(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】3相モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220221BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/48 Z
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2020525258
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2019008756
(87)【国際公開番号】W WO2019244418
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/023139
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018218128
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181949(JP,A)
【文献】特開2009-284630(JP,A)
【文献】特表平08-510114(JP,A)
【文献】特開2015-023774(JP,A)
【文献】特開2016-123223(JP,A)
【文献】特開2017-175700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータに接続されるインバータを制御するコントローラを備える3相モータ駆動装置において、
前記インバータは、3相モータの3つの独立相コイルに別々に接続される3つのHブリッジからなり、
前記3つのHブリッジはそれぞれ、パルス幅変調(PWM)電圧を前記独立相コイルの一端に印加するPWMレグと、所定期間にわたって直流電圧を前記独立相コイルの他端に印加する固定電位レグからな
り、
前記コントローラは、前記PWMレグ及び前記固定電位レグを前記3相モータの電気角180度毎に交代する
ことを特徴とする3相モータ駆動装置。
【請求項2】
前記固定電位レグは、定常的にオンされる上アームスイッチをもつ請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項3】
前記Hブリッジの2つの上アームスイッチは、+電源線を通じて直流電源の正極に接続される+バスバーを挟む請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項4】
3相モータに接続されるインバータを制御するコントローラを備える3相モータ駆動装置において、
前記インバータは、3相モータの3つの独立相コイルに別々に接続される3つのHブリッジからなり、
前記3つのHブリッジはそれぞれ、パルス幅変調(PWM)電圧を前記独立相コイルの一端に印加するPWMレグと、所定期間にわたって直流電圧を前記独立相コイルの他端に印加する固定電位レグからなり、
前記コントローラは、前記PWMレグ及び前記固定電位レグを所定期間毎に交代し、
前記Hブリッジはそれぞれ、電源電流を供給するための電流供給期間をもち、
前記複数のHブリッジの前記電流供給期間は、互いにできるだけオーバーラップしない
ことを特徴とする3相モータ駆動装置。
【請求項5】
前記複数のHブリッジの電流供給期間は、互いにオーバーラップされる遷移期間をもつ請求項
4記載の3相モータ駆動装置。
【請求項6】
先行する前記電流供給期間は、後続する前記電流供給期間よりも長い請求項
4記載の3相モータ駆動装置。
【請求項7】
最長の前記電流供給期間は、残りの2つの前記電流供給期間により挟まれる請求項
4記載の3相モータ駆動装置。
【請求項8】
3つの相の電流供給期間のうち相対的に短い2つの前記電流供給期間は、優先的に互いにオーバーラップされる請求項
4記載の3相モータ駆動装置。
【請求項9】
3相モータに接続されるインバータを制御するコントローラを備える3相モータ駆動装置において、
前記インバータは、3相モータの3つの独立相コイルに別々に接続される3つのHブリッジからなり、
前記3つのHブリッジはそれぞれ、パルス幅変調(PWM)電圧を前記独立相コイルの一端に印加するPWMレグと、所定期間にわたって直流電圧を前記独立相コイルの他端に印加する固定電位レグからなり、
前記コントローラは、前記PWMレグ及び前記固定電位レグを所定期間毎に交代し、
前記3つのHブリッジの1つは、所定期間毎に順番に休止され、
他の2つの前記Hブリッジは、前記3相モータ内に回転磁界を形成する
ことを特徴とする3相モータ駆動装置。
【請求項10】
前記3つのHブリッジの1つは、前記3相モータの電気角60度毎に順番に休止される請求項
9記載の3相モータ駆動装
置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相モータ駆動装置に関し、特にインバータ損失を低減可能な3相モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用トラクションモータを駆動する3相インバータは、液体冷却装置により冷却される。しかし、この液体冷却装置は、車両重量を増加し、バッテリエネルギーを消費する。この車両重量の増加はバッテリエネルギーの消費を加速する。このため、電気自動車技術において、インバータ損失の低減が要求されている。インバータのパワートランジスタは高いサージ電圧を発生する。このため、パワートランジスタは、所定長さの遷移期間を必要とする。しかし、パワートランジスタのスイッチング損失は、この遷移期間の長さにほぼ比例する。
【0003】
特許文献1は、相補的にPWM駆動される2つの3相インバータからなるデュアルインバータを記載する。このデュアルインバータはダブルPWMモード及びパルスモードをもつ。2つの3相インバータは、ダブルPWMモードにおいて互いに反対波形の3相正弦波電圧を出力する。2つの3相インバータは、PULSEモードにおいて互いに反対波形の矩形波電圧を出力する。このデュアルインバータは、U相Hブリッジ、V相Hブリッジ、及びW相Hブリッジからなる。各Hブリッジの2つのレグはそれぞれ、PWMモードにおいてそれぞれPWMレグとなり、PULSEモードにおいてそれぞれ固定電位レグとなる。PWMレグはPWM制御されるレグを意味する。けれども、このデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べて2倍のパワー半導体素子数を必要とする。このため、従来の3相モータは3相インバータで駆動されるのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、電力損失を低減可能な3相モータ駆動装置を提供することである。
