(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】MR流体ブレーキ構造
(51)【国際特許分類】
F16D 63/00 20060101AFI20220221BHJP
【FI】
F16D63/00 P
(21)【出願番号】P 2018056266
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-10-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構航空機用先進システム実用化プロジェクト次世代降着システム研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】吉地 輝朗
(72)【発明者】
【氏名】近藤 卓
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-247403(JP,A)
【文献】米国特許第07870939(US,B2)
【文献】実開昭60-099334(JP,U)
【文献】特表2006-504908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 63/00
F16D 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在な回転軸(20)が設けられた輪状の第1ステータ(30)と、
前記第1ステータ(30)に設けられた複数の第1磁界発生部(40)と、
前記回転軸(20)に共に回転可能に設けられた輪状のロータ(50,53)と、
前記ロータ(50,53)を前記回転軸(20)の軸方向(A)に沿って前記第1ステータ(30)との間に挟むように設けられた輪状の第2ステータ(70)と、
前記第2ステータ(70)に設けられた複数の第2磁界発生部(60)と、
前記ロータ(50,53)の周囲に設けられ、前記各第1磁界発生部(40)及び前記各第2磁界発生部(60)の発生させる磁界により前記ロータ(50,53)に制動力を作用させるMR流体(80)と
を備えるMR流体ブレーキ構造であって、
前記第1ステータ(30)は、周方向に複数の第1ステータ片(31)を組み合わせて構成され、
前記第1ステータ片(31)には前記各第1磁界発生部(40)が設けられ、
前記第2ステータ(70)は、周方向に複数の第2ステータ片(71)を組み合わせて構成され、
前記第2ステータ片(71)には前記各第2磁界発生部(60)が設けられ、
前記第1磁界発生部(40)と前記第2磁界発生部(60)とが、前記ロータ(50,53)を介して対向して配置されることで、
前記第1ステータ(30)の周方向及び前記第2ステータ(70)の周方向へ磁束を通すことを特徴とするMR流体ブレーキ構造。
【請求項2】
複数の前記ロータ(50,53)を有し、
前記ロータ(50,53)は磁束遮断部(52)を有することで、前記ロータ(50,53)の周方向への磁束が遮断されることを特徴とする請求項1に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項3】
前記磁束遮断部(52)を、非磁性部材に置き換えたことを特徴とする請求項2に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項4】
前記磁束遮断部(52)は、スリットであることを特徴とする請求項2に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項5】
前記磁束遮断部(52)の数量は、前記第1ステータ片(31)の数量又は前記第2ステータ片(71)の数量の2倍以上であることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項6】
前記ロータ(50,53)同士の間に挟まれるように設けられた
、非磁性材からなる輪状の中間ステータホルダ(90
)を有し、
前記中間ステータホルダ(90)は磁束通過部(91)を有することで、前記回転軸(20)の軸方向には磁束を通過させ、前記中間ステータホルダ(90)の周方向には磁束
が通ることを妨げることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項7】
前記磁束通過部(91)は、前記中間ステータホルダ(90)と機械的に一体化されていることを特徴とする請求項6に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項8】
前記磁束通過部(91)は、前記中間ステータホルダ(90)と鋳造により一体化されていることを特徴とする請求項6に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項9】
前記磁束通過部(91)は、前記中間ステータホルダ(90)とインサート成形により一体化されていることを特徴とする請求項6に記載のMR流体ブレーキ構造。
