(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】包装袋用積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220218BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220218BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220218BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/34
B32B27/36
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2018025970
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】渕田 泰司
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217902(JP,A)
【文献】特開2001-002079(JP,A)
【文献】特開2015-048093(JP,A)
【文献】特表2010-513102(JP,A)
【文献】ボニール-Q(15μm),日本,興人フィルム&ケミカルズ株式会社,2012年11月01日,https://www.kohjin.co.jp/product/film/convert/bonyl_q/pdf/bonyl-q15.pdf,[2021年7月26日検索]
【文献】ボニール-W,日本,興人フィルム&ケミカルズ株式会社,2012年11月01日,https://www.kohjin.co.jp/product/film/convert/bonyl/pdf/bonylw.pdf,[2021年7月26日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
B65D 67/00-79/02
B65D 81/18-81/30;81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層、基材層
、及びシーラント層を
この順に有する積層体であって、
前記表面層は、1軸延伸ポリプロピレン、2軸延伸ポリプロピレン、及び高密度ポリエチレンから選ばれるポリオレフィンから構成され、
前記基材層はナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含み、
前記シーラント層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が
130MPa以上350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が
、MD及びTD両方の方向で6.0N以上
12.0N以下である、
包装袋用積層体。
【請求項2】
前記シーラント層の引張弾性率が、
160MPa以上300MPa以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記シーラント層の引裂強度が、
MD及びTD両方の方向で6.5N以上15.0N以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記シーラント層が、
直鎖状低密度ポリエチレンを含むポリオレフィンフィルムから構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材層がナイロンフィルムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が1,000MPa以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記表面層が、
2軸延伸ポリプロピレンを含むポリオレフィンフィルムから構成される、請求項
1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の積層体が袋状に成形されている、包装袋。
【請求項9】
請求項
8に記載の包装袋と、
前記包装袋に密封されている内容物と、
を含む、内容物入り包装袋。
【請求項10】
前記内容物が液状の物品である、請求項
9に記載の内容物入り包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装袋用積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、塗料、化粧品、医薬品等の液状物品を封入し、輸送するための包装袋の構成材料として、複数のフィルムの積層体から成る包装袋用積層体が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2軸延伸ポリプロピレンフィルム層、酸素バリア層、及びシーラント層がこの順序で積層された積層体材料が記載されており、この積層体材料が、医療用輸液パックの2次包装材料として好適であると説明されている。
