(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】ALA-PDT又はALA-PDDにおける光線力学的効果の増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20220217BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20220217BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20220217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220217BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/197
A61K31/14
A61P43/00 121
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2019513593
(86)(22)【出願日】2018-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2018015363
(87)【国際公開番号】W WO2018193958
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017082167
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 琢也
(72)【発明者】
【氏名】中島 元夫
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 勇也
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536327(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187069(WO,A1)
【文献】JOSHI, S. et al.,Dynamin inhibitors induce caspase-mediated apoptosis following cytokinesis failure in human cancer c,Mol. Cancer, 2011, Vol. 10, No. 78, pp. 1-12
【文献】DEFEO-JONES, D. et al.,Tumor cell sensitization to apoptotic stimuli by selective inhibition of specific Akt/PKB family mem,Mol. Cancer Ther., 2005, Vol. 4, No. 2, pp. 271-279
【文献】RODRIGUEZ, L. et al.,Mechanisms of 5-aminolevulic acid ester uptake in mammalian cells,Br. J. Pharmacol., 2006, Vol. 147, pp. 825-833
【文献】TRAN, T. T. et al.,Neurotransmitter Transporter Family Including SLC6A6 and SLC6A13 Contributes to the 5-Aminolevulinic,Photochem. Photobiol., 2014, Vol. 90, pp. 1136-1143
【文献】Oncology Reports, 2013, Vol.29, pp.911-916
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00-41/17
A61K 31/00-31/80
A61P 43/00
A61P 35/00-35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための医薬であって、
(A)
5-アミノレブリン酸(ALA)またはその塩、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル、ALAヘキシルエステル、ALAヘプチルエステル、または、ALAオクチルエステルと、
(B)ダイナミン阻害剤と
を含
み、
前記ダイナミン阻害剤は、以下の式(II)で示される化合物、または、以下の式(III)で示される化合物である
【化1】
【化2】
ことを特徴とする、
医薬。
【請求項2】
光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための、同時又は異時に投与される、組み合わせ医薬であって、
(A)
5-アミノレブリン酸(ALA)またはその塩、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル、ALAヘキシルエステル、ALAヘプチルエステル、または、ALAオクチルエステルと、
(B)ダイナミン阻害剤と
の組み合わせ医薬
であり、
前記ダイナミン阻害剤は、以下の式(II)で示される化合物、または、以下の式(III)で示される化合物である
【化3】
【化4】
ことを特徴とする、
医薬。
【請求項3】
光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための医薬であって、
前記医薬は、
5-アミノレブリン酸(ALA)またはその塩、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル、ALAヘキシルエステル、ALAヘプチルエステル、または、ALAオクチルエステル、
を含み、
前記医薬は、ダイナミン阻害剤と併用されることを特徴と
し、
