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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220218BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220218BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220218BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220218BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220218BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/505
H01M4/58
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2016172075
(22)【出願日】2016-09-02
(65)【公開番号】P2018037380
(43)【公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-06-11
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】福本 武文
(72)【発明者】
【氏名】秋月 直人
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山田 正文
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-69969(JP,A)
【文献】特開2011-228293(JP,A)
【文献】特表2016-524307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状岩塩構造のLiNiCoMn(0.2≦a≦2、0.5≦b、0≦c<0.5、0≦d<0.5、b+c+d+e=1、0≦e<0.5、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、オリビン構造のLiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素で被覆したリチウム金属リン酸化合物とを含む正極活物質層を具備する正極であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径が、前記リチウム金属リン酸化合物の平均粒子径よりも小さく
記リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗が、前記リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗よりも大きく、
前記リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径が3~12μmの範囲内であり、前記リチウム金属リン酸化合物の平均粒子径が12~21μmの範囲内であり、
前記リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗が100~500Ω・cmの範囲内であり、前記リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗が5~50Ω・cmの範囲内である正極。
【請求項2】
前記LiMPOのMはFeを必須とする、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記LiMPOが、LiMnFePO(x+y=1、0<x<1、0<y<1)で表される請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記記LiMnFePOのx、yが0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8の関係を満たす、請求項3に記載の正極。
【請求項5】
前記LiNiCoMnのbが0.5≦b≦0.7、cが0.2≦c≦0.35、dが0.2≦d≦0.35の関係を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極。
【請求項6】
前記リチウムニッケル複合酸化物と前記リチウム金属リン酸化合物との質量比が、65:35~85:15の範囲内である請求項1~のいずれか1項に記載の正極。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の正極と、Si含有負極活物質を具備する負極とを備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及び当該正極を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の正極活物質として種々の材料を用い得ることが知られており、正極活物質として複数の材料を採用したリチウムイオン二次電池もまた知られている。
【0003】
例えば、LiCoO、LiNi0.5Mn0.5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物は、高容量な正極活物質であることが知られている。また、LiFePOに代表されるオリビン構造の化合物は熱安定性に優れた正極活物質であることが知られている。これらの正極活物質は、高容量と熱安定性との両立を図るために併用される場合がある。
【0004】
具体的には、特許文献1には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3と、炭素被覆されたLiFePOと、を正極活物質として併用したリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-517238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池については、好適な電池特性及び熱安定性を両立したものが望まれている。リチウム金属複合酸化物とオリビン構造の化合物とを併用した正極を備えるリチウムイオン二次電池は、一定程度の電池特性及び一定程度の熱安定性を両立したものである。
【0007】
ここで、本発明者は、高容量なリチウムイオン二次電池を提供することを志向した。層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物に含まれ得る遷移金属のうち、Niは充放電反応時の活性が高いことが知られている。そのため、Ni組成比が高いリチウム金属複合酸化物は、高容量の正極活物質であると認識されている。しかし、Ni組成比が高いリチウム金属複合酸化物とオリビン構造の化合物とを単に併用するのみでは、優れた電池特性及び優れた熱安定性を両立したリチウムイオン二次電池を提供できるとは限らないことを、本発明者は知見した。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、Ni組成比が高いリチウム金属複合酸化物とオリビン構造の化合物とを併用した正極であって、優れた電池特性及び優れた熱安定性を両立するものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討の結果、リチウム金属複合酸化物とオリビン構造の化合物における平均粒子径と体積抵抗との両者が、リチウム金属複合酸化物とオリビン構造の化合物を併用した正極を備えるリチウムイオン二次電池の電池特性及び熱安定性に影響を与えることを、本発明者は発見した。かかる発見に基づき、本発明者は本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の正極は、層状岩塩構造のLiNiCoMn(0.2≦a≦2、0.5≦b、0≦c<0.5、0≦d<0.5、b+c+d+e=1、0≦e<0.5、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、オリビン構造のLiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素で被覆したリチウム金属リン酸化合物とを含む正極活物質層を具備する正極であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径が、前記リチウム金属リン酸化合物の平均粒子径よりも小さく、
