(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】インキディスペンサ
(51)【国際特許分類】
B41F 31/02 20060101AFI20220218BHJP
B41F 33/00 20060101ALI20220218BHJP
B01F 35/83 20220101ALI20220218BHJP
B01F 35/71 20220101ALI20220218BHJP
F04B 13/02 20060101ALI20220218BHJP
F04B 13/00 20060101ALI20220218BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20220218BHJP
【FI】
B41F31/02 Z
B41F33/00 246
B41F33/00 234
B01F15/04 B
B01F15/02 A
B01F15/04 D
F04B13/02
F04B13/00 A
C09D11/02
(21)【出願番号】P 2020117251
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 利信
(72)【発明者】
【氏名】石橋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 高博
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】荒井 崇行
(72)【発明者】
【氏名】島田 雅樹
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-178334(JP,A)
【文献】特表2002-501463(JP,A)
【文献】特開平10-035199(JP,A)
【文献】特開2007-069143(JP,A)
【文献】米国特許第5934344(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/02
B41F 33/00
B01F 15/04
B01F 15/02
F04B 13/02
F04B 13/00
C09D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の原料インキと所定量の溶剤とを混合することによって、印刷装置で使用される印刷インキを調合するインキディスペンサであって、
容器が載置されるテーブルと、
色別に前記テーブルの上方に配置される複数の吐出部と、
前記吐出部の各々に、インキ缶から前記原料インキを供給する複数のインキ供給部と、
前記吐出部の各々に、溶剤缶から前記溶剤を供給する1つの溶剤供給部と、
前記吐出部、前記インキ供給部、および前記溶剤供給部の各々の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記吐出部の各々は、
前記容器の中に前記原料インキを吐出するインキノズルと、
前記容器の中に溶剤を吐出する溶剤ノズルと、
を有し、
前記インキノズルの先端部分に、前記溶剤を送液可能な洗浄配管が接続されていて、
前記制御部が、前記所定量の前記原料インキを前記インキノズルから吐出した後に、前記所定量の一部を残して前記溶剤を前記溶剤ノズルから吐出し、かつ、前記洗浄配管を通じて残部の前記溶剤を送液することにより、前記インキノズルから当該溶剤を吐出するインキディスペンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のインキディスペンサにおいて、
前記インキノズルは、
有色の前記原料インキを吐出する第1ノズルと、
無色の前記原料インキを吐出する第2ノズルと、
を有し、
前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの各々の先端部分に、前記洗浄配管が分岐して接続されていて、
前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの双方から前記溶剤を同時に吐出するインキディスペンサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインキディスペンサにおいて、
前記溶剤供給部が、ダイヤフラムポンプによって前記吐出部に前記溶剤を送液し、
前記溶剤ノズルの先端に、多孔質な溶剤吐出口が取り付けられているインキディスペンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のインキディスペンサにおいて、
前記制御部が、
前記印刷装置で印刷した時に目標とされる前記印刷インキの色と、
前記印刷装置で印刷された後に実測される前記印刷インキの色と、
前記印刷装置で使用されている前記印刷インキの量と、
に基づいて、調合する前記原料インキの所定量および前記溶剤の所定量を算出するインキディスペンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のインキディスペンサにおいて、
前記インキノズルの先端には、フッ素樹脂製のインキ吐出口が着脱可能に取り付けられているインキディスペンサ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載のインキディスペンサにおいて、
前記インキ供給部が、前記原料インキを送液するホースが基端部に接続され、かつ、先端部から前記インキ缶に挿入される吸引管を有し、
前記吸引管の先端部に、前記インキ缶に挿入した状態で開閉可能なバルブが取り付けられているインキディスペンサ。
【請求項7】
請求項6に記載のインキディスペンサにおいて、
前記インキ缶は、
内部に貯まる前記原料インキの液位を計測する液位計と、
挿入された前記吸引管を所定位置に支持する管支持部と、
を有し、
前記液位が前記バルブの近傍まで下降した時に、前記液位計から前記制御部に信号が出力されるインキディスペンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、グラビア印刷などで使用されるインキの調合に好適なインキディスペンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グラビア印刷などでは、印刷対象ごとに色見本が設定されている。同じような色でも、その色調は、個々の印刷対象によって異なる。そのため、印刷を行う場合には、使用するインキを、色見本と同じ色で印刷できるように、精度高く調合する必要がある(色合わせ)。
【0003】
そのような色合わせには、「特色」と「プロセス」と称する方法がある。特色では、様々な色の原料インキを混ぜ合わせて、インキを、色見本と同じ色に調合する。そのインキで印刷することで、印刷対象に色見本と同じ色を再現する。
【0004】
