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特許7026363インキの粘度コントローラ、および、インキの粘度調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】インキの粘度コントローラ、および、インキの粘度調整方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 33/00 20060101AFI20220218BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20220218BHJP
   B41F 31/02 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
B41F33/00 234
G01N11/00 C
B41F31/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021063791
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2021-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水戸 博満
(72)【発明者】
【氏名】大宮 利信
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】荒井 崇行
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-30473(JP,A)
【文献】特開2004-271218(JP,A)
【文献】特開2007-238756(JP,A)
【文献】中国実用新案第206475591(CN,U)
【文献】特開2000-233492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/00-35/06
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキパンに貯留されているインキに溶剤を加えることによってその粘度を調整する粘度コントローラであって、
前記インキパンに前記インキを循環させるダイヤフラムポンプと、
循環している前記インキに対し、開くことによって前記溶剤を加える電磁弁と、
前記インキの粘度と前記ダイヤフラムポンプの脈動との関係から得られる所定の関係式に基づいて、前記電磁弁を開閉制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置に、前記所定の関係式として、前記インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式が予め設定され、
前記インキの使用時に、前記関係式の設定の変更が可能なスイッチを更に備える、粘度コントローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の粘度コントローラにおいて、
前記所定の関係式が、白色のインキに対応した第1関係式と、白色以外の色のインキに対応した第2関係式と、を含み、
前記白色以外の色のインキが、少なくともシアン、マジェンタ、および、イエローの各々からなる単色と、これら単色を混ぜ合わせて作製される色のインキを含む、粘度コントローラ。
【請求項3】
請求項1に記載の粘度コントローラにおいて、
前記制御装置の制御に従って異常を報知する警報装置を更に備え、
前記インキの循環中、所定時間以上、前記電磁弁が開かれなかったとき、または、所定時間内に所定回数以上、前記電磁弁が開かれたときに、前記警報装置が作動する、粘度コントローラ。
【請求項4】
インキパンに貯留されているインキに溶剤を加えることによってその粘度を調整する方法であって、
前記インキパンに前記インキを循環させるダイヤフラムポンプ、循環している前記インキに対し、開くことによって前記溶剤を加える電磁弁、および、前記インキの粘度と前記ダイヤフラムポンプの脈動との関係から得られる所定の関係式に基づいて、前記電磁弁を開閉制御する制御装置、の各々を備えた粘度コントローラを、前記インキパンに接続し、
前記所定の関係式として、前記インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式を求めて、前記制御装置に、複数の前記関係式を設定し、
