(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】打撃装置および固有周波数測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/303 20060101AFI20220221BHJP
【FI】
G01N3/303 D
(21)【出願番号】P 2018011638
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2021-01-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成29年度省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(省エネルギー等国際標準開発(国際標準分野))(プラスチックの高速引張試験方法に関する国際標準化)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【氏名又は名称】大坪 隆司
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】591270556
【氏名又は名称】名古屋市
(73)【特許権者】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(73)【特許権者】
【識別番号】592244376
【氏名又は名称】日鉄テクノロジー株式会社
(74)【上記2名の代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧井 忠興
(72)【発明者】
【氏名】西村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 光彦
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣文
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-047277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0005606(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1301761(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1295171(KR,B1)
【文献】特開2008-164463(JP,A)
【文献】特開2005-172589(JP,A)
【文献】特開2004-219222(JP,A)
【文献】特開2004-033626(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0074283(US,A1)
【文献】中国特許第104155076(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01M 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料試験機に使用する力検出器を含む系の固有周波数を計測するために使用される打撃装置であって、
支軸を中心に揺動可能なアームと、
前記アームの支軸とは逆側の端部に配設された重りと、
前記重りを待機高さ位置で固定するとともに、前記待機高さ位置での固定を解除することにより前記重りを前記アームの揺動に伴って前記待機高さ位置から円弧状に落下させる重り固定機構と、を備え、
前記力検出器を含む系を、前記重りにより、前記材料試験機による材料試験時の試験力の負荷方向と平行する方向に向けて打撃することを特徴とする打撃装置。
【請求項2】
請求項1に記載の打撃装置において、
前記力検出器を含む系は、前記力検出器と、この力検出器に接続されたつかみ具と、を含み、
前記重りは前記つかみ具を打撃する打撃装置。
【請求項3】
請求項2に記載の打撃装置において、
前記支軸と、前記重り固定機構とは、鉛直方向に立設された支柱に対して昇降可能に配設される打撃装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の打撃装置において、
前記重りは磁性体から構成され、
前記重り固定機構は、前記重りを磁力により前記待機高さ位置で固定する磁石を備える打撃装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の打撃装置と、
前記重りにより前記力検出器を含む系を打撃したときの前記力検出器の出力信号に基づいて、前記力検出器を含む系の固有周波数を演算する演算部と、
を備えたことを特徴とする固有周波数測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速引張試験機等の材料試験機に使用する力検出器を含む系の固有周波数を計測するために使用される打撃装置、および、この打撃装置を使用した固有周波数測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速引張試験機においては、試験片の両端を移動側つかみ具と固定側つかみ具により把持した状態で、移動側つかみ具を高速で移動させることにより引張試験力を付与する構成を有する(特許文献1参照)。
