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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】船舶用燃料電池システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04089 20160101AFI20220217BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20220217BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20220217BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20220217BHJP
   B63H 23/24 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H01M8/04089
H01M8/00 Z
H01M8/04313
H01M8/043
B63H23/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019047436
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020149902
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100141298
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 文典
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】平岩 琢也
(72)【発明者】
【氏名】灰庭 照繕
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛広
(72)【発明者】
【氏名】鬼追 和睦
(72)【発明者】
【氏名】品川 学
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-229270(JP,A)
【文献】特開平07-235323(JP,A)
【文献】特開2004-066917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を船体の推進力を発生する推進用電動機に供給する燃料電池と、
前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、
前記燃料電池への酸化剤ガス供給量が目標酸化剤ガス供給量になるように前記酸化剤ガス供給部を制御する酸化剤ガス供給制御部と、を備えた船舶用燃料電池システムであって、
前記船体の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作を検知する前後進切替操作検知部と、
前記前後進切替操作検知部の検知結果に基づいて前記燃料電池の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であるか否かを判定する負荷急増判定部と、を備え、
前記酸化剤ガス供給制御部が、前記負荷急増判定部で前記負荷急増状態であると判定したときの前記目標酸化剤ガス供給量を、前記負荷急増判定部で前記負荷急増状態でないと判定したときよりも大きく設定する船舶用燃料電池システム。
【請求項2】
前記前後進切替操作検知部が、前記推進用電動機の推進方向及び出力に基づいて前記前後進切替操作を検知する請求項1に記載の船舶用燃料電池システム。
【請求項3】
前記負荷急増判定部が、前記負荷急増状態であるとの判定時において、前記燃料電池の発電負荷が安定状態となるまでの間は当該負荷急増状態であるとの判定の解除を禁止する請求項1又は2に記載の船舶用燃料電池システム。
【請求項4】
前記負荷急増判定部が、前記船体の推進速度が所定の設定推進速度以下である場合には、前記負荷急増状態であるとの判定を禁止する請求項1~3の何れか1項に記載の船舶用燃料電池システム。
【請求項5】
船体と、当該船体の推進力を発生する推進用電動機を有する推進機構部と、を備え、
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を前記推進用電動機に供給する燃料電池を有する請求項1~4の何れか1項に記載の船舶用燃料電池システムを備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を船体の推進力を発生する推進用電動機に供給する燃料電池と、
前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、
