(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】魚釣装置、魚釣装置システム
(51)【国際特許分類】
A01K 79/00 20060101AFI20220221BHJP
【FI】
A01K79/00 F
(21)【出願番号】P 2017188637
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-09-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月31日発行の「開発ニュース」にて、高橋要司、福岡逸雄、木村拓人、彦坂明孝、伏島一平、上原祟敬および藪田晃彰の発明に関連する「魚釣装置および魚釣装置システム」について公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(73)【特許権者】
【識別番号】517342017
【氏名又は名称】ユニマック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503184430
【氏名又は名称】日光水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 要司
(72)【発明者】
【氏名】福岡 逸雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓人
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 明孝
(72)【発明者】
【氏名】伏島 一平
(72)【発明者】
【氏名】上原 祟敬
(72)【発明者】
【氏名】藪田 晃彰
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-034290(JP,A)
【文献】特開平03-007519(JP,A)
【文献】特開昭63-291525(JP,A)
【文献】特開平01-247027(JP,A)
【文献】特開平10-178992(JP,A)
【文献】特開昭49-030193(JP,A)
【文献】実開昭58-088874(JP,U)
【文献】特開平9-047194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の舷側近傍に設けられ、モータの回転に基づいて釣竿を正転方向に回転させて当該釣竿の先から伸びる釣糸の先に設けられた擬餌針を海中に投入するとともに、前記モータの回転に基づいて前記釣竿を逆転方向に回転させて前記擬餌針に掛かった魚を釣り上げる魚釣装置であって、
魚を釣るために、前記釣竿が予め設定された複数の動作を実行するように前記モータを制御する制御装置を備え、
前記複数の動作は、
前記釣竿を正転方向に回転させて、前記擬餌針を海面の前記舷側から離れた領域
の海中に投入する第1動作と、
前記釣竿を逆転方向に回転させて、投入された
海中の当該擬餌針を前記舷側に近づける第2動作と、
を含
み、
前記第2動作中に、前記モータの駆動電流が予め定められた電流を超えた場合に、魚が前記擬餌針に掛かったと判断することを特徴とする魚釣装置。
【請求項2】
前記複数の動作は、前記第2動作の終了までに魚が前記擬餌針に掛らなかったときに、前記釣竿を回転させて、前記擬餌針を海面から上げたまま前記舷側から離れる方向に移動させて海面に投入する第3動作を含むことを特徴とする請求項1に記載の魚釣装置。
【請求項3】
前記複数の動作は、魚が前記擬餌針に掛かったとき、前記釣竿を逆転方向に回転させて、予め設定された維持時間、当該魚を海中に維持しながら前記舷側に近づける第4動作を含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の魚釣装置。
【請求項4】
前記第4動作
での前記モータの駆動電流
から、魚を釣り上げるために必要なトルク、または釣針外し角度を決定することを特徴とする請求項
3に記載の魚釣装置。
【請求項5】
前記複数の動作は、
前記維持時間が経過したとき、前記釣竿を直立角度を越えた回転停止角度まで逆転方向に回転させて停止させる第5動作と、
前記第5動作が終了したときに前記モータの駆動電流が閾値を超えている場合、前記釣竿が船体に接触する手前の回転切替角度まで前記釣竿を逆転方向に回転させる第6動作と、
を含むことを特徴とする請求項
3または
4に記載の魚釣装置。
【請求項6】
前記釣竿の回転面は、前記舷側に直交する鉛直面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1から
5のいずれかに記載の魚釣装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載の魚釣装置と、
海面に散水して散水領域を形成する散水装置と、
を備え、
前記第1動作は、前記擬餌針を前記散水領域を越えて前記舷側から離れた海面に投入するように設定され、
前記第2動作は、前記擬餌針を前記散水領域まで移動させるように設定されることを特徴とする魚釣装置システム。
【請求項8】
船体の舷側近傍に設けられ、モータの回転に基づいて釣竿を正転方向に回転させて当該釣竿の先から伸びる釣糸の先に設けられた擬餌針を海中に投入するとともに、前記モータの回転に基づいて前記釣竿を逆転方向に回転させて前記擬餌針に掛かった魚を釣り上げる魚釣装置であって、
魚を釣るために、前記釣竿が予め設定された複数の動作を実行するように前記モータを制御する制御装置を備え、
前記複数の動作は、
前記釣竿を正転方向に回転させて、前記擬餌針を海面の前記舷側から離れた領域の海中に投入する第1動作と、
前記釣竿を逆転方向に回転させて、投入された海中の当該擬餌針を前記舷側に近づける第2動作と、
を含み、
前記第1動作は、海面に散水して形成された散水領域を越えて前記舷側から離れた海面に前記擬餌針を投入するように設定され、
前記第2動作は、前記擬餌針を前記散水領域まで移動させるように設定されることを特徴とする魚釣装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カツオやマグロなどの魚類を一本釣りする魚釣装置及び魚釣装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
