(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】車椅子用のティッピングレバー
(51)【国際特許分類】
A61G 5/06 20060101AFI20220221BHJP
【FI】
A61G5/06
(21)【出願番号】P 2018040939
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】307020545
【氏名又は名称】公立大学法人岡山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】高戸 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝文
(72)【発明者】
【氏名】田内 雅規
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198457(JP,A)
【文献】特開2016-174880(JP,A)
【文献】特開2012-192164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/00-5/14
B62B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子の前部を上げるために用いる車椅子用のティッピングレバーであって、
前記車椅子に取り付けたときに、前記車椅子の幅方向に横渡しされる踏み台と、
前記踏み台を前記車椅子に支持する支持体とを備えており、
前記支持体は、前記踏み台と一体に移動する移動支持体を含んでおり、
前記踏み台は、前記移動支持体と一体に回転可能であり、
前記移動支持体を回転させて、前記踏み台を前記移動支持体
の回転と一体に移動させることにより、前記踏み台の配置位置を、前記車椅子の前後方向において切り換え可能であ
り、
前記支持体は、前記踏み台を後方から前方に移動させるときに、前記移動支持体の回転中心が、後方から前方に移動するように構成されていることを特徴とする車椅子用のティッピングレバー。
【請求項2】
前記支持体は、前記踏み台を後方から前方に移動させるときに、前記移動支持体の回転中心が、下方から上方に移動するように構成されている請求項
1に記載の車椅子用のティッピングレバー。
【請求項3】
前記踏み台は、複数部材を連結して前記車椅子の幅方向に伸縮可能に構成しており、前記車椅子の折り畳みと同時に折り畳み可能である請求項1
又は2に記載の車椅子用のティッピングレバー。
【請求項4】
前記支持体は、前記車椅子の本体に着脱可能な支持アダプタを含んでいる請求項1から
3のいずれかに記載の車椅子用のティッピングレバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子の前輪あげを容易にする車椅子用のティッピングレバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子は前部に取り付けられたキャスターの径が小さく、段差のある場所では搭乗者1人では段差を越えられない場合が多い。このため、ティッピングレバーやティッピングプレートなどと呼ばれる足踏み部を車椅子の後部に設けるのが一般的である。ティッピングレバー等を設けた車椅子においては、前部のキャスタが段差に到達すると、介助者が後部のハンドルとティッピングレバー等に体重をかけて前部のキャスターを段差の上に上げることにより、段差を乗り越えることができる。例えば、特許文献1には、長さを容易に調節することができると共に、踏み込み過ぎても転倒する危険性のない転倒防止機構を設けたティッピングプレートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ティッピングレバー等を設けた車椅子は、特許文献1に記載の車椅子のように、ティッピングレバー等(特許文献1ではティッピングプレート)が、車椅子の背面側から見て、端部に設けられているのが通常である。この構成では、ティッピングレバー等に踏力を加えると、踏力による荷重は車椅子の左右のフレームの一方の側に偏るのでフレームが歪み、この歪みによって荷重が吸収されてしまい、多くの踏力を必要とするという問題があった。このため、介助者が非力な女性や高齢者等である場合には前輪あげの負担が大きくなる。
【0005】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、踏力が効率的に車椅子本体に伝わり前輪あげを容易にするとともに、介助者の走行を妨げない車椅子用のティッピングレバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の車椅子用のティッピングレバーは、車椅子の前部を上げるために用いる車椅子用のティッピングレバーであって、前記車椅子に取り付けたときに、前記車椅子の幅方向に横渡しされる踏み台と、前記踏み台を前記車椅子に支持する支持体とを備えており、前記支持体は、前記踏み台と一体に回転する移動支持体を含んでおり、前記踏み台を前記移動支持体と一体に回転させることにより、前記踏み台の配置位置を、前記車椅子の前後方向において切り換え可能であることを特徴とする。
