(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】高密度比推力推進剤及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C06D 5/00 20060101AFI20220217BHJP
C06B 33/00 20060101ALI20220217BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220217BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20220217BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20220217BHJP
B22F 10/66 20210101ALI20220217BHJP
B22F 3/26 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
C06D5/00 A
C06B33/00
B22F1/00 N
B22F10/20
B22F10/38
B22F10/66
B22F3/26 F
B22F3/26 G
(21)【出願番号】P 2021167530
(22)【出願日】2021-10-12
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】202110649581.1
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521445166
【氏名又は名称】湖北航天化学技術研究所
【氏名又は名称原語表記】Hubei Institute of Aerospace Chemical Technology
【住所又は居所原語表記】No.58 Qinghe Road,Xiangyang,Hubei,441003 P.R.China.
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
(72)【発明者】
【氏名】付 暁夢
(72)【発明者】
【氏名】唐 根
(72)【発明者】
【氏名】王 偉
(72)【発明者】
【氏名】王 芳
(72)【発明者】
【氏名】徐 勝良
(72)【発明者】
【氏名】史 ▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 譜
(72)【発明者】
【氏名】王 凱
(72)【発明者】
【氏名】李 春涛
(72)【発明者】
【氏名】王 艶薇
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0073280(US,A1)
【文献】特開平07-133180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06D 5/00
C06B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、
金属燃料:25%~40%と、
酸化剤:55%~70%と、
粘着剤:1%~5%と、を含む高密度比推力推進剤を調製する方法であって、
以下のステップを含
み、
(1)レーザー選択溶融成形法により、金属燃料を三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)するステップ
、
(2)粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にするステップ
、
(3)ステップ(2)で得られたペースト状の材料をステップ(1)で得られた三次元空間格子構造の空洞に充填し、プレスして高密度比推力推進剤を得るステップ
、
前記金属燃料の三次元空間格子構造の骨格は、複数の単位格子を含み、複数の単位格子同士は周期的な配列に配置され、前記単位格子は杆に囲まれた中空の多面体構造であり、
前記杆の断面が円形であり、杆の長さが1~5mmであり、断面の直径が0.2mm~0.8mmであることを特徴とする高密度比推力推進剤の調製方法。
【請求項2】
前記金属燃料がアルミニウム基合金粉末であり、前記アルミニウム基合金粉末に含まれるアルミニウムの質量百分率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記単位格子は四面体、八面体、又は十二面体の1種又は複数種であることを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、過塩素酸アンモニウムAP、過塩素酸マグネシウム、ジニトロアミドアンモニウムADN又はヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンCL-20の1種又は複数種であることを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記粘着剤は、フッ素ゴム、エチレン-酢酸エチレン共重合体EVA、ポリアクリレートゴム、シス型ブタジエンゴム、又は68#ワックスの1種又は複数種であることを特徴と
する請求項1乃至請求項
4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)において、レーザー選択溶融成形プリント(造形)の条件は、レーザー出力200~400W、スキャン速度600~1200mm/s、スキャン間隔0.05~0.1mm、スキャン層の厚さ0.03~0.05mmであることを特徴とする請求項1乃至請求項
5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において、粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にする方法は以下の通りであることを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の調製方法。(21)粘着剤を溶剤に1~3時間浸漬した後、完全に溶解するまで攪拌するステップ
(22)酸化剤をステップ(21)で得られた生成物に加え、溶剤が揮発するまで攪拌し、ペースト状の材料を得るステップ
【請求項8】
