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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】光学装置および内視鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20210101AFI20220218BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20220218BHJP
   G02B 23/26 20060101ALI20220218BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20220218BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20220218BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20220218BHJP
【FI】
G02B7/04 E
G02B7/04 D
G02B7/02 Z
G02B23/26 C
G03B15/00 L
A61B1/00 735
A61B1/00 731
G03B30/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020540025
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2019005364
(87)【国際公開番号】W WO2020044600
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2018158411
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 貴弘
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-063845(JP,A)
【文献】特表2016-523640(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169555(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/093398(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/04
G03B 15/00
G02B 7/02
G02B 23/26
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸の方向に移動可能な移動レンズを有する光学系と、
磁性体材料によって形成され、前記移動レンズを保持する移動枠と、
非磁性体材料によって形成された筒状をなし、内周面において、前記移動枠を前記光軸に沿って移動可能に保持する保持枠と、
前記保持枠の外周に前記光軸の方向に離間して配置され、円環状の形状を有した第1の磁石及び第2の磁石と、
前記保持枠の外周において、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に巻回されたコイルと、を備え
前記移動枠は、前記移動レンズを保持するレンズ保持孔を有して、前記レンズ保持孔の中心軸に直角な少なくとも一の方向の部位において前記第1の磁石と前記第2の磁石及び前記コイルから受ける磁力が、他の部位において受ける前記磁力よりも相対的に小さくなるよう、中心軸周りに非回転対称な形状をなすことを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記移動枠は、
内周がレンズ保持孔として形成された円環状をなすレンズ保持部と、
前記レンズ保持部よりも大径な円環状をなして前記レンズ保持部に連設され、前記保持枠の内周面と摺動可能な摺動部と、
前記レンズ保持孔の中心軸の軸直角方向において、前記レンズ保持部、或いは、前記摺動部のうちの少なくとも何れか一方の一部を切欠いて形成した切欠部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記摺動部は、
前記レンズ保持部の先端側において前記保持枠の内周面と摺動可能な第1の摺動部と、
前記レンズ保持部の基端側において前記保持枠の内周面と摺動可能な第2の摺動部と、を有することを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項4】
前記切欠部は、前記摺動部の円周上において、中心角が120°以下となる範囲内に形成されていることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項5】