かつ、
前記リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗が、前記リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極を備える本発明のリチウムイオン二次電池は、優れた電池特性及び優れた熱安定性を両立する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
本発明の正極は、層状岩塩構造のLiNiCoMn(0.2≦a≦2、0.5≦b、0≦c<0.5、0≦d<0.5、b+c+d+e=1、0≦e<0.5、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、オリビン構造のLiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)を炭素で被覆したリチウム金属リン酸化合物とを含む正極活物質層を具備する正極であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径(以下、DNiと略す場合がある。)が、前記リチウム金属リン酸化合物の平均粒子径(以下、Dと略す場合がある。)よりも小さく、
かつ、
前記リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗(以下、RNiと略す場合がある。)が、前記リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗(以下、Rと略す場合がある。)よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
本発明の正極におけるリチウムニッケル複合酸化物は、ニッケル組成比bが0.5≦bであるため、高容量である。
【0015】
リチウムニッケル複合酸化物の上記一般式において、上記b、c及びdの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、bに関して0.5≦b≦0.8、0.5≦b≦0.7、0.5≦b≦0.6を、cに関して0.1≦c≦0.35、0.2≦c≦0.35、0.2≦c≦0.25、0.25≦c≦0.35を、dに関して0.1≦d≦0.35、0.2≦d≦0.35、0.2≦d≦0.25、0.25≦d≦0.35を、それぞれ好適な範囲として例示できる。
【0016】
a、e、fについては一般式で規定する範囲内の数値であればよく、aは、0.5≦a≦1.5の範囲内が好ましく、0.7≦a≦1.3の範囲内がより好ましく、0.9≦a≦1.2の範囲内がさらに好ましい。e、fについては、0≦e≦0.2、0≦e≦0.1、e=0、1.8≦f≦2.5、1.9≦f≦2.2、f=2を例示することができる。
【0017】
層状岩塩構造のリチウムニッケル複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.5Co0.3Mn0.2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.82Co0.15Al0.03及びLiNiOが挙げられる。
【0018】
リチウム金属リン酸化合物は、オリビン構造のLiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)が炭素で被覆されたものである。リチウム金属リン酸化合物としては、LiMPOの一部が炭素で被覆されたものであってもよいし、LiMPOの表面全部が炭素で被覆されたものであってもよい。
【0019】
上記LiMPOのMは、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、V、Teから選ばれる少なくとも1の元素であるのが好ましく、また、hは0.6<h<1.1であるのが好ましい。当該Mは、Mn及び/又はFeであるのがより好ましく、また、h=1であるのがより好ましい。LiMPOとしては、MnとFeが共存するLiMnFePO(x+y=1、0<x<1、0<y<1)で表されるものが、さらに好ましい。xとyの範囲として、0.1≦x≦0.9、0.1≦y≦0.9、0.2≦x≦0.8、0.2≦y≦0.8も例示できる。
【0020】
LiMPOの具体例としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiVPO、LiTePO、LiV2/3PO、LiFe2/3PO、LiMn7/8Fe1/8PO、LiMn0.67Fe0.33POが挙げられる。
【0021】
本発明の正極においては、リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径がリチウム金属リン酸化合物の平均粒子径よりも小さく、かつ、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗がリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗よりも大きい。換言すると、本発明の正極はDNi<D及びRNi>Rを満足する。
【0022】
リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径は、100μm以下が好ましく、0.1~50μmの範囲内がより好ましく、1~20μmの範囲内がさらに好ましく、3~12μmの範囲内が特に好ましい。0.1μm未満では、電極を製造した際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷したりするなどの不具合を生じることがある。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で計測した場合のD50の値を意味する。
【0023】
リチウム金属リン酸化合物の平均粒子径は、100μm以下が好ましく、1~50μmの範囲内がより好ましく、5~30μmの範囲内がさらに好ましく、12~21μmの範囲内が特に好ましい。
【0024】
リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗は、1500Ω・cm以下が好ましく、10~1000Ω・cmの範囲内がより好ましく、100~500Ω・cmの範囲内がさらに好ましい。リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗は、500Ω・cm以下が好ましく、1~100Ω・cmの範囲内がより好ましく、5~50Ω・cmの範囲内がさらに好ましい。なお、本発明における体積抵抗の値は、抵抗測定装置を用いて、試料2gを直径2cmの円筒管に入れて、荷重20kNで圧縮した際の測定値を意味する。
【0025】
なお、リチウムニッケル複合酸化物として、様々な体積抵抗のものがあることは公知であり、また、リチウムニッケル複合酸化物における遷移金属の組成比を変更することや製造時の焼結温度を変更することで体積抵抗が変化することも知られている。例えば、特開2013-157109号公報の表2、特開2013-025887号公報の表1には、多様な体積抵抗のリチウムニッケル複合酸化物が具体的に開示されている。
【0026】
また、リチウム金属リン酸化合物として、様々な体積抵抗のものがあることも公知である。例えば、特開2014-179176号公報の段落0043及び段落0057(表1)、特開2014-029863号公報の段落0187、特開2012-204079号公報の段落0057等には、多様な体積抵抗のリチウム金属リン酸化合物が具体的に開示されている。
