(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/02 20060101AFI20220217BHJP
B21B 1/16 20060101ALI20220217BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220217BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220217BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20220217BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B21B45/02 320M
B21B1/16 B
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
(21)【出願番号】P 2021525134
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 CN2019116432
(87)【国際公開番号】W WO2020094106
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】201811329247.2
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521196073
【氏名又は名称】江▲陰▼▲興▼澄合金材料有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】517018813
【氏名又は名称】江陰興澄特種鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGYIN XING CHENG SPECIAL STEEL WORKS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】297,Binjiang Road Jiangyin,Jiangsu 214429 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼林
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲剣▼▲鋒▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陸▼▲長▼河
(72)【発明者】
【氏名】官▲躍▼▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】李国忠
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼▲暁▼▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】白云
(72)【発明者】
【氏名】宗浩
(72)【発明者】
【氏名】何佳▲鋒▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】黄▲鎮▼
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼佳
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-179325(JP,A)
【文献】特開平06-010054(JP,A)
【文献】特開平06-207224(JP,A)
【文献】特開平04-160119(JP,A)
【文献】特開平01-255627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B45/02
C21D9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法であり、
棒材を所定仕様の線材
に圧延して吐出してそれをコイルに巻きとり、仕上圧延温度を780℃~880℃、吐出温度を750℃~850℃の範囲内に制御する;
「EDC水浴等温焼入れによる冷却」を用いてコイルをインラインで連続的に冷間制御し、冷却速度が2.0℃/s~10℃/s、仕上冷却温度が620~630℃になるように制御することを特徴とする軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
EDC水浴等温焼入れによる冷却後、マスキングを施して徐冷を行い、マスキング撤去時の温度を400℃~500℃に制御する;
徐冷後コイルを集め、常温まで空冷する。
【請求項2】
圧延速度を8.4m/s~34.0m/sの範囲内に制御することを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項3】
EDC水浴等温焼入れによる冷却の水冷速度を4.0℃/s~9℃/sの範囲内に制御することを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項4】
EDC水浴等温焼入れによる冷却の水浴温度が、水冷速度の安定化に役立つ90℃-100℃であることを特徴とする請求項3に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項5】
異なる仕様の線材によって、水浴の冷却時間を冷却速度に合わせて20s~80sに制御し、相対的には直径の大きい線材ほど冷却速度が遅く、したがって水浴の冷却時間が長くなることを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項6】
吐出後、線材はEDC水浴等温焼入れによる冷間制御を行い、出水後の線材の中間点と接点との温度差≦10℃で均一性がとれ、
中間点はコイルの最先端を指し、接点は、後のコイルが前のコイルに伏し、両コイルが両端で接触する点を指すことを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項7】
