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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】放電加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/00 20060101AFI20220217BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20220217BHJP
   B23H 7/16 20060101ALI20220217BHJP
   B23H 7/20 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B23K1/00 A
G05B19/418 Z
B23H7/16
B23H7/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020068959
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164971
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194751(WO,A1)
【文献】特開平6-170645(JP,A)
【文献】特開2019-40417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具電極と被加工物とで形成される加工間隙における加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータの検出データを収集する検出装置と;
所望の加工において有効な1種類以上の識別パラメータを選定し選定した前記識別パラメータの学習モデルを生成するモデル生成手段と、選定した前記識別パラメータの前記学習モデルのデータと共に当該学習モデルに対応して加工状態の良否を判別するプロセスをプログラミングした判別サブプログラムを加工中に加工状態の良否を判別するプロセスをプログラミングした判別メインプログラムの中に組み込んで出力する高位合成手段と、前記学習モデルが所要の検出精度を有するかどうかを検証する検証手段と、を含んでなる解析装置と;
前記メインプログラムを実行して前記検出データと学習モデルのデータとに基づいて加工状態の良否を判別し判別結果を出力する識別装置と;
を有し、
前記解析装置において前記検証手段における検証結果が所定の正答率以上であるときに前記判別サブプログラムを前記判別メインプログラムの中に組み込んで前記識別装置において前記判別メインプログラムを実行して加工状態の良否の判別を行なう加工状態判別装置を備えてなる放電加工装置。
【請求項2】
前記検出装置と前記識別装置は、プログラム可能な演算回路で制御され、前記解析装置は、前記演算回路とは別の演算処理装置によって制御される請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記解析装置は、数値制御装置またはパーソナルコンピュータに設けられている請求項2に記載の放電加工装置。
【請求項4】
前記高位合成手段は、前記判別サブプログラムのプログラミング言語を前記演算処理装置において機械学習によって前記学習モデルを生成したときに使用したプログラミング言語から前記演算回路で実行できるハードウェア記述言語に変換して統一し、すでに同一の前記ハードウェア記述言語によって記述されている判別メインプログラムに組み込む請求項2に記載の放電加工装置。
【請求項5】
前記高位合成手段は、前記判別メインプログラムが前記演算処理装置において実行できる特定のプログラミング言語で記述されているときは、前記判別サブプログラムを前記メインプログラムに組み込む前に、前記判別メインプログラムのプログラミング言語を前記演算回路で実行できるハードウェア記述言語に変換して統一する請求項4に記載の放電加工装置。
【請求項6】
前記識別パラメータが形彫放電加工における間隙発生音である請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項7】
前記解析装置の前記高位合成手段は、記憶装置に記憶されている1以上のサウンドファイルを結合したり、切り離したりすることによって、正常放電時に発生していることが判明している相対的に振動振幅が小さい音が比較的長期間継続する正常音のサウンドファイルと前記正常音を排除して相対的に振動振幅が大きい音が比較的短時間持続する第1の異常音のサウンドファイルと持続時間が長く断続的に振動振幅が大きくなる第2の異常音のサウンドファイルとを生成し各サウンドファイルの中から任意の期間の各サウンドデータを抽出して前記正常音の前記学習モデルと、前記第1の異常音の前記学習モデルと、前記第2の異常音の前記学習モデルを生成して、正常音、第2の異常音、第1の異常音の順番で各学習モデルのデータを結合して1つの学習モデルのデータを生成する請求項6に記載の放電加工装置。
【請求項8】
前記識別装置は、前記検証手段において、前記正常音の振動波形を利用して前記正常音の振動振幅からの離れ具合を示すはずれ値によって前記正常音と前記異常音とを分別する請求項1に記載の放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工装置に関する。特に、本発明は、加工状態に対応して適正に加工を制御する放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
形彫放電加工においては、加工の進行にともなって工具電極と被加工物とで形成される加工間隙に滞留する金属加工屑であるチップあるいは油系放電加工液の分解生成物であるタールが増大すると、加工に寄与する火花放電ないし過渡アーク放電が発生し得る電気絶縁度を維持することができなくなる。そのため、加工間隙がチップあるいはタールによってひどく汚れている状態で加工を続けると、加工に有害なアーク放電が発生しやすくなる。短期間にアーク放電が繰返し発生して連続アーク放電の状態に陥ると、加工が進行しなくなり、工具電極と被加工物が損傷して加工の失敗に至る。
【0003】
ワイヤ放電加工においては、加工間隙が開放されているので、形彫放電加工に比べて加工間隙からチップを排出することが容易である。しかしながら、多くの加工において水系放電加工液を加工媒体として使用するので、加工に寄与しない無効放電が頻発して加工速度が低下するおそれがあり、また、集中放電が発生してワイヤ電極が断線することがある。また、ワイヤ電極が振動することによって被加工物と接触し、放電ギャップが短絡して、加工効率が低下したり、被加工物の表面が傷付いたり、ワイヤ電極が断線したりすることがある。
【0004】