【0004】
特許文献2には、直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとから成るポリエチレン系樹脂組成物、及びこの樹脂組成物から形成されたバッグインボックス内装容器が記載されている。
【0005】
なお、特許文献3には、縦型製袋充填機を用いて内容物入り包装袋を製造する方法が記載されている。特許文献3の方法は、長尺のフィルムの両縁部同士を熱溶着し、これによって形成された縦シール部を有する筒状フィルムを形成する工程と、筒状フィルムの向き合った内面同士をその幅方向に、開口部を形成するように一部位を残して熱溶着する工程と、開口部から筒状フィルム内に被包装物(内容物)を投入する工程と、被包装物の投入後に開口部で筒状フィルムの向き合った内面同士をその幅方向に熱溶着する工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-7509号公報
【文献】特開平11-166081号公報
【文献】特開2002-234504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液状物品を包装するための包装袋、及びこれを構成する積層体材料には、捻じり、落下衝撃、屈曲部への摩擦等の応力が加えられたときに、ピンホールが発生し難いことが求められる。その理由は、以下のとおりである。
【0008】
包装袋用積層体から内容物入り包装袋を製造するときに、特許文献3に記載された方法によると、具体的には例えば以下のように行われる。包装袋用積層体は、長尺フィルム状に成形されてロール状に巻回される。巻回された積層体材料は、例えば水平方向に巻き出された後、90°捻じられて方向を鉛直方向に変更され、上方から縦型製袋充填機に供給される。このとき、積層体材料を捻じる応力によって、ピンホールが発生することがある。
【0009】
製袋充填機に供給された包装袋用積層体は、長さ方向の辺の片端又は両端がシール(例えば熱融着)されて開口部を有する筒状体に成形され、更にフィルム端部側の開口部がシールされて袋状に成形された後、開口部から例えば液状物品(被包装物)が注入される。液状物品の注入後、筒状体の開口部がシールされ、更にシール部でカットされて、内容物入り包装袋となる。この内容物入り包装袋は、カットされた後は床に落下する。この落下の際に、包装袋に落下衝撃がかかり、その応力によってピンホールが発生することがある。
【0010】
得られた内容物入り包装袋は、例えば段ボール箱に数個ずつ梱包され、例えば、鉄道、トラック、航空機等によって消費地に輸送される。輸送の際の振動により、包装袋と、隣接して梱包された他の包装袋、又は梱包段ボール箱の壁との間で摩擦され、その応力によってピンホールが発生することがある。特に、内容物である液状物品が、輸送時の振動で揺れて包装袋の内部から積層体材料の一部を押し上げ、積層体材料にシワ又はヒダができることがある。このシワ又はヒダの屈曲部分が摩擦されると、ピンホールがより発生し易くなる。
【0011】
したがって、液状物品を包装するための包装袋、及びこれを構成する積層体材料には、特に、応力に対する高度の耐ピンホールが求められるのである。
【0012】
本発明の目的は、捻じり、落下衝撃、屈曲部への摩擦等の応力が加えられたときでも、ピンホールが発生し難い包装袋用積層体、及びこれから構成される包装袋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》基材層及びシーラント層を有する積層体であって、
前記基材層はナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含み、
前記シーラント層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上である、
包装袋用積層体。
《態様2》前記シーラント層の引張弾性率が、100MPa以上300MPa以下である、《態様1》に記載の積層体。
《態様3》前記シーラント層の引裂強度が、6.5N以上15.0N以下である、《態様1》又は《態様2》に記載の積層体。
《態様4》前記シーラント層が、直鎖状低密度ポリエチレンを含むポリオレフィンフィルムから構成される、《態様1》~《態様3》のいずれか一項に記載の積層体。
《態様5》前記基材層がナイロンフィルムを含む、《態様1》~《態様4》のいずれか一項に記載の積層体。
