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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】単結晶育成装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 13/24 20060101AFI20220218BHJP
【FI】
C30B13/24
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2017179573
(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公開番号】P2019019046
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017136640
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】515077434
【氏名又は名称】アウレアワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 良夫
(72)【発明者】
【氏名】十倉 好紀
(72)【発明者】
【氏名】加賀 尚博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 直樹
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199411(JP,A)
【文献】実開昭62-041075(JP,U)
【文献】実公昭48-016082(JP,Y1)
【文献】特開2008-093706(JP,A)
【文献】特開平09-260302(JP,A)
【文献】特開平08-203822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向を第1方向として、前記第1方向に沿って延伸する原料棒と、
前記原料棒を中心として放射状に設けられ、前記原料棒にM本の加熱レーザ光を照射するM個のレーザ照射ヘッドと、
前記M個のレーザ照射ヘッドと前記原料棒との間に設けられ、前記M個のレーザ照射ヘッドから照射された前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布を調整するM個の調整部と、
前記原料棒から育成した結晶棒から発光する輻射光強度を計測することにより、前記結晶棒の温度を計測する放射温度計と、
を備え、
前記加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面における前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布は、前記第1方向において予め定められた第1の照射強度分布を有し、且つ、前記第1方向と直交する第2方向の第2の照射強度分布は均一の照射強度を有し、
前記第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの下端部の位置をZLとし、最大強度Imaxの下方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ1とすると、
ZL-Z1≧2mm
であって
前記放射温度計の計測温度に基づいて、前記M個の調整部を調整する
単結晶育成装置。
【請求項2】
前記第1の照射強度分布は、釣り鐘型の照射強度分布を有する
請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記第1の照射強度分布は、直線形型もしくは多角形型の照射強度分布を有する
請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記第1の照射強度分布は、釣り鐘型の照射強度分布の一部と、直線形もしくは多角形型の照射強度分布の一部との組み合わせからなる照射強度分布を有する
請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項5】
前記第1の照射強度分布は、前記第1方向において、上方向と下方向の照射強度分布が非対称である
請求項1から4のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項6】
前記第1の照射強度分布は、前記上方向の照射強度が減少する勾配は、前記下方向の照射強度が減少する勾配より大きい
請求項5に記載の単結晶育成装置。
【請求項7】
前記第1の照射強度分布は、
最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの上端部の位置をZUとし、前記最大強度Imaxの上方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ2とすると、
3mm≧Z2-ZU≧0mm
である
請求項1から6のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項8】
前記M個の調整部は、前記M本の加熱レーザ光の少なくとも一部を反射することにより、前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布を調整するM個の反射ミラーである
請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項9】
前記M個の反射ミラーは、前記第1の照射強度分布の上部もしくは下部に設けられる
請求項8に記載の単結晶育成装置。
【請求項10】
前記M個の調整部は、前記M本の加熱レーザ光の少なくとも一部を吸収することにより、前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布を調整するM個の吸収材料である
請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項11】
前記M個の吸収材料は、前記第1の照射強度分布の上部もしくは下部に設けられる
請求項10に記載の単結晶育成装置。
【請求項12】
前記M個のレーザ照射ヘッドは、奇数個からなる
請求項1から11のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項13】
前記M個の調整部は、奇数個からなる
請求項1から11のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項14】
1本のレーザ光を照射する1台のレーザ光源と、
前記1本のレーザ光をM本に分割する1台のレーザ光分割装置と、
前記1台のレーザ光分割装置から入射した前記M本のレーザ光をM本の加熱レーザ光として出射するM本の光ファイバと
を備え、
前記M本の光ファイバからの前記M本の加熱レーザ光を予め定められた照射強度分布に成形する前記M個のレーザ照射ヘッドは、M>1である
請求項1から13のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項15】
前記M個のレーザ照射ヘッドは複数のレンズを備える
請求項1から14のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項16】
前記複数のレンズは、Z軸方向に曲率のある1又は複数のレンズを有し、
前記M本の加熱レーザ光の光軸を前記Z軸方向に曲率のある1又は複数のレンズの光軸に対して下方向に傾けて入射する光軸配置として、コマ収差を発生させることにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項15に記載の単結晶育成装置。
【請求項17】
前記複数のレンズは、Z軸方向に曲率のある1又は複数の調整用レンズを有し、
前記複数のレンズは、前記1又は複数の調整用レンズの位置を制御することにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項15に記載の単結晶育成装置。
【請求項18】
前記複数のレンズは、前記1又は複数の調整用レンズの光軸を前記M本の加熱レーザ光の光軸より前記下方向にずらしてコマ収差を発生させることにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項17に記載の単結晶育成装置。
