(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】透明フレキシブルシート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/04 20060101AFI20220221BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20220221BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220221BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220221BHJP
D03D 9/00 20060101ALI20220221BHJP
D06M 15/19 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
B32B27/04 Z
B32B27/02
B32B27/30 A
B32B27/30 B
B32B27/30 101
B32B27/38
D03D9/00
D06M15/19
(21)【出願番号】P 2018214688
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】千葉 綾香
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076563(JP,A)
【文献】特開2003-191386(JP,A)
【文献】実開平01-053800(JP,U)
【文献】特開平08-302574(JP,A)
【文献】特開2002-046237(JP,A)
【文献】特開2013-167100(JP,A)
【文献】特開2015-077756(JP,A)
【文献】特開2017-209943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
D06M13/00-15/715
D03D 1/00-27/18
E04F13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂加工マルチフィラメント糸条で構成された粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを積層してなる複合体であって、前記樹脂加工マルチフィラメント糸条が、1)芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆し、かつ前記マルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士の空隙全体を充填し、2)前記マルチフィラメントと、前記塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.05以内であり、3)さらに前記1)の糸条の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を有し、この透明被覆層と前記塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.05以内であることを特徴とする透明フレキシブルシート。
【請求項2】
前記樹脂加工マルチフィラメント糸条の断面形状が楕円または両端部が円弧状の略長方形で、この断面形状における高さと幅の比が2:3~1:5である請求項1に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項3】
前記樹脂加工マルチフィラメント糸条を構成するマルチフィラメントが、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、及び塩化ビニル繊維から選ばれた1種以上である請求項1または2に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項4】
前記粗目格子状構造体が、1)経/マルチフィラメント糸条群、及び緯/マルチフィラメント糸条群で構成された織物、または2)経/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された三軸織物、または3)経/マルチフィラメント糸条群、緯/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された四軸織物、から選ばれた何れか1種を基材として、前記塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填され、さらに前記エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により透明被覆されたもので、前記粗目格子状構造体の粗目格子1個当たりの面積が25mm
2~111mm
2の範囲内である請求項1~3の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項5】
前記粗目格子状構造体が、4)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/緯交点で固着された二軸ネット、または5)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/バイアス交点で固着された三軸ネット、または6)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/緯/バイアス交点で固着された四軸ネット、から選ばれた何れか1種で、何れも前記樹脂加工マルチフィラメント糸条が、塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填され、さらに前記エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により透明被覆された、粗目格子1個当たりの面積が100mm
2~2600mm
2の範囲内である請求項1~3の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項6】
前記芳香族リン酸エステル化合物が、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、及びリン酸2-エチルヘキシルジフェニル、から選ばれた1種以上で、前記塩化ビニル樹脂組成物に占める塩化ビニル樹脂の質量に対して50~200質量%である請求項1~5の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項7】
前記塩化ビニル樹脂組成物が、さらにエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸2-エチルヘキシル、及びエポキシヘキサヒドロフタル酸ジエポキシステアリルから選ばれた1種以上のエポキシ系化合物を、前記芳香族リン酸エステル化合物の総量に対して1~25質量%含んでいる請求項1~6の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項8】
前記透明樹脂シートが塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主体とする軟質塩化ビニル系樹脂で構成され、可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル、イソフタル酸ジアルキルエステル、テレフタル酸ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル、及びシクロヘキセンジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた1種以上で、前記塩化ビニル系樹脂の質量に対して35~100質量%の配合量である請求項1~7の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項9】
前記透明樹脂シートの表面(表側及び/または裏側)に、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上の塗膜からなる防汚層が設けられている請求項1~8の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【請求項10】
前記透明樹脂シートの最外表面(表側及び/または裏側)、に、1次粒子径3nm~150nmの無機コロイド物質を原料とするナノ粒子が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含むバインダー成分に担持されてなる帯電防止性防汚層が設けられていて、前記無機コロイド物質が、光触媒性酸化チタンゾル、光触媒性酸化亜鉛ゾル、光触媒性酸化錫ゾル、酸化チタンゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化錫ゾル、シリカゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、及び複合酸化物(酸化亜鉛-五酸化アンチモン複合または酸化スズ-五酸化アンチモン複合)ゾルから選ばれた1種以上の金属酸化物である
請求項1~8の何れか1項に記載の透明フレキシブルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寸法安定性及び強度維持のための粗目格子状構造体を支持体として複合していても、透視による視認性に優れた透明フレキシブルシートに関し、例えば、膜構造建造物(パビリオン外装、美術館オブジェ、博物館オブジェ)、シートハウス、園芸ハウスなどの屋外用途での本体材料及び採光窓などのパーツ材、また電子・電気機器工場、病院・研究施設などの屋内用途で使用する間仕切り、カーテン、機器カバー、さらにはバッグ、レジャーシートなどの雑貨用途、などに使用する産業資材シート全般において、粗目格子状構造体を複合していても視界の大きな妨げとなることなく、シート全体での視認性を向上させた耐候性(耐変色性)の透明フレキシブルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
パビリオン、美術館の外装や内装の一部を立体フレーム構造としてデザインし、立体フレームの形状に沿ってフィルムやシートを展張被覆する設計では、耐候性、防汚性に優れた透明で強靭なフィルムやシートが使用されている。しかし、これらのフィルムやシートの単体使用では、風圧、積雪、気温上昇などの要因でフィルムが弛んだり変形する問題や、特に延伸フィルムでは鋭利な物体の接触でフィルムが裂け易い欠点を有しているため、寸法安定性を保ち、かつ破壊防止効果を得るための補強材として繊維基材を必要とする。このような補強例は、ポリエステル繊維平織粗目状織布(糸密度経糸1本/2cm×緯糸1本/2cm:空隙率90%)の両面に無着色のオレフィン系樹脂フィルムを積層した透光率が95%の膜材(特許文献1:実施例1など)があるが、これらはポリエステル繊維平織粗目状織布が見た目に露わとなって目立ち、用途によっては視界を遮る目障りな存在であった。
【0003】
