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特許7026615軸方向に移動するニードルホルダを有する注射デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】軸方向に移動するニードルホルダを有する注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20220218BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20220218BHJP
   A61M 5/50 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
A61M5/32 500
A61M5/20
A61M5/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018527164
(86)(22)【出願日】2016-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2016078277
(87)【国際公開番号】W WO2017089287
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-15
(31)【優先権主張番号】15196714.8
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ヘルマー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・シャーダー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ノーバー
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/140262(WO,A1)
【文献】特表2013-521083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
A61M 5/20
A61M 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイス(30)であって:
カートリッジホルダを収容しているハウジング(11)であって、該カートリッジホルダ(19)はカートリッジ(18)を収納する、前記ハウジング(11)と;
注射針(17)を含むニードルホルダ(25)と;
ハウジングと取り外し可能に係合されたキャップ(12)と;
ニードルシールドと
を含み、
該注射デバイスは、さらに、
ギアアセンブリを含む並進機構であって、該ギアアセンブリは、キャップの内面上に配置されている第1の直動ギア(28a)と、ニードルホルダの外面上に配置されている第2の直動ギア(28b)と、ニードルホルダとキャップとの間で、カートリッジホルダの遠位端において各々回転可能に取り付けられている第1の回転ギア(27a)および第2の回転ギア(27b)と、を含む、前記並進機構を含み、
ここで、第2の回転ギアは、第1の回転ギア(27a)の周方向反対側の位置にあり、ここで、第1の回転ギアと第2の回転ギアは、各々、第1の回転ギアと第2の回転ギアを反対方向に回転させ、ニードルホルダの近位方向への動きを引き起こしその結果注射針がカートリッジに穿孔する、キャップの遠位方向への直線的な動きの間に、第1の直動ギアおよび第2の直動ギアと噛み合うように配置されており、ここで、ニードルシールドは、キャップと一緒に取り外される、
ことを特徴とする、前記注射デバイス(30)。
【請求項2】
カートリッジ(18)は穿孔可能なセプタム(18a)を含み、注射針(17)は、ニードルホルダ(25)をカートリッジに押し付けるように付勢したときに、穿孔可能なセプタムに穿孔するように配置されている、請求項1に記載の注射デバイス(30)。
【請求項3】
キャップ(12)は内側キャップ部分をさらに含み、第1の直動ギア(28a)は内側キャップ部分の内面上に位置している、請求項1または2に記載の注射デバイス(30)。
【請求項4】
キャップ(12)において固定的に取り付けられたニードルシールド(24)をさらに含み、該ニードルシールドはキャップがハウジング(11)と係合されたときに針(17)を覆うように構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の注射デバイス(30)。
【請求項5】
カートリッジ(18)は薬剤を収容している、請求項1~のいずれか1項に記載の注射デバイス(30)。
【請求項6】
注射デバイス(30)は自動注射器である、請求項1~のいずれか1項に記載の注射デバイス(30)。
【請求項7】
カートリッジ(18)と、注射針(17)を含むニードルホルダ(25)とを、注射デバイス(30)内で連結する方法であって:
該方法は、注射針がカートリッジに穿孔するように、着脱可能なキャップ(12)の遠位方向への動きを並進機構を介してニードルホルダの近位方向への動きへと変換することを含み、ここで、着脱可能なキャップの遠位方向への動きをニードルホルダの近位方向への動きへと変換することは、着脱可能なキャップにおける第1の直動ギア(28a)をハウジングにおける第1の回転ギア(27a)および第2の回転ギア(27b)と噛み合わせることと、ニードルホルダがカートリッジに向かって近位方向に移動するように第1の回転ギアおよび第2の回転ギアをニードルホルダにおける第2の直動ギア(28b)と噛み合わせることと、を含み、ここで、ニードルシールドは、キャップと一緒に取り外され
第1の回転ギアと第2の回転ギアは、ニードルホルダとキャップとの間に回転可能に取り付けられ、
第2の回転ギアは、第1の回転ギアの周方向反対側の位置にあり、
キャップの遠位方向への動きは、第1の回転ギアと第2の回転ギアを反対方向に回転させる、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自己投与による注射によって行われる現行の療法は、糖尿病(インスリンおよび新しいGLP-Aクラスの薬物の両方)、片頭痛、ホルモン療法、抗凝血剤、等のための薬物を含む。注射の投与は、使用者および医療専門家にとって精神的にも身体的にも、いくつかのリスクおよび困難をもたらす工程である。
【0003】
従来の注射デバイスは通常、2つのカテゴリ-手動デバイスおよび自動注射器-に入る。従来の手動デバイスでは、液体薬剤を駆動してデバイスから出すために、使用者は、例えばプランジャを押し込むことによって、力を与えなければならない。
【0004】