【0003】
このような高速引張試験機や、シャルピー衝撃試験等の、短時間に試験片に試験力が付与される材料試験を実行するときには、ロードセル等の力検出器の固有周波数(固有振動数)が試験結果に影響を与える。すなわち、材料試験時に試験片に生ずる周波数と比較して、力検出器の固有周波数が低い場合には、試験時に共振や振動が発生しやすく、その慣性力が力検出器による力の計測値に重畳して大きな誤差となる。このため、このような材料試験を行う前には、例えば、力検出器とつかみ具等、力検出器を含む系の固有周波数を予め測定しておく場合がある。
【0004】
この固有周波数の測定時には、力検出器を含む系をハンマーにより打撃し、あるいは、力検出器を含む系に対して鋼球を落とすこと(落球法)によって力検出器を含む系に衝撃を与え、その時の力検出器の出力を記録するとともに、その出力値に対してFFT(Fast Fourier Transform/高速フーリエ変換)解析等を行うことで、固有周波数を求める方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固有周波数を測定するときに、ハンマーによる打撃を行った場合には、打撃力の強弱や打撃ポイントのずれ等により、測定データが一定とはならない問題が生ずる。また、落球法を採用した場合においても、衝突ポイントのずれが誤差要因になるばかりではなく、鋼球が力検出器を含む系と衝突した後に転がることから、測定作業が煩雑なものとなるという問題がある。
【0007】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、力検出器を含む系の固有周波数を簡便かつ正確に測定することが可能な打撃装置および固有周波数測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、材料試験機に使用する力検出器を含む系の固有周波数を計測するために使用される打撃装置であって、支軸を中心に揺動可能なアームと、前記アームの支軸とは逆側の端部に配設された重りと、前記重りを待機高さ位置で固定するとともに、前記待機高さ位置での固定を解除することにより前記重りを前記アームの揺動に伴って前記待機高さ位置から円弧状に落下させる重り固定機構と、を備え、前記力検出器を含む系を、前記重りにより、前記材料試験機による材料試験時の試験力の負荷方向と平行する方向に向けて打撃することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の打撃装置において、前記力検出器を含む系は、前記力検出器と、この力検出器に接続されたつかみ具と、を含み、前記重りは前記つかみ具を打撃する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の打撃装置において、前記支軸と、前記重り固定機構とは、鉛直方向に立設された支柱に対して昇降可能に配設される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の打撃装置において、前記重りは磁性体から構成され、前記重り固定機構は、前記重りを磁力により前記待機高さ位置で固定する磁石を備える。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の打撃装置と、前記重りにより前記力検出器を含む系を打撃したときの前記力検出器の出力信号に基づいて、前記力検出器を含む系の固有周波数を演算する演算部と、を備えたことを特徴とする固有周波数測定装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1から請求項5に記載の発明によれば、重りをアームの揺動に伴って円弧状に落下させて力検出器を含む系を材料試験時の試験力の負荷方向と平行する方向に向けて打撃することから、簡易な構成でありながら、力検出器を含む系の固有周波数を簡便かつ正確に測定することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、力検出器およびつかみ具の大きさに応じて、重りによる打撃位置を変更することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、重りに対する固定とその解除を容易に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係る打撃装置を適用する高速引張試験機の要部を示す概要図である。
【
図3】鋼球61により固定側つかみ具12を打撃する状態を示す拡大断面図である。
【
図4】この発明に係る打撃装置と共に使用される演算部90を含む制御測定系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る打撃装置を適用する高速引張試験機の要部を示す概要図である。
