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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】給油方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/02 20060101AFI20220221BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20220221BHJP
【FI】
B63B21/02
B63B35/00 Z
B63B35/00 W
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021156550
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2021-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502055377
【氏名又は名称】商船三井テクノトレード株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501251770
【氏名又は名称】本瓦造船 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】西山 大介
(72)【発明者】
【氏名】本瓦 誠
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-105503(JP,A)
【文献】特開2003-212182(JP,A)
【文献】特開2004-352016(JP,A)
【文献】特開2019-162922(JP,A)
【文献】特開昭52-109286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/02
B63B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列停泊した相手船舶に油脂類の給油を行う給油船を用いた給油方法において、
前記給油船は、上甲板上の左右舷の夫々2箇所に、給油ホース接続栓を挟んでマグネット式吸着装置が装備されており、
各前記マグネット式吸着装置は、舷外に向けて水平の進退方向に進退するアーム部材と、前記上甲板の上に固設され前記アーム部材を前記進退方向に案内する支持ケースと、揺動ジョイントを介して前記アーム部材の先端に揺動可能に取り付けられた電磁石ユニットとを具備しており、
上甲板上の甲板員が操作する制御盤であって、前記アーム部材の進退と前記電磁石ユニットの励磁/消磁を行う制御盤が設けられており、
並列停泊した相手船舶に油脂類の給油を行う際に、舷外に向けて突出させた前記アーム部材の先端の前記電磁石ユニットを励磁して前記相手船舶を吸着したときの状態において、前記給油船の喫水から前記アーム部材の中心線までの距離よりも、前記電磁石ユニットの舷外側の面が船側外板から突出する距離のほうが短くなり、かつ
船首と船尾にヘッドラインとスターンラインを巻き上げるウインチを夫々に具備した給油船であって
当該給油船を用いた相手船舶への給油方法は、
前記ヘッドラインとスターンラインとを巻き上げて前記相手船舶に接舷した後に、舷外に向けて伸ばした前記アーム部材の先端の前記電磁石ユニットを励磁して前記相手船舶に吸着し、
給油作業中に前記制御盤により前記電磁石ユニットの励磁と消磁を繰り返して、前記給油船の復元力により前記相手船舶への吸着位置をずらすことを特徴とする給油方法。
【請求項2】
請求項1の給油方法において、
第一の時間と前記第一の時間よりも短い第二の時間がタイマーに設定され、前記給油作業中に前記第一の時間と第二の時間の間、励磁と消磁がそれぞれ行われることを特徴とする給油方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上に停泊している船舶に接舷して給油を行う給油船を用いた給油方法に関する。
【背景技術】
【0002】
給油船は、錨泊中や係留中の洋上にある船舶に燃料油、潤滑油、作動油等の油脂類を供給する。相手船に横付けで接舷し、給油ホースを繋いで給油船のポンプにより相手船に油脂類を給油する。また船舶から不要になった油脂類を引き取ることもある。
【0003】