前記切欠部は、平面状をなすことを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記切欠部は、前記光軸方向へ沿って延びた溝状をなすことを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項7】
前記保持枠は、前記切欠部に対向する回転規制部を内周に有することを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記レンズ保持孔が保持する前記移動レンズの中心軸は、前記移動枠の外周の中心軸に対して偏心していることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記保持枠の外周において、前記コイルの外周に設けられ、前記第1の磁石、前記第2の磁石および前記コイルに発生する磁力を増幅するヨークを有することを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項10】
光軸の方向に移動可能な移動レンズを有する光学系と、
磁性体材料によって形成され、前記移動レンズを保持する移動枠と、
非磁性体材料によって形成された筒状をなし、内周面において、前記移動枠を前記光軸に沿って移動可能に保持する保持枠と、
前記保持枠の外周に前記光軸の方向に離間して配置され、円環状の形状を有した第1の磁石及び第2の磁石と、
前記保持枠の外周において、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に巻回されたコイルと、を備え
前記移動枠は、前記移動レンズを保持するレンズ保持孔を有して、前記レンズ保持孔の中心軸に直角な少なくとも一の方向の部位において前記第1の磁石と前記第2の磁石及び前記コイルから受ける磁力が、他の部位において受ける前記磁力よりも相対的に小さくなるよう、中心軸周りに非回転対称な形状をなす光学装置を備えたことを特徴とする内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材を保持した移動枠を磁力によって光軸方向に移動させて光学機能を可変する光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ付き携帯端末や内視鏡などのような特に小型化が要求される撮像装置においては、磁気アクチュエータを用いて撮像光学系の焦点を切換可能な2焦点切替式の光学装置を採用したものが知られている。
【0003】
この種の光学装置では、固定枠の内部において移動枠を摺動させるため、固定枠の内周面と移動枠の外周面との間に所定のクリアランスが設けられている。その一方で、このようなクリアランスは移動枠のガタ付きの要因となり、光学特性に影響を及ぼす。
【0004】
これに対し、例えば、日本国特開2017-63845号公報には、対物レンズと、移動レンズと、磁性体から構成された移動枠と、移動枠を前後に移動自在に保持する保持枠と、保持枠の外周に設けられた一対の磁石と、一対の磁石の間に設けられたヨークと、ヨークよりも保持枠側に設けられたコイルと、を有した光学装置において、コイルの外周を覆う枠部と、枠部の前端及び後端において、保持枠の外周面に突出することにより、枠部と外周面との距離を縮める、枠部の周方向に部分的に形成されたヨーク凸部と、を有してヨークを構成することにより、磁力を用いて移動枠を移動させる際のがたつきを簡単な構成にて防止する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、上述の日本国特開2017-63845号公報に開示された技術は、コイルの通電時に、主としてヨーク凸部が設けられている偏った部分においてのみ、各磁石の磁力の増強或いは削減を行う構成である。従って、ヨーク凸部が設けられていない部分においては、コイルの通電時に、移動枠の移動を阻害する磁力の削減等が十分になされず、移動枠に対して十分な駆動力を発生させることが困難な虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、十分な駆動力によって移動枠を移動させることができ、且つ、移動枠のガタ付きを的確に防止することができる光学装置および内視鏡を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による光学装置は、光軸の方向に移動可能な移動レンズを有する光学系と、磁性体材料によって形成され、前記移動レンズを保持する移動枠と、非磁性体材料によって形成された筒状をなし、内周面において、前記移動枠を前記光軸に沿って移動可能に保持する保持枠と、前記保持枠の外周に前記光軸の方向に離間して配置され、円環状の形状を有した第1の磁石及び第2の磁石と、前記保持枠の外周において、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に巻回されたコイルと、を備え前記移動枠は、前記移動レンズを保持するレンズ保持孔を有して、前記レンズ保持孔の中心軸に直角な少なくとも一の方向の部位において前記第1の磁石と前記第2の磁石及び前記コイルから受ける磁力が、他の部位において受ける前記磁力よりも相対的に小さくなるよう、中心軸周りに非回転対称な形状をなすものである。
