(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】微細粒子含有組成物およびその製法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/499 20060101AFI20220218BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220218BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220218BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220218BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
A61K31/499
A61K9/10
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/44
A61P3/06
(21)【出願番号】P 2018504576
(86)(22)【出願日】2017-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2017009428
(87)【国際公開番号】W WO2017155020
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2016047607
(32)【優先日】2016-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】大日本住友製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊介
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298347(JP,A)
【文献】European Journal of Pharmaceutical Sciences,2010, Vol.40, No.4,pp.325-334
【文献】Chemical Engineering Journal,2012, Vol.181-182,pp.1-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/499
A61K 9/10
A61K 47/10
A61K 47/14
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/32
A61K 47/34
A61K 47/44
A61P 3/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)活性成分としての(R)-(-)-2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-1,2,3,4-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-4-スピロ-3’-ピロリジン-1,2’,3,5’-テトラオン又はその製薬学的に許容される塩、(B)けん化率が55~99%のポリビニルアルコール、および(C)非イオン界面活性剤を含有する組成物であって、(A)の活性成分の平均粒子径が10~300nmである組成物。
【請求項2】
(A)の活性成分の粒子径のD90値が300nm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)の活性成分の平均粒子径が10~200nmである、請求項1または2の組成物。
【請求項4】
(B)におけるポリビニルアルコールの分子量が150000以下である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(B)におけるポリビニルアルコールの含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(C)における非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、およびけん化率が55%未満のポリビニルアルコールからなる群から選択される一種以上である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
(C)における非イオン界面活性剤が、1又は複数種類の、ポリオキシエチレンユニットが40重量%以上含まれるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
(C)におけるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールから選択される一種以上である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
(C)における非イオン界面活性剤の含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.8質量部以下である、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
更に、ポリ2-メタクリロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートを含有する、請求項項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
ポリ2-メタクリロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートの含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.05質量部以上0.6質量部以下である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
更に、製薬学的に許容される賦形剤を含有する、請求項1~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
賦形剤がマンニトール、トレハロース及び乳糖から選択される1又は複数の賦形剤である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
水系の分散媒中に分散されたときに、(A)の活性成分が懸濁状態で保持され得ることを特徴とする、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
更に、水系の分散媒を含有する、請求項1~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
更に、(D)水の含有量が50vol%以上の炭素数1~4の低級アルコールと水を含む混合溶液を含有し、(A)の活性成分が(D)混合溶液に懸濁状態で保持されている製造中間体である、請求項1~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
(D)において、水の含有量が65vol%以上である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
(D)における低級アルコールが、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,2,3-プロパントリオールからなる群から選択される一種以上である、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
(D)における低級アルコールが、エタノール又は1,1-ジメチルエタノールである請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
(A)の活性成分の含有量が1.5~20mg/mLである、請求項16~19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
請求項16~20のいずれかに記載の組成物を乾燥して得られる固体組成物である、請求項1~15のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~21のいずれかの組成物の製造方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする製造方法:
活性成分(A)を含む、30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒(液1)と、けん化率が55~99%のポリビニルアルコール(B)を含む水(液2)を混合する工程;
ただし、前記工程において、前記液1または液2の少なくとも一方に非イオン界面活性剤(C)が含まれる。
【請求項23】
液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれる、
請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
混合時の液1及び液2の容積比率、液1:液2が、0.5:9.5~4:6である、請求項22または23に記載の製造方法。
【請求項25】
混合時の液1及び液2の容積比率、液1:液2が、0.5:9.5~3.5:6.5である、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
液1及び液2の総量に対する活性成分(A)の含有量が、1.5~20mg/mLである、請求項22~25のいずれかに記載の製造方法。
【請求項27】
水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒が、炭素数1~4の低級アルコールおよびアセトンからなる群から選択される一種以上である、請求項22~26のいずれかに記載の製造方法。
【請求項28】
水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒が、炭素数1~4の低級アルコールである、請求項22~27のいずれかに記載の製造方法。
【請求項29】
炭素数1~4の低級アルコールが、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,2,3-プロパントリオールからなる群から選択される一種以上である、請求項27または28に記載の製造方法。
【請求項30】
低級アルコールが、エタノール又は1,1-ジメチルエタノールである、請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれ、液2に更にポリ2-メタクリロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートが含まれる、請求項22~30のいずれかに記載の製造方法。
【請求項32】
液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれ、液2に更に製薬学的に許容される賦形剤が含まれる、請求項22~31のいずれかに記載の製造方法。
【請求項33】
更に、液1及び液2の混合物をろ過滅菌する工程を含む、請求項22~32のいずれかに記載の製造方法。
【請求項34】
請求項22~33のいずれかに記載の製造方法で得られる懸濁組成物を、真空乾燥して固体組成物を得る工程を含む、製造方法。
【請求項35】
請求項34に記載の製造方法で得られる固体組成物を水系の分散媒に懸濁する工程を含む、製造方法。
【請求項36】
水系の分散媒が水である、請求項35に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分の微細粒子を含有する懸濁組成物または固体組成物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な固体活性成分を製造する方法としては、ブレイクダウン法、すなわち一定の粒子径をもつ固体活性成分を粉砕等の物理的作用によって微細化する方法が主流である。しかしながら、微細化には高いエネルギーを要することから、ブレイクダウン法によって達成できる粒子サイズは、平均粒子径で200~300nm程度が限界であることが一般に知られている。さらに、活性成分の物性によっては、微細化を達成するために非常に長時間の処理を要することや、粉砕時に発生する熱を完全に制御しがたいことなどから、産業的な観点においてもブレイクダウン法を適用し、ナノスケールの微細粒子を製造することは容易ではない。
【0003】
一方、ナノサイズの微細粒子を製造する別の方法としてビルドアップ法、すなわち溶解状態から分子同士を集合または成長させて微細粒子を得る方法が知られている。ビルドアップ法により調製されるナノ粒子としては、リポソーム等の分子集合体や高分子をマトリックスとして析出させたポリマー微細粒子等が研究されている(特許文献1)。しかしながら、これらのマトリックス型微細粒子は、低分子活性成分を添加成分の微細粒子中に担持させたものであり、低分子活性成分自体をナノサイズの微細粒子として製造する方法ではない。
【0004】
ビルドアップ法により低分子の活性成分の微細粒子を製造する方法としては、活性成分の溶解液(良溶媒)と活性成分の溶解度が低い溶媒(貧溶媒)を混合する晶析を利用した方法が知られている(特許文献2および特許文献3)。しかしながら、これらの方法は、特有の添加剤や特殊な製造装置を必要とするものであり、一般的に適用することが難しかった。また、晶析法を用いて、より微小なナノ粒子を製造するためには、晶析時に貧溶媒の混合比率をより大きくする必要があり、その結果、最終的に得られる懸濁液中の活性成分の濃度(単位体積あたりの粒子の生成量)が小さくなってしまうといった問題点があった。
