジクロリソン、ジフルルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメタロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタマート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロン、及びその混合物が挙げられる。
【0129】
いくつかの実施形態によれば、抗炎症薬は、非ステロイド系抗炎症薬である。本明細書で使用する用語「非ステロイド系抗炎症薬」は、それらの作用がアスピリン様である大きな群の薬剤を指し、限定するものではないが、イブプロフェン(Advil(登録商標))、ナプロキセンナトリウム(Aleve(登録商標))、及びアセトアミノフェン(Tylenol(登録商標))が挙げられる。記載発明の文脈で使用できる非ステロイド系抗炎症薬のさらなる例には、限定するものではないが、オキシカム、例えばピロキシカム、イソキシカム、テノキシカム、スドキシカム、及びCP-14,304等;ジサルシド、ベノリラート、トリリサート、サファプリン、ソルプリン、ジフルニサール、及びフェンドサール;酢酸誘導体、例えばリバチブ、例えばジクロフェナク、フェンクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、イソキセパク、フロフェナク、チオピナク、ジドメタシン、アセマタシン、フェンチアザク、ゾメピラク、クリンダナク、オキセピナク、フェルビナク、及びケトロラク等;フェナム酸、例えばメフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、ニフルム酸、及びトルフェナム酸等;プロピオン酸誘導体、例えばベノキサプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フェンブフェン、インドプロフェン(indopropfen)、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、ミロプロフェン、チオキサプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェン、及びチアプロフェン酸等;ピラゾール、例えばフェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェプラゾン、アザプロパゾン、及びトリメタゾンが挙げられる。これらの非ステロイド系抗炎症薬の混合物のみならず、これらの薬剤の皮膚科学的に許容される塩及びエステルも利用可能である。例えば、エトフェナマート、フルフェナム酸誘導体は、局所適用に特に有用である。
【0130】
別の実施形態によれば、抗炎症薬には、限定するものではないが、形質転換成長因子-β3(TGF-β3)、抗腫瘍壊死因子-α(TNF-α)薬、又はその組み合わせがある。
いくつかの実施形態によれば、追加薬は鎮痛薬である。いくつかの実施形態によれば、鎮痛薬は、意識を妨害するか又は他の感覚様相を変えることなく、疼痛閾値を上昇させることによって疼痛を緩和する。いくつかの該実施形態によれば、鎮痛薬は非オピオイド鎮痛薬である。「非オピオイド鎮痛薬」は、疼痛を軽減するが、オピオイド鎮痛薬でない天然又は合成物質である。非オピオイド鎮痛薬の例には、限定するものではないが、エトドラク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、ナブメトン、ピロキシカム、アセトアミノフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、オキサプロジン、アスピリン、トリサリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサール、メクロフェナム酸、メフェナム酸、及びフェニルブタゾンがある。いくつかの他の実施形態によれば、鎮痛薬はオピオイド鎮痛薬である。「オピオイド鎮痛薬」、「オピオイド」、又は「麻薬性鎮痛薬」は、中枢神経系内でオピオイド受容体に結合し、アゴニスト作用をもたらす天然又は合成物質である。オピオイド鎮痛薬の例としては、限定するものではないが、コデイン、フェンタニル、ヒドロモルホン、レボルファノール、メペリジン、メタドン、モルヒネ、オキシコドン、オキシモルホン、プロポキシフェン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、デゾシン、ナルブフィン、及びペンタゾシンが挙げられる。
【0131】
