IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ペイント・アンド・エアゾール・コンサルタンシーの特許一覧 ▶ マストン・オーユーの特許一覧

特許7026633エアゾール配合物及び2成分エアゾール配合物において硬化剤前駆体から硬化剤化合物が生成するのを防止するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】エアゾール配合物及び2成分エアゾール配合物において硬化剤前駆体から硬化剤化合物が生成するのを防止するための方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20220218BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220218BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220218BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20220218BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/20
C09D7/63
C09J163/00
C09J11/06
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2018549625
(86)(22)【出願日】2016-11-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 FI2016050829
(87)【国際公開番号】W WO2017098080
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-10-28
(31)【優先権主張番号】20155933
(32)【優先日】2015-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】518203788
【氏名又は名称】ペイント・アンド・エアゾール・コンサルタンシー
(73)【特許権者】
【識別番号】518203799
【氏名又は名称】マストン・オーユー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク・ファン・デル・ネット
【審査官】▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-035947(JP,A)
【文献】特開2000-038542(JP,A)
【文献】特表2004-530749(JP,A)
【文献】特開2007-276391(JP,A)
【文献】国際公開第2015/117846(WO,A1)
【文献】特開2002-249544(JP,A)
【文献】欧州特許第03387074(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/00
C09D 7/20
C09D 7/63
C09J 163/00
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料又は接着剤を作製するためにエアゾール缶内で使用するのに適したエアゾール配合物中で、硬化剤前駆体から硬化剤化合物が生成するのを防止する方法であって、前記エアゾール配合物が、
前記缶内に以下の化合物:
- エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;
- 弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒
を添加する工程、及び、
前記缶内に前記化合物を添加する前又は後に、前記塗料生成化学薬品;弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を混合して混合物を得る工程
によって調製される方法において、
- 1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する弱酸の群から選択される弱酸(XCOOH)を触媒量で添加して、(遊離の)水及びケトンの存在下のエポキシ硬化剤前駆体とエポキシ硬化剤アミンの間の反応バランスを、一般的反応(2a):
【化1】
に従うエポキシ硬化剤前駆体の生成に好都合なようにシフトさせ、それによって、前記エポキシ硬化剤前駆体からのエポキシ硬化剤アミンの生成を防止し;
前記エポキシ硬化剤前駆体が、イミン、エナミン、マンニッヒ塩基、アルジミン及びその混合物からなる群から選択されること、
- 前記エアゾール配合物が、2500ppm未満の遊離の水を含むこと、及び、
- 前記方法が、前記エアゾール配合物を缶から噴霧して標的表面上に塗料の層を形成させる工程をさらに含み、前記エポキシ硬化剤前駆体の、噴霧の際に空気から水(水分)を吸収して加水分解して、エポキシ樹脂と反応して架橋膜を生成するアミン(エポキシ硬化剤)を形成する作用によって、前記塗料が形成されること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品の少なくとも1つを、缶内の分離した密封可能なコンパートメント中に添加し;弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を前記缶内に添加し;噴射剤を缶内に提供し;缶を密封し;使用前に、缶のルームの中で塗料生成化学薬品、弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を一緒に混合して混合物を得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エアゾール配合物が、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を混合して混合物を得る工程;得られた混合物をエアゾール缶内に誘導し、噴射剤を缶内に提供する工程;並びに缶を密封する工程によって調製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
缶からエアゾール配合物を噴霧して、標的表面上に架橋膜(塗料の層)を形成する工程を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記調製した混合物を0.5~3年の長期間貯蔵した後に、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒の混合物を含むエアゾール配合物の前記混合物を再使用する工程を更に含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
塗料の乾燥膜が、透明であり、60°の角度下で、10~100の範囲の光沢を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
60°の角度下で、90超~100の範囲の光沢を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
塗料の乾燥膜が、ペンデル硬度計で測定して、10hの乾燥時間後で40超、120hの乾燥時間後で100超のケーニッヒ硬度を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項9】
塗料の乾燥膜の接着性がPosiTestで450psiより大であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項10】
弱酸(XCOOH)が、10~100の範囲の光沢を有する塗料が前記エアゾール配合物から生成されるのを可能にする量で塗料生成化学薬品の混合物中に添加されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
触媒量の弱酸が、エアゾール配合物の0.1~5質量%(w/w)であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
触媒量の弱酸が、エアゾール配合物の0.1~3%(w/w)であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
触媒量の弱酸が、エアゾール配合物の0.5~2%(w/w)であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
缶の中に水、ケトン及びエポキシ硬化剤前駆体が存在する場合、触媒量の弱酸の添加が弱酸環境をもたらし、これが、エポキシ硬化剤前駆体とエポキシ硬化剤の間の反応バランスを硬化剤前駆体の生成に好都合なように誘導することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
触媒量の弱酸が、前記エアゾール配合物においてpH3~6に達するのを可能にすることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
弱酸がカルボン酸及び/又は炭酸から選択されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
弱酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、炭酸及びその混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
弱酸が、プロピオン酸、酢酸、安息香酸又はその混合物を含むことを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