前記燃料電池への酸化剤ガス供給量が目標酸化剤ガス供給量になるように前記酸化剤ガス供給部を制御する酸化剤ガス供給制御部と、を備えた船舶用燃料電池システム及びそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電電力で推進用電動機を駆動して推進力を得る船舶(例えば特許文献1を参照。)では、推進用電動機を含む電力負荷から燃料電池へ要求される発電負荷に対して当該燃料電池の発電出力を追従させるように、燃料電池への発電用燃料及び発電用空気(酸化剤ガスの一例)の供給量が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-33951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような船舶用燃料電池システムでは、発電負荷の急増に対して燃料電池への空気供給ポンプ(酸化剤ガス供給部の一例)からの発電用空気の供給量を迅速に追従させて増加させることができない場合がある。このような場合には、発電負荷に対する燃料電池の発電出力の応答性が低下する上に、燃料電池のカソード電極において空気が消費尽くされる所謂空気枯れが発生し、燃料電池の性能低下や損傷を招く虞がある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、船舶用燃料電池システムにおいて、船体の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作の応答性を低下させることなく、カソード電極での空気枯れに起因する燃料電池の性能低下や損傷を抑制できる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を船体の推進力を発生する推進用電動機に供給する燃料電池と、
前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、
前記燃料電池への酸化剤ガス供給量が目標酸化剤ガス供給量になるように前記酸化剤ガス供給部を制御する酸化剤ガス供給制御部と、を備えた船舶用燃料電池システムであって、
前記船体の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作を検知する前後進切替操作検知部と、
前記前後進切替検知部の検知結果に基づいて前記燃料電池の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であるか否かを判定する負荷急増判定部と、を備え、
前記酸化剤ガス供給制御部が、前記負荷急増判定部で前記負荷急増状態であると判定したときの前記目標酸化剤ガス供給量を、前記負荷急増判定部で前記負荷急増状態でないと判定したときよりも大きく設定する点にある。
【0007】
また、本発明に係る船舶の特徴構成は、船体と、当該船体の推進力を発生する推進用電動機を有する推進機構部と、を備え、
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を前記推進用電動機に供給する燃料電池を有する本発明に係る船舶用燃料電池システムを備えた点にある。
【0008】
本構成によれば、上記酸化剤ガス供給制御部において、燃料電池への酸化剤ガス供給量が目標酸化剤ガス供給量になるように空気供給ポンプ等の酸化剤ガス供給部を制御するにあたり、上記負荷急増判定部で負荷急増状態であると判定された場合には、上記負荷急増判定部で負荷急増状態でないと判定された場合よりも、上記目標酸化剤ガス供給量が大きいものに設定される。よって、燃料電池への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め酸化剤ガスの供給量を増加させておくことで、カソード電極の空気枯れを防止しながら、急増する発電負荷に対して迅速に燃料電池の発電出力を追従させることができる。
【0009】
また、船体の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作が行われた場合には、それに続く船体の推進方向の反転によって推進用電動機の回転負荷が急増し、それに伴って当該推進用電動機に発電電力を供給する燃料電池の発電負荷が急増する。
そこで、本構成によれば、上記負荷急増判定部において、上記前後進切替操作検知部で前後進操作が検知された状態を燃料電池の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であるとする形態で、上記前後進切替操作検知部の検知結果に基づいて上記負荷急増状態であるか否かを判定することができる。