対して、プロセスでは、通常、シアン(藍:C)、マジェンダ(紅:M)、イエロー(黄:Y)、ブラック(黒:K)の色のインキを、メジウム、または、レジューサーと呼ばれる体質顔料と樹脂のみを含む無色のインキにより希釈し、更に多色刷りにより、印刷時にこれらの色を網点で組み合わせることで、印刷対象に色見本と同じ色を再現する。
【0005】
プロセスの場合、各色のインキのメジウムによる希釈率(以下、インキの濃度と表記する)が印刷対象ごとに異なる。従って、プロセスでは、各色の原料インキを、色見本と同じ濃度に調合することで色合わせを行う。
【0006】
このような色合わせは、熟練したオペレータの手作業によって行われているのが一般的である。そのため、色合わせには、高度な技能が求められるし、時間もかかる。また、色合わせは、印刷物を色見本と比較して判断するので、色合わせに時間がかかると、印刷ロスが増える。そのため、印刷業界では、色合わせの容易化と、その時間短縮が要望されている。
【0007】
色合わせに関する先行技術は、例えば、特許文献1~3に開示されている。特許文献1および特許文献2には、特色によるインキの調合を自動化する技術が開示されている。特許文献3には、印刷されたインキ(乾燥したインキ)の色を印刷中に監視して、その色に所定の補正用乗数を適用することにより、塗布するインキ(湿潤したインキ)の量を補正するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-227461号公報
【文献】特表2019-520212号公報
【文献】特表2018-506458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、少ロットの印刷が増加し、それに伴って印刷の切換回数が増加傾向にある。印刷の終了時には、印刷装置に、多量のインキが残存する。コスト削減のために、通常、残存した各色のインキは、廃棄せずに、次の印刷に再利用される。
【0010】
しかし、上述したように、使用するインキの濃度は、印刷対象ごとに異なる。
【0011】
従って、印刷の切替時の色合わせは難しい。残存するインキを効率よく再利用するためには、濃度が大きく変化したインキを、短時間で適切な濃度に調合し、しかも、印刷した状態で、色見本と同じ色を再現することが要求される。
【0012】
その点、特許文献1や特許文献2に提案されている技術を利用すれば、インキの調合を自動化できるが、いずれも装置の構造が複雑である。そのため、実施に高額な費用を要する。また、インキを調合する工程も複雑で、インキの調合に時間がかかる。
【0013】
特に、原料インキは、粘度が高く、しかも、直ぐに乾燥して固化する。そのため、原料インキは取り扱いが難しく、インキの調合を、頻度高く行う場合には、高い精度を確保するのは難しい。
【0014】
そこで、開示する技術の主たる目的は、安価かつ簡易な構造でありながら、色合わせが精度高く行えるインキディスペンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
開示する技術は、所定量の原料インキと所定量の溶剤とを混合することによって、印刷装置で使用される印刷インキを調合するインキディスペンサに関する。
【0016】
前記インキディスペンサは、容器が載置されるテーブルと、色別に前記テーブルの上方に配置される複数の吐出部と、前記吐出部の各々に、インキ缶から前記原料インキを供給する複数のインキ供給部と、前記吐出部の各々に、溶剤缶から前記溶剤を供給する1つの溶剤供給部と、前記吐出部、前記インキ供給部、および前記溶剤供給部の各々の動作を制御する制御部と、を備える。前記吐出部の各々は、前記容器の中に前記原料インキを吐出するインキノズルと、前記容器の中に溶剤を吐出する溶剤ノズルと、を有している。
【0017】
前記インキノズルの先端部分に、前記溶剤を送液可能な洗浄配管が接続されている。そして、前記制御部が、前記所定量の前記原料インキを前記インキノズルから吐出した後に、前記所定量の一部を残して前記溶剤を前記溶剤ノズルから吐出し、かつ、前記洗浄配管を通じて残部の前記溶剤を送液することにより、前記インキノズルから当該溶剤を吐出する。
【0018】
すなわち、このインキディスペンサでは、テーブルの上に載置した容器に、無色を含む色別に複数設けられた吐出部のいずれかから、グラビア印刷などを行う印刷装置で使用されるインキ(印刷インキ)を調合するために、所定量の原料インキおよび溶剤を吐出する。印刷インキの濃度を薄く場合は、無色の原料インキ(メジウム)と溶剤を、所定量、吐出する。印刷インキの濃度を濃くする場合は、有色の原料インキと溶剤を、所定量、吐出する。
【0019】
原料インキを吐出するインキノズルの先端部分には、溶剤を送液可能な洗浄配管が接続されている。そして、印刷インキの調合時には、原料インキは所定量吐出するが、溶剤については、そのまま所定量を吐出するのではなく、一部を残して吐出する。そうして、原料インキの吐出後に、洗浄配管を通じて残部の溶剤を送液し、インキノズルから溶剤を吐出する。
【0020】
原料インキは、粘度が高く、ドロッとしている。従って、円滑に吐出して高精度な定量性を確保するためには、インキノズルの先端部分は、ある程度の大きさで流路断面が一様な管路が必要である。それに対し、原料インキは、直ぐに乾燥して固化するため、その管路に原料インキが固着して管路が狭まり、原料インキの定量性が低下するという問題がある。
【0021】
そのため、インキノズルで原料インキを吐出した後に、溶剤を吐出することが考えられるが、溶剤は粘度が低いので、原料インキに適した管路で吐出させると、飛散する。そのため、周辺環境が悪化し、溶剤の定量性が確保できなくなるという新たな問題が発生する。
【0022】
それに対し、このインキディスペンサでは、原料インキを吐出した後、溶剤の一部を利用して、インキノズルの先端部分を、溶剤で洗浄する。従って、溶剤の飛散を抑制でき、原料インキの固着による管路の狭まりも抑制できる。その結果、安価かつ簡易な構造でありながら、色合わせが精度高く行える。
【0023】
前記インキディスペンサはまた、前記インキノズルは、有色の前記原料インキを吐出する第1ノズルと、無色の前記原料インキを吐出する第2ノズルと、を有し、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの各々の先端部分に、前記洗浄配管が分岐して接続されていて、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの双方から前記溶剤を同時に吐出する、としてもよい。
【0024】
そうすれば、配管構成の工夫だけで、双方のインキノズルをまとめて洗浄できるので、ポンプなどの高価な部材を共用でき、構造の簡素化も実現できる。
【0025】
前記インキディスペンサはまた、前記溶剤供給部が、ダイヤフラムポンプによって前記吐出部に前記溶剤を送液し、前記溶剤ノズルの先端に、多孔質な溶剤吐出口が取り付けられている、としてもよい。
【0026】
ダイヤフラムポンプであれば、粘度の高い原料インキを安定して送液でき、しかも、安価である。従って、安価と高精度とを両立できる。