【請求項19】
前記複数のレンズは、前記1又は複数の調整用レンズのZ軸と前記M本の加熱レーザ光の光軸とのなす角を鋭角とするように、前記1又は複数の調整用レンズのZ軸を回転させ、コマ収差を発生させることにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項17に記載の単結晶育成装置。
【請求項20】
前記複数の調整用レンズは、シリンドリカルレンズ又は複数のレンズ群である
請求項17から19のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項21】
前記M本のレーザ照射ヘッドは、
結晶の成長速度をSとし、
前記第1方向の釣り鐘型の照射強度分布において、照射強度が最大値の10%となる幅をZとし、前記原料棒が溶融した溶融帯の前記第1方向の高さをHとしたとき、
(Z-H)/2≧S
を満たすように前記複数のレンズを配置する
請求項15から20のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項22】
前記M個のレーザ照射ヘッドは、
前記M本の加熱レーザ光の前記第2方向における均一の照射強度分布の幅をLとし、
前記原料棒の直径をDとしたとき、
L≧D
を満たすように前記複数のレンズを配置する
請求項15から21のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項23】
前記レーザ光分割装置は、
前記1台のレーザ光源からの前記1本のレーザ光を平行光に変換するコリメータレンズと、
前記1本のレーザ光をM本のレーザ光に分割する複数の分割ミラーと、
前記M本のレーザ光を前記M本の光ファイバに集光する集光レンズと
を有する請求項14に記載の単結晶育成装置。
【請求項24】
前記原料棒が溶融した溶融帯から発光する輻射光強度を計測することにより、前記溶融帯の温度を計測する放射温度計を更に備え、
前記M本の加熱レーザ光の照射強度を、N<Mを満たすように設けられたN台の電源の出力により制御する
請求項1から23のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項25】
前記M本の光ファイバの断面形状は、円形断面形状、楕円断面形状、矩形状およびこれらの形状を組み合わせた形状の少なくとも1つの組み合わせからなる長円形断面形状を有する
請求項1から24のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項26】
前記加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面における前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布の形状は、円形状、楕円形状、矩形状およびこれらの形状の一部を組み合わせた形状の少なくとも1つの形状を含む長円形状を有する
請求項1から25のいずれか一項に記載の単結晶育成装置。
【請求項27】
鉛直方向に延伸する原料棒を用意し、
前記原料棒を中心として放射状に設けられたM個のレーザ照射ヘッドを用いて、前記原料棒にM本の加熱レーザ光を照射し、
前記加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面における前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布は、前記鉛直方向を第1方向として、予め定められた第1の照射強度分布を有し、且つ、前記第1方向と直交する第2方向の第2の照射強度分布は均一の照射強度を有し、
前記第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの下端部の位置をZLとし、最大強度Imaxの下方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ1とすると、
ZL-Z1≧2mm
であって、
前記M個のレーザ照射ヘッドならびに前記M個の調整部は、
結晶棒の移動速度の増加に応じて、前記第1の照射強度分布における前記下方向の照射強度分布の勾配を小さくし、
前記結晶棒の移動速度の低下に応じて、前記第1の照射強度分布における前記下方向の照射強度分布の勾配を大きくする
単結晶の育成方法。
【請求項28】
前記第1の照射強度分布は、上方向の照射強度減少する勾配は、前記下方向の照射強度減少する勾配より大きい
請求項27に記載の単結晶の育成方法。
【請求項29】
前記第1の照射強度分布は、
最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの上端部の位置をZUとし、前記最大強度Imaxの上方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ2とすると、
3mm≧Z2-ZU≧0mm
である
請求項27又は28に記載の単結晶の育成方法。
【請求項30】
前記M個のレーザ照射ヘッドが有する複数のレンズの間隔および焦点距離を調整することにより、前記第1の照射強度分布の形状および照射強度を調整する
請求項27から29のいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項31】
前記M個の調整部が有するM個の反射ミラーの入射角度および高さを調整することにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項27から30のいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項32】
前記M個の調整部が有するM個の吸収材料の吸収量および高さを調整することにより、前記第1の照射強度分布の非対称形状を調整する
請求項27から31のいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項33】
前記原料棒が溶融した溶融帯から発光する輻射光強度を計測し、
計測した前記輻射光強度に応じて、前記M本の加熱レーザ光を照射するために、N<Mを満たすように設けられたN台の電源の入力電力を制御する
請求項27から32のいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項34】
鉛直方向に延伸する原料棒を用意し、
前記原料棒を中心として放射状に設けられたM個のレーザ照射ヘッドを用いて、前記原料棒にM本の加熱レーザ光を照射し、
前記加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面における前記M本の加熱レーザ光の照射強度分布は、前記鉛直方向を第1方向として、予め定められた第1の照射強度分布を有し、且つ、前記第1方向と直交する第2方向における第2の照射強度分布は均一の照射強度を有し、
前記第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの下端部の位置をZLとし、最大強度Imaxの下方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ1とすると、
ZL-Z1≧2mm
であって、
結晶棒から発光する輻射光強度を計測し、
計測した前記輻射光強度に応じて、前記M本の加熱レーザ光における下方向の照射強度分布を調整するために、M個の調整部を制御する
単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛直方向に設置した原料棒を溶融して単結晶を育成するレーザ光を用いた浮遊溶融帯単結晶育成方式において、加熱レーザ光が原料棒の軸方向、且つ、原料棒の径方向に略均一の照射強度を有する照射強度分布(この照射強度分布はしばしばトップハット照射強度分布と呼称される)を有する複数の加熱レーザ光を周囲から原料棒に照射する加熱方式が提案されている(例えば、特許文献1)。
