IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝メディカルシステムズ株式会社の特許一覧

特許7027077信号処理回路、放射線検出装置及び信号処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】信号処理回路、放射線検出装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20220221BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
G01T1/17 F
G01T7/00 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017172359
(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公開番号】P2018040800
(43)【公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】15/258,550
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】ミーシャー エル ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ハオ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジミー ワン
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/24
G01T 1/17
G01T 7/00
A61B 6/03
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線に基づき第一の検出素子によって検出された第一の検出信号と、前記入射する放射線に基づき前記第一の検出素子に隣接する第二の検出素子によって検出された第二の検出信号と、を加算して第一の加算信号を生成する第一の加算回路と、
前記第一の検出信号に基づく第一の入力信号と複数の閾値との大小関係と、前記第一の入力信号の大きさと、を含む第一のコンパレータ信号を生成する第一のコンパレータと、
前記第二の検出信号に基づく第二の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第二の入力信号の大きさと、を含む第二のコンパレータ信号を生成する第二のコンパレータと、
前記第一の加算信号に基づく第三の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第三の入力信号の大きさと、を含む第三のコンパレータ信号を生成する第三のコンパレータと、
前記第一のコンパレータ信号と、前記第二のコンパレータ信号と、前記第三のコンパレータ信号とのそれぞれに含まれる前記大小関係に基づいて、前記第一の入力信号、前記第二の入力信号、前記第三の入力信号のうちいずれかを前記放射線のエネルギーとして記録するカウンタと、
を具備し、
前記複数の閾値は、第一の閾値と、第二の閾値と、第三の閾値とを含み、
前記カウンタは、
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記第三の閾値よりも小さく、且つ前記第一の入力信号が前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第一の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第一の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記第三の閾値よりも小さく、且つ前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第二の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第二の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第二の入力信号が前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第一の入力信号が前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び第二の入力信号が共に前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、所定の基準に従って、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子と前記第二の検出素子そのうちの一方によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第二の閾値は、前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子の物質と前記放射線のスペクトラムとの組み合わせによって決定された蛍光性X線エネルギー最大値よりも大きい値、及びX線検出イベントのエネルギー共有により生成された二つの電子パルスのうちの小さい電子パルスの方に対する所定の上限よりも大きい値、のうちの少なくとも一方を満たす、
信号処理回路。
【請求項2】
前記第一の閾値は、前記第一の検出素子と前記第二の検出素子との電子ノイズのエネルギースペクトラム最大値、及び重み付けクロストーク(cross-talk)のエネルギースペクトラム最大値よりも大きい値であり
前記第三の閾値は、前記第二の閾値よりも大きな値である、
請求項記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記第二の検出信号と、前記第二の検出素子に隣接する第三の検出素子によって入射する放射線に基づき生成された第三の検出信号とを加算して第二の加算信号を生成する第二の加算回路と、
前記第二の加算信号に基づく第四の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第四の入力信号の大きさと、を含む第四のコンパレータ信号を生成する第四のコンパレータと、
前記第三の検出信号に基づく第五の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第五の入力信号の大きさと、を含む第五のコンパレータ信号を生成する第五のコンパレータと、
前記第一の入力信号と前記第二の入力信号とのうちの少なくとも一方が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第五のコンパレータ信号が前記第三の検出信号が前記第一の閾値よりも小さいことを示す場合には、前記第三の入力信号が放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第五の入力信号と前記第二の入力信号とのうちの少なくとも一方が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第一の入力信号が前記第一の閾値よりも小さいことを示す場合には、前記第四の入力信号が前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第四の入力信号を記録する、
請求項又はのうちいずれか一項記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記第一の検出信号を増幅する第一のプリアンプと、
前記第二の検出信号を増幅する第二のプリアンプと、
所定の線形インパルス応答関数に従って前記第一の検出信号のパルス波形を修正し、前記第一の入力信号を生成する第一のパルスシェーパーと、
前記所定の線形インパルス応答関数に従って、前記第二の検出信号のパルス波形を修正し、前記第二の入力信号を生成する第二のパルスシェーパーと、
をさらに具備する請求項1乃至のうちいずれか一項に記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記カウンタは、
前記第二の入力信号は前記第二の閾値に対応し、且つ前記第一の入力信号は前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子で検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号は前記第二の閾値に対応し、且つ前記第二の入力信号は前記第二の閾値よりも大きい場合に、前記第三の入力信号が前記第二の検出素子で検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録する、
請求項1乃至のうちいずれか一項記載の信号処理回路。
【請求項6】
放射線を検出し第一の検出信号を生成する第一の検出素子と、
前記第一の検出素子に隣接し、放射線を検出して第二の検出信号を生成する第二の検出素子と、
前記第一の検出信号と前記第二の検出信号とを加算して第一の加算信号を生成する第一の加算回路と、
前記第一の検出信号に基づく第一の入力信号と複数の閾値との大小関係と、前記第一の入力信号の大きさと、を含む第一のコンパレータ信号を生成する第一のコンパレータと、
