(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】ナリルチンを用いた魚類の養殖方法、生産方法、魚類の可食部および魚類のナルリチン含有配合飼料
(51)【国際特許分類】
A23K 50/80 20160101AFI20220217BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220217BHJP
A23K 20/111 20160101ALI20220217BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/30
A23K20/111
(21)【出願番号】P 2019121532
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2020-07-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物による公開〕 ・刊行物名 :じゃばら通信 2018年冬号 発行日 :平成30年10月15日 発行人 :和歌山県東牟婁郡北山村 ・刊行物名 :朝日新聞 第二面 発行日 :平成30年12月26日 発行人 :株式会社朝日新聞社 〔店舗への販売〕 ・販売先 :串本食品株式会社 販売日 :平成30年10月29日 ・販売先 :生活協同組合コープさっぽろ 販売日 :平成31年3月2日 〔ウェブサイトによる公開〕 ・電気通信回線発表:平成30年10月17日 掲載アドレス:http://www.kitayamamura.com/ http://item.rakuten.co.jp/f39247-kitayama/nks110/ http://www.furusato-tax.jp/product/detail/30427/4528523
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 充
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029616(JP,A)
【文献】特開2009-234926(JP,A)
【文献】特開2013-150575(JP,A)
【文献】特開2012-232938(JP,A)
【文献】特開2013-136528(JP,A)
【文献】MASUDA KALE,じゃばら果実[online],https://www.masudaseed.com/products/season/jabara.html,令和3年6月25日検索日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することを特徴とする魚類の生産方法。
【請求項2】
前記
じゃばらが、
じゃばらの果皮であることを特徴とする請求項
1に記載の魚類の生産方法。
【請求項3】
前記
じゃばらが、乾物量として100mg当たり0.4mg以上のナリルチンを含むことを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の魚類の生産方法。
【請求項4】
前記
じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料が、1Kg当たりナリルチンを50mg以上含むことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の魚類の生産方法。
【請求項5】
前記じゃばらがじゃばらの乾燥果皮粉末であり、前記じゃばらの乾燥果皮粉末を配合飼料に対して0.05~3質量%含むことを特徴とする
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の魚類の生産方法。
【請求項6】
前記じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料を、出荷時を基準としてその前1か月以上前記魚類に給餌することを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の魚類の生産方法。
【請求項7】
前記じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料を、給餌期間中のマグロ1匹当たりの1日相当量として、20~250g給餌することを特徴とする請求項1から請求項
6いずれか一項に記載のマグロ属の生産方法。
【請求項8】
前記じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料を、給餌期間中のスマまたはカツオ1匹当たりの1日相当量として、0.4~5g給餌することを特徴とする請求項1から請求項
6いずれか一項に記載のスマ属またはカツオ属の生産方法。
【請求項9】
じゃばら由来のナリルチンを配合飼料1kg当たり50mg以上含むことを特徴とするマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類のナリルチン含有配合飼料。
【請求項10】
前記
じゃばらが、前記
じゃばらの果皮であることを特徴とする請求項
9に記載のナリルチン含有配合飼料。
【請求項11】
前記
じゃばらが、前記
じゃばらの乾物量100mg当たり前記ナリルチンを0.4mg以上含むことを特徴とする請求項
9または請求項
10に記載のナリルチン含有配合飼料。
【請求項12】
前記じゃばらが乾燥果皮粉末であり、前記じゃばらの乾燥粉末を0.05~3質量%含むことを特徴とする
請求項9から請求項11のいずれか一項に記載のナリルチン含有配合飼料。
【請求項13】
