(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】低塩素濃度チタン粉、チタン合金粉、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/04 20060101AFI20220218BHJP
B02C 25/00 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
B22F9/04 D
B02C25/00 C
(21)【出願番号】P 2018049469
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591261026
【氏名又は名称】トーホーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】竹中茂久
(72)【発明者】
【氏名】平嶋謙治
(72)【発明者】
【氏名】滝千博
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-247503(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137488(WO,A1)
【文献】特開平10-259432(JP,A)
【文献】特開平07-118710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-61/00
B02C 9/00-11/08
B02C 19/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化脱水素法によるチタン粉末の製造方法であって、
スポンジチタンを融解凝固させたチタンインゴットの切削片
であって、かつ、厚みが10mm以下で嵩密度が0.2g/cm
3
以上4.0g/cm
3
以下の前記チタンインゴットの切削片を40質量%以上
と、厚みが20mm以下の前記スポンジチタンと、を含有するチタン原料を使用
し、
716℃以上1050℃以下の範囲で90分以上保持する水素化工程を含む、
ことを特徴とするチタン粉末の製造方法。
【請求項2】
前記チタンインゴットの切削片の一方の表面の表面粗さRa1が他方の表面の表面粗さRa2よりも小さいことを特徴とする請求項
1に記載のチタン粉末の製造方法。
【請求項3】
前記Ra2が10μm以上1mm以下であることを特徴とする請求項
2に記載のチタン粉末の製造方法。
【請求項4】
前記チタン粉末の塩素濃度が20ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のチタン粉末の製造方法。
【請求項5】
前記スポンジチタンの内部MgCl
2
量が0.1mass%以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のチタン粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化脱水素法(以下、HDH法と称する)によるチタン粉末の製造方法およびその製造方法により得られる、従来にない全く新規なチタン粉、チタン合金粉、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン粉末中の塩素濃度は50ppm程度であれば充分と考えられており、それ以上の塩素低減要求が殆どなかったが、近年、チタン粉末を用いた焼結体の密度向上要求の高度化と高純度化の要求により、チタン粉末中の塩素濃度低減要求が高まってきている。
【0003】
チタン粉の塩素濃度を低減させる技術を開示した先行技術文献としては、以下のものがある。
【0004】
特許文献1には、チタン粉の粒径が5μm以下の粉末の割合が多くなると、チタン粉の塩素濃度が増加することから、微粉を除去することで塩素濃度を0.03wt%(300ppm)にする技術が、実施例2に開示されている。しかしながら、特許文献1の低塩素化手段は、微粉除去ということに留まるものであるから、生産性が悪く、塩素低減効果も充分ではない。
【0005】
特許文献2の実施例の
図1には、第3回目の洗浄によって、洗浄水中の塩素濃度が、約3ppm(グラフから読み取り)になったとの記載がある。しかし、この塩素濃度はあくまで洗浄水中の塩素濃度であって、チタン粉自体の塩素濃度ではない。実施例には塩素濃度が50ppm以下(表1では50ppm未満)との記載があるのみである。従って、チタン粉の塩素濃度は不明であるが、50ppmから少し低い程度の塩素濃度(たとえば50ppm~40ppm)であったと推定される。しかも、特許文献2の低塩素化手段は、水道水の温度を70℃にする、水量はチタン重量の10倍、超音波付加等様々な方法を組み合わせた複雑で手間暇及び製造コストが非常にかかる方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-195504
