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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】炭素濃度測定方法及び炭素濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20220218BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
H01L21/66 N
G01N21/64 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018003897
(22)【出願日】2018-01-14
(65)【公開番号】P2018125524
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017013609
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/太陽電池セル、モジュールの共通基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126468
【弁理士】
【氏名又は名称】田久保 泰夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165076
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 一義
(72)【発明者】
【氏名】田島 道夫
(72)【発明者】
【氏名】小椋 厚志
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151464(JP,A)
【文献】特開2015-156420(JP,A)
【文献】特開2002-148191(JP,A)
【文献】特開2013-131591(JP,A)
【文献】特開平05-090368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度をフォトルミネッセンス法で測定する炭素濃度測定方法であって、
(A)格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却するステップと、
(B)前記ステップ(A)の後に、前記シリコン結晶にキャリアを励起するステップと、
(C)前記ステップ(B)でキャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、
(D)前記ステップ(C)で測定した複数の波長から選択した特定波長を含む範囲の波長の発光強度を積分した発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素濃度測定方法において、前記ステップ(C)で、発光強度の測定が、前記複数の波長の発光強度を一括測定することを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素濃度測定方法において、前記複数の波長として少なくとも1120nm~1140nmの範囲内の一波長を含み、さらに、前記複数の波長として1278nm又は1569nmの少なくとも一方を含むことを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素濃度測定方法において、
前記ステップ(D)で前記特定波長を1127nmと1278nm、又は1127nmと1569nmとして、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出することを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項5】
炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法であって、
(A)格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶に室温、大気中でキャリアを励起するステップと、
(B)前記ステップ(A)でキャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、
(C)前記ステップ(B)で測定した複数の波長から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、
を備え、
前記ステップ(C)において、前記特定波長が1140nmと1610nmであることを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の炭素濃度測定方法において、前記ステップ(B)で、発光強度の測定が、前記複数の波長の発光強度を一括測定することを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項7】
炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度をフォトルミネッセンス法で測定する炭素濃度測定装置であって、
格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却する冷却部と、
前記シリコン結晶にキャリアを励起する励起部と、
前記励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、
前記スペクトル測定部で測定した複数の波長から選択した特定波長を含む範囲の波長の発光強度を積分した発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部と、
を備えることを特徴とする炭素濃度測定装置。
【請求項8】
炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定装置であって、
格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶に室温、大気中でキャリアを励起する励起部と、