前記第二の検出信号に基づく第二の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第二の入力信号の大きさと、を含む第二のコンパレータ信号を生成する第二のコンパレータと、
前記第一の加算信号に基づく第三の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第三の入力信号の大きさと、を含む第三のコンパレータ信号を生成する第三のコンパレータと、
前記第一のコンパレータ信号と、前記第二のコンパレータ信号と、前記第三のコンパレータ信号とのそれぞれに含まれる前記大小関係に基づいて、前記第一の入力信号、前記第二の入力信号、前記第三の入力信号のうちいずれかを前記放射線のエネルギーとして記録するカウンタと、
を具備し、
前記複数の閾値は、第一の閾値と、第二の閾値と、第三の閾値とを含み、
前記カウンタは、
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記第三の閾値よりも小さく、且つ前記第一の入力信号が前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第一の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第一の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記第三の閾値よりも小さく、且つ前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第二の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第二の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第二の入力信号が前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第一の入力信号が前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び第二の入力信号が共に前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、所定の基準に従って、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子と前記第二の検出素子そのうちの一方によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第二の閾値は、前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子の物質と前記放射線のスペクトラムとの組み合わせによって決定された蛍光性X線エネルギー最大値よりも大きい値、及びX線検出イベントのエネルギー共有により生成された二つの電子パルスのうちの小さい電子パルスの方に対する所定の上限よりも大きい値、のうちの少なくとも一方を満たす、
放射線検出装置。
【請求項7】
前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子を含む複数の検出素子をさらに具備し、
前記複数の検出素子は、長手方向に沿ってアレイ状に配置されている請求項記載の放射線検出装置。
【請求項8】
前記第一の検出素子と前記第二の検出素子とは、前記長手方向に沿って隣接する請求項記載の放射線検出装置。
【請求項9】
前記第一の検出素子と前記第二の検出素子とは、前記長手方向を横断する方向に沿って隣接する請求項記載の放射線検出装置。
【請求項10】
前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子は、それぞれ放射線入射側における第一の端部と、前記第一の端部に対向する第二の端部とを有し、
前記第一の検出素子の前記第一の端部と前記第二の検出素子の前記第二の端部とは隣接し、
前記第一の検出素子の前記第一の端部で前記第一の検出素子に入射する放射線を減衰させる第一のマスキング部材と、
前記第二の検出素子の前記第一の端部で前記第一の検出素子に入射する放射線を減衰させる第二のマスキング部材と、
をさらに具備する請求項乃至のうちいずれか一項記載の放射線検出装置。
【請求項11】
前記第一のマスキング部材及び前記第二のマスキング部材とは、散乱線除去グリッドまたはコリメータである請求項10記載の放射線検出装置。
【請求項12】
前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子とは、共通陰極と、素子間で分離された陽極を有する請求項乃至11のうちいずれか一項記載の放射線検出装置。
【請求項13】
入射する放射線に基づき第一の検出素子によって検出された第一の検出信号と、前記入射する放射線に基づき前記第一の検出素子に隣接する第二の検出素子によって検出された第二の検出信号と、を加算して第一の加算信号を生成し、
前記第一の検出信号に基づく第一の入力信号と複数の閾値との大小関係と、前記第一の入力信号の大きさと、を含む第一のコンパレータ信号を生成し、
前記第二の検出信号に基づく第二の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第二の入力信号の大きさと、を含む第二のコンパレータ信号を生成し、
前記第一の加算信号に基づく第三の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第三の入力信号の大きさと、を含む第三のコンパレータ信号を生成し、
前記第一のコンパレータ信号と、前記第二のコンパレータ信号と、前記第三のコンパレータ信号とのそれぞれに含まれる前記大小関係に基づいて、前記第一の入力信号、前記第二の入力信号、前記第三の入力信号のうちいずれかを前記放射線のエネルギーとして記録
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記複数の閾値に含まれる第三の閾値よりも小さく、且つ前記第一の入力信号が前記複数の閾値に含まれる第二の閾値よりも大きい場合には、前記第一の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第一の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び前記第二の入力信号のどちらも前記第三の閾値よりも小さく、且つ前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きい場合には、前記第二の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された放射線のエネルギーを表しているとして前記第二の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第二の入力信号が前記複数の閾値に含まれる第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第二の入力信号が前記第二の閾値よりも大きく、且つ前記第一の入力信号が前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、前記第三の入力信号が前記第二の検出素子によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録し、
前記第一の入力信号及び第二の入力信号が共に前記第一の閾値よりも大きく前記第二の閾値よりも小さい場合には、所定の基準に従って、前記第三の入力信号が前記第一の検出素子と前記第二の検出素子そのうちの一方によって検出された前記放射線の前記エネルギーを表しているとして前記第三の入力信号を記録すること、
を具備し、
前記第二の閾値は、前記第一の検出素子及び前記第二の検出素子の物質と前記放射線のスペクトラムとの組み合わせによって決定された蛍光性X線エネルギー最大値よりも大きい値、及びX線検出イベントのエネルギー共有により生成された二つの電子パルスのうちの小さい電子パルスの方に対する所定の上限よりも大きい値、のうちの少なくとも一方を満たす、
信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、信号処理回路、放射線検出装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検出器は、コンピュータ断層撮影(CT)を含む多数のアプリケーションで使用される。更に、X線検出器は、CT撮像の範囲外にあるレントゲン写真や蛍光性撮像など、様々なその他の投影の計測において使用される。
【0003】
CTスキャナは通常、被検体の身体の一定領域にわたり一つまたはそれ以上の断面スライスの画像を作成する。X線源など放射線源は、一側面から被検体にX線を照射する。コリメータは、通常X線源に隣接しており、X線ビームの角度範囲を制限する。そうすることで被検体への放射線作用は、被検体の横断スライスを定義する平面的な領域(またはボリューム、例えば、コーンビームCT)に実質的に留められる。被検体の反対側にある、少なくとも一つの検出器(そして通常は一つ以上でずっと多くの検出器)は、スライスの平面において実際には被検体を通過した放射線を受信する。身体を通過した放射線の減衰は、検出器から受信された電気信号を処理することで、計測される。