【0006】
本発明の1つの様相によれば、2つの3相インバータからなるデュアルインバータは3つのHブリッジを形成する。各Hブリッジはそれぞれ、PWMレグ及び固定電位レグからなる。PWMレグは、パルス幅変調(PWM)制御される。固定電位レグは3相交流電圧の所定位相期間において直流出力電圧を維持する。このデュアルインバータのPWM制御はシングルPWMと呼ばれる。これにより、デュアルインバータのいわゆるスイッチング損失及びリカバリ損失は、従来の3相インバータとそれと比べて約半分となる。
【0007】
好適には、コントローラは、PWMレグ及び固定電位レグを3相交流電圧の半周期毎に交代させる。これにより、デュアルインバータの6つのレグの間の温度差を低減することができる。
【0008】
好適には、固定電位レグの上アームスイッチは常にオンされる。直流電源からデュアルインバータに供給される電源電流は、Hブリッジの下アームスイッチによりPWM制御される。この方式は、上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。これにより、直流電源とデュアルインバータとを接続する電源線が発生するリンギングサージ電圧は低減される。結局、トランジスタの耐圧を増加無しにその遷移期間を短縮することができる。その結果、インバータ損失の主要成分であるスイッチング損失は低減される。
【0009】
好適には、Hブリッジの2つの上アームスイッチは、+バスバーを挟む。この+バスバーは、+電源線を通じて直流電源の正極に接続される。+バスバーのラインインダクタンスは、Hブリッジの2つの上アームスイッチの間を流れるフリーホィーリング電流が遮断される時、リンギングサージ電圧を発生する。2つの上アームスイッチ間の距離短縮により、このリンギングサージ電圧は低減される。その結果、デュアルインバータのスイッチング遷移期間を短縮することができ、スイッチング損失が低減される。
【0010】
好適には、PWMレグと固定電位レグの切り替えのために実行されるHブリッジの上アームスイッチのオフ動作は、PWMサイクル期間内のフリーホィーリング期間において実行される。このフリーホィーリング期間において、直流電源とデュアルインバータとを接続する電源線はリンギングサージ電圧を発生しない。しかし、Hブリッジの2つのレグを接続する+バスバーを流れるフリーホィーリング電流は、+バスバー上にリンギングサージ電圧を発生する。しかし、電源線と比べて非常に短い+バスバーはリンギングサージ電圧を低減する。
【0011】
好適には、3つのHブリッジは空間ベクトル変調パルス幅変調(SVPWM)により制御される。さらに、各Hブリッジの電流供給期間は互いにできるだけ重ならないように配置される。これにより、直流電源の抵抗損失は低減される。
【0012】
好適には、3つのHブリッジの各電流供給期間のうち、相対的に短い2つの電流供給期間は優先的にオーバーラップされる。電流供給期間の長さは電流振幅にほぼ比例する。したがって、電流供給期間のオーバーラップによる直流電源の抵抗損失増加を抑制することができる。
【0013】
好適には、複数のHブリッジの電流供給期間は連続して配置され、互いに隣接する2つの電流供給期間は互いに重なる遷移期間をもつ。好適には、最長の電流供給期間は、残りの2つの電流供給期間により挟まれる。好適には、相対的に短い電流供給期間は、相対的に長い電流供給期間の直後に配置される。これにより、リンギングサージ電圧、電磁波ノイズ、及び直流電源の高周波損失を低減することができる。
【0014】
好適には、デュアルインバータは1つのHブリッジが休止されるダブルHブリッジモードを実行する。他の2つのHブリッジはPWM制御される。休止されるHブリッジは電気角60度毎に変更される。部分負荷運転条件において実行されるダブルHブリッジモードは、インバータ損失を低減する。この第4の様相は、他のデュアルインバータにより採用されることができる。
【0015】
好適には、デュアルインバータは、複数のケーブルにより直流電源に接続される。複数のケーブルの合計電流は本質的にゼロである。各ケーブルは複数の非磁性導体管により別々に覆われる。各非磁性導体管の一端部は直接又はキャパシタを通じて短絡される。各非磁性導体管の他端部は直接又はキャパシタを通じて短絡される。これにより、二次短絡回路をもつコアレストランスが形成される。この二次短絡回路は、電源電流が急変する時、電源線のラインインダクタンスに蓄積された磁気エネルギーを吸収する。その結果、インバータは、リンギングサージ電圧や電磁波ノイズを増加することなく短い遷移期間をもつことができる。結局、3相インバータのスイッチング損失は低減される。
【0016】
好適には、ゲートドライバは、遷移速度遅延回路を通じてデュアルインバータのトランジスタにゲート電圧を印加する。この遷移速度遅延回路は、ゲート電圧の立ち上がり速度をゲート電圧の立ち下がり速度よりも増加する。これにより、デュアルインバータのスイッチング損失を低減することができる。
【0017】
本発明のもう一つの様相によれば、3相インバータに接続される複数のケーブルは、既述された二次短絡回路をもつコアレストランスに電気的に接続される。これにより、3相インバータのスイッチング損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例のデュアルインバータを示す模式配線図でてある。
【
図2】
図2は、1つのHブリッジの出力電圧波形及び出力電流波形を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、正半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、負半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、第1位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図6】
図6は、第1位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図7】
図7は、第2位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図8】
図8は、第2位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図9】
図9は、第3位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図10】
図10は、第3位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図11】
