(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】プレストレスト・コンクリート桁およびプレストレス導入方法
(51)【国際特許分類】
E01D 1/00 20060101AFI20220218BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
E01D1/00 D
E01D21/00 B
(21)【出願番号】P 2018204301
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 良弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】幸田 英司
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-51219(JP,U)
【文献】特開昭52-70547(JP,A)
【文献】特開2005-76388(JP,A)
【文献】特開平9-144211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00
E01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シースが埋設された第1のコンクリート桁構造物,
上記第1のコンクリート桁構造物との間に隙間をあけて設けられ,シースが埋設された第2のコンクリート桁構造物,
両端部の少なくともいずれか一方に解撚定着具を備え,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシースと上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシースとに通され,一端部が第1のコンクリート桁構造物内に,他端部が第2のコンクリート桁構造物内にそれぞれ定着された,緊張状態の連続繊維補強撚り線,ならびに
上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間に設けられ,上記緊張状態の連続繊維補強撚り線によって生じる,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物とを互いに近づける向きの緊張力を支える支持反力体を備え,
緊張状態の連続繊維補強撚り線の緊張力が,プレストレスとして上記第1のコンクリート桁構造物,第2のコンクリート桁構造物および上記支持反力体に導入されている,
プレストレスト・コンクリート桁。
【請求項2】
上記連続繊維補強撚り線の両端部が,それぞれ,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシースの外,および上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシースの外に出ており,
シースの外に出ている両端部が,第1のコンクリート桁構造物を構成するコンクリートおよび第2のコンクリート桁構造物を構成するコンクリートにそれぞれ埋込まれている,
請求項1に記載のプレストレスト・コンクリート桁。
【請求項3】
上記連続繊維補強撚り線の両端部が,それぞれ,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシース内,および上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシース内に挿入されており,上記シース内に充填される経時硬化材によって上記シースに定着されている,
請求項1に記載のプレストレスト・コンクリート桁。
【請求項4】
上記連続繊維補強撚り線が複数本の連続繊維束を撚り合わせたものであり,
上記連続繊維補強撚り線の少なくとも一端部の上記解撚定着具が,所定長さにわたって上記連続繊維束の撚り合わせが解かれることで形成される空間に経時硬化材を充填し,かつ硬化させたものである,
請求項1から3のいずれか一項に記載のプレストレスト・コンクリート桁。
【請求項5】
上記支持反力体が,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間を埋める場所打ちコンクリートまたは無収縮セメントモルタルである,
請求項1から4のいずれか一項に記載のプレストレスト・コンクリート桁。
【請求項6】
両端部の少なくともいずれか一方に解撚定着具を備え,シースによって包囲された連続繊維補強撚り線の一端部が定着された第1のコンクリート桁構造物と,シースによって包囲された上記連続繊維補強撚り線の他端部が定着された第2のコンクリート桁構造物を,隙間をあけて設置し,
上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間にジャッキを設置し,
上記ジャッキによって上記隙間を押し広げることによって上記連続繊維補強撚り線を緊張し,
上記連続繊維補強撚り線の緊張を保った状態で,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物とを互いに近づける向きの緊張力を支える支持反力体によって,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間を埋める,
プレストレス導入方法。
【請求項7】
上記連続繊維補強撚り線が複数本の連続繊維束を撚り合わせたものであり,