線材の圧延後、仕上圧延温度で定径機に入ることを特徴とする請求項1に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項8】
当該方法は、仕様Φ12mm-25mmの高炭素クロム軸受鋼線材の生産に適用されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項9】
当該方法が適用される軸受鋼線材の化学成分は、C 0.95~1.05%、Si 0.15~0.35%、Mn 0.25~0.45%、Cr 1.30~1.65%、Mo ≦0.10%、Ni ≦0.25%、Al≦0.050%、 P ≦0.025%、S ≦0.020%、Cu ≦0.25%、Ca≦0.0010%、O≦0.0012%、Ti≦0.0050%、As≦0.040%、Pb≦0.002%、As+Sn+Sb≦0.075%(質量百分率)であり、残りはFeと避けられない不純物であることを特徴とする請求項8に記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法。
【請求項10】
当該方法が炭化物網状組織等級≦2.5級の高炭素クロム軸受鋼線材の生産に適用されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄鋼製造技術分野に関し、さらに詳しくは軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化物網状組織は仕上圧延温度が高く、圧延後の徐冷過程でオーステナイト粒界の析出に伴い形成され、炭化物網状組織が一旦形成されると、特に炭化物が粒界を完全に取り囲み、しかも広くて厚い場合、後加工や使用において粒界に沿った微小なクラックが発生することにより、転動体の寿命を大幅に低下させる原因となる。
【0003】
まず、深刻な炭化物網状組織は後続の球状化焼鈍で完全に解消するわけではなく、軸受加工の研磨工程で研削割れ(亀裂とも呼ばれ)が発生しやすい。次に、既存の炭化物網状組織が存在すれば、球状化焼鈍によって解消できないだけでなく、後続の焼入れ組織にも保留され、こんな場合、焼入れ割れが発生しやすく、焼入れ時に亀裂が発生しなくても、後続の使用において炭化物網状組織によって疲労割れを引き起こしやすい。
【0004】
軸受鋼における炭化物網状組織の存在が鋼の脆性増加、軸受部品の疲労寿命低下の原因になるため、使用状態においては、軸受鋼組織における深刻な炭化物網状組織の存在は許されない。
【0005】
出願番号201410100665.Xに開示されたニオブ微合金化高炭素クロム軸受鋼及びその熱間圧延方法は、ニオブの結晶粒微細化作用及び炭化物への影響を利用し、炭化物網状組織の厚さを薄くするか、甚だしきに至っては、炭化物網状組織を無くすようになっている。前記発明は、成分を調整するために、製鋼コストを増加するとともに製鋼難度を増加させるが、後続の冷間制御プロセスが保証できず、炭化物網状組織の析出への制御が実現できない。
【0006】
出願番号200910062664.Xに開示された軸受鋼線材の炭化物網状組織レベルを下げる方法は、主に吐出後、空冷によって線材の降温を制御する。その空冷速度は2℃/s~10℃/sの範囲内に定める。当該方法は線材の冷却が制御できるが、線材の中間点と接点は空冷によって高温差が生じ、線材全体の炭化物網状組織の品質ばらつきを引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、上記従来技術に対し、軸受鋼線材における炭化物網状組織の形成を抑制する冷間制御圧延制御方法を提供することであり、線材におけるFe3Cの大量析出を抑制することができる。
【0008】
本発明が上記課題を解決するために採用する技術は、軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法であり、下記の内容を含む:
棒材を所定仕様の線材に素早く圧延して吐出してそれをコイルに巻きとり、仕上圧延温度を780℃~880℃、吐出温度を750℃~850℃の範囲内に制御する;
EDC水浴等温焼入れによる冷却を用いてコイルをインラインで連続的に冷間制御し、冷却速度が2.0℃/s~10℃/s、仕上冷却温度が630℃になるように制御する;
EDC水浴等温焼入れによる冷却後、マスキングを施して徐冷を行い、マスキング撤去時の温度を400℃~500℃に制御する;
徐冷後コイルを集め、常温まで空冷する。
【0009】
圧延速度を8.4m/s~34.0m/sに制御する。
【0010】
EDC水浴等温焼入れによる冷却の水冷速度は4.0℃/s~9℃/s とする。
【0011】
EDC水浴等温焼入れによる冷却の水浴温度は90℃~100℃とする。
【0012】
異なる仕様の線材によって、水浴の冷却時間を冷却速度に合わせて20-80sに制御し、相対的には直径の大きい線材ほど冷却速度が遅く、したがって水浴の冷却時間が長くなる。
【0013】
吐出後、線材はEDC水浴等温焼入れによる冷間制御を行い、出水後の線材の中間点と接点との温度差≦10℃で均一性がとれる。中間点はコイルの最先端を指し、接点は、後のコイルが前のコイルに伏し、両コイルが両端で接触する点を指す。仕様に応じ冷却時間を調節し、つまり、所定の要求を満たすよう当該仕様の線材の水浴中における滞在時間を調節することである。
【0014】
線材の圧延後は、仕上圧延温度で定径機に入る。
【0015】
本願に基づく方法は、仕様Φ12mm-25mmの高炭素クロム軸受鋼線材の生産に適用される。
【0016】
本願に基づく方法が適用される軸受鋼線材の化学成分は、C 0.95~1.05%、Si 0.15~0.35%、Mn 0.25~0.45%、Cr 1.30~1.65%、Mo ≦0.10%、Ni ≦0.25%、Al ≦0.050%、 P ≦0.025%、S ≦0.020%、Cu ≦0.25%、Ca≦0.0010%、O≦0.0012%、Ti≦0.0050%、As≦0.040%、Pb≦0.002%、As+Sn+Sb≦0.075%(質量百分率)であり、残りはFeと避けられない不純物である。