前記インキの使用時に、当該インキの色に応じた前記関係式の設定が用いられるように前記粘度コントローラを切り替える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、インキパンに貯留されているインキに溶剤を加えることによってその粘度を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、グラビア印刷機などでは、版胴の外周面にインキを付着させ、そのインキをウエブに転写することで印刷を行う。
【0003】
通常、グラビア印刷では、速乾性に優れた油性のインキが使用される。そのため、印刷中、インキパンに貯留したインキから徐々に溶剤が揮発し、インキの粘度が上昇していく。インキの粘度が過度に高くなると、印刷品質が悪化する。
【0004】
従って、適宜、インキに溶剤を加えることにより、その粘度を適切な状態に保つ必要がある。そのようなインキの粘度の調整に、粘度コントローラが使用されている。
【0005】
開示する技術に関する先行技術として、特許文献1の粘度調整装置がある。その粘度調整装置は、循環ラインを介してインキパンと接続されており、ダイヤフラムポンプにより、インキパンと粘度調整装置との間でインキを循環させる。
【0006】
粘度調整装置はまた、電磁弁の開閉によって、循環ラインへの溶剤の供給および非供給を切り替える溶剤供給ライン、および、電磁弁を開閉制御することにより、インキの粘度を調整する演算制御装置を備えている。そして、その演算制御装置は、粘度表示器、粘度設定器、および、粘度校正スイッチを有している。
【0007】
色が異なるインキは、その含有成分の違いから粘度に差が生じる。そのため、この粘度調整装置には、基準とするインキに関して、その粘度とダイヤフラムポンプの脈動数との関係から得られる所定の関係データが演算制御装置に記憶されている。そして、使用前にインキの粘度を実測し、それと基準とするインキの粘度とを比較することによってパラメータを変更し、正確な粘度に調整できるようにしている。
【0008】
すなわち、使用するインキの色を変える場合、その準備段階として、オペレータは、「ザーンカップ」と称する所定の測定器を用いて、使用しようとするインキの粘度を実測する。そして、実測した粘度を粘度設定器に設定し、粘度校正スイッチを操作することによって、正確な粘度に調整できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-271218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1の粘度調整装置の場合、インキの色が変わる度に、インキの粘度を実測する必要がある。そのためには、ザーンカップにインキを汲み取り、底の穴からインキが流出する時間を、正確に、測定しなければならない。更に、測定後は、次の測定に影響しなくなるまで、溶剤を用いて、ザーンカップを洗浄する必要もある。
【0011】
従って、インキの色が変わる時には、粘度調整装置を校正するために時間と手間がかか
る。それに対し、印刷の切り替え作業は、時間短縮が要望されていることから、このような校正処理は、オペレータにとって負担になる。
【0012】
そこで、開示する技術の主たる目的は、インキの色が変わっても、簡単な方法で、適切な粘度の調整を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示する技術の1つは、インキパンに貯留されているインキに溶剤を加えることによってその粘度を調整する粘度コントローラに関する。
【0014】
前記粘度コントローラは、前記インキパンに前記インキを循環させるダイヤフラムポンプと、循環している前記インキに対し、開くことによって前記溶剤を加える電磁弁と、前記インキの粘度と前記ダイヤフラムポンプの脈動との関係から得られる所定の関係式に基づいて、前記電磁弁を開閉制御する制御装置と、を備える。
【0015】
前記制御装置に、前記所定の関係式として、前記インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式が予め設定されており、前記インキの使用時に、前記関係式の設定の変更が可能なスイッチを更に備える。
【0016】
すなわち、この粘度コントローラは、ダイヤフラムポンプでインキをインキパンとの間で循環させる。そして、インキの粘度を調整するために、電磁弁が開閉制御され、必要に応じて、循環しているインキに溶剤が加えられる。そして、制御装置には、その開閉制御を行うために、インキの粘度とダイヤフラムポンプの脈動との関係から得られる所定の関係式として、インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式が、予め設定されている。そして、インキの使用時に、これら関係式の設定の変更が可能なスイッチを更に備える。
【0017】
従って、インキの使用時に、インキの色が変わっても、その関係式の設定の変更が可能なスイッチが粘度コントローラに備えられているので、スイッチを操作するだけという簡単な方法で、適切な粘度の調整が実現できる。