【請求項10】
前記第1磁界発生部(40)の数量は、前記第1ステータ片(31)の数量の2倍以上であり、
前記第2磁界発生部(60)の数量が、前記第2ステータ片(71)の数量の2倍以上であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のMR流体ブレーキ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMR流体ブレーキ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
磁界の変化により見かけの粘性が変化するMR(Magnetro Rheolog)流体を用いて、回転軸の回転速度を減衰させ又は停止させるMR流体ブレーキ構造が一般に知られている。
図9に示すように、特許文献1に記載された従来のMR流体ブレーキ構造1は、回転軸2と、ステータ3と、ステータ3に設けられたコイル4と、前記回転軸2と共に回転可能に設けられたロータ5とを有している。前記コイル4は磁界発生部を構成し、前記ロータ5に対向するように設けられている。そして、前記ロータ5と前記コイル4との間にMR流体8を封入し、前記コイル4が前記MR流体8の磁界を変化させることにより、前記MR流体8の見かけの粘性が変化して前記ロータ5に制動力が作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の前記MR流体ブレーキ構造1について、制動力向上には、多段化が考えられるが、先行文献1のロータと正対した位置に磁界発生部を設置した場合、ロータの径方向に磁路が形成されても、軸方向に磁路を形成するには非常に強い磁界を発せさせることが必要で、磁界発生部が大型になり、MR流体ブレーキ構造自体が大きくなることとと組立が難しくなることが課題である。また、磁界発生部をロータの内径又は外径に円筒状に設置した場合には、多段化による制動力向上が可能となるが、MR流体ブレーキ構造自体が大きくなることが課題である。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、ロータを多段化しても十分な制動力を発揮するとともに組立を容易にすることができるMR流体ブレーキ構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明のMR流体ブレーキ構造は、回転自在な回転軸が設けられた輪状の第1ステータと、第1ステータに設けられた第1磁界発生部と、回転軸に共に回転可能に設けられた円盤状のロータと、ロータを回転軸の軸方向に沿って前記第1ステータとの間に挟むように設けられた輪状の第2ステータと、第2ステータに設けられた第2磁界発生部と、ロータの周囲に設けられ、第1磁界発生部及び第2磁界発生部の発生させる磁界によりロータに制動力を作用させるMR流体とを備えるMR流体ブレーキ構造であって、第1ステータは、周方向に複数の第1ステータ片を組み合わせて構成され、第1ステータ片には各第1磁界発生部が設けられ、第2ステータは、周方向に複数の第2ステータ片を組み合わせて構成され、前記第2ステータ片には各第2磁界発生部が設けられ、第1磁界発生部と第2磁界発生部とが、ロータを介して対向して配置されることで、第1ステータの周方向及び第2ステータの周方向へ磁束を通す。
【0007】
複数のロータを有し、ロータは磁束遮断部を有することで、ロータの周方向への磁束が遮断される。
磁束遮断部を、非磁性部材で置き換えてもよい。
磁束遮断部は、スリットであってもよい。
磁束遮断部の数量は、第1ステータ片の数量又は第2ステータ片の数量の2倍以上であってもよい。
ロータ同士の間に挟まれるように設けられた、非磁性材からなる輪状の中間ステータホルダを有し、中間ステータホルダは磁束通過部を有することで、回転軸の軸方向には磁束を通過させ、中間ステータホルダの周方向には磁束が通ることを妨げてもよい。
磁束通過部は、中間ステータホルダと機械的に一体化されていてもよい。
磁束通過部は、中間ステータホルダと鋳造により一体化されていてもよい。
磁束通過部は、中間ステータホルダとインサート成形により一体化されていてもよい。
第1磁界発生部の数量は、第1ステータ片の数量の2倍以上であり、第2磁界発生部の数量が、第2ステータ片の数量の2倍以上であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るMR流体ブレーキ構造によれば、第1ステータは、周方向に複数の第1ステータ片を組み合わせて構成され、第2ステータは、周方向に複数の第2ステータ片を組み合わせて構成されているので、ロータを多段化しても十分な制動力を発揮するとともに組立が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係るロータの段数が1段で構成されたMR流体ブレーキ構造の断面図である。
