(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】防護施設、エネルギー吸収面材及びエネルギー吸収装置
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20220221BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2017211552
(22)【出願日】2017-11-01
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】小関 和廣
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-088704(JP,A)
【文献】特開2016-069932(JP,A)
【文献】特開2015-175125(JP,A)
【文献】特開2014-122503(JP,A)
【文献】特開2011-047154(JP,A)
【文献】特開2005-320696(JP,A)
【文献】特開2014-084626(JP,A)
【文献】特開2005-213747(JP,A)
【文献】米国特許第05961099(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第01840269(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に配される固定部と、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、
索体若しくは面材と、
を備え、
前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、
前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続され、
前記多段的エネルギー吸収部を構成する網体よりも、前記索体若しくは面材の強度が高いことにより、
前記索体若しくは面材に加わった衝撃エネルギーが、前記多段的エネルギー吸収部において吸収されるように構成されていることを特徴とする防護施設。
【請求項2】
前記複数の網体の長さ若しくは目合いが異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする請求項1に記載の防護施設。
【請求項3】
前記複数の網体を構成する素線の線径若しくは素材強度が異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の防護施設。
【請求項4】
両端に配される固定部と、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、
索体若しくは面材と、
を備え、
前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、
前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続され、
前記索体若しくは面材の幅方向と略直交するように、前記索体若しくは面材に対して締結される連結部材を複数備え、前記複数の連結部材のそれぞれに対して、前記複数の網体がそれぞれ締結されていることを特徴とする防護施設。
【請求項5】
前記多段的エネルギー吸収部の一端が前記固定部に締結され、他端が前記索体若しくは面材に締結されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の防護施設。
【請求項6】
両端に配される固定部と、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、
索体若しくは面材と、
を備え、
前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、
前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続され、
前記多段的エネルギー吸収部が、所定間隔ごとに設けられていることを特徴とする防護施設。
【請求項7】
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体が、余長を有して接続されていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の防護施設。
【請求項8】
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内、前記余長を有して接続される網体が、余長を有さない網体に対して、伸び率若しくは変形率が小さいことを特徴とする請求項7に記載の防護施設。
【請求項9】
両端に配される固定部と、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、
索体若しくは面材と、
を備え、
前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、
前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続され、
前記両端の固定部の間に、さらに別の面材と、当該別の面材の上端側と下端側に位置する索体と、が張られていることを特徴とする防護施設。
【請求項10】
両端に配される固定部と、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、
索体若しくは面材と、
を備え、
前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、
前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続され、
前記両端の固定部の間において、前記索体若しくは面材が締結されない又は前記索体若しくは面材が摺動可能に取り付けられる補助固定部を備えることを特徴とする防護施設。
【請求項11】
両端の固定部の間に接続されて使用されるエネルギー吸収面材であって、