図4に接舷する様子を示した。給油船1が相手船舶Tに接舷する際には、推進器と舵及びバウスラスターを使用して相手船舶Tの横方向から平行に接近し(図4A)、十数メートルまで接近したら相手船舶に船首及び船尾から係船索(ヘッドラインHL、スターンラインSL)を投擲し、ヘッドラインHL、スターンラインSLを相手船舶のボラード(係船柱)に掛け、給油船側のウインチにより巻き上げることにより船体を引き付け、最終的に接舷させる(図4B)。
【0004】
接舷後は、さらに2~4本の係船索(フォワードスプリングラインFSP、アフトスプリングラインASP、フォワードブレストラインFBL(必要あれば)、アフトブレストラインABL(必要あれば))を加えて船体を繋いでおく(図4C)。給油ホースを相手船舶に渡して給油作業終了までの間、給油作業により本船と相手船の喫水が変化するので係船索が張りすぎたり緩みすぎたりしないよう係船索の長さを調整する。ヘッドラインHLは船首部から前方にとる係船索であり、スターンラインSLは船尾部から後方にとる係船索である。また、フォワードスプリングラインFSPは船首部から後方斜めにとる係船索であり、アフトスプリングラインASPは船尾部から前方にとる係船索である。給油船では、ヘッドラインHL、スターンラインSLは相手船舶に対する給油船の前後の位置関係の変化を抑制するものとし、相手船舶と給油船との間隔を保つためには、専らフォワードスプリングラインFSP、アフトスプリングラインASPの長さ調整で対応する作業が行われる。
【0005】
一方、桟橋や船舶同士をつなぐために磁力を用いる技術が、従来から知られている。例えば、特許文献1によれば、曳綱の先に固定された電磁石を相手船舶に吸着させて、曳航するタグボートが開示されている。相手船舶における結索作業が不要で、かつ相手船舶の決まった高さ位置の船舶殻体に電磁石を吸着させる事で、曳綱の迎角を一定とすることができるという効果を有している。
【0006】
また、特許文献2によれば、船体の左右外側壁部に船体から突出位置に位置変位可能に磁気発生装置を設け、岸壁、桟橋、浮き船若しくは、他の船舶に接舷して並列停泊可能にする技術が示されている。
【0007】
更に、特許文献3によれば、岸壁や桟橋に繋船作業を省力化するために、桟橋の側壁に伸縮可能な電磁石を設け、電磁石の昇降を自由とすることで、喫水の変化を妨げることなく荷役作業等の際の係船の維持をする技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭53-3877号公報
【文献】実公昭61-36475号公報
【文献】特開昭59-217819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
内航で活躍する給油船は、主に499型以下の船であり、同型船若しくは大きな相手船舶に対して給油を行う。船舶同士が接舷した状態での給油作業は、自船(給油船)と相手船舶の喫水が短時間で大きく変更するため非常に高度かつ緊張感を伴う作業である。
【0010】
給油船は油脂類を満載した状態で相手船舶に接近し、接舷するが、相手船舶は通常空の状態である。従って、接舷当初は、給油船の上甲板と相手船舶の上甲板との高低差が極めて大きい。給油船を相手船舶に横付けで接舷したとき、水平に対するこれらの係船索の迎角が大きく、両者の水平距離よりも係船索がかなり長い状態である。給油ポンプを稼働し相手船舶への給油を開始すると、分単位で給油船の上甲板と相手船舶と上甲板との高低差が縮まる。フォワードスプリングラインFSP、アフトスプリングラインASPが弛み船舶の間隔が開くと給油ホースが暴れて甲板員の転倒や海中への転落等といった大きな危険につながるため、これら係船索が張りすぎたり緩みすぎたりしないよう目視で監視し、都度それぞれの長さを調整する。
【0011】
この係船索の弛みの目視や、係船索の長さ調整のための手動での作業は、給油作業中に頻繁に行わなければならず、甲板員の負担が大きい。海上の状態、相手船舶の大きさ、給油量などの条件は一定ではなく、甲板員の練度を要求される。相手船舶から不要になった油脂類を引き取るときも同様である。
【0012】
特許文献1-3の技術は、給油船についての技術ではなく、分単位で刻一刻と変化する相手船舶との上甲板の高低差についての考慮はない。特許文献1の技術によれば、電磁石は曳綱の先に固定されており、タグボートと相手船舶と曳綱で繋がれる。この状態で、ダグボートは相手船舶を曳航するのであり、並列停泊を可能とするものではない。