【
図2】
図1に記載の第1ステータ及び第2ステータを軸方向に沿って見た概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るロータの段数が2段で構成されたMR流体ブレーキ構造の正面図である。
【
図5】
図4に示すMR流体ブレーキ構造の斜視図である。
【
図6】
図4に示すMR流体ブレーキ構造の断面図である。
【
図7】
図6に示す中間ステータホルダの概略図である。
【
図8】本発明の変形例に係る第1ロータ及び第2ロータの正面図である。
【
図9】従来のMR流体ブレーキ構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
尚、これから示す各図において、第1コイル(第1磁界発生部)のことを40,40a40bの符号で示し、第2コイル(第2磁界発生部)のことを60,60a,60bの符号で示しているが、各図においては同一部材を示している。そして、後述するように各コイルの巻回の向きが異なることを表す場合には、40a,40b及び60a,60bの符号で区別して示している。
【0011】
初めに、この実施の形態のMR流体ブレーキ構造において、ロータの段数を1段で構成した場合を説明する。
図1に、MR流体ブレーキ構造の断面概略図を示す。MR流体ブレーキ構造10は、ケース11に軸受12を介して回転自在に保持された回転軸20と、前記ケース11内に収容された輪状の第1ステータ30とを有している。前記第1ステータ30には、第1コイル40が取り付けられている。前記第1コイル40は、第1磁界発生部を構成している。
【0012】
前記第1コイル40に対向するように、前記回転軸20と共に回転可能な円盤状の第1ロータ50が前記ケース11内に収容されている。第1ロータは、輪状のロータを構成している。前記回転軸20には鍔部21が形成されており、前記第1ロータ50は前記鍔部21により前記回転軸20の軸方向における位置が固定されている。
【0013】
また、前記第1ロータ50に対向するように、第2コイル60が取り付けられた輪状の第2ステータ70が、前記ケース11内に収容されている。すなわち、前記第2ステータ70は前記第1ロータ50を、前記回転軸20の軸方向Aに沿って前記第1ステータ30との間に挟むようにして設けられている。前記第2コイル60は、第2磁界発生部を構成している。前記第1ロータ50と前記第2ステータ70との間には、非磁性の材料で形成されたスペーサ22が挿入されて間隔が確保されている。
【0014】
前記第1コイル40と前記第2コイル60との間、すなわち前記第1ロータ50の周囲には、MR流体80が満たされている。前記MR流体80は、軸方向Aに沿って前記軸受12に対して内側に取り付けられたシール13により封止されている。前記MR流体80は、強磁性体微粒子、界面活性剤及び油等の任意の成分を含む、磁性を有するコロイド溶液である。
【0015】
図2に前記回転軸20(
図1参照)の軸方向Aに沿って前記第1ロータ50の側から見た、前記第1ステータ30及び前記第1コイル40の構成と、前記第2ステータ70及び前記第2コイル60の構成を示す。前記第1ステータ30は、中心部の無い扇形に分割された第1ステータ片31を、中心部に前記回転軸20を挿通可能に輪状に4個組み合わせて構成されている。すなわち、前記各第1ステータ片31は、4分割された前記第1ステータ30の1/4ピースを構成している。
【0016】
前記各第1ステータ片31には、前記回転軸20の軸方向Aに沿って突出した第1ステータ歯32が周方向に2個ずつ形成され、前記各第1ステータ歯32には前記第1コイル40を構成する第1コイル40aと第1コイル40bとが1個ずつ巻回されている。前記第1コイル40bは、前記第1コイル40aに対して逆向きに巻回されている。
【0017】
同様に、前記第2ステータ70は、中心部の無い扇形である第2ステータ片71を、中心部に前記回転軸20を挿通可能に輪状に4個組み合わせて構成されている。すなわち、前記各第2ステータ片71は、4分割された前記第2ステータ70の1/4ピースを構成している。また、前記各第2ステータ片71には、前記各第2ステータ歯72が周方向に二個ずつ形成され、前記各第2ステータ歯には前記第2コイル60を構成する第2コイル60aと第2コイル60bとが1個ずつ巻回されている。前記第2コイル60bは、前記第2コイル60aに対して逆向きに巻回されている。すなわち、前記第2コイル60a及び前記第2コイル60bは、前記第1コイル40a及び前記第1コイル40bと同数になるように設けられている。
【0018】
図3に、前記回転軸20(
図1参照)の軸方向Aに沿って見た前記第1ロータ50を示す。前記第1ロータ50には、前記回転軸20が挿入される軸穴51と、前記軸穴51の側から径方向に向けて放射状に、8個のスリット52(磁束遮断部)が形成されており、磁束遮断部を構成している。なお、前記スリット52(磁束遮断部)の本数は、前記第1ステータ片31の数量又は前記第2ステータ片71の数量の2倍以上設けられていればよい。
