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特許7026636高い表面湿潤性を有する生体適合性表面コーティング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】高い表面湿潤性を有する生体適合性表面コーティング
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220218BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20220218BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220218BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20220218BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 A
C12N1/00 A
C12N5/07
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018553355
(86)(22)【出願日】2017-04-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 US2017026883
(87)【国際公開番号】W WO2017180544
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】62/322,015
(32)【優先日】2016-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/395,575
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ゴラール,ヴァシリー ニコラエヴィチ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-521293(JP,A)
【文献】特表2007-505623(JP,A)
【文献】国際公開第2014/179196(WO,A1)
【文献】特開2007-215519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養器具であって、
細胞培養表面を有する高分子基板、および
前記高分子基板の細胞培養表面上に配置された溶ける炭水化物コーティング、
を備え、
被覆された前記細胞培養表面に水性細胞培養培地を加えた際に、前記溶ける炭水化物コーティングが該水性細胞培養培地中に溶け、
前記溶ける炭水化物コーティングを有する高分子基板が、該溶ける炭水化物コーティングの不在下での前記高分子基板の接触角より小さい接触角を有し、
前記高分子基板が親水性特徴を有する低タンパク質結合コーティングを備え
前記高分子基板の投影表面積に対する実際の表面積の比rが1より大きい、器具。
【請求項2】
前記溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、請求項1記載の器具。
【請求項3】
前記溶ける炭水化物コーティングが安定剤をさらに含む、請求項1または2記載の器具。
【請求項4】
前記安定剤がポリエチレンオキシドを含む、請求項3記載の器具。
【請求項5】
前記高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、請求項1から4いずれか1項記載の器具。
【請求項6】
前記高分子基板が、ガス透過性であり、液体不透過性である、請求項1から5いずれか1項記載の器具。
【請求項7】
前記低タンパク質結合コーティングが、前記高分子基板の細胞培養表面に共有結合したヒドロゲル層を含む、請求項1から6いずれか1項記載の器具。
【請求項8】
前記高分子基板の細胞培養表面が滑らかな表面を含む、請求項1から7いずれか1項記載の器具。
【請求項9】
前記高分子基板の細胞培養表面が粗面を含む、請求項1から8いずれか1項記載の器具。
【請求項10】
前記高分子基板の細胞培養表面が超親水性である、請求項1から9いずれか1項記載の器具。
【請求項11】
前記器具が、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、およびマイクロ流体器具からなる群より選択される、請求項1から10いずれか1項記載の器具。
【請求項12】
前記器具が、マイクロキャビティのアレイを含む3D細胞培養器具である、請求項1から10いずれか1項記載の器具。
【請求項13】
細胞培養器具を製造する方法であって、
高分子基板を提供する工程、および
前記高分子基板の細胞培養表面上に溶ける炭水化物コーティングを施す工程、
を有し、
前記高分子基板が、前記炭水化物コーティングを施す前に、親水性特徴を有する低タンパク質結合コーティングを備え
前記高分子基板の投影表面積に対する実際の表面積の比rが1より大きい、方法。
【請求項14】
前記高分子基板の細胞培養表面上に溶ける炭水化物コーティングを施す工程が、
炭水化物と溶媒の溶液を前記高分子基板の細胞培養表面と直接接触させる工程、および
前記溶液から前記溶媒を蒸発させて、前記高分子基板に化学結合していない溶ける炭水化物コーティングを備えた高分子基板の細胞培養表面を得る工程、
を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記施す工程が、吹き付け塗り工程、溶媒被覆工程、および回転塗布工程からなる群より選択される工程を含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記溶ける炭水化物コーティングがポリエチレンオキシドをさらに含有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞培養のための方法であって、
請求項1から12いずれか1項記載の細胞培養器具を提供する工程、
請求項1から12いずれか1項記載の細胞培養器具に、水、炭水化物、および細胞を含む細胞培養培地を加える工程、
前記溶ける炭水化物コーティングを前記細胞培養培地中に溶かす工程、および
前記細胞を培養する工程、
を有してなる方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て含まれる、2016年4月13日に出願された米国仮特許出願第62/322015号および2016年9月16日に出願された米国仮特許出願第62/395575号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、高い表面湿潤性を持つ溶ける表面コーティングを有する器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)に関する。本開示は、高い表面湿潤性を持つ溶ける表面コーティングを有する器具を使用する方法および製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、およびマイクロ流体器具などの器具が、いくつか例を挙げると、分子、細胞、および生物の分野での研究を可能にするために重要であることがよく知られている。例えば、3D細胞凝集体(例えば、多細胞スフェロイド)を生成する3D細胞培養器具が、基礎研究並びに細胞療法の重要な部分であると過去10年で認識されてきた。現在、動物実験を行わなければならなくなる前の治療法の開発および基礎研究の両方に3D細胞培養器具を使用する利点は、3D細胞凝集体(例えば、多細胞スフェロイド)を生成し、支持できる新たな3D細胞培養製品の継続的な開発と商業化にとっての推進力である。
【0004】
3D細胞培養器具は、典型的に、細胞がその表面に付着するのを妨げる表面を有し、このことは、転じて、3D細胞凝集体(例えば、多細胞スフェロイド)の形成を誘発する。3D細胞凝集体を生成する最もうまくいった方法の内の1つは、非接着性細胞培養表面を有するウェル内に細胞を播種することである。超低付着性(ULA)表面と称される非接着性細胞培養表面を持つウェルを有する製品系列の一例が、Corning Incorporatedにより販売されている。これらの製品は、概して、非常にうまく機能するが、均一なサイズの3D細胞凝集体をよりよく生成することができるようにまだ改善することができる。
【0005】
3D細胞凝集体を生成するために今日使用されている別の方法は、3D細胞凝集体またはスフェロイドを収容するためのマイクロキャビティを有するウェル内または表面上に細胞を播種することである。3D細胞凝集体を生成するために使用できるマイクロキャビティ表面を持つウェルを有する3D細胞培養器具の一例に、StemCell Technologies社により販売されているAggreWell(商標)Plateがある。この「AggreWell」系列の製品は、6ウェルプレートが最大であるマルチウェル形式で提示されている。しかしながら、マイクロウェルまたはマイクロキャビティ配列が鋭角であるために、これらのフットプリントが大きい製品は、最初の細胞播種工程中に気泡を閉じ込め易い。この気泡閉じ込め問題に対処するためにStemCell Technologies社が推奨する方法の1つは、細胞を加える前に、プレートを遠心分離機にかけられるようにマイクロウェルに培地を完全に満たすことである。しかしながら、この提案された解決策は、ユーザが多数のプレートを同時に取り扱う能力を著しく制限するために、細胞培養プロトコルにおいては望ましくない。基本的に、最初の細胞播種工程中のマイクロウェルのキャビティまたはマイクロキャビティ内の気泡の閉じ込めは、大量の3D細胞凝集体を生成するために使用できる、フットプリントの大きい3D細胞培養器具の採用および設計にとって重大な問題を引き起こす。それゆえ、マイクロキャビティを持つウェルを有する製品は、3D細胞凝集体をよりよく生成できるために、気泡閉じ込め問題に対処するように、改良することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
少なくとも先に述べたことに鑑みて、3D細胞培養器具にとって改良が望ましいことが認識できる。実際に、3D細胞培養器具に加え、例えば、2D細胞培養器具およびマイクロ流体器具を含む幅広い器具にとって、改良が望ましい。本開示は、これらの必要性と他の必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の請求項に、上述した必要性に対処する器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)、並びにその器具を製造する方法および使用する方法が記載されている。その器具、並びにその器具を製造する方法および使用する方法の有利な実施の形態も、請求項に記載されている。