前記励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、
前記スペクトル測定部で測定した複数の波長の中から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部と、
を備え、
前記選択した特定波長が1140nmと1610nmであることを特徴とする炭素濃度測定装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の炭素濃度測定装置において、
前記スペクトル測定部が、複数の特定波長の発光強度を一括測定することを特徴とする炭素濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法及び炭素濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶は、太陽電池、LSI、パワーデバイス等の半導体素子に広く活用されている材料である。このシリコン結晶中に微量に含まれる炭素不純物が、半導体素子製造時に酸素析出欠陥の形成を誘起し、半導体素子の性能劣化の原因となることがわかっているため、半導体素子の特性を制御するためには、シリコン結晶中に含まれる炭素濃度の定量測定が不可欠である。
【0003】
シリコン結晶中の炭素濃度の測定方法として、シリコン結晶へ電子線を照射し、半導体中に含まれる炭素原子を格子間位置に変位させて、ヘリウム冷媒で極低温(例えば、4.2ケルビン(K))に冷却し、フォトルミネッセンス法(以下、「PL法」という)でシリコン結晶中の炭素濃度を測定する方法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、特許文献1には、非特許文献1と同様の構成で、シリコン結晶中の炭素濃度を測定するための測定装置図の例が開示されている。
【0005】
非特許文献1と特許文献1では、粒子線をシリコン結晶に照射して、炭素原子を格子間位置に変位させて、シリコン結晶中の炭素濃度を測定している。
【0006】
これに対して、特許文献2では、粒子線をシリコン結晶に照射して、シリコン原子を格子間位置に変位させて、シリコン結晶中の炭素濃度を測定している。
【0007】
また、特許文献3、4には、室温PL法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5615303号
【文献】特開2015-111615号公報
【文献】特開平1-239863号公報
【文献】特開2016-201461号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Satoko Nakagawa, Kazuhiko Kashima, Michio Tajima, "Quantitative Analysis of Low-Concentration Carbon in Silicon Wafers by Luminescence Activation Using Electron Irradiation", The Forum on the Science and Technology of Silicon Materials 2010, Okayama Univ., Okayama City, Nov 14 to 17, 2010, p.326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1の手段では、極低温での測定であるため、PL法により得られる発光スペクトルの線幅が狭い。この狭い線幅のスペクトルを測定するためには、高分解能の分光器が必要になる。高分解能の分光器を使うと、分光された光は広範囲に分散する。検出器のサイズは有限であるため、PL法での炭素濃度測定には、広範囲に分散した光を複数回に分けて測定する必要がある。こうした装置上の制約の結果として、測定時間が長くかかってしまう問題があった。例えば、1653nm~1033nmの波長範囲の発光強度を測定するためにかかる時間は、少なくとも240秒~360秒を要する。
【0011】
また、非特許文献1、特許文献1の手段では、極低温での測定であるため、ドーパント不純物に由来する発光や多励起子系発光が多く現れる。シリコン結晶中の炭素に由来する発光の発光強度が、ドーパント不純物に由来する発光及び多励起子系発光の影響で変動してしまう。このため、極低温でのPL法による炭素濃度測定は、測定精度が低い。また、極低温では、測定中のシリコン結晶の微小な温度変動が測定結果に大きな影響を与えるため、測定精度が低下しやすい。
【0012】
特許文献2では、シリコン結晶へ粒子線を照射した後のシリコン結晶の冷却温度についての具体的な開示が無い。
【0013】
特許文献3では、GaAsウェハの結晶内における深い準位の評価方法に関して、開示されているが、シリコン結晶中の炭素濃度の測定方法については開示されていない。
【0014】
特許文献4では、波長が1150nmのバンド端発光を利用した実ドーズ量評価、ダメージ回復評価方法に関して開示されているが、シリコン結晶中の炭素濃度の測定方法については開示されていない。
【0015】
また、極低温でのPL法では、冷媒として使う液体ヘリウムが高価である。さらに、液体ヘリウムは気化圧力により容器が爆発する危険性が常にあり、容器に口径の大きな安全弁を取り付けたり、容器を予冷したりする手間がかかる。また、使用後の回収にも留意する必要がある。
【0016】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたものであって、高温の測定で、短時間かつ高精度に炭素濃度を測定することを可能とする、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法及び炭素濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の炭素濃度測定方法は、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度をフォトルミネッセンス法で測定する炭素濃度測定方法であって、(A)格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却するステップと、(B)前記ステップ(A)の後に、前記シリコン結晶にキャリアを励起するステップと、(C)前記ステップ(B)でキャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、(D)前記ステップ(C)で測定した複数の波長から選択した特定波長を含む範囲の波長の発光強度を積分した発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0018】