【0019】
次に、この実施の形態に係る前記MR流体ブレーキ構造10の動作を説明する。
前記第1コイル40及び前記第2コイル60に電流を印加すると、前記第1コイル40及び前記第2コイル60により磁界が発生し、前記MR流体80の磁界が変化する。前記MR流体80の磁界の変化により、前記MR流体80の見かけの粘性が変化して前記第1ロータ50に制動力が作用する。この制動力により、前記回転軸20に制動力が作用する。これにより、前記回転軸2の回転速度が減衰し又は停止する。
【0020】
前記第1ステータ30は、前記各第1ステータ片31によって、周方向に分割されている。同様に、前記第2ステータ70は、前記各第2ステータ片71によって、周方向に分割されている。そのため、前記第1コイル40に鎖交する磁束は、前記第1コイル40aから前記MR流体80を通り対向する前記第2ステータ片71の前記第2コイル60bへ向かい、前記第2コイル60bと同じ前記第2ステータ片71上の前記第2コイル60aへ向かい、前記第2コイル60aから前記MR流体80を通り対向する前記第1コイル40bへ向かい、前記第1コイル40bと同じ前記第1ステータ片31上の前記第1コイル40aに戻る磁路を通る。すなわち、前記第1ステータ30の周方向及び前記第2ステータ70の周方向に磁束が通る。
【0021】
このとき、前記第1ロータ50には、前記スリット52(磁束遮断部)が形成されているので、前記第1ロータ50においてその周方向に磁束が通ることが妨げられて遮断される。この磁束の遮断により、前記第1ロータ50における周方向の磁路が制限され、磁束が前記第1ステータ30と前記第2ステータ70との間をより確実に通ることができる。これによりMR流体ブレーキとしての磁路効率を上げ、制動力発生面積を大きくすることができるので、前記第1ステータ30及び前記第2ステータ70を分割した構成であっても、前記第2ロータ53に十分な制動力が作用する。
【0022】
次に、この実施の形態のMR流体ブレーキ構造において、ロータの段数を2段で構成した場合を説明する。
図4に、前記第1ステータ30が4分割されている2段のMR流体ブレーキ構造14の正面図を、
図5に前記MR流体ブレーキ構造14の斜視図をそれぞれ示す。なお、
図4及び
図5において、前記ケース11及び前記MR流体80の図示を省略している。また、
図4においては、前記軸受12の図示を省略しており、
図5においては前記回転軸20の図示を省略している。さらに、ロータの段数を1段で構成した、前記MR流体ブレーキ構造10と同じ構成については説明を省略する。
【0023】
前記第1ステータ30と前記第2ステータ70との間に、第1ロータ50と、中間ステータホルダ90と、第2ロータ53とが順に取り付けられている。前記第2ロータ53は輪状のロータを構成し、前記回転軸20と共に回転可能であり、前記第1ロータ50と同じ構成を有する。
【0024】
図6に、前記MR流体ブレーキ構造14の断面図を示す。前記中間ステータホルダ90は、前記第1ロータ50と前記第2ロータ53とに挟まれるように設けられている。前記第1ロータ50と前記第2ロータ53との間と、前記第2ロータ53と前記第2ステータ70との間には、スペーサ22がそれぞれ挿入されて間隔が確保されている。
【0025】
図6及び
図7に示すように、円形の前記中間ステータホルダ90は、アルミニウムで形成され、非磁性材を構成している。また、前記中間ステータホルダ90には、炭素鋼であるS45Cで形成されたポールピース91が前記中間ステータホルダ90の両面にはめ込まれて機械的に固定され、周方向に並べられている。前記ポールピース91は、磁性材である。また、前記ポールピース91は磁束通過部を構成している。
【0026】
次に、この実施の形態に係る前記MR流体ブレーキ構造14の動作を説明する。
図6に示すように、前記第1コイル40及び前記第2コイル60に電流を印加すると、前記第1コイル40及び前記第2コイル60により磁界が発生し、前記MR流体80の磁界が変化する。前記MR流体80の磁界の変化により、前記MR流体80の見かけの粘性が変化して前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53に制動力が作用する。この制動力により、前記回転軸20に制動力が作用する。
【0027】
図2に示すように、ロータが1段の場合と同じく、前記第1ステータ30は、前記各第1ステータ片31によって、周方向に分割されている。同様に、前記第2ステータ70は、前記各第2ステータ片71によって、周方向に分割されている。
【0028】
そのため、