【0027】
その一方で、ダイヤフラムポンプの場合、送液時に脈動が発生する。そのため、ダイヤフラムポンプで、粘度の低い溶剤を送液して吐出すると、脈動に起因して、溶剤が大きく飛散する。また、容器内の液位が高くなると、断続的に流下する溶剤により、容器からインキが飛散する。
【0028】
それに対し、このインキディスペンサでは、溶剤ノズルの先端に、多孔質な溶剤吐出口が取り付けられているので、ダイヤフラムポンプで送液しても溶剤の飛散を抑制できる。また、送液の開始直後は、送液経路の緩衝作用によって脈動が緩和される。従って、少量の溶剤を吐出するだけであれば、ダイヤフラムポンプでも、飛散を抑えた状態で溶剤を吐出できる。従って、溶剤についても、高い精度を確保できる。
【0029】
前記インキディスペンサはまた、前記制御部が、前記印刷装置で印刷した時に目標とされる前記印刷インキの色と、前記印刷装置で印刷された後に実測される前記印刷インキの色と、前記印刷装置で使用されている前記印刷インキの量と、に基づいて、調合する前記原料インキの所定量および前記溶剤の所定量を算出する、としてもよい。
【0030】
インキディスペンサは、印刷の開始時や切替時など、色合わせが必要になった時に使用されるので、使用頻度は高くない。そのため、インキディスペンサは、高精度であっても、高価格では実用化は困難である。従って、インキディスペンサは、複数の印刷装置で共用するのが好ましい。
【0031】
それに対し、このインキディスペンサでは、制御装置が、印刷装置で印刷した時に目標とされる前記印刷インキの色と、印刷装置で印刷された後に実測される印刷インキの色と、印刷装置で使用されている印刷インキの量とに基づいて、調合する原料インキ(有色または無色の原料インキ)の所定量を算出する。従って、複数の印刷装置で共用しても、精度高く色合わせが行える。
【0032】
前記インキディスペンサはまた、前記インキノズルの先端には、フッ素樹脂製のインキ吐出口が着脱可能に取り付けられている、としてもよい。
【0033】
インキ吐出口の素材をフッ素樹脂とすることで、粘度の高い原料インキでも、付着を抑制して円滑に吐出することができる。そして、インキ吐出口に原料インキが固着しても、インキ吐出口を取り外して容易に除去できる。
【0034】
前記インキディスペンサはまた、前記インキ供給部が、前記原料インキを送液するホースが基端部に接続され、かつ、先端部から前記インキ缶に挿入される吸引管を有し、前記吸引管の先端部に、前記インキ缶に挿入した状態で開閉可能なバルブが取り付けられている、としてもよい。
【0035】
原料インキが残り少なくなると、インキ缶を交換する必要がある。その場合、吸引管をインキ缶から抜き出す必要がある。そのとき、吸引管に空気が吸い込まれると、原料インキの定量性が低下する。それに対し、この吸引管の場合、インキ缶を交換する時に、インキ缶に挿入した状態で操作棒を操作してバルブを閉じることができる。従って、吸引管への空気の吸い込みが防止できる。
【0036】
前記インキディスペンサはまた、前記インキ缶は、内部に貯まる前記原料インキの液位を計測する液位計と、挿入された前記吸引管を所定位置に支持する管支持部と、を有し、前記液位が前記バルブの近傍まで下降した時に、前記液位計から前記制御部に信号が出力される、としてもよい。
【0037】
そうすれば、原料インキの液位がバルブよりも下がる前に、警報等を発することができるので、吸引管への空気の吸い込みをよりいっそう確実に防止できる。
【発明の効果】
【0038】
開示する技術によれば、安価かつ簡易な構造でありながら、色合わせが精度高く行えるインキディスペンサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図2】インキディスペンサの具体例を示す概略図である。
【
図5】有色インキ、無色インキ、および溶剤の各々での、インキ供給部と吐出部との間を接続している配管構成図である。
【
図6】ダイヤフラムポンプの構造を模式的に示す図である。
【
図7】ダイヤフラムポンプの駆動時の動作を模式的に示す図である。
【
図8】制御ユニットとその主な関連機器との関係を示すブロック図である。
【
図10】印刷インキの調合の流れを例示する図である。
【
図11】インキ缶等の変形例を示す概略斜視図である。中図はインキ缶等の上面図である。上図は、中図の矢印A2-A2での概略斜視図であり、下図は、中図の矢印A1-A1での概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0041】
<印刷装置>
図1に、印刷現場の一例を概略的に示す。
図1に示す印刷現場には、グラビア印刷を行う複数の印刷システム1A,1B,1Cが設置されている。各印刷システム1A,1B,1Cの一端には、ロール状態からウェブWを巻き出す巻出装置1aが配置され、その他端には、ウェブWをロール状態に巻き取る巻取装置1bが備えられている。そして、これらの間に、複数の印刷装置1cが直列に配置されている。
【0042】
巻出装置1aから巻取装置1bまでの間で、各印刷装置1cで、ウェブWを搬送しながら、異なる色のインキを用いて印刷が行われる(多色刷り)。プロセスの場合であれば、これら印刷装置1cの各々で、シアン(藍:C)、マジェンダ(紅:M)、イエロー(黄:Y)、ブラック(黒:K)の色のインキが使用される。使用する色の種類が増えれば、それだけ印刷装置1cも増加する。着色用ではなく、コーティング用の印刷装置1cを含む場合もある。
【0043】
図1に拡大して示すように、各印刷装置1cは、印刷機構2、インキ循環供給機構3、ドライヤー4などで構成されている。印刷機構2は、ファニッシャーロール2a、版胴2b、圧胴2c、ドクターブレード2dなどで構成されている。インキ循環供給機構3は、インキパン3a、インキタンク3b、粘度コントローラ3cなどで構成されている。なお、印刷装置1cの構成は一例である。
【0044】
印刷時には、インキ循環供給機構3が、印刷機構2にインキを循環供給しながら、印刷機構2が、搬送されているウェブWに印刷する。印刷されたウェブWは、ドライヤー4で乾燥された後、次の印刷装置1cに搬送されていく。
【0045】
具体的には、インキタンク3bは、印刷に使用されるインキ(印刷インキIe)を貯留する。粘度コントローラ3cは、循環する印刷インキIeの粘度を調整する。インキ循環供給機構3は、インキパン3aに所定量の印刷インキIeが保持されるように、印刷インキIeを循環させる。ファニッシャーロール2aは、回転する版胴2bに接触し、かつ、インキパン3aの上で印刷インキIeに浸かった状態で回転する。
【0046】
それにより、版胴2bとファニッシャーロール2aとが接触している部位に、印刷インキIeの液溜まりが形成されて、版胴2bの外周に刻まれている凹版に印刷インキIeが付着する。余分に付着した印刷インキIeは、ドクターブレード2dによって掻き落とされる。ウェブWは、ドクターブレード2dよりも版胴2bの回転方向の下流側で、版胴2bと圧胴2cとの間に圧着した状態で搬送される。凹版に付着した適量の印刷インキIeは、その圧着部位でウェブWに転写される。