上記連続繊維補強撚り線の少なくとも一端部の上記解撚定着具が,所定長さにわたって上記連続繊維束の撚り合わせが解かれることで形成される空間に経時硬化材を充填し,かつ硬化させたものである,
請求項6に記載のプレストレス導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はプレストレスト・コンクリート桁およびプレストレス導入方法に関するものである。プレストレスト・コンクリート桁は,橋梁,道路,路線(鉄道),その他の建築構造物を掛け渡す,または支持するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に発生するひび割れを抑制し,構造物の軽量化を図るために,コンクリート構造物に予め圧縮応力(プレストレス)を導入する,いわゆるプレストレス工法が知られていて,コンクリート橋梁等の建設に適用されている。プレストレスが導入されたコンクリート構造物は,プレストレスト・コンクリート構造物と呼ばれる。プレストレスト・コンクリート構造物に適用される緊張材は,従来,高強度の鋼材料が使用されていた。そして,その緊張工法やコンクリートへの定着工法が重要技術であると考えられている。
【0003】
従来のプレストレスト・コンクリート構造物では緊張材としてPC鋼ストランドやPC鋼棒などの,いわゆるPC鋼材が用いられている(特許文献1)。
【0004】
PC鋼材に錆が発生するのを防止するために,PC鋼材の表面にエポキシ樹脂皮膜処理などの防錆処理が行われる。しかしながら錆の発生を完全に防ぐのは難しく,また維持管理費用が想定以上に必要であることが,最近,知られるようになってきた。特にプレストレスト・コンクリート構造物が,凍結溶解材が大量に散布される橋梁や海岸沿いに建設される橋梁の場合,長期間にわたってPC鋼材を防錆するのは困難である。
【0005】
緊張させたPC鋼材をコンクリート構造物に定着するために,PC鋼材の端部には,金属製のアンカーヘッド,クサビ,定着板などの定着治具類が設置される。これらの定着冶具類に対して,オイルシールなどの防錆処理が必要となる。そのために,オイルシールの点検や,定期交換など長期間にわたる維持管理費用が発生する。
【0006】
近年,PC鋼材に代えて連続繊維補強撚り線がプレストレスト・コンクリート構造物の緊張材に用いられる傾向にある。連続繊維補強撚り線は,いかなる腐食環境下においても錆が発生せず,その引張強度はPC鋼材よりもはるかに高い。しかも連続繊維補強撚り線は軽量であるので,緊張作業時に重機を必要とせず,作業の効率化を図ることができる。また,プレストレスト・コンクリート構造物の自重低減にも寄与する。
【0007】
しかしながら,連続繊維補強撚り線は,周方向からの締付け荷重に対する強度がPC鋼材に比べて劣る。このため,PC鋼ストランドと同じようにくさびのテーパー効果を利用して連続繊維補強撚り線に直接に把持させてその端末部分に定着具を定着させようとすると,連続繊維補強撚り線の表面が損傷し,定着具を連続繊維補強撚り線の端末部に強固に定着することができない。
【0008】
特許文献2には,繊維強化プラスチック製ケーブル(FRPケーブル)の末端部分を挿入した円錐形状に形成された金属製のソケット内に荷重端側が熱硬化性樹脂のみで構成され自由単側が熱硬化性樹脂とフィラーとの混合物で構成されている,定着部構造が記載されている。この方法では,金属製くさびが直接にFRPケーブルの表面を直接把持しないので,FRPケーブルの表面に損傷が生じにくい。
【0009】
しかしながら,金属製のソケット内のエポキシ樹脂とFRPケーブル末端部の高い定着効率を達成するためには,ソケットの直径を大きくし,かつ長さを長くする必要がある。さらにソケットの剛性確保のために,ソケットの材料を金属製とする必要がある。さらに金属製ソケットの防錆を完全に達成するために,ソケットには特殊で高価なステンレス・スチールを使用する必要があり高価となる。大型の金属製ソケットは重量も重くなるので,ソケットを含む連続繊維補強撚り線を持ち上げようとする際に,ソケットに近い箇所の連続繊維補強撚り線が折れ曲げられてしまう可能性が高まる。連続繊維補強撚り線は,PC鋼ストランドに比較すると容易に折り曲げられる性質があり,折り曲げの曲率が小さい場合には,外側の撚り線に損傷を受ける可能性があり,その場合には,連続繊維補強撚り線が保有する保証破断荷重を低下するリスクが存在する。
【0010】
さらに,プレストレスト・コンクリート構造物内に埋設されたシースにFRPケーブルを挿入することによってプレストレスト・コンクリート構造物に複数のFRPケーブルを設ける場合に,大口径のソケットを通すために大きな直径のシースを使用しなければならない。そのために,設計で必要とされる総本数のFRPケーブルの配置が難しくなることや,プレストレスト・コンクリート構造物のプレストレス導入面積の断面欠損が生ずるなどの問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-30933号公報
【文献】特開平9-209501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は,金属製の部材を一切使用せずにコンクリート桁構造物にプレストレスを導入すること,それにより維持管理費用を必要としない高耐久なコンクリート桁構造物の構築を目的とする。
【0013】