《態様6》前記基材層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が1,000MPa以上である、《態様1》~《態様5》のいずれか一項に記載の積層体。
《態様7》表面層を更に有し、表面層、基材層、及びシーラント層をこの順に有する、《態様1》~《態様6》のいずれか一項に記載の積層体。
《態様8》前記表面層が、ポリプロピレンを含むポリオレフィンフィルムから構成される、《態様7》に記載の積層体。
《態様9》《態様1》~《態様8》のいずれか一項に記載の積層体が袋状に成形されている、包装袋。
《態様10》《態様9》に記載の包装袋と、
前記包装袋に密封されている内容物と、
を含む、内容物入り包装袋。
《態様11》前記内容物が液状の物品である、《態様10》に記載の内容物入り包装袋。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、捻じり、落下衝撃、折れ曲がり部への摩擦等が加えられたときでも、ピンホールが発生し難い積層体材料、及びこれから構成される包装袋が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の積層体の構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の積層体の構成の別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《積層体》
本発明の包装袋用積層体の構成の一例を、
図1に示す。本発明の包装袋用積層体は、
基材層(1)及びシーラント層(2)を有する包装袋用積層体(10)であって、
基材層(1)はナイロンフィルムを含み、
シーラント層(2)は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上である。
【0018】
本明細書における引張弾性率とは、JIS K 7127に準拠して試験したときの値である。
【0019】
本明細書における引裂強度とは、JIS K 7128第2部に記載のエルメンドルフ引裂法に準拠して試験したときの値である。ただし、測定結果は、試験片の厚みで割り付けず、測定された引裂強さそのものの平均値を採用する。
【0020】
本発明の包装袋用積層体は、ナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含む基材層と、引張弾性率及び引裂強度が上記範囲のシーラント層とを組み合わせて用いることにより、耐ピンホール性が向上されている。
【0021】
ナイロンフィルムは、酸素遮断性に優れ、靭性が高いことから、食品等の液状物品の包装袋材料として好適である。また、ポリエステルフィルム、特にポリブチレンテレフタレートフィルムは、保香性に優れ、同様に靭性が高いことから、香りの高い食品等の液状物品の包装体材料として用いられている。しかしながらナイロン及びポリエステルは、いずれも融点が高く、単体のフィルムではシールが困難である。また、これらのフィルムは硬く、応力を加えられると割れ易い。そこで、包装材料に、酸素遮断性又は保香性等に加えて、シール性と、応力に対する耐性とを付与するために、ナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含む基材層と、これらよりも低融点かつ軟質の材料から成るシーラント層とを積層して用いる。
【0022】
ここで本発明の包装袋用積層体では、シーラント層として、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上である材料を選択して用いる。
【0023】
引張弾性率が350MPa以下であることは、小さい応力によっても弾性的に変形し易いことを意味する。応力によって弾性的に変形し易いシーラント層を用いると、積層体に加えられた応力がシーラント層の変形によって緩和され、基材層に加えられる応力が低減され、このことによって、積層体の耐ピンホール性が向上されると考えられる。
【0024】
引裂強度が6.0N以上であることは、ピンホールに至らない微小な亀裂が発生したときに、その亀裂の拡大に対する抵抗が大きいことを意味する。したがって、引裂強度が6.0N以上のシーラント層を用いると、積層体(特に基材層)に微小な亀裂が発生したときでも、その亀裂が拡大し難くなるから、積層体全体としてピンホールが発生し難くなり、包装袋が漏れの発生(破袋)に至ることが抑制されると考えられる。
【0025】
したがって本発明では、ナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含む基材層を、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上であるシーラント層と組み合わせて用いることにより、酸素遮断性又は保香性と、靭性とに優れるとともに、極めて向上された耐ピンホール性を示す包装袋用積層体が得られるのである。