【0004】
これまでに、エネルギー積分型検出器は、CT投影データを計測するために使用されてきた。より最近では、光子計数検出器(PCDs)が従来的なエネルギー―積分型検出器に対する、実行可能な代替手段になりつつある。PCDsには、スペクトラルCTを実行するPCDsの能力を含め、多くの利点がある。照射されたX線データのスペクトラル特質を収集するために、PCDsはエネルギー/スペクトルビンを使用しながらX線光子の投射を識別して記録して、それぞれ検出器素子のそれぞれエネルギー/スペクトルビンにおける光子の数を計数する。
【0005】
多くの臨床アプリケーションは、物質識別やビームハードニング補正における改善を提供出来る、スペクトルCT技術からの恩恵を享受することが可能である。
更に、半導体に基づくPCDsは、従来のスペクトルCT技術と比較してより優れたスペクトル情報を提供する能力があり、スペクトルCTに対する候補として見込みがある(例えば、二重線源やk-Vp切り替えなど)。
【0006】
スペクトルCTにおいて使用される半導体に基づくPCDsは、入射光子を検出してあらゆるイベントについて光子エネルギーを計測することが出来る。しかし、パイルアップやKエスケープ、エネルギー共有などの現象のために面倒な事態が様々生じる。これらの現象を解明し修正することで、改善された投影データが生成出来て、その結果CT画像再構成のためのより高画質な画像に繋がる。
【0007】
蛍光X線エスケープについて、高エネルギー光子が検出器に照射された場合、検出器の原子からの内殻電子は、「光電子」として原子から放出される。イオン化または励起の後、原子は内殻電子における空孔(ホール)がある励起された状態になる。外殻電子は、それから作られたホールに落ちていき、それにより二つの状態の間のエネルギーの食い違いに等しいエネルギーで、光子を照射する。それぞれの素子はエネルギーレベルの固有のセットを有するので、それぞれの素子は「特性X線」または「蛍光X線」と称される、素子を特徴付ける蛍光X線のパターンを放射する。X線の強度は、対応する素子の密集具合と共に増加する。
【0008】
テルル化カドミウム(CdTe)またはテルル化カドミウム亜鉛(CZT)など、多くの物質において、蛍光X線はK殻電子(原子の原子核に最も近い殻)を主に含む。検出器から蛍光X線がエスケープした(逃げた)場合に、検出器信号は誤りであり、被ったエネルギーの損失は、その損失自身を検出器の出力スペクトルにおけるエラーとして明らかにする。従って、計測されたスペクトル信号は歪められる可能性があり、再構成画像にアーチファクトを生じさせかねない。
【0009】
電荷共有イベントについて、電荷共有(チャージシェアリングイベント)は、一つの検出器素子におけるまたは二つの隣接する検出器素子の間の境界近くの検出イベントからの電荷が、検出地点から一つの電極以上の電極までに、拡散且つ移動(マイグレーション)した結果、発生する。従って、単一の検出イベントは、一つ以上の検出器素子における電気信号という結果になる可能性があり、単一の高いエネルギー検出イベントではなく、二つの低いエネルギー検出イベントのように見えてしまう恐れがある。
【0010】
理想的な検出器反応からの修正されない、それぞれの上述の偏差は、入射スペクトラムに関する検出されたスペクトラムを歪めることがあり、そして最終的には再構成画像の画質やデータから導出された物質分解を悪化させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2015/0257772A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した様に、蛍光X線エスケープイベント(K-エスケープ)や電荷共有などにより、単一のX線検出イベントからの電荷が分配され多重の検出器素子にわたって検出され(多重検出)、パイルアップ現象を引き起こす原因となる。しかしながら、従来の装置では、この様な多重検出について、適切な処理を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記事情に鑑み、本実施形態の目的は、K-エスケープや電荷共有に起因する多重検出が発生した場合であっても、従来に比して適切に信号処理を行うことができる信号処理回路、放射線検出装置及び信号処理方法を提供することを目的とする。
本実施形態に係る信号処理装置は、第一の加算回路と、第一のコンパレータと、第二のコンパレータと、第三のコンパレータと、カウンタと、を具備する。前記第一の加算回路は、入射する放射線に基づき第一の検出素子によって検出された第一の検出信号と、前記入射する放射線に基づき前記第一の検出素子に隣接する第二の検出素子によって検出された第二の検出信号と、を加算して第一の加算信号を生成する。前記第一のコンパレータは、前記第一の検出信号に基づく第一の入力信号と複数の閾値との大小関係と、前記第一の入力信号の大きさと、を含む第一のコンパレータ信号を生成する。前記第二のコンパレータは、前記第二の検出信号に基づく第二の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第二の入力信号の大きさと、を含む第二のコンパレータ信号を生成する。前記第三のコンパレータは、前記第一の加算信号に基づく第三の入力信号と前記複数の閾値との大小関係と、前記第三の入力信号の大きさと、を含む第三のコンパレータ信号を生成する。前記カウンタは、前記第一のコンパレータ信号と、前記第二のコンパレータ信号と、前記第三のコンパレータ信号とのそれぞれに含まれる前記大小関係に基づいて、前記第一の入力信号、前記第二の入力信号、前記第三の入力信号のうちいずれかを前記放射線のエネルギーとして記録する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】一実施形態に係る、第二の検出器素子ごとの境界に取付けられたコリメータに配置された検出器素子のアレイを示している。
図1B】一実施形態に係る、第三の検出器素子ごとの境界に取付けられたコリメータに配置された検出器素子のアレイを示している。
図1C】一実施形態に係る、センサ物質の検出面の前面に取付けられた様々なサイズのコリメータに配置された検出器素子のアレイを示している。
図2A】一実施形態に係る、蛍光X線イベントが図1Cの検出器アレイ構造の例に適用されることを示している。
図2B】一実施形態に係る、電荷共有X線イベントが図1Aの検出器アレイ構造の例に適用されることを示している。
図3】陽極への近似の関数として、様々なピクセル(例えば陽極)サイズに対する重み付けの電位の例を示している。
図4A】一実施形態に係る、二つの検出器素子にわたり単一のX線の分配された検出を識別するためのASICの上位回路略図を示している。
図4B】一実施形態に係る、二つの検出器素子にわたり単一のX線の分配された検出を区別するためのASICの下位回路略図を示している。
図5A】時間の関数としてチャンネルAに対する、コンパレータ信号DA1、DA2、DA3の実施形態のプロット図を示している。
図5B】時間の関数としてチャンネルBに対する、コンパレータ信号DB1、DB2、DB3の実施形態のプロット図を示している。
図5C】チャンネルAおよびチャンネルBからの信号の合計に対する時間の関数としてコンパレータ信号DS1、DS2、DS3の実施形態のプロット図を示している。
図6】一実施形態に係る、エネルギーの関数とカウント値によって表された、電子ノイズ、クロストークノイズ、そしてX線信号のエネルギースペクトルのプロット図を示しており、またコンパレータのエネルギー閾値の相対位置を示している。
図7A】リセットがあるサンプルホールド(sample-and-hold)またはラッチ回路を使用しながらチャンネルAに対する、コンパレータ信号DA1、DA2、DA3の実施形態のプロット図を示している。
図7B】リセットがあるサンプルホールドまたはラッチ回路を使用しながらチャンネルBに対する、コンパレータ信号DB1、DB2、DB3の実施形態のプロット図を示している。
図7C】リセットがあるサンプルホールドまたはラッチ回路を使用しながらチャンネルA及びBからの信号の合計に対するコンパレータ信号DS1、DS2、DS3の実施形態のプロット図を示している。
図8A】長手方向(つまりz方向)に隣り合って配置された複数の二つで一組の検出器素子の一実施形態の構造を示しており、各二つで一組の検出器素子は、X線検出信号を、とりわけ、分配された検出信号を分解し記録する、個別のASICへと向けている。
図8B】長手方向(つまりz方向)に隣り合って配置された複数の三つで一組の検出器素子の一実施形態の構造を示しており、各三つで一組の検出器素子は、X線検出信号を、分配された検出信号を分解し記録する、個別のASICへと向けている。
図8C】短手方向(つまりx方向)に隣り合って配置された複数の二つで一組の検出器素子の一実施形態の構造を示しており、各二つで一組の検出器素子は、X線検出信号を、分配された検出信号を分解し記録する、個別のASICへと向けている。
図8D】短手方向(つまりx方向)に隣り合って配置された複数の三つで一組の検出器素子の一実施形態の構造を示しており、各三つで一組の検出器素子は、X線検出信号を、分配された検出信号を分解し記録する、個別のASICへと向けている。
