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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220218BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20220218BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220218BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220218BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20220218BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 A
C22C38/60
H01F1/147 175
C21D9/46 501B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018533058
(86)(22)【出願日】2016-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2016015225
(87)【国際公開番号】W WO2017111548
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2018-07-23
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】10-2015-0185427
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-スゥ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ス-ヨン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】境 周一
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0073719(KR,A)
【文献】特開2014-162939(JP,A)
【文献】特開2013-091837(JP,A)
【文献】特開平11-092891(JP,A)
【文献】特開2001-131717(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0133100(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 8/12
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5%乃至3.3%、Al:0.05%乃至1%、Mn:0.05%乃至1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001%乃至0.1%、Sn:0.001%乃至0.1%、及びSb:0.001%乃至0.1%、B:0.001%以下(但し0%を含まない)、Mg、Zr及びVはそれぞれ:0.005%以下(但し0%を含まない)及びCu:0.025%以下(但し0%を含まない)を含み、残部は、Fe及び不可避的不純物からなり、下記式1~式3を満足する無方向性電磁鋼板。
[式1]
1.70≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3*([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
[式3]
0.025≦[P]+[Sn]+[Sb]≦0.15
(但し、式1乃至式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[P]、[Sn]及び[Sb]は、それぞれSi、Al、Mn、P、Sn及びSbの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
下記式4で計算される密度が7.57g/cm乃至7.67g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
[式4]
7.865+(-0.0611×[Si]-0.102×[Al]+0.00589×[Mn])
(但し、式4において、[Si]、[Al]及び[Mn]は、それぞれSi、Al及びMnの含有量(重量%)を示す。)
【請求項3】
引張試験の延伸率が24%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
厚さが0.10mm乃至0.35mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
重量%で、Si:2.5%乃至3.3%、Al:0.05%乃至1%、Mn:0.05%乃至1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001%乃至0.1%、Sn:0.001%乃至0.1%、及びSb:0.001%乃至0.1%、B:0.001%以下(但し0%を含まない)、Mg、Zr及びVはそれぞれ:0.005%以下(但し0%を含まない)及びCu:0.025%以下(但し0%を含まない)を含み、残部は、Fe及び不可避的不純物からなり、下記式1乃至式3を満足
するスラブを加熱した後熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を再結晶焼鈍する段階とを含む無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
1.70≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3*([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
[式3]
0.025≦[P]+[Sn]+[Sb]≦0.15
(但し、式1~式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[P]、[Sn]及び[Sb]は、それぞれSi、Al、Mn、P、Sn及びSbの含有量(重量%)を示す。)
【請求項6】