前記ダイナミン阻害剤は、以下の式(II)で示される化合物、または、以下の式(III)で示される化合物である
【化5】
【化6】
医薬。
【請求項4】
請求項2に記載の組み合わせ医薬であって、
前記(A)と前記(B)とが、キットとして準備されることを特徴とする、
医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学的治療(Photodynamic therapy;PDT)または光線力学的診断(Photodynamic diagnosis;PDDと略す)における光線力学的効果の増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤治療や放射線療法とは異なるがん治療の選択肢の1つとして、光線力学的治療(Photodynamic therapy;PDT)が挙げられる。PDTによるがん治療は、がん細胞に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、がん組織に特定の波長の光を照射することによりがんの治療を行う治療方法であり、低侵襲かつ治療跡が残りにくい治療法であるため、近年注目を集めている。
【0003】
また、近年、がん、イボ、ニキビのような疾患組織の診断方法として、光線力学的診断(Photodynamic diagnosis;PDD)が注目されている。PDDは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、特定の波長の光を照射することにより標的箇所の特定を行う診断方法であり、これまでの診断法と比較して、低侵襲で副作用が少ないため、患者に対する負担が少ないという利点がある。
【0004】
上述のとおり、PDTやPDDにおいては、治療または検出の対象となる組織に集積する性質をもつ、光に反応する化合物(光増感剤)を利用する。PDTやPDDにおいて好適に用いられる光増感剤については、様々なものが検討されているが、近年、ポルフィリンの前駆物質であり、生体物質である5-アミノレブリン酸類(本明細書において、「ALA類」ともいう)を対象に投与し、PDTまたはPDDと組み合わせる、「ALA-PDT」または「ALA-PDD」が注目されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
ALA類それ自体には光感受性はないものの、ALA類は、細胞内で、ヘム生合成経路の一連の酵素群により代謝活性化されてポルフィリン(主としてプロトポルフィリンIX(PpIX))となる。ポルフィリン類は腫瘍細胞に取り込まれて蓄積される性質を有し、また、PpIXは、410nm、510nm、545nm、580nm、630nm等にピークを有する光増感剤であるため、PDTまたはPDDに利用することができる。ALAは生体内で代謝され、48時間以内に排泄されるため、全身の光感受性にはほとんど影響しないという特徴がある。
【0006】
しかし、がんの細胞種や悪性度によっては、PpIX等のポルフィリンを基質とするABCトランスポーターファミリーの一つであるABCG2が高発現することによりPpIXが細胞質へ排出され、PpIXが十分に蓄積しない細胞があることが確認されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Drug Metab.Pharmacokinet.22(6):428‐440(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで、ALA-PDTやALA-PDDにおける光線力学的効果を増強させるために、ABCG2阻害剤を併用する方法や、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤を併用する方法が検討されている。しかし、すべてがん細胞において、必ずしもABCG2の高発現が認められるというわけではなく、がん細胞の中には、逆にABCG2の発現が低いものも存在し、ABCG2の阻害のみによる細胞内PpIXの蓄積増強には限界あると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、細胞のPpIX蓄積量を増加させる物質を鋭意検討した結果、ダイナミン阻害剤とALA類とを併用することにより、ほとんどのがん細胞において、ALA類を単独で適用した場合と比較して、PpIXの蓄積量が増加することを見出した。さらに本発明者らは、特に、ダイナミンのプレクストリン相同ドメインを標的とする阻害剤が、ALA類適用時の細胞内PpIX蓄積量の増加に有用であることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、一実施形態において、光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための医薬であって、
(A)下記式(I)で示される化合物:
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩と、
(B)ダイナミン阻害剤と
を含むことを特徴とする、
医薬に関する。
【0012】
また、本発明は、一実施形態において、光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための、同時又は異時に投与される、組み合わせ医薬であって、
(A)下記式(I)で示される化合物:
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩と、
(B)ダイナミン阻害剤と
の組み合わせ医薬に関する。
【0013】
また、本発明は、一実施形態において、光線力学的治療又は光線力学的診断における、光線力学的反応を増強させるための医薬であって、
前記医薬は、下記式(I)で示される化合物:
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、
を含み、
前記医薬は、ダイナミン阻害剤と併用されることを特徴とする、
医薬に関する。
【0014】
また、本発明の一実施形態においては、上記の医薬において、R1が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、及び、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、R2が、水素原子、直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態においては、上記の医薬において、R1及びR2が、水素原子であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施形態においては、上記の医薬において、前記ダイナミン阻害剤が、ダイナミンのプレクストリン相同ドメインを標的とするダイナミン阻害剤であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一実施形態においては、上記の医薬において、前記ダイナミンのプレクストリン相同ドメインを標的とするダイナミン阻害剤が、以下の式(II)~式(VI):
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
からなる群から選択される1または複数の化合物であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一実施形態においては、上記の組み合わせ医薬において、前記(A)と前記(B)とが、キットとして準備されることを特徴とする。
【0019】
本発明の他の実施形態は、下記式(I)で示される化合物:
【化9】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩、を用いる光線力学的治療又は光線力学的診断において、光線力学的反応を増強させる方法であって、
対象へ治療上有効量のダイナミン阻害剤を投与するステップ、
を含むことを特徴とする、
方法に関する。
【0020】
なお、上記に述べた本発明の一又は複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、ダイナミン阻害剤(OcTMAB、Iminodyn22)をALAと併用した場合の、細胞内PpIX蓄積量の増加効果を示したグラフである。
【
図2】
図2は、ダイナミン阻害剤(OcTMAB)とFTCをALAと併用した場合の、細胞内PpIX蓄積量の増加効果を示したグラフである。
【
図3】
図3は、ダイナミン阻害剤(MiTMAB)をALAと併用した場合の、細胞内PpIX蓄積量の増加効果を示したグラフである。
【
図4】
図4は、ダイナミン阻害剤(RTIL13)をALAと併用した場合の、細胞内PpIX蓄積量の増加効果を示したグラフである。
【
図5】
図5は、AKT inhibitor VIIIをALAと併用した場合の、細胞内PpIX蓄積量の増加効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0023】
本明細書において、ALAは、5-アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ-アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0024】
ALAの誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R
1及びR
2が水素原子の場合に相当する。
【化10】
【0025】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0026】
式(I)のR1におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0027】
式(I)のR2におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0028】
式(I)のR2におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0029】
式(I)のR2におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0030】
式(I)のR2におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0031】
好ましいALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R1とR2の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0032】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0033】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0034】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0035】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0036】
本明細書において、ALA-PDTとはALA類を用いる光線力学的治療(PDT)を意味し、最も典型的には、ALAを用いるPDTを意味する。また、ALA-PDDとはALA類を用いる光線力学的診断(PDD)を意味し、最も典型的には、ALAを用いるPDDを意味する。
【0037】