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の方法により製造されたマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の可食部。
【請求項14】
じゃばらと配合飼料を混合したナリルチン含有配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することを特徴とする魚類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の養殖方法、生産方法、当該養殖方法により生産された当該魚類の可食部およびマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類のナリルチン含有配合飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
ハマチに温州ミカン、伊予かん、柚子の搾汁を添加した飼料を給餌することにより、ハマチの切り身の褐変を抑制する技術が知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、要求量以上のビタミンEおよびビタミンCを含有させた飼料をブリまたはマダイに給餌させることにより、加工調理後24時間目の血合筋の経時的変色防止効果を高めた養殖魚用飼料の発明が知られている(特許文献1)。
【0004】
上記のブリの切り身の血合筋の褐変の原因は、ミオグロビンが酸化してメトミオグロビンを生成するいわゆるメト化が起きることが原因であることから、ヘスペリジン、ナリンギン、ビタミンC等の抗酸化剤に富んだ柚子の果汁および果皮を添加した飼料をブリに給餌することにより、ブリの切り身の褐変を抑制するとともに、柚子の香りが付いたブリの切り身を作る技術も知られている(非特許文献2)。
【0005】
少なくとも1種の柑橘類の果実と、少なくとも1種のトウガラシを含む養殖魚用飼料を用いて、ブリの血合筋のメト化を抑制する技術が知られている(特許文献2)。
【0006】
じゃばらは、ミカン属の柑橘類の1種で、ユズや九年母などの自然交雑種である。独特な強い香りと強い酸味を持つ香酸柑橘の一種で果実にはフラボノイドの一種であるナリルチンが他の香酸柑橘類よりも多く含まれていることが知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-233316
【文献】特開2018-29616
【文献】特開2018-168070
【非特許文献】
【0008】
【文献】井上久雄、愛媛県農林水産研究所だより、2017年、第3号、1頁
【文献】深田陽久、化学と生物、2016年、第54巻、第4号、294頁~297頁
【文献】「カラダにいい」は「美味しい」、[online]、17~18頁、農林水産省、[平成31年4月10日検索]、インターネット<URL:http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/attach/pdf/torikumi2-67.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、柚子にはマウスが摂取すると体重抑制効果があることが知られている(特許文献3)ことから、体重増加を期待するマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に柚子等を給餌することで、体重増加が抑制される虞が懸念される。
【0010】
そこで、体重の増加が抑制されることなく、魚類の可食部の鮮やかな赤色を保持することが可能な魚類の生産方法、養殖方法、当該養殖方法により生産された当該魚類の可食部および当該生産方法に用いる配合飼料の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に対して、ナリルチン含有配合飼料を給餌すれば、体重の増加が抑制されることなく、可食部が鮮やかな赤色を保持した状態のマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類を提供できることを見出した。
【0012】
具体的に、本発明は、
[態様1]
ナリルチン含有配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することを特徴とする魚類の生産方法、
[態様2]
前記ナリルチン含有配合飼料が、ナリルチン含有柑橘類と配合飼料を混合したものであることを特徴とする態様1記載の魚類の生産方法、
[態様3]
前記ナリルチン含有柑橘類が、前記柑橘類の果皮であることを特徴とする態様2に記載の魚類の生産方法、
[態様4]
前記ナリルチン含有柑橘類が、乾物量として100mg当たり0.4mg以上のナリルチンを含むことを特徴とする態様2または態様3に記載の魚類の生産方法、
[態様5]
前記ナリルチン含有配合飼料が、1Kg当たりナリルチンを50mg以上含むことを特徴とする態様1から態様4のいずれかひとつに記載の魚類の生産方法、
[態様6]
前記ナリルチン含有柑橘類が、じゃばらであることを特徴とする態様2から態様5のいずれかひとつに記載の魚類の生産方法、
[態様7]
前記じゃばらがじゃばらの乾燥果皮粉末であり、前記じゃばらの乾燥果皮粉末を配合飼料に対して0.05~3質量%含むことを特徴とする態様6に記載の魚類の生産方法、
[態様8]
前記ナリルチン含有配合飼料を、出荷時を基準としてその前1か月以上前記魚類に給餌することを特徴とする態様1から態様7のいずれかひとつに記載の魚類の生産方法、
[態様9]
