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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】電気穿孔のための使い捨てカートリッジ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220218BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/00 D
G01N35/08 A
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016174685
(22)【出願日】2016-09-07
(65)【公開番号】P2017051182
(43)【公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-09-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/215,133
(32)【優先日】2015-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エイアド カバハ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ボッデンベルク
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ミルテニー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ-ペーター ペータース
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】中島 庸子
【審判官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-516678号公報
【文献】特表2008-509653号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12M 1/00- 3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を電気穿孔するための使い捨てカートリッジであって、
前記使い捨てカートリッジ内部の流体区画と、
前記流体区画に細胞懸濁液を供給するための第1の流体ポート、及び、細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体を前記流体区画へ送給するための第2の流体ポートと、
前記第1の流体ポートからの前記細胞懸濁液と前記第2の流体ポートからの前記流体とを混合するための混合チャネルと、
前記流体区画内に配置された第1の電極及び第2の電極と、
前記流体区画から流体を送給するための少なくとも1つの出口ポートと、
を含み、
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートは、前記混合チャネルへの流体連通部を有しており、前記混合チャネルは、前記流体区画への流体連通部を有しており
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートは、前記流体区画から流体を送給するための出口ポートとしては機能しない、
使い捨てカートリッジ。
【請求項2】
前記混合チャネルは、蛇行形状を有する、及び/又は、攪拌素子もしくは混合室を含む、
請求項1記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項3】
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートには、各流体に対してそれぞれ異なる微少流体抵抗を有する複数のチャネルが設けられている、
請求項1又は2記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項4】
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートには、第2の流体に対する第1の流体の混合比を1:5から1:10までに維持するための微少流体抵抗を有する複数のチャネルが設けられている、
請求項3記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項5】
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートは、前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートからの流体を前記流体区画へ送給する少なくとも1つのポンプに流体連通されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの出口ポートは、少なくとも1つの真空源に流体連通されており、これにより、前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートからの流体が前記流体区画へ吸引される、
請求項1から4までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項7】
前記混合チャネルと前記少なくとも1つの出口ポートとは、前記流体区画に流体を気泡なく充填できるようにするために、前記流体区画の正対する側に配置されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項8】
さらに、少なくとも1つの付加的な電極が設けられており、
前記付加的な電極は、前記第1の流体ポートもしくは前記第2の流体ポートもしくは前記出口ポートの少なくとも1つにグラウンド電位を印加する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項9】
第1の金属電極及び第2の金属電極は、金層で覆われたチタンを含む、
請求項1から8までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジ内の細胞を電気穿孔する方法であって、
細胞懸濁液を第1の流体として第1の流体ポートに供給し、