上記ALA-PDTは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、特定の波長の光線を照射することにより標的箇所を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を対象へ投与する。対象の体内において、色素生合成経路を経てALA類から誘導されたポルフィリン(主にPpIX)を標的箇所に集積させ、集積したPpIXを励起させることで、周囲の酸素分子を光励起させる。その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有する。ALA-PDTには、例えば、400nm~420nmにピークを持つ光線、又は、600nm~650nmにピークを持つ光線を用いるのが好ましい。
【0038】
一方、上記ALA-PDDは、標的組織に集積する性質を有する光感受性物質(光増感剤)を対象に投与し、光線を照射することにより標的箇所を治療するPDDを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を対象へ投与する。対象の体内において、色素生合成経路を経てALA類から誘導されたポルフィリン(主にPpIX)を標的箇所に集積させ、集積したPpIXを励起させて蛍光を検出することで、標的組織の存在の有無を検出もしくは診断する。ALA-PDDには、例えば、400nm~420nmにピークを持つ光線を用いるのが好ましい。
【0039】
ダイナミンは高分子量のGTPアーゼであり、さまざまな細胞小器官で膜の形成や形状変更に関わっていることが知られている。また、ダイナミンは、GTPaseドメイン(GTPase Allosteric Site domain:GASドメイン)、BSE(bundle signalling element)、柄状の構造(ストーク)、プレクストリン相同ドメイン(Pleckstrin Homology domain:PHドメイン)を含むタンパク質であることが知られている。
【0040】
プレクストリン相同ドメインは約120アミノ酸残基からなるモジュールであり、ダイナミンだけでなく、細胞内動態、細胞情報伝達、および細胞骨格再構築に関与する多様なシグナル伝達情報タンパク質において見出されることが知られている。
【0041】
本発明において用いられるダイナミン阻害剤は、ダイナミンの機能を阻害する物質であれば、特に限定されない。本発明においては、ダイナミン阻害剤のうち、特に、ダイナミンのプレクストリン相同ドメイン(PHドメイン)をターゲットとした阻害剤が好適に用いられる。
【0042】
本発明における「ダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤」は、一般的にダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤として知られている薬剤(例えば、OcTMAB(商標)(abcam社製)、MiTMAB(商標)(abcam社製)、RTIL13(商標)(abcam社製)、Pro-myristic acid(abcam社製)、等)であってよいが、これらに限定されず、PHドメインに結合することが知られている物質であれば、本発明の「ダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤」として用い得る。例えば、分子内にPHドメインを有するAktの阻害剤(例えば、Akt Inhibitor VIII(Merck Millipore社製))も、本発明の「ダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤」に含まれる。
【0043】
本発明に用いられ得るOcTMAB(商標)は、以下の式(II)で示される化合物である。
【化11】
【0044】
本発明に用いられ得るMiTMAB(商標)は、以下の式(III)で示される化合物である。
【化12】
【0045】
本発明に用いられ得るRTIL13(商標)は、以下の式(IV)で示される化合物である。
【化13】
【0046】
本発明に用いられ得るPro-myristic acidは、以下の式(V)で示される化合物である。
【化14】
【0047】
本発明に用いられ得るAkt Inhibitor VIIIは、以下の式(VI)で示される化合物である。
【化15】
【0048】
本発明はALA類と、ダイナミン阻害剤との組み合わせに関するが、その組み合わせの態様は限定されず、PDTまたはPDDの実施態様に応じて、当業者が様々な方法でALA類と、ダイナミン阻害剤とを組み合わせることができる。
【0049】
本発明において、ALA類と、ダイナミン阻害剤とは、同時又は異時に対象に投与されてよい。また、本発明において、ALA類と、ダイナミン阻害剤とは、それぞれを含む配合剤として準備され、対象へ投与されてよい。また、本発明において、ALA類と、ダイナミン阻害剤とは、それぞれを別々に備えるキットとして準備されてもよい。
【0050】
本発明において、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを同時に投与する態様としては、例えば、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを含む配合剤を対象へ投与する態様であってよい。
【0051】
本発明において、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを異時に投与する態様としては、例えば、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを、時間をずらしてそれぞれ投与する態様であってよく、また、例えば、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを異なる投与経路から投与する態様であってよい。
【0052】