図9】一実施形態に係る、分配された検出イベントが発生したかどうかを決定し、その後検出イベントのエネルギーを分解し記録する方法のフロー概略図を示している。
図10】一実施形態に係る、三つの検出器素子にわたり単一のX線の分配された検出を識別するための三つのチャンネルASICの回路略図を示している。
図11】一実施形態に係る、CTスキャナの実施形態の概要図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
より効果的にするため、光子計数検出器(PCDs)を使用するスペクトルCTスキャナとX線透視装置は、X線波長で吸収性の高い物質を使う。こうすることで、PCDsは、X線センサについてのエネルギー情報入射を効果的に記録するのに十分な阻止能を有する。X線波長での吸収性の高い物質は、より高い原子番号(Z)例えばCdTeやCZTを有し、結果として、これらの物質は、光電子相互作用がセンサ内で発生する場合に、K-、L-、またはM-X線を放射することが出来る。放射されたK-、L-、またはM-X線は、元のX線よりもエネルギーが小さく、また放射されたK-、L-、またはM-X線でのセンサ物質の減弱係数は、元のX線に対する減弱係数よりも小さいことがある。更に、放射されたX線は、元のX線の伝播方向に比べて、ランダム方向に放射される可能性がある。このようにして、放射されたX線は元のX線よりも長い距離にわたってセンサ物質を通り抜けて伝播することがあり、放射されたX線は検出器素子間を伝播することがある。従って、第一の検出器素子から放射された光子は、第二の検出素子に伝播し、また第二の検出素子によって吸収され得る。検出された二つのエネルギーの和と等しいエネルギーを有する単一のX線の検出ではなく、別々だが繋がりのある二つの検出器素子における二つの小さなエネルギーの検出のように見えてしまう結果になる。このプロセスは通常、蛍光X線エスケープ、またはもっと簡単にKエスケープと呼ぶことが出来る。
【0016】
蛍光X線エスケープには、元のX線のエネルギーのうちのいくつかが蛍光X線として再放射されるため、記録されたスペクトルを、実際の入射スペクトルに比べてより低いエネルギーへとシフトさせるという悪影響がある。このため、吸収されたX線エネルギーの全てが光電子の作成に適用されるのではなく、エネルギーのうちのいくつか(つまり、空の内殻電子K-、L-、M-殻と更に外殻との間の食い違いに一致する特徴的なエネルギー)が再放射される。特性X線エスケープは、蛍光X線エネルギーがKエッジに一致するため、Kエスケープとよく呼ばれる。
【0017】
上に説明されたKエスケープシナリオに加えて、電荷共有は蛍光X線が放射されない場合にも、検出器素子間の境界近くで発生する可能性がある。元の検出されたX線のエネルギーは、センサ物質として使用されている半導体のバンドギャップよりもはるかに大きくなり、多数の光電子を生成する、吸収されたX線エネルギーという結果になる。様々な拡散処理と電荷効果により、例えば半導体におけるX線の吸収により生成された電荷キャリアは、検出器素子の電極に向かって電位線に沿って移動するようにして広がっていく。結果的に、第一および第二の検出器素子の間の境界近くで生成された光電子は、第二の検出器素子の陰極で集められている光電子の残りと共に、第一の検出器素子の陰極で部分的に集められている可能性がある。このようにして、この電荷共有シナリオにおいて、上で説明されたKエスケープシナリオ同様、検出イベントは、検出された二つのエネルギーの和に等しいエネルギーを有する単一のX線の検出ではなく、隣接する検出器素子による二つの小さなエネルギーのX線の検出のように見える。
【0018】
本実施形態に説明される装置および方法は、合計で元のX線のエネルギーを有する、二つのX線検出として記録されている単一のX線の検出イベントの、上で説明された課題を有利に軽減する。上で説明された課題を軽減することにより、本実施形態に説明される装置は、分配された検出イベントに対するものとして隣接する検出イベント間を識別することの課題や重要性が増す中で、隣接する検出器素子での検出イベントがより頻繁に起こる高X線束で操作することが出来る。
【0019】
特定の実施形態において、新たな特定用途向け集積回路(ASIC)を使用して、隣接する検出器素子の信号を組み合わせ、所定の基準に基づいて、隣接する検出器からの個別の信号よりも、単一の検出イベントのエネルギーとして組み合わせた信号を選択的に記録する。
【0020】
特定の実施形態において、本実施形態に説明される装置および方法は、スペクトルCTアプリケーションで使用される、固定されたスパースPCDsを有するCTスキャナに適用する。PCDsは、検出器素子の一次元線形アレイを有することが出来る。更に、特定の実施形態において、X線源からのX線ビームは、PCDsの検出器素子の少なくとも一つの陽極に一列に並べられた開口を有するコリメータを使用しながら、コリメートされ得る。X線源から照射されるX線ビームは、例えばファンビームまたはコーンビームの幾何学的配置のどちらかにおいて構成することが出来る。
【0021】
特定の実施形態において、本実施形態に説明される装置および方法は、X線源の向かいに位置したエネルギー積分型検出器を有するCTスキャナに適用され、当該エネルギー積分型検出器は、X線源と同期して回転出来る。X線源から照射されるX線ビームは、例えばファンビームまたはコーンビームの幾何学的配置のどちらかにおいて構成することが出来る。
【0022】
次に図を参照しながら、参照番号が同一の、または様々な図を通して対応する部分を指し示すように、図1AはX線検出器素子の一次元アレイを含む、検出器100(A)の断面図を示している。
なお、本実施形態においては、X線検出器素子の一次元アレイを含み、各素子において発生する検出信号を読み出す構成を有するユニットを「放射線検出器」又は「検出器」と呼び、当該「検出器」から出力されるチャネル毎の検出信号を用いて所定の信号処理を実行する回路部分(例えば、後で説明するASIC400)を「信号処理回路」と呼ぶ。また、「放射線検出装置」とは、上記「信号処理回路」と上記「検出器」とを含むものとして定義される。
X線は検出器100(A)の陰極レイヤについての投射である。X線はその後半導体レイヤ130に吸収される。半導体130は、例えばテルル化カドミウム(CdTe)またはテルル化カドミウム亜鉛(CZT)の可能性がある。X線の吸収により生成された光電子は、個別の検出イベントを登録(レジスト)するために、陰極120から陽極140まで電位の方向に沿って移動する。コリメータ110は、陰極レイヤ120についてのX線投射に対する許容角度を制限する。更に、コリメータ110は、X線からコリメータ110近くの半導体領域を遮断するためのバッフルとしての役割を果たす。コリメータ110は、所定の許容角度の外側の角度で、検出器100(A)について散乱したX線投射の検出を優位に制限するために、散乱線除去グリッドとしても使用され得る。図1Aは、検出器素子の間の一つおきの遷移の間にコリメータ110が位置された配置を示している。このようにして、検出器100(A)に対し、それぞれの検出器素子は、正に一つのマスクで隠されていない境界を別の検出器素子と共有し、検出器素子間のその他の境界は、コリメータ110によってマスクで隠されている。
【0023】
図1Bは、X線検出器素子の一次元アレイを含む、検出器100(B)の断面図を示している。検出器100(A)同様、検出器100(B)は、コリメータ110がいくつかの検出器素子間の境界をマスクで隠していることを、示している。しかし、検出器100(B)において、あらゆる第二の境界がマスクで隠されているよりも、あらゆる第三の境界がマスクで隠されている。
【0024】
図1Cには、検出器100(C)の断面図を示されている。検出器100(C)において、コリメータ110は、特定のコリメータが陽極140の全面に位置するか、または陽極間の境界の全面に位置するかどうかに依存している、異なる幅を有する。検出器100(C)において、陽極間のそれぞれ境界は、より幅広いコリメータ110によってマスクで隠されている。
【0025】
図1A-1Cに示されているX線検出器実施例のそれぞれは、Kエスケープ、電荷共有、重み付け電位があるクロストークのために、エネルギー情報歪みの影響を受けやすい。
【0026】
図2A図2Bとは、本実施形態で提供された、装置がASICを使わないコンセプトの場合に、Kエスケープおよび電荷共有が原因の、エネルギー情報歪みの例をそれぞれ示している。
【0027】
図2Aは、エネルギーE1+E2が陽極i-1での投射を有するX線におけるKエスケープの例を示している。しかし、光電子相互作用のために、エネルギーE2を有する蛍光X線光子が生成される。残りのエネルギーE1は陽極i-1の上方で吸収される一方で、エネルギーE2での放射された蛍光性光子は陽極iで吸収される。このように、陽極i-1およびiからの電気信号(検出信号)が個別のプリアンプおよびパルスシェーパーによって増幅され入力信号として形成された後、当該信号は所定の閾値と比較され、検出イベントは、陽極i-1で、第二の閾値よりも大きなエネルギーを有するX線検出として、また陽極i-1で、第一の閾値と第二の閾値との間のエネルギーを有する同時のX線検出として、記録される。