細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体を第2の流体として第2の流体ポートに供給し、
前記第1の流体ポート及び前記第2の流体ポートと少なくとも1つの出口ポートとの間に圧力差を印加することにより、前記第1の流体及び前記第2の流体を所定の混合比で流体区画に供給し、
第1の電極と第2の電極との間に電界を印加し、これにより、細胞を少なくとも1つの化合物で電気穿孔し、
前記流体区画から各流体を除去する、
方法。
【請求項11】
前記第1の流体及び前記第2の流体を所定の充填レベルまで前記流体区画に供給し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量を測定することにより、前記流体区画の充填レベルを求める、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記流体区画から流体を除去した後、電気穿孔された細胞を識別して、流体から瀉出させる、
請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記流体区画から流体を除去した後、電気穿孔された細胞を培養する、
請求項10又は11記載の方法。
【請求項14】
請求項1から9までのいずれか1項記載の使い捨てカートリッジを含む細胞の電気穿孔装置であって、
細胞懸濁液を収容する第1のストレージコンテナと、
細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体を収容する第2のストレージコンテナと、
電気穿孔される細胞のための第3のストレージコンテナと、
ポンプ及び/又は真空源と、
各ストレージコンテナと前記使い捨てカートリッジとの間の流体連通を形成するチューブセットと、
を含み、
前記電気穿孔装置は、外気に対して閉鎖されている、
電気穿孔装置。
【請求項15】
前記第3のストレージコンテナは、培養チャンバとして構成されている、
請求項14記載の電気穿孔装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の電気穿孔を実行するための使い捨て装置、当該使い捨て装置を用いて細胞を電気穿孔する方法、及び、当該使い捨て装置を含む閉鎖系に関する。
【背景技術】
【0002】
電気穿孔法又は電気浸透法は、電界を細胞に印加して細胞膜の透過性を増大させ、核酸を細胞内へ導入できるようにする分子生物学上の技術である。
【0003】
電気穿孔法は、核酸を細胞内、特に哺乳動物の細胞内へ導入するために用いられる。移入される核酸はタンパク質の一過的な発現に用いることができる。特にmRNAの電気穿孔が関心タンパク質の一過的な発現に用いられる。プラスミドは、一過的な発現にも安定的な組込みにも用いることができる。ゲノムへのプラスミドの組込みは、相同組換えによって、二重らせんの切断と切断されたゲノムセグメントを置換する相同配列とを導入することにより実現可能である。他の可能性として、トランスポザーゼを用いてトランスポザーゼの動機を側面に配した遺伝情報をゲノムへ組込むことが挙げられる。移入される核酸は、核酸分解酵素もコード化できる。部位特異的な核酸分解酵素は、非相同性末端結合によって遺伝子ノックアウトを行う一般的なツールである。
ここで、電気穿孔法は、ノックアウト細胞もしくはトランスジェニック細胞の処理に利用可能である。動物の胚細胞、トランスジェニック細胞もしくはノックアウト細胞を用いて、トランスジェニック動物もしくはノックアウト動物を発生させることもできる。核酸での電気穿孔によって修正された細胞は、癌治療、遺伝子治療又は他の細胞ベースの治療に利用されている。
【0004】
電気穿孔法は、エレクトロポレータ、すなわち、細胞内へ移入すべき核酸を含む細胞懸濁液に印加される電界を形成する、電気穿孔のために構成された機器を用いて行われる。通常、細胞懸濁液は、両側に2つの電極を有するガラスもしくはプラスチック製のキュベットへピペット注入される。電気穿孔の前に、細胞懸濁液には移入すべき核酸が混合される。当該混合物がキュベットに注入されると、電圧及び容量がセットされて、キュベットがエレクトロポレータに挿入される。エレクトロポレータは電界を印加する。当該電界は、電界強度、例えば電極間距離に対する印加電圧、時間、及び、容量によって定められる。指数的減衰パルスでは、電圧及び容量がセットされ、電界は細胞懸濁液を通過する電流に起因して減衰する。矩形波パルスでは、高い容量が用いられ、電界は所定の時間だけ印加される。高い容量のために、細胞懸濁液を通過する電流による電界の減衰は最小となる。電気穿孔中、電界発生器は、核酸などの大きな分子も細胞膜を透過できるよう、こうした細胞膜に孔を形成する。なお、細胞膜などの脂質二重層が強い膜内外電位によって破壊されうることは、Tsong,T.Y., “Electroporation of cell membranes”, Biophys J, 1991.60(2)のp.297-306に記載されている。膜内外電界が細胞膜の誘電強度を超えると、膜導電率は著しく増大する。こうしたブレークダウン電位は、Tsongらによれば、5nm厚さの脂質二重層のマイクロ秒からミリ秒の電界期間に対し、150mVから500mVとなると報告されている。これは300V/cmから1000V/cmの誘電強度に変換される。Rols,M.P. and J.Teissie, “Electropermeabilization of mammalian cells to macromolecules: control by pulse duration”, Biophys J, 1998.75(3)のp.1415-23によれば、低分子質量の分子の透過は0.3kV/cmから0.4kv/cmを上回る電界強度で検出されている。膜透過の電界強度閾値については、Wolf,H. et al., “Control by pulse parameters of electric field-mediated gene transfer in mammalian cells”, Biophys J, 1994.66(2Pt1)のp.524-31に、580V/cmとなることが記載されている。
【0005】
細胞膜の遭遇する電位差は、
ΔVmax=(3/2)E