【0008】
また、本発明の一態様による内視鏡は、光軸の方向に移動可能な移動レンズを有する光学系と、磁性体材料によって形成され、前記移動レンズを保持する移動枠と、非磁性体材料によって形成された筒状をなし、内周面において、前記移動枠を前記光軸に沿って移動可能に保持する保持枠と、前記保持枠の外周に前記光軸の方向に離間して配置され、円環状の形状を有した第1の磁石及び第2の磁石と、前記保持枠の外周において、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に巻回されたコイルと、を備え前記移動枠は、前記移動レンズを保持するレンズ保持孔を有して、前記レンズ保持孔の中心軸に直角な少なくとも一の方向の部位において前記第1の磁石と前記第2の磁石及び前記コイルから受ける磁力が、他の部位において受ける前記磁力よりも相対的に小さくなるよう、中心軸周りに非回転対称な形状をなす光学装置を備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】内視鏡の概略構成図
図2】移動レンズユニットが先端側に移動した撮像装置の構成を示す断面図
図3】移動レンズユニットが基端側に移動した撮像装置の構成を示す断面図
図4】移動レンズユニットの斜視図
図5】固定レンズ枠の内部において移動レンズ枠が受ける磁力を模式的に示す説明図
図6】第1の変形例に係り、移動レンズユニットの斜視図
図7】第2の変形例に係り、移動レンズユニットの斜視図
図8】第3の変形例に係り、光学装置を光軸に直角な方向に破断した要部断面図
図9】第4の変形例に係り、光学装置を光軸に直角な方向に破断した要部断面図
図10】第5の変形例に係り、光学装置を光軸に直角な方向に破断した要部断面図
図11】第6の変形例に係り、光学装置を光軸に直角な方向に破断した要部断面図
図12】第7の変形例に係り、光学装置を光軸に直角な方向に破断した要部断面図
図13】第8の変形例に係り、移動レンズユニットの斜視図
図14】第9の変形例に係り、移動レンズユニットの斜視図
図15】第10の変形例に係り、移動レンズユニットの斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係り、図1は内視鏡の概略構成図、図2は移動レンズユニットが先端側に移動した撮像装置の構成を示す断面図、図3は移動レンズユニットが基端側に移動した撮像装置の構成を示す断面図、図4は移動レンズユニットの斜視図、図5は固定レンズ枠の内部において移動レンズ枠が受ける磁力を模式的に示す説明図である。
【0011】
本実施形態の内視鏡101は、人体などの被検体内に導入可能であって被検体内の所定の観察部位を光学的に撮像する構成を有している。
【0012】
なお、内視鏡101が導入される被検体は、人体に限らず、他の生体であっても良いし、機械、建造物などの人工物であっても良い。
【0013】
内視鏡101は、被検体の内部に導入される挿入部102と、この挿入部102の基端に位置する操作部103と、この操作部103の側部から延出するユニバーサルコード104とで主に構成されている。
【0014】
挿入部102は、先端に配設される先端部110と、この先端部110の基端側に配設される湾曲自在な湾曲部109と、この湾曲部109の基端側に配設され操作部103の先端側に接続される可撓性を有する可撓管部108と、が連設されて構成されている。
【0015】
詳しくは後述するが、先端部110には、撮像装置1が設けられている。また、操作部103には、湾曲部109の湾曲を操作するためのアングル操作ノブ106が設けられている。
【0016】
ユニバーサルコード104の基端部には、外部装置120に接続される内視鏡コネクタ105が設けられている。内視鏡コネクタ105が接続される外部装置120は、モニタなどの画像表示部121にケーブルを介して接続されている。
【0017】
また、内視鏡101は、ユニバーサルコード104、操作部103および挿入部102内に挿通された複合ケーブル115および外部装置120に設けられた光源部からの照明光を伝送する光ファイバ束(不図示)を有している。