前記炭素濃度測定方法において、前記ステップ(C)で、発光強度の測定が、前記複数の波長の発光強度を一括測定することを特徴とする。
【0019】
前記炭素濃度測定方法において、前記複数の波長として少なくとも1120nm~1140nmの範囲内の一波長を含み、さらに、前記複数の波長として1278nm又は1569nmの少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0020】
前記炭素濃度測定方法において、前記ステップ(D)で前記特定波長を1127nmと1278nm、又は1127nmと1569nmとして、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出することを特徴とする。
【0021】
本発明の炭素濃度測定方法は、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法であって、(A)格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶に室温、大気中でキャリアを励起するステップと、(B)前記ステップ(A)でキャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、(C)前記ステップ(B)で測定した複数の波長から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、を備え、前記ステップ(C)において、前記特定波長が1140nmと1610nmであることを特徴とする。
【0022】
前記炭素濃度測定方法において、前記ステップ(B)で、発光強度の測定が、前記複数の波長の発光強度を一括測定することを特徴とする。
【0025】
本発明の炭素濃度測定装置は、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度をフォトルミネッセンス法で測定する炭素濃度測定装置であって、子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却する冷却部と、前記シリコン結晶にキャリアを励起する励起部と、前記励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、前記スペクトル測定部で測定した複数の波長から選択した特定波長を含む範囲の波長の発光強度を積分した発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部と、を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の炭素濃度測定装置は、炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定装置であって、格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶に室温、大気中でキャリアを励起する励起部と、前記励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、前記スペクトル測定部で測定した複数の波長の中から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部と、を備え、前記選択した特定波長が1140nmと1610nmであることを特徴とする。
【0027】
前記炭素濃度測定装置において、前記スペクトル測定部が、複数の特定波長の発光強度を一括測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法によれば、格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却するステップと、前記シリコン結晶にキャリアを励起するステップと、キャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、測定した複数の波長から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、を備えることで、従来よりも高温の領域で測定することにより、短時間かつ高精度にシリコン結晶中の炭素濃度を測定することができる。また、炭素濃度の測定感度の向上も図れる。
【0029】
発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を一括測定するステップを有することにより、一括測定ができなかった従来技術よりも短時間にシリコン結晶中の炭素濃度の測定できる。
【0030】
また、本発明の炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定方法は、室温、大気中で格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶にキャリアを励起するステップと、キャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するステップと、測定した複数の波長から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出するステップと、を備えることで、従来よりも高温の領域で測定することにより、短時間かつ高精度にシリコン結晶中の炭素濃度を測定することができる。また、炭素濃度の測定感度の向上も図れる。
【0031】