によって記述されてきた。つまり、電位差は、初期電界強度Eと細胞の半径rとに比例する(Neumann,E., et al., Gene transfer into mouse lyoma cells by electroporation in high electric fields. Embo J, 1982.1(7)のp.841-5)。
【0006】
5μm半径の典型的な細胞では、400V/cmを上回る電界強度によって、例えば300mVの透過閾値を達成可能である。より小さい細胞(半径r=1μm)では、要求される電界強度は少なくとも2000V/cmと推定されうる。
【0007】
細胞内への核酸の受動拡散に加え、電界内での核酸の付加的な電気泳動も適用可能である。電気泳動に必要な電界は電気穿孔に必要な電界よりも小さい。指数的減衰パルスは、最初に高い電界をかけ、その後で電界を減衰させることによって、細胞膜を透過しやすくし、核酸を細胞内部へ輸送する。矩形波パルスでは、2つ以上のパルスを形成して電気穿孔と電気泳動とを組み合わせることができる。
【0008】
核酸は、DNA又はRNAであってよい。DNAは安定性が高いので、DNA、例えばプラスミドを細胞懸濁液に混合すればふつうはDNAを損傷しない。反対に、RNAは、例えば細胞に隠れたRNA分解酵素や汚染された緩衝液などによって劣化しやすい。したがって、RNAは、通常、RNAが細胞に入る前に劣化してしまう危険を最小化するため、電気穿孔ステップの前に添加される。細胞内では、RNAは、タンパク質と翻訳機構とを結合する核酸によって保護される。
【0009】
よって、自動電気穿孔装置では、核酸、特にRNAは、電気穿孔の直前に細胞懸濁液と混合されるべきである。ただし、現行の方式では、核酸と細胞懸濁液との混合に続いて自動的に電気穿孔ステップを行うことはできない。半自動式又は自動式の多くの電気穿孔装置が存在しているが、例えば核酸と細胞懸濁液との混合などのサンプルの準備は電気穿孔プロセスより前に行わなければならない。混合プロセスは2種の溶液、例えば細胞懸濁液及び核酸溶液を一定の比で添加し、相同の混合物を形成するステップを含む。
【0010】
電気穿孔のプロセス中の核酸の濃度はきわめて重要であり、再現性の高い結果を得るには、プロセス中、定められた比を保持しなければならない。同じことが混合物の同質性にも当てはまる。同質な細胞電気穿孔のためには、全ての細胞について局所的な核酸濃度が等しくなければならない。同質の混合では、核酸がゼロである混合物、拡散が少量である混合物、及び、拡散が多量である混合物が生じる。電気穿孔された細胞は、通常、電気穿孔の後に培養されるか又は患者に投与されるので、混合及び電気穿孔のプロセスは無菌環境で行われなければならない。
【0011】
したがって、核酸と細胞とを混合可能であり、かつ、無菌状態での細胞の電気穿孔が可能な形式の装置が所望されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、細胞を電気穿孔するための使い捨て製品に関する。当該使い捨て製品は、内部の流体区画と、細胞懸濁液を流体区画に供給するための第1の流体ポート、及び、細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体を流体区画へ送給するための第2の流体ポートと、流体区画内に配置された第1の電極及び第2の電極と、流体区画から流体を送出するための少なくとも1つの出口ポートとを含み、第1の流体ポート及び第2の流体ポートは混合チャネルへの流体連通部を有しており、混合チャネルは流体区画への流体連通部を有している。
【0013】
使い捨てカートリッジにより、少なくとも2つの流体を所定の比で混合でき、均一に化合される流体が得られる。こうした混合は、体積混合比を定め、均一な流体混合を可能にする微少流体装置によって達成される。カートリッジは無菌の細胞処理を可能にするチューブセットに実装可能である。電気穿孔アセンブリへの流体の導入及び電気穿孔アセンブルからの流体の導出にはぜん動ポンプもしくは真空ポンプが用いられ、これにより漏れもしくは損傷の危険が最小化される。また、チューブセットは、細胞分離もしくは細胞培養などの他の細胞処理ステップと組み合わせることもできる。
【0014】
添付の図面を参照しながら種々の実施形態の詳細を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの包括的な実施形態を示す斜視図である。
図2】使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの側面図である。
図3】使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリを斜め上から見た上面図である。
図4】aは図3の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの下半部の外面を示す平面図であり、bは図1の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの下半部の内面を示す平面図である。
図5】aは図3の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの上半部の外面を示す平面図であり、bは図3の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの上半部の内面を示す平面図である。
図6】aは図1の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの下面を示す平面図であり、bは図1の使い捨て電気穿孔カートリッジアセンブリの上面を示す平面図である。
図7図3の電気穿孔カートリッジアセンブリの下面を示す斜視図である。
図8】混合比と電気穿孔キュベット内の真空状態との関係を示すグラフである。
図9a】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
図9b】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
図9c】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