この発明はまた,コンクリート桁構造物にプレストレスを導入するための緊張材を,コンクリート桁構造物の端部において緊張することなく,緊張できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明によるプレストレスト・コンクリート桁は,シースが埋設された第1のコンクリート桁構造物,上記第1のコンクリート桁構造物との間に隙間(間隔)をあけて設けられ,シースが埋設された第2のコンクリート桁構造物,両端部の少なくともいずれか一方に解撚定着具を備え,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシースと上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシースとに通され,一端部が第1のコンクリート桁構造物内に,他端部が第2のコンクリート桁構造物内にそれぞれ定着された緊張状態の連続繊維補強撚り線,ならびに上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間に設けられ,上記緊張状態の連続繊維補強撚り線によって生じる,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物とを互いに近づける向きの緊張力を支える支持反力体を備え,緊張状態の連続繊維補強撚り線の緊張力が,プレストレスとして,上記第1のコンクリート桁構造物,第2のコンクリート桁構造物および上記支持反力体に導入されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると,第1,第2のコンクリート桁構造物の内部に連続繊維補強撚り線が設けられている。連続繊維補強撚り線は,いかなる腐食環境下においても金属のように腐食することがないので,腐食によって第1,第2のコンクリート桁構造物の耐力強度が低下することがない。また,連続繊維補強撚り線は引張破断応力が高いので,PC鋼材ストランドや鉄筋によって補強されたコンクリート桁構造物にくらべて曲げ耐力も大幅に向上する。さらに連続繊維補強撚り線は軽量であるから現場における緊張作業のコストダウンを図れる。
【0016】
この発明のプレストレスト・コンクリート桁は,第1のコンクリート桁構造物と,第2のコンクリート桁構造物と,これらの間に設けられる支持反力体とを備える。緊張状態の連続繊維補強撚り線は第1のコンクリート桁構造物から第2のコンクリート桁構造物にかけて設けられ,その両端部分が第1のコンクリート桁構造物と第2のコンクリート桁構造物のそれぞれにおいてコンクリート躯体に定着しているので,上記第1のコンクリート桁構造物および第2のコンクリート桁構造物,ならびにこれらの間の支持反力体には,緊張力の反力としてのプレストレスが導入される。連続繊維補強撚り線は,両端部の少なくともいずれか一方に解撚定着具を備えるので,緊張させた連続繊維補強撚り線の緊張力を,第1のコンクリート桁構造物および第2のコンクリート桁構造物の両方の構造物に効率よく伝達することができる。解撚定着具は連続繊維補強撚り線の両端部に設けてもよい。また,解撚定着具を連続繊維補強撚り線の片端部のみに設けてもよい。その場合のもう一方に端部は,連続繊維補強撚り線の直径の50~60倍の直線長さを定着長とし,これを直線定着具と称する。その場合は,直線定着具の定着長は解撚定着具よりも長くなるが,その場合でも第1のコンクリート桁構造物および第2のコンクリート桁構造物の両方に緊張力を効率よく伝達することができる。直線定着具の場合,経済的に解撚定着具よりも安価であるが,直線定着長の部分のコンクリート桁構造物にはプレストレスを導入することはできないので,設計上の選択により解撚定着具を一端とするか,両端とするかを決めればよい。
【0017】
一実施態様では,上記連続繊維補強撚り線の両端部が,それぞれ,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシースの外,および上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシースの外に出ており,シースの外に出ている両端部が,第1のコンクリート桁構造物を構成するコンクリートおよび第2のコンクリート桁構造物を構成するコンクリートにそれぞれ埋込まれている。第1,第2のコンクリート桁構造物が現場打ち工法(現場において型枠を設置し,コンクリートを打設する方法)によってつくられる場合には,この構造を採用することができる。
【0018】
他の実施態様では,上記連続繊維補強撚り線の両端部が,それぞれ,上記第1のコンクリート桁構造物に埋設されたシース内,および上記第2のコンクリート桁構造物に埋設されたシース内に挿入されており,上記シース内に充填されるセメントグラウトなどの経時硬化材によって上記シースに定着されている。第1,第2のコンクリート桁構造物がプレキャスト部材である場合に,この構造が採用される。プレキャスト部材とは,型枠の設置,コンクリートの打設,養生,型枠の脱型などの一連の工程が,現場ではなくプレキャスト工場で行われて製造されるものをいう。
【0019】
好ましくは,上記連続繊維補強撚り線は複数本の連続繊維束を撚り合わせたものであり,上記連続繊維補強撚り線の少なくとも一端部の上記解撚定着具が,所定長さにわたって上記連続繊維束の撚り合わせが解かれることで形成される空間にセメントグラウトなどの経時硬化材を充填・養生・硬化したものである。
【0020】
