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特許7026687接着接合用水性プライマー組成物及びそれを用いた接着方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】接着接合用水性プライマー組成物及びそれを用いた接着方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/00 20060101AFI20220218BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20220218BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220218BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220218BHJP
   C09J 5/02 20060101ALI20220218BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220218BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220218BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/04
C09J5/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D163/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019534714
(86)(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2017068666
(87)【国際公開番号】W WO2018125978
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】62/440,258
(32)【優先日】2016-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャオ, イーチアン
(72)【発明者】
【氏名】コーリ, ダリップ クマール
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537491(JP,A)
【文献】特表2006-516300(JP,A)
【文献】特表2015-533870(JP,A)
【文献】国際公開第2009/078373(WO,A1)
【文献】特表2010-505019(JP,A)
【文献】特開2010-248474(JP,A)
【文献】特表2016-507404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
i.1種以上のエポキシ樹脂、
ii.少なくとも1つの硬化剤、
iii.少なくとも1つの加水分解性基を有するシラン化合物、
iv.0.1~100μmの範囲の平面寸法(長さ及び幅)を有するプレートレットの形態のグラフェンまたは0.1μm~100μmの範囲の平面寸法(長さ及び幅)のフレークの形態のグラファイトから選択される粒状形態の炭素系材料、並びに
v.水、
を含有する水性プライマー組成物を金属基材の表面上に塗布して硬化性プライマー膜を形成すること;
(b)金属基材を第2の基材に接着接合し、それによってプライマー膜と第2の基材との間に硬化性接着剤を配置すること;
(c)接着剤を硬化させて接合構造体を形成すること;
を含む、接着方法。
【請求項2】
炭素系材料の量が、成分(i)、(ii)、及び(iv)の合計重量を基準として5重量%未満である、請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
水性プライマー組成物が10%~30%の固形分含有率を有する、請求項1~2のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項4】
炭素系材料の量が、組成物中の固形分の総重量を基準として5重量%未満である、請求項3に記載の接着方法。
【請求項5】
プライマー組成物の総重量を基準として15重量%未満のプロピレンカーボネートを更に含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項6】
水性プライマー組成物が(a)で噴霧によって塗布される、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項7】
炭素系材料がプレートレットの形態のグラフェンであり、グラフェンの量が、組成物中の固形分の総重量を基準として、又は成分(i)、(ii)、及び(iv)の合計重量を基準として、5重量%未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項8】