図9d】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
図9e】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
図9f】トランスフェクション効率をmCherry/eGFP発現でモニタリングしたJurkat細胞の電気穿孔結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図は必ずしも縮尺通りに描かれておらず、また、同様の要素に同じ参照番号を付してあることに注意されたい。
【0017】
本発明の装置により、細胞を含む少なくとも2つの流体と細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物とを予め定められた体積混合比で混合し、混合された流体に電界を印加することで、細胞のトランスフェクションが可能となる。
【0018】
細胞内へ電気穿孔される化合物は、電気穿孔法に対して有効であれば、既知のどのようなタイプの化合物であってもよく、例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、及び、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、薬剤もしくは薬剤前駆体などの小分子であってよい。以下では、電気穿孔される化合物として、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、及び、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、薬剤もしくは薬剤前駆体などの小分子等、電気穿孔される全ての化合物を表す同義語として「核酸」という語を用いる。
【0019】
均質に混合された流体において電気穿孔を実行し、チャネルでの層流を防止するために、ディスポーザル製品の混合チャネルは、蛇行形状を有する、及び/又は、攪拌素子及び/又は混合室を含む。細胞懸濁液と核酸溶液とを混合した後、電界が印加され、これにより細胞膜への穿孔が誘起される。こうして、核酸が、拡散もしくは電気泳動のいずれかによって、当該孔を通って細胞内へ進入できるようになる。
【0020】
装置の一実施形態では、少なくとも2つの流体の体積混合比が、それぞれ異なる微少流体抵抗を有する少なくとも2つの微少流体チャネルによって定められる。すなわち、第1の流体ポート及び第2の流体ポートに、各流体に対してそれぞれ異なる微少流体抵抗を有するチャネルが設けられる。
各流体の流れは、対応する各チャネル、例えば図4aのチャネル112,122の抵抗に依存する。高い抵抗を有するチャネルを通る流体量は、低い抵抗を有する少なくとも他方のチャネルに比べて、小さくなる。このため、混合比は、少なくとも2つの入力チャネルの抵抗比によって定めることができる。好ましくは、第1の流体ポート及び第2の流体ポートに、第2の流体に対する第1の流体の混合比を1:5から1:10までに維持するための微少流体抵抗を有する複数のチャネルが設けられる。異なる体積を用いることにより、各溶液の静水圧に変化が生じる。ここで、静水圧の差は、微少流体チャネル抵抗によって定められる混合比を損なう。
【0021】
各流体は、装置へポンピングされるか又は吸引される。したがって、使い捨て製品の第1の流体ポート及び第2の流体ポートが、各流体を流体区画へ送給する少なくとも1つのポンプに流体連通されている、及び/又は、少なくとも1つの出口ポートが、少なくとも1つの真空源に流体連通され、これにより流体が流体区画へ吸引される。
【0022】
ポンプもしくは真空源は、一方では、第1の流体ポートと第2の流体ポートとの間に少なくとも100mbarの圧力差を形成し、他方では、少なくとも1つの出口ポートに流体を流す。好ましくは、圧力差は100mbarから800mbarとなり、特に200mbarから500mbarとなる。
【0023】
混合流体は、この圧力差によって、装置の2つの電極プレート間の流体区画へ圧送される。充填プロセス、すなわち、流体区画の充填レベルは、第1の電極と第2の電極との間の容量を測定することによって調整及び/又は自動制御できる。充填は、例えば、第1の電極と第2の電極との間の最大容量が達成されるまで続行できる。これに代えて、(後述するような)グラウンド電極どうしの間の電気抵抗を用いて流体区画の充填レベルを求めてもよい。これに代えて、充填レベルを、流体区画に印加される圧力差を制御することによって求めることもできる。流体区画の充填レベルを制御することにより、装置を擬似連続モードで動作させることができる。
【0024】
電極プレート間の体積が充填された後、電界が印加される。当該電界は通常、電気パルスとして適用される。パルス形状は、指数的減衰パルス、矩形波パルス、又は、これらの種々の組み合わせであってよい。重要なのは、電界強度が細胞膜に孔を形成するのに充分な大きさでなければならないということである。こうして、核酸が、拡散もしくは電気泳動のいずれかによって細胞内へ進入できるようになる。その後、電気穿孔された細胞は、検出、濃縮及び/又は所定の細胞サブセットの瀉出及び/又は細胞培養などの選択的なさらなる処理のために装置から除去される。より多くの細胞(より多量の細胞又はより大きな体積の細胞懸濁液)を電気穿孔するために、充填、混合、電気穿孔及び除去のプロセスを反復することができる。加えて、同じ細胞サンプルについて、電気穿孔プロセスそのものを、洗浄もしくは培養もしくは分離のステップとともに又はこれらのステップなしに反復可能である。
【0025】
適用される電界は、アルミニウムなどの金属から形成される電極を破壊することがある。同じ電極プレートを用いた装置の複数の電気穿孔シーケンスを可能にするために、各プレートを、電気化学的腐食に耐性を有する金属でコーティングできる。貴金属、例えば金などの導電性コーティングを、電極プレートを保護するために用いることもできる。バリエーションとして、本発明の使い捨て製品が、金層で覆われたチタンから形成される第1の金属電極及び第2の金属電極を含むように構成できる。電極間の電界強度の差を回避するために、各電極は、電極の表面全体にわたって相互に一定の距離を有するよう、平行に配置されなければならない。好ましくは、第1の金属電極と第2の金属電極とは、距離のばらつきが±20μm以内の平行な配置形態において、2mmから4mmの距離だけ離間される。さらに、電極の表面はピンホールもしくはピークなくできるだけ平滑であるべきである。1μmから10μmまでの粗面度Rzを有する電極が好ましい。