前記熱延板を製造する段階において、前記スラブを1100℃乃至1200℃で加熱することを特徴とする請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板を製造する段階において、仕上げ温度800℃乃至1000℃で熱間圧延することを特徴とする請求項5又は6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
熱延板を製造し、850℃乃至1150℃温度で焼鈍する段階を更に含むことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
製造された鋼板は、下記式4で計算される密度が、7.57g/cm乃至7.67g/cmであることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式4]
7.865+(-0.0611×[Si]-0.102×[Al]+0.00589×[Mn])
(但し、式4において、[Si]、[Al]及び[Mn]は、それぞれSi、Al及びMnの含有量(重量%)を示す。)
【請求項10】
製造された鋼板は、引張試験の延伸率が24%以上であることを特徴とする請求項5乃至9のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷延板を製造する段階において、0.10mm乃至0.35mmの厚さで冷間圧延することを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、電気エネルギを機械的エネルギに変換する機器に主に用いられるが、その過程で高い効率を発揮するためには優れた磁気的特性が求められる。磁気的特性としては鉄損及び磁束密度があるが、鉄損が低ければエネルギ変換過程で損失するエネルギを減らすことができ、磁束密度が高ければ同一の電気エネルギでより大きい動力を産出できるので、無方向性電磁鋼板の鉄損が低く磁束密度が高ければ、モータのエネルギ効率を増加させることができる。一般に無方向性電磁鋼板の鉄損を低くするため、比抵抗を増加させる元素を添加するか、鋼板を薄い厚さに圧延する方法が用いられている。
【0003】
無方向性電磁鋼板の磁気的特性を増加させるために通常用いられる方法は、Siを合金元素に添加することである。Siの添加により鋼の固有抵抗が増加すれば高周波鉄損が低くなる長所があるが、磁束密度が低くなり、加工性が低下し、過剰に添加すると冷間圧延が困難になる。特に、高周波の用途に用いられる電磁鋼板は、厚さを薄くするほど鉄損低減の効果を増大させることができるが、Siの添加による加工性の低下は、薄物圧延には致命的な問題点となる。
【0004】
Siの添加による加工性低下を解消するために、他の比抵抗を増加させる元素であるAl、Mnなどを投入する場合もある。これら元素の添加により鉄損は減少させることはできるが、全体合金量の増加により磁束密度が低くなり、材料の硬度の増加と加工性の悪化により冷間圧延が困難となるという短所がある。それだけでなく、Al及びMnは、鋼板内に不可避的に存在する不純物と結合して窒化物や硫化物などを微細に析出させて、むしろ鉄損を悪化させる場合もある。
【0005】
このような理由で、無方向性電磁鋼板の製鋼段階で不純物の濃度をできる限り低く管理し、磁壁移動を妨げる微細析出物の生成を抑制することによって鉄損を低くする方法が用いられている。しかし、鋼の高純度化により鉄損を改善するという方法は、磁束密度向上の効果は大きくなく、むしろ製鋼作業性の低下及びコスト増加の要因になるという短所がある。
【0006】
無方向性電磁鋼板の磁性を向上させるため、製品を薄く製造したり、磁性を向上できる特殊な元素を添加したり、結晶粒の大きさ及び集合組織を最適化したりする多様な方法が提案されてきた。REMを添加して無方向性電磁鋼板の磁性を向上させる方法、熱延板焼鈍後の結晶粒を大きくさせて冷間圧延及び再結晶焼鈍する方法、厚さ50mm以下の鋳片を用いて、柱状晶組織に起因した{001}//ND方位を残留させて磁性を向上させる方法などが提案された。しかし、これらを実生産工程に適用すると、コストが急激に増加したり、既存の設備を利用した生産が不可能であったり、生産性が過度に低下したりするなどの問題が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施例は、鋼の添加成分のうちSi、Al、Mnの含有量を精密に制御して、磁性に優れ、且つ生産性の高い無方向性電磁鋼板を提供することにある。
本発明の他の実施例は、無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.3%、Al:0.05~1%、Mn:0.05~1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001%乃至0.1%、Sn:0.001%乃至0.1%、及びSb:0.001~0.1%からなり、残部は、Fe及び不可避的不純物からなり、下記式1~3を満足することを特徴とする。
[式1]
1.7≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
[式3]
0.025≦[P]+[Sn]+[Sb]≦0.15
(但し、式1乃至式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[P]、[Sn]及び[Sb]は、それぞれSi、Al、Mn、P、Sn及びSbの含有量(重量%)を示す。)
【0009】
Bは0.001重量%以下(但し0重量%を含まない)、Mg、Zr及びVはそれぞれ0.005重量%以下(但し0重量%を含まない)及びCuは0.025重量%以下(但し0重量%を含まない)を更に含むことができる。
【0010】
下記式4で計算される密度が7.57g/cm~7.67g/cmであることができる。
【0011】
[式4]
7.865+(-0.0611×[Si]-0.102×[Al]+0.00589×[Mn])
(但し、式4において、[Si]、[Al]及び[Mn]は、それぞれSi、Al及びMnの含有量(重量%)を示す。)
引張試験の延伸率が、24%以上であり得る。
厚さが、0.10~0.35mmであり得る。