さらに、ナノ粒子化した活性成分を含有する懸濁液を、凍結乾燥等で一旦固体状態にして保持し、使用時に懸濁液とすれば、その汎用性は向上し、様々な用途で利用可能となることが期待されるが、再懸濁後に活性成分の平均粒子径が300nm以下のナノ粒子を安定に保持可能な固体組成物を得る方法については、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-213170号公報
【文献】国際公開第2013/161778号パンフレット
【文献】特表2013-528642号公報
【文献】国際公開第1999/20276号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、平均粒子径がナノオーダー(例えば、10~300nm)である活性成分の微細粒子を高濃度で製造するための、新たなビルドアップ法、及び様々な用途で利用可能な、平均粒子径がナノオーダーである活性成分のナノ粒子を安定に保持した固体組成物、及びその製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水に難溶である活性成分を、30vol%以下の水を含んでいてもよい炭素数1~4の有機溶媒に溶解させ、ポリビニルアルコールを含む水と、界面活性剤の存在下で混合することにより、活性成分の微細粒子を安定かつ高濃度に含有する懸濁組成物が得られることを見出した。さらに、得られた懸濁組成物を乾燥後、分散媒へ再分散させた懸濁組成物においても、活性成分の結晶成長が抑制され、微細粒子の状態を維持可能であることを見出した。すなわち、本発明により、活性成分の微細粒子を高濃度に含有する懸濁組成物ならびに固体組成物を安定に製造することが可能になり、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[項1](A)水に難溶であり、かつ30vol%以下の水を含んでいてもよい炭素数1~4の低級アルコールに溶解する活性成分、(B)けん化率が55~99%のポリビニルアルコール、および(C)非イオン界面活性剤を含有する組成物であって、(A)の活性成分の平均粒子径が10~300nmである組成物。
【0009】
[項2](A)の活性成分の粒子径のD90値が300nm以下である、項1に記載の組成物。
[項3](A)の活性成分の平均粒子径が10~200nmである、項1または2の組成物。
[項4](A)の活性成分が、(R)-(-)-2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-1,2,3,4-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-4-スピロ-3’-ピロリジン-1,2’,3,5’-テトラオン、2-(4-エチル-1-ピペラジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジンもしくはインドメタシン、又はそれらの製薬学的に許容される塩である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
【0010】
[項5](B)におけるポリビニルアルコールの分子量が150000以下である、項1~4のいずれかに記載の組成物。
[項6](B)におけるポリビニルアルコールの含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下である、項1~5のいずれかに記載の組成物。
【0011】
[項7](C)における非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、およびけん化率が55%未満のポリビニルアルコールからなる群から選択される一種以上である、項1~6のいずれかに記載の組成物。
[項8](C)における非イオン界面活性剤が、1又は複数種類の、ポリオキシエチレンユニットが40重量%以上含まれるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである、項7に記載の組成物。
[項9](C)におけるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールから選択される一種以上である、項8に記載の組成物。
[項10](C)における非イオン界面活性剤の含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.8質量部以下である、項1~9のいずれかに記載の組成物。
[項11](C)における非イオン界面活性剤の含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.45質量部以下である、項10に記載の組成物。
[項12](C)における非イオン界面活性剤の含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.2質量部以下である、項11に記載の組成物。
【0012】
[項13]更に、ポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートを含有する、項1~12のいずれかに記載の組成物。
[項14]ポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートの含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して0.05質量部以上0.6質量部以下である、項13に記載の組成物。
[項15]更に、製薬学的に許容される賦形剤を含有する、項1~14のいずれかに記載の組成物。
[項16]賦形剤がマンニトール、トレハロース及び乳糖から選択される1又は複数の賦形剤である、項15に記載の組成物。
【0013】
[項17]水系の分散媒中に分散されたときに、(A)の活性成分が懸濁状態で保持され得ることを特徴とする、項1~16のいずれかに記載の組成物。
[項18]分散媒が水である、請求項17に記載の組成物。
[項19]組成物が固体組成物である、項1~18のいずれかに記載の組成物。
【0014】
[項20]更に、水系の分散媒を含有する、項1~19のいずれかに記載の組成物。
[項21]水系の分散媒が、水である、項20に記載の組成物。
【0015】
[項22]更に、(D)水の含有量が50vol%以上の炭素数1~4の低級アルコールと水を含む混合溶液を含有し、(A)の活性成分が混合溶液に懸濁状態で保持されている製造中間体である、項1~18のいずれかに記載の組成物。
[項23]組成物が懸濁組成物である、項22に記載の組成物。
[項24](D)において、水の含有量が65vol%以上である、項22または23に記載の組成物。
[項25](D)における低級アルコールが、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,2,3-プロパントリオールからなる群から選択される一種以上である、項22~24のいずれかに記載の組成物。
[項26](D)における低級アルコールが、エタノール又は1,1-ジメチルエタノールである項25に記載の組成物。
[項27](D)における低級アルコールが、1,1-ジメチルエタノールである項26に記載の組成物。
[項28](A)の活性成分の含有量が1.5~20mg/mLである項22~27のいずれかに記載の組成物。
【0016】
[項29]ろ過滅菌が可能である、項22~28のいずれかに記載の組成物。
【0017】
[項30]項22~29のいずれかに記載の組成物を乾燥して得られる固体組成物である、項1~19のいずれかに記載の組成物。
【0018】
[項31]項1~30のいずれかの組成物の製造方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする製造方法:
活性成分(A)を含む、30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒(液1)と、けん化率が55~99%のポリビニルアルコール(B)を含む水(液2)を混合する工程;
ただし、前記工程において、前記液1または液2の少なくとも一方に非イオン界面活性剤(C)が含まれる。
[項32]液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれる、項31に記載の製造方法。
【0019】
[項33]混合時の液1及び液2の容積比率、液1:液2が、0.5:9.5~4:6である、項31または32に記載の製造方法。
[項34]混合時の液1及び液2の容積比率、液1:液2が、0.5:9.5~3.5:6.5である、項33に記載の製造方法。
[項35]液1及び液2の総量に対する活性成分(A)の含有量が、1.5~20mg/mLである、項31~34のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
[項36]水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒が、炭素数1~4の低級アルコールおよびアセトンからなる群から選択される一種以上である、項31~35のいずれかに記載の製造方法。
[項37]水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒が、炭素数1~4の低級アルコールである、項31~36のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
[項38]炭素数1~4の低級アルコールが、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,2,3-プロパントリオールからなる群から選択される一種以上である、項36または37に記載の製造方法。
[項39]低級アルコールが、エタノール又は1,1-ジメチルエタノールである、項38に記載の製造方法。
[項40]低級アルコールが、1,1-ジメチルエタノールである、項39に記載の製造方法。
【0022】
[項41](B)のポリビニルアルコールの分子量が150000以下である、項31~40のいずれかに記載の製造方法。
[項42](B)のポリビニルアルコールの含有量が、活性成分1質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下である、項31~41のいずれかに記載の製造方法。
[項43](C)の非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、およびけん化率が55%未満のポリビニルアルコールからなる群から選択される一種以上である、項31~42のいずれかに記載の製造方法。
[項44](C)の非イオン界面活性剤が、1又は複数種類の、ポリオキシエチレンユニットが40重量%以上含まれるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである、項43のいずれかに記載の製造方法。
[項45]ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール及びポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールから選択される一種以上である、項44に記載の製造方法。
[項46](C)の非イオン界面活性剤の含有量が、(A)の活性成分1質量部に対して、0.02質量部以上0.8質量部以下である、項31~45のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
[項47]液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれ、液2に更にポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートが含まれる、項31~46のいずれかに記載の製造方法。
[項48](A)の活性成分1質量部に対して、ポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートの添加量が、0.05質量部以上0.6質量部以下である、項47に記載の製造方法。
[項49]液1に非イオン界面活性剤(C)が含まれ、液2に更に製薬学的に許容される賦形剤が含まれる、項31~48のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
[項50]更に、液1及び液2の混合物をろ過滅菌する工程を含む、項31~49のいずれかに記載の製造方法。
[項51]活性成分(A)が、(R)-(-)-2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-1,2,3,4-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-4-スピロ-3’-ピロリジン-1,2’,3,5’-テトラオン、2-(4-エチル-1-ピペラジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジンもしくはインドメタシン、またはその製薬学的に許容される塩である、項31~50のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
[項52]項31~51のいずれかに記載の製造方法で得られる懸濁組成物を、真空乾燥して固体組成物を得る工程を含む、製造方法。
