(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】生体分解性マグネシウム合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/04 20060101AFI20220218BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20220218BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20220218BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220218BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220218BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220218BHJP
【FI】
C22C23/04
C22F1/06
A61L27/02
A61L27/50 300
A61L27/58
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 675
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2019522705
(86)(22)【出願日】2016-12-05
(86)【国際出願番号】 KR2016014172
(87)【国際公開番号】W WO2018079923
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2019-04-25
(31)【優先権主張番号】10-2016-0143642
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504080618
【氏名又は名称】ユー アンド アイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ユ チャン キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン カン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン ソプ ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジ ヨン ビュン
(72)【発明者】
【氏名】ホジョン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン リュル オク
(72)【発明者】
【氏名】ジミン パク
(72)【発明者】
【氏名】ソク ジョ ヤン
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519209(JP,A)
【文献】特表2015-526592(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1792383(CN,A)
【文献】特表2015-526591(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1792384(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0144290(US,A1)
【文献】特表2015-532685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00-23/06
C22F 1/06
A61L 27/00-27/12
A61L 27/50
A61L 27/58
A61L 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
x重量%のカルシウム、y重量%の亜鉛、残部のマグネシウム及び不可避不純物からなる生体分解性マグネシウム合金であって、
前記xとyは、数式1(y=44.894x
2-25.123x+5.192)による軌跡の下部と数式2(y=-10.618x
2+7.8784x+0.1637)による軌跡の上部とがxy平面で互いに重畳される領域に該当し、
前記xは、0.00175以上、かつ0.2より小さい範囲を有し、
前記マグネシウム合金の微細組織は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程で相変態によってなり、
前記マグネシウム合金の微細組織は、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出された粒子状の亜鉛化合物相とを含み、
前記亜鉛化合物相は、前記亜鉛化合物相を全体重量とするとき、90重量%以上のCa
2Mg
6Zn
3を含む生体分解性マグネシウム合金。
【請求項2】
前記マグネシウム合金の前記微細組織は、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出されたCa
2Mg
6Zn
3相のみからなる請求項1に記載の生体分解性マグネシウム合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記生体分解性マグネシウム合金を含む、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用であるインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金及びその製造方法に係り、さらに詳細には、生体分解性マグネシウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、成形が容易であるが、耐蝕性と強度とに優れていないという短所がある。マグネシウム合金の耐蝕性と強度とを改善するために、マグネシウム合金の組成を適切に変化させるための研究が続けられている。そして、研究を通じて、添加元素量が増加するほど、機械的強度が向上することが分かった。しかし、添加元素量が増加すれば、多様な相(phase)が作られるが、これら間の電気的ポテンシャル差が大きいほど、腐蝕速度を増加させるガルバニ回路(galvanic circuit)が形成されやすい条件に変わる。したがって、腐蝕特性を制御しながら、優れた耐蝕性と強度及び延伸率とを有するマグネシウム合金についての研究が要求されている。