カツオやマグロなどを油圧やモータの動力を用いて一本釣りする魚釣装置が知られている。例えば特許文献1には、釣竿に動作力を与えて魚を釣る自動魚釣装置が記載されている。特許文献1に記載の自動魚釣装置は、荷重電気変換器と船の傾斜を検出する傾斜センサと竿の角度を検出する竿角度検出器とから得られる出力信号を利用して釣竿に動作力を与えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、魚類を一本釣りする魚釣装置について以下の認識を得た。
動力を用いて魚を一本釣りする自動魚釣装置については、以前に一部で導入され普及する動きがみられたが、その後の使用例は増えず、現時点では普及しているとは言いがたい状況と考えられる。本発明者らは、従来の自動魚釣装置が普及しなかった原因を研究し、従来の自動魚釣装置は所望の漁獲サイクルが得られないなどの問題点を有することを認識した。なお、漁獲サイクルは、擬餌針を投入してから魚を釣り上げて次の擬餌針投入までの一連の漁獲動作の平均繰りかえし時間と定義することもできる。したがって、擬餌針に魚が掛かるまでの時間が長くなると、漁獲サイクルは長くなる。
【0005】
これらから、本発明者らは魚釣装置には漁獲サイクルを短くする観点で改善する余地があることを認識した。
【0006】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、漁獲サイクルを短くすることが可能な魚釣装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の魚釣装置は、船体の舷側近傍に設けられ、モータの回転に基づいて釣竿を正転方向に回転させて当該釣竿の先から伸びる釣糸の先に設けられた擬餌針を海中に投入するとともに、モータの回転に基づいて釣竿を逆転方向に回転させて擬餌針に掛かった魚を釣り上げる魚釣装置であって、魚を釣るために、釣竿が予め設定された複数の動作を実行するようにモータを制御する制御装置を備える。複数の動作は、釣竿を正転方向に回転させて、擬餌針を海面の舷側から離れた領域に投入する第1動作と、釣竿を逆転方向に回転させて、投入された擬餌針が海面から出ない程度の速度で当該擬餌針を舷側に近づける第2動作と、を含む。
【0008】
この態様によると、魚釣装置は、投入された擬餌針が海面から出ない程度の速度でその擬餌針を舷側に近づける第2動作を含むことができる。
【0009】
本発明の別の態様は魚釣装置システムである。この魚釣装置システムは、前述の魚釣装置と、海面に散水して散水領域を形成する散水装置と、を備える。第1動作は、擬餌針を散水領域を越えて舷側から離れた海面に投入するように設定され、第2動作は、擬餌針を散水領域まで移動させるように設定される。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、漁獲サイクルを短くすることが可能な魚釣装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る魚釣装置を含む魚釣装置システムの平面視の模式図である。
【
図2】実施の形態に係る魚釣装置を示す側面図である。
【
図4】
図2の魚釣装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図2の魚釣装置の動作の一例を示すフローチャート図である。
【
図6】
図2の魚釣装置の第1動作の様子を示す側面図である。
【
図7】
図2の魚釣装置の第1動作と第2動作を説明するための模式図である。
【
図8】
図2の魚釣装置の第2動作と第3動作の様子を示す側面図である。
【
図9】
図2の魚釣装置の第4動作と第5動作の様子を示す側面図である。
【
図10】
図2の魚釣装置の第5動作を説明するための模式図である。
【
図11】
図2の魚釣装置の第6動作と第7動作の様子を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、魚釣装置について研究し、以下のような知見を得た。
本発明者らは、従来の自動魚釣装置が普及しなかった原因を研究する中で、従来の自動魚釣装置は所望の漁獲サイクルが得られておらず、また海中から釣り上げた魚体が竿や乗組員に衝突する危険があるなどの問題点を見出した。これらから本発明者らは、漁獲サイクルを向上して漁獲量を増やし衝突の危険を減らした魚釣装置を提供することが望まれていることを認識した。
【0014】
そこで、本発明者らは、漁獲サイクルの改善を目指して魚釣装置の研究に取り組んだ。まず、特許文献1に記載の自動魚釣装置について検証した。特許文献1には、その発明が解決しようとする課題に、「魚体を釣り上げるときの、微妙な、より人間の釣動作に近い動作をさせるために、あやしの動作として上下動」することが記載されている。
【0015】
そこで、このあやし動作について検証したところ、あやしの動作として擬餌針を単に上下動させた場合には、擬餌針に魚が掛かるまでの時間(以下、掛かり待ち時間という)が短くならず、所望の漁獲サイクルが得られないことが判明した。つまり、掛かり待ち時間が長いことが特許文献1に記載されるような従来の自動魚釣装置の普及が進まなかった原因の1つであったと考えられる。
【0016】
これらを踏まえ、本発明者らは、魚釣装置の漁獲サイクルを向上する観点から研究を重ねた。まず、舷側に近い領域に海水を散水して散水領域を形成することにより、対象魚の餌となる小魚が水面で狂奔している状況と似た状況を作り出すことができる。この散水音に誘われて対象魚が海面近くに集まってくることが確認された。その上で、擬餌針を、散水領域を越えて舷側から離れた領域(以下、外側領域ということがある)に投入して、擬餌針を海面から出ない速度で舷側に近づける動作によってヒット率が向上することが判明した。ここで、ヒット率は1回の擬餌針の動作により対象魚が擬餌針に掛かる割合と定義することができる。ヒット率が向上すると掛かり待ち時間が短くなり漁獲サイクルが向上するといえる。また、擬餌針を舷側に近づける際に、擬餌針の水深によってヒット率が変化することが判った。したがって、対象魚の種類や海面の状態に応じて、舷側に近づける際の擬餌針の水深を調整可能に構成することが望ましい。
【0017】
次に、対象魚が擬餌針に掛かる掛かり位置について検討した。その結果、擬餌針が散水領域から離れた遠くの位置では多くの魚掛かりが確認され、擬餌針が散水領域より舷側(内側)に近づいた位置では殆ど魚掛かりしないことが判明した。そこで、本発明者らは、擬餌針が魚掛かりしないまま舷側に接近した場合には、擬餌針を一旦水面上に上げて、再度舷側から離れた領域に再投入する動作を案出した。この動作の際に、擬餌針を水面から高く持ち上げて移動させるより、擬餌針を水面の近傍を移動させる方が再投入までの時間が短くなり、漁獲サイクルを向上する点で有利である。このように、擬餌針を外側領域へ投入し、舷側に近づけ、再度外側領域へ投入する動作を繰り返すことによりヒット率を向上させることができる。