前記溶剤は、酢酸エチル、トルエン、又は石油エーテルの1種又は複数種であることを特徴とする請求項
7に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合固体推進剤技術分野に関し、具体的に高密度比推力固体推進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
密度比推力は、固体推進剤のエネルギー特性を総合的に評価する指標パラメーターであり、高密度比推力推進剤は、高質量比のモーターの調製を実現し、従来の固体動力輸送能力を向上させることができる。現在、固体動力システム性能の飛躍を促進するために、各国が画期的な次世代高エネルギー固体推進剤の技術アプローチの研究や探索に多くの力を入れている。
【0003】
CN106748600Bでは、エネルギッシュな粘着剤GAPと金属水素化物AlH3を用い、調製された推進剤の理論密度比推力が504g・s/cm3を超えている、AlH3を含む高理論比推力と高密度推進剤及びその調製方法が開示された。
【0004】
現在、固体推進剤のエネルギー性能をさらに向上させる技術アプローチは、主に固体推進剤に新しい高エネルギー密度物質を加えるか、できる限り粘着剤の含有量を減らし、固体フィラーの含有量を増やすことである。一方、新しい高エネルギー密度物質の製造は困難でコストが高く、その技術的成熟度や安全性と実際の応用との間には大きなギャップがあり、かつ従来の固体推進剤成分との間に相容性問題があるため、多くの新しい高エネルギー密度物質は固体推進剤に用いられない。もう一方、エネルギー性能の上昇に伴い、推進剤の配合の組成はますます複雑になり、推進剤の調製、貯蔵、応用に多くの不安定な因素をもたらし、推進剤の安全性問題はますます顕著になり、推進剤の発展を妨げる大きな問題になっている。その次、固体推進剤グレインの構造完全性を確保するために、従来の固体推進剤における粘着剤の用量は約10%~25%である。より低い粘着剤含有量は、通常の混合、注入などのプロセスの要求を満たすことができない。
【0005】
エネルギッシュな材料の鈍感特性と高エネルギー特性の間の増大する矛盾に対処するために、固体推進剤の応用の新しい模式および新しい方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の欠点を克服し、新しい高密度比推力推進剤及びその調製方法を提供することにある。レーザー選択溶融成形技術により、固体推進剤における金属燃料を主骨格にプリント(造形)し、そして酸化剤と粘着剤を金属燃料骨格の空洞に充填して高密度比推力推進剤を調製し、理論密度比推力が510g・s/cm3を超える新しい固体推進剤を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の発明目的を実現するために、本発明は以下の技術形態を提供する。
質量百分率で、
金属燃料:25%~40%と、
酸化剤:55%~70%と、
粘着剤:1%~5%と、
を含み、
金属燃料は、付加製造方法で三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)され、酸化剤と粘着剤は骨格内部の充填物である新しい高密度比推力推進剤。
さらに、金属燃料はアルミニウム基合金粉末であり、アルミニウム基合金粉末に含まれる
アルミニウムの質量百分率が90%以上である。
さらに、金属燃料の三次元空間格子構造の骨格は複数の単位格子を含み、複数の単位格子同士は周期的な配列に配置され、単位格子は杆で囲まれた中空の多面体構造である。
さらに、杆の断面が円形であり、杆の長さが1~5mmであり、断面の直径が0.2mm~0.8mmである。
さらに、単位格子は、四面体、八面体、又は十二面体の1種又は複数種である。
さらに、酸化剤は、過塩素酸アンモニウムAP、過塩素酸マグネシウム、ジニトロアミドアンモニウムADN、又はヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンCL-20の1種又は複数種である。
さらに、粘着剤は、フッ素ゴム、エチレン-酢酸エチレン共重合体EVA、ポリアクリレートゴム、シス型ブタジエンゴム、又は68#ワックスの1種又は複数種である。
以下のステップを含む前記新しい高密度比推力推進剤を調製する方法。
(1)レーザー選択溶融成形法により、金属燃料を三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)する。
(2)粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にする。
(3)ステップ(2)で得られたペースト状の材料をステップ(1)で得られた三次元空間格子構造の骨格に加え、プレスして前記高密度比推力推進剤を得る。
さらに、ステップ(1)において、レーザー選択溶融成形プリント(造形)条件は、レーザー出力200~400W、スキャン速度600~1200mm/s、スキャン間隔0.05~0.1mm、スキャン層の厚さ0.03~0.05mmである。
さらに、ステップ(2)において、粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にする方法は以下通りである、
(21)粘着剤を溶剤に1~3時間浸漬した後、完全に溶解するまで攪拌する。
(22)酸化剤をステップ(21)で得られた生成物に加え、溶剤が揮発するまで攪拌し、ペースト状の材料を得る。
さらに、溶剤は酢酸エチル、トルエン、又は石油エーテルの1種又は複数種である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は従来技術に比べて以下の有益効果を有する。
(1)本発明の新しい高密度比推力推進剤及びその調製方法は、酸化剤および粘着剤を金属燃料骨格の空洞に充填し、従来の固体推進剤における粘着剤高分子ネットワークの代わりに金属燃料骨格を使用し、従来技術の限界を打ち破り、エネルギーを提供しながら一定の強度を有し、推進剤の構造完全性を維持し、固形含有量が100%に近く、密度比推力がより高く、理論密度比推力が510 g・s/cm3を超える新しい固体推進剤を形成する。