図5に破線の矢印で示すように、前記第1コイル40bに鎖交する磁束Bは、前記第1コイル40bから前記MR流体80を通り対向する前記第2ステータ片71上の前記第2コイル60aへ向かい、前記第2コイル60aと同じ前記第2ステータ片71上の前記第2コイル60bへ向かい、前記第2コイル60bから前記MR流体80を通り対向する前記第1ステータ片31上の前記第1コイル40aへ向かい、前記第1コイル40aと同じ第1ステータ片31上の前記第1コイル40bに戻る磁路を通る。すなわち、前記第1ステータ30の周方向及び前記第2ステータ70の周方向に磁束が通る。なお、
図5では1組の前記第1コイル40a,40b及び前記第2コイル60a,60bにおける磁束Bを図示しているが、同様に前記第2コイル60bに鎖交する磁束B’は、前記第2コイル60bから前記MR流体80を通り対向する前記第1ステータ片31上の前記第1コイル40aへ向かい、前記第1コイル40aと隣接する前記第1ステータ片31上の前記第1コイル40bへ向かい、前記第1コイル40bから前記MR流体80を通り対向する前記第2ステータ片71上の前記第2コイル60aへ向かい、前記第2コイル60aと隣接する第2ステータ片71上の前記第2コイル60bに戻る磁路を通る。
【0029】
このとき、前記第1ロータ50には、前記スリット52(磁束遮断部)が形成されているので、前記第1ロータ50においてその周方向に磁束が通ることが妨げられて遮断される。また、前記第2ロータ53には、前記スリット52(磁束遮断部)が形成されているので、前記第2ロータ53においてその周方向に磁束が通ることが妨げられて遮断される。さらに、前記中間ステータホルダ90にも前記ポールピース91がはめ込まれているので、前記中間ステータホルダ90においてその周方向に磁束が通ることが妨げられて遮断される。
【0030】
この磁束の遮断により、前記第1ロータ50、前記第2ロータ53及び前記中間ステータホルダにおける周方向の磁路が制限され、磁束が前記第1ステータ30と前記第2ステータ70との間をより確実に通ることができる。これによりブレーキとしての磁路効率を上げ、制動力発生面積を大きくすることができるので、前記第1ステータ30及び前記第2ステータ70を分割した構成であっても、前記第2ロータ53に十分な制動力が作用する。
【0031】
また、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には前記スリット52(磁束遮断部)が形成されており、前記スリット52(磁束遮断部)に前記MR流体80が入り込むので、前記MR流体80の見かけの粘性が変化することによる前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53への制動力が向上する。
【0032】
特許文献1に記載の前記ステータ3は分割できないのに対し、この実施の形態の前記第1ステータ30は前記各第1ステータ片31に分割することができ、前記第2ステータ70は前記各第2ステータ片71に分割することができる。これにより、この実施の形態に係る前記MR流体ブレーキ構造14は、製造時に例えば前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53部分を先に組み立てておき、前記第1ステータ30及び前記第2ステータ70を、前記各第1ステータ片31及び前記各第2ステータ片71を順次差し込むような組み立て方法で組み立てることができる。したがって、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53のようにロータを多段化しても、組み立てが容易になる。
【0033】
また、特許文献1の前記ロータ5を多段化する他の手段として、前記ロータ5の径方向に同心円状に非磁性部を形成し、前記ロータ5の径方向外部及び径方向内部を前記コイル4の磁束の磁路とすることで、良好な制動力を得られる磁路を形成することが考えられる。しかしながら、前記ロータ5をこのような構成とすることは前記ロータ5の構成が複雑になり、前記MR流体ブレーキ構造の製造工数及び製造費用が増加するおそれがある。
【0034】
一方、この実施の形態では、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には前記スリット52(磁束遮断部)が形成されていればよいため、前記ロータ5に非磁性部を形成する手段よりも簡単な構成で前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53を多段化することができる。
【0035】
また、特許文献1の前記ロータ5を多段化するさらに他の手段として、多段化した前記ロータ5に前記コイル4からの往路の磁路として1つの磁路を形成し、前記コイル4への復路の磁路として前記ステータ3に1つの磁路を形成することが考えられる。しかしながら、この構成のMR流体ブレーキ構造は、前記ステータ3に磁路を形成するために前記ステータ3を大型に構成する必要がある。このため、この実施の形態の前記MR流体ブレーキ構造14の方が、全体の重量を大きくせずに前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53を多段化することができる。
