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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/12 20060101AFI20220221BHJP
   C04B 35/567 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
F27D3/12 S
C04B35/567
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017067598
(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公開番号】P2018169110
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2018-10-12
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋本 伊織
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】木下 寿治
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】境 周一
【審判官】市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3016424(JP,U)
【文献】登録実用新案第3187105(JP,U)
【文献】特開平11-228237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
C04B 35/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式焼成炉で用いられる焼成用セッターであり、
被焼成物を載置する載置部と、
載置部の端部に設けられているとともに載置部より厚いリブ部と、を有しており、
リブ部の側面のうちの載置部側を構成している内側側面と、内側側面に対向する外側側面と、を結ぶ幅方向において、リブ部の表面の長さが、リブ部の裏面の長さより短く、
載置部の熱容量をC1とし、リブ部の熱容量をC2としたときに、下記式(1)を満足する焼成用セッター。
0.6≦C2/C1≦2.0・・・(1)
【請求項2】
リブ部が、載置部の両端に設けられている請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項3】
リブ部が、載置部の端部の全周を囲っている請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項4】
前記幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、
前記外側側面が、裏面側から表面側に向かうに従って前記内側側面に向けて傾斜している外側傾斜面を含んでいる請求項1から3のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項5】
前記法線と外側傾斜面の成す角度が、15度以上75度以下である請求項に記載の焼成用セッター。
【請求項6】
前記幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、
前記内側側面に、裏面側から表面側に向かうに従って前記外側側面に向けて傾斜している内側傾斜面が設けられている請求項1から5のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項7】
前記法線と内側傾斜面の成す角度が、15度以上60度以下である請求項に記載の焼成用セッター。
【請求項8】
前記幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、
前記内側側面からリブ部の表面を通って前記外側側面に至る経路内に曲線部分が存在している請求項1から3のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項9】
リブ部が、リブ部の基材よりも放射率の低い材料でコーティングされている請求項1から8のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項10】
基材の材質がセラミックスである請求項1から9のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項11】