前記ナリルチン含有配合飼料を、給餌期間中のマグロ1匹当たりの1日相当量として、20~250g給餌することを特徴とする態様1から態様8いずれかひとつに記載のマグロ属の生産方法、
[態様10]
前記ナリルチン含有配合飼料を、給餌期間中のスマまたはカツオ1匹当たりの1日相当量として、0.4~5g給餌することを特徴とする態様1から態様8いずれかひとつに記載のスマ属またはカツオ属の生産方法、
〔態様11〕
ナリルチンを配合飼料1kg当たり50mg以上含むことを特徴とするマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類のナリルチン含有配合飼料、
[態様12]
前記ナリルチンが、ナリルチン含有柑橘類由来である態様11に記載のナリルチン含有配合飼料、
[態様13]
前記ナリルチン含有柑橘類が、前記柑橘類の果皮であることを特徴とする態様12に記載のナリルチン含有配合飼料、
[態様14]
前記ナリルチン含有柑橘類が、前記ナリルチン含有柑橘類の乾物量100mg当たり前記ナリルチンを0.4mg以上含むことを特徴とする態様12または態様13に記載のナリルチン含有配合飼料、
[態様15]
前記ナリルチン含有柑橘類が、じゃばらであることを特徴とする態様12から態様14のいずれかひとつに記載のナリルチン含有配合飼料、
[態様16]
前記じゃばらが乾燥果皮粉末であり、前記じゃばらの乾燥粉末を0.05~3質量%含むことを特徴とする態様15に記載のナリルチン含有配合飼料、
[態様17]
態様1から態様8のいずれかひとつに記載の方法により製造されたマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の可食部、および
[態様18]
ナリルチン含有配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することを特徴とする魚類の養殖方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、マグロ属、スマ属およびカツオ属に属する魚類において、魚類体重の増加が抑制されることなく、魚類の可食部の鮮やかな赤色を保持することが可能な魚類の生産方法、養殖方法、当該養殖方法により生産された当該魚類の可食部および給餌した魚類の可食部の鮮やかな赤色を保持することが可能なナリルチン含有配合飼料を提供することができる。
【0014】
さらに、本発明により、マグロ属、スマ属およびカツオ属に属する魚類において、魚体の身のしまりや口内で噛んだときの歯ごたえの指標となる硬度が高められた魚類や、保存後のドリップ率が低減した魚類の養殖方法およびかかる魚類を提供可能なナリルチン含有配合飼料を提供することができることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】マグロの試料採取部位(検査測定部位)を示す平面図。
【
図2】
図1のマグロの試料採取部位より採取したマグロの肉片(筋肉ブロック)の検査部位を示す平面図。
【
図3】
図1のマグロの試料採取部位より採取したマグロの肉片の色差測定の測定部位を示す平面図。(1)は血合、(2)~(5)は魚肉片の5℃保存の色差測定部位を示す。
【
図4】
図1のマグロの試料採取部位より採取したマグロの肉片のドリップ率および硬度の測定部位を示す平面図。(6)は25℃保存の色差・ドリップ・硬度・各種分析部位を示す。
【
図5】ナリルチン含有配合飼料の製造方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明において係るマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法について説明する。本発明のマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法とは、ナリルチンを含む配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することにより特定の性質を持ったマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類を生産するものである。換言すると、本願発明にかかるマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法を用いることで、特定の性質を持ったマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類を養殖することが可能になる。本発明における養殖方法とは、自然界から稚魚を捕らえて育てる「蓄養」であっても、人工孵化の後に成魚に育てさらに成長させる「完全養殖」であってもどのような形態でも良く、これらの養殖手法による魚類の人工飼育の部分工程を行うものであっても良い。即ち、本発明はナリルチン含有配合飼料をマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に給餌することを特徴とするマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の飼育方法にも関係する。
【0017】
本発明におけるマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類とは、マグロ属に属する
クロマグロ、ミナミマグロ、キハダ、メバチ等、カツオ属に属するホンガツオ等、またはスマ属に属するスマガツオ等が挙げられ、好ましくはマグロ属に属する魚類、とりわけ好ましくはクロマグロが挙げられる。
【0018】