[特許文献1] 特許第5181396号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、加熱レーザ光が原料棒の軸方向に略均一で、且つ、原料棒の径方向に略均一の照射強度を有する照射強度分布(即ち、トップハット照射強度分布)を有する複数の加熱レーザ光による従来の加熱方式では、溶融帯から成長した結晶棒の軸方向に急峻な温度勾配が生じるので、得られる単結晶の品質が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、鉛直方向を第1方向として、第1方向に沿って延伸する原料棒と、原料棒を中心として放射状に設けられ、原料棒にM本の加熱レーザ光を照射するM個のレーザ照射ヘッドとを備え、加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面におけるM本の加熱レーザ光の照射強度分布は、第1方向において予め定められた第1の照射強度分布を有し、且つ、第1方向と直交する第2方向の第2の照射強度分布は略均一の照射強度を有し、第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの下端部の位置をZLとし、最大強度Imaxの下方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ1とすると、
ZL-Z1≧2mm
である単結晶育成装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの上端部の位置をZUとし、最大強度Imaxの上方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ2とすると、
3mm≧Z2-ZU≧0mm
である単結晶育成装置を提供する。
【0006】
本発明の第3の態様においては、鉛直方向に延伸する原料棒を用意し、原料棒を中心として放射状に設けられたM個のレーザ照射ヘッドを用いて、原料棒にM本の加熱レーザ光を照射し、加熱レーザ光の光軸に直交する2次元平面におけるM本の加熱レーザ光の照射強度分布は、鉛直方向を第1方向として、予め定められた第1の照射強度分布を有し、且つ、第1方向と直交する第2方向の第2の照射強度分布は略均一の照射強度を有し、第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの下端部の位置をZLとし、最大強度Imaxの下方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ1とすると、
ZL-Z1≧2mm
である単結晶の育成方法を提供する。
【0007】
本発明の第4の態様においては、前記第1の照射強度分布は、最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの上端部の位置をZUとし、前記最大強度Imaxの上方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ2とすると、
3mm≧Z2-ZU≧0mm
である単結晶の育成方法を提供する。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群の組み合わせもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る単結晶育成装置100の斜視図の一例を示す。
図2】単結晶育成装置100の上面図の一例を示す。
図3A】レーザ照射ヘッド50のレンズ構成の一例を示す。
図3B】加熱レーザ光3の照射強度分n布の一例を示す。
図4】実施例1の加熱レーザ光3の(X-Z)平面での長円形状の照射強度分布形状を示す。
図5】実施例1に係る原料棒1のZ軸方向の照射強度分布を示す。
図6】実施例1に係る原料棒1のX軸方向の照射強度分布を示す。
図7】結晶成長中の溶融帯4の溶融温度観察例を示す。
図8】レーザ光5の分割方法の一例を示す。
図9】実施例2に係る反射ミラー80の上部配置の一例を示す。
図10】実施例2に係る反射ミラー80の上部配置の一例を示す。
図11】実施例2に係る加熱レーザ光3のX軸、Z軸方向の照射強度分布を示す。
図12】実施例3に係る反射ミラー80の下部配置の一例を示す。
図13】実施例3に係る加熱レーザ光3のX軸、Z軸方向の照射強度分布を示す。
図14】実施例4に係る加熱レーザ光3のZ軸方向の照射強度分布を示す。
図15】実施例4に係る加熱レーザ光3のX軸、Z軸方向の照射強度分布を示す。
図16】実施例5に係る加熱レーザ光3のZ軸方向の照射強度分布を示す。
図17】実施例6に係る加熱レーザ光3のZ軸方向の照射強度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る単結晶育成装置100の斜視図の一例を示す。図2は、原料棒1から結晶棒2の成長時における単結晶育成装置100の上面図の一例を示す。
【0012】
単結晶育成装置100は、N台の電源10と、1台のレーザ光源20と、1台のレーザ光分割装置30と、M本の光ファイバ40と、M個のレーザ照射ヘッド50と、M個のダンパ60とを備える。Mは1より大きい整数(即ち、M>1)である。本例では、電源10の台数N=2台で、分割本数M=5の場合を示す。原料棒1、結晶棒2および溶融帯4を示す。本例の単結晶育成装置100は、放射温度計70-1および放射温度計70-2の2台の放射温度計70を有する。放射温度計70-1は、溶融帯4の中心軸上、上下の中心において半径0.5mm内の温度を計測する。放射温度計70-2は、結晶棒2の中心軸上で、溶融帯4の直下の0mm~20mm程度の範囲で、半径0.5mm内の結晶棒2の温度を計測する。
【0013】
なお、本明細書において、鉛直方向を第1方向とする。第1方向に沿って延伸する原料棒1を設置する。Z軸方向を原料棒1の中心軸方向とする。加熱レーザ光3の光軸に垂直な2次元平面内で、Z軸に垂直な方向をX軸方向とする。また、原料棒1の中心軸を中心として、Z軸に垂直な方向(即ち、原料棒1の径方向)をR方向と称する。本例の原料棒1は、直径Dを有する。溶融帯4の高さをHとする。さらに、本明細書において、下方向とは、鉛直方向における重力方向を指し、上方向とは、鉛直方向における重力方向と反対方向を指す。
【0014】
単結晶育成装置100における浮遊溶融帯方式では、原料棒1を溶融するために加熱照射光が必要である。本例の単結晶育成装置100は、円柱状形状の原料棒1の加熱照射光としてM本の加熱レーザ光3を用いる。
【0015】
M本の加熱レーザ光3は、原料棒1の中心軸を中心として、放射状に原料棒1に入射する。M本の加熱レーザ光3は、加熱レーザ光3の光軸と直交する(X-Z)2次元平面において、長円形状の照射強度分布を有する。M本の加熱レーザ光3の照射強度分布の形状は、(X-Z)平面において、円形状、楕円形状、矩形状およびこれらの形状の一部を組み合わせた形状の少なくとも1つの形状を含む長円形状である。より具体的には、M本の加熱レーザ光3は、(X-Z)平面において、Z軸方向(即ち、原料棒1の延伸方向)に釣り鐘型の照射強度分布を有し、且つ、X軸方向に略均一の照射強度分布を有する。
【0016】
1台のレーザ光源20は、N台の電源10により駆動し、1本のレーザ光5を生成する。1台のレーザ光源20は、N<Mを満たすように設けられたN台の電源の出力により制御されてよい。レーザ光源20が1KW以上の高出力の場合に必要な電流は数10A以上となる。市販されている電源の供給電流量が小さい場合は2台以上用いてよい。2台以上の電源においてもカスケード接続により1台のように供給電力を制御できる。1台のレーザ光源20は、生成した1本のレーザ光5を1台のレーザ光分割装置30に出射する。1台のレーザ光源20は、複数の半導体ダイオードを含んでよい。
【0017】
1台のレーザ光分割装置30は、1本のレーザ光5をM本に分割する。レーザ光分割装置30は、分割したレーザ光5をM本の光ファイバ40に入射する。本例のレーザ光分割装置30は、1本のレーザ光5をM本に分割する。
【0018】
M本の光ファイバ40は、5本の光ファイバ40-1~光ファイバ40-5を有する。M本の光ファイバ40は、M本のレーザ光5をM本の加熱レーザ光3として出射する。M本の光ファイバ40の断面形状は、円形断面形状、楕円断面形状、矩形状およびこれらの形状を組み合わせた形状の少なくとも1つの組み合わせからなる長円形断面形状を有する。
【0019】
M個のレーザ照射ヘッド50は、M本の光ファイバ40から入射したM本の加熱レーザ光3を原料棒1に集光する。M個のレーザ照射ヘッド50は、原料棒1が延伸するZ軸方向を中心として放射状に配置される。また、M個のレーザ照射ヘッド50は、等角度にM本の加熱レーザ光3を原料棒1に照射するように配置される。本例のレーザ照射ヘッド50は、原料棒1を中心に略72度の間隔の角度で奇数個の5方向から加熱レーザ光3を照射する。M個のレーザ照射ヘッド50の個数は奇数であることが好ましい。