エポキシ樹脂を弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒と混合し、続いて、エポキシ硬化剤前駆体を混合物中に導入することを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
硬化剤前駆体の添加後の、コーティング形成化学薬品のための混合時間が、1000リットルの混合物当たり15分間未満であることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
塗料又は接着剤を作製するための缶内で使用するのに適した、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;弱酸、噴射剤、及び任意に含まれていてもよい溶媒を含有するエアゾール配合物であって、
a)エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤前駆体を混合することによって塗料生成化学薬品の混合物を提供し、弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を前記混合物中に混合し;前記混合物をエアゾール缶内に誘導し;缶を密封し;噴射剤を前記缶内に提供すること、又は、
b)エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;及び弱酸;及び任意に含まれていてもよい溶媒をエアゾール缶内に添加し;缶を密封し;噴射剤を前記缶内に提供し;エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤前駆体を混合し、缶内で弱酸及び任意に含まれていてもよい溶媒を混合すること
によって調製された、エアゾール配合物において、
- エポキシ硬化剤前駆体が、イミン、エナミン、マンニッヒ塩基、アルジミン及びその混合物からなる群から選択され;
- 弱酸が、1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する群から選択され;
- 前記エアゾール配合物が、エアゾール配合物の0.1~5質量%(w/w)である触媒量の弱酸を含み、
- 前記エアゾール配合物が、2500ppm未満の遊離の水をさらに含み、
- 前記エアゾール配合物においては、弱酸(XCOOH)により、(遊離の)水及びケトンの存在下のエポキシ硬化剤前駆体とエポキシ硬化剤アミンの間の反応バランスが、一般的反応(2a):
【化2】
に従うエポキシ硬化剤前駆体の生成に好都合なようにシフトされており、それによって、前記エポキシ硬化剤前駆体からのエポキシ硬化剤アミンの生成が防止されており、
- 前記エアゾール配合物が缶から噴霧されて標的表面上に塗料の層が形成される際には、前記エポキシ硬化剤前駆体の、噴霧の際に空気から水(水分)を吸収して加水分解して、エポキシ樹脂と反応して架橋膜を生成するアミン(エポキシ硬化剤)を形成する作用によって、前記塗料が形成される
ことを特徴とする、エアゾール配合物。
【請求項22】
前記エアゾール配合物が、エアゾール配合物の0.1~3%(w/w)である触媒量の弱酸を含むことを特徴とする、請求項21に記載のエアゾール配合物。
【請求項23】
前記エアゾール配合物が、エアゾール配合物の0.5~2%(w/w)である触媒量の弱酸を含むことを特徴とする、請求項22に記載のエアゾール配合物。
【請求項24】
2000ppm未満の水を含むことを特徴とする、請求項21~23のいずれか一項に記載のエアゾール配合物。
【請求項25】
水捕捉剤を含まないことを特徴とする、請求項21~24のいずれか一項に記載のエアゾール配合物。
【請求項26】
イミンが、エチレンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物;ジエチルケトンベースのジイミン、好ましくはN,N-ジ(1-エチルプロピリデン)-m-キシリレンジアミン;又はその混合物であることを特徴とする、請求項21から25のいずれか一項に記載のエアゾール配合物。
【請求項27】
エナミンが、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンと第二級ジアミンの反応生成物;イソホロンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物;N,N,ビス(1,3-ジメチルブチルリジン)エチレンジアミンであることを特徴とする、請求項21に記載のエアゾール配合物。
【請求項28】
マンニッヒ塩基が、ジメチルアミノメチルフェノールであることを特徴とする、請求項21に記載のエアゾール配合物。
【請求項29】
アルジミンが、3-オキサゾリジンエタノール,2-(1-メチルエチル)-,3,3-カーボネート又はN-ブチル-2-(1-エチルペンチル)-1,3-オキサゾリジンであることを特徴とする、請求項21に記載のエアゾール配合物。
【請求項30】
少なくとも1つの溶媒を更に含むことを特徴とする、請求項21から29のいずれか一項に記載のエアゾール配合物。
【請求項31】
溶媒がケトンであることを特徴とする、請求項21に記載のエアゾール配合物。
【請求項32】
エポキシ樹脂が、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミンエポキシ樹脂又はその混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項21から31のいずれか一項に記載のエアゾール配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料に関連する原料から塗料又は接着剤を作製するための安定なエアゾール配合物に関する。前記配合物は、エアゾール缶用のエポキシ樹脂及び硬化剤前駆体を含む。
【0002】
本発明は、塗料又は接着剤を作製するための缶において使用するのに適したエアゾール配合物中の水の影響を制御するための方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
多年にわたって、缶に充填されたエアゾール塗料及び接着剤系のための様々なエアゾール配合物が公知である。1成分エアゾール塗料及び接着剤配合物は最も重要なものであるが、2成分塗料又は接着剤配合物からなる2成分塗料及び接着剤系が、ここ数年でより重要性を増してきている。
【0004】
1成分エアゾール配合物は、従来のエアゾール缶、すなわちチャンバーを1つのみ有するエアゾール缶において使用するのに適している。2成分エアゾール配合物は、一般に、少なくとも2つのチャンバーを有するエアゾール缶にしか適していない。
【0005】
2成分エアゾール塗料及び接着剤系は、エアゾール缶内に、結合剤、硬化剤又は架橋成分などのキュアリング(cureing)成分、噴射剤及び任意選択で溶媒を含む。結合剤及び硬化剤は、一般に、エアゾール缶中の別個のチャンバーに充填される。これらの種類のエアゾール缶は「缶内缶型(can in a can)」缶又は「2-チャンバー」缶とも称される。缶を使用する直前に、それらのチャンバーの1つに穴をあけ、それによって、その缶内で、結合剤と硬化剤を互いに接触させる。缶内でそれらが接触すると直ちに、結合剤と硬化剤の間の反応が開始され、エアゾール配合物は、噴霧のためにいつでも使用される状態となる。
【0006】
ポリウレタン系は、2成分エアゾール塗料系の一例である。この2成分ポリウレタンエアゾール配合物は、結合剤成分、ヒドロキシル基含有アクリレート又はポリエステル樹脂、別個のチャンバー中のキュアリング成分としてのポリイソシアネートを含む。この種のエアゾール塗料缶は、主に、車輛、例えば乗用車、トラック、バス、鉄道及びコンテナのために、プライマー、アンダーコート、仕上げコート等を塗布するのに用いられる。
【0007】
欧州特許第1125997B1号は、缶中の2成分エアゾール塗料系のためのエアゾール配合物を開示している。ヒドロキシル基を含むアクリル樹脂からなる塗料材料及び脂肪族ポリイソシアネートからなる硬化剤を、エアゾール缶内の2つの別個のチャンバー中に充填し、それらをまさに塗布する直前に合体させる。これらの成分は、プロパン/ブタン混合物からなる噴射剤ガスを介して、エアゾール缶から一緒に噴霧される。
【0008】
エポキシ系は、2成分エアゾール塗料及び接着剤系の別の例である。エポキシ系は、結合剤としてのエポキシ樹脂親化合物、及び通常、硬化剤としてのアミンを含む。2成分エポキシ系は、自動車目的に加えて、一般産業及び家内工業目的に、建築部門、機械建設産業等のために使用される。例えば、欧州特許第1427767B1号は、特に修理目的に適した、エポキシ塗料及び接着剤系で缶に充填された2成分エアゾール塗料及び接着剤系を開示している。エアゾール缶内のエアゾール塗料及び接着剤系は、(i)親エポキシ樹脂、(ii)溶媒混合物、(iii)噴射剤ガス、及び(iv)親エポキシ樹脂のための硬化構成要素として使用されることになる別個のチャンバー中のエポキシキュアリング剤を含む、2成分エポキシ技術に基づくエアゾール配合物を含む。
【0009】
公知の2成分エアゾール塗料及び接着剤系では、結合剤及び硬化剤は、結合剤と硬化剤が反応できないように、エアゾール缶内の別個のチャンバー中に配置される。チャンバーのうちの1つに穴をあけることによって、結合剤と硬化剤が接触するとすぐに、エアゾール配合物中で硬化反応が直ちに開始される。したがって、硬化反応は缶内ですでに始まっているので、この種のエアゾール配合物は全体が一気に使用されなければならない。そうした2成分エアゾール塗料及び接着剤系の有効期間は、最大で2~3日間に限定される。更に、2-チャンバーエアゾール缶は複雑であり、製造コストが高い。