【0018】
次に、海中から釣り上げた魚体が他の魚釣装置や乗組員に衝突する問題について検討した。観察の結果、対象魚が擬餌針に掛かったことを検知してから直ぐに魚体を釣り上げる場合、魚体の釣り上げ位置が釣竿の正面に対して左右に大きく変動することが判明した。これは、対象魚が擬餌針から逃れようと左右に泳ぐことによりその位置が大きく変化しているためである。魚体の位置が定まらない状態でその魚体を釣り上げると、魚体の釣り上げ軌道が左右に振れて、左右に隣接して設置された他の魚釣装置や乗組員に衝突する可能性が高くなる。衝突を避けるために、隣接する魚釣装置との間隔を広くすることも考えられるが、漁船上には限られたスペースしかなく、間隔を広げると設置可能な装置の数が減り、トータルの漁獲数が減少する問題がある。
【0019】
そこで本発明者らは、魚体の釣り上げ位置の変動を小さくする観点から研究を重ね、擬餌針に掛かった対象魚を海中に維持したまま舷側に近づける動作をすることにより、釣り上げ位置の変動を減らせることを見出した。つまり、対象魚を海中に維持したまま舷側に近づける過程で、対象魚の左右への振れ幅が徐々に小さくなり、釣り上げ位置が狭い範囲に収束するためである。
【0020】
さらに観察した結果、魚体の釣り上げ位置が魚釣装置の正面である場合、釣り上げた魚体がその魚釣装置や釣竿に衝突しやすいことが判明した。これは、釣り上げた魚体の空中軌道が釣竿の回転面と交差するためである。このような衝突は、釣り上げた魚体を損傷させ、釣竿の破損や魚釣装置の故障の原因となりうる。破損や故障した場合、その魚釣装置は稼働できないから漁獲数が減少することになる。このような衝突を減らすため、本発明者らは、釣竿の回転面を舷側に垂直な鉛直面から傾ける構成を案出した。この構成により、釣り上げた魚体の空中軌道が釣竿の回転面をそれるため、魚体の衝突が減り、衝突に起因する漁獲数の減少を抑えることができる。
【0021】
本発明者らは、これらの知見と思索とに基づいて実施の形態に係る魚釣装置を案出した。以下にその具体的な構成を説明する。
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0023】
[実施の形態]
まず、魚釣装置10を用いた魚釣装置システム1について説明する。
図1は、実施の形態に係る魚釣装置10を含む魚釣装置システム1の平面視の模式図である。以下、XYZ直交座標系をもとに説明する。X軸方向は水平な左右方向に対応し、Y軸方向は水平な前後方向に対応し、Z軸方向は鉛直な上下方向に対応する。Y軸方向およびZ軸方向はそれぞれX軸方向に直交する。X軸方向は左方向あるいは右方向と、Y軸方向は前方向あるいは後方向と、Z軸方向で正方向を上方向、Z軸方向で負方向を下方向と表記することがある。このような方向の表記は魚釣装置10の使用姿勢を制限するものではなく、魚釣装置10は任意の姿勢で使用されうる。なお、ここでいう方向は魚釣装置10についての方向であり、船体12の方向と異なる。
【0024】
魚釣装置システム1は、船体12の舷側14に設置され、カツオ・マグロ類などの対象魚を一本釣りするためのシステムである。したがって、船体12は漁船であってもよい。魚釣装置システム1は、魚釣装置10と、散水装置70と、回収装置16と、を含む。散水装置70は、海水などの水を舷側14の近傍の海面72に散水することにより、散水された領域である散水領域70bを形成することができる。散水領域70bでは、海面が泡立ち小魚が狂奔しているような擬音が発生する。この擬音は、小魚を餌とする対象魚に餌の存在を誤認させ、その対象魚を散水領域70bの近傍に集めることができる。回収装置16は、釣り上げた魚体をキャンバス布16bで受止めベルトコンベア16cによって船体に設けられた凍結倉庫16dに回収する。
【0025】
次に、本発明の実施の形態に係る魚釣装置10について説明する。
図2は、実施の形態に係る魚釣装置10の側面図である。
図3は、魚釣装置10の背面図である。
図4は、魚釣装置10の構成の一例を示すブロック図である。実施の形態に係る魚釣装置10は、擬餌針44を舷側14から散水領域70bを越えて外側の海面72に投入することにより、擬餌針44に対象魚を掛けて一本釣りする一軸式の魚釣装置である。一軸式の魚釣装置は狭い船体12の甲板12cにも容易に設置可能な点で好ましい。魚釣装置10は、架台20と、竿ホルダ24と、減速機26と、モータ28と、釣竿40と、釣糸42と、擬餌針44と、浮子46と、制御装置30と、電流センサ32と、操作盤34と、遠隔操作器36と、を主に含んでいる。モータ28が減速機26を介して竿ホルダ24を回転させることによって、竿ホルダ24に支持された釣竿40が回転する。
【0026】
魚釣装置10は、モータ28の回転に基づいて釣竿40を正転方向に回転させて釣竿40の竿先40bから伸びる釣糸42の先に設けられた擬餌針44を海中に投入する。魚釣装置10は、モータ28の回転に基づいて釣竿40を逆転方向に回転させて擬餌針44に掛かった魚体を釣り上げる。
【0027】
架台20は、船体12の甲板12cに固定され、モータ28と減速機26とを支持する。架台20は、モータ28と減速機26とを支持可能なものであれば特別な限定はないが、
図2の例では、甲板12cから上方に伸びる角筒状の中空部材である。架台20は、種々の金属材料などで形成することができる。
【0028】
竿ホルダ24は、釣竿40を支持し、減速機26の出力軸に固定される略円筒状の中空部材である。
図2の例では、竿ホルダ24の中空部には、釣竿40の根元側の部分(例えばグリップ部)が挿入され、例えば絞め具(不図示)により固定される。竿ホルダ24の長手方向の途中の側面部が減速機26の出力軸に固定されている。減速機26の出力軸が回転するとき、竿ホルダ24は、釣竿40の手元部40cを中心として釣竿40の竿先40bを回転させる。
【0029】
竿ホルダ24は、釣竿40の長手方向を鉛直方向に対して傾斜するように支持している。側面視において、釣竿40が鉛直方向に伸びるようにしたとき、
図3に示すように、背面視で、釣竿40は、X軸方向において、竿先40bに向かって徐々に減速機26から遠ざかるように傾斜している。背面視において、釣竿40の鉛直方向に対する傾斜角θrは1°~10°の範囲が好ましく、より好ましくは3°~7°の範囲に設定することができる。