【0027】
本発明の正極において、リチウムニッケル複合酸化物と前記リチウム金属リン酸化合物との質量比は、65:35~85:15の範囲内が好ましく、65:35~80:20の範囲内がより好ましく、67:33~75:25の範囲内がさらに好ましい。
【0028】
本発明の正極は、具体的には、集電体と、集電体の表面に形成されている正極活物質層とを具備する。
【0029】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
【0030】
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、正極用集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
【0031】
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al-Cu系、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系が挙げられる。
【0032】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al-Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al-Fe系)が挙げられる。
【0033】
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0034】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
正極活物質層は、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物及びリチウム金属リン酸化合物を含み、さらに、導電助剤、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。
【0036】
正極活物質層全体を100質量%としたとき、上記のリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物とからなる正極活物質の量は、百分率で、50~99質量%の範囲内が好ましく、60~98質量%の範囲内がより好ましく、70~97質量%の範囲内が特に好ましい。
【0037】
正極活物質層の空隙率は、20~30%の範囲内が好ましく、25~29%の範囲内がより好ましい。正極活物質層の空隙率が好ましい範囲内であると、本発明のリチウムイオン二次電池の熱安定性が更に向上する場合がある。
【0038】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。
【0039】
導電助剤は化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
【0040】
導電助剤の形状は特に制限されないが、その役割からみて、導電助剤の平均粒子径は小さいほうが好ましい。導電助剤の好ましい平均粒子径として10μm以下が例示され、より好ましい平均粒子径として0.01~1μmの範囲が例示される。
【0041】
導電助剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における導電助剤の配合量を挙げると、0.5~10質量%の範囲内がよく、1~7質量%の範囲内が好ましく、2~5質量%の範囲内が特に好ましい。
【0042】
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p-スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
【0043】
結着剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における結着剤の配合量を挙げると、0.5~10質量%の範囲内が好ましく、1~7質量%の範囲内がより好ましく、2~5質量%の範囲内が特に好ましい。結着剤の配合量が少なすぎると正極活物質層の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤の配合量が多すぎると、正極活物質層における正極活物質の量が相対的に減少するため、好ましくない。
【0044】
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
【0045】
集電体の表面に正極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0046】
本発明の趣旨から、本発明の正極の製造方法の一工程として、リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径とリチウム金属リン酸化合物の平均粒子径を確認する工程、及び、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗とリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗を確認する工程、を含むことが好ましい。
【0047】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の正極を備えたものである。本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的な電池構成要素として、本発明の正極、負極、電解液、及び必要に応じてセパレータを含む。
【0048】
負極は、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質を含み、さらに、導電助剤、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。集電体及び導電助剤は、正極で説明したものを採用すればよい。分散剤は公知のものを採用することができる。
【0049】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0050】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0051】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0052】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiOあるいはLiSnOを例示できる。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
【0053】
上記のSiO(0<v≦2)からなる珪素酸化物は、二酸化珪素(SiO)と単体珪素(Si)とを原料として得られる非晶質の珪素酸化物であるSiOを、熱処理等により不均化することにより得られる。不均化反応は、SiOがSi相とSiO相とに分解する反応である。一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiOに対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800~1200℃で1~5時間の熱処理をすることで、非結晶性のSiO相および結晶性のSi相の二相を含む珪素酸化物が得られる。
【0054】
この珪素酸化物の平均粒子径は、4μm以上であることが好ましい。平均粒子径とは、メジアン径であり、レーザー回析法による体積基準の粒度分布に基づいて得ることができる。珪素酸化物の平均粒子径は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが好ましい。平均粒子径が小さすぎると、活性点が多いため、SEI(Solid Electrolyte Interphase)の生成が多くサイクル特性が低下する場合がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、珪素酸化物は導電率が悪いため、電極全体の導電性が不均一になり、抵抗の上昇や、出力の低下が起こる場合がある。