連続アーク放電、集中放電、あるいは短絡を未然に防止するためには、加工間隙を監視し、加工状態を良好な状態に維持するように加工を制御することが望ましい。以下、本発明において、加工に適する放電を正常放電または有効放電という。他方、正常放電に対して加工に有害な放電を異常放電といい、有効放電に対して加工に寄与しない放電を無効放電という。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されているように、加工間隙における電圧または電流を検出し、検出値を予め設定されている基準値と比較することによって、そのときの放電が正常放電であるか、異常放電であるかを識別し、所定期間における正常放電と異常放電の発生頻度から加工状態の良否を判別する形彫放電加工装置が知られている。特許文献1に開示されている加工制御方法においては、加工状態が悪化しているときは、電圧パルスの供給を休止したり、オフ時間(休止時間)を設定されている時間よりも長くしたり、工具電極のジャンプ運動を行なって加工間隙を浄化して消イオン化するようにされている
【0006】
特許文献1に代表的に開示される多くの放電加工装置のように、加工間隙の電圧または電流を検出して、検出値と基準値との比較結果から波形を推定して正常放電と異常放電とを識別する方法は、加工状態の良否の判別結果を得てから悪化した加工間隙を良好な状態に回復させるまでに要する時間が比較的短いという利点を有する。このとき、加工状態の良否を判別するために利用できる識別パラメータとして、加工間隙の電圧または電流以外には、例えば、特許文献2に開示されている「固体伝播音」が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-56581号公報
【文献】特表2008-534583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検出値と基準値とを比較して正常放電と異常放電を識別する方法においては、精確に基準値を設定するほど、より高精度に加工を制御することができる。しかしながら、加工毎に正常放電または有効放電のときの理想的な電圧波形または電流波形異なるので、熟練作業者をもってしても加工毎に適正な基準値を設定することは難しい。特に、加工の進行に対応して加工の途中で基準値を変更する必要があるかも知れず、その作業は、一層困難である。
【0009】
もとより、所定期間中に理想的な電圧波形または電流波形を有する正常放電が発生する頻度は、それほど高くはなく、しばしば、正常放電と異常放電との境界が曖昧な電圧波形または電流波形の放電が発生する。そのため、加工間隙における電圧値または電流値によって加工状態の良否を判別する方法においては、誤検出を起こしやすく、精確さの向上には限界がある。また、安全に加工を行なうために、正常放電と異常放電との境界が曖昧な放電を異常放電と識別するように検出装置を調整すると、加工効率が低下する。
【0010】
また、例えば、放電加工回路中の電流制限抵抗を意図的に可能な限り小さくしている低抵抗放電加工回路、あるいはコンデンサ放電によって加工を行なう、いわゆる蓄勢式放電加工回路のように、加工間隙における電圧値または電流値、あるいは電圧波形または電流波形が正常放電と異常放電との差を明確には反映しない放電加工回路においては、加工間隙における電圧値または電流値は、加工状態の良否の判別を行なうための識別パラメータとしてあまり適しておらず、加工状態の良否を判別する方法の改良が望まれる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、加工状態に対応して加工を制御する放電加工装置であって、精確に加工状態の良否を判別して、加工間隙における電圧値または電流値に関して検出値と基準値とを比較する方法だけでは困難であった安定した加工を行なって、より加工効率に優れる新規な放電加工装置を提供することを主たる目的とする。本発明によって得ることができるいくつかの利点は、発明の詳細な説明において、その都度、具体的に示される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放電加工装置は、上記課題を解決するために、工具電極(1E)と被加工物(1W)とで形成される加工間隙(1G)における加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータの検出データを収集する検出装置(31)と;所望の加工において有効な1種類以上の識別パラメータを選定し選定した識別パラメータの学習モデルを生成するモデル生成手段(32A)と、選定した前記識別パラメータの前記学習モデルのデータと共に学習モデルに対応して加工状態の良否を判別するプロセスをプログラミングした判別サブプログラムを加工中に加工状態の良否を判別するプロセスをプログラミングした判別メインプログラムの中に組み込んで出力する高位合成手段(32B)と、学習モデルが所要の検出精度を有するかどうかを検証する検証手段(32C)と、を含んでなる解析装置(32)と;メインプログラムを実行して検出データと学習モデルのデータとに基づいて加工状態の良否を判別し判別結果を出力する識別装置(33)と;を有し、解析装置(32)において検証手段(32C)における検証結果が所定の正答率以上であるときに判別サブプログラムを判別メインプログラムの中に組み込んで識別装置(33)において判別メインプログラムを実行して加工状態の良否の判別を行なう加工状態判別装置(3)を備えてなるようにする。
【0013】
特に、本発明の放電加工装置は、検出装置(31)と識別装置(33)は、プログラム可能な演算回路で制御され、解析装置(32)は、演算回路とは別の演算処理装置によって制御されるようにする。また、解析装置(32)は、数値制御装置またはパーソナルコンピュータに設けられているようにする。また、高位合成手段(32B)は、判別サブプログラムのプログラミング言語を演算処理装置において機械学習によって前記学習モデルを生成したときに使用したプログラミング言語から演算回路で実行できるハードウェア記述言語に変換して統一し、すでに同一のハードウェア記述言語によって記述されている判別メインプログラムに組み込むようにする。また、高位合成手段(32B)は、判別メインプログラムが演算処理装置において実行できる特定のプログラミング言語で記述されているときは、判別サブプログラムをメインプログラムに組み込む前に、判別メインプログラムのプログラミング言語を演算回路で実行できるハードウェア記述言語に変換して統一するようにする。特に、識別パラメータが形彫放電加工における間隙発生音とする
【0014】
また、解析装置(32)の高位合成手段(32B)は、記憶装置(5)に記憶されている1以上のサウンドファイルを結合したり、切り離したりすることによって、正常放電時に発生していることが判明している相対的に振動振幅が小さい音が比較的長期間継続する正常音のサウンドファイルと正常音を排除して相対的に振動振幅が大きい音が比較的短時間持続する第1の異常音のサウンドファイルと持続時間が長く断続的に振動振幅が大きくなる第2の異常音のサウンドファイルとを生成し各サウンドファイルの中から任意の期間の各サウンドデータを抽出して正常音の学習モデルと、第1の異常音の学習モデルと、第2の異常音の学習モデルを生成して、正常音、第2の異常音、第1の異常音の順番で各学習モデルのデータを結合して1つの学習モデルのデータを生成するようにする。また、識別装置(33)は、検証手段(32C)において、正常音の振動波形を利用して正常音の振動振幅からの離れ具合を示すはずれ値によって正常音と異常音とを分別するようにする。
【0015】