【0018】
複合ケーブル115は、内視鏡コネクタ105と撮像装置1とを電気的に接続するように構成されている。内視鏡コネクタ105が外部装置120に接続されることによって、撮像装置1は、複合ケーブル115を介して外部装置120に電気的に接続される。
【0019】
この複合ケーブル115を介して、外部装置120から撮像装置1への電力の供給および外部装置120と撮像装置1との間の通信が行われる。
【0020】
外部装置120には、画像処理部が設けられている。この画像処理部は、撮像装置1から出力された撮像素子出力信号に基づいて映像信号を生成し、画像表示部121に出力する。即ち、本実施形態では、撮像装置1により撮像された光学像(内視鏡像)が、映像として画像表示部121に表示される。
【0021】
なお、内視鏡101は、外部装置120または画像表示部121に接続する構成に限定されず、例えば、画像処理部またはモニタの一部または全部を有する構成であっても良い。
【0022】
また、光ファイバ束(不図示)は、外部装置120の光源部から発せられた光を、先端部110の照明光出射部としての照明窓まで伝送するように構成されている。さらに、光源部は、内視鏡101の操作部103または先端部110に配設される構成であってもよい。
【0023】
次に、本実施の形態の撮像装置1の構成について以下に詳しく説明する。
図2および図3に示すように、撮像装置1は、例えば、2焦点切替式の光学装置2と、この光学装置2の後方に連設される撮像素子3と、を有して構成されている。
【0024】
なお、撮像素子3は、CCDまたはCMOSなどのイメージセンサであって、図示しない撮像素子保持枠に固定され、この撮像素子保持枠を介して光学装置2の後方に連設されている。
【0025】
光学装置2は、固定レンズユニット10と、移動レンズユニット20と、駆動機構であるアクチュエータ30と、を有している。
【0026】
固定レンズユニット10は、対物レンズであって被写体像(光学像)の光を撮像素子3に向けて集束させる光学系である固定レンズ11と、レンズ保持枠であって非磁性部材から形成された保持枠としての略筒状の固定レンズ枠12と、円環形状の2つの規制部材13a,13bと、を有している。なお、規制部材13a,13bのうちの一方は、レンズ保持枠12の一部であってもよい(すなわち、レンズ保持枠12と一体形成されたものであってもよい)。
【0027】
固定レンズ枠12は、撮像光軸Oに沿って細長な筒状に形成されていると共に、撮像光軸Oの先端部分に、光学系を構成する光学部材として、光学絞り14が設けられた固定レンズ11を保持している。なお、固定レンズ11は、複数のレンズ群から構成されていてもよい。
【0028】
そして、固定レンズ枠12の内周部には、固定レンズ11の後方に光学絞り14を挟むように移動レンズユニット20の先端側の位置を規制する規制部材13aが固定され、撮像素子3よりも前方に移動レンズユニット20の後端側の位置を規制する規制部材13bが固定されている。
【0029】
移動レンズユニット20は、磁性部材から形成された略筒形状を基本形状とする移動枠としての移動レンズ枠21と、被写体像の光を撮像素子3の受光部に集束させる、光学系を構成する光学部材としての移動レンズ22と、を有している。
【0030】
図2~4に示すように、移動レンズ枠21は、レンズ保持部23と、このレンズ保持部23の先端側に連設する摺動部としての第1の摺動部24と、レンズ保持部23の基端側に連設する摺動部としての第2の摺動部25と、が磁性体によって一体形成されている。
【0031】
レンズ保持部23は、内周がレンズ保持孔23aとして形成された略円環状をなし、このレンズ保持部23のレンズ保持孔23aには移動レンズ22が保持されている。なお、移動レンズ22は、複数のレンズ群から構成されていてもよい。
【0032】
第1,第2の摺動部24,25は、レンズ保持部23のレンズ保持孔23aの中心軸O1と同軸上に連設して配置されている。
【0033】
これら第1,第2の摺動部24,25は、レンズ保持部23の外径よりも大径であって、且つ、固定レンズ枠12の内径よりも僅かに小径な外径を有する略円環状の部材によって構成されている。これにより、第1,第2の摺動部24,25の外周面は、固定レンズ枠12の内周面に対して摺動自在な摺動面として設定されている。
【0034】
なお、本実施形態において、摺動部24,25の外径は、例えば、1.3mm~1.5mm程度であり、固定レンズ枠12の内径よりも、例えば、0.02mm程度小径に形成されている。
【0035】
この移動レンズユニット20は、固定レンズユニット10の固定レンズ枠12に内包され、摺動部24,25の摺動により、撮像光軸Oに沿った前後方向に移動自在に設けられている。