別の実施形態によれば、追加薬は抗感染薬である。別の実施形態によれば、抗感染薬は抗生物質である。本明細書で使用する用語「抗生物質」は、感染性疾患の治療に主に用いられる細菌その他の微生物の成長を抑制するか、又はそれらを殺す能力を有する1群の化学物質のいずれをも意味する。抗生物質の例としては、限定するものではないが、ペニシリンG;メチシリン;ナフシリン;オキサシリン;クロキサシリン;ジクロキサシリン;アンピシリン;アモキシシリン;チカルシリン;カルベニシリン;メズロシリン;アズロシリン;ピペラシリン;イミペネム;アズトレオナム;セファロチン;セファクロル;セフォキシチン;セフロキシム;セフォニシド;セフメタゾール;セフォテタン;セフプロジル;ロラカルベフ;セフェタメト;セフォペラゾン;セフォタキシム;セフチゾキシム;セフトリアキソン;セフタジジム;セフェピム;セフィキシム;セフポドキシム;セフスロジン;フレロキサシン;ナリジクス酸;ノルフロキサシン;シプロフロキサシン;オフロキサシン;エノキサシン;ロメフロキサシン;シノキサシン;ドキシサイクリン;ミノサイクリン;テトラサイクリン;アミカシン;ゲンタマイシン;カナマイシン;ネチルマイシン;トブラマイシン;ストレプトマイシン;アジスロマイシン;クラリスロマイシン;エリスロマイシン;エリスロマイシンエストレート;エチルコハク酸エリスロマイシン;グルコヘプトン酸エリスロマイシン;ラクトビオン酸エリスロマイシン;ステアリン酸エリスロマイシン;バンコマイシン;テイコプラニン;クロラムフェニコール;クリンダマイシン;トリメトプリム;スルファメトキサゾール;ニトロフラントイン;リファンピン;ムピロシン;メトロニダゾール;セファレキシン;ロキシスロマイシン;コアモキシクラブアナート;ピペラシリンとタゾバクタムの組み合わせ;並びにそれらの種々の塩、酸、塩基、及び他の誘導体が挙げられる。抗菌性抗生物質としては、限定するものではないが、ペニシリン、セファロスポリン、カルバセフェム、セファマイシン、カルバペネム、モノバクタム、アミノグリコシド、グリコペプチド、キノロン、テトラサイクリン、マクロライド、及びフルオロキノロン類が挙げられる。
【0132】
少なくとも1種の追加治療薬の他の例としては、限定するものではないが、ローズヒップ油、ビタミンE、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、タマネギ抽出物、ペントキシフィリン、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ、ベラパミル、タクロリムス、タモキシフェン、トレチノイン、コルヒチン、カルシウム拮抗薬、トラニルスト、亜鉛、成長因子、及びその組み合わせが挙げられる。成長因子の例としては、限定するものではないが、血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が挙げられる。
【0133】
補助治療
いくつかの他の実施形態によれば、補助治療と組み合わせて医薬組成物を投与する。補助治療の非限定例としては、高気圧酸素治療(HBO)、遺伝子治療、肝細胞治療、生体工学皮膚、皮膚等価物、代用皮膚、皮膚移植片等がある。生体工学皮膚、皮膚等価物及び代用皮膚は、例えば、ヒト組織(自家又は同種)、非ヒト組織(異種移植(xenographic))、合成材料及び複合材料由来であり得る。皮膚移植片の例としては、限定するものではないが、中間層皮膚移植片及び全層皮膚移植片がある。中間層皮膚移植片は、皮膚の表層(上皮及び変厚真皮)をデルマトームと呼ばれる大型ナイフで薄く削ることによって取る。削った皮膚片を次に創傷に適用する。このタイプの皮膚移植片は足から取ることが多い。全層皮膚移植片は、皮膚の全ての層をメスで除去することによって取る(ウルフ(Wolfe)移植)。それは、皮膚切除と同様に行なわれる。皮膚片を的確な形状にカットしてから創傷に適用する。このタイプの皮膚移植片は腕、首又は耳の後ろから取ることが多い。
【0134】
別段の定義がなければ、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様又は等価ないずれの方法及び材料も記載発明の実施又は試験に使用できるが、以下に好ましい方法及び材料を記載する。本明細書で言及する全ての出版物は、参照することによって該出版物をそれらに関連して引用する方法及び/又は材料を開示及び説明するために本明細書に取り込まれる。
値の範囲を提供している場合、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて下限の単位の小数第1位まで、当該範囲の上限と下限の間の各介在値及び当該規定範囲内のいずれの他の規定値又は介在値も本発明の範囲内に包含されるという共通認識がある。これらのより小さい範囲に独立に含まれ得るより小さい範囲の上限及び下限も、規定範囲内の任意の具体的に排除された限界を条件として本発明の範囲内に包含される。規定範囲が限界の一方又は両方を含む場合、当該含まれた限界の両方とも排除する範囲も本発明に含まれる。