基材の材質が炭化珪素系セラミックスである請求項10に記載の焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、焼成用セッターに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
被焼成物を焼成する際、被焼成物を載置するためにセッター等の焼成用治具が用いられる。特許文献1の焼成用セッター(焼成用さや)は、セッターの裏面(被焼成物が載置される面の反対面)に、複数の貫通孔を有する調整板を固定している。特許文献1では、貫通孔の数、サイズを調整することにより、焼成用セッターの中央部と端部の温度差を低減している。すなわち、特許文献1は、被焼成物が載置される載置部(調整板とセッターの底板)の厚みを部分的に変化させることにより、セッター中央部と端部の周囲温度への追従性を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-122743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、焼成用セッターを焼成炉内に配置した後、焼成炉を昇温することを想定している。すなわち、特許文献1は、焼成用セッターをバッチ式の焼成炉で用いることを想定している。バッチ式の焼成炉においては、載置部の厚みを部分的に変化させ、セッター中央部を端部よりも温度変化し易くすることによって、セッター全面が均一に温度変化し、被焼成物の焼成ムラを抑制することができる。しかしながら、焼成炉には、バッチ式と連続式が存在する。連続式の焼成炉では、焼成用セッターを移送する搬送機(ローラコンベア等)の下方にヒータが配置されることがある。この場合、特許文献1の焼成用セッターのように載置部の厚みが部分的に異なると、被焼成物に焼成ムラが生じる。本明細書は、連続式の焼成炉においても被焼成物に焼成ムラが生じることを抑制し得る焼成用セッターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、載置部の厚みが一定であっても、載置部の端部にリブ部を設け、リブ部で蓄熱を行うことにより、載置部の端部と中央部の温度差(昇降温速度の差)を低減できることに着目した。本発明者らの研究の結果、載置部より厚いリブ部を載置部の端部に設け、載置部の熱容量をC1とし、リブ部の熱容量をC2としたときの熱容量比Rcが0.1以上(Rc=C2/C1≧0.1)であれば、載置部の端部と中央部の温度差が低減され、被焼成物の焼成ムラを抑制することができることが判明した。すなわち、載置部の周囲に、載置部の熱容量の10%以上のリブ部を設ければ、載置部の端部の温度変化と中央部の温度変化の速度差が低減され、載置部全体が均一に温度変化することを確認した。被焼成物の焼成ムラを抑制することにより、被焼成物が載置される位置に起因する被焼成物の物性ばらつきを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、本発明者らの研究により、リブ部の熱容量が大きくなり過ぎると、載置部とリブ部の温度差が大きくなり、熱衝撃により焼成用セッターが損傷することが判明した。研究の結果、熱容量比Rcが2.0以下であれば、焼成用セッターが損傷しないことを確認した。本明細書で開示する焼成用セッターは、上記知見に基づくものである。
【0007】
本明細書で開示する焼成用セッターは、被焼成物を載置する載置部と、載置部の端部に設けられているとともに載置部より厚いリブ部を有していてよい。この焼成用セッターでは、載置部の熱容量をC1とし、リブ部の熱容量をC2としたときに、下記式(1)を満足していてよい。
0.1≦C2/C1≦2.0・・・(1)
【0008】
上記焼成用セッターは、0.1≦(熱容量比Rc:C2/C1)≦2.0の関係を満たしているので、被焼成物の焼ムラを抑制することができるとともに、熱衝撃によって焼成用セッターが損傷することを抑制することができる。
【0009】
リブ部は、載置部の両端に設けられていてよい。焼成用セッターを連続式の焼成炉で用いる場合、焼成用セッターの移動方向の前方が先に焼成炉内に導入され、移動方向の後方が最後まで焼成炉内に留まる。そのため、焼成用セッターの前方と後方は、炉内雰囲気の影響を受けやすい。すなわち、中央部より、多くの熱量を受けやすい。リブ部が載置部の両端に設けられていれば、移動方向にリブ部が位置するように焼成用セッターを焼成炉に導入することによって、載置部の端部(前後方向)の受熱量が低減され、端部と中央部の温度変化の速度差を抑制することができる。
【0010】