【0026】
本発明の包装袋用積層体の構成の別の一例を、
図2に示す。この場合の本発明の包装袋用積層体は、
基材層(1)及びシーラント層(2)の他に、表面層(3)を更に有し、表面層(3)、基材層(1)、及びシーラント層(2)をこの順に有する包装袋用積層体(20)であってもよく、ここで、
基材層(1)はナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含み、
シーラント層(2)は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上である。
【0027】
以下、本発明の包装袋用積層体を構成する各層について、順に説明する。
【0028】
〈基材層〉
基材層は、ナイロンフィルム又はポリエステルフィルムを含む層である。ポリエステルフィルムは、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム等であってよい。
【0029】
本発明の包装袋用積層体では、本発明所定のシーラント層の使用によって極めて高度の耐ピンホール性が付与されているから、基材層は比較的硬くてもよい。本発明における基材層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が、例えば、500MPa以上、800MPa以上、1,000MPa以上、1,500MPa以上、2,000MPa以上、又は2,500MPa以上であってよい。一方で、基材層が過度に硬いと包装袋の製造及び使用の際に不都合を来たすおそれがあり、これを回避するためには、基材層の引張弾性率は、例えば、10,000MPa以下又は5,000MPa以下であってよい。
【0030】
上記と同じ理由により、本発明における基材層の引裂強度は、比較的小さくてもよい。本発明における基材層は、JIS K 7128準拠の引裂強度が、例えば、5.0N以下、3.0N以下、1.0N以下、0.50N以下、0.30N以下、又は0.10N以下であってよい。一方で、取り扱い上の不便を避けるため、基材層の引裂強度は、例えば、0.01N以上、0.03N以上、又は0.05N以上であってよい。
【0031】
基材層の引張弾性率及び引裂強度が、それぞれ、MD方向とTD方向とで異なる場合には、MD又はTDの1つの方向で上記の要件を満たすことが好ましく、MD及びTD両方の方向で上記の要件を満たすことがより好ましい。
【0032】
本発明の包装袋用積層体の基材層におけるナイロンフィルム又はポリエステルフィルムは、延伸フィルム及び無延伸フィルムのどちらであってもよい。包装袋材料中の基材層として例えばナイロンフィルムを用いる場合、従来技術では無延伸のナイロンフィルムが好ましいとされていた。しかし本発明の積層体では、無延伸のナイロンフィルムの他、延伸されたナイロンフィルムも適用することができ、延伸されたナイロンフィルムを用いることが好ましい。延伸は、1軸延伸及び2軸延伸のどちらであってもよい。2軸延伸の場合の延伸方法は任意であり、例えば、チューブラー2軸延伸、同時2軸延伸、逐次2軸延伸等によって延伸されたナイロンフィルムを使用してよい。
【0033】
基材層は、単層であっても多層であってもよい。多層は、ナイロンフィルム及びポリエステルフィルムから選択される複数のフィルムによって構成されていてもよいし、これらのフィルムと他のフィルムとの組み合わせであってもよい。他のフィルムは例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体等であってよい。本発明における基材層は、典型的には、上記の好ましい特性を有するナイロンフィルム又はポリエステルフィルムの単層、又はこのようなナイロンフィルム及びポリエステルフィルムから選択される2層以上が積層された多層であってよい。
【0034】
基材層は、その片面又は両面にバリア層を有していてよい。バリア層は、例えば、シリカ、アルミナ等を含む蒸着層であってよい。
【0035】
包装袋の内容物の保護を確実とし、積層体及び包装袋に必要な靭性を付与しつつ、良好な取り扱い性を確保するために、基材層の厚みは、例えば、5μm以上、8μm以上、10μm以上、12μm以上、又は15μm以上であってよく、たとえば、50μm以下、40μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってよい。従来技術では、積層体及び包装袋の耐ピンホール性を向上するために、基材層の厚みを厚く設計されており、具体的には20μmを超え、典型的には25μm程度の基材層が多用されていた。しかしながら本発明の包装袋用積層体では、基材層を本発明所定のシーラント層と組み合わせて用いることにより、基材層が薄い場合でも期待される性能を発揮することができ、例えば、20μm以下、典型的には15μm程度であってもよい。