【0028】
図2Bは、エネルギーE1+E2が陽極i-1と陽極iとの間の境界での投射を有するX線における電荷共有の例を示している。エネルギーE2に対応する電荷の一部は、陽極i-1で検出され、一方でエネルギーE1に対応する電荷の残りは、陽極iで検出される。検出イベントは、第一と第二の閾値の間のエネルギーを有するX線検出として陽極i-1で、そして第二の閾値よりも大きなエネルギーを有する同時X線検出として陽極iで、記録される。
【0029】
図3は、ショックレーラモ定理に従って、様々なピクセルサイズに対する重み付け電位のプロットを示している。当業者には理解されている通り、X線検出器に基づくCdTeとCZTとに対し、電荷キャリアとして電子を主に使用しながら生成された電気信号は、CdTeおよびCZTにおけるホールに比べて電子の電荷キャリアの可動性がずっと大きいため、一般により理想的な特性を有する。従って、陽極から離れて素早く減少する重み付け電位は、好ましい。というのも、重み付け電位は、留まっている電子の大部分が陽極から遠く離れたホールのゆっくりした移動による影響を受けない一方で、陽極へと移動する電子の存在を選択的に登録する能力があるからである。この理由のために、小さい陽極(ピクセル)は、PCDsに対して望ましい品質を有する。しかし、小さい陽極は、検出イベントが多重検出器素子にわたって分配される予定である尤度を高めることで、電荷共有の効果も悪化させる。このようにして、特定の所望の効果を達成するために陽極をより小さく作ることと、小さな陽極のその他の望ましくない効果を回避することと、の間にトレードオフが存在する。本実施形態に説明されるASICs、装置、そして方法は、多重検出器素子にわたって分配されているX線の検出から生じている曖昧さを克服することで、当該トレードオフを解消する手助けをする。
【0030】
本実施形態に説明されるASICs、装置、そして方法が無いと、従来のCTスペクトルCTシステムにおけるカウントレートは、形成時間、ゲイン、パイルアップ拒絶回路のバンド幅/立ち上がり時間など、PCDセンサ物理的過程やASICパラメータにより制限されてしまう。PCD陽極ピクセルに接続された、存在するASICチャンネルは、高いX線束では特に、パイルアップ効果が原因で計数能力に限界があり、これによりパイルアップは検出器反応を低下させ得る。さらに、存在するASICチャンネルを使用するPCDsは、テイルパイルアップ(tail pile up)効果のために高いX線束でシフトするベースラインから被害を受ける傾向があり、これも検出器反応を低下させ得る。
【0031】
図4Aおよび図4Bは、分配された検出を分解するためのASIC400の概略図を示している。ASIC400は、チャンネルAとチャンネルBとを含む。チャンネルAとチャンネルBとは、信号の条件付けおよび閾値回路410への検出信号の入力である。回路410の出力は、検出ウィンドウにおける検出イベントがどのように記録されるかの論理決定を実行する、カウンタ450への入力として、その後提供される。例えば、検出イベントは、(i)チャンネルAとチャンネルBとのどちらにも何ら検出イベントは無い、(ii)チャンネルAにのみ検出有り、(iii)チャンネルBにのみ検出有り、(iv)チャンネルAとチャンネルBとで個別に発生する、二つの別々の検出イベント有り、(v)チャンネルAとチャンネルBとの両方で検出された、単一のイベントに対する分配された検出イベント有り、として記録され得る。加えて、ASIC400は、パイルアップ拒絶回路を含むことが出来る。当該パイルアップ拒絶回路において、所定の検出ウィンドウ内のチャンネルで発生している多重検出イベントは、投影データからの排除に対しフラグ立てされることになる。
【0032】
図4Bに示されている通り、チャンネルAはプリアンプ412を使用しながら予め増幅され得る。次に、ビームシェーパー414は、パルスを形成して、パルスベースラインを復元するために、所定のインパルス反応関数に従って、プリアンプ412の外に出て来るパルスを修正する。このように、入力パルスA(すなわち検出信号A)は形状A´のパルス(すなわち入力信号A)へと変換される。次に、コンパレータ416は、パルスのエネルギーをいくつかの分離したエネルギービンのうちの一つへと分解するために使用される。
【0033】
図5Aは、コンパレータ416による、三つのエネルギー閾値と比較されているパルスA´のプロット図を示している。なお、以下に述べるコンパレータ信号DA、DB、DSは、それぞれフラグとしてのデジタル値「1」を有する場合には、パルスA´の信号の大きさについての情報も出力するものとする。
パルスA´が閾値1を超えた場合、信号DA1は「1」のデジタル値を有する。そうでなければ、DA1は「0」のデジタル値を有する。パルスA´が閾値2を超えた場合、信号DA2は「1」のデジタル値を有する。そうでなければ、DA2は「0」のデジタル値を有する。パルスA´が閾値3を超えた場合、信号DA3は「1」のデジタル値を有する。そうでなければ、DA3は「0」のデジタル値を有する。
【0034】
同様に、チャンネルBは、プリアンプ422を使用しながら予め増幅され得る。次に、ビームシェーパー424は、パルスを形成して、パルスベースラインを復元するために、所定のインパルス反応関数に従って、プリアンプ422の外に出て来るパルスを修正する。このように、入力パルスB(すなわち検出信号B)は形状B´のパルス(すなわち入力信号B´)へと変換される。次に、コンパレータ426は、パルスのエネルギーを、信号DB1、DB2、DB3に対応するいくつかの分離したエネルギービンのうちの一つへと分解するために使用される。図5Bに示される通り、信号DB1、DB2、DB3は、チャンネルAに対する信号DA1、DA2、DA3に類似して生成される。
【0035】
図5Cにおいて、信号Sは、アナログ加算回路434によって生成された、信号A´と信号B´との合計としての加算信号である。次に、コンパレータ436は、結果信号SをチャンネルAとチャンネルBとで使用される同じ三つの閾値と比較する。この比較に基づいて、コンパレータ436は、信号DS1、DS2、DS3を生成する。図5Cは、パルスSから信号DS1、DS2、DS3への変換例を示している。
【0036】
回路410は、プリアンプ412と422、パルスシェーパー414と424、加算回路434、コンパレータ416、426、436とを含む。
【0037】
特定の実施において、図4Aおよび図4Bに示されているASICの構成は、図1Aに示されているコリメータ構成と共に使用することが出来、この場合に検出器素子の隣接する陽極間の全ての第二の境界にマスクで隠すコリメータがある。加えて、図4Aおよび4Bに示されているASICの構成は、図1Cに示された通り、PCDセンサについてのX線投射に対する許容角度を制限するために使用される、溝が形成された(slotted)コリメータまたは散乱線除去グリッドが使用される場合に、使用することが出来る。
【0038】
コンパレータ416、426、436からカウンタ450へ送られるデジタル信号に基づき、X線の正しい数が対応する正しいエネルギーと共に数えられる/記録される。特定の実施において、チャンネルAとチャンネルBとの両方が、同じ検出時間ウィンドウにおいて検出イベントを示した場合に、その時検出イベントは単一の分配された検出イベントとして記録され、検出イベントのエネルギーはチャンネルSを使用しながら記録される。チャンネルAとチャンネルBとのうちの一方だけが検出イベントを登録した場合には、その時の検出イベントは、そのチャンネルに対して示された対応するエネルギーを持つものとして、それぞれのチャンネルに帰属する。
【0039】
特定の実施形態において、偶然の同時イベントは、計測を実行するためのより短い時間ウィンドウを可能にするために、大きなバンド幅/速いパルスシェーパーを個別のチャンネルに適用することで、最小化することが出来る。加えて、偶然の同時イベントは、PCDsについてのX線束フラックスを制限することで、最小化することが出来る。図6は、PCDsについての検出器素子に関する信号に寄与する様々なエネルギースペクトル(例えば、X線エネルギースペクトルやノイズスペクトル)のプロット図を示している。スペクトルは、カウント対エネルギーの数として、プロットされている。明るいグレーの領域は、ノイズによるカウントを表し、濃いグレーの領域は、X線放射から生じているカウント寄与を表している。より(エネルギー的に)低い方の明るいグレーの頂点は、熱ノイズ(例えば、暗電流)に帰属する電子ノイズを表している。より(エネルギー的に)高い方の明るいグレーの頂点も電子ノイズだが、この頂点は近傍する検出素子間の重み付け電位のあるクロストーク(Xトーク)を表す。重み付け電位のあるXトークは、個別の検出器素子(例えば陽極)のサイズに依存する。
【0040】