また、リブ部は、載置部の端部の全周を囲っていてもよい。連続式の焼成炉の場合、典型的に、発熱源(ヒータ等)は、炉内の上下方向に配置されている。しかしながら、連続式の焼成炉の場合、炉内が常に高温に保たれているため、炉の側壁(上下方向及びセッターの移動方向に直交する方向に存在する炉壁)からの放射熱により、焼成用セッターが側方から加熱されることがある。リブ部が載置部の端部の全周を囲っていれば、炉の側壁からの放射熱によって載置部の端部(移動方向の側方の端部)と中央部の温度変化の速度差も抑制することができる。
【0011】
リブ部の幅方向において、リブ部の表面の長さがリブ部の裏面の長さより短くてよい。なお、リブ部の幅方向とは、リブ部の側面のうちの載置部側を構成している内側側面と、内側側面に対向する外側側面を結ぶ方向を意味する。すなわち、リブ部の幅方向とは、載置部の端部に沿ってリブ部が伸びる方向とリブ部の厚み方向の双方に直交する方向を意味する。リブ部の受熱量を調整したり、リブ部からの熱放射の方向を調整したり、焼成用セッターの周囲の気流(熱風の流れ)を調整することができる。
【0012】
幅方向におけるリブ部の表面長さが裏面長さより短い場合、幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、外側側面が、裏面側から表面側に向かうに従って内側側面に向けて傾斜している外側傾斜面を含んでいてよい。連続式の焼成炉内をセッターが移動するときに、セッターの移動に伴って生じる熱風を、セッターの上方に移動させることができ、熱風が被焼成物に直接当たることを抑制することもできる。また、炉からの放射熱によるリブ部の受熱量を低減することができる。また、なお、この場合、載置部の表面の法線と外側傾斜面の成す角度が、15度以上75度以下であってよい。
【0013】
また、幅方向におけるリブ部の表面長さが裏面長さより短い場合、幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、内側側面が、裏面側から表面側に向かうに従って外側側面に向けて傾斜していてよい。リブ部からの放射熱が被焼成物に加わることを抑制できる。なお、この場合、載置部の表面の法線と内側傾斜面の成す角度が、15度以上60度以下であってよい。
【0014】
また、幅方向におけるリブ部の表面長さが裏面長さより短い場合、幅方向に平行であるとともに載置部の表面の法線を含む断面において、内側側面からリブ部の表面を通って外側側面に至る経路内に曲線部分が存在していてもよい。上記した外側傾斜面、及び/又は、内側傾斜面を有する形態と同様の利点が得られる。
【0015】
リブ部が、リブ部の基材よりも放射率の低い材料でコーティングされていてもよい。リブ部の受熱量を低減することができる。また、リブ部からの放射熱が抑制され、リブ部近傍の被焼成物が過熱されることを抑制することもできる。なお、耐熱衝撃性の高い焼成用セッターを実現するため、基材の材質が炭化珪素系セラミックスであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の焼成用セッターの斜視図を示す。
図2図1のII-II線に沿った断面を示す。
図3】第2実施形態の焼成用セッターの斜視図を示す。
図4】リブ部の変形例の部分拡大図を示す。
図5】焼成用セッターが焼成炉内に導入される様子を示す。
図6】リブ部の変形例の部分拡大図を示す。
図7】リブ部の変形例の部分拡大図を示す。
図8】リブ部の変形例の部分拡大図を示す。
図9】第3実施形態の焼成用セッターの断面図を示す。
図10】リブ部に傾斜面を設けた試料について、耐熱衝撃性及び焼成状態の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で開示する焼成用セッターは、例えば、積層セラミックコンデンサ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)多層基板、フェライト等の電子部品,ハニカム構造を有するセラミック部材等の被焼成物を焼成する際、これらの被焼成物を載置するために用いることができる。特に限定されないが、被焼成物のサイズ(焼成用セッターと接する面のサイズ)は、0.2mm×0.4mm~700mm×700mmであってよい。なお、焼成用セッターは、被焼成物を400~1600℃で焼成するために用いることができる。焼成用セッターのサイズ(面方向サイズ)は、例えば100mm×100mm~800mm×800mmであってよい。
【0018】