本発明におけるALA類の投与経路、及び、ダイナミン阻害剤の投与経路は、いずれも限定されず、全身投与であっても、局所投与であってもよい。投与経路としては、例えば、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、カテーテルによる、標的組織又は臓器に対する直接投与、点滴を含む静脈内投与、貼付剤等による経皮投与、座薬、又は、経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。また、上述のとおり、ALA類と、ダイナミン阻害剤とを、別々の経路から投与してもよい。
【0053】
本発明において用いられる、ALA類、ダイナミン阻害剤、または、これらを組み合わせた配合剤、の剤型は、前記投与経路に応じて適宜決定してよく、限定はされないが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、貼付剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0054】
本発明はALA類と、ダイナミン阻害剤との組み合わせに関するが、さらに、ダイナミン阻害剤とは異なる機序で細胞内のPpIX蓄積量を増加させる物質を併用することができる。ダイナミン阻害剤とは異なる機序で細胞内のPpIX蓄積量を増加させ得る物質としては、例えば、Fumitremorgin CのようなABCG2阻害剤、キレート剤、ビタミンDの活性化体が挙げられる。本発明において任意選択的に用い得るABCG2阻害剤は、例えば、Mo et al., Int J Biochem Mol Biol 2012:3(1):1-27のTable 3およびTable 4に記載された化合物、Nakanishi et al., Chin J Cancer; 2012; Vol. 31 Issue 2, p75-99のTable 2に記載された化合物等が挙げられる。キレート剤が細胞内のPpIXの蓄積量の増加に用い得ることは、例えば、WO2014/2023833や、Valdes et al., Photochem Photobiol. 2010 Mar-Apr;86(2):471-5に記載されている。また、ビタミンDの活性化体が細胞内のPpIXの蓄積量の増加に用い得ることは、例えば、Anand et al., Cancer Res; 71(18) September 15, 2011, 6040-6050に記載されている。
【0055】
本発明に係る医薬は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができるのは言うまでもない。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0056】
本発明における、ALA類の対象への投与量は、PDTまたはPDDの実施態様に応じて、当業者(例えば、医師)が適宜決定することができる。限定はされないが、ALA換算で対象の体重1kgあたり、1mg~1,000mg、好ましくは5mg~100mg、より好ましくは10mg~30mg、さらに好ましくは15mg~25mg投与することができる。
【0057】
ALA類の投与頻度としては、一日一回~複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。
【0058】
ALA類の投与期間は、例えば、対象の、予防又は治療しようとする症状又は状態等に鑑みて、種々の臨床学的指標等に基づいて、当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することができる。
【0059】
本発明において、ダイナミン阻害剤は、ALA類が代謝されて精製されるPpIXの対象組織への蓄積を増強させる目的で投与されることから、ALA類を投与する際にあわせて投与することが好ましいが、必ずしも完全に同時に投与する必要はない。
【0060】
本発明における、ダイナミン阻害剤は、PDTまたはPDDの実施態様に応じて、また、使用する薬剤の種類に応じて、当業者(例えば、医師)が適宜決定することができる。
【0061】
本発明を用いたALA-PDTまたはALA-PDDは、例えば、腫瘍の治療又は診断、感染症の治療又は診断に好適に用いることができる。本発明を腫瘍の治療又は診断に用いる場合、腫瘍の種類は特に限定されないが、例えば、PDTの対象としては、疣、子宮頸部がん、皮膚がん、甲状腺がん、悪性脳腫瘍などの表在性のがんや皮下性のがん、中でも皮下数mmのがんを好適に例示することができ、PDDの対象としては、センチネルリンパ節を好適に例示することができる。また、PDDにより摘出前リンパ節転移診断を行うことが可能になる。本発明を感染症の治療または診断に用いる場合、例えば、感染症は、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症または寄生虫感染症であってよく、好ましくは、細菌感染症に対して用いることができ、さらに好ましくは、黄色ブドウ球菌感染症または緑膿菌感染症に用いることができる。
【0062】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0063】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0064】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0065】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0066】
実施例1:ダイナミン阻害剤によるがん細胞のPpIX蓄積増強
【0067】
材料と方法
