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特許7026904セラミックス抗菌材料、抗菌部品、抗菌部品の製造方法およびセラミックス複合材料
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  • 特許-セラミックス抗菌材料、抗菌部品、抗菌部品の製造方法およびセラミックス複合材料 図1
  • 特許-セラミックス抗菌材料、抗菌部品、抗菌部品の製造方法およびセラミックス複合材料 図2
  • 特許-セラミックス抗菌材料、抗菌部品、抗菌部品の製造方法およびセラミックス複合材料 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】セラミックス抗菌材料、抗菌部品、抗菌部品の製造方法およびセラミックス複合材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/596 20060101AFI20220221BHJP
   A61L 2/02 20060101ALI20220221BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C04B35/596
A61L2/02
C04B35/5835
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018144790
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020019677
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 金沢工業大学発行の「平成29年度PDIII公開発表審査会予稿集」、平成30年2月15日(発行日)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591034280
【氏名又は名称】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】新谷 一博
(72)【発明者】
【氏名】宗田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 俊一
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-356374(JP,A)
【文献】特開平02-255571(JP,A)
【文献】特表2015-516239(JP,A)
【文献】国際公開第2017/095352(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/066265(WO,A1)
【文献】特開2013-067618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/596
A61L 2/02
C04B 35/5835
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素および窒化硼素を含有する焼結体で構成され
表面の算術平均粗さRaが0.2~5μmの範囲であり、
前記窒化珪素を30~80質量%含有し、
前記窒化硼素を20~70質量%含有するセラミックス抗菌材料
【請求項2】
窒化珪素、窒化硼素および焼結助剤成分を含有する焼結体で構成され、
表面の算術平均粗さRaが0.2~5μmの範囲であり、
前記窒化珪素を27~80質量%含有し、
前記窒化硼素を17~70質量%含有し、
前記焼結助剤成分を3~25質量%含有するセラミックス抗菌材料。
【請求項3】
細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される部品であって、少なくとも表面の一部が請求項1または2に記載のセラミックス抗菌材料で構成されている抗菌部品。
【請求項4】
前記表面に深さが100μm以上の凹部が複数形成されていることを特徴とする請求項に記載の抗菌部品。
【請求項5】
窒化珪素の粉末および窒化硼素の粉末が混合された混合物を非酸化性雰囲気で焼結して焼結体を作製する工程と、
細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される抗菌部品の形状に前記焼結体を機械加工する工程と、
を含み、
前記焼結体の表面の算術平均粗さRaが0.2~5μmの範囲であり、
前記焼結体は、前記窒化珪素を30~80質量%含有し、前記窒化硼素を20~70質量%含有する抗菌部品の製造方法。
【請求項6】
窒化珪素の粉末、窒化硼素の粉末および焼結助剤成分が混合された混合物を非酸化性雰囲気で焼結して焼結体を作製する工程と、
細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される抗菌部品の形状に前記焼結体を機械加工する工程と、