【0020】
例えば、Mが5の奇数個配置の場合、原料棒1の外周上の照射強度分布は95%の照射強度の均一性を有する。Mが7の場合の原料棒1の外周上の照射強度分布は97%の照射強度の均一性を有する。Mが偶数である6の場合の原料棒1の外周上の照射強度分布の照射強度の均一性は85%である。Mが偶数のレーザ照射ヘッド50の場合、照射強度分布の照射強度の均一性が低下する。したがって、M個のレーザ照射ヘッド50の個数が奇数個であることが好ましい。M個のレーザ照射ヘッド50は、M本の加熱レーザ光3を予め定められた照射形状に整形する。
【0021】
図2に示したダンパ60は、水冷機構を有し、M本の加熱レーザ光3の原料棒1の周囲を通過した加熱レーザ光3を吸収する。M個のダンパ60は、原料棒1を挟んで、M個のレーザ照射ヘッド50とそれぞれ対向して設ける。これにより、M個のレーザ照射ヘッド50による単結晶育成装置100の内部の加熱による損傷を防止できる。
【0022】
放射温度計70-1は、原料棒1が溶融し、形成した溶融帯4から発光する輻射光強度を計測することにより、溶融帯4の温度を計測する。放射温度計70-1は、溶融帯4の0.5mmの半径内の局所温度を結晶成長中に実測できる。結晶成長中に溶融帯4の0.5mmの半径内の局所温度計測できるその場観察方法は、結晶材料の結晶構造組成を決定し、その組成の結晶成長を実現し、単結晶作製の最適条件を決定する上で、極めて重要である。例えば、溶融帯温度により得られる組成が異なる。溶融温度は結晶装置の育成条件に依存しない材料の固有の物性情報を与えるからである。共焦点楕円体を用いる従来のハロゲンランプでの観察は溶融帯4の周囲が鏡体に囲まれるので、微小領域のその場温度観察は困難である。放射温度計70の温度再現性は±1℃以内である。一度、溶融温度の最適化が実現できると、溶融帯4の直径が変化しても、また、結晶成長時間を変更しても最適な温度になるようにレーザ光源20の出力を電源10により制御できる。溶融帯4の溶融状態をカメラで監視していただけの方法に対して、放射温度計70-1は、結晶成長中の制御法に大きな武器となる。例えば、単結晶育成装置100は、放射温度計70で計測した輻射光強度に応じて、N台の電源10の入力電力を制御する。これにより、単結晶育成装置100は、加熱レーザ光3の輻射光強度を調整する。
【0023】
放射温度計70-2は、結晶棒2の上端部付近、溶融帯直下の0~20mm程度の範囲の温度を測定する。この測定により、結晶棒2の上端部付近の冷却状態を監視可能になる。結晶棒2の温度の実測は材料により熱伝導度係数は大きく異なることから重要である。絶縁性材料、半導体材料、金属で数桁異なる熱伝導度係数を有する。また、溶融温度近辺の熱伝導係数は未知である材料が多い。このために、実際の結晶棒2の形状や結晶棒2を保持した結晶育成状態での結晶棒2の温度測定は大変重要である。そればかりではなく、その材料に関する貴重な物性情報が得られる。
【0024】
例えば、結晶棒2の上端部から10mm下の部位での温度を測定する。これにより、結晶棒2の冷却速度を監視できる。溶融帯4の温度を70-1で観測する。その温度をTMとする。溶融帯4と結晶棒2の上端部境界から下方向10mmの結晶棒2の温度がTSであるとする。成長速度はSmm/時間の場合、(TM-TS)/(10/S)が得られた単結晶の溶融温度からの1時間あたりの平均冷却温度となる。TM-TS=400℃、S=4mm/時間の場合、溶融温度から1時間での平均冷却速度は160℃となる。溶融温度の高温付近での平均冷却時間を知ることは、結晶作成時の残留熱歪に大きな影響を与えることから、極めて重要である。
【0025】
成長した単結晶の冷却時間は小さいことが好ましい。特に溶融温度近傍の冷却時間は重要である。結晶を構成する元素が溶融状態での激しい運動から、ポテンシャル安定点である結晶格子点に落ち着く必要がある。この激しい運動からポテンシャル安定点に移動する場合、結晶格子点に安定する前に、準安定ポテンシャル位置に決まらないように徐冷することが必要である。急速冷却の場合、元素が準安定ポテンシャル位置に安定してしまう機会が発生する。準安定位置にとどまった元素はクラック発生起因となる熱残留歪を結晶格子に与える、伝導電子に影響を及ぼし、超伝導転移温度などの再現性を損なうなどの深刻な悪影響の生じる場合がある。上記溶融温度からの結晶棒2の冷却時間160℃が大きすぎるかどうかは材料特性に依存する。得られた結晶棒2にクラックが発生したりする場合は、明らかに冷却速度が速すぎる例である。超伝導転移温度が低下するなどの結晶の電子の伝導特性に変化を示す場合も冷却速度が速すぎる例である。このような現象が認められた材料に関してのZ軸の下方向の照射強度分布をさらに強度傾斜を小さくする必要がある。もしくは、結晶成長速度を長くする必要がある。いずれにしてもZ軸方向に急峻な照射強度分布を有する照射強度分布(トップハット照射強度分布)を有する従来のレーザFZ単結晶装置は得られた単結晶の品質上において、極めて深刻な問題点を有する場合がある。
【0026】
原料棒1は、原料の焼結棒である。原料棒1の下端部と結晶棒2の上端部をM本の加熱レーザ光3で加熱および溶融することにより原料棒1と結晶棒2との間に溶融帯4を形成できる。例えば、原料の溶融温度は、200℃から3000℃である。浮遊溶融帯方式は結晶棒2の上端部の結晶表面にエピタキシャル成長させ、単結晶を得る。このエピタキシャル成長は、結晶棒2を徐々に下降させることにより積層堆積させることで実現できる。結晶棒2の下降速度が結晶の成長速度となる。
【0027】
石英管6は、M本の加熱レーザ光3の波長に対して透明な石英により形成した円管である。石英管6の中心軸上に原料棒1を配置する。石英管6内には、結晶棒2の結晶成長に最適なガスを充満させる。
【0028】
M個のレーザ照射ヘッド50は、Z軸方向の照射強度分布形状が釣り鐘型形状であり、X軸方向の照射強度分布形状が略均一形状であるM本の加熱レーザ光3を形成する。本明細書において、釣り鐘型の照射強度分布とは、Z軸方向の照射強度分布の中央付近が最大となり、上方向ならびに下方向になだらかに照射強度が減少する強度分布を有する照射強度分布を指す。Z軸方向の照射強度分布の最大強度となる照射強度をImaxとする。M個のレーザ照射ヘッド50は、Z軸方向における照射強度分布を釣り鐘型とすることにより、溶融帯4と結晶棒2との界面にエピタキシャル成長した結晶部の照射強度分布の減少をなだらかにし、結晶部の急速冷却を抑制する。Z軸の下方向に照射強度が減少する形状は、曲線形状の照射強度分布を有していても、直線形状の照射強度分布を有していても、多角形型の照射強度分布を有してよい。一例において、M本の加熱レーザ光3は、Z軸方向において、釣り鐘型の照射強度分布を有する。
【0029】
ここで重要な点は、Z軸方向の照射強度分布が釣り鐘型形状であっても、X軸方向に略均一な照射強度分布を有することである。ハロゲンランプを用いる従来方法はZ軸方向およびX軸方向も釣り鐘型形状になっている点で、本例とは大きく異なる。X軸方向に略均一な照射強度分布を有することは原料棒1の外周方向の照射強度の均一性が5個のレーザ照射ヘッド50の場合95%の高い均一性を確保できる。その上で成長した結晶棒2の急速冷却を抑制することができる。
【0030】
さらに、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布は、Z軸方向において非対称であってよい。一例において、M本の加熱レーザ光3は、原料棒1が溶融している下端部は、急峻な照射強度分布を有していてもよい。釣り鐘型のZ軸方向の上方向の照射強度の減少分布は、Z軸方向の下方向の照射強度の減少分布より急峻である非対称の照射強度分布を有してよい。この急峻に減少する照射強度分布は、原料棒1に溶融帯4の溶融液が吸い込まれる効果を抑制する。原料棒1は焼成された棒であり、結晶棒2に対して材料密度が小さい。このため、液体化した材料は原料棒1の間隙に浸透する。この原料棒1への溶融液の吸い込みは溶融帯4のR方向の直径Wの減少を招くと同時に原料棒1の下端部の直径Dを増大させる。溶融液の吸い込みによる溶融帯4の直径Wの減少や原料棒1の直径Dの増大は、溶融帯4が不安定化する要因となる。原料棒1に溶融液が吸収される量を抑制するためには、原料棒1側の温度勾配は急峻であることが必要である。このようなZ軸方向の非対称な照射強度分布は原料棒1への吸い込みを抑制し、尚且つ、結晶棒2側の温度勾配がなだらかであることにより成長した結晶棒2への熱歪を緩和する。従来のハロゲンランプではこのような照射形状を実現することはできない。加熱光が指向性の高いレーザ光であって初めて実現できる。ハロゲンランプの照射形状の照射強度分布は上下方向に50mm以上の大変広い範囲での照射強度分布を有し、レーザ光とは本質的に異なる光源である。