次に、ナリルチン含有配合飼料について説明する。本発明において、ナリルチン含有配合飼料とは、有効成分としてナリルチンを含有する配合飼料である。ナリルチン含有配合飼料は、例えば、配合飼料1Kg当たりナリルチンを50mg以上、好ましくは50~200mg、とりわけ好ましくは100~150mg含んでいる配合飼料である。
【0019】
ナリルチンとしては、天然物からの精製ナリルチンや、天然物中に未精製のまま含まれているナリルチン、例えばナリルチン含有柑橘類の乾燥物等中のナリルチン等、どのような加工形態のものを用いても良く、また、これらの代わりに微生物由来または化学的に合成されたナリルチンを用いても良い。
【0020】
好ましい実施形態においては、ナリルチン含有配合飼料中のナリルチンは、ナリルチン含有柑橘類中に含まれているナリルチンである。具体的には、本実施形態におけるナリルチン含有柑橘類とは、柑橘類の果皮、果実、果皮および果実の混合物等を意味する。なお、ナリルチンを含有する柑橘類の果皮、果実等は収穫されそのままのものであっても、乾燥されたものであっても良い。配合飼料中へ添加するためのナリルチン含有柑橘類の好ましい形状としては、特に限定されないが、例えば、細断物または粉末が挙げられる。
【0021】
ナリルチン含有柑橘類とは、果実または果皮にナリルチンを含む柑橘類である。ナリルチン含有柑橘類とは、収穫後のナリルチン含有量として、乾物量としてナリルチン含有柑橘類組織100mg当たり0.4mg以上、好ましくは1~10mg、とりわけ好ましくは2~8mg含む柑橘類が挙げられる。具体的なナリルチン含有柑橘類としてはじゃばら、スダチ、カボス等が挙げられるが、特にナリルチン含有量の多いじゃばらを用いることが好ましい。ここで、じゃばらとは、ミカン属の柑橘類の1種で、ユズや九年母などの自然交雑種である。じゃばらは、独特な強い香りと強い酸味を持つ香酸柑橘の一種であり、果実にはフラボノイドの一種であるナリルチンが他の香酸柑橘類よりも多く含まれていることが知られている(非特許文献3)。
【0022】
ナリルチン含有配合飼料に用いられる配合飼料とは、マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の養殖に用いる配合飼料であれば特に限定されない。配合飼料としては、飼料工場で予め製造されたものを用いても良いし、また、給餌直前に陸上または船上において調整されるモイストペレットを用いても良い。
【0023】
例えば、上記の配合飼料の原料としては、オキアミミール、魚粉、大豆油かす、コーングルテンミール、ゼラチン等のタンパク質、澱粉、小麦粉、グルテン等のデンプン質、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グァガム等の粘結剤、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、および脂肪酸等が挙げられ、これら原料を必要により適量加えなる配合飼料が用いられる。
【0024】
魚粉に用いる魚類としては、大西洋ニシン等のニシン類、マイワシ、カタクチイワシ、アンチョビー等のイワシ類、マサバ、ゴマサバ等のサバ類、マアジ、マルアジ等のアジ類が挙げられる。これらの魚粉は単に魚体を粉砕し常法により製造しただけのものでも良いし、必要により栄養の吸収が促進されるように酵素処理を行ったものであっても良い。前記酵素処理を行った魚粉を製造するために用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくは、ペプチダーゼまたはプロテアーゼ等の生物由来の酵素が用いられる。
【0025】
また、上記の配合飼料に必要により含まれるアミノ酸としては、リジン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、シスチン等の必須アミノ酸やアラニン、イノシン酸、グルタミン等の味覚用アミノ酸が挙げられる。
【0026】
また、前記ビタミン類としては、塩化コリン、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB群等が挙げられる。また、上記の配合飼料には、必要によりアスタキサンチン等が豊富なオキアミ油を加えても良い。
【0027】
また、前記ミネラルとしては、リン、カルシウム、セレン、亜鉛等が挙げられる。また、前記脂肪酸としては、魚由来のEPA,DHA等のオメガ3、オメガ6の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0028】
次に、ナリルチン含有配合飼料の製造方法の一実施形態について
図5を用いて説明する。なお、本実施形態においては、一例として、ナリルチン含有柑橘類としてじゃばらを用いたナリルチン含有配合飼料の製造方法を説明する。
【0029】
始めに、ナリルチン含有柑橘類であるじゃばらの果皮および果実を乾燥し、細断、粉砕する(ステップ1)。
【0030】
本実施形態においては、ナリルチン含有柑橘類の加工方法として、じゃばらの果皮の乾燥粉末を用いているがこれに限られない。例えば、じゃばら果皮の代わりに、じゃばら果実等から抽出した果汁またはその濃縮果汁を配合飼料に添加しても良い。なお、じゃばらの果汁を用いる場合は、ナリルチン含有量が果皮の10~15質量%程度であることを考慮して配合飼料に混合する。
【0031】