そして、上記酸化剤ガス供給制御部において、燃料電池への酸化剤ガス供給量が目標酸化剤ガス供給量になるように空気供給ポンプ等の酸化剤ガス供給部を制御するにあたり、上記前後進切替操作検知部で前後進切替操作が検知されて上記負荷急増判定部で負荷急増状態であると判定された場合には、上記負荷急増判定部で負荷急増状態でないと判定された場合よりも、上記目標酸化剤ガス供給量が大きいものに設定される。よって、船体の推進方向の反転に起因して燃料電池への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め酸化剤ガスの供給量を増加させておくことで、カソード電極の空気枯れを防止しながら、急増する発電負荷に対して迅速に燃料電池の発電出力を追従させて、前後進切替操作の応答性を向上することができる。
【0010】
従って、本発明により、船舶用燃料電池システムにおいて、船体の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作の応答性を低下させることなく、カソード電極での空気枯れに起因する燃料電池の性能低下や損傷を抑制できる技術を提供することができる。
【0011】
本発明の第2特徴構成は、前記前後進切替操作検知部が、前記推進用電動機の推進方向及び出力に基づいて前記前後進切替操作を検知する点にある。
【0012】
本構成によれば、上記前後進切替操作検知部において、例えば推進用電動機の推進方向が反転し且つ推進用電動機の出力指令値の変化率が所定値以上となった場合に前後進切替操作が行われたとする形態で、推進用電動機の推進方向及び出力に基づいて前後進切替操作が行われたか否かを簡単に検知することができる。
【0013】
本発明の第3特徴構成は、前記負荷急増判定部が、前記負荷急増状態であるとの判定時において、前記燃料電池の発電負荷が安定状態となるまでの間は当該負荷急増状態であるとの判定の解除を禁止する点にある。
【0014】
本構成によれば、上記負荷急増判定部において、一旦負荷急増状態であると判定された場合には、例え前後進切替操作が検知されなくなっても、例えば発電負荷の増加割合が所定の経過時間の間で所定の設定割合未満に維持された状態のように、燃料電池の発電負荷が安定状態となるまでは、負荷急増状態であるとの判定が維持される。よって、断続的な発電負荷の急増が発生した場合でも、燃料電池に対する酸化剤ガスの供給量を安定して増加させておくことができ、一時的な発電負荷の低減に伴うカソード電極の空気枯れを防止することができる。
また、上記負荷急増判定部において、燃料電池の発電負荷が安定状態になってからは、負荷急増状態であるとの判定が解除されるので、燃料電池に対する酸化剤ガスの供給量を発電負荷に見合った適度なものに減少させて、酸化剤ガス及びそれを供給するための酸化剤ガス供給部の消費エネルギの浪費を抑制することができる。
【0015】
本発明の第4特徴構成は、前記負荷急増判定部が、前記船体の推進速度が所定の設定推進速度以下である場合には、前記負荷急増状態であるとの判定を禁止する点にある。
【0016】
本構成によれば、上記負荷急増判定部において、船体の推進速度が所定の設定推進速度以下である場合には、例え前後進切替操作が行われた場合であっても、推進用電動機の回転負荷の急増はないことから、負荷急増状態であるとの判定を禁止することができる。このことで、燃料電池に対する酸化剤ガスの無用な供給量の増加を回避して、酸化剤ガス及びそれを供給するための酸化剤ガス供給部の消費エネルギの浪費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】固定プロペラ式の推進機構部を有する船舶及び船舶用燃料電池システムの概略構成図
図2】ポッド式の推進機構部を有する船舶及び船舶用燃料電池システムの概略構成図
図3】制御部に関連する構成のブロック図
図4】酸化剤ガス供給制御のフロー図
図5】前後進切替操作検知によるモード判定処理のフロー図
図6】急旋回操作検知によるモード判定処理のフロー図
図7】船内機器の作動開始操作検知によるモード判定処理のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示す船舶100,200は、船体1と、当該船体1の推進力を発生する推進用電動機21,31を有する推進機構部20,30と、を備えて構成されている。この船舶100,200には、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電した電力を推進用電動機21,31等に供給する燃料電池10を有する燃料電池システム101,201と、この燃料電池システム101,201の運転を制御する制御装置50が設けられている。
【0019】
上記船舶100,200には、操舵ハンドル2やアクセルレバー3等を有する操船装置4が設けられている。制御装置50は、この操船装置4から入力された操作信号に基づいて推進機構部20,30や燃料電池システム101,201に対する制御を実行する。