焼成用セッターの材料として、アルミナ,ムライト,ジルコニア等の酸化物系セラミックス、炭化珪素,窒化珪素等の非酸化物系セラミックス、およびこれらの中から選定される一種類以上の材料をマトリックスとするセラミックス基複合材料(Ceramic Matrix Composites:CMC)等を用いることができる。耐熱衝撃性の高い焼成用セッターが得られるという観点より、焼成用セッターの材料は、常圧焼結炭化珪素または金属珪素含浸炭化珪素(炭化珪素系セラミックス)であってよい。焼成用セッター(積載部)の密度(かさ密度)は、2.4~3.2g/cmであってよい。炭化珪素系セラミックスの常温熱伝導率は、50~200W/m・Kであってよい。炭化珪素系セラミックスの常温曲げ強度は、200~600MPaであってよい。
【0019】
焼成用セッターの基材の成形方法として、プレス法、CIP法(Cold Isostatic Press)、押出法、鋳込み法、ゲルキャスト法等が挙げられる。形状賦与の自由度が高く、均一な成形体が得られるという観点より、焼成用セッターは、ゲルキャスト法を用いて成形されてよい。ゲルキャスト法では、粉体(原料であるセラミック粉体)に硬化剤(モノマー,触媒等)を添加したスラリーを成形型に充填し、モノマーの重合(ゲル化)によってスラリーを固化させて成形体が得られる。この成形体を焼成することによって、焼成用セッターが得られる。ゲルキャスト法は、スラリー中の粉体の分散状態を維持したまま固化することができるので、複雑な形状も型通りに成形でき、均一な成形体(焼成用セッターの基材)を作製することができる。
【0020】
焼成用セッターの積載部の厚みは、0.3mm以上10mm以下であってよい。厚みが薄すぎると、強度が低下する。また、厚みが厚すぎると、熱容量が増大し、被焼成物が加熱されにくくなり、焼成時間が長くなることがある。なお、焼成用セッターの厚みは、0.4mm以上であってよく、0.5mm以上であってよく、1mm以上であってよく、1.2mm以上であってよく、1.5mm以上であってよく、2mm以上であってよく、2.5mm以上であってもよい。また、焼成用セッターの厚みは、5mm以下であってよく、2.5mm以下であってよく、2mm以下であってよく、1.5mm以下であってよく、1.2mm以下であってよく、1mm以下であってよく、0.5mm以下であってもよい。
【0021】
焼成用セッターは、被焼成物を載置する載置部と、載置部の端部に設けられているとともに載置部より厚いリブ部を有していてよい。この焼成用セッターでは、載置部の熱容量をC1とし、リブ部の熱容量をC2としたときの熱容量比Rc(Rc=C2/C1)が、0.1以上2.0以下であってよい。熱容量比Rcが小さすぎると、被焼成物の焼成ムラを抑制する効果が得られにくくなる。熱容量比Rcが大きすぎると、焼成用セッターが加熱,冷却されることにより、焼成用セッターが破損する(クラックが生じる)ことが起こり得る。なお、熱容量比Rcは、0.4以上であってよく、0.5以上であってよく、0.6以上であってよく、0.8以上であってよく、1.0以上であってよく、1.2以上であってよく、1.5以上であってよく、1.6以上であってもよい。また、熱容量比Rcは、1.8以下であってよく、1.7以下であってよく、1.5以下であってよく、1.3以下であってよく、1.1以下であってよく、0.9以下であってよく、0.7以下であってよく、0.5以下であってもよい。
【0022】
リブ部の内側側面は、裏面側から表面側に向かうに従って、外側側面に向けて傾斜していてよい。内側側面の傾斜角は、15度以上であってよく、30度以上であってよく、45度以上であってよく、60度以上であってもよい。リブ部の外側側面は、裏面側から表面側に向かうに従って、内側側面に向けて傾斜している外側傾斜面を有していてよい。外側傾斜面の傾斜角は、15度以上であってよく、30度以上であってよく、45度以上であってよく、60度以上であってもよい。なお、内側側面の傾斜角と外側傾斜面の傾斜角の合計は、30度以上であってよく、45度以上であってよく、60度以上であってよく、75度以上であってよく、90度以上であってよく、120度以上であってもよい。
【0023】
焼成用セッターの表面全体、または、表面の一部が、焼成用セッターの材料(基材)とは異なる材料でコーティングされていてもよい。コーティング材料は、被焼成物と化学反応が起こり難い材料であってよい。また、コーティング材料は、基材よりも放射率(分光放射率)の低い材料であってもよい。換言すれば、コーティング材料は、基材よりも反射率の高い材料であってもよい。放射率はJIS R1693-2(2012)に準拠して測定することができる。なお、リブ部を基材よりも放射率の低い(反射率の高い)コーティング材料でコーティングすることにより、炉からの放射熱(例えば、炉の側壁からの放射熱)によるリブ部の受熱量を低減することができる。また、リブ部からの放射熱が抑制され、リブ部近傍(載置部の端部)の被焼成物が過熱されることを抑制することができる。なお、コーティング材料は、基材の種類に応じて種々の材料を選択することができる。例えば、基材が炭化珪素系セラミックスの場合、コーティング材料としてアルミナ,ジルコニア,ムライト,チタン酸アルミニウム等の酸化物およびアルミニウム等の金属を選択することができる。