【0036】
〈シーラント層〉
シーラント層は、JIS K 7127準拠の引張弾性率が350MPa以下であり、かつJIS K 7128準拠の引裂強度が6.0N以上の層であり、ヒートシール性を有していてよい。
【0037】
包装袋用積層体に応力が加えられたときにシーラント層が十分に弾性的に変形して応力を緩和し、基材層に加えられる応力を低減するために、シーラント層の引張弾性率は、350MPa以下であり、300MPa以下、250MPa以下、200MPa以下、又は150MPa以下であってよい。一方、積層体としての取り扱い性を確保するために、シーラント層の引張弾性率は、100MPa以上、110MPa以上、120MPa以上、130MPa以上、140MPa以上、160MPa以上、180MPa以上、又は200MPa以上であってよい。シーラント層の引張弾性率は、典型的には100MPa以上300MPa以下であってよい。
【0038】
積層体に微小な亀裂が発生したときに、その亀裂の拡大に対する抵抗を十分に大きくするために、シーラント層の引裂強度は、6.0N以上であり、6.5N以上、7.0N以上、7.5N以上、又は8.0N以上であってよい。一方で、製造コスト又は入手性を考慮すると、シーラント層の引裂強度は過度に大きい必要はなく、例えば、15.0N以下、12.0N以下、10.0N以下、9.5N以下、9.0N以下、又は8.5N以下であってよい。シーラント層の引裂強度は、典型的には6.5N以上15.0N以下であってよい。
【0039】
シーラント層の引張弾性率及び引裂強度が、それぞれ、MD方向とTD方向とで異なる場合には、MD又はTDの1つの方向で上記の要件を満たすことが好ましく、MD及びTD両方の方向で上記の要件を満たすことがより好ましい。
【0040】
シーラント層は、例えば熱可塑性樹脂から構成される層を含んでいてよい。
【0041】
シーラント層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、ポリエチレン等を挙げることができる。好ましくはポリエチレンであり、具体的には例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられ、これらから選択される1種以上を使用してよい。シーラント層は、良好な低温ヒートシール性、加工性等を付与する観点からは、LLDPEを含むポリオレフィンフィルムから構成されることが好ましく、LLDPEフィルムから構成されることがより好ましい。
【0042】
シーラント層は、1つの樹脂層から成る単層であってもよいし、複数の樹脂層から成る積層体であってもよい。シーラント層が複数の樹脂層から成る積層体である場合、各層を構成する樹脂は互いに同じであってもよいし、相違していてもよい。
【0043】
基材層の保護によって耐ピンホール性を十分に高くし、かつ包装袋としたときのシール性を確実にする観点から、シーラント層の厚みは、例えば、30μm以上、40μm以上、50μm以上、又は60μm以上であってよい。しかしながらシーラント層は、過度に厚い必要はなく、その厚みは、例えば、200μm以下、180μm以下、160μm以下、140μm以下、又は120μm以下であってよい。
【0044】
〈表面層〉
本発明の包装袋用積層体で任意的に使用される表面層は、基材層の面のうち、シーラント層とは反対側の面上に積層されて、基材層を保護する層である。すなわち、本発明の包装袋用積層体では、基材層がシーラント層によって保護され、応力によるピンホールの発生が抑制されている。しかしながら、基材層が最表面に配置されている積層体を包装袋に成形すると、包装袋への応力が比較的硬質の基材層に直接加えられることになり、ピンホール発生の懸念が完全には払拭されない。そこで、本発明の包装袋用積層体に表面層を更に配置して、表面層、基材層、及びシーラント層をこの順に有する構成とすることにより、表面層とシーラント層とによって基材層を両面から保護して、耐ピンホール性の更なる向上を期すのである。
【0045】
表面層は、基材層よりも軟質の樹脂から構成される層であることが好ましく、例えば熱可塑性樹脂から構成される層を含んでいてよい。
【0046】
表面層を構成する熱可塑性樹脂は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等であってよい。表面層が、例えば、無延伸PP、1軸延伸PP、2軸延伸PP、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリオレフィンから構成される層である場合、得られる包装袋は屈曲に対する耐ピンホール性が高いものとなる。表面層が、ポリプロピレンを含むポリオレフィンフィルムから構成されると、屈曲及び摩擦に対する耐ピンホール性が高くなるため好ましく、特に、表面層が2軸延伸PPフィルムであると、屈曲及び摩擦に対する耐ピンホール性が極めて高くなるため、より好ましい。本発明の包装袋用積層体では、ポリプロピレンを含むポリオレフィンフィルム以外の表面層を有さないことが好ましい場合がある。