複数本の連続繊維束の撚り合わせを解撚し(撚りを解き),そこにセメントグラウトなどの経時硬化材を充填することによって,両側から中央部にかけて徐々に太径とする中実の解撚定着具とすることができる。連続繊維補強撚り線に金属スリーブのような別部材を定着具として固定したものに比べて,高い定着剛性を発揮させることができる。また,定着構造をコンパクトでかつ経済的に製作することができる。撚り線を解撚して経時硬化材を充填した解撚定着具は,その表面に顕著な凹凸形状が形成されるので,コンクリートやグラウト材との間の付着性能が向上し,効果的な定着を期待することができる。定着性能の向上は,緊張させた連続繊維補強撚り線からの第1,第2のコンクリート桁構造物およびこれらの間の支持反力体への効率のよい緊張力の伝達に寄与する。
【0021】
好ましくは,上記支持反力体は,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間を埋める場所打ちコンクリートまたは無収縮セメントモルタルである。第1,第2のコンクリート桁構造物に沿う形状を持つ支持反力体を形成することができる。
【0022】
この発明は,プレストレス導入方法も提供する。この発明による方法は,両端部の少なくともいずれか一方に解撚定着具を備え,シースによって包囲された連続繊維補強撚り線の一端部が定着された第1のコンクリート桁構造物と,シースによって包囲された上記連続繊維補強撚り線の他端部が定着された第2のコンクリート桁構造物を,隙間をあけて設置し,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間にジャッキを設置し,上記ジャッキによって上記隙間を押し広げることによって上記連続繊維補強撚り線を緊張し,上記連続繊維補強撚り線の緊張を保った状態で,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物とを互いに近づける向きの力を支える支持反力体によって,上記第1のコンクリート桁構造物と上記第2のコンクリート桁構造物の間の隙間を埋めるものである。
【0023】
連続繊維補強撚り線の両端部を第1,第2のコンクリート桁構造物にそれぞれあらかじめ定着させておく。第1,第2のコンクリート桁構造物の間の隙間を押し広げることによって,連続繊維補強撚り線を緊張することができる。連続繊維補強撚り線を緊張するときに,PC鋼ストランドと同じようにくさびのテーパー効果を利用して連続繊維補強撚り線を定着しないので,連続繊維補強より線を周方向から締め付けることはない。したがって,連続繊維補強撚り線を損傷することがない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施例の場所打ちコンクリートによるプレストレスト・コンクリート桁の斜視図である。
【
図2】第2実施例のプレキャスト・コンクリートによるプレストレスト・コンクリート桁の斜視図である。
【
図3】第3実施例のプレキャスト・コンクリートによるプレストレスト・コンクリート桁の斜視図である。
【
図5】(A)~(E)は場所打ちコンクリート桁におけるプレストレス導入工程である。
【
図6】(A)~(E)プレキャスト・コンクリート桁におけるプレストレス導入工程である。
【
図7】プレストレスト・コンクリート桁の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は第1実施例のプレストレスト・コンクリート桁1を示すもので,場所打ちコンクリート桁におけるプレストレスト・コンクリート桁1に橋軸方向にプレストレスを導入するときの様子を示している。
【0026】
プレストレスト・コンクリート桁1は,隙間Gをあけて橋軸方向に並べられた,橋軸方向の長さが短いコンクリート桁10Aと,橋軸方向の長さが長いコンクリート桁10Bを含む。後述するように,プレストレスト・コンクリート桁1にプレストレスを導入するときに,コンクリート桁10Aとコンクリート桁10Bの間の隙間Gが押し広げられ,このとき,橋軸方向の長さが短いコンクリート桁10Aが,橋軸方向の長さが長いコンクリート桁10Bから離れる向きに移動する。橋軸方向の長さが長いコンクリート桁10Bは移動しない。プレストレスを導入するときに移動するコンクリート桁10Aを「可動桁10A」と呼び,移動しないコンクリート桁10Bを「固定桁10B」と呼ぶ。
【0027】
可動桁10Aおよび固定桁10Bは,例えば,いずれもπ型の断面を備えるもので,水平に設置される平板状の上フランジ(床版)11と,上フランジ11の底面の両側部から下方にのびる一対のウエブ12と,ウエブ12の下端に一体に形成される下フランジ13を備える。プレストレスト・コンクリート桁1(可動桁10Aおよび固定桁10B)はいわゆる場所打ちコンクリート桁であり,現場において組み立てられる型枠にコンクリートを打設することによって現場において建設される。すなわち,可動桁10Aおよび固定桁10Bのそれぞれの上フランジ11,ウエブ12および下フランジ13は,現場においてコンクリートを用いて一体成形される。
【0028】
可動桁10Aと固定桁10Bの間の隙間Gは,可動桁10Aおよび固定桁10Bを含むプレストレスト・コンクリート桁1にプレストレスを導入するために設けられており,後述するように,最終的にはコンクリートまたは無収縮モルタルによって埋められる。コンクリートまたは無収縮モルタルによって埋められる隙間Gを含めて,可動桁10Aおよび固定桁10Bの上フランジ11上にはアスファルト(図示略)が舗装されることもある。