また、本発明の炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定装置によれば、格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶を63K~100Kの温度範囲に冷却する冷却部と、前記シリコン結晶にキャリアを励起する励起部と、キャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、前記スペクトル測定部で測定した複数の波長の中から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部とを備えることで、従来よりも高温の領域で測定することにより、短時間かつ高精度にシリコン結晶中の炭素濃度を測定することができる。また、炭素濃度の測定感度の向上も図れる。
【0032】
また、本発明の炭素を含むシリコン結晶中の炭素濃度を測定する炭素濃度測定装置によれば、室温、大気中で格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶にキャリアを励起する励起部と、キャリアを励起した前記シリコン結晶の発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定するスペクトル測定部と、前記スペクトル測定部で測定した複数の波長の中から選択した特定波長の発光強度又はその特定波長を含む発光ピークの積分強度に基づき、前記シリコン結晶中の炭素濃度を算出する濃度算出部と備えることで、従来よりも高温の領域で測定することにより、短時間かつ高精度にシリコン結晶中の炭素濃度を測定することができる。また、炭素濃度の測定感度の向上も図れる。
【0033】
複数の波長の発光強度を一括測定するスペクトル測定部を有することで、一括測定ができなかった従来技術よりも短時間にシリコン結晶中の炭素濃度の測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係る炭素濃度測定装置の説明図である。
図2】77Kで測定したC線の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度との相関関係を示すC線の検量線の説明図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る炭素濃度測定方法の説明図である。
図4】77Kで測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。
図5】4.2Kで測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る炭素濃度測定装置の説明図である。
図7】室温で測定した1610nm発光帯の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度との相関関係を示す1610nm発光帯の検量線の説明図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る炭素濃度測定方法の説明図である。
図9】室温で測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<第1実施形態に係る炭素濃度測定装置の構成>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る炭素濃度測定装置10の構成を示す説明図である。
【0036】
炭素濃度測定装置10は、冷却部20、レーザー光発生部(励起部)30、スペクトル測定部40及び濃度算出部50を備える。
【0037】
冷却部20は、シリコン結晶22を冷却する手段である。冷却部20は、内部にシリコン結晶22を載置するホルダーを有する。冷却部20には、レーザー光発生部30から照射されるレーザー光線32と、シリコン結晶22の発光が透過できる窓24とが設けられている。
【0038】
レーザー光発生部30は、レーザー光線32を照射し、シリコン結晶22にキャリアを励起する手段である。レーザー光発生部30は、レーザー発振器と、導光路とを備える。
【0039】
スペクトル測定部40は、励起されたシリコン結晶22から出射される発光スペクトルを測定する手段である。スペクトル測定部40は、シリコン結晶22から出射される光を分光器に効率良く集光する集光光学装置、集光された光を分光する分光器、分光された複数の波長の光を効率よく光検出器に導く集光光学装置、及び光検出器を備える。ここで、前記光検出器として、例えば、複数の波長の光の各強度を同時に測定できるマルチチャンネル半導体ダイオードアレイを用いることができる。マルチチャンネル半導体ダイオードアレイとしては、例えば、InGaAsダイオードアレイや水銀カドミウムテルルダイオードアレイが挙げられる。
【0040】
冷却部20には、レーザー光発生部30及びスペクトル測定部40が接続される。
【0041】
濃度算出部50は、シリコン結晶22の発光スペクトルの発光強度に基づいて、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出する手段である。検量線を記憶させるメモリー、測定結果や計算結果の入出力インタフェース及びCPUを備える。
【0042】
前記検量線は、炭素濃度が既知のシリコン結晶22を複数種類用意し、各シリコン結晶22について、発光スペクトルを測定し、炭素濃度の算出に使用する二つの波長の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現したものである。近似式は、例えば最小二乗法を使って求められる。なお、炭素濃度の算出に使用する二つの波長としては、例えば、1127nmと1278nmである。1120nm~1140nmの範囲内で1127nmの周辺にピークが見られる発光は、シリコン結晶のバンドギャップに相当するエネルギーのバンド端発光である。1569nmにピークが見られる発光は、「C線」と通称される。C線は、シリコン結晶の格子間位置にある炭素と格子間位置にある酸素との複合体のエネルギー準位に由来する発光である。C線の発光強度とバンド端発光の発光強度比と炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現した検量線は「C線の検量線」と呼ばれる。1278nmにピークが見られる発光は、「G線」と通称される。G線は、シリコン結晶の格子位置にある炭素と格子間位置にある炭素の複合体のエネルギー準位に由来する発光である。G線の発光強度とバンド端発光の発光強度比と炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現した検量線は「G線の検量線」と呼ばれる。