【0135】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて複数の言及が含まれることに留意しなければならない。本明細書で用いる全ての技術用語及び科学用語は同一の意味を有する。
参照することによりその内容が本明細書に取り込まれた本明細書で論じた出版物は、本出願の提出日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書では、先行発明という理由で記載発明が該出版物に先立つ権利を与えられないという承認として解釈すべきものはない。さらに、提供した出版日は、実際の出版日と異なることがあり、独立に確認が必要な場合がある。
記載発明は、その精神又は必須の特質から逸脱することなく他の特定形態で具体化可能であり、従って、本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書よりはむしろ添付の特許請求の範囲を参照すべきである。
【実施例】
【0136】
実施例
下記実施例は、本発明をどのように作り、使用するかの完全な開示及び記述を当業者に与えるように提示するものであり、発明者らが自らの発明とみなすものの範囲を限定する意図ではなく、下記実験が全てであり又はこれだけしか実験を行なっていないとする意図でもない。用いた数値(例えば量、温度等)に関しては正確さを確保する努力を行なったが、いくらかの実験誤差及び偏差を斟酌すべきである。特に指定のない限り、部は質量部であり、分子量は質量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧又は大気圧に近い。
【0137】
実施例1. 臨床観察研究
創傷ケアの特殊な電子医療記録(EMR)からデータを収集し、これにより我々は41の創傷でリアルワールドアウトカムを評価することができた。我々は、創傷EMRデータベースIntellicure, Inc.からのデータを用いて、局所粒状糖で治療した創傷についてレトロスペクティブ解析を行なった。Intellicure, Inc.のEMRは、全米各地の創傷センターで広く用いられている創傷特有のEMRである。治療記録には、患者人口動態、創傷のタイプ、位置、根底にある病因、面積測定値、創傷の具体的特徴、各来診時に記録した閉鎖百分率等が含まれる。EMRは、各来診時の創傷サイズ及び特徴並びに経時的な創傷面積の変化率を正確に記録するようにデザインされる。EMRは、他の治療若しくは手順又は合併症若しくは感染症が生じるときはそれらの治療記録をも記録する。EMRを用いて治癒アウトカムに関するデータを捕捉すると、実時間で治癒の進行を捕えるという利点がある。2013年10月~2015年10月の創傷の治療記録を解析した。これらの創傷では、時間の75~100%を局所治療として用いた。ほとんどの場合に数滴のポビドンヨードと共に粒状糖をハイドロゲルバイオマテリアルと混合するか(1:1混合物)又は局所抗生物質若しくはワセリン軟膏と混合した(局所糖混合物)。しかしながら全ての場合に主成分は粒状糖であった。創傷の病因としては、外科的、糖尿病、静脈、骨髄炎、外傷及び放射線病因があった。これらの創傷は、病院の外来創傷センターで見られる創傷の典型的混合創傷を表す。一次解析は、治癒までの時間及び糖混合物の安全性であった。75~100%治癒した創傷を含めた。
【0138】
我々の創傷センターで治療を開始する前に、大半の創傷が1~3カ月間、一部の創傷は1年間より長く、1つの創傷は36年間の非治癒創傷であった。我々の結果は、75~100%の時間局所糖混合物で治療した後に37創傷が100%治癒し、3創傷が99%治癒し、1創傷が90%治癒したことを示す。1つの放射線潰瘍を除き、全ての潰瘍が7カ月以内に治癒した。100%治癒した潰瘍の大半は1~3カ月以内に治癒した。他の潰瘍は5~7カ月で治癒した。迅速又は1カ月以内に治癒した潰瘍は、外傷若しくは外科的であるか又はうまく管理できた組織浮腫を有した。治癒に3カ月より長くかかった潰瘍は、壊死、骨髄炎を有するか又は我々の創傷センターで治療を開始する前に1年以上非治癒であった。
記載医薬組成物による局所糖治療に加えて、13潰瘍は高気圧酸素(HBO)補助治療を受け、3潰瘍は補助治療と代用皮膚を有し、1創傷は、補助治療としてHBOと上皮移植の組み合わせを有した。