じゃばら乾燥果皮粉末の作製方法としては、じゃばらの果実からの搾汁により残渣として得られる果皮を、必要により冷凍保存およびその解凍操作を行い、果皮をスライスして、スライス片を少なくとも1回以上の乾燥工程により乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕することによりじゃばら乾燥果皮粉末を得ることができる。乾燥工程に付す果皮は、厚さ5mm~10mm、好ましくは8mmにスライスすると良い。乾燥工程は異なる温度で複数回乾燥させることも可能で、例えば60℃~70℃好ましくは65℃の温度で、6時間~8時間好ましくは7時間、45℃~55℃好ましくは50℃の温度で5時間~7時間好ましくは6時間、35℃~45℃好ましくは40℃の温度で、4時間~6時間好ましくは5時間、乾燥した後室温下で3~5時間、好ましくは4時間送風乾燥すれば良い。得られたじゃばら果皮乾燥物の粉砕工程では1mm以下、好ましくは0.7mm以下に粉砕する。
【0032】
次に、上述の配合飼料の原料に、上記じゃばら乾燥果皮粉末を加えて混合する(ステップ2)。配合飼料の原料の混合割合については特に限定されず、マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の飼育状況に合わせて適宜調整可能である。
【0033】
次に、じゃばら乾燥果皮粉末と配合飼料とを混合し、撹拌後、造粒装置により給餌用に適当な大きさのペレット状に成形する(ステップ3)。ここでペレットの成形方法については、特に限定されず、一般的な飼料用の造粒装置を用いることができる。具体的には、市販のマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の飼料用ペレットに適した形状および大きさに成形される。
【0034】
その後、ステップ3において成形されたペレットを所望の水分含量となるまで乾燥させる(ステップ4)。以上の方法により、ナリルチン含有配合飼料を製造する(
図5)。
【0035】
配合飼料中のナリルチン含有柑橘類の配合量については、例えば、配合飼料1Kg当たりナリルチンを50mg以上、好ましくは50~200mg、とりわけ好ましくは100~150mg含むように調整される。
【0036】
例えば、ナリルチン含有柑橘類としてじゃばらを用いる場合には、じゃばら乾燥果皮粉末を配合飼料に対して0.05~3質量%、好ましくは0.05~1質量%、更に好ましくは0.1~0.5質量%、とりわけ好ましくは0.15~0.3質量%加えて製造する。また、じゃばら果汁を用いる場合は、配合飼料に対して0.5~6質量%、好ましくは1~3質量%程度のじゃばら果汁を配合飼料に加えて製造すると良い。
【0037】
なお、必要に応じて、配合飼料用に対して15~35質量%、好ましくは20~25質量%の魚油を加え、必要によりレシチン等の添加物や水を加え混合しても良い。
【0038】
また、ナリルチン含有配合飼料の形態としては、通常の水産飼料用ペレットの形態に限定されず、必要によりコーラーゲン等の可食性フィルムでコーティングを行っても良いし、脂肪酸等親油性成分を乳化剤等でマイクロカプセル化したものであっても良く、飼育されている対象魚類により適宜調整することができる。
【0039】
以下、マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類へのナリルチン含有配合飼料の給餌方法について説明する。
【0040】
ナリルチン含有配合飼料の上記魚類への給餌方法としては、給餌期間としては、1か月以上、好ましくは3か月以上行う。加えて、給餌時期としては、出荷時を基準としてその前1か月間以上、好ましくは出荷時を基準としてその前1~6か月間、とりわけ好ましくは出荷時を基準としてその前1~3か月間行う。なお、給餌期間は本発明と同等の効果が得られる限り日数の増減を許されるものとする。
【0041】
ナリルチン含有配合飼料の給餌量としては給餌期間中、魚体1kgあたり1日相当量として0.4g以上、好ましくは0.9g~5gを給餌する。給餌回数としては、毎日1回以上給餌することが好ましいが、飼育状況により例えば1週間のうち1回以上の給餌日を決め、併せて1週間の給餌相当量となる量を給餌すれば良い。
【0042】
続いて、ナリルチン含有配合飼料を用いたマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法について説明する。
【0043】
マグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類は、海に設置された生簀または陸上に設置された生簀において飼育される。上記生簀に飼育されている出荷前1~6か月のマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類に対して、上記ナリルチン含有配合飼料を給餌する。なお、当該ナリルチン含有配合飼料の給餌は出荷直前まで行われる。これにより、ナリルチン含有配合飼料を用いたマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類が生産される。
【0044】
ここで、給餌方法については、上記の通りであるため、詳細な説明は省略するが、特にマグロ属の養殖においては、例えば、ナリルチン含有配合飼料をマグロ1匹あたり1日、20~250g、好ましくは45g~180g給餌する。給餌回数としては、毎日1回以上給餌することが好ましい。また、給餌時期としては、出荷前の1か月以上、好ましく出荷前1~6か月、とりわけ出荷前1~3か月行うことが好ましい。
【0045】
また、スマ属およびカツオ属の養殖においては、例えば、ナリルチン含有配合飼料をスマ1匹あたり1日、0.4g~5g、好ましくは0.9g~3.6g給餌する。給餌回数としては、毎日1回以上給餌することが好ましい。また、給餌時期としては、出荷時を基準としてその前1か月以上、好ましく出荷時を基準としてその前前1~6か月、とりわけ好ましくは出荷時を基準としてその前1~3か月行う。
【0046】