【0012】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.3%、Al:0.05~1%、Mn:0.05~1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001~0.1%、Sn:0.001~0.1%、及びSb:0.001~0.1%からなり、残部は、Fe及び不可避的不純物からなり、下記式1~3を満足するスラブを加熱した後に熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
冷延板を再結晶焼鈍する段階と、を含むことを特徴とする。
[式1]
1.7≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
(但し、式1及び式2において、[Si]、[Al]及び[Mn]は、それぞれSi、Al及びMnの含有量(重量%)を示す。)
【0013】
熱延板を製造する段階において、スラブを1100~1200℃で加熱し得る。
熱延板を製造する段階において、仕上げ温度800~1000℃で熱間圧延し得る。
熱延板を製造し、850~1150℃温度で焼鈍する段階を更に含み得る。
【0014】
スラブは、Bを0.001重量%以下(但し0重量%を含まない)、Mg、Zr及びVをそれぞれ0.005重量%以下(但し0重量%を含まない)及びCuを0.025重量%以下(但し0重量%を含まない)を更に含み得る。
【0015】
製造された鋼板は、下記式4で計算される密度が7.57~7.67g/cmであり得る。
[式4]
7.865+(-0.0611×[Si]-0.102×[Al]+0.00589×[Mn])
(但し、式4において、[Si]、[Al]及び[Mn]は、それぞれSi、Al及びMnの含有量(重量%)を示す。)
【0016】
製造された鋼板は、引張試験の延伸率が24%以上であり得る。
冷延板を製造する段階において、0.10~0.35mmの厚さで冷間圧延し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、磁気的特性に優れ、かつ生産性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2及び第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層及び/またはセクションを説明するために用いられるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層又はセクションを他の部分、成分、領域、層又はセクションとの区別にのみ用いられる。従って、以下で記載する第1部分、成分、領域、層又はセクションは、本発明の範囲から外れない範囲内で第2部分、成分、領域、層又はセクションといえる。
【0019】
ここに用いられる専門用語は、単に特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここに用いられる単数形は、文言においてこれと明確に反対の意味を有さない限り複数形も含む。明細書において用いられる「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分の存在や付加を除くものではない。
【0020】
ある部分が他の部分の「上に」にあるという場合、これは、他の部分の真上又は上にあるか、その間に他の部分が介在され得る。これと対照的にある部分が他の部分の「真上に」あるという場合は、その間に他の部分が介されない。
【0021】
他に定義しないが、ここに用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義されている用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものと更に解釈され、定義しない限り理想的又は過度に形式的な意味として解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0022】
以下、本発明の実施例について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は、様々な相異する形態に具現され得、ここで説明する実施例に限らない。
【0023】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.3%、Al:0.05~1%、Mn:0.05~1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001~0.1%、Sn:0.001~0.1%、及びSb:0.001~0.1%からなり、残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。
【0024】
まず、無方向性電磁鋼板の成分を限定する理由から説明する。
Si:2.5~3.3重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割を果たす。Siの添加量が少なすぎる場合は、高周波鉄損の改善効果が不足する。またSiを過剰に添加した場合、材料の脆性が増加して圧延生産性が急激に低下することがある。従って、前述した範囲でSiを添加する。
【0025】
Al:0.05~1重量%
アルミニウム(Al)は、Mnと共に比抵抗を高めて鉄損を低くする役割を果たす。Siに比べて比抵抗増加量は低いが、適正量を添加して圧延性を維持しながら比抵抗を高めることができる。Alの添加量が少なすぎると、高周波鉄損の効果が顕著に減少し、窒化物及び硫化物が微細に形成されて磁気特性を劣化させる。Alを過剰に添加すると、磁気的特性又は圧延性が急激に劣化し得る。従って、Alは、前述した範囲を添加する。
【0026】
Mn:0.05~1重量%
マンガン(Mn)は、Alと共に比抵抗を高めて鉄損を低くする役割を果たす。Mnの添加量が少なすぎると、高周波鉄損の効果が顕著に減少して窒化物及び硫化物が微細に形成されて磁気的特性を低下させる。Mnを過剰に添加すると、磁気的特性又は圧延性が急激に低下することがある。従って、Mnは、前述した範囲を添加する。
【0027】
S:0.01重量%以下
硫黄(S)は、鋼内に不可避的に存在する元素であって、微細な析出物であるMnS、CuSなどを形成して磁気的特性を悪化させるため、0.01重量%以下、より具体的には0.005重量%以下に制限した方が良い。