全ての場合に下記観察を行なった:(i)アレルギー又は局所若しくは全身の副作用はなかった;(ii)創傷から壊死組織を十分に清拭した場合、糖治療の開始後に創傷上に感染がないことに注意した;(iii)いずれの他のデブリードマンもなくフィブリン及びバイオフィルムが分離し、肉芽組織が成長して創傷領域を満たした;及び(iv)代用皮膚を適用した潰瘍については、糖治療は良好な肉芽形成で潰瘍を調製し、結果として、代用皮膚等の他の補助治療が有効であり、記載医薬組成物で調製した潰瘍床を迅速に上皮化した。
【0139】
この研究では、全ての潰瘍が治癒期間を通して肉芽組織の増加及び上皮化の加速を伴う漸進的改善を示した。壊死組織、臭い、疼痛、及びドレナージの低減も観察された。新たな壊死、感染、皮膚刺激、疼痛、又は治癒速度の減速が生じた患者はいなかった。局所又は全身の副作用が観察及び報告されなかったことに基づいて治療の安全性を結論づけた。
この研究の結果は、創傷用ハイドロゲル、又は局所用抗生物質と混合した粒状糖を含有する局所医薬組成物が、有害な副作用を引き起こすことなく、いずれの病因の非治癒創傷にも安全に適用できることを示す。医薬組成物は、創傷フィブリン、瘡蓋及びバイオフィルムの除去、新しい健康な肉芽組織の構築、創傷感染の制御、創傷の収縮及び上皮被覆の構築を含めた全ての創傷治癒プロセスを改善し、促進し、速めた。治療した多くの創傷において、医薬組成物は漸進的かつ完全に創傷を治癒した。補助的創傷治療を必要とした場合、医薬組成物は治癒を速め、かつ全ての創傷治癒プロセスを改善することによって補助治療をさらに効果的にした。
【0140】
レトロスペクティブ解析に加えて、2つの臨床観察研究を行なった。
第1の臨床観察研究では、粒状糖と混合した抗生物質/創傷用ゲル(1:1)を用いるドレッシング材を、糖尿病性、静脈性、外科的及び癌性病因による創傷を含めた非治癒創傷への主要接触ドレッシング材として毎日使用した。13名の患者を登録した。13名の登録患者のうち、9名の患者は完全に治癒し;3名の患者は経過観察の機会を逸し(最後の記述経過観察では少なくとも50%の治癒を有する);及び1名の患者は90%治癒した。完全な治癒までの時間は、7名の患者では1~3カ月、2名の患者では12カ月であった。12カ月で治癒した2名の患者について、1名の患者は壊疽性糖尿病性潰瘍を有し、下腿切断によって救われ、1名の患者は乳癌による乳房創傷を有し、化学療法で治療中であった。
第2の臨床観察研究では、標準的治療への補助として創傷用ゲルと粒状糖(1:1)を8名の非治癒糖尿病性足部潰瘍(DFU)の主ドレッシング材として使用した。研究した8名の患者のうち、7名の患者は100%治癒したが、1名の患者は経過観察の機会を逸した。完全治癒までの時間は、3名の患者で2~4カ月であり、4名の患者で7~11カ月であった。切断術又は大規模なデブリードマンを必要とする患者はいなかった。
これらの観察に基づいて、動物創傷モデルにおける糖の効果を実証するために下記動物実験を行なった。
【0141】
実施例2. インビボマウス研究
この研究では、Swiss Webster退職ブリーダーの雌性マウスを用いて、(i)粒状糖とハイドロゲルバイオマテリアルを含有する組成物を含むドレッシング材及び標準的ケア用ハイドロゲルバイオマテリアルドレッシング材で治療した創傷間の創傷閉鎖速度の差を実証し;(ii)粒状糖とハイドロゲルバイオマテリアルを含有する組成物を含むドレッシング材を受ける創傷対コントロールドレッシング材を受ける創傷における感染症の発症を比較及び評価し;及び(iii)粒状糖及びハイドロゲルバイオマテリアルを含有する組成物を含むドレッシング材と、コントロールとの間で組織修復の進行速度及び組織修復に重要な要素の定量化における差を判定した。マウスにおいて乳酸塩補充皮下マトリゲル移植片が日3までに炎症応答を示し、日9までに早期肉芽組織を示し、日11までに成熟肉芽組織を示した以前の研究に基づいて(Hunt T K et al., Antioxid Redox Signal, 2007.9(8): 1115-1124; Berry D P et al., Plast Reconstr Surg, 1998. 102(1): 124-131; discussion 132-134)、創傷後3、6、9及び11日に、組織学的解析を行なう。
【0142】
Swiss Webster退職ブリーダーのマウスを下記5群に分けた:
1. 粒状糖とハイドロゲルバイオマテリアルを含有する組成物を含むドレッシング材を各時点毎に創傷に用いる実験群1(n=3)。この部分群としては全部でn=12;
2. 粒状糖とハイドロゲルバイオマテリアル及びヨードを含有する組成物を含むドレッシング材を各時点毎に創傷に用いる実験群2(n=3)。この部分群としては全部でn=12;