【0024】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照し、焼成用セッター10について説明する。焼成用セッター10は、被焼成物が載置される載置部2と、載置部2の端部に設けられているリブ部20を備えている。より具体的にいうと、リブ部20は、載置部2の表面に平行な第1方向(x軸方向)の両端に設けられている。リブ部20は、載置部2の表面に平行で第1方向に直交する第2方向(y軸方向)の端部には設けられていない。リブ部20は、第1方向と第2方向の双方に直交する第3方向(z軸方向)に向けて突出している。すなわち、リブ部20の厚み(z軸方向長さ)は、載置部2の厚みより厚い。焼成用セッター10では、被焼成物は、載置部2上に配置され、リブ部20には配置されない。載置部2とリブ部20の境界を破線で示している(図2を参照)。なお、焼成用セッター10では、載置部2とリブ部20が一体に成形されていてもよい。
【0025】
焼成用セッター10では、リブ部20が、載置部2のx軸方向の両端において、y軸方向の一端から他端まで連続して伸びている。そのため、リブ部20の長手方向長さ(y軸方向の長さ)は、載置部2のy軸方向長さと等しい。また、リブ部20の側面のうちの載置部2側を構成している内側側面22と、外側側面26(内側側面22に対向している側面)がほぼ平行である。すなわち、内側側面22と外側側面26を結ぶ幅方向(x軸方向)において、幅方向の長さが、リブ部20の表面24からリブ部20の裏面28までほぼ一定である。
【0026】
リブ部20の厚み(z軸方向長さ)t20は、載置部2の厚みt2より厚い。そのため、焼成用セッター10は、リブ部を有していない焼成用セッターと比較して、x軸方向の両端の熱容量を高くすることができる。その結果、載置部2の端部(x軸方向端部)の昇温(降温)速度と、中央部の昇温(降温)速度の差を低減することができる。載置部2全体において、被焼成物の焼成状態を均一にすることができる。焼成用セッター10では、載置部2の熱容量をC1とし、リブ部20の熱容量をC2としたときに、下記式(1)を満足するように、載置部2及びリブ部20のサイズが調整されている。
0.1≦C2/C1≦2.0・・・(1)
【0027】
詳細な説明は後述するが、上記式(1)を満足するように載置部2とリブ部20のサイズを調整することにより、被焼成物の焼成ムラ(焼成状態に差が生じる現象)が抑制される。例えば、焼成用セッター10をx軸方向に移動させて連続炉(図示省略)に導入する場合、載置部2の端部(x軸方向の端部)と中央部では、炉内雰囲気に曝されるタイミングが異なる(移動方向前方の端部が先に高温に曝される)。リブ部20を設けることにより、炉内雰囲気に曝されることによる載置部2の端部の温度上昇が抑制され、載置部2は上下方向(z軸方向)からの一元的な受熱によって温度上昇する。載置部2の端部と中央部の受熱量を均一にすることができ、被焼成物の焼成ムラを抑制することができる。
【0028】
また、上記式(1)を満足するように載置部2とリブ部20のサイズを調整することにより、載置部2とリブ部20の間に大きな温度差が生じることが抑制され、焼成用セッター10が熱衝撃によって破損することも抑制することができる。焼成用セッター10は、上記式(1)を満足することにより、被焼成物を均一に加熱することができ、耐熱衝撃性が高いという特徴を有している。
【0029】
なお、被焼成物を短時間で(高速に)焼成するためには、載置部2の厚みを薄くし、載置部2の熱容量を低くすることが有効である。しかしながら、リブ部20が設けられていない場合、載置部2の厚みを薄くしすぎると、焼成用セッター10が搬送時の衝撃によって破損することが起こり得る。また、焼成炉に設置されたセンサーが、焼成用セッター10が導入されたこと(あるいは、焼成用セッター10の位置)を検知できないことが起こり得る。リブ部20を設けることにより、焼成用セッター10の端部が厚くなり、搬送時の衝撃による破損を抑制することができ、また、焼成用セッター10が炉内に導入されたこと等を確実に検知することができる。
【0030】
(第2実施形態)