【0007】
前記本発明の車椅子用のティッピングレバーによれば、踏み台は車椅子の横方向に横渡しされている。このため、踏み台に足を載せて体重をかけたときの荷重は、踏み台を踏む位置に関係なく、車椅子本体の左右両輪側に作用する。すなわち、荷重が効率的に分散されて、車椅子1本体の歪みが軽減されるので持ち上げに有利になる。また、踏み台の配置位置を、車椅子の前後方向において切り換え可能であるので、踏み台を前方に退避させることができ、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止することができる。
【0008】
前記本発明の車椅子用のティッピングレバーにおいては、以下の各構成とすることが好ましい。前記移動支持体は、回転することにより、前記踏み台の配置位置を、前記車椅子の前後方向において切り換え可能であることが好ましい。この構成によれば、移動支持体が回転することにより、踏み台が前方に移動しつつ上方に移動するので、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0009】
前記支持体は、前記踏み台を後方から前方に移動させるときに、前記移動支持体の回転中心が、後方から前方に移動するように構成されていることが好ましい。この構成によれば、移動支持体の回転中心が固定された構成に比べ、踏み台の前方への移動量が増えるので、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0010】
前記支持体は、前記踏み台を後方から前方に移動させるときに、前記移動支持体の回転中心が、下方から上方に移動するように構成されていることが好ましい。この構成によれば、回転中心が固定された構成に比べ、踏み台の上方への移動量が増えるので、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0011】
前記踏み台は、複数部材を連結して前記車椅子の幅方向に伸縮可能に構成しており、前記車椅子の折り畳みと同時に折り畳み可能であることが好ましい。この構成によれば、車椅子の折り畳み機能を損なうことなく、車椅子の幅方向に横渡しされる踏み台を実現できる。
【0012】
前記支持体は、前記車椅子の本体に着脱可能な支持アダプタを含んでいることが好ましい。この構成によれば、支持アダプタの位置を調整できるので、介助者の体格に合わせて、踏み台の位置を調節することができる。また、ティッピングレバーを既存の車椅子に後付けが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は前記のとおりであり、要約すれば、踏み台は車椅子の横方向に横渡しされているので、踏み台への荷重が効率的に分散されて、車椅子本体の歪みが軽減されるので持ち上げに有利になるとともに、踏み台の配置位置を、車椅子の前後方向において切り換え可能であるので、踏み台を前方に退避させることができ、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1に示した車椅子を背面側から見た斜視図。
【
図3】
図2の状態から踏み台を回転させて前方に移動させた状態を示す斜視図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るティッピングレバーの踏み台が回転する様子を示す斜視図。
【
図5】本発明の一実施形態に係るティッピングレバーの端部における分解斜視図。
【
図6】本発明の一実施形態に係る車椅子が平坦面上にあるときの側面図。
【
図7】
図6の状態から車椅子が前進し、キャスタが段差に当接した状態を示す側面図。
【
図8】
図7の状態から踏み台を踏むことにより、移動支持体が垂直状態になった状態を示す側面図。
【
図9】
図8の状態から車椅子の前部が持ち上った状態を示す側面図。
【
図10】
図9の状態から車椅子のキャスタが段差を乗り越えた状態を示す側面図。
【
図11】
図10の状態からキャスタ及び後輪の両方が新たな平坦面に乗り上げた状態を示す側面図。
【
図12】
図2の状態から車椅子を折り畳んだ状態を示す斜視図。
【
図13】
図3の状態から車椅子を折り畳んだ状態を示す斜視図。
【
図14】本発明の一実施形態に係るティッピングレバーが折り畳まれる様子を示す斜視図。
【
図15】本発明の一実施形態に係るティッピングレバーが折り畳まれる様子の別の例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る車椅子1の側面図であり、
図2は
図1に示した車椅子1を背面側から見た斜視図である。各図は車椅子1の要部を図示した概略図であり、細部の構造は適宜省略している。
図1において、車椅子1は、前側に前輪であるキャスタ2、後側に駆動輪である後輪3が配置され、キャスタ2が2輪、後輪3が2輪の合計4輪で地面等を走行する。車椅子本体は、パイプ状のフレームで要部を構成しており、後フレーム4、横フレーム5、前フレーム6及び下フレーム7で基本骨格を形成している。
【0016】