【0029】
可動桁10Aおよび固定桁10Bの内部に,橋軸方向にのびる細長い例えばポリエチレン製の管状のシース45がそれぞれ埋設されている。可動桁10Aに埋設されたシース45と固定桁10Bに埋設されたシース45は隙間Gをあけて設計に必要とされる複数本が設置されており,これらのシース45内に,プレストレスを導入するための緊張材として用いられる連続繊維補強撚り線40が通されている。設計で必要とされる複数本の連続繊維補強撚り線40は,隙間Gをあけて設置された可動桁10Aおよび固定桁10Bの橋軸方向のほぼ全長にわたる長さを持ち,可動桁10Aと固定桁10Bの間の隙間Gにも連続して設置される。
【0030】
詳細は後述するが,連続繊維補強撚り線40の両端部には,シース45の外側に位置して解撚定着具43が形成されており,一端の解撚定着具43が,場所打ちコンクリートにより構築される可動桁10Aに,他端の解撚定着具43が同じく場所打ちコンクリートにより構築される固定桁10Bに,それぞれの桁(10A,10B)のコンクリート中に定着されている。
図1においては,分かりやすくするために,解撚定着具43が強調して(実際よりも大きく)図示されている。さらに,
図1においては,分かりやすくするために,可動桁10Aの一方の下フランジ13および固定桁10Bの一方の下フランジ13のそれぞれに,一つずつ埋設されたシース45と,これらのシース45に通された連続繊維補強撚り線40とが示されている。可動桁10Aおよび固定桁10Bには複数のシース45が埋設され,複数のシース45のそれぞれに,連続繊維補強撚り線40が通される。すなわち,一方の下フランジ13のみならず,他方の下フランジ13にも,一対のウエブ12にも,上フランジ11にも,橋軸方向にのびるシース45が互いに間隔をあけて埋設され,シース45内に連続繊維補強撚り線40がそれぞれ通される。一般には数十本の連続繊維補強撚り線40が,プレストレスト・コンクリート桁1に設けられる。
【0031】
詳細は後述するが,可動桁10Aと固定桁10Bの隙間Gに設置されるジャッキ50が用いられて可動桁10Aと固定桁10Bの間の隙間Gが押し広げられ,これによって連続繊維補強撚り線40に緊張力(引張力)が導入される。緊張力を保った状態で可動桁10Aと固定桁10Bの隙間Gにコンクリートまたは無収縮モルタルが打設・養生された後,圧縮強度が発現されるので,その後,ジャッキ50が取り外される。可動桁10Aと固定桁10Bの間の隙間Gが埋められ強度発現されることにより,緊張力の反力を受け持つ構造物が構築される,以下,これを支持反力体という。これにより,可動桁10A,固定桁10Bおよびこれらの間の支持反力体に,橋軸方向のプレストレスが導入される。
図1においては,分かりやすくするために1台のジャッキ50が示されているが,ジャッキ50についても,実際には複数のジャッキ50が設置される。
【0032】
図2は第2実施例のプレストレスト・コンクリート桁2を示すもので,プレキャスト・ブロック(セグメント)を適用したプレストレスト・コンクリート桁2に,橋軸直角方向にプレストレスを導入するときの様子を示している。
【0033】
プレストレスト・コンクリート桁2は,互いに隙間をあけて橋軸直角方向に並べられた,橋軸方向に長手方向を持つ1つのプレキャスト・ブロック(セグメント)20Aと5つのプレキャスト・ブロック(セグメント)20Bとを含む。プレキャスト・ブロック20Bの数は任意であり,求められる橋梁幅員に応じて増減される。
【0034】
プレキャスト・ブロック20A,20Bは,例えば,いずれもT型の断面を備えるもので,水平に設置される平板状の上フランジ21と,上フランジ21の底面のほぼ中央から下方にのびる平板状のウエブ22と,ウエブ22の下端に形成される,下フランジ23を備えている。なお,プレキャスト・ブロック20Aはジャッキ50を設置するための凹部(後述する)を備えており,この凹部を持たないプレキャスト・ブロック20Bと異なる。
【0035】
プレキャスト・ブロック20A,20Bは,あらかじめプレキャスト工場において製作されて現場に運搬され,接合される,いわゆるプレキャスト部材である。プレキャスト・ブロック20A,20Bは,あらかじめ橋軸方向にプレストレスを導入されていることが望ましく,連続繊維補強撚り線40を使用したプレテンション方式の緊張工法により製作されるのが経済的である。
【0036】
プレキャスト・ブロック20A,20Bの製作にあたっては,あらかじめ,それぞれの上フランジ21に,橋軸直角方向に複数のシース45を埋設して製作する。プレキャスト・ブロック20A,20Bが建設現場に運搬されたら,これらを接合部に適切な間隔をおいて橋軸直角方向に設置する。
【0037】
詳細は後述するが,5つのプレキャスト・ブロック20B同士の間の隙間には,現場において無収縮モルタルを打設,養生する。これによって5つのプレキャスト・ブロック20Bの上フランジ21のコンクリートは連続する。プレキャスト・ブロック20Aが可動桁となり,コンクリートで連続化された5つのプレキャスト・ブロック20Bが固定桁となる。
【0038】