【0036】
このように、回転自在な前記回転軸20が設けられた輪状の前記第1ステータ30と、前記第1ステータ30に設けられた前記第1コイル40と、前記回転軸20に共に回転可能に設けられた円盤状の前記ロータ50と、前記ロータ50を前記回転軸20の軸方向Aに沿って前記第1ステータ30との間に挟むように設けられた輪状の前記第2ステータ70と、前記第2ステータに設けられた前記第2コイル60と、前記ロータ50の周囲に設けられ、前記第1コイル40及び前記第2コイル60の発生させる磁界により前記第1ロータ50に制動力を作用させるMR流体80とを備えるMR流体ブレーキ構造であって、前記第1ステータ30は、周方向に複数の前記第1ステータ片31を組み合わせて構成され、前記各第1ステータ片31には前記各第1コイル40が設けられ、前記第2ステータ70は、周方向に複数の前記第2ステータ片71を組み合わせて構成され、前記各第2ステータ片71には前記各第2コイル60が設けられ、前記第1コイル40と前記第2コイル60とが、前記ロータ50を介して対向して配置されることで、前記第1ステータ30の周方向及び前記第2ステータ70の周方向に磁束を通すので、前記第1コイル40及び前記第2コイルは、前記第1ステータ30及び前記第2ステータ70の径方向に磁路を形成することができ、十分な制動力を発揮するとともに組立を容易にすることができる。
【0037】
また、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53を有し、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53はスリット52(磁束遮断部)を有することで、前記第1ロータの周方向への磁束及び前記第2ロータの周方向への磁束が遮断され、磁束Bが前記第1ステータ30と前記第2ステータ70との間をより確実に通ることができるので、ロータを多段化しても組立を容易にすることができ且つ十分な制動力を発揮することができる。
【0038】
また、この実施の形態において、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には前記スリット52が設けられていたが、周方向へ磁束が通ることを妨げて遮断することができる他の任意の構成を用いてもよい。例えば、前記スリット52を非磁性材料で置き換えてもよい。これにより、簡単な構成で磁束遮断部を構成することができる。
【0039】
また、前記スリット52(磁束遮断部)が設けられているので、簡単な構成で磁束遮断部を構成することができる。
【0040】
また、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53同士の間に前記中間ステータホルダ90(非磁性材)を有することで、前記回転軸20の軸方向には磁束を通過させ、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)の周方向には磁束を遮断するので、磁束Bが前記第1ステータ30と前記第2ステータ70との間をより確実に通ることができるので、ロータを多段化しても組立を容易にすることができ且つ十分な制動力を発揮することができる。
【0041】
また、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)には前記ポールピース91(磁束通過部)がはめ込まれていたが、周方向へ磁束が通ることを妨げて遮断することができる他の任意の構成を用いてもよい。例えば、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)に前記ポールピース91(磁束通過部)を鋳造により取り付けてもよいし、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)に前記ポールピース91(磁束通過部)をインサート成形で組み込んでもよい。
【0042】
また、スリット52の数量は、前記第1ステータ片31の数量又は前記第2ステータ片71の数量の2倍以上であってもよい。これにより、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53に対して十分な制動力を発揮することができる。
【0043】
また、前記第1コイル40の数量は、前記第1ステータ片31の数量の2倍以上であり、前記第2コイル60の数量が、前記第2ステータ片71の数量の2倍以上であってもよい。これにより、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53に対して十分な制動力を発揮することができる。
【0044】