尚、図1及び図2に示す船体1において、図面上右側が船首であり図面上左側が船尾である。そして、本願において、船体1が船首方向に推進することを「前進」と呼び、船体1が船尾方向に推進することを「後進」と呼ぶ。
【0020】
図1に示す船舶100の推進機構部20は、固定プロペラ式に構成されており、船体1を推進させる推進力を得るプロペラ23と、プロペラ23を回転駆動させる推進用電動機21と、プロペラ23の回転方向を正転と逆転とで切替可能なクラッチ22とが船体1に設けられている。更に、プロペラ23の後方に配置されて略鉛直軸周りに回転して船体1を旋回させるための舵26と、舵26を回転させて当該舵26の姿勢を変更する舵用電動機25とが、船体1に設けられている。即ち、この固定プロペラ式の推進機構部20は、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動して推進用電動機21を作動させてプロペラ23を回転させることで、船体1を推進させる推進力を得ながら、操船者による操舵ハンドル2の操作に連動して舵用電動機25を作動させて舵26の姿勢を変更することで、船体1を旋回可能に構成されている。尚、この推進機構部20では、上記推進用電動機21と上記舵用電動機25が、燃料電池10の発電電力により作動する電力負荷である。
【0021】
また、図1に示す船舶100の制御装置50は、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動して、船体1の推進方向を前進と後進とで切り替えることができる。即ち、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動するクラッチ22の回転方向の切替動作によって、プロペラ23を正転させることで船体1を前進させることができ、プロペラ23を逆転させることで船体1を後進させることができる。
【0022】
図2に示す船舶200の推進機構部30は、ポッド式に構成されており、船体1の推進力を得るプロペラ33と、プロペラ33を回転駆動させる推進用電動機31とが、船体1に対して略鉛直軸周りで回転可能なポッド32に設けられている。更に、ポッド32を回転させて当該ポッド32の姿勢を変更するポッド用電動機35が、船体1に設けられている。即ち、このポッド式の推進機構部30は、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動して推進用電動機21を作動させてプロペラ23を回転させることで、船体1をポッド32の姿勢に応じた方向へ推進させる推進力を得ながら、操船者による操舵ハンドル2の操作に連動してポッド用電動機35を作動させてポッド32の姿勢を変更することで、船体1を旋回可能に構成されている。尚、この推進機構部20では、上記推進用電動機21と上記舵用電動機25が、燃料電池10の発電電力により作動する電力負荷である。
【0023】
尚、本実施形態では、船舶100,200の推進機構部20,30を固定プロペラ式又はポッド式に構成したが、本発明に係る船舶用燃料電池システムでは、少なくとも推進用電動機21,31を備えるものであれば良く、別の方式の推進機構部を採用しても構わない。
【0024】
また、図2に示す船舶200の制御装置50は、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動して、船体1の推進方向を前進と後進とで切り替えることができる。即ち、操船者によるアクセルレバー3の操作に連動するポッド用電動機35の回転動作によって、ポッド32の姿勢を前進姿勢(図2に示す姿勢)とした状態で推進用電動機31によりプロペラ33を回転させることで船体1を前進させることができ、ポッド用電動機35によりポッド32の姿勢を後進姿勢(図2に示す姿勢に対して前後反転させた姿勢)とした状態で推進用電動機31によりプロペラ33を回転させることで船体1を後進させることができる。
【0025】
船体1内には、上記推進用電動機21,31、舵用電動機25、及びポッド用電動機35とは別の電力負荷として、荷役用クレーンなどの作業機械や空調装置などの複数の船内機器5が設けられている。これら船内機器5の夫々には、電力の供給状態を切り替えるための電源スイッチ6が設けられている。
【0026】
燃料電池システム101,201には、燃料電池10のカソード電極に対して酸化剤ガスとしての空気を供給する空気供給部11Aと、燃料電池10のアノード電極に対して水素ガス等の燃料ガスを供給する燃料ガス供給部11Bとが設けられている。
空気供給部11Aは、外気から取り込んだ空気を燃料電池10のカソード電極に送る空気ポンプ等で構成されている。制御装置50は、当該空気供給部11Aを構成する空気ポンプの回転数を制御して、燃料電池10のカソード電極への空気供給量を調整可能に構成されている。