後フレーム4の先端部分を折り曲げて、この部分にグリップを取り付けてハンドル8を形成している。横フレーム5には肘掛け9が取り付けられ、前フレーム6にはフットレスト10が取り付けられている。
図1において、後フレーム4に背シート11が取り付けられており、
図2に示したように、背シート11は、両側の後フレーム4で支持されている。また、
図2において、後輪3にはハンドリム12が固定されており、これを手で操作して後輪3に駆動力を伝えることができる。図示の便宜のため、
図1ではハンドリム12の図示は省略している。
【0017】
図1において、下フレーム7にはティッピングレバー20が取り付けられている。
図2において、ティッピングレバー20は、踏み台30とこれを車椅子1の本体に支持する支持体40とで構成されている。
図1において、支持体40は、支持ボックス21、支持プレート22、支持アダプタ23及び移動支持体24を備えている。支持アダプタ23が下フレーム7に固定されて、ティッピングレバー20が車椅子1本体に固定されている。
【0018】
図2において、左右一対のレバー25と連結体26とで水平な踏み台30を形成している。
図2に示したように、踏み台30は、車椅子1の横方向に横渡しされている。レバー25の一端は連結体26と連結されており、レバー25の他端は、移動支持体24に連結されている。移動支持体24の端部は支持ボックス21内で支持されている。
【0019】
詳細は後に説明するとおり、踏み台30に足を載せて体重をかけることにより、車椅子1の前部を持ち上げることができる。また、踏み台30は、移動支持体24と一体に回転可能であり、不使用時には、前方に移動させることができる。
図3は
図2の状態から踏み台30を回転させて前方に移動させた状態を示している。
【0020】
図4は、ティッピングレバー20の踏み台30が回転する様子を示す斜視図である。
図4(a)から
図4(c)にかけて、踏み台30は移動支持体24の回転と一体になって、前方へ移動しつつ上昇していく。この一連の動きをさせるには足で踏み台30を押せばよい。移動支持体24を回転させる機構については、後に
図5を参照しながら説明する。
【0021】
図4(a)は、移動支持体24が垂直になっている状態を示している。この状態では、踏み台30の幅広部分が水平面上にあるため、踏み台30の幅広部分に足を容易に載せることができる。この状態が
図2のティッピングレバー20の状態であり、踏み台30の幅広部分に足を載せて体重をかけることにより、車椅子1の前部を持ち上げて、段差の乗り上げ操作を行うことができる。
【0022】
図4(a)において、支持アダプタ23は下フレーム7を挟んでおり、この状態で支持プレート22側から固定ボルト(図示せず)で支持アダプタ23を締め付けている。このことにより、支持アダプタ23を含む支持体40及びこれと一体の踏み台30は車椅子1本体に固定される。この構成では、下フレーム7上で支持アダプタ23の位置を調整できるので、介助者の体格に合わせて、踏み台30の位置を調節することができる。また、前記のような車椅子本体に着脱可能な支持アダプタ23を備えたことにより、既存の車椅子に後付けが可能になる。
【0023】
図4(b)は、移動支持体24が傾斜した状態を示している。この状態では、移動支持体24が回転中心36を中心に回転しており、踏み台30の幅広部分が前方に移動している。
図4(c)は、移動支持体24が回転し切った状態を示している。この状態は、踏み台30が前方及び上方に移動し切った状態である。この状態では、踏み台30が前方に退避しているので、介助者が車椅子を押して走行する際に、足に踏み台30が当たりにくくなり、踏み台30が介助者の走行の妨げになることを防止することができる。
【0024】
図5はティッピングレバー20の端部における分解斜視図である。本図は支持ボックス21から支持プレート22を取り外した状態を図示している。移動支持体24には、円筒状のカラー31が取り付けられており、カラー31内にプランジャ32が埋め込まれる。プランジャ32の先端にセンターピン33が取り付けられており、センターピン33が支持プレート22に形成した円弧状のガイド溝34を摺動しつつ、移動支持体24が回転中心37を中心に回転する。
【0025】
この構成では、
図4(a)~
図4(c)のように、踏み台30を後方から前方に移動させるときに、
図5において、回転中心37は円弧状のガイド溝34に沿って移動するので、距離dだけ後方から前方へと移動する。このことにより、回転中心37が固定された構成に比べ、踏み台30の前方への移動量が増えるので、踏み台30が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0026】
さらに、前記構成では、
図4(a)~
図4(c)のように、踏み台30を後方から前方に移動させるときに、
図5において、回転中心37は円弧状のガイド溝34に沿って移動するので、高さhだけ下方から上方へと移動する。このことにより、回転中心37が固定された構成に比べ、踏み台30の上方への移動量が増えるので、踏み台30が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0027】