【0008】
1つの態様において、本開示は、その上に溶ける炭水化物コーティング(すなわち、高い表面湿潤性を有する生体適合性表面コーティング)を持つ高分子表面を有する器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を提供する。その高分子表面は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、プラズマ処理されたポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。その水に溶ける炭水化物コーティングは、以下(例えば)の内の1つから製造できる:単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類。実施の形態において、溶ける炭水化物コーティングは、周囲条件での長期貯蔵のために、得られた水に溶ける炭水化物コーティングを安定化させるために、ポリエチレンオキシドまたは同様の化合物を含有することができる。所望であれば、その高分子表面は、低タンパク質結合コーティング(例えば、ULAコーティング)で被覆してもよく、これは、次に、水に溶ける炭水化物コーティングで被覆される。この器具は、最新の器具を上回る際立った改良である。何故ならば、この器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、炭水化物の薄いコーティングは水性の細胞培養培地の添加の際に溶けるので、高分子表面の物理化学的性質に影響を与えない溶ける炭水化物コーティングを有するからである。
【0009】
別の態様において、本開示は、器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を製造する方法であって、(a)高分子表面を提供する工程、および(b)その高分子表面上に水に溶ける炭水化物コーティング(すなわち、高い表面湿潤性を持つ生体適合性表面コーティング)を施す工程を有してなる方法を提供する。この施す工程は、吹付け塗り工程、溶媒被覆工程、または回転塗布工程を伴い得る。例えば、施す工程は、炭水化物と溶媒の溶液を高分子表面と直接接触させる工程、および溶液から溶媒を蒸発させて、高分子表面に化学結合していない水に溶ける炭水化物コーティングで被覆された高分子表面を得る工程を含み得る。1つの実施の形態において、その高分子表面は、その上に水に溶ける炭水化物コーティングが施される低タンパク質結合コーティング(例えば、共有結合したヒドロゲル層)を有することがある。その高分子表面は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン(例えば、プラズマ処理されたポリスチレン)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。その水に溶ける炭水化物コーティングは、以下(例えば)の内の1つから製造できる:単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類。溶ける炭水化物コーティングは、周囲条件での長期貯蔵のために、得られた水に溶ける炭水化物コーティングを安定化させるために、ポリエチレンオキシドまたは同様の化合物を含有することができる。この器具は、最新の器具を上回る際立った改良である。何故ならば、この器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、炭水化物の薄いコーティングは水性の細胞培養培地の添加の際に溶けるので、高分子表面の物理化学的性質に影響を与えない水に溶ける炭水化物コーティングを有するからである。
【0010】
さらに別の態様において、本開示は、器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を使用する方法であって、(a)その上に溶ける炭水化物コーティング(すなわち、高い表面湿潤性を持つ生体適合性表面コーティング)が配置された高分子表面を有する器具を提供する工程、および(b)高分子表面上に配置された溶ける炭水化物コーティング上に、少なくとも水、炭水化物、および細胞を含有する細胞培養培地溶液を添加する工程を有してなる方法を提供する。1つの実施の形態において、その高分子表面は、その上に水に溶ける炭水化物コーティングが配置される低タンパク質結合コーティング(例えば、共有結合したヒドロゲル層)を有することがある。その高分子表面は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン(例えば、プラズマ処理されたポリスチレン)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。その溶ける炭水化物コーティングは、以下(例えば)の内の1つから製造できる:単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類。溶ける炭水化物コーティングは、周囲条件での長期貯蔵のために、得られた溶ける炭水化物コーティングを安定化させるために、ポリエチレンオキシドまたは同様の化合物を含有することができる。この器具は、最新の器具を上回る際立った改良である。何故ならば、この器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、炭水化物の薄いコーティングは水性の細胞培養培地の添加の際に溶けるので、高分子表面の物理化学的性質に影響を与えない溶ける炭水化物コーティングを有するからである。
【0011】
本開示の追加の態様は、一部は、以下の詳細な説明、図面、および任意の請求項に述べられており、一部は、その詳細な説明から想起されるか、または本開示の実施により分かる。先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、例示かつ説明に過ぎず、本開示を開示されたように制限するものではないことを理解すべきである。
【0012】
本開示のより完全な理解は、添付図面と共に解釈したときに、以下の詳細な説明を参照することにより得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】平面の湿潤過程(接触角ヒステリシス)を示す説明図
図1B】固体表面の親水性と疎水性の尺度および本開示により対処されるマイクロキャビティを含む表面に関連する問題の空気の閉じ込めを説明するために使用されるマイクロキャビティのアレイを有する表面を示す説明図
図2A】従来のULA被覆ポリスチレン表面上の水滴の写真(従来技術)
図2B】ULA被覆ポリスチレン表面上の溶ける炭水化物コーティングの実施の形態上の水滴の写真
図3】材料の透明度を示す黒と白のポスターの前に位置するのが示されている、従来のULA被覆ポリスチレン表面の写真(従来技術)
図4】材料の透明度を示す黒と白のポスターの前に位置するのが示されている、本開示の実施の形態にしたがって構成された溶ける炭水化物が被覆されたULA被覆ポリスチレン表面の写真
図5】本開示の実施の形態による、その上に水に溶ける炭水化物コーティングが配置された高分子表面を有する例示の器具の部分側面図
図6】低タンパク質結合コーティングで被覆され、次に、本開示の実施の形態による水に溶ける炭水化物コーティングで被覆された高分子表面を有する例示の器具の部分側面図
図7A】本開示の実施の形態による、図5~6に示された器具の例示の形状を示す部分側面図
図7B】本開示の異なる実施の形態による、図5~6に示された器具の異なる例示の形状を示す部分側面図
図7C】器具のある実施の形態を示す、図7Bで四角形内に示された区域の引き伸ばされた図
図7D】器具の異なる実施の形態を示す、図7Bで四角形内に示された区域の引き伸ばされた図
図8】本開示の実施の形態による図5~7に示された器具を製造する例示の方法の各工程を示す流れ図
図9】本開示の実施の形態による図5~7に示された器具を使用する例示の方法の各工程を示す流れ図
図10A】溶ける炭水化物コーティングを組み込んだ例示の細胞培養器具の実施の形態を示す図
図10B】溶ける炭水化物コーティングを組み込んだ例示の細胞培養器具の実施の形態を示す図であって、図10Aに四角形で示された区域の引き伸ばされた図
図11A】本開示の実施の形態による、滑らかな内面を持つ溶ける炭水化物/ULA被覆ポリスチレン・マイクロキャビティ(培養形式:24ウェルプレート)内で3日間培養した後のHCT 116ヒト結腸直腸癌細胞(ACTT(登録商標)CCL-247(商標))の3D細胞凝集体のある見方を示す写真
図11B】本開示の実施の形態による、滑らかな内面を持つ溶ける炭水化物/ULA被覆ポリスチレン・マイクロキャビティ(培養形式:24ウェルプレート)内で3日間培養した後のHCT 116ヒト結腸直腸癌細胞(ACTT(登録商標)CCL-247(商標))の3D細胞凝集体の異なる見方を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本開示の目的のために、「コーティング」という用語は、別の材料の表面に施された材料を意味する。例えば、コーティングは、プラスチック表面に施された多糖類であることがある。そのコーティングは、層または膜であってよく、連続または不連続であってよい。コーティングは、例えば、吹き付け塗り、溶媒被覆または回転塗布技術、もしくは当該技術分野で公知の任意の他の技術によって施されてよい。
【0015】
本開示の目的のために、「マイクロキャビティ」という用語は、3Dで、またはスフェロイドとして培養された細胞を収容するような適切なサイズの、表面内の凹面、凹み、小さな窪み、または陥凹を意味する。「マイクロキャビティ」を有する細胞培養器具は、3D細胞培養器具である。すなわち、それらは、三次元配置内の培養で、またはスフェロイドとして培養下の増殖する細胞を支持するような構造である。「マイクロキャビティ」および「マイクロウェル」は同義語である。
【0016】
本開示の目的のために、「マイクロキャビティ・アレイ」という用語は、培養において1つ以上のスフェロイドを収容するのに適したマイクロキャビティのアレイを意味する。マイクロキャビティのアレイを有する細胞培養器具は、3D細胞培養器具である。すなわち、それらは、三次元の培養で、またはスフェロイドとして培養下の増殖する細胞を支持するような構造である。
【0017】
本開示の目的のために、「3D細胞培養器具」という用語は、スフェロイドなどの三次元構造を形成する上で培養細胞を支持するような構造の器具を意味する。「3D細胞培養器具」は、マイクロキャビティまたはマイクロキャビティのアレイを有する細胞培養器具(図10Aに示されたものなど)を含む。「3D細胞培養器具」は、スフェロイドなどの三次元構造を形成するために培養細胞を支持するように他のように作られた器具も含む。例えば、丸底マルチウェル細胞培養プレートは、マイクロキャビティまたはマイクロキャビティのアレイを持たずに、3D細胞培養を促進するであろう。