図3を参照し、焼成用セッター10aについて説明する。焼成用セッター10aは、焼成用セッター10の変形例である。焼成用セッター10aについて、焼成用セッター10と共通する特徴については、焼成用セッター10と同じ参照番号を付すことにより、説明を省略することがある。
【0031】
焼成用セッター10aは、リブ部20が載置部2の端部の全周を囲っている。そのため、焼成用セッター10aは、連続式の焼成炉に導入するときに、x軸方向を移動方向とすることもできるし、y軸方向を移動方向とすることもできる。また、焼成用セッター10aは、焼成炉の側壁からの放射熱によって、載置部2の側方(移動方向に直交する方向)の端部の温度上昇を抑制することができる。
【0032】
上記第1,第2実施形態において、リブ部20は、載置部2の端部において、一端から他端まで伸びている。しかしながら、載置部2の端部にリブ部が設けられており、上記式(1)を満たす関係であれば、必ずしもリブ部が載置部2の一端から他端まで伸びていなくてもよい。例えば、焼成用セッター10において、x軸方向端部に部分的にリブ部が設けられていてもよい。また、載置部の表面形状が四角形の場合、リブ部は、焼成用セッターの端部の一辺にのみ設けられていてもよいし、三辺に設けられていてもよい。なお、リブ部が端部の一辺にのみ設けられている焼成用セッターは、リブ部が設けられている辺を移動方向の前方にして用いることができる。また、載置部の端部の三辺にリブ部が設けられている焼成用セッターは、リブ部が設けられている辺を移動方向の前方,移動方向に直交する方向(側方)にして用いることができる。
【0033】
(リブ部の変形例)
以下、リブ部の変形例について幾つか説明する。以下に説明するリブ部20a,20b,20c及び20dの形状は、焼成用セッター10,10aのどちらにも適用することができる。
【0034】
図4及び図5を参照し、リブ部20aについて説明する。リブ部20aでは、表面24の幅d24が、裏面28の幅d28より短い。リブ部20aでは、外側側面26が、裏面側から表面側に向かうに従って内側側面22に向けて傾斜している外側傾斜面26aを含んでいる。具体的には、外側側面26は、厚み方向(z軸方向)において、裏面28から中間部分までは一定の幅を維持し、中間部分から表面24に向かうに従って幅が狭くなっている。
【0035】
リブ部20aを有する焼成用セッターは、焼成用セッターが矢印30方向に移動して焼成炉50内に導入されたときに、炉内雰囲気からの受熱量を低減することができる。すなわち、外側傾斜面26aを有することにより、外側傾斜面26aを有していないリブ部よりも受熱量が低減し、リブ部20aの温度上昇を抑制することができる。また、矢印32に示すように、移動に伴って生じる気流(熱風)を遮り、外側傾斜面26aに沿って上方に移動させることができる。熱風の流れをコントロールすることにより、熱風がリブ部20aを超えて載置部2上の被焼成物に直接当たることを抑制することができる。熱風の流れをコントロールすることにより、載置部2上の被焼成物に温度ムラが生じることをさらに抑制することができる。なお、外側傾斜面26aの傾斜角(載置部2の法線40と外側傾斜面26aが成す角)θ1は、焼成用セッターの移動速度、リブ部20aの厚み(z軸方向長さ)に応じて、15度~60度の範囲に調整される。
【0036】
図6を参照し、リブ部20bについて説明する。リブ部20bも、表面24の幅が、裏面28幅より短い。リブ部20bでは、内側側面22が、裏面側から表面側に向かうに従って外側側面26に向けて傾斜している。内側側面22の傾斜角(法線42と内側側面22が成す角)θ2は、15度以上60度以下に調整されている。リブ部20bの場合、内側側面22が傾斜しているので、リブ部20bからの熱(放射強さが最大となる放射熱)が矢印34に示すように、載置部2から離れる方向に放射される。そのため、リブ部20bからの放射熱によって、被焼成物が加熱されることを抑制することができる。
【0037】
図7を参照し、リブ部20cについて説明する。リブ部20cは、リブ部20a(図4を参照)とリブ部20b(図6を参照)の双方の特徴を有している。すなわち、リブ部20cは、外側側面26が裏面側から表面側に向かうに従って内側側面22に向けて傾斜している外側傾斜面26aを含んでおり、内側側面22が裏面側から表面側に向かうに従って外側側面26に向けて傾斜している。リブ部20cは、炉内雰囲気からの受熱量を低減することができるとともに、リブ部20cからの放射熱が被焼成物に加わることを抑制することができる。また、リブ部20cは、焼成炉内の熱風が被焼成物に直接当たることを抑制することもできる。
【0038】