関連先行技術としては、特許文献1に開示した技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】大韓民国特許出願公開公報第20120062243号(2012年06月14日公開、発明の名称:生体分解性マグネシウムの分解速度の制御方法及びそれを利用した医療機器用の生体分解性マグネシウム)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた耐蝕性と強度及び延伸率とを有する生体分解性マグネシウム合金及びその製造方法を提供することを目的とする。このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、生体分解性マグネシウム合金であって、前記生体分解性マグネシウム合金は、x重量%のカルシウム、y重量%の亜鉛、残部のマグネシウム及び不可避不純物からなる生体分解性マグネシウム合金であり、前記xとyは、数式1(y=44.894x2-25.123x+5.192)による軌跡下部と数式2(y=-10.618x2+7.8784x+0.1637)による軌跡上部とがxy平面で互いに重畳される領域に該当し、前記xは、0.00175以上、かつ0.2よりも小さい範囲を有し、前記マグネシウム合金の微細組織は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程で相変態によってなり、前記マグネシウム合金の微細組織は、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出された粒子状の亜鉛化合物相とを含み、前記亜鉛化合物相は、前記亜鉛化合物相を全体重量とするとき、90重量%以上のCa2Mg6Zn3を含む。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、生体分解性マグネシウム合金であって、前記マグネシウム合金の微細組織は、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出されたCa
2
Mg
6
Zn
3
相のみからなりうる。
【0011】
本発明の参考例としては、生体分解性マグネシウム合金の製造方法を提供する。前記生体分解性マグネシウム合金の製造方法は、前述した前記マグネシウム合金の組成を有する溶湯を鋳造する段階;前記鋳造されたマグネシウム合金に対して300℃~400℃の範囲で溶体化処理を行う段階;及び、前記溶体化処理を行う段階以後に、300℃~400℃の範囲で熱間押出を行う段階;を含む。
【0012】
本発明の参考例に係る前記生体分解性マグネシウム合金の製造方法においては、前記熱間押出を行った後、17時間~19時間人工時効処理を行う段階をさらに含みうる。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、インプラントを提供する。前記インプラントは、上記態様にかかる前記生体分解性マグネシウム合金を含み、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用である。
【発明の効果】
【0014】
前記のようになされた本発明の一実施例によれば、優れた耐蝕性と強度及び延伸率とを有する生体分解性マグネシウム合金及びその製造方法を具現することができる。しかし、このような効果は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】カルシウムの含量を可変的にしながら、1重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図2】カルシウムの含量を可変的にしながら、1.5重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.5Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図3】カルシウムの含量を可変的にしながら、1.6重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.6Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図4】カルシウムの含量を可変的にしながら、1.7重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.7Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図5】カルシウムの含量を可変的にしながら、1.8重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.8Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図6】カルシウムの含量を可変的にしながら、2.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-2Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図7】カルシウムの含量を可変的にしながら、3.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-3Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図8】カルシウムの含量を可変的にしながら、4.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-4Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図9】カルシウムの含量を可変的にしながら、5.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-5Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
【
図10】カルシウムと亜鉛との組成範囲を限定する数式1を示すグラフである。
【
図11】カルシウムと亜鉛との組成範囲を限定する数式2を示すグラフである。
【
図12】本発明の一実施例による生体分解性マグネシウム合金でカルシウムと亜鉛との組成範囲を示す図面である。
【
図13】本発明の他の実験例による生体分解性マグネシウム合金の腐蝕特性を比較分析したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例を詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として具現可能なものであって、以下の実施例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。また、説明の便宜上、図面では、少なくとも一部の構成要素が、その大きさが誇張または縮小されうる。図面で、同じ符号は、同じ要素を表す。
【0017】
図1は、カルシウムの含量を可変的にしながら、1重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図1によれば、P1とP2とを連結する境界線は、α-Mg単相のみからなる組織(
図1において、‘HCP’と表示された領域に対応)が、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出された粒子状のCa
2Mg
6Zn
3相のみからなる組織(
図1において、‘HCP+CA2MG6ZN3’と表示された領域に対応)に変態される境界に該当する。すなわち、高温のMg(HCP)が、P1とP2とを連結する境界線を経ながら冷却(Q)される場合、マグネシウム母材内にただCa
2Mg
6Zn
3のみが析出される。したがって、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.131の値を有する。本発明者は、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。
【0018】