そこで本出願人は、高い視認性を有する間仕切りシート材料、光源の光度を下げない光天井材用の繊維複合シートとして、ガラス繊維からなる基材の全面に、芳香族リン酸エステル化合物を含有する軟質塩化ビニル樹脂組成物による樹脂含浸被覆層を形成し、ガラス繊維と、軟質塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)の差を0.03以下として得られる、ガラス繊維基材がスケルトン状に目立たない透明性複合シート(特許文献2)の検討を行った。その後、本出願人は、防煙垂壁などの不燃建材に用いる透明ガラスクロスシートで、シートの折曲や折畳によってシート内部白化傷を発生して外観を損なうことのない、取り扱い性と耐光堅牢性に優れた透明性複合シートを検討した。これはシランカップリング剤で処理したガラスクロスに、特定の非芳香族トリイソシアネート化合物とバインダー樹脂とを含む接着剤成分を含浸被覆硬化してなる接着剤含浸被覆ガラスクロスを基材として、その両面に、芳香族リン酸エステル化合物を含有する屈折率(JIS K7142)1.52~1.58の範囲の軟質塩化ビニル樹脂透明層を設けた透明不燃シート(特許文献3)である。
【0004】
これら特許文献2の透明性複合シートと特許文献3の透明不燃シートは、何れもガラス繊維基材(ガラスクロス)を半透明化とすることで、透視による視認性を十分なものとするが、観察角度によってガラス繊維基材(ガラスクロス)を透過しての視界に干渉縞を生じたり、芳香族リン酸エステル化合物を多量に含有することで、シートを透過しての視界に黄味を帯びるという欠点を有している。従って仮に特許文献2や特許文献3の技術を特許文献1のシートに応用したとしても、シートを透過しての視界に黄味を帯びるという問題は解決されるものではない。また特許文献2は光天井材、特許文献3は防煙垂壁などの不燃建材と、何れも屋内用途に供されるため、耐紫外線にやや劣る芳香族リン酸エステル化合物の多用に致命的な問題はないが、屋外使用の膜構造物などに芳香族リン酸エステル化合物を多用することは黄変着色のトラブルを招くことがあった。一方、液晶表示装置の分野ではガラス板代替素材としてガラスクロスを芯材に含む、軽量で割れない透明樹脂基板が検討され、ガラスクロスとエポキシ樹脂との複合によるプリプレグ(特許文献4)が使用されている。これらはお互いの屈折率を近似させることでガラスクロスの存在が光学的に消えて識別出来ない外観となるが、エポキシ樹脂硬化物を使用することで風合が極度に硬く、厚さのあるシート状では板状となるためフレキシブル性を必要とする産業資材用途への応用は本質的に不向きである。従って繊維基材を寸法安定性及び強度維持のために含む屋外でも使用可能な透明フレキシブルシートであって、繊維基材を複合していても視界の大きな妨げとならず、シート全体の視認性が向上した耐候性(耐変色性)の透明フレキシブルシートが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-046237号公報
【文献】特開2010-052370号公報
【文献】特開2014-076563号公報
【文献】特開2005-225104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、膜構造建造物(パビリオン外装、美術館オブジェ、博物館オブジェ)、シートハウス、園芸ハウスなどの屋外用途での本体材料及び採光窓などのパーツ材、また電子・電気機器工場、病院・研究施設などの屋内用途で使用する間仕切り、カーテン、機器カバー、さらにはバッグ、レジャーシートなどの雑貨用途、などに使用する産業資材シート全般において、寸法安定性及び強度維持のための繊維基材(粗目格子状構造体)を複合していても、繊維基材(粗目格子状構造体)の存在が視界の大きな妨げとなることなく、シート全体の視認性を向上させた耐候性(耐変色性)の透明フレキシブルシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために検討を重ねた結果、樹脂加工マルチフィラメント糸条で構成された粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを積層してなる複合体であって、前記樹脂加工マルチフィラメント糸条が、1)芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆し、かつ前記マルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士の空隙全体を充填し、2)前記マルチフィラメントと、前記塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.05以内であり、3)さらに前記1)の糸条の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を有し、この透明被覆層と前記塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.05以内であることによって、粗目格子状構造体の存在が視界の妨げとなることなく、シート全体での視認性が向上した産業資材シートが得られることを見出し、視認性及び耐候性に優れた透明フレキシブルシートの発明を完成させるに至った。これはマルチフィラメントと、塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差を0.05以内とするか、または同一とすることで、光学的にマルチフィラメントの存在を半透明~透明化とするもので、さらにこの(半)透明化した1)の糸条の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を設け、この透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差を0.05以内とすることによって(半)透明化された1)の糸条の透明性を維持し、しかも透明被覆層を設けてもフレキシブル性を大きく損なうような欠点を生じない。さらにこの透明被覆層は塩化ビニル樹脂組成物に含む芳香族リン酸エステル化合物を樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留め、芳香族リン酸エステル化合物を透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層とすることで、樹脂加工マルチフィラメント糸条(粗目格子状構造体)の透明効果を安定的に持続し、かつシートの耐候性(耐変色性)を安定持続することを可能とする。
【0008】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記樹脂加工マルチフィラメント糸条の断面形状が楕円または両端部が円弧状の略長方形で、この断面形状における高さと幅の比が2:3~1:5であることが好ましい。これによって多数のフィラメントが薄平たく重なって引き揃い、しかも薄平たく存在することで、マルチフィラメント糸条として十分な強度及び寸法安定性を保持しながら、マルチフィラメントと、塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差を0.05以内、または同一とした時に、光学的にマルチフィラメントの存在をより透明化して見え難くすることができる。
【0009】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記樹脂加工マルチフィラメント糸条を構成するマルチフィラメントが、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、及び塩化ビニル繊維から選ばれた1種以上であることが好ましい。特にガラス繊維(特にEガラス:屈折率1.55~1.56)による樹脂加工マルチフィラメント糸条が好ましい。
【0010】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記粗目格子状構造体が、1)経/マルチフィラメント糸条群、及び緯/マルチフィラメント糸条群で構成された織物、または2)経/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された三軸織物、または3)経/マルチフィラメント糸条群、緯/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された四軸織物、から選ばれた何れか1種を基材として、前記塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填され、さらに前記エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により透明被覆されたもので、前記粗目格子状構造体の粗目格子1個当たりの面積が25mm2~111mm2の範囲内であって、これらに含む全ての粗目格子の面積はほぼ等しいことが好ましい。
【0011】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記粗目格子状構造体が、4)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/緯交点で固着された二軸ネット、または5)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/バイアス交点で固着された三軸ネット、または6)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°バイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/緯/バイアス交点で固着された四軸ネット、から選ばれた何れか1種で、何れも前記樹脂加工マルチフィラメント糸条が、塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填され、さらに前記エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により透明被覆された、粗目格子1個当たりの面積が100mm2~2600mm2の範囲内であって、これらに含む全ての粗目格子の面積はほぼ等しいことが好ましい。
【0012】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記芳香族リン酸エステル化合物が、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、及びリン酸2-エチルヘキシルジフェニル、から選ばれた1種以上で、前記塩化ビニル樹脂組成物に占める塩化ビニル樹脂の質量に対して50~200質量%であることが好ましい。これは特にガラス繊維(例えばEガラス:屈折率1.55~1.56)による樹脂加工マルチフィラメント糸条と、これらの芳香族リン酸エステル化合物との併用で、相互の屈折率差を0.05以内とすることで、粗目格子状構造体の存在を目立たなくすることができる。