課題を解決するための手段において、括弧内の符号と図面の符号とが一致するが、括弧内の符号は、説明の便宜上付されたものであって、本発明を図面に開示されている具体的な発明の実施の形態に限定するものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放電加工装置によると、所望の加工毎に有効な識別パラメータを選定するので、より適切な加工の制御を行なうことができる。また、識別パラメータを選定したときに学習モデルを生成するので、正常放電または有効放電と異常放電または無効放電とを分別するための基準値を設定する作業が不要であり、操作をより簡単にすることができる。そして、識別パラメータ毎に所要の検出精度を有する学習モデルに基づいて加工状態の良否を判別するので、より精確に加工状態の判別をすることができ、安定してより加工効率に優れる加工を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の放電加工装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の放電加工装置の加工状態判別装置の構成を示すブロック図である。
図3】形彫放電加工装置の外観を示す斜視図である。
図4】非蓄勢式放電加工回路と蓄勢式放電加工回路における加工間隙の電圧波形を示すタイミングチャートである。
図5】間隙発生音の学習モデルにおけるサウンドの振動波形を示す図である。
図6】間隙発生音の学習モデルの検証結果の一例を示す表である。
図7】間隙発生音のテストファイルにおけるサウンドの振動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の放電加工装置の典型的な実施の形態をブロック図で模式的に示す。図1に示される放電加工装置は、形彫放電加工装置である。図2は、図1に示される放電加工装置の加工状態判別装置をブロック図で模式的に示す。図3は、形彫放電加工装置の全体の概容を示す。なお、図3において、他の部材に隠れて図面において直接見ることができない装置は、点線の引出線で示される。以下に、図1ないし図3を用いて、本発明の放電加工装置の1つの実施形態を詳しく説明する。
【0019】
図3に示される形彫放電加工装置は、主に、加工機本機10と、電源装置20とでなる。図1に示される工具電極1Eと被加工物1Wは、共に、図1に示される加工機本機10側に設けられる。加工機本機10は、工具電極1Eと被加工物1Wとを三次元方向に相対移動させる相対移動装置を備える。電源装置20は、加工間隙1Gに供給する電流を含めて形彫放電加工装置を動作させる電力を供給する。また、電源装置20は、数値制御装置を含んでなり、工具電極1Eと被加工物1Wとの相対移動を含めて形彫放電加工装置の動作を制御する。ディスプレイを含む操作盤20Aは、電源装置20に設けられている。
【0020】
図1および図3に示される実施の形態の形彫放電加工装置における相対移動装置は、水平1軸方向(X軸)に往復移動するスライダ10Aと、X軸に直交する他の水平1軸方向(Y軸)に往復移動するラム10Bと、X軸とY軸とに直交する主軸である鉛直1軸方向(Z軸)に往復移動する加工ヘッド10Cとを含んでなる。スライダ10Aは、加工本機10の基台であるベッド10Dに立設され固定されている機体の構造物であるコラム10Eの上に設けられる。ラム10Bは、保護カバーであるジャバラの背後にスライダ10Aの上に重なるように設けられる。
【0021】
図1に示される工具電極1Eと被加工物1Wは、図3に示される加工機本機10に設けられる。図1に示されるように、工具電極1Eは、被加工物1Wに対して所定の加工間1Gを置いて対向配置される。具体的に、工具電極1Eは、主軸装置である加工ヘッド10Cのクイルの下端に設けられている電極ホルダ10Gに取り付けられる。被加工物1Wは、図示しないテーブルに固定されている定盤上に水平に載置される。
【0022】
加工機本機10に加工槽10Fが設けられる。加工槽10Fは、前面扉を含む4つの槽壁によって図示しないテーブルを囲うように、ベッド10の上に設けられる。加工槽10Fの中は、加工媒体である放電加工液で満たされる。被加工物1Wは、全体が放電加工液中に完全に浸かるように加工槽10Fの中に固定される。
【0023】
図1に示される放電加工回路1と、放電発生検出装置2と、加工状態判別装置3と、制御装置4と、記憶装置5と、数値制御装置6は、図3に示される電源装置20に設けられる。ただし、いくつかの構成要素、例えば、放電加工回路1に含まれる加工間隙1Gは、電源装置20から物理的に離れて加工機本機10に設けられる。また、必要に応じて任意にいくつかの構成要素、例えば、放電加工回路1に含まれる検出回路は、電源装置20から物理的に離れて加工機本機10に設けることができる。また、記憶装置5は、複数設けることができる。
【0024】
図1に示される放電加工回路1と、放電発生検出装置2と、加工状態判別装置3と、制御装置4と、記憶装置5と、数値制御装置6は、図3に示される電源装置20に設けられる。ただし、いくつかの構成要素、例えば、放電加工回路1に含まれる加工間隙1Gは、電源装置20から物理的に離れて加工機本機10に設けられる。また、必要に応じて任意にいくつかの構成要素、例えば、放電加工回路1中に挿入される1以上の抵抗要素は、加工機本機10側に設けられる。また、記憶装置5は、複数設けることができる。
【0025】
放電加工回路1は、加工間隙1Gを含む。放電加工回路1は、加工間隙1Gに所定の電圧を印加して加工間隙1Gに形成される放電ギャップに電流を供給する手段である。加工間隙1Gは、第1の直流電源11および第2の直流電源12の一方の極に接続される工具電極1Eと、第1の直流電源11および第2の直流電源12の他方の極に接続される被加工物1Wとの間に形成される。
【0026】
放電加工回路1は、主に、第1の直流電源11と、第2の直流電源12と、1つ以上の第1のスイッチング素子13と、1つ以上の第2のスイッチング素子14と、第1の検出回路15と、第2の検出回路16とを含んでなる。放電加工回路1に付帯するいくつかの図示しないよく知られている付属回路、例えば、放電誘起回路を含む副電源回路、極性切換回路、あるいは回生回路を任意に設けることができる。
【0027】
第1の直流電源11と第2の直流電源12は、それぞれ加工間隙1Gに直列に設けられる。第1の直流電源11と第2の直流電源12は、互いに並列に設けられる。第1の直流電源11と第2の直流電源12は、スイッチで切り換えて加工間隙1Gに選択的に接続される。第1の検出回路15は、第1の直流電源11と加工間隙1Gとの間に直列に設けられる可能な限り小さい抵抗値を有する検出抵抗R1を含む。第2の検出回路16は、加工間隙1Gに並列に設けられる検出抵抗R2を含む。第2の検出回路16は、リレー17によって放電加工回路1から完全に切り離すことができる。
【0028】
第1の直流電源11を含む第1の電流供給回路1Aは、第1の直流電源11と加工間隙1Gとの間に直列に設けられる第1のスイッチング素子13に対して直列に接続する検出抵抗R1を有する第1の検出回路15を含むチョッパ回路によって第1のスイッチング素子13をオンオフ制御して加工間隙1Gに供給する電流を制限する。第1のスイッチング素子13とチョッパ回路との直流回路の組を複数組並列に設けることによって、それらの直流回路の数で電流の大きさを決めることができる。逆流阻止ダイオードD1は、加工間隙1Gに直列に設けられる第1のスイッチング素子13を破損から保護る。