図2は、カルシウムの含量を可変的にしながら、1.5重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.5Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図2によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.268の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0019】
図3は、カルシウムの含量を可変的にしながら、1.6重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.6Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図3によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.2907の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0020】
図4は、カルシウムの含量を可変的にしながら、1.7重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.7Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図4によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.2661の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0021】
図5は、カルシウムの含量を可変的にしながら、1.8重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-1.8Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図5によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.2435の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0022】
図6は、カルシウムの含量を可変的にしながら、2.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-2Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図6によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.2036の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0023】
図7は、カルシウムの含量を可変的にしながら、3.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-3Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図7によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.105の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0024】
図8は、カルシウムの含量を可変的にしながら、4.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-4Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図8によれれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.04015の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0025】
図9は、カルシウムの含量を可変的にしながら、5.0重量%の亜鉛及び残部のマグネシウムからなるMg-5Zn-xCa 3元系合金の状態図の一部を図解する図面である。
図9によれば、カルシウムのP1重量%は、前記マグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量と理解することができる。本実施例の合金で、このようなP1は、0.0167の値を有する。本実施例でも、α-Mg相の母材に分散析出された粒子がCa
2Mg
6Zn
3の単相のみからなる場合、耐腐蝕性及び強度が相対的にさらに良好であることを確認した。それ以外の残りの説明は、
図1の説明と同様である。
【0026】
前述した実施例によるマグネシウム合金は、生体分解速度が容易に制御され、強度及び耐腐蝕性に優れ、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用インプラント部材に適用可能である。このようなマグネシウム合金は、α-Mg相の母材と、前記母材に分散析出された粒子状の亜鉛化合物相とを含む。前記亜鉛化合物相は、前記亜鉛化合物相を全体重量とするとき、90重量%以上のCa2Mg6Zn3を含みうる。厳密には、前記亜鉛化合物相は、前記亜鉛化合物相を全体重量とする時、98重量%以上のCa2Mg6Zn3を含み、さらに厳密には、前記母材に分散析出された粒子状の亜鉛化合物相は、Ca2Mg6Zn3のみからなることもある。
【0027】
本発明者は、耐腐蝕性及び強度が良好であって、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用インプラント部材に適用可能な生体分解性マグネシウム合金が、
図1ないし
図9から導出された値を境界とする所定の範囲内の組成を有する場合、具現可能であることを確認した。以下、これについて説明する。
【0028】
図10及び
図11は、カルシウムと亜鉛との組成範囲を限定する数式1及び数式2を示すグラフであり、
図12は、本発明の一実施例による生体分解性マグネシウム合金でカルシウムと亜鉛との組成範囲を示す図面である。
【0029】
図10によれば、カルシウムと亜鉛との組成範囲を限定する数式1(y=44.894x
2-25.123x+5.192)の軌跡が表われる。すなわち、1.6重量%以上の亜鉛の含量を固定した状態でマグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量を導出した後、カルシウムの最大許容含量をx座標値に、亜鉛の含量をy座標値にして、xy平面に配置すれば、亜鉛の含量yとカルシウムの最大許容含量xは、数式1(y=44.894x
2-25.123x+5.192)の関数関係を有することを確認することができる。数式1を具現するために提供された座標値(x、y)は、
図1ないし
図9で説明した方式で導出し、例えば、(0.0167、5)、(0.04015、4)、(0.125、2.7)、(0.1474、2.5)、(0.1719、2.2)、(0.2036、2)、(0.2435、1.8)、(0.2661、1.7)、(0.2907、1.6)である。
【0030】
図11によれば、カルシウムと亜鉛との組成範囲を限定する数式2(y=-10.618x
2+7.8784x+0.1637)の軌跡が表われる。すなわち、1.6重量%以下の亜鉛の含量を固定した状態でマグネシウム合金の溶湯を自然冷却する過程において、α-Mg単相のみからなる組織が、α-Mg相の母材と、前記母材にCa
2Mg
6Zn