プレートレットの形態のグラフェンが1%~20%の酸素含有率を有する、請求項7に記載の接着方法。
【請求項9】
第2の基材が別の金属基材である、請求項1~のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項10】
第2の基材がアルミニウム又はアルミニウム合金から形成される、請求項に記載の接着方法。
【請求項11】
第2の基材が、ポリマー又は樹脂マトリックスと強化繊維とを含む複合基材である、請求項1~のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項12】
複合基材が工程(b)で金属基材に接合される際に未硬化である、請求項11に記載の接着方法。
【請求項13】
複合基材が工程(b)で金属基材に接合される際に部分的に硬化されているか完全に硬化されている、請求項11に記載の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して接着方法及びそのような接着方法において使用するためのプライマー組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0002】
図1A-1B】グラフェン含有プライマーコーティング(配合物2)の性能とグラフェンを含まない対照のプライマーコーティング(配合物1)の性能とを比較する、3000時間のスクライブ腐食試験(ASTM D1654)の結果を示す。
図2】グラフェン含有プライマーコーティングにおけるねじれ機構を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0003】
複合構造体、特に航空宇宙産業及び自動車産業における複合構造体の製造においては、構造用接着剤を利用して、加工金属構造体を金属若しくは複合被着体に接着するか、樹脂含浸繊維質強化材の1つ以上のプリプレグプライを加工金属構造体に積層することが一般的である。接着は、典型的には、構造体を接合した後に構造用接着剤を硬化させることを必要とする。一般的に、確実に最大レベルの接着強度を得るために、金属表面は、接着の直前に、ほこり、土、グリース、及び金属酸化生成物について丁寧に洗浄される。残念なことに、この手順は洗浄及び接着作業が長時間の休止期間によって分離されることが多いため、通常はほとんど使用できない。そのような期間中に、金属表面が加水分解されて接合の接着強度が低下する場合がある。この困難を克服するための解決策は、接着接合の前に洗浄された金属表面上にプライマーを塗布することである。
【0004】
プライマーの使用において考慮すべき事項は、金属表面と、金属表面に結合した材料との間に形成された接合部の耐久性及び耐食性である。これらの接合部は、極端な温度、高い湿度、及び高腐食性の海洋環境を伴う様々な環境条件に曝されるため、これは航空機構造などの構造用途で特に重要である。接合部の不具合を防ぐだけでなく、厳しい旅客及び貨物用の航空機の基準を満たすために、構造部品の接着接合部は、過酷な環境条件に耐えなければならず、特に高湿で塩分の多い環境、特に海の波しぶきや除氷材料に起因する環境で腐食や剥離に対する耐性を有さなければならない。これらの接合部の不具合は、多くの場合、接着剤を通して水が拡散することから始まり、引き続きその下にある金属構造が腐食する。
【0005】
歴史的には、金属を腐食から保護するためにクロメートプライマー(すなわちクロムイオンを含有する溶液)が使用されてきた。しかしながら、環境規制により、特に航空宇宙産業では、クロメートの使用は制限されている。リンケイ酸亜鉛、リン酸モリブデン亜鉛、ホウケイ酸カルシウム、バナジン酸ナトリウム、リン酸ストロンチウムなどのような複数の非クロメート系の腐食防止剤が評価段階にある。これらの防止剤のほとんどは不動態であり、犠牲酸化法による防食を提供する。そのため、これらの不動態による防止剤は、過酷な環境条件に曝された場合に要求される必要な耐久性又は性能を提供しない。
【0006】
クロメート系腐食防止剤を使用せずに腐食防止を提供できる接着プライマー組成物が本明細書で開示される。より具体的には、接着プライマー組成物は、水、1種以上のエポキシ樹脂、1種以上の硬化剤、シラン化合物、粒子形態の少量の炭素系材料、及び任意選択的な添加剤を含有する水系(又は水性)分散液である。炭素系材料は、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、グラファイト、及びミクロンスケール又はナノスケールサイズの様々な構造を有する炭素から選択される。乾燥粉末又は湿潤懸濁液の、ナノサイズのプレートレットの形態のグラフェンが特に適している。グラファイト粒子、カーボンブラック粒子、及びカーボンナノチューブも適している。通常、水性組成物の固形分含有率は約10重量%~約30重量%であってもよく、また炭素系材料の量は水性組成物中の固形分の総重量を基準として5重量%(又はwt.%)未満である。
【0007】