【文献】特開平1-139706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決することを目的とするものであり、すなわち、複雑で手間暇及び製造コストがかかる手段を用いることなく、チタン粉の塩素濃度を低減させることができるチタン粉の製造方法、および低塩素濃度のチタン粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明では、チタン粉製造過程における塩素の挙動を詳細に解析した。その結果、チタン粉の原料および製造方法を調整することで、塩素の残留濃度が大幅に変化することを見出した。従来はチタン粉の原料として用いられていたスポンジチタンに代わって、スポンジチタンを溶解凝固させたチタンインゴット及びインゴット加工品の切削片または切断品をチタン粉原料として使用することに着目した。
【0009】
スポンジチタンは工業的にはクロール法で製造されており、その製造方法の特徴から、スポンジチタン中には、塩化マグネシウム(MgCl2)等を主成分とする塩素化合物が不純物として残留している。
【0010】
従来は、先行技術にも記載した様に、塩素濃度を増加させる要因の1つとなっていた微粉を除去したり、チタン粉を水洗する等の方法で塩素濃度の低減を図っていた。しかし、これらの方法では塩素濃度の低減効果が不充分であった。
【0011】
つまり、チタン粉の原料としてスポンジチタンを用いている限り、塩素濃度の低減には一定の限界があり、今後予想される一層の低塩素化の要求には対応できないことが判明した。
【0012】
そこで、本発明者はチタン粉の原料として、スポンジチタン以外のものを検討した結果、スポンジチタンを融解凝固させたチタンインゴットの切削片を用いることが、塩素濃度低減に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。さらには、スポンジチタンを融解凝固させたチタンインゴットの切削片を原料としてHDH法で製造することにより、より一層確実かつ安定的にチタン粉に含まれる塩素濃度を取り除くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の一実施形態において、水素化脱水素法によるチタン粉末の製造方法であって、スポンジチタンを融解凝固させたチタンインゴットの切削片を40質量%以上含有するチタン原料を使用することを特徴とするチタン粉末の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の一実施形態において、チタン原料が、スポンジチタンである場合その厚みが20mm以下、チタンインゴットの切削片である場合その厚みが10mm以下であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、チタンインゴットの切削片の嵩密度を0.2g/cm3以上4.0g/cm3以下であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、チタンインゴットの切削片の一方の表面の表面粗さRa1が他方の表面の表面粗さRa2よりも小さくてもよい。
【0017】
本発明の一実施形態において、Ra2が10μm以上1mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
チタンインゴットは、スポンジチタンを融解凝固させて得られるものであり、スポンジチタンを高温融解時、塩素成分は揮発する。したがって、チタンインゴットの切削片を原料として用いることで、水素化脱水素法により得られるチタン粉の塩素濃度の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
チタン粉は、現在、ほとんどがクロール法にて製造されるスポンジチタンを原料としている。また、経済性、資源保護の観点から、スクラップを原料として活用する場合もある。
【0020】
[クロール法の説明]
スポンジチタンは工業的にはクロール法で製造されている。クロール法とは、チタン鉱石を塩素化して得られる四塩化チタン(TiCl4)をマグネシウム(Mg)で還元して金属チタンを得る方法である。
【0021】
クロール法においては、還元工程過程(TiCl4+2Mg→Ti+2MgCl2)で生じるMgCl2がスポンジチタンと共存するため、そのMgCl2を分離工程で除去した後のスポンジチタンが使用される。ところが、そのスポンジチタンをよく調べると、完全にMgCl2が除去できているわけではなく、スポンジチタンの表面に付着しているMgCl2(表面MgCl2)と、スポンジチタンの内部に閉じ込められ外部と遮断されたMgCl2(内部MgCl2)の2種類が残存していることが分かった。