【0010】
1つのコンパートメント、すなわち単一チャンバーの缶を使用するエポキシ樹脂ベースの塗料及び接着剤系も利用することができる。これらのシステムでは、個々の反応成分は、その缶が使用されるまでは、潜在的な形態(latent form)である。しかし、これらの解決法には;それらが水分に全く耐えられないか、或いは、良質の塗料をそれらから調製することができないという、主に2つの欠点がある。
【0011】
後者の欠点は、缶内でのエアゾールの全混合物の安定性を確実にするために、従来技術により公知のこれらのエアゾールは、非常に多くのドライ水捕捉剤又は液体水捕捉剤を含むため、これらのエアゾール配合物から作製されるコーティングの構造及び品質が完全に変わってしまうという事実に因るものである。水捕捉剤は、塗料に関連した材料ではない。エポキシ樹脂ベースの塗料及び接着剤配合物においては、周囲水分の影響を阻止するために、いくつかの液体及びドライ水捕捉剤が使用されており、これらは、反応(1a~1c)におけるケトン-イミンバランスに、したがって(エポキシ)硬化剤化合物(アミン)の生成に影響を及ぼすことになる。
【0012】
【化1】
【0013】
又は
【0014】
【化2】
【0015】
これは、可逆的バランス反応として提示することもできる:
【0016】
【化3】
【0017】
反応1a~1cにおいて、エポキシ硬化剤前駆体は、イミンの代わりに、アルジミン、エナミン又はマンニッヒ塩基であってもよい。
【0018】
エアゾール缶内に水が存在する場合、イミンは水と反応してアミン及びケトンを生成する。したがって、エアゾール缶内の水の存在は、加水分解反応(1a)を起こさせる可能性があり、そこで、イミンは加水分解して対応するアミンとなり、次いでそれは、前記アミンとエポキシ樹脂のキュアリング反応に関与し得る。
【0019】
加水分解反応(1a)の右側から水を除去することによって、又は、水捕捉剤との縮合反応(1b)での排除段階により水を除去することによって、反応(1a)においてアミン(エポキシ硬化剤化合物)が生成されるのを防止するか、又は反応(1b)を、アミン(エポキシ硬化剤)の代わりにイミン(エポキシ硬化剤前駆体)を生成するのに好都合なようにシフトさせることができる。
【0020】
従来技術において、本発明者らは、イミンと水の間の上記反応(1a)でのエポキシ硬化剤の生成を制御するために、多量の水捕捉剤を添加した。捕捉剤で水を除去することも、やはり、より多くのイミンを生成するように反応(1b)をシフトさせる。反応1a及び1bを制御するために使用される水捕捉剤の量が非常に多かったため、達成されるコーティングの質を悪化させた。塗料膜の表面が柔らかいか又は脆いままになるため、水捕捉剤の使用は高品質塗料の作製を妨げる傾向があり、エポキシ硬化剤の生成を制御するためにエアゾール配合物中で多量の水捕捉剤を使用した場合、クリアコートを高光沢又は着色高光沢にすることも不可能になる。したがって、これらの公知の1缶2成分型(one-can-two-component)エアゾール配合物から、良質の塗料を調製することはできない。
【0021】
例えば、特開2004035947の要約は、エアゾール缶用の2成分エアゾール配合物を開示している。この配合物は、ビスフェノールA型などのエポキシ樹脂、硬化剤前駆体としてのイミン及び噴射剤を含む。この種の解決法における欠点及び課題は、一般に、その缶内ですでに時期尚早な硬化を引き起こしているエアゾール配合物中での水分の存在である。したがって、前駆体及びパッケージング環境についてのゼロ周囲水分は重要な要件である。更に、この特許文献では、水捕捉剤を添加することによって乾燥状態を確実にすべきであることが提起されている。上記したように、水捕捉剤の添加は、それが、反応(2a)及び(2b)におけるイミン-ケトンバランスに影響を及ぼすので、硬化剤化合物が時期尚早に生成するのを防止することになる。しかし、水捕捉剤の添加は、塗料品質に悪影響を及ぼすことになり、したがって、開示されているこの種の2成分エアゾールの主な用途は光沢<5でのプライマーとしてのものである。
【0022】
特許文献特開2004035947は、エアゾール缶において使用できるエポキシ樹脂ベースの2成分エアゾール配合物も開示している。そこでは、塗料又はラッカーを製造する前に、エポキシ樹脂と硬化剤は、そのエアゾール缶の同じルームの中で長時間混合される。しかし、やはり、この特許文献も、エアゾールから過剰な水を除去するために水捕捉剤を使用している。これらの捕捉剤は、高度な光沢を有する商業的な2K塗料又はラッカーを達成するのを不可能にすることになる。この捕捉剤は、塗料膜を柔らかく且つ脆くすることによって、塗料品質に悪影響を及ぼす。プライマーとして使用した場合でも、その膜中の多量の非塗料関連材料に起因して、塗料膜の品質はずっと劣る。
【0023】
特開2002249544の要約は、優れた貯蔵安定性を有する配合物のためのワンパック型の水分キュアリング性エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体としてのイミンを開示している。配合物の調製及びイミンの前駆体の取り扱いは、窒素雰囲気及び特別に予備乾燥した前駆体の使用によって得られる水分フリーの条件を必要とする。同様に、この配合物は、大気中の水分と接触したら直ちに硬化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】欧州特許第1125997B1号
【文献】欧州特許第1427767B1号
【文献】特開2004035947
【文献】特開2002249544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は上述の従来技術の欠点を取り除くことであった。
【0026】
上記に提示した従来技術をもとにすると、長い有効期間を有し、製造し使用するのに簡単であり、再使用することができ、周囲水分のために時期尚早に硬化することがなく、高品質塗料を作製できるようにするエポキシベースの2成分エアゾール塗料及び接着剤系の必要性があった。これらの目的をより具体的にすると:
【0027】
本発明の第1の主目的は、良好な安定性及び長い有効期間を有する塗料及び接着剤系などのエポキシ樹脂ベースのエアゾール配合物を提供することである。
【0028】
本発明の第2の主目的は、高品質塗料が可能になるように、エポキシ硬化剤前駆体とエポキシ硬化剤(アミン)の間の反応バランスを制御することである。この第2の目的は、本発明の目的がエポキシベースの2成分エアゾール塗料及び接着剤系において、前記エアゾール配合物から製造される塗料の品質に悪影響を及ぼすことなく、エポキシ硬化剤前駆体からエポキシ硬化剤化合物が生成するのを防止することを意味する。
【0029】
この第2の主目的は、使用されることになる方法が、これらがすべて水捕捉剤を使用することなく、高い光沢を有する広範囲の塗料、高い透明度を有するラッカー又はニス、良好な接着性を有する接着剤及びプライマー並びに良好な表面硬度を有する塗料を作製できるようにするはずであることを意味する。
【0030】
更に、本発明の他の目的は、その配合物が、長期間安定であり、少なくとも1年以内のどの時点でも最初の1回目の使用後での首尾よい再使用を可能にする、単一チャンバーエアゾール缶で使用するためのエポキシ樹脂及び接着剤系を含むエアゾール配合物を提供することである。
【0031】
以下において、大気中水分の存在下でエポキシ樹脂のキュアリングを引き起こすことになるエポキシ硬化剤化合物としての硬化剤化合物についても言及する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、請求項1に記載したとおりの、硬化剤前駆体から硬化剤化合物が生成するのを防止するための方法、及び請求項18に記載したとおりのエアゾール配合物を提供する。
【0033】
より正確に言えば、本方法は、塗料又は接着剤を作製するためにエアゾール缶内で使用するのに適したエアゾール配合物中で、硬化剤前駆体から硬化剤化合物が生成するのを防止する方法に関する。前記エアゾール配合物は、
前記缶内に以下の化合物:
- エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品(paint forming chemicals);
- 弱酸及び可能な溶媒
を添加する工程;及び、
- 前記缶内に補助化合物を添加する前か後に、前記塗料生成化学薬品、弱酸及び可能な溶媒を混合して混合物を得る工程
によって調製される。
【0034】
前記方法において、
- 1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する群から選択される弱酸(XCOOH)を触媒量で添加して、(遊離)水及びケトンの存在下で、エポキシ硬化剤前駆体とエポキシ硬化剤アミンの間の反応バランスを、反応(2a):
【0035】
【化4】
【0036】
に従うエポキシ硬化剤前駆体の生成に好都合なようにシフトさせ、それによって、前記エポキシ硬化剤前駆体からのエポキシ硬化剤化合物の生成を防止する。前記エポキシ硬化剤前駆体は:イミン、エナミン、マンニッヒ塩基、アルジミン及びその混合物からなる群から選択される。
【0037】
エポキシ硬化剤前駆体がイミンである場合、その水との可逆的な硬化剤前駆体反応は、アミン及びケトンをもたらす。カルボン酸又はカルボニル酸などの弱酸の存在下で、この反応は、アミンの代わりにイミンの生成に好都合なようにシフトされ、それによって、以下のようにして:
【0038】
【化5】
【0039】
エポキシ樹脂のアミン硬化剤の生成を防止する。
【0040】