図11は、第4位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図12】
図12は、第4位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図13】
図13は、デュアルインバータのトリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
【
図14】
図14は、電気角360度における1つのHブリッジ出力電圧の基本波成分を示す波形図である。
【
図15】
図15は、デュアルインバータの合成電圧ベクトルの回転範囲を示すベクトル図である。
【
図16】
図16は、デュアルインバータのダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
【
図17】
図17は、デュアルインバータの電流分散方式を説明するためのタイミングチャートである。
【
図18】
図18は、電流分散方式を採用するモータ装置を示す模式配線図である。
【
図19】
図19は、電流分散方式の一例を示すタイミングチャートである。
【
図20】
図20は、電流分散方式のもう1つの例を示すタイミングチャートである。
【
図21】
図21は、Hブリッジの上アームスイッチがオフされる時に誘起されるサージ電圧を説明するための模式配線図である。
【
図22】
図22は、Hブリッジの下アームスイッチがオフされる時に誘起されるサージ電圧を説明するための模式配線図である。
【
図23】
図23は、デュアルインバータの回路例を示す模式配線図である。
【
図27】
図27は、サージ電圧低減回路を示す模式配線図である。
【
図28】
図28は、電源線を被覆する銅管を示す断面図である。
【
図29】
図29は、デュアルインバータの1つの上アームスイッチを制御するゲート駆動回路を示す回路図である。
【
図30】
図30は、二次短絡回路の変形態様を示す模式配線図である。
【
図31】
図31は、従来の3相インバータの模式等価回路図である。
【
図32】
図32は、シングルPWM方式を採用するデュアルインバータの模式等価回路図である。
【
図33】
図33は、従来のダブルPWM方式のデュアルインバータの各相電圧を示すタイミングチャートである。
【
図34】
図34は、EVトラクションモータのトルク-速度領域における種々の動作モードの1つの選択例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、電気自動車の3相トラクションモータを駆動するデュアルインバータを示す配線図である。このデュアルインバータは、それぞれ2レベル電圧型3相インバータからなるインバータ1及びインバータ2からなる。インバータ1及び2は、コントローラ10により制御される。このモータのステータコイルは、それぞれ独立相コイルであるU相コイル3U、V相コイル3V、及びW相コイル3Wからなるダブルエンデッド3相コイル3からなる。
【0020】
インバータ1は、U相レグ1U、V相レグ1V、およびW相レグ1Wからなる。レグ1Uは、直列接続された上アームスイッチ11及び下アームスイッチ12からなる。レグ1Vは、直列接続された上アームスイッチ13及び下アームスイッチ14からなる。レグ1Wは、直列接続された上アームスイッチ15及び下アームスイッチ16からなる。
【0021】
インバータ2は、U相レグ2U、V相レグ2V、およびW相レグ2Wからなる。レグ2Uは、直列接続された上アームスイッチ21及び下アームスイッチ22からなる。レグ2Vは、直列接続された上アームスイッチ23及び下アームスイッチ24からなる。レグ2Wは、直列接続された上アームスイッチ25及び下アームスイッチ26からなる。
【0022】
このデュアルインバータは、+バスバー810及び-バスバー820を通じて図略の直流電源に接続されている。6個の上アームスイッチは、相コイル3U、3V、及び3Wの各一端を+バスバー810に接続する。6個の下アームスイッチは、相コイル3U、3V、及び3Wの各他端を-バスバー820に接続する。各アームスイッチは、逆並列ダイオード及びトランジスタからなる。
【0023】
レグ1UはU相電圧VU1を相コイル3Uに印加し、レグ2UはU相電圧VU2を相コイル3Uに印加する。U相電圧VU(=VU1-VU2)が相コイル3Uに印加される。レグ1VはV相電圧VV1を相コイル3Vに印加し、レグ2VはU相電圧VV2を相コイル3Vに印加する。V相電圧VV(=VV1-VV2)が相コイル3Vに印加される。レグ1WはW相電圧VW1を相コイル3Wに印加し、レグ2WはW相電圧VW2を相コイル3Wに印加する。W相電圧VW(=VW1-VW2)が相コイル3Wに印加される。3つの相電圧(VU、VV、及びVW)の間の位相差は電気角120度である。
【0024】
レグ1U及び2Uは、U相電圧VUを相コイル3Uに印加するU相のHブリッジを形成する。レグ1V及び2Vは、V相電圧VVを相コイル3Vに印加するV相のHブリッジを形成する。レグ1W及び2Wは、W相電圧VWを相コイル3Wに印加するW相のHブリッジを形成する。互いに電気角120度の位相差をもつ3つのHブリッジの制御動作をは本質的に同じである。このため、U相Hブリッジの制御動作が以下に説明される。この制御動作は、上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。
【0025】
図2は、U相電圧VU及びU相電流IUの各基本波成分を示す波形図である。U相電流IUはU相電圧VUよりも所定の位相角だけ遅れる。相電圧VUの1周期(=電気角360度)は正半波期間PAと負半波期間PBとに分割される。期間PAは位相期間P1及びP2に分割される。期間PBは位相期間P3及びP4に分割される。位相期間P1及びP3は相コイル3Uから直流電源へ負の電源電流IPとしての回生電流IRを戻す期間である。位相期間P2及びP4は直流電源から相コイル3Uへ正の電源電流IPを供給する期間である。
【0026】
デュアルインバータは、上アーム導通式シングルPWMにより制御される。この上アーム導通式片側PWMにおいて、レグ1U及び2Uは交互にパルス幅変調(PWM)される。各Hブリッジはそれぞれ、固定電位レグ及びPWMレグからなる。固定電位レグの上アームスイッチは定常的にオンされる。期間PAにおいて、レグ1Uは固定電位レグとなり、レグ2UはPWMレグとなる。期間PBにおいて、レグ1UはPWMレグとなり、レグ2Uは固定電位レグとなる。固定電位レグ及びPWMレグは電気角180度毎に交代される。PWMサイクル期間TC内に電流供給期間を自由に配置可能な空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)法がPWMレグの制御に好適である。