【0022】
分離工程で十分取りきれずスポンジチタンの表面に残存するMgCl2(表面MgCl2)は、再度、減圧下で熱を加えることにより、除去することができる。一方、減圧下で熱を加えた後のスポンジチタンを切断して内部を調べたところ、スポンジチタンの内部に閉じ込められたMgCl2(内部MgCl2)は、この方法では取り除くことができないことがわかった。
【0023】
[スポンジチタンの融解技術の説明]
スポンジチタンを融解凝固させることで、チタンインゴットを製造する方法を説明する。スポンジチタンを融解凝固させる方法としては、EB法やVAR法などが知られている。
【0024】
EB法とは高真空下で電子ビームを用いて金属を溶解してインゴットを製造する方法である。具体的には、10-4~10-5mmHg程度の高真空において、加速電圧14~35kVの電子銃から発射された電子ビームによって金属を溶解し、水冷銅鋳型で凝固させてインゴットを製造する。
【0025】
VAR法とは真空または不活性ガス雰囲気下の水冷銅るつぼ内で、溶解材料自体で構成される棒状の消耗電極と溶湯表面との間にアークを発生させ、その熱により消耗電極を溶融して溶滴として落下させ、溶滴が集まった溶湯プールを下側から冷却して凝固させ、一方向凝固に近い方式でインゴットを製造するという方法である。
【0026】
いずれの方法でもスポンジチタンを高温にして融解する際に、スポンジチタン中に含有される塩素や塩化マグネシウム(MgCl2)を主成分とするマグネシウムと塩素との化合物は、スポンジチタン表面および内部から揮発し、スポンジチタンから除かれる。従って、その後、凝固して得られるチタンインゴット中の塩素濃度は低減されることになる。
【0027】
[アトマイズ法チタン粉製造方法の説明]
チタン粉の製造方法は、アトマイズ法とHDH法に大別される。アトマイズ法では、チタン原料を溶融させた後、Arガス中で液状化したチタンを細かい液状の粒にすると同時に、急冷し、固化させることでチタン粉を製造する。
【0028】
本発明者の研究調査では、アトマイズ法においては、チタン原料の内部に存在するMgCl2(内部MgCl2)が一気にガス化し、直ちに急冷されることによりガス化したMgCl2が液状化したチタンの粒内部に閉じ込められチタン粉内に残存する機構と、液状化したチタンの粒が気化したMgCl2ガスを巻き込んで凝固することにより、チタン粉内に残存する機構とがあると結論づけた。そのことより、本発明の目的を達成するにはHDH法がより適するとの結論に至った。
【0029】
[HDH法チタン粉製造方法の説明]
HDH法とは、チタン原料を一旦水素化し、脆いTiH2を形成した後、粉砕後脱水素してチタン粉を得る方法であり、水素化~粉砕~脱水素~解砕の工程によりチタン粉を製造する方法である。
【0030】
この際、水素化の工程ではチタン原料を真空置換可能な水素化炉に装入し、400度以上の温度で、水素ガス雰囲気中で水素化処理を行うことで水素脆化させ、水素ガス雰囲気からArガス雰囲気に置換し、これにより水素化チタンの塊状体を得る。
【0031】
次は粉砕の工程であるが,粉砕の工程では水素化チタンの塊状体を機械粉砕したのち、分級および/または篩別して水素化チタンの微粉を除去する。水素化チタンの機械的粉砕には、ボールミル、振動ミルなどの粉砕装置が使用でき、水素化チタン粉末の粒度調整には円形振動篩、気流分級機などの篩別分級装置を用いてもよい。
【0032】
脱水素化工程は、上記の水素化チタン粉末を容器に充填して、真空加熱型の脱水素炉に装入し、例えば10-3Torr以下の真空中で、450度以上の温度に加熱して脱水素する。また、必要に応じArガスを挿入する。解砕工程では、得られたチタンの塊状体を機械的に解砕処理する。
【0033】
[HDH法での塩素残存機構の説明]
本発明者は、HDH法の各製造工程における条件を塩素濃度の観点から詳細に研究調査し、いかに内部に閉じ込められたMgCl2(内部MgCl2)を低減させることができるかを調べた。HDH法では、各製造工程中でチタンが溶融され液化されることが無ければ、製造工程中に原料のチタンに含有されていた塩素が気化することで雰囲気中にMgCl2が混入し,そのMgCl2が水素化チタンの塊状体に巻き込まれて塩素残存の原因となることはない。HDH法での熱処理は、水素化と脱水素化の2工程であることから、いずれも融点以下で行えばよいことになる。ただし、一般的にチタン材を入れる容器としてはステンレス鋼が使用されることから、ステンレス鋼に含まれる鉄とチタンとが接触して、両者の温度が、鉄とチタンとの共晶温度以上になるとチタンが液体となり、上記目的にそぐわなくなる。その為、本発明者は、塩素の残存を防ぐためにはチタンを鉄とチタンとの共晶温度以下で制御し、チタンの液化を防ぐ必要があることを見出し、上限温度を制御することが本発明の重要な構成要素になる。