【0018】
前記所定の関係式が、白色のインキに対応した第1関係式と、白色以外の色のインキに対応した第2関係式と、を含み、前記白色以外の色のインキが、少なくともシアン、マジェンタ、および、イエローの各々からなる単色と、これら単色を混ぜ合わせて作製される色のインキを含む、としてもよい。
【0019】
後述するように、粘度の調整に関しては、実用上、白色のインキだけが特別であり、それ以外の色のインキは同じように扱える。かかる知見に基づけば、インキの色が変わっても、白色のインキか、それ以外の色のインキかで、第1関係式および第2関係式のいずれか一方に切り替えるだけで、適切な粘度の調整が可能になる。
【0020】
シアン、マジェンタ、および、イエローの各々からなる単色は、いわゆる三原色である。これらの単色を混ぜ合わせることで様々な有色が作製できる。これら色だけで、多種多様な印刷が行える。しかも、これらの色のインキであれば、粘度の調整に関しては同じように扱えることが実証済みである。従って、そのまま実用化できる。
【0021】
前記粘度コントローラはまた、前記制御装置の制御に従って異常を報知する警報装置を更に備え、前記インキの循環中、所定時間以上、前記電磁弁が開かれなかったとき、または、所定時間内に所定回数以上、前記電磁弁が開かれたときに、前記警報装置が作動する、としてもよい。
【0022】
何らかのトラブルにより、粘度コントローラによって調整されるインキの粘度が異常に低く調整される場合や異常に高く調整される場合があり得る。インキの循環中、所定時間以上、電磁弁が開かれなかったとき、または、所定時間内に所定回数以上、電磁弁が開かれたときには、そのような異常と判断できる。そして、そのような場合に、警報装置が作動するので、オペレータは、インキの粘度の異常が発生しても、早期に対応できる。
【0023】
開示する技術の他の1つは、インキパンに貯留されているインキに溶剤を加えることによってその粘度を調整する方法に関する。
【0024】
前記方法は、前記インキパンに前記インキを循環させるダイヤフラムポンプ、循環している前記インキに対し、開くことによって前記溶剤を加える電磁弁、および、前記インキの粘度と前記ダイヤフラムポンプの脈動との関係から得られる所定の関係式に基づいて、前記電磁弁を開閉制御する制御装置、の各々を備えた粘度コントローラを、前記インキパンに接続する。
【0025】
そして、前記所定の関係式として、前記インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式を求めて、前記制御装置に、複数の前記関係式を設定する。
【0026】
そして、前記インキの使用時に、当該インキの色に応じた前記関係式の設定が用いられるように前記粘度コントローラを切り替える。
【0027】
この方法によっても上述した粘度コントローラと同等に、インキの使用時にインキの色が変わっても、インキの色に応じて粘度コントローラを切り替えるだけでよい。従って、簡単な方法で、適切な粘度の調整が実現できる。
【発明の効果】
【0028】
開示する技術によれば、インキの色が変わっても、簡単な方法で、粘度の調整を適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】印刷中の白色のインキに関して、粘度コントローラによる粘度の表示値と、粘度の実測値との対応関係について測定した結果を示すグラフである。
図2】印刷中の白以外の有色のインキに関して、粘度コントローラによる粘度の表示値と、粘度の実測値との対応関係について調べた結果を示すグラフである。
図3】白色のインキとそれ以外の有色のインキとに関し、粘度コントローラによる粘度の表示値と、ダイヤフラムポンプの脈動の周期との対応関係について示すグラフである。
図4】実施形態の粘度コントローラを示す概略図である。
図5】ダイヤフラムポンプの構造および動作を説明するための図である。
図6】制御装置とその主な関連機器を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0031】
<開示する技術の基礎>
上述したように、インキの色が変わる度に、インキの粘度を実測していたのでは、時間と手間がかかる。従って、容易に対処できる方法が望まれる。
【0032】
そこで、本発明者らが、インキの色が変わっても、粘度の調整を簡単かつ適切に行える方法について模索していたところ、粘度の調整に関しては、白色のインキだけが特別であり、それ以外の色のインキは同じように扱えることを見出した。開示する技術がかかる知見に基づく。従って、まず、その内容について説明する。
【0033】