自動注射器は、注射療法を自ら投与することを使用者にとってより容易なものにすることを目指している。自動注射器は、手動デバイスの薬剤送達に関与する行為の全体または一部を置き換えるデバイスである。これらの行為には、保護用シリンジキャップの取り外し、患者の皮膚への針の挿入、薬剤の注射、針の取り外し、針の遮蔽、デバイスの再使用の防止が含んでもよい。これにより手動デバイスの欠点の多くが克服される。注射の力/ボタンの延伸、手振れ、および用量の不完全な送達の可能性が低減される。多数の手段、例えばトリガボタンまたは注射深さに達した針の作用によって、トリガを行うことができる。
【0005】
一部の注射デバイスは、カートリッジベースのシステムとともに動作する。このタイプのシステムには通常、薬剤で事前充填された別個のカートリッジ、および滅菌した包装の中に封止された別個の針を備える。注射の前に、使用者は、パッケージ化された針を包装から出しカートリッジに組み付けなければならない、すなわち、カートリッジをデバイスのハウジング内のカートリッジホルダ内に置き、針を収容している包装を開封し、針をデバイスのハウジング内に配置しなければならない。使用者によっては、これは時間がかかると見なす場合がある。
【0006】
さらに、事前充填されたカートリッジを含む一部の注射デバイスは多くの場合、注射に実際に使用されるまでに、比較的長い時間の間保管されている。1つの問題は、この保管の時間の間、薬剤はカートリッジの針と接触したままであり、薬剤による針の詰まりが生じる場合があることである。これにより注射中の薬剤の送達が遅延し、その結果注射時間が長くなる場合がある。また、薬剤が長い保管期間の間針と接触している場合、薬剤に対して他の悪い影響がある場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、注射デバイスであって:カートリッジを収容しているハウジングと;注射針を含むニードルホルダと;ハウジングと取り外し可能に係合されたキャップと;キャップの遠位方向への直線的な動きがニードルホルダの近位方向への動きを引き起こしその結果注射針がカートリッジに穿孔するように構成された並進機構と、を含む注射デバイスが提供される。
【0008】
並進機構は、ギアアセンブリを含んでもよく、このギアアセンブリは、第1の回転ギア、第1の直動ギア、および第2の直動ギアを含む。
【0009】
カートリッジは穿孔可能なセプタムを含んでもよく、この場合、注射針は、ニードルホルダをカートリッジに押し付けるように付勢したときに、穿孔可能なセプタムに穿孔するように配置されている。
【0010】
注射デバイスはさらに、カートリッジを収容するように構成されたカートリッジホルダを含んでもよく、この場合、第1の回転ギアは、ニードルホルダと着脱可能なキャップとの間のカートリッジホルダの遠位端において回転可能に取り付けられており、第1の回転ギアは、第1の直動ギアおよび第2の直動ギアと噛み合うように配置されている。
【0011】
注射デバイスは、ニードルホルダと着脱可能なキャップとの間のカートリッジホルダの遠位端における第1の回転ギアの周方向反対側の位置において回転可能に取り付けられた第2の回転ギアを含んでもよく、この場合、第2の回転ギアは、第1の直動ギアおよび第2の直動ギアと噛み合うように配置されている。
【0012】
第1の直動ギアは、ニードルホルダの外面上に配置されていてもよい。
【0013】
第2の直動ギアは、キャップの内面上に配置されていてもよい。
【0014】
キャップはさらに、内側キャップ部分を含んでもよく、この場合、第2の直動ギアは、内側キャップ部分の内面上に位置している。
【0015】
注射デバイスはさらに、キャップにおいて固定的に取り付けられたニードルシールドを含んでもよく、この場合、ニードルシールドは、キャップがハウジングと係合されたときに針を覆うように構成されている。
【0016】
カートリッジは薬剤を含んでもよい。
【0017】
注射デバイスは自動注射器であってもよい。
【0018】
本発明の別の態様によれば、カートリッジと注射針を含むニードルホルダを注射デバイス内で連結する方法であって:注射針がカートリッジに穿孔するように、着脱可能なキャップの遠位方向への動きを並進機構を介してニードルホルダの近位方向への動きへと変換することを含む、方法が提供される。
【0019】
着脱可能なキャップの遠位方向への動きをニードルホルダの近位方向への動きへと変換することは、着脱可能なキャップにおける第1の直動ギアをハウジングにおける第1の回転ギアと噛み合わせることと、ニードルホルダがカートリッジに向かって近位方向に移動するように第1の回転ギアをニードルホルダにおける第2の直動ギアと噛み合わせることと、を含んでもよい。
【0020】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下に記載の実施形態から明らかになり、これらを参照して説明されるであろう。
【0021】
本発明の例示的な実施形態について、添付の図面を参照して以下の通り記載する:
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本発明の実施形態による注射デバイスの側面図である。
図1B】本発明の実施形態による注射デバイスの側面図である。
図2A】第1の実施形態による、初期状態における注射デバイスの一部の概略断面図である。
図2B】遠位端から軸方向に見た図2Aのニードルホルダの概略断面図である。
図3】中間状態における第1の実施形態の注射デバイスの一部の概略断面図である。
図4】最終状態における第1の実施形態の注射デバイスの一部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では実施形態を詳細に参照するが、その例が添付の図面に示されており、図面においては同様の参照番号は全体を通して同様の要素を指す。
【0024】
中に収容されているカートリッジに穿孔するための並進機構を有する注射デバイスが提供される。この注射デバイスは、カートリッジを収容しているハウジングと;注射針を含むニードルホルダと;ハウジングと取り外し可能に係合されたキャップと;キャップの遠位方向への直線的な動きがニードルホルダの近位方向への動きを引き起こしその結果注射針がカートリッジに穿孔するように構成された並進機構と、を含む。この特定の並進機構構成を使用することによって、注射針を手動で包装から出しカートリッジに組み付ける必要を無くすことができる。