【0036】
ここで、本実施形態の移動レンズ枠21は、中心軸O1の軸直角方向において、レンズ保持部23及び第1,第2の摺動部24,25の一部を、切削等により、一体的な平面状に切欠いて形成された切欠部26を有し、これにより、移動レンズ枠21は中心軸O1周りに非回転対称な形状となっている。
【0037】
この場合において、例えば、図5に示すように、切欠部26は、第1,第2の摺動部24,25の円周上において、中心角が120°以下となる範囲内において形成されている。
【0038】
これにより、各摺動部24,25の摺動面は、少なくとも中心軸O1周りの120°毎の3点を、固定レンズ枠12の内周面に対して接触させることが可能となっており、固定レンズ枠12内における移動レンズユニット20の安定した進退移動を実現する。
【0039】
アクチュエータ30は、固定レンズ枠12の外周に設けられたヨーク31と、ヨーク31の前端部に一体的に固定された円環状の形状を有する第1の磁石33と、ヨーク31の後端部に一体的に固定された円環状の形状を有する第2の磁石34と、ヨーク31の内周と固定レンズ枠12の外周との間に巻回固定されたソレノイドコイル(以下、単にコイルという)35と、を有している。
【0040】
ここで、本実施形態のヨーク31は、略円筒形状をなす第1のヨーク部材36及び第2のヨーク部材37によって分割形成されている。第1のヨーク部材36の先端には内向フランジ36aが全周に渡って形成され、この内向フランジ36aには第1の磁石33が固定されている。また、第2のヨーク部材37の後端には内向フランジ37aが全周に渡って形成され、この内向フランジ37aには第2の磁石34が固定されている。これら第1のヨーク部材36及び第2のヨーク部材37は、コイル35の全体を内包して覆うように、固定レンズ枠12の先端側及び後端側からそれぞれ外挿され、対向する端部が接着剤、ろう付けなどによって互いが一体となるように接続固定されている。
【0041】
これら第1のヨーク部材36および第2のヨーク部材37は、第1の磁石33、第2の磁石34およびコイル35に発生する磁力を増幅するための軟鉄などの磁性部材である。
【0042】
なお、第1のヨーク部材36および第2のヨーク部材37は、固定レンズ枠12の外周に巻回固定されるコイル35を覆うために組み付け上、別体としているが、コイル35を覆うように組み付けが行える構成であれば一体とした1つのヨークとしてもよい。
【0043】
また、ここでのアクチュエータ30は、第1の磁石33が前方側にS極が着磁され、後方側にN極が着磁されており、第2の磁石34が前方側にN極が着磁され、後方側にS極が着磁された永久磁石である。即ち、第1の磁石33および第2の磁石34は、同一の磁極(ここではN極)同士が対向するように配設されている。
【0044】
このように構成されたアクチュエータ30は、コイル35に対する通電方向を切り替え、第1の磁石33および第2の磁石34の磁界に対して、コイル35が発生する磁界の方向を切り替えることにより、移動レンズユニット20に対する駆動力を発生することが可能となっている。
【0045】
すなわち、コイル35に対し、当該コイル35の先端側をS極、基端側をN極に励磁する第1の方向への通電がなされると、アクチュエータ30の先端側において、第1の磁石33の磁場は、コイル35に発生した同一方向の磁場により強められる。一方、アクチュエータ30の後端側において、第2の磁石34の磁場は、コイル35に発生した逆方向の磁場によって打ち消され、弱められる。
【0046】
これらにより、アクチュエータ30には、全体として、移動レンズ枠21を先端側に引き寄せる駆動力(磁力)が発生し、移動レンズ枠21(移動レンズユニット20)は、規制部材13aによって規定される前方移動位置まで移動する。
【0047】
なお、コイル35に対する通電が解除された後も、先端側へと移動された後の移動レンズ枠21は、第1の磁石33の磁力によって保持される。
【0048】
一方、コイル35に対し、当該コイル35の先端側をN極、基端側をS極に励磁する第2の方向への通電がなされると、アクチュエータ30の先端側において、第1の磁石33の磁場は、コイル35に発生した逆方向の磁場によって打ち消され、弱められる。一方、アクチュエータ30の後端側において、第2の磁石34の磁場は、コイル35に発生した同一方向の磁場によって強められる。
【0049】
これらにより、アクチュエータ30には、全体として、移動レンズ枠21を基端側に引き寄せる駆動力(磁力)が発生し、移動レンズ枠21(移動レンズユニット20)は、規制部材13bによって規定される後方側移動位置まで移動する。
【0050】
なお、コイル35に対する通電が解除された後も、後端側へと移動された後の移動レンズ枠21は、第2の磁石34の磁力によって保持される。