【0047】
印刷インキIeが転写されたウェブWは、複数のガイドローラで案内された状態で、ドライヤー4の内部を通過する。その過程で、印刷インキIeが乾燥し、ウェブWに固着する。そうして、印刷インキIeはウェブWに印刷される。
【0048】
印刷が終了した場合には、版胴2bやファニッシャーロール2aの取り替えとともに、印刷機構2の洗浄が行われる。その洗浄作業では、洗浄機構(不図示)から所定量の溶剤Sが版胴2b等に供給される。オペレータが直に溶剤Sを供給してもよい。その溶剤Sで、版胴2bやファニッシャーロール2aに付着した印刷インキIeをインキパン3aに洗い落とす。そうして、溶剤Sが混入した印刷インキIeは、インキタンク3bに回収される。
【0049】
プロセスの場合、各色のインキで印刷される網点を組み合わせることにより、様々な色合いを再現する。その各色のインキの濃度は、印刷対象(色見本)ごとに異なる。例えば、同じシアンであっても、印刷対象が異なれば、その色調は異なる。従って、印刷対象が変わる度に、換言すれば、印刷の切替が行われる度に、印刷インキIeの濃度を、その印刷対象に求められる色に合わせる、色合わせが行われる。
【0050】
印刷対象に求められる色、つまり印刷装置1cで印刷した時に目標とされる印刷インキIeの色は、具体的な色見本や、所定の濃度を示す数値データとして予め提示される。そして、この印刷システム1A,1B,1Cでは、
図1に拡大して示すように、各印刷装置1cにおいて、印刷部位から外れたウェブWの縁に、各印刷装置1cでベタ塗りされたカラーパターンCpが印刷される。そのカラーパターンCpの色を計測するために、各印刷システム1A,1B,1Cには、測色計5が設置されている。測色計5が無い場合には、ハンディタイプの測色計で計測してもよい。
【0051】
そして、これら印刷システム1A,1B,1Cでの色合わせの容易化と、その時間短縮を図るために、各印刷装置1cで使用される印刷インキIeを調合するインキディスペンサ10が、これら印刷システム1A,1B,1Cに付設されている。
【0052】
<インキディスペンサ10>
図2に、インキディスペンサ10の具体例を示す。
図2の左図は、インキディスペンサ10を正面から見た図であり、
図2の右図は、インキディスペンサ10を、その左側方から見た図である。インキディスペンサ10には、テーブル20、カバー30、3つの吐出部40、4つのインキ供給部50、1つの溶剤供給部51、制御盤70などが備えられている。
【0053】
(テーブル20)
テーブル20は、天板21、ピラー22、サイドビーム23、リアビーム24、支持プレート25などからなり、ステンレスなどの素材を用いて形成されている。天板21は、略水平に配置される矩形板状の部材である。インキディスペンサ10の使用時には、天板21の上に、二点鎖線で示すような、カップ状の容器Rが載置される。
【0054】
左右に長い天板21の四隅に4本のピラー22が取り付けられていて、これらピラー22が下方に延びている。各ピラー22の下端部には、ストッパー付きの車輪が取り付けられている。天板21の左側および右側の各々において、前後に並ぶ2つのピラー22,22の下端部の間にサイドビーム23が架設されている。天板21の後側において、左右に並ぶ2つのピラー22,22の下端部の間にリアビーム24が架設されている。支持プレート25は、横長な帯板状の部材からなり、リアビーム24および左右のサイドビーム23,23の後部に取り付けられている。
【0055】
(カバー30)
カバー30は、左右の側面、後面、および上面を覆うプレートを有し、ステンレスなどの素材を用いて形成されている。カバー30は、天板21の上の左方に偏った位置に設置されている。カバー30の前面は、解放されている。カバー30の後面の下部には、格子状のエア吸込口31が複数形成されている。これらエア吸込口31は、後面の左右両端間にわたる範囲に形成されている。
【0056】
カバー30の後面の下部の裏側には、各エア吸込口31に連通するダクトや、ブロワなどを有するエア処理装置32が取り付けられている。エア処理装置32が作動すると、各エア吸込口31からカバー30内の空気を吸引して排出する。エア処理装置32は、インキディスペンサ10の使用時に作動する。
【0057】
カバー30の後面の上部には、左右方向に間隔を隔てて3つの吐出部40が設置されている。各吐出部40は、真下に容器が載置できるように、カバー30の後面から前方に突出した状態で、テーブル20の上方に配置されている。各吐出部40は、色別に設けられている。このインキディスペンサ10の場合、色の三原色である、シアン、マジェンダ、およびイエローの各色に対応した第1~第3の吐出部40C,40M,40Yが設けられている(吐出部40の詳細は後述)。
【0058】
(インキ供給部50、溶剤供給部51)
4つのインキ供給部50は、調合に使用されるインキ(原料インキIg)を各吐出部40に供給する。これらインキ供給部50は、各吐出部40の色に対応した有色の原料インキIg(色インキIgc)を供給する第1~第3のインキ供給部50C,50M,50Yと、無色の原料インキIg(いわゆるメジウムIgm)を供給する第4のインキ供給部50Meとで構成されている。溶剤供給部51は、調合に使用される溶剤Sを各吐出部40に供給する。
【0059】
原料インキIgおよび溶剤Sの各々は、一般に、一斗缶(18リットル缶)52の形態で提供されている(インキ缶52I、溶剤缶52S)。本実施形態では、原料インキIgの供給はインキ缶52Iから直接行い、溶剤Sの供給は、溶剤缶52Sから直接行う。
【0060】
溶剤Sは、粘度の低い液状である。大気下では気化し易いが、気化しても品質は変わらない。一方、原料インキIgは、高い粘度を有しており、ペースト状である。原料インキIgは、大気下では、容易に乾燥して固化する。従って、原料インキIgは扱い難く、調合の精度に悪影響を与える。このインキディスペンサ10では、原料インキIgおよび溶剤Sの性状の違いを利用して、調合、ひいては、色合わせが精度高く行えるように工夫されている(詳細は後述)。
【0061】
4つインキ供給部50および1つの溶剤供給部51の各々は、いずれもダイヤフラムポンプ54、送液配管55、ホース56、吸引管57、缶台車58などで構成されている。合計5つのダイヤフラムポンプ54は、左右に並べた状態で、支持プレート25の上に設置されている。ダイヤフラムポンプ54については別途後述する。
【0062】
各ダイヤフラムポンプ54の出液口54aに、送液配管55の一端が接続されていて、これら送液配管55の他端が、各吐出部40に接続されている。各ダイヤフラムポンプ54の入液口54bに、ホース56の一端が接続されている。各ホース56の他端は、吸引管57に接続されている。
【0063】