【0029】
第2の直流電源12を含む第2の電流供給回路1Bは、第2のスイッチング素子14と、第2のスイッチング素子14に対して直列に接続する電流制限抵抗R3との直列回路とを導通して加工間隙1Gに供給する電流を制限する。第2のスイッチング素子14と電流制限抵抗R3とでなる直列回路を複数並列に接続し、導通する直列回路の数によって加工間隙1Gに供給する電流の大きさを決めることができる。
【0030】
放電発生検出装置2は、放電の発生を検出する手段である。放電発生検出装置2は、第2の検出回路16から出力される加工間隙1Gの電圧の変化を入力し、加工条件に対応して予め設定されている基準電圧と比較して、加工間隙1Gの電圧が無負荷電圧に到達した後に基準電圧まで降下したことを検出したときに“放電発生信号”を出力する。このとき、第2の検出回路16によって検出されデジタル信号に変換された加工間隙1Gの電圧の変化をモニタリングし加工状態を観察する手段として放電発生検出装置2を利用することができる。
【0031】
加工状態判別装置3は、所望の加工に適合する加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータの検出データを収集し、収集した検出データと基準データとに基づいて加工状態の良否を判別する手段である。特に、実施の形態の形彫放電加工装置における加工状態判別装置3は、予め機械学習によって1以上の識別パラメータを選定して基準データとしての学習モデルのデータを生成する。
【0032】
加工状態判別装置3を制御装置4と同じプリント基板上に配設して、演算プロセッサと記憶装置とを制御装置4と共用するようにすることによって、実質的に制御装置4の中に加工状態判別装置3を設けることができる。加工状態判別装置3が制御装置4に含まれる構成は、放電加工回路1を操作する制御装置4の構成をより簡単にして、イニシャルコストを低減するとともに、維持管理を容易にすることができる利点がある。
【0033】
図1に示される実施の形態の形彫放電加工装置における加工状態判別装置3は、検出装置31と、解析装置32と、識別装置33とを含んでなる。加工状態判別装置3は、プログラム可能な演算回路(FPGA)を具備しており、検出装置31と識別装置33とを同じ演算回路によって制御する。解析装置32は、基本的に上記演算回路とは別の演算処理装置(MPU,CPU)によって制御される。ただし、検出装置31と、解析装置32と、識別装置33は、何れも上記演算回路と上記演算処理装置の何れで制御されるように構成するかは、設計的事項であって、任意である。
【0034】
図1において、記憶装置5は、加工状態判別装置3と制御装置4のどちらからもアクセスできるように点線で接続線が示されているが、加工状態判別装置3と制御装置4とでそれぞれ別々に記憶装置を設けるようにすることができる。
【0035】
検出装置31は、加工間隙1Gにおける加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータの検出データを収集する手段である。検出装置31は、検出器31Aを含む。検出器31Aは、利用可能な識別パラメータの種類に対応してそれぞれ設けられる。具体的に、検出器31Aは、識別パラメータが音声であるときは集音マイクであり、振動であるときは振動センサであり、画像であるときはイメージセンサであり、電流波形であるときは電流プローブである。識別パラメータが加工間隙1Gにおける電圧波形であるときは、第2の検出回路16を検出器31Aとして利用することができる。
【0036】
検出装置31は、検出器31Aから入力する検出信号をデータに変換し、その検出データを所定の検出期間毎に所定のフォーマットのデータファイルとしてファイル名を付けて記憶装置5に累積記録する。検出装置31は、解析装置32の要求に応答して検出データを出力する。例えば、識別パラメータが加工間隙1Gにおいて発生する音(以下、間隙発生音という)である場合、検出装置31は、検出器31Aである集音マイクから検出信号(電圧信号)を入力してサウンドの振動波形の検出データに変換し、所定の検出期間ごとに所定のフォーマットのサウンドファイルを記憶装置5に記録する。
【0037】
検出装置31は、検出器31Aがイメージセンサである場合は、検出信号をデータに変換し、所定の検出期間毎に検出データを所定のフォーマットの画像または映像のファイルに変換して画像または映像のファイルを生成する。ただし、市販のカメラまたはビデオカメラを検出器31Aとして設置したときは、検出器31A側でファイルが生成され、検出装置31の本体側は、検出器31Aから入力する所定の検出期間毎の所定のフォーマットの画像または映像のファイルを記憶装置5に記録する。
【0038】
解析装置32は、所定のアルゴリズムに従って所望の加工に適合し加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータを選定する手段である。また、解析装置32は、選定した識別パラメータにおける学習モデルを生成する手段である。解析装置32は、1種類以上の識別パラメータ毎に学習モデルのデータに対応して検出装置31から取得する検出データに基づいて加工状態の良否を判別するプロセスを実行する一連の命令をプログラミングしたコンピュータプログラム(以下、判別サブプログラムという)を選定する。複数の識別パラメータ毎に存在する基本の判別サブプログラムは、予め記憶装置5に記憶されている。
【0039】
また、解析装置32は、1以上の識別パラメータによって加工状態の良否を判別し判別結果を制御装置4の加工制御装置41に出力するプロセスを実行する一連の動作の命令をプログラミングしたコンピュータプログラム(以下、判別メインプログラムという)の中の予め定められている位置に予め決められているアルゴリズムに従って1以上の判別サブプログラムを組み込む手段である。
【0040】
解析装置32は、生成した学習モデル、または学習モデルを必要に応じて適宜変形した学習モデルが所要の検出精度を満足するときに、生成した学習モデルのデータと所定の判別サブプログラムとを出力する。初期の学習モデルの変形とは、具体的に、学習モデルの検出精度を検証したり、学習モデルを使って加工状態の良否を判別したりするときに、初期の学習モデルのデータの表現方法を変えたり、内容を書き換えたり、あるいは、容量を減らし、圧縮し、最適化したりすることである。以下、特段の説明がない限り、初期の学習モデルを適宜変形した学習モデルを含めて学習モデルと総称する。
【0041】
実施の形態の形彫放電加工装置の加工状態判別装置3は、すでに記載されているとおり、検出装置31と識別装置33とがFPGAのようなプログラム可能な演算回路によって動作が制御され、解析装置32がMPUやCPUのような上記演算回路とは別の演算処理装置によって動作が制御される構成である。そのため、図2における検出装置31から解析装置32を経て識別装置33にデータを転送する動作は、実際には、検出装置31と、解析装置32と、識別装置33とが記憶装置5との間でデータを交換することによって行われる。解析装置32は、選択された識別パラメータにおいて生成した学習モデルのデータとその学習モデルに対応する判別サブプログラムを関連付けて一旦記憶装置5に保存する。