エポキシ硬化剤前駆体がマンニッヒ塩基硬化剤である場合、水との可逆的なマンニッヒ塩基硬化剤前駆体反応はアミン及びケトンをもたらす。カルボン酸又はカルボニル酸などの弱酸の存在は、この反応平衡を硬化剤前駆体側へシフトさせ、それによって、反応(22a)で示されるような、エポキシ樹脂のこれらのアミン硬化剤の生成を防止する。
【0041】
【化6】
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、エアゾール配合物は、混合物を得るために、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;弱酸及び可能な溶媒を混合し;得られた混合物を単一チャンバーエアゾール缶内に誘導し、噴射剤をその缶に提供し;缶を密封することによって調製される。
【0043】
本発明の方法は、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品の少なくとも1つを、缶内の分離した密封可能なコンパートメントに添加し;弱酸及び可能な溶媒を前記缶内に添加し;噴射剤を缶内に提供し;缶を密封し;使用前に、缶のルームの中で塗料生成化学薬品、弱酸及び可能な溶媒を一緒に混合することによって具現化することもできる。
【0044】
本発明は、塗料又は接着剤を作製するための缶内で使用するのに適したエアゾール配合物であって、
a)エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤前駆体を混合することによって塗料生成化学薬品の混合物を提供し、弱酸及び可能な溶媒を前記混合物中に混合し;前記混合物をエアゾール缶内に誘導し;缶を密封し;噴射剤を前記缶内に提供すること、又は、
b)エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;及び弱酸;及び可能な溶媒をエアゾール缶内に添加し;缶を密封し;噴射剤を前記缶内に提供し;エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤前駆体を混合し、缶内で弱酸及び可能な溶媒を混合することによって調製された、エアゾール配合物にも関する。
【0045】
その配合物では:
- エポキシ硬化剤前駆体は、イミン、エナミン、マンニッヒ塩基、アルジミン及びその混合物からなる群から選択され;
- 弱酸は、1.2~5の範囲の解離定数pKa値を有する群から選択され;
- 調製されたエアゾール配合物は、エアゾール配合物の0.1~5質量%(w/w)、好ましくは0.1~3%、更により好ましくは0.5~2%である触媒量の弱酸を含む。
【0046】
本発明は、エポキシ樹脂を含む安定なエアゾール配合物及び接着剤配合物を調製し、それを、エポキシ樹脂と接着剤配合物の混合物又はその一部のための共通のチャンバーを有する従来のエアゾール缶内に充填することができるという驚くべき発見をもとにしており、触媒量の弱酸を缶に添加した場合、これはエアゾール缶内に弱酸環境をもたらすことになる。
【0047】
この弱酸環境は、前記硬化剤前駆体の成分と前記接着剤配合物又は弱酸の間で化学反応を起こすことなく、それらの成分の安定な混合物を作製できるようにすることになる。1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する触媒量の弱酸の添加は、配合物成分が、化学薬品や容器の輸送、準備(preparation)又は取り扱いに由来する少量の水を含有できるようにする。弱酸は、それが少量(2000ppm未満、好ましくは600ppm未満)の水の存在下でも、配合物の平衡を硬化剤前駆体の側で効果的に維持するように選択される。
【0048】
したがって、本発明では、可逆的なバランス反応(1c)は弱酸環境を生み出すことによって制御され、これは、水分子を捕捉する又は除去することなく、反応(2a)による硬化剤前駆体の生成に好都合なように、反応を推進することになる。
【0049】
したがって、言及したエポキシ硬化された前駆体からのアミン(エポキシ硬化剤化合物)の生成への水の影響は、そのバランス反応(1c)が、ケトンとアミンの縮合反応(1c)で生成した水を除去することなく、反応2aの経路を介して進行するように強制するための触媒として弱酸を使用することによって、完全に制御される。硬化剤前駆体がイミンであるケースでは、弱酸の存在は、ケトン及び水が存在する場合、アミンの代わりにイミンを生成するのに好都合である。この同じ基本原理は、アミン(エポキシ)硬化剤化合物がその(エポキシ)硬化剤前駆体から生成することなく、より多くの水が前記エアゾール配合物中に存在できるようにする。ここで、(エポキシ)硬化剤前駆体は、イミンの代わりに、アルジミン、エナミン又はマンニッヒ塩基であってもよい。
【0050】
コーティングの品質に悪影響を及ぼさないように、弱酸の量を非常に少なく保持することが重要である。本方法では、弱酸は触媒量しか必要ない。この触媒量の弱酸は、エアゾール配合物の0.1~10質量%(w/w)の弱酸、好ましくはエアゾール配合物の0.2~5質量%(w/w)、より好ましくは0.5~2質量%(w/w)の弱酸が存在することを意味する。
【0051】
エアゾール配合物のすべての成分を、基本的にそれらの成分が貯蔵の間に互いに反応することなく、エアゾール缶内の共通の単一チャンバー内に配置できることが好ましい。
【0052】
本発明の方法では、前記方法は、缶からエアゾール配合物を噴霧して、標的表面上に塗料層を形成する工程を更に含む。
【0053】
本発明の別の方法では、前記方法は、混合物を0.5~3年の長期間貯蔵した後に、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品;弱酸及び可能な溶媒の前記混合物を含む前記エアゾール配合物を再使用する工程を更に含む。
【0054】
本方法での触媒量の弱酸の使用、及び本方法で使用されるエアゾール配合物は、そのすべてが、直ちに使用されるか又は長期間後に再使用されるかに関係なく、高品質塗料の作製を可能にする。
【0055】
前記混合物から作製される乾燥塗料膜(アンダーコート、仕上げコート又はラッカー)は、60°の角度下で、10~100の範囲、好ましくは90超の光沢を有するはずである。
【0056】
前記混合物から作製された乾燥塗料膜は、ペンデル(pendel)硬度計で測定して、10hの乾燥時間後で40超、120hの乾燥時間後で100超のケーニッヒ硬度を有するはずである。
【0057】
前記混合物から作製された乾燥塗料膜は、PosiTestで>450psiの接着性を有するはずである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
エアゾール缶の定義は、本明細書では、エアゾール缶内にルームが存在することを意味し、そこでは、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体などのエポキシ樹脂ベースの塗料及び接着剤系の少なくとも一部が、長い貯蔵期間のために、混合物として共存することを意味する。
【0059】
塗料は、本明細書では、プライマー、アンダーコート、仕上げコート、トップコート、着色トップコート、ニス又はラッカーを意味する。
【0060】
本発明では、硬化剤又はエポキシ硬化剤は、イミン、エナミン、アルジミン及び/又はマンニッヒ塩基などの硬化剤前駆体が水と反応したとき生成される、アミンなどのエポキシ樹脂のための硬化剤として作用できる化合物を意味する。本発明の硬化剤は、所望のコーティング層を提供するために使用されるエポキシ樹脂、すなわち塗料又は接着剤と反応することができる。
【0061】
本発明では、硬化剤前駆体又はエポキシ硬化剤前駆体は、(エポキシ)硬化剤を生成できる、すなわち、化学反応によって生成される適切なアミンを含む化合物を意味する。
【0062】
本発明では、弱酸は、不完全に解離し、その水素原子の一部だけを溶液中に放出する酸を意味する。
【0063】
エアゾール配合物は、配合物をその成分から調製するか又は缶に充填する間に、特に、それらをエアゾール缶内に充填する前にエアゾール配合物の成分を予備乾燥するか又は窒素などの不活性ガス雰囲気下で操作する必要なく、周囲条件下でも調製することができる。硬化剤前駆体を含む、テクニカルグレード又は工業的品質の成分は缶内で配合物中に水を提供するが、それらを使用してもよい。
【0064】
少なくとも1つの噴射剤と一緒になった、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤前駆体並びに弱酸の安定な混合物を、エアゾール配合物として従来の1チャンバーエアゾール缶内に充填する。エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体を含むエアゾール配合物が缶から噴霧されると、空気から水(水分)を取り込んで、ガス又は空気中に懸濁された雲状の微粒子が形成される。水の吸収は、イミン、エナミン、アルジミン及び/又はマンニッヒ塩基化合物などの硬化剤前駆体に対して影響を及ぼすことになる。大気中に存在する相対的に過負荷の水で、硬化剤前駆体は加水分解してアミンを生成し、これは、エポキシ結合剤と反応して架橋膜を形成する。他の塗料/接着剤関連構成要素と一緒に、これは、接着剤、着色トップコート、ニス、ラッカー、プライマー又はクリアコートであってよい最終製品(eventual end product)(塗料)を生成することになる。
【0065】
アミン化合物とエポキシ樹脂の反応がエアゾール缶の外側で起こっても、缶内の配合物は安定なままである。缶の内圧が缶の外圧より大きいので、空気からの追加的な水分が缶内に入ることはない。
【0066】