燃料ガス供給部11Bは、燃料ガスである水素ガスを高圧状態で貯留する水素ボンベと、当該水素ボンベから燃料電池10のアノード電極に導入される燃料ガスの流量調整を行う水素供給弁等で構成されている。制御装置50は、当該燃料ガス供給部11Bを構成する水素供給弁の開度を制御して、燃料電池10のアノード電極への燃料ガス供給量を調整可能に構成されている。
【0027】
図3に示すように、制御装置50は、操船装置4の操作信号に基づいて推進機構部20,30の作動を制御する操舵制御を行う操舵制御部59として機能すると共に、船体1の針路を目標針路に導くための自動操舵を行う自動操舵部57としても機能する。この自動操舵部57は、目標針路が予め設定されている場合において、GPS等で検知される実際の針路が上記目標針路に対して乖離している場合に、実際の針路を目標針路に戻すべく自動的に操舵ハンドル2の操作を行うものとして構成されている。
【0028】
更に、制御装置50は、後述する前後進切替操作検知部51A、急旋回操作検知部51B、機器作動開始操作検知部51C、負荷急増判定部52、制御モード設定部53、空気供給制御部55A、燃料ガス供給制御部55B等の各種制御部としても機能する。
そして、空気供給制御部55Aは、燃料電池10への空気供給量が目標空気供給量になるように空気供給部11Aを制御し、燃料ガス供給制御部55Bは、燃料電池10への燃料ガス供給量が目標燃料ガス供給量になるように燃料ガス供給部11Bを制御する。そして、これら目標空気供給量並びに目標燃料ガス供給量は、基本的に、燃料電池10に対して要求される発電負荷に対して燃料電池10の発電出力が追従するように決定される。
【0029】
しかしながら、空気供給制御部55Aについては、要求される発電負荷の急増に対して燃料電池10への発電用空気の供給量を迅速に追従させて増加させることができない場合がある。このような場合、発電負荷に対する燃料電池10の発電出力の応答性が低下する上に、燃料電池10のカソード電極において空気が消費尽くされる所謂空気枯れが発生し、燃料電池10の性能低下や損傷を招く虞がある。
【0030】
そこで、本実施形態の燃料電池システム101,201は、燃料電池10への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め燃料電池10への空気の供給量を増加させるべく上記目標空気供給量を決定するように構成されている。このことで、推進機構部20,30や船内機器5の応答性を低下させることなく、カソード電極での空気枯れに起因する燃料電池10の性能低下や損傷を抑制することができる。以下にその詳細について説明を加える。
【0031】
空気供給制御部55Aは、図4に示すフローに沿って、空気供給部11Aによる燃料電池10への空気供給量を制御する空気供給制御を実行するように構成されている。
即ち、この空気供給制御では、詳細については後述するが負荷急増判定部52によって燃料電池10の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であるか否かの判定処理(ステップ#1、図5図7参照)が行われる。そして、判定処理(ステップ#1)により上記負荷急増状態ではない通常負荷状態であると判定された場合には通常供給制御(ステップ#2)が実行され、判定処理(ステップ#1)により上記負荷急増状態であると判定された場合には所定の急増供給制御(ステップ#3)が実行される。
【0032】
尚、上記通常供給制御(ステップ#2)では、目標空気供給量Aoが、燃料電池10が要求される発電負荷xに相当する電力を発電するのに必要な必要空気供給量AL(x)に決定される。一方、上記急増供給制御(ステップ#3)では、目標空気供給量Aoが、燃料電池10が要求される発電負荷xに相当する電力を発電するのに必要な必要空気供給量AL(x)よりも大きいものに決定される。例えば、目標空気供給量Aoは、上記必要空気供給量AL(x)に1よりも大きい係数Rを乗じた供給量に決定したり、空気供給部11Aの供給可能範囲内での最大空気供給量Amaxに決定することができる。
そして、このような構成により、燃料電池10への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め燃料電池10への空気の供給量を増加させておくことができる。
【0033】
次に、負荷急増状態であるか否かの判定処理の詳細について説明を加える。
図3に示す前後進切替操作検知部51Aは、船体1の推進方向が前進と後進との間で切り替わる前後進切替操作を検知するものとして構成されている。
前後進切替操作検知部51Aは、操船者がアクセルレバー3による前進と後進との間の推進方向の切替操作を上記前後進切替操作として検知する。例えば、操船者により推進用電動機21,31の推進方向を反転させるためのアクセルレバー3の操作が検知され、且つ、推進用電動機21の出力指令値の変化率が所定値以上となった場合に、前後進切替操作が行われたとする形態で、前後進切替操作検知部51Aは推進用電動機21の推進方向及び出力に基づいて前後進切替操作が行われたか否かを検知することができる。尚、前後進切替操作検知部51Aによる前後進切替操作の検知方法については、推進用電動機21の推進方向及び出力に基づくものに限らず、適宜改変可能である。