【0031】
また、従来のトップハット照射強度分布である加熱レーザ光を用いた場合は、原料棒1側の急峻な照射強度分布を実現できても、結晶棒2への急峻な照射強度分布による熱残留歪を発生させる。これは結晶棒2にクラックを発生させ、超電導転移温度Tcの再現性を損なうなどの深刻な問題を発生させる。
【0032】
図3Aは、レーザ照射ヘッド50のレンズ構成の一例を示す。図3Bは、加熱レーザ光3の照射強度分布の一例を示す。
【0033】
レーザ照射ヘッド50は、複数のレンズを有する。レーザ照射ヘッド50は、複数のレンズの間隔および焦点距離を調整することにより、加熱レーザ光3の照射強度分布の形状および照射強度を調整する。例えば、レーザ照射ヘッド50は、M本の光ファイバ40からのレーザ光5を凸レンズで平行光に変換する。平行にされたM本の加熱レーザ光3は透明平板を透過する。この部分を照射ヘッドAの部品とする。その後、また透明平板を透過し、その後3枚のレンズでZ軸方向に釣り鐘型でX軸方向に略均一の照射強度分布を持つように部品Bを構成する。3枚のレンズを適切に選択することにより、Z軸方向は釣り鐘型、かつX軸方向は略均一の照射強度分布が得られる。図中の長円Eは、レーザ照射ヘッド50に形成された(X-Z)平面での二次元照射強度分布を示す。
【0034】
レーザ照射ヘッド50は、部品Aと部品Bとの距離Lを可動となるように構成される。レーザ照射ヘッド50は、部品Aを光学台に固定し、可動距離Lを調整することにより、原料棒1との照射距離を調整する。Z軸方向の釣り鐘型の照射強度の強度が50%になるときの半値幅Wを変更するためにはB部品のレンズの焦点距離などの変更が必要である。そのためB部品のレンズ交換は側面から容易に交換可能となるようにあらかじめ設計してある。レンズ交換、および可動距離Lの調整により、X軸方向の略均一な長さを変化させることなく、Z軸方向の釣り鐘型を原料棒1の位置で予め定められた釣り鐘型に拡大、もしくは縮小できる。
【0035】
また、図3Bは、原料棒1に集光するM本の加熱レーザ光3の長円形状の照射強度分布の一例を示す。M本の加熱レーザ光3のZ軸方向の照射強度分布は釣り鐘型形状照射強度分布である。Imaxは、Z軸方向の照射強度の最大値である。レーザ照射ヘッド50は、Z軸方向の照射強度が最大になるImaxの位置からZ軸の上下方向に照射強度が減少する照射強度分布となるように複数のレンズを調整する。
【0036】
Z1は、下方向(即ち、Z軸の負の方向)の50%照射強度(0.5×Imax)の位置である。また、Z2は、上方向(即ち、Z軸の正の方向)の50%照射強度(0.5×Imax)の位置である。Z1'は、下方向(即ち、Z軸の負の方向)の10%照射強度(0.1×Imax)の位置である。また、Z2'は、上方向(即ち、Z軸の正の方向)の10%照射強度(0.1×Imax)の位置である。
【0037】
最大強度ImaxのZ軸における位置をZ=0とする。最大強度ImaxがZ軸方向に略均一な場合が連続する場合は連続する最大強度Imaxと表現する。連続する最大強度ImaxのZ軸方向の下端部の位置をZLとすると、50%照射強度(0.5×Imax)の位置であるZ1は、
[数1]
ZL-Z1≧2mm
を満たすような照射強度分布を有する。即ち、最大強度Imaxの下方向に2mmの位置では照射強度が50%以上となるように照射強度の減少が抑えられる。これにより、得られた結晶棒2の急冷を緩和する。トップハット照射強度分布では最大強度Imaxの下方向に2mmの位置では照射強度がゼロとなり、得られた結晶棒2は急冷されてしまう。
【0038】
さらに、結晶棒2の溶融温度から室温付近の温度までの冷却速度を制御できる。M本の加熱レーザ光3によって形成されたZ軸の方向の照射強度分布は、第1方向の釣り鐘型の照射強度分布において、照射強度が最大値の10%となる上方向と下方向の幅をZとし、原料棒1が溶融した溶融帯4の第1方向の高さをHとしたとき、
[数2]
(Z-H)/2≧S
を満たすように複数のレンズを調整する。また、レーザ照射ヘッド50は、複数のレンズの個数を変化させることなく、レンズの間隔を調整することが好ましい。
【0039】
Sは、結晶成長速度(mm/時)である。Zを(2S+H)mmと設計すれば、成長した結晶棒2の溶融温度からの冷却時間を略1時間となるように設計したことになる。例えば、結晶成長速度を1時間あたり4mmとする。溶融帯4の高さH=5mmとする。Z=21mmの照射強度分布を有する釣り鐘型の加熱レーザの場合、得られた結晶は溶融温度TからT×0.1の温度までの冷却時間を2時間と設計したことになる。S=2mm/時間とすれば、冷却時間を4時間と設計したことになる。
【0040】
M個のレーザ照射ヘッド50は、結晶棒2の移動速度(即ち、結晶の成長速度)に応じて、釣り鐘型の照射強度分布を調整してよい。例えば、M個のレーザ照射ヘッド50は、結晶棒2の移動速度の増加に応じて、釣り鐘型の照射強度分布の勾配を緩やかにしてよい。また、M個のレーザ照射ヘッド50は、結晶棒2の移動速度の低下に応じて、釣り鐘型の照射強度分布の勾配を急峻にしてよい。M個のレーザ照射ヘッド50は、レンズ交換もしくはLの間隔を調整し、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布を調整する。
【0041】
図4は、加熱レーザ光3の長円形状の照射温度形状の実施例1の場合を示す。本例の照射強度分布は円形の光ファイバ40からの照射強度分布に基づいて計算したレンズ光学系のシミュレーション結果である。レンズ系の焦点距離等を適切に選択することにより、高精度の結果が得られる。同図より、加熱レーザ光3の照射温度形状が長円形状を有することが確認される。
【0042】
図5は、原料棒1のZ軸方向の照射強度分布の実施例を示す。本例のM本の加熱レーザ光3は、Z軸方向において、釣り鐘形状の照射強度分布を有する。
【0043】
釣り鐘形状とは、最大照射強度Imaxの位置Z=0を中心として上下方向になだらかに強度が減少する照射強度分布である。このような照射強度分布はガウス分布形状とも呼ばれる。特に、重要な点は、Z軸の下方向の傾斜である。この下方向のなだらかな傾斜を有するM本の加熱レーザ光3を用いることにより、成長した結晶棒2の上端部が成長速度をもって下降することに伴う溶融温度からの温度冷却を緩和する。下方向の照射強度の急峻な減少は成長した結晶棒の上端部が成長速度をもって下降することに伴う溶融温度からの急速冷却を引き起こす。
【0044】
照射強度分布がトップハット照射強度分布を有する方法では、連続するImaxの下端部から2mm程度で、照射強度はゼロとなる。50%照射強度は1mm程度もなく、Imaxから下方向に極めて急峻な温度勾配をもつ。50%の照射強度の位置Z1の照射強度が重要な理由は材料の溶融温度から溶融温度の半分(50%)の領域での温度勾配が得られた結晶への熱ひずみ現象に多大な影響を及ぼすからである。そのためにこの温度領域を作る照射強度100%から50%の照射強度分布が結晶棒に与える残留熱ひずみを緩和する上で決定的である。そのためにM本の加熱レーザ光3の照射強度分布は、下方向の強度減少がなだらかでなければならない。釣り鐘形状分布において最大強度Imaxの50%の位置Z1はImaxの位置Z=0から少なくとも2mm以上でなければならない。釣り鐘形状の照射強度分布の有利な点は、Imax付近の強度傾斜が小さい点である。この特徴は、溶融帯4と結晶棒2の境界近傍の照射強度分布の傾斜が小さいことから、この位置での温度傾斜が小さくできることを保証する。
【0045】