3. 粒状糖とハイドロゲルバイオマテリアルを含有する組成物を含むドレッシング材を受けた創傷細菌スワブを各時点毎に創傷に用いる実験群3(n=3)。この部分群としては全部でn=12;
4. コントロールドレッシング材を受けた創傷細菌スワブを各時点毎に創傷に用いるコントロール群1(n=3)。この部分群としては全部でn=12;及び
5. コントロールドレッシング材を各時点毎に創傷に用いるコントロール群2(n=3)。この部分群としては全部でn=12。
【0143】
透明フィルムとコバン(coban)で固定した非接着性テルファドレッシング材(Covidien)で記載発明の組成物を被覆することによって糖ドレッシング材を調製した。1:1 v/vの粒状糖(テーブルシュガー)をハイドロゲルバイオマテリアルと混合することによって、記載発明の組成物を調合した。ハイドロゲルバイオマテリアル(「創傷用ゲル」)は精製水70%、グリセロール30%及びヒドロキシエチルセルロースを含んだ。少量のアラントイン及び乳酸ナトリウムをも添加した。ハイドロゲルバイオマテリアルは外部薬局で調製された。透明フィルムとコバンで固定した非接着性テルファドレッシング材で記載発明の組成物とヨードの混合物を被覆することによって糖ヨードドレッシング材を調製した。ハイドロゲルバイオマテリアル、粒状糖(テーブルシュガー)及びヨードを1:1:0.17(14.7ml/14.7ml/2.5ml)の比で混合することによって糖ヨード混合物を調合した。コントロールドレッシング材は、透明フィルムとコバンで固定した非接着性テルファドレッシング材とハイドロゲルバイオマテリアルのみであった。
AAALAC公認動物ケア施設内で標準ケージに個々にマウスを収容した。マウスは水及び固形飼料に自由にアクセスできた。吸入麻酔薬を用いてマウスに麻酔をかけた。手術直後及び6時間後にブプレノルフィン(Buprenorphine)0.8mlを皮下注射することによって術後鎮痛を行なった。必要に応じて12時間毎に任意の追加鎮痛薬を与えた。飲食の低下及び/又は活動の変化として定義される疼痛挙動のモニタリングによって必要性を評価した。マウスにとって危険と思われる激しい応答があった場合、マウスを安楽死させた。安楽死の必要性を示すのに十分激しい疼痛又は苦悩の兆候としては、体重減少>10%、瀕死及び飲食不能が含まれた。安楽死の方法は、CO2窒息後の頸椎脱臼であった。
【0144】
傷つける手順及び創傷解析は、Keylockらによる研究に記載のものと類似の様式で行なった(Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol, 2008. 294(1): R179-184)。2~3l/分の流速で連続的に100%酸素中のイソフルラン(Isoflo)を有する吸入麻酔薬をフローフード下でコーンマスク経由で用いて動物に麻酔をかけた。麻酔をかけた後、動物を剪毛し、ポビドンヨードとイソプロピルアルコールの3回の交互の洗浄で処置した。3.5mmの無菌使い捨てパンチバイオプシー器具を用いて各動物の上側背部に2つの全厚円形創傷を作製した。パンチバイオプシーで除去した皮膚を病理組織診断用に4%のホルムアルデヒドで固定した。ベースライン創傷面積の評価のため動物を即座に撮影してから、動物の実験群に適したドレッシング材を適用した後にそれらのケージに戻した。イソフルラン麻酔後、約3~5分で動物は意識が戻った。この手順から完全な回復まで動物をモニターした。各群から、創傷後、日3、日6、日9、及び日11に部分群(n=3)の動物を急速CO2窒息後の頸椎脱臼によって犠牲にし、創傷及び周囲組織を収集した。各動物は2つの創傷を有したので、周囲組織に沿った1つの創傷を収集し、病理組織診断及び免疫組織化学的検査用に4%のホルムアルデヒド中で固定し;2つめの創傷を周囲組織と共に収集し、さらなる試験用に凍結させた。
【0145】
106生物/mlの緑膿菌(Pseudomonas aeruginos)(P. aeruginosa)(ATCC 27853)を含有する0.1mlの生食懸濁液を創傷に適用し、無菌テフロン棒でそっと擦り込み、乾燥させた。この部位を乾燥させてから即座に適切なドレッシング材で覆った。感染及び汚染の伝播のリスクを最小限にするため、隔離動物施設内の個々のマイクロケージ内で動物を保持した。疾病管理予防センター(CDC)が設定した基準に従って個人用保護具(PPE)及び一般用保護的及び衛生学的測定を伴った。動物を収容する部屋は、CDC指針のとおりに研究関連の個人用観察好適PPE並びに一般用保護的及び衛生学的測定のみの限定エントリーを有した。緑膿菌(P. aeruginosa)用SDSのとおりに、産物を使用した後、漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒した。
【0146】