以下、クロマグロの実施例を用いて本発明の詳細を説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例の範囲に限定されない。また、実施例において、マグロの可食部とは、マグロが水揚げされ、食用に供された場合の可食部を示す。例えば、マグロの可食部とは、魚肉、内蔵、眼球等が挙げられる。魚肉としては、筋肉であって加熱または非加熱で食する部分を示し、鮮魚店では赤身、中トロ、大トロ、ほほ肉、カマ・カマトロ、中落ち脂身、血合筋等の名称で販売されている部分を挙げることができ、赤身または脂身(トロ)であることが好ましい。加熱した可食部とは、加熱調理に付された可食部を意味し、上記マグロの部位を用いた煮物、焼き物、蒸し物、揚げ物、練り製品などを挙げることができる。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
・対象魚:海に設置された生簀で飼育されている3年目のクロマグロ2681匹(平均体重38.92Kg)を対象魚とした。
・給餌飼料:ナリルチン含有配合飼料、マグロ用配合飼料および生餌を上記対象魚に給餌した。
【0048】
なお、ナリルチン含有配合飼料としては、下記の通り製造したじゃばら乾燥果皮粉末12Kgを以下の表1に示す組成の配合飼料(商品名「ツナサプリ」、林兼産業株式会社製)5988Kgに混合し、造粒することにより製造された、ナリルチン含有配合飼料6000Kgを用いた。
【0049】
・じゃばら乾燥果皮粉末:じゃばら未熟柑(11月収穫)を搾汁し、その残渣(果皮およびじょうのう膜が主体)を-20℃以下で冷凍保存した。次いで、-1~0℃で冷蔵庫で解凍、原料果皮を厚さ8mmにスライスし、65℃で7時間、50℃で6時間、40℃で5時間温風乾燥し、続いて室温下で4時間送風乾燥し、その乾燥物を0.7mm以下に粉砕して「じゃばら乾燥果皮粉末」を調製した。分析(一般社団法人和歌山県農産物加工研究所にての原子吸光法)の結果、ナリルチンを6000mg/100g含有していた。
【0050】
なお本試験における乾物量とは、じゃばら果皮を厚さ8mmにスライスし、65℃で7時間、50℃で6時間、40℃で5時間温風乾燥し、続いて室温下で4時間送風乾燥したときのじゃばらの重量をいう。
【0051】
【0052】
・給餌期間および方法:8月25日~11月7日を給餌期間とした。8月25日~8月31日までの7日間は、ナリルチン含有配合飼料300Kg、マグロ用配合飼料1000Kg(ツナフード4号M 林兼産業株式会社製)および生餌9458Kg(乾物換算値)を毎日1回給餌した。また、9月1日~9月30日の1か月間はナリルチン含有配合飼料3000Kg、マグロ用配合飼料7430Kg(ツナフード3号M 林兼産業株式会社製)および生餌35699Kg(乾物換算値)、更に、10月1日~10月31日の1か月間はナリルチン含有配合飼料2700Kg、マグロ用配合飼料900Kg(ツナフード3号M 林兼産業株式会社製)および生餌40458Kg(乾物換算値)、11月1日~11月7日の7日間はナリルチン含有配合飼料150Kgおよび生餌9204Kg(乾物換算値)を8月と同様の方法で給餌した。
【0053】
・給餌期間後魚体重:クロマグロは2591匹、平均体重は49.69Kgであった。
・給餌期間中体重増加:平均魚体重として10.73Kg増加した。
【0054】
〔比較例1〕
・対象魚:海に設置した生簀で飼育されている3年目のクロマグロ2664匹(平均体重40.52Kg)を対象魚とした。
・給餌飼料:生餌
・給餌期間および方法:8月20日~11月7日を給餌期間とした。8月20日~8月31日までの12日間は、生餌9500Kg(乾物換算値)を毎日1回給餌した。更に9月1日~9月30日の1か月間は生餌51596Kg(乾物換算値)、10月1日~10月31日の1か月間は生餌61747Kg(乾物換算値)、11月1日~11月7日の7日間は生餌10458Kg(乾物換算値)を8月と同様に毎日1回給餌した。
・給餌期間後魚体重:クロマグロは2497匹、平均体重は50.34Kgであった。
・給餌期間中体重増加:平均体重として9.82Kg増加した。
【0055】
〔比較例2〕
・対象魚:人工種苗により育成されている孵化4年目のマグロ2133匹(平均体重57.0Kg)を対象とした。
・給餌飼料:生餌
・給餌期間および方法:8月20日~11月7日を給餌期間とした。8月20日~8月31日までの12日間は、生餌11836Kg(乾物換算値)を毎日1回給餌した。更に9月1日~9月30日の1か月間は生餌31051Kg(乾物換算値)、10月1日~10月31日の1か月間は生餌26518Kg(乾物換算値)、11月1日~11月7日の7日間は生餌1315Kg(乾物換算値)を8月と同様に毎日1回給餌した。
・給餌期間後魚体重:クロマグロは1200匹、平均体重は61.4Kgであった。
・給餌期間中体重増加:平均体重として4.4Kg増加した。
【0056】
〔試験例1〕
〔評価1〕
実施例1、比較例1および比較例2のクロマグロについて、
図1に示す検査部位の魚肉片の断面における色差について評価を行った。実施例1、比較例1および比較例2のそれぞれの環境で飼育したクロマグロ各1匹(各個体番号828、938、141)から
図1に示す部位の魚肉片をそれぞれ採取し、さらに
図2に示す「5℃保存の色差測定部位」の魚肉片を切り出した。
【0057】
切り出した各魚肉片の、
図3に示す(2)~(5)の全4点の可食部位(