なお、この実施の形態において、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には前記スリット52(磁束遮断部)を設けていたが、
図8に示すように前記スリット52(磁束遮断部)に代えて前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53の径方向に複数のロータ穴54を設けてもよい。この前記ロータ穴54は、磁束遮断部を構成する。このような構成にすることで、第1ロータ50及び第2ロータ53の強度を向上させることができる。このとき、前記ロータ穴54は、径方向に列をなして複数並んでいる。そしてこの列の数が、前記第1ステータ片31の数量又は前記第2ステータ片71の数量の2倍以上となるように前記ロータ穴54が設けられている。
【0045】
また、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)は非磁性材料であれば、非磁性SUS等の他の材料を用いてもよい。さらに、前記ポールピース91(磁束通過部)は磁性材料であれば、フェライト等の他の材料を用いてもよい。これにより、前記スリット52(磁束遮断部)及び前記中間ステータホルダ90(非磁性部)並びに前記ポールピース91(磁束通過部)の設計を前記MR流体ブレーキ構造10及び13に求められる特性に応じて自由に行うことができる。
【0046】
また、前記第1ステータ30は、前記第1ステータ片31を輪状に4個組み合わせて構成されていたが、前記第1ステータ片31の数nは4個(n=4)に限定されない。例えば、第1ステータ片31を輪状に8個(n=8)組み合わせて前記第1ステータ30が構成されてもよい。同様に、前記第2ステータ70を構成する前記第2ステータ片71の数nは4個(n=4)に限定されない。例えば、前記第2ステータ片71を輪状に8個(n=8)組み合わせて前記第2ステータ70が構成されてもよい。
【0047】
また、前記各第1ステータ片31には、前記第1コイル40aと前記第1コイル40bとが1つずつ、計2つずつ設けられていた。また、前記各第2ステータ片71には、第2コイル60aと第2コイル60bが1つずつ、計2つずつ設けられていた。しかし、前記各第1ステータ片31及び前記各第2ステータ片71に設けられるコイルの数は計2つずつに限定されない。前記各第1ステータ片31に設けられる前記第1コイル40の数は、前記各第1ステータ片31にそれぞれ計2つ以上設けられていればよい。また、前記各第2ステータ片71に設けられる前記第2コイル60の数は、前記各第2ステータ片71にそれぞれ計2つ以上設けられていればよい。すなわち、前記第1コイル40aと前記第1コイル40bとの合計数量nが、前記第1ステータ片31の合計数量mの2倍以上であればよい。また、前記第2コイル60aと前記第2コイル60bとの合計数量nが、前記第2ステータ片71の合計数量mの2倍以上であればよい。
【0048】
また、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には各8個の前記スリット52(磁束遮断部)が設けられていたが、前記ステータ片の数nに対して2n以上の数の前記スリット52がそれぞれ設けられていればよい。例えば、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53には各16個の前記スリット52(磁束遮断部)が設けられていてもよい。
【0049】
また、この実施の形態としてはロータが前記第1ロータ50として1段設けられたMR流体ブレーキ構造10と、ロータが前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53として2段設けられたMR流体ブレーキ構造14とを示したが、3段以上のロータを備えたMR流体ブレーキ構造であってもよい。
【0050】
また、図示していないが、前記MR流体ブレーキ構造10のようにロータを前記第1ロータ50の1段のみ有する構成であれば、前記スリット52は設けられていなくてもよい。さらに、前記MR流体ブレーキ構造14のようにロータが前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53の複数のロータを有する構成である場合には、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53の成形を容易にするために、前記スリット52の一部に、前記スリット52(磁束遮断部)の両側を連絡するように延びる橋のような部分を設けてもよい。
【0051】
以上、本発明のMR流体ブレーキ構造の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施の形態及びその変形例に限定されることはなく、適宜変形することが可能である。
上記の実施の形態及び変形例において、例えば磁束遮断部は、スリット52(
図3参照)又はロータ穴54(