一実施形態によれば、接着プライマー組成物は、(i)1種以上の熱硬化性樹脂、(ii)硬化剤及び任意選択的な触媒、(iii)シラン化合物、(iv)少量のグラフェン、並びに(v)水、を含有する水性分散液である。グラフェンの量は、重量パーセント単位で、組成物中の固形分の総重量を基準として、あるいは成分(i)、(ii)、及び(iv)の合計重量を基準として、5重量%未満、例えば0.1重量%~2重量%の範囲内である。
【0008】
グラフェンのナノサイズのプレートレット(「ナノプレートレット」)は、最大50nmの厚さを有する平面構造体である。そのようなプレートレットは、0.1~100μmの範囲の平面寸法(例えば長さ及び/又は幅)を有し得る。各プレートレットは本質的に1つ以上のグラフェンシートからなる。グラフェンナノプレートレットは、表面上の官能基由来の1%~20%の若干の酸素含有率を有し得る。酸素含有率は、X線光電子分光法(XPS)によって決定することができる。
【0009】
別の実施形態では、同じ水性プライマー組成物はグラフェンプレートレットの代わりにカーボンブラック粒子又はカーボンナノチューブを含有する。カーボン粒子又はナノチューブの量は、組成物中の固形分の総重量を基準として5重量%未満、例えば0.1重量%~3重量%の範囲内である。
【0010】
本明細書中で用いられる用語「粒子」は、限定するものではないが、球状及び非球状粒子(フレーク及びロッド等)などの様々な形状の粒子状材料を包含する。カーボンブラック粒子は、レーザー光散乱/回折法により決定される最大100μmの粒径d90を有し得る。例えば、粒径は、Malvern Mastersizer 2000又はHORIBAレーザー散乱粒径分布測定装置LA-960によって決定することができる。「d90」は、試験試料中の粒子の90%が記載されている値未満のサイズを有する粒径分布を表す。
【0011】
カーボンナノチューブ(CNT)は、0.4nm~約100nmの範囲の外径を有する管状のストランド状構造であり、好ましくは外径は50nm未満、より好ましくは25nm未満である。CNTは任意のキラリティーであってもよい。アームチェア型ナノチューブが考えられる。更に、CNTは、半導体ナノチューブ、又は導電性を示す任意の他の種類のものであってもよい。好適なCNTとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を挙げることができる。
【0012】
好適なグラファイトは、ミクロンサイズ又はナノサイズの粒子又はフレークの形態であってもよい。「ナノサイズ」という用語は、1ミクロン未満であるナノメートル範囲のサイズを指す。好ましくは、グラファイトはフレーク状のグラファイトである。好適なグラファイト粒子は、約100μm以下、好ましくは約50μm以下の粒径(d90)を有し得る。粒径(d90)は、レーザー光散乱法又は回折法によって決定することができる。グラファイトフレークについては、フレークは、約20μm~約100μmの厚さ、及び約0.1μm~約100μmの平面寸法(長さ及び/又は幅)を有していてもよい。グラファイトは、表面上の官能基由来の1%~20%の若干の酸素含有率を有し得る。
【0013】
膜形成を強化するために、水性プライマー組成物は、少量の、好ましくはプライマー組成物の総重量を基準として15重量%未満のプロピレンカーボネートを更に含有していてもよい。プロピレンカーボネートの存在は、硬化前に耐スクラッチ性及び耐摩擦性を有し硬化後に耐溶媒拭き取り性を有する滑らかで連続的なプライマー膜の形成を可能にすることによってプライマー組成物の膜形成を促進する。
【0014】
長期間の腐食防止のために粒子/粉末形態の従来の腐食防止剤の配合量を増加させることがしばしば必要とされ、その結果、これがプライマーコーティングの靭性に悪影響を及ぼし、それにより-67°Fでの浮動ローラー剥離試験又はウェッジクラック試験(ASTM D3762)などの靭性の影響を受けやすい試験における機械的性能が低下することが分かった。本明細書に開示のナノサイズ又はミクロンサイズのグラフェン及び他の炭素材料の他に類をみない形態並びに/又はプライマー配合物中のエポキシ系樹脂とのそれらの適合性のため、比較的少量のそのようなグラフェン/炭素材料の配合がエポキシ系成分との相乗効果を生み出し、その結果、上述した機械的性能を損なうことなしに耐食性の改善を達成することができる。
【0015】
プライマー組成物は、基材を別の基材に接着接合する前に、水性接合プライマー組成物を第1の基材の金属表面上に塗布することを含む接合方法において使用することができる。第2の基材は、金属表面又は非金属表面を有する構造体であってもよい。例えば、第2の基材は、金属層又は金属構造体であってもよく、あるいは強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合構造体であってもよい。
【0016】