【0042】
解析装置32は、形彫放電加工装置の加工機本機10と電源装置20から離れた位置にあって形彫放電加工装置に付属していない装置、例えば、パーソナルコンピュータに設けることができる。本発明においては、物理的に放電加工装置の中に存在しない独立して操作することができる他の装置に解析装置32の全部または一部分が設けられている構成であっても、その装置を含めて放電加工装置という。
【0043】
図2に示されるように、加工状態判別装置3の解析装置32は、少なくとも、モデル生成手段32Aと、高位合成手段32Bと、検証手段32Cとを有する。モデル生成手段32Aと、高位合成手段32Bと、検証手段32Cとは、演算プロセッサを共有し、記憶装置5を経由してデータの送受信を行なう。
【0044】
モデル生成手段32Aは、所望の加工において有効な1種類以上の識別パラメータを選定し、選定した識別パラメータの学習モデルを生成する。より具体的には、モデル生成手段32Aは、所望の加工を実施する前に、記憶装置5に記憶されている所望の加工毎に異なる加工情報に基づいてそのときの所望の加工において所要の検出精度で正常放電と異常放電とを識別し、または有効放電と無効放電とを識別することによって加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータを予め決められているアルゴリズムに従って選定する。
【0045】
加工情報は、所望の加工において、加工状態の良否を判別して適正な加工を実施するために、望ましくは、最適な加工を実施するために、加工を実行する前に予め制御装置4あるいは数値制御装置6に与えておく必要がある情報の総称である。加工情報には、複数種類の加工条件が含まれる。識別パラメータの選定に影響を与える加工情報の中には、加工機本機10の種類毎、機械1台毎(号機毎)、所望の加工毎、あるいは、加工の態様によっては、荒加工工程から仕上げ加工工程までの加工工程ごとに値が異なる加工情報がある。加工情報は、加工条件である場合を含めて、作業者が数値制御装置6から与えるようにすることができる。
【0046】
複数の検出器31Aの中に加工間隙1Gを撮影するイメージセンサが含まれている場合は、検出装置31から加工間隙1Gの画像データを取得したときに、画像データを適正な画像認識の技術を使って画像を解析し、例えば、工具電極の形状から加工面積を計算し、または放電加工液の色から放電加工液の劣化度を求めて加工情報を自動的に取得するようにすることができる。また、加工機本機に関する各機械固有の加工情報は、加工機本機の出荷以前にすでに機械の製造者によって記憶装置5に記録されている「機械設定」のデータに含まれる機械の諸元のデータから自動的に取得することができる。
【0047】
いくつかの種類の識別パラメータは、1種類以上の加工情報に対して所望の加工における利用可能性が直接的に対応する。このような種類の識別パラメータは、1以上の所定の加工情報が決まると、直ちに選択され得る。例えば、加工に使用する放電加工回路1が蓄勢式放電加工回路であることを示す加工情報が与えられると、識別パラメータとして「加工間隙の電圧波形」が選択される。なお、選択された所望の加工に有効な識別パラメータが複数種類存在するとき、必ずしも全ての種類の識別パラメータを加工状態の良否の判別に利用することが要求されるわけではなく、作業者が任意で識別パラメータを決めることができる。
【0048】
図4Aは、スイッチング素子のオンオフによって加工を行なう標準的な非蓄勢式放電加工回路(スイッチング式放電加工回路)において、放電加工時の加工間隙における理想的な電圧波形を示す。また、図4Bは、コンデンサ放電によって加工を行なう蓄勢式放電加工回路(コンデンサ式放電加工回路)において、放電加工時の加工間隙における典型的な電圧波形を示す。
【0049】
非蓄勢式放電加工回路においては、正常放電時、電圧パルスが十分な無負荷時間τONを有している。そのため、異常放電が発生したかどうかは、基準電圧LVに基づいて識別することができる。しかしながら、蓄勢式放電加工回路においては、電圧パルスにおける無負荷時間を特定することができず、外乱による電圧の振動が激しく、しかも、加工間隙1Gを流れる電流パルスの持続時間が相当に短いので、識別パラメータが加工間隙1Gにおける電圧値である場合、所要の検出精度で異常放電を検出することが相当難しいことがわかる。
【0050】
実施の形態の形彫放電加工装置の加工状態判別装置3は、電圧パルスの波形を画像解析することができるので、識別パラメータとして加工間隙1Gの電圧波形を選択することができる。蓄勢式放電加工回路で加工を行なうとき、加工状態判別装置3は、第2の検出回路16から加工間隙1Gの電圧の検出信号を取得して、電圧パルスの波形のデータに変換する。そして、加工状態判別装置3は、画像認識の技術を使って加工間隙1Gの電圧波形と学習モデルの電圧波形との定量化された一致性を求め、その一致性によって正常放電と異常放電とを識別し、加工状態を判別することができる。
【0051】
いくつかの種類の識別パラメータにおいては、適正に加工状態を判別することができる目安としての加工状態の良否との関係性または有効性を定量的に表すことができる。関係性または有効性を示す数値は、初期値が決められている。このような種類の識別パラメータは、テスト加工を含む過去の加工におけるサンプルデータを収集して学習モデルを生成することができる。
【0052】
モデル生成手段32Aは、所望の加工において有効な1種類以上の識別パラメータを選定し、選定した識別パラメータの学習モデルを生成する。モデル生成手段32Aは、異なる識別パラメータ毎にそれぞれ学習モデルを生成するために、必要に応じて記憶装置5の中に予め用意されている複数の既存のライブラリ・フレームワークの中から特定の識別パラメータの学習モデルの生成に利用できるアルゴリズムを有するライブラリを抽出して学習モデルの生成に利用することができる。
【0053】
加工状態の良否を判別するために有効な識別パラメータにおける学習モデルのデータを生成する典型的な方法においては、正常放電が発生している任意の期間に収集した検出データ、あるいはすでに記憶装置5に保存され蓄積している正常放電のサンプルデータから正常放電時の学習モデルを生成する。正常放電時の学習モデルを生成したら、正常放電が発生している期間以外の任意の期間に収集し正常放電時の学習モデルに対して明確に異なる特徴を有する検出データ、あるいはすでに記憶装置5に保存され蓄積されている異常放電のサンプルデータから異常放電時の学習モデルを生成する。
【0054】
高位合成手段32Bは、モデル生成手段32Aにおいて、学習モデルのデータと共にその学習モデルに対応して加工状態の良否を判別するプロセスをプログラムした判別プログラムを出力する。このとき生成される判別サブプログラムは、機械学習における深層学習を行なった結果として、複数の機械学習のそれぞれの解析アルゴリズムに有利な固有のプログラミング言語で記述されている。そのため、加工状態判別装置3の識別装置33を動作させる演算回路において使用するハードウェア記述言語に変換して統一し、判別メインプログラムに組み込む必要がある。
【0055】