プレキャスト・ブロック20A,20Bのそれぞれに橋軸直角方向に埋め込まれたシース45内に,解撚定着具43を両端部に有する連続繊維補強撚り線40が挿入され,プレキャスト・ブロック20Aに埋め込まれたシース45内と解撚定着具43との空隙部と,プレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレキャスト・ブロック20Bに埋め込まれたシース45内と解撚定着具43との空隙部のそれぞれに,セメントグラウトが充填される。橋軸直角方向にのびる連続繊維補強撚り線40は,セメントグラウトの強度発現により,両端部の解撚定着具43が,シース45内においてその一方がプレキャスト・ブロック20Aに,他方がプレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレキャスト・ブロック20Bに,それぞれ定着される。プレキャスト・ブロック20Aとプレキャスト・ブロック20Aに最も近いプレキャスト・ブロック20Bの間の隙間Gが,ジャッキ50を用いて押し広げられ,これによって橋軸直角方向にのびる連続繊維補強撚り線40に緊張力が導入される。緊張力を保った状態でプレキャスト・ブロック20Aとプレキャスト・ブロック20Bの隙間Gがコンクリートまたは無収縮モルタルによって現場打設・養生・強度発現されるので,その後にジャッキ50が取り外される。一連の作業により橋軸直角方向の全長にわたりプレストレスが導入される。
【0039】
図3は第3実施例のプレキャスト・コンクリートによるプレストレスト・コンクリート桁3を示すもので,プレストレスト・コンクリート桁3の橋軸方向にプレストレスを導入するときの様子を示している。
【0040】
プレストレスト・コンクリート桁3は,互いに隙間をあけて橋軸方向に設置された,1つのプレキャスト・ブロック30Aと,8つのプレキャスト・ブロック30Bを含む。プレキャスト・ブロック30Bの数は任意であり,求められる橋長さに応じて増減される。
【0041】
例えば,プレキャスト・ブロック30A,30Bの断面形状は,いわゆる箱型のもので,水平平板状の上フランジ31と,上フランジ31の底面の両側部から下方にのびる一対の平板状のウエブ32と,平板状のウエブ32との下端同士を結び,上フランジ31と平行に設けられる平板状の下フランジ33を備える。プレキャスト・ブロック30A,30Bもコンクリート製であり,あらかじめプレキャスト工場において製作されて現場に運搬される,あるいは,建設現場で構築される,いわゆるプレキャスト部材である。詳細な図示は省略するが,プレキャスト・ブロック30A,30Bの上フランジ31,ウエブ32,下フランジ33には,それぞれ,橋軸方向にのびる複数のシース45があらかじめ埋設される。
【0042】
第2実施例と同様に,8つのプレキャスト・ブロック30B同士の間の隙間には,現場において無収縮モルタルが打設され,これによって8つのプレキャスト・ブロック30Bのコンクリートは連続化される。プレキャスト・ブロック30Aが可動桁となり,連続化された8つのプレキャスト・ブロック30Bが固定桁となる。
【0043】
一列に並ぶシース45内に,両端部に解撚定着具43が形成された連続繊維補強撚り線40が挿入される。連続繊維補強撚り線40の両端部においてシース45内と解撚定着具43との空隙部にセメントグラウトが充填される。連続繊維補強撚り線40の両端部は,充填されたセメントグラウトの強度発現により,シース45内において,その一方がプレキャスト・ブロック30Aに,他方がプレキャスト・ブロック30Aから最も離れたプレキャスト・ブロック30Bに,それぞれ定着される。プレキャスト・ブロック30Aと,プレキャスト・ブロック30Aに最も近いプレキャスト・ブロック30Bの間の隙間Gがジャッキ50を用いて押し広げられ,これによって橋軸方向に挿入配置された連続繊維補強撚り線40に緊張力が導入される。緊張力を保った状態でプレキャスト・ブロック30Aとプレキャスト・ブロック30Bの間の隙間Gにはコンクリートまたは無収縮モルタルが現場打設・養生・強度発現されるので,その後にジャッキ50を撤去することが可能となる。その結果,橋軸方向の全長にわたってプレストレスが導入される。
【0044】
解撚定着具43は好ましくは連続繊維補強撚り線の両端部に形成されるが,定着長さ(コンクリートによって覆われる連続繊維補強撚り線の長さ,またはシース45内に充填されるセメントグラウトによって連続繊維補強撚り線が覆われる長さ)が設計的に長くてもよい場合,たとえば,連続繊維補強撚り線の直径の50~60倍程度の定着長さを確保することができる場合に,一方の解撚定着具43を直線定着具に変更することができる。つまり,第3実施例において,両端部に解撚定着具43が形成された連続繊維補強撚り線40に代えて,一端部のみに解撚定着具43が形成された連続繊維補強撚り線40を用いることができる(
図3には,プレキャスト・ブロック30Aに位置する一端部のみに解撚定着具43が形成され,他端部には直線定着具が形成された連続繊維補強撚り線40が示されている。)。このことは,第1実施例,第2実施例においても同様である。
【0045】
図4は連続繊維補強撚り線40の一端部を拡大して示している。
【0046】
連続繊維補強撚り線40は,1本の心線41と,その周囲に撚り合わされた複数本の側線42とから構成されている。断面で見ると(図示略),連続繊維補強撚り線40,心線41および側線42はいずれもほぼ円形の形状を持つ。また,断面で見て,連続繊維補強撚り線40はその中心に心線41が配置され,心線41を取り囲むように複数本の側線42が位置する。連続繊維補強撚り線40はたとえば5mm~30mm程度の直径を持つ。
【0047】