その配合物が缶内で安定に留まるので、一度に、2成分エアゾール配合物の所望の部分だけを使用することができる。すなわち、配合物が缶内で安定に留まるので、配合物全体を一度に使用する必要はない。配合物を含む缶の有効期間は、少なくとも1年、多分最大で3年又はそれ超である。更に、公知の解決法の場合のように、最初に、硬化剤と結合剤を別個に混合する必要がないので、配合物を含むエアゾール缶は、使用するのにより簡単でより迅速である。
【0067】
保護ガス又は予備乾燥工程が必要ないので、配合物、及びその配合物を含む缶の作製は基本的に簡単である。その製造は、通常の混合及び缶充填技術を使用して、周囲条件で行うことができる。
【0068】
周囲とは、通常の工業的環境でのその配合物の調製場所を支配する典型的な環境条件、温度、圧力及び湿度を意味する。
【0069】
上述したように、弱酸は、不完全に解離し、その水素原子の一部だけを溶液中に放出する酸である。
【0070】
したがって、弱酸は、プロトンを供与する能力が強酸より低い。弱酸は、水溶液中で中程度にしかイオン化しない。弱酸を一般式HAで表すとすると、水溶液中で、相当な量の非解離HAがなお残留する。弱酸は、水中で以下のような仕方で解離する:
【0071】
【数1】
【0072】
弱酸の強度は、平衡定数又は解離のパーセンテージによって表すことができる。反応物と生成物の平衡濃度は、酸解離定数、Kaによって関係付られる:
【0073】
【数2】
【0074】
Kaの値が大きければ大きいほど、より多くのH+の生成に好都合であり、溶液のpHはより低くなる。弱酸のKaは一般に、1.8x10-16~55.5の間で変化する。多くの実際上の目的のためには、対数定数、pKaを使用して論じるのがより好都合である。
【0075】
【数3】
【0076】
弱酸は一般に、水中でおよそ-2~12の範囲内のpKa値を有する。
【0077】
一態様では、本発明は、エアゾール缶、例えば単一チャンバーエアゾール缶内で使用するのに適した2成分エアゾール配合物を提供する。もちろん、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品、
- 弱酸及び混合物を得るための可能な溶媒
の場合、複数チャンバーの缶を使用することもでき、一旦その缶が使用に供されたら、その成分は互いに接触する。
【0078】
より特に、本発明は、少なくとも1つのエポキシ樹脂及び少なくとも1つの硬化剤前駆体を含む塗料生成化学薬品、及び少なくとも1つの噴射剤を含む2成分エアゾール配合物を提供する。この配合物は、少なくとも一部分の、1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する弱酸を更に含む。
【0079】
一実施形態では、その弱酸は、配合物の平衡を硬化剤前駆体の側で効果的に維持するために、3~5の範囲内の解離定数pKa値を有するものから選択される。
【0080】
別の実施形態では、弱酸は、最適な、貯蔵における安定性及び使用における性能のために、4.2~4.9の範囲内の解離定数pKa値を有するものから選択される。
【0081】
もちろん、弱酸の種類は、配合物特性並びに使用される弱酸の量にさらなる影響を及ぼす。
【0082】
本発明の配合物では、エポキシ樹脂は、缶内の混合物中で、硬化剤前駆体又はエアゾール配合物の弱酸と実質的に反応しない。
【0083】
一実施形態では、エポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミンエポキシ樹脂及びその混合物からなる群から選択される。
【0084】
一実施形態では、エポキシ樹脂はビスフェノールAエポキシ樹脂である。ビスフェノールAエポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンとビスフェノールAの反応によって形成される。例えば、最も簡単なビスフェノールAエポキシ樹脂は、2モルのエピクロルヒドリンを1モルのビスフェノールAと反応してビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)を生成することによって形成される。製造手順の間に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの比を増大させると、より大きい分子量の、エポキシド基(グリシジル基とも称される)を有するポリエーテルを生成する。この結合剤は通常の条件のために特に適している。これは、良好な耐水性及び耐薬品性を有しており、柔軟なコーティングを提供する。
【0085】
一実施形態では、エポキシ樹脂はビスフェノールFエポキシ樹脂である。ビスフェノールFエポキシ樹脂は、ビスフェノールAと同様の方法で、エピクロルヒドリンをビスフェノールFと反応させることによって形成される。この結合剤は、特に低いpH範囲及び高いpH範囲で、ビスフェノールAエポキシ樹脂と比較してより良好な耐薬品性を有する。
【0086】
一実施形態では、エポキシ樹脂はノボラックエポキシ樹脂である。ノボラックエポキシ樹脂は、フェノールをホルムアルデヒドと反応させ、続いて、エピクロルヒドリンでグリシジル化することによって形成される。特に適切なノボラックエポキシ樹脂の例は、エポキシフェノールノボラック(EPN)及びエポキシクレゾールノボラック(ECN)である。これらは、高温耐性とあわせて高い耐薬品性を提供する。エポキシ基含量が増大すると、形成される膜は柔軟性が低下する。
【0087】
一実施形態では、エポキシ樹脂は脂肪族エポキシ樹脂である。この脂肪族エポキシ樹脂は、グリシジルエポキシ樹脂及び脂環式エポキシドを含む。これらの材料は、賦形剤(dilutant)としての役割も果たす。それらは、好ましくは、上記で論じた主要樹脂への補助的樹脂として施用される。
【0088】
一実施形態では、エポキシ樹脂は、グリシジルエポキシ樹脂である。グリシジルエポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンと脂肪族アルコール又はポリオールとの反応によってグリシジルエーテルを生成する、又は脂肪族カルボン酸との反応によってリシジルエステルを生成することによって形成される。好ましいグリシジルエポキシ樹脂の例は、ドデカノールグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル及びトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルである。これらの化学薬品の目的は、その低い粘度のために反応性の賦形剤を提供することである。それらは、起こる反応のバランスを取るための補助的結合剤として、主要樹脂と一緒に使用することが好ましい。一般に、それらの反応速度は、主要樹脂に対して明らかにより低い。
【0089】
一実施形態では、エポキシ樹脂は脂環式エポキシドである。脂環式エポキシドは、それにオキシラン環が縮合している分子中に少なくとも1つの脂環式環を含む。脂環式エポキシドは、シクロオレフィンと過酢酸などの過酸の反応によって形成される。好ましい脂環式エポキシドの例は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである。これらの化学薬品の目的は、その低い粘度のために反応性の賦形剤を提供することである。反応速度は、主要樹脂に対して、より低い。
【0090】
一実施形態では、エポキシ樹脂はグリシジルアミンエポキシ樹脂である。グリシジルアミンエポキシ樹脂は、芳香族アミンをエピクロルヒドリンと反応して形成される。好ましいグリシジルアミンエポキシ樹脂の例は、トリグリシジル-p-アミノフェノール及びN,N,N,N-テトラグリシジル-4,4-メチレンビスベンジルアミンである。これらは、その鎖中に多くのエポキシ基があるので、非常に高い耐熱性コーティング及び非常に高い反応性を提供する。
【0091】
一実施形態では、選択された異なる種類の主要樹脂及び補助的樹脂並びに任意選択の溶媒の組合せが、溶媒の直線的で一定した蒸発を確実にし、コーティングの形成を増進させ、所望の特性を示すように使用される。
【0092】
上記したものなどの広範囲の異なるエポキシ樹脂が工業的に生産され、市販されている。
【0093】
エポキシド含量は、エポキシ樹脂の特徴的な特性である。エポキシド含量は、一般に、1kgの樹脂中のエポキシド当量数(Eq./kg)であるエポキシド数として、又は、1モル当量のエポキシドを含む樹脂のグラムでの質量(g/mol)である当量(equivalent weight)として表される。1つの尺度を、
式:当量(g/mol)=1000/エポキシド数(Eq./kg)
を用いて、別の尺度に変換させることができる。
【0094】
本発明のエポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、エポキシフェノールノボラック(EPN)、エポキシクレゾールノボラック(ECN)、ドデカノールグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,N,N-テトラグリシジル-4,4-メチレンビスベンジルアミン又はその混合物からなる群から選択されることが好ましい。本発明のエポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂又はビスフェノールFエポキシ樹脂から選択されることがより好ましい。これら2種類の結合剤の特徴は、目的とする製品に最も適したものである。それらは、更に、高温耐性型の反応性希釈剤の使用を可能にする。
【0095】
一実施形態では、エポキシ樹脂は、100~1500g/eq、好ましくは120~700g/eq、より好ましくは450~500g/eqの当量を有する。
【0096】
別の実施形態では、エポキシ樹脂は、2000~2220mmol/kgのエポキシ基含量及び450~500g/Eqのエポキシモル質量を有するエポキシである。