図3に、吸引管57の部分の拡大図を示す。吸引管57は、管本体57a、操作棒57b、2つの鍔部材57c、ボールバルブ57dなどで構成されており、ステンレスなどの素材を用いて形成されている。管本体57aの上部に、2つの鍔部材57c,57cが上下方向に間隔を隔てて取り付けられている。上側の鍔部材57cから上方に突出している管本体57aの基端部は、L状に屈曲していて、そこにホース56が接続されている。
【0064】
各鍔部材57cには、貫通孔が形成されていて、そこに操作棒57bがスライド可能な状態で挿通されている。管本体57aの先端部には、ボールバルブ57dが取り付けられている。ボールバルブ57dを開閉操作する軸に、操作棒57bの先端部分が、リンク機構57eを介して連結されている。操作棒57bをスライドさせることで、ボールバルブ57dが開閉する。なお、吸引管57の形態は例示である。
【0065】
吸引管57は、その先端部から、一斗缶52の上面に設けられている液取出口52aに挿入される。下側の鍔部は、液取出口52aよりも大きく形成されていて、吸引管57は、その鍔部を介して一斗缶52に支持される。ボールバルブ57dは、その状態において一斗缶52の底部近傍に位置するように設定されている。
【0066】
操作棒57bの操作により、吸引管57を一斗缶52に挿入した状態でボールバルブ57dを開閉できる。原料インキIgや溶剤Sが残り少なくなると、一斗缶52を交換する必要がある。その場合、吸引管57を一斗缶52から抜き出す必要がある。そのとき、管本体57aに空気が吸い込まれると、ダイヤフラムポンプ54に空気が入り込む。ダイヤフラムポンプ54に空気が入り込むと、定量的な送液が困難になる。そして、ダイヤフラムポンプ54から空気を除去する作業が必要になる。
【0067】
それに対し、この吸引管57には、操作棒57bやボールバルブ57dが設けられているので、一斗缶52を交換する時に、操作棒57bを操作してボールバルブ57dを閉じることで、管本体57aへの空気の吸い込みが防止できる。
【0068】
缶台車58は、一斗缶52を載置可能なキャスター付きの台である。通常は、吸引管57が挿入されている一斗缶52を載せた状態で、テーブル20の下方に収容されている。缶台車58により、ホース56が伸びる範囲で一斗缶52を自在に移動できる。
【0069】
(吐出部40)
図4に、各吐出部40の構造を具体的に示す。各吐出部40は、2つのインキノズル41(第1ノズル41Aおよび第2ノズル41B)と、1つの溶剤ノズル42とを有している。第1ノズル41Aは、各吐出部40の色に対応した、色インキIgcを吐出する。第2ノズル41Bは、メジウムImを吐出する。溶剤ノズル42は、溶剤Sを吐出する。
【0070】
これらノズルは、カバー30の後面を貫通して、カバー30の前方に導出された後、これらの先端部分が下方に向かって延びるようにL状に屈曲されている。第1ノズル41Aおよび第2ノズル41Bの先端部分(鉛直部41a)は、互いに近接した状態で略平行に配置されている。溶剤ノズル42の先端部分は、これら鉛直部41aの間の隙間に配置されている。
【0071】
各鉛直部41aの上側には、ロータリーバルブ43が配置されている。ロータリーバルブ43は、公知の装置であり、鉛直部41aに取り付けられるバルブ本体43aと、バルブ本体43aに収容されているロータを回転させるバルブ駆動部43bと、を有している。空圧で駆動するバルブ駆動部43bを電気的に制御することでロータが回転する。それにより、各ノズルを流れるインキの流量が調整される。なお、
図4では、第2ノズルのバルブ駆動部43bは図示を省略している。
【0072】
各インキノズル41の先端には、インキ吐出口44が取り付けられている。溶剤ノズル42の先端には、溶剤吐出口45が取り付けられている。インキ吐出口44は、フッ素樹脂製の筒状の部材からなり、容易に着脱できるようにインキノズル41の先端に取り付けられている。
【0073】
溶剤吐出口45は、先窄まり形状の多孔質な部材からなり、溶剤ノズル42の先端に固定されている。溶剤吐出口45には、例えばサイレンサ(微細な金属粒子の一群を焼結して所定形状に固化し一体化させたもの)などが利用できる。
【0074】
各鉛直部41aの下側には、洗浄配管46が接続されている。具体的には、各鉛直部41aの下側部分に、後方に向かって突出するように、洗浄配管46(分岐管46a)が接続されている。そして、1本の洗浄配管46(主管46b)が、溶剤ノズル42の上方の部位からカバー30の後面を貫通して、カバー30の前方に導出されている。その主管46bの突端部分が、略T形状に左右に分岐し、一対の中継管46c,46cを介して、分岐管46aの各々に接続されている。
【0075】
図5に、各インキ供給部50と各吐出部40との間を接続している配管構成を示す。
図5の左図は、第1~第3の各吐出部40C,40M,40Yに色インキIgcを供給する配管構成を示している。本実施形態では、第1の吐出部40Cには、第1のインキ供給部50Cからシアン(C)が供給され、第2の吐出部40Mには、第2のインキ供給部50Mからマジェンダ(M)が供給され、第3の吐出部40Yには、第3のインキ供給部50Yからイエロー(Y)が供給される。各色の配管構成は同じである。
図5の左図は、シアン(C)の配管構成を例示している。
【0076】
図5の中図は、第4のインキ供給部50Meから第1~第3の各吐出部40C,40M,40YにメジウムIgmを供給する配管構成を示している。
図5の右図は、溶剤供給部51から第1~第3の各吐出部40C,40M,40Yに溶剤Sを供給する配管構成を示している。
【0077】
これら配管構成のうち、テーブル20の下側の部分、つまり上述したインキ供給部50および溶剤供給部51の構成は、色インキIgc、メジウムIgm、および溶剤Sのいずれの場合も同じである。インキ缶52Iまたは溶剤缶52Sから、色インキIgc、メジウムIgm、または溶剤Sが、ダイヤフラムポンプ54の駆動によって、各吐出部40に送液される。
【0078】
図6に、ダイヤフラムポンプ54の構造を模式的に示す。ダイヤフラムポンプ54は、公知の容積式ポンプである。ダイヤフラムポンプ54は、ポンプ本体54c、液導入配管54d、液導出配管54eなどで構成されている。ポンプ本体54cは、左右対向状に設けられた一対のポンプ室54f,54fを有している。各ポンプ室54fは、ダイヤフラム54gによって液室54fLと気室54fAとに区画されている。これらダイヤフラム54g,54gは、シャフトで連結されており、連動して左右に動く。
【0079】
液導出配管54eは、上述した出液口54aから二股に分岐して各液室54fLの上部に連通している。液導入配管54dは、上述した入液口54bから二股に分岐して各液室54fLの下部に連通している。液導出配管54eの各分岐部位には、液室54fLへの流入を防止する逆流防止弁が設置されている。液導入配管54dの各分岐部位には、液室54fLからの流出を防止する逆流防止弁が設置されている。
【0080】