【0043】
図2は、77Kで測定したC線の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度との相関関係を示すC線の検量線の説明図である。縦軸が、C線の発光強度比の対数、横軸がシリコン結晶中に含まれる炭素濃度の対数を示している。黒丸のプロットが測定結果である。直線は、測定結果を最小二乗法により近似した回帰線である。この例では両対数グラフ上で直線になっているが、実測値を補間する関係性を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0044】
<第1実施形態に係る炭素濃度の測定方法>
次に、シリコン結晶中の炭素濃度の測定方法について図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態に係る炭素濃度測定方法の説明図である。
【0045】
予め、炭素を含み、格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶22を用意する。変位処理については、非特許文献1や特許文献1に開示された公知技術(電子線照射)が用いられるのが一般的である。
【0046】
まず、シリコン結晶22を冷却部20内部のホルダーに載置する(ステップS1)。
【0047】
次に、シリコン結晶22を冷却する(ステップS2)。具体的には、冷却部20内部の空洞に、外部から導入される液体窒素の冷媒を循環させ、シリコン結晶22を冷媒に直接浸漬させる。液体窒素に直接浸漬させた場合、熱平衡状態では、シリコン結晶22は液体窒素の沸点と同じ77Kに冷却される。
【0048】
シリコン結晶22にキャリアを励起する(ステップS3)。具体的には、シリコン結晶22のバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーを持つレーザー光線32を、レーザー光発生部30より、冷却部20の窓24を通じて、シリコン結晶22に照射する。レーザー光発生部30は、例えば、レーザー発振器にNd:YVOを使った全固体レーザーで、レーザー光線32の波長は532nmである。
【0049】
シリコン結晶22の発光スペクトルを測定する(ステップS4)。具体的には、シリコン結晶22に対向する位置に配置されたスペクトル測定部40を用いて、シリコン結晶22から、冷却部の窓24を通じて検出される発光スペクトルに含まれる複数の波長の発光強度を測定する。測定する波長の範囲は、バンド端発光を含み、さらに、G線又はC線の少なくとも一方を含む範囲である。
【0050】
図4は、77Kで測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。縦軸は、任意単位で測定した発光強度である。横軸は測定した発光の波長である。バンド端発光80、G線70、C線60が明確に観測される。
【0051】
測定した特定波長の発光強度に基づき、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出する(ステップS5)。具体的には、濃度算出部50が、予めメモリーに記憶させたC線の検量線を読み出し、ステップS4で測定した発光スペクトルのうち、C線60の発光強度をバンド端発光80の発光強度で除した値(以下、「C線の発光強度比」という)を求め、C線の検量線を表す式(図2参照)にC線の発光強度比を代入することによって、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出する。
【0052】
以下に、極低温で測定する従来技術との比較について説明する。
【0053】
図5は、4.2Kで測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。縦軸は、任意単位で測定した発光強度である。見易さのため、1210nm以上の波長の発光強度は8倍に増幅して記載されている。横軸は測定された発光の波長である。
【0054】
4.2Kで測定される発光スペクトルは、G線70やC線60だけでなく、複数の波長の発光が測定される。これには、リンなどのドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90が含まれる。バンド端発光80及び炭素に由来する発光(G線70及びC線60)だけでなく、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90も生じてしまう極低温では、シリコン結晶中の炭素に由来する発光(G線70及びC線60)の発光強度比が、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90の影響で変動してしまう。このため、測定精度が低い。
【0055】
一方、図4の77Kで測定した発光スペクトルは、G線70、C線60、及びバンド端発光80のみが測定される。77Kでは、ドーパント不純物に由来する発光92の起源となる励起子は不純物から熱的に解離されてしまうので、ドーパント不純物に由来する発光92がない。また、励起子が熱的に解離されてしまうので、励起子の凝集で生じる多励起子系発光90もない。このため、シリコン結晶中の炭素に由来する発光(G線70、及びC線60)の発光強度比が、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90の影響で変動しない。このため、測定精度が高い。
【0056】
以上より、第1実施形態における測定精度は、従来の4.2Kで測定した場合の測定精度よりも高くなる。
【0057】