図3に示す(1)の部分は血合いにつき、検討に含めなかった)について、当該魚肉片の切り出し直後および1日後、2日後、3日後、4日後、5日後に、a値(赤色の発色)およびb値(黄色の発色)を色彩色差計(コニカミノルタ社製CR-400)で測定した。さらに、各時間点における測定部位(2)~(5)の各a値およびb値から、その平均a値および平均b値を求め、さらにこの値からa/b値を各魚肉片につき算出した。a/b値は、数値が大きいほど鮮やかな赤色を表し、数値が小さいほど枯れ草色に近づくことの指標である。a/b値を表2-1および表2-2に示した。
【0058】
【0059】
【0060】
表2-1および表2-2に示すように、実施例1のナリルチン含有配合飼料を給餌したクロマグロの方が、比較例1および比較例2に示すクロマグロに比べ全ての測定時間においてa/b値の値が高いことが示された。すなわち、実施例1のナリルチン含有配合飼料を給餌したクロマグロの魚肉片の方が、比較例1および比較例2に示すクロマグロの魚肉片に比べ鮮やかな赤色を長期間保持可能であることが示された。
【0061】
更に言えば、表2-1に示すように、実施例1のクロマグロから採取された魚肉片は、切り出し時において、比較例1および比較例2のクロマグロから採取された魚肉片よりも鮮やかな赤色を呈している。切り出し時は仲買人の目視の評価時に相当することから、実施例1の魚肉片は、仲買人の目視の評価時において比較例1および比較例2の魚肉片よりも商品として高く評価されると考えられる。
【0062】
また、表2-2に示すように、実施例1のクロマグロから採取された肉片は、切り出しから5日経過したときにおいても、比較例1および比較例2のクロマグロから採取された魚肉片よりも鮮やかな赤色を呈していることから、実施例1の魚肉片は、最終消費者の目視の評価時においても、商品として高く評価されると考えられる。
【0063】
したがって、表2-1および表2-2に示すように、実施例1のクロマグロから採取された魚肉片は、切り出し時の仲買人の目視評価の段階から、1日後から5日後の最終消費者に提供されるまで、商業的価値の高い魚肉片を提供することができることが示された。
【0064】
〔試験例2〕
〔評価2〕
実施例1、比較例1および比較例2のクロマグロについて、
図1で示す部位における魚肉片のドリップ率および硬度について評価した。
【0065】
・ドリップ率の評価について
実施例1、比較例1および比較例2の給餌クロマグロ各1匹から
図1に示す部分の魚肉片をそれぞれ採取し、さらに
図2に示す「25℃保存の色差・ドリップ、硬度、各種分析部位」の魚肉片を切り出した。
【0066】
切り出した各魚肉片について、
図4に示す「d.25℃保存の色差・ドリップ測定部位」部分の魚肉片を採取し、初期重量と24時間後重量をそれぞれ計測し、その差分を減少量として算出した。さらに、ドリップ率(減少量(g)÷初期重量(g))を求めた。なお、魚肉片の保存温度は25℃に設定した。その結果を表3に示した。
【0067】
【0068】
実施例1のナリルチン含有配合飼料を給餌したクロマグロの魚肉片の方が、比較例1および比較例2のクロマグロの魚肉片より24時間保存後のドリップ率が低いことが示された。
【0069】
・魚肉片の硬度の評価について
実施例1、比較例1および比較例2のクロマグロ各30匹から、
図1に示す部分の魚肉片をそれぞれ採取し、さらに
図2に示す「25℃保存の色差・ドリップ・硬度・各種分析部位」の魚肉片を切り出した。
【0070】
切り出した魚肉片から、さらに
図4に示す「c.硬度測定部位」の魚肉片を検体として切り出した。各30検体を、保存温度を5℃として5時間保存した後、硬度を計測した。硬度の計測には、先頭形状として直径3mm球形プランジャーを持った硬度計(製品名、デジタルフォースゲージGP-05,日本電産シンポ社製)を用いて、筋肉部厚約15mm厚、測定深度として接触点から約10mmの硬度を、硬度計下降時のピーク値で測定した。測定結果は、表4-1に示した。加えて、実施例1、比較例1および比較例2の各群からそれぞれ最小値を示す1検体および最大値を示す1検体を除いた全28検体に対し、有意差検定としてScheffe検定を行い、有意差を計算した(表4-2)。
【0071】
【0072】
【0073】
実施例1のナリルチン含有配合飼料を給餌したクロマグロの魚肉片の方が、比較例1および比較例2のクロマグロ魚肉片のより有意に硬度が高いことが示された。硬度は、魚体の身のしまりや口内で噛んだときの歯ごたえの指標となることから、高いほど新鮮さの印象を付与できる。
【0074】
〔試験例3〕
〔評価3〕
じゃばら粉末による魚肉の品質保持効果が、公知のトウガラシ粉末とみかん粉末の混合物の添加よりも優れているかどうかをインビトロの試験により確認した。
【0075】
試験区をa.コントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.3重量%を加えるPBS区、b.トウガラシ抽出液0.3重量%を加えるトウガラシ区、c.みかん粉末0.3重量%を加えるみかん粉末区、d.トウガラシ抽出液とみかん粉末抽出液を合計0.3重量%加えるトウガラシ+みかん粉末区、e.じゃばら粉末抽出液を0.3重量%加えるじゃばら粉末区の5区に分けて試験を行った。
【0076】
各群において試験に用いるサンプルは以下のように調整した。
(1)じゃばら果皮粉末4gを計量し、これにPBS40mLを添加し、1時間4℃で撹拌抽出を行った。その後、遠心分離機で12500rpm、4℃で20分間遠心分離を行い、上清を回収し、じゃばら粉末抽出液を作製した。
(2)(1)のじゃばら果皮粉末の代わりにトウガラシ粉末を用いる以外は同様の方法により、トウガラシ抽出液を作製した。
(3)(1)のじゃばら果皮粉末の代わりにみかん粉末を用いる以外は同様の方法により、みかん粉末抽出液を作製した。