ポンプ本体54cには、気室54fAの圧力を計測する圧力センサ59が設置されている。なお、ダイヤフラムポンプ54には、各気室54fAの空圧を制御して、ダイヤフラムポンプ54を駆動する空圧制御機構も備えられているが、その図示は省略する。
【0081】
図7に示すように、空圧制御により、各ポンプ室54fのダイヤフラムが左右に往復動する。それにより、一方のポンプ室54fの液室54fLに、液導入配管54dを通じてインキ等が導入され、他方のポンプ室54fの液室54fLから、液導出配管54eを通じて原料インキIg等が導出される。ダイヤフラムポンプ54は、このような動作を繰り返し行うことで、原料インキIg等を送液する。
【0082】
従って、ダイヤフラムポンプ54は、定容性に優れるが、送液時に脈動が発生するという特徴がある。そのため、各送液配管55の上流側の部位には、送液時の脈動を抑制するために、
図5に示すように、エアチャンバー60が設置されている。具体的には、内部に空気が入った容器が、送液配管55から分岐した配管に接続されている。容器の内部は送液配管55に連通しており、容器内の気体の緩衝作用によって送液時の脈動を緩和する。
【0083】
一方、テーブル20の上側の配管構成は、色インキIgc、メジウムIgm、および溶剤Sの各々の場合で異なる。色インキIgcの配管構成の場合、つまり第1~第3のインキ供給部50C,50M,50Yの各々は、第1~第3の吐出部40C,40M,40Yの各々の第1ノズル41Aに接続されている。メジウムIgmの配管構成の場合、つまり第4のインキ供給部50Meは、送液配管55の下流側で、3つの無色インキ分配管61,61,61に分岐している。そして、これら無色インキ分配管61の各々が、第1~第3の吐出部40C,40M,40Yの各々の第2ノズル41Bに接続されている。
【0084】
溶剤Sの配管構成も、送液配管55の下流側で、第1~第3の吐出部40C,40M,40Yの各々に対応した3つの溶剤分配管62,62,62に分岐している。溶剤Sの場合、これら溶剤分配管62は、更に、溶剤供給管63および溶剤洗浄管64の2つに分岐している。そして、溶剤供給管63は、溶剤ノズル42に接続され、溶剤洗浄管64は、洗浄配管46の主管46bに接続されている。
【0085】
溶剤供給管63および溶剤洗浄管64の各々の上流側には、ロータリーバルブ65が設置されている。これら溶剤用のロータリーバルブ65は、設置されている位置を除けば、上述したインキ用のロータリーバルブ43と同じ構造である。溶剤用のロータリーバルブ65は、鉛直部41aに設置されているインキ用のロータリーバルブ43とは異なり、インキノズル41および溶剤ノズル42から離れた位置に設置されている。
【0086】
洗浄配管46の各分岐管46a(
図5に丸数字の1および2で接続関係を示す)の下流側には、溶剤Sの逆流を防止する逆流防止弁66が設置されている。
【0087】
(制御盤70)
図2に示すように、制御盤70は、フレーム枠71に支持された状態で、天板21の上のカバー30の右側に設置されている。制御盤70の前面には、インキディスペンサ10を操作するタッチパネル72が設けられている。制御盤70の内部には、シーケンサ(PLC)などの電気機器や、空圧制御に用いるリレーなどの空圧制御機器で構成された制御ユニット73(制御部)が設置されている。制御ユニット73は、吐出部40、各インキ供給部50、および溶剤供給部51の各々の動作を制御する。
図8に、制御ユニット73とその主な関連機器との関係を示す。
【0088】
圧力センサ59は、各ダイヤフラムポンプ54の気室54fAの圧力を計測し、その信号を制御ユニット73に入力する。制御ユニット73は、気室54fAの圧力変化から吐出量を算出し、それに基づいて各ダイヤフラムポンプ54の駆動を制御する。更に、制御ユニット73は、タッチパネル72での操作に従って、各ダイヤフラムポンプ54および各ロータリーバルブ43,65の駆動を制御する。それにより、所定量の原料インキIgと所定量の溶剤Sとを混合し、各印刷装置1cで使用される印刷インキIeを調合する。
【0089】
具体的には、色あわせを行うために、オペレータが、インキディスペンサ10を使用して、所定の色(例えばシアン)を印刷する印刷装置1cで使用されている印刷インキIeを調合する場合を想定する。
図1に示したように、各印刷システム1A,1B,1Cには、測色計5が設置されていて、印刷時に、各印刷装置1cで印刷されるカラーパターンCpの色、つまり実測される印刷インキIeの色(例えばシアンの色濃度)が計測される。また、各印刷装置1cのインキタンク3bに貯まるインキ量から、印刷装置1cで使用されている印刷インキIeの量(インキ循環供給機構3が保有しているインキの総量)が特定できる。
【0090】
オペレータは、対応した色の吐出部40(例えば第1の吐出部40C)の下方に、調合するインキを入れる容器Rを載置する。そして、印刷した時に目標とされている印刷インキIeの色(例えばシアンの色濃度)の設定値(色設定値)、印刷された後に実測される印刷インキIeの色の計測値(色実測値)、および印刷装置1cで使用されている印刷インキIeの量(インキ使用量)をタッチパネル72で入力する。自動的に入力されるようにしてもよい。
【0091】
制御ユニット73は、これら入力値に基づいて、色設定値に対する色実測値の差異を算出し、インキ使用量に対して、その差異を解消するために必要な原料インキIgの所定量および溶剤Sの所定量を算出する。制御ユニット73は、その算出結果に基づいて、各ダイヤフラムポンプ54および各ロータリーバルブ43の駆動を制御し、容器Rの中に所定量の原料インキIgと所定量の溶剤Sとを吐出する。
【0092】
原料インキIgまたは溶剤Sを吐出する時には、制御ユニット73は、エア処理装置32を作動させ、気化した溶剤Sがカバー30の外に漏れ出すのを抑制する。
【0093】
<インキディスペンサ10の工夫>
インキディスペンサ10は、印刷の開始時や切替時など、色合わせが必要になった時に使用されるので、使用頻度は高くない。そのため、インキディスペンサ10は、高精度であっても、高価格では実用化は困難である。その点、このインキディスペンサ10は、コスト比率が高い、インキ供給部50および溶剤供給部51の各ポンプにダイヤフラムポンプ54を採用している。ダイヤフラムポンプ54であれば、粘度の高い原料インキIgを安定して送液でき、しかも、安価である。それにより、このインキディスペンサ10では、安価と精度とを両立させている。
【0094】
例えば、一般的なグラビア印刷のプロセスインキの色合わせにおいて、印刷装置1cで使用されている印刷インキIeの量は、少なくとも5Kg程度以上必要とされ、その調合に求められる精度は、色インキIgc、または、メジウムIgmの量の比率にして、1%より厳しい事は殆どない。従って、吐出インキの量の精度は、±50g程度の誤差は許容される。従って、容量が25cc程度のダイヤフラムポンプを用いれば、求める精度は問題なく達成できる。
【0095】
(構造上の工夫)