【0026】
図1には、単純化された使い捨て電気穿孔カートリッジの斜視図が示されている。カートリッジの要素は、第1の入口ポート11及び第2の入口ポート12及びこれらの混合コラム13である。第1の入口ポート11及びその側の第2の入口ポート12及び混合コラム13が使い捨てカートリッジ10への入力エレメントをなす。混合コラム13から出た後、サンプル液は、第1の電極21及び第2の電極23を含むキャビティに導入される。電極21,23は平行なプレーンキャパシタであってよく、これにより、電極エレメント21,23は、平坦なプレーン構造又は小さなギャップで分離された導電構造を有する。電圧はタブ20,22によってプレート21,23に印加され、流体は出口ポート15を通って使い捨てカートリッジを出る。
【0027】
流体サンプルは第1の入口ポート11を通して導入可能であり、例えばRNAなどの添加成分は、第2の入口ポート12を通して導入される。例えば、細胞懸濁液は第1の入口ポート11を通して導入可能であり、核酸溶液は第2の入口ポート12を介して充填される。細胞懸濁液及び核酸溶液は、混合チャネル13で混合され、静電プレート21,23を含むキャビティへ導入される。
【0028】
細胞懸濁液は、核酸溶液と混合された状態で、プレート21,23間のギャップを通って流れ、これら2つのプレートに印加される電界に曝される。当該技術分野で良く知られているように、この電界は細胞膜に孔を形成し、核酸が細胞内へ拡散できるようにする。電気穿孔の後、修正された細胞は、出口ポート15を介して使い捨て製品から除去可能となる。
【0029】
本発明の使い捨て製品は、好ましくは、使い捨て製品の、それぞれ第1の電極又は第2の電極を含む2つの半部を接合することにより形成される。当該実施形態が図2に側面図で詳細に示されている。使い捨て電気穿孔カートリッジ10は2つの部材すなわち上面100と下部200とから成っていてよい。これら2つの部材は、成形プラスチックから形成可能であって、レーザー放射もしくはHFフィールドによって相互に溶接可能である。使い捨て電気穿孔カートリッジ10はさらに付加的なポート160及び2つの出口ポート140,150も含むが、これらの機能については後述する。また、使い捨て電気穿孔カートリッジ100は、ギャップによって分離された2つの電極プレート210,220を含んでもよい。2つの電極間の距離(ギャップ)は印加電圧と要求される電界とに基づいて選定される。通常の電極距離は2mmから4mmまでである。2kV/cmを超える高い電界を生じさせるには小さいギャップが好ましく、例えば100μmのギャップがよい。さらに、ギャップは、入力流体流を可能にするのに充分な大きさでなければならず、かつ、例えばせん断応力によって細胞を損傷するものであってはならない。幾つかの実施形態では、電界は2kV/cmのオーダーであってよい。
【0030】
図3は、組み立てられた使い捨て電気穿孔カートリッジ10の斜視図である。組み立て図には上面100と下面200とが共に示される状態で含まれており、図3においても、下面100に2つの入口ポート110,120が第1の電極プレート210と共に存在することが見て取れる。
【0031】
上面200には2つの出口ポート140,150が第2の電極プレート220とともに存在している。なお、「上」「下」なる語は任意に入れ替え可能であり、カートリッジ10は任意のいずれの方向からも観察可能であることを理解されたい。また図3には、上面200上にある出口ポート140,150が示されている。さらに、上面200は、図3から見て取れるように、第1の入力チャネル110と第2の入力チャネル120とに接続された混合チャネル130を含むことができる。混合チャネル130は、2つの入力チャネルの内容物の混合のために設けられている。混合チャネル130は、2つの流体の混合を支援する蛇行形状もしくはその他のパターンを有していてよい。混合チャネル130は、混合した流体を、電極プレート210,220を含むキャビティへ導入する。混合チャネル130は5個から15個の蛇行ターン部を含みうる。蛇行ターン部は2つの成分すなわち細胞懸濁液及び拡散溶液のカオス状の混合を生じさせる。
【0032】
流体区画は、好ましくは、気泡なしでの充填及び排出が可能な形状を有する。よって、混合チャネルと少なくとも1つの出口ポートとは、流体区画のちょうど反対側すなわち流体区画の最上点と最下点とに、配置可能である。加えて、流体区画及び電極プレート220,230は、鈍角及び/又は鋭角などの無駄空間を回避できる特定の形状を有することができる。図3に示されているように、流体区画及び場合により各プレートは、平行四辺形状又は台形状を有していてよい。
【0033】
ここでの平行四辺形状とは典型的な実施形態にすぎず、流体区画及び電極の形状は、気泡なしでの装置充填の要求を満たすものであれば、長方形状、円形状、台形状その他の任意の形状であってよいことを理解されたい。
【0034】
本発明の別の実施形態では、使い捨て製品はさらに、第1の流体ポートもしくは第2の流体ポートもしくは出口ポートのうち少なくとも1つのポートにグラウンド電位を印加する少なくとも1つの付加的な電極を含む。当該実施形態は、グラウンドタブ230,240を用いる形態として、図3から図5に示されている。これらのタブは、それぞれチャネル112,122への流体の導入及びチャネル140,150からの流体の導出のためのグラウンド電位の印加に用いられる。流体の導入、及び、電極プレートを含むキャビティからの流体の導出は、グラウンド電位で行われる。
【0035】
図4a、図4bには、図3の上面100の幾つかの特徴が詳細に示されている。図4aには,上方部材100の外面が示されており、図4bには上部100の内面が示されている。図4aに示されているように、上部100は、電極プレート210とともに2つの入口ポート110,120を含むことができる。さらに、上部100はグラウンドタブ240を含んでもよい。
【0036】