(4)(1)のじゃばら果皮粉末4gの代わりにトウガラシ粉末1gとみかん粉末3gの混合物を用いる以外は同様の方法により、トウガラシ+みかん粉末抽出液を作製した。
【0077】
得られた各サンプルを用いて以下の試験を行った。
マグロ赤身肉200gをフードプロセッサー(品番MK-K60、松下電器産業製)でミンチにし、赤身ミンチとした。また、マグロ赤身肉50gおよび血合肉50gを混合し、フードプロセッサーでミンチにし、血合ミンチとした。
【0078】
赤身ミンチを20gずつ、上記a、b、c、d、eの5つの各試験区用に計量し、これにPBSと前記手法で作製したトウガラシ抽出液、みかん粉末抽出液、トウガラシ抽出液とみかん粉末抽出液、じゃばら抽出液各60μLを添加し、混合した。各試験区毎に混合した赤身ミンチを白いプラスチックキャップ内に詰め、形状を統一した。なお、本実施例においては、白色のプラスチックキャップを用いているが、背景色・材質・光源を統一できれば、特に色を限定する必要はない。
【0079】
血合ミンチを10gずつ、合計5つの各試験区ように計量し、これにPBSと前記手法で作製したトウガラシ抽出液、みかん粉末抽出液、トウガラシ抽出液とみかん粉末抽出液、じゃばら抽出液各30μLを添加し、混合した。試験区毎に混合した血合ミンチを白いプラスチックキャップ内に詰め、形状を統一した。なお、本実施例においては、白色のプラスチックキャップを用いているが、背景色・材質・光源を統一できれば、特に色を限定する必要はない。
【0080】
これらの検体におけるメトミオグロビンの割合を示すメト化率の変化を、測定開始時と4℃で24時間静置した時点における分光色差の測定により行った。なお測定には分光測色計(CM-700d、コニカミノルタ製)を用いて行った。結果を表5に示した。
【0081】
【0082】
表5において0時間目から24時間目までのメト化率(%)の増加を比較すると、赤味ミンチにおいてはコントロールのPBS試験区で13.33%メト化率が増加し、トウガラシ区、みかん粉末区ではコントロールをやや上回る増加率であった。トウガラシ+みかん粉末区では増加率は12.49%とわずかに低下したが、じゃばら粉末区では10.8%と最も低い増加率であった。また同様の比較を血合ミンチで行うと、コントロールのPBS試験区で20.01%メト化率が増加したのに対して、トウガラシ区は15.1%、みかん粉末区では16.48%、トウガラシ+みかん粉末区では15.1%とコントロールに対して18~25%のメト化抑制効果を示したが、じゃばら区では増加率は僅か11.25%でありコントロールに対して45%の抑制効果を示した。
【0083】
評価3の試験によりじゃばらは魚体可食部におけるミオグロビンのメト化を抑制し、魚体可食部の品質保持機能を持つことが示された。
【0084】
上記結果より、本実施形態に係るマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法を用いることにより、魚類体重の増加が抑制されることなく、魚類の可食部の鮮やかな赤色を保持するとともに、褐色化を抑えることが可能なマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類を提供することができる。
【0085】
具体的には、ナリルチン含有配合飼料をクロマグロに給餌することにより、切断面における魚肉片の赤色を、ナリルチンを含有しない配合飼料および生餌を与えられたクロマグロよりも、より鮮やかな赤色とすることができる。
【0086】
さらにまた、ナリルチン含有配合飼料を給餌されたクロマグロの魚肉片は、ナリルチンを含有しない配合飼料および生餌を与えられたクロマグロの魚肉片よりも、より長時間に渡り鮮やかな赤色を保持することができる。
【0087】
このため、流通段階において、魚肉片の切り出し時の赤色で肉の良し悪しを評価する仲買人から、最終消費者に提供されるまで、鮮やかな赤色を保持することができることから、より魚肉片の商品価値を高めることができる。
【0088】
また、ナリルチン含有配合飼料を給餌されたクロマグロの魚肉片は、ドリップ率が少なく、硬度を高く保持することができたことから、ナリルチンを含有しない配合飼料および生餌を与えられたクロマグロの魚肉片よりも商品価値を高く保持することができる。
【0089】
なお、上記実施例および比較例では、クロマグロを用いた結果を示しているが、クロマグロと同様の赤身肉を有する他のマグロ属の魚類、カツオ属およびスマ属の魚類にも本発明を使用できることは言うまでもない。
【0090】
このことから、本発明に係るマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の生産方法およびナリルチン含有配合飼料は、より長い間、鮮やかな赤色で、ドリップが少なく適当な硬度を保持した商品価値の高いマグロ属、カツオ属またはスマ属に属する魚類の可食部を提供することができる。
【0091】
なお、本発明は上述の方法に限定されない。例えば、本実施形態においては、ナリルチン含有柑橘類の乾燥粉末等を配合飼料と混合したものを給餌しているが、これに限られない。すなわち、ナリルチン含有柑橘類の乾燥粉末を展着剤により生餌に貼付することにより給餌することも可能である。また、成形された配合飼料のペレットに展着剤によりナリルチン含有柑橘類の乾燥粉末等を着けて一体とした飼料を給餌することもできる。なお、市販の水産用飼料ペレットにナリルチンを展着させる方法はとくに制限はないが、例えば、ナリルチン果汁に市販の水産用ペレットを浸漬させる方法、市販の水産用ペレットにナリルチン果汁濃縮液をスプレー等を用いて噴霧する方法によりナリルチン含有配合飼料ペレットを製造する方法等が挙げられる。