【0013】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記塩化ビニル樹脂組成物が、さらにエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸2-エチルヘキシル、及びエポキシヘキサヒドロフタル酸ジエポキシステアリルから選ばれた1種以上のエポキシ系化合物を、前記芳香族リン酸エステル化合物の総量に対して1~25質量%含んでいることが好ましい。これらのエポキシ系化合物を含有することによって塩化ビニル樹脂組成物に必須成分として含む芳香族リン酸エステル化合物の耐候性(耐変色性)を改善することができる。
【0014】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記透明樹脂シートが塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主体とする軟質塩化ビニル系樹脂組成物で構成され、可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル、イソフタル酸ジアルキルエステル、テレフタル酸ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル、及びシクロヘキセンジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた1種以上で、前記塩化ビニル系樹脂の質量に対して35~100質量%の配合量であることが好ましい。これらの可塑剤を主体とすることによって透明樹脂シートの耐候性(耐変色性)を安定持続することができる。
【0015】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記透明樹脂シートの表面(表側及び/または裏側)に、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上の塗膜からなる防汚層が設けられていることが好ましい。この防汚層の付帯によって本発明の透明フレキシブルシートの視認性を損なうことなく、長期間の安定持続的に煤塵汚れなどの容易な拭き取り除去性を発現することで外観を美麗に保つことを可能とする。
【0016】
本発明の透明フレキシブルシートは、前記透明樹脂シートの最外表面(表側及び/または裏側)に、1次粒子径3nm~150nmの無機コロイド物質を原料とするナノ粒子が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含むバインダー成分に担持されてなる帯電防止性防汚層が設けられていて、前記無機コロイド物質が、光触媒性酸化チタンゾル、光触媒性酸化亜鉛ゾル、光触媒性酸化錫ゾル、酸化チタンゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化錫ゾル、シリカゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、及び複合酸化物(酸化亜鉛-五酸化アンチモン複合または酸化スズ-五酸化アンチモン複合)ゾルから選ばれた1種以上の金属酸化物であることが好ましい。この帯電防止性防汚層の付帯によって本発明の透明フレキシブルシートの視認性を損なうことなく、帯電による煤塵の付着堆積を抑止し、煤塵が付着したとしても容易な拭き取り除去性と、さらには降雨時のセルフクリーニング効果発現により外観を美麗に保つことを可能とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により得られた透明フレキシブルシートは、樹脂加工マルチフィラメント糸条で構成された粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを積層してなる複合体において、樹脂加工マルチフィラメント糸条が、1)芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆し、かつマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士の空隙全体を充填し、2)マルチフィラメントと、塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差を0.05以内とすることで、樹脂加工マルチフィラメント糸条の存在が光学的に軟質塩化ビニル樹脂組成物と同化し、その結果、粗目格子状構造体の存在が光学的に消失する効果を発現し、3)さらに1)の糸条の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を有し、この透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差を0.05以内とすることによって、1)の糸条の透明性を維持し、しかも透明被覆層を設けてもフレキシブル性を大きく損なうような欠点を生じることがない。またこの透明被覆層は、芳香族リン酸エステル化合物が透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層として作用することで、芳香族リン酸エステル化合物が安定的に樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留まることで、粗目格子状構造体の存在が経時的に視界の妨げとなるような白濁露呈がなく、シート全体の視認性を良好に維持することができ、しかも長期間の耐候性(耐変色性)に優れた透明フレキシブルシートが得られるので、例えば、膜構造建造物(パビリオン外装、美術館オブジェ、博物館オブジェ)、シートハウス、園芸ハウスなどの屋外用途での本体材料及び採光窓などのパーツ材、また電子・電気機器工場、病院・研究施設などの屋内用途で使用する間仕切り、カーテン、機器カバー、さらにはバッグ、レジャーシートなどの雑貨用途、などの産業資材に広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の透明フレキシブルシートの基材である粗目格子状構造体を構成する 樹脂加工マルチフィラメント糸条の断面図
【
図2】本発明の透明フレキシブルシートの基材である粗目格子状構造体の一例を示 す図
【
図3】本発明の透明フレキシブルシートの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の透明フレキシブルシートは、樹脂加工マルチフィラメント糸条で構成された粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを積層してなる複合体であって、樹脂加工マルチフィラメント糸条が、1)芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆し、かつマルチフィラメント糸条を構成するフィラメント同士の空隙全体を充填し、2)マルチフィラメントと、塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)の差が0.05以内であり、3)さらに1)の糸条の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を有し、この透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)の差を0.05以内とする構成である。
【0020】
本発明の透明フレキシブルシートに用いる粗目格子状構造体は、1)経/マルチフィラメント糸条群、及び緯/マルチフィラメント糸条群で構成された織物、または2)経/マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の左上がりバイアス/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の右上がりバイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された三軸織物、または3)経/マルチフィラメント糸条群、緯/マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の左上がりバイアス/マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の右上がりバイアス/マルチフィラメント糸条群で構成された四軸織物、から選ばれた何れか1種を基材として、この基材の全体を塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填し、さらにエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を設けたもの、あるいは、4)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を用いて製織された織物、または5)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の左上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を用いて製織された三軸織物、または6)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の左上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を用いて製織された四軸織物である。織物の組織は、平織物、バスケット織物、模紗織物、ラッセル編物などによる空隙率40~90%、特に50~85%の織物、三軸織物、または四軸織物が挙げられる。粗目格子状構造体の粗目格子1個当たりの面積は25mm2~111mm2の範囲内で、全ての粗目格子面積がほぼ等しいことが好ましい。粗目格子1個当たりの面積が25mm2未満だとシート全体に占める粗目格子状構造体の比率を大きくし、樹脂加工マルチフィラメント糸条の変色を目立つものとすることがある。また粗目格子1個当たりの面積111mm2を超えると織物構造の凹凸差の少ない平織が困難となる。特に1)及び4)の織物の場合、結果的に経/緯各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条群の打込密度が2~4本/インチ、2)及び5)の三軸織物の場合、結果的に経/バイアス各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条群の打込密度が2~4本/インチ、3)及び6)の四軸織物の場合、結果的に経/緯/バイアス各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条群の打込密度が2~4本/インチである。
【0021】