を含み、
前記焼結体の表面の算術平均粗さRaが0.2~5μmの範囲であり、
前記焼結体は、前記窒化珪素を27~80質量%含有し、前記窒化硼素を17~70質量%含有し、前記焼結助剤成分を3~25質量%含有する抗菌部品の製造方法。
【請求項7】
前記抗菌部品の表面に深さが100μm以上の凹部を機械加工またはレーザ加工で複数形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項5または6に記載の抗菌部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載のセラミックス抗菌材料の粉末と、金属、樹脂、繊維、紙およびガラスから選択される少なくとも一種以上の材料と、が混合されたセラミックス複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セラミックス抗菌材料に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性新生物の治療を受ける患者は、健常者に比べて体力や免疫力の低下が著しいため、手術の際に手術部位に発生する感染症に罹る恐れがある。このような感染症の発症は、医療技術や医薬品の進歩により徐々に減少してきているが、コストの関係から中低所得国においては、なお発症頻度の高い感染症である。また、高所得国においても、医療関連感染症の中で上位の感染症であり、未だ重要な問題である。対策としては、抗菌薬の投与や抗菌性材料の埋没などが行われているが、抗菌薬の長期使用は耐性菌の発生が懸念されるため、その使用にも限界がある。
【0003】
そこで、近年、抗菌薬を使用せずに抗菌効果を生じさせる技術として、抗菌プレートを用いたものが考案されている(例えば特許文献1、非特許文献1、非特許文献2参照)。この技術は、プレートの表面にサメ肌の鱗を模した特定の凹凸形状を形成することで、薬剤を用いずにプレート表面の細菌に対して抗菌効果を生じさせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第17/066265号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Reddy et al、「Micropatterned Surfaces for Reducing the Risk of Catheter-Associated Urinary Tract Infection」、JOURNAL OF ENDOUROLOGY、Mary Ann Liebert, Inc.、September 2011、Volume 25、Number 9、p.1547-1552
【文献】Chung et al、「Impact of engineered surface microtopography on biofilm formation of Staphylococcus aureus」、Biointerphases、American Vacuum Society、29 June 2007、Volume 2、Number 2、p.89-94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、抗菌性に優れた新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のセラミックス抗菌材料は、窒化珪素および窒化硼素を含有する焼結体で構成されている。
【0008】
この態様によると、抗菌性に優れた抗菌部品の材料に使用できる。
【0009】
上記のセラミックス抗菌材料は、窒化珪素を30~80質量%含有し、窒化硼素を20~70質量%含有してもよい。
【0010】
上記のセラミックス抗菌材料は、焼結助剤成分を更に備えてもよい。また、上記のセラミックス抗菌材料は、窒化珪素を27~80質量%含有し、窒化硼素を17~70質量%含有し、焼結助剤成分を3~25質量%含有してもよい。これにより、焼結体の強度が増し、抗菌材料としての応用範囲が広がる。
【0011】
上記のセラミックス抗菌材料は、表面の算術平均粗さRaが0.2~5μmの範囲であるとよい。より好ましくは、Raが0.3~5μmの範囲であるとよい。このような表面の微小な凹凸により抗菌性能を向上できる。
【0012】
本発明の他の態様は抗菌部品である。この抗菌部品は、細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される部品であって、少なくとも表面の一部が上記のセラミックス抗菌材料で構成されている。これにより、表面以外の部分をセラミックス抗菌材料以外の比較的安価な材料で構成できるので、抗菌部品のコストを低減できる。
【0013】
上記のセラミックス抗菌部品は、表面に深さが100μm以上の凹部が複数形成されていてもよい。これにより、抗菌効果を高めることができる。