【0018】
本開示の目的のために、「2D細胞培養器具」という用語は、細胞を培養するための平面を有する器具を意味し、よって、細胞は、細胞の二次元シートとしてその細胞培養器具内で増殖する。
【0019】
本開示の目的のために、「マイクロ流体器具」という用語は、複数の細胞培養チャンバ(マルチウェルプレートのウェルまたは多層器具の層など)およびチャンバ間で流体を共有するための機構を有する、細胞培養のための器具を意味する。
【0020】
本開示の目的のために、「スフェロイド」という用語は、培養において三次元配列で増殖する細胞の群または凝集体を意味する。スフェロイド配置で増殖する細胞は、平らな細胞増殖表面上に配置された細胞の単層として、二次元配列で培養において増殖する細胞とは区別される。
【0021】
本開示の目的のために、「ウェル」という用語は、細胞培養のための容器を意味し、これは、ペトリ皿、6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、96ウェルプレート、1536ウェルプレート、フラスコ、多層フラスコなどのウェルであってよい。
【0022】
本開示の目的のために、「粗い」という用語は、滑らかではない表面を意味する。例えば、平らな細胞増殖表面は、滑らかであっても、滑らかから外れていてもよい。表面粗さは、その理想形態からの、実際の表面の法線ベクトルの方向の逸脱により数量化される(https://en.wikipedia.org/wiki/Surface_roughness)。例えば、粗い表面は、1μm以下だけ表面の法線ベクトルの方向に逸脱することがある。ある表面は、粗くても、滑らかであってもよい。マイクロキャビティは、粗くても、滑らかであってもよい内面を1つ以上有することがある。
【0023】
本開示の目的のために、「低タンパク質結合表面」または「低結合表面」または「低タンパク質結合コーティング」または「低結合コーティング」(全てが互いに交換可能に使用される)という用語は、低タンパク質結合特性または低細胞結合特性を有する材料のコーティングを有する材料を意味する。すなわち、タンパク質および細胞は、低タンパク質結合表面に結合しない、または低タンパク質結合表面に対して減少した結合を示す。実施の形態において、低タンパク質結合材料は、表面に共有結合して、低タンパク質結合表面を形成することがある。実施の形態において、低タンパク質結合表面は、Corning Incorporatedから入手できるULA(超低付着性)処理された細胞培養容器または他の類似の製品などの市販の製品内に存在することができる。低タンパク質結合コーティングは、その低いタンパク質結合特徴に加え、親水性特徴を有することがある。
【0024】
本開示の目的のために、「安定剤」という用語は、ポリエチレンエポキシド群またはポリエチレンオキシド/プロピレンオキシド・ブロック・コポリマー(例えば、Pluronic F-68、BASF Corporation)などの生体適合性コポリマー誘導体からの水溶性高分子を意味する。実施の形態において、この安定剤は、長期貯蔵中に溶ける炭水化物コーティングの安定化を助けるように、炭水化物コーティング中にブレンドされることがある。いくつかの実施の形態において、その安定剤はポリエチレンオキシドである。
【0025】
詳細な説明
本開示には、器具の表面親水性を一時的に上昇させるための、機器(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)に実施できる様々な表面改質技術が記載されている。本開示は、主に3D細胞培養器具に向けられているが、ここに記載された独特の表面改質は例えば、2D細胞培養器具やマイクロ流体器具などの他のタイプの器具に使用できることを認識すべきである。ここに記載されたように、ここに記載された溶ける親水性コーティングにより改質された、様々な表面形状(例えば、平面または2D表面、もしくは少なくとも1つのマイクロキャビティまたはマイクロキャビティのアレイを有する表面、または3D表面)を有する細胞培養器具は、生体適合性である。追加の実施の形態において、前記表面は非接着性をさらに有する。非接着性およびマイクロキャビティを有するこれらの表面は、3D細胞凝集体またはスフェロイドを生成するために使用されることがある。さらに、開示された表面改質は、3D細胞凝集体の生成に関連する細胞播種工程および水性培地の添加工程中のマイクロキャビティ表面内の空気の閉じ込めをなくすこともある。
【0026】
実施の形態において、その2Dまたは3D細胞培養表面は炭水化物コーティングを有する。この炭水化物コーティングの存在により、その表面がより湿潤性になる。すなわち、その炭水化物コーティングは親水性である。そのコーティングは水分子を引き付ける。炭水化物コーティングが存在する場合、細胞培養表面上または中に水性液体を導入する際の気泡の形成が減少する。言い換えると、炭水化物コーティングは表面の親水性を改善して、水性培地が器具に添加されるときに、その器具の表面上の空気の閉じ込めを防ぐ。その炭水化物コーティングは細胞に対して生体適合性でもある。細胞培養培地は、培養中の細胞のためのエネルギー源として、例えば、グルコースやガラクトースなどの炭水化物を含有する。これらの材料が培地に溶け込んだときに、それらの存在は、水性培地中にすでに存在する炭水化物の濃度を増加させる働きをする。
【0027】
実施の形態において、前記溶ける炭水化物コーティングは、連続または不連続であり得る。実施の形態において、その溶ける炭水化物コーティングの厚さは、そのコーティングの機能性にしか制限されない。例えば、そのコーティングは、非常に薄くても、厚くても、もしくは薄いと厚いの間であってもよい。コーティングの厚さの範囲は、その機能によって薄い側で制限される-すなわち、コーティングは、表面を湿潤にできるほど十分に厚くなければならないが、水性培地に、細胞培養条件のための範囲から外れるほど多くのグルコースを与えるほど厚くてはならない。例えば、その材料は、薄い(すなわち、0.01マイクロメートル)から厚い(すなわち、5マイクロメートル)までの厚さに及ぶことがある。
【0028】
(例えば)単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類を含む、幅広い範囲の生体適合性炭水化物を使用して、前記器具を被覆することができる。例えば、その器具は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、またはマンニトールのコーティングで被覆することができる。実施の形態において、その炭水化物は、炭水化物材料が培地に溶け込むようにしているようにコーティングが表面の化学結合しないような様式で、細胞培養表面に与えられる。
【0029】
例えば、セルロースは、水または液体培地中に可溶性ではないので、コーティングにとって適切な炭水化物ではない(例えば、Journal of Adhesion Science and Technology 22 (2008) 545-567頁、表1cを参照のこと。この文献に、セルロース膜の水分付着張力の値(表1の第3列)は50程度であることが示されている。このことは、気泡が、セルロースコーティングで被覆されたマイクロキャビティ内に閉じ込められそうであろうことを示す)。
【0030】
その上に表面コーティングを有する器具についてのより詳しい議論が下記に、例えば、親水性表面、超親水性表面、および疎水性表面の湿潤性を説明するために与えられた手短な議論の後に記載されている。
【0031】
実施の形態において、前記炭水化物コーティングは、低いタンパク質結合表面処理を有する細胞培養表面に施されることがある。例えば、その炭水化物コーティングは、細胞培養表面を細胞に対して非接着性にする材料で処理された(炭水化物コーティングの施用の前に)細胞培養表面に施されることがある。超低付着性(ULA)表面と称される非接着性細胞培養表面を持つウェルを有する製品系列の一例が、Corning Incorporatedにより販売されている。その炭水化物コーティングは、市販のULA処理表面に施してよい。
【0032】
前記炭水化物コーティングは、例えば、吹き付け塗り、溶媒被覆、または回転塗布技術により施すことができる。一例において、その炭水化物コーティングは、特定の高分子表面材料と相溶性である溶媒中にあり、その溶媒が蒸発して炭水化物の薄いコーティングを残すように表面に施される。実施の形態において、水分子に対する炭水化物コーティングの高い親和性により、細胞培養培地などの水溶液と接触した際に、表面が瞬間的に濡れる。
【0033】
実験において、炭水化物コーティングを有する表面の実施の形態上の水滴の接触角は、平らなULA被覆ポリスチレン表面上に炭水化物コーティングを加えると、接触角が40°から10°に減少し、表面が超親水性となることを示した(表3参照)。
【0034】
追加の実施の形態において、前記炭水化物コーティングに、ポリエチレンオキシド群またはポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド・ブロック・コポリマー(例えば、Pluronic F-68、BASF Corporation)などの生体適合性コポリマー誘導体からの水溶性高分子を加えることは、周囲条件での長期貯蔵に適するように、24時間程度から30~45日に亘り、得られた炭水化物コーティングの均一な被覆を安定化させるのに役立つ。
【0035】
親水性表面は、一般に、水を引き付ける表面として記載することができ、水接触角は90°未満であるべきである(例えば、接触角についての詳細、および親水性表面に加えて他の種類の表面にその表面がどのように関連しているかについて、下記の議論および図1A~1B、図2Aと2B、並びに表1~3を参照のこと)。ヤングの式により表される親水性表面のエネルギーバランスは、
γ-γsl=γcosθ (式1)
と記載することができ、式中、γは固体の表面自由エネルギーであり、γは液体の表面自由エネルギーであり、γslは固体/液体の界面自由エネルギーであり、θは平衡接触角である。超親水性表面について、接触角は、ヤングの式の適用限界であるゼロである。一般に、超親水性表面は、親水性であり、表面粗さも有する。
【0036】
このように、親水性系は、以下のように、清浄で非反応性の固体の単位表面積に液体を広げるために行われた仕事-液体広がりW仕事によりよりうまく特徴付けられる:
=γ-(γ+γsl) (式2)
【0037】
液体が完全には広がらないが、明確な接触角を形成する場合、ひいては、広がりの仕事は、以下のように、θ>0である限り、測定された接触角および液体の表面張力から計算できる:
=γ(cosθ-1) (式3)