【0047】
表面層の厚みは、基材層の保護を確実とするために、例えば、5μm以上、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってよいが、過度に厚い必要はなく、例えば、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下であってよい。
【0048】
《積層体の製造方法》
本発明の包装袋用積層体は、上記のような、基材層及びシーラント層、又は表面層、基材層、及びシーラント層を、任意の方法でこの順に積層することにより、製造されてよい。具体的には例えば、本発明の包装袋用積層体を構成する各層を別個に形成した後、これらをドライラミネート、ウェットラミネート、ホットメルトラミネート等によって積層してもよいし;本発明の包装袋用積層体を構成する一部の層を形成した後、この層上に押出ラミネートによって他の層を形成してもよいし;本発明の包装袋用積層体を構成する各層を共押出によって形成してもよいし;これらのうちの複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0049】
《包装袋》
本発明の包装袋は、本発明の包装袋用積層体が袋状に成形されることにより構成されてよい。本発明の包装袋用積層体を袋状に成形する方法として、具体的には例えば、積層体を2枚準備し、シーラント層が内側を向くように対向させ、シーラント層の周縁部がシールされることによって成形されてよく;積層体を、シーラント層が内側を向くように折り曲げてシーラント層同士を対向させ、シーラント層の周縁部がシールされることによって成形されてよく;又は、積層体を筒状に形成し、この筒状体を適当な大きさにカットしたうえで、カットの両端部がシールされることによって成形されてよい。これらの方法におけるシールは、例えばヒートシールであってよい。
【0050】
《内容物入り包装袋》
本発明の内容物入り包装袋は、上記のような本発明の包装袋と、この包装袋に密封されている内容物と、を含む。
【0051】
この内容物入り包装袋の内容物は、液状の物品であってよい。液状の物品は、例えば、食品、医薬品、化粧品、塗料等であってよい。食品としては、例えば、飲料、食用油、スープ、クリーム、液体調味料(例えば、醤油、酢、麺つゆ、割下、みりん、ウスターソース、ケチャップ、タバスコ、甘味料、)等を含む。医薬品は、例えば、注射薬、点滴薬、輸液薬、灌流薬、煎剤等を含む。化粧品は、例えば、シャンプー、コンディショナー、整髪料(例えば、ヘアウォーター、ヘアリキッド、グリース等)等を含む。塗料は、例えば、ペンキ、ニス、オイルステイン等を含む。
【実施例】
【0052】
〈実施例1〉
(1)包装袋用積層体の製造
基材層としてのナイロンフィルム(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、品番「RX#15」、厚み15μm)と、シーラント層としてのLLDPEフィルム(タマポリ(株)製、品番「TS200」、厚み70μm)とを、ドライラミネータを用いて、両者のMD方向が一致するように貼り合わせることにより、フィルム状の包装袋用積層体を製造した。
【0053】
ここで使用された各層の特性を表1に示す。
【0054】
(2)包装袋用積層体の評価
(2-1)屈曲試験
上記(1)で得られた包装袋用積層体を、MD方向:210mm、TD方向:286mmの長方形状に切り出した。切り出した包装袋用積層体をシーラント層側が内側、MD方向が高さ方向の円筒状にして、(株)東洋精機製作所製のゲルボフレックステスターの固定ヘッド及び可動ヘッドに円筒の軸方向が水平になるように固定した。そして、米軍仕様規格MIL-B-131Dに準拠して以下の条件で屈曲試験を行い、1,000回屈曲後のピンホール数を調べた。
【0055】
(屈曲試験条件)
テスターの可動ヘッドを、固定ヘッドの方向に88.9mm接近移動させる間に440°回転させ、続いて回転させずに更に63.5mm接近移動させた後、これらの動作を逆向きにして元の位置に戻す一連の動きを1サイクルとして、40サイクル/分の速度で繰り返して所定回数の屈曲試験を行った。
【0056】
この屈曲試験は、3個の積層体試料について行った。各試料の屈曲試験結果を表2に示す。
【0057】
(2-2)輸送試験