図3の例では、傾斜角θrは4°~6°の範囲に設定されている。このように構成することにより、釣竿40の回転面は、舷側14に直交する鉛直面に対して傾斜する。
【0030】
減速機26は、モータ28からの入力回転を減速して竿ホルダ24および釣竿40を回転する。減速機26としては、歯車式減速機構など公知の原理に基づく減速機構を採用することができる。
図3の例では、減速機26は、減速比が1/160の歯車式減速機構で構成されている。
【0031】
モータ28は、釣竿40に回転駆動力を付与して擬餌針44に所定の動作をさせるための動力源である。モータ28としては、所望の大きさの駆動力が得られ制御可能なものであれば特別な限定はない。
図3の例では、モータ28として、位置検知部28eを内蔵したサーボモータを採用している。サーボモータは、位置検知部28eを内蔵しているため、位置検知部28eを別に設ける場合に比べて小型化・軽量化に有利である。
【0032】
位置検知部28eは、出力軸の回転位置(回転角)を検知する。位置検知部28eとしては、レゾルバやエンコーダなど公知の原理に基づく位置検出機構を採用することができる。レゾルバは温度、振動、衝撃、ノイズなどの耐環境性に優れる点で好ましく、エンコーダは小型で分解能が高い点で好ましい。エンコーダとしては、透過型あるいは反射型の光学式エンコーダや磁気式エンコーダなどを採用することができる。
図3の例では、位置検知部28eは透過型の光学式のインクリメンタル型エンコーダである。
【0033】
モータ28の出力が小さすぎると魚体74を釣り上げできないことがあり、モータ28の出力が大きすぎるとモータ28や減速機26が大型化することが考えられる。これらの観点から、
図3の例では、一例として定格出力が0.75kWから1.5kWの範囲のモータを使用している。この範囲では質量20kg程度の対象魚を漁獲できることがシミュレーションにより確認されている。
【0034】
電流センサ32は、モータ28の駆動電流(以下、駆動電流Imという)を検知する電流検出要素である。駆動電流Imは、モータ28の出力軸のトルク(以下、トルクTmという)に略比例しており、検知された駆動電流Imに所定の比例定数を乗ずることによりモータ28のトルクTmを取得することができる。特に、モータ28が位置制御または速度制御されている場合、トルクTmはモータ28の負荷トルク(以下、負荷Lmという)に対応している。このため、駆動電流Imに対する負荷Lmの関係を予めテーブル化したテーブル(以下、関係テーブルという)を用いることができる。つまり、関係テーブルを用いて駆動電流Imをキーにテーブル処理することにより負荷Lmを取得することができる。電流センサ32としては、公知の原理に基づく電流検知要素を用いることができる。
図3の例では、電流センサ32として、駆動電流Imが流れる抵抗の電圧降下をA/D変換してデジタル信号化する構成を採用している。電流センサ32は、モータ28の近傍や制御装置30の中など、駆動電流を検知可能であればどこに配置されてもよい。
図3の例では、電流センサ32は、制御装置30の中に配置されている。
【0035】
魚釣装置の竿釣方式としては、関節を介して連結される多軸構成であってもよいが、魚釣装置10は、釣竿40、釣糸42、擬餌針44および浮子46を含む1軸構成の竿釣方式を採用している。釣竿40は、対象魚を釣るために用いられる弾力性に富む細長い棒状の道具である。釣竿40は、駆動力が付与される手元部40cから先端部である竿先40bに向かって伸びる棒状の竿である。釣竿40は、竹、スチール、ガラス繊維、炭素繊維など公知の材料で形成された竿であってもよい。釣竿40は中空であってもよく、中実であってもよい。
図3の例では、釣竿40は、グラスファイバー製の中空の釣竿である。釣竿40は手元部40cから竿先40bに向かって徐々に細くなる形状を有する。釣竿40の長さに特別の限定はないが、
図3の例では、釣竿40の長さは約3mである。釣竿40としては、人手により一本釣りするための釣竿を採用することができる。この場合、安価で入手性に優れ、故障した際の部品交換や釣竿の交換が容易になる。
【0036】
釣糸42は、竿先40bに連結され、竿先40bから伸びる細い糸である。釣糸42は、釣竿40と擬餌針44を繋ぐ役割を果たすために魚の強い引きに対抗しうる強度を有することが望ましい。釣糸42としては、ナイロンやフロロカーボンなどの合成繊維の単線や編み糸あるいは金属ワイヤを採用することができる。釣糸42は、公知の釣糸から所望の視認性と強度とに応じて選択することができる。釣糸42の長さに特別の限定はないが、
図3の例では、釣糸42の長さは釣竿40の長さより短く約1.5mである。釣糸42が釣竿40より長い場合と比べて、擬餌針44の制御が容易になる点で好ましい。
【0037】
擬餌針44は、小魚などに似せた金属片などと一体に結合された釣り針であり、釣糸42の延伸端に取付けられている。擬餌針44は、釣糸42の張力が高いときには掛った魚が外れにくく、張力が緩んだときには魚が容易に外れることが望ましい。このため、擬餌針44として、針先にかえしがないものを採用することができる。擬餌針44に特別の限定はなく、所望の特性を有する公知の擬餌針から選択することができる。
【0038】
浮子46は、擬餌針44が海中に過度に沈まないように釣糸42の擬餌針44の近傍に取付けられている。浮子46に特別の限定はなく、所望の浮力に応じて公知の浮子から選択することができる。浮子46を設けることは必須ではない。
【0039】
操作盤34は、魚釣装置10の操作を入力する操作部34bと、制御装置30からの表示情報を表示する表示部34aを含むマンマシンインターフェースである。表示部34aは液晶表示パネルを含んでもよく、操作部34bは、液晶表示パネルに設けられたタッチパネルであってもよい。操作盤34は、船体12の船橋12bに設置されてもよい。乗組員は表示部34aの表示を見ながら、操作部34bから動作開始や停止などの操作を入力することができる。
図3の例では、操作盤34はケーブル34cによって制御装置30に接続されている。
【0040】
遠隔操作器36は、魚釣装置10の近傍において魚釣装置10の非常停止や復旧の操作を入力する。
図3の例では、遠隔操作器36は、ケーブル36bによって魚釣装置10に接続されている。
【0041】
(制御装置)
次に制御装置30について説明する。制御装置30は、魚を釣るために、釣竿40が予め設定された複数の動作を実行するようにモータ28を制御する。