4.2Kでの測定は、得られる発光スペクトルの線幅が狭く、高分解能の分光器が必要になる。高分解能の分光器を使うと、分光された光は広範囲に分散する。検出器のサイズは有限であるため、一回の測定で広い波長範囲の測定をすることができない。具体的には、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長として、少なくともバンド端発光を含み、さらに、G線又はC線の少なくとも一方を含む範囲の発光スペクトルを一括測定することができない。このため、1回の測定範囲を狭めて、80秒~120秒かかる測定を3回に分けて実施する必要があった。このため、測定時間は少なくとも240秒~360秒かかる。
【0058】
77Kでの測定は、得られる発光スペクトルの線幅が広く、低分散の分光器で分光された光を測定できる。このため、一回の測定で広い波長範囲の測定をすることができる。具体的には、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長として、少なくともバンド端発光を含み、さらに、G線又はC線の少なくとも一方を含む範囲の発光スペクトルを一括測定することができる。この結果として、測定時間も短縮できる。この実施例の場合、3秒で測定を終えることができる。
【0059】
以上より、第1実施形態における測定時間は、従来の4.2Kで測定した場合の測定時間よりも短縮できる。
【0060】
測定中のシリコン結晶の微小な温度変動ΔTは、測定結果に影響を与える。具体的には、ΔT/4.2:ΔT/77は、おおむね1:0.05である。これは、同じ微小な温度変動ΔTが、温度全体に与える影響の大きさは、77Kでの測定は、4.2Kでの測定の5%程度にすぎないことを意味する。
【0061】
以上より、第1実施形態における測定精度は、従来の4.2Kで測定した場合の測定精度よりも高くなる。
【0062】
77Kでの測定は、従来の4.2Kでの測定に比べて微小な温度変動ΔTに影響を受けにくく、測定時間が短縮でき、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90がシリコン結晶中の炭素に由来する発光(G線70、及びC線60)に影響を及ぼさないという特徴がある。
【0063】
また、77Kでの測定は、低分散の分光器で測定が可能であるため、焦点距離が短くなり、従来の4.2Kでの測定で使われる分光器よりも、PL法で得られる発光のうち、検出器に取り込める光量が増加する。また、検出器の単位面積あたりに検出できる光量が増加する。こうした装置上の特長から、測定結果のS/N比が向上する。
【0064】
以上より、第1実施形態における測定感度は、従来の4.2Kで測定した場合の測定感度よりも向上する。
【0065】
4.2Kでの測定は、冷媒に液体ヘリウムを使うが、ヘリウムは地球上の元素における存在比率が低いため、液体窒素に比べて非常に高価である。液体ヘリウムを使った冷却では、急激な液体ヘリウムの蒸発ガスによる容器の破壊を防ぐため、容器に口径の大きな安全弁を取り付ける必要がある。また、容器を液体窒素により予冷する必要がある。使用後の回収にも留意する必要がある。
【0066】
77Kでの測定は、冷媒に液体窒素を使うが、液体窒素は空気を冷却して作られるため、比較的安価で購入できる。液体窒素は、室温との温度差が液体ヘリウムほど大きくないため、大型の安全弁や予冷は不要である。
【0067】
以上より、第1実施形態における測定は、従来の4.2Kの測定の場合に比べて、冷媒が安価なうえ、取扱いが容易である。
【0068】
次に、本発明の第2実施形態について、図面を用いて説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る炭素濃度測定装置200の構成を示す説明図である。
【0069】
本発明の第2実施形態に係る炭素濃度測定装置200は、載置台26、レーザー光発生部(励起部)30、スペクトル測定部40及び濃度算出部50を備える。即ち、第1実施形態に係る炭素濃度測定装置10に対して、炭素濃度測定装置200は、冷却部20の代わりに、載置台26を有する。なお、図1に示した炭素濃度測定装置10と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0070】
載置台26は、シリコン結晶22を載置するための台である。
【0071】
濃度算出部50において、炭素濃度の算出に使用する二つの波長としては、例えば、1140nmと1610nmである。1130nm~1150nmの範囲内で1140nmの周辺にピークが見られる発光は、シリコン結晶のバンドギャップに相当するエネルギーのバンド端発光である。なお、第1実施形態におけるバンド端発光の波長と比較すると、液体窒素から室温への温度上昇に伴いバンドギャップが減少したことに対応して、第2実施形態におけるバンド端発光は、長波長側にずれている。また、1400nm~1700nmの範囲内で、より好ましくは1560nm~1660nmの範囲内で1610nmの周辺にピークが見られる発光を「1610nm発光帯」と呼ぶ。1610nm発光帯は、上述したC線と同一の熱処理挙動を示し、また、その強度が炭素濃度と正相関を示すから,C線と同様に炭素の複合体のエネルギー準位に由来する発光であると推定される。1610nm発光帯とバンド端発光の発光強度比と炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現した検量線を「1610nm発光帯の検量線」と呼ぶ。
【0072】
図7は、室温で測定した1610nm発光帯の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度との相関関係を示す1610nm発光帯の検量線の説明図である。縦軸が、1610nm発光帯の発光強度比の対数、横軸がシリコン結晶中に含まれる炭素濃度の対数を示している。黒丸のプロットが測定結果である。直線は、測定結果を最小二乗法により近似した回帰線である。この例では両対数グラフ上で直線になっているが、実測値を補間する関係性を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0073】
<第2実施形態に係る炭素濃度の測定方法>
次に、シリコン結晶中の炭素濃度の測定方法について図8を用いて説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る炭素濃度測定方法の説明図である。