3のみ分散析出されてなされた組織に相変態する温度区間が存在できるようにするカルシウムの最大許容含量を導出した後、カルシウムの最大許容含量をx座標値に、亜鉛の含量をy座標値にして、xy平面に配置すれば、亜鉛の含量yとカルシウムの最大許容含量xは、数式2(y=-10.618x
2+7.8784x+0.1637)の関数関係を有することを確認することができる。数式2を具現するために提供された座標値(x、y)は、
図1ないし
図9で説明した方式で導出し、例えば、(0.00269、0.1)、(0.01573、0.3)、(0.0389、0.5)、(0.05293、0.6)、(0.0821、0.7)、(0.1086、0.9)、(0.131、1.0)、(0.1809、1.2)、(0.2351、1.4)、(0.268、1.5)、(0.2907、1.6)である。
【0031】
図12によれば、本発明の一実施例による生体分解性マグネシウム合金は、x重量%のカルシウム、y重量%の亜鉛、残部のマグネシウム及び不可避不純物からなり、前記xとyは、数式1(y=44.894x
2-25.123x+5.192)による軌跡(U)下部と数式2(y=-10.618x
2+7.8784x+0.1637)による軌跡(L)上部とがxy平面で互いに重畳される領域に該当する範囲を有しうる。この場合、前記亜鉛化合物相は、前記亜鉛化合物相を全体重量とするとき、90重量%以上のCa
2Mg
6Zn
3を含みうるので、耐腐蝕性及び強度が良好な生体分解性マグネシウム合金を具現することができる。
【0032】
図12に示した点は、それを確認するために実験した合金の組成例であり、数式1による軌跡(U)以下と数式2による軌跡(L)以上とがxy平面で互いに重畳される第1領域に対応するカルシウムと亜鉛組成を有する生体分解性マグネシウム合金は、析出相が単相を有することに対して、前記第1領域以外の領域に対応するカルシウムと亜鉛組成を有する生体分解性マグネシウム合金は、析出相が2個以上に表われた。本発明者は、析出相が2個以上である場合よりも単相である場合、生体分解性マグネシウム合金の耐腐蝕性及び強度に優れていることを確認した。
【0033】
一方、本発明の他の実施例によれば、前述した組成を有する溶湯を鋳造して、該鋳造されたマグネシウム合金に対して追加的な熱処理を行って、強度と延伸率とが増加することを確認することができた。例えば、以下の表1の実験例では、前述した組成を有する溶湯を鋳造して、該鋳造されたマグネシウム合金に対して300℃~400℃の範囲で溶体化処理を行う段階、及び前記溶体化処理を行う段階以後に、300℃~400℃の範囲で熱間押出を行った後、17時間~19時間人工時効処理を行う段階を行うことにより、強度と延伸率とが増加した。但し、本発明の技術的思想で人工時効処理を行う段階は、必須的な段階ではなく、選択的に省略することもできる。例えば、以下の表1において、非熱処理は、熱間押出前、約400℃の温度で6時間溶体化処理を行った後に、クエンチング(quenching)する条件を含みうり、この場合には、人工時効処理を省略することができる(T4熱処理)。また、以下の表1において、熱処理は、熱間押出前、約300℃~400℃の温度で6時間溶体化処理を行った後に、クエンチングし、この場合には、熱間押出を行った後、再び200℃の温度で17時間~19時間人工時効処理を行う条件をさらに含みうる(T6熱処理)。さらに、人工時効処理を行う場合でも、17時間~19時間進行する場合、強度と延伸率とが増加する現象が顕著であったが、本発明の技術的思想が、前述した特定時間のみに限定されるものではない。
【0034】
以下の表1では、本発明の実験例による生体分解性マグネシウム合金の強度及び延伸率の特性を、人工時効熱処理を行っていない場合(非熱処理)と、人工時効熱処理を行った場合(熱処理)に分けて、比較分析した結果を示した。
【0036】
表1において、UTSは、最大引張強度(Ultimate Tensile Strength)を示し、材料が切断されるように引っ張った時、耐える最大荷重を材料の断面積で割った値を意味し、延伸率は、引張試験で材料が伸びる比率を意味する。一般的に、最大引張強度と延伸率は、互いに相反する傾向を有するので、表1では、最大引張強度と延伸率との積を100で割って表現される第1パラメータを導入して、生体分解性マグネシウム合金の物性を評価した。
表1によれば、0より大きく5重量%以下の亜鉛、0.05重量%~0.35重量%のカルシウム、残部のマグネシウム及び不可避不純物からなる生体分解性マグネシウム合金(実験例2、3、4、5、7、12、13、14)は、人工時効熱処理を行っていない場合でも、第1パラメータの値が50を超過し、人工時効熱処理を行った場合には、第1パラメータの値が60を超過することが示された。一方、実験例1、9、10、11、18によれば、カルシウムが存在しないか、0.05重量%未満の極少量のみ存在する場合のマグネシウム合金では、人工時効熱処理を行っていない場合では、第1パラメータの値が50未満の値を有し、人工時効熱処理を行った場合にも、第1パラメータの値は60未満の値を有することを確認することができる。
【0037】
前述した実験例2、3、4、5、7、12、13、14による生体分解性マグネシウム合金は、
図12に示された数式1による軌跡(U)以下と数式2による軌跡(L)以上とがxy平面で互いに重畳される第1領域に対応するカルシウムと亜鉛組成を有すると確認した。したがって、マグネシウム母材内の析出相が2個以上である場合よりも単相(Ca
2Mg
6Zn
3)である場合、生体分解性マグネシウム合金の強度及び延伸率に優れていることを確認することができる。
【0038】
以下、本発明の他の実験例による生体分解性マグネシウム合金の腐蝕特性を比較分析した。
図13は、本発明の他の実験例による生体分解性マグネシウム合金の腐蝕特性を比較分析したグラフである。
【0039】
まず、表2によれば、実験例21、実験例22、実験例24、実験例25、実験例27は、それぞれMg-0.56Zn-0.037Ca、Mg-0.99Zn-0.029Ca、Mg-1.63Zn-0.059Ca、Mg-1.61Zn-0.14Ca、Mg-2.94Zn-0.00175Caの組成を有する合金であって、カルシウムと亜鉛との組成は、前記数式1による軌跡下部と前記数式2による軌跡上部とがxy平面で互いに重畳される領域に該当する範囲を有する。そのうち、実験例21は、前記数式2による軌跡に非常に隣接した領域に位置する。一方、実験例26及び実験例28は、それぞれMg-1.7Zn-0.3Ca、Mg-3Zn-0.2Caの組成を有する合金であって、カルシウムと亜鉛との組成は、前記数式1による軌跡下部と前記数式2による軌跡上部とがxy平面で互いに重畳される領域外の領域に該当する範囲を有する。
【表2】
【0040】
図13の縦軸は、腐蝕実験でマグネシウム溶出量を意味し、これは、腐蝕速度を示す指標と理解することができる。これによれば、実験例26、実験例28は、腐蝕速度において他の試片に比べて、格段に速いことを確認することができる。また、数式1と数式2とによって定義される軌跡に隣接した実験例21では、中間程度の腐蝕速度が表われ、残りの実験例22、実験例23、実験例24、実験例25、実験例27は、腐蝕速度が相対的に著しく遅いことを確認することができる。
【0041】
本発明は、図面に示された実施例を参考にして説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。