[項53]項52に記載の製造方法で得られる固体組成物を水系の分散媒に懸濁する工程を含む、製造方法。
[項54]水系の分散媒が水である、項53に記載の製造方法。
【0026】
[項55]項52の方法で得られる、項1~19のいずれかに記載の組成物。
【0027】
[項56]項55で得られた組成物および水系の分散媒を含む組成物。
【0028】
[項57]下記の工程を含む、水に難溶であり、かつ30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒に溶解する活性成分(A)の平均粒子径が10~1000nmである、前記活性成分(A)を含む懸濁組成物の製造方法:
活性成分(A)を含む、30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒(液1)と、けん化率が55~99%のポリビニルアルコール(B)を含む水(液2)を混合する工程;
ただし、前記工程において、前記液1または液2の少なくとも一方に非イオン界面活性剤(C)が含まれる。
[項58]組成物中の活性成分(A)の平均粒子径が、10~600nmである、項57に記載の製造方法。
[項59]組成物中の活性成分(A)の平均粒子径が、10~400nmである、項57に記載の製造方法。
[項60]組成物中の活性成分(A)の平均粒子径が、10~200nmである、項57に記載した製造方法。
なお、項57~60においては、項31~項54の製造方法における限定を加えた態様を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、水に難溶である活性成分を、平均粒子径が例えば10~300nm(好ましくは10~200nm)の微細粒子として含有する懸濁組成物または固体組成物を得ることができる。水に難溶である活性成分は、一般に体内への吸収性が低いが、平均粒子径を10~300nmとすることにより、体内への吸収性が高い製剤を提供することができる。また、平均粒子径を10~300nmとすることによりろ過滅菌が可能となり、注射剤や点眼剤等の無菌製剤として提供することができる。さらには、活性成分を平均粒子径が10~300nmの微細粒子とすることで、徐放化や疾患部位へのターゲティング等の機能を付加した製剤の提供も可能となる。すなわち、本発明により、水に難溶な活性成分を種々の投与経路に適用することができ、高い機能を付加した製剤を提供することが可能となる。
さらに、平均粒子径が10~300nmの活性成分の微細粒子を保持することが可能な固体組成物は、微細粒子を含有する液剤の用時調製用固形製剤や経口固形製剤として有用であり、様々な活性成分に適用可能である。
また、本発明の製造中間体である懸濁組成物は、懸濁液中の活性成分の濃度が高いため、その製造中間体の調製に続く凍結乾燥などによる固体組成物の調製において、容積効率が高い操作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施例1の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図2】実施例2の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図3】実施例3の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図4】比較例1の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図5】実施例4の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図6】実施例5の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図7】実施例6の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図8】比較例2の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図9】比較例3の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図10】比較例3の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図11】比較例4の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図12】比較例4の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図13】実施例7の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図14】実施例7の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図15】実施例8の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図16】実施例8の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図17】実施例9の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図18】実施例9の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図19】比較例5の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図20】比較例5の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図21】比較例6の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図22】比較例6の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図23】比較例7の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図24】比較例7の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図25】比較例8の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図26】比較例8の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図27】比較例9の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図28】比較例9の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図29】比較例10の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図30】比較例10の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図31】比較例11の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図32】比較例11の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図33】比較例12の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図34】比較例12の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図35】比較例13の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図36】比較例13の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図37】比較例14の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)を示す。
【
図38】比較例14の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図39】比較例15の凍結乾燥前の懸濁液の光学顕微鏡像(倍率400倍)、
【
図40】比較例15の凍結乾燥後に水に再懸濁した懸濁液の光学顕微鏡像(倍率200倍)を示す。
【
図41】比較例28の懸濁液中の微細粒子の走査型電子顕微鏡像を示す。
【
図42】実施例89の懸濁液中の微細粒子の透過型電子顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.本発明の組成物
本発明の組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分、すなわち、(A)水に難溶であり、かつ30vol%以下の水を含んでいてもよい炭素数1~4の低級アルコールに溶解する活性成分、(B)けん化率が55~99%のポリビニルアルコール、および(C)非イオン界面活性剤を含有する組成物であって、(A)の活性成分の平均粒子径が10~300nmである組成物である。
【0032】
本明細書において、「溶解する」とは、溶媒に含まれる活性成分及びその他添加剤等の物質が澄明な状態で存在することを意味し、「完全溶解する」とは、溶媒に含まれる全ての物質が溶解している状態を意味する。
また、「水に難溶である」とは、活性成分の水への溶解度が25℃において0.1mg/mL以下であることを意味する。ここで水とは、緩衝化剤やpH調整剤が溶解した水も含み、具体的には、当該活性成分が液剤として人に投与される場合に適切なpHの水における溶解度が0.1mg/mL以下であることを含む。
【0033】
本明細書において、「活性成分」とは、生理活性を有する有機化合物もしくはその製薬学的に許容される塩を表す。また、前記有機化合物又はその製薬学的に許容される塩は、水和物および溶媒和物の形で存在することもあるので、それらの化合物も活性成分に含まれる。
【0034】
本発明の組成物に含まれる「活性成分」は、水に難溶であり、かつ30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒、具体的には30vol%以下の水を含んでいてもよい炭素数1~4の低級アルコールに1.5mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、さらに好ましくは10mg/mLの濃度で完全溶解できる溶解特性を有する活性成分である。
【0035】
本発明の活性成分は、水に難溶であり、かつ30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒、具体的には30vol%以下の水を含んでいてもよい炭素数1~4の低級アルコールに完全溶解する活性成分である限り、特に限定されるものではなく、例えば、抗精神剤、鎮痛剤、癌治療剤、抗炎症剤、高血圧剤、循環器剤、抗真菌剤、酵素阻害剤、抗不安鎮静剤、加齢性黄斑変性等の後眼部疾患治療剤またはドライアイ等の前眼部疾患治療剤等が挙げられる。活性成分に含まれる生理活性を有する有機化合物として、具体的には、(R)-(-)-2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-1,2,3,4-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-4-スピロ-3’-ピロリジン-1,2’,3,5’-テトラオン(ラニレスタット、以下「化合物A」という。))、2-(4-エチル-1-ピペラジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジン(ブロナンセリン)またはインドメタシン等が挙げられ、好ましくは、化合物Aが挙げられる。
【0036】
活性成分として本発明の組成物に含有される化合物Aは、フリー体であっても、その製薬学的に許容される無機もしくは有機塩基との塩であってもよく、又は、それらの水和物もしくは溶媒和物であってもよい。前記無機塩基との塩の具体例としては、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩等が挙げられる。前記有機塩基との塩の具体的としては、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ピペリジン、リジン等との塩が挙げられる。それらの詳細については、特許文献4に記載される。化合物Aまたはその製薬学的に許容される塩は、例えば、特許文献4に記載の製造方法に従って製造することができる。
【0037】
本明細書において、「炭素数1~4の低級アルコール」とは、直鎖もしくは分枝の、1価もしくは多価、好ましくは1価もしくは2価の低級アルコールであってもよく、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、又は1,2,3-プロパントリオールが挙げられる。好ましくはエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、又は1,1-ジメチルエタノールが挙げられる。
【0038】
本発明の組成物中に含まれる活性成分の平均粒子径は、10nm~300nmであり、好ましくは10nm~200nmであり、より好ましくは10nm~150nm以下であり、更に好ましくは10nm~100nm以下であり、特に好ましくは10nm~50nm以下である。