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体が相互に並列状に接続されることにより構成された多段的エネルギー吸収部と、面材とが、直列状に接続され、前記多段的エネルギー吸収部を構成する網体よりも前記面材の強度が高いことにより、前記面材に加わった衝撃エネルギーが、前記多段的エネルギー吸収部において吸収されるように構成されていることを特徴とするエネルギー吸収面材。
【請求項12】
前記複数の網体の長さ若しくは目合いが異なっていることにより、又は、前記複数の網体を構成する素線の線径若しくは素材強度が異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする請求項11に記載のエネルギー吸収面材。
【請求項13】
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体が相互に並列状に接続されることにより構成された多段的エネルギー吸収部と、面材とが、直列状に接続され、
前記多段的エネルギー吸収部が、所定間隔ごとに設けられていることを特徴とするエネルギー吸収面材。
【請求項14】
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体が、余長を有して接続されていることを特徴とする請求項11から13の何れかに記載のエネルギー吸収面材。
【請求項15】
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内、前記余長を有して接続される網体が、余長を有さない網体に対して、伸び率若しくは変形率が小さいことを特徴とする請求項14に記載のエネルギー吸収面材。
【請求項16】
エネルギー吸収特性が異なる複数の金網と、
前記複数の金網を相互に並列状に接続する端末部材と、
を備え、
前記複数の金網の長さが異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とするエネルギー吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護施設、エネルギー吸収面材及びエネルギー吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
防護施設の一つに防護柵があり、対象物を所定領域に留め置くための防護柵として、ワイヤロープ等の索体を用いた防護柵や、金網等の網体を用いた防護柵(或いは索体及び網体の両方を用いた防護柵)が利用されている。
索体や網体を用いた防護柵には、例えば、傾斜地等において道路や家屋等を落石等から保護するために、保護対象である道路や家屋等より斜面側に設置される防護柵(落石防護柵)がある。一般的な落石防護柵は、支柱、ワイヤロープ、金網で構成される上部材を、コンクリート基礎で支持する構造であり、これにより、斜面上方からの落石を受け止め、災害を防止するものである。
このような落石防護柵に関する従来技術が、特許文献1や特許文献2によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-150867号公報
【文献】特開2014-122503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の一般的な落石防護柵は、前述のごとく、コンクリート基礎に支持される複数の支柱に対して、金網及びワイヤロープが設けられるものである。ワイヤロープは多段に複数設けられ、各ワイヤロープは支柱間において横方向に張られるものであり、ワイヤロープの両端が支柱に引留められているものである。従って、落石などがあった場合の衝撃エネルギーは、ワイヤロープを介して支柱に伝達される。そのため、支柱及びこれを支える基礎部分は、落石の衝撃に耐え得るだけの強度が必要とされるものである。
これに対し、ワイヤロープに緩衝部材を備えさせてこれにエネルギーを吸収させること等により、支柱に伝達されるエネルギーを低減させることで、支柱及びこれを支える基礎のスペックを抑えることができるようにしたものがある。
緩衝部材は、基本的には、部材が塑性変形することや部材同士の摩擦によってエネルギーを吸収するものであり、従って、その緩衝能力は、選択した部材の特性に左右されるものであり、緩衝能力のレンジを大きくすることは簡単ではなかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、ワイヤロープ等の索体を用いた防護柵等の防護施設であって、衝突エネルギーの分散や吸収能力のレンジを広くすることが可能な防護施設を提供することを目的とする。また、衝突エネルギーの分散や吸収能力のレンジを広くすることが可能なエネルギー吸収面材及びエネルギー吸収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
両端に配される固定部と、エネルギー吸収特性が異なる複数の網体と、索体若しくは面材と、を備え、前記複数の網体が相互に並列状に接続されることにより、多段的エネルギー吸収部を構成し、前記両端の固定部の間に、前記多段的エネルギー吸収部と、前記索体若しくは面材が、直列状に接続されていることを特徴とする防護施設。
【0007】
(構成2)
前記複数の網体の長さ若しくは目合いが異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする構成1に記載の防護施設。
【0008】
(構成3)
前記複数の網体を構成する素線の線径若しくは素材強度が異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする構成1又は2に記載の防護施設。
【0009】
(構成4)
前記索体若しくは面材の幅方向と略直交するように、前記索体若しくは面材に対して締結される連結部材を複数備え、前記複数の連結部材のそれぞれに対して、前記複数の網体がそれぞれ締結されていることを特徴とする構成1から3の何れかに記載の防護施設。
【0010】
(構成5)
前記多段的エネルギー吸収部の一端が前記固定部に締結され、他端が前記索体若しくは面材に締結されていることを特徴とする構成1から4の何れかに記載の防護施設。