【0014】
本発明の更に別の態様は、抗菌部品の製造方法である。この方法は、窒化珪素の粉末および窒化硼素の粉末が混合された混合物を非酸化性雰囲気で焼結して焼結体を作製する工程と、細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される抗菌部品の形状に焼結体を機械加工する工程と、を含む。
【0015】
この態様によると、抗菌効果の高い材料で抗菌部品を効率良く製造できる。
【0016】
上記の抗菌部品の製造方法は、抗菌部品の表面に深さが100μm以上の凹部を機械加工またはレーザ加工で複数形成してもよい。これにより、抗菌効果の高い抗菌部品を製造できる。
【0017】
本発明の更に別の態様は、セラミックス複合材料である。この複合材料は、セラミックス抗菌材料の粉末と、金属、樹脂、繊維、紙およびガラスから選択される少なくとも一種以上の材料と、が混合されている。
【0018】
この態様によると、抗菌性能を発揮しつつ複合材料自体の物性、例えば、比重や強度を調整できる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、抗菌性に優れた部品を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)~図1(e)は、抗菌試験の方法を説明するための模式図である。
図2図2(a)~図2(e)は、各試験片の表面写真を示す図である。
図3図3(a)~図3(d)は、ホトベールII-k70の表面の拡大写真(50倍~3000倍)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0023】
(焼結体の製造方法)
本発明者らは、抗菌材料に適したセラミックスを見出すために鋭意検討した結果、窒化珪素(Si)と窒化硼素(BN)を含有する焼結体が抗菌材料に適していることを見出した。はじめに、セラミックス抗菌材料に適した焼結体の製造方法について説明する。
【0024】
まず、窒化珪素27~80質量%と窒化硼素17~70質量%とからなる主原料粉末を、焼結助剤成分3~25質量%と混合して原料粉末を調製する。この混合は、例えば、湿式ボールミル等により行うことができる。なお、焼結助剤成分の質量によっては、窒化珪素30~80質量%と窒化硼素20~70質量%とを混合した主原料粉末を用いてもよい。
【0025】
窒化硼素は、被削性に優れるものの強度特性が悪い。したがって、焼結体中に粗大な窒化硼素が存在すると、それが破壊起点となって、加工時のカケ、割れ発生要因となる。このような粗大な窒化硼素粒子を形成しないためには、原料粉末を微粉にすることが有効である。主原料粉末、特に窒化硼素の原料粉末は平均粒径1μm未満のものを使用することが望ましい。窒化硼素は、六方晶系(h-BN)低圧相のものや立方晶系(c-BN)高圧相のものなどが存在するが、快削性の観点では六方晶系の窒化硼素が好ましい。また、加工性の観点では、窒化硼素が多いほど、また、窒化珪素が少ないほど好ましい。また、機械的強度やヤング率は、窒化硼素が少ないほど、また、窒化珪素が多いほど高くなる。
【0026】
焼結助剤は、窒化珪素や窒化硼素の焼結に使用されているものから選択することができる。好ましい焼結助剤は酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化イットリウム(イットリア)、およびランタノイド金属の酸化物から得られた1種若しくは2種以上である。より好ましくはアルミナとイットリアの混合物、若しくはこれに更にマグネシアを添加した混合物、若しくはイットリアとマグネシアの混合物等である。焼結助剤成分の配合量は、全原料粉末の1~25質量%、特に3~25質量%の範囲とすることが望ましい。
【0027】
焼結助剤成分の配合量が1質量%以上、好ましくは3質量%以上であれば、緻密化しやすくなり、焼結体の密度不足や機械的特性の低下を抑制できる。一方、焼結助剤成分の配合量が25質量%以下であれば、強度の低い粒界相が低減されることで、機械的強度の低下や粒界相の増加による加工性の低下が抑制できる。
【0028】
次に、原料粉末を高温加圧下で焼結させ、焼結体とする。この焼結は、例えば、ホットプレスより行うことができる。なお、アルゴン雰囲気で行ってもよい。ホットプレスは、非酸化性雰囲気である例えば窒素雰囲気中で行うが、加圧窒素中で行ってもよい。ホットプレス温度は1700~1950℃の範囲内がよい。温度が低すぎると焼結が不十分となり、高すぎると主原料の熱分解が起こるようになる。加圧力は20~50MPaの範囲内が適当である。ホットプレスの持続時間は温度や寸法にもよるが、通常は1~4時間程度である。高温加圧焼結は、HIP(ホットアイソスタティクプレス)により行うこともできる。この場合の焼結条件も、当業者であれば適宜設定できる。
【0029】