【0025】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、患者に薬剤を注射するように構成することができる。例えば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内であり得る。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者によって操作される可能性があり、様々なタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含み得る。デバイスは、使用前に封止されたアンプルに穿孔する必要のある、カートリッジベースのシステムを含み得る。これら様々なデバイスを用いて送達される薬剤の体積は、約0.5mlから約2mまでの範囲であり得る。さらに別のデバイスは、「大きな」体積の薬剤(典型的には約2mlから約10ml)を送達するためにある時間(例えば、約5、15、30、60、または120分)の間患者の皮膚に接着されるように構成された、大容積デバイス(「LVD(large volume device)」)またはパッチポンプを含み得る。
【0026】
特定の薬剤と組み合わせて、本記載のデバイスを、要求される仕様内で動作するようにカスタマイズしてもよい。例えば、ある時間(例えば、自動注射器では約3から約20秒、LVDでは約10分から約60分)内で薬剤を注射するようにデバイスをカスタマイズしてもよい。他の仕様としては、不快感が低いかもしくは最小限であること、または、人間要素、貯蔵期限、使用期限、生体適合性、環境的配慮、等に関連する特定の条件を挙げることができる。このような多様性は様々な要因に起因して現れる可能性があり、例えば、薬物の粘度が約3cPから約50cPの範囲にわたることが挙げられる。その結果、薬物送達デバイスは多くの場合、約25から約31ゲージのサイズの中空の針を含むことになる。一般的なサイズは27および29ゲージである。
【0027】
本明細書に記載の送達デバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化された機能も含み得る。例えば、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き戻しのうちの1つまたはそれ以上を自動化できる。1つまたはそれ以上の自動化工程のためのエネルギーを、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって供給できる。エネルギー源としては、例えば、機械的な、空圧式の、化学的な、または電気的なエネルギーを挙げることができる。例えば、機械的なエネルギー源としては、ばね、てこ、エラストマー、またはエネルギーを貯蔵もしくは解放するための他の機械的機構を挙げることができる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を組み合わせて、単一のデバイスとすることができる。デバイスはさらに、ギア、弁、またはエネルギーをデバイスの1つもしくはそれ以上の構成要素の動きに変換するための他の機構を含み得る。
【0028】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化された機能は、起動機構を介してそれぞれ起動させることができる。このような起動機構は、ボタン、レバー、針スリーブ、または他の起動構成要素のうちの、1つまたはそれ以上を含み得る。自動化された機能の起動は、1ステップのまたは複数ステップの工程であってもよい。すなわち、使用者は、自動化された機能を実行させるために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動させる必要があり得る。例えば、1ステップの工程では、薬剤の注射を実行するために、使用者が針スリーブを自身の身体に押し付けてもよい。他のデバイスでは、自動化された機能を複数ステップで起動する必要があり得る。例えば、使用者は、注射を実行するために、ボタンの押下およびニードルシールドの引き戻しを必要とする場合がある。
【0029】
加えて、自動化された機能の起動により、1つまたはそれ以上の後続の自動化された機能を起動させ、これにより起動シークエンスを形成してもよい。例えば、第1の自動化された機能の起動により、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き戻しのうちの、少なくとも2つを起動させてもよい。デバイスによっては、1つまたはそれ以上の自動化された機能を行わせるために、ステップの特定のシークエンスを必要とすることがある。他のデバイスは、独立したステップのシークエンスで動作してもよい。
【0030】
一部の送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の、1つまたはそれ以上の機能を含み得る。例えば、送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された(自動注射器において典型的に見られるような)機械的なエネルギー源と、(ペン型注射器において典型的に見られるような)用量設定機構と、を含み得る。
【0031】
本開示の一部の実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が、図1Aおよび図1Bに示されている。デバイス10は、上記のように、患者の体内に薬剤を注射するように構成されている。デバイス10は、注射される薬剤を収容しているリザーバ(例えばシリンジ)を典型的には収容している、ハウジング11と、送達工程の1つまたはそれ以上のステップを容易にするために必要となる構成要素と、を含む。デバイス10はまた、ハウジング11に取り外し可能に装着できる、キャップ組立体12も含み得る。通常は、デバイス10が操作可能となる前に、使用者がハウジング11からキャップ12を取り外さなければならない。
【0032】
示されているように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、長手方向軸Xに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域20および近位領域21を有する。用語「遠位」は注射の部位に相対的により近い位置を指し、用語「近位」は注射部位から相対的により遠い位置を指す。
【0033】
デバイス10はまた、ハウジング11に対するスリーブ13の動きが可能となるようにハウジング11に結合された、針スリーブ13も含み得る。例えば、スリーブ13は、長手方向軸Xと平行な長手方向に可動である。具体的には、近位方向へのスリーブ13の動きにより、針17がハウジング11の遠位領域20から延びることが可能になる。
【0034】