【0074】
第1実施形態と同様に予め、炭素を含み、格子位置の前記炭素の原子を格子間位置に変位処理されたシリコン結晶22を用意する。
【0075】
次に、シリコン結晶22を載置台26に載置する(ステップS11)。
【0076】
大気中、室温(20℃~30℃)でシリコン結晶22にキャリアを励起する(ステップS12)。ステップS12のキャリアの励起は、ステップS3と同様に行われる。
【0077】
シリコン結晶22の発光スペクトルを測定する(ステップS13)。ステップS13の測定方法は、ステップS4と同様であるが、ステップS4とは、測定する波長の範囲が異なる。ステップS13で測定する波長の範囲は、バンド端発光110を含む1000nm~1200nmの範囲内のうち、少なくとも一波長を含み、1610nm発光帯100を含む1400nm~1700nmの範囲内のうち、少なくとも一波長を含む範囲である。
【0078】
図9は、室温で測定したシリコン結晶の発光スペクトルの例を示す図である。縦軸は、任意単位で測定した発光強度である。横軸は測定した発光の波長である。バンド端発光110、1610nm発光帯100が明確に観測される。
【0079】
測定した特定波長の発光強度に基づき、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出する(ステップS14)。具体的には、濃度算出部50が、予めメモリーに記憶させた1610nm発光帯の検量線を読み出し、ステップS13で測定した発光スペクトルのうち、1610nm発光帯100の発光強度をバンド端発光110の発光強度で除した値(以下、「1610nm発光帯の発光強度比」という)を求め、1610nm発光帯の検量線を表す式(図7参照)に1610nm発光帯100の発光強度比を代入することによって、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出する。
【0080】
図9の室温で測定した発光スペクトルは、1610nm発光帯100及びバンド端発光110のみが測定される。室温では77Kと同様に、ドーパント不純物に由来する発光92の起源となる励起子は不純物から熱的に解離されてしまうので、ドーパント不純物に由来する発光92がない。また、励起子が熱的に解離されてしまうので、励起子の凝集で生じる多励起子系発光90もない。このため、シリコン結晶中の炭素に由来する発光(1610nm発光帯100)の発光強度比が、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90の影響で変動しない。このため、測定精度が高い。
【0081】
従って、上述したように4.2Kで測定した場合の測定精度は低いが、第2実施形態における測定精度は、4.2Kで測定した場合よりも高くなる。
【0082】
また、第2実施形態における測定時間は約60秒程度となり、上述した4.2Kで測定した場合の測定時間よりも短縮できる。
【0083】
さらに、測定中のシリコン結晶の微小な温度変動ΔTは、ΔT/4.2:ΔT/300は、概ね1:0.01、すなわち1%程度に過ぎない。従って、第2実施形態における測定精度は、従来の4.2Kで測定した場合の測定精度よりも高くなる。
【0084】
また、第2実施形態における測定は、従来の4.2Kで測定した場合に比べて微小な温度変動ΔTに影響を受けにくく、測定時間が短縮でき、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90がシリコン結晶中の炭素に由来する発光(1610nm発光帯100)に影響を及ぼさないという特徴がある。
【0085】
さらに、第2実施形態における測定は、低分散の分光器で測定が可能であるため、焦点距離が短くなり、従来の4.2Kで測定に使われる分光器よりも、PL法で得られる発光のうち、検出器に取り込める光量が増加する。また、検出器の単位面積あたりに検出できる光量が増加する。こうした装置上の特長から、測定結果のS/N比が向上する。
【0086】
以上より、第2実施形態における測定感度は、従来の4.2Kで測定した場合の測定感度よりも向上する。
【0087】
さらに、第2実施形態における測定は、室温、大気中で行えることができ、また、冷却する必要がないために、冷却部が不要となり、装置を簡便に構成できる。
【0088】
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得ることはもちろんである。
【0089】
上述した実施形態の濃度算出部50は、メモリー、入出力インタフェース及びCPUを備えるが、スペクトル測定部40で測定された発光強度からシリコン結晶中の炭素濃度を算出することができれば、これに限定されるものではない。例えば、検量線上のG線又はC線の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度の対応表が、ステップS4で測定されたG線又はC線の発光強度とともに表示される機能を備えるものでもよい。また、検量線上の1610nm発光帯の発光強度比とシリコン結晶中の炭素濃度の対応表が、ステップS13で測定された1610nm発光帯の発光強度とともに表示される機能を備えるものでもよい。
【0090】
上述した実施形態のスペクトル測定部40は、複数の波長を測定するマルチチャンネル検出器を備えるが、複数の波長を測定することができれば、これに限定されるものではない。例えば、分光器の回折格子を回転させることにより、複数の波長を測定するシングルチャンネル検出器でも良い。
【0091】
上述した実施形態のレーザー光発生部30は、レーザー光を発生させてシリコン結晶に照射することでシリコン結晶にキャリアを励起しているが、シリコン結晶にキャリアを励起することができれば、これに限定されるものではない。例えば、電子線を照射することでシリコン結晶にキャリアを励起することができる、電子銃であってもよい。
【0092】