高位合成手段32Bは、機械学習において使用したプログラミング言語、例えば、Python、C言語、R言語のような固有のプログラミング言語で記述されている判別サブプログラムを、例えば、VHDLのようなハードウェア記述言語に変換して統一し、すでに同一のハードウェア記述言語で記述されている判別メインプログラムに組み込む。なお、高位合成手段32Bは、判別メインプログラムがハードウェア記述言語でプログラミングされていない場合は、事前に判別メインプログラムをハードウェア記述言語に変換しておく。
【0056】
検証手段32Cは、モデル生成手段32Aで選定した学習モデルに対応する判別サブプログラムを実行し、1種類以上の手法でモデル生成手段32Aにおいて生成された学習モデルの正答率を求め、求めた正答率が所要の検出精度に基づく所定の正答率以上であるかどうかによって、その学習モデルが所要の検出精度を有し有効であるかどうかを自己判定する。
【0057】
モデル生成手段32Aは、検証手段32Cにおいてモデル生成手段32Aによって生成された学習モデルの正答率が所定の正答率未満であると判定されたときは、所定の正答率以上になるまで学習モデルの再生成を繰り返して学習モデルの検出精度を上げる。高位合成手段32Bは、検証結果において学習モデルの正答率が所定の正答率以上になったときに、記憶装置5に記憶されている学習モデルを確定して、判別サブプログラムを組み込んだ判別メインプログラムのデータと共に学習モデルのデータを識別装置33に出力する。
【0058】
実施の形態の形彫放電加工装置における加工状態判別装置3は、解析装置32の動作を演算処理装置で制御し、識別装置33の動作を別の演算回路によって制御する構成であるので、解析装置32は、学習モデルのデータと1以上の判別サブプログラムを組み込んだ判別メインプログラムのデータを識別装置33で読取り可能な所定のフォーマットのファイル形式でそれぞれ一旦記憶装置5に記憶させておき、識別装置33が記憶装置5から学習モデルのデータと判別メインプログラムのデータを取得することによって識別装置33が判別メインプログラムに従って動作する。
【0059】
加工状態判別装置3は、所望の加工中、演算回路によって識別装置が駆動することによって1以上の判別サブプログラムを組み込んだ判別メインプログラムを実行して、検出装置31から検出データを取得する。そして、加工状態判別装置3は、検出装置31で検出される検出データと解析装置32において生成された適正な学習モデルとに基づいて周期的に加工状態の良否の判別を行なって、判別結果を出力する。
【0060】
制御装置4は、加工条件に従う電圧パルスと電流パルスを供給するように放電加工回路1を操作する手段である。また、制御装置4は、加工間隙1Gにおける加工状態に対応して放電加工回路1を操作して、加工を適正に制御する手段である。制御装置4は、少なくとも、加工制御装置41とパルス発生装置42とを含んでなる。すでに記載されているとおり、設計上許容できる場合は、加工状態判別装置3を制御装置4と同じプリント基板上に配設し、制御装置4が加工状態判別装置3を含む構成にすることができる。
【0061】
制御装置4の加工制御装置41は、加工状態判別装置3が出力する加工状態の良否の判別結果に対応してパルス発生装置42に対して加工条件を変更する信号を出力する。例えば、加工制御装置41は、加工状態が悪化したときは、電圧パルスのオフ時間の設定値を変更する。パルス発生装置42は、加工制御装置41の指令に従って所定のゲート信号を出力し、第1のスイッチング素子13または第2のスイッチング素子14をオンオフ制御し、例えば、放電一発毎の電流パルスの波形を変更するような高度な制御を行なうこともできる。
【0062】
加工制御装置41は、相対移動装置のような形彫放電加工装置の各種装置を直接制御操作するように構成することが可能である。例えば、比較的長期間加工状態が不安定で改善しないときは、相対移動装置に指令信号を送って工具電極1Eのジャンプ運動を行なわせて、加工間隙1Gを浄化するようにすることができる。
【0063】
加工制御装置41は、放電加工回路1の回路要素を操作することができる。例えば、加工制御装置41は、リレー17を含む切換スイッチをオンオフすることができる。また、加工制御装置41は、可変の第2の直流電源12の出力電圧を変更し、あるいは第1の検出回路15の作動増幅器の基準電圧を変更する。
【0064】
制御装置4のパルス発生装置42は、加工制御装置41の指令信号を受けて変更可能な状態で加工条件をセットして、設定されている加工条件に対応するゲート信号を放電加工回路1の第1のスイッチング素子13または第2のスイッチング素子14に出力してオンオフ制御する。パルス発生装置42は、図示しない放電誘起回路または極性切換回路のような付属回路が設けられているときに、付属回路の中のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0065】
記憶装置5は、内フラッシュメモリによるソリッドストレージドライブであり、電源装置20の電源がオフのときも記憶内容を保持する。記憶装置5は、加工状態判別装置3と制御装置4のどちらからもアクセスできるように設けられる。記憶装置5は、複数設けることができる。数値制御装置6から直接記憶装置5にアクセスすることができる構成であるときは、作業者が数値制御装置6を通して記憶装置5の記憶内容の操作を行なうことができる。
【0066】
数値制御装置6は、所望の加工を実施するために予め作成されているNCプログラムに従って加工機本機10と電源装置20を制御操作する手段である。数値制御装置6は、電源装置20の中に設けられる。数値制御装置6は、NCプログラムを解読してNCプログラムに記録されている命令を実行する。
【0067】
実施の形態の数値制御装置6は、コンピュータ数値制御装置(CNC)であって、専用の演算処理装置(CPU)を備える。そのため、数値制御装置6は、数値制御以外に汎用のコンピュータで可能な任意の操作を行なうことができる。特に、数値制御装置6は、加工状態判別装置3の解析装置32における機械学習の作業を行なうことができる。また、数値制御装置6は、作業者と加工機本機10および電源装置20との間のインターフェースの機能を有する。数値制御装置6は、通信ケーブルを通して制御装置4と接続し、加工制御装置41との間でデータの送受信を行なう。
【0068】
図5は、識別パラメータが間隙発生音であるときの学習モデルをサウンドの振動波形で示す。図6は、間隙発生音の学習モデルの検証結果の一例を示す。図7は、間隙発生音のテストファイルをサウンドの振動波形で示す。以下に、図1ないし図3に示される形彫放電加工装置において、具体的に識別パラメータが間隙発生音であるときの加工状態判別装置の動作を説明する。
【0069】
加工状態の良否を判別するために有効な1種類以上の識別パラメータは、加工状態判別装置3の解析装置32において、所望の加工毎に加工前に複数の加工情報に基づいて所定のアルゴリズムに従って予め決められている複数の識別パラメータの中から選択され決定される。加工状態判別装置3が自己で自動的に加工情報を取得できるかどうかに関わらず、全ての加工情報は、機械の製造者を含む作業者が直接入力することによって与えることができる。
【0070】