図1に、印刷中の白色のインキに関して、粘度コントローラによる粘度の表示値と、粘度の実測値との対応関係について測定した結果(グラフ)を示す。縦軸は、粘度コントローラによる粘度の表示値であり、横軸は、粘度の実測値である。
【0034】
粘度コントローラは、白色のインキに対応した所定の関係式に基づいて粘度の調整を行っている。対応関係の測定は複数行った。グラフに示す各点が測定結果を示している。なお、図1に示す各点は、測定結果が重複している点も含む。
【0035】
粘度の表示値と実測値が一致している場合には、対応関係を示す点は直線Lc1上に位置する。直線Lc1の両側の線Le1は、実用上、許容できる誤差範囲の上限および下限を示している(例えば、±0.5秒)。これら線Le1,Le1の間にあれば、粘度の表示値と実測値とに差があっても、実用上は問題ない。
【0036】
測定したインキは、いずれも同じ白色のインキである。そのため、粘度の値が異なっていても、いずれも誤差範囲内にある。従って、実用上は問題ない。
【0037】
図2に、印刷中の白以外の有色のインキに関して、粘度コントローラによる粘度の表示値と、粘度の実測値との対応関係について調べた結果(グラフ)を示す。縦軸および横軸は、図1と同じである。直線Lc2は、直線Lc1に対応し、直線Le2は、直線Le1に対応している。粘度コントローラは、所定の関係式に基づいて粘度の調整を行っている。
【0038】
測定結果を示す各点は、使用したインキの色別に示してある。点C(白三角マーク)はシアン、点M(黒丸マーク)はマジェンタ、点Y(白四角マーク)はイエロー、点P(黒四角マーク)はパープル、点G(白丸マーク)は(グリーン)草色である。シアン、マジェンタ、および、イエローは、いずれも単色である(いわゆる3原色)。パープルおよびグリ-ンは、これら単色を混ぜて作製した色である。
【0039】
そして、点Xはグレーである。このグレーは、3原色の単色に、白色のインキを混ぜて作製した色である。白色のインキの混合比率にもよるが、少なくとも白色のインキが多く混ざると、誤差範囲から外れるようになる。
【0040】
それに対して、グレーを除く有色のインキは、色が異なっていても、ほぼ誤差範囲内に含まれている。すなわち、有色のインキが、白のインキを所定の量以上、含まない限り、粘度の調整に関しては、実用上は同じように扱える。ここでは図示していないが、ブラックのインキについても同様であることを確認している。
【0041】
一方、グレーのように、有色のインキが、白色のインキを所定の量以上含む場合には、誤差範囲から外れる。そのため、実質的に、白色のインキを含まない有色のインキとは同じように扱えない。
【0042】
なお、粘度コントローラによる粘度の表示値、つまり、所定の関係式に基づいて粘度コントローラが調整する粘度の値は、ダイヤフラムポンプの脈動の周期によって定まる。ダイヤフラムポンプの脈動の周期は、インキの色によって異なる。
【0043】
図3に、上述した白色のインキと、白色以外の有色のインキ(グレーを除く)とに関し、粘度コントローラによる粘度の表示値と、ダイヤフラムポンプの脈動の周期との対応関係を示す。
【0044】
白色のインキと、白色以外の有色のインキとでは、それぞれ、粘度コントローラによる粘度の表示値と、ダイヤフラムポンプの脈動の周期との対応関係が異なる。つまり、粘度を調整するための関係式は異なる。
【0045】
しかし、白色のインキと、白色以外の有色のインキとでは、それぞれ、実用上は問題ない誤差範囲内で関係式を設定できる。上述したような有色のインキの一群のうち、白色のインキと、白色以外の有色のインキとで、粘度の調整に用いる所定の関係式を、粘度コントローラに予め設定しておけば、それらを切り替えることで、インキの色が変わっても、粘度の調整を簡単かつ適切に行うことが可能になる。
【0046】
<開示する技術の具体例>
図4に、上述した知見に基づいて本発明者らが工夫した粘度コントローラ1を例示する。なお、以下の説明では、粘度コントローラの切り替え操作のうち、2種類の切り替え操作に対応した場合を例示するが、開示する技術は、必要に応じて、3種類以上の切り替え操作にも対応させることができる。
【0047】
図4は、所定のグラビア印刷機50で印刷が行われている状態を表しており、各機器は、便宜上、簡略化して表してある。グラビア印刷機50には、版胴51、圧胴52、ドクターブレード53、インキパン54などが設置されていて、版胴51の外周面にインキを付着させ、そのインキをウエブ55に転写することで印刷を行う。
【0048】