【0013】
特許文献2の技術は接舷自体を磁気発生装置の磁力のみにより行うものであり、接舷した後での上甲板の高低差についての考慮はない。また、磁気発生装置が設けられている場所は、船体の左右外側壁部である。桟橋や他の船舶等との乗降をするためには、上甲板よりも下側の左右外側壁部に設けることが必然である。
【0014】
特許文献3の技術も接舷自体を桟橋に設けられた電磁石の磁力により行うものである。喫水の変動は電磁石が自由に昇降して調整している。また、電磁石が設けられている場所は桟橋の側面である。桟橋や他の船舶等との乗降をするためには、上甲板よりも下側の左右外側壁部に設けることが必然である。
【0015】
本発明の目的は、安全かつ容易に相手船舶との接舷状態を維持可能とした給油方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、並列停泊した相手船舶に油脂類の給油を行う給油船を用いた給油方法において、
前記給油船は、上甲板上の左右舷の夫々2箇所に、給油ホース接続栓を挟んでマグネット式吸着装置が装備されており、
各前記マグネット式吸着装置は、舷外に向けて水平の進退方向に進退するアーム部材と、前記上甲板の上に固設され前記アーム部材を前記進退方向に案内する支持ケースと、揺動ジョイントを介して前記アーム部材の先端に揺動可能に取り付けられた電磁石ユニットとを具備しており、
上甲板上の甲板員が操作する制御盤であって、前記アーム部材の進退と前記電磁石ユニットの励磁/消磁を行う制御盤が設けられており、
並列停泊した相手船舶に油脂類の給油を行う際に、舷外に向けて突出させた前記アーム部材の先端の前記電磁石ユニットを励磁して前記相手船舶を吸着したときの状態において、前記給油船の喫水から前記アーム部材の中心線までの距離よりも、前記電磁石ユニットの舷外側の面が船側外板から突出する距離のほうが短くなり、かつ
船首と船尾にヘッドラインとスターンラインを巻き上げるウインチを夫々に具備した給油船であって
当該給油船を用いた相手船舶への給油方法は、
前記ヘッドラインとスターンラインとを巻き上げて前記相手船舶に接舷した後に、舷外に向けて伸ばした前記アーム部材の先端の前記電磁石ユニットを励磁して前記相手船舶に吸着し、
給油作業中に前記制御盤により前記電磁石ユニットの励磁と消磁を繰り返して、前記給油船の復元力により前記相手船舶への吸着位置をずらすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る給油方法では、給油船の上甲板と相手船舶の上甲板の高低差が大きく、係船索が両者の水平距離よりも長く伸ばされるような状態でも、磁気発生装置により、給油船と相手船舶との間の水平距離を規制することができる。また、給油作業により給油船の上甲板と相手船舶の上甲板の高低差が短期間に変化しても、これに追従して給油船と相手船舶との間の水平距離を規制することができる。そして、上甲板上に磁気発生装置を取り付けているので、給油船が揺れたとしても、上甲板上の構造物が相手船舶に衝突する恐れを低減できる。また、給油作業により給油船の上甲板と相手船舶の上甲板の高低差が短期間に変化しても、これに追従して給油船と相手船舶との間の水平距離を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】給油船を示す図である。
図2】磁気発生装置の断面を示す図である。
図3】作用を示す図である。
図4図4に接舷する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる給油船を説明する。
実施例として499型の給油船1を例として示した。図1Aの給油船の側面図において、給油船1は同型の給油船とほぼ同様な設備を備えている。その代表的なものとしては、船首部に設けられたバウスラスター2、船首と船尾の上甲板15上に設けられたウインチ3、船体の左右外側壁部に多数設けられた防舷材4(フェンダー、ペンドル)、船体中央に設けられた給油ホース接続栓5などの設備である。相手船舶への油脂類の供給は、給油ホース接続栓5に給油ホースを接続し、相手船舶のタンクに当該給油ホースを繋げて行う。
【0020】