【0017】
本願に基づく方法は、炭化物網状組織等級≦2.5級の高炭素クロム軸受鋼線材の生産に適用される。
【0018】
従来技術と比較すると、本発明の利点及び積極的な効果は以下の通りである。
1.本発明はEDC水浴等温焼入れによる冷却を採用し、冷却速度が速く、冷却時間が短く、線材におけるFe3Cの大量析出が抑制でき、しかも出水後に線材全体の温度が均一で、線材の中間点と接点の温度差≦10℃である。相転移時にエネルギーの放出による炭化物網状組織の析出温度帯までの上昇を防ぐため、EDC水浴等温焼入れによる冷却の仕上冷却温度を620~630℃になるように制御する。
【0019】
2、EDC水浴等温焼入れによる冷却+マスキングを施した徐冷の制御方式により、非平衡状態ソルバイト微細組織が得られ、線材組織中に小さい棒状若しくは半球状の炭化物が形成され、最終的には炭化物網状組織が抑制され、Φ12mm-25mm高炭素クロム軸受鋼線材の炭化物網状組織等級が「>3.0級」から「≦2.5級」以下に下がり、1.5級に達する。
【0020】
3、EDC水浴等温焼入れによる冷却に用いられる冷却媒体は水とRX媒体(ハロゲン化炭化水素、臭化エタン)の混合液体であり、冷却過程で発生した水蒸気は環境汚染や人体健康への影響が一切なく、提唱される環境配慮型生産方法に符合する。
【0021】
4.EDC水浴等温焼入れによる冷却後、マスキングを施した徐冷を採用し、温度が線材コア部から表面へと段階的に拡散するように制御し、コア部と表面部における温度均一性を回復し、水浴冷却による表面応力を解消する。
【0022】
5、EDC水浴等温焼入れによる冷却の水浴温度は90℃~100℃とする、それによって線材の冷却速度が4.0℃/s~9℃/sになるように厳格に制御し、脆性ベイナイト、マルテンサイト組織の形成を防止するとともに、炭化物の迅速な析出が回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1で提供する線材炭化物網状組織形態の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態2で提供する線材炭化物網状組織形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を参照しつつ、本発明で開示するΦ12mm~25mm高炭素クロム軸受鋼線材の炭化物網状組織に対する抑制の冷間制御圧延制御方法について、より詳細に説明する。ただし、本実施形態は本発明の好ましい一実施形態に過ぎなく、本発明の保護範囲を限定することに用いられるものではない。
【0025】
実施形態1
仕様Φ18mm高炭素クロム軸受鋼線材の生産において、線材は高速線材圧延によって所定仕様に圧延された後、吐出してコイルに巻き取られる。炭化物網状組織の制御には、下記のパラメータが採用される。定径機に入る時の温度(すなわち仕上圧延温度):830℃~870℃;線材吐出温度:810℃~850℃; 線材吐出後、インラインで水浴等温焼入れによる冷却の水浴温度:90℃~97℃;水浴冷却時間:20s~80s;線材がEDC水浴による冷却後の出水温度:620℃~630℃。線材の出水後、マスキングを施して徐冷し、保温時間30min~60minで、430℃~470℃まで徐冷する。マスキングからを出した後、コイルを集めて室温まで空冷する。
【0026】
製品の化学成分:C 1.0%、Si 0.32%、Mn 0.30%、Cr 1.44%、Mo 0.01%、Ni 0.02%、Al 0.014%、 P 0.014%、S 0.002%、Cu 0.08%、Ca 0.0002%、O 0.0008%、Ti 0.0010%、As 0.005%、Pb 0.001%、As+Sn+Sb≦0.011%(残りはFeと避けられない不純物である)。
【0027】
サンプリングして製品の炭化物網状組織を評価する。試料の炭化物網状組織等級を表1に示す。
【0028】
実施形態2
仕様Φ13.5mm高炭素クロム軸受鋼線材の生産において、線材は高速線材圧延によって所定仕様に圧延された後、吐出される。炭化物網状組織の制御には、下記のパラメータが採用される。定径機に入る時の温度:800℃~850℃;線材吐出温度:800℃~840℃; 線材吐出後、インラインで水浴等温焼入れによる冷却の水浴温度:90℃~97℃;水浴冷却時間:20s~60s;線材がEDC水浴による冷却後の出水温度:620℃~630℃。線材の出水後、マスキングを施して徐冷し、保温時間40min-60minで、420℃-450℃まで徐冷する。マスキングからを出した後、コイルを集めて室温まで空冷する。
【0029】
製品の化学成分:C 0.98%、Si 0.29%、Mn 0.31%、Cr 1.45%、Mo 0.01%、Ni 0.02%、Al 0.025%、 P 0.012%、S 0.001%、Cu 0.09%、Ca 0.0001%、 O 0.0006%、 Ti 0.0006%,As 0.0013%、Pb 0.001%、As+Sn+Sb≦0.009%(残りはFeと避けられない不純物である)。
【0030】
サンプリングして製品の炭化物網状組織を評価する。試料の炭化物網状組織等級を表1に示す。
【0031】
【0032】
表1を見ると分かるように、EDC水浴等温焼入れによる冷却+マスキングを施した徐冷方式で圧延後のコイルを冷間制御することにより、冷却過程における炭化物の析出を効果的に抑制し、非平衡状態の微細組織が得られ、小さい棒状若しくは半球状の炭化物が形成され、最終的には炭化物網状組織が抑制されるようになっている。
【0033】
本発明に関するいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更・改善と代替が本発明の保護範囲に属し、本発明の保護範囲が各請求項及びその均等物によって規定されるべきであることを理解するものとする。