図8を参照し、リブ部20dについて説明する。リブ部20dは、内側側面22と表面24の間に内側曲線部22bが設けられており、外側側面26と表面24の間に外側曲線部26bが設けられている。このような形態であっても、リブ部20c(図7を参照)と同様の効果が得られる。なお、内側側面22と外側側面26の間が曲線で連続的に接続される形態であってもよい。また、内側側面22と表面24の間に内側曲線部22bを設けることと、外側側面26と表面24の間に外側曲線部26bを設けることは、各々独立してリブ部に適用することができる。すなわち、リブ部は、内側曲線部22bのみ、あるいは、外側曲線部26bのみを備えていてもよい。
【0039】
(第3実施形態)
図9を参照し、焼成用セッター10bについて説明する。焼成用セッター10bは、焼成用セッター10,10aの変形例である。焼成用セッター10bについて、焼成用セッター10,10aと共通する特徴については、焼成用セッター10,10aと同じ参照番号を付すことにより、説明を省略することがある。
【0040】
焼成用セッター10bは、載置部2の端部に、リブ部20eが設けられている。リブ部20eは、載置部2の厚み方向両側に突出している。換言すると、載置部2は、リブ部20eの厚み方向中間部に設けられている。リブ部20eの形状は、厚み方向の中央に対して対称である。すなわち、リブ部20eは、載置部2の表面側に突出している形状と、裏面側に突出している形状が同じである。そのため、焼成用セッター10bは、載置部2の表面2aを被焼成物の載置面として用いることもできるし、裏面2bを載置面として用いるともできる。載置部2の両面を載置面として用いることにより、長期使用による反りの発生等を抑制することができる。なお、焼成用セッター10bでは、リブ部20eの表面側及び裏面側への突出部が、リブ部20c(図7を参照)と同様に、内側側面と外側側面の双方に傾斜面を有している。しかしながら、リブ部20(図2)のように側面22,26が傾斜面を有していなくてもよいし、リブ部20a,20bのように内側側面22と外側側面26の一方に傾斜面を有していてもよいし、リブ部20dのように内側側面22と外側側面26の間に曲線部を有していてもよい。
【実施例
【0041】
サイズ、形状の異なる焼成用セッターを作製し、耐熱衝撃性、被焼成物の焼成状態(焼成ムラの有無)について評価した。耐熱衝撃性の評価は、焼成用セッターを連続式の焼成炉を通過させて加熱・冷却し、冷却後の焼成用セッターについてクラック及び破断の発生状態を評価した。クラックが発生しなかったものを「◎」、クラックが発生したが進展せず、焼成用セッターが完全に破断しなかったものを「○」、クラックが発生して進展し、焼成用セッターが完全に破断したものを「×」とした。また、焼成状態ついては、載置部の前方(焼成量セッターの移動方向の前方)と載置部の中央に熱電対を取り付け、炉内導入から2分後の前方と中央の温度差で評価した。温度差が25℃未満の場合を「A」、温度差が25℃~50℃未満の場合を「B」、温度差が50℃~100℃未満の場合を「C」、温度差が100℃以上の場合を「D」とし、「A」~「C」を合格、「D」を不合格とした。温度差が大きい程、載置部前方の被焼成物と載置部中央被焼成物が受ける受熱量に差が生じ、被焼成物に焼成ムラが生じやすくなる。
【0042】
焼成用セッターは、室温から500℃の炉室まで1分で移動させ、500℃の炉室から1200℃の炉室まで1分で移動させた。また、各炉室の長さ(炉内長さ)は2.5mである。そのため、焼成用セッターの移動中、焼成用セッターの一部は炉室外に位置し、一部は500℃の炉室内に位置することがある。また、焼成用セッターの一部は500℃の炉室内に位置し、一部は1200℃の炉室内に位置することがある。なお、炉内導入から2分後は、焼成用セッターは全体が1200℃の炉室内に位置する。
【0043】
(薄型の焼成用セッターの検討1)
全高1mm以下(リブ部の厚み1mm以下)の薄型の焼成用セッターについて、載置部とリブ部の熱容量比を変化させ、耐熱衝撃性,焼成状態の評価を行った(実施例1~5,比較例1~3)。載置部のサイズ(面サイズ)は、全て150mm×150mmとした。また、載置部の周囲に、高さ(厚み)及び幅の異なるリブを設け、熱容量比(リブ部の熱容量C2/載置部の熱容量C1)を調整した。焼成用セッターのサイズ及び評価結果を表1に示す。なお、表1には、上記式(1)を満たすか否かの結果も記している。上記式(1)を満足する試料に「○」を付し、満足しない試料に「×」を付している。また、実施例1は、熱容量比を低くするため、他の試料(実施例2~5,比較例1~3)よりリブ高さを低くした。比較例1は、載置部の周囲に、載置部と同じ厚みのリブ部を設けたものである。すなわち、比較例1は、リブ部が設けられていないことと等しい。