【0097】
一実施形態では、配合物に対する質量でのエポキシの量は18~30%である。配合物に対する質量でのエポキシの量は、15%~30%であることが好ましい。配合物の質量でのエポキシの量は、15~23%であることが最も好ましい。
【0098】
本発明のエアゾール配合物は、好ましくはイミン、エナミン、マンニッヒ塩基、アルジミン及びその混合物からなる群から選択される少なくとも1つの硬化剤前駆体を含む。
【0099】
シッフ塩基、エナミン、アルジミン又はマンニッヒ塩基であってもよいイミンは、水が存在しない場合、例えば乾燥エアゾール缶雰囲気内で、それ自体、エポキシ樹脂と実質的に反応しない。イミン、エナミン、アルジミン及び/又はマンニッヒ塩基が水と接触すると直ちに、その水は硬化剤前駆体と反応し、この反応の結果として、アミン反応物が生成する。その結果、生成したアミン化合物は硬化剤として機能し、エポキシ樹脂と反応してコーティングを提供する。
【0100】
本発明の2成分エアゾール配合物をエアゾール缶から噴霧した場合、ガス又は空気中に懸濁された雲状の粒子が形成され、大きな表面積に起因して、空気から水分を効果的に取り込む。水分又は水は、配合物の硬化剤前駆体と反応し、アミン化合物(硬化剤)を生成する。生成したアミン化合物は更にエポキシ樹脂と反応する。この反応はキュアリング反応とも称される。そして、最後に、コーティング又は接着剤層が、その上に配合物が噴霧された基材上に形成される。
【0101】
図1は、例として、アミン及びケトンをもたらすイミンと水の可逆的な反応を表す:
【0102】
【化7】
【0103】
図2は、例として、アミン及びケトンをもたらすエナミンと水の可逆的な反応を表す:
【0104】
【化8】
【0105】
マンニッヒ反応は、ホルムアルデヒド及び第一若しくは第二アミン又はアンモニアによる、カルボニル官能基の隣に配置された酸性プロトンのアミノアルキル化からなる有機反応である。その最終生成物は、マンニッヒ塩基としても公知のβ-アミノ-カルボニル化合物である。アルジミンとα-メチレンカルボニルの反応は、これらのイミンがアミンとアルデヒドの間で生成するので、マンニッヒ反応ともみなされる。
【0106】
マンニッヒ反応は、アミンのカルボニル基への求核付加、続く、シッフ塩基への脱水の一例である。
【0107】
図3は、例として、アミン及びケトンをもたらすマンニッヒ塩基と水の可逆的な反応を表す:
【0108】
【化9】
【0109】
本発明では、イミン、エナミン、アルジミン及びマンニッヒ塩基は、アミンを形成することによって、それらが水と反応するような仕方で選択される。更に、イミン、エナミン、アルジミン及びマンニッヒ塩基は、それらが、エアゾール缶内のエポキシ樹脂又は他の成分と実質的に反応しないような仕方で選択される。
【0110】
一実施形態では、生成するアミンは、第一、第二又は第三アミンである。
【0111】
一実施形態では、生成するアミンは、モノ-、ジ-又はポリ官能性アミンである。
【0112】
一実施形態では、生成するアミンは、脂肪族、脂環式又は芳香族アミンである。
【0113】
好ましいアミンは、ジ及びポリ官能性第一アミンである。そのジ及びポリ官能性第一アミンは、エポキシ樹脂のエポキシド基との反応を受けてヒドロキシル基及び第二アミンを生成する。この第二アミンは、エポキシド基と更に反応して、第三アミン及び追加のヒドロキシル基を生成することができる。
【0114】
一実施形態では、そのイミンは、エチレンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物;ジエチルケトンベースのジイミン、好ましくはN,N-ジ(1-エチルプロピリデン)-m-キシリレンジアミン又はその混合物である。エチレンジアミン及びm-キシリレンジアミンは、ベナールセル(Bernard cell)やブラッシングのような副作用を伴わない、エポキシコーティングのための非常に良好な硬化剤である。イミンを加水分解した後に生成する溶媒は、反応生成物に適合する。アミン水素当量(AHEW)値は、約1:10の結合剤の用量範囲である。
【0115】
別の実施形態では、エナミンは、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンと第二ジアミンの反応生成物;イソフェロン(isopherone)ジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物;N,N,ビス(1,3-ジメチルブチリデン)エチレンジアミンである。これらのジアミンはモノアミンより高い反応性を与え、したがって、より速い硬化を提供し、これは、より硬い膜であるが、柔軟性の小さい膜形成をもたらすことができる。
【0116】
一実施形態では、アルジミンは、アルデヒドとアンモニア又は第一アミンの縮合によって形成される一般式RCH-NH又はRCH-NR'の任意のシッフ塩基である。好ましいアルジミンは、N-ブチル-2-(1-エチルペンチル)-1,3-オキサゾリジン又は3-オキサゾリジンエタノール,2-(1-メチルエチル)-,3,3-カーボネートである。
【0117】
広い範囲のイミン及びマンニッヒ塩基が市販されている。また、エナミン及びアルジミンも市販されている。適切なイミン、エナミン、アルジミン及びマンニッヒ塩基は、公知の手順で合成することもできる。
【0118】
一実施形態では、マンニッヒ塩基は、図4に示すような、メチルエチルケトンなどの有機溶媒中に溶解された弱酸環境での、アルデヒド、例えばホルムアルデヒドと第二アミン、例えばジエタノールアミンの反応生成物である:
【0119】
【化10】
【0120】
更に別の実施形態では、マンニッヒ塩基は、図5に示すような、Ancamine 1110(Airproducts)、すなわち活性構成要素としてのジメチルアミノメチルフェノールである:
【0121】
【化11】
【0122】
更に別の実施形態では、マンニッヒ塩基は、DOW社から市販されているD.E.H(商標)613、D.E.H(商標)614、D.E.H(商標)615、D.E.H(商標)618、D.E.H(商標)619及びD.E.H(商標)620又はその混合物から選択される。
【0123】
エポキシ樹脂結合剤と硬化剤前駆体の質量比は、結合剤のエポキシモル質量及び硬化剤前駆体の当量、硬化剤前駆体のアミン含量をもとにする。硬化剤の量は+/-10%で変動し得る。
【0124】
一実施形態では、エポキシ樹脂と硬化剤前駆体の質量比は、好ましい樹脂及び硬化剤前駆体を使用した場合、8:1~15:1、好ましくは9:1~12:1、より好ましくは10:1~11:1である。
【0125】
一実施形態では、エポキシ樹脂は450~500のエポキシモル質量を有するエポキシ結合剤であり、その硬化剤前駆体はエチレンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物である。
【0126】
本発明の2成分エアゾール配合物は、希釈剤と称されることもある少なくとも1つの溶媒を更に含むことができる。溶媒の機能は、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体の粘度を低下させることである。溶媒の種類及び溶媒の量は、そのエポキシ樹脂及び硬化剤前駆体混合物の粘度が、通常のエアゾール缶から、噴射剤の助けを得て、その混合物を、適切に噴霧するのに十分粘性であるような仕方で選択される。
【0127】
溶媒は、好ましくは、ケトン、アセテート、グリコールエーテル、芳香族溶媒、脂肪族溶媒又はその混合物からなる群から選択される。より好ましくは、溶媒は、ジメチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、キシレン、1-メトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールメチルエーテルシクロヘキサノン又はその混合物である。
【0128】
配合物の液相の粘度は、20℃、大気条件で測定して、好ましくは、50~300cSt、より好ましくは50~150cStである。液相は、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体と任意選択の溶媒の混合物を意味する。
【0129】
噴射剤は、当業界で公知の任意の適切な噴射剤であってよい。噴射剤は、ジメチルエーテル、プロパン、ブタン、イソブテン、窒素、酸化二窒素、1,1,1,2-テトラフルオロエタン又はその混合物からなる群から選択されることが好ましい。最も好ましくは、噴射剤はジメチルエーテルである。
【0130】
2成分エアゾール配合物は、任意の追加の適切な添加剤、例えば着色剤、着色顔料及びキュアリング促進剤を更に含むことができる。好ましい着色剤及び着色顔料は、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、フタログリーン、酸化チタン(II)及びカーボンブラックである。
【0131】
エポキシ樹脂、イミン、エナミン、アルジミン及びマンニッヒ塩基、溶媒、噴射剤、及び任意の追加の添加剤は、一般に、完全に水フリーであることが必要である。本発明では、配合物中への弱酸の添加のため、この要件はそれほど厳密なものではない。前駆体は水フリーであることが適切であるが、本発明の配合物は、中程度の量の水の存在を許容する。
【0132】
一実施形態では、その配合物は更に水を含む。水の量は、好ましくは2500ppm未満、より好ましくは2000ppm未満、通常600ppm未満である。湿潤した環境では、周囲の外気から配合物中へ取り込まれる水の含量は、温度及び相対湿度に応じて、最大で250ppmであり得る。これに対して、使用される前駆体のグレードの変動は、前処理を用いることなしで、相当多い水、例えば最大で2000ppmを配合物中に持ち込む可能性がある。