また一方、本発明の透明フレキシブルシートに用いる粗目格子状構造体は、7)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群が経/緯交点で固着された二軸ネット(非織物)で、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を最外層に有するもの使用できる。これら二軸ネット(非織物)における経/緯交点での糸条配置は、a)緯糸条群を等間隔で配置した全ての緯糸条の上に、全ての経糸条群を等間隔で乗せて配置した二軸ネット(表裏を反転した態様も含む)、b)緯糸条群を等間隔(例えばn間隔)で配置し、経糸条群の一部を等間隔(例えば2n間隔)で緯糸条群に乗せて配置し、かつ残りの経糸条群を等間隔(例えば2n間隔)で緯糸条群に敷いて経糸条群同士が等間隔(例えばn間隔)となるように配置した二軸ネット(表裏を反転した態様も含む)、c)経糸条群を等間隔(例えばn間隔)で配置し、緯糸条群の一部を等間隔(例えば2n間隔)で経糸条群に乗せて配置し、かつ残りの緯糸条群を等間隔(例えば2n間隔)で経糸条群に敷いて緯糸条群同士が等間隔(例えばn間隔)となるように配置した二軸ネット(表裏を反転した態様も含む)が挙げられる。ここで「一部の糸条群」と「残りの糸条群と」の関係は、一部の糸条群を奇数番目の配置糸条とする時、残りの糸条群は偶数番目の配置糸条の関係(奇数番目は1,3,5,7,9・・・、または1,5,9,13・・・など任意である。偶数番目も同様)である。また一部の糸条群の配置順を「1,2」「5,6」「9,10」・・・のペアとする時、残りの糸条群の配置順は「3,4」「7,8」「11,12」・・・のペアで、3ペア以上も同様の法則の数列配置である。特に一部の糸条群がランダムで、残りの糸条群もランダムな態様であってもよい。
【0022】
または8)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の左上がりバイアス樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは55°~65°特に好ましくは60°の右上がりバイアス樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/バイアス交点で固着された三軸ネット(非織物)で、樹脂加工マルチフィラメント糸条群に対して塩化ビニル樹脂組成物を被覆し、かつ充填し、さらにエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層を設けたものが使用できる。これら三軸ネット(非織物)における経/バイアス交点での糸条配置は、d)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で配置したこれら全ての経糸条群の上に、全ての40°~65°左上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で重ねて乗せて配置し、さらにその上に40°~65°右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で重ねて乗せて配置した三軸非織物ネット(表裏を反転した態様も含む)、e)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で配置し、これら全ての経糸条群の上に、全ての40°~65°左(右)上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で乗せて配置し、全ての40°~65°右(左)上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔で全ての経糸条群に敷かれるように配置した三軸非織物ネット(表裏を反転した態様も含む)、f)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔(例えばn間隔)で配置したこれら全ての経糸条群の上に、40°~65°右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群の一部を等間隔(例えば2n間隔)で乗せて配置し、残りの糸条群を等間隔(例えば2n間隔)で全ての経糸条群に敷かれるように配置し、さらに経糸条群の上に、40°~65°左上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群の一部を等間隔(例えば2n間隔)で乗せて配置し、残りの糸条群を等間隔(例えば2n間隔)で全ての経糸条群に敷かれるように配置し、左バイアス糸条群同士の糸条が等間隔(例えばn間隔)、及び右バイアス糸条群同士の糸条が等間隔(例えばn間隔)となる三軸ネット(表裏を反転した態様も含む)、g)40°~65°右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°右上がりバイアス/樹脂加工マルチフィラメント糸条群を等間隔(例えばn間隔)で配置し、左右バイアス糸条群の上に、経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群の一部を等間隔(例えば2n間隔)で乗せて配置し、残りの糸条群を等間隔(例えば2n間隔)で全ての左右バイアス糸条群に敷かれるように配置し、経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群同士の糸条が等間隔(例えばn間隔)となる三軸ネット(表裏を反転した態様も含む)、h)上記g)の態様において左右バイアス糸条群同士が交互に相手の糸条の上下に配置された三軸ネット(表裏を反転した態様も含む)などが使用できる。ここで「一部の糸条群」と「残りの糸条群と」の関係は段落〔0021〕末尾参照。
【0023】
または9)経/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、緯/樹脂加工マルチフィラメント糸条群、40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の左上がりバイアス樹脂加工マルチフィラメント糸条群、及び40°~65°好ましくは40°~50°特に好ましくは45°の右上がりバイアス樹脂加工マルチフィラメント糸条群が、経/緯/バイアス交点で固着された四軸ネット(非織物)で、樹脂加工マルチフィラメント糸条群は塩化ビニル樹脂組成物で被覆、かつ充填され、さらにエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による透明被覆層が設けられたものが使用できる。これら四軸ネットにおける経/緯/左右バイアス交点での糸条配置は、段落〔0021〕に記載の二軸ネットの態様と、段落〔0022〕に記載の三軸ネットの態様群との組み合わせの何れかである。
【0024】
7)~9)の粗目格子状構造体(ネット)における粗目格子1個当たりの面積は100mm2~2600mm2の範囲内で、全ての粗目格子面積がほぼ等しいことが好ましい。粗目格子1個当たりの面積が100mm2未満だとシート全体に占める粗目格子状構造体の比率を大きくし、樹脂加工マルチフィラメント糸条の変色を目立つものとすることがある。また粗目格子1個当たりの面積2600mm2を超えるとシート全体に占める粗目格子状構造体の比率を小さくし、透明フレキシブルシートとしての強度及び寸法安定性を損なうことがある。特に7)の二軸ネットの場合、経/緯各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条の打込密度が0.5~2.5本/インチ、8)の三軸ネットの場合、経/バイアス各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条の打込密度が0.5~2.5本/インチ、9)の四軸ネットの場合、経/緯/バイアス各々の樹脂加工マルチフィラメント糸条の打込密度が0.5~2.5本/インチである。
【0025】
本発明の透明フレキシブルシートに用いる粗目格子状構造体1)~9)において、樹脂加工マルチフィラメント糸条には、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、及び塩化ビニル繊維から選ばれた1種以上のマルチフィラメント(直径1~20μmの単糸を100~500本収束)が使用でき、特にガラス繊維の使用が好ましい。ガラス繊維によるマルチフィラメント糸条は、繊度138~1111dtex(デシテックス)、特に277~833dtex、屈折率1.55~1.56のマルチフィラメント糸条が好ましく、マルチフィラメント糸条を構成するフィラメント単糸個々の直径は、1μm~15μm、特に5μm~12μmで、これらのフィラメント単糸を50~500本、特に200~400本で集束してなる糸条が好ましい。特にフィラメントを形成するガラス質として、E(無アルカリ)ガラス、C(アルカリ含)ガラス、Mガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラスなどの公知のガラス組成が挙げられるが、特に産業資材シート用途ではEガラス(JIS K7142:屈折率1.55~1.56)が好ましく、それによって塩化ビニル樹脂組成物の屈折率と近似することで光学的に一体化させ、(半)透明化を計ることで得られるシートの透視外観での、粗目格子状構造体の存在を目立たないものとし、視界を遮らないようにすることをより可能とする。特にガラス繊維を用いる場合、屈折率の調整目的で公知のシランカップリング剤によりガラス繊維表面の屈折率が改質されたものを使用することもできる。
【0026】
また樹脂加工マルチフィラメント糸条に用いるマルチフィラメント糸条の断面形状は楕円または両端部が円弧状の略長方形で、この断面形状における高さと幅の比を2:3~1:5、特に1:2~1:5とすることで、塩化ビニル樹脂組成物の屈折率との近似による(半)透明化を計る際の、シート正面からの観察における透明性をより向上させることを可能とする。これらのマルチフィラメント糸条は、紡糸工程で0~1回/25mmのピッチで撚りが施された糸条が好ましい。本発明においては撚数0の無撚糸の使用が最も好ましいが、糸のほつれ防止、及び取り扱い性の都合から0.5~0.7回の撚りが施された弱撚糸が特に好ましい。またこれらのマルチフィラメント糸条には糊剤処理、油剤処理、サイジング剤処理、などを施したものも使用できる。従って本発明の透明フレキシブルシートに用いる粗目格子状構造体1)~6)において、樹脂加工マルチフィラメント糸条の断面形状は楕円または両端部が円弧状の略長方形で、この断面形状における高さと幅の比を2:3~1:5、特に1:2~1:5とすることで、塩化ビニル樹脂組成物の屈折率との近似による(半)透明化を計る際の、シート正面からの観察における透明性をより向上させることを可能とする。
【0027】
樹脂加工マルチフィラメント糸条は、1)織物、三軸織物、または四軸織物から選ばれた何れか1種を基材として、芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物で基材を被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填した基材の最外層を、エポキシ系樹脂またはスチレン系樹脂/アクリル系樹脂ブレンドで樹脂被覆して透明な被覆層を設けて得た粗目格子状構造体の構成要素である。2)また、マルチフィラメント糸条に対し、芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填した糸条の最外層を、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により樹脂被覆して透明な被覆層を設けた糸条である。この樹脂加工マルチフィラメント糸条の積重固定によって、非織物による粗目格子状構造体が構成される。3)また、マルチフィラメント糸条に対し、芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物でマルチフィラメント糸条を被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填した糸条を用い、この糸条の積重固定によって、非織物による粗目構造体を構成し、この粗目構造体の最外層を、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上により樹脂被覆して透明な被覆層を設けて得た粗目格子状構造体の構成要素である。