図4に示す制御装置30の各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。一例として、制御装置30は、シーケンサを含んで構成されてもよく、PC(Personal Computer)を含んで構成されてもよい。
【0042】
制御装置30は、電流取得部30bと、位置取得部30cと、操作結果取得部30dと、遠隔操作取得部30eと、タイマ30fと、モータ制御部30hと、表示制御部30jと、関係テーブル30kと、パターン記憶部30mと、故障検知部30nと、動作状況記録部30pと、を含む。電流取得部30bは、電流センサ32から駆動電流Imの検知結果を取得する。位置取得部30cは、位置検知部28eからモータ28の出力軸の回転位置の検知結果を取得する。操作結果取得部30dは、操作盤34の操作部34bからその操作結果を取得する。遠隔操作取得部30eは、遠隔操作器36からその操作結果を取得する。例えば、制御装置30は、遠隔操作取得部30eの停止ボタンが操作されたら、モータ28の回転を止めて魚釣装置10の動作を停止させる。
【0043】
タイマ30fは、時刻や経過時間の情報を管理する。モータ制御部30hは、駆動回路(不図示)を介してモータ28の回転を制御する。表示制御部30jは操作盤34の表示部34aを制御して、表示部34aに魚釣装置10の動作状況などを表示させる。関係テーブル30kは、取得した駆動電流Imと負荷Lmの関係を予めテーブル化したデータベースである。
【0044】
パターン記憶部30mは、魚釣装置10の各動作について、開始から終了までにおけるモータ28の回転位置、回転速度および駆動電流Imの目標パターンを記憶している。制御装置30は、それぞれ動作の際に、記憶された各パターンをそのときの目標値としてモータ28を制御する。故障検知部30nは、それぞれ動作の際に取得した各検知情報から故障診断することができる。例えば、駆動電流Imを流しているにもかかわらずモータ28の回転位置が変化しない場合は故障と判定して、故障の内容を表示部34aに表示して、モータ28を停止させる。動作状況記録部30pは、魚釣装置10の設定値、動作状況、釣獲尾数等の情報を記録する。
【0045】
制御装置30は、ケーブル34eを通じて交流200Vの電力の供給を受ける。制御装置30は、ケーブル34dによって魚釣装置10に接続されている。
【0046】
次に、
図5~
図11を参照して、魚釣装置10の動作の一例について説明する。
図5は、魚釣装置10の動作の一例を説明するフローチャートであり、この動作に関する処理S100を示している。処理S100は、魚釣装置10が動作開始してから、擬餌針44を投入し、擬餌針44に掛った魚体74を釣り上げ、釣り上げた魚体74を回収装置16に落下させる漁獲動作として、第1~第8動作を含んでいる。
【0047】
図6は、魚釣装置10の第1動作を示す側面図である。
図7は、魚釣装置10の第1動作と第2動作を説明する模式図である。
図8は、魚釣装置10の第2動作と第3動作を示す側面図である。
図9は、魚釣装置10の第4動作と第5動作を示す側面図である。
図10は、魚釣装置10の第5動作を説明する模式図である。
図11は、魚釣装置10の第6動作、第7動作および第8動作を示す側面図である。
図6、
図8、
図9および
図11では、釣糸42や擬餌針44など説明する上で重要ではない部材の一部は省略している。
【0048】
以下、
図6~
図11に示す側面視での釣竿40の回転角度を釣竿40の角度という。釣竿40の角度は、これらの図において釣竿40が時計の9時の位置(竿先40bを舷側14から海側に突出して釣竿40が水平方向に伸びた状態)を0°とし、上げる方向をプラス、下げる方向をマイナスとして表記する。また、釣竿40が時計の12時の位置(竿先40bを上にして釣竿40が鉛直方向に伸びた回転角度=90°の位置)にある状態を直立角度ということがある。
【0049】
(第1動作)
動作を開始すると、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40を投入開始角度θ1まで回転させる(矢印A1、ステップS102)。投入開始角度θ1まで回転した釣竿を釣竿40(A)と表記する。釣竿40(A)が投入開始角度θ1まで回転したら、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40(A)を正転方向に投入終了角度θ2まで回転させる(矢印A2、ステップS104)。ステップS104の動作を第1動作という。投入終了角度θ2まで回転した釣竿を釣竿40(B)と表記する。
図7(a)は第1動作の様子を示す模式図である。第1動作において、魚釣装置10は、釣竿40を正転方向に回転させて、擬餌針44を海面72の舷側14から離れた領域に投入する。
【0050】
投入開始角度θ1に特別の限定はないが、例えば90°(直立角度)より大きな角度であってもよい。
図6の例では、投入開始角度θ1は100~110°の範囲に設定されている。投入終了角度θ2に特別の限定はないが、
図6の例では、-45°に設定されている。第1動作では、擬餌針44を舷側14から離れた海面に投入することが望ましい。
図6の例では、擬餌針44は散水領域70bを越えて舷側14から離れた海面72に投入されるように設定されている。擬餌針44は、一例として舷側14から約3m離れた位置に投入される。
【0051】
釣竿40は、釣竿40を第1リンク、釣糸42を第2リンクとした2リンク構造としてモデル化することができる。第1リンクは剛体であり、自由に制御できるが、第2リンクは軟体であり、自由に制御できない。しかし、第1リンクの適切な動かし方で第2リンクに所要の動きを与えることができる。このようにモデリングすることによって、擬餌針44に所望の動きをさせるための釣竿40の回転動作は、シミュレーションにより見出すことができる。例えば、第1動作は、竿先40bを支点とした振り子運動としてとらえることができる。魚釣装置10では、擬餌針44の投入動作を振り子運動で行うことによって擬餌針44を散水領域70bの先に落とすことができる。この場合の釣竿40の動きは、シミュレーションにより算出することができる。以下の第2~第8動作についても同様であり、所望の擬餌針44の動作を実現する釣竿40の動きは、シミュレーションにより算出することができる。
【0052】
(第2動作)
