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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/76 20060101AFI20220218BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220218BHJP
   C08G 18/34 20060101ALI20220218BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20220218BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20220218BHJP
   C08G 73/14 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
C08G18/76 085
C08J5/18 CFG
C08G18/34 030
C08G18/32 087
C08L79/08 C
C08G73/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021118171
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021002922
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-056440(JP,A)
【文献】特開2002-212289(JP,A)
【文献】特開2014-028921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08J 5/18
C08G 73/00-73/26
C08L 1/00-101/14
G03G 13/02-21/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)およびダイマ酸(DA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用い、TODIの10~50モル%がメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)に置換されているポリアミドイミド(PAI)であって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上であることを特徴とするポリアミドイミド(PAI)。
【請求項2】
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)およびダイマ酸(DA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用い、TODIの10~50モル%がメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)に置換されているポリアミドイミド(PAI)であって、DAの使用量が、TMAおよびDA合計のモル数に対して、0.5モル%以上、20モル%以下であるPAI。
【請求項3】
請求項1または2記載のPAIを含む、複写機ベルト形成用ポリアミドイミド溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム状に成形して、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等として好適に用いられるポリアミドイミド(PAI)に関する。
【背景技術】
【0002】
高速化が求められる複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして、耐熱性、機械特性、寸法安定性に優れたPAI等のポリイミド系材料からなるフィルムが広く用いられている。
これらのベルトは、例えば、PAIを含有する溶液を金型に塗布、乾燥することにより得ることができ、通常、厚みが30μm~150μmのPAIフィルムからなるシームレスのベルトとして用いられる。
【0003】
これらのベルトとして用いられるPAIフィルムとしては、酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIからなるフィルムが知られている。 特許文献1~5には、このような化学構造を有するPAIフィルムからなるPAIベルトは、寸法安定性、耐熱性、力学特性(特に剛性)に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-147199号公報
【文献】特開2004-155947号公報
【文献】特開2003-261768号公報
【文献】特開2007-16097号公報
【文献】特開2011-79965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献に記載された酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIからなるベルトは、ベルトとしての強靭性、すなわちフィルムとした時の伸度が十分ではなく、ベルトを複写機に装着して長時間使用した際、破断や割れが起こることがあった。 このようなことから、複写機用のベルトとして用いられるPAIとしては、フィルムとした際に高い弾性率(剛性)を有することに加え、高い伸度を有するものが求められていた。すなわち、トレードオフの関係にある、高い弾性率と高い伸度とを、両立させることができるPAIが求められていた。
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、フィルム状に成形した時、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできるPAIの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の化学構造を有する新規なPAIであって、フィルムとした時に特定の力学的特性を有するPAIとすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、「酸成分としてTMAおよびダイマ酸(DA)、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIであって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上であることを特徴とするPAI」を趣旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAIをフィルム状に成形することにより、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムとすることができる。従い、このPAIフィルムからなるPAIベルトは、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のPAIは、例えば、以下のような方法で、溶液として得ることができる。
すなわち、略等モルの、TMAおよびDA(酸成分)と、TODI(イソシアネート成分)とを、溶媒中、重合反応させることにより得ることができる。
酸成分と、イソシアネート成分とのモル比は、1/1.00~1.05とすることが好ましい。
ここで、TMAおよびDAと、TODIのみからなるホモポリマは、反応溶媒に溶解しにくい傾向があるので、TODIの10~50モル%をメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)に置換することが好ましい。
また、酸成分としては、TMAおよびDAを用いることが必要である。ここで、DAの使用量としては、TMAおよびDA合計のモル数に対して、0.5モル%以上、20モル%以下とすることが好ましく、1モル%以上、15モル%以下とすることがより好ましい。DAの使用量をこのような範囲とすることにより、高伸度、高弾性率というトレードオフの関係にある力学的特性値を両立させることができる。
ここで、DA(ダイマ酸)とは、植物系油脂を原料とするC18不飽和脂肪酸の二量化によって製造されたC36ジカルボン酸の二塩基酸を主成分とする脂肪酸であり、クローダジャパン社、築野食品工業社等から市販品として入手することができる。
なお、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。具体的には、TMAの10モル%以下であれば、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等で置換されていてもよい。 この置換率が10モル%を超えると、力学的特性値を両立させることが難しくなることがある。
【0012】
重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物を触媒としてTMAに対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。
このような塩基性触媒を用いることにより、さらに高重合度のPAIとすることができる。
これらの塩基性触媒は、PAI重合の際の重合触媒として知られてはいるが、TMAおよびDAと、TODIとからなるPAIの重合反応において、特異的に有効である。
【0013】
重合反応に用いられる溶媒に制限はないが、アミド系溶媒を用いることが好ましい。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合物として用いることができる。これらの中で、NMP、DMAc、およびそれらの混合物が好ましい。これらの重合溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0014】