【0028】
段落〔0027〕の1~3)で、芳香族リン酸エステル化合物を含有する塩化ビニル樹脂組成物で糸条(または基材)を被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填する手段は、芳香族リン酸エステル化合物(液体)を含有し、粘度調整された塩化ビニル樹脂ペーストゾルの液浴中に糸条(または基材)を浸漬し、マルチフィラメント同士の隙間による毛管現象を利用して、あるいは減圧状態で、塩化ビニル樹脂ペーストゾルをマルチフィラメント同士の隙間に浸透させ、マルチフィラメント同士の隙間に存在する空気と完全に置換した後、糸条(または基材)を引き上げ、これを2本のゴムロールで圧搾することで糸条(または基材)を0.005~0.1mm厚で被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填することを可能とし、次いで150~200℃で15~120秒の加熱により塩化ビニル樹脂ペーストゾルをゲル化(固化)させることで達成される。または、芳香族リン酸エステル化合物(液体)を含有し、粘度調整された塩化ビニル樹脂ペーストゾルで、糸条(または基材)に押出コーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティングなどを行い、マルチフィラメント同士の隙間による毛管現象を利用して、あるいは減圧状態で、塩化ビニル樹脂ペーストゾルをマルチフィラメント同士の隙間に浸透させ、マルチフィラメント同士の隙間に存在する空気と完全に置換した後、150~200℃で15~120秒の加熱により塩化ビニル樹脂ペーストゾルをゲル化(固化)させることで糸条(または基材)を0.005~0.1mm厚で被覆、かつマルチフィラメント同士の隙間を充填することが達成される。
【0029】
段落〔0027〕の1)~3)及び段落〔0028〕に記載した塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂(屈折率1.54)、芳香族リン酸エステル化合物(JIS K7142:屈折率1.508~1.563の液体)を主体とするJIS K7142の屈折率1.52~1.56のゲル化(固化)した透明樹脂組成物であり、他に塩化ビニル樹脂用の公知の可塑剤、塩化ビニル樹脂用の公知の安定剤(例えばエポキシ系化合物)などを塩化ビニル樹脂組成物の屈折率が1.52~1.56の範囲内で配合を調整することが好ましい。必要に応じて、紫外線吸収剤、耐光安定剤、酸化防止剤、防黴剤などの公知の添加剤を用いることもでき、塩化ビニル樹脂組成物の屈折率に関しては上記と同様の制約とする。塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルモノマーの単独重合体(乳化重合粉体)が最も好ましいが、塩化ビニルモノマーと他のビニルモノマーによる塩化ビニル系共重合体樹脂を使用することもできる。芳香族リン酸エステル化合物の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して50~200質量部、好ましくは750~150質量部である。芳香族リン酸エステル化合物は、リン酸トリクレジル(屈折率1.557)、リン酸トリフェニル(屈折率1.552~1.563)、リン酸トリキシレニル(屈折率1.554)、リン酸クレジルジフェニル(屈折率1.560)、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル(屈折率1.508~1.511)から選ばれた1種以上を用いることができる。上記屈折率はJIS K7142による。
【0030】
段落〔0027〕~〔0029〕に記載の塩化ビニル樹脂組成物、及びさらに可塑剤、及び/またはエポキシ系化合物を併用する塩化ビニル樹脂組成物のJIS K7142の屈折率は1.52~1.56の範囲が好ましい。この塩化ビニル樹脂組成物とマルチフィラメント糸条との屈折率(JIS K7142)の差を0.05以内とすることによって、樹脂加工マルチフィラメント糸条の存在が光学的に軟質塩化ビニル樹脂組成物と同化し、その結果、粗目格子状構造体の存在が光学的に消失する効果でシートの透視性及び視界を良好とする。このようなマルチフィラメント糸条の屈折率(JIS K7142)は、1.47~1.61である。段落〔0027〕~〔0029〕に記載の塩化ビニル樹脂組成物に追加して含むことができる可塑剤は、フタル酸ジアルキルエステル、イソフタル酸ジアルキルエステル、テレフタル酸ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル、及びシクロヘキセンジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた1種以上で、用いる芳香族リン酸エステル化合物の質量に対して1~35質量%の配合量が好ましい。これら可塑剤の配合量が35質量%を超えると屈折率の差が0.05を超え、マルチフィラメント糸条の存在が(半)透明とならず、粗目格子状構造体の存在が目立ってシートの視界を悪くすることがある。また段落〔0027〕~〔0029〕に記載の塩化ビニル樹脂組成物に含むことができるエポキシ系化合物は塩化ビニル樹脂の耐熱/耐候安定剤として作用するものでこれらは、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸2-エチルヘキシル、及びエポキシヘキサヒドロフタル酸ジエポキシステアリルから選ばれた1種以上であり、用いる芳香族リン酸エステル化合物の配合量に対して1~25質量%の配合量が好ましい。これらエポキシ系化合物の配合量が25質量%を超えると屈折率の差が0.05を超え、マルチフィラメント糸条の存在が(半)透明とならず、粗目格子状構造体の存在が目立ってシートの視界を悪くすることがある。
【0031】
段落〔0027〕の1)~3)による樹脂加工マルチフィラメント糸条は、段落〔0028〕で製造された糸条(または基材)の表面全体にエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、及びアクリル系樹脂から選ばれた1種以上による屈折率(JIS K7142)1.47~1.61、好ましくは1.52~1.56の透明被覆層を厚さ0.001~0.1mmの範囲で設けたものである。この透明被覆層は、芳香族リン酸エステル化合物が透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層として作用し、芳香族リン酸エステル化合物が安定的に樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留まることで、粗目格子状構造体の透明効果を安定的に持続し、経時的に視界の妨げとなるような露出がなく、シート全体での視認性を良好に維持することができる。この透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物(樹脂加工マルチフィラメント糸条)との屈折率(JIS K7142)の差を0.05以内とすることによって(半)透明化された糸条の透明性を維持し、しかも透明被覆層を設けてもフレキシブル性を大きく損なうことなく、シートの耐候性(耐変色性)を安定持続することを可能とする。透明被覆層は、1)エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた1種以上を溶解して含む溶剤系塗料、または2)エポキシ系樹脂エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョンから選ばれた1種以上を含む水性塗料の液浴中に段落〔0028〕で製造された糸条(または基材)を浸漬し、これを引き上げ乾燥することで形成することができ、別法では上記溶剤系塗料または水性塗料を用いた、糸条(または基材)への押出コーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティングなどによる塗工によって形成できる。
【0032】
エポキシ系樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールA骨格を有する3官能エポキシ樹脂(ビスフェノールA骨格含有3官能エポキシ樹脂)、スチルベン型エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノールエタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリオキサール型エポキシ化合物、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、及び脂肪族型エポキシ化合物などから選ばれた、JIS K7142の屈折率1.56~1.70を有する1種以上が挙げられる。これらに併用する硬化剤は、酸無水物系硬化剤、カチオン系触媒が好ましい。酸無水物硬化剤としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、(水添)無水ナジック酸、メチル水添無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ジクロロコハク酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、クロレンディック酸無水物、シクロヘキサントリカルボン酸無水物などから選ばれた1種以上が挙げられ、エポキシ系樹脂はこれらの硬化剤の反応物20~50質量%を含む組成物としてJIS K7142の屈折率1.50~1.60を有するものが好ましい。特に透明性が優れることからメチルヘキサヒドロフタル酸無水物やメチル水添無水ナジック酸が好ましい。特に硬化反応を促進させるために、パーオキサイド系化合物、アミン系化合物、フェノール系化合物、4級アンモニウム系化合物、4級ホスホニウム系化合物、芳香族スルホニウム塩、などを0.1~0.5質量%用いることが好ましい。