針17の挿入は、いくつかの機構を介して行うことができる。例えば、針17は、ハウジング11に対して固定的に位置してよく、最初は延ばした針スリーブ13内に位置してよい。スリーブ13の遠位端を患者の身体に当接させて置き、ハウジング11を遠位方向に移動させることによる、スリーブ13の近位方向への動きによって、針17の遠位端が現れることになる。このような相対的な動きにより、針17の遠位端が患者の体内に延びることが可能になる。このような挿入は、患者がスリーブ13をハウジング11に対して手で動かすことを介して針17が手動で挿入されるので、「手動の」挿入と称される。
【0035】
挿入の別の形態は「自動化された」ものであり、この場合、針17がハウジング11に対して移動する。このような挿入は、スリーブ13の動きによって、または例えばボタン22などの別の形態の起動によって、トリガすることができる。図1Aおよび図1Bに示すように、ボタン22は、ハウジング11の近位端に位置する。ただし他の実施形態では、ボタン22は、ハウジング11の側面上に位置することができる。
【0036】
他の手動のまたは自動化された機能としては、薬物の注射もしくは針の引き戻し、または両方を挙げることができる。注射は、栓またはピストン23がシリンジ(図示せず)内の近位位置からシリンジ内のより遠位の位置へと移動されて、シリンジから針17に薬剤が押し通される工程である。一部の実施形態では、デバイス10が起動される前に、駆動ばね(図示せず)が圧縮されている。駆動ばねの近位端をハウジング11の近位領域21内に固定することができ、駆動ばねの遠位端を、ピストン23の近位表面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばねに貯蔵されているエネルギーの少なくとも一部を、ピストン23の近位表面に加えることができる。この圧縮力がピストン23に作用して、これを遠位方向に移動させる。このような遠位方向への動きはシリンジ内の液体薬剤を圧縮するように作用し、これを針17から押し出す。
【0037】
注射後、スリーブ13またはハウジング11内に針17を引き戻すことができる。引き戻しは、使用者が患者の体からデバイス10を取り外す際に、スリーブ13が遠位方向に移動するときに生じ得る。これが生じ得るのは、針17がハウジング11に対して固定的に位置するままであるからである。スリーブ13の遠位端が針17の遠位端を通り過ぎて、針17が覆われると、スリーブ13をロックすることができる。このようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ13の近位方向への動きをロックすることを含み得る。
【0038】
針の引き戻しの別の形態は、針17がハウジング11に対して移動される場合に生じ得る。このような動きは、ハウジング11内のシリンジがハウジング11に対して近位方向に移動される場合に生じ得る。この近位方向への動きは、遠位領域20内に位置する引き戻しばね(図示せず)を使用することによって達成可能である。圧縮された引き戻しばねは、起動時、シリンジにこれを近位方向に移動させるのに十分な力を供給することができる。十分な引き戻し後、ロッキング機構を用いて、針17とハウジング11との間のどのような相対的な動きもロックすることができる。加えて、デバイス10のボタン22または他の構成要素を、必要に応じてロックすることができる。
【0039】
図2は、第1の実施形態による、初期状態における注射デバイスの一部の概略断面図である。
【0040】
図2Aは、ハウジング11を含む注射デバイス30の一部を示している。ハウジング11内に、カートリッジ18を保持しているカートリッジホルダ19が含まれている。
【0041】
カートリッジ18は、穿孔可能なセプタム18aをその遠位端に含み、注射中に患者に送達予定の薬剤液体を収容している。カートリッジ18は、ニードルホルダ25の凹部内に収容されるような形状である、遠位端部分を含む。カートリッジ18の遠位端の近くにニードルホルダ25が位置している。ニードルホルダ25は中空の注射針17を保持しており、この注射針17は、図2Aに見ることができるように、初期状態ではカートリッジ18の穿孔可能なセプタム18aと接触していない。
【0042】
カートリッジ18はさらに、シリンジ18を封止する、および、注射針17がカートリッジ18の遠位端においてセプタム18aに刺し通されたときに中空の注射針17を通して薬剤液体を変位させるための、ピストン、ストッパ、または栓23を含む。ピストン23は、ボタン(図1Aおよび図1Bに示すボタン22など)によって起動されるプランジャ(図面には示されていない)によってハウジング11の遠位端に向かって押されるように配置されている。
【0043】
ニードルホルダ25は中心に、カートリッジ18の遠位端部分を収容するように中空になった凹部を含む。ニードルホルダ25はまた、カートリッジ18の遠位端部分がニードルホルダ25の中空になった凹部内に嵌合したら、この遠位端部分を所定位置にロックするように構成されている、係合要素26も含む。本実施形態における係合要素26は突起である。係合要素26の機能性について、図3および図4を参照して以下でより詳細に説明する。
【0044】
内側スリーブ13はハウジング11内に配置されており、この内側スリーブ13は、ハウジング11が表面(例えば注射部位)に押し付けられたとき、内側スリーブ13がハウジング11内のばね要素(図面には示されていない)によって提供されるばね力に逆らってハウジング11内に引き戻されるようなかたちで、引き戻し可能となるように構成されている。内側スリーブ13は、カートリッジホルダ19をハウジング11内の所定位置に保持するように構成されている、案内リブ29を含む。
【0045】
注射デバイス30はさらに、着脱可能なキャップ12を含む。ニードルシールド24は、着脱可能なキャップ12内に配置されている。中空の注射針17は、着脱可能なキャップ12がハウジング11と係合されているとき、着脱可能なキャップ12内に配置されているニードルシールド27によって覆われている。着脱可能なキャップ12は、着脱可能なキャップ12がハウジング11に取り付けられたとき内側スリーブ13内に嵌合するように構成されている、内側キャップ部分を含む。
【0046】
第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bは、カートリッジホルダ19の遠位端における2つの対向する端部において、それぞれ回転可能に取り付けられている。第1の回転ギア27aは、カートリッジホルダ19の一方側の遠位端において回転可能に取り付けられており、一方、第2の回転ギア27bは、カートリッジホルダ19の遠位端における第1の回転ギア27aの周方向反対側の位置において、回転可能に取り付けられている。