加工状態判別装置3の解析装置32は、いくつかの加工情報を作業者から与えられることなく、自動的に取得することできる。例えば、解析装置32は、加工前に加工間隙1Gを撮影した画像データから加工情報を得る。具体的に、解析装置32は、加工間隙1Gにおいて撮影した工具電極1Eの画像データと放電加工液の画像データを検出装置31から入力し、所定の解析アルゴリズムで画像を解析することによって、加工面積を求めることができる工具電極1Eの輪郭形状のデータを得ることができ、放電加工液の劣化度を求めることができる放電加工液の色のデータを得ることができる。
【0071】
予め機械の製造者によって数値制御装置6に記録されている機械設定のデータからは、機種や加工機本機10のサイズのような機械の諸元が判明する。例えば、解析装置32は、機種が形彫放電加工装置であることが判ると、所定のアルゴリズムに従って識別パラメータの1つとして「間隙発生音」を選択して決定する。
【0072】
加工状態の良否判別する場合、間隙発生音が識別パラメータの1つとして利用できる。殆どの加工において加工毎にサウンドの振動振幅が異なるが、正常放電に発する正常音と異常放電時に発する異常音との間でサウンドの振動振幅の差は、確実に明確に現れる。そのため、間隙発生音は、より安全に安定して加工状態の良否を判別する識別パラメータとして、形彫放電加工に有効である。
【0073】
特に、間隙発生音は、連続アーク放電が発生しやすい工具電極の材質が銅またはグラファイトであるときの形彫放電加工において有効である。加工状態の良否の判別の基準となる間隙発生音の学習モデルは、解析装置32において生成されるので、作業者が基準値を設定する作業が不要であり、作業者の負担が軽減され、安定した加工の制御を実現できる利点がある。
【0074】
検出装置31は、所定の検出期間、加工間隙1Gの近傍に設置される検出器31Aである集音マイクによって間隙発生音を採取する。検出装置31は、間隙発生音の音波の検出信号をサウンドの振幅波形のデータに変換して、所定の検出期間毎に所定のフォーマット、例えば、WAV形式のサウンドファイルを記憶装置5に累積記録する。
【0075】
解析装置32のモデル生成手段32Aは、記憶装置5に記憶されている1以上のサウンドファイルを結合したり、切り離したりすることによって、正常放電時に発生していることが判明している相対的に振動振幅が小さい音が比較的長期間継続する正常音のサウンドファイルをサンプリングデータとして生成する。テストでは、20分間の正常音のサウンドファイルを生成した。
【0076】
また、モデル生成手段32Aは、サウンドファイルの中のサウンドの振幅波形のデータから正常音を排除して相対的に振動振幅が大きい音が比較的短時間持続する第1の異常音のサウンドファイルを生成するとともに、第1の異常音よりも持続時間が長く断続的に振動振幅が大きくなる第2の異常音のサウンドファイルを生成する。実際に形彫放電加工において識別パラメータとして有効であるかどうかを検証するテストでは、1分間の第1の異常音のサウンドファイルと、3分間の第2の異常音のサウンドファイルを生成した。
【0077】
モデル生成手段32Aは、サウンドファイルの中から任意の期間のサウンドデータを抽出して、正常音の学習モデルと、第1の異常音の学習モデルと、第2の異常音の学習モデルを生成する。モデル生成手段32Aは、正常音、第2の異常音、第1の異常音の順番で各学習モデルのデータを結合して、1つの学習モデルのデータを生成する。
【0078】
テストでは、図5に示されるように、正常音のサウンドファイルから任意の6分間の正常音のサウンドの振動波形のデータを抽出して6分間の正常音の学習モデルを生成した。次に、第1の異常音のサウンドファイルから終了間際の無音の時間帯のデータを削除して40秒間の第1の異常音の学習モデルを生成し、第2の異常音のサウンドファイルから開始直後と終了間際の無音の時間帯のデータを削除して3分間の第2の異常音の学習モデルを生成した。
【0079】
解析装置32の高位合成手段32Bは、記憶装置5に予め用意されている複数の種類の識別パラメータ毎にそれぞれ対応する複数の判別サブプログラムの中からモデル生成手段32Aにおいて生成した現在選択している識別パラメータである間隙発生音の学習モデルに適応して加工状態の良否を判別するプロセスをプログラミングした判別サブプログラムを選定して、学習モデルと共に検証手段32Cに送る。
【0080】
解析装置32の検証手段32Cは、高位合成手段32Bによって指定されている学習モデルとその学習モデルに対応する判別サブプログラムに従って学習モデルの推定検出精度を調べる。
【0081】
検証手段32Cは、微積分のような規定の演算による解析を行なって、正常音のサウンドデータを利用して“はずれ値”を得ることができる。検証手段32Cは、はずれ値によって正常音と異常音を分別する。モデル生成手段32Aにおいて生成された学習モデルのデータは、多次元構造であるので、検証手段32Cは、主成分分析(PCA)を行なってイベント検出モデルを作成し、はずれ値において、正常音と異常音の正答率を求めて、図6に示されるような推定検出精度を計算する。
【0082】
検証手段32Cにおいて無監視によるデータのクラスタリングを行なった際に、第1の異常音と第2の異常音が同じクラスタに識別されたため、高位合成手段32Bにおいて、第1の異常音と第2の異常音とを合わせて異常音として、正常音のイベント検出モデルから2分間のサウンドの振動波形のデータを選択抽出し、第2の異常音のイベント検出モデルから終了間際の4秒間のサウンドの振動波形のデータを抽出して、4秒間の異常音のサウンドの振動波形のデータを2分間の正常音のサウンドの振動波形のデータの後に結合して、図7に示されるようなテストファイルを生成した。
【0083】
間隙発生音によって加工状態の良否を判別する場合は、放電一発毎に正常放電と異常放電とを分別するよりも、数ミリ秒ないし数秒程度の期間における間隙発生音を観測したほうが正常放電と異常放電とをより正確に識別しやすい。そのため、実施の形態の形彫放電加工装置の加工状態判別装置3においては、過去の加工データに基づいて予め定められる所定周期毎に正常放電か異常放電かを判別するようにしている。
【0084】
サウンドの振動波形によって正常放電か異常放電かを判別することができる方法は、複数存在すると考えられ、その中の1つの方法か、複数の方法を組み合わせて正常放電と異常放電とを分別するようにする。例えば、すでに計算して求められているはずれ値を使って正常音と異常音とを分別することができる。また、例えば、所定周期毎に検出データと学習モデルのデータにおけるそれぞれのサウンドの振動波形を画像認識または形状認識の技術によって照合し、正常放電と異常放電とを分別するようにすることも可能である。
【0085】
具体的に、画像認識の技術を使って振動波形の同一性を判定するある1つの手法は、検出データにおけるサウンドの振動波形の全体の振動振幅(最高位または平均)がはずれ値で決まる判定ラインを所定期間内で何回超えたかの割合によって同一性を判定する。この手法によると、判定ラインの位置または異常音が判定ラインを超える頻度の数値によって検出精度を調整することができる。このとき、所定期間において正常音と異常音のそれぞれの振動波形が判定ラインを超える頻度を調整して新しい学習モデルにおける判定ラインを自動的に設定し直して所要の検出精度を維持することができる。