創傷後毎日動物を撮影した。各動物は2つの創傷を有し、両方とも撮影した。創傷面積を評価し、新しいドレッシング材を適用した。2~3l/分の流速の酸素と共にイソフルランを投与して動物に麻酔をかけ、麻酔から覚める前に創傷を撮影した。創傷の写真撮影及び創傷面積の評価は、正確な3D測定及び創傷面積の評価を提供するARANZ(ARANZ Medical) Silhouetteカメラにより行なった。創傷の特徴の視覚(すなわち、肉眼)評価をも行なって記録した。ARANZシステムは、創傷の面積、深さ及び体積並びに創傷治癒の進行を正確に一貫して測定するイメージングデバイスと、創傷インフォマティクスを記憶及び管理するソフトウェアとを含む。ソフトウェアは、写真撮影ごとに創傷の面積/体積の変化率(減少又は増加)を計算して記憶する。ARANZ silhouetteカメラは、創傷の日から開始して屠殺の日まで毎日創傷活性評価のモニタリングを可能にする。
【0147】
下記スケールに基づいて接種への臨床反応を段階分けした:
0=無反応
1=明確な浮腫、軽度の紅斑
2=激烈な浮腫及び激烈な紅斑
3=創傷の境界を越えて広がる浮腫及び紅斑
4=膿疱形成を伴って創傷の境界を越えて広がる浮腫及び紅斑
段階2、3及び4を感染症の発症と分類した(Leyden et al., Journal of the Society of Cosmetic Chemists, Vol.31, No.1, 19-28)。
【0148】
創傷の細菌汚染による動物の細菌負荷を評価するため、細菌の定量化を病理組織診断により判定する。サンプルの薄片を作って染色する。病理組織診断及び免疫組織化学的検査を用いて、コラーゲン合成の速度、新血管新生の速度、炎症創傷応答、組織器質化、上皮化の速度、及び血管形成の質を評価する。必要とあれば病理組織診断結果に基づいて後期の生化学解析のために凍結サンプルを使用する。
群1(糖及びハイドロゲルドレッシング材による実験群-糖群)、群2(糖、ハイドロゲル及びヨードドレッシング材による実験群-糖/ヨード群)及び群5(ハイドロゲルドレッシング材のみによるコントロール群-コントロール群)の創傷をARANZで毎日撮影し、ARANZソフトウェアで創傷の面積又は体積の変化率を計算した。創傷の日が日1であった。創傷後の日2~11に面積の変化率を全ての創傷について記録した(動物1匹当たり2つの創傷)。
創傷後毎日各群の全ての創傷の変化率を平均して平均閉鎖率を与えた。正の閉鎖率は創傷面積の減少を反映し、負の閉鎖率は創傷面積の増加を反映した。
【0149】
この研究の結果は以下のとおりである:(i)創傷後の日2、3、4、5、6に、糖ドレッシング材群の平均創傷閉鎖率はコントロール及び糖/ヨードドレッシング材群に比べて高かった;(ii)最大の差は創傷後の日6であり、このときの糖ドレッシング材群の閉鎖率はコントロール及び糖/ヨードドレッシング材群に比べて50%超高かった;(iii)創傷後の日7、8、9には、糖ドレッシング材群とコントロール群との間で平均閉鎖率が同様であったが、糖ドレッシング材とコントロールの両群の均閉鎖率は糖/ヨードドレッシング材群より高かった;(iv)創傷後の日10に、糖ドレッシング材群のほとんどの創傷が治癒し(平均閉鎖95%)、これはコントロール(平均閉鎖79%)と糖/ヨードドレッシング材(平均閉鎖69%)の両群より1日早かった;(v)創傷後の最終日11に、糖ドレッシング材群の創傷は99パーセント治癒し、コントロール群は96パーセント治癒し、糖/ヨードドレッシング材群は86パーセント治癒した;及び(vi)全体的に見て、糖/ヨードドレッシング材群の平均閉鎖率は、糖ドレッシング材とコントロールの両群方より低く、糖ドレッシング材群と糖/ヨードドレッシング材群との間の差は、糖ドレッシング材群とコントロール群との間の差より大きかった。
【0150】
創傷の視覚(すなわち、裸眼)観察は、創傷後の日4~5に、コントロール群及び糖/ヨードドレッシング材群に比べて早い糖ドレッシング材群の上皮化を示した。糖ドレッシング材群で創傷が上皮化されると、上皮化は漸進的であり、創傷後の最後の日まで維持されることも認められた。対照的に、コントロール群及び糖/ヨードドレッシング材群の上皮化は漸進的でなく、断続的に退行することがあった。
創傷日後に追加の鎮痛を必要とすることになる疼痛挙動を示す動物はいなかった。同様に、どの動物もストレス又は体重減少のいずれの兆候をも発しなかった。研究プロトコルに従う時点で全ての動物を安楽死させた。
この研究の結果は、創傷縁からの収縮並びに創傷床の上皮化によって創傷が治癒したことを示す。糖ドレッシング材群の、コントロール群及び糖/ヨードドレッシング材群の間の創傷閉鎖又は収縮の割合は、糖ドレッシング材群で最高であった。創傷上皮化の視覚(すなわち、裸眼)観察は、コントロール群及び糖/ヨードドレッシング材群に比べて糖ドレッシング材群の早く漸進的な上皮化を示した。