得られた焼結体は、焼結助剤の種類や量を適切に選択すれば、25℃~600℃での熱膨張係数が3×10-6/℃以下となる。この焼結体は被削性に優れ、かつ高強度であるため、精度の高い加工が可能であり、複雑な形状の加工部品の素材として好適である。そして、この焼結体を適当な研削砥石またはドリルを用いて加工することで、所定形状のセラミックス加工部品を製造できる。また、セラミックス加工部品に、研削砥石またはドリルを用いて更にスリット加工若しくは穴あけ加工を施すことで、部品表面に凹凸パターン(スリットや溝、穴等の複数の凹部)を形成することもできる。
【0030】
凹部は、例えば、開口の一辺が10~100μmの四角形であり、深さが100μm以上である。また、複数の凹部がマトリックス状に形成されている。隣接する凹部同士の間隔は、例えば、10~50μm程度である。また、溝やスリットの幅は、例えば50~2000μm程度である。
【0031】
こうして製造されたセラミックス加工部品の用途は特に制限されないが、例えば、生体に留置する部品、手術器具、衛生機器部品といった細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される部品として有用である。
【0032】
[実施例]
平均粒径0.5μmの六方晶窒化硼素(h-BN)粉末と、平均粒径0.2μmの窒化珪素粉末を混合した。この混合粉末(主原料粉末)に対して、焼結助剤として、イットリアとマグネシアを加え、エチルアルコールを溶媒としてボールミル混合を行った。得られたスラリーを乾燥させて原料粉末を得た。
【0033】
この原料粉末を黒鉛製のダイスに充填し、窒素雰囲気中で30MPaの圧力を加えながら1800℃で1時間ホットプレス焼結を行い、セラミックス焼結体を得た。そして、得られたセラミックス焼結体が抗菌材料に適しているか確認するために、以下の2つの実験を行った。
【0034】
(抗菌試験)
(1)試験方法
JIS Z 2801「抗菌性加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠
(2)内容
図1(a)~図1(e)は、抗菌試験の方法を説明するための模式図である。はじめに、抗菌性の評価の対象であるプレート状の試験片10をシャーレ12に載置する。そして、黄色ブドウ球菌または大腸菌(試験菌数0.4mL)を培養液13とともにシャーレ12に滴下する(図1(a))。培養液の量は、試験片10の表面が浸漬する程度に調整する。その状態で、シャーレ12をインキュベータ14に入れ、35℃で24時間培養する(図1(b))。
【0035】
その後、シャーレ12から培養液15のみを取り出し(図1(c))、別のシャーレ16に移し替え、再度インキュベータ14に入れて35℃、24時間培養する(図1(d))。そして、インキュベータ14から取り出したシャーレ16における菌数を計測する(図1(e))。
【0036】
(3)試験片
図2(a)~図2(e)は、各試験片の表面写真を示す図である。試験片は、以下の5つである。
図2(a)hBN含有窒化珪素系セラミックス(Si-hBN:「ホトベールII-k70」株式会社フェローテックセラミックス製)、平坦面、表面粗さRa=0.35μm
図2(b)hBN含有窒化珪素系セラミックス(同上)、パターニング面(格子の幅21±1μm、四角穴の一辺50±2μm、深さ160±10μm)、表面粗さRa=0.46μm
図2(c)窒化珪素系セラミックス(Si:「HPSN606」株式会社フェローテックセラミックス製)、平坦面、表面粗さRa=0.19μm
図2(d)窒化珪素系セラミックス(同上)、パターニング面(格子の幅21±1μm、四角穴の一辺50±2μm、深さ160±10μm)表面粗さRa=0.19μm
図2(e)チタン合金(Ti-6Al-V)、平坦面、表面粗さRa=0.04μm
【0037】
図3(a)~図3(d)は、ホトベールII-k70の表面の拡大写真を示す図である。図3(c)や図3(d)に示すように、ホトベールII-k70の表面は非常に微小な凹凸が形成されている。なお、ホトベールII-k70の組成は、窒化硼素が38.5質量%、窒化珪素が54.1質量%、イットリアが5.5質量%、マグネシア1.9質量%である。
【0038】
(4)評価結果
表1は、黄色ブドウ球菌または大腸菌に対する各試験片の抗菌性を示したものである。
【表1】
【0039】
表1に示すように、試験菌が黄色ブドウ球菌の場合、実施例1、2に係る試験片(材質Si-hBN)は、表面形態が平坦かパターン面かに拘わらず、培養後のシャーレ16においては菌数が0個であった。また、参考例1、2に係る試験片(材質Si)も、表面形態が平坦かパターン面かに拘わらず、培養後のシャーレ16においては菌数が0個であった。一方、表面形態が平坦面である比較例に係る試験片(材質チタン合金)は、培養後のシャーレ16においては菌数が1740個であった。したがって、ブドウ球菌に対しては、hBN含有窒化珪素系セラミックスおよび窒化珪素系セラミックスが、試験片の表面形態に拘わらず抗菌性を示した。