【0033】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-1,3-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-4-プロピルスチレン共重合体、スチレン-4-シクロヘキシルスチレン共重合体、スチレン-4-ドデシルスチレン共重合体、スチレン-2-エチル-4-ベンジルスチレン共重合体、などのスチレン系樹脂、更にスチレン系モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体樹脂が挙げられ、これらは例えば、JIS K7142の屈折率1.50~1.60を有するスチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体などである。他のスチレン系共重合体、及び上記スチレン共重合体と併用可能なスチレン系共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ビニルイソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブテンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブテンブロック共重合体などJIS K7142の屈折率1.50~1.60を有するものが使用できる。これらのスチレン系共重合体のスチレンモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、1-ビニルナフタレン、1-ビニルアントラセンなどが挙げられる。
【0034】
またアクリル系樹脂としては、またアクリル系樹脂としては、単官能(メタ)アクリル酸エステル類から選ばれた1種のモノマーによる単独重合体、あるいは2種以上のモノマーによる共重合体、多官能(メタ)アクリル酸エステル類から選ばれた1種のモノマーによる単独重合体、あるいは2種以上のモノマーによる共重合体、これらモノマーから選ばれた1種以上と変性(メタ)アクリル酸エステル類(例えばエポキシ変性、ポリエステル変性、ウレタン変性)などのモノマーとによる共重合体など、JIS K7142の屈折率1.50~1.60を有する(共)重合体が好ましい。ここで「(メタ)アクリル酸エステル」は「アクリル酸エステル」、「メタアクリル酸エステル」の2種を同時に表す表記である。これらエステル部分の炭素数は1~18、特に1~8のアルキルエステルが好ましい。またアクリル系樹脂はアクリル系以外のモノマーとの共重合体であってもよく、アクリル系以外のモノマーにはマレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸などのエチレン性不飽和カルボン酸類、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドなどのアミド化合物類、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸類、スチレン類、α-オレフィン類、ビニルエーテル類、アルケニル類、ビニルエステル類、芳香族ビニル化合物類なども使用できる。
【0035】
粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に積層する透明樹脂シートは、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主体とする軟質塩化ビニル系樹脂組成物で構成され、可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル、イソフタル酸ジアルキルエステル、テレフタル酸ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル、及びシクロヘキセンジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた1種以上で、塩化ビニル系樹脂の質量に対して35~100質量部の配合量である。透明樹脂シートの可塑剤には、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、アジピン酸ポリエステル、アジピン酸ポリエステル、クエン酸エステル、安息香酸エステル、エチレン/一酸化炭素/酢酸ビニルエステルターポリマー、エチレン/一酸化炭素/アクリル酸エステルターポリマーなどを併用することができる。透明樹脂シートは、軟質塩化ビニル系樹脂をカレンダー成型、またはTダイス押出成型によって加工された厚さ0.1mm~0.5mmの透明フィルムが使用でき、耐候性、耐UV性を付与するために、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物などの公知の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物(HALS)の公知の光安定剤、及びフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物など公知の酸化防止剤、などを各々塩化ビニル系樹脂の質量に対して0.01~3質量部を配合することが好ましい。本発明の透明フレキシブルシートは、粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを熱圧ラミネート、または接着剤を用いて積層して得られる複合体によるシートで、厚さは0.2mm~2.0mm、特に0.4mm~0.8mmが好ましい。
【0036】
本発明の透明フレキシブルシートにおいて、透明樹脂シートの表面(表側及び/または裏側)には、1次粒子径3nm~150nmの無機コロイド物質を原料とするナノ粒子が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含むバインダー成分に担持されてなる帯電防止性防汚層を設けることができる。無機コロイド物質としては、光触媒性酸化チタンゾル、光触媒性酸化亜鉛ゾル、光触媒性酸化錫ゾル、酸化チタンゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化錫ゾル、シリカゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、及び複合酸化物(酸化亜鉛-五酸化アンチモン複合または酸化スズ-五酸化アンチモン複合)ゾルから選ばれた1種以上の金属酸化物が好ましい。帯電防止性防汚層は、無機コロイド物質を1~25質量%と、無機コロイド物質を原料とするナノ粒子の質量に対してシランカップリング剤を1~10質量%含む液状組成物を、透明フレキシブルシート(透明樹脂シート)の表面に、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、キスコート法、フローコート法、スプレー法などの方法で塗工した後、熱風やヒーターで乾燥固化して得られる厚さ0.1μm~10μmのゾルゲル薄膜である。得られる透明フレキシブルシートの表面抵抗値(測定方法:JIS K6911:1995年:測定条件:湿度30%RH-温度23℃)を、1.0E+12Ω未満の帯電防止性とすることができる。シランカップリング剤は、シランカップリング剤の加水分解縮合物の態様で帯電防止性防汚層の耐摩耗性向上のために併用し、シランカップリング剤は一般式:XR-Si(Y)3で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有する化合物で、例えば、X=アミノ基、ビニル基、エポキシ基、クロル基、メルカプト基など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。帯電防止性防汚層は透明フレキシブルシート(透明樹脂シート)の全面形成したものが好ましいが、格子状のネットワーク形成であってもよい。
【0037】
本発明の透明フレキシブルシートにおいて、透明樹脂シートの表面(表側及び/または裏側)には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上の塗膜からなる防汚層が設けられていることが好ましい。アクリル系樹脂は段落〔0034〕に例示したものが使用できる。フッ素系共重合体樹脂は、有機溶剤に可溶性であるフルオロオレフィン共重合体樹脂が好ましい。フルオロオレフィンモノマーは、例えば、フッ化ビニル、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどから選ばれた2種以上を共重合して得られるもので、特にビニリデンフルオライド系共重合体樹脂が有機溶剤への溶解性に優れ好ましく、さらにビニルモノマー(アルキル置換-α-オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニル基含有エステル類など)を共重合させたものが有機溶剤への溶解性に各段に優れ好ましい。これらのフルオロオレフィン共重合体樹脂は、共重合ビニル成分中に有する水酸基、カルボキシル基などの反応性基を、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、メラミン化合物など公知の硬化剤(架橋剤)と反応させ架橋ネットワークを形成することで防汚層塗膜の耐摩耗性、耐酸性雨性、耐候性などを向上させることができる。用いる硬化剤(架橋剤)の量はフルオロオレフィン共重合体樹脂(固形分)に対して、固形分量換算で1~20質量%、好ましくは3~15質量%である。アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド比率は、1:99~99:1である。ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂はウレタン樹脂を主鎖として側鎖にポリシロキサン成分を有するもの、またウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂はウレタン樹脂を主鎖として側鎖に上述のフッ素系共重合体樹脂成分を有するものである。この防汚層は上記樹脂成分を固形分濃度1~35質量%で含有する溶剤型塗料、またはエマルジョン型塗料を用い、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、キスコート法、フローコート法、スプレー法などの方法で塗工した後、熱風やヒーターで乾燥固化して得られる厚さ1μm~50μmの塗膜である。この防汚層には段落〔0036〕に記載した無機コロイド物質を上記樹脂成分の質量に対して0.1~10質量%含むことができ、これによって防汚効果をより高度のものとすると同時に帯電防止性を付帯することができる。
【0038】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施例及び比較例に使用した評価方法を下記に示す。
(1)視認性(視界の良し悪し)
製造1ケ月内の試験体シート(高さ60cm×幅100cm)を社屋ビル3階の透明窓ガラス(室内側)の目線の高さに当て、透明テープで試験体シートの四隅を窓ガラスに固定し、窓ガラスから1mの立ち位置で屋外風景を観察した時の視界の良し悪しを10名のパネラーが3段階評価し最も多い評価を採用した。観察評価は9月の晴天日の午後1時から30分間実施し、観察は順光となる景色のある窓面を選択した。
評価「A」:粗目格子状構造体の存在が目立たず視認性が良い(視界が広い)
評価「B」:粗目格子状構造体の存在がやや目立ち視認性がやや悪い(視界がやや狭い)
評価「C」:粗目格子状構造体の存在が目立ち視認性が悪い(視界が狭い)
(2)使用6ケ月経過後のシートの視認性(視界の良し悪し)