【0133】
本発明者らは、上記で論じた、アミン及びケトンをもたらす水との可逆的なマンニッヒ塩基硬化剤前駆体反応を、反応混合物中への弱酸の添加を用いて改変できることを見出した。カルボン酸又はカルボニル酸などの弱酸が存在する場合、反応22aについて図6に示すように、その反応平衡は硬化剤前駆体側の方へシフトする:
【0134】
【化12】
【0135】
ここで、反応バランスは、アミン生成の代わりに、硬化剤前駆体の存在に好都合である。添加する弱酸の量及び種類を調節することによって、アミン生成反応の平衡を、硬化剤前駆体の存在に好都合なように調節することができる。弱酸の量は、その酸のpKa値によって左右される。
【0136】
水の量が大幅に増大する、すなわち、非常に小さい粒径、75~100ミクロンを有する配合物エアゾール噴霧の放出液滴が環境条件に曝露され、周囲湿度との接触にかけられた場合、その平衡は、最終的にアミンの生成に好都合なようにシフトすることになる。更に、弱酸の蒸発は、反応をアミンの生成の方へやるのに好都合であり、結合剤のエポキシ基との反応を増進させることになる。
【0137】
その弱酸は、カルボン酸及び炭酸からなる群から選択されることが好ましい。
【0138】
一実施形態では、適用される弱酸は、ギ酸(メタン酸)HCOOH(pKa=3.8)、酢酸(エタン酸)CH3COOH(pKa=4.7)、プロピオン酸(プロパン酸)CH3CH2COOH(pKa=4.9)、酪酸(ブタン酸)CH3CH2CH2COOH(pKa=4.8)、吉草酸(ペンタン酸)CH3CH2CH2CH2COOH(pKa=4.8)、カプロン酸(ヘキサン酸)CH3CH2CH2CH2CH2COOH(pKa=4.9)、シュウ酸(エタン二酸)(COOH)(COOH)(pKa=1.2)、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)CH3CHOHCOOH(pKa=3.9)、リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)(COOH)CH2CHOH(COOH)(pKa=3.4)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)CH2(COOH)COH(COOH)CH2(COOH)(pKa=3.1)、安息香酸(ベンゼンカルボン酸又はフェニルメタン酸)C6H5COOH(pKa=4.2)又は炭酸(ヒドロキシメタン酸)OHCOOH又はH2C03(pKa=3.6)を含む。弱酸は、酢酸、安息香酸、プロピオン酸又はその混合物であることが好ましい。その理由は、本発明の好ましい硬化剤前駆体のための最も効果的な弱酸であるからである。
【0139】
一実施形態では、弱酸は、高いpKa値を有するプロピオン酸である。
【0140】
別の実施形態では、弱酸は酢酸である。酢酸は、噴霧した場合容易に蒸発する揮発性液体であるという利点を有する。
【0141】
更に別の実施形態では、弱酸は安息香酸である。この酸は、調製における取り扱いを容易にする固体である。
【0142】
酸の量は、その酸のpKa値によって左右され、pKaが高ければ高いほど、より少ない酸しか必要としない。
【0143】
好ましくは、本発明の配合物中に加える弱酸の量は、2成分エアゾール配合物の0.1~10質量%(w/w)、好ましくは0.2~5.0%、より好ましくは0.5~2.0%である。使用される弱酸の量は、酸の種類、pKa値及び選択される硬化剤前駆体に左右される。
【0144】
一実施形態では、本発明による配合物は、8~45%、好ましくは約20質量%の、好ましくはビスフェノールエポキシ結合剤である、120~800、好ましくは475の当量を有するエポキシ結合剤;及び1.5~35質量%、好ましくは約3.2質量%の、好ましくはイソホロンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物である硬化剤;及び10~30質量%、好ましくは約18.3質量%の、好ましくは1-メトキシ-2-プロパノールである溶媒;及び10~30質量%、好ましくは約16.8質量%の、好ましくはブタノン-2である追加の溶媒;及び0.5~3質量%、好ましくは約1.7%の、好ましくは酢酸である弱酸;及び25~45質量%、好ましくは約40質量%の、好ましくはジメチルエーテルである噴射剤を含む。この組成物は、燃料、水及び薬品に抵抗性のクリアコートとして特に良く適している。
【0145】
他の態様では、本発明は、その配合物が周囲条件下で調製される、上記したとおりの2成分エアゾール配合物を製造するための方法を提供する。本方法は、単一チャンバーエアゾール缶内に貯蔵された場合、2成分エアゾール配合物の貯蔵安定性及び有効期間を増大させることを更に提供する。
【0146】
周囲条件は、一般に、その量が温度及び湿度に依存する水蒸気、及び前駆体化学薬品に由来する水を含む通常の環境条件を意味する。
【0147】
一般に、酸なしで、水フリー前駆体を使用して水フリーの状態で調製した場合、その安定性はおよそ数週間又は数カ月である。特に、その缶の中に痕跡量の水が残留していた場合、その配合物の安定性は急速に低下する。本発明の配合物は、少なくとも1年超安定であり、好ましい前駆体が選択されれば少なくとも最大で3年安定である。その缶は、貯蔵安定性の低下なしで、数回再使用し得る。
【0148】
更に、本発明の方法では、保護ガス又は乾燥剤を適用する必要がないので、配合物の調製を、製造を大幅に簡略化する周囲条件下で実施し得る。過度の水汚染を回避するための窒素雰囲気の必要がない。本発明による調製方法では、適切な少量の弱酸を加え、それによって硬化剤前駆体の直ちに起こる水分との反応を防止することによって、単に弱い酸性の配合物が作製される。
【0149】
一実施形態では、本発明の配合物は、最初に、エポキシ樹脂及び硬化剤前駆体を含むコーティング形成化学薬品、及び1.2~5.2の範囲の解離定数pKa値を有する弱酸を混合することによって調製される。得られる混合物は、単一チャンバー缶内に誘導される。続いて、噴射剤が缶内に導入され、その缶は密封され、いつでも使用される状態となる。
【0150】
一実施形態では、コーティング形成化学薬品が補助的樹脂又は溶媒を含む場合、最初にその弱酸を溶媒、補助的樹脂又はその混合物中に溶解し、続いて、少なくとも1つの樹脂ビルダー、すなわち、主要樹脂をこの混合物中に導入する。続いて、少なくとも1つの硬化剤前駆体をそれに導入する。
【0151】
一実施形態では、2つ以上の場合、溶媒を最初に一緒に混合する。続いて、酸を導入し、その溶媒と混合する。主要樹脂ビルダー及び任意選択の補助的樹脂ビルダーを混合物中に導入し、続いて硬化剤前駆体を導入する。
【0152】
コーティング形成化学薬品のすべての化合物を配合物中に導入した後、混合物を缶に誘導しその缶を密封する前に、それを短時間、例えば1000lの配合物当たり15分間撹拌することが好ましい。可能なら、周囲への過剰な曝露は避けるべきである。
【0153】
更に他の態様では、本発明は、上記で論じた2成分エアゾール配合物を含むエアゾール缶を提供する。
【0154】
スプレー缶又はエアゾールスプレー缶とも称される機械的容器、エアゾール缶は、当業界で公知の任意の従来のエアゾール缶であり得る。
【0155】
エアゾール缶は、1つの単一チャンバーを有する従来のエアゾール缶であることが好ましい。
【0156】
エアゾール缶は、一般に2成分エアゾール配合物のために使用される2-チャンバーエアゾール缶であってよい。2-チャンバーエアゾール缶では、硬化剤前駆体が1つのチャンバー中にあり、エポキシ樹脂が別個のチャンバー中にある。この場合、硬化剤前駆体とエポキシ樹脂は、そこに弱酸環境が存在する缶内のルーム中で合体される。合体されると、硬化剤前駆体とエポキシ樹脂は、エポキシ硬化剤化合物が形成されることなく、前記ルーム中に長時間留まることができる。
【0157】
単一チャンバーを有するエアゾール缶では、配合物のすべての成分は同じチャンバー中にある。単一チャンバーエアゾール缶の例は、直壁体でネックイン型(straight-walled and necked-in)の缶である。
【0158】
エアゾール缶の材料は、金属ベースのものであり、例えば、エアゾール缶はアルミ又はブリキ板でできている。
【0159】
エアゾール缶は、多様な直径、高さ、充填容積、ブリム容積及び圧力のもので、市販されている。形状については、広範なバリエーションが利用可能である。
【0160】
特に金属のエアゾール缶については、特別の規定が適用される。これらの規定は当業者に周知である。特別規定は、例えば、エアゾール缶の総容量、エアゾール缶の圧力、液相の容積等を定義する。
【0161】
そうした規定の例は、圧力危険性に曝される機器についての欧州レベルでの適切な法的枠組みのための、簡単な圧力容器(2009/105/EC)、可搬型圧力機器(99/36/EC)及びエアゾールディスペンサー(75/324/EEC)に関連した指令と一緒になった、欧州における「圧力機器指令(The Pressure Equipment Directive)」(97/23/EC)である。
【0162】
エアゾール缶は、例えば、G. Staehle GmbH u. Co. KG社、Germanyから市販されている。
【0163】
一実施形態では、エアゾールは、噴霧前にその缶を振とうさせる場合、2成分エアゾール配合物の混合を促進させる、1つ又は複数の混合ボール、好ましくは2つの混合ボールを追加的に含むことができる。この混合ボールは振とうボール又はピーとも称され、当業界で周知であり、一般的に使用されている。