【0151】
この研究では、Swiss Webster退職ブリーダーの雌性マウスを用いて、実験創傷の創傷治癒を糖が加速させることを実証した。全部で36匹のマウスを均等に(n=12)3つの群に分けた。毎日で下記:(i)粒状糖プラス創傷用ゲル(1:1)(群1);(ii)創傷用ゲルのみ(群2);及び(iii)粒状糖プラス創傷用ゲルプラスヨード(1:1:0.17)で治療する動物1匹当たり2つの全厚円形創傷を作製し、部分群解析のため各群を日3、6、9及び11に屠殺した。この実験用プロトコルは、IACUUC Committee Hackensack University Medical Center, NJによって精査及び承認された。
透明フィルム及び粘着弾性支持体で固定された非接着性ドレッシング材パッドで覆われた糖混合物を用いて糖ドレッシング材を調製した。粒状糖(例えばテーブルシュガー)を、精製水70%、グリセロール30%及びヒドロキシエチルセルロースを含む創傷用ゲルと1:1 v/vで混合することによって糖混合物を調合した。少量のアラントイン及び乳酸ナトリウムをも添加した。創傷用ゲルは、全実験のために1カ月満期で外部薬局で調製された。各ドレッシング日に糖を創傷用ゲルに添加して糖混合物を調製した。透明フィルム及び粘着弾性支持ラップで固定された非接着性ドレッシング材パッドで覆われた糖ヨード混合物を用いて糖ヨードドレッシング材を調製した。創傷用ゲル、粒状糖(例えば、テーブルシュガー)及びヨード(ポビドン-ヨードUSP)を1:1:0.17(14.7ml/14.7ml/2.5ml)の比で混合することによって糖ヨード混合物を調合した。各ドレッシング日に創傷用ゲルに糖とヨードを添加して糖ヨード混合物を調製した。創傷用ゲルのみと、透明フィルム及び粘着弾性支持ラップで固定された非接着性ドレッシング材パッドとを用いてコントロールドレッシング材を調製した。
【0152】
マウスを以下のように3つの群に分けた:
実験群1:n=12-各時点毎に創傷に糖ドレッシング材を用いる。
コントロール群2:n=12-各時点毎に創傷にコントロールドレッシング材を用いる。
実験群3:n=12-各時点毎に創傷に糖及びヨードドレッシング材を用いる。
AAALAC公認動物ケア施設内で標準ケージに個々にマウスを収容した。マウスは水及び固形飼料に自由にアクセスできた。創傷手順に記載どおりに吸入麻酔薬を用いてマウスに麻酔をかけた。手術直後にブプレノルフィン0.08mlを皮下注射することによって術後鎮痛を行なった。プロトコルに従い、必要に応じて手術の6時間後及び引き続き12時間毎に追加鎮痛薬を与えることができた。飲食の低下及び/又は活動の変化として定義される疼痛挙動のモニタリングによって必要性を評価することになった。プロトコルに従い、マウスにとって危険と思われる激しい応答があった場合、マウスを安楽死させることになった。安楽死の必要性を示すのに十分激しい疼痛又は苦悩の兆候としては、目に見える体重減少、瀕死及び飲食不能が含まれる。安楽死の方法は、CO2窒息後の頸椎脱臼であった。
【0153】
傷つける手順及び創傷解析は、Keylockらによる研究に記載のものと類似の様式で行なった(Exercise accelerates cutaneous wound healing and decreases wound inflammation in aged mice. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol, 2008. 294(1): p.R179-84)。2~3分間3~4l/分で100%の酸素中のイソフルラン(Isoflo(商標))が流入する透明の閉じた箱を用いて動物に麻酔をかけた。動物が動かなくなったらすぐに、2~3l/分の流速でフローフード下でコーンマスクを介して連続的に麻酔薬を投与した。麻酔をかけた後、動物を剪毛し、ポビドンヨードとイソプロピルアルコールの交互の洗浄で処置した。3.5mmの無菌の使い捨てパンチバイオプシー器具を用いて各動物の上側背部に2つの全厚円形創傷を作製した。パンチバイオプシーで除去した皮膚を病理組織診断用に4%のホルムアルデヒド中で固定した。ベースライン創傷面積の評価のため動物を即座に撮影してから、動物の実験群に適したドレッシング材を適用した後にそれらのケージに戻した。イソフルラン麻酔後、約3~5分で動物は意識が戻った。この手順から完全な回復まで動物をモニターした。
【0154】