ガイド溝34の両端には、受け穴35が形成されている。プランジャ32がガイド溝34の端部に移動すると、センターピン33が受け穴35に嵌り込む。このことにより、移動支持体24は垂直状態(
図2参照)と水平状態(
図3参照)とで保持される。この保持により、ティッピングレバー20は、車椅子1の走行時に移動支持体24がずれたり、振動したりするのを防止することができる。
【0028】
また、
図5において、レバー25は、主レバー42と副レバー41とが、ボルト43により連結されている。主レバー42には長穴44が形成されており、長穴44の範囲内の任意の位置でボルト43を締め付けることにより、レバー25の長さ調整ができるようになっている。長さ調整が不要であれば、レバー25は単体部品とすればよい。
【0029】
図5に示した実施形態は、移動支持体24の回転中心37が円弧状に移動するものであったが、踏み台30を後方から前方に移動させるときに、回転中心37が後方から前方へ移動し、かつ下方から上方へ移動する構造であればよく、回転中心37の移動経路は円弧以外の曲線でもよく、傾斜した直線でもよい。また、後記のとおり、移動支持体24の移動の態様は前記のもの以外であってもよい。
【0030】
以下、
図6~
図11を参照しながら、車椅子1の段差乗り越え時の操作について説明する。
図6は車椅子1が平坦面50上にあるときの側面図を示している。図示の便宜のため、ティッピングレバー20の近傍は破断して図示している(
図7~
図11も同じ。)。
図6の状態では、ティッピングレバー20は収納時の状態にあり、移動支持体24は水平になっており、踏み台30は前方に移動している(
図3参照)。この状態で、介助者はハンドル8を持って車椅子1を押して前進させる。
【0031】
図7は、
図6の状態から車椅子1が前進し、キャスタ2が段差51に当接した状態を示している。この状態では踏み台30の位置は
図6と同じであり、前方に移動した状態を維持している。キャスタ2が段差51に当接すると、介助者は踏み台30を足で踏み、踏み台30を下方に押し下げる。このとき踏み台30は、
図4(c)、
図4(b)、
図4(a)の順に動いていく。
【0032】
すなわち、
図7の状態では、踏み台30は
図4(c)の位置にあり、足で踏み台30を踏むことにより、移動支持体24は、
図4(b)のように傾斜し、続いて
図4(a)のように垂直状態になる。この状態を
図8に示しており、同図において、移動支持体24は垂直状態になっている。
図4(a)に示したように、移動支持体24が垂直状態であるときは、踏み台30の幅広部分が水平面上にあるため、踏み台30の幅広部分に足を容易に載せることができる。
【0033】
図8の状態において、介助者は手で掴んだハンドル8に体重をかけつつ、踏み台30の幅広部分が足を載せて踏み台30にも体重をかけることにより、車椅子1の前部を持ち上げることができる。ハンドル8だけに体重をかけて車椅子1の前部を持ち上げるには膨大な力を必要とするが、踏み台30にも体重をかけることにより、持ち上げが容易になる。
【0034】
図2に示したように、踏み台30は、車椅子1の横方向に横渡しされている。このため、踏み台30に足を載せて体重をかけたときの荷重は、踏み台30を踏む位置に関係なく、車椅子1本体の左右両輪側に作用する。すなわち、荷重が効率的に分散されて、車椅子1本体の歪みが軽減されるので持ち上げに有利になる。
【0035】
また、
図8において、踏み台30は垂直な移動支持体24の下端側にある。このため、踏み台30は、フレーム7の中心軸よりもさらに高さhだけ下方の位置にある。このため、踏み台30に足を載せるときの足の持ち上げ量が小さくなり、踏み台30を踏み易くなる。すなわち、支持体40は、移動支持体24を後方に移動させたときに、踏み台30が支持体40の取り付け位置よりも下方にくるように構成されていることが好ましい。
【0036】
さらに、
図8において、支持体40の構成部品である移動支持体24は、支持体40を車椅子1本体の一部であるフレーム7に取り付けたときに、支持体4の取り付け位置よりも後方にくるように構成されている。この構成によれば、駆動輪である後輪3の車軸と踏み台30との間の距離rが大きくなり、踏力によるモーメントが大きくなり、持ち上げが容易になる。すなわち、支持体40は、移動支持体24を後方に移動させたときに、移動支持体24が支持体40の取り付け位置よりも後方にくるように構成されていることが好ましい。
【0037】
前記のとおり、踏み台30が後方かつ下方にあることにより、車椅子1の持ち上げに有利になるが、踏み台30が介助者の足に近づくことになる。前記のとおり、本実施形態では、踏み台30を移動支持体24と一体に回転させて前方に退避させることができるので、踏み台30が介助者の走行の妨げになることを防止することができる。
【0038】
図9は、車椅子1の前部が持ち上った状態を示している。本図の状態では、キャスタ2が段差51を乗り越えつつある。
図10は、車椅子1のキャスタ2が段差51を乗り越えた状態を示している。
図11は、キャスタ2及び後輪3の両方が新たな平坦面52に乗り上げた状態を示している。
【0039】
次に、車椅子1の折り畳みについて説明する。本実施形態に係る車椅子1は折り畳み可能であり、不使用時には折り畳んだ状態で保管することができる。折り畳みは、