【0027】
このSVPWMにおいて、コントローラ10は、各PWMサイクル期間TC毎に電流供給期間TXを形成する。PWMデユーティ比は比率(TX/TC)に等しい。電流供給期間TXを除く他のPWMサイクル期間TCはフリーホィーリング期間TFとなる。直流電源は、電流供給期間TXにおいて3相コイル3へ電源電流IPを供給する。フリーホィーリング電流は、フリーホィーリング期間TFにおいてインバータ1及び2と3相コイル3との間を循環する。
【0028】
図3は、期間PAにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ1Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ2Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0029】
図4は、期間PBにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ2Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ1Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0030】
図5-
図12は位相期間P1-P4におけるレグ1U及び2Uの状態を示す。相コイル3Uは逆起電力Vaをもつ。
図5は位相期間P1の電流供給期間TXを示す。負の電源電流である回生電流IRが直流電源4へ戻る。
図6は位相期間P1のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifは磁気エネルギーを相コイル3Uに蓄積する。
図7は位相期間P2の電流供給期間TXを示す。電源電流IPが相コイル3Uに供給される。
図8は位相期間P2のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uの磁気エネルギーを消費する。
【0031】
図9は位相期間P3の電流供給期間TXを示す。回生電流IRが直流電源4へ流れる。
図10は位相期間P3のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uを流れる。
図11は位相期間P4の電流供給期間TXを示す。電源電流IPが相コイル3Uへ流れる。
図12は位相期間P4のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uを流れる。
【0032】
図13は、3つのHブリッジがそれぞれPWM制御される基本的なトリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
図14は出力電圧VU1及びVU2の各基本波成分を示す波形図である。このトリプルHブリッジモードにおいて、ロータ磁界と同期する合成回転電圧ベクトルが、3相コイル3に印加される3つの相電圧ベクトルにより形成される。
【0033】
図15は、ダブルHブリッジモードを説明するためのベクトル図である。このダブルHブリッジモードにおいて、3つのHブリッジの1つは、電気角60度毎に順番に休止され、残りの2つのHブリッジがPWM制御される。
図15において、電気角0度は合成回転電圧ベクトルの方向がU相電圧VUの方向に一致する位相角度を示し、電気角60度は合成回転電圧ベクトルの方向が-W相電圧-VWの方向に一致する位相角度を示す。電気角120度は合成電圧ベクトルの方向がV相電圧VVの方向に一致する位相角度を示し、電気角180度は合成回転電圧ベクトルの方向が-U相電圧-VUの方向に一致する位相角度を示す。電気角240度は合成回転電圧ベクトルの方向がW相電圧VWの方向に一致する位相角度を示し、電気角300度は合成回転電圧ベクトルの方向が-V相電圧-VVの方向に一致する位相角度を示す。
【0034】
レグ1U及び2UからなるU相HブリッジはU相電圧VU及び-VUを交互に出力する。レグ1V及び2VからなるV相HブリッジはV相電圧VV及び-VVを交互に出力する。レグ1W及び2WからなるW相HブリッジはW相電圧VW及び-VWを交互に出力する。
図15において、6つの相電圧ベクトル(VU、-VW、VV、-VU、VW、-VV)は最大振幅値をもつ。
【0035】
図15において、合成回転電圧ベクトルが回転可能な領域は12個の位相領域(Z1-Z12)に分割される。6つの位相領域(Z1-Z6)において、合成回転電圧ベクトルは互いに隣接する2つの相電圧ベクトルのベクトル和により形成される。この隣接する2つの相電圧ベクトルの各振幅値はそれぞれPWM法により調節される。
【0036】
たとえば、位相領域Z1内の合成回転電圧ベクトルは、それぞれPWM制御される相電圧ベクトルVU及び-VWのベクトル和により形成される。相電圧ベクトルVUはU相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。相電圧ベクトルーVWはW相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。同様に、位相領域(Z2-Z6)の合成回転電圧ベクトルは2つのHブリッジの電流供給期間TXにより形成されることができる。結局、ダブルHブリッジにおいて、合成回転電圧ベクトルが位相領域(Z1-Z6)内に形成される時、1つのHブリッジが休止され。その結果、デュアルインバータの電力損失が低減される。他方、合成回転電圧ベクトルが位相領域(Z7-Z12)内に達する時、トリプルHブリッジモードが実行される。
【0037】
図16は、このダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。U相レグ1U及び2Uは、電気角60度-120度及び電気角240度-300度の期間において休止される。V相レグ1V及び2Vは、電気角0度-60度及び電気角180度-240度の期間において休止される。W相レグ1W及び2Wは、電気角120度-180度及び電気角300度-0度の期間において休止される。これにより、デュアルインバータの電力は低減される。各レグの休止のための上アームスイッチのオフは、フリーホィーリング電流が流れるフリーホィーリング期間に実施されることが好適である。これにより、リンギングサージ電圧が低減される。
【0038】
図15に示される破線円は、合成回転電圧ベクトルの振幅が1つの相電圧ベクトルの最大振幅値に等しい状態を示す。ダブルHブリッジモードは、この破線円の内側にて実行される。トリプルHブリッジモードはこの破線円の外側にてが実行される。
【0039】
次に、電流分散方式が
図17を参照して説明される。