本発明の組成物中に含まれる活性成分の粒度分布において、好ましくは粒子径のD90値が300nm以下であり、より好ましくは粒子径のD90値が250nm以下であり、更に好ましくは粒子径のD90値が220nm以下であり、特に好ましくはD90値が200nm以下である。
【0039】
本発明において「懸濁組成物」とは、活性成分の微細粒子が液体中に懸濁している状態を意味するが、微細粒子が懸濁しているため見掛け上、溶液状態となっているものも包含する。
なお、本発明の組成物が懸濁組成物の場合は、液体中に懸濁している活性成分の微細粒子の平均粒子径ならびに粒度分布は光散乱法を用いて測定することができる。すなわち、本明細書における平均粒子径とは、光散乱法により測定される散乱光の強度を基準としたメディアン径(50%径またはD50値とも呼ばれる)を表し、懸濁組成物中に懸濁している固体の活性成分、あるいは固体組成物中に保持されている活性成分のメディアン径の値を意味し、懸濁組成物中の平均粒子径とは、懸濁組成物中に固体の状態で存在する活性成分の平均粒子径を意味する。
【0040】
また、粒度分布を示すD90値とは光散乱法における微細粒子の粒度分布を表す指標値であり、粒子径の小さい微細粒子から存在比率を0からカウントした時に90%に位置する微細粒子の粒子径を表す。本明細書におけるD90値とは散乱光の強度を基準として算出された粒子径を表し、懸濁液中に懸濁している固体の活性成分、あるいは乾燥固体中に保持されている活性成分のD90値を意味し、懸濁液中のD90値とは、懸濁液中に固体の状態で存在する活性成分のD90値を意味する。
平均粒子径およびD90値は、測定器;Malvern Instruments Ltd.社のZetasizer Nano Sまたはそれと同等の機器を用いて測定することができ、測定可能な程度の濃度の懸濁液に希釈して測定することができる。
詳しくは、懸濁組成物中に分散している固体の活性成分の粒子径は、1nm~5μm、好ましくは10nm~5μmの粒子径のものについては、懸濁組成物の量に対して適切量、例えば100倍量の希釈媒を加えて希釈したサンプルを測定器;Zetasizer Nano S(Malvern Instruments Ltd.社製)を用いて、MaterialRIを1.5、Dispersant RIを1.33、Sample Visconsityを0.9として測定することができる。ここで、同一サンプルを複数回、例えば3回繰り返し測定し、その平均値を算出することもできる。
【0041】
なお、本発明の組成物が固体組成物の場合は、下記に示す水系の分散媒に懸濁させた上で、上記の懸濁組成物の場合と同様に平均粒子径や粒度分布を測定してもよい。
【0042】
本明細書における「ポリビニルアルコール」は、ポリ酢酸ビニル中の一部または全てのユニットがけん化され水酸基となった高分子である。
本明細書における「けん化率」とは、ポリビニルアルコール分子中の水酸基を有するユニット数と酢酸基を有するユニット数の合計数に対する水酸基を有するユニット数の割合を表す。
【0043】
本発明の組成物に使用できるけん化率が55~99%のポリビニルアルコールとして、好ましくは、けん化率が60%~95%、より好ましくは70%~95%以下、より好ましくは80%~95%、さらに好ましくは80%~90%のポリビニルアルコールが挙げられる。また、けん化率が55~99%のポリビニルアルコールの分子量に特に限定はないが、好ましくは150000以下、より好ましくは100000以下、さらに好ましくは50000以下である。なお、本明細書におけるポリビニルアルコールの分子量は、平均分子量を意味し、ポリビニルアルコールの分子量が150000以下とは、用いるポリビニルアルコールの平均分子量が150000以下であることを意味する。
【0044】
本発明の組成物におけるけん化率が55~99%のポリビニルアルコールの含有量は、活性成分1質量部に対して0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.8質量部以上5質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上3質量部以下である。
【0045】
ポリビニルアルコールは、市販品を使用することができ、具体的には、ゴーセノール(登録商標)EG-05、ゴーセノールEG-40(日本合成化学株式会社)、J-ポバール(登録商標)JP-05、J-ポバールJP-18(日本酢ビ・ポバール株式会社)、PVA5-88EMPROVE PhEur,USP,JPE、PVA18-88EMPROVE PhEur,USP,JPE(メルク株式会社)などの商品名で商業的に入手可能である。
【0046】
本発明の組成物に使用できる界面活性剤としては、分子内に親水基および疎水基(親油基)を持つ物質で、一定濃度以上でミセルやベシクル、ラメラ構造を形成し、表面張力を弱める作用を持ち、活性成分の微細粒子の結晶成長および凝集を抑制する作用を有する界面活性剤であれば特に限定はない。具体的にはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート80、ポリソルベート65、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリソルベート20等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100等)、ポリオキシエチレンヒマシ油(CO-3、CO-10等)、塩化ベンザルコニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、デオキシコール酸ナトリウム、オクチルフェノールエトキシレート、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリオキシル55、ステアリン酸ポリオキシル45、ステアリン酸ポリオキシル40等)、グリセリン、プロピレングリコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、アルキルアリルポリエーテルアルコール、コレステロール、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタンセスキオレイン酸エステル、ステアリン酸、オレイン酸、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、セタノール、セトマクロゴール1000、セバシン酸ジエチル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、トリオレイン酸ソルビタン、ノニルフェノキシポリオキシエチレンエタン硫酸エステルアンモニウム、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビットミツロウ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール、ポリオキシエチレン(30)ポリオキシプロピレン(35)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(240)ポリオキシプロピレン(60)グリコール等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(ポリオキシエチレン(1)ポリオキシプロピレン(1)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ポリオキシプロピレン(4)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(17)ポリオキシプロピレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(4)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル等)、水素添加大豆ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアリルホスファチジルコリン、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトポリマー(BASFジャパン株式会社からSoluplusの商品名で販売)、ポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレート(日油株式会社からPUREBRIGHT MB-37-50TまたはPUREBRIGHT MB-37-100Tの商品名で販売)、ラウロマクロゴール、マクロゴール400、マクロゴール4000、マクロゴール6000、ラウリルジメチルアミンオキシド液、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウロイルサルコシンナトリウム、リン酸ナトリウムポリオキシエチレンラウリルエーテル、リン酸ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどが挙げられる。
【0047】
好ましくは、水中でイオン性を示さない非イオン界面活性剤が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、オクチルフェノールエトキシレート、ソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルなどが挙げられる。
より好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、およびけん化率が55%未満のポリビニルアルコール(部分けん化物)が挙げられる。
更に好ましくは、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60およびポリオキシエチレンユニットが40~80重量%であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、具体的には、ポリオキシエチレン(240)ポリオキシプロピレン(60)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールおよびポリオキシエチレン(30)ポリオキシプロピレン(35)グリコールが挙げられる。
また、1種類のみならず、2種以上、好ましくは2~3種類の界面活性剤を添加してもよい。
【0048】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとしては、例えば市販品を使用することができ、ユニルーブ(登録商標)70DP-950B、ユニルーブ75DE-2620R、プロノン#188P(日油株式会社)、コリフォールP188、コリフォールP407(BASFジャパン株式会社)、Pluronic(登録商標) F-68(シグマ アルドリッチ ジャパン)などの商品名で商業的に入手可能である。
【0049】
本発明の組成物における界面活性剤の含量は、活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.8質量部以下、好ましくは、0.02質量部以上0.7質量部以下、好ましくは、0.02質量部以上0.6質量部以下、0.02質量部以上0.45質量部以下、更に好ましくは0.02質量部以上0.35質量部以下、より好ましくは0.025質量部以上0.3質量部以下、より好ましくは0.03質量部以上0.2質量部以下、さらに好ましくは0.03質量部以上0.1質量部以下である。
【0050】
本発明の懸濁組成物は、さらにポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレート(以下、MPCポリマーという。)を含有してもよい。本製剤に使用できるMPCポリマーに特に限定は無いが、好ましくは分子量30000以上のMPCポリマーである。
【0051】
MPCポリマーの含量は、活性成分1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下、好ましくは0.05質量部以上0.6質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上0.4質量部以下である。
【0052】
ポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレートとしては、例えば市販品を使用することができ、PUREBRIGHT MB-37-50T、PUREBRIGHT MB-37-100T(日油株式会社)などの商品名で商業的に入手可能である。
【0053】
2.製造中間体である懸濁組成物
本発明の組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分以外に、(D)成分、すなわち、水の含有量が50vol%以上、好ましくは65vol%以上の、水に混和可能な炭素数1~4の有機溶媒と水を含む混合溶液、具体的には炭素数1~4の低級アルコールと水を含む混合溶液を含んでもよく、ここで(A)の活性成分は(D)の混合溶液に懸濁状態で保持されている製造中間体である懸濁組成物となる。
【0054】
本明細書における「懸濁状態」とは、活性成分が液体中に固体の状態で存在して分散された状態をいい、固体の状態とは結晶、非晶質または結晶/非晶質の混合物を意味する。また、活性成分が液体中に一部溶解している状態も含む。保存により、活性成分が沈降や凝集した場合に、使用前に振とうすることにより元の懸濁状態に戻るものも含む。リポソーム等の分子集合体や高分子をマトリックスとして含む状態は、本明細書における懸濁状態に含まれない。