【0055】
また、負極活物質として、国際公開第2014/080608号に記載のシリコン材料を採用してもよい。当該シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSiと酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
【0056】
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi+6HCl → Si+3CaCl
Si → 6Si+3H
【0057】
ただし、ポリシランであるSiを合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Siは水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSiのみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi(OH)(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
【0058】
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm~100nmの範囲内のものが好ましく、20nm~50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm~50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2~1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSiにおけるSi層の名残りであると考えられる。
【0059】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm~300nmの範囲内が好ましく、1nm~100nmの範囲内がより好ましく、1nm~50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm~10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0060】
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃~950℃の範囲内が好ましく、400℃~900℃の範囲内がより好ましい。
【0061】
負極活物質としては、理論上のエネルギー密度が高い点から、珪素酸化物やシリコン材料などの珪素を含有するSi含有負極活物質が特に好ましい。Si含有負極活物質は炭素で被覆されていてもよい。炭素で被覆されたSi含有負極活物質は導電性に優れる。
【0062】
負極用の結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0063】
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーを結着剤として具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、より好適に容量を維持できる。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p-スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0064】
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0065】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
【0066】
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
【0067】
また、例えば特開2013―065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極を備える二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
【0068】
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
【0069】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0070】
また、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーと、ポリアミドイミドとの混合物又は反応物を結着剤として用いてもよい。
【0071】
ポリアミドイミドとは、分子内にアミド結合とイミド結合をそれぞれ2つ以上有する化合物を意味する。ポリアミドイミドは、アミド結合及びイミド結合におけるカルボニル部分となる酸成分と、アミド結合及びイミド結合における窒素部分となるジアミン成分又はジイソシアネート成分を反応させることで製造される。ポリアミドイミドを得るには、当該方法で製造しても良いし、また、市販のポリアミドイミドを購入しても良い。
【0072】
ポリアミドイミドの製造に用いられる酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン-ブタジエン)、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビス(カルボキシフェニル)スルホン、ビス(カルボキシフェニル)エーテル、ナフタレンジカルボン酸、及び、これらの無水物、酸ハロゲン化物、誘導体を挙げることができる。酸成分としては、上記の化合物を単独で又は複数で採用すればよいが、ただし、イミド結合を形成させる点から、カルボキシル基が結合している炭素の隣接炭素にカルボキシル基が存在する酸成分又はその同等物が、必須となる。酸成分としては、反応性、耐熱性などの点から、トリメリット酸無水物が好ましい。また、ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率、電解液耐性の点から、トリメリット酸無水物に加えて、酸成分の一部として、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物を採用するのが好ましい。
【0073】
ポリアミドイミドの製造に用いられるジアミン成分としては、上述した架橋ポリマーに用いられるジアミンを採用すればよい。耐熱性、溶解性の観点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トリレンジアミン、o-トリジン、ナフタレンジアミン、イソホロンジアミンが好ましい。ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率の点からはo-トリジン、ナフタレンジアミンが好ましい。
【0074】
ポリアミドイミドの製造に用いられるジイソシアネート成分としては、上記ジアミン成分のアミンをイソシアネートで置き換えたものを挙げることができる。
【0075】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005~1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0076】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0077】
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0078】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2-メチル-ガンマブチロラクトン、アセチル-ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