図2に示したように、ティッピングレバー2の移動支持体24が垂直状態のときでも可能であり、
図3に示したように、ティッピングレバー2の移動支持体24が水平状態のときでも可能である。
図12は、
図2の状態(移動支持体24が垂直状態)から折り畳んだ状態を示しており、
図13は
図3の状態(移動支持体24が水平状態)から折り畳んだ状態を示している。
【0040】
図14は、ティッピングレバー20が折り畳まれる様子を示す斜視図である。本図は、
図2の状態(移動支持体24が垂直状態)から折り畳む様子を示している。
図4(a)から
図4(c)にかけて、両端の移動支持体24間の距離は縮まり、ティッピングレバー20が折り畳まれていき、同時に車椅子1も折り畳まれていく。
図14(a)のティッピングレバー20の状態は、移動支持体24が垂直状態であり、
図2の状態と同じである。
図14(a)は、ティッピングレバー20の折り畳み開始状態を示しており、この状態では、踏み台30は伸び切った状態になっている。
【0041】
車椅子1本体の折り畳みは、
図2に示したX字状に配置された一対のフレーム13が支点14を中心に回転して交差角度を変えることにより行われる。車椅子1を折り畳む際には、座面シートに設けた取っ手(図示せず)を持って座面シート持ち上げれば、一対のフレーム13が直立状態に近づく方向に傾斜して車椅子1が折り畳まれる。車椅子1を使用状態に戻す際には、持ち上がった座面シートを元の位置に押し下げれば、一対のフレーム13が水平状態に近づく方向に傾斜して車椅子1が元の使用状態に復帰する。
【0042】
車椅子1本体が折り畳まれる際には、同時にティッピングレバー20も折り畳まれる。
図14(a)において、一対のレバー25の一端はヒンジピン27を介して連結体26と回転可能に連結されており、他端はヒンジピン28を介して移動支持体24と一体のフランジ29と回転可能に連結されている。このことにより、一対のレバー25は交差角度を変えながら、踏み台30が伸縮する。
【0043】
図14(b)は、ティッピングレバー20が折り畳まれる途中の状態を示しており、
図14(a)の状態と比べて、踏み台30が縮んでいる。
図14(c)は、折り畳みが完了した状態を示しており、この状態では車椅子1本体も
図12に示したように、後輪3同士が近接して折り畳まれている。
【0044】
図15は、ティッピングレバー20が折り畳まれる様子の別の例を示す斜視図である。本図は、
図3の状態(移動支持体24が水平状態)から折り畳む様子を示している。
図15(a)から
図15(c)にかけて、両端の移動支持体24間の距離は縮まり、ティッピングレバー20が折り畳まれていき、同時に車椅子1も折り畳まれていく。
図15(a)のティッピングレバー20の状態は、移動支持体24が水平状態であり、
図3の状態と同じである。
図15(a)は、ティッピングレバー20の折り畳み開始状態を示しており、この状態では、踏み台30は伸び切った状態になっている。
【0045】
車椅子1本体の折り畳みについては、
図14の場合と同じであり、ティッピングレバー20の折り畳みについても、一対のレバー25の回転の様子が異なることを除けば
図14の場合と同じである。すなわち、一対のレバー25は交差角度を変えながら、踏み台30が伸縮する。
図14(b)は、ティッピングレバー20が折り畳まれる途中の状態を示しており、この状態から一対のレバー25はこれらが近接する方向にさらに回転し、
図14(c)の状態では折り畳みが完了している。この状態では車椅子1本体も
図13に示したように、後輪3同士が近接して折り畳まれている。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、これに限るものではなく、適宜変更してもよい。例えば、支持体40の構造は一例であり、同様の機能を発揮するものであればよい。特に、移動支持体24及びその取り付け構造は、踏み台30の配置位置を、車椅子1の前後方向において切り換え可能である構造であればよく、
図5に示した実施形態のように、回転中心37が円弧状に移動する構造に限るものではない。
【0047】
例えば、移動支持体24が水平方向に移動する構造でもよく、傾斜方向に移動する構造でもよい。また、回転中心37の位置が固定された状態で移動支持体24が回転する構造であってもよい。この構成であっても、移動支持体が回転することにより、踏み台が前方に移動しつつ上方に移動するので、踏み台が介助者の走行の妨げになることを防止するのに有利になる。
【0048】
支持体40の構成部品である支持アダプタについては、車椅子本体に着脱可能な構成であればよく、前記実施形態の構造に限るものではない。また、前記実施形態では車椅子1が折り畳み可能なものであったが、折り畳み機能のない車椅子については、例えば踏み台30を単体部品で形成し、踏み台30の折り畳み機能を省けばよい。
【符号の説明】
【0049】
1 車椅子
2 キャスター(前輪)
3 後輪
8 ハンドル
20 ティッピングレバー
21 支持ボックス
22 支持プレート
23 支持アダプタ
24 移動支持体
25 レバー
26 連結体
30 踏み台
40 支持体