【0038】
したがって、広がりの仕事は、固体表面の親水性の尺度として使用できるであろう。広がりの式のこの仕事に関する詳細について、C.J. Van Oss “Interfacial Forces in Aqueous Media”, Marcel Dekke Inc, New York, 1994(この文献の内容が、全ての目的について、ここに引用される)を参照のこと。
【0039】
湿潤過程中の液体の固体表面との相互作用を考慮すると、親水性の絶対尺度として、水和/溶媒和の自由エネルギー(ΔGsl)を使用できる。水中で互いに引き付ける疎水性分子はΔGsl>-133mJm-2を有するのに対し、親水性分子は、ΔGsl<-133mJm-2を有する(上述したC.J. Van Oss, Interfacial Forces in Aqueous Media, Marcel Dekke Inc, New York, 1994を参照のこと)。これを考慮すると、ひいては、式3は、以下のように読めるように変更できる:
ΔGsl=-γ(cosθ+1) (式4)
【0040】
親水性表面と疎水性表面との間の移行を記載する平衡接触角は、ΔGsl=-113mJm-2について、θ=56°である。それゆえ、固体表面の親水性の様々な尺度は、固体表面の親水性および疎水性の一般に是認された尺度を示す表1に下記に示されるように纏めることができる:
【0041】
【表1】
【0042】
注記1:この表は、Soft Matter, 2011, 7, 9804-9828から引用した。
【0043】
注記2:この表において、超親水性表面と称されている表面は、その上で水(液体)が完全に広がる、1より大きい(すなわち、r>1)粗さ係数(r=投影表面積に対する実際の表面積の比)を有するザラザラしたおよび/または構造化表面(粗いおよび/または多孔質の)である。言い換えると、超親水性(超湿潤性)表面は、親水性材料に粗さを導入することによって達成される。
【0044】
注記3:図1Aおよび1Bは、滑らかな平面100(図1A)および3D細胞培養表面の一形態である、マイクロキャビティ710のアレイを有する表面(図1B)に関する湿潤過程を示す図である。図1Aおよび図1Bに示された表面は、超低付着性(ULA)コーティングなどの表面コーティングで処理されていても、いなくてもよい。図1Aは、高分子材料102の滑らかな平面100に施された水性液体202の液滴を示す。図1Bは、マイクロキャビティ710を有する高分子材料104の表面に施された水性液体202の液滴を示す。炭水化物コーティングがないと、その表面のマイクロキャビティ710特徴内に空気101が閉じ込められることがある。マイクロキャビティ710中の細胞培養に干渉する、気泡101の形成を減少させるために、表面を、その親水性を向上させるように処理することができる。
【0045】
表面の親水性の向上は、その表面よりも親水性である材料の分子または微視的コーティングの堆積により、または基板自体の化学的性質の変更によって、取り組むことができる。分子修飾および表面の化学的性質の改質の両方が、生命科学用途における高分子材料の場合に、過去に使用されてきた。
【0046】
溶液相または気相のいずれかからの多数の有機分子が、選択された固体上に吸収され、それら自体を、基板の湿潤特徴を変える自己組織化単分子層に組織化し得ることが公知である。これらの自己組織化単分子層に関する詳細について、A. Ulman, “An Introduction to Ultrathin Organic Films: From Langmuir-Blodgett to Self-Assembly”, Academic Press Inc, Boston, 1991(この文献の内容が、全ての目的について、ここに引用される)を参照のこと。
【0047】
固体表面上に化学結合した短い機能性分子の自己組織化単分子層を配置すること以外に、生命科学用途に使用される高分子の改質のために、巨大分子を有する材料のコーティングに多数の研究が焦点を当ててきた。しかしながら、典型的な生物工学または細胞培養用途において、グラフト化コーティングまたは物理的に吸着された合成巨大分子コーティングの親水性は、前記器具の細胞培地との生体適合性がより重要であるので、通常は、それほど重要ではない。代わりに、典型的な保護コーティングは、表面が生体液と接触したときに、タンパク質の吸着を防ぐことを目的としている。このタイプの研究に関する研究について、D.G. Castner et al. “Biomedical Surface Science: Foundations to Frontiers”, Surf. Sci., 2002, 500 (1-3), 28-60(その内容が、全ての目的に関して、ここに引用される)を参照のこと。
【0048】
Corning Incorporatedにより開発された、業界で今日使用されているそのような保護または低タンパク質結合コーティングの一例に、細胞培養表面に施される超低付着性(ULA)コーティングがある。ポリスチレン表面に施されたULAを有する製品が、Corning Incorporatedから市販されている。その超低付着表面は、親水性であり、中性的に帯電した、共有結合したヒドロゲル層である。ULAコーティングの主な目的は、細胞培養培地からの生体分子のその表面への吸着を最小にし、それゆえ、その細胞が表面に付着するのを防ぎ、その表面を低タンパク質結合表面にすることである。
【0049】
Corning Incorporatedは最近、マルチウェルプレートのウェル内に位置する個々のマイクロキャビティを有する新たな細胞培養容器も開発した。例えば、96ウェルプレートは96個のウェルを有し、これらのウェルの各々の中に、1つのスフェロイドが成長することができる(Spheroid Plate、Corning Incorporated)。これらの製品は、3D細胞凝集体の生成と培養のために設計されている。これらの細胞培養容器も、細胞接着を防ぐためにULAコーティングを使用しており、本開示に記載された新たな炭水化物の薄いコーティング(例えば、グルコース薄膜コーティング)を使用できるであろう。これらの新たな細胞培養容器に関する詳細について、2015年10月29日に出願され、「3D細胞凝集体の生成および培養のための器具および方法(Devices and Methods for Generation and Culture of 3D Cell Aggregates)」と題する同一出願人による特許出願第PCT/US2015/58048号(その内容が、全ての目的について、ここに引用される)を参照のこと。重ねて、このULAコーティングの主な目的は、3D凝集体の形成を促進するために、細胞の細胞培養表面への付着を防ぐことにある。
【0050】
従来の平らなULA被覆ポリスチレン表面は、30°から50°まで様々である接触角(図1Aおよび表2に示されるような)による弱い親水性を示す。しかしながら、ULA被覆ポリスチレン表面にマイクロキャビティを導入すると、見掛け接触角(図1Bに概略的に示され、表2において測定されたような)が増加する。図1Aおよび1Bは、マイクロキャビティ710のアレイを含む表面(図1B)と比べた平面100(図1A)の湿潤性の概略図を示している。図1Aおよび1Bは、同じ高分子材料から製造された表面を示す。図1Aおよび1Bにおいて、θ>θであるのが分かり、θ≧120°の場合、エアロックが生じる(表面のマイクロキャビティ特徴710中の空気101の閉じ込め)ことを認識すべきである(注記:θは平面100に関連する接触角であり、θはマイクロキャビティを含む表面104に関連する接触角である。実際には、接触角は、概して、表面のタイプにかかわらずに、θにより表される)。マイクロキャビティ・アレイ表面(マイクロキャビティ710のアレイを有する表面、例えば、図10Bの600を参照のこと)の場合。粗さ係数r>1では、マイクロキャビティ710内に気泡が閉じ込められ得る。この系は、以下のように、カッシー・バクスター・モデルにより記載できる:
cosθC-B=ψcos下(1-ψ) 式(5)
式中、ψは、固体表面と接触した液体ベースの割合であり、ψ<1、(1-ψ)はエアポケットと接触した液体ベースの割合である。カッシー・バクスター・モデル(cosθC-B)に関する詳細について、A. B. Cassie et al. “Wettablity of Porous Surfaces” Trans. Faraday Soc., 1944, 40, 546-551(この文献の内容が、全ての目的について、ここに引用される)を参照のこと。
【0051】
カッシー・バクスター・モデルが、マイクロキャビティのアレイを有する表面の湿潤性をどのように表現しているかを示すために、ULAで被覆された平らなポリスチレン表面とマイクロキャビティを含むポリスチレン表面の測定された接触角(実施例3にしたがって測定された)およびその上に閉じ込められた気泡の量の分析が、以下のように表2に与えられている。
【0052】
【表2】
【0053】
水性細胞培養培地の添加中にマイクロウェルまたはマイクロキャビティ710の増加した(100%まで)湿潤性を得るために、ULA処理済みまたは未処理のポリスチレン表面の接触角をさらに減少させることが望ましいであろう。そして、同時に、表面への細胞付着を阻害するために、細胞培養溶液が施されるときに、ULAコーティングの化学官能基が依然として存在することを確実にすることが望ましいであろう。
【0054】
実施の形態において、溶ける炭水化物コーティングは、水性液体を細胞培養表面に導入した際の泡の形成を減少させるために、一時的により親水性である細胞培養表面を提供する。追加の実施の形態において、溶ける炭水化物コーティングと、ULAで処理された高分子表面などの低タンパク質結合表面との組合せにより、(1)気泡の形成を防ぐために表面の湿潤性を増加させる表面を与え、また(2)細胞接着を防ぎ、スフェロイドの形成において細胞の成長を促進させる表面も与える。新たな器具が溶ける炭水化物材料のコーティングを有する本開示の特定の実施の形態を記載するために、これらの実施の形態についての詳しい議論が与えられる。
【0055】
実施の形態において、前記コーティングは薄い。そのコーティングの厚さの範囲は、その機能によって薄い側で制限される-すなわち、コーティングは、表面を湿潤にできるほど十分に厚くなければならないが、水性培地に、細胞培養条件のための範囲から外れるほど多くのグルコースを与えるほど厚くてはならない。例えば、その材料は、ULA被覆ポリスチレン表面の頂部で、薄い(すなわち、0.01マイクロメートル)から厚い(すなわち、1~2マイクロメートルまたは5マイクロメートルまで)までの厚さに及ぶことがある。生体適合性であり、かつ高い表面湿潤性を有する(例えば、0°~40°の範囲の接触角)、その上に配置された水に溶ける炭水化物コーティングを有する高分子表面を有するように、本開示にしたがって構成された器具のいくつかの一般的な実施の形態を記載するために、詳しい議論が与えられる。