【0018】
この高速引張試験機においては、試験片100は、その上下両端部を移動側つかみ具11と固定側つかみ具12とにより把持された状態で高速引張試験に供される。移動側つかみ具11は、移動部材51の下端部に連結部材45を介して支持されている。一方、固定側つかみ具12は、この発明に係る力検出器としてのロードセル13を介してテーブル14に固定されている。
【0019】
移動側つかみ具11に連結部材45を介して接続された移動部材51は、上方に配置されているピストン53の内部に形成された空洞内に配置されている。この移動部材51の上端部分には上向きに広がるテーパ部52が形成されている。一方、ピストン53における空洞の下端部には、テーパ部52と略同一の角度で上向きに広がるテーパ部54が形成されている。なお、ピストン53は、図示を省略した油圧シリンダの駆動により上下方向に昇降する。このため、ピストン53を高速度で上昇させたときには、移動部材51におけるテーパ部52とピストン53におけるテーパ部54とが当接するまでの助走区間の後に、移動部材51がピストン53とともに、高速度の初速度で上方に移動する。これにより、試験片100に高速引張荷重が負荷される。
【0020】
高速引張試験時に、試験片100の伸びを測定するための変位計は、移動体23と、固定体21とを備える。移動体23は、導電体からなるパイプから構成され、固定体21はコイルから構成される。そして、移動体23が移動することによるコイルである固定体21のインダクタンスの変化を検出して、試験片100の伸びを算出する構成を有する。変位計としては一般的なひずみゲージ式のものも使用できる。
【0021】
ここで、変位計における移動体23は、支持部材41により支持された状態で移動側つかみ具11に連結されている。また、変位計における固定体21は、支持アーム16により支持されている。この支持アーム16は、テーブル14上に立設された支柱15に対して昇降可能となっており、位置決めリング17および固定つまみ18の作用により、その高さ位置を調整した上で固定される構成となっている。
【0022】
以上のような構成を有する高速引張試験時においては、ピストン53を高速度で上昇させると、ピストン53の助走区間を経た後に移動部材51が高速度で上昇し、これによって移動側掴み具11を介して試験片100に高速引張荷重が負荷される。そして、試験片100が伸びることにより移動側つかみ具11が上方に移動する。この移動側つかみ具11の移動により、変位計における移動体23を構成するパイプ内への固定体21としてのコイルの挿入量が減少し、そのインダクタンスが変化する。そして、このインダクタンスを検出し、その変化に基づいて変位計の変位量すなわち試験片100の伸びが算出される。
【0023】
次に、この発明に係る打撃装置の構成について説明する。
図2は、この発明に係る打撃装置の概要図である。また、
図3は、鋼球61により固定側つかみ具12を打撃する状態を示す拡大断面図である。
【0024】
この発明に係る打撃装置は、支軸63を中心に揺動可能なアーム62と、アーム62の支軸63とは逆側の端部に配設された重りとしての鋼球61とを備える。支軸63は、マグネットスタンド70に立設された支柱71に対して昇降可能な支持部64に支持されている。支軸63を支持する支持部64は、ネジ65を操作することにより、支柱71における任意の高さ位置に固定可能となっている。なお、この図においては、マグネットスタンド70を基台72上に載置しているが、マグネットスタンド70をテーブル14上に載置してもよい。
【0025】
支柱71における支持部64の上方の位置には、支持板67を支持する支持部68が配設されている。支持板67を支持する支持部68は、ネジ69を操作することにより、支柱71における任意の高さ位置に固定可能となっている。そして、支持板67の上部には、永久磁石66が載置されている。この永久磁石66は、
図2において実線で示すように、鋼球61が支持板67の下面と当接する高さ位置に配置されたときに、磁力により鋼球61を支持板67の下面と当接する待機高さ位置で固定する。そして、永久磁石66が
図2に示す状態から取り除かれたときには、鋼球61は、
図2において実線で示す待機高さ位置から円弧状に落下し、
図2において仮想線で示す状態となる。なお、支持板67はアルミニウムやステンレス、プラスチックなどの非磁性体の材料から作られている。
【0026】
図4は、この発明に係る打撃装置とともに使用される演算部90を含む制御測定系を示すブロック図である。この制御測定系は
図1に示す高速引張試験機の一部として構成されてもよいし、固有周波数の測定のために別途用意してもよい。
【0027】
この演算部90は、ロードセル13と、液晶表示パネル等から構成される表示部92とに接続されている。この演算部90は、ロードセル13から送信された信号に対して高速フーリエ変換を実行するFFT変換部91を備える。ロードセル13からの信号は、FFT変換部91において高速フーリエ変換され、演算部90においてロードセル13および固定側つかみ具12を含む系の固有周波数が演算される。演算された固定周波数は、表示部92に表示される。