原料インキIgは、大気下では、直ぐに乾燥して固化する。そのため、原料インキIgを吐出するインキノズル41の先端部分は、原料インキIgが付着した状態で放置すると、原料インキIgが固化し、管路が狭くなっていく。それに対し、このインキディスペンサ10では、鉛直部41aにロータリーバルブ43を配置している。そうすることにより、原料インキIgが大気下に曝される範囲を最小限にしている。
【0096】
更に、各インキノズル41の先端には、着脱可能なフッ素樹脂製のインキ吐出口44が取り付けられている。インキ吐出口44をこのような素材とすることで、インキ吐出口44から粘度の高い原料インキIgを、付着を抑制しながら円滑に流下させることができる。インキ吐出口44に原料インキIgが固着しても、容易に取り外して除去できる。
【0097】
また更に、原料インキIgの付着を抑制するために、各インキノズル41の先端部分が溶剤Sで洗浄できるように構成されている。すなわち、上述したように、各インキノズル41の鉛直部41aの下側に洗浄配管46が接続されていて、ロータリーバルブ43よりも下流側の管路に、溶剤Sを供給できる。
【0098】
また、溶剤供給部51から分岐した洗浄配管46を更に分岐して、第1ノズル41A及び第2ノズル41Bの双方から溶剤Sを同時に吐出するように構成している。そうすることにより、部材の共用と、構造の簡素化を実現している。
【0099】
ダイヤフラムポンプ54で送液する時には、脈動が発生する。そのため、粘度の低い溶剤Sを溶剤ノズル42から吐出する場合に、その脈動の影響で、溶剤Sが飛散したり、流下する溶剤Sの衝撃で容器R内のインキが跳ねたりするという問題が発生する。それに対し、このインキディスペンサ10では、溶剤ノズル42の先端に、所定の溶剤吐出口45が取り付けられている。溶剤吐出口45により、溶剤Sの飛散やインキの跳ねを抑制しながら、溶剤吐出口45から溶剤Sを円滑に流下させることができる。
【0100】
(制御上の工夫)
上述したように、インキディスペンサ10の使用頻度は高くない。そのため、このインキディスペンサ10は、複数の印刷装置1cで共用しながら、色合わせが精度高く行えるように、制御ユニット73が工夫されている。
【0101】
具体的には、制御ユニット73に、予め、個々の印刷装置1cに対応した調合補正データ73aが設定されている。
【0102】
上述したように、印刷装置1cの各々の構造は、基本的には同じである。従って、これらのインキ使用量も区別なく設定できるはずであるが、実際には、寸法差や設置状態などの影響により、個々の印刷装置1cに、固有の差異が存在する。そのため、同一の条件でインキ使用量を算出すると、印刷装置1cによっては、調合精度が低下する。
【0103】
そこで、制御ユニット73には、個々の印刷装置1cに対応した調合補正データ73aが設定(メモリに記憶)されている。
図9に、その調合補正データ73aを模式的に示す。調合補正データ73aには、予備試験等により、印刷装置1cごとに、その装置固有の濃度補正値が設定されている。
【0104】
制御ユニット73は、タッチパネル72から入力される印刷装置1cの機種番号に基づいて、調合補正データ73aから、対応する濃度補正値を特定する。そして、制御ユニット73は、その印刷装置1cで使用するために調合する印刷インキIeおよび溶剤Sの各々の所定量の算出値を、その濃度補正値に基づいて補正する。従って、このインキディスペンサ10によれば、複数の印刷装置1cで共用でき、個々の印刷装置1cで高精度な調合が行える。
【0105】
更にこのインキディスペンサ10では、インキノズル41の洗浄が効率的にできるように工夫されている。
【0106】
具体的には、制御ユニット73は、溶剤Sの飛散を抑制しながら、印刷インキIeの調合時に各インキノズル41の洗浄も同時に行えるように、各ダイヤフラムポンプ54および各ロータリーバルブ43の動作を制御する。詳細には、所定量の原料インキIgをインキノズル41から吐出した後に、所定量の一部を残して溶剤Sを溶剤ノズル42から吐出する。そして、洗浄配管46を通じて残部の溶剤Sを送液することにより、インキノズル41から溶剤Sを吐出する。
【0107】
図10に、印刷インキIeの調合の流れを例示する。制御ユニット73は、原料インキIgおよび溶剤Sの各々の所定量を算出すると、所定量の原料インキIgを吐出する。
図10では、その原料インキIgとして、色インキIgcおよびメジウムIgmの双方を吐出する場合を例示している。
【0108】
色合わせの状況に応じて、色インキIgcのみを吐出する場合、メジウムIgmのみを吐出する場合もあり得る。例えば、濃度を濃くする場合には、原料インキIgとして、色インキIgcのみを吐出する。濃度を薄くする場合には、原料インキIgとして、メジウムIgmのみを吐出する。
【0109】
制御ユニット73は、第1~第3のインキ供給部50C,50M,50Yのうち、対応するダイヤフラムポンプ54を、その圧力センサ59の計測値に基づいて駆動して、インキ缶52Iから色インキIgcを吐出部40に送液する。そして、ロータリーバルブ43を駆動して、所定量の色インキIgcを容器Rの中に吐出する。
【0110】
制御ユニット73は、溶剤供給部51のダイヤフラムポンプ54を、その圧力センサ59の計測値に基づいて駆動し、溶剤缶52Sから溶剤Sを吐出部40に送液する。そして、ロータリーバルブ65を駆動し、洗浄に用いるために、所定量の一部を残して、溶剤Sを容器Rの中に吐出する。なお、溶剤Sは、印刷インキIeの調合時に必ず吐出される。
【0111】
洗浄用として残す溶剤量は、制御ユニット73に、予め設定されている。ダイヤフラムポンプ54が送液を開始した直後は、インキノズル41までの送液経路の緩衝作用によって脈動が緩和される。そのため、ダイヤフラムポンプ54の駆動初期であれば、口径の大きなインキ吐出口44でも、飛散を抑えた状態で溶剤Sを吐出することができる。制御ユニット73には、そのような状態で溶剤Sを吐出できる量が、洗浄用の溶剤量として設定されている。
【0112】
制御ユニット73はまた、第4のインキ供給部50Meのダイヤフラムポンプ54をその圧力センサ59の計測値に基づいて駆動して、インキ缶52IからメジウムIgmを吐出部40に送液する。そして、ロータリーバルブ43を駆動して、所定量のメジウムIgmを容器Rの中に吐出する。なお、色インキIgc、溶剤S、およびメジウムIgmの各々を吐出する順序は、例示の順序に限らない。その順序は、仕様に応じて適宜変更できる。
【0113】
そして、所定量の原料インキIgと、所定量の大部分の溶剤Sと、を吐出した後、制御ユニット73は、溶剤供給部51のダイヤフラムポンプ54を駆動して溶剤Sを吐出部40に送液する。そして、ロータリーバルブ65を駆動して、残部の溶剤Sを、洗浄配管46を通じて第1ノズル41Aおよび第2ノズル41Bの双方から同時に、容器Rの中に吐出する。
【0114】