【0034】
図3に示す急旋回操作検知部51Bは、船体1の急旋回操作を検知するものとして構成されている。
急旋回操作検知部51Bは、操舵ハンドル2の舵角を検知し、当該検知した舵角が設定舵角以上である場合に、その操舵ハンドル2への操舵を急旋回操作として検知する。
【0035】
更に、急旋回操作検知部51Bは、目標針路に対して実際の針路がなす針路乖離角度が所定の設定角度以上であるときの上記自動操舵部57による自動操舵についても、急旋回操作として検知することができる。
また、急旋回操作検知部51Bにおいて、上記のような自動操舵を急旋回操作として検知した場合において、当該自動操舵中の針路乖離角度が所定の設定角度未満となった場合には、後の旋回では発電負荷の急増を伴う急旋回が行われないとして、当該急旋回操作の検知が解除される。尚、急旋回操作検知部51Bによる急旋回操作の検知方法については、操舵ハンドル2の舵角や自動操舵の状態に基づくものに限らず、適宜改変可能である。
【0036】
図3に示す機器作動開始操作検知部51Cは、荷役用クレーンなどの作業機械や空調装置などの船内機器5の作動開始操作を検知するものとして構成されている。
機器作動開始操作検知部51Cは、夫々の船内機器5に対して設置された電源スイッチ6の投入操作を作動開始操作として検知することができる。尚、機器作動開始操作検知部51Cによる船内機器5の作動開始操作の検知方法については、電源スイッチ6の投入状態に基づくものに限らず、適宜改変可能である。
【0037】
負荷急増判定部52は、図5図7に示すような第1~第3判定処理を実行して、燃料電池10の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であるか否かを判定するものとして構成されている。
図5に示す第1判定処理では、上記前後進切替操作検知部51Aの検知結果に基づいて上記負荷急増状態であるか否かが判定される。即ち、前後進切替操作検知部51Aで前後進操作が検知された状態(ステップ#11のyes)が、燃料電池10の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であると判定される(ステップ#14)。一方、前後進切替操作検知部51Aで前後進操作が検知されていない状態(ステップ#11のNo)が、上記負荷急増状態ではない通常状態であると判定される(ステップ#12)。
【0038】
また、この第1判定処理において、船体1の推進速度Sが所定の設定推進速度S1以下であるか否かが判定される(ステップ#13)。そして、船体1の推進速度Sが設定推進速度S1以下であるとき(ステップ#13のyes)には、例え前後進切替操作が行われた場合であっても推進用電動機21の回転負荷の急増はないことから、負荷急増状態であるとの判定が禁止されて、通常状態であると判定される(ステップ#12)。尚、上記船体1の推進速度Sについては、直接的に計測することもできるが、プロペラ23の回転速度から推定することもできる。
尚、本実施形態では、船体1の推進速度が所定の設定推進速度S以下である場合には、負荷急増状態であるとの判定を禁止するようにしたが、このような処理は適宜改変又は省略することができる。
【0039】
また、この第1判定処理において、一旦負荷急増状態であると判定された場合(ステップ#14)には、燃料電池10の発電負荷の増加割合が所定の設定割合未満に維持されて燃料電池10の発電負荷が安定している状態での経過時間Tが計測され、その経過時間Tが所定の設定経過時間T1を超えるか否かが判定される(ステップ#15)。そして、経過時間Tが設定経過時間T1を超えるまでの間(ステップ#15のno)、言い換えれば燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は、前後進切替操作が検知されなくなっても、負荷急増状態であるとの判定の解除が禁止されて、負荷急増状態であるとの判定(ステップ#14)が維持される。また、経過時間Tが設定経過時間T1を超えた場合(ステップ#15のyes)には、燃料電池10の発電負荷が安定したとして、通常状態であると判定される(ステップ#12)。
尚、本実施形態では、負荷急増状態であるとの判定時において、燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は負荷急増状態であるとの判定の解除を禁止するようにしたが、このような処理は適宜改変又は省略することができる。
【0040】