金属基材を別の基材(金属又は複合基材)に接着結合するために、本開示の水性プライマー組成物を金属表面に噴霧又は刷毛により塗布することで、硬化性プライマー膜を形成してもよい。金属表面は、後に塗布されるプライマー膜への金属表面の接着性を高め、金属表面に耐食性を付与するために、好ましくはプライマー組成物が塗布される前に前処理される。プライマー膜は、接合組立前にオーブン中にて、高温(例えば250°F又は350°Fで1時間)にて硬化される。その後、プライマー処理された表面と第2の基材との間に硬化性接着膜を設けることによって、金属基材のプライマー処理された表面が第2の基材に接着される。第2の基材は、別の金属基材であってもよく、あるいはマトリックス樹脂に埋め込まれているかマトリックス樹脂で含浸された強化繊維からなる複合基材であってもよい。接着剤は、第2の基材の表面に塗布されてもよく、あるいは、接着剤は第1の基材のプライマー処理された表面に塗布されてもよい。その後、得られた組立体は接着剤を硬化させるために高温で硬化され、その結果接合構造体が製造される。硬化は、組立体に熱及び圧力を加えることによって行うことができる。プライマー組成物は、これが250°F~350°F(121℃~177℃)の範囲内の温度で硬化可能である従来の硬化性接着剤(特にエポキシ系接着剤)と相溶性を有することができるように配合される。
【0017】
本明細書で使用される用語「基材」には、単層、多層積層体、並びに任意の形状及び構成の構造が含まれる。
【0018】
本明細書で使用される用語「硬化する(cure、curing)」は、化学反応、紫外線、又は熱によって引き起こされる分子架橋による材料の硬化を指す。「硬化性」の材料は、硬化することができる、すなわち硬くなることができるものである。
【0019】
第2の基材が、マトリックス樹脂又はポリマー中に埋め込まれた強化繊維からなる複合基材である場合、複合基材のマトリックス樹脂又はポリマーは、未硬化であっても、部分的に硬化していても、あるいは完全に硬化していてもよい。2つの基材を接着接合する前に複合基材が未硬化であるか部分的にのみ硬化している場合、複合基材の完全な硬化は、結合段階中の接着剤の硬化と同時に起こる。
【0020】
プライマー組成物は、望みの膜厚が達成されるまで、複数の層で金属表面に(例えば噴霧によって)塗布されてもよい。例えば、プライマー組成物の量は、硬化したプライマー膜が約0.0001インチ~約0.0003インチ(又は0.1ミル~0.3ミル)の厚さを有し得るように塗布される。
【0021】
その後に塗布されるポリマープライマー膜への金属表面の接着性を高めるために、金属表面は、プライマー組成物が上に塗布される前に前処理されてもよい。適切な表面処理としては、ウェットエッチング、陽極酸化(リン酸陽極酸化(PAA)及びリン酸/硫酸陽極酸化(PSA)等)、及び当業者に公知のゾル-ゲル法が挙げられる。適切な表面処理のより具体的な例はASTM D2651であり、これは、石鹸溶液で洗浄してからウェットエッチングし、次いで酸で陽極酸化することを含む。本明細書に開示の水性プライマー組成物は、これらの様々な表面処理に適合するように配合される。
【0022】
PAAは、典型的にはリン酸(例えばASTM D3933)を用いて金属酸化物表面を形成することを含み、PSAは典型的にはリン酸-硫酸を用いて金属酸化物表面を形成することを含む。陽極酸化は、プライマー組成物が中に浸透することができる多孔質の粗い表面を生成する。接着は主に粗い表面とプライマー膜との間の機械的連結により生じる。
【0023】
ゾル-ゲル法は、典型的には、金属表面上に無機ポリマーネットワークを形成するための、有機官能性シラン及びジルコニウムアルコキシド前駆体の水溶液の加水分解及び縮合反応による金属-オキソポリマーの成長を含む。ゾル-ゲルコーティングは、共有化学結合を介して金属表面とその後に塗布されるプライマー膜との間に良好な接着性を付与することができる。
【0024】
熱硬化性樹脂
好ましい熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である。好適なエポキシ樹脂としては、少なくとも約1.8の官能価、又は少なくとも約2の官能価を有する多官能価エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、レゾルシノール及びビスフェノール(例えばビスフェノールA、ビスフェノールF等)などの任意選択的に鎖延長されたフェノールの固体グリシジルエーテルである。N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族アミン及びアミノフェノールの固体グリシジル誘導体も好適である。更に、エポキシ樹脂は、約145~5000のエポキシ当量(EEW)を有していてもよく、約300~750の当量が好ましく、325の当量が最も好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂は、固体形態であってもよく、あるいは固体エポキシの分散液であってもよい。分散相中のエポキシ樹脂は、異なる粒子の混合物の形態の2種以上のエポキシ樹脂の分散液であってもよく、あるいは粒子当たり2種以上のエポキシ樹脂を含有する1種類の粒子のみからなっていてもよい。したがって、高分子量ビスフェノールA又はビスフェノールFエポキシなどの柔軟化エポキシを、テトラグリシジルメチレンジアニリン(TGMDA)などの高温耐性のエポキシとブレンドし、次いで混合物を冷却、粉砕、又は他の方法で必要なサイズの固体粒子へと分散させることができる。これらの同じエポキシ樹脂は、有利にはブレンドせずに別個に分散させることができる。