上記実施形態では、シリコン結晶22を77Kに冷却しているが、従来の4.2Kでの測定よりも扱いが易しい冷媒で冷却でき、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90が生じず、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長の発光スペクトルを測定することができる条件の温度であれば、77Kに限定されるものではない。
【0093】
例えば、閉循環型ヘリウムコンプレッサーを用いた冷却装置の使用や、液体窒素を減圧によりさらに冷却した冷媒の使用により、窒素の融点である63Kまでは冷却できる。また、ホルダーにヒーターと温度計を設けることにより、77K以上の温度範囲での温度制御が可能になる。なお、特定波長の発光強度がノイズに埋もれない温度の上限は、100K程度である。すなわち、63K~100Kの範囲であれば、閉循環型ヘリウムコンプレッサーや液体窒素等で冷却でき、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90が生じない条件で、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長の発光スペクトルを測定することができる。
【0094】
なお、63K以下では、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90が少しずつ大きくなり、発光スペクトルの線幅が狭まっていく。63K以下でも、ドーパント不純物に由来する発光92及び多励起子系発光90が十分小さくなる温度であれば、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長の発光スペクトルの測定精度を高めることができる。また、63K以下でも、発光スペクトルの線幅の広がりが一定以上あり、低分散の分光器で分光された光を検出器でとらえることができれば、一括又は短時間で測定できる。また、PL法で得られる発光のうち、検出器に取り込める光量が増加することから、測定感度を高めることができる。また、100K以上でも、S/N比を大きくすることで、特定波長の発光強度がノイズに埋もれない温度であれば、シリコン結晶中の炭素濃度の測定に必要な複数の波長の発光スペクトルを測定することができる。
【0095】
上記実施形態では、冷却部20内部の空洞に、外部から導入される液体窒素等の液体又は気体の冷媒を循環させ、冷媒に直接浸漬させ、シリコン結晶22を冷却しているが、シリコン結晶22を冷却できれば、これに限定されるものではない。例えば、真空チャンバー内部において、シリコン結晶22が載置されたホルダー部に白金や銅など十分に熱伝導度の高い材質で構成される熱伝導体を介してシリコン結晶22を冷却しても良い。その際には、例えば、熱伝導体に空洞を設け、この空洞に真空チャンバーの外部から導入される液体窒素等の液体又は気体の冷媒を供給し、熱伝導体を介してシリコン結晶22を冷却しても良く、また、閉循環型ヘリウムコンプレッサーを使って熱伝導体を冷却し、熱伝導体を介してシリコン結晶22を冷却しても良い。
【0096】
上記実施形態では、冷却部20には、窓24が設けられているが、レーザー光発生部30から照射されるレーザー光線32とシリコン結晶22の発光が透過できる機能があれば、この窓24はレーザー光線32用とシリコン結晶22の発光用に別々に設けられてもよい。
【0097】
上記実施形態では、ステップS5、ステップS14では、特定波長の発光強度に基づき炭素濃度を算出しているが、特定波長を含み山形の広がりをもった形で観測される発光スペクトルのピーク(ここでは、一定の波長範囲に広がりをもった山形のスペクトルを「ピーク」とよぶ。以下同じ)について、その山形に広がる範囲の波長の発光強度を積分した値(以下、発光ピークの積分強度という)に基づき炭素濃度を算出してもよい。積分する波長の範囲は、例えば、半値幅の範囲、発光強度がノイズレベルよりも高くなる波長の範囲、又はローレンツ関数やガウス関数やマックスウェル・ボルツマン関数でピークの形状をフィッティングして得られるピークの範囲で決定される。
【0098】
上記実施形態では、ステップS5では、濃度算出部50が、予めメモリーに記憶させたC線の検量線を読み出し、ステップS4で測定した発光スペクトルのうち、C線の発光強度比をC線の検量線を表す式に代入することによって、前記シリコン結晶22中の炭素濃度を算出しているが、シリコン結晶22中の炭素濃度を算出できればこれに限定されるものではない。例えば、濃度算出部50が、予めメモリーに記憶させたG線の検量線を読み出し、G線70の発光強度をバンド端発光80の発光強度で除した値(以下、G線の発光強度比という)を求め、前記G線の検量線を表す式に代入することによって、前記シリコン結晶22中の炭素濃度を算出してもよい。また、C線の発光強度比を用いて算出した炭素濃度とG線の発光強度比を用いて算出した炭素濃度の大きい値、小さい値、又は平均値をとることによって算出してもよい。
【0099】
上記実施形態では、検量線を、特定波長の発光強度比と炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現したものとしているが、シリコン結晶22からの発光が炭素濃度以外の要因の差を無視でき又は補正可能であり、炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現することができれば、検量線を、特定波長の発光強度と炭素濃度との正の相関関係の近似式を表現したものとしてもよい。この場合、ステップS5において、検量線を表す式に代入するのは、特定波長(G線70又はC線60)の発光強度となる。また、ステップS14において、検量線を表す式に代入するのは、特定波長(1610nm発光帯100)の発光強度となる。
【符号の説明】
【0100】
10、200…炭素濃度測定装置
20…冷却部
22…シリコン結晶
24…窓
26…載置台
30…レーザー光発生部
32…レーザー光線
40…スペクトル測定部
50…濃度算出部
60…C線
70…G線
80、110…バンド端発光
90…多励起子系発光
92…ドーパント不純物に由来する発光
100…1610nm発光帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9