がん細胞株として膀胱がん細胞株(DU145)、大腸がん細胞株(HT29、HCC2998)、胃がん細胞株(MKN7)、乳腺がん細胞株(MDA-MB-231、MCF-7)の6種類の細胞株を用いた。培地はRPMI1640(Wako社製)に非働化済みウシ胎児血清(FBS、Biowest社)を5%添加したものを用いた(以下RPMI培地と記載する)。ダイナミンの阻害剤は2種類知られており、一方はGASドメインを標的とする阻害剤で、もう一方はPHドメインを標的にする阻害剤が存在する。GASドメインを標的とする阻害剤はIminodyn22(abcam社)を使用した。また、PHドメインを標的とする阻害剤はOcTMAB(abcam社)を使用した。
【0068】
OcTMAB 1mgに対してジメチルスルフォキシド(DMSO、Wako社製)を255μL加え、混合後、OcTMAB 10mMストック溶液とした。また、Iminodyn22 1mgに対してDMSOを208μL加え、混合後、Iminodyn22 10mMストック溶液とした。OcTMAB 10mMストック溶液をRPMI培地で希釈し、16μMに調製した。Iminodyn22 10mMストック溶液をRPMI培地で希釈し、40μMに調製した。調製したOcTMAB及びIminodyn22をそれぞれRPMI培地で段階希釈し、希釈系列を6点作製した。これらの各ダイナミン阻害剤含有培地を、2mMアミノレブリン酸塩酸塩(ALA)を含む等量のRPMI培地と混合し、ALA/OcTMAB及びALA/Iminodyn22含有培地を調製した。
【0069】
各がん細胞株を96well plate(黒色・底透明;Corning社製)に1.25×104cells/wellの密度で播種(MDA-MB-231のみ2.0×104cells/wellで播種)し、37℃で一晩培養した。一晩培養後、培養上清を取り除き、各wellに上述の各ALA/OcTMAB含有培地またはALA/Iminodyn22含有培地を、200μLずつ添加し、37℃の条件で4時間培養した。4時間後、各培養上清を100μLずつ別の96well plateに移し、これを細胞外PpIX測定用plateとした。残りの培養上清を除去し、各細胞株をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Wako社製)で1回洗浄後、wellあたり100μLの1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、Wako社製)水溶液を加えて細胞を可溶化し、細胞内PpIX測定用plateとした。プロトポルフィリンIXの標品(PpIX、フナコシ社製)をDMSO溶液に溶解し、1mM PpIXストック溶液を作製した。1mM PpIXストック溶液を1%SDS溶液とRPMI培地でそれぞれ希釈し、最終濃度0-1000nMのPpIX標準液を調製した。1%SDSで調製したPpIX標準液は細胞内蓄積PpIX測定用プレート内の未使用wellに、RPMI培地で調製した標準液は細胞外排出PpIX測定用プレートの未使用部分にそれぞれ100μLずつ添加した。マイクロプレートリーダー(infinite M200PRO; TECAN社製)を用いて、細胞内PpIX測定用plateと細胞外PpIX測定用plateの蛍光強度を、励起光405nm、測定波長635nmの条件で測定した。測定後、PpIX標準液の蛍光強度から検量線を作製し、各wellのPpIX量を検量線から算出した。
【0070】
上記の方法で測定したPpIX量をタンパク質量で補正する為、細胞内PpIX測定用plateの各サンプル中に含まれるタンパク質量を測定した。タンパク質量測定にはPierce(商標)BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用した。BCA regent AとBCA regent Bを50:1の割合で混合し、BCA反応液を作製した。タンパク質量定量用標準液は、Kit付属のウシ血清アルブミン(BSA)溶液を希釈し、0-2mg/mlに調製した。96well plateに細胞内PpIX測定用プレート内のサンプル25μLずつ分注し、BCA反応液を200μLずつ添加した。37℃で30分間反応後、マイクロプレートリーダー(TECAN社製)を用いて、562nmの吸光度を測定した。測定後、BSA標準液の吸光度から検量線を作製し、各wellのタンパク質量を検量線から算出した。細胞内外のPpIX量をタンパク質量で補正した結果を
図1に示す。
【0071】
結果
図1から明らかなように、ALA単独投与と比較して、ALAとOcTMABとを併用することで、OcTMABの濃度依存的に細胞内PpIX量が増加する結果が得られた。また、細胞外PpIX量は、ALA単独投与と比較してALAとOcTMAB併用時においてOcTMABの濃度依存的に細胞外PpIX量が減少する結果が得られた。これに対してALAとiminodyn22とを併用した場合には、細胞内外のPpIX量の変化は確認されなかった。以上の結果から、ダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤をALAと併用することで、PpIXの細胞外への排出阻害が起こり、細胞内蓄積量が増えることが示唆された。
【0072】
実施例2:OcTMABとFTCの併用によるPpIX蓄積増強
【0073】
材料と方法
がん細胞株として膀胱がん細胞株(DU145)、大腸がん細胞株(HT29、HCC2998)、胃がん細胞株(MKN7)、乳腺がん細胞株(MDA-MB-231、MCF-7)の6種類の細胞株を用いた。Fumitremorgin C(FTC、sigma社製)は、DMSOに溶解し、2mMのストック溶液を作製後、RPMI培地で40μMに調製した。OcTMABは、10mMストック溶液をRPMI培地で32μMに調整した。40μM FTC含有RPMI培地を等量の32μM OcTMAB含有培地に添加して16μM OcTMAB/20μMFTC含有培地を調製した。尚、FTCはABCG2(PpIXを細胞外に排出するトランスポーター)の阻害剤であり、PpIXの細胞外排出を阻害する効果を有する化合物と知られている。