図4bには、上述した構造に関連するトポグラフィが示されている。例えば、上部100の構造体の内面は、第1の入口ポート110に接続されたチャネル112を有することができる。当該チャネル112は、第1の入口ポート110から混合チャネル130への流体の送給に用いることができる。同様に、上部100の内面は、第2の入口ポート120に接続された別のチャネル122を含むことができる。当該別のチャネル122は、第2の入口ポート120を通して混合チャネル130へ導入される添加材料の送給に用いることができる。チャネル112,122の直径及び長さによって微少流体抵抗が定められる。当該微少流体抵抗の比により、それぞれ入口ポート110,120を通って送給される2つの流体の比が定められる。図示のアセンブリでは、チャネル112は、狭幅部分の短いチャネル110に比べてより長い狭幅部分を含む。
【0037】
混合チャネル130は、上述したように、チャネル122の内容物とチャネル112の内容物との混合に用いられる蛇行形状を有することができる。使い捨て製品の当該バリエーションでは、チャネル122の内容物とチャネル112の内容物との混合は、混合室114によってさらに増幅される。混合室114は、生じうる流体の層流を渦流へ変換する体積部を提供する。
【0038】
典型的な実施形態では、第2の入力チャネル110は、入力チャネル112に入力される細胞懸濁液に核酸を送給するために用いられる。核酸溶液は、第2の入口ポート120に導入される入力流体に含まれる標的細胞と混合される。混合チャネル130では、核酸が標的細胞と混合され、これにより、キャビティに導入される流体は組み合わされたこれらの成分を有する。
【0039】
電極プレート210のフットプリントが図4bに示されている。この図では、電極プレート210の下角が出口ポート160に結合可能であることが示されている。
【0040】
また、図4bには、金属タブ240が示されている。当該タブは、出口ポート140,150にそれぞれグラウンド電位を印加するために用いることができる。電極を含むキャビティから出る流体は、グラウンド電位を有していてよい。
【0041】
図5a、図5bには、下部200の内面及び外面が示されている。図4a、図4bと同様に、この図にも複数の電極と出力部と複数のポートとが示されている。特に下部200は、金属タブ230に沿って、電極220とこれに関連する金属タブ220とを含むことができる。上述したように、電極プレート220は、自身と電極プレート210とによって形成される平行なプレートキャパシタの一方側のプレートとして用いることができる。
【0042】
さらに、下面200は、出口ポート140,150を含むこともできる。図5aに示されているように、出口ポート150はキャビティの上方肩部に結合可能であり、これに対して、出口ポート140はキャビティの下方肩部に結合可能である。このように、出口150は、例えばキャビティからの泡を排気するのに用いることができる。
【0043】
図6a、図6bには、完成したカートリッジアセンブリの平面図が示されている。図6aは下側から見た図であり、図6bは上側から見た図である。繰り返しとなるが、「下」「上」なる語は任意に入れ替え可能であるが、簡明性のために、図6aでは下側から、図6bでは上側からという視点が維持されるものとする。いずれの場合にも、カートリッジは、上部100が下部200に接合されて組み立てられた状態で示されている。繰り返しとなるが、アセンブリには、2つの入口ポート110,120及び出口ポート140,150,160が含まれている。グラウンドタップ230,240及び電極プレート220,210も示されている。
【0044】
簡単に上述したように、使い捨てカートリッジアセンブリ10は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはポリカーボネートなどの注入成形プラスチックから形成可能である。静電プレート210,220を含む種々の構造体のおおよそは、プラスチック材料内に形成可能である。加えて、グラウンドタブの配置領域も形成可能である。図6に示されているように、2つの入口ポート110,120は、上部100に固定された状態で示されており、出口ポート140,150は、下部200に結合された状態で示されている。さらに、グラウンドタブ230,240を下側から見た図が示されている。流体オリフィス110,120,140,150,160は、注入成形されたプラスチック材料内に形成可能である。同時に、混合チャネルの蛇行構造及び/又は攪拌素子並びに付加的な混合室も使い捨て製品の適切な部材内に形成可能である。グラウンド条片230,240及び電極プレート220,210を含めた全ての金属製の要素の配置領域を、適切なエレメント内に形成できる。注入成形プラスチックはこれらの各要素の配置領域に設けることができる。金属部材は直接に部材内に成形できる。これに代えて、プラスチック材料に接着剤を適用し、その場で金属構造体を接着することもできる。電極プレート220が下部200に形成される場合、電極プレート210は上部100に形成され、上部及び下部が相互に組み立て可能となる。アセンブリは、レーザー溶接、HF溶接、プラズマボンディング、接着、又は、2つのプラスチック部材の固定に適するその他の技術によって固定可能である。
【0045】
製造後、さらに、管体などの流体エレメントが2つの入口ポート110,120及び出口ポート140,150,160に接合可能となる。ニューマチック源は、排気部160に結合可能である。ニューマチックエレメントは、電極間のギャップへ流体を吸引するのに用いられる。
【0046】
給電部300は、2つの電極プレート210,220に電圧を印加するために、金属タブ210,220に結合可能である。その後、出口ポート140又は150に真空が適用され、これによりチャネル130及び第1の入口ポート110及び第2の入口ポート120にも真空がかかる。流体流は混合チャネル130で混合され、流体は電極210,220間のキャビティを通流できる。電極間の空間が充填された後、電界が印加可能となる。電界は細胞膜への穿孔を誘起し、核酸が拡散もしくは電気泳動によって標的細胞に進入できるようにする。出口ポート160を通した送出の後、流体流は核酸が搭載された標的細胞を含む。これらのステップの全所要時間はアプリケーションに応じて異なるが、10分から20分までのオーダーとすることができる。全キャビティ体積は0.05mlから5mlとすることができる。