擬餌針44を海面72に投入したら、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40を逆転方向に回転させて、投入された擬餌針44が海面72から出ない程度の速度で擬餌針44を舷側14に近づける(矢印A3、ステップS106)。ステップS106の動作を第2動作という。第2動作終了時における釣竿を釣竿40(C)と表記する。釣竿40(C)の角度θ3は
図8の例では45°である。第2動作は、擬餌針44を海面72下の一定の深度において舷側14に向けて引き寄せる。
図7(b)は第2動作の様子を示す模式図である。第2動作では擬餌針44が海中に維持されることが望ましい。また逆に、擬餌針44の深度が下がりすぎないように浮子46の浮力を調整するようにしてもよい。第2動作の継続時間は、一例として5秒程度に設定されてもよい。
【0053】
第2動作を開始したら、制御装置30は、擬餌針44に魚が掛ったか否かを判定する(ステップS108)。このステップで、制御装置30は、魚の引きによる負荷Lmを検知するためにモータ28の駆動電流Imを利用することができる。本例では、制御装置30は、モータ28の駆動電流Imが予め定められた動作切替電流Ixを超えたときに擬餌針44に魚が掛ったと判定している。動作切替電流Ixは、魚が掛っていないときの駆動電流Imと魚が掛っているときの駆動電流Imとの間において、実験またはシミュレーションにより設定することができる。
【0054】
魚掛かり(針掛かりとも称される)を、釣り糸を中空の釣竿の中空部を通じて接続したロードセルにより検知する方法も考えられる。しかし、この場合は摩擦による釣り糸の強度低下を防ぐために、竿の内部にガイドリングを設けるなど特殊な加工を施す必要があり、高価になることが考えられる。また、ロードセルを備える分、魚釣装置が大型化して船体12への搭載数が制限される可能性がある。なお、中空の釣竿であることは必須ではない。
【0055】
擬餌針44に魚が掛っていない場合(ステップS108のN)、制御装置30は、第2動作が終了したか否かを判定する(ステップS110)。一例として、釣竿40(C)の角度が終了位置であり、第2動作開始からの経過時間が所定時間を過ぎている場合に第2動作の終了と判定するようにしてもよい。このステップにおける所定時間は、実験またはシミュレーションにより設定することができる。第2動作が終了していない場合(ステップS110のN)、制御装置30は、処理をステップS106の先頭に戻してステップS106~S110のループを繰り返す。
【0056】
(第3動作)
第2動作が終了している場合(ステップS110のY)、制御装置30は、モータ28を制御して擬餌針44を海面72から上げたまま舷側14から離れる方向に移動させて海面72に投入する(矢印A4、ステップS112)。ステップS112の動作を第3動作という。第3動作終了時における釣竿を釣竿40(D)と表記する。釣竿40(D)の角度θ4は
図8の例では-45°である。つまり、第2動作の終了までに魚が擬餌針44に掛らなかったときには第3動作が実行される。具体的には、最大約5秒程度の時間をかけて擬餌針44を舷側14に近づけて、その間に魚掛かり(針掛かりとも称される)しなかった場合は、釣竿40を素早く逆転方向に回転させて擬餌針44を水中から引き出し、釣竿40を正転方向に回転させて散水領域70bの外側の海面72に再投入する。
【0057】
擬餌針44を海面72に投入したら、制御装置30は、処理をステップS106の先頭に戻してステップS106~S112のループを繰り返す。
図8は、ステップS106~S112のループを繰り返すときの釣竿40の動きを示している。再投入までの時間を短縮するために、第3動作は、擬餌針44が海面72近傍を移動するように実行されてもよい。
【0058】
(第4動作)
擬餌針44に魚が掛っている場合(ステップS108のY)、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40を逆転方向に回転させて、当該魚を海中に維持しながら舷側14に近づける(矢印A5、ステップS114)。ステップS114の動作を第4動作という。第4動作終了時における釣竿を釣竿40(E)と表記する。釣竿40(E)の角度θ5は
図9の例では45°である。つまり、第4動作では、擬餌針44に魚が掛ったら、その掛りを維持するとともに舷側14に引寄せる張力を釣糸42に付与するように釣竿40を逆転方向に回転させる。また、第4動作では、魚を空中に釣り上げないように釣竿40の回転を制御することが望ましい。
【0059】
第4動作を開始したら、制御装置30は、第4動作を開始してからの経過時間が予め設定された維持時間を越えたか否かを判定する(ステップS116)。開始後の経過時間が維持時間を越えていない場合(ステップS116のN)、制御装置30は、処理をステップS114の先頭に戻してステップS114~S116のループを繰り返す。このステップの維持時間は、擬餌針44に掛った魚の左右への振れ幅が所望の範囲に抑制する観点から実験またはシミュレーションにより設定することができる。一例として、このステップの維持時間は0.5秒から5秒の範囲に設定することができる。
【0060】
第4動作では、擬餌針44に魚が掛った後、すぐに釣り上げ動作に入らずに、海中の魚を安全かつ容易に釣り上げために、釣竿40を約45°の角度付近で保持し、魚を舷側14に寄せる。
図9の破線枠Pは、上面から視た魚体74の動きを示しており、舷側14に近づくに連れて魚体74の振れ幅が小さくなる様子を模式的に示している。魚釣装置10において、第4動作は、針掛かりを検知した後、一旦、釣竿40の動きを止め、あるいは魚が釣竿40の竿下に移動するまで釣竿40の角度を45°前後に保持する動作によって実行することができる。第4動作により魚を竿下に寄せつつ、魚の暴れを抑え、駆動電流Imから魚の体重を推定し、第5動作でこの魚を釣り上げるために必要なトルク及び釣針外しの位置などを決めることができる。また、竿先直下付近に魚を位置させることによって、釣り上げ時の竿の回転面近くに魚を置くことができる。第4動作によって、釣り上げ時の釣竿40の回転面近くに魚を置くことができるので、隣で作業する乗組員に釣り上げた魚が衝突するなどの可能性を低くすることができる。
【0061】
(第5動作)
第4動作を終了したら、魚釣装置10は擬餌針44に掛った魚を空中に釣り上げる。具体的には、開始後の経過時間が維持時間を越えた場合(ステップS116のY)、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40を直立角度を越えた回転停止角度θ6まで逆転方向に回転させて停止させる(矢印A6、ステップS118)。ステップS118の動作を第5動作という。第5動作終了時における釣竿を釣竿40(F)と表記する。釣竿40(F)の角度θ6は