【0074】
各がん細胞株を96well plate(黒色・底透明)に1.25×104cells/wellの密度で播種(MDA-MB-231のみ2.0×104cells/wellで播種)し、37℃で一晩培養した。一晩培養後、培養上清を取り除き、各wellに2mM ALA含有RPMI培地を100μLずつ添加した。その後上述の16μM OcTMAB/20μM FTC含有培地を100μLずつ添加し、4時間、37℃で培養した(終濃度ALA 1mM、OcTMAB 8μM、FTC 10μM)。なお、比較対象としてALA単独作用群、ALA/FTC併用群、ALA/OcTMAB併用群も同時に作製した。4時間後、各wellの培養上清を100μLずつ別の96well plate(黒色・底透明)に移し、これを細胞外PpIX量測定用plateとした。残りの培養上清を除去し、PBSで1回洗浄後、wellあたり100μLの1%SDS水溶液を加えて細胞を可溶化し、細胞内PpIX量測定用plateとした。PpIXの標準溶液の調製および細胞内外のPpIX量測定の方法は、実施例1と同様に実施した。
【0075】
上記のPpIX量測定結果をタンパク質量で補正する為、細胞内PpIX量測定用の各サンプルのタンパク質量を測定した。タンパク質量測定はPierce(商標) BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用し実施例1と同様の方法で実施した。細胞内外のPpIX量をタンパク質量で補正した結果を
図2に示す。
【0076】
結果
図2から明らかなように、多くの細胞株でALAとOcTMAB併用群はALAとFTC併用群と同等、またはそれ以上に細胞内PpIXを増加させた。さらにOcTMABとFTCを併用する事で各阻害剤単独投与時よりも細胞内PpIX量が増加する傾向を示した。
【0077】
細胞外PpIX量の測定結果より、OcTMABは、FTCと同程度のPpIXの細胞外排出を抑制する効果を示した。また、OcTMABとFTCを併用する事で、OcTMABまたはFTC単独投与時よりも細胞外PpIX量が減少することが分かった。これらの結果から、OcTMABはABCG2とは別の排出機構に作用している可能性が示唆された。
【0078】
実施例3:MiTMABによるがん細胞のPpIX蓄積増強
【0079】
材料と方法
がん細胞株として膀胱がん細胞株(DU145)、大腸がん細胞株(HT29、HCC2998)、胃がん細胞株(MKN7)、乳腺がん細胞株(MDA-MB-231、MCF-7)の6種類の細胞株を用いた。培地はRPMI培地を用いた。また、ダイナミン阻害剤としては、MiTMAB(abcam社製)を用いた。
【0080】
MiTMAB 1mgに対してDMSOを297μL加え、混合後、10mMストック溶液とした。10mMストック溶液をRPMI培地で希釈し、32μMに調製した。調製したMiTMAB含有培地をRPMI培地で段階希釈し、希釈系列を6点作製した。各濃度のMiTMAB含有培地を、2mM ALAを含む等量のRPMI培地と混合し、ALA/MiTMAB含有培地を調製した。
【0081】
各がん細胞株を96well plateに1.25×104cells/wellの密度で播種(MDA-MB-231のみ2.0×104cells/wellで播種)し、37℃で一晩培養した。一晩培養後、培養上清を取り除き、各wellに上述の各ALA/MiTMAB含有培地を、200μL添加し、37℃の条件で4時間培養した。4時間後、各培養上清を100μLずつ別の96well plateに移し、これを細胞外PpIX量測定用plateとした。残りの培養上清を除去し各細胞をPBSで1回洗浄後、wellあたり100μLの1%SDS水溶液を加えて可溶化し、細胞内PpIX量測定用plateとした。PpIXの標準溶液の調製および細胞内外のPpIX量測定の方法は、実施例1と同様に実施した。
【0082】
上記結果をタンパク質量で補正する為、細胞内PpIX測定用のplate内の各サンプルを使用して、タンパク質量を測定した。タンパク質量測定にはPierce(商標) BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用した。タンパク質量測定方法は、実施例1と同様に実施した。細胞内外のPpIX量をタンパク質量で補正した結果を
図3に示す。
【0083】
結果
図3から明らかなように、ALA単独投与と比較して、ALAとMiTMABを併用したとき、MiTMABの濃度依存的に細胞内PpIX量が増加する結果が得られた。また、細胞外PpIX量は、ALA単独投与と比較して、ALAとMiTMABを併用したとき、MiTMABの濃度依存的に細胞外PpIX量が減少する結果が得られた。以上の結果から、MiTMABを併用することで、実施例1のOcTMABと同様にPpIXの細胞外への排出阻害が起こり、PpIXの細胞内蓄積量が増えることが示唆された。
【0084】
実施例4:RTIL13によるがん細胞のPpIX蓄積増強
【0085】
方法
がん細胞株として膀胱がん細胞株(DU145)、大腸がん細胞株(HT29、HCC2998)、胃がん細胞株(MKN7)、乳腺がん細胞株(MDA-MB-231、MCF-7)の6種類の細胞株を用いた。培地はRPMI培地を用いた。また、ダイナミン阻害剤としては、RTIL13(abcam社製)を用いた。
【0086】
RTIL13 5mgに対してDMSOを875μL加え、混合後、10mMストック溶液とした。10mMストック溶液をRPMI培地で希釈し、40μMに調製した。調製したRTIL13含有培地をRPMI培地で段階希釈し、希釈系列を6点作製した。各濃度のRTIL13含有培地を、2mM ALAを含む等量のRPMI培地と混合し、ALA/RTIL13含有培地を調製した。