【0044】
【表1】
式(1)を満足する試料(実施例1~5)は、耐熱衝撃性及び焼成状態の評価において、全て良好な結果であった。なお、比較例2のように熱容量比が大きすぎると耐熱衝撃性が低下し、比較例3のように熱容量比が小さすぎると耐熱衝撃性及び焼成状態が低下することが確認された。
【0045】
(薄型の焼成用セッターの検討2)
全高2mm(リブ部の厚み2mm)の焼成用セッターについて、熱容量比を変化させ、耐熱衝撃性,焼成状態の評価を行った(実施例6~15,比較例4~6)。載置部のサイズは、全て150mm×150mmとした。熱容量比の調整は、載置部の厚み、リブ部の幅を変えて調整した。焼成用セッターのサイズ及び評価結果を表2に示す。なお、比較例4は、リブ部が設けられていないことと等しい。
【0046】
【表2】
全高2mmの場合も、式(1)を満足する試料(実施例6~15)は、耐熱衝撃性及び焼成状態の全てが良好な結果であった。特に、実施例11,12,13の試料は、耐熱衝撃性及び焼成状態の結果が極めて良好であった。全高2mmの結果からも、熱容量比が大きすぎると耐熱衝撃性が低下し、熱容量比が小さすぎると耐熱衝撃性及び焼成状態が低下することが確認された。
【0047】
(中型の焼成用セッターの検討)
全高3mm(リブ部の厚み3mm)、面サイズ250mm×250mmの焼成用セッターについて、熱容量比を変化させ、耐熱衝撃性,焼成状態の評価を行った(実施例16~19,比較例7~9)。熱容量比の調整は、載置部の厚み、リブ部の幅を変えて調整した。焼成用セッターのサイズ及び評価結果を表3に示す。なお、比較例7は、リブ部が設けられていないことと等しい。
【0048】
【表3】
表3に示すように、リブ部の厚みを3mmとし、載置部のサイズを増大させた場合も、式(1)を満足する試料(実施例16~19)は、耐熱衝撃性及び焼成状態の全てが良好な結果であった。また、中型の焼成用セッターにおいても、熱容量比が大きすぎると耐熱衝撃性が低下し、熱容量比が小さすぎると耐熱衝撃性及び焼成状態が低下することが確認された。
【0049】
(大型の焼成用セッターの検討)
大型の焼成用セッター(面サイズ:400mm×400mm)について、熱容量比を変化させ、耐熱衝撃性,焼成状態の評価を行った(実施例20~25,比較例11~13)。熱容量比の調整は、載置部の厚み、リブ部の厚み及び幅を変えて調整した。焼成用セッターのサイズ及び評価結果を表4に示す。なお、比較例10は、リブ部が設けられていないことと等しい。
【0050】
【表4】
大型の焼成用セッターの場合も、式(1)を満足する試料(実施例20~25)は、耐熱衝撃性及び焼成状態の全てが良好な結果であった。また、大型の焼成用セッターの場合も、熱容量比が大きすぎると耐熱衝撃性が低下し、熱容量比が小さすぎると耐熱衝撃性及び焼成状態が低下することが確認された。
【0051】
(側面形状の検討)
載置部及びリブ部のサイズ(面サイズ、厚み、幅)が実施例2~25と等しい試料(実施例26~49)について、リブ部の内側側面及び外側側面を傾斜させ、耐熱衝撃性,焼成状態の評価を行った。結果を図10に示す。なお、図10には、対応する実施例2~25、内側側面の傾斜角、外側側面の傾斜角、両側面の傾斜角の合計、熱容量比、実施例26~49の評価結果を示し、併せて実施例2~25の評価結果も示している。なお、実施例1については、載置部とリブ部の厚み差が小さいため、側面に傾斜を設けることが困難であったため、本試験を行っていない。
【0052】
図10に示すように、リブ部の側面を傾斜させることにより、焼成状態が改善することが確認された。特に、内側側面及び外側側面の合計角度が60度を超えると、焼成状態が顕著に改善することが確認された(実施例28,32,38)。なお、実施例28及び32は、内側側面の傾斜角より外側側面の傾斜角の方が大きい。実施例38は、外側側面の傾斜角より内側側面の傾斜角の方が大きい。内側側面と外側側面のどちらを傾斜させても、焼成状態が改善することが確認された。また、傾斜角の合計が大きい(60度以上)の試料において、耐熱衝撃性が改善することも確認された(実施例29,38,39,43,46及び49)。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
2:載置部
10:焼成用セッター
20:リブ部
22:リブ部の内側側面
24:リブ部の表面
26:リブ部の外側側面
28:リブ部の裏面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10