【0047】
本発明の別の課題は、上述したように、使い捨て製品内の細胞の電気穿孔方法を提供することである。この方法では、細胞懸濁液が第1の流体として第1の流体ポートに供給され、細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体が第2の流体として第2の流体ポートに供給され、第1の流体ポート及び第2の流体ポートと少なくとも1つの出口ポートとの間に圧力差を印加することにより、第1の流体及び第2の流体が所定の混合比で流体区画に供給され、第1の電極と第2の電極との間に電界が印加され、これによって、細胞が少なくとも1つの化合物で電気穿孔され、流体区画から流体が除去される。
【0048】
本発明の方法は、幾つかのバリエーションで実行できる。全自動連続処理もしくは半自動連続処理を可能にするために、第1の流体及び第2の流体は所定の充填レベルで流体区画に供給されている。流体区画の充填レベルは、第1の電極と第2の電極との間のキャパシタンス、例えば最大容量に達するまでのキャパシタンスを測定することによって求めることができる。別のバリエーションでは、充填レベルは、グラウンド電極(図3の電極230,240)間の抵抗を測定することによって求められる。さらに、充填レベルは、使い捨て製品に印加される圧力差を介して制御可能である。
【0049】
プロセスの別のバリエーションでは、流体を流体区画から除去した後、電気穿孔された細胞が識別され、流体から瀉出される。このようにして濃縮された電気穿孔細胞がさらに処理及び/又は培養される。電気穿孔細胞の識別及び瀉出は、FACSもしくは磁気細胞選別などの当業者に周知の細胞選別法によって行うことができる。他方で、(電気穿孔された細胞から瀉出された)非電気穿孔細胞は、電気穿孔の全体収量を高めるために、別の電気穿孔プロセスステップへ供給される。
【0050】
さらに別のプロセスバリエーションでは、電気穿孔された細胞は、流体区画から流体を除去した後に培養される。当業者に周知のいずれの培養法も利用可能である。好ましい実施形態では、ここでの培養は、例えば国際公開第2009072003号公報及び/又は国際公開第2013072288号公報に記載の遠心分離チャンバにおいて行われる。本発明のこのバリエーションでは、細胞培養の分野で周知の種々の細胞培養液(培地)を利用可能である。ここでの培養液には、DMEM、HBSS、DPBS、RPMI、Iscoveの培地、X‐VIVO(登録商標)の培地のうち1つもしくは複数であって、それぞれウシ胎児血清、ヒト血清もしくは人工血清又はその他の栄養素、又は、サイトカインなどの作用薬などが補充されたものが含まれる。培地は、上述したような標準の細胞培地であってもよいし、又は、例えばヒト1次細胞(内皮細胞、肝細胞もしくはケラチノサイト)用もしくは幹細胞(例えば樹脂状細胞成熟、肝細胞増殖、ケラチノサイト、間葉幹細胞もしくはT細胞増殖)用の特別な培地であってもよい。培地は、アルブミン、輸送タンパク質、アミノ酸、ビタミン、抗体、付加因子、成長因子、サイトカイン、ホルモンもしくは溶解剤などの周知の補助剤もしくは反応剤などを含んでよい。種々の培地を、例えばライフテクノロジー社又はシグマアルドリッヒ社から市販入手可能である。
【0051】
培養プロセス中の温度は制御可能であり、電気穿孔された細胞の種類に適合するよう調整可能である。また、細胞にはO,N,COなどの気体を適切に当業者に周知の手法で供給可能である。細胞の培養ステップは遠心分離チャンバで実行され、細胞には、遠心分離チャンバの回転中に細胞培養液及び気体を供給可能である。
【0052】
電気穿孔すべき細胞の種類は特に制限されない。本発明の方法によれば、特に、どのような哺乳動物もしくはヒトの源に由来してもよい真核細胞、例えばがん、血液、組織、骨髄もしくは細胞株などを処理できる。例えば、線維芽細胞、胚幹細胞、誘導多機能細胞、ケラチノサイト、メラニン細胞、間葉系幹細胞、上皮細胞、T細胞、制御性T細胞、B細胞、NK細胞、ニューロン細胞、樹状細胞、幹細胞(成人細胞、胚細胞、造血幹細胞)などのヒトの細胞を構成する細胞群から選択される種類の細胞や、上皮、外胚葉、内胚葉、内皮、中胚葉、上皮組織、基底板、脈管系、結合組織、線維組織、筋組織、内臓筋もしくは平滑筋、骨格筋、心筋、神経組織、脳、脊髄、脳神経、脊髄神経もしくは運動ニューロンに由来する細胞が適する。
【0053】
本発明の装置及び方法は全自動連続方式もしくは半自動連続方式の細胞電気穿孔プロセスに利用可能であり、選択的には、当該プロセスに続けて、電気穿孔された細胞の培養(拡大)ステップを行うことができる。細胞の欠損及び/又は汚染を低減するために、(環境に対して)閉鎖系が提案される。したがって、本発明のさらなる対象は、上述した使い捨て製品を含む細胞の電気穿孔装置である。当該装置は、細胞懸濁液を収容する第1のストレージコンテナと、細胞内へ電気穿孔される少なくとも1つの化合物を含む流体を収容する第2のストレージコンテナと、電気穿孔される細胞のための第3のストレージコンテナと、ポンプ及び/又は真空源と、各ストレージコンテナと使い捨て製品との間の流体連通を形成するチューブセットとを含み、ここで、当該装置は、外気に対して閉鎖されている。好ましくは、第3のストレージコンテナは、培養チャンバとして構成される。必要に応じて、瀉出/集積培養された細胞片、洗浄流体、培地又は廃棄物などのためのさらなるコンテナを設けてもよい。
【0054】
「外気に対して閉鎖されている」なる概念は、系に対するあらゆる液体もしくは気体の交換が排除されるように構成された系を云う。これは、例えば、チューブセットに対する機械的コネクタ(ルアーコネクタなど)と必要に応じて適切な無菌フィルタとが設けられたストレージコンテナとしてのプラスチックバッグなどの閉鎖コンテナを用いることによって達成される。プロセスについて云えば、「外気に対して閉鎖されている」なる概念は、電気穿孔プロセスの全期間にわたって無菌性を保持するように構成された系を云う。
【0055】