【0034】
常圧下でのMgCl2の沸点は1412℃であり、この温度においては、チタン原料の内部に閉じ込められたMgCl2(内部MgCl2)は気体化する。一方、チタンの融点は1668℃であるため、チタンは固体の状態で存在する。気体化された内部MgCl2は固体の状態に比べ体積が大きくなり、これが原因でチタン内部では非常に高圧状態を形成する。この高圧状態は,水素化し脆くなったチタンに亀裂を発生させ、そこからチタン外部に排出されることが可能である。
【0035】
しかし、前記したように、HDH法においては、チタン材を入れる容器はステンレス鋼の場合が多く、鉄とチタンの共晶温度(1085℃)以上にはあげられない。本発明では、この制限された温度を順守し、かつ、MgCl2を取り除く従来にない制御方法を見出し、本発明を完成させた。つまり、チタン原料の温度を最低でもMgCl2の融点(714℃)以上の温度にして液相とし、固体の状態に比べて体積を膨張させる。このとき、チタンは固体の状態で存在するため、内部MgCl2は固体の状態に比べ液体の状態のほうが体積が大きくなり、これが原因でチタン内部では非常に高圧状態が形成される。この高圧状態は、水素化し脆くなったチタンに亀裂を発生させる。亀裂によりチタン外部に露出した液相のMgCl2は、徐々に蒸発により気化できるようにする。この場合の炉内の温度及び加熱時間(温度の維持時間)の制御は、水素化するチタン原料の厚みや水素化時間も考慮して決定される。例えば、本発明においては、716℃以上1050℃以下の範囲で90分以上の時間をかけることによって、原料のチタン内部に存在するMgCl2はチタンの亀裂から蒸発し、併せてチタンの水素化も実現することができる。理論的には、チタン原料の温度をMgCl2の融点(714℃)以上から鉄とチタンの共晶温度(1085℃)未満の範囲で設定することができるが、上記温度範囲とすることでより確実な温度制御を行うことができる。
【0036】
なお、HDH法において温度を制御することで原料のチタンが溶融しないようにするが、チタン原料の表面にMgCl2が付着している場合には、HDH法の工程中にMgCl2が気化することから、そのままそれを取り除くためには、高真空が好ましい。HDH法においては、チタン原料と共に持ち込まれる表面に付着したMgCl2量を低減するとともに温度、時間、真空度、Ar置換等コストを考え最適化することが重要である。
【0037】
水素化工程では、チタン内部に存在するMgCl2(内部MgCl2)を除去するため、本発明で見いだされた上記機構を具現化する水素化工程とする。十分な時間をかけて水素化による脆化を行えば、MgCl2を排出させることは可能であるが、工業的には生産性及びコスト的に適切ではない。
【0038】
研究調査の結果、チタン原料の表面に付着するMgCl2量を制御すること以上に、チタン原料の内部に存在するMgCl2量が生産性及びコストの大きく影響することが判明した。種々の実験をしたところ,チタン原料の全MgCl2濃度を1.0mass%以下に抑えることが好ましいことが判明した。特に、チタン原料の内部に存在するMgCl2濃度(内部MgCl2濃度)を0.5mass%以下にすれば、HDH法においてチタン原料の温度をMgCl2の融点(714℃)以上から鉄とチタンの共晶温度(1085℃)未満の範囲で維持する時間が90分であってもポアの原因となるMgCl2を効率よく取り除くことができることがわかった。チタン原料の内部に存在するMgCl2濃度(内部MgCl2濃度)を0.1mass%とすることでさらに明確に効果が表れる。本発明ではチタン原料またはチタン合金原料の内部に閉じ込められたMgCl2濃度(内部MgCl2濃度)を0.1mass%以下とした。
【0039】
〔原料での塩素残存抑制方法〕
チタン原料の全MgCl2濃度を1.0mass%以下に抑え、さらにはチタン原料内部に閉じ込められたMgCl2濃度(内部MgCl2濃度)を0.1mass%以下に抑える方法としては、コストはかかるものの事前にスポンジチタンをさらに細かくし、再度、真空中で熱処理する方法や、一部もしくは全体を溶融しMgCl2を飛ばすことなどの前処理も有効である。
【0040】
また、前述のとおり、スポンジチタンではなく、EB法やVAR法で加工されたチタンインゴットを原料とした場合、スポンジチタンを高温にして融解する際に、スポンジチタン中に含有される塩素や塩化マグネシウム(MgCl2)を主成分とするマグネシウムと塩素との化合物は、スポンジチタン表面および内部から揮発し、スポンジチタンから除かれる。従って、その後、凝固して得られるチタンインゴット中の塩素濃度を低減できる。
【0041】
[内部MgCl2濃度の定義]