【0051】
なお、ここでの撮像装置1では、移動レンズユニット20が前進して前方で停止した状態が第1の停止位置となるワイド端となっており、移動レンズユニット20が後退して後方で停止した状態が第2の停止位置となるテレ端となっている。
【0052】
このように撮像装置1は、アクチュエータ30の駆動によって、移動レンズユニット20を前後に移動させてワイドおよびテレの2つの光学特性に切り替える構成となっている。
【0053】
また、撮像装置1は、固定レンズ11および移動レンズ22のレンズ設計などによって、移動レンズユニット20の前後の停止位置によるワイドおよびテレの2つの光学特性を逆にしてもよい。
【0054】
このような移動レンズ枠21(移動レンズユニット20)の前方移動位置への移動及び保持、或いは、後方移動位置への移動及び保持において、移動レンズ枠21はレンズ保持部23(レンズ保持孔23a)の中心軸周りに非回転対称な形状をなしているため、移動レンズ枠21が、中心軸に軸直角な各方向において第1,第2の磁石33,34及びコイル35から受ける磁力は、不均一となる。
【0055】
すなわち、切欠部26が設けられた部位の体積は他の部位に比べて小さいため、切欠部26が設けられた部位において移動レンズ枠21が受ける磁力(引力)は、他の方向の部位において移動レンズ枠21が受ける磁力(引力)よりも相対的に小さくなる(図5参照)。
【0056】
このため、移動レンズ枠21(移動レンズユニット20)は、切欠部26が設けられた部位とは反対側の部位が、固定レンズ枠12の内周面に対して押し付けられるように引き寄せられる。そして、このように移動レンズ枠21が引き寄せられて、所謂ガタ寄せが行われることにより、移動レンズユニット20のガタ付きが的確に防止される。
【0057】
この場合、移動レンズ枠21の切欠部26は、移動レンズユニット21が受ける重力を考慮して設定されることが望ましい。すなわち、移動レンズ枠21が磁力によって切欠部26と反対側の方向に引き寄せられる引力と、移動レンズ枠21が磁力によって切欠部26の方向に引き寄せられる引力との差(相対的な引力)が重力よりも大きくなるように、切欠部26の切欠量が設定されていることが望ましい。
【0058】
また、例えば、図2,3に示すように、移動レンズ枠21は、当該移動レンズ枠21がガタ寄せされたときの中心軸O1と、光学装置2の中心軸Oと、が一致するように設計されていることが望ましい。
【0059】
このような実施形態によれば、磁性体によって形成され、移動レンズ22を保持するレンズ保持孔23aを有する移動レンズ枠21と、非磁性体によって形成された筒状をなし、内周面において移動レンズ枠21を光軸Oに沿って移動可能に保持する固定レンズ枠12と、固定レンズ枠12の外周に光軸Oの方向に所定距離を隔てて配置され、円環状の形状を有する第1の磁石33及び第2の磁石34と、固定レンズ枠12の外周において第1の磁石33と第2の磁石34との間に巻回されたコイル35と、を有し、移動レンズ枠21は、レンズ保持孔23aの中心軸O1に直角な少なくとも一の方向の部位において第1,第2の磁石33,34及びコイル35から受ける磁力が、他の部位において受ける磁力よりも相対的に小さくなるよう、中心軸O1周りに非回転対称な形状をなすことにより、十分な駆動力によって移動枠を移動させることができ、且つ、移動レンズ枠21のガタ付きを的確に防止することができる。
【0060】
すなわち、移動レンズ枠21を中心軸O1周りに非回転対称な形状とし、中心軸O1に直角な少なくとも一の方向の部位において第1,第2の磁石33,34及びコイル35から受ける磁力が他の部位において受ける磁力よりも相対的に小さくなるよう構成することにより、コイル35の通電時に偏った部分においてのみ第1,第2の磁石33,34の磁力の増強或いは削減等を行うことなく、移動レンズ枠21のガタ寄せを行うことができる。そして、コイル35の通電時に全周に渡って第1,第2の磁石33,34の磁力の増強或いは削減を行うことにより、移動レンズ枠21に対して十分な駆動力を発生させることができる。
【0061】
この場合において、切欠部26は、レンズ保持部23、及び、第1,第2の摺動部24,25の一部を平面状に切欠いて形成されるものであるため、移動レンズ枠21を容易に、非回転対称な形状に形成することができる。
【0062】
ここで、例えば、図6に示すように、移動レンズ枠21において、レンズ保持部23、及び、第1,第2の摺動部24,25のうち、第1,第2の摺動部24,25にのみ切欠部40を形成することも可能である。
【0063】
このように構成すれば、移動レンズ22の保持強度を確保しつつ、切欠部をさらに深くすることができるため、移動レンズ枠21をガタ寄せするための引力量設計の自由度が向上する。