照射強度が0.5×Imaxの下方向での位置Z1は-6mmである。これにより結晶棒の室温近傍までの急速冷却を抑制できる。M本の加熱レーザ光3の照射強度分布が10%になるM本の加熱レーザ光3の幅Zは21mmである。成長速度が4mm/時の結晶成長速度の場合、((21-5)/2)/4=2時間で溶融温度×0.1の温度まで冷却される。成長速度を2mm/時間とすれば、冷却時間を4時間とすることができる。成長速度を1mm/時間とすれば、冷却時間を8時間とすることができる。第1の照射強度分布は、直線形型もしくは多角形型の照射強度分布を有してよい。また、第1の照射強度分布は、釣り鐘型の照射強度分布の一部と、直線形もしくは多角形型の照射強度分布の一部との組み合わせからなる照射強度分布を有してよい。
【0046】
以上、加熱レーザ光3は、Z軸方向における照射強度分布に所望の傾斜を付けることにより、結晶棒2への急速な冷却を緩和でき、熱ストレスのよる結晶のクラック発生を抑制できる。また、残留熱ひずみが結晶材料の物性特性に与える深刻な影響を緩和もしくは除去する。特に、熱伝導率の小さい絶縁性材料においては、Z軸方向における照射強度分布の傾斜は必須の要求である。
【0047】
ここで、径方向の照射強度分布は、原料棒1の直径Dと、X軸方向の略均一な照射強度分布を有する領域は結晶棒1が含まれることが好ましい。M本の加熱レーザ光3は、X軸方向において、略均一の照射強度分布を有する。一定の照射強度の長さをLとする。長さLは原料棒1の直径をWとしたとき、
[数2]
L≧W
を満たすように、複数のレンズを調整する。
【0048】
図6に実施例1の場合、Lは8mm長である。Wが5~6mm程度の原料棒1の直径に適した均一長である。さらに左右に±2mmのなだらかな照射強度分布を有している。この傾斜は原料棒1が左右に偏芯する場合の余裕度を上げる。
【0049】
図7は、放射温度計70-1による実測値の一例を示す。縦軸は溶融帯4の温度[℃]を示し、横軸は時刻を示す。原料棒1の材料は、NdMoである。NdMoは、1630℃付近で溶融する。溶融帯4の温度は、2時間経過すると1630℃から1620℃に10℃程度低下する。溶融帯4の温度変化は、溶融帯4を監視しているモニター画像では判別できない。溶融帯4の温度低下は、原料の蒸発による石英管6の内面への付着による、M本の加熱レーザ光3の透過光の減衰に起因する。石英管6の内面への付着物は、結晶作製後に確認できるが、結晶作製中に観察できない。本例では、放射温度計70を用いることにより、溶融帯4の温度変化を結晶作製中にモニターできる。これにより、単結晶育成装置100は、溶融帯4の温度変化に応じて、M本の加熱レーザ光3の強度を制御できる。即ち、単結晶育成装置100は、溶融帯4の温度のその場観察により、安定して結晶棒2を作製できる。
【0050】
放射温度計の温度再現性は、±1℃以内である。そのため、一度、溶融帯4の温度を確認できれば、次回以降は容易に材料を溶融温度に制御できる。単結晶育成装置100は、放射温度計70-1によるモニター温度が一定になるように、M本の加熱レーザ光3の強度を制御する。一例において、単結晶育成装置100は、原料材料からの蒸発物による溶融温度低下を検知し、電源10の印加電流を増加させ、溶融帯温度を一定に保つように制御する。本例の単結晶育成装置100は、M本の加熱レーザ光3の強度の制御により、溶融帯4の温度の低下を防止できる。
【0051】
なお、単結晶育成装置100は、溶融帯4の温度を自動制御してもよい。例えば、単結晶育成装置100は、放射温度計70-1の出力を検知し、加熱レーザ用の電源電流をPID制御すれば、溶融帯4の温度を±1℃以内で制御できる。このように、単結晶育成装置100は、放射温度計70-1を備えることが好ましい。
【0052】
図8は、レーザ光5の分割方法の一例を示す。1台のレーザ光分割装置30は、Y方向コリメータ31と、X方向コリメータ32と、分割ミラー33と、第1集光レンズ36と、第2集光レンズ37とを備える。これにより、1台のレーザ光源20が照射した1本のレーザ光5を5本の光ファイバ40に分割する。
【0053】
1台のレーザ光源20は、1本のレーザ光5を1台のレーザ光分割装置30に照射する。1台のレーザ光源20は、ヒートシンク25に接続されている。
【0054】
Y方向コリメータ31およびX方向コリメータ32は、1台のレーザ光源20からの1本のレーザ光5を平行光に変換する。Y方向コリメータ31およびX方向コリメータ32は、コリメータレンズの一例である。
【0055】
分割ミラー33は、入射した1本のレーザ光5をM本に分割する。本例の1台のレーザ光分割装置30は、1本のレーザ光5を5本に分割するために、4つの分割ミラー33を有する。一例において、分割ミラー33は、1本のレーザ光5の一部を反射し、それ以外を通過させることにより、1本のレーザ光5を分割する。
【0056】
第1集光レンズ36及び第2集光レンズ37は、分割ミラー33が分割したレーザ光5を、集光して光ファイバ40に入射する。第1集光レンズ36及び第2集光レンズ37は、光ファイバ40のビームパラメータプロダクト(BPP)の条件を満たして配置する。なお、レーザ光5を光ファイバ40に集光するレンズは、最小数の2枚の集光レンズである第1集光レンズ36及び第2集光レンズ37で構成したが、それ以上の集光レンズの組み合わせであってもよい。
【0057】
なお、分割ミラー33は、入射するレーザ光5と、分割ミラー33の垂直軸との角度を変更することなく移動するために、アクチュエータ等の機構を備えてよい。分割ミラー33がアクチュエータを備える場合、レーザ光5を分割する比率を自由に調整できる。そのため、1台のレーザ光分割装置30は、M本に分割されたレーザ光5のレーザ光強度が均一となるように制御できる。
【0058】
[実施例2]
図9は、M個の反射ミラーを有する単結晶育成装置100の構成の一例を示す。図10に示すようにM個の反射ミラー80は、M個のレーザ照射ヘッド50と原料棒1との間にそれぞれ設けられる。本例の場合、レーザ照射ヘッド50および原料棒1の間隔WDが160mmであり、レーザ照射ヘッド50とM個の反射ミラー80との距離dは77mmである。M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の少なくとも一部を反射する。これにより、M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布の形状の上下の照射光強度分布を非対称にする。例えば、Z軸方向における照射強度分布の形状を、非対称な釣り鐘型に調整する。また、M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の入射角度および反射ミラー80の高さを調整することにより、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整する。例えば、M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3のZ軸方向における照射強度分布の形状を、非対称な三角形又は非対称な多角形型の照射強度分布に調整してよい。M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布の形状を調整するM個の調整部の一例である。実施例2はM個の調整部は5個の反射ミラー80-1~80-5からなる。
【0059】
M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の上部に配置されてよい。M個の反射ミラー80が上部配置される場合、M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の上部を反射する。例えば、M個の反射ミラー80は、M本の加熱レーザ光3の上部を単結晶育成装置100の下方向に反射する。
【0060】
M個の反射ミラー80の材料は、M本の加熱レーザ光3を反射する材料であれば特に限られない。一例において、M個の反射ミラー80の材料は、銀である。銀で形成された反射ミラー80は、レーザ光5の波長が940nmの場合、97%以上の高い反射率を有する。M個の反射ミラー80の材料は、高温となる溶融帯4からの熱に影響されない材料であることが好ましい。また、M個の反射ミラー80は、高温となる溶融帯4からの熱に影響されない程度に、溶融帯4と離間して配置されることが好ましい。
【0061】
最大強度Imaxもしくは連続する最大強度Imaxの上端部の位置をZUとし、最大強度Imaxの上方向の50%照射強度(0.5×Imax)の位置をZ2とすると、
3mm≧Z2-ZU≧0mm
を満たすZ方向の上方向の照射強度分布になるように5個の反射ミラーの5本の加熱レーザ光3に対する角度、上部位置の高さが調整できる。