【0056】
実施の形態において、前記コーティングは一時的である。すなわち、そのコーティングは溶ける。実施の形態において、水性培地を添加した際に、そのコーティングは培地に溶け、コーティングの下の表面が暴露される。そのコーティングの下の表面は、高分子表面であってもよく、低結合処理またはコーティングで処理された高分子表面であってもよく、滑らかであっても粗くてもよく、マイクロキャビティを含んでもよく、そのマイクロキャビティ自体が滑らかなまたは粗い表面を有してもよい。実施の形態において、その溶けるコーティングが水性培地中に溶けるときに、その培地内で培養される細胞に悪影響がない。すなわち、その溶けるコーティングは、培養中の細胞にとって非毒性である。
【0057】
本開示の実施の形態において、前記細胞培養表面は、ULA被覆ポリスチレン表面の頂部に堆積されたグルコースのコーティングまたは層を有する(例えば、図6参照)。ULA被覆ポリスチレン表面の頂部のグルコースの堆積は、表面の接触角を40°から10°(平面について)に、そして48°から30°(マイクロキャビティのアレイを有する表面について)に減少させることが分かった(表2に示された、ULAで被覆された平らなポリスチレンおよびマイクロキャビティのアレイを有するULA被覆ポリスチレンについての接触角測定値を、下記の表3に示された、グルコース/ULAが被覆された平らなポリスチレン表面およびマイクロキャビティを含むポリスチレン表面についての接触角測定値と比較する)。培養中の細胞に栄養分を与えるために、グルコース、および他の炭水化物が、細胞培養培地中の一般的な成分である。
【0058】
図2A(従来技術)は、弱い親水性(表1により、(56°~65°)≧θ≧0°の範囲の接触角)を示している、従来技術のULA被覆ポリスチレン表面204上の水滴202を示す写真である。図2Bは、親水性(表1により、接触角0°)を示している溶ける炭水化物が被覆された(グルコース被覆された)-ULA被覆ポリスチレン表面208上の水滴202を示す写真である。この溶ける炭水化物が被覆された細胞培養物品(グルコース-ULA被覆)は、より強力な親水性を示した。
【0059】
溶ける炭水化物コーティングが高分子表面の透明度に干渉しないことを示すために、図3および4が与えられている。図3は、黒と白のポスター302の前に位置する従来のULA被覆ポリスチレン表面204(図3-従来技術)の写真である。図4は、黒と白のポスター304の前に位置する溶ける炭水化物材料208(この実施の形態において、グルコース)で被覆されたULA被覆ポリスチレン表面を示す。図4は、グルコースULA被覆ポリスチレン表面208が、溶ける炭水化物コーティングの追加後に完全に透明なままであったことを示す。具体的に、図3および4は、従来のULA被覆ポリスチレン表面204および溶ける炭水化物で被覆されたULA被覆ポリスチレン表面208の光透過性の比較を示しており、それらの写真は、グルコースコーティングがポリスチレンの光透過性に影響しないことを示す。
【0060】
生体適合性であり、かつ高い表面湿潤性(例えば、0°~40°の範囲の接触角)を有する、その上に配置された溶ける炭水化物コーティングを持つ高分子表面を有する、本開示による、器具500、600、700および800(例えば、マイクロキャビティのアレイを有する3D細胞培養器具、2D細胞培養器具(平面を有する)、およびマイクロ流体器具)の7つの一般的な実施の形態が、下記に説明される。
【0061】
図5を参照すると、本開示の実施の形態による、上面502を持つ高分子基板501、および上面506を持つ溶ける炭水化物コーティング504を有する例示の器具500の部分側面図が示されている。高分子基板502は、細胞培養に適したどの表面であっても差し支えなく、以下(例えば)の内の1つであってよい:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン(例えば、プラズマ処理されたポリスチレン)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。実施の形態において、その高分子基板は、多孔質または非多孔質、小分子透過性、ガス透過性、またはガス透過性で液体不透過性であってよい。溶ける炭水化物コーティング504は、(例えば)単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類を含む幅広い生体適合性炭水化物から製造することができる。例えば、溶ける炭水化物コーティング504は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、またはマンニトールであって差し支えない。
【0062】
器具500は、親水性である表面を提供して、細胞培養物品の表面上またはその近くの気泡の形成を低下させるので、最新の器具を上回る改良である。溶ける炭水化物コーティング504は、表面の湿潤性を増加させるだけでなく、炭水化物コーティング504は、水性細胞培養培地の添加の際に培地中に溶けるので、高分子表面502の物理化学的性質に影響を与えない。
【0063】
溶ける炭水化物コーティング504は、周囲条件での長期貯蔵(例えば、30~45日間)のために、溶ける炭水化物コーティング504を安定化させるために、水溶性安定剤高分子、例えば、ポリエチレンオキシド群からの高分子も含有し得る。グルコース被覆ULA表面(平らなものとマイクロキャビティを含むものの両方)は、乾燥条件下で貯蔵された(乾燥剤パッケージを収容するプラスチック袋内に密封された)場合、安定である。24時間超に亘り周囲条件(室温、40%超の相対湿度)で貯蔵された場合、グルコースコーティングは、小さいグルコース液滴になり、それゆえ、その被覆されていない湿潤性により、下にある表面が現れるであろう。表3は、24時間から30日間までに亘り、マイクロキャビティの存在下と不在下において、安定剤高分子(ポリエチレンオキシド)を添加したものとしないもので、表面の形成直後と様々な貯蔵時間と条件後の両方で、グルコース/ULA被覆材料から測定した接触角を示している。表3は、安定性に関して、溶ける炭水化物コーティングで被覆された表面は、乾燥環境において長期間に亘り貯蔵されるであろうことを示している。あるいは、別の方法で、溶ける炭水化物コーティングは、ポリエチレンオキシドなどの安定剤高分子を含有することがあり、これにより、その長所を維持しながら、周囲条件において長期間(すなわち、30日より長く)貯蔵されるであろう溶ける、炭水化物コーティングを有する基板が提供される。
【0064】
【表3】
【0065】
表3は、平面およびマイクロキャビティを含む表面を有するグルコース被覆ULAポリスチレンの改善された湿潤性を示している。以後、詳しく述べられる平らな高分子と炭水化物の他の組合せについて、接触角は0°から70°の範囲になるであろうと考えられる。さらに、以後、詳しく述べられる、マイクロキャビティのアレイを有する高分子および溶ける炭水化物コーティングの他の組合せについて、接触角は0°から60°の範囲に入るであろうと考えられる。
【0066】
表2および表3を参照すれば分かるように、マイクロキャビティのアレイを有するグルコースULA被覆ポリスチレン表面の場合、接触角は、溶ける炭水化物コーティングがないときの48°から、溶ける炭水化物コーティングがあるときの30°に減少した。接触角のこの減少により、器具に細胞培養培地の最初の添加中に、マイクロキャビティまたはマイクロウェル内のエアポケットの形成が完全になくなった。
【0067】
図6を参照すると、本開示の実施の形態による上面606を形成する溶ける炭水化物コーティング604で被覆された上面605を有する低タンパク質結合コーティング603で被覆された上面602を有する高分子基板601を有する例示の器具の部分側面図が示されている。高分子基板601は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレンまたはプラズマ処理されたポリスチレン、プラズマ処理されたポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。低タンパク質結合コーティング603は、ここではULA表面603とも称される、共有結合ヒドロゲル層603(例えば、単分子層または0.01から5μm厚)であり得る。この低タンパク質結合コーティングは、低タンパク質結合コーティングの上面605を有する。上面606を有する溶ける炭水化物コーティング604は、(例えば)単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類を含む幅広い生体適合性炭水化物から製造できる。例えば、溶ける炭水化物コーティング604は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マンニトールであって差し支えない。溶ける炭水化物コーティング604は、周囲条件で長期間の貯蔵(例えば、30~45日間)のために、得られた水に溶ける炭水化物コーティング604を安定化させるために、ポリエチレンオキシド族からの水溶性高分子も含有し得る。器具600は、最新の器具を上回る改良である。何故ならば、その器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、炭水化物の薄いコーティング604は、水性細胞培養培地の添加の際に溶けるので、低タンパク質結合高分子表面605の物理化学的性質に影響を与えない溶ける炭水化物コーティング604を有するからである。
【0068】
前記溶ける炭水化物コーティングは、細胞培養器具に水性細胞培養培地を導入した際の表面上の気泡の形成を減少させる。その上、その溶ける炭水化物コーティングは、細胞培養器具に水性細胞培養培地を添加した際に溶ける。このようにして、溶ける炭水化物コーティングの存在により導入される表面特徴は、その表面からすぐに除かれる。溶ける炭水化物コーティングの一時的存在は、それは培地中に迅速に溶け、基板の表面特性が残されるので、高分子表面の物理化学的性質に影響しない。実施の形態において、その基板は、低結合コーティング、例えば、ULAコーティングにより被覆され、そのコーティングは、水に溶ける炭水化物材料が培地中に溶け去った後に、高分子表面上に残る。
【0069】