図8参照)で構成されていたが、これらに限定されるものではない。磁束遮断部の構成要素、配置、具体的な形状等は、適宜変形、変更することが可能である。
また、上記の実施の形態において、例えば磁束通過部は、ポールピース91(
図6及び
図7参照)で構成されていたが、これらに限定されるものではない。磁束通過部の構成要素、配置、具体的な形状等は、適宜変形、変更することが可能である。
【0052】
なお、本発明によるMR流体ブレーキ構造の要旨としては、以下の通りである。尚、
図1及び
図6の形態を用いて説明する。すなわち、回転自在な前記回転軸20が設けられた輪状の前記第1ステータ30と、前記第1ステータ30に設けられた前記第1コイル40と、前記回転軸20に共に回転可能に設けられた円盤状の前記第1ロータ50と、前記第1ロータ50を前記回転軸20の軸方向Aに沿って前記第1ステータ30との間に挟むように設けられた輪状の前記第2ステータ70と、前記第2ステータ70に設けられた第2コイル60と、前記ロータ50の周囲に設けられ、前記第1コイル40及び前記第2コイル60の発生させる磁界により前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53に制動力を作用させるMR流体80とを備えるMR流体ブレーキ構造であって、前記第1ステータ30は、周方向に複数の前記第1ステータ片31を組み合わせて構成され、前記各第1ステータ片31には前記各第1コイル40が設けられ、前記第2ステータ70は、周方向に複数の前記第2ステータ片71を組み合わせて構成され、前記各第2ステータ片71には前記各第2コイル60が設けられることで、前記第1ステータ30の周方向及び前記第2ステータ70の周方向に磁束を通す構成であり、また、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53を有し、前記第1ロータ50及び前記第2ロータ53は前記スリット52(磁束遮断部)を有することで、前記第1ロータの周方向への磁束及び前記第2ロータの周方向への磁束が遮断され、また、前記スリット52は、磁束遮断部を構成するスリットであり、また、前記スリット52(磁束遮断部)に代えて磁束遮断部を構成する、非磁性部材を有し、また、前記第1ロータ50及び第2ロータ53同士の間に前記中間ステータホルダ90(非磁性材)を有し、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)は前記ポールピース91(磁束通過部)を有することで、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)の周方向への磁束が遮断され、また、前記ポールピース91(磁束通過部)は、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)と機械的に一体化され、また、前記ポールピース91(磁束通過部)は、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)と鋳造により一体化され、また、前記ポールピース91(磁束通過部)は、前記中間ステータホルダ90(非磁性材)とインサート成形により一体化されている構成である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によるMR流体ブレーキ構造は、回転自在な回転軸が設けられた輪状の第1ステータと、第1ステータに設けられた複数の第1磁界発生部と、回転軸に共に回転可能に設けられた輪状のロータと、ロータを回転軸の軸方向に沿って第1ステータとの間に挟むように設けられた輪状の第2ステータと、第2ステータに設けられた複数の第2磁界発生部と、ロータの周囲に設けられ、各第1磁界発生部及び各第2磁界発生部の発生させる磁界によりロータに制動力を作用させるMR流体とを備えるMR流体ブレーキ構造であって、第1ステータは、周方向に複数の第1ステータ片を組み合わせて構成され、各ステータ片には第1磁界発生部が設けられ、第2ステータは、周方向に複数の第2ステータ片を組み合わせて構成され、各ステータ片には第2磁界発生部が設けられることで、第1ステータの周方向及び第2ステータの周方向に磁束を通す構成であるので、十分な制動力を発揮するとともに組立を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0054】
10,14 MR流体ブレーキ構造
20 回転軸
30 第1ステータ
31 第1ステータ片
40,40a,40b 第1コイル(第1磁界発生部)
50 第1ロータ(ロータ)
52 スリット(磁束遮断部)
53 第2ロータ(ロータ)
54 ロータ穴(磁束遮断部)
60,60a,60b 第2コイル(第2磁界発生部)
70 第2ステータ
71 第2ステータ片
80 MR流体
90 中間ステータホルダ
91 ポールピース(磁束通過部)
A 軸方向
B 磁束