また、本明細書における「保持されている」とは、活性成分が微細粒子の形状や粒子径が維持されている状態を意味し、液体中に含まれる活性成分の場合、当該液体中で活性成分の微細粒子の形状や粒子径が短時間に凝集することなく懸濁状態を保たれている状態が挙げられる。固体中に含まれる活性成分の場合、当該固体中で活性成分の微細粒子の形状や粒子径が短時間に凝集することなく懸濁状態を保たれている状態が挙げられる。水などの分散媒に再懸濁させた時に微細粒子の活性成分の粒子径が、当該固体を得る前の懸濁状態と比較して、保持されている事を表す。
【0055】
(D)成分を含む本発明の懸濁組成物において、(A)の活性成分の含有量は、1.5~100mg/mL、好ましくは1.5~50mg/mL、より好ましくは1.5~40mg/mL、より好ましくは1.5~20mg/mL、更に好ましくは1.5~20mg/mL、特に好ましくは1.5~10mg/mLであるが、必ずしもこの量の範囲に限定されるものではない。
上記懸濁組成物において、溶解している活性成分の割合は、懸濁組成物中に含まれる全ての活性成分の、通常0.001%~10%であり、化学的安定性、粒子径等の物理的安定性の観点から好ましくは0.001%~5%であり、より好ましくは0.001%~2%であり、より好ましくは0.001%~1%であり、更に好ましくは0.001%~0.5%であり、特に好ましくは0.001%~0.1%である。
【0056】
(D)成分を含む本発明の懸濁組成物において、ポリビニルアルコールの含有量は、1mg/mL以上、好ましくは2mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは7.5mg/mL以上、更に好ましくは7.5mg/mL以上20mg/mL以下である。
【0057】
(D)成分を含む本発明の懸濁組成物において、界面活性剤の含有量は、0.2mg/mL以上、好ましくは0.3mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mL以上7mg/mL以下、より好ましくは0.3mg/mL以上5mg/mL以下、より好ましくは0.3mg/mL以上3mg/mL以下、より好ましくは0.4mg/mL以上3mg/mL以下、さらに好ましくは0.4mg/mL以上2mg/mL以下である。
【0058】
(D)成分を含む本発明の懸濁組成物において、MPCポリマーの含量は、0.3mg/mL以上10mg/mL以下、好ましくは0.5mg/mL以上5mg/mL以下、より好ましくは1mg/mL以上3mg/mL以下、さらに好ましくは1.5mg/mL以上3mg/mL以下である。
【0059】
3.本発明の懸濁組成物の製造方法
本発明は、水に難溶でありかつ30vol%以下の水を含んでいてもよい水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒に完全溶解する活性成分(A)の微細粒子、具体的には平均粒子径が10~1000nm(好ましくは10~300nm、より好ましくは10~200nm)の粒子が懸濁状態で保持されている懸濁組成物の製造方法を包含する。すなわち、前記製造方法は、活性成分(A)を含む水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒と、けん化率が55~99%のポリビニルアルコール(B)を含む水を混合する工程を含む。
【0060】
良溶媒である水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒と貧溶媒である水を混合する方法としては、マグネチックスターラー、パドルミキサー等のバッチ式の混合装置、またはスタティックミキサー、マイクロミキサー、強制薄膜型ミキサー等の連続式の混合装置を用いることができる。混合条件は特に限定されないが、例えば、マグネチックスターラーを用いる場合は100~2000rpmの撹拌速度で、強制薄膜型ミキサーを用いる場合は3~500mL/minの送液速度で製造することができる。
【0061】
前記、水と混和可能な炭素数1~4の有機溶媒としては、水と混和可能な有機溶媒または該有機溶媒と水の混液で、活性成分が完全溶解可能な炭素数1~4の有機溶媒であれば特に限定はないが、具体的にはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール又は1,2,3-プロパントリオール等の炭素数1~4の低級アルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランおよび、30vol%以下の水を含む前述の有機溶媒などが挙げられる。好ましくは、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,1-ジメチルエタノール又はアセトン、及び、30vol%以下の水を含む前述の有機溶媒と水の混液が挙げられる。また、2種以上の有機溶媒を添加してもよい。
【0062】
本発明の懸濁組成物は、活性成分を含む良溶媒と、ポリビニルアルコールを含む貧溶媒を混合することにより製造する事ができる。ただし、良溶媒または貧溶媒の少なくとも一方に界面活性剤、好ましくは非イオン界面活性剤が含まれる。
好ましくは、活性成分および界面活性剤を含む炭素数1~4の低級アルコールと、けん化率が55~99%のポリビニルアルコールを含む水を混合することにより製造する事ができる。ここで用いられる界面活性剤は上述のとおりである。
本発明の製造方法において、更にMPCポリマーを添加することができ、MPCポリマーが溶解する限り、良溶媒及び貧溶媒のいずれに添加してもよいが、好ましくは貧溶媒(水)に添加される。
好ましくは、活性成分及び界面活性剤を含む炭素数1~4の低級アルコールと、けん化率が55~99%のポリビニルアルコールおよびMPCポリマーを含む水を混合することにより製造する事ができる。ここで用いられるMPCポリマーは前述のとおりである。
【0063】
更に、本発明の製造方法において、良溶媒および/または貧溶媒は、適宜活性成分の粒子径に影響を与えない程度の量の賦形剤を含んでいてもよい。
また、限外ろ過膜や遠心分離装置等を用いて、活性成分の微細粒子が懸濁する溶媒を他の溶媒に置換することも可能である。
【0064】
混合時の液温は、結晶成長が認められない範囲で特に限定されないが、好ましくは1~30℃、より好ましくは1~25℃、さらに好ましくは1~20℃、特に好ましくは1~10℃である。
【0065】
混合時間は、結晶成長が認められない範囲で特に限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、特に好ましくは20分以上撹拌する。
【0066】
4.本発明の固体組成物の製造方法
上記粒子径を満たす活性成分の微細粒子を保持した固体組成物は、上記製造方法で得られる懸濁組成物、例えば(D)成分を含む懸濁組成物を乾燥することで製造することができる。乾燥方法は、上記溶媒が除去できる範囲で特に限定されないが、好ましくは真空乾燥が挙げられ、更に好ましくは凍結乾燥が選択される。凍結乾燥の条件は共溶媒が昇華できる範囲で特に限定されないが、例えば、凍結乾燥機を用いる場合、-40℃~-80℃の範囲で上記懸濁組成物を凍結させ、約-20℃で約10パスカルの圧力下で水や1,1-ジメチルエタノールを昇華でき、更に、約30℃で約1パスカルの圧力下で固体に付着する水や1,1-ジメチルエタノールを揮発させることで、活性成分の微細粒子を保持した固体組成物を製造することが可能である。
【0067】
5.医薬組成物
上述の本発明の固体組成物、および当該固体組成物を水系の分散媒に懸濁させた懸濁組成物は、医薬品(医薬組成物)として有用である。本発明の組成物は懸濁組成物として投与される態様が挙げられ、固体医薬組成物の場合は、水系の分散媒に懸濁させて投与液として、懸濁医薬組成物を調製することができる。本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されず、当業者に周知の投与経路に適用することができる。具体的には、懸濁医薬組成物として、注射投与、点眼投与、点鼻投与、経皮投与又は経肺投与等、懸濁状態の液体組成物で投与することができる。
【0068】
また、本発明の医薬組成物は、活性成分と水系の分散媒を個々に提供し、使用時に活性成分またはその生理的に許容される塩を分散媒に懸濁させる用時調製型の形態(すなわち、キット)も含み、例えば、(1)活性成分の微細粒子を含む固体医薬組成物、および(2)分散媒を含むキットも又、本発明の態様である。また、懸濁組成物と分散媒を製造し、必要に応じて希釈して投与可能な本発明の製剤を提供することもできる。本発明の製剤には、1回や1週間等の単位で使い切る製剤や、用時調製後の使用期間が1週間や1か月等に限られている製剤も含む。
一方、本発明の固体医薬組成物を固体状態で投与する場合、上述の方法で製造した活性成分の微細粒子を保持した固体医薬組成物をそのまま投与することもできるが、乾式造粒、流動層造粒または打錠等の製剤加工を加え、錠剤や散剤等の剤形で製剤を提供し投与することも可能である。当該固体医薬組成物の投与経路に特に限定はないが、経口投与等が可能である。
【0069】
本明細書における「水系の分散媒」とは、生体で使用でき、活性成分またはその生理的に許容される塩を液中に懸濁させることができる水系の分散媒であり、その組成は一成分でも複数成分の混合物でもよく、具体的には水であり、また水の他に、ヒマシ油、大豆油、流動パラフィンのような油等の溶媒が含まれていてもよい。ここで水系の分散媒とは、分散媒として用いられる溶媒の総量のうち90重量%以上が水であるものをいい、好ましくは分散媒の総量のうち95重量%以上が水であり、更に好ましくは総量のうち99重量%以上が水である水系の溶媒である。分散媒として用いられる溶媒は、特に好ましくは水である。また、分散媒は、活性成分の安定性及び粒子径に影響を与えない程度の量の、当業者に周知の分散剤、界面活性剤、賦形剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、湿潤剤、またはpH調整剤等の添加剤を含んでもよい。また、分散媒は、活性成分の安定性及び粒子径に影響を与えない程度の量の油や、エタノール等の有機溶媒を含んでいてもよい。分散媒を添加した後の懸濁医薬組成物は、油脂系の液滴に活性成分を分散、乳化あるいは封入させた状態であっても良く、エマルションとすることもできる。
また、水系の分散媒のpHは、活性成分の安定性及び粒子径に影響を与えない限り特に限定されないが、通常3~9であり、好ましくは4~8、さらに好ましくは5~8、特に好ましくは5~7.4である。分散媒のpHは、下記のpH調整剤により調整することができる。
【0070】
本発明の医薬組成物は、滅菌して提供してもよく、本発明の懸濁組成物をろ過滅菌または放射線滅菌または高圧蒸気滅菌することができる。例えば、本発明の固体組成物を上記分散媒に分散させた懸濁組成物や、上記本発明の製造方法で調製される製造中間体の懸濁組成物を滅菌することができる。あるいは、本発明の懸濁組成物の凍結乾燥品である固体組成物を放射線滅菌することもできる。また、活性成分を含む固体組成物及び、分散媒を、それぞれ別々に滅菌してもよい。また、本発明の製剤の全製造工程または一部製造工程を無菌環境下で製造することもできる。
【0071】
本発明の液剤としての医薬組成物は、本発明の固体組成物を予めまたは使用前に分散媒に懸濁することにより得ることができ、当該懸濁製剤は、適宜賦形剤等の添加剤を含有してもよい。ここで当該添加剤は、固体組成物の製造中間体である、乾燥前の懸濁組成物に予め添加されていてもよいし、前記分散媒に添加されていてもよい。本発明の懸濁製剤に使用できる賦形剤としては、特に限定はないが、製薬学的に許容される賦形剤、具体的にはD-マンニトール、乳糖、トレハロース、ソルビトール、スクロース、ブドウ糖、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、γシクロデキストリン、HP-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンなどが挙げられる。また、2種以上、好ましくは2~3種類の賦形剤を添加してもよい。好ましい例として、D-マンニトール、乳糖又はトレハロースを挙げることができる。
賦形剤の含量は、特に限定はないが、活性成分1質量部に対して0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。または、(D)成分を含む本発明の懸濁組成物においては、1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上であり、分散媒中において1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上である。
【0072】
本発明の医薬組成物は、粘度増大などの目的で、分散剤を含有してもよい。具体的にはカルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム(カルメロースナトリウム)、チロキサポール、ガディガム、アラビアゴム、アラビアゴム末、カラヤガム、キサンタンガム、アミノアルキルメタクリレートポリマーRS、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルスターチナトリウム、カンテン末、ジオクチルソジウムスルホサクシネート、デキストリンなどが挙げられる。また、2種以上の分散剤を添加してもよい。