上述したように、飛散を抑えた状態で溶剤Sを吐出することができるので、溶剤Sが、容器Rの外に散らばるおそれがない。最終的に、所定量の溶剤Sを、容器Rの中に吐出できる。インキノズル41におけるロータリーバルブ43より下流側の部分は、溶剤Sで洗浄されるので、原料インキIgの固着による管路の狭まりを抑制できる。所定量の溶剤Sしか使用しないので、効率的である。
【0115】
<変形例>
上述した実施形態では、一斗缶52から、直接、原料インキIgの供給を行う場合を例示した。しかし、印刷現場によっては、原料インキIgや溶剤Sが、パイプラインなど、一斗缶52以外の方法で供給される場合もある。本変形例では、そのような場合に好適な実施形態を例示する。
【0116】
図11に、そのような場合に一斗缶52の代わりに使用するのに好適な専用容器を示す。この専用容器は、原料インキIgまたは溶剤Sを貯留する。その形状や容量は、一斗缶52とほぼ同等である。従って、本専用容器も、インキ缶52I(溶剤缶52S)として説明する。
【0117】
インキ缶52Iは、缶本体80、蓋体81などで構成されている。缶本体80は、一斗缶52と略同じサイズの上面が開口した容器からなる。缶本体80は、不要な一斗缶52の上面を除去することによって作製してもよい。
【0118】
蓋体81は、缶本体80の上部に被せ付けることが可能な、周囲に鍔が付いた矩形板状の部材からなる。蓋体81は、缶本体80の上面を覆う被覆部81aと、被覆部81aに揺動可能な状態で支持されて、缶本体80の上面を開閉する開閉部81bとに二分されている。被覆部81aの上面には把手82が取り付けられ、開閉部81bの上面には摘まみ83が取り付けられている。原料インキIgや溶剤Sは、開閉部81bを通じて缶本体80に投入される。
【0119】
被覆部81aの一方の隅部に、管支持部84が設けられていて、この管支持部84に、吸引管57が被覆部81aを貫通した状態で支持されている。吸引管57は、缶本体80に蓋体81を装着した時に、缶本体80に挿入され、そのボールバルブ57dが缶本体80の底部近傍の所定位置に配置される。
【0120】
被覆部81aの他方の隅部に、缶本体80の内部に貯まる原料インキIg(溶剤S)の液位を計測する液位計85が設けられている。液位計85は、被覆部81aに昇降自在に支持されたスライドバー85aと、スライドバー85aの先端部に取り付けられたフロート85bと、スライドバー85aの基端部に取り付けられたスイッチ85cとを有している。スイッチ85cは、制御ユニット73と電気的に接続されている。
【0121】
スイッチ85cは、液位がボールバルブ57dの近傍に設定されている下限液位Lまで下降した時に、制御ユニット73に信号を出力するように構成されている。制御ユニット73は、スイッチ85cからの信号を受信すると、タッチパネル72に該当するインキタンク3bを表示するとともに、警報を発する。そして、原料インキIg等が補充されるまで、インキ缶52Iからの送液を停止する。本変形例のインキ缶52Iの場合、操作棒57bを抜き出すことは必須でないので、ボールバルブ57dや操作棒57bは省略してもよい。
【0122】
<変形例>
上述した実施形態では、インキディスペンサ10を制御盤70で操作する場合を例示した。しかし、制御盤70による操作では、機能的な制約があるので、データ処理などの点では扱い難い。特に、複数の印刷システムで共用する場合には、オペレータが、タッチパネル72を操作するために、煩雑に移動することになり、煩わしい。
【0123】
そこで、制御ユニット73を、有線または無線により、複数のPCと電気的に接続し、これらPCからインキディスペンサ10を操作できるようにしてもよい。
【0124】
具体的には、
図12Aに示すように、制御ユニット73に、電気信号の入出力を可能にする信号入出力部73bと、その信号入出力部73bを介して、複数箇所(例えば最大10箇所)から入出力される電気信号を、選択的に1箇所の電気信号に切り換える信号切替部73cと、を増設する。更に、制御ユニット73に、各印刷システム1A,1B,1Cの印刷装置1cの各々に対応した識別番号と、その識別番号に紐付けされたデータを記憶する調合データ記憶部73dも増設する。
【0125】
そして、
図12Bに示すように、印刷システム1A,1B,1Cの各々に、PC(パーソナルコンピュータ)90を設置する。LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)91の設置により、各PC90と制御盤70とを信号入出力部73bを介して接続し、互いに電気信号の入出力ができるようにする。それにより、色設定値、色実測値、インキ使用量の入力など、タッチパネル72で行う操作を、各PC90で行えるようにする。
【0126】
このように構成すれば、インキの調合が更に効率的に行える。例えば、オペレータが、印刷システム1Cの各印刷装置1cで使用する印刷インキIeを調合する場合を想定する。オペレータは、印刷システム1Cの各印刷装置1cで使用するデータを、その識別番号と共に、印刷システム1Cに付設されているPC90で入力する。これらデータは、LAN91を介して制御ユニット73に入力される。
【0127】
調合データ記憶部73dには、入力された識別番号に対応して、各印刷装置1cのデータが記憶される。
図12Bに拡大して示すように、タッチパネル72には、印刷装置1cの識別番号が付与された操作ボタンが表示されるように構成されている。
【0128】
入力されたデータに応じて、インキの調合を行う印刷装置1cの操作ボタンが点灯する(図例では、識別番号「1」の操作ボタンが点灯)。オペレータは、その表示に基づいて、容器Rを所定位置に載置し、点灯した操作ボタンにタッチすれば、調合処理が開始する。調合処理が終了すれば、操作ボタンは消灯する。
【0129】
複数の印刷装置1cのデータがデータ記憶部73dに記憶されている場合には、それらデータに対応した複数の操作ボタンが点灯する。オペレータは、いずれか1つの操作ボタンを選択して調合処理を行えばよい。
【0130】
なお、開示する技術にかかるインキディスペンサは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、色合わせのうち、プロセスの場合を例示したが、特色の場合にも適用できる。グラビア印刷以外の印刷にも適用できる。実施形態の三原色が好適であるが、仕様に応じて吐出部の数も変更できる。
【符号の説明】
【0131】
10 インキディスペンサ
20 テーブル
30 カバー
40(40C,40M,40Y) 吐出部
41 インキノズル
41A 第1ノズル
41B 第2ノズル
41a 鉛直部
42 溶剤ノズル
43 ロータリーバルブ
44 インキ吐出口
45 溶剤吐出口
46 洗浄配管
50 インキ供給部
51 溶剤供給部
52 一斗缶
54 ダイヤフラムポンプ
57 吸引管
58 缶台車
70 制御盤
71 フレーム枠
72 タッチパネル
73 制御ユニット(制御部)
R 容器
Ie 印刷インキ
Ig 原料インキ
Igc 色インキ
Igm メジウム
S 溶剤