重合反応を行う際の反応温度としては、100~200℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0015】
前記のようにして得られる本発明のPAIを含有する溶液は、その溶液粘度が、10Pa・s以上、200Pa・s以下であることが好ましく、80Pa・s以上、150Pa・s以下とすることがより好ましい。
ここで、溶液粘度は、トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、30℃における回転粘度を測定することにより確認することができる。
【0016】
本発明のPAIを含有する溶液の濃度は、10質量%超、25質量%未満とすることが好ましく、16質量%以上、22質量%以下とすることがより好ましい。
【0017】
本発明のPAIを含有する溶液を、ベルト成形用の溶液として用いる場合、ベルトの帯電特性を調整するために、カーボンブラック、黒鉛粒子等の導電性フィラを配合することができる。
【0018】
前記のようにして得られる本発明のPAIを含有する溶液は、基材上に塗布、乾燥することにより、本発明のPAIからなるフィルムとすることができる。
用いる基材に制限はないが、銅箔等の金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の有機高分子フィルムを好ましく用いることができる。
また、本発明のPAIを含有する溶液を、円筒状の金型に塗布、乾燥後、脱型することにより、PAIフィルムからなるシームレスのベルトとすることができる。
なお、PAI溶液からフィルムを得る際の乾燥条件としては、50~180℃の温度で予備乾燥した後、200~300℃とすることが好ましい。
また、成形されたPAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1~200μm程度である。
【0019】
本発明のPAIは、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上であることが必要であり、引張伸度は70%以上、引張弾性率は4.0GPa以上であることがより好ましい。
ここで、PAIフィルムの引張弾性率と引張伸度とは、JIS K7127:1999に準拠して測定することにより確認することができる。
本発明のPAIは、フィルムとした時の引張伸度を60%以上とすることにより、複写機用ベルトとしての耐折れ特性(MIT回数)が向上し、複写機に装着して長時間使用した際のベルトの破断や割れを防止することができる。
ここで、ベルトの耐折れ性(MIT回数)は、ベルトから切り出したフィルムを、JIS-P8115(2001)に準拠して、荷重を9.8Nとして測定することにより確認することができ、MIT回数として2000回以上であることが好ましい。
また、本発明のPAIは、フィルムとした時の引張弾性率が3.5GPa以上とすることにより、複写機用ベルトとしての耐座屈性が向上し、を複写機に装着して長時間使用した際のベルトの変形を防止することができる。
ここで、ベルトの座屈特性は、ベルトを平行な2枚の金属板の間に設置し、1mm/secの速度で圧縮して座屈する時の荷重を測定することにより確認することができ、この荷重が2.0kg以上であることが好ましい。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:0.985モル、DA:0.015モル(クローダジャパン社製、「PRIPOL1009」)、TODI:0.82モル、MDI:0.20モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が20質量%となるように脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させることにより、30℃における溶液粘度が135Pa・sで、PAI固形分濃度が18質量%のPAI溶液(PAI-1)を得た。
次に、ポリエステルフィルム上に、このPAI溶液(PAI-1)を塗布し、80℃で10分、130℃で10分乾燥後、塗膜をポリエステルフィルムから剥離した。その後、この塗膜を金枠に挟持し、窒素ガス雰囲気下、290℃で60分乾燥することにより、厚みが40μmのPAIフィルムを得た。
PAIフィルムの引張弾性率と引張伸度とを前記したJISに基づく方法により測定した結果を表1に示す。
【0022】
<実施例2>
酸成分を「TMA:0.97モル、DA:0.03モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-2)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0023】
<実施例3>
酸成分を「TMA:0.94モル、DA:0.06モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-3)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0024】
<実施例4>
イソシアネート成分の「MDI:0.20モル」を「TDI:0.20モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-4)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0025】
<実施例5>
イソシアネート成分を「TODI:0.61モル、MDI:0.40モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-5)を調製し、これを用いて、PAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0026】
<実施例6>
イソシアネート成分を「TODI:0.61モル、TDI:0.40モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-6)を調製し、これを用いて、PAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0027】
<実施例7>
酸成分を「TMA:0.90モル、DA:0.10モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-7)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0028】
<実施例8>
酸成分を「TMA:0.85モル、DA:0.15モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-8)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0029】
<比較例1>
酸成分を「TMA:1.00モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-9)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0030】
<比較例2>
酸成分を「TMA:0.70モル、DA:0.30モル」としたこと以外は、実施例1と同様にしてPAI溶液(PAI-10)を調製し、これを用いてPAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0031】
実施例1~8および比較例1、2で得られたPAI溶液(PAI―1~PAI―10)を、外径200mm、周長330mmの円筒状金型の外面にディスペンサーで塗布後、回転させ均一な塗布面を得た。金型の外側より80℃の熱風を30分間あてた後、窒素ガス雰囲気下、130℃で60分、その後260℃で90分乾燥した。その後室温(25℃)に戻し、金型から剥離し、厚みが70μmのPAIベルトを得た。
このPAIベルトを、前記した方法で、耐折れ特性および座屈特性を下記の基準で評価した結果を表1に示す。
<評価基準>
耐折れ特性:MIT回数が2000回以上を「〇」、2000回未満を「×」とした。
座屈特性:座屈する時の荷重が2.0kg以上を「〇」、2.0kg未満を「×」とした。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例で示したように、本発明のPAIから、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできる。
また、本発明のPAIからなるベルトは、良好な耐折れ特性と座屈特性とを有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のPAIからなるフィルムは、シームレスのPAIベルトとして、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。
【要約】
【課題】フィルム状に成形した時、高い弾性率と高い伸度とが両立したポリアミドイミド(PAI)フィルムを得ることできるポリアミドイミド(PAI)の提供。
【解決手段】酸成分として無水トリメリット酸(TMA)およびダイマ酸(DA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)であって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上であることを特徴とするポリアミドイミド(PAI)。
【選択図】なし