【0086】
また、画像認識の技術を使って振動波形の同一性を判定する他の1つの手法は、予め決められている1以上の任意の識別位置(識別領域)または所定期間におけるサウンドの振動波形の振動振幅の最高位(ピーク値)による一致率から画像の同一性を判定する。この手法によると、識別位置または識別精度を変えることによって検出精度を調整することができる。
【0087】
画像認識によって同一性を判定する手法は、対象となる画像において、形状に特徴があるか、数値に特徴があるか、あるいはそれらの組合せに特徴があるかどうかによって適正な手法が決められる。また、間隙発生音の学習モデルの評価は、クラスタリング、混合行列、スペクトル解析のように複数の方法で行なうことができるが、予め決められている解析方法を使って学習モデルないしはイベント検出モデルの推定検出精度を自己判定することができる。
【0088】
高位合成手段32Bは、画像認識のプロセスを含む間隙発生音によって加工状態の良否を判別するプロセスを実行する一連の命令をプログラミングした判別サブプログラムのデータを間隙発生音の学習モデルのデータ(はずれ値のデータだけの場合を含む)と共に記憶装置5に保存する。
【0089】
高位合成手段32Bは、検証手段32Cにおいてモデル生成手段32Aで生成された学習モデルの正答率が予め決められている正答率以上であって演算で求められる推定検出精度が所要の検出精度を満足するとき、加工状態判別装置3の識別装置33において実行される加工状態の良否を判別する判別メインプログラムと選定した学習モデルにおける判別サブプログラムとを記憶装置から読み出す。
【0090】
高位合成手段32Bは、予め定められているアルゴリズムに従って判別メインプログラムの所定の位置に判別サブプログラムを組み込んで、判別サブプログラムが組み込まれた判別メインプログラムを再度記憶装置5に保存する。このとき、高位合成手段32Bは、機械学習における解析アルゴリズムを実行する固有のプログラミング言語で記述された判別サブプログラムをハードウェア記述言語、例えば、VHDLに変換した判別サブプログラムを組み込んだ判別メインプログラムを生成して記憶装置5に保存する。
【0091】
実施の形態の形彫放電加工装置における加工状態判別装置3は、加工中、記憶装置5に記憶されている判別メインプログラムを取得して、その判別メインプログラムに従って動作する。検出装置31は、検出器31Aである集音マイクで収集される間隙発生音の検出信号から所定周期毎のサウンドの振動波形のデータを有するWAV形式のサウンドファイルを生成する。識別装置33は、所定周期毎に検出装置31からサウンドデータを取得して逐次所定の判別方法によって検出データと学習モデルとを対比して、所定周期毎(所定検出期間毎)に加工状態の良否を判別し、判別結果を出力する。
【0092】
制御装置4の加工制御装置41は、加工状態判別装置3から加工状態の良否の判別結果を入力して、判別結果に対応して加工を制御する。加工制御装置41は、加工状態が良好な状態が継続し加工が安定しているときは、可能な限り初期の加工条件に従って加工を継続するようにする。したがって、加工制御装置41は、加工状態が安定しているときは、加工結果を入力しても新しい命令を出力しない、あるいは命令の内容を変えないことがあるが、このような加工制御装置41の動作を含めて加工制御という。
【0093】
加工制御装置41は、加工状態が悪化したときは、例えば、パルス発生装置42にゲート信号の変更を命令し、第1のスイッチング素子13または第2のスイッチング素子14の繰返しのオンオフ動作を変更して、電圧パルスのオフ時間を長くなるように変更する。一方、加工制御装置41は、過度に加工状態が良好であるときは、電圧パルスのオフ時間を短くするように変更する。あるいは、加工制御装置41は、とりわけ加工状態が悪化しているときは、相対移動装置にNCプログラムに従う移動命令に割込みの命令を与えて加工を休止し、工具電極1Eのジャンプ動作を行なわせる。
【0094】
以上に説明された加工間隙音を検出する実施の形態の放電加工装置は、形彫放電加工装置における加工状態の良否の判別に適用するものである。しかしながら、本発明は、ワイヤカット放電加工装置に適用できる可能性がある。ワイヤカットの場合、形彫放電加工と比較すると、間隙発生音の音波の特徴と加工間隙の周囲の状況が相当異なっている。とりわけ、ワイヤカットにおいては、加工間隙の周囲に発生する全ての現象に対して間隙発生音の変化が形彫放電加工における変化に比べてより曖昧であって明確には対応していないので、間隙発生音によって所要の検出精度で加工状態を判別することは困難である。
【0095】
一方、ワイヤカットにおいては、加工間隙の状態を判別して加工を適正に制御するという観点からは、例えば、ワイヤ電極が被加工物の被加工面に連続的に接触するときの異常音から加工の失敗ないしワイヤ電極の断線のおそれを検知して、加工の失敗、あるいはワイヤ電極の断線を事前に回避することに利用できる可能性がある。
【0096】
なお、本発明の放電加工装置には含まれないが、放電加工において、何らかの異常音を検出することによって望ましくない状態を検知して、その状態を解消することができる可能性がある。例えば、ワイヤ放電加工装置において、ワイヤボビンに巻き回されている加工に未使用のワイヤ電極が全くなくなる直前に連続的に生じる異常な振動を原因とする周囲の音の変化にともなう特定の場所のサウンドの振動波形は、同じ場所における平常時のサウンドの振動波形と明確に異なって現れる。そこで、ワイヤ電極の走行音からワイヤ電極の残量に関する警告を作業者に与えて、不測の加工の中断を防ぐことに利用することができる。
【0097】
本発明は、実施の形態に示されている形彫放電加工装置に限定されず、ワイヤカット放電加工装置または細穴放電加工装置で実施することができる。また、本発明は、すでにいくつか具体的に示されているが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、変形、置換、組合せのような応用が可能である。
【0098】
例えば、既存の加工状態を検出する装置と実施の形態に示されている加工状態判別装置とを同時に使用したり、加工形態に対応して切り換えて、使い分けるようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、放電加工に有益である。特に、本発明は、加工状態に対応して適正に加工を制御する放電加工装置に有効である。本発明は、放電加工において発生する望ましくない現象を検出するときの検出精度を向上させる。もって、本発明は、放電加工の発展に寄与する。
【符号の説明】
【0100】
1 放電加工回路
1E 工具電極
1G 加工間隙
1W 被加工物
11 第1の直流電源
12 第2の直流電源
13 第1のスイッチング素子
14 第2のスイッチング素子
15 第1の検出回路
16 第2の検出回路
2 放電発生検出装置
3 加工状態判別装置
31 検出装置
32 解析装置
32A モデル生成手段
32B 高位合成手段
32C 検証手段
33 識別装置
4 制御装置
41 加工制御装置
42 パルス発生装置
5 記憶装置
6 数値制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7