【0028】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細でかつ長いAlN析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な窒化物を形成して結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させるので、0.005重量%以下、より具体的には0.003重量%以下に制限した方が良い。
【0029】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こし、その他の不純物元素と結合して炭化物を生成して磁気的特性を低下させるので、0.005重量%以下、より具体的には0.003重量%以下に制限した方が良い。
【0030】
Ti:0.005重量%以下、Nb:0.005重量%以下
チタン(Ti)とニオビウム(Nb)は、炭化物又は窒化物を形成して鉄損を悪化させて、磁性に好ましくない{111}集合組織の発達を促進するので、0.005重量%以下、より具体的には0.003重量%以下に制限した方が良い。
【0031】
P:0.001~0.1重量%、Sn:0.001~0.1重量%、及びSb:0.001~0.1重量%
リン(P)、錫(Sn)、及びアンチモン(Sb)は、鋼板の表面及び結晶粒系に偏析し、焼鈍過程で発生する表面酸化を抑制し、{111}//ND方位の再結晶を抑制して集合組織を改善させる役割を果たす。
【0032】
一つの元素でも添加量が少ないと、その効果が顕著に低下し、過剰に添加されると、結晶粒系偏析量の増加によって結晶粒成長が抑制されて鉄損が増加し、鋼の靱性が低下して生産性が低下するので好ましくない。特にP、Sn、Sbの合計を0.025~0.15重量%範囲に制限する時、表面酸化抑制及び集合組織の改善の効果が極大化して磁気的特性が顕著に改善される。
【0033】
その他の不純物
前述した元素のほかにもB、Mg、Zr、V、Cuなどの不可避的に混入される不純物が含まれ得る。これら元素は微量であるが、鋼内の介在物形成などによる磁性悪化を招くので、B:0.001重量%以下、Mg、Zr、V:それぞれ0.005重量%以下、Cu:0.025重量%以下に管理しなければならない。
【0034】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記式1~式3を満足する。
[式1]
1.7≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
[式3]
0.025≦[P]+[Sn]+[Sb]≦0.15
(但し、式1乃至式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[P]、[Sn]及び[Sb]は、それぞれSi、Al、Mn、P、Sn及びSbの含有量(重量%)を示す。)
【0035】
式1~式3を満足すると、磁気的特性と圧延性とが同時に優れるようになり、この範囲を外れると磁気的特性又は圧延性が急激に低下することがある。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記式4で計算する密度が7.57~7.67g/cmであることができる。密度が7.5767g/cm未満であれば、磁束密度が低下したり圧延性が急激に低下したりすることがある。密度が7.67g/cmを超えると、鉄損が増加して特に高周波鉄損が深刻に悪化し得る。従って、前述した範囲に密度を調節する。
【0036】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、引張試験の延伸率が24%以上であり得る。延伸率が24%未満の場合には、圧延性が低下して生産性が悪くなる。更に具体的には、延伸率は、28~34%であり得る。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、厚さが0.10~0.35mmであり得る。
【0037】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.3%、Al:0.05~1%、Mn:0.05~1%、S:0.01%以下(但し0%を含まない)、N:0.005%以下(但し0%を含まない)、C:0.005%以下(但し0%を含まない)、Ti:0.005%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.005%以下(但し0%を含まない)、P:0.001~0.1%、Sn:0.001~0.1%、及びSb:0.001~0.1%からなり、残部は、Fe及び不可避的不純物からなり、下記式1~3を満足するスラブを加熱した後に熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を再結晶焼鈍する段階と、を含む。
[式1]
1.7≦[Si]/([Al]+[Mn])≦2.9
[式2]
50≦13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)≦60
[式3]
0.025≦[P]+[Sn]+[Sb]≦0.15
(但し、式1乃至式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[P]、[Sn]及び[Sb]は、それぞれSi、Al、Mn、P、Sn及びSbの含有量(重量%)を示す。)
【0038】
まず、スラブを加熱した後に熱間圧延して熱延板を製造する。各組成の添加比率を限定する理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成を限定した理由と同一である。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、再結晶焼鈍などの過程では、スラブの組成は、実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成とは実質的に同一である。
【0039】
スラブを加熱炉に裝入して1100~1200℃で加熱する。
加熱されたスラブは、2~2.3mmで熱間圧延されて熱延板として製造される。熱延板を製造する段階での仕上げ温度は800~1000℃であり得る。
【0040】