本実施例の給油船は、さらに給油ホース接続栓5を前後に挟むように、上甲板15上の片舷船首側、船尾側に2箇所、両舷に合計4箇所にマグネット式吸着装置7を装備している。相手船舶への接舷時はいずれか片舷に装備した2箇所のマグネット式吸着装置7を使用する。また、上甲板15上にマグネット式吸着装置7を制御する制御盤6が設けられている。上甲板15上の甲板員は、制御盤6を操作して、マグネット式吸着装置7の励磁/消磁をコントロールできるようになっている。マグネット式吸着装置7の伸長/短縮は、マグネット式吸着装置7の個々の位置に設けられた操作レバー(図示せず)にて行う。
【0021】
図1BはX-X断面である。図1Bにおいて、給油船1の船殻10は、船側外板11、船底外板12を外殻とし、船側縦通隔壁13、二重底板14を内殻としたダブルハル構造と、上甲板15によるシングルハル構造になっている。外殻と内殻の間がバラスト水タンク16であり、内殻の内側が油脂類を貯蔵する貨物タンク17である。中央縦通隔壁18は、貨物タンクを左右に2分割する。貨物タンク17を覆う天井板19は、船殻10を水密状に塞ぐ上甲板15の一部である。8は、ボラードである。
【0022】
マグネット式吸着装置7は、本実施例ではバラスト水タンクと貨物タンクを覆う上甲板15、天井板19に跨がって、それらの上に固定されている。マグネット式吸着装置7は、制御盤6のマグネット式吸着装置7の伸長操作により、アーム部材20を水平に舷外に突出させる(進退方向S、図2)。アーム部材20の先には、電磁石ユニット21が取り付けられている。尚、図1Bにおいて、左側のマグネット式吸着装置7は船側外板11よりも内側に短縮された状態を示し、右側のマグネット式吸着装置7は船側外板11よりも外側舷外に伸長された状態を示している。制御盤6のマグネット式吸着装置7の短縮操作により、アーム部材20を元の長さに戻す。
【0023】
喫水線WLから、アーム部材の中心線Cまでの長さを距離L1とすると、電磁石ユニット21が舷外へ突出する距離L2は、距離L1よりも短い長さを限度としている(正確には、電磁石ユニット21の舷外側の面)。一方で、距離L2は、船側外板11から舷外側に突出する長さであれば良いが、舷外に設けられた防舷材4の厚さL3と同じ若しくは長いものとするのが望ましい。距離L2は距離L1よりも短いものとした理由は、距離が離れる程、アーム部材20の強度が要求されるからで有り、また、給油船1の船殻10から電磁石ユニット21が離れることにより、波のうねりによって給油船1と吸着した相手船舶との間の変動が大きくなるからである。また、防舷材4の厚さL3と同じ若しくは長いものとしたのは、防舷材4の弾発により、電磁石ユニット21の吸着力が相殺されることを避けるためである。
【0024】
図2は、例として船首側に装備された1つのマグネット式吸着装置7の断面図を示している。他の3つのマグネット式吸着装置7も同様な構成であるので説明を省略する。まず、図2A、Bについて説明する。図2Aは側断面、図2Bは一部の平面断面図である。マグネット式吸着装置7は、支柱22を介して上甲板15に固設された支持ケース23を具備している。支持ケース23は、舷外に向けてアーム部材20を水平の進退方向Sに案内する軸受けである。支持ケース23およびアーム部材20は、相手船舶に吸着後に動揺による負荷がかかっても容易に破損しない強固な構造とする。アーム部材20の先端の電磁石ユニット21は、球面軸受け若しくはユニバーサルジョイントで構成される揺動ジョイント24を介してアーム部材20に揺動可能に設けられている。アーム部材20は、円筒状であり、油圧シリンダー25が内蔵されている。油圧シリンダー25から進退する摺動ロッド26がアーム部材20に連結されており、給油船1の動揺による負荷がアーム部材20と摺動ロッド26に分散するようにしている。
【0025】
油圧シリンダー25の後端は、バックプレート27により支持されている。バックプレート27は連結筒28を介して支持ケース23の後端に固定されている。電磁石ユニット21は、取付台29とマグネット吸着板30とを具備している。取付台29は、摺動ロッド26に揺動ジョイント24を介して連結している。マグネット吸着板30は、相手船舶に当接する面にゴムシートなどの弾性体31が被着された電磁石である。制御盤6の励磁操作により、給油船1の発電機により電気が供給され(発電機、電力配線は図示していない)、電磁石ユニット21を励磁させる。磁力は風や波浪等の自然外力でも外れない強さとするが、本実施例の499型給油船においては、各マグネット吸着板30の磁気吸着力は3トンとした。制御盤6の消磁操作により、電磁石ユニット21は消磁する。