オリヒロ(株)製の製袋充填機「ONPACK2530」を用いて、上記(1)で得られた包装袋用積層体から成る包装袋に水1kgが充填されてシールされた、縦300mm及び横150mmの縦ピロー型の内容物入り包装袋を製造した。得られた内容物入り包装袋を、縦340mm、横245mm、及び高さ100mmの段ボール箱中に6個ずつ梱包した。このとき、1つの段ボール箱中に、隣接する包装袋の縦ピローの長辺同士が接するように3個並べたものを2段積みにして梱包した。
【0058】
上記梱包済みの段ボール箱を、アイデックス(株)製の輸送包装試験機「BF-100UT」にセットし、加速度3.5Gの条件にて輸送試験を行った。試験時間20分(輸送距離:1,000km相当)ごとに装置を停止して、破袋(漏れの発生)が生じた包装袋の個数を調べた。試験に供した試料の個数は、1,000km相当までは18個(段ボール箱3つ分)、それ以降は6個(段ボール箱1つ分)とした。結果を表4に示す。
【0059】
〈実施例2~6、並びに比較例1及び2〉
(1)包装袋用積層体の製造
シーラント層として表1に記載のLLDPEフィルムをそれぞれ使用した他は、実施例1と同様にして包装袋用積層体を製造した。ここで使用された各層の特性(シーラント層は厚み70μm品についての値)を表1に示す。
【0060】
(2)包装袋用積層体の評価
(2-1)屈曲試験
上記で得られた包装袋用積層体を用いて、実施例1と同様に屈曲試験を行った。結果を表2に示す。また、実施例4~6の積層体については、屈曲回数を2,000回まで継続して2,000回屈曲後のピンホール数も調べた。この結果を表3に示す。
【0061】
(2-2)輸送試験
実施例2、3、及び5、並びに比較例1で得られた包装袋用積層体をそれぞれ用いて、実施例1と同様に輸送試験を行った。このとき、実施例5における輸送試験では、輸送距離1,000km相当までの試料個数を42個(段ボール箱7つ分)とした。評価結果を表4に示す。
【0062】
〈実施例7〉
(1)包装袋用積層体の製造
表面層としてのPPフィルム(フタムラ化学(株)製、品番「FOR #20」、厚み20μm)と、基材層としてのナイロンフィルム(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、品番「RX#15」、厚み15μm)と、シーラント層としてのLLDPEフィルム(タマポリ(株)製、品番「TS200:」、厚み70μm)とを、ドライラミネータを用いて、各層のMD方向が一致するように上記に記載の順で貼り合わせることにより、フィルム状の包装袋用積層体を製造した。ここで使用された各層の特性を表1に示す。
【0063】
(2)包装袋用積層体の評価
上記で得られた包装袋用積層体を用いて、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2及び表4に示す。
【0064】
〈実施例8~10〉
表面層及びシーラント層として、それぞれ表1に記載のフィルムを使用した他は、実施例5と同様にして包装袋用積層体を製造し、屈曲試験及び輸送試験を行った。
【0065】
ここで使用された各層の特性を表1に示す。評価結果を表2及び表4に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1~4を参照すると、以下のことが理解される。
【0071】
基材層とシーラント層とを有する包装袋用積層体において、ナイロンから成る基材層と、引張弾性率が350MPaを超え、及び/又は引裂強度が6.0N未満のLLDPEから成るシーラント層とを使用した比較例1及び2の積層体では、MIL-B-131D準拠の屈曲試験を行ったときに、1,000回屈曲後にピンホールが発生する場合があった。これに対して、引張弾性率が350MPa以下であり、かつ引裂強度が6.0N以上のLLDPEから成るシーラント層を使用した実施例1~6の包装袋用積層体では、同じ条件の屈曲試験で1,000回屈曲後にピンホールは発生しなかった(表1及び2参照)。
【0072】
シーラント層の厚さを変更した実施例4~6について見ると、シーラント層の厚さが少なくとも40μ以上100μm以下の範囲では、耐屈曲性に実質的な影響がなく、上記条件下の屈曲試験で1,000回屈曲後にピンホールは発生せず、2,000回屈曲後のピンホールの発生もごくわずかであった(表3参照)。
【0073】
また、比較例1の積層体から得られた内容物入り包装袋は、輸送試験にて、1,000km相当の輸送距離で18個中4個の試験袋に破袋が発生したのに対し、実施例1~3及び5の内容物入り積層体は、優れた耐輸送性を示した。
【0074】
表面層を更に有し、表面層、基材層、及びシーラント層をこの順に有する実施例7~10の包装袋用積層体は、上記条件下の屈曲試験で1,000回屈曲後にピンホールが発生せず、内容物入り包装袋の輸送試験においても優れた耐輸送性を示した。
【符号の説明】
【0075】
1 基材層
2 シーラント層
3 表面層
10、20 包装袋用積層体