【0026】
異なるエポキシ樹脂の混合物を使用してもよい。一実施形態では、エポキシ樹脂の混合物は、ノボラックエポキシ樹脂と、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(「DGEBA」)樹脂とを含む。例としては、Huntsmanから入手可能なEpirez5003などのノボラックエポキシ樹脂、並びにHuntsmanから入手可能なXU-3903及びDow Chemical Co.から入手可能なD.E.R.669などのビスフェノールAエポキシ樹脂が挙げられる。別の実施形態では、樹脂混合物は、約4以下の官能価を有するエポキシ樹脂と、約5以上の官能価を有するエポキシ樹脂とを含有する。より高い官能価のエポキシ樹脂、すなわち5以上の官能価を有するエポキシ樹脂を少量で、例えば組成物中の全エポキシ樹脂の合計重量を基準として40重量%未満の量で使用することが適切である。そのようなより高い官能価のエポキシ樹脂のそのようなより少量での使用は、接着特性を実質的に低下させることなく硬化したプライマー組成物の耐溶剤性を増加させることが分かった。
【0027】
一実施形態では、プライマー組成物は:
1)約1.8~約4の官能価及び約400~約800のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂30~70重量%;
2)約1.8~約4の官能価及び約2000~約8000のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂5~20重量%;及び
3)約5以上の官能価及び約100~約400のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂10~40重量%;
のエポキシ樹脂の混合物を含有し、
この重量パーセンテージはエポキシ混合物の総重量を基準として合計100%である。
【0028】
エポキシ樹脂の合計量は、プライマー組成物の総重量を基準として約20重量%~60重量%であってもよい。
【0029】
硬化剤及び触媒
水性プライマー組成物は、水溶性であっても非水溶性であってもよい1種以上の硬化剤及び/又は触媒を含有する。好適な硬化剤としては、2-β-(2’-メチルイミダゾリル-1’1-エチル-4,5-ジアミノ-s-トリアジン(これはCUREZOL 2 MZ-Azine(登録商標)として市販されている)などの水溶性の置換アミノトリアジン;変性ポリアミン、例えばAncamine2014(登録商標);ジシアンジアミド(DICY)、又はビス尿素系硬化剤(CVC ChemicalsのOmicure24等)若しくはトルエン-2,4-ビス(N,N’-ジメチル尿素)(CVC ChemicalsのOmicure U-24等)などの非水溶性硬化剤;アミン-エポキシ付加物及び/又は芳香族アミン(ビス(3-アミノプロピル)-ピペラジン(BAPP)(BASFから入手可能)等);が挙げられる。
【0030】
触媒は、熱硬化性樹脂の硬化/架橋を加速するために、又はより低い温度での硬化を可能にするために、任意成分として添加されてもよい。特定の硬化剤がプライマー組成物の加熱温度でプライマー組成物の硬化を生じさせるために十分に活性ではない場合には、固体の水分散性触媒が添加されてもよい。例えば、硬化剤が350°Fで活性である場合、約250°Fでの硬化を可能にするために触媒が添加される。触媒は水溶性であっても非水溶性であってもよく、また本質的に100%の粒子が約30μm未満の平均径を有するような粒子サイズを有する粒子形態であってもよい。粒子の平均径は、Malvern Mastersizer 2000及びHoriba LA-910などの装置を用いてレーザー光散乱/回折法によって測定することができる。用いることができる典型的な触媒としては、限定するものではないが、ビス尿素、ブロック化イミダゾール、置換イミダゾール、又は他のブロック化アミン(アミン/エポキシ付加物等)、ヒドラジンなどが挙げられる。
【0031】
硬化剤は、単独で又は1種以上の触媒と組み合わせて、合計でエポキシ樹脂100部(すなわちエポキシ又はエポキシ類の合計量)当たり約2~30部の量で存在していてもよい。
【0032】
シラン化合物
水性プライマー組成物中のシラン化合物は、金属表面に接合される材料と反応又は結合することができるシラン官能基を有する。好適なシラン化合物としてはオルガノシランが挙げられる。加水分解性基を有するオルガノシランが好ましい。特定の実施形態では、オルガノシランは以下の一般式:
を有し、式中、nは0よりも大きく;各XはOH、OCH、及びOCHであり、RはCH=CH
又はCH-CH-CH-Yであり、YはNH、SH、OH、NCO、NH-CO-NH、NH-(CHNH、NH-アリール、
であり、各Rはアルキル、アルコキシ、アリール、置換アリール、又はRである。
【0033】
好適な市販のオルガノシラン化合物の例は、OSi Specialties Inc.,Danbury,Conn.から入手可能なものであり、限定するものではないが、A-186(β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン);A-187(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン);A-189(γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン);A-1100(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン);A-1106(アミノアルキルシリコーン溶液);A-1170(ビス-(γ-トリメトキシ-シリルプロピル)アミン);Y-9669(N-フェニル-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン);Y-11777(アミノアルキルシリコーン/水溶液);及びY-11870(エポキシ官能性シラン溶液)が挙げられる。他の好適な市販のオルガノシランとしては、限定するものではないが、Dow Corning,Midland,Mich.のZ-6040(γ-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン);Huls America Inc.,N.J.から販売されているHS2759(水性エポキシ官能性シラン)、HS2775(アミノシラン水溶液)、及びHS2781(アミノ基とビニル基を有する水性オリゴマーシラン溶液)が挙げられる。別の例は3-グリシドキシプロピルメトキシ-シランであり、これは商標Z-6040として販売されている。
【0034】
通常、オルガノシランは、水100部当たり約0.01~15部、好ましくは水100部当たり約0.1~10部の範囲の量で水性プライマー組成物中に存在する。
【0035】
オルガノシランは、水性プライマー組成物に直接添加することができる液体又は粉末の形態であってもよい。
【0036】
任意選択の添加剤
水性プライマー組成物は、従来の染料、顔料、及びレオロジー調整剤を任意選択的に含有していてもよい。そのような任意の添加剤の合計量は、3重量%未満、例えば0.1重量%~2重量%である。染料又は顔料を含有する組成物の利点は、表面被覆率を視覚的方法によってより容易に評価できることである。コーティング用途のための組成物のレオロジーを制御するために、粒子形態の無機フィラーが添加されてもよい。好適な無機フィラーとしては、ヒュームドシリカ、粘土粒子などが挙げられる。
【0037】
一実施形態によれば、プライマー組成物は、
(i)20~60重量%の1種以上のエポキシ樹脂;
(ii)エポキシ樹脂合計100部当たり2~30部の、単独の又は触媒と組み合わされた硬化剤;
(iii)水100部当たり0.1~10部の量のオルガノシラン;
(iv)水性組成物中の全固形成分を基準として0.1~5重量%の、グラフェンプレートレット、グラファイトプレートレット、カーボンブラック粉末、カーボンナノチューブ、及びこれらの組み合わせから選択される炭素系材料;
(v)15重量%未満のプロピレンカーボネート;
(vi)任意選択的な、0.1~2重量%のレオロジー調整剤及び/又は顔料/染料;
(vii)10%~30%の固形分にするための水;
を含有する水性分散液であり、別段の指示がない限り、「重量%」は組成物の総重量基準の重量パーセンテージを表す。
【実施例
【0038】
実施例1
表1に開示されている処方に従って、プライマー配合物1及び2を調製した。
【0039】
【0040】
各プライマー配合物を、HVLP(高速低圧)ガンを使用して、表面処理されたAl-2024 Bare合金パネル上に噴霧して、0.2ミルの厚さを有する膜を形成した。表面処理は、洗浄、FPLエッチング、及びPAA陽極酸化を含むASTM D2651に従った。得られた未硬化膜は周囲温度で空気乾燥させた。その後、プライマー配合物を250°Fで1時間硬化し、これに対して次の試験を行った:a)1000~3000時間の塩霧暴露(ASTM B117)後のスクライブ腐食試験(ASTM D1654);b)Cytec Engineered Materials Inc.のエポキシ系接着剤FM73を用いたシングルラップせん断試験(ASTM D1002);及びc)FM73接着剤を用いた浮動ローラー剥離試験(ASTM D3167)。
【0041】