内部MgCl2の濃度の測定方法を説明する。まず、対象とするチタン原料を減圧下(50pa以下)にて、約750℃×1時間の熱処理することにより表面のMgCl2を飛ばした後、本材料の塩素濃度を測定し、その塩素濃度の値よりMgCl2濃度に換算し、これをチタン原料の内部に閉じ込められ存在するMgCl2濃度(内部MgCl2濃度)とすることで算出し、これを本発明における内部MgCl2濃度とする。
【0042】
[チタンインゴットの切削片の説明]
本発明では、EB法やVAR法で加工されたチタンインゴットを切削したチタン片(切削片)をチタン原料として用いることとした。スポンジチタンのみを用いる場合に比べて残存しているチタン原料内部にあるMgCl2(内部MgCl2)を低減させることができる。本発明でチタンインゴットの切削片とは、スポンジチタンを融解凝固させて得られるチタンインゴットを切削して得られるもののことである。また、チタンインゴットを鍛造、圧延等の加工を行って得られるインゴット加工品を切削または切断して得られる加工片も本発明のチタンインゴットの切削片に含まれる。
【0043】
なお、チタンインゴット自体をHDH法によるチタン粉製造のための原料とすることもできるが、コストが高いという欠点を有する。その点、チタンインゴットを加工する際に得られる切削片やインゴット加工品の切削片や切断片を原料とすることにより、切削片や切断片の有効利用によるコスト削減とチタン粉の高純度化を同時に実現することができる。
【0044】
[切削片の含有割合の説明]
本発明のチタン粉の製造方法では、チタンインゴットの切削片を原料として用いることを特徴とするものである。しかし、要求される塩素濃度低減に応じて、原料の全部がチタンインゴットの切削片である必要はなく、従来から使用されているスポンジチタンとチタンインゴットの切削片とを混合させたものを原料として用いる。
【0045】
スポンジチタンには塩素不純物が0.02%程度以上含まれており、HDH法による低塩素化処理後も70ppm程度残存する。このため、塩素濃度の限界値が50ppmの場合、チタンインゴットの切削片の原料割合は、全チタン原料の40質量%以上とすることが好ましい。その様なチタンインゴットの切削片の原料割合とすることで、塩素濃度の限界値が50ppmを満たすチタン粉を得ることができる。
【0046】
[切削片の厚みの説明]
本発明のチタン粉の製造方法で原料として用いるチタンインゴットの切削片の厚みは、10mm以下である必要がある。HDH法によるチタン粉製造工程においては、水素化の工程があり、その際に、チタンインゴットの切削片の厚みは、10mm超であると、HDH法の工程中に,チタンインゴットの切削片の内部が充分に水素化(つまり、水素脆化)されないことにより、HDH法の工程中に原料のチタンに亀裂が生じず、チタンの中に存在する塩素を蒸発によりチタンから取り除く効果が低くなるという問題が生じるためである。
【0047】
水素化チタンが充分に水素化されるためには、チタンインゴットの切削片の厚みの最大値は、7mm以下であることが更に好ましい。
【0048】
また、チタン原料またはチタン合金原料として、スポンジチタンを用いる場合は、その最大厚みが20mm以下、より好ましくは10mm以下であるとよい。スポンジチタンの最大厚みが20mm以下であることにより、水素化時に水素が充分に原料内部に行き渡り、チタンを脆化させ亀裂を速やかに生じさせるためである。
【0049】
[切削片の嵩密度の説明]
チタンインゴットの切削片の水素化工程において、チタンインゴットの切削片の嵩密度を0.2g/cm3以上4.0g/cm3以下とすることが好ましい。
【0050】
嵩密度が0.2未満であると、加熱時に十分な熱伝導が行われず未水素化という不都合が生じる。
【0051】
一方、嵩密度が4.0超であると、空隙が埋められ水素が到達できず未水素化や未解砕という不都合が生じる。
【0052】
より好ましくは0.5g/cm3以上2.3g/cm3以下であり、更に好ましくは0.7~2.1g/cm3である。
【0053】
[切削片の表面粗さの説明]
本発明のチタンインゴットの切削片は、その表面と裏面とでは表面粗さが異なる。チタン粉の製造方法で原料として用いるチタンインゴットの切削片の一方の表面の表面粗さ(Ra1)が他方の表面の表面粗さ(Ra2)よりも小さいことが好ましい。チタンインゴットの切削片のその表面と裏面とでは表面粗さが異なることで、HDH法の工程中に切削片の内部に存在するMgCl2(内部MgCl2)が膨張し、チタンに亀裂を生じさせやすくなるためである。つまり、表面粗さがより大きい面は表面粗さがより小さい面よりも水素化により水素脆化され、MgCl2(内部MgCl2)が膨張したときの圧力が表面粗さがより大きい面のほうに集中し、チタンに亀裂を生じやすくなるためである。
【0054】