上記試験体シートを4月―9月の6ケ月間静置した後(1)と同様の評価を実施した。
(3)加温促進後のシートの視認性(視界の良し悪し)
65℃のエアー循環型オーブン中に480時間静置した試験体シート(高さ60cm×幅100cm)を(1)と同様に固定し(1)と同様の評価を実施した。
(4)促進耐光試験による変色性
キセノンアークランプによる促進耐光試験(JIS-K5600)を1000時間行い、促進前の試験体シートを基準とし、試験後の表面の変退色度合いを、色差ΔE(JIS-Z8729)として数値化し変色性を評価した。
【0039】
[実施例1]
(1)粗目格子状構造体中間体1(ネット)
単糸径9μmのガラス(Eガラス:JIS K7142屈折率1.56)フィラメント×フィラメント数400本×撚数0.7回/25mmの68.7tex番手のマルチフィラメント糸条(断面形状が略長方形で断面形状における高さと幅の比が2:7)を経糸条群及び緯糸条群に用い、経糸条群を2cm間隔で配置し、緯糸条群の配置順での奇数糸条は4cm間隔で経糸条群に乗せて配置し、かつ緯糸条群の配置順での偶数糸条は4cm間隔で緯糸条に敷いて緯糸条群同士の間隔が2cmとなるように配置した、経糸条及び緯糸条の打ち込み密度が1.27本/インチ、空隙率80%の非織物による二軸ネットを用いた。
(2)粗目格子状構造体中間体2(樹脂含浸被覆ネット)
下記〔配合1〕の塩化ビニル樹脂ペーストゾル組成物を適度な粘度に調製し、この〔配合1〕のペーストゾル組成物を充填した液浴中に、二軸ネットを浸漬し、マルチフィラメント糸条に完全に〔配合1〕のペーストゾル組成物を含浸し、二軸ネットを引き上げると同時にゴムロールで圧搾して180℃の熱風炉で3分間、〔配合1〕のペーストゾル組成物のゲル化を完結させ、〔配合1〕の塩化ビニル樹脂組成物が含浸し、かつ被覆してなる二軸ネットによる粗目格子状構造体中間体2を得た。このゲル化した塩化ビニル樹脂組成物のJIS K7142の屈折率1.548であった。
〔配合1〕軟質塩化ビニル樹脂ペーストゾル組成物
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(屈折率1.557) 140質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール系化合物(紫外線吸収剤) 0.2質量部
(3)粗目格子状構造体
下記〔配合2〕のエポキシ系樹脂透明組成物をMEK希釈剤で適度な粘度に調製し、この〔配合2〕の液状組成物を60メッシュのグラビアロールにより粗目格子状構造体中間体2の両面にグラビア塗工し、粗目格子状構造体中間体2の最外層全面に〔配合2〕の液状組成物を付着させ、150℃の熱風炉で3分間加熱乾燥し、〔配合2〕のエポキシ系樹脂透明組成物が硬化した透明被覆層を付帯する粗目格子状構造体(1)を得た。ビスフェノールA骨格含有3官能エポキシ樹脂(65質量部)とシクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物(35質量部)との反応により形成された透明被覆層のJIS K7142の屈折率は1.568であった。
〔配合2〕エポキシ系樹脂透明組成物
エポキシ樹脂(ビスフェノールA骨格含有3官能エポキシ樹脂) 65質量部
※エポキシ当量260g/eq
シクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物 35質量部
※カルボキシル当量100g/eq
パーオキサイド系硬化促進剤 0.25質量部
メチルエチルケトン(MEK希釈剤) 300質量部
(4)透明フレキシブルシート
粗目格子状構造体(1)の両面に下記〔配合3〕の軟質塩化ビニル系樹脂透明組成物から165℃~180℃の熱条件でカレンダー成型した厚さ0.18mmの透明樹脂シートを表面透明樹脂シート、及び裏面透明樹脂シートとし、この表裏シートで粗目格子状構造体(1)を基材として挟む構成で、170℃の熱ロール条件のラミネーターを通過させて透明樹脂シートを熱軟化させた状態で積層圧着、冷却し、厚さが0.36mm、質量457g/m2の透明フレキシブルシートを得た。得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.02(0.05以内)であり、得られたシートは粗目格子状構造体が半透明化して、積層した透明樹脂シートと透明性が同化することで視認性はすこぶる良好で、この効果は使用6ケ月経過後、及び65℃×480時間促進後においても依然良好であった。これは透明被覆層(エポキシ系樹脂)の存在によって、塩化ビニル樹脂組成物に含む芳香族リン酸エステル化合物を樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留め、芳香族リン酸エステル化合物を透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層として作用させた発明によるものである。
〔配合3〕軟質塩化ビニル系樹脂透明組成物
懸濁重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(DINP) 65質量部
エポキシ化大豆油(可塑剤) 5質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール系化合物(紫外線吸収剤) 0.2質量部
(5)防汚層
下記〔配合4〕のフッ素系樹脂塗料を100メッシユのグラビアロールにより透明フレキシブルシートの片面(表面)にグラビア塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、〔配合4〕のフッ素系樹脂塗料が硬化(フッ素樹脂が含有する水酸基とヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体との架橋反応)した防汚層を付帯する厚さが0.36mm、質量460g/m2の透明フレキシブルシートを得た。この防汚層を付帯する前後での2種の透明フレキシブルシートの防汚性を、市販の油性ペン(赤)文字描き、室温60秒乾燥後のDRYティッシュペーパー拭取除去性(擦り取り往復10回)で評価した結果、明らかに防汚層(シート表面への可塑剤移行を防止する作用も兼備する)を付帯するシートの赤インク文字の除去性に優れ、僅かな部分残存であったのに対し、防汚層を付帯しないシートでは赤インク文字がシートに浸透し、しかも擦った部分にインク汚れが延びて見苦しい状態であった。またこの2種の透明フレキシブルシートを8-10月の3ケ月間屋外曝露し、WETティッシュペーパー拭取除去性(擦り取り往復10回)で評価した結果、明らかに防汚層(シート表面への可塑剤移行を防止する作用も兼備する)を付帯するシートでは付着煤塵の除去性に優れ、初期の外観を回復したのに対し、防汚層を付帯しないシートでは、シート表面に可塑剤が移行することで付着煤塵が頑固にこびり付き、初期の外観が回復できないものであった。この防汚層の有無に拘わらず、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率差、及び透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率差は変わらないものである。
〔配合4〕フッ素系樹脂塗料(防汚層形成用)
水酸基含有フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体(フッ素系樹脂) 100質量部
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体(イソシアネート)10質量部
硬化触媒:ジブチル錫ジラウレート(フッ素系樹脂に対し約10ppm)
トルエン/酢酸ブチル(質量比1:1の希釈剤) 100質量部
【0040】
[実施例2]
実施例1の〔配合2〕のエポキシ系樹脂透明組成物を、下記〔配合5〕のスチレン系樹脂透明組成物に変更した以外は実施例1と同様として、防汚層を付帯する厚さが0.36mm、質量460g/m2の透明フレキシブルシートを得た。防汚層の有無に関係なく、得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層(JIS K7142屈折率1.563)と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.015(0.05以内)であり、得られたシートは粗目格子状構造体が半透明化して、積層した透明樹脂シートと透明性が同化することで視認性はすこぶる良好で、この効果は使用6ケ月経過後、及び65℃×240時間促進後においても依然良好であった。これは透明被覆層(スチレン系樹脂)の存在によって、塩化ビニル樹脂組成物に含む芳香族リン酸エステル化合物を樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留め、芳香族リン酸エステル化合物を透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層として作用させた発明によるものである。
〔配合5〕スチレン系樹脂透明組成物
スチレン-1,3-ジメチルスチレン共重合体 50質量部
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体 50質量部
メチルエチルケトン(MEK希釈剤) 250質量部
トルエン(希釈剤) 250質量部
【0041】
[実施例3]
実施例1の〔配合2〕のエポキシ系樹脂透明組成物を、下記〔配合6〕のアクリル系樹脂透明組成物に変更した以外は実施例1と同様として、防汚層を付帯する厚さが0.36mm、質量460g/m2の透明フレキシブルシートを得た。防汚層の有無に関係なく、得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層(JIS K7142屈折率1.566)と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.018(0.05以内)であり、得られたシートは粗目格子状構造体が半透明化して、積層した透明樹脂シートと透明性が同化することで視認性はすこぶる良好で、この効果は使用6ケ月経過後、及び65℃×240時間促進後においても依然良好であった。これは透明被覆層(アクリル系樹脂)の存在によって、塩化ビニル樹脂組成物に含む芳香族リン酸エステル化合物を樹脂加工マルチフィラメント糸条内に留め、芳香族リン酸エステル化合物を透明樹脂シート側に移行、拡散させないためのバリヤー層として作用させた発明によるものである。
〔配合6〕アクリル系樹脂透明組成物
メタアクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合体 50質量部
スチレン-メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体 50質量部
メチルエチルケトン(MEK希釈剤) 250質量部
トルエン(希釈剤) 250質量部
【0042】
[実施例4]