【0047】
以下でさらに詳細に説明するように、第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bは並進機構の一部であり、この並進機構は、着脱可能なキャップ12の遠位方向への直線的な動きがニードルホルダ25の近位方向への直線的な動きを引き起こすように、ニードルホルダ25を着脱可能なキャップ12と係合させる。言い換えれば、この実施形態における並進機構は、以下で記載するような、第1の回転ギア27a、第2の回転ギア27b、および直動ギアアセンブリ28を含む、ギアアセンブリである。
【0048】
直動ギアアセンブリ28は、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分およびニードルホルダ25の外面上に形成される。具体的には、直動ギアアセンブリ28は、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分の内面上に形成される第1の直動ギア28a(図3において標示されている)と、ニードルホルダ25の外面上に形成される第2の直動ギア28b(図3において標示されている)と、を含む。第1の直動ギア28aおよび第2の直動ギア28bは、ラックギアの形態である。第1の直動ギア28aは、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分の内周面に形成された複数の歯の形態であり、第2の直動ギア28bは、ニードルホルダ25の周面に形成された複数の歯の形態である。
【0049】
第1の回転ギア27aは、第1の回転ギア27aの歯が第1の直動ギア28aおよび第2の直動ギア28bの両方の歯と噛み合うように、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分とニードルホルダ25との間に回転可能に取り付けられた、ピニオンギアである。ギアアセンブリは、着脱可能なキャップ12の第1の方向における(すなわちハウジング11から離れるような)遠位方向への直線的な動きが第1の回転ギア27aを回転させ、これにより、ニードルホルダ25の第2の方向における近位方向への直線的な動きが引き起こされるように構成されており、第2の方向は第1の方向と反対の、すなわちハウジング11の中に入るものである。
【0050】
同様に、第2の回転ギア27bもまた、第1の回転ギア27aの歯が第1の直動ギア28aおよび第2の直動ギア28bの両方の歯と噛み合うように、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分とニードルホルダ25との間に、ニードルホルダ25のもう一方側で回転可能に取り付けられた、ピニオンギアである。ギアアセンブリは、着脱可能なキャップ12の第1の方向における(すなわちハウジング11から離れるような)遠位方向への直線的な動きが第1の回転ギア27aと一緒に第2の回転ギア27bを回転させ、これにより、ニードルホルダ25の第2の方向における近位方向への直線的な動きが引き起こされるように構成されており、第2の方向は第1の方向と反対の、すなわちハウジング11の中に入るものである。
【0051】
図2Bは、遠位端から軸方向に見た図2Aのニードルホルダの概略断面図である。
【0052】
図2Bに見られるように、ニードルホルダ25は、ニードルホルダの中心に位置している中空の注射針17と、ニードルホルダ24の両側に配置された案内溝31と、第2の直動ギア28bと、を含む。案内溝31は、注射デバイス30内で軸方向の動きのみが許容されることを保証するように配置されている。例えば、この実施形態における案内溝31は、ニードルホルダ25とハウジング11との間の回転の動きを制限するために、ハウジング11における係合部材(図面には示されていない)と係合される。
【0053】
図3は、中間状態における第1の実施形態の注射デバイスの一部の概略断面図である。
【0054】
この中間状態では、着脱可能なキャップ12は、ハウジング11から矢印「A」で示す方向に引き離されていく過程にある。この着脱可能なキャップ12の遠位方向への直線的な動きは、着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分もまた、ハウジング11に対して遠位方向へと直線的に移動されることを意味する。
【0055】
着脱可能なキャップ12の内側キャップ部分の内面上に配置された第1の直動ギア28aは、着脱可能なキャップ12の遠位方向への直線的な動きが第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bの回転を引き起こすように構成されている。この実施形態では、図3に見られるように、着脱可能なキャップ12が矢印「A」で示す第1の方向へと(すなわち右へと)遠位方向に直線的に移動するとき、第1の直動ギア28aは第1の回転ギア27aと噛み合って第1の回転ギア27aを付勢して(矢印「B」で示す)時計回りの方向に回転させ、同時に第2の回転ギア27bもまた、周方向反対側の位置において第1の直動ギア28aによって付勢されて、反時計周りの方向に回転する。
【0056】
第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bの回転は次いで、第2の直動ギア28bを付勢して、矢印「C」で示す方向へとシリンジ18に向かって近位方向に(すなわちハウジング11の近位端に向かって)並進させる。ニードルホルダ25はその結果、第2の方向へとシリンジ18に向かって並進され、ニードルホルダ25内に含まれている注射針17は、シリンジ18の中に収容されている薬剤にアクセスできるように、シリンジ18の遠位端に位置する穿孔可能なセプタム18aを貫いて穿孔する。
【0057】
図3に示すように、カートリッジ18の遠位端部分は、中間状態では、ニードルホルダ25の中空になった凹部内に全体が収容されてはいない。カートリッジの遠位端部分をニードルホルダ25の中空になった凹部内に付勢するために、ニードルホルダ25のハウジング11の近位端に向かうさらなる並進の動きが必要となるであろう。
【0058】
図4は、最終状態における第1の実施形態の注射デバイスの一部の概略断面図である。
【0059】