【0087】
各がん細胞株を96well plateに1.25×104cells/wellの密度で播種(MDA-MB-231のみ2.0×104cells/wellで播種)し、37℃で一晩培養した。一晩培養後、培養上清を取り除き、各wellに上述の各ALA/RTIL13含有培地を、200μL添加し、37℃の条件で4時間培養した。4時間後、各培養上清を100μLずつ別の96well plateに移し、これを細胞外PpIX量測定用plateとした。残りの培養上清を除去し各細胞をPBSで1回洗浄後、wellあたり100μLの1%SDS水溶液を加えて可溶化し、細胞内PpIX量測定用plateとした。PpIXの標準溶液の調製および細胞内外のPpIX量測定の方法は、実施例1に同様に実施した。
【0088】
上記結果をタンパク質量で補正する為、細胞内PpIX測定用のplate内の各サンプルを使用して、タンパク質量を測定した。タンパク質量測定にはPierce(商標) BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用した。タンパク質量測定方法は、実施例1と同様に実施した。細胞内外のPpIX量をタンパク質量で補正した結果を
図4に示す。
【0089】
結果
図4から明らかなように、ALA単独投与と比較して、ALAとRTIL13を併用したとき、RTIL13の濃度10μM前後をピークに、PpIX蓄積量が増加する結果が得られた。また、細胞外PpIX量は、ALA単独投与と比較してALAとRTIL13を併用したとき、RTIL13の濃度依存的に細胞外PpIX量が減少する結果が得られた。この結果から、RTIL13を併用することで、実施例1、3の結果と同様にPpIXの細胞外への排出阻害が起こり、PpIXの細胞内蓄積量が増えることが示唆された。
【0090】
OcTMAB、MiTMAB、RTIL13は、いずれもダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤である。実施例1~4の結果から、ダイナミンのPHドメインをターゲットとした阻害剤とALAとを併用することにより、細胞内のPpIX蓄積量を造作させることができることが示唆された。
【0091】
実施例5 AKT inhibitor VIIIによるがん細胞のPpIX蓄積増強
【0092】
次に、一般的にダイナミン阻害剤としては知られていないが、PHドメイン構造に結合し、タンパク質の活性を阻害する薬剤による、細胞内のPpIX蓄積量の増加を試みた。
【0093】
方法
がん細胞株として膀胱がん細胞株(DU145)、大腸がん細胞株(HT29、HCC2998)、胃がん細胞株(MKN7)、乳腺がん細胞株(MDA-MB-231、MCF-7)の6種類の細胞株を用いた。培地はRPMI培地を用いた。試験薬剤として、AktのPHドメインに結合し、Aktの活性を阻害することが知られているAkt inhibitor VIII(Merck Millipore社製)を用いた。
【0094】
Akt inhibitor VIII 1mgに対してDMSOを363μL加え、混合後、5mMストック溶液とした。5mMストック溶液をRPMI培地で希釈し、40μMに調製した。調製した40μMのAkt inhibitor VIII含有培地をRPMI培地で段階希釈し、希釈系列を6点作製した。各濃度のAKT inhibitor VIII含有培地を、2mM ALAを含む等量のRPMI培地と混合し、ALA/Akt inhibitor VIII含有培地を調製した。
【0095】
各がん細胞株を96well plateに1.25×104cells/wellの密度で播種(MDA-MB-231のみ2.0×104cells/wellで播種)し、37℃で一晩培養した。一晩培養後、培養上清を取り除き、各wellに上述の各ALA/Akt inhibitor VIII含有培地を、200μL添加し、37℃の条件で4時間培養した。4時間後、各培養上清を100μLずつ別の96well plateに移し、これを細胞外PpIX量測定用plateとした。残りの培養上清を除去し各細胞をPBSで1回洗浄後、wellあたり100μLの1%SDS水溶液を加えて可溶化し、細胞内PpIX量測定用plateとした。PpIXの標準溶液の調製および細胞内外のPpIX量測定の方法は、実施例1に同様に実施した。
【0096】
上記結果をタンパク質量で補正する為、細胞内PpIX測定用のplate内の各サンプルを使用して、タンパク質量を測定した。タンパク質量測定にはPierce(商標) BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)を使用した。タンパク質量測定方法は、実施例1と同様に実施した。細胞内外のPpIX量をタンパク質量で補正した結果を
図5に示す。
【0097】
結果
図5から明らかな様に、ALA単独投与と比較して、ALAとAkt inhibitorVIIIを併用したとき、Akt inhibitorVIIIの濃度5μM前後をピークに、PpIX蓄積量が増加する結果が得られた。また、細胞外PpIX量は、ALA単独投与と比較してALAとAkt inhibitorVIIIを併用した場合、Akt inhibitorVIIIの濃度5μMをピークに、細胞外PpIX量が減少する結果が得られた。この結果から、Akt inhibitorVIIIを併用することで、実施例1、3、4の結果と同様にPpIXの細胞外への排出阻害が起こり、PpIXの細胞内蓄積量が増えることが示唆された。
【0098】
以上の結果から、一般的にダイナミン阻害剤として知られていない薬剤であっても、PHドメイン構造に結合してタンパク質の活性を阻害する薬剤であれば、本発明における「ダイナミン阻害剤」として使用し得ることが示唆された。