各群から、創傷後、日3、日6、日9、及び日11に部分群(n=3)の動物を急速CO2窒息によって犠牲にし、創傷及び周囲組織を収集した。各動物は2つの創傷を有したので、周囲組織と共に収集した1つの創傷を病理組織診断及び免疫組織化学的検査用に4%のホルムアルデヒド中で固定し;2つめの創傷を周囲組織と共に収集し、さらなる試験用に凍結させた。創傷後の日3、6、9、11を病理組織解析のために選択した。このタイムラインは、マウスにおいて乳酸塩補充皮下マトリゲル移植片が日3までに炎症応答を示し、日9までに早期肉芽組織を示し、日11までに成熟肉芽組織を示したという以前の研究に基づいた(Hunt, T.K., et al., Aerobically derived lactate stimulates revascularization and tissue repair via redox mechanisms.Antioxid Redox Signal, 2007. 9(8): p.1115-24)。創傷パンチバイオプシーにおけるBerryらによる同様の観察(Human wound contraction: collagen organization, fibroblasts, and myofibroblasts.Plast Reconstr Surg, 1998.102(1): p.124-31; discussion 132-4)は、急性炎症日3、早期肉芽形成日6及び成熟肉芽形成日11を示した。
【0155】
創傷後毎日動物を撮影した。各動物は2つの創傷を有したので、両方とも撮影した。創傷面積を評価し、新しいドレッシング材を適用した。2~3L/分の流速の100%酸素と共にイソフルランを投与して動物に麻酔をかけ、麻酔から覚める前に創傷を撮影した。創傷面積の正確な3D測定を提供するARANZ(ARANZ Medical) Silhouetteカメラを用いて各創傷を撮影した。創傷床-皮膚界面の輪郭を正確に示すように細心の注意を払って創傷の写真を手作業で追跡した。これらの追跡は、少なくとも1名の独立した再評価者によって再調査され、矛盾があった場合には、2名の再評価者が追跡を再調査して一致させた。これらの追跡に基づいて、ソフトウェアは、写真撮影した創傷ごとに創傷の面積/体積の変化率(減少又は増加)を計算して記憶した。ARANZ silhouetteカメラは、創傷の日から開始して屠殺の日まで毎日創傷活性評価のモニタリングを可能にした。
各創傷について創傷の特徴の視覚(すなわち、裸眼)評価をも毎日行なって記録した。これらには創傷床の評価、例えば下記:(i)肉芽組織対壊死/フィブリン;(ii)創傷ドレナージ;(iii)創傷周囲面積;及び(iv)いずれもの他の異常な知見等が含まれた。創傷の特徴に加えて上皮化及び治癒をも記録した。少なくとも2名の観察者が視覚観察結果を記録した。
【0156】
創傷の特徴の評価を行なった後、上皮化を除き、創傷床組成、創傷ドレナージ及び創傷周囲面積には3つの群で顕著な差は観察されなかった。創傷の壊死又は感染を示唆する異常な兆候は観察されなかった。創傷の視覚観察は、創傷後の日4~5に糖群で早期上皮化を示した。群1では、早くも日3に早期上皮化が見られ、50%の創傷が日4に上皮化を示した。群2及び3では、日5までにいずれの創傷にも上皮化が観察されなかった。群2では日6までに6%だけの創傷が上皮化を示し、群3では0%の創傷が上皮化を示した。第3の独立した観察者が、ARANZカメラの写真の再調査後に3つの群の上皮化について報告した。これらの結果は、視覚観察によって報告された結果と一致した。視覚観察には、群1では群2及び3に比べて多くの創傷が治癒したことも認められた。
創傷日後に追加鎮痛を必要とする疼痛挙動を示した動物はなく、どの動物もストレス又は体重減少のいずれの兆候をも発しなかった。研究プロトコルに従う時点で全ての動物を安楽死させた。
この研究の結果は、創傷が創傷縁からの収縮並びに創傷床の上皮化によって治癒したことを示している。糖、コントロール及び糖/ヨードの群間の創傷閉鎖又は収縮の速度は糖群で最高であった。創傷上皮化の視覚(すなわち、裸眼)観察は、糖群においてコントロール群及び糖/ヨード群に比べて早い上皮化を示した。
【0157】
等価物
本発明をその特定の実施形態に関して記載したが、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく種々の変更を加えることができ、等価物で代用できることを当業者は理解すべきである。さらに、本発明の客観的な精神及び範囲に、特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセス工程(複数可)を取り入れるために多くの修正を加えることができる。全てのこのような修正は、本明細書に添付の特許請求の範囲内であるよう意図される。