図17は、トリプルHブリッジモードにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。この電流分散方式は、モータの部分負荷条件において空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)法により実行される。3つのHブリッジの電流供給期間TXは共通のPWMサイクル期間TC内に配置される。3つの電流供給期間TXの重なりはできるだけ回避される。同様に、ダブルHブリッジモードの2つのHブリッジの電流供給期間TXもできるだけ互いに重ならないようにPWMサイクル期間TC内に配置される。
【0040】
この電流分散方式の効果が
図18を参照して説明される。
図18は、PWM制御されるデュアルインバータ5を用いるEVトラクションモータ装置を示すブロック図である。電源抵抗値(r)をもつ直流電源4は+電源線81及び-電源線82を通じてデュアルインバータ5にパルス形状の電源電流IPを供給する。デュアルインバータ5は、相コイル3UにU相電源電流IUPを供給し、相コイル3VにV相電源電流IVPを供給し、相コイル3WにW相電源電流IWPを供給する。したがって、電源電流IPは3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)の和に等しい。
図18は、3相コイル3及びデュアルインバータ5を循環するフリーホィーリング電流を図示しない。
【0041】
3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は、値(r)(IUP+IVP+IWP)(IUP+IVP+IWP)となる。3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は、値(r)((IUP)(IUP)+(IVP)(IVP)+(IWP)(IWP)となる。
【0042】
たとえば、V相電源電流IVP及びW相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもち、U相電源電流IUPが相対振幅値(2)をもつことが仮定される。相電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は値(16r)となる。相電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は値(6r)となる。したがって、電流分散方式は、部分負荷条件において直流電源4の抵抗損失を大幅に低減する。
【0043】
たとえば、U相電源電流IUPの相対振幅値がゼロである時、V相電源電流IVP及びW相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもつ。電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は値(4r)となる。電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は値(2r)となる。
【0044】
しかし、モータ電流が増加する時、複数相の電流供給期間TXは互いに重なる。トリプルHブリッジモードによれば、相対的に短い2つの電流供給期間TXが優先的にオーバーラップされる。これは、相対的に長い電流供給期間TXは、相電流の振幅が高いことを意味するからである。これにより、直流電源の抵抗損失を低減することができる。
【0045】
好適には、一相の相電流が減少する立ち下がり過渡期間は、もう1つの相電流が増加する立ち上がり過渡期間と重なる。これにより、電源電流のリップルを低減することができる。その結果、直流電源4の平滑キャパシタの損失が低減される。さらに、+電源線81のリンギングサージ電圧が低減される。
【0046】
さらに、2つ乃至3つの相の電流供給期間は、連続的に配置される。これにより、電源電流IPの高周波電流リップル及び平滑キャパシタの損失が低減される。さらに、1つの相の最も長い電流供給期間TXは、他の2つの相の電流供給期間TXに挟まれる。これにより、+電源線81に生じるリンギングサージ電圧が低減される。たとえば、トリプルHブリッジモードを示す
図19において、最長のW相の電流供給期間TXWは、V相の電流供給期間TXVの終了時点から開始される。同様に、U相の電流供給期間TXUはW相電流供給期間TXWの終了時点から開始される。たとえば、ダブルHブリッジモードを示す
図20において、より短いU相の電流供給期間TXUはW相電流供給期間TXWの終了時点から開始される。
図19及び
図20は相電源電流IUP、IVP、及びIWPを示す。
図19及び
図20によれば、隣接する2つの相電源電流は過渡期間Ttにおいて重なる。これにより、+電源線81を流れる電源電流の変化が抑制され、リンギングサージ電圧が抑制される。
【0047】
次に、このデュアルインバータのリンギングサージ電圧が
図21及び
図22を参照して説明される。
図21は、上アームスイッチ11がオフされる時のリンギングサージ電圧を説明するための模式配線図である。
図22は、下アームスイッチ22がオフされる時のリンギングサージ電圧を説明するための模式配線図である。レグ1U及び2UからなるU相Hブリッジ1HUは、+バスバー810及び+電源線81を通じて直流電源4の正極に接続され、-バスバー820及び-電源線82を通じて直流電源4の負極に接続されている。
【0048】
U相コイル3Uは、U相ケーブル61を通じてレグ1Uに接続され、U相ケーブル71を通じてレグ2Uに接続される。+電源線81はラインインダクタンス81Lをもち、-電源線82はラインインダクタンス82Lをもつ。+電源線81の両端は寄生容量C1及びC2を通じて個別に接地されている。-電源線82の両端は寄生容量C3及びC4通じて個別に接地されている。U相ケーブル61は寄生容量C5を通じて接地されている。U相コイル3Uは寄生容量C6を通じて接地され、U相ケーブル71は寄生容量C7を通じて接地されている。
【0049】
上アームスイッチ11がオフされる
図21において、ラインインダクタンス81Lはサージ電圧を誘起する。このサージ電圧は、寄生キャパシタC2及びC1、及びラインインダクタンス81Lからなる直列共振回路を通じてサージ電流ISUを供給する。これにより、高いリンギングサージ電圧Vrが上アームスイッチ11に印加される。
【0050】
下アームスイッチ22がオフされる
図22において、ラインインダクタンス81Lはサージ電圧を発生する。このサージ電圧は、寄生キャパシタC5-C7及びC1、及びラインインダクタンス81Lからなる直列共振回路を通じてサージ電流ISUを供給する。しかし、上アームスイッチ11がオンされているため、リンギングサージ電圧Vrは低減される。結局、この実施例の上アーム導通式片側PWMはリンギングサージ電圧を低減することができる。