【0064】
また、例えば、図7に示すように、移動レンズ枠21において、レンズ保持部23、及び、第1,第2の摺動部24,25のうち、レンズ保持部23にのみ切欠部41を形成することも可能である。
【0065】
このように構成すれば、固定レンズ枠12の内周に対し、第1,第2の摺動部24,25による摺動性を確保しつつ、移動レンズ枠21のガタ付きを防止することができる。
【0066】
また、例えば、図8に示すように、切欠部に代えて、移動レンズ枠21に孔部42を穿設することにより、移動レンズ枠21を中心軸O1周りに非回転対称な形状とすることも可能である。
【0067】
このように構成すれば、移動レンズ枠21の外形形状に影響を及ぼすことなく、移動レンズ枠21のガタ付きを防止することができる。
【0068】
また、例えば、図9に示すように、第1,第2の摺動部24,25等の中心軸O2に対し、レンズ保持孔23aの中心軸O1を偏心させることにより、移動レンズ枠21を中心軸O1周りに非回転対称な形状とすることも可能である。
【0069】
この場合、中心軸O2に対する中心軸O1の偏心量eを、移動レンズ枠21が固定レンズ枠12の内周に押し当てられたときの最大クリアランスcの半値(すなわち,e=c/2)とすることにより、移動レンズ枠21が固定レンズ枠12の内部において回転した場合にも、常に中心軸O1が固定レンズ枠12の中心に位置するように移動レンズ枠21をガタ寄せすることができる。従って、光学装置2の光軸Oを固定レンズ枠12の中心に設定すれば、常に、光軸Oと中心軸O1とを一致させることができる。
【0070】
また、移動レンズ枠21に対しては複数の切欠部を設けることも可能である。例えば、図10には、移動レンズ枠21に対し、中心軸O1に直角な一の方向の部位に第1の切欠部45を設けるとともに、この第1の切欠部45を基準として中心軸O1周りの120°の回転位置毎に第1の切欠部45よりも小さい第2,第3の切欠部46,47を設けた構成について示している。
【0071】
このように構成すれば、第1,第2の磁石33,34及びコイル35から受ける磁力は、移動レンズ枠21の周上において、第1の切欠部45が設けられた部位が最も小さく、次いで、第2,第3の切欠部46,47が設けられた部位が小さくなる。従って、移動レンズ枠21は、中心軸O1を挟んで第1の切欠部45と反対側の方向にガタ寄せが行われつつ、中心軸O1を挟んで第2,第3の切欠部46,47と反対側へも引き寄せられる。これにより、移動レンズ枠21は、固定レンズ枠12に対する当接部位(すなわち、移動レンズ枠21の中心軸O1を挟んで第1の切欠部45と反対側の部位)を支点としたふらつきについても的確に防止される。
【0072】
また、例えば、図11に示すように、固定レンズ枠12の内周において、移動レンズ枠21の切欠部26に対向する位置に、回転規制部50を設けることも可能である。
【0073】
このように構成すれば、固定レンズ枠12に対する移動レンズ枠21の回転位置を常に一定とすることができる。
【0074】
また、例えば、図12に示すように、切欠部の形状としては、平面状の切欠部26に代えて、光軸O(中心軸O1)方向に延在する溝状の切欠部51であってもよい。
【0075】
この場合、固定レンズ枠12の内周において、移動レンズ枠21の切欠部51に対向する位置に、キー状の回転規制部52を設けることも可能である。
【0076】
このように構成すれば、固定レンズ枠12に対する移動レンズ枠21の回転位置を常に一定とすることができる。
【0077】
また、例えば、図13~15に示すように、レンズ保持部23の外径を、第1,第2の摺動部24,25の外径と同径となるように形成することも可能である。
【0078】
このように構成すれば、レンズ保持部23の外周面についても固定レンズ枠12の内周に対する摺動面として作用させることができる。従って、第1,第2の摺動部24,25に対し、任意の量を切欠いた切欠部55を形成した場合にも、移動レンズ枠21の摺動面は、少なくとも中心軸O1周りの120°毎の3点を、固定レンズ枠12の内周面に対して接触させることができる。
【0079】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、上述の実施形態の構成及び各変形例の構成を適宜組み合わせてもよいことは勿論である。
【0080】
本出願は、2018年8月27日に日本国に出願された特願2018-158411号を優先権主張の基礎として出願するものであり、上記の開示内容は、本願明細書、請求の範囲に引用されるものとする。
図1
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