最終状態では、着脱可能なキャップ12は、注射デバイス30の残りの部分からさらに引き離される。着脱可能なキャップ12のハウジング11から離れるようなさらなる直線的な動きは、第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bを引き続き回転させる。第1の回転ギア27aは、時計回り方向(矢印「B」で示す)に回転し続けるように付勢され、一方、第2の回転ギア27bは、反時計回り方向に回転し続けるように付勢される。これにより次いで第2の直動ギア28bが、およびしたがってニードルホルダ25が付勢されて、シリンジ18に向かってさらに並進する。
【0060】
シリンジ18の遠位端部分は、ニードルホルダ25の中空になった凹部内に全体が収容されると、ニードルホルダの係合要素26によって所定位置にロックされる。この実施形態では、具体的には、係合要素26は、シリンジ18の遠位端部分をニードルホルダ25内の中空になった凹部内に保持するための、クリップとしての役割を果たす。したがって、ニードルホルダ25は、シリンジ18と一体となって固止され、これにより注射中の安全が保証される。
【0061】
さらに、着脱可能なキャップ12が注射デバイス30から引き離されている最中であるとき、着脱可能なキャップ12におけるニードルシールド24は、もはや注射針17を覆っていない。したがって、着脱可能なキャップ12が完全に取り外されてしまうと、注射デバイス30は注射できる状態となる。
【0062】
上記のような構成により、カートリッジおよびニードルアセンブリ(すなわちニードルホルダおよび注射針)を、単に注射デバイス30のハウジング11から着脱可能なキャップ12を引き抜くことにより、注射できるように素早く準備することが可能になる。これにより、使用者がカートリッジとニードルアセンブリの組み付けを手動で行う必要がなくなり、したがって突き刺し負傷が防止され、時間が節約される。
【0063】
第1の実施形態による自動注射器デバイス30の動作のシークエンスについて以下の通り記載する:
使用者は、着脱可能なキャップ12を引いてこれをハウジング11から係脱させる。着脱可能なキャップ12がハウジング11から引き抜かれているとき、内側キャップ部分における第1の直動ギア27aの直線的な動きが、第1の回転ギア27aを付勢して時計回り方向(図3において矢印「B」で示す)に回転させ、同時に第2の回転ギア27bは、反時計回り方向に回転するように付勢される。
【0064】
第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bの回転は次いで、第2の直動ギア28bを付勢して、図3において矢印「C」で示す方向へとシリンジ18に向かって(すなわちハウジング11の近位端に向かって)並進させる。ニードルホルダ25はその結果、第2の方向へとシリンジ18に向かって並進され、ニードルホルダ25内に含まれている注射針17は、中に収容されている薬剤にアクセスできるように、シリンジ18の遠位端に位置する穿孔可能なセプタム18aに穿孔して貫通する。
【0065】
着脱可能なキャップ12が引き続きハウジング11から引き抜かれているとき、着脱可能なキャップのさらなる直線的な動きが、第1の回転ギア27aおよび第2の回転ギア27bのさらなる回転を引き起こす。これにより次いで第2の直動ギア28bが、およびしたがってニードルホルダ25が付勢されて、シリンジ18に向かってさらに並進する。シリンジ18の遠位端部分は、ニードルホルダ25の中空になった凹部内に全体が収容されると、ニードルホルダ25の係合要素26によって所定位置にロックされ、その結果、シリンジ18とニードルホルダ25との間の接続がこの時点で確実になる。
【0066】
着脱可能なキャップ12がハウジング11から完全に係脱された後で、注射デバイス30は注射部位、例えば患者の皮膚に押し付けられる。使用者、例えば患者または介護者は、自動注射デバイス30を自身の手全体で把持し、自動注射デバイス30の遠位端を注射部位に押し付ける。
【0067】
注射部位に押し付けられると、注射デバイス10の内側スリーブ13がハウジング11内に引き戻されて、中空の注射針17が露出される。針17が注射部位に挿入された後で、ピストン23をハウジング11の遠位端に向けて押して、カートリッジ18内に収容されている薬剤を注射針17を通して変位させるために、駆動機構が起動される(例えばボタンを押す)。
【0068】
上記のような実施形態では、カートリッジの遠位端部分がニードルホルダの中空になった凹部内に全体が収容されるまでに、初期状態から、着脱可能なキャップがハウジングから離れる方へ移動する距離は、ニードルホルダがカートリッジに向かって移動する距離に等しい。ただし、代替の実施形態では第1の直動ギアの歯および第2の直動ギアの歯は、異なるラックゲインを達成するために異なるサイズで構成されてもよい。
【0069】
ラックアンドピニオン機構のラックゲインは、ピニオンギアの1回転毎のラックギアの変位として定義される。第1のおよび第2の直動ギアを、第2の直動ギアが第1の直動ギアよりも大きいラックゲインを有するように構成することによって、ニードルホルダをカートリッジに向けて並進させカートリッジと固止された状態にするために、着脱可能なキャップをハウジングから引き離すのに要求される直線距離が、小さくなる。したがって、より効率的な並進機構が実現される。
【0070】
代替の実施形態では、ギアアセンブリは、上記のような第1のおよび第2の回転ギアの代わりに、単一の回転ギアを含んでもよい。
【0071】
代替の実施形態では、ギアアセンブリは、上記のような第1のおよび第2の回転ギアに加えて、さらなる回転ギアを含んでもよい。
【0072】
代替の実施形態では、第1の直動ギアおよび/または第2の直動ギアは、ラックギア構成の代わりにらせんねじ構成を採用してもよい。
【0073】
代替の実施形態では、第1の回転ギア、第2の回転ギア、第1の直動ギア、および第2の直動ギアのいずれも、注射デバイス内の異なる位置に配置することができる。
【0074】
代替の実施形態では、着脱可能なキャップは、内側キャップ部分を含まなくてもよい。これらの実施形態では、第2の直動ギアは、着脱可能なキャップ自体の内面上に配置されていてもよい。したがって、第1のおよび第2の回転ギアのサイズは、これが第1のおよび第2の直動ギアの間に好適に回転可能に取り付けられるように調節することができる。さらに、これらの代替の実施形態では、着脱可能なキャップをハウジング内に圧力嵌めできるように、着脱可能なキャップを弾性材料で製作してもよい。
【0075】