図6は、ノイズとX線スペクトルに関する閾値の関係も示している。特定の実施形態において、閾値1(つまりエネルギーE1)は、電子の最大予測エネルギーよりも、また近傍する検出素子からの重み付け電位のあるXトークが原因のノイズ信号よりも、大きくなるよう配置されている。閾値2(つまりエネルギーE2)は、蛍光X線の最大予測エネルギーを上回るように配置されている。蛍光X線の厳密なエネルギーは、センサ物質を構成している半導体および、X線源のX線スペクトラムの上限のエネルギーに依存するだろう。更に、閾値2は、X線源のX線スペクトルの最小エネルギーを下回るように優先的に設定される。閾値3(つまりエネルギ―E3)は、閾値2よりも大きい任意の値を選ぶことが出来、また撮像条件に基づいて設定出来る(例えば、閾値3は、物質分解に対する所望の属性に従って、選択することが出来る)。特定の実施形態において、任意の数の追加エネルギー閾値が、閾値2よりも大きなエネルギーになるように設定され得る。
【0041】
上で特定された基準に従っての閾値に基づき、カウンタ450は、以下の原則に基づいた論理を適用できる(i)E1よりも大きい信号は、全てがノイズに寄与するわけではない、(ii)E2よりも小さい信号は、E2を上回るスペクトルを有する、X線源からのX線からのエネルギーの全てを表すわけではない(iii)E2よりも大きい信号は、全てがKエスケープに起因するわけではない。その結果、E1よりも大きいがE2よりも小さな検出イベントは、電荷共有イベントまたはKエスケープイベントのどちらかを示し、これらはまとめて分配された検出イベントと呼ばれる。分配された検出イベントが決定された場合に、チャンネルAおよびBの個別の信号ではなく、合計パルスSは検出イベントのエネルギーを表すために使用される。
【0042】
特定の実施形態において、検出イベントはチャンネルAとBとの両方において登録された信号を含むことが出来る。ここで第一のチャンネルはE1よりも大きいがE2よりも小さい値(magnitude)を登録し、そして第二のチャンネルはE2よりも大きい信号を登録する。この場合、合計された振幅は、E2よりも大きな信号を有し、第二のチャンネルに全て寄与する。対照的に、特定のその他の検出イベントにおいて、チャンネルAとBとの両方は、E1よりも大きいがE2よりも小さい大きさを登録するだろう。この場合の、客観的基準は、検出イベントを一つまたはもう他方のチャンネルに割り当てることを不在にしている。この様にして、検出イベントは、恣意的な均衡(タイ)ブレーカを使用しながらチャンネルのうちの一つに割り当てられる。従って、カウンタ450は、等しい大きさを登録しているチャンネル間の、明らかな均衡を壊すための論理を含むことが出来る。それにより、分配された検出イベントを、二つの個別のチャンネルのうちの一方のみに割り当てる。例えば、タイブレイク論理は、乱数または二つのチャンネル間を切り替える(toggles)所定のフラグ値に基づくことが出来るかもしれない。
【0043】
更に、コリメータが二つ以上の検出器素子以上離れて位置するKエスケープおよび/または電荷共有について明らかにする特定の実施形態において、ASIC400はチャンネルAやBと同様のチャンネルCを含むことが出来る。更に、第二の合計シグナル(加算信号)SB+Cは、陽極BおよびCが互いに隣接していると仮定すると、パルスB´およびC´の和を表すことが出来る。同様に、チャンネルAおよびBの間のオリジナル合計信号は、SA+Bのように表せる。チャンネルBがE1とE2との間のエネルギーを有する信号を登録する場合、カウンタ450はその場合、X線検出イベントがパルスSA+BまたはSB+Cを使用しながら記録されるかどうかを決定するための論理を含み得る。チャンネルCがE1とE2との間のエネルギーを有する信号を登録する場合、カウンタ450はその場合、X線検出イベントがパルスSB+Cを使用しながら記録されるかどうかを決定するための論理を含むことが出来る。チャンネルAがE1とE2との間のエネルギーを有する信号を登録する場合、カウンタ450はその場合、図4Bを参考に上で議論された通り、パルスSA+Bを使用しながらX線検出イベントが記録されるかどうかを決定する論理を含むことが出来る。
【0044】
この実施形態は、検出器素子の二つで一組または三つで一組のみに拘泥されない。当業者に理解されているように、近傍するエッジを有する検出素子に対する分配された検出イベントの真のパルスエネルギーについて明らかにするために、加算パルス信号と対応するコンパレータとを使用することは、電荷共有および/Kエスケープの影響を受けやすいことが見込まれる、検出素子の各ペアにまで拡張することが出来る。
【0045】
特定の実施形態において、電荷共有について明らかにするために、閾値2は、X線源のエネルギースペクトルの高エネルギーX線から電荷共有寄与の半分となるように選択することが出来る。例えば、高エネルギーX線は、X線源のエネルギースペクトルの上界(upper boundary)の可能性がある。代わりに、高エネルギーX線は、高エネルギーX線のエネルギーを上回る投射X線カウント/エネルギーの所定の割合(例えば、5%または10%)よりも小さいエネルギーとして、決定することが出来る。
【0046】
特定の実施形態において、閾値の選択は、Kエスケープの曖昧さを軽減する観点で、最初に選択される。また特定の実施形態において、閾値の選択は、エネルギー共有の曖昧さを軽減する観点で、最初に選択される。更に特定の実施形態において、閾値の選択は、エネルギー共有およびK-エスケープ両方の曖昧さを軽減する狙いがある。
【0047】
特定の実施形態において、ASIC400は二つの隣接する検出器素子間の曖昧さを軽減するよう構成されている。
【0048】
また特定の実施形態において、ASIC400は三つの検出器素子間の曖昧さを軽減するよう構成されており、第一の検出器素子は第二の検出器素子に隣接しており、第二の検出器素子は第三の検出器素子に隣接しているが、第三の検出器素子は第一の検出器素子とは隣接でない。つまり、この実施形態においては、第一および第二の検出器素子の間と、第二および第三の検出器素子の間と、の電荷共有またはKエスケープについて明らかにするが、第一および第三の検出器素子の間とについては明らかにしていないのである。
【0049】
特定の実施形態において、ASIC400は、互いに隣接するエッジを有する、全てのペアの検出器素子の間の曖昧さを軽減するよう構成されている。
【0050】
また特定の実施形態において、ASIC400は、個別の隣接するエッジの領域についてのX線投射数を制限する能力があるコリメータまたはその他のマスキング構造によってマスクで隠された隣接するエッジを除き、互いに隣接するエッジを有する、全てのペアの検出器素子の間の曖昧さを軽減するよう構成されている。
【0051】
ASIC400は、図5A、5B、5Cに例示された比較と同様、個々のパルス及び各パルスの合計と閾値とを比較することで、検出器素子のペア間の曖昧さを軽減する。400のカウンタ450は、パルスのうちのどれ(例えば、個別チャンネルからのパルス、または個別チャンネルの間の合計パルス)が、検出されたX線のエネルギーを表す可能性がより高そうかを決定するために論理的な比較を実行し、そして検出されたX線のエネルギーを表す可能性がより高そうであると決定されたコンパレータ信号を記録する。
【0052】
特定の実施形態において、ASIC400は、パイルアップ拒絶能力を有することが出来、これにより検出結果が、同じ検出ウィンドウにおいて、単一の検出器素子でまたは隣接する検出器素子のペアで多重の検出イベントを示した場合には、イベントが記録しないようにすることが出来る。
【0053】
図7A、7B、7Cは、特定の実施形態において、ラッチング回路は、コンパレータ416、426、そして436に組み込むか、または個別のコンパレータ416、426、436に後段に連結して、ASIC400に追加出来ることを示している。それは、デジタル閾値信号が高い状態に切り替わったら、当該閾値信号は、全ての閾値信号がそれらの信号の個別の低い値(つまり、デジタル「0」値)にリセットされる所定のリセット時間まで高いままだからである。図7A、7B、7Cに示されている通り、リセット時間は、検出イベントに対応するカウントおよびエネルギーを、評価して記録するための時間の後に生じる。
【0054】
図8Aは、PCDsの一次元アレイが、各チャンネルペアの間の電荷共有および/またはKエスケープの曖昧さを軽減するために、二つ一組でグループ化された例を示している。例えば、チャンネルペアiは、チャンネルiに対するASIC400に信号A(i)と信号B(i)として送られている(route)個別の検出信号を伴う、PCD AおよびPCD Bを含む(チャンネルiとラベル付けられている)。チャンネルi+1, i+2,…,i+5は、チャンネルiと同様である。個別のチャンネルに対するASICs400のそれぞれは、個別のペアのそれぞれの間に起こっている電荷共有および/またはKエスケープの曖昧さを解消するが、個別のチャンネルi, i+1, i+2,…,i+5の間の電荷共有および/またはKエスケープについては明らかにしない。当該構成は、例えばX線マスク(例えばコリメータ)や、図1Aに示されたPCDアレイのように一つおきの検出器素子の間により大きな間隙(separation)を有するPCDアレイに対して、使用することが出来る。図8Aにおいて、他の検出器素子に隣接する検出器素子のエッジは、長手のz方向に横断する短手方向(つまり、x方向)に沿って延びている。隣接するエッジは、長手方向に分けられている。長手方向(つまりz方向)は、PCDアレイの長軸に沿って延びており、当該PCDアレイの中で、検出器素子がグループ分けで、配置される(例えば、図8Aと8Cの二つで一組と、図8Bと8Dの三つで一組)。
【0055】