チタンインゴット切削片の表面の表面粗さ(Ra2)は10μm以上1mm以下であることが好ましい。チタンインゴット切削片の表面の表面粗さ(Ra2)が10μm以上1mm以下の範囲であることで、水素化工程においてチタンインゴットの切削片の内部を効率よく水素化することができる。
【0055】
[チタン粉の大きさの説明]
水素化されたチタンを解砕し細かくすることで、残存している内部にあるMgCl2(内部MgCl2)を表面から外部に放出できる確率をさらに高めることができ、その確率は、水素化チタンの粒径を細かくすれば高くなるが、工業的にはコストおよび時間の制限があることから、300μm以下、好ましくは150μm以下であればよい。ここで、HDH法で製造され解砕された水素化チタン粉の粒径は分布を持っており、全水素化チタン粒径の95%以上が上記値以下であればよい。
【0056】
また、HDH法で製造され解砕されたチタン粉の全チタン粒径の95%以上が150μm以下であればよい。
【0057】
以上、HDH法において、上記したように温度、時間、水素吹込み量、材料形状、MgCl2持ち込み量(全体の量と封じ込められたMgCl2の量)を適切に制御することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0058】
純チタンだけでなく、チタン合金についても、同様にすれば実施可能である。
【0059】
[塩素濃度の分析方法の説明]
チタン粉中の塩素濃度は硝酸銀滴定法(JIS H 1615)という分析方法で分析する。
【実施例】
【0060】
[実施例1][基本条件]
スポンジチタンをVAR溶解して得られたチタンインゴットから切削した切削片を原料として用いた。チタンインゴットの切削片の最大厚みは8mm以下のものを使用した。
【0061】
原料300kgを5Pa以下に真空引きした後、ヒーターで加熱し雰囲気を650℃に30分間保持し、ヒーターを切って水素を供給し水素吸蔵発熱の反応を起こさせ水素化した。
【0062】
水素化時の嵩密度は0.73g/cm3であった。
【0063】
その後、アルゴンガスの不活性雰囲気のピンミルにて4800回転で粉砕した。
【0064】
その後、脱水素炉で真空引きしながら600℃、17時間の条件で脱水素を行った。
【0065】
得られたチタン粉の塩素濃度を硝酸銀滴定法で測定した結果、塩素濃度は0.001%未満(10ppm未満)であった。
【0066】
[実施例2][切削片混合割合の効果]
原料として実施例1で用いた切削片とスポンジチタンとを混合させた原料を用いた他は実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。スポンジチタンの最大厚みは1/2インチ以下のものを使用した。原料全体に対する切削粉の混合割合は80質量%とした。得られたチタン粉の塩素濃度を硝酸銀滴定法で測定した結果、塩素濃度は0.002%(20ppm)であった。
【0067】
[実施例3][切削片混合割合の効果]
原料として実施例1で用いた切削片とスポンジチタンとを混合させた原料を用いた他は実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。原料全体に対する切削粉の混合割合は40質量%とした。得られたチタン粉の塩素濃度を硝酸銀滴定法で測定した結果、塩素濃度は0.004%(40ppm)であった。
【0068】
[実施例4][切削片混合割合の効果]
原料として実施例1で用いた切削片とスポンジチタンとを混合させた原料を用いた他は実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。原料全体に対する切削粉の混合割合は20質量%とした。得られたチタン粉の塩素濃度を硝酸銀滴定法で測定した結果、塩素濃度は0.006%(60ppm)であった。
【0069】
[比較例1]
原料としてスポンジチタンを用いた以外は、実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。得られたチタン粉の塩素濃度を測定したところ、0.007%(70ppm)であった。チタン原料がスポンジチタンであり、塩素濃度が高かったことが原因と考えられる。
【0070】
[比較例2]
原料の切削片の厚みが11mmであること以外は、実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。粉砕ができなかった。切削片の厚みが厚すぎたためと考えられる。
【0071】
[比較例3]
水素化時の嵩密度をプレス機を用いる事で4.1g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様の条件でチタン粉を製造した。充分に水素化できず粉砕できなかった。嵩密度が高すぎるため充分に水素化ができたかったためと考えられる。