そして、以上のような第1判定処理によって負荷急増状態であると判定された場合には、空気供給制御部55Aによって上述した急増供給制御(図4のステップ#3)が実行されて、目標空気供給量が必要空気供給量よりも大きいものに設定されることで、燃料電池10への空気供給量が上記通常負荷状態であると判定された場合よりも大きくなる。よって、船体1の推進方向の反転に起因して燃料電池10への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め燃料電池10への空気の供給量を増加させておくことができる。
【0041】
図6に示す第2判定処理では、上記急旋回操作検知部51Bの検知結果に基づいて上記負荷急増状態であるか否かが判定される。即ち、急旋回操作検知部51Bで急旋回操作が検知された状態(ステップ#21のyes)が、燃料電池10の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であると判定される(ステップ#24)。一方、急旋回操作検知部51Bで急旋回操作が検知されていない状態(ステップ#21のNo)が、上記負荷急増状態ではない通常状態であると判定される(ステップ#22)。
【0042】
また、この第2判定処理において、船体1の推進速度Sが所定の設定推進速度S1以下であるか否かが判定される(ステップ#23)。そして、船体1の推進速度Sが設定推進速度S1以下であるとき(ステップ#23のyes)には、例え急旋回操作が行われた場合であっても推進用電動機21の回転負荷の急増はないことから、負荷急増状態であるとの判定が禁止されて、通常状態であると判定される(ステップ#22)。尚、上記船体1の推進速度Sについては、直接的に計測することもできるが、プロペラ23の回転速度から推定することもできる。
尚、本実施形態では、船体1の推進速度が所定の設定推進速度S以下である場合には、負荷急増状態であるとの判定を禁止するようにしたが、このような処理は適宜改変又は省略することができる。
【0043】
また、この第2判定処理において、一旦負荷急増状態であると判定された場合(ステップ#24)には、燃料電池10の発電負荷の増加割合が所定の設定割合未満に維持されて燃料電池10の発電負荷が安定している状態での経過時間Tが計測され、その経過時間Tが所定の設定経過時間T1を超えるか否かが判定される(ステップ#25)。そして、経過時間Tが設定経過時間T1を超えるまでの間(ステップ#25のno)、言い換えれば燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は、急旋回操作が検知されなくなっても、負荷急増状態であるとの判定の解除が禁止されて、負荷急増状態であるとの判定(ステップ#24)が維持される。また、経過時間Tが設定経過時間T1を超えた場合(ステップ#25のyes)には、燃料電池10の発電負荷が安定したとして、通常状態であると判定される(ステップ#22)。
尚、本実施形態では、負荷急増状態であるとの判定時において、燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は負荷急増状態であるとの判定の解除を禁止するようにしたが、このような処理は適宜改変又は省略することができる。
【0044】
そして、以上のような第2判定処理によって負荷急増状態であると判定された場合には、空気供給制御部55Aによって上述した急増供給制御(図4のステップ#3)が実行されて、目標空気供給量が必要空気供給量よりも大きいものに設定されることで、燃料電池10への空気供給量が上記通常負荷状態であると判定された場合よりも大きくなる。よって、急旋回に起因して燃料電池10への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め燃料電池10への空気の供給量を増加させておくことができる。
【0045】
図7に示す第3判定処理では、上記機器作動開始操作検知部51Cの検知結果に基づいて上記負荷急増状態であるか否かが判定される。即ち、機器作動開始操作検知部51Cで船内機器5の作動開始操作が検知された状態(ステップ#31のyes)が、燃料電池10の発電負荷の急増が予測される負荷急増状態であると判定される(ステップ#34)。一方、機器作動開始操作検知部51Cで船内機器5の作動開始操作が検知されていない状態(ステップ#31のNo)が、上記負荷急増状態ではない通常状態であると判定される(ステップ#22)。
【0046】
また、この第3判定処理において、一旦負荷急増状態であると判定された場合(ステップ#34)には、燃料電池10の発電負荷の増加割合が所定の設定割合未満に維持されて燃料電池10の発電負荷が安定している状態での経過時間Tが計測され、その経過時間Tが所定の設定経過時間T1を超えるか否かが判定される(ステップ#35)。そして、経過時間Tが設定経過時間T1を超えるまでの間(ステップ#35のno)、言い換えれば燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は、作動開始操作が検知されなくなっても、負荷急増状態であるとの判定の解除が禁止されて、負荷急増状態であるとの判定(ステップ#34)が維持される。また、経過時間Tが設定経過時間T1を超えた場合(ステップ#35のyes)には、燃料電池10の発電負荷が安定したとして、通常状態であると判定される(ステップ#32)。