図9の例では100°である。
【0062】
図10は、魚釣装置10の第5動作を説明するための模式図である。第5動作では、制御装置30は、釣竿40が回転停止角度θ3まで回転したときに、釣り上げられた魚体74が所望の速度V2に達するように、モータ28の回転を制御する。速度V2は、魚体74が回収装置16に自然落下するように運動方程式により求めることができる。V2は、一例として3m/sに設定されてもよい。
【0063】
第5動作において、釣竿40が回転停止角度θ6で停止することにより、釣糸42が緩んで釣竿40のしなりが戻り、魚体74が慣性で移動する速度が擬餌針44の速度を上回ることで、擬餌針44にはかえしがないから、魚体74が擬餌針44から外れることが期待される。擬餌針44から外れた魚体74は回収装置16に落下して回収される。
【0064】
回収装置16としては、一例として、落下する魚体74を受け止めるクッション性のキャンバス布16bと、このキャンバス布16bの傾斜により滑り落ちた魚体74を受け止めて凍結倉庫16dに運ぶベルトコンベア16cと、により構成することができる(
図1も参照)。
【0065】
(第6動作)
擬餌針44が外れた場合には次の漁獲サイクルに移行し、擬餌針44が外れなかった場合には、針を外す第6動作に移行する。このため、制御装置30は、ステップS118の後に魚体から擬餌針44が外れたか否かを検知する。具体的には、制御装置30は、第5動作が終了したときにモータ28の駆動電流Imが閾値を超えているか否かを判定する(ステップS120)。駆動電流Imが閾値を超えている場合(ステップS120のY)、制御装置30は、釣竿40が船体12に接触する手前の回転切替角度θ7まで釣竿40を逆転方向に回転させる(矢印A7、ステップS122)。ステップS122の動作を第6動作という。第6動作終了時における釣竿を釣竿40(G)と表記する。釣竿40(G)の角度θ7は
図11の例では180°である。
【0066】
(第7動作)
釣竿40を回転切替角度θ7まで回転させたら、制御装置30は、戻し角度θ8まで釣竿40を正転方向に回転させる(矢印A8、ステップS124)。ステップS124の動作を第7動作という。第7動作終了時における釣竿を釣竿40(H)と表記する。釣竿40(H)の角度θ8は
図11の例では150°である。つまり、釣竿40は回転切替角度θ7と戻し角度θ8との間で振られ、魚体74を振り落とす。第6動作および第7動作は、第5動作において擬餌針44を外せなかった場合、魚体74に擬餌針44が掛かった状態で竿先40bを数回上下させて擬餌針44を外す動作である。
【0067】
釣竿40を戻し角度θ8まで回転させたら、制御装置30は、処理をステップS120の先頭に戻し、ステップS120からステップS124のループを繰り返す。このループを所定の回数(例えば3回)繰り返しても擬餌針44が外れなかった場合には、処理を一旦中断して、乗組員により擬餌針44を外すようにしてもよい。擬餌針44を外したら、遠隔操作器36の復旧ボタンを操作して処理をステップS126に進めてもよい。
【0068】
(第8動作)
ステップS120において、駆動電流Imが閾値を超えていない(=閾値以下)場合(ステップS120のN)、制御装置30は、モータ28を制御して釣竿40を正転方向に投入開始角度θ1まで回転させる(矢印A9、ステップS126)。ステップS126の動作を第8動作という。第8動作終了時において釣竿は釣竿40(A)の位置に戻る。釣竿40が投入開始角度θ1まで回転したら、制御装置30は、処理をステップS104の先頭に戻し、ステップS104からステップS126のループを繰り返す。つまり、魚体74が外れていれば釣竿40を投入開始角度θ1まで戻し、一本釣りの漁獲サイクルを繰り返す。
【0069】
上述の処理S100はあくまでも一例であり、他のステップを追加したり、一部のステップを変更または削除したり、ステップの順序を入れ替えてもよい。
【0070】
なお、釣竿40を投入開始角度θ1まで戻す第8動作の過程で、擬餌針44を投入するのに必要なトルク以上の力を検知した場合は停止するようにモータ28を制御してもよい。例えば、制御装置30は、モータ28を定速制御してその駆動電流Imが所定の停止電流を超えたら、モータ28を停止させるように制御してもよい。何らかの理由で魚体74が擬餌針44に掛かった状態にある場合や、魚体74から外れた擬餌針44が乗組員やその他の物に引っ掛かっている可能性があるからで、このような状態で釣竿40を無理に戻すと危険なためである。
【0071】
次に、動作状況記録部30pについて説明する。前述したように動作状況記録部30pは、魚釣装置10の設定値、動作状況、釣獲尾数等の記録情報を記録することができる。魚釣装置10の動作状況は、主に電流センサ32から取得したモータ28の駆動電流Imおよび位置検知部28eから取得したモータ28の出力軸の回転位置に基づいて、所望の情報を算出して記録することができる。釣獲尾数は、一例としてステップS104の先頭においてカウントしてもよい。これらの記録情報は、その情報を記録した日時と関連づけて記録するようにしてもよい。これらの記録情報と記録日時とを合せて分析することにより、動作プログラムの改良をすることができる。
【0072】
次に、制御方法について説明する。魚釣装置10の制御方法としては、シーケンス制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御など公知の制御方法を単独でまたは組み合わせて使用することができる。魚釣装置10は、予めプログラムされた手続きに従って各段階の制御を逐次進めていくシーケンス制御により全体の動作を制御することができる。魚釣装置10は、各段階の動作において、モータ28の回転速度(P)、回転角(I)およびトルク(D)のいずれかを優先目標値として、モータ28から取得した各検出パラメータをフィードバックして制御することができる。目標値をパターンとして備え、フィードバック制御することにより、そのパターンに沿った動作を実現することができる。各段階の動作における優先目標の選択と、その目標値のパターンは所望の動作に応じて実験またはシミュレーションにより定めることができる。
【0073】
前述のシーケンス制御のプログラムは、事前に入力されたプログラムをベースに、操作盤34の操作部34bからの入力により変更することができる。前述のフィードバック制御の制御アルゴリズムは、事前に入力されたアルゴリズムをベースに、操作盤34の操作部34bからの入力により変更することができる。例えば、釣獲試験等の過程においてプログラムやアルゴリズムを修正し、魚釣装置10の動作に反映させることができる。