心線41および側線42は,いずれも熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含侵させた多数本たとえば数万本の長尺の連続する炭素繊維を断面円形に束ねた樹脂含有繊維束であり,連続繊維補強撚り線40の全体には数十万本の炭素繊維が含まれる。炭素繊維のそれぞれは非常に細く,たとえば5μm~7μmの直径を持つ。連続繊維補強撚り線40は炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製のものと言うこともできる。炭素繊維に代えてアラミド繊維またはガラス繊維を用いてもよい。熱硬化性樹脂には,たとえばエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂にはたとえばポリカーボネートやポリ塩化ビニルが用いられる。
【0048】
解撚定着具43は,連続繊維補強撚り線40を構成する側線42を所定長さ(解撚区間L)にわたって解撚し(側線42の撚り合わせを解く),解撚によって形成される隙間(空間)に樹脂モルタルまたはセメントモルタル7を充填したものである。解撚に先立ち,解撚区間Lの両端部が結束バンド6を用いて縛られる。結束バンド6によって挟まれた解撚区間Lにおける連続繊維補強撚り線40を構成する複数本の側線42が解撚され,解撚された複数本の側線42が外向きに引っ張られ,これによって解撚区間Lには,心線41と側線42の間,および側線42同士の間に,隙間が形成される。形成される隙間に注入器具を用いて樹脂モルタルまたはセメントモルタル7が注入される。樹脂モルタルまたはセメントモルタル7は所定時間を経ることで硬化する。樹脂モルタルまたはセメントモルタル7の圧縮強度は30~60N/mm2程度であり,連続繊維補強撚り線40を強く緊張しても,解撚定着具43は減径することはない。
【0049】
解撚区間Lの長さは連続繊維補強撚り線40の直径D1の5倍以上,たとえば5~20倍程度,望ましくは7~20倍程度が望ましい。また,解撚定着具43の直径(解撚定着具43の最も太い箇所の横断面の直径)D2は,連続繊維補強撚り線40の直径D1の1.2倍から2.6倍程度が望ましい。このような大径の寸法を有する解撚定着具43を端部に備える連続繊維補強撚り線40を用いることで,連続繊維補強撚り線40の両端部を,短い定着長さのもと,コンクリート桁1~3に強固に定着させることができる。
【0050】
図5(A)~(E)は,場所打ちコンクリート桁に連続繊維補強撚り線40を定着し,これを用いて可動桁10Aおよび固定桁10B(
図1参照)にプレストレスを導入する工程を示している。
【0051】
図5(A)を参照して,可動桁10A用の型枠61と,固定桁10B用の型枠62が,後述するジャッキ50の寸法に応じた隙間Gをあけて現場に構築される。型枠61,62のそれぞれにシース45が設置され,シース45内に連続繊維補強撚り線40が挿入される。連続繊維補強撚り線40の両端部の解撚定着具43はシース45の外側に位置する。
【0052】
図5(B)を参照して,シース45の端部をシール47によって閉じた後,型枠61,62内にコンクリートを打設し,養生する。シース45の端部はシール47によってシールされているので,シース45内にコンクリートが流れ込むことはなく,空洞のままであり,シース45内に挿入されている連続繊維補強撚り線40は打設されたコンクリートとは分離された状態にある。コンクリートが所定の強度発現した後,型枠61,62を脱型する。連続繊維補強撚り線40の両端部の解撚定着具43が,それぞれコンクリート中に定着された可動桁10Aおよび固定桁10Bが完成する。
【0053】
可動桁10Aの固定桁10Bに対向する面に凹部51が形成される(型枠61が可動桁10Aに凹部51を形成する形状を持つ)。
図5(C)を参照して,この凹部51にジャッキ50を設置する。ジャッキアップすることによって,可動桁10Aが固定桁10Bから離れる方向に移動する。可動桁10Aと固定桁10Bとの間の隙間Gの幅がW1からW2(W2>W1)に押し広げられる。可動桁10Aと固定桁10Bのそれぞれに解撚定着具43が定着されている連続繊維補強撚り線40に緊張力が導入される。適正な緊張力を連続繊維補強撚り線40に付与するために,ジャッキ50の油圧が管理され,かつ連続繊維補強撚り線40の伸び量が管理される。
【0054】
図5(D)を参照して,隙間Gに面するシース45の端部をシール47によってシールした後に,ジャッキ50によって連続繊維補強撚り線40の緊張力を保ったまま,ジャッキ50が設置されている範囲を除いて,可動桁10Aと固定桁10Bとの間の隙間Gにコンクリートまたは無収縮モルタル71を打設し,養生する。
【0055】
図5(E)を参照して,コンクリートまたは無収縮モルタル71が所定の強度発現後にジャッキ50を撤去し,ジャッキ50が設置されていた範囲にもコンクリートまたは無収縮モルタル72を打設し,養生する。コンクリートまたは無収縮モルタル72が所定の強度発現することで,プレストレスト・コンクリート桁1の施工が完了する。可動桁10Aと固定桁10Bとの間の隙間Gを埋めるコンクリートまたは無収縮モルタル71,72は,可動桁10Aと固定桁10Bとに導入された緊張力の反力を受け持つ支持反力体となる。
【0056】
可動桁10Aおよび固定桁10Bのそれぞれに定着された連続繊維補強撚り線40には緊張力が導入されているので,可動桁10Aおよび固定桁10B,ならびに支持反力体71,72にプレストレスが導入される。
【0057】
図6(A)~(E)は,プレキャスト・ブロック20Aと複数のプレキャスト・ブロック20B(