分散剤の含量は、特に限定はないが、(D)成分を含む本発明の懸濁組成物においては、0.5mg/mL以上50mg/mL以下、好ましくは1mg/mL以上50mg/mL以下、更に好ましくは5mg/mL以上50mg/mL以下であり、分散媒中においては1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上である。
【0073】
本発明の医薬組成物は、1種類以上の等張化剤、緩衝化剤、防腐剤、湿潤剤またはpH調製剤を含有してもよい。
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、ブドウ糖、ショ糖、D-マンニトール、エタノール、オレイン酸、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、コリンリン酸塩などが挙げられる。好ましくはD-マンニトールまたは塩化ナトリウムが挙げられる。
緩衝化剤としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トロメタモールなどが挙げられる。好ましくは、リン酸水素二ナトリウム及びクエン酸が挙げられる。
防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムなどの第4級アンモニウム塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸およびその塩、グルコン酸クロルヘキシジン液などが挙げられる。
湿潤剤としてはエタノール、オレイン酸、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、コリンリン酸塩などが挙げられる。
pH調整剤としては、塩酸、クエン酸、氷酢酸、リン酸、ホウ酸、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物などが挙げられる。
【0074】
本発明の懸濁医薬組成物は、通常、分散媒1mLに対して活性成分を1~200mg、好ましくは5~150mg、さらに好ましくは10~100mg、特に好ましくは10~50mg含有するように、活性成分を加えて調製されるが、必ずしもこの量の範囲に限定されるものではない。
【0075】
本発明の懸濁製剤の懸濁液のpHは、通常3~9であり、好ましくは3~8、さらに好ましくは3~7.4である。懸濁液のpHは、上記のpH調整剤により調整することができる。酸性の活性成分の懸濁製剤については、懸濁液のpHを低くすることで、活性成分の懸濁粒子の溶解度を低下させ、懸濁状態の活性成分を高濃度で得ることができる。また、塩基性の活性成分の懸濁製剤については、懸濁液のpHを高くすることで、活性成分の懸濁粒子の溶解度を低下させ、懸濁状態の活性成分を高濃度で得ることができる。
【0076】
本発明の医薬組成物が、賦形剤、分散剤、界面活性剤、賦形剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、湿潤剤、またはpH調整剤等の添加剤を含んでいる場合、製造段階で調製される懸濁組成物に予め添加してもよいし、調製された固体組成物もしくは当該固体組成物に添加される分散媒に添加してもよい。
【0077】
本発明の懸濁医薬組成物の懸濁液の浸透圧は、通常20~1000mOsmであり、好ましくは100~700mOsmであり、より好ましくは180~500mOsmであり、特に好ましくは200~360mOsmである。懸濁液の浸透圧は、上記の等張化剤により調整することができる。
【0078】
上記懸濁医薬組成物の浸透圧は、懸濁医薬組成物を遠心分離等して回収した上澄み液を測定することで得ることができ、例えば、アークレイ株式会社製の浸透圧測定装置「オズモスタットOM-6040」を用いて測定することができる。
【0079】
本発明の製剤は、二種類以上の活性成分を含有することができる。
【0080】
本発明において、活性成分が化合物Aまたはその生理的に許容される塩の場合、アルドースリダクターゼ阻害作用、抗VEGF作用を有することから、種々の眼疾患に対して治療効果を有することが期待される。具体的には、化合物Aまたはその製薬学的に許容される塩を含む本発明の医薬組成物は、特に加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管、ブドウ膜炎、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、角膜炎、結膜炎、血管新生緑内障、ドライアイ、白内障などの疾患の治療もしくは予防薬として有用である。
【0081】
化合物Aまたはその製薬学上許容される塩を含む点眼用懸濁製剤の用法・用量は、薬効、投与経路、症状、年齢、体重などによって適宜定められる。例えば、1~500mg/mLの化合物Aまたはその生理的に許容される塩を含む懸濁製剤を1回量1~2滴、1日1~6回程度、各眼ごとに点眼することが好ましい。通常、一滴あたりの点眼量は20~80μL、好ましくは30~50μLである。また、本発明の製剤の投与期間は、症状の程度等により異なるが、例えば、1週間以上、好ましくは約1~4週間、より好ましくは約4週間以上である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例、比較例、試験例等により説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0083】
本発明における平均粒子径およびD90値の測定は、粒子の状態、粒子径の大きさ、活性成分の溶解度等を考慮し、以下の方法で行った。
懸濁液中に分散している固体の活性成分の粒子径は、1nm~5μm、好ましくは10nm~5μmの粒子径のものについては、懸濁液の量に対して50倍量または100倍量の0.01mmol/L塩酸または0.01mmol/L水酸化ナトリウム溶液を加えて希釈したサンプルを測定器;Zetasizer Nano S(Malvern Instruments Ltd.社製)を用いて、同一サンプルを3回繰り返し測定した。粒度分布は動的光散乱法を用いて、MaterialRIを1.5、Dispersant RIを1.33、Sample Visconsityを0.9として算出し、算出した平均粒子径およびD90値の平均値を示した。
【0084】
上記の粒子径測定方法では、結晶成長または凝集した5μmを超える大きさの粒子を検出することが難しいため、光学顕微鏡を用いた評価を行った。観察の条件はこれらに限定されないが、例えば、以下の条件で行った。
懸濁液5μLをスライドガラスに滴下し、24mm X 32mmのカバーガラスを被せた後、システム生物顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)を用いて、200倍または400倍の倍率で懸濁液中の活性成分の形状を観察した。
【0085】
上記の粒子形状の評価方法では、ナノスケールの微細粒子の形状を精密に観察することが難しいため、電子顕微鏡を用いて、以下の方法で評価を行った。
水による希釈または透析膜を用いて添加剤濃度を低減させた懸濁液を試料台に滴下し、溶媒を蒸発させた後、観察サンプルを調製した。走査電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジー製)または透過電子顕微鏡JEM-2100HR(JEOL社製)を用いて、観察サンプルを観察した。
【0086】
実施例1~6、比較例1~2:懸濁液の調製(1)
表1に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよび/またはポロキサマー196/67を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液A)。同様に、EG-05、マンニトールおよび/または界面活性剤を水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを4.7に調整した(以下、溶解液B)。マグネチックスターラーを用いて約1600rpmで撹拌されている溶解液A10mLに、シリンジで採取した溶解液B30mLを注入した後、室温で約3分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「ポロキサマー196/67」とは全重量の70%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(BASFジャパン株式会社製、製品名コリフォール P 407)、「EG-05」とはけん化率86.5~89.0のポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、製品名ゴーセノールEG-05)、「PS80」とはポリソルベート80(メルク株式会社製)、マンニトールはD-マンニトール(メルク株式会社製またはロケットジャパン株式会社製)を指す。
【0087】
【0088】
実施例7~9、比較例3~15:凍結乾燥製剤の調製(1)
表2に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよびポロキサマー200/70を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液C)。同様に、親水性高分子および/またはマンニトールを水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液D)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液D15mLに、溶解液C5mLをプラスチックシリンジを用いて注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を3.6mLずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機(株式会社アルバック製、他の実施例、比較例も同じ装置を使用)で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「ポロキサマー200/70」とは全重量の70%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール(日油株式会社製、製品名ユニルーブ70DP-950B)、「HPMC」とはヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業株式会社製、製品名TC-5R)、「HPC-L」とはヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製)、「PVP」とはポリビニルピロリドン(BASFジャパン株式会社製、製品名コリドン30)、「PEG400」とはポリエチレングリコール400(ナカライテスク株式会社製)、「PEG4000」とはポリエチレングリコール4000(ナカライテスク株式会社製)、「CMC-Na」とはカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製、製品名セロゲン)、「CVP」とはカルボキシビニルポリマー(和光純薬株式会社製、製品名ハイビスワコー104)、「NH-17Q」とはけん化率99.7以上のポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、製品名ゴーセノールNH-17Q)を指す。
【表2】
【0089】
実施例10~26、比較例16~22:凍結乾燥製剤の調製(2)
表3及び表4に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよび/または界面活性剤を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液E)。同様に、EG-05、マンニトールおよび/または界面活性剤を水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液F)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液F15mLに、溶解液E5mLをプラスチックシリンジを用いて注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を3.6mLずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「HCO-60」とはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(日光ケミカルズ株式会社製)、「HCO-20」とはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20(日光ケミカルズ株式会社製)、「HCO-10」とはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10(日光ケミカルズ株式会社製)、「HCO-5」とはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5(日光ケミカルズ株式会社製)、「CO-3」とはポリオキシエチレンヒマシ油(日光ケミカルズ株式会社製)、「SO-10V」とはモノオレイン酸ソルビタン(日光ケミカルズ株式会社製)、「SO-15MV」とはセスキオレイン酸ソルビタン(日光ケミカルズ株式会社製)、「GO-991」とはモノオレイン酸グリセリン(日油株式会社製)、「MYS-40MV」とはステアリン酸ポリオキシル40(日光ケミカルズ株式会社製)、「PS20」とはポリソルベート20(ナカライテスク株式会社製)、「SOLUPLUS」とはポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトポリマー(BASFジャパン株式会社製)、LL-810とはけん化率45.0~51.0のポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、製品名ゴーセネックスLL-810)、「DPPC」とはジパルミトリルホスファチジルコリン(日油株式会社製、製品名COATSOME MC6060)、「SDS」とはラウリル硫酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)、「デオキシコール酸Na」とはデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を指す。