【0062】
なお、単結晶育成装置100は、M個の調整部として、M個の反射ミラー80の代わりに、M本の加熱レーザ光3を吸収するM個の吸収材料を用いてもよい。この場合、単結晶育成装置100は、M個の吸収材料の吸収量および高さを調整することにより、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整してよい。
【0063】
図11は、実施例2に係る加熱レーザ光3のZ軸方向の照射強度分布を示す。本例では、Z軸方向の照射強度分布と、X軸方向の照射強度分布のそれぞれを示す。図11において、Z=0は最大強度Imaxの位置である。
【0064】
上部の50%照射強度(0.5×Imax)の位置Z2は3mmである。溶融帯4の高さH=4mmの場合、溶融帯4の上端部はH=4mmの半分のZ=2mmである。溶融帯4の上端部から1mmの上方向の位置で照射強度はImaxの50%の急峻な照射強度となる。上部の10%照射強度(0.1×Imax)の位置Z2'は4mmである。この結果、溶融帯4の上端部から2mmの上方向の置で照射強度はゼロとなる。原料棒1の下端部がこのような温度勾配で急冷できることから、原料棒1への溶融液の吸い込みを抑制する。
【0065】
一方、下部側の50%照射強度(0.5×Imax)の位置Z1は-6mmである。溶融帯4の高さH=4mmの場合、溶融帯4の下端部は-2mmである。この結果、結晶棒2において、6-2=4mmのZ軸の溶融帯4の下端部から4mmの結晶棒2の部位で照射強度はImaxの50%の照射強度を有する。結晶成長速度が4mm/時間の場合、この間の冷却時間は1時間となる。下部側の10%照射強度(0.1×Imax)の位置Z1'は-6mmである。溶融帯4の高さH=4mmの場合、溶融帯4の下端部は-12mmである。この結果、結晶棒2において、12-2=10mmのZ軸の溶融帯4の下端部から10mmの結晶棒2の部位でのM本の加熱レーザ光3の照射強度はImaxの10%の照射強度を有する。結晶成長速度が4mm/時間の場合、この間の冷却時間は2.5時間となる。結晶成長速度を2mm/時間とすれば、この冷却時間は5時間である。結晶棒2の上端部がこのような温度勾配で徐冷できることから、結晶棒2への残留熱歪を抑制する。
【0066】
[実施例3]
図12は、実施例3に係る反射ミラー80の下部配置の一例を示す。図13は、実施例3に係る加熱レーザ光3の下部配置の場合の照射強度分布を示す。図13では、Z軸方向の照射強度分布と、X軸方向の照射強度分布とを示す。X軸方向の長さ10mm、Z軸方向の長さ10mmの矩形形状で、この矩形形状の照射強度分布は均一なトップハット形状の照射強度分布を有する加熱レーザ光3の下部にミラーを配置する。Z軸方向の上端部照射形状はもともとのトップハット照射強度分布に従い直線状の急峻な減少を実現する。高さ約4mm幅で略均一な強度分布を有し、その後6mmの高さにわたって、なだらかに照射強度が減少する。X方向の照射強度分布は10mmの均一な照射強度を有する。M個の反射ミラー80をM本の加熱レーザ光3の下部に配置し、光の回折効果を利用することによりZ軸の下方向になだらかな照射強度分布を実現できる。
【0067】
[実施例4]
図14は、調整前の照射強度分布の一例を示す。本例のレーザ照射ヘッド50は、Z軸調整用レンズ38およびX軸調整用レンズ39を備える。Z軸調整用レンズ38およびX軸調整用レンズ39は、加熱レーザ光3の照射強度分布を調整するための調整用レンズの一例である。本例のレーザ照射ヘッド50は、Z軸調整用レンズ38をM本の加熱レーザ光3の光軸より下方向にずらしてコマ収差を発生させる。これにより、レーザ照射ヘッド50は、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整する。例えば、本例のレーザ照射ヘッド50は、照射強度分布の下方向の傾斜が緩やかになるように調整する。
【0068】
Z軸調整用レンズ38は、Z軸方向に曲率を有する。レーザ照射ヘッド50は、Z軸調整用レンズ38の位置を調整することにより、加熱レーザ光3の形状を調整できる。例えば、レーザ照射ヘッド50は、Z軸調整用レンズ38の位置を制御することにより、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整する。図14のグラフは、1枚のZ軸調整用レンズ38の光軸を下方向にシフトした場合に得られる加熱レーザ光3の照射強度分布を示す。即ち、加熱レーザ光3の光軸に対してZ軸調整用レンズ38の光軸を平行に下方向にシフトする。Z軸方向の上端部照射形状は直線状の急峻な減少を実現する。Z軸のZ=-8mmにわたって、なだらかに照射強度が減少する。
【0069】
図15は、(X,Z)面での照射強度のシミュレーション図を示す。図15のグラフは、Z軸方向の加熱レーザ光3の照射強度(%)およびX軸方向の加熱レーザ光3の照射強度(%)を示す。X軸方向の加熱レーザ光3の照射強度(%)は、±4mmの幅で略均一な照射強度を有する。
【0070】
X軸調整用レンズ39は、X軸方向に曲率を有する。これにより、レーザ照射ヘッド50は、X軸方向の略均一な照射強度を有する照射強度分布になるように調整できる。
【0071】
実施例4は、反射ミラー80を用いることなく、レーザ照射ヘッド50を構成する複数のレンズの配置を変更することにより、予め定められたZ軸方向の照射強度分布を実現できる。また、複数のレンズを交換することなく、複数のレンズの位置を調整することにより照射強度分布の下方向の傾斜を調整できる。
【0072】
[実施例5]
図16は、Z軸方向の照射強度分布の調整方法の一例を示す。本例のレーザ照射ヘッド50は、複数の調整用レンズのうち1枚もしくは複数枚の調整用レンズのZ軸とM本の加熱レーザ光3の光軸とのなす角を鋭角とするように、複数の調整用レンズのうち1枚もしくは複数枚の調整用レンズのZ軸を回転させる。コマ収差を発生させることにより、第1の照射強度分布の非対称形状を調整する。これにより、レーザ照射ヘッド50は、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整する。例えば、本例のレーザ照射ヘッド50は、照射強度分布の下方向の傾斜が緩やかになるように調整する。
【0073】
X軸調整用レンズ39は、X軸方向に曲率を有する。これにより、レーザ照射ヘッド50は、X軸方向の略均一な照射強度を有する照射強度分布になるように調整できる。
【0074】
実施例5は、反射ミラー80を用いることなく、レーザ照射ヘッド50を構成する複数のレンズの配置を変更することにより、予め定められたZ軸方向の照射強度分布を実現できる。また、複数のレンズを交換することなく、複数のレンズの位置を調整することにより照射強度分布の下方向の傾斜を調整できる。
【0075】
[実施例6]
図17は、Z軸方向の照射強度分布の調整方法の一例を示す。本例の加熱レーザ光3の光軸をレーザ照射ヘッド50の光軸に対して下方向に傾けて入射し、コマ収差を発生させることにより、第1の照射強度分布の非対称形状を調整する。これにより、レーザ照射ヘッド50は、Z軸方向における照射強度分布の非対称形状を調整する。例えば、本例のレーザ照射ヘッド50は、照射強度分布の下方向の傾斜が緩やかになるように調整する。
【0076】
X軸調整用レンズ39は、X軸方向に曲率を有する。これにより、レーザ照射ヘッド50は、X軸方向に略均一な照射強度分布を有するように調整できる。
【0077】
実施例6は、反射ミラー80を用いることなく、レーザ照射ヘッド50を構成する複数のレンズの配置を変更することにより、予め定められたZ軸方向の照射強度分布を実現できる。また、複数のレンズを交換することなく、複数のレンズの位置を調整することにより照射強度分布の下方向の傾斜を調整できる。
【0078】
本例の単結晶育成装置100は、溶融帯4から原料棒1への吸い込みを抑制することにより、溶融帯4の直径の狭幅化や原料棒1の直径の増大を抑制し、溶融帯4を安定化させる。また、本例の単結晶育成装置100は結晶棒2への残留熱歪を緩和させ、クラックフリーで、良質な物性特性の単結晶を提供できる。
【0079】
なお、図14から図17で示したZ軸調整用レンズ38は、シリンドリカルレンズ又は複数のレンズ群で構成されてよい。
【0080】