具体的には、上面が開放されたトレイ状のインキパン54の中には、印刷に用いるインキが所定量、貯留されている。インキパン54には、インキを流下させる樋54aが設けられている。樋54aの下方には、サブタンク56が配置される。インキパン54から溢れたインキは、サブタンク56に回収される。インキパン54の上には、円柱状の版胴51が、インキパン54に貯留したインキにその下部を浸漬した状態で配置されている。版胴51の外周面には、版面を構成する凹みが彫刻されている。
【0049】
印刷時の版胴51は、所定の速度で一定方向に回転する。液面から露出している版胴51の外周面のうち、版胴51の上部よりも回転方向の上流側の部位には、ドクターブレード53の先端が接している。版胴51の上部には、回転する円柱状の圧胴52が接している。その版胴51と圧胴52との間に印刷対象物であるウエブ55が挟み込まれた状態で搬送されている。
【0050】
それにより、回転する版胴51は、その外周面にインキを付着し、余分なインキをドクターブレード53で掻き取った後、版胴51の外周面のインキをウエブ55に転写する。それにより、ウエブ55は連続して印刷されていく。印刷後のインキ汚れ等を防止するため、通常、グラビア印刷では、ウエブ55に転写したインキは、直ぐに乾くように、速乾性に優れた油性のインキが使用されている。
【0051】
インキパン54は大気開放されているため、インキパン54に貯留したインキから溶剤が徐々に揮発する。それにより、インキパン54に貯留したインキの粘度が上昇し、その粘度が過度に高くなると、印刷品質が悪化する。
【0052】
そこで、インキパン54に貯留されているインキに溶剤を補充し、その粘度を適切な状
態に保つために、粘度コントローラ1が、グラビア印刷機50に付設されている。なお、グラビア印刷機50は一例である。
【0053】
(粘度コントローラ)
粘度コントローラ1は、送液配管2および返液配管3を介して、インキパン54と接続されている。粘度コントローラ1は、返液配管3を通じてサブタンク56からインキを回収し、送液配管2を通じてインキパン54にインキを戻す。粘度コントローラ1は、サブタンク56およびインキパン54との間でインキを循環させる過程でインキに溶剤を加える。それにより、インキパン54に貯留されているインキの粘度が、一定の範囲内に維持されるように調整する。
【0054】
粘度コントローラ1は、箱型の筐体10を有し、その内部または外部に、ダイヤフラムポンプ11、電磁弁12、制御装置13、セレクトスイッチ14、警報ブザー15、警報ランプ16などが備えられている。筐体10の外部には、粘度等の情報を表示するモニター17や、後述するパラメータ等の情報を入力する入力デバイス18が設置されている(図6にのみ表示)。筐体10の外部にはまた、液導出配管20および液導入配管21の一端が設けられていて、これらが、それぞれ送液配管2および返液配管3と接続されている。
【0055】
液導出配管20および液導入配管21の他端は、筐体10の内部で、ダイヤフラムポンプ11に接続されている。液導入配管21におけるダイヤフラムポンプ11との接続部位の近傍には、溶剤導入配管22の下流側の端部が接続されている。溶剤導入配管22の上流側の端部は、筐体10の外部に設けられていて、ホース23を通じて溶剤タンク4と接続されている。
【0056】
溶剤タンク4に収容した溶剤は、ホース23および溶剤導入配管22を通じて、液導入配管21に供給されるように構成されている。溶剤導入配管22には、上流側から順に、電磁弁12と逆止弁24とが設置されている。電磁弁12は、制御装置13の制御に従って、溶剤導入配管22の流路を開閉する。電磁弁12が開くことにより、液導入配管21を流れるインキに溶剤が加えられる。逆止弁24は、溶剤導入配管22の上流側へのインキの逆流を防止する。
【0057】
ダイヤフラムポンプ11は、公知の容積式ポンプである。ダイヤフラムポンプ11が作動することにより、インキは循環する。
【0058】
図5に、ダイヤフラムポンプ11の構造を模式的に示す。ダイヤフラムポンプ11は、左右対向状に設けられた一対のポンプ室30,30、吸込配管31、吐出配管32などで構成されている。吸込配管31は液導入配管21と接続され、吐出配管32は液導出配管20と接続されている。
【0059】
各ポンプ室30は、ダイヤフラム33によって液室34と気室35とに区画されている。これらダイヤフラム33は、シャフトで連結されており、連動して左右に動く。
【0060】
吐出配管32は、二股に分岐して各液室34の上部に連通している。吸込配管31は、二股に分岐して各液室34の下部に連通している。吐出配管32の各分岐部位には、液室34への流入を防止する逆止弁が設置されている。吸込配管31の各分岐部位には、液室34からの流出を防止する逆止弁が設置されている。
【0061】
ダイヤフラムポンプ11には、気室35の圧力を計測する圧力センサ36が設置されている。なお、ダイヤフラムポンプ11には、空圧制御機構も備えられているが、その図示