図7A~7Dを参照すると、本開示の実施の形態による、器具700の4つの異なる例示の形状を示す3つの部分側面図の概略図がある。上面702を有する高分子基板701を有する細胞培養器具700が、図7Aに示されている。高分子基板701の上面702上に一旦施されたら、低タンパク質結合上面705を形成する、随意的な低タンパク質結合コーティング703が、高分子基板701の上面702上に配置されている。上面706を有する溶ける炭水化物コーティング704が、随意的な低タンパク質結合コーティング703の上に配置されている。図7Aに示された実施の形態において、高分子基板701は、コーティング703(存在する場合)および704が、滑らかまたは実質的に滑らかでもある上面705および706を与えるように、滑らかまたは実質的に滑らかな高分子表面702を有するように構成されている。追加の実施の形態(図示せず)において、上面702(705、706)は粗くてもよい。
【0070】
図7Bにおいて、高分子基板701の上面702は、マイクロキャビティ710のアレイを有するように構成されている。高分子基板701はその上面702にマイクロキャビティ710のアレイを有するので、随意的な低タンパク質結合コーティング703および溶ける炭水化物コーティング704も、その上面(705および706)上にマイクロキャビティのアレイを有する。
【0071】
図7Cおよび7Dは、図7Bの750で示された区域の引き伸ばし図である。図7Cおよび7Dは、高分子基板701の上面702がマイクロキャビティ710のアレイを有するように構成されていることを示している。高分子基板701はその上面702にマイクロキャビティ710のアレイを有するので、随意的な低タンパク質結合コーティング703および溶ける炭水化物コーティング704も、その上面(705および706)上にマイクロキャビティのアレイを有する。その上、図7Dに示されるように、マイクロキャビティ710自体は、図7Dに示された突起715により示されるような、粗面を有することがある。これらの突起715は、かなり標準化されている、または規則的であるものとして図7Dに示されているが、「粗」面は突起または窪みを有してもよいこと、および「滑らか」からのこれらの逸脱が規則的または不規則であってもよいことが当業者には理解されるであろう。先の「粗い」という用語の定義を参照のこと。また、平面(2D細胞培養に適している)は、「粗い」または「滑らか」であるが、それでも、例えば、図7Aおよび7Bに示されるように平らであろう。同様に、マイクロキャビティの表面は、図7Dに示されるように「粗い」、または図7Cに示されるように「滑らか」であることがある。
【0072】
それゆえ、図7Aおよび図7Bに示されるように、細胞培養物品の上面は、滑らか(図7Aに示されるように)または粗くてもよく、滑らかな表面を有するマイクロキャビティのアレイを含んでもよく(図7Bおよび7Cに示されるように)、または粗面を有するマイクロキャビティのアレイを含んでもよい(図7Dに示されるように)。
【0073】
これらの構造は例示であり、器具500、600および700は、分子、細胞、生物学、および他の分野における研究を可能にするために使用できるどの所望の形状を有しても差し支えないことが認識されよう。例えば、その器具は、内部通路が溶ける炭水化物コーティング504、604または704で被覆されたマイクロ流体器具の形状を有してもよい。さらに、図5~7および10に示された器具500、600および700は、原寸に比例しておらず、代わりに、特定の実施の形態において、炭水化物コーティング504、604および704は0.01~5μm厚の範囲にあることがあり、親水性コーティング603、703は単分子層または0.01から100μmであることがあり、高分子表面502、602または702は、0.01~10mm(ミリメートル)の範囲にあることがあることを認識すべきである。
【0074】
図8を参照すると、本開示の実施の形態による器具500、600および700(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を製造するための例示の方法800を示す流れ図が与えられている。方法800は、(a)その表面が必要に応じて低タンパク質結合コーティング603、703(各々が上面605、705を有する)を有する上面502、602または702を有する高分子基板501、601または701を提供する工程(工程802)、および(b)高分子表面502、602または702上に水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を施す工程(工程804)を有してなる。この施す工程804は、吹き付け塗り工程、溶媒被覆工程、または回転塗布工程を含み得る。例えば、施す工程804は、炭水化物と溶媒の溶液を高分子表面502、602または702と直接接触させる工程(工程804a)、およびその溶液から溶媒を蒸発させて、水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704で被覆されている高分子表面502および602をもたらす工程(工程804b)を含み得る(必要に応じて、表面502、602または702に共有結合していてもよく、または高分子表面502、602または702に化学結合していなくてもよい低タンパク質結合コーティングの存在下で)。高分子表面502、602および702に化学結合していない水に溶ける炭水化物コーティング504、604および704が、その溶ける炭水化物コーティングが水性培地の存在下で溶け去り、高分子表面502、602および702の本来の物理化学的性質、または必要に応じて、低タンパク質結合コーティング605または705の物理化学的性質が残されるために望ましい。
【0075】
実施の形態において、高分子基板601、701の上面602、702は、その上に水に溶ける炭水化物コーティング604、704が施される低タンパク質結合コーティング603、703(例えば、共有結合したヒドロゲル層603、703)を有することがある。高分子基板501、601または701は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、プラズマ処理されたポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、以下(例えば)の内の1つから製造できる:単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類。水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、周囲条件における長期貯蔵のために、得られた水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を安定化させるためにポリエチレンオキシドも含有し得る。器具500、600または700は、最新の器具を上回る著しい改良である。何故ならば、その器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、水性細胞培養培地の添加の際に溶けるので、高分子表面502、602および702の物理化学的性質に影響を与えない水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を有するからである。
【0076】
図9を参照すると、本開示の実施の形態による、細胞増殖に適した形態にある器具500、600および700(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を使用するための例示の方法900を示す流れ図がある。方法900は、(a)必要に応じて、低タンパク質結合コーティング(603、703)の存在下で、高分子表面502、602または702を有する器具500、600または700に、その上に位置する水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を与える工程(工程902)、および(b)少なくとも、水、炭水化物、および細胞を含有する水性細胞培養培地溶液を、高分子表面502、602または702上または必要に応じて、低タンパク質結合コーティング603または703上に位置する水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704の上面506、606または706上に加える工程(工程904)を有してなる。実施の形態において、高分子表面602または702は、その上に水に溶ける炭水化物コーティング604または704がある低タンパク質結合コーティング603または703(例えば、共有結合したヒドロゲル層603または703)を有することがある。高分子表面502、602または702は、以下(例えば)の内の1つであり得る:エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン(例えば、プラズマ処理されたポリスチレン)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマー。水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、以下(例えば)の内の1つから製造できる:単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類。水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、周囲条件における長期貯蔵のために、得られた水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を安定化させるためにポリエチレンオキシドも含有し得る。器具500、600または700は、最新の器具を上回る著しい改良である。何故ならば、その器具は、表面湿潤性を増加させるだけでなく、溶ける炭水化物コーティング504、604または704は、水性細胞培養培地の添加の際に溶けるので、高分子表面502、602または702、もしくは必要に応じて、親水性層603または703の物理化学的性質に影響を与えない水に溶ける炭水化物コーティング504、604または704を有するからである。実施の形態において、溶ける炭水化物コーティングを有する細胞培養表面に細胞培地が一旦添加されたら、その炭水化物コーティングは培地中に溶け、高分子表面(随意的な低タンパク質結合コーティングの有無にかかわらずに)が残される。
【0077】