【0011】
(構成6)
前記多段的エネルギー吸収部が、所定間隔ごとに設けられていることを特徴とする構成1から5の何れかに記載の防護施設。
【0012】
(構成7)
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体が、余長を有して接続されていることを特徴とする構成1から6の何れかに記載の防護施設。
【0013】
(構成8)
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内、前記余長を有して接続される網体が、余長を有さない網体に対して、伸び率若しくは変形率が小さいことを特徴とする構成7に記載の防護施設。
【0014】
(構成9)
前記両端の固定部の間に、さらに別の面材と、当該別の面材の上端側と下端側に位置する索体と、が張られていることを特徴とする構成1から8の何れかに記載の防護施設。
【0015】
(構成10)
前記両端の固定部の間において、前記索体若しくは面材が締結されない又は前記索体若しくは面材が摺動可能に取り付けられる補助固定部を備えることを特徴とする構成1から9の何れかに記載の防護施設。
【0016】
(構成11)
エネルギー吸収特性が異なる複数の網体が相互に並列状に接続されることにより構成された多段的エネルギー吸収部と、面材とが、直列状に接続されていることを特徴とするエネルギー吸収面材。
【0017】
(構成12)
前記複数の網体の長さ若しくは目合いが異なっていることにより、又は、前記複数の網体を構成する素線の線径若しくは素材強度が異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする構成11に記載のエネルギー吸収面材。
【0018】
(構成13)
前記多段的エネルギー吸収部が、所定間隔ごとに設けられていることを特徴とする構成11又は12に記載のエネルギー吸収面材。
【0019】
(構成14)
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体が、余長を有して接続されていることを特徴とする構成11から13の何れかに記載のエネルギー吸収面材。
【0020】
(構成15)
前記多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内、前記余長を有して接続される網体が、余長を有さない網体に対して、伸び率若しくは変形率が小さいことを特徴とする構成14に記載のエネルギー吸収面材。
【0021】
(構成16)
エネルギー吸収特性が異なる複数の緩衝部材と、前記複数の緩衝部材を相互に並列状に接続する端末部材と、を備えることを特徴とするエネルギー吸収装置。
【0022】
(構成17)
前記複数の緩衝部材の寸法が異なっていることにより、又は、前記複数の緩衝部材の素材強度が異なっていることにより、エネルギー吸収特性が異なることを特徴とする構成16に記載のエネルギー吸収装置。
【0023】
(構成18)
前記相互に並列状に接続される複数の緩衝部材の内の少なくとも一部の緩衝部材が、余長を有して接続されていることを特徴とする構成16又は17に記載のエネルギー吸収装置。
【0024】
(構成19)
前記相互に並列状に接続される複数の緩衝部材の内、前記余長を有して接続される緩衝部材が、余長を有さない緩衝部材に対して、伸び率若しくは変形率が小さいことを特徴とする構成18に記載のエネルギー吸収装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明の防護施設、エネルギー吸収面材及びエネルギー吸収装置によれば、エネルギー吸収特性が異なる複数の網体(緩衝部材)が相互に並列状に接続され、多段的にエネルギーを吸収することができるため、衝突エネルギーの分散や吸収能力のレンジを広くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】実施形態1の防護柵の落石衝突時について説明する図
【
図3】本発明に係る他の例の防護柵の落石衝突時について説明する図
【
図4】実施形態1の防護柵におけるエネルギー吸収能力の概要を示すグラフ
【
図5】本発明に係る実施形態2のエネルギー吸収面材を示す図
【
図6】本発明に係る実施形態3のエネルギー吸収装置を示す図
【
図7】多段的エネルギー吸収部の別の例を示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施態様について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施態様は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0028】
<実施形態1>
図1は、本発明に係る実施形態1の防護柵を示す図であり、
図1(a)は上面図、
図1(b)は正面図である。
本実施形態の防護柵1は、傾斜地等において、道路や家屋等を落石等から保護するために、保護対象である道路や家屋等より斜面側に設けられる落石防護柵である。
図1(a)の下側が斜面側であり、
図1(b)は斜面側から見た正面図(ただし、見やすさの見地から、斜面側の金網15の記載を省くなどしている図)である。
図1に示されるように、防護柵1は、両端部において立設される端末支柱(固定部)11と、エネルギー吸収特性が異なる複数の金網121~125が相互に並列状に接続されることにより構成された多段的エネルギー吸収部12と、横方向に張られる複数の索体13と、索体13と略直交するように索体13に対して締結される連結部材14と、端末支柱11間に張られる面材である金網15と、金網15の上端側と下端側において端末支柱11間に張られる索体16と、等を備える。
【0029】
防護柵1の基本構成は、両端部の端末支柱11に対して、索体13が多段的エネルギー吸収部12を介して張られ、その前面と後面にそれぞれ金網15が張られているものである。
索体13はワイヤロープであり、多段に設けられる。各索体13は、その両端部にて連結部材14を介して多段的エネルギー吸収部12に締結される。即ち、多段的エネルギー吸収部12と索体13が、