図8Bで、三つの検出器素子(三つで一組)のグループ分けが示されており、各三つで一組は個別のASIC400によって処理される。例えば、図1Bに示されたように、三つの検出器素子のそれぞれグループ分けの間の境界エッジに配置された、コリメータまたはその他のマスキング物質が存在する可能性がある。図8Bにおいて、ASICs400は、上で説明された通り、PCDsAとBとの間の電荷共有および/またはKエスケープについて、そしてPCDsBとCとの間の電荷共有および/またはKエスケープについて、明らかにする。同様に、検出器素子の隣接するエッジは、短手方向(つまり、x方向)に沿って延びており、また各三つで一組における検出器素子は、長手方向(つまり、z方向)に配置される。
【0056】
図8Cにおいて、二つの検出器素子のグループ分けは、個別のASICs400によって処理されていることが示されている。図8Cで、ASICs400は、上で説明された通り、PCDsAとBとの間の電荷共有および/またはKエスケープについて、明らかにする。検出器素子の隣接するエッジは、長手方向(つまり、z方向)に沿って延びており、またそれぞれ二つで一組の検出器素子は、短手方向(つまり、x方向)に配置される。
【0057】
図8Dにおいて、三つの検出器素子のグループ分けは、個別のASICs400によって処理されていることが示されている。図8Dで、ASICs400は、上で説明された通り、PCD AとBとの間の電荷共有および/またはKエスケープについて、そしてPCDs BとCとの間の電荷共有および/またはKエスケープについて、明らかにする。同様に、検出器素子の隣接するエッジは、長手方向(つまり、z方向)に沿って延びており、各三つで一組の検出器素子は、短手方向(つまり、x方向)に配置される。
【0058】
図9は、PCDアレイの検出器素子によって送信された信号を処理するための、ASIC400によって実行される方法のフロー概略図である。
【0059】
方法900のステップ910において、X線放射は、電気信号を生成しながら検出され、電気信号は、グループにおける様々なペアの間において隣接するエッジを共有する検出器素子のグループに対応するチャンネルへとグループ分けされる。一チャンネルにおける電気信号は、電荷共有および/またはKエスケープの影響を受けやすい隣接するエッジを有する、グループ内の検出器素子のペアからの信号を含むものである。これは、電位が、二つの同時に検出される信号が二つの分離された検出イベントから生じるものであるのか、または分配された検出イベントを作り出す単一の検出イベントから生じるものであるのか、という曖昧さを作り出すためである。グループ内の検出器素子数は、2より大きいいかなる整数でもよい。
【0060】
方法900のステップ920で、個別の検出器素子からの信号は、予め調整される。例えば、信号は、図4Bを参考に上で説明されたように、前段で増幅されパルス形成することが出来る。更に、加算されたパルスは、電荷共有および/またはKエスケープの影響を受けやすい隣接する検出器素子の複数のペアに対して生成出来る。
【0061】
方法900のステップ930で、個別の検出器素子からの信号は、三つ以上の閾値を含んでいる一連の閾値とそれぞれ比較される。
【0062】
方法900のステップ940で、検出器素子からの信号が、電荷共有またはKエスケープから生じているX線信号の一部であると決定された場合に、別々に取られた個別の検出器素子に対応する部分的なX線信号ではなく、全体のX線エネルギーに対応する加算されたパルスが記録される。また例えば、部分的なX線信号を生成したと決定された検出器素子は、二つの異なる検出器素子と別々に隣接しており、その二つの異なる検出器素子のうちの一方のみが検出ウィンドウにおけるパルスを記録され、その場合に加算されたパルスは、検出時間ウィンドウにおいて同時に起こる検出イベントを登録している二つの検出器素子からの組み合わせになると思われる。特定の実施形態において、部分的なX線信号を生成したと決定された検出器素子が、検出時間ウィンドウにおけるパルスをそれぞれが登録する二つの異なる検出器素子とは別々に隣接する場合には、加算された検出イベントの合計X線エネルギーを提供するために、三つの登録された信号の内のどのペアが合計されるべきかについての曖昧さを解消出来るまでは、何の検出パルスも記録されない。
【0063】
図10は、ASIC1000の概略図を示している。ASIC400と同様である、但し、400は二つのチャンネル(AとB)しか持っていない一方、当該ASIC1000は、三つ(AとBとC)を有する点で異なる。ASIC400と同様に、ASIC1000は、各チャンネルに対するプリアンプを有する。プリアンプはチャンネルA、B、Cに対してそれぞれ、プリアンプ1012、プリアンプ1022、プリアンプ1052、として特定される。加えて、ASIC1000は、それぞれのチャンネルに対するビームシェーパーを有しており、ここでそれぞれビームシェーパーは、各チャンネルに対してパルスを形成しパルスベースラインを復元するために、予め定めたインパルス反応関数に従って対応するプリアンプから出て来るパルスを、修正する。ビームシェーパーは、チャンネルA、B、Cに対してそれぞれ、ビームシェーパー1014、ビームシェーパー1024、ビームシェーパー1054として特定される。それぞれチャンネルは、コンパレータも含む。それぞれチャンネルA、B、Cに対し、コンパレータ1016、コンパレータ1026、そしてコンパレータ1056がある。コンパレータ1016、1026、1036、1046、そして1056のそれぞれは、ASIC400について上で説明されたコンパレータの説明に従って、操作することが出来る。更に、ASIC1000は、ASIC400のアナログ加算回路の説明に従って操作する、二つのアナログ加算回路1034と1044とを含む。アナログ加算回路1034は、チャンネルAおよびBからの信号を組み合わせる一方で、アナログ加算回路1044は、チャンネルBおよびCからの信号を組み合わせる。最後にカウンタ1060は、コンパレータ1016、1026、1036、1046、そして1056の出力を受信し、上で説明された通り、どのようにカウントが記録されるべきか、そしてどのチャンネルにそれぞれカウントが属するべきかを決定する。
【0064】
図11は、第三世代ジオメトリに配置されたエネルギー積分型検出器および第四世代ジオメトリに配置されたPCDsとの両方を有している、コンピュータ断層(CT)スキャナを示している。図11に描かれているのは、CTスキャナシステムでの所定の第三世代ジオメトリにおける検出器ユニット1103と組み合わせた、所定の第四世代ジオメトリにおけるPCDsを配置するための実装である。略図は、X線源1112、コリメータ/フィルタ1114、X線検出器1103、そしてPCD1からPCDNまでの光子計数検出器の間の相対位置を例示している。
【0065】
また図11に示されているのは、X線投影データを取得し、記録し、処理し、分配するための回路とハードウェアである。回路およびハードウェアは、プロセッサ1170、ネットワークコントローラ1180、メモリ1178、データ収集システム1176を含む。
【0066】
代替的な一実施形態において、CTスキャナはPCDを含むが、エネルギー積分型検出器ユニット1103は含まない。
【0067】
X線源1112および検出器ユニット1103は、ガントリ1140に収められ、環状回転枠1110と1130とをそれぞれ回転しながら、光子計数検出器PCDsと検出器ユニット1103は、データ取得の間に照射されたX線をそれぞれ検出する。PCD1からPCDNまでの光子計数検出器は、照射されたX線を断続的に検出し、所定のエネルギービンのそれぞれに対し、光子の数を表すカウント値を個別に出力する。一方で、検出器ユニット1103における検出器素子は、照射されたX線を連続的に検出し、検出器ユニット1103が回転しながら検出された信号を連続的に出力する。一実施形態において、検出器ユニット1103は、所定のチャンネルにおける密に配置されたエネルギー積分型検出器を有し、検出器ユニット表面についての方向をセグメントする。
【0068】
一実施形態において、半径が異なる三つの所定の円軌道は、X線源1112、PCDsおよび検出器ユニット1103で形成されている。少なくとも一つのX線源1112は、光子計数検出器が第二の円軌道1120に沿って疎に配置されている一方で、第一の環状回転枠1110に沿って回転する。更に、検出器ユニット1103は第三の円軌道1130に沿って移動する。第一の環状回転枠1110、第二の円軌道1120、そして第三の円軌道1130は、ガントリ1140に回転可能に取り付けられた環状リングによって、決めることが出来る。
【0069】
所定の第四世代のジオメトリにおける光子計数検出器を、CTスキャナにおける所定の第三世代ジオメトリにおける検出器ユニットと組み合わせて配置するためのその他の代替的な実施形態がある。X線CTスキャナの代替的な実施形態のいくつかは、米国出願案件番号13/0291097に説明されており、ここにその番号を参照することによりその内容全体が組み込まれるものとする。
【0070】