【0079】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0080】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0081】
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について説明する。例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0082】
リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
【0083】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0084】
以上、本発明の正極及びリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例
【0085】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0086】
以下の表1に示すリチウムニッケル複合酸化物及び表2に示す炭素で被覆されたリチウム金属リン酸化合物を準備した。なお、表1及び表2の体積抵抗の値は、三菱化学アナリテック製抵抗測定装置(商品名 MCP-PD51)を用いて、試料2gを直径2cmの円筒管に入れて、荷重20kNで圧縮した際の測定値である。
【表1】
【表2】
【0087】
(実施例1)
正極活物質として表1のNo.1のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.1のリチウム金属リン酸化合物を27質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3質量部、及び、適量のN-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、当該アルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を乾燥機で加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔からなる実施例1の正極を製造した。なお、正極活物質層の体積、各材料の真密度、及び各材料の配合比から算出した計算上の空隙率は27%であった。
【0088】
負極活物質としてSiOを32質量部、負極活物質として黒鉛を50質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを8質量部、結着剤としてポリアミドイミドを10質量部、及び、適量のN-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することでN-メチル-2-ピロリドンを除去して、負極活物質層が形成された負極を製造した。
【0089】
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した有機溶媒に、LiPFを加えて溶解させて、LiPFを1mol/Lの濃度で含有する電解液を製造した。
【0090】
セパレータとして、ポリオレフィン製の多孔質膜を準備した。実施例1の正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉された実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0091】
(実施例2)
正極活物質として表1のNo.2のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.1のリチウム金属リン酸化合物を27質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0092】
(実施例3)
正極活物質として表1のNo.3のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.2のリチウム金属リン酸化合物を27質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0093】
(比較例1)
正極活物質として表1のNo.1のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.3のリチウム金属リン酸化合物を27質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0094】
(比較例2)
正極活物質として表1のNo.3のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.4のリチウム金属リン酸化合物を27質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0095】
(比較例3)
正極活物質として表1のNo.3のリチウムニッケル複合酸化物を67質量部、正極活物質として表2のNo.5のリチウム金属リン酸化合物を27質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0096】
(評価例1)
実施例1~実施例3、比較例1~比較例3のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で強制短絡試験としての釘刺し試験を行った。
【0097】
リチウムイオン二次電池に対し、4.5Vの電位で安定するまで定電圧充電を行った。充電後のリチウムイオン二次電池を、径20mmの孔を有する拘束板上に配置した。上部に釘が取り付けられたプレス機に拘束板を配置した。釘が拘束板上の電池を貫通して、釘の先端部が拘束板の孔内部に位置するまで、釘を上部から下部に20mm/sec.の速度で移動させた。釘貫通後の電池の表面温度を経時的に測定した。なお、使用した釘の形状は径8mm、先端角度60°であり、釘の材質はJIS G 4051で規定するS45Cであった。
【0098】
測定された表面温度のうち、最高温度を表3に示す。表3において、リチウムニッケル複合酸化物の欄の第1行には、リチウムニッケル複合酸化物における遷移金属の組成式を記載し、そして、リチウム金属リン酸化合物の欄の第1行には、リチウム金属リン酸化合物における遷移金属の組成式を記載した。
【0099】
【表3】
【0100】
表3から、DNi<D及びRNi>Rを満足する実施例1~実施例3のリチウムイオン二次電池が、DNi>D及びRNi>Rを満足する比較例1のリチウムイオン二次電池並びにDNi<D及びRNi<Rを満足する比較例2のリチウムイオン二次電池と比較して、熱安定性に著しく優れていることがわかる。また、実施例1~実施例3の比較から、遷移金属としてMnとFeが共存するリチウム金属リン酸化合物を用いた正極が、遷移金属としてFeのみが存在するリチウム金属リン酸化合物を用いた正極よりも、熱安定性に優れるといえる。
【0101】
(評価例2)
電圧3.6Vに調整した実施例1~実施例3、比較例1~比較例3の各リチウムイオン二次電池につき、25℃、1Cレートの定電流にて、10秒間放電させた。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により、放電時の直流抵抗を算出した。結果を表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
表4から、DNi<D及びRNi>Rを満足する実施例1~実施例3のリチウムイオン二次電池は、DNi>D及びRNi>Rを満足する比較例1のリチウムイオン二次電池並びにDNi>D及びRNi>Rを満足する比較例3のリチウムイオン二次電池と比較して、放電時の抵抗が低いことがわかる。
【0104】
表3及び表4の結果から、DNi<D及びRNi>Rを満足する本発明の正極及びリチウムイオン二次電池は、好適な電池特性及び熱安定性を両立するといえる。他方、DNi>D及びRNi>R、又は、DNi<D及びRNi<Rのいずれかの条件を満足する正極及びリチウムイオン二次電池は、電池特性若しくは熱安定性のいずれか、又は、電池特性及び熱安定性の両方に難があるといえる。