【0026】
マグネット吸着板30は、取付台29にボルト/ナット32により固定されており、取付台29とともに揺動ジョイント24により揺動する。揺動ジョイント24は、球面軸受け若しくはユニバーサルジョイントである(図2A、Bには、球面軸受け24aを示した)。揺動する範囲は、上下左右に一定角度(20度程度)に制限されている。揺動ジョイント24により揺動するようにしているのは、相手船舶の船側の湾曲に沿ってマグネット吸着板30の全面にわたって吸着できるようにするためであり、給油が進み喫水の高さが変化しても吸着できるようにするためである。また、波のうねりによる給油船1の挙動にも対応するためでもある。相手船舶の船体が長く場合には左右の湾曲を考慮しなくても良く、揺動ジョイント24は水平面内で進退方向Sに対して直交する軸周りに揺動する軸受けでも差し支えない。図2Cは、揺動ジョイント24として軸周りに揺動する軸受け24bの側断面を示している。
【0027】
次に、マグネット式吸着装置7を使用した接舷及び給油の作業手順について説明する。図4Aの相手船舶Tに接舷、図4BのヘッドラインHL、スターンラインSLによる接舷までは、従来と同じである。
【0028】
本実施例においては、接舷した相手船舶Tに対してフォワードスプリングラインFSP、アフトスプリングラインASP、フォワードブレストラインFBL、アフトブレストラインABLを掛け渡すのではなく、図4Dに示したようにマグネット式吸着装置7を用いる。
【0029】
図1において、まず、上甲板15に設置された制御盤6により、油圧シリンダー25を伸長させる。油圧シリンダー25は油圧ポンプ装置(図示せず)からの油圧を受けて、アーム部材20を船側外板11から舷外(進退方向S、図2)に伸長する。マグネット吸着板30が防舷材4と同じ若しくは突出した状態になる。制御盤6により、給油船1の発電機(図示せず)により発電した電気により、接舷した片舷の船首側、船尾側のマグネット吸着板30に供給して磁力を発生させる。ヘッドラインHL、スターンラインSLによって接舷している相手船舶に対して、マグネット吸着板30の磁力により吸着する。
【0030】
給油作業中は、給油船1と相手船舶Tの喫水が変化する。給油作業がすすむと揺動ジョイント24を中心にアーム部材20が電磁石ユニット21に対して傾いてくる。相手船舶Tの方が大きいので給油船1の方が左右に傾斜してきたからである。上甲板15上の甲板員はこれを目視により確認して制御盤6を操作し、船首側、船尾側の電磁石ユニット21の電源を一旦オフして消磁する。マグネット式吸着装置7の磁力が失われると、給油船1自体の復元力により姿勢が復帰して吸着位置をずれる。上甲板5上の甲板員は再度、制御盤6により船首側、船尾側の電磁石ユニット21の電源をオンして励磁する。本実施例によれば、給油船1自体の復元力を利用しているので、マグネット式吸着装置7側に喫水変化に対応して昇降する機構を持たせることが必要ない。このような昇降機構を用いると、マグネット式吸着装置7の大型化を避けられず499型以下の給油船には搭載できない。マグネット式吸着装置7の磁力が失われている時間を数秒とすることにより、給油船1と相手船舶Tが再吸着不可能な程に離れてしまうことはない。なお、給油作業中は、アーム部材20は伸長したままであり、給油船1と相手船舶Tとの間の水平距離は一定である。
【0031】
以降、上甲板15上の甲板員は、アーム部材20とマグネット式吸着装置7との傾く様子により電磁石ユニット21の電源のオンオフを繰り返す。給油が完了したら、マグネット吸着板30への磁力の供給を止めて、ヘッドラインHL、スターンラインSLを外し、離舷する。本実施例によれば、給油作業により給油船1の上甲板15と相手船舶Tの上甲板T1の高低差が短期間に変化しても、これに追従して給油船1と相手船舶Tとの間の水平距離を規制することができる。
【0032】
次に、図3によりマグネット式吸着装置7の機構上の作用を説明する。図3Aは接舷した当初の給油船1と相手船舶Tの関係を示し、図3B図3Cは波のうねりがある場合を示し、図3Cは給油が完了した時点の給油船1と相手船舶Tの関係を示している。
【0033】