【表3】
【表4】
【0090】
実施例27~42:凍結乾燥製剤の調製(3)
表5に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよび界面活性剤を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液G)。同様に、EG-05およびマンニトールを水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液H)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液H15mLに、溶解液G5mLをプラスチックシリンジを用いて注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を3.6mL(実施例29および実施例31は2mL)ずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「ポロキサマー240/60」とは全重量の75%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(240)ポリオキシプロピレン(60)グリコール(日油株式会社製、製品名ユニルーブ70DE-2620R)、「ポロキサマー160/30」とは全重量の80%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(日油株式会社製、製品名プロノン#188P)、「ポロキサマー20/20」とは全重量の40%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール(日油株式会社製、製品名プロノン#124P)、「ポロキサマー30/35」とは全重量の40%がポリオキシエチレンユニットであるポリオキシエチレン(30)ポリオキシプロピレン(35)グリコール(日油株式会社製、製品名プロノン#204)を指す。
【表5】
【0091】
実施例43~68:凍結乾燥製剤の調製(4)
表6及び表7に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよび/またはポロキサマー200/70を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液I)。同様に、EG-05、賦形剤および界面活性剤を水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液J)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液J15mL(実施例58~61は30mL)に、溶解液I5mL(実施例58~61は10mL)をプラスチックシリンジを用いて注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を2mL(実施例49~68は1.6mL)ずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「MPC30000」とは分子量約30000のポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレート(日油株式会社製、製品名PUREBRIGHT MB-37-50T)、「MPC100000」とは分子量約100000のポリ2-メタクロイルオキシホスホリルコリン-ポリn-ブチルメタクリレート(日油株式会社製、製品名PUREBRIGHT MB-37-100T)を指す。
【表6】
【表7】
【0092】
実施例69~75、比較例23~27:凍結乾燥製剤の調製(5)
表8に記載の量となるよう、温浴中で、化合物A、ポロキサマー200/70および/またはポリビニルアルコールを1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液K)。同様に、マンニトールおよび/またはポリビニルアルコールを水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液L)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液L15mLに、溶解液K5mLをプラスチックシリンジを用いて注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を3.6mLずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、比較例、試験例、表中において、「PVA32000」とは分子量約32000の(メルク株式会社製、製品名ポリビニルアルコールPVA4-88EMPROVE PhEur,USP,JPE)、「PVA40000」とは分子量約40000のポリビニルアルコール(メルク株式会社製、製品名PVA5-88EMPROVE PhEur,USP,JPE)、「PVA64000」とは分子量約64000のポリビニルアルコール(メルク株式会社製、製品名PVA8-88EMPROVE PhEur,USP,JPE)、「PVA135000」とは分子量約135000のポリビニルアルコール(メルク株式会社製、製品名PVA26-88EMPROVE PhEur,USP,JPE)、「PVA163000」とは分子量約163000のポリビニルアルコール(メルク株式会社製、製品名PVA40-88EMPROVE PhEur,USP,JPE)、LL-920とはけん化率30.0~38.0のポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、製品名ゴーセネックスLL-920)、LL-940とはけん化率34.0~41.0のポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、製品名ゴーセネックスLL-940)を指す。
【表8】
【0093】
実施例76~79、比較例28:凍結乾燥製剤の調製(6)
表9に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよびポロキサマー200/70を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液M)。同様に、EG-05およびマンニトールを水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液N)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液Nに、溶解液Mをプラスチックシリンジを用いて全量が20mLで表9に記載の混合容積比率となるよう注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を1.6mLずつガラスバイアルに充填し、-43℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
【表9】
【0094】
実施例80~86:懸濁液の調製(2)
表10に記載の量となるよう、温浴中で、活性成分およびポロキサマー200/70をエタノールまたは1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液O)。同様に、EG-05およびマンニトールを水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5(実施例80~84)または7.4(実施例85~86)に調整した(以下、溶解液P)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液Pに、溶解液Oをプラスチックシリンジを用いて全量が20mLで表10に記載の混合容積比率となるよう注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。
【表10】
【0095】
実施例87~88:凍結乾燥製剤の調製(7)
温浴中で、化合物Aを31.2mg/mLおよびポロキサマー200/70を3.12mg/mLとなるよう1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液Q)。同様に、EG-05を10mg/mL、マンニトールを13.3mg/mLおよびMPC30000を2mg/mLとなるよう水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液R)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液R150mLに、溶解液Q50mLを加えた後、氷浴中で撹拌を続け、懸濁液を調製した。混合3時間(実施例87)および6時間(実施例88)後、懸濁液20mLをMillex-GV(孔0.22μm、材質PVDF)を用いてろ過した。ろ過前およびろ過後の懸濁液はそれぞれガラスバイアルに4mLずつ充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
【0096】
実施例89:懸濁液の調製(3)
温浴中で、化合物Aを31.2mg/mLおよびポロキサマー200/70を3.12mg/mLとなるよう1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液S)。同様に、EG-05を10mg/mLおよびマンニトールを13.3mg/mLとなるよう水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5に調整した(以下、溶解液T)。温浴を用いて加温した溶解液Sを50mL/min、約5℃に冷却した溶解液Tを150mL/minの送液速度で、混合部のディスクが1700rpmで回転している強制薄膜式反応装置(エムテクニック株式会社製、製品名ULREA-SS11)に送液し、反応装置外に排出された懸濁液を回収した。
【0097】
試験例1:懸濁液の光学顕微鏡観察(1)
実施例1~6および比較例1~2で調製した懸濁液5μLをスライドガラスに滴下し、24mm×32mmのカバーガラスを被せ、システム生物顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)を用いて、倍率200倍または400倍で観察した。
【0098】
試験例2:懸濁液の光学顕微鏡観察(2)
実施例7~9および比較例3~15で調製した凍結乾燥製剤に注射用水を0.9mL加え、ボルテクスミキサーで振盪し懸濁液を得た。懸濁液5μLをスライドガラスに滴下し、24mm×32mmのカバーガラスを被せ、システム生物顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)を用いて、倍率200倍または400倍で観察した。同様に、凍結乾燥前の懸濁液についても観察した。
【0099】
試験例1の形状観察結果を
図1~8に示す。
図1~8から、少なくとも1,1-ジメチルエタノールまたは水のどちらかに界面活性剤を含有させることで、化合物Aの結晶成長を抑制され、化合物Aの微細粒子を調製できることがわかった。
試験例2の形状観察結果を
図9~40に示す。
図9~40から、懸濁液剤の処方成分として使用される親水性高分子の中で、ポリビニルアルコールを懸濁液に含有させることにより、乾燥工程ならびに乾燥固体中において、化合物Aの微細粒子の凝集を抑制できることがわかった。さらに、ポリビニルアルコールの完全けん化物(けん化率>99.7)を含有させることでは微細粒子の凝集を抑制できなかったことから、ポリビニルアルコールの部分けん化物(けん化率99%以下)が特異的に、微細粒子の凝集抑制に寄与していることがわかった。
【0100】
試験例3:懸濁液の粒子径測定(1)
実施例7~9および比較例4で調製した懸濁液(凍結乾燥前)を、0.01mmol/L塩酸で50倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。また、実施例7~9および比較例4で調製した凍結乾燥製剤に注射用水を0.9mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0101】
試験例4:凍結乾燥製剤の安定性評価(1)
実施例7~9で調製した凍結乾燥製剤を、40℃の環境下で保存し、1週間後の製剤について、試験例3と同様に、注射用水を加え、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布を測定した。
【0102】