熱間圧延された熱延板は、850~1150℃の温度で熱延板焼鈍する。熱延板焼鈍温度が850℃未満の場合は、組織が成長しないか微細に成長して、磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1150℃を超える場合は、磁気特性がむしろ低下し、板状の変形により圧延作業性が悪くなるので、その温度範囲は850~1150℃に制限する。より好ましい熱延板の焼鈍温度は950~1150℃である。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略可能である。熱延板焼鈍後の平均結晶粒の直径は120μm以上が好ましい。
【0041】
熱延板焼鈍後、熱延板を酸洗して所定の板厚さになるように冷間圧延する。熱延板の厚さに対応して異なって適用され得るが、約70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.10~0.35mmになるように冷間圧延することができる。
【0042】
最終冷間圧延された冷延板は、最終再結晶焼鈍を行う。最終再結晶焼鈍の温度が低すぎると、結晶が十分に発生せず、最終再結晶焼鈍の温度が高すぎると結晶粒の急激な成長が進行して、磁束密度及び高周波鉄損が悪化するため、850~1150℃の温度で行うことが好ましい。
【0043】
再結晶焼鈍板は、絶縁コーティング処理をして顧客に出荷される。絶縁コーティングは、有機質、無機質又は有機-無機複合コーティング処理ができ、その他絶縁が可能なコーティング剤を使用し得る。顧客は本鋼板をそのまま使用し得るし、また必要に応じて応力除去焼鈍を行った後に使用し得る。
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためであり、本発明はこれに限定されない。
[実施例1]
下記表1のように作られたスラブを1100℃で加熱し、870℃の仕上げ温度で熱間圧延して2.3mmの厚さの熱延板を製造した。熱延板は1060℃で100秒間焼鈍し、酸洗した後0.35mmの厚さで冷間圧延し、1000℃で110秒間最終再結晶焼鈍をした。各試片に対する[Si]/([Al]+[Mn])値、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)値、[P]+[Sn]+[Sb]値、密度、磁束密度(B50)、鉄損(W15/50)、高周波鉄損(W10/400)、屈曲試験の結果及び延伸率を下記表2に整理した。
【0045】
密度は、7.865+(-0.0611×[Si]-0.102×[Al]+0.00589×[Mn])の式で計算された値を示した。磁束密度、鉄損、高周波鉄損などの磁気的特性は、それぞれの試片に対して3枚以上の試片を60mm×60mm大きさに切断して単板試験機(Singlesheet tester)で圧延方向と垂直方向との磁気的特性を測定し、二つの方向の測定値を平均して示した。この時、B50は、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度であり、W15/50は、50Hzの周波数で1.5Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、W10/400は、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損を意味する。屈曲試験は、圧延生産性の予測のために行われ、熱延板焼鈍後、2.3mmの厚さの試片を300mm×35mmの大きさで切断して常温で密着屈曲試験後に、屈曲外側の表面及び角部にクラックなどの亀裂が発生すると不良、発生しないと良好で示した。延伸率はJIS 5号規格に従い引張試験して得られる値を示した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
表1及び表2に示すように、本発明の条件を満足するA4、A5、A7、A8、A10、A11、A12は、磁気的特性に優れ、屈曲試験の結果及び延伸率においても全て良好であることが示された。反面[Si]/([Al]+[Mn])値が本発明の範囲を超えるA3、A6は、磁気的特性が劣るか、屈曲試験結の果及び延伸率が不良であることが示された。[Si]/([Al]+[Mn])値が本発明の範囲に達しないA9、A13も磁気的特性が劣るか、屈曲試験の結果及び延伸率において不良であることが示された。13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)値が本発明の範囲を超過したり達しないA2、A14においても磁気的特性が劣るか、屈曲試験の結果及び延伸率が不良であることが示された。
【0049】
[実施例2」
下記表3及び表4のように組成されたスラブを、1130℃で加熱し、870℃の仕上げ温度で熱間圧延して2.0mmの厚さの熱延板を製造した。熱延板を、1030℃で100秒間焼鈍し、酸洗した後、0.35mmの厚さで冷間圧延して、990℃で110秒間最終再結晶焼鈍を行った。各試片に対する[Si]/([Al]+[Mn])値、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)値、[P]+[Sn]+[Sb]値、磁束密度(B50)、鉄損(W15/50)、高周波鉄損(W10/400)、屈曲試験の結果及び延伸率を下記表5に整理した。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表5に示すように本発明の範囲に相当するB1、B2、B3、C1、C2、C3は、磁気的特性に優れ、且つ屈曲試験の結果においても全て良好であることが示された。反面、B4、B5、B6、C4、C5、C6は、B、Mg、Zr、V、Cuのうち一つ以上の成分含有量が本発明の範囲を超えて磁気的特性が劣った。B7は、P、Sn、Sb成分含有量の合計が本発明の範囲に達しておらず、磁気的特性が劣り、C7は、Mgの成分含有量だけでなく、P、Sn、Sbの成分含有量の合計も本発明の範囲を超えて磁気的特性においても劣位、且つ屈曲試験の結果及び延伸率もまた不良であった。
【0054】
本発明は、実施例に限定されず、互いに異なる多様な形態に製造され得る。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態に実施され得ることを理解できるであろう。従って、以上の実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。