(2)本発明の新しい高密度比推力推進剤の調製方法は、レーザー選択溶融成形法により、金属燃料を三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)し、骨格に含まれる複数の単位格子の具体的なパラメーターを設計し、固体推進剤における固体フィラーを構造材料に変換し、固体推進剤を微視的な規則正しい構造に設計し、構造が均一で、性能が安定している。
(3)本発明の新しい高密度比推力推進剤は、還元剤(金属燃料)、酸化剤、および粘着剤のみを含み、硬化剤、抗老化剤などの他の成分を添加する必要がなく、配合は簡単であり、原材料は無毒又は毒性が低く、環境にやさしく、安全性が高い。
(4)本発明の新しい高密度比推力推進剤の調製方法は、混合、注入、硬化などのプロセスを必要とせず、調製プロセスは非常に簡略化され、プロセスのコストおよび調製時間は大幅に削減され、品質制御可能性が顕著に向上し、生産効率が向上した。
(5)本発明の新しい高密度比推力推進剤は、従来の固体動力のエネルギー限界を打ち破るのに有利であり、宇宙輸送において広い応用可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明し、本発明の特徴とメリットはこれらの説明によってより明白、明確になる。
ここでの「例示的」という用語は、「例、実施例として、又は説明的な」を意味する。ここで、「例示的」として説明されるすべての実施例は、他の実施例よりも優れていると解釈される必要はない。
【0010】
本発明の新しい高密度比推力推進剤は、質量百分率で、
金属燃料:25%~40%と、
酸化剤:55%~70%と、
粘着剤:1%~5%と、
を含み、
金属燃料は、付加製造方法で三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)され、酸化剤と粘着剤は骨格内部の充填物である。
【0011】
さらに、金属燃料はアルミニウム基合金粉末であり、アルミニウム基合金粉末に含まれるアルミニウムの質量百分率が90%以上である。
【0012】
さらに、金属燃料の三次元空間格子構造の骨格は複数の単位格子を含み、複数の単位格子同士は周期的な配列に配置され、単位格子は杆で囲まれた中空の多面体構造である。
【0013】
さらに、杆の断面が円形であり、杆の長さが1~5mmであり、断面の直径が0.2mm~0.8mmである。
【0014】
さらに、単位格子は、四面体、八面体、又は十二面体の1種又は複数種である。
【0015】
さらに、酸化剤は、過塩素酸アンモニウムAP、過塩素酸マグネシウム、ジニトロアミドアンモニウムADN、又はヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンCL-20の1種又は複数種である。
さらに、粘着剤は、フッ素ゴム、エチレン-酢酸エチレン共重合体EVA、ポリアクリレートゴム、シス型ブタジエンゴム、又は68#ワックスの1種又は複数種である。
【0016】
以下のステップを含む前記新しい高密度比推力推進剤を調製する方法。
(1)レーザー選択溶融成形法により、金属燃料を三次元空間格子構造の骨格にプリント(造形)する。
(2)粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にする。
(3)ステップ(2)で得られたペースト状の材料をステップ(1)で得られた三次元空間格子構造の骨格に加え、プレスして前記高密度比推力推進剤を得る。
【0017】
さらに、ステップ(1)において、レーザー選択溶融成形プリント(造形)条件は、レーザー出力200~400W、スキャン速度600~1200mm/s、スキャン間隔0.05~0.1mm、スキャン層の厚さ0.03~0.05mmである。
【0018】
さらに、ステップ(2)において、粘着剤および酸化剤をペースト状の材料にする方法は以下通りである、
(21)粘着剤を溶剤に1~3時間浸漬した後、完全に溶解するまで攪拌する。
(22)酸化剤をステップ(21)で得られた生成物に加え、溶剤が揮発するまで攪拌し、ペースト状の材料を得る。
【0019】
さらに、ステップ(22)の中において、秤量した粘着剤を適量の溶剤に入れ、2時間浸漬し、且つ、完全に溶解するまで超音波で攪拌する。その後、秤量した酸化剤を粘着剤溶
液に入れ、ビーカー内の溶剤が蒸発し、材料全体がペースト状態を形成するまで均一に攪拌する。
【0020】
さらに、溶剤は酢酸エチル、トルエン、又は石油エーテルの1種又は複数種である。
【実施例】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
実施例1~5では、付加製造プロセスにより金属燃料骨格を調製し、そして酸化剤を金属燃料骨格に充填するが、推進剤の固形含有量は100%に近い。実施例1~5で得られた推進剤の性能によれば、レーザー選択溶融成形法で得られた高密度比推力推進剤の理論密度比推力はいずれも510g・s/cm3を超え、従来の推進剤の密度比推力に比べて大きく向上し、従来の固体動力のエネルギー限界を打ち破り、従来の固体動力輸送能力を向上させるのに有利であり、宇宙輸送において広い応用可能性がある。
【0027】
以上、具体的な実施形態および例示的な例により本発明を詳しく説明したが、これらの説明は本発明を制限するものと理解されるべきではない。当業者は、本発明の趣旨や範囲から逸脱することなく、本発明の技術形態及びその実施形態に対して様々な均等性置換、修
飾、又は改善を行うことが可能であり、これらはすべて本発明の範囲に入る。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に準ずる。
本発明の明細書に詳しく記載されていないた内容は、当業者の周知の技術である。
【要約】 (修正有)
【課題】固体推進剤のエネルギー性能をさらに向上させる高密度比推力推進剤、及びその調製方法を提供する。
【解決手段】主要成分として、質量百分率で、金属燃料:25%~40%、酸化剤:55%~70%、粘着剤:1%~5%を含む。付加製造プロセスにより金属燃料骨格を調製し、そして酸化剤を金属燃料骨格に充填して高密度比推力推進剤を調製する。この方法は、固体推進剤を微視的な規則正しい構造に設計すると同時に、固体推進剤における固体フィラーを構造材料に変換し、エネルギーを提供しながら一定の強度を有し、推進剤の構造完全性を維持し、理論密度比推力が510g・s/cm3を超える新しい固体推進剤を形成する。
【選択図】なし