本例の単結晶育成装置100は、溶融帯4から原料棒1への吸い込みを抑制することにより、溶融帯4の直径の狭幅化や原料棒1の直径の増大を抑制し、溶融帯4を安定化させる。また、本例の単結晶育成装置100は結晶棒2への残留熱歪を緩和させ、クラックフリーで、良質な物性特性の単結晶を提供できる。
【0081】
なお、本明細書において、実施例2および3において、M個の調整部としてM個の反射ミラー80を用いる場合について説明した。但し、単結晶育成装置100は、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布を調整できるものであれば、任意の調整部を用いてよい。例えば、単結晶育成装置100は、原料棒1の近傍にスリットが設けられた透過防止用材料をM個の調整部として備える。また、単結晶育成装置100は、凹凸形状の反射鏡を用いたホログラム法により、M本の加熱レーザ光3の照射強度分布を調整してよい。さらに、単結晶育成装置100は、M個のレーザ照射ヘッド50内に光路差を設け、反射鏡を用いた干渉法により、照射強度分布を調整してよい。
【0082】
また、実施例4~5において調整部を用いることなく照射ヘッドのレンズの配置を設計することによりM本の加熱レーザ光3のZ軸方向の照射形状を非対称照射形状分布にする方法を述べた。また、実施例6において調整部を用いることなく加熱レーザ光3の光軸をレーザ照射ヘッド50のレンズの光軸から下方向に傾けて配置することにより、M本の加熱レーザ光3のZ軸方向の照射形状を非対称照射形状分布にする方法を述べた。これらの方法は調整部を使わない、また、M本の加熱レーザ光3を反射しないことからM本の加熱レーザ光3のロスを小さくできる点で優れる。
【0083】
以上説明したように、単結晶育成装置100は、次の特徴を有するM本の加熱レーザ光3を生成して原料棒1および結晶棒2に照射する。
【0084】
(1)単結晶育成装置100は、Z軸方向において、結晶棒2の上端部の照射強度分布が緩やかに減少するM本の加熱レーザ光3を生成する。
【0085】
(2)単結晶育成装置100は、Z軸方向において、原料棒1の下端部の照射強度分布が急峻に減少するM本の加熱レーザ光3を生成する。
【0086】
(3)単結晶育成装置100は、Z軸方向において、結晶棒2の上端部の照射強度分布が緩やかに減少するM本の加熱レーザ光3を生成し、原料棒1の下端部の照射強度分布が急峻に減少するM本の加熱レーザ光3を生成する。単結晶育成装置100は、簡便に照射強度分布を調整できるM個のレーザ照射ヘッド50を備えてよい。
【0087】
(4)単結晶育成装置100は、Z軸方向において、結晶棒2の上端部の照射強度分布が緩やかに減少するM本の加熱レーザ光3を生成し、原料棒1の下端部の照射強度分布が急峻に減少するM本の加熱レーザ光3を生成する。単結晶育成装置100は、簡便に照射強度分布を調整できるM個の反射ミラー80を備えてよい。
(5)M本の光ファイバ40は、円形断面形状を有するファイバで上記(1)~(4)の照射強度分布のM本の加熱レーザ光3を生成できる。原料棒1の中心軸方向であるZ軸方向かつ径(X方向もしくはR方向)方向が略均一の照射強度分布を有する加熱レーザ光は、高価な矩形断面の矩形ファイバを必要とする。円形ファイバは安価であるので、コストダウンのメリットも大きい。
【0088】
(6)M個のレーザ照射ヘッド50は、上記(1)~(4)の照射強度分布を、少ないレンズ枚数で調整できる。これにより、M個のレーザ照射ヘッド50のコストが低減される。また、M個のレーザ照射ヘッド50のサイズが小さくなり、単結晶育成装置100の装置サイズも小さくできる。例えば、単結晶育成装置100の装置サイズは、従来の装置サイズ幅1400mm、奥行き1600mmに対して、幅1100mm、奥行き1100mm程度になる。
【0089】
(7)単結晶育成装置100は、溶融帯4の半径0.5mmφ程度の小さな領域の温度を結晶成長中にモニターできる。これにより、溶融帯4の温度を精度よく制御でき、単結晶を安定して成長させるための技術を提供する。また、成長中の結晶棒2の上端部の領域の温度を結晶成長中にモニターできる。この結果、単結晶成長時の溶融温度設定の再現性を確保でき、結晶棒2の冷却速度をモニターでき、高品質の単結晶作製への重要な生産技術が提供される。
【0090】
(8)M本の加熱レーザ光3は、2台の電源10と1台のレーザ光分割装置30で形成される。従来の装置では5本の加熱レーザ光3のために、5台の電源、5台のレーザ光源が必要である。5台のレーザ光源への5本の冷却水の供給が必要である。1台のレーザ光分割装置30を有する単結晶育成装置100の場合、電源10は2台でよい。本体レーザを大きなワット数の半導体レーザを1個用意すればよい。この結果、1台当たり数百万円する高価なレーザ光源のコストを低減できる。半導体レーザには水冷機構や乾燥エアーが必要である。5台のレーザ光源への冷却水は5本の配水、5本の戻り水流量調整などの複雑な調整が不要となる。特に戻り水の温度を5台のダイオードで個別に制御できない。5台のレーザ光源を個別に温度制御するには5台のチラーが必要になってしまう。レーザ光源の冷却温度の精度が確保できないことはレーザ光の出力強度の安定性、再現性に大きな影響を与える。レーザ光を発生する半導体ダイオードの温度による出力強度依存性は大きいことによる。レーザ光源の付着水を防止するための乾燥ガスの複雑な配管も必要なくなる。このように、必要な周辺装置の個数を激減でき、大きなコストメリットをもたらす。単結晶育成装置100は、1台のレーザ光源20の高い温度精度での制御が可能になり、M本の加熱レーザ光3の照射強度の温度依存性を向上させる。
【0091】
また、1台のレーザ光分割装置30により分割する方法は、5本の照射光のばらつきを簡単に抑えられる。5%程度まで調整できる。複数のレーザ光の場合、半導体レーザ特性の個体差が存在する。このため、加熱レーザ光のばらつきを10%以下に抑えることが困難である。また、ばらつき量は使用時間とともに変化していく。このように、多数個の半導体レーザを用いる場合、特性のばらつきが抑えられず結晶作製に深刻な問題が生じる。いくら原料棒1のX軸方向に均一性を確保しても、そもそもの照射強度分布に照射強度のばらつきを低減できない。本例の単結晶育成装置100は、1台のレーザ光源20を1台のレーザ光分割装置30により分割するので、原理的にM本の加熱レーザ光3の照射強度のばらつきが生じないばかりでなく経時変化によるばらつきを発生させない。
【0092】
以上、加熱レーザ光方式の単結晶育成装置100は、トップハット照射強度の照射強度分布を有する従来のレーザ加熱方式にない特徴を有する。即ち、単結晶育成装置100は、成長した単結晶への熱歪を大幅に軽減できる。結晶成長時間を考慮しつつ、育成した結晶への冷却時間を制御できることは、単結晶育成に欠かせない技術である。従来のトップハット照射形状の照射強度分布の照射強度分布をもつ加熱レーザ方式は得られた結晶棒2の急速冷却環境を避けられない。結晶棒2への大きな残留ひずみを与えることは自明であり、結晶作製技術の上で大変深刻な問題を抱えている。
【0093】
加熱レーザ光方式の単結晶育成装置100は、成長した単結晶への熱歪を大幅に軽減できると同時に、原料棒への溶融液の吸い込み抑制を実現する。これにより、溶融帯の安定性を損なうことなく、成長した単結晶への熱歪を大幅に軽減できる。
【0094】
本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0095】
1・・・原料棒、2・・・結晶棒、3・・・加熱レーザ光、4・・・溶融帯、5・・・レーザ光、6・・・石英管、10・・・電源、20・・・レーザ光源、25・・・ヒートシンク、30・・・レーザ光分割装置、31・・・Y方向コリメータ、32・・・X方向コリメータ、33・・・分割ミラー、36・・・第1集光レンズ、37・・・第2集光レンズ、38・・・Z軸調整用レンズ、39・・・X軸調整用レンズ、40・・・光ファイバ、50・・・レーザ照射ヘッド、60・・・ダンパ、70-1・・・放射温度計、70-2・・・放射温度計、80・・・反射ミラー、100・・・単結晶育成装置、500・・・単結晶育成装置、501・・・原料棒、502・・・結晶棒、503・・・加熱レーザ光、504・・・溶融帯、540・・・光ファイバ、550・・・レーザ照射ヘッド
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図16
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