【0074】
また、魚釣装置10は、動作中の各検出パラメータの変化パターンと釣獲成績とを一体に記憶して自動で分析し、釣獲成績が高まる変化パターンの特徴を抽出可能に構成されてもよい。この場合に、釣獲成績が高まる変化パターンを実現するために、目標値のパターンが自律的且つ動的に変更されてもよい。この場合に、釣獲成績が高まる変化パターンを実現するために、魚釣装置10の制御アルゴリズムが自律的且つ動的に変更されてもよい。これらの変更は、釣獲試験等の過程においてなされてもよく、実際の操業の過程においてなされてもよい。これらの変更されたパラメータの変化パターンや変更された制御アルゴリズムは、複数の魚釣装置10の間において自律的に共有されてもよい。
【0075】
次に、このように構成された実施の形態に係る魚釣装置10の作用・効果を説明する。
【0076】
実施の形態に係る魚釣装置10は、船体12の舷側14近傍に設けられ、モータ28の回転に基づいて釣竿40を正転方向に回転させて当該釣竿40の先から伸びる釣糸42の先に設けられた擬餌針44を海中に投入するとともに、モータ28の回転に基づいて釣竿40を逆転方向に回転させて擬餌針44に掛かった魚を釣り上げる魚釣装置であって、魚を釣るために、釣竿40が予め設定された複数の動作を実行するようにモータ28を制御する制御装置30を備え、複数の動作は、釣竿40を正転方向に回転させて、擬餌針44を海面72の舷側14から離れた領域に投入する第1動作と、釣竿40を逆転方向に回転させて、投入された擬餌針44が海面72から出ない程度の速度で当該擬餌針44を舷側14に近づける第2動作と、を含んでいる。この構成によれば、擬餌針44を海面72の舷側14から離れた領域に投入した擬餌針44を海面72から出ない程度の速度で舷側14に近づけることによって、単に擬餌針を上下動させる場合に比べてヒット率を向上させ漁獲サイクルを改善することができる。
【0077】
実施の形態に係る魚釣装置10では、複数の動作は、第2動作の終了までに魚が擬餌針44に掛らなかったときに、釣竿40を回転させて、擬餌針44を海面72から上げたまま舷側14から離れる方向に移動させて海面72に投入する第3動作を含んでいる。この構成によれば、擬餌針44が魚の掛かりが少ない舷側14に接近したら、速やかに擬餌針44を引き上げて魚の掛かりが多い舷側14から離れた海面に再投入することができる。単に擬餌針を上下動させる場合に比べてヒット率を向上させ漁獲サイクルを一層改善することができる。
【0078】
実施の形態に係る魚釣装置10では、第3動作は、擬餌針44が海面72近傍を移動するように実行される。この構成によれば、擬餌針44を海面72から高く持ち上げて移動させる場合に比べて再投入までの時間が短くなり、漁獲サイクルを向上することができる。
【0079】
実施の形態に係る魚釣装置10では、複数の動作は、魚が擬餌針44に掛かったとき、釣竿40を逆転方向に回転させて、予め設定された維持時間、当該魚を海中に維持しながら舷側14に近づける第4動作を含んでいる。この構成によれば、魚が擬餌針44に掛かったときに直ちに釣り上げる場合に比べて、魚の釣り上げ位置のバラツキを減らすことができる。釣り上げ位置の変動が減ることにより、釣り上げた魚体が他の魚釣装置や乗組員に衝突する可能性を低くすることができる。
【0080】
実施の形態に係る魚釣装置10では、第4動作は、擬餌針44が海中にある状態で、モータ28の駆動電流Imが予め定められた動作切替電流Ixを超えたときに開始される。この構成によれば、一定以上の負荷が懸かった場合にモータ28の駆動電流Imが大きくなることを利用して擬餌針44に魚が掛かったことを検知することができる。釣糸42の張力から荷重を検知する場合に比べて、釣竿40に加わる荷重を直接検知するから検知誤差を小さくすることができる。検知誤差が小さい分動作切替電流Ixの値を小さく設定することができる。
【0081】
実施の形態に係る魚釣装置10では、複数の動作は、維持時間が経過したとき、釣竿40を直立角度を越えた回転停止角度まで逆転方向に回転させて停止させる第5動作と、第5動作が終了したときにモータ28の駆動電流が閾値を超えている場合、釣竿40が船体に接触する手前の回転切替角度まで釣竿40を逆転方向に回転させる第6動作と、を含んでいる。この構成によれば、負荷が大きい場合にモータ28の駆動電流が大きくなることを利用して魚体74が外れたか否かを判定することができる。ロードセルで釣糸42の張力を検知する場合に比べて、擬餌針44に加わる遠心力の影響を受けにくいため負荷の検知誤差を小さくすることができる。
【0082】
実施の形態に係る魚釣装置10では、釣竿40の回転面は、舷側14に直交する鉛直面に対して傾斜している。この構成によれば、重力により魚体74の空中軌道は釣竿40の回転面に対して傾くから、釣竿の回転面が鉛直面に平行である場合に比べて、魚体74が釣竿40に衝突する可能性を小さくすることができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0084】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0085】
(第1変形例)
実施形態の説明では、モータ28がサーボモータである例について説明したが、これに限定されない。例えば、モータ28は回転数とトルクが検知可能であればステッピングモータ、インダクションモータ、直流モータなど種々の原理に基づく別の種類のモータであってもよい。
【0086】
(第2変形例)
実施形態の説明では、釣竿40は減速機26を介して回転駆動される例について説明したが、これに限定されない。例えば、ハーモニックドライブ(登録商標)など楕円と真円の差動を利用した減速機である波動歯車装置を介して釣竿40を回転駆動するようにしてもよい。
【0087】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0088】
1・・魚釣装置システム、 10・・魚釣装置、 12・・船体、 14・・舷側、 24・・竿ホルダ、 26・・減速機、 28・・モータ、 28e・・位置検知部、 30・・制御装置、 32・・電流センサ、 34・・操作盤、 40・・釣竿、 44・・擬餌針、 70・・散水装置、 70b・・散水領域、 72・・海面、 74・・魚体。