【0028】
このような構成を有する打撃装置により力検出器としてのロードセル13および固定側つかみ具12を含む系の固有周波数を計測するときには、
図3に示すように、支持板83上にダミーの試験片82を配置し、固定側つかみ具12における一対のつかみ歯81によりダミーの試験片82を把持しておく。これは、つかみ歯81や試験片82を含めてつかみ具12が一体となって振動するようにするためであり、後述する固定側つかみ具12における一対のつかみ歯81と鋼球61との衝突時に、一対のつかみ歯81に位置ずれが生ずることを防止するためでもある。なお、
図3では鋼球61が二つのつかみ歯81に同時に衝突しているように描いてあるが、これは理想形であり、実際は片方のつかみ歯81に衝突することが多いと考えられる。この場合でも打撃を与える機能としては、とくに問題はない。また、試験片82の材質によっては、その先端を少しつかみ歯81より上に出しておいて鋼球61を試験片82の先端に衝突させてもよい。
【0029】
この状態において、
図2において仮想線で示すように、アーム62が水平方向を向いた状態において鋼球61の下面が固定側つかみ具12の上端と当接するように、マグネットスタンド70の位置を調整するとともに、支軸63を支持する支持部64の高さ位置を調整する。また、支持板67を支持する支持部68を、鋼球61を打撃に適した位置に配置し得る高さ位置に配置する。そして、
図2において実線で示すように、永久磁石66の作用により、鋼球61を支持板67の下面と当接する待機高さ位置で固定する。
【0030】
この状態において、永久磁石66を支持板67の上面から除去する。これにより、待機高さ位置で固定されている鋼球61は、この待機高さ位置での固定が解除され、アーム62の支軸63を中心とする揺動に伴って円弧状に落下する。そして、この鋼球61は、固定側つかみ具12における一対のつかみ歯81を、
図1に示す材料試験機による材料試験時の試験力の負荷方向と平行する方向(
図2では鉛直方向)に向けて打撃することになる。また、これは負荷軸と同軸上で打撃することにもなる。
【0031】
この打撃によりロードセル13および固定側つかみ具12を含む系に生じた振動は、ロードセル13の力検出機能により測定される。そして、ロードセル13による振動する力の検出信号は、演算部90におけるFFT変換部91により高速フーリエ変換されることにより、ロードセル13および固定側つかみ具12を含む系の固有周波数が演算され、演算された固定周波数は、表示部92に表示される。
【0032】
なお、ロードセル13は、固定側つかみ具12と接続されるだけではなく、テーブル14とも当接している。しかしながら、ロードセル13における力を検出するひずみゲージ等の検出部は、
図2に示す領域19内に存在する起歪部に収納されている。ロードセル13は内部に設けられている起歪部によって上下に分かれており、起歪部はバネの性質を持っているので固定側つかみ具12を含む系の振動は主にこの起歪部より上方で起こることになる。このため、ロードセル13と当接するテーブル14がロードセル13および固定側つかみ具12を含む系の固有周波数に影響を与えることはない。
【0033】
以上のように、この発明に係る打撃装置によれば、支柱71を支持するマグネットスタンド70の配置および支軸63を支持する支持部64の高さ位置を調整することにより、鋼球61によって常に固定側つかみ具12の同一位置を打撃することができる。また、支持板67を支持する支持部68の高さ位置を調整することにより、鋼球61により固定側つかみ具12を常に一定の力で打撃することが可能となる。このため、簡易な構成でありながら、ロードセル13を含む系の固有周波数を簡便かつ正確に測定することが可能となる。
【0034】
なお、上述した実施形態においては、永久磁石66を支持板67の上面から除去することにより、鋼球61に対する磁力の影響をなくして鋼球61を円弧状に落下させているが、永久磁石66のかわりに電磁石を使用し、この電磁石の電磁力をオン/オフする構成を採用してもよい。また、機械的な保持機構により鋼球61を支持する構成を採用してもよい。
【0035】
また、上述した実施形態においては、助走機構を含む高速引張試験機に本発明を適用しているが、試験速度によっては必ずしも助走機構は必要ない。例えば静的な引張試験機において最大速度で試験する場合でも振動が問題になる場合はありうるので、その場合にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0036】
11 移動側つかみ具
12 固定側つかみ具
13 ロードセル
14 テーブル
51 移動部材
52 テーパ部
53 ピストン
54 テーパ部
61 鋼球
62 アーム
63 支軸
64 支持部
66 永久磁石
67 支持板
68 支持部
70 マグネットスタンド
71 支柱
90 演算部
91 FFT変換部
92 表示部
100 試験片