試験例3の測定結果を表11、試験例4の安定性評価結果を表12に示す。表11から、活性成分1質量部に対して0.5質量部以上のポリビニルアルコールの部分けん化物を懸濁液に含有させることにより、乾燥工程ならびに乾燥固体中における微細粒子の粒子径増大を抑制でき、平均粒子径10~300nmの化合物Aの微細粒子を含有する固体組成物を調製できることがわかった。さらに、表12から、ポリビニルアルコールの部分けん化物は、固体中における微細粒子の安定性向上にも寄与しており、固体組成物にポリビニルアルコールの部分けん化物を含有させることにより、化合物Aの微細粒子を安定的に保持可能な固体組成物を調製できることがわかった。
【0103】
【0104】
【0105】
試験例5:懸濁液の粒子径測定(2)
実施例10~26および比較例16~22で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.9mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0106】
試験例5の測定結果を表13に示す。表13から、界面活性剤を懸濁液に含有させることにより、平均粒子径10~300nmの化合物Aの微細粒子を調製することができ、特に、非イオン界面活性剤を懸濁液に含有させることにより、平均粒子径10~300nmの微細粒子を調製できることがわかった。
【0107】
【0108】
試験例6:懸濁液の粒子径測定(3)
実施例27~42で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.9mL(実施例29および実施例31は0.5mL)加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0109】
試験例6の測定結果を表14に示す。表14から、活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.3質量部以下のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを懸濁液に含有させることによって、平均粒子径10~300nmの化合物Aの微細粒子を調製できることがわかった。さらに、全重量に対してポリオキシエチレンユニットの割合が40%以上80重量以下であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを懸濁液に含有させることにより、平均粒子径10~300nmの微細粒子を調製できることがわかった。
【0110】
【0111】
試験例7:懸濁液の安定性評価
実施例26、27、28、39、41、42で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.9mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を得た後、25℃の環境下で1日および1週間保存した。保存後の懸濁液を、0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0112】
試験例7の安定性評価結果を表15に示す。表15から、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの含有量が少ない懸濁液において、若干の粒子径の増加が認められたものの、いずれの懸濁液も25℃の環境下において、粒子径はほとんど増加せず、活性成分1質量部に対して0.02質量部以上0.3質量部以下のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを懸濁液に含有させることによって、化合物Aの微細粒子を安定的に懸濁可能な液体組成物が調製できることがわかった。
【0113】
【0114】
試験例8:懸濁液の粒子径測定(4)
実施例43~68で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.5mL(実施例49~68は0.4mL)加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、水懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0115】
試験例8の測定結果を表16に示す。表16から、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールに加え、MPC30000またはMPC100000を懸濁液に含有させることによって、より微小な化合物Aの微細粒子を調製できることがわかった。さらに、活性成分1質量部に対して0.05質量部以上0.6質量部以下のMPCポリマーを懸濁液に含有させることによって、平均粒子径10~300nm、詳しくは平均粒子径150nm以下の化合物Aの微細粒子を調製でき、MPCポリマーを更に追加することで、より平均粒子径の小さい微細粒子を得られることがわかった。また、EG-05の含有量、賦形剤の種類および含有量が、微細粒子の粒度分布に及ぼす影響が小さいことがわかった。
【0116】
【0117】
試験例9:懸濁液の粒子径測定(5)
実施例69~75および比較例23~27で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.9mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0118】
試験例9の測定結果を表17に示す。表17から、けん化率が85~89%で分子量が150000以下のポリビニルアルコールを懸濁液に含有させることによって、平均粒子径10~300nmの化合物Aの微細粒子が調製できることがわかった。また、けん化率が30%以上55%未満のポリビニルアルコールを懸濁液に含有させることによっても、平均粒子径10~300nmの化合物Aの微細粒子が調製できることがわかった。
【0119】
【0120】
試験例10:懸濁液の粒子径測定(6)
実施例76~79および比較例28で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.4mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0121】
試験例10の測定結果を表18に示す。表18から、混合容積比率(溶解液M/溶解液N)が大きくなるにつれて平均粒子径も増大し、混合容積比率(溶解液M/溶解液N)が4/6まで増大しても、調製される活性成分の微細粒子の平均粒子径は300nm程度であり、本製造方法は、良溶媒と貧溶媒の混合比率をコントロールすることで、平均粒子径10~300nmの活性成分の微細粒子を調製可能な製造方法であることがわかった。
【表18】
【0122】
試験例11:懸濁液の粒子径測定(7)
実施例80~86で調製した懸濁液を0.01mmol/L塩酸(実施例80~84)または0.01mmol/L水酸化ナトリウム溶液(実施例85~86)で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0123】
試験例11の測定結果を表19に示す。表19から、本製造方法が、種々の物性を有する活性成分に対して、平均粒子径10~300nmの微細粒子を調製できる製造方法であることがわかった。
【0124】
【0125】
試験例12:懸濁液中の化合物Aの濃度の定量
実施例87~88で調製した凍結乾燥前の懸濁液(ろ過前およびろ過後)を、アセトニトリルを用いて希釈し、アセトニトリルに溶解しない添加成分をフィルターろ過により除いた後、C18逆相カラム(4.6mm×150mm、5μm)をカラム、水、アセトニトリル、テトラヒドロフランおよび過塩素酸(70%)から成る液を移動相に用いて、逆相系高速液体クロマトグラフィー法により化合物Aの濃度を測定した。化合物Aは、220nmの波長で分光学的に検出した。
【0126】
試験例13:懸濁液の粒子径測定(8)
実施例87(ろ過前およびろ過後)および88(ろ過前のみ)で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を1mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、水懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0127】
試験例12および試験例13の測定結果を表20に示す。表20から、溶解液Qと溶解液Rを混合後、氷冷下で6時間撹拌した時点において、粒度分布に大きな変化は認められず、孔が0.22μmのフィルターを用いて懸濁液をろ過しても、化合物Aの濃度は大きく低下しないことがわかった。
【0128】
【0129】
試験例14:微細粒子の電子顕微鏡観察(1)
比較例28で調製した凍結乾燥製剤に注射用水を加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。懸濁液を、Fast SpinDIALYZERおよびセルロースアセテート膜(HARVARD APPARATUS製)を用いて注射用水中で透析を行った後、膜上に粒子を回収し、室温にて乾燥した。乾燥後、膜および微細粒子を白金コーティングし、走査電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジー製)を用いて観察を行った。
【0130】
試験例15:微細粒子の電子顕微鏡観察(2)
親水化処理を行ったコロジオン膜に、実施例89で調製した懸濁液を20μL滴下した。さらに、約4℃に冷却した水を20μL滴下し、室温にて真空乾燥を行った後、透過電子顕微鏡JEM-2100HR(JEOL社製)を用いて観察を行った。
【0131】
試験例14の形状観察結果を
図41、試験例15の形状観察結果を
図42に示す。
図25および
図26から、本製造方法によって調製される活性成分の微細粒子は、球状であり、サイズの均一性も非常に高いことがわかった。
【0132】
実施例90~92:凍結乾燥製剤の調製(8)
表21に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよびポロキサマー200/70を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液U)。同様に、EG-05、マンニトールおよびMPC30000を水に溶解させた後、塩酸および/または水酸化ナトリウムでpHを5.0に調整した(以下、溶解液V)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液Vに、溶解液Uをプラスチックシリンジを用いて全量が80mLで表21に記載の混合容積比率となるように注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を5mLずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
【0133】
【0134】
実施例93および94:凍結乾燥製剤の調製(9)
表22に記載の量となるよう、温浴中で、化合物Aおよびポロキサマー200/70を1,1-ジメチルエタノールに溶解させた(以下、溶解液W)。同様に、EG-05、マンニトール、MPC30000およびホウ酸を水に溶解させた(以下、溶解液X)。氷浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌されている溶解液Xに、溶解液Wをプラスチックシリンジを用いて全量が125mLで表22に記載の混合容積比率となるように注入した後、氷浴中で約20分間撹拌を続け、懸濁液を調製した。懸濁液を5mLずつガラスバイアルに充填し、-80℃で凍結後、棚型の凍結乾燥機で約3日間、凍結乾燥を行った。
尚、実施例、試験例、表中において、「ホウ酸」はホウ酸(ナカライテスク製)を指す。
【0135】
【0136】
試験例16:懸濁液の粒子径測定(9)
実施例90~94で調製した凍結乾燥製剤に、注射用水を0.8mL加え、ボルテクスミキサーを用いて振盪し、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布をZetasizer Nano Sを用いて測定した。
【0137】
試験例16の測定結果を表23に示す。表23から、化合物A、ポロキサマー200/70、EG-05、マンニトール及びMPC30000を懸濁液に含有させることによって、平均粒子径が10~300nmの微細粒子を調製できることがわかった。また、点眼剤に一般的に添加されるpH調整剤であるホウ酸を添加した場合であっても、平均粒子径が10~300nmの微細粒子を調製できることがわかった。
【0138】
【0139】
試験例17:凍結乾燥製剤の安定性評価(2)
実施例90~92で調製した凍結乾燥製剤を、25℃の環境下で保存し、1箇月後の製剤について、注射用水を加え、懸濁液を調製した。0.01mmol/L塩酸で100倍希釈した後、懸濁液の粒度分布を測定した。
【0140】
試験例17の安定性評価結果を表24に示す。表24から、いずれの懸濁液も、25℃の環境下で1箇月間保存した場合であっても粒子径は増加せず、化合物A、ポロキサマー200/70、EG-05、マンニトール及びMPC30000を懸濁液に含有させることで、化合物Aの微細粒子を安定的に保持可能な固体組成物を調製できることがわかった。
【0141】
【産業上の利用可能性】
【0142】
これらの実施例、比較例、試験例等により、本発明の組成物およびその製造方法を用いることにより、活性成分を平均粒子径10~300nm、さらには10~200nmの微細粒子として含有できる安定性の優れた懸濁組成物および固体組成物を提供することができる。