代替の実施形態では、第1の回転ギア、第2の回転ギア、第1の直動ギア、および第2の直動ギアを有するギアアセンブリの代わりに、並進機構は、少なくとも1つのプーリおよび紐を含むプーリシステムを含んでもよい。これらの代替の実施形態では、少なくとも1つのプーリをカートリッジホルダの遠位端において取り付けてもよく、紐を、一方の端部を着脱可能なキャップの内側キャップ部分に取り付け、反対側の端部をニードルホルダに取り付けてもよい。紐は、十分な力で破断できるような特定の材料で製作してもよい。この場合、十分な力を加えられると、ニードルホルダの中空になった凹部内に遠位端部分を完全に収容した後で紐を破断することができ、その結果、注射デバイスの残りの部分から着脱可能なキャップを完全に取り外すことができるようになる。
【0076】
本出願においては構成の特定の組合せに合わせて特許請求の範囲が策定されているが、本開示の範囲には、本明細書において明示的にもしくは非明示的に開示されている任意の新規な構成もしくは構成の任意の新規な組合せ、またはそれらの任意の一般化もまた含まれ、このときそれが本明細書のいずれかの請求項において特許請求されているのと同じ発明に関連しているか否かは関係がなく、またそれが本発明と同様に同じ技術的問題の一部もしくは全部を軽減するか否かには関係のないことを理解されたい。本出願人はここに、そのような構成および/または構成の組合せに合わせて、本出願のまたはそこから派生した任意のさらなる出願の審査手続の間に、新しい請求項を策定できることを断っておく。
【0077】
本明細書に記載する物質、調合物、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または削除)を、本発明の最大限の範囲および精神から逸脱することなく行うことができ、そこにはかかる修正形態およびそのありとあらゆる均等物が包含されていることを、当業者は理解するであろう。
【0078】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書において同意語として使用され、1つまたはそれ以上の医薬品有効成分または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物と、場合により、薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤を示す。医薬品有効成分(「API」)とは、最も広範な言い方で、ヒトまたは動物に生物学的影響を及ぼす化学構造のことである。薬理学では、薬物または薬剤が、疾患の処置、治療、予防、または診断に使用され、またはそれとは別に、身体的または精神的健康を向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限られた継続期間、または慢性疾患では定期的に、使用される。
【0079】
以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つのAPI、またはその組合せを含むことができる。APIの例としては、分子量が500Da以下である低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(例えばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込まれる。1つまたはそれ以上の薬物の混合物もまた企図される。
【0080】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物または薬剤をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。それだけには限らないが、薬物送達デバイスは、注射デバイス(例えばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、潅流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(例えば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(例えば鼻用または肺用)、埋め込み型デバイス(例えば、薬物またはAPIコーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここで説明される薬物は、例えば24以上のゲージ数を有する、例えば皮下針である針を含む注射デバイスでは特に有用であり得る。
【0081】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含まれる。薬物容器は、例えば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つもしくはそれ以上の薬物の保存(例えば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の固体もしくは可撓性の容器とすることができる。
【0082】
例えば、場合によって、チャンバは、少なくとも1日(例えば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を収納するように設計される。場合によって、チャンバは、約1ヶ月から約2年の間薬物を保存するように設計される。保存は、室温(例えば約20℃)または冷蔵温度(例えば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。場合によって、薬物容器は、投与予定の医薬製剤の2つまたはそれ以上の成分(例えばAPIおよび希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成される。例えば、2つのチャンバは、これらが(例えば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成される。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成される。
【0083】
本明細書において説明される薬物送達デバイス内に含まれる薬物または薬剤は、数多くの異なるタイプの医学的障害の処置および/または予防に使用される。障害の例としては、例えば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症が含まれる。障害の別の例としては、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチがある。APIおよび薬物の例としては、例えば、それだけには限らないが、ハンドブックのRote Liste 2014、主グループ12(抗糖尿病薬物)または主グループ86(腫瘍薬物)、およびMerck Index、第15版などに記載されているものがある。
【0084】