図3Aにおいて、接舷当初の給油船1の上甲板15と相手船舶Tの上甲板T1の高さは大きく異なっている。このため、係船索の迎角が大きくヘッドラインHL、スターンラインSL(スターンラインSLは図示せず)の長さは給油船1と相手船舶Tとの水平距離よりも長い状態である。一方で、マグネット式吸着装置7のアーム部材20の伸長長さにより、両船の間の水平距離は規制されている。尚、T2は相手船舶Tのボラードである。給油ホースは、この状態で安全に接続される。この状態で、波にうねりがあると、図3B図3Cに示すように給油船1は揺れるが、給油船1と相手船舶Tとが近接した状態が維持される。給油船1が揺れたとしても、揺動ジョイント24(図2)を介して揺れるだけで、近接した状態は維持される。
【0034】
また、給油船1の上甲板15と相手船舶Tの上甲板T1の高さ位置が大きく違うため、給油船1の上甲板15上の構造物が、給油船1が動揺により相手船舶Tの船側面に接触する可能性がある。特許文献2のようにマグネット式吸着装置7を船体側面の高さ範囲内で突出させているとその危険が極めて大きい。しかしながら、給油船1では、マグネット式吸着装置7が上甲板15上に設けられているため、動揺により相手船舶Tの船側面に上甲板15上の構造物が接触する可能性が低減されている。
【0035】
図3Dにおいて、給油船1の貨物タンク17は空になるため給油船1は浮き上がり、一方相手船舶Tは逆に沈み込む。その結果、給油船1の上甲板15と相手船舶Tの上甲板T1は近づく。
【0036】
本実施例の給油船1によれば、マグネット吸着板30が相手船舶Tに吸着して接舷しているので、給油作業による喫水の変化があっても相手船舶Tとの間隔を一定に保つことができ、波浪等による給油船1の動揺が小さくなり、甲板員の上甲板15上作業時の転倒や海中転落事故等の危険性が大幅に減少するという効果がある。
【0037】
本実施例においては、マグネット式吸着装置7の励磁/消磁の操作を上甲板15上の甲板員が目視して励磁/消磁を手動により制御盤6を操作したが、制御盤6にタイマーを内蔵し、例えば1分間若しくは2分間のような第一の時間だけマグネット吸着板30を励磁し、それよりも短い例えば5秒のような第二の時間だけマグネット吸着板30を消磁することを繰り返す自動運転のモードを備えておいても良い。タイマーには、第一の時間と第二の時間を甲板員が設定できるようにしておいてもよく、またデフォルトで決められた時間をいくつかのパターンで設定しておいても良い。本実施例においては、船首側、船尾側のマグネット式吸着装置7を同時にオン/オフする制御をしたが、タイミングをずらして交互にオン/オフしても良い。また、499型給油船の例を示したが、199型等や他の総トン数の船にも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0038】
1 給油船
2 バウスラスター
3 ウインチ
4 防舷材
5 給油ホース接続栓
6 制御盤
7 マグネット式吸着装置
8 ボラード
10 船殻
11 船側外板
12 船底外板
13 船側縦通隔壁
14 二重底板
15 上甲板
16 バラスト水タンク
17 貨物タンク
18 中央縦通隔壁
19 天井板
20 アーム部材
21 電磁石ユニット
22 支柱
23 支持ケース
24 揺動ジョイント
25 油圧シリンダー
26 摺動ロッド
27 バックプレート
28 連結筒
29 取付台
30 マグネット吸着板
31 弾性体

【要約】      (修正有)
【課題】船舶同士の接舷時における給油ホースの接続作業を、安全かつ容易なものとする給油船を提供すること。
【解決手段】給油船1の上甲板15上の左右舷の夫々2箇所に、給油ホース接続栓を挟んでマグネット式吸着装置7が装備されている。マグネット式吸着装置7は、舷外に向けて進退するアーム部材20と、アーム部材20を案内する支持ケース23と、アーム部材20の先端に揺動可能に取り付けられた電磁石ユニット21とを具備している。上甲板15上の制御盤6は、マグネット式吸着装置7を制御する。給油船1の喫水線WLからアーム部材20の中心線Cまでの距離L1よりも、電磁石ユニット21の舷外側の面が船側外板から突出する距離L2のほうが短い。アーム部材20が舷外に向けて突出した状態で電磁石ユニット21が励磁されると、電磁石ユニット21は相手船舶に吸着する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4