【0051】
次に、固定電位レグが切替えられる時に誘起されるサージ電圧が説明される。上アーム導通式シングルPWMは、固定電位レグが切替えられる時に上アームスイッチをオフする必要がある。その結果、この上アームスイッチのオフ動作はリンギングサージ電圧を誘起する。けれども、この実施例において固定電位レグからPWMレグへの切替のための上アームスイッチのオフ動作はフリーホィーリング期間TF又はその直後に実行される。言い換えれば、上アームスイッチはフリーホィーリング電流Ifを遮断する。このフリーホィーリング電流Ifは、+バスバー810を流れるが、+電源線81を流れない。+バスバー810は、+電源線81と比べて低いラインインダクタンス値をもつ。その結果、リンギングサージ電圧は低くなる。
【0052】
図23は、
図1に示されるデュアルインバータの模式配線図である。インバータ1の3つの交流端子は、交流バスバー61-63により相コイル3U-3Wの一端に別々に接続されている。インバータ2の3つの交流端子は、交流バスバー71-73により相コイル3U-3Wの他端に別々に接続されている。+バスバー810は+電源線81により図略の直流電源の正極端子に接続されている。-バスバー820は-電源線82により図略の直流電源の負極端子に接続されている。
【0053】
図24-
図26は、
図23に示されるデュアルインバータの構造を示す。
図24はデュアルインバータの正面図である。
図25はデュアルインバータの水平断面を示す平面図であり、
図26はデュアルインバータの垂直側面を示す側面図である。-バスバー820は窓付き箱形の形状をもつ。+バスバー810、バスバー61-63及び71-73は箱状の-バスバー820から水平に突出している。-バスバー820の1つの側面に形成された窓は樹脂カバー9により覆われている。
【0054】
上アームスイッチ11及び下アームスイッチ12はバスバー61を挟んでいる。上アームスイッチ13及び下アームスイッチ14はバスバー62を挟んでいる。上アームスイッチ15及び下アームスイッチ16はバスバー63を挟んでいる。上アームスイッチ21及び下アームスイッチ22はバスバー71を挟んでいる。上アームスイッチ23及び下アームスイッチ24はバスバー72を挟んでいる。上アームスイッチ25及び下アームスイッチ26はバスバー73を挟んでいる。
【0055】
下アームスイッチ(12、14、16、22、24、及び26)は-バスバー820に接してる。上アームスイッチ(11、13、15、21、23、25)は+バスバー810に接している。各アームスイッチ(11-16及び21ー26)はそれぞれ、並列接続された2つの半導体素子からなる。たとえば、半導体素子の1つはトランジスタであり、他の1つは逆並列ダイオードである。
【0056】
+バスバー810はU相の上アームスイッチ11及び21により挟まれている。+バスバー810はV相の上アームスイッチ13及び23により挟まれている。+バスバー810はW相の上アームスイッチ15及び25により挟まれている。フリーホィーリング電流の電流経路長としての上アームスイッチ11及び21の間の+バスバー810の距離は+バスバー810の厚さにほぼ等しくなる。上アームスイッチ13及び23の間の+バスバー810の距離は+バスバー810の厚さにほぼ等しくなる。上アームスイッチ15及び25の間の+バスバー810の距離は+バスバー810の厚さにほぼ等しくなる。
【0057】
+バスバー810を流れるフリーホィーリング電流が急減する時、+バスバー810のラインインダクタンスがサージ電圧を発生する。しかし、このサージ電圧は+バスバー810の短い長さ故に非常に低くなる。さらに、箱状の-バスバー820は電磁波ノイズを低減する。
【0058】
次に、+電源線81に誘導されるリンギングサージ電圧をさらに低減可能なサージ低減回路100が
図27を参照して説明される。バッテリ及び平滑キャパシタからなる直流電源4の正極端子41は電源線81によりデュアルインバータ5の+バスバー810に接続されている。直流電源4の負極端子42は電源線82によりデュアルインバータ5の-バスバー820に接続されている。電源線81及び82は絶縁被覆ケーブルからなる。デュアルインバータ5は2つの3相インバータ1及び2からなる。
【0059】
電源線81は銅管81A内に収容され、電源線82は銅管82A内に収容されている。銅管81A及び82Aの各一端部は銅線50により接続されている。銅管81A及び82Aの各他端部は銅線51により接続されている。
【0060】
さらに、銅管81A及び82Aの各他端部は、3相インバータ1及び2を収容するアルミ製のインバータケース20に電気的に接続されている。したがって、サージ低減回路100は、銅管81A、銅線50、銅管82A、及び銅線51からなるコアレストランスの二次短絡回路に等しい。
【0061】
サージ低減回路100の機能が説明される。直流電源4は電源線81を通じてインバータ1及び2に電源電流を供給し、この電源電流は電源線82を通じて直流電源4に戻る。この電源電流に含まれる高周波電流成分Ihは、電源線81及び82の周囲に高周波磁界を形成する。この高周波磁界は、非磁性導体管としての銅管81A及び82Aに二次電圧を誘導する。この二次電圧は、二次短絡回路を通じて循環する二次電流Ih2を形成する。この二次電流Ih2は、電源線81及び82に蓄積された磁気エネルギーを消費する。
【0062】
言い換えれば、低負荷抵抗をもつこの二次短絡回路は、電源線81及び82と並列に接続される。その結果、電源線81及び82の電圧変化は抑制される。その結果、二次短絡回路は、リンギングサージ電圧を抑制する。電源線81及び82の漏れインダクタンスを低減するために、銅管81Aと電源線81との間の隙間及び銅管82Aと電源線82との間の隙間はできるだけ減らされる。
【0063】
図28は、この二次短絡回路のもう一つの例を示す模式断面図である。二次短絡回路は、2枚の銅板811及び821からなる。銅板811は2つの凹部811A及び811Bをもち、銅板821は2つの凹部821A及び821Bをもつ。電源線81及び82はそれぞれ、樹脂層83により被覆されたケーブルからなる。電源線81は凹部811A及び811B内に収容され、電源線82は凹部821A及び821B内に収容されている。したがって、本質的に2つの管を形成する銅板811及び821は二次短絡回路100の全てを形成する。
【0064】
次に、モータケーブルのサージ電圧をさたに低減するサージ低減回路200が
図27を参照して説明される。サージ低減回路200は、銅管64-66、銅管74-76、及び短絡線52-53からなる3つの二次短絡回路からなる。デュアルインバータ5は、6本のモータケーブル61-63及び71-73により3相モータのステータコイル3に接続されている。