1型もしくは2型の糖尿病、または1型もしくは2型の糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、例えばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、またはそれらの任意の混合物が含まれる。本明細書において使用される用語「類似体」および「誘導体」は、元の物質と構造的に十分に類似しており、それによって同様の機能または活性(例えば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。特に、用語「類似体」は、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から、天然のペプチド中に見出される少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させるおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然の残基もしくは完全に合成によるアミノ酸残基とすることができる。インスリン類似体は「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、用語「誘導体」は、1つまたはそれ以上の有機置換基(例えば、脂肪酸)が1つまたはそれ以上のアミノ酸に結合している、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然のペプチド中に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失され、かつ/もしくはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸によって置換されていてもよく、または、コード不可能なアミノ酸を含むアミノ酸が、天然のペプチドに付加されていてもよい。
【0085】
インスリン類似体の例としては、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置換されているヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0086】
インスリン誘導体の例としては、例えば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ω-カルボキシヘプタデカノイル-γ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0087】
GLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストの例としては、例えば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標)、エキセナチド(エキセンディン-4、Dyetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(Syncria(登録商標))、デュラグルチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン(Eligen)、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenがある。
【0088】
オリゴヌクレオチドの例としては、例えば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))がある。
【0089】
DPP4阻害剤の例としては、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンがある。
【0090】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0091】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、例えば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0092】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(例えばネズミ)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。例えば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、例えば、突然変異した、または欠失したFc受容体結合領域を有する。用語の抗体はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)および/または交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子を含む。
【0093】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(例えば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性抗体フラグメント、または二重特異性、三重特異性、四重特異性および多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体フラグメント、一価抗体フラグメント、または二価、三価、四価および多価抗体などの多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例が当技術分野で知られている。
【0094】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0095】
抗体の例としては、アンチPCSK-9mAb(例えばアリロクマブ)、アンチIL-6mAb(例えばサリルマブ)、およびアンチIL-4mAb(例えばデュピルマブ)がある。
【0096】
本明細書において説明される任意のAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける薬物または薬剤の使用に企図される。薬学的に許容される塩は、例えば酸付加塩および塩基性塩である。
【0097】
本明細書に記載のAPI、調合物、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または削除)を、本発明の最大限の範囲および精神から逸脱することなく行うことができ、そこにはかかる修正形態およびそのありとあらゆる均等物が包含されていることを、当業者は理解するであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4