上の水性接着プライマー組成物(配合物2)では、グラフェンプレートレットは均一に分散していた。配合物2は、湿気及び酸素の拡散に対する優れたバリアを提供し、それにより、対照の非クロメート系水性接着プライマー(配合物1)と比較して、アルミニウム基材の長期(3000時間)腐食性能を有意に改善する。図1Aは、3000時間スクライブ腐食試験(ASTM D1654)において配合物1を使用して得られた結果を示す。図1Bは、同じ腐食試験において配合物2を使用して得られた結果を示す。
【0042】
腐食試験の結果は、湿気の拡散及び塩によって引き起こされる腐食を阻止するように機能する、エポキシ系プライマー組成物と分散されているグラフェンプレートレットとの他に類のない優れた相乗効果を示している。結果は、グラフェン含有非クロメート系配合物に基づくプライマーコーティングが長期間の腐食防止性能を提供できることを示している。
【0043】
更に、グラフェンによるエポキシプライマー組成物の修飾は、優れた噴霧性、取扱い性、機械的性能、及び貯蔵寿命によって示されるように、接着プライマーの特性のいずれも損なわないことが分かった。表2は、グラフェンナノプレートレットを含有する配合物2の試験結果を示している。グラフェン含有水性接着プライマー配合物2は、優れた機械的特性、特には低温での靭性(特に浮動ローラー剥離強度)を示すことが分かった。
【0044】
【0045】
実施例2
従来の腐食防止剤であるリン酸亜鉛系腐食防止剤を使用して、表3に開示の処方に従ってプライマー配合物3及び4を調製した。
【0046】
【0047】
比較のために、配合物3及び4は、表1に示されている同じ非クロメート系水性配合物1に異なる配合量のリン酸亜鉛系腐食防止剤を添加することによって処方した。各プライマー配合物を表面処理されたAl合金パネル上に噴霧し、次いで実施例1に記載の通りに硬化させた。硬化したプライマーコーティングに対して、同じ3000時間のスクライブ腐食試験(ASTM D1654)を行った。配合物3に基づいたプライマー塗料では、孔食及び白っぽい縞などの有意な腐食の兆候が観察された。配合物4に基づいたプライマー塗料にも複数の孔食及び縞が存在した。少量のグラフェンナノプレートレットを含有する配合物2(実施例1中)は、従来のリン酸亜鉛腐食防止剤を含有する配合物3及び4に基づいたプライマーコーティングと比較して、優れた長期腐食性能を示したことが分かる。
【0048】
実施例3
プライマー配合物5及び6は、従来の腐食防止剤である亜鉛/セリウムモリブデート系腐食防止剤を使用して表4に開示の処方に従って調製した。
【0049】
【0050】
配合物5及び6は、表1に開示されている同じ非クロメート水性配合物1に2つの異なる配合量の亜鉛/セリウムモリブデートを添加することによって処方した。各プライマー配合物を表面処理されたAl合金パネル上に噴霧し、次いで実施例1に記載の通りに硬化させた。硬化したプライマーコーティングに対して、同じ3000時間のスクライブ腐食試験(ASTM D1654)を行った。配合物5及び6から形成された両方のプライマーコーティングが、3000時間のスクライブ腐食試験後にスクライブ線に沿って複数の白っぽい縞のスポットを示した。
【0051】
配合物1~6(実施例1~3に従って製造)に基づいたプライマーコーティングに対して、-67°Fでの浮動ローラー剥離試験及びウェッジクラック試験(ASTM D3762)を行った。表5は、試験した全てのプライマーコーティングについての結果及び性能の評価を示している。5の評価が最高である。
【0052】
【0053】
これらの結果は、他の一般的な腐食防止剤であるリン酸亜鉛系防止剤及び亜鉛/セリウムモリブデートと比較して長期間の腐食性能を達成するために少量のグラフェンナノプレートレットを使用することの利点を示している。
【0054】
図2に示されているように、本開示のグラフェン含有プライマーコーティング中のナノプレートレット21によって作り出される蛇行メカニズム20は、プライマーコーティングに湿気及び気体の拡散/浸透に対する良好なバリアをもたらすと考えられる。そして、この蛇行メカニズムは、他の従来のクロメートプライマーコーティングに匹敵する優れた長期腐食性能を与えると考えられる。
【0055】
専門用語
本開示において、量に関連して使用される修飾語「およそ」及び「約」には、表記の値が含まれ、文脈により影響される意味を有する(例えば、特定の量の測定に伴う誤差の程度が含まれる)。例えば、「約」に続く数は、その記載されている数プラスマイナス0.1%~1%の記載されている数を意味することができる。本明細書中で用いられる接尾語「(s)」には、それが修飾する語の単数形と複数形の両方が包含され、それによってその用語の1つ又は複数が包含される(例えば、金属(metal(s))には、1つ又は複数の金属が包含される)ことが意図されている。本明細書に開示の範囲には、端点及びその範囲の全ての中間値が含まれ、例えば、「1%~10%」は、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%等が包含される。
図1A-1B】
図2