図10Aおよび10Bを参照すると、細胞培養器具、この場合には、細胞培養表面上にマイクロキャビティ710のアレイを有する細胞培養フラスコ800の実施の形態が示されている。フラスコ800は、上壁815、マイクロキャビティ710のアレイを含む底壁850、側壁820、およびこのフラスコの首部860に取り付けられた取り外せるキャップ861を有する。図10Bは、図10Aの四角形に示された区域の引き伸ばされた図であり、マイクロキャビティ710のアレイ600を示している。実施の形態において、マイクロキャビティは、丸くても(図10Aおよび10Bに示されるように)、例えば、図11Aおよび11Bに示されるように六角形であっても、もしくはどの他の形状であってもよい。細胞培養フラスコが示されているが、細胞培養器具は、細胞培養に適したどの器具であっても差し支えなく、皿、プレート、ウェル、マルチウェルプレート(2、3、4、6、12、24、96または1536ウェル、もしくはどの他の数のウェルを有しても差し支えない)、フラスコ、多層フラスコ、またはどの他の適切な細胞培養器具も含むことが理解されよう。マイクロキャビティのアレイを含むこれらの器具は、実施の形態において、3D細胞培養器具である。丸底(マイクロキャビティを含まない)を有する96ウェルプレートを含む、培養において3D細胞形成を促進するように構造化された器具も、3D細胞培養器具である。
【0078】
態様(1)において、本開示は、上面を有する高分子基板を備えた細胞培養のための器具であって、その高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングが配置された器具を提供する。態様(2)において、本開示は、その溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、態様1の器具を提供する。態様(3)において、その溶ける炭水化物コーティングは安定剤をさらに含む。態様(4)において、その安定剤はポリエチレンオキシドを含む。態様(5)において、本開示は、高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、態様1~4のいずれか1つの器具を提供する。態様(6)において、その高分子基板は、ガス透過性であり、液体不透過性である。態様(7)において、本開示は、高分子基板が低タンパク質結合コーティングを備える、態様1~6のいずれか1つの器具を提供する。態様(8)において、本開示は、その低タンパク質結合コーティングが、高分子基板の上面に共有結合したヒドロゲル層を含む、態様7の器具を提供する。態様(9)において、本開示は、その高分子基板の上面が滑らかな表面を含む、態様1~8のいずれか1つの器具を提供する。態様(10)において、本開示は、その高分子基板の上面が粗面を含む、態様1~9のいずれか1つの器具を提供する。態様(11)において、本開示は、その高分子基板の上面が超親水性である、態様1~10のいずれか1つの器具を提供する。態様(12)において、本開示は、その器具が、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、およびマイクロ流体器具からなる群より選択される、態様1~11のいずれか1つの器具を提供する。態様(13)において、本開示は、その器具が、マイクロキャビティのアレイを含む3D細胞培養器具である、態様1~11のいずれか1つの器具を提供する。
【0079】
態様(14)において、本開示は、器具を製造する方法であって、高分子基板を提供する工程、およびその高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングを施す工程を有してなる方法を提供する。態様(15)において、本開示は、その高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングを施す工程が、炭水化物と溶媒の溶液をその高分子基板の上面と直接接触させる工程、およびその溶液から溶媒を蒸発させて、高分子基板に化学結合していない溶ける炭水化物コーティングを備えた高分子基板の上面を得る工程を含む、態様14の方法を提供する。態様(16)において、本開示は、その施す工程が、吹き付け塗り工程、溶媒被覆工程、および回転塗布工程からなる群より選択される工程を含む、態様14の方法を提供する。態様(17)において、本開示は、その高分子基板が低タンパク質結合コーティングを備える、態様14または15の方法を提供する。態様(18)において、本開示は、親水性コーティングが、共有結合したヒドロゲル層である、態様17の方法を提供する。態様(19)において、本開示は、その高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、態様14の方法を提供する。態様(20)において、本開示は、その溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、態様14の方法を提供する。態様(21)において、本開示は、その溶ける炭水化物コーティングがポリエチレンオキシドをさらに含有する、態様20の方法を提供する。
【0080】
別の態様(22)において、本開示は、細胞培養のための方法であって、態様1~13のいずれか1つの細胞培養器具を提供する工程、およびその器具に、水、炭水化物、および細胞を含む細胞培養培地を加える工程を有してなる方法を提供する。
【0081】
以下は、24マルチウェルプレートの上部のグルコースの被覆、および3D細胞凝集体の播種と培養を含む実験工程のより詳しい議論である。その24マルチウェルプレートは、以下のように行ったグルコースコーティングの塗布の前に、マイクロウェルパターンを備えたULAが被覆された滑らかなポリスチレン表面を有した:
【実施例
【0082】
実施例1:コーティング
マイクロウェルを被覆するために、メタノール中の1%w/vのグルコース溶液を24ウェルプレートの各マイクロウェルまはマイクロキャビティに20μl/cmで加えた。各場合で、24ウェルプレートは、ポリスチレンなどの被覆されていない高分子材料から製造しても、低タンパク質結合溶液、例えば、Corning IncorporatedからのULAコーティングが設けられてもよい。この24ウェルプレートの細胞培養表面は、マイクロウェルまたはマイクロキャビティを含んだが、そのマイクロウェルまたはマイクロキャビティ自体は、粗い内面を持たなかった。すなわち、その細胞培養表面はマイクロキャビティを含んでいたが、そのマイクロキャビティは滑らかな表面を有した。メタノールを15分間に亘り45℃で蒸発させた。そのグルコースコーティングは、0.2mg/cmの量のグルコースの添加に相当する。
【0083】
実施例2:ポリエチレンオキシドを使用したコーティング
グルコースの含水性質のために、このタイプのコーティングは周囲湿度に対して中程度の感度を示す、例えば、周囲条件における24時間の貯蔵後に、グルコースコーティングは、ULA被覆ポリスチレン表面上で微細な液滴に分かれ始めることに留意すべきである。この問題に対処するために、その溶ける炭水化物コーティング(この実施例では、グルコース)は、ULA被覆ポリスチレン表面にグルコースコーティングを施すために使用される吹き付け塗り溶液中にポリエチレンオキシド(PolyOx WSRN12K、DOW Chemical)を添加することによって、安定化させることができる。例えば、ULA処理済みポリスチレン表面に、メタノール溶液中の0.25%w/vのグルコース、0.1%w/vのPolyOxを吹き付け塗りすることによつて、安定なグルコースコーティングを得た。次に、残留するメタノール溶媒を15分間に亘り45℃で乾燥させた。ULA処理済みポリスチレン上のグルコース・ポリエチレンオキシド・コーティングは、少なくとも4日間に亘り(表3参照)、周囲条件(50%の相対湿度、25℃の室温)で安定していた。
【0084】
実施例3:接触角の測定
全ての材料の試料の接触角を、Kruss DSA30 Drop形状分析システム(Kruss GmbH、独国)で測定した。5μmの蒸留水を表面に100μl/分の速度で堆積させし、液滴形状のデフォルト曲線当てはめにより、接触角を測定した。
【0085】
実施例4:細胞培養
実施例1および実施例2によるマルチウェルプレートの各ウェルに、50μl/cmのMcCoyの5A培地(Gibco Cat# 16600-082)を加えて、マイクロウェルを満たした。この工程の後に、1百万細胞/mlの濃度でMcCoyの培地中に懸濁された結腸癌HCT 116細胞を150μl/cmで加えた。細胞をマイクロウェル中に沈降させ、24ウェルプレートを、37℃、5%のCO、95%の相対湿度で細胞培養器内で培養した。
【0086】
培養3日後のグルコースULA被覆ポリスチレンマイクロウェル404内に形成された細胞スフェロイド402の画像が、図11Aおよび11Bに示されている。表面のグルコースコーティングは、細胞播種手順の最中に細胞培養培地内の全体のグルコース濃度を20%増加させた。しかしながら、そのグルコース濃度は、その後の毎日の細胞培地の交換後に、McCoyの5A培地に通常見られる規定濃度に戻った。一般に、哺乳類細胞は、1g/Lから10g/Lに及ぶグルコースレベルの非常に広い許容範囲を有する。先の実施例において、グルコース濃度は、最初の細胞播種中に2.95g/Lから3.5g/Lに上昇し、これは十分に許容範囲内である。
【0087】
試験したグルコース・ポリエチレンオキシド被覆ULAポリスチレン表面は、細胞培養培地が1~10g/Lの濃度で主栄養物としてグルコースを含有していたので、細胞研究に使用した場合、完全に生体適合性であった。すなわち、グルコース・ポリエチレンオキシド被覆ULAポリスチレン表面の存在下で、細胞は増殖した。例えば、図11Aおよび11Bは、グルコースコーティングが、被覆された滑らかなポリスチレンマイクロウェル404内の気泡の閉じ込めをなくした(培養形式:24ウェルプレート)、滑らかな内面を有するグルコース被覆ULA被覆マイクロウェル404の内部で3日間培養した後のHCT 116ヒト結腸直腸癌細胞(ATCC(登録商標)CCL-247(商標))(HCT)116細胞402の3D細胞凝集体を示す写真である。3Dスフェロイド402が、細胞播種の前にグルコースが被覆されたULAの被覆された滑らかなマイクロウェル404内に形成した。細胞培養培地の添加中に、グルコースが被覆されたULAの被覆された滑らかなマイクロウェル404内に、気泡の閉じ込めは見られなかった。
【0088】
先のことに鑑みて、当業者には、本開示は、高い表面湿潤性を持つ生体適合性の溶ける炭水化物表面コーティングを有する器具(例えば、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、マイクロ流体器具)を開示していることが容易に認識されるであろう。この生体適合性の溶ける炭水化物表面コーティングは、疎水性または弱く親水性の表面をより親水性の表面に効果的に転換させ、表面の元の接触角を0~10°まで著しく減少させる水に溶ける炭水化物コーティング(例えば、グルコース薄膜)である。水溶液中の炭水化物コーティング(例えば、グルコース薄膜)のその後の溶解のために、このタイプのコーティングは、元の表面の物理化学的性質を永久的には変えない。そのような溶ける炭水化物コーティング(例えば、グルコースコーティング)は、細胞培養用途における表面湿潤性の改質にとって有益であろう。そのような炭水化物コーティング(例えば、グルコースコーティング)は、マイクロキャビティを有する表面に水性培地を導入する最中にマイクロキャビティ内の空気の閉じ込めをなくすために、培養における平らな二次元の細胞とは対照的に、非接着性スフェロイドの増殖を促進する環境を提供するのに適した、マイクロキャビティのアレイを含む表面の表面改質において特に有用であろう。このタイプの表面コーティングは、その炭水化物(例えば、グルコース)は、細胞培養培地中に与えられる栄養物であるので、完全に生体適合性である。