一実施形態において、X線源1112は任意に単一のエネルギー源である。別の実施形態において、X線源1112は、所定の高レベルエネルギーおよび所定の低レベルエネルギーでのX線放射を放射するための、kV-切り替え機能を実行するよう構成されている。また別の代替的な実施形態において、X線源1112は、広帯域のX線エネルギーを放射する単一の線源である。更に別の実施形態で、X線源1112は、それぞれ照射器が空間的にもスペクトル的にも異なる、多重X線照射器を含む。
【0071】
検出器ユニット1103は、シンチレータ素子と相互作用するX線放射から結果として生じるシンチレーションからの結果として得られるシンチレーション光子を検出するために、光電子増倍管またはアバランシェフォトダイオードを伴うシンチレーション素子など、エネルギー積分型検出器を使える。シンチレータ素子は、水晶、有機液体、プラスチック、またはその他の公知のシンチレータの可能性がある。
【0072】
PCDは、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、シリコン(Si)、ヨウ化水銀(HgI)やガリウムヒ素(GaAs)など、半導体に基づいた直接X線放射検出器を使うことが出来る。
【0073】
CTスキャナは、光子計数検出器と検出器ユニット1103からの投影計測結果を、データ収集システム1176、プロセッサ1170、メモリ1178、ネットワークコントローラ1180へと送る、データチャンネルも含む。データ収集システム1176は、検出器からの投影データの取得、デジタル化、送信を制御する。データ収集システム1176は、環状回転枠1110および1130の回転を制御する放射線制御回路も含む。一実施形態において、データ収集システム1176は、寝台1116の移動、X線源1112の操作、そしてX線検出器1103の操作も制御するだろう。データ収集システム1176は、集中型システムの可能性もあるし、または代替的に分散型システムの可能性もある。一実施形態において、データ収集システム1176は、プロセッサ1170に統合されている。プロセッサ1170は、投影データからの画像再構成、投影データの前再構成処理、そして画像データの後再構成処理を含む機能を実行する。
【0074】
特定の実施形態において、ASIC400は、PCDsと一緒にまとめることが可能である。加えて、特定の実施形態において、ASIC400は、データ収集システム1176と組み合わせが可能である。一特定の実施形態で、ASIC400は、データ収集システム1176、データチャンネル、そしてPCDsとの間に分配することが出来る。例えば、特定の実施形態で、プリアンプはガントリ1140におけるPCDsと共に同一場所に配置することが可能で、コンパレータ416、426、そして436はデータ収集システム1176と共に配置することが可能である。パルスシェーパー414と424、そしてアナログ加算回路434は、PCDとまたはデータ収集システム1176と共に、またはデータチャンネルとに沿って、配置することも出来る。当業者に理解されているように、ASIC400は、PCDsからデータ収集システム1176までの、任意の位置の中に位置する/分配することが出来る。
【0075】
後再構成処理は、画像のフィルタリングやスムージング、ボリュームレンダリング処理や画像食い違い処理を必要に応じ、含むことが可能である。画像再構成処理は、フィルタ逆投影、逐次画像再構成法、または確率論的画像再構成法を使用しながら実行が可能である。プロセッサ1170とデータ収集システム1176との両方は、例えば、投影データ、再構成画像、キャリブレーションデータやパラメータ、そしてコンピュータプログラム等を記憶するために、メモリ1178を利用出来る。
【0076】
プロセッサ1170は、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または複合プログラマブル論理デバイス(CPLD)など、個々の論理ゲートとして実行可能な、CPUを含むことが出来る。FPGAまたはCPLD実行は、VHDL、ベリログ、またはその他のハードウェア記述言語でコード化されていてもよく、そして当該コードはFPGAまたはCPLDにおける電子メモリ内に直接格納されてもよいし、または個別の電子メモリとして格納されてもよい。更に、メモリは、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)、またはFLASHメモリなど、不揮発性メモリであってもよい。メモリは、静的または動的RAMなど揮発性で、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサなどのプロセッサであってもよく、FPGAまたはCPLDとメモリとの間の相互作用と同様、電子メモリを管理するために提供されていてもよい。
【0077】
代替的に、再構成プロセッサにおけるCPUは、本実施形態で説明された機能を実行する一連のコンピュータ読み取り可能命令を含んでいるコンピュータプログラムを実行してよく、当該コンピュータプログラムは、任意の上で説明された非一時的電子メモリおよび/またはハードディスクドライブ、CD、DVD、FLASHドライブ、または任意のその他の既知の記憶媒体に記憶されている。更に、コンピュータ読み取り可能命令は、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、またはオペレーティングシステムの構成要素、またはそれらの組み合わせとして提供されてもよく、所定のオペレーティングシステムや、当業者にとっては既知のその他のオペレーティングシステムがプロセッサと一体となって実行する。更に、CPUは、命令を実行するために並行して協同的に動く、多重プロセッサとして実行されてもよい。
【0078】
一実施形態において、再構成画像は、ディスプレイまたは複数のディスプレイに映し出すことが出来る。ディスプレイは、LCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED、または当業者にとって既知のその他のディスプレイの可能性がある。
【0079】
メモリ1178は、ハードディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、FLASHドライブ、RAM、ROM、または当業者にとって既知のその他の記憶媒体の可能性がある。
【0080】
ネットワークコントローラ1180は、CTスキャナの様々な部分間と相互作用することが出来る。加えて、ネットワークコントローラ1180は、外部ネットワークとも相互作用出来る。理解されている通り、外部ネットワークは、インターネットなど公衆ネットワークや、あるいはLAN、WANネットワークなど私的なネットワーク、あるいはこれらの任意の組み合わせでもよく、PSTNまたはISDNサブネットワークも含み得る。外的なネットワークは、イーサネット(登録商標)ワークのように有線の可能性もあるし、またはEDGE、3Gや4G無線セルラーシステムを含むセルラーネットワークのような無線の可能性がある。無線ネットワークは、既知の任意のその他の通信の無線形式である可能性もある。
【0081】
更に、特定の実施形態において、CTスキャナはエネルギー積分型検出器素子を除外すること出来て、また第三世代ジオメトリにおける二次元アレイに配置されたPCDsを含むことが出来る。
【0082】
上記実施形態においては、図4Aおよび図4Bにおいて示した様に、本実施形態に係る放射線エネルギーの弁別処理を、ASIC400によって実現する場合を例示した。しかしながら、放射線エネルギーの弁別処理を実現するのに、ASICとしての構成は必須ではなく、例えば分離された所定の回路(プロセッサ、メモリ、シェーパー、コンパレータなど)を組み合わせることによっても、実現することができる。
【0083】
特定の実施形態が本実施形態で述べられてきた一方で、これらの実施形態は実例の方法のみで提示されており、開示の範囲を限定する意図はない。実際に、本実施形態で述べられた新たな方法、装置やシステムは、他の様々な形態で具体化されてよく、更には、本実施形態の精神から乖離することなく、本実施形態に述べられた方法、装置やシステムの形式で省略、置き換え、変更をすることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
100…検出器、110…コリメータ、120…陰極、130…半導体レイヤ、140…陽極、410…閾値回路、412…プリアンプ、414…パルスシェーパー、416…コンパレータ、422…プリアンプ、424…パルスシェーパー、426…コンパレータ、434…加算回路、436…コンパレータ、450…カウンタ、1012…プリアンプ、1014…ビームシェーパー、1016…コンパレータ、1022…プリアンプ、1024…ビームシェーパー、1026…コンパレータ、1034…アナログ加算回路、1036…コンパレータ、1044…アナログ加算回路、1046…コンパレータ、1052…プリアンプ、1054…ビームシェーパー、1056…コンパレータ、1060…カウンタ、1103…X線検出器、1110…環状回転枠、1112…X線源、1114…コリメータ/フィルタ、1116…寝台、1120…円軌道、1130…円軌道、1140…ガントリ、1170…プロセッサ、1176…データ収集システム、1178…メモリ、1180…ネットワークコントローラ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11