尚、本実施形態では、負荷急増状態であるとの判定時において、燃料電池10の発電負荷が安定状態となるまでの間は負荷急増状態であるとの判定の解除を禁止するようにしたが、このような処理は適宜改変又は省略することができる。
【0047】
そして、以上のような第3判定処理によって負荷急増状態であると判定された場合には、空気供給制御部55Aによって上述した急増供給制御(図4のステップ#3)が実行されて、目標空気供給量が必要空気供給量よりも大きいものに設定されることで、燃料電池10への空気供給量が上記通常負荷状態であると判定された場合よりも大きくなる。よって、船内機器5の作動に起因して燃料電池10への発電負荷が急増する可能性が高い場合、それを予測して予め燃料電池10への空気の供給量を増加させておくことができる。
【0048】
また、この第3判定処理では、機器作動開始操作検知部51Cでの作動開始操作の検知によって負荷急増状態であると判定された場合(ステップ#34)には、制御モード設定部53により制御モード設定処理(ステップ#33)が実行される。この制御モード設定処理(ステップ#33)では、空気供給制御部55Aで実行する制御モードが複数の制御モードから選択されて設定される。具体的に、空気供給制御部55Aは、負荷急増判定部52で負荷急増状態であると判定したときの制御モードとして、目標空気供給量が最も大きいものに決定される大負荷制御モードと、目標空気供給量が大負荷制御モードよりも小さいものに決定される中負荷制御モードと、目標空気供給量が中負荷制御モードよりも小さいものに決定される小負荷制御モードと、を有する。
そして、制御モード設定処理(ステップ#33)では、例えば作業者によるモード設定スイッチ53aに対する手動の制御モード設定操作や複数の船内機器5のうちの電源スイッチ6の投入数に応じて、大負荷制御モード、中負荷制御モード、及び小負荷制御モードから上記空気供給制御部55Aで実行する制御モードが選択される。よって、作動する船内機器5の種類や数によって当該船内機器5の要求負荷の増加幅等が様々である場合でも、それに見合った適切な空気供給量の空気を燃料電池10に予め供給しておくことができる。
【0049】
更に、第3判定処理において継続して負荷急増状態であると判定された場合には、上記制御モード設定処理(ステップ#33)において、燃料電池10の発電負荷に基づいて空気供給制御部55Aで実行する上記制御モードが切り替えられる。例えば、中負荷制御モードが選択されている状態において、燃料電池10の発電負荷が所定値よりも低下した場合には、制御モードを小負荷制御モードに切り替え、燃料電池10の発電負荷が所定値よりも増加した場合には、制御モードを大負荷制御モードに切り替えることができる。このことで、例えば作動する船内機器5の要求負荷が当初想定していたものとは大幅に変化した場合であっても、その要求負荷の変化に見合った適切な空気供給量の空気が燃料電池10に供給されることになる。
【0050】
さらに、船内機器5の作動開始操作が検知された(ステップ#31のyes)直後のモード設定処理(ステップ#33)では、上記空気供給制御部55Aで実行する制御モードが目標空気供給量の最も大きい上記大負荷制御モードに設定される。このことで、作業開始操作の検知に続いて発生する船内機器5の実際の要求負荷が想定していたものよりも大きかった場合であっても、燃料電池10に対して予め充分な空気供給量の空気が供給されているので、燃料電池10のカソード電極での空気枯れが回避される。また、その後、燃料電池10の実際の発電負荷が低くなった場合には、上述のように制御モード設定処理(ステップ#33)において制御モードが適宜中負荷制御モード及び小負荷制御モードに変更されて、船内機器5の要求負荷の変化に見合った適切な空気供給量の空気が燃料電池10に供給されることになる。
【符号の説明】
【0051】
1 船体
4 操船装置
5 船内機器
10 燃料電池
11A 空気供給部(酸化剤ガス供給部)
20,30 推進機構部
21,31 推進用電動機
51A 前後進切替操作検知部
51B 急旋回操作検知部
51C 機器作動開始操作検知部
52 負荷急増判定部
53 制御モード設定部
55A 空気供給制御部(酸化剤ガス供給制御部)
57 自動操舵部
100,200 船舶
101,201 燃料電池システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7