【0089】
さらに、ここに述べられたマイクロキャビティは、スフェロイドの培養に適したどのサイズまたは形状であっても差し支えないことを認識すべきである。例えば、ある実施の形態において、各マイクロキャビティは、閉じた半球形丸底、直径Dtopを有する開いた円形頂部、並びに底と頂部との間で直径が増加し、底と頂部との間の直径Dhalf-wayおよび底の上の高さHを持つ側壁を有することがあり、ここで、Dtop=1.5から2.5Dhalf-way、H=0.7から1.3Dhalf-way、Dhalf-wayは200から1000μmである。そして、ここに述べられたマイクロキャビティのアレイを含む表面は、例えば、平面の11の公知の均一なタイル張り(例えば、三角形、正方形、六角形充填)の内の1つの均一に充填されたマイクロキャビティまたはマイクロウェル構造を持つ平面として定義できる[例えば、Williams, Robert (1979). The Geometrical Foundation of Natural Structure: A Source Book of Design. Dover Publications, Inc. p. 35-39. ISBN 0-486-23729-Xを参照のこと。この文献の内容が、全ての目的のために、ここに引用される]。
【0090】
様々な開示された実施の形態は、その特定の実施の形態に関して記載された特定の特徴、要素または工程を含むことができることが認識されよう。特定の特徴、要素または工程は、1つの特定の実施の形態に関して記載されているが、様々な説明されていない組合せまたは順序で代わりの実施の形態と交換されても、または組み合わされてもよいことも認識されよう。
【0091】
また、ここに用いたように、名詞は、「少なくとも1つの」対象を指し、特に明記のない限り、「ただ1つ」の対象に限定されるべきではないことも理解すべきである。それゆえ、例えば、「開口」に対する言及は、そうではないと文脈が明白に示していない限り、そのような「開口」を2つ以上有する例を含む。
【0092】
範囲は、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、とここに表現できる。そのような範囲が表現された場合、例は、その1つの特定の値から、および/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して近似として表されている場合、その特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。さらに、範囲の各々の端点は、他方の端点に関連としてと、他方の端点と関係なくの両方で有意であることが理解されよう。
【0093】
ここに表現された全ての数値は、特に明記のない限り、そのように述べられていてもいなくても、「約」を含むと解釈すべきである。しかしながら、列挙された各数値は、それが「約」その値として表されているか否かにかかわらず、同様に正確に考えられることがさらに理解されよう。それゆえ、「10mm未満の寸法」および「約10mm未満の寸法」の両方とも、「約10mm未満の寸法」並びに「10mm未満の寸法」の実施の形態を含む。
【0094】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを要求すると解釈されることは決して意図されていない。したがって、方法の請求項がその工程が従うべき順序を実際に列挙していない場合、またはその工程が特定の順序に制限されるべきであることが、請求項または説明に他に具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も暗示されるとは決して意図されていない。
【0095】
特定の実施の形態の様々な特徴、要素または工程が、「含む」という移行句を使用して開示されることがあるが、「からなる」または「から実質的になる」という移行句を使用して記載されることがあるものを含む、代わりの実施の形態が暗示されると理解すべきである。それゆえ、例えば、A+B+Cを含む方法に対して暗示される代わりの実施の形態は、方法がA+B+Cからなる実施の形態、および方法がA+B+Cから実質的になる実施の形態を含む。
【0096】
本開示の多数の実施の形態が、添付図面に示され、先の詳細な説明に記載されてきたが、本開示は、開示された実施の形態に限定されず、以下の請求項により述べられ定義されたように、本開示から逸脱せずに、様々な再配列、改変および置換が可能であることを理解すべきである。
【0097】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0098】
実施形態1
細胞培養器具であって、
上面を有する高分子基板、
を備え、
前記高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングが配置された器具。
【0099】
実施形態2
前記溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、実施形態1に記載の器具。
【0100】
実施形態3
前記溶ける炭水化物コーティングが安定剤をさらに含む、実施形態1に記載の器具。
【0101】
実施形態4
前記安定剤がポリエチレンオキシドを含む、実施形態3に記載の器具。
【0102】
実施形態5
前記高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、実施形態1に記載の器具。
【0103】
実施形態6
前記高分子基板が、ガス透過性であり、液体不透過性である、実施形態5に記載の器具。
【0104】
実施形態7
前記高分子基板が低タンパク質結合コーティングを備える、実施形態1に記載の器具。
【0105】
実施形態8
前記低タンパク質結合コーティングが、前記高分子基板の上面に共有結合したヒドロゲル層を含む、実施形態7に記載の器具。
【0106】
実施形態9
前記溶ける炭水化物コーティングが安定剤を含む、実施形態1に記載の器具。
【0107】
実施形態10
前記安定剤がポリエチレンオキシドを含む、実施形態9に記載の器具。
【0108】
実施形態11
前記高分子基板の上面が滑らかな表面を含む、実施形態1に記載の器具。
【0109】
実施形態12
前記高分子基板の上面が粗面を含む、実施形態1に記載の器具。
【0110】
実施形態13
前記高分子基板の上面が超親水性である、実施形態12に記載の器具。
【0111】
実施形態14
前記器具が、3D細胞培養器具、2D細胞培養器具、およびマイクロ流体器具からなる群より選択される、実施形態1に記載の器具。
【0112】
実施形態15
器具を製造する方法であって、
高分子基板を提供する工程、および
前記高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングを施す工程、
を有してなる方法。
【0113】
実施形態16
前記高分子基板の上面に溶ける炭水化物コーティングを施す工程が、
炭水化物と溶媒の溶液を前記高分子基板の上面と直接接触させる工程、および
前記溶液から前記溶媒を蒸発させて、前記高分子基板に化学結合していない溶ける炭水化物コーティングを備えた高分子基板の上面を得る工程、
を含む、実施形態15に記載の方法。
【0114】
実施形態17
前記施す工程が、吹き付け塗り工程、溶媒被覆工程、および回転塗布工程からなる群より選択される工程を含む、実施形態15に記載の方法。
【0115】
実施形態18
前記高分子基板が低タンパク質結合コーティングを備える、実施形態15に記載の方法。
【0116】
実施形態19
親水性コーティングが、共有結合したヒドロゲル層である、実施形態18に記載の方法。
【0117】
実施形態20
前記高分子基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択される、実施形態15に記載の方法。
【0118】
実施形態21
前記溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、およびその混合物からなる群より選択される、実施形態15に記載の方法。
【0119】
実施形態22
前記溶ける炭水化物コーティングがポリエチレンオキシドをさらに含有する、実施形態15に記載の方法。
【0120】
実施形態23
細胞培養のための方法であって、
上面およびその上に配置された溶ける炭水化物コーティングを有する細胞培養基板を提供する工程、および
前記溶ける炭水化物コーティングを有する細胞培養基板上に、少なくとも、水、炭水化物、および細胞を含む細胞培養溶液を加える工程、
を有してなる方法。
【0121】
実施形態24
細胞培養のための方法であって、
低タンパク質結合コーティングを備えた上面および該低タンパク質結合コーティングの上に配置された水に溶ける炭水化物コーティングを有する細胞培養基板を提供する工程、および
被覆された前記細胞培養基板上に、少なくとも、水、炭水化物、および細胞を含む細胞培養溶液を加える工程、
を有してなる方法。
【0122】
実施形態25
前記細胞培養基板が、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルのコポリマー、およびフルオロポリマーからなる群より選択され、
前記溶ける炭水化物コーティングが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類、またはその混合物からなる群より選択される、実施形態24に記載の方法。
【符号の説明】
【0123】
100 平面
101 空気
102、104 高分子材料
202 水性液体
204 ULA被覆ポリスチレン表面
208 溶ける炭水化物が被覆されたULA被覆ポリスチレン表面
302、304 白と黒のポスター
402 細胞スフェロイド
404 マイクロウェル
500、600、700 細胞培養器具
501、601、701 高分子基板
504、604、704 炭水化物コーティング
603、703 低タンパク質結合コーティング
710 マイクロキャビティ
715 突起
800 フラスコ
815 上壁
820 側壁
850 底壁
860 首部
861 キャップ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B