【0065】
U相ケーブル61は銅管64に収容されている。-U相ケーブル71は銅管74に収容されている。V相ケーブル62は銅管65に収容されている。-V相ケーブル72は銅管75に収容されている。W相ケーブル63は銅管66に収容されている。-W相ケーブル73は銅管76に収容されている。
【0066】
銅管64及び74のインバータ側の端部は、短絡線52により接続されている。銅管65及び75のインバータ側の端部は、短絡線52により接続されている。銅管66及び76のインバータ側の端部は、短絡線52により接続されている。銅管64及び74のモータ側の端部は、短絡線53により接続されている。銅管65及び75のモータ側の端部は、短絡線53により接続されている。銅管66及び76のモータ側の端部は、短絡線53により接続されている。
【0067】
したがって、サージ低減回路200は、それぞれサージ低減回路路100と本質的に同じ機能を持つU相二次短絡回路、V相二次短絡回路、及びW相二次短絡回路からなる。銅管64-66及び銅管74-76は、それぞれアルミ製のインバータケース20及びモータハウジング30に電気的に接続されることができる。
【0068】
図29は、
図27に示されるサージ低減回路路100の1つの変形態様を示す。このサージ低減回路100Aは、
図27に示される二次短絡回路100の銅線50の代わりにキャパシタ回路50Aをもつ。キャパシタ回路50Aは、キャパシタ50B、ダイオード50C及び50d、及び抵抗50eからなる。キャパシタを充電するダイオード50Cは、直列接続されたダイオード50d及び抵抗50eと並列に接続されている。ダイオード50dはキャパシタ50Bを放電する。ダイオード50C、ダイオード50d、及び抵抗50eからなる電流制御回路は、キャパシタ50Bと直列に接続されている。この電流制御回路は省略されることができる。
【0069】
直流電源4からデュアルインバータ5に供給される電源電流が急減する時、誘導された二次電圧はダイオード50Cを通じてキャパシタ50Bを急速に充電する。その後、キャパシタ50Bは、ダイオード50d及び抵抗50eを通じて緩やかに放電する。この放電は電源電流を増加させる。
【0070】
このデュアルインバータのスイッチング損失を低減可能なゲート駆動回路が
図30を参照して説明される。U相レグ1Uの上アームスイッチ11はトランジスタ111をもつ。ゲート容量C10及びC20をもつトランジスタ111は、遷移速度遅延回路300を通じてゲートドライバ400に接続されている。遷移速度遅延回路300は、充電ダイオード301、放電ダイオード302、放電抵抗303及び共通抵抗304からなる。直列接続された放電ダイオード302及び放電抵抗303は、充電ダイオード301と並列に接続されている。ゲートドライバ400は、直列接続されたダイオード302、抵抗303、及び抵抗304を通じてトランジスタ111のゲート電圧を低下させる。さらに、ゲートドライバ400は、直列接続された抵抗304及びダイオード301を通じてトランジスタ111のゲート電圧を上昇させる。ゲートドライバ400はパルス電圧を抵抗回路300を通じてトランジスタ111のゲート電極に印加する。
【0071】
トランジスタ111は、立ち上がり遷移期間より長い立ち下がり遷移時間をもつ。このため、インバータの立ち上がり遷移期間におけるスイッチング損失は低減される。しかし、この立ち上がり遷移期間の短縮は、電源線が放射する高周波の電磁波ノイズを増加させるという問題をもつ。
図27に示されるサージ低減回路100が電磁波ノイズの放射を抑制する。
【0072】
他の変形態様が以下に説明される。
図16に示されるダブルHブリッジモード、並びに、
図17に示される電流分散方式は、従来のダブルPWM方式のデュアルインバータにより採用されることができる。
図27に示されるサージ低減回路は従来の3相インバータに接続される電源ケーブル又はモータケーブルに追加されることができる。1つの3相インバータを3相ステータコイルに接続する従来の3相モータにおいて、3つのモータケーブルを個別に被覆する3つの非磁性導体管は、互いに接続された各一端部、及び、互いに接続された各他端部をもつ。
【0073】
この実施例のデュアルインバータの利点が説明される。第1に、このデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べてインバータ損失を大幅に低減することができる。この効果が
図31及び
図32を参照して説明される。
【0074】
図31は、従来の3相インバータを示す。この3相インバータは、星形接続3相コイルからなる従来のステータコイルに接続されている。ステータコイルの3つの相コイル(3U、3V、及び3W)はそれぞれ、並列接続された2つのコイルユニット(C)からなる。3相インバータの各アームスイッチはそれぞれ、並列接続された2つのトランジスタ(T)をもつ。しかし、U相レグの下アームスイッチ、V相レグの上アームスイッチ、及びW相レグの上アームスイッチは
図31に示されていない。
図31は、直流電源電流IPがU相電流(IU)の2倍値に等しい位相期間の相電流を示す。
【0075】
図32は、シングルPWM方式で駆動されるデュアルインバータを示す。このデュアルインバータは、ダブルエンデッド3相コイルに接続されている。ダブルエンデッド3相コイルの3つの相コイル(3U、3V、3W)はそれぞれ、直列接続された2つのコイルユニット(C)からなる。
図1に示される上アームスイッチ21、24、及び26の図示は省略されている。さらに、
図1に示される下アームスイッチ12、24、及び26の図示は省略されている。デュアルインバータの各アームスイッチはそれぞれ、1つのトランジスタ(T)をもつ。
図32は、直流電源電流IPがU相電流(IU)の2倍値に等しい位相期間における相電流を示す。
【0076】
図32に示されるデュアルインバータは
図31に示される3相インバータと同じ回路規模をもつ。さらに、
図32に示される3相モータは、
図31に示される3相モータと同じ体積をもつ。デュアルインバータは、3相インバータと比べて2倍の電圧利用率をもつことができる。このため、
図32に示されるダブルエンデッド3相コイルの各相コイルは、
図31に示される星形接続3相コイルの各相コイルと比べて2倍の巻数をもつことができる。
【0077】
これら2つのインバータの損失が比較される。
図31及び