典型的な実現形態に関連して幾つかの詳細を上述したので、これまでの説明を検討することにより、既に周知であるか現在のところ予見されていないかにかかわらず、上述した変形形態、修正形態、バリエーション、構成例及び/又は代替等価例などが明らかとなるであろう。また、特定の方法、寸法、使用材料、形状、製造技術などに関する詳細は例示にすぎず、本発明はこれらの実施形態に制限されない。なお、上下、左右、前後などの表現は任意に入れ替え可能であり、本発明の装置及び方法はいずれの方向においても実施可能であることを理解されたい。つまり、上述した典型的な実施形態は、例示であって、本発明を制限しない。
【実施例
【0056】
抵抗チャネルによって定義される混合比
微少流体チャネルを用いて混合比を求めるために、細胞懸濁液を模倣するリン酸緩衝液と核酸溶液を模倣するインク溶液とを使用した。図1図7に示されている電気穿孔カートリッジを真空路に接続することで、カートリッジにこれらの溶液を充填し、このようにして混合された液を再びカートリッジから除去した。幾つかの充填ステップで混合液を収集し、緩衝液とインクとの混合割合の差によって定められる標準値にしたがって混合比を求めた。
【0057】
サンプルと標準との混合比を求めるために、インクの吸光度を光度計によって測定した。15mlから20mlのリン酸緩衝液をバッグに充填し、これを、短いチューブを介して電気穿孔カートリッジの入口ポート120に接続した。第2のバッグに約3mlから4mlのインク溶液を充填し、これを、別の短いチューブを介して電気穿孔カートリッジの第2の入口ポート110に接続した。各チューブの流体はパンチバルブによって制御した。ぜん動ポンプは別のチューブを介して出口ポート140に接続されている。また、電気穿孔カートリッジへのポンプの接続は他のパンチバルブを介して制御してもよい。出口ポート160に接続された第4のチューブを用いて、2つの溶液の混合物を収集した。なお、送出される流体はパンチバルブによって制御してもよい。約1mlを電気穿孔カートリッジに充填し、それぞれ透明化された混合物の吸光度を測定した。
【0058】
図8に示されているように、混合比は、ぜん動ポンプが開始されて2つの入口弁と出口弁140とが同時に開放される場合に、約1:7から1:60を超えるまで増大する。バッグ内及び入力チューブ内の流体レベルが低下すると、静水圧差が変化して、これにより微少流体の混合比が低下する(破線)。ぜん動ポンプが予め低真空状態を形成して各バルブが開放される場合にも混合比の増大が観察されるが、増大の度合は小さくなる。さらに、-100mbarまで真空状態を増大すると、一定の混合率1:5.1が得られる。
【0059】
電気穿孔
本発明の装置の信頼性を向上させるために、Jurkat細胞の懸濁液を電気穿孔し、電気穿孔後にフローサイトメータで細胞を分析した。結果を図9a-図9gに示しており、a)は、プラスミドなしでの制御の電気穿孔細胞、b)は、mCherryプラスミドのみでの制御の電気穿孔細胞、c)は、eGFPプラスミドのみでの制御の電気穿孔細胞、d)は、電気穿孔前に手動混合された、mCherryプラスミド及びeGFPプラスミドでの制御の電気穿孔細胞、e)は、微少流体混合を行わず、mCherryプラスミドを予混合し、続いてeGFPプラスミドを添加した電気穿孔細胞、f)は、微少流体混合を行って、mCherryプラスミドを予混合し、続いてeGFPプラスミドを添加した電気穿孔細胞である。以下、図9に即して説明する。
【0060】
核酸が存在しない場合、蛍光は検出されない(a)。細胞と赤色蛍光タンパク質mCherryを符号化するプラスミドとを手動混合すると、赤色蛍光によって検出可能であるように、細胞の約35%が赤色蛍光タンパク質を発現する。細胞と、緑色蛍光タンパク質GFPを符号化するプラスミドとを混合すると、緑色蛍光によって検出可能であるように、細胞の約44%が緑色蛍光タンパク質を発現する。2つのプラスミドが細胞懸濁液と手動混合される場合、電気穿孔細胞の蛍光は赤色及び緑色となる。細胞と赤色蛍光タンパク質mCherryを符号化するプラスミドとを手動混合し、短いチューブを介して電気穿孔カートリッジの入口ポート120に接続されたバッグに適用した。第2のバッグには緑色蛍光タンパク質GFPを符号化するプラスミドを含む溶液を充填し、このバッグを、別の短いチューブを介して電気穿孔カートリッジの第2の入力ポート110に接続した。各チューブの流体はパンチバルブによって制御した。ぜん動ポンプは、別のチューブを介して出口ポート140に接続されている。また、電気穿孔カートリッジへのポンプの接続を別のパンチバルブによって制御してもよい。出口ポート160に接続された第4のチューブを使用して、2つの溶液の混合物を収集した。なお、送出される流体はパンチバルブによって制御した。約0.8mlの細胞懸濁液を電気穿孔カートリッジに充填し、続いて約0.2mlの核酸溶液を充填し、その後で電気パルスを印加した。電気穿孔の後、細胞懸濁液を収集し、細胞をフローサイトメトリによって分析した。
【0061】
図9eからわかるように、2つの蛍光タンパク質の細胞発現に加え、約7%の細胞が赤色蛍光タンパク質のみを発現している。これらの細胞はプラスミドを符号化する緑色蛍光タンパク質と充分に混合されていない。ついで、使用される細胞を、赤色蛍光タンパク質mCherryを符号化するプラスミドと手動混合し、この混合物を、短いチューブを介して、電気穿孔カートリッジの入口ポート120に接続されたバッグに適用した。第2のバッグには緑色蛍光タンパク質GFPを符号化するプラスミドを含む溶液を充填し、このバッグを、別の短いチューブを介して、電気穿孔カートリッジの第2の入力ポート110に接続した。各チューブの流体はパンチバルブによって制御した。ぜん動ポンプは、別のチューブを介して出口ポート140に接続されている。また、電気穿孔カートリッジへのポンプの接続を別のパンチバルブによって制御してもよい。出口ポート160に接続された第4のチューブを使用して、2つの溶液の混合物を収集した。なお、送出された流体はパンチバルブによって制御した。微少流体混合チャネル及び微少流体混合エレメント130を用いて、約1mlを電気穿孔カートリッジに充填し、その後、電気パルスを印加した。電気穿孔の後、細胞懸濁液を収集し、細胞をフローサイトメトリによって分析した。図9fには、電気穿孔細胞が2つの蛍光タンパク質を発現しており、細胞とプラスミドを符号化する緑色蛍光タンパク質の核酸溶液とが均質に混合されていることが示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e
図9f