実施例1で用いた二軸ネットを下記三軸ネットに変更した以外は実施例1と同様として、防汚層を付帯する厚さが0.36mm、質量490g/m2の透明フレキシブルシートを得た。防汚層の有無に関係なく、得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層(JIS K7142屈折率1.566)と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.02(0.05以内)であった。
三軸ネット
単糸径9μmのガラス(Eガラス:JIS K7142屈折率1.56)フィラメント×フィラメント数400本×撚数0.7回/25mmの68.7tex番手のマルチフィラメント糸条(断面形状が略長方形で断面形状における高さと幅の比が2:7)を経糸条群、60°右上がりバイアスマルチフィラメント糸条群、及び60°左上がりバイアスマルチフィラメント糸条群に用い、経糸条群を2cm間隔で配置したこれら全ての経糸条群の上に、60°右上がりバイアスマルチフィラメント糸条群の一部を4cm間隔で乗せて配置し、残りの糸条群を4cm間隔で全ての経糸条群に敷かれるように配置し、さらに経糸条群の上に、60°左上がりバイアスマルチフィラメント糸条群の一部を4cm間隔で乗せて配置し、残りの糸条群を4cm間隔で全ての経糸条群に敷かれるように配置し、右上がりバイアス糸条群同士の糸条が2cm間隔、及び左上がりバイアス糸条群同士の糸条が2cm間隔とし、経糸条及びバイアス糸条の打ち込み密度が1.27本/インチ、空隙率70%の非織物による三軸ネットを用いた。
【0043】
[実施例5]
実施例1で用いた二軸ネットを下記四軸ネットに変更した以外は実施例1と同様として、防汚層を付帯する厚さが0.36mm、質量520g/m2の透明フレキシブルシートを得た。防汚層の有無に関係なく、得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層(JIS K7142屈折率1.566)と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.02(0.05以内)であった。
四軸ネット
単糸径9μmのガラス(Eガラス:JIS K7142屈折率1.56)フィラメント×フィラメント数400本×撚数0.7回/25mmの68.7tex番手のマルチフィラメント糸条(断面形状が略長方形で断面形状における高さと幅の比が2:7)を経糸条群、緯糸条群、45°右上がりバイアスマルチフィラメント糸条群、及び45°左上がりバイアスマルチフィラメント糸条群に用い、経糸条群を2cm間隔で配置し、緯糸条群の配置順での奇数糸条は4cm間隔で経糸条群に乗せて配置し、かつ緯糸条群の配置順での偶数糸条は4cm間隔で緯糸条に敷いて緯糸条群同士の間隔が2cmとなるように配置した。次にこれら全ての経緯糸条群の上に、45°右上がりバイアスマルチフィラメント糸条群の一部を4cm間隔で乗せて配置し、残りの糸条群を4cm間隔で全ての経緯糸条群に敷かれるように配置し、さらに経糸条群の上に、45°左上がりバイアスマルチフィラメント糸条群の一部を4cm間隔で乗せて配置し、残りの糸条群を4cm間隔で全ての経緯糸条群に敷かれるように配置し、右上がりバイアス糸条群同士の糸条が2cm間隔、及び左上がりバイアス糸条群同士の糸条が2cm間隔とし、経緯糸条及びバイアス糸条の打ち込み密度が1.27本/インチ、空隙率60%の非織物による四軸ネットを用いた。
【0044】
[実施例6]
実施例1の防汚層の上に、下記〔配合7〕の帯電防止性防汚塗料を120メッシュのグラビアロールで塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、〔配合7〕の帯電防止性防汚塗料をゾルゲル硬化させた帯電防止性防汚層を追加形成し、厚さが0.36mm、質量461g/m2の透明フレキシブルシートを得た。この帯電防止性防汚層には無機コロイド物質(光触媒性酸化チタンゾル及びシリカゾル)が、シランカップリング剤の加水分解縮合物によるバインダー成分に担持されたゾルゲル薄膜である。帯電防止性防汚層の付帯前後での透明フレキシブルシートの表面抵抗値(測定方法:JIS K6911:1995年:測定条件:湿度30%RH-温度23℃)は、明らかに帯電防止性防汚層を付帯するシートで1.0E+11Ω程度の帯電防止性を発現できたが、帯電防止性防汚層を付帯しないシートでは1.0E+14Ω程度に留まった。従って帯電防止性防汚層を付帯することで静電気による煤塵付着を大幅に減らすことを可能とする。防汚層及び帯電防止性防汚層の有無に関係なく、得られた透明フレキシブルシートにおいて、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.012(0.05以内)であり、透明被覆層(JIS K7142屈折率1.566)と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差は0.018(0.05以内)であった。
〔配合7〕帯電防止性防汚塗料(帯電防止性防汚層形成用)
光触媒性酸化チタンゾル(粒子径10nm×固形分8質量%) 50質量部
シリカゾル(粒子径12nm×固形分20質量%) 50質量部
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤) 2質量部
水/エタノール(質量比1:1からなる希釈剤) 50質量部
※水/エタノールはシランカップリング剤の加水分解縮合反応を促進させ、無機コロイ
ド物質(光触媒性酸化チタンゾル及びシリカゾル)とのゾルゲル中間体を形成する。
【0045】
【0046】
[比較例1]
実施例1の透明フレキシブルシートの粗目格子状構造体を構成する樹脂加工マルチフィラメント糸条において、最外層の透明被覆層(エポキシ系樹脂)の形成を省略した以外は実施例1と同様として、厚さが0.36mm、質量445g/m2の透明フレキシブルシートを得た。得られたシートは粗目格子状構造体が半透明化して、積層した透明樹脂シートと透明性が同化することで視認性は実施例1の透明フレキシブルシートと同等であった。しかし、この効果は使用6ケ月経過後、及び65℃×240時間促進後には失われ、粗目格子状構造体が白濁して存在露わとなり、その結果粗目格子状構造体の存在は視界の邪魔となった。これはバリヤー層である透明被覆層(エポキシ系樹脂)を省略したことによって、塩化ビニル樹脂組成物に含むリン酸トリクレジル(芳香族リン酸エステル化合物)が樹脂加工マルチフィラメント糸条内から透明樹脂シート側に移行、拡散することで、塩化ビニル樹脂組成物の屈折率が徐々に下がり、マルチフィラメントと塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.05を超えたことを原因とする不具合である。
【0047】
[比較例2]
実施例1の透明フレキシブルシートの粗目格子状構造体を構成する樹脂加工マルチフィラメント糸条において、最外層の透明被覆層(エポキシ系樹脂)の形成を省略し、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に積層する透明樹脂シートの配合〔配合3〕を下記〔配合8〕の軟質塩化ビニル系樹脂透明組成物に変更した以外は実施例1と同様として、厚さが0.36mm、質量445g/m2の透明フレキシブルシートを得た。
〔配合8〕軟質塩化ビニル系樹脂透明組成物
懸濁重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(屈折率1.557) 65質量部
エポキシ化大豆油(可塑剤) 5質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール系化合物(紫外線吸収剤) 0.2質量部
得られたシートは粗目格子状構造体が半透明化して、積層した透明樹脂シートと透明性が同化することで視認性は実施例1の透明フレキシブルシートと同等であった。比較例1同様バリヤー層である透明被覆層(エポキシ系樹脂)を省略したことで樹脂加工マルチフィラメント糸条からリン酸トリクレジル(芳香族リン酸エステル化合物)が透明樹脂シート側に容易に移行したにも拘わらず、透明樹脂シートの可塑剤にもリン酸トリクレジルを用いたことで6ケ月経過後にも粗目格子状構造体が白濁露呈することなく視認性は実施例1の透明フレキシブルシートの6ケ月後と同等であった。しかし、キセノンアークランプによる促進耐光試験(JIS-K5600)を1000時間行った結果、透明樹脂シートに含む多量のリン酸トリクレジルの存在が着色黄変(JIS-Z8729色差ΔE6.5)の原因となり、太陽光に晒されて使用するシート材料として不適切であることが明らかとなった。
【0048】
[比較例3]
実施例1の透明フレキシブルシートの粗目格子状構造体を構成する樹脂加工マルチフィラメント糸条において、〔配合2〕による最外層の透明被覆層(エポキシ系樹脂)の形成を、下記配合〔配合9〕のウレタン系樹脂透明組成物(屈折率1.495)に変更した以外は実施例1と同様として、厚さが0.36mm、質量460g/m2の透明フレキシブルシートを得た。得られたシートにおいて、ウレタン系樹脂による透明被覆層は確かにリン酸トリクレジル(芳香族リン酸エステル化合物)移行防止のバリヤー層としての作用を発現するものではあるが、透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)差が0.053(0.05超過)と大きくしたことで、粗目格子状構造体が白濁して存在露わとなり、その結果粗目格子状構造体の存在は視界の阻害物質となった。
【0049】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により得られた透明フレキシブルシートは、樹脂加工マルチフィラメント糸条で構成された粗目格子状構造体を基体として、この粗目格子状構造体の表面及び裏面の各々全面に透明樹脂シートを積層してなる複合体において、粗目格子状構造体を構成するマルチフィラメントと、塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)の差を0.05以内とすること、及び樹脂加工マルチフィラメント糸条の透明被覆層と塩化ビニル樹脂組成物との屈折率(JIS K7142)の差を0.05以内とする同時達成によって、粗目格子状構造体の存在を光学的に(半)透明化することを可能とする発明で、しかも透明被覆層は芳香族リン酸エステル化合物の移行防止にも有効であるため、粗目格子状構造体の存在が経時的に白濁露呈して視界の妨げとなるようなことなく、シート全体の視認性を良好に維持し、しかも長期間の耐候性(耐変色性)に優れるので、例えば、膜構造建造物(パビリオン外装、美術館オブジェ、博物館オブジェ)、シートハウス、園芸ハウスなどの屋外用途での本体材料及び採光窓などのパーツ材、また電子・電気機器工場、病院・研究施設などの屋内用途で使用する間仕切り、カーテン、機器カバー、さらにはバッグ、レジャーシートなどの雑貨用途、などの産業資材に広く使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
(1)樹脂加工マルチフィラメント糸条
(1-1)フィラメント
(1-2)マルチフィラメント糸条
(1-3)塩化ビニル樹脂組成物
(1-4)透明被覆層
(2)粗目格子状構造体
(3)透明樹脂シート
(4)透明フレキシブルシート