【0040】
また、表1に示すように、試験菌が大腸菌の場合、実施例1、2に係る試験片(材質Si-hBN)は、表面形態が平坦かパターン面かに拘わらず、培養後のシャーレ16においては菌数が0個であった。また、表面形態がパターン面である参考例2に係る試験片(材質Si)も、培養後のシャーレ16においては菌数が0個であった。一方、表面形態が平坦面である参考例1に係る試験片(材質Si)は、培養後のシャーレ16においては菌数が113個であった。また、表面形態が平坦面である比較例に係る試験片(材質チタン合金)は、培養後のシャーレ16においては菌数が40個であった。したがって、大腸菌に対しては、hBN含有窒化珪素系セラミックスが、試験片の表面形態に拘わらず抗菌性を示した。また、大腸菌に対しては、表面形態がパターン面である窒化珪素系セラミックスが、抗菌性を示した。
【0041】
加えて、本願発明者らは、表面形態の一つであるパターンの相違以外に、セラミックス抗菌材料の表面の算術平均粗さRaも抗菌性に影響があることに想到した。本実施の形態に係るセラミックス抗菌材料は、窒化珪素(Si)および窒化硼素(h-BN)を含有する組織を有しており、窒化硼素の特徴である劈開性により、加工面(切断や研削)には窒化ホウ素の脱落による、算術平均粗さRaが0.2~5μm程度の微小な凹凸面が形成される(図3(a)~図3(d)参照)。このような微小な凹凸面が菌に対して作用することで、抗菌性能が向上すると考えられる。
【0042】
このように、上述の抗菌試験の結果から、ホトベールII-k70を一例とした窒化珪素および窒化硼素を含有する焼結体で構成されているセラミックス抗菌材料は、抗菌性に優れた抗菌部品の材料に使用できる。
【0043】
また、窒化物系セラミックス抗菌材料は、ホトベールII-k70のように焼結助剤成分を更に備えてもよい。これにより、焼結体の強度が増し、抗菌材料としての応用範囲が広がる。
【0044】
(抗菌部品)
本実施の形態に係る抗菌部品は、細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される部品である。抗菌部品としては、例えば、生体内に留置する部品(人工骨)や手術器具、衛生機器(風呂、トイレ、洗面所等で利用される機器)等が挙げられる。これらの抗菌部品は、少なくとも表面の一部が上記のセラミックス抗菌材料で構成されている。これにより、表面以外の部分をセラミックス抗菌材料以外の比較的安価な材料で構成できるので、抗菌部品のコストを低減できる。
【0045】
抗菌部品は、表面に深さが100μm以上の凹部が複数形成されているとよい。これにより、抗菌効果を高めることができる。
【0046】
また、生体内に留置する部品としてセラミックス抗菌材料を用いることで、金属材料を用いた場合と比較して、CT撮影でのアーチファクトやMRI撮影での発熱がなく、人体に埋設しても術後の患部検査が可能となる。また、術後の感染症の抑制にも効果的である。
【0047】
また、窒化珪素と窒化硼素とを含有するセラミックス焼結体は、高強度で高マシナブル性(快削性)を有するので、複雑な微細加工が可能となり、人体の一部を置換するときの形状適合性がよい。また、人体への埋設時に、個々の体格や適用場所に応じて形状をその場で調整することも可能となる。
【0048】
(セラミックス生体材料の製造方法)
上述のように、本実施の形態に係る抗菌部品の製造方法は、窒化珪素の粉末と、窒化硼素の粉末と、焼結助剤成分を含む粉末とが混合された混合物を非酸化性雰囲気で焼結して焼結体を作製する工程と、細菌の繁殖を抑制する必要のある状況で使用される抗菌部品の形状に焼結体を機械加工する工程と、を含む。窒化珪素と窒化硼素とを含有するセラミックス焼結体は、高強度で高マシナブル性(快削性)を有するので、複雑な微細加工が可能である。そのため、抗菌効果の高い材料で抗菌部品を効率良く、また、高精度で製造できる。
【0049】
抗菌部品の製造方法は、抗菌部品の表面に深さが100μm以上の凹部を機械加工またはレーザ加工で複数形成する工程を更に含んでもよい。これにより、抗菌効果の高い抗菌部品を製造できる。
【0050】
(セラミックス複合材料)
本実施の形態の別の態様は、セラミックス複合材料である。この複合材料は、セラミックス抗菌材料の粉末と、金属、樹脂、繊維、紙およびガラスから選択される少なくとも一種以上の材料と、が混合されている。これにより、抗菌性能を発揮しつつ複合材料自体の物性、例えば、比重や強度を調整できる。
【0051】
以上、本発明を上述の実施の形態や実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0052】
10 試験片、 12 シャーレ、 13 培養液、 14 インキュベータ、 15 培養液、 16 シャーレ。
図1
図2
図3