【0164】
本発明の2成分エアゾール配合物は、公知の手順でエアゾール缶に充填することができる。
【0165】
一実施形態では、最初に、エポキシ樹脂、弱酸及び溶媒を一緒に混合する。任意選択で、着色ペースト又は他の添加剤を混合物に添加し、混合を続行する。硬化剤前駆体を混合物に添加し、混合を続行する。得られた混合物を、液体充填機で1-チャンバーエアゾール缶に充填する。振とうボールを加え、弁をその缶に取り付け、缶上にクリンチする。最後に、この弁を通して、缶に適切な量の液化された噴射剤を充填する。アクチュエータを弁に取り付け、缶を使用できる状態にする。これらすべての手順は周囲条件下で実行し得る。
【0166】
その弁は、当業界で使用される任意の一般的なエアゾール缶の弁であってよい。適切なエアゾール缶の弁は、例えばAptar GmbH社、Germanyから市販されている。
【0167】
アクチュエータは、当業界で使用される任意の一般的なアクチュエータであってよい。適切なアクチュエータは市販されている。そうしたアクチュエータの例は、Aptar GmbH社、GermanyからのAptar W2AXである。
【0168】
弱酸の適用に加えて、混合と配合物のエアゾール缶内への充填との間の時間は、不必要な水汚染を避けるために、できるだけ短くすべきである。
【0169】
一実施形態では、配合物中への施用の前に、過剰な水を除去するために、前駆体化学薬品を処理する。
【0170】
2成分エアゾール配合物をエアゾール缶から噴霧する場合、その硬化剤前駆体が水と効率的に反応してアミンを生成するように、周辺環境中に存在する、十分な量の水分などの水が存在していなければならない。
【0171】
好ましくは、噴霧の間の環境の温度は、その2成分エアゾール配合物が噴霧されるのに十分粘性であるようにすべきである。より好ましくは、温度は10~50℃、最も好ましくは15~35℃、更に例えば17~27℃である。
【0172】
一実施形態では、2成分エアゾール配合物を水中用途に使用する。缶内での圧力は、周囲圧力に打ち勝つように調節される。コーティングしようとする表面との塗料噴霧の効果的な接触を確実にするために、水置換添加剤を使用することが好ましい。
【0173】
エポキシ樹脂及び/又は生成アミンの組合せは、周囲温度でキュアする。一実施形態では、このキュアリングは、最大で75℃の温度で加熱することによって促進される。
【0174】
エアゾール配合物をエアゾール缶から噴霧する場合、噴霧パターンはエアゾール液滴の微細なミストであり、噴霧された表面上に膜を形成する。噴霧パターンは、ファン噴霧などの平面状であっても、アクチュエータに応じて丸形であってもよい。
【0175】
一実施形態では、噴霧は、1クロスレイヤ後、少なくとも180secのペルゾー(persoz)硬度の硬さで、約15~20μmの乾燥膜をもたらすことになる。コーティング層は、15min後にダストドライ(dust dry)であり、30min後にタッチドライ(touch dry)であり、24h後に十分硬化している。
【0176】
より特に、コーティング及び接着剤を塗布するための、上記で定義したとおりのエアゾール缶の使用を提供する。
【0177】
一実施形態では、本発明の2成分エアゾール配合物及びそれを調製する方法は、クリアコートを提供するために使用される。
【0178】
一実施形態では、エアゾール缶は、アンダーコート、仕上げコート、トップコート、プライマー、着色コート、ニス、ラッカー又は接着剤を噴霧するために使用される。
【0179】
エアゾール缶は、工業用、自動車、船舶、建設産業及び/又はフローリング用途などの適切な任意の用途において、高品質接着剤、プライマー、アンダーコート、トップコート、仕上げコート、着色コート、ニス又はラッカーを噴霧するために使用し得る。
【0180】
以下の非限定的な例は、本発明を更に例示することになろう。
【実施例
【0181】
(実施例1)
2成分エアゾール配合物を、400mlの充填を有する約625個のエアゾール缶を生産するために調製する。
【0182】
配合物
成分1:Momentive Specialty Chemicals社、NetherlandsからのEpikote 1001-X-75(キシレン中のエポキシ樹脂);113.7kg;
成分2:Momentive Specialty Chemicals社、NetherlandsからのEpicure 3502(硬化剤前駆体:エチレンジアミンとメチルイソブチルケトンの反応生成物);9.3kg;
成分3:Brenntag Nordic Oy社、Finlandからのメチルエチルケトン;7.8kg;
成分4:Brenntag Nordic Oy社、Finlandからのキシレン;23.6kg;
成分5:Dupont de Nemours社、Netherlandsからのジメチルエーテル;缶当たり96.6g添加される;
成分6:Tamincoからの酢酸、6.86g;約2質量%;
【0183】
混合及び充填
200lのバレルに、成分1、6、3及び4を、周囲条件下でこの順番で添加した。混合物を、通常の混合機(高せん断型ではない)で15分間未満混合した。成分2を混合物に加え、混合物が均一になり分離しなくなるまで、これを更に15分間混合した。
3つの内部コーティングなしのブリキ板エアゾール缶(1-チャンバーエアゾール缶)を使用した。この缶の寸法は:直径65mm;高さ157mm;400ml充填(520mlの縁いっぱいの容積)である。缶の供給業者はG. Staehle GmbH u. Co. KG社、Germanyであった。
2つの混合ボールを缶に加え、この缶に、液体充填機を用いて、成分1、6、3、4及び2を含む247.1gの調製混合物を充填した。
エアゾール弁(Aptar GmbH社、Germanyから市販されている)を缶に取り付けた。
弁の仕様は:Aptar:カップブリキ板、ステム0.50mm、ハウジング2.4mm、VPH 0.45mm、内側ガスケット:クロルブチル、外側ガスケット:n-ブナsh 85であった。
弁を缶上にクリンチし、そのクリンチをKroeplin社からのクリンチ測定装置でチェックし、幅(Weith)27.2mm、深さ5.10mmであった。
閉じた缶に、液化噴射剤ジメチルエーテル(成分5)96.6gを充填した。アクチュエータ(Aptar社からのAptar W2AX)を弁に取り付け、次いで、配合物を充填した缶を使える状態においた。
【0184】
目視試験
配合物の1クロスレイヤを、黒色のストライプを有する白色金属塗料カード上に噴霧した。
観察:
層は、18分間でダストドライであった。
層は、35分間でタッチドライであった。
クリアコートの透明度、ガードナーASTM 1544<1。
1クロスレイヤをウェット・イン・ウェットで噴霧した後、したたりはなし。
【0185】
乾燥膜厚さ
1クロスレイヤの膜厚さを1hの乾燥時間後に測定した。膜厚さは、BYK社からのBYKO-Test MPORで測定した。膜の厚さは、45~50ミクロンであった。
【0186】
硬度
硬度を、10h、36h、61h及び120h後に測定した。硬度は、BYK社からのペンデル硬度計で測定した。硬度の単位はケーニッヒ及びペルゾーである。
硬度は、ASTM D 4366及びDIN EN ISO 1522標準に適合する方法を用いて、ガラス板上で、75ミクロンの乾燥膜により測定した。Table 1(表1)に、硬度測定の結果を示す。
【0187】
【表1】
【0188】
接着性試験
接着性を36h及び72h後に測定した。接着性は、20mm Dolyサイズを用いてPosiTest AT-A(BYK社から)で測定した。接着性は75ミクロンの乾燥膜により測定した。Positestは、ASTM D4541/D7234、ISO 4624/16276-1、AS/NZS 1580.408.5を含む国際標準に適合している。
測定された接着性は>450psiであった。
【0189】
光沢 60°の角度下で測定する、塗料のために適用可能な従来型光沢計を光沢測定に使用した。使用した装置はErichsen Picogloss計560MCであった。この光沢測定は標準:ISO 7668、ASTM D 523、DIN 67530、EN ISO 2813に適合している。
測定された光沢は96であった。
より透明性の低い塗料について、より低い光沢が望ましい場合、これは、少量(例えば、エアゾール配合物の質量から計算して1.5w/W%)の通常の艶消し剤(水捕捉剤ではない)を使用して行うことができる。
【0190】
再使用
2年後この缶を再使用した。配合物は十分に使用可能であり、噴霧結果は、新たに生産された缶と同じであった。乾燥及び乾燥膜の特性も、新たに生産された缶で実施した試験の値にしたがった。
【0191】
参考例
【0192】
【表2】
【0193】
形成された生成物は、2週間未満の有効期間を有していた。
【0194】
(実施例2)
【0195】
【表3】
【0196】
1.7%w/w酢酸の添加は、その配合物の製造及び試験に影響を及ぼさなかった。缶を、オーブン中、45℃で3カ月間エイジングさせた。従来の経験から、安定性喪失を加速するために、エイジングシミュレーションを使用できることは周知である。45℃での3カ月間は、25℃での3年又はそれ超の有効期間に相当する。
【0197】
(実施例3~8)
他の配合物を、使用した成分材料を除いて実施例1と同様にして作製した。Table 2(表4)に、試験した化学薬品及び化学組成物を挙げる。
液相の製造及びエアゾール缶の充填を、実施例1での説明と同様にして行った。
試験結果は、約5%の限度内で実施例1で論じたのと同じ結果を示している。これは、任意の所望の時点で再使用することができ、約3年の有効期間を有するエアゾール缶でもたらされる極めて高い品質を表している。
【0198】
【表4】