は省略する。その空圧制御機構により、予め設定された所定の条件の下で、各気室35の空圧が制御される。それにより、ダイヤフラムポンプ11は作動する。
【0062】
図5に示すように、ダイヤフラムポンプ11の作動時には、各ポンプ室30のダイヤフラム33が左右に往復動する。それにより、一方のポンプ室30の液室34に、吸込配管31を通じてインキが導入され、他方のポンプ室30の液室34から、吐出配管32を通じてインキが導出される。
【0063】
ダイヤフラムポンプ11は、このような動作を繰り返し行うことで、インキを送液する。従って、ダイヤフラムポンプ11で送液する時には、周期的に脈動が発生する。インキの粘度が高くなると、ダイヤフラム33の動きが遅くなって、脈動数は減少する。インキの粘度が低くなると、ダイヤフラム33の動きが速くなって、脈動数は増加する。
【0064】
制御装置13および警報ブザー15は、筐体10の内部に設置されており、セレクトスイッチ14および警報ランプ16は、筐体10の外部に設置されている。セレクトスイッチ14は、例えば、2種類の切り替え操作の場合には、スナップスイッチ(トグルスイッチ)が利用できる。3種類以上の切り替え操作の場合には、ダイヤルスイッチやタッチモニターなどが利用できる。セレクトスイッチ14の形態は、仕様に応じて選択すればよい。
【0065】
制御装置13は、粘度コントローラ1の動作を制御する。制御装置13は、プロセッサ、メモリなどのハードウエアと、制御プログラム、制御データなどのソフトウエアとで構成されている。制御装置13は、ハードウエアとソフトウエアとが協働することにより、インキの粘度の調整に関する処理を実行する。
【0066】
図6に、制御装置13と、その主な関連機器との関係を示す。制御装置13は、圧力センサ36、セレクトスイッチ14、入力デバイス18、電磁弁12、警報ブザー15、警報ランプ16、および、モニター17の各々と、電気的に接続されている。制御装置13は、機能的な構成として、粘度調整部13aおよび粘度情報記憶部13bを有している。
【0067】
粘度情報記憶部13bは、粘度の調整に関係する情報を記憶する。具体的には、粘度情報記憶部13bには、インキの粘度を計算するための所定の関係式(粘度計算式)が記憶されている。粘度計算式は、インキの粘度とダイヤフラムポンプ11の脈動との関係に基づいて得られる。その粘度計算式を次に示す。
【0068】
粘度計算式:インキの粘度(秒)=第1パラメータ×ダイヤフラムポンプ11の脈動の周期(秒)+第2パラメータ(秒)+第3パラメータ(秒)
【0069】
第1パラメータおよび第2各パラメータは、主にインキの色によって決まる値である。第3パラメータは、補正値である。例えば、第3パラメータは、粘度コントローラ1の表示値が実測値と異なる場合などに調整される。
【0070】
粘度情報記憶部13bには、白色のインキに対応した第1関係式、および、白色以外の有色のインキに対応した第2関係式からなる、少なくとも2つの関係式が設定されている。すなわち、白色のインキに対応した第1から第3のパラメータと、白色以外の有色のインキに対応した第1から第3のパラメータとが設定されている。これら第1から第3のパラメータは、先に説明した知見に基づくものである。複数の計測結果に基づいて設定されている。
【0071】
粘度情報記憶部13bはまた、粘度の調整異常に関係する情報も記憶する。具体的には
、粘度が異常に低く調整されている場合、および、粘度が異常に高く調整されている場合の各々を判定する基準となる情報が設定されている。詳細には、電磁弁12の閉じ時間と、所定時間内における電磁弁12の開き回数とが設定されている。
【0072】
インキの粘度が低い場合、溶剤を加える必要が無いため、電磁弁12を閉じている時間は長くなる。一方、インキの粘度が高い場合、溶剤を加える必要があるため、電磁弁12を開いている時間は長くなる。粘度情報記憶部13bには、粘度が異常に低く調整されている場合の判定基準として、電磁弁12の閉じ時間の上限値(第1上限値)が設定されている。そして、粘度が異常に高く調整されている場合の判断基準として、所定時間内における電磁弁12の開き回数の上限値(第2上限値)が設定されている。
【0073】
粘度調整部13aは、粘度情報記憶部13bと協働し、セレクトスイッチ14および入力デバイス18の各々から入力される情報と、圧力センサ36から入力される信号とに基づいて、電磁弁12を開閉制御する。粘度調整部13aは、圧力センサ36から入力される信号に基づいて、ダイヤフラムポンプ11の脈動(脈動の周期)を検出する。粘度調整部13aは、その脈動の周期と、粘度情報記憶部13bに設定されている粘度計算式とに基づいて、電磁弁12を開く時間およびタイミングを制御する。
【0074】