図32から理解されるように、両インバータの導通損失は等しい。しかし、シングルPWM式のデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べて半分のPWMレグ数をもつ。したがって、デュアルインバータのスイッチング損失及びリカバリ損失は従来の3相インバータの半分となる。一般に、インバータ損失の大部分は、スイッチング損失及びリカバリ損失からなる。たとえば、従来の3相インバータのスイッチング損失及びリカバリ損失の和がインバータ損失の70%を占める時、シングルPWM式のデュアルインバータは、この3相インバータのインバータ損失の65%をもつことができる。その結果、インバータ冷却機構は簡素となり、EVの最大走行距離を延長することができる。
【0078】
第2に、この実施例のシングルPWM方式は、特許文献1に記載されたダブルPWM方式と比べて、PWM制御により生じる損失(PWM損失と呼ばれる)を低減することができる。
図33は、ダブルPWM方式の1つのPWMサイクル期間TCにおける各レグの出力電位を示す。図示しない3つのコンパレータは、PWMキャリヤ信号SCと3つの相制御信号(SU、SV、及びSW)とを比較する。
図1に示される6つのPWMレグは、比較結果に基づいてレグ電圧(VU1、VU2、VV1、VV2、VW1、VW2)を出力する。各レグ電圧はそれぞれ、ハイレベル(H)とローレベル(L)とからなるパルス電圧である。
【0079】
U相コイル3Uに印加されるU相電圧VUは、U相電圧差(VU1-VU2)となる。V相コイル3Vに印加されるV相電圧VVは、V相電圧差(VV1-VV2)となる。W相コイル3Wに印加されるW相電圧VWは、W相電圧差(VW1-VW2)となる。
【0080】
このダブルPWM方式によれば、各レグはフリーホィーリング期間(TF)の代わりに逆電圧が相コイル印加される逆電圧印加期間(Tr)をもつ。その結果、直流電源は、電流供給期間(TX)において各相コイルのインダクタンスに磁気エネルギーを蓄積する。この蓄積された磁気エネルギーは、各逆電圧印加期間(Tr)に各相コイルから直流電源にデュアルインバータを通じて回生される。
【0081】
したがって、直流電源、デュアルインバータ、及びステータコイルは、ダブルPWM方式の運転により無駄な高周波PWM損失及び高周波ノイズを発生する。各PWMレグが逆電圧印加期間(Tr)の代わりにフリーホィーリング期間(TF)をもつシングルPWM方式によれば、この無駄な高周波PWM損失及び高周波ノイズは大幅に低減される。ダブルPWM方式とシングルPWM方式の重要な違いは、Hブリッジの交流出力電圧がゼロとなる時に顕れる。PWM制御を停止するシングルPWM方式は、高周波電力損失を発生しない。
【0082】
第3に、上アーム導通式シングルPWM方式を採用するこのデュアルインバータは、常時導通される上アームスイッチ、及び、PWM制御される下アームスイッチをもつ。これにより、+電源線81のリンギングサージ電圧が低減される。好適には、固定電位レグの上アームスイッチはフリーホィーリング期間にオフされる。固定電位レグの交代による+電源線81のリンギングサージ電圧が低減される。
【0083】
第4に、各Hブリッジの2つの上アームスイッチは+バスバー810を挟む配置をもつ。これにより、+バスバー810のラインインダクタンスが大幅に低減される。上アームスイッチがフリーホィーリング期間にオフされる時、リンギングサージ電圧は低減されることができる。
【0084】
第5に、SVPWM法で駆動されるデュアルインバータの3つのHブリッジは、できるだけ重ならない電流供給期間をもつ。これにより、直流電源の抵抗損失を大幅に低減することができる。
【0085】
第6に、ダブルHブリッジモードを採用するデュアルインバータは、1つのHブリッジのPWMスイッチングを常に休止する。これにより、インバータ損失はさらに低減される。
【0086】
第7に、このデュアルインバータを直流電源又は3相モータに接続するケーブルは、二次短絡回路をもつコアレストランスに接続される。これにより、ケーブルのリンギングサージ電圧を低減することができる。
【0087】
EVトラクションモータの運転領域における1つのモード選択例が、
図34を参照して説明される。
図34は、モータの最高トルクTmaxと速度Vmとの関係を示す。既述されたように、このデュアルインバータは、トリプルHブリッジモードの他にダブルHブリッジモードをもつ。2つのHブリッジにより駆動されるダブルHブリッジモードは、3つのHブリッジにより駆動されるトリプルHブリッジモードと比べて低い最大トルク値をもつが、インバータ損失が低減される。しかし、ダブルHブリッジモードは、トリプルHブリッジモードと比べて異なる銅損及び鉄損をもつ。
【0088】
トリプルHブリッジモード及びダブルHブリッジモードはそれぞれ、正弦波モード及び矩形波モードをもつことができる。正弦波モードにおいて、各Hブリッジの出力電圧の基本波成分は、PWM制御により単相正弦波電圧となる。矩形波モードにおいて、各Hブリッジの出力電圧の基本波成分は、PWM制御により単相矩形波電圧となる。矩形波モードにおいて、PWMデユーティ比は一定となり、各基本波成分は一定の振幅をもつ。矩形波モードにおいて、PWMデユーティ比を増加することにより、各基本波成分の振幅は増加する。
【0089】
PWMデユーティ比が1となる時、各Hブリッジは、矩形波電圧を出力する。PWMデユーティ比が1である矩形波モードを採用するトリプルHブリッジモードは、従来の3相インバータの180通電方式に等しい3相電圧を出力する。その矩形波電圧は電気角180度だけ継続される。PWMデユーティ比が1である矩形波モードを採用するダブルHブリッジモードは、従来の3相インバータの120度通電方式に等しい3相電圧を出力する。その矩形波電圧は電気角120度だけ継続される。
【0090】
一般に、同期モータは、正弦波モードにおいて高効率となり、矩形波モードにおいて高トルクとなる。矩形波モードのトルクは、PWMデユーティ比が1である時に最高となる。PWMデユーティ比が1である矩形波モードはワンパルスモードと呼ばれる。
【0091】
図34において、トルク要求値が低い時、ダブルHブリッジモードの正弦波モードが採用される。特性線701は、ダブルHブリッジモードの正弦波モードにおける最高トルク値を示す。トルク要求値が増加する時、ダブルHブリッジモードの矩形波モードが採用される。特性線702は、ダブルHブリッジモードの矩形波モードにおける最高トルク値を示す。トルク要求値が更に増加する時、トリプルHブリッジモードの正弦波モードが採用される。特性線703は、トリプルHブリッジモードの正弦波モードにおける最高トルク値を示す。トルク要求値が更に増加する時、トリプルHブリッジモードの矩形波モードが採用される。特性線704は、トリプルHブリッジモードの矩形波モードにおける最高トルク値を示す。その他、相対的に高効率のモードを選択することも可能である。台形波電圧は、矩形波電圧の一種と見做される。