図2参照)に連続繊維補強撚り線40を定着し,これを用いてプレキャスト・ブロック20A,20Bにプレストレスを導入する工程を示している。プレキャスト・ブロック30Aと複数のプレキャスト・ブロック30Bを含む第3実施例のプレストレスト・コンクリート桁3(
図3参照)についても同様の工程となる。
【0058】
図6(A)を参照して,シース45があらかじめ埋設されたプレキャスト・ブロック20Aと,シース45があらかじめ埋設された複数のプレキャスト・ブロック20B(ここでは4つのプレキャスト・ブロック20Bを示す)とが,建設現場において隙間をあけて設置される。プレキャスト・ブロック20B同士の間には,シース45の外径に沿う内径を有するウレタンゴム製またはゴム製のリング・シール48が配置され,リング・シール48によって隣り合うプレキャスト・ブロック20B内のシース45同士がシール接続される。プレキャスト・ブロック20B同士の隙間はたとえば2~5cmとされ,リング・シール48をわずかに押しつぶす程度の間隔とするのがよい。プレキャスト・ブロック20Aとこれに最も近いプレキャスト・ブロック20Bとの間には,ジャッキ50の寸法に応じた隙間Gが確保される。
【0059】
図6(B)を参照して,リング・シール48が設置されたプレキャスト・ブロック20B同士の間の隙間に無収縮モルタル5を充填・養生し,これによって複数のプレキャスト・ブロック20Bのコンクリートが連続化される(複数のプレキャスト・ブロック20Bが固定桁となる)。また,プレキャスト・ブロック20Aから連続化された複数のプレキャスト・ブロック20Bまでの全体にかけて,シース45内に連続繊維補強撚り線40を挿入する。連続繊維補強撚り線40の両端部の解撚定着具43もシース45内に入れられる。一端の解撚定着具43はプレキャスト・ブロック20A内に埋設されたシース45内に位置する。他端の解撚定着具43はプレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレキャスト・ブロック20B内に埋設されたシース45内に位置する。
【0060】
プレキャスト・ブロック20Aに埋設されたシース45と解撚定着具43との隙間,およびプレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレキャスト・ブロック20B内に埋設されたシース45と解撚定着具43との隙間とに,セメントグラウト8を充填し,養生する。なお,セメントグラウト8が解撚定着具43の周囲のみに充填されるように,あらかじめ,セメントグラウト8が充填されるシース45の両端部をシール47によってシールしておく。セメントグラウト8の強度発現により,プレキャスト・ブロック20Aと,プレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレキャスト・ブロック20Bとに,連続繊維補強撚り線40の両端部の解撚定着具43がそれぞれ定着される。
【0061】
図6(C)を参照して,プレキャスト・ブロック20Aにあらかじめ形成されている凹部51にジャッキ50を設置し,ジャッキアップすることでプレキャスト・ブロック20Aがプレキャスト・ブロック20Bから離れる方向に移動する。隙間Gの幅がW1からW2に押し広げられ,連続繊維補強撚り線40に緊張力が導入される。
【0062】
図6(D)を参照して,隙間Gに面するシース45の端部をシール47によってシールした後に,ジャッキ50によって連続繊維補強撚り線40の緊張力を保ったまま,ジャッキ50が設置されている範囲を除いて,プレキャスト・ブロック20Aとプレストレス・ブロック20Bとの間の隙間Gにコンクリートまたは無収縮モルタル71を打設し,養生する。
図6(E)を参照して,コンクリートまたは無収縮モルタル71が所定の強度発現後,ジャッキ50を撤去し,ジャッキ50が設置されていた範囲にもコンクリートまたは無収縮モルタル72を打設し,養生する。コンクリートまたは無収縮モルタル72(支持反力体71,72)が所定の強度発現することで,プレストレスト・コンクリート桁2の施工が完了する。
【0063】
プレキャスト・ブロック20Aと,プレキャスト・ブロック20Aから最も離れたプレストレス・ブロック20Bとにそれぞれに定着された連続繊維補強撚り線40は緊張力が導入されているので,プレキャスト・ブロック20Aおよび一体化された複数のプレキャスト・ブロック20Bならびにこれらの間の支持反力体71,72にプレストレスが導入される。
【0064】
プレストレスを導入するための2つのコンクリート桁の間の隙間Gの幅は,上述したように,設置されるジャッキ50の寸法に依存して決められる。2つのコンクリート橋桁の間の隙間Gの幅を狭くするには,フラットジャッキを用いればよい。
図7は2つのコンクリート桁1A,1Bの間の隙間Gにフラットジャッキ55を設置している様子を示している。
【符号の説明】
【0065】
1,2,3 プレストレスト・コンクリート桁
5 無収縮モルタル
7 樹脂モルタルまたはセメントモルタル
8 セメントグラウト
10A 可動桁
10B 固定桁
11,21,31 上フランジ
12,22,32 ウエブ
13,23,33 下フランジ
20A,20B,30A,30B プレキャスト・ブロック
40 連続繊維補強撚り線
41 心線
42 側線
43 解撚定着具
45 シース
50 ジャッキ
55 フラットジャッキ
71,72 支持反力体