セレクトスイッチ14は、上述した第1関係式および第2関係式のいずれか一方に切り替えるスイッチである。例えば、グラビア印刷に用いるインキが、白色のインキに変更される場合、第1関係式に対応した位置にセレクトスイッチ14を切り替える。それにより、粘度コントローラ1は、実用上問題ない範囲で、適切に粘度の調整が行える。
【0075】
そして、グラビア印刷に用いるインキが、白色インキ以外の単色のインキ、または、それら単色のインキを混ぜたインキに変更される場合、第2関係式に対応した位置にセレクトスイッチ14を切り替える。それにより、粘度コントローラ1は、実用上問題ない範囲で、適切に粘度の調整が行える。
【0076】
インキの色を変更する際、ザーンカップを用いて粘度を実測する必要は無い。セレクトスイッチ14を切り替えるだけなので、時間もかからず、極めて簡単である。
【0077】
インキの品質のばらつきや経時的な変化などにより、粘度計算式の補正が必要になる場合がある。その場合には、ザーンカップを用いてインキの粘度を実測し、その実測値に基づいて、補正処理を行う。具体的には、入力デバイス18により、第3パラメータを変更し、適切な粘度の調整が行えるように、粘度関係式を補正する。
【0078】
また、白色のインキを混ぜたインキを使用する場合もある(例えば、上述したグレー)。そのような場合にもまた、ザーンカップを用いてインキの粘度を実測し、その実測値に基づいて、校正処理を行えばよい。具体的には、入力デバイス18により、第1から第3の各パラメータを変更し、適切な粘度の調整が行えるように、粘度関係式を校正する。
【0079】
また、何らかのトラブルにより、粘度コントローラ1によって調整されるインキの粘度が異常に低く調整される場合や異常に高く調整される場合があり得る。そのような場合、粘度コントローラ1は、異常を報知するように設定されている。
【0080】
インキの循環中、インキの粘度が異常に低くなると、溶剤を加える必要が無いため、電磁弁12を閉じている時間が異常に長くなる。それに対し、粘度情報記憶部13bには、粘度が異常に低く調整されている場合の判定基準として、電磁弁12の閉じ時間の上限値(第1上限値)が設定されている。粘度調整部13aは、第1上限値以上、電磁弁12が開かれなかったとき、警報ランプ16および警報ブザー15を作動させる。
【0081】
一方、インキの循環中、インキの粘度が異常に高くなると、溶剤を加える必要があるため、電磁弁12を開いている時間が異常に長くなる。それに対し、粘度情報記憶部13bには、粘度が異常に高く調整されている場合の判断基準として、所定時間内における電磁弁12の開き回数の上限値(第2上限値)が設定されている。粘度調整部13aは、所定時間内に第2上限値以上、電磁弁12が開かれたとき、警報ランプ16および警報ブザー15を作動させる。
【0082】
従って、オペレータは、インキの粘度の異常が発生しても、早期に対応できる。
【0083】
なお、開示する技術にかかる粘度コントローラ等は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。すなわち、上述した粘度コントローラ1の構成は一例である。粘度コントローラの構成は、仕様に応じて適宜変更できる。例えば、第1関係式、第2関係式に加え、白色以外の有色のうち、使用頻度の高い色のインキに対応した関係式(第3関係式等、3つ以上)についても予め設定し、その設定もスイッチで変更可能にしてもよい。そうすれば、利便性が向上する。
【0084】
制御装置も一例である。例えば、粘度コントローラの内部のサブ制御部と、粘度コントローラとは別に設けた外部のメイン制御部とで制御装置を構成し、有線または無線による通信を通じて情報を送受信するようにしてもよい。そうすれば、より利便性、拡張性が向上する。
【符号の説明】
【0085】
1 粘度コントローラ
2 送液配管
3 返液配管
4 溶剤タンク
11 ダイヤフラムポンプ
12 電磁弁
13 制御装置
13a 粘度調整部
13b 粘度情報記憶部
14 セレクトスイッチ
15 警報ブザー
16 警報ランプ
50 グラビア印刷機
【要約】
【課題】インキの色が変わっても、簡単な方法で、適切な粘度の調整を実現する。
【解決手段】インキパン54にインキを循環させるダイヤフラムポンプ11と、循環しているインキに対し、開くことによって溶剤を加える電磁弁12と、所定の関係式に基づいて電磁弁12を開閉制御する制御装置13とを備える。制御装置13に、所定の関係式として、インキの色に対応した少なくとも2つ以上の関係式が予め設定されていて、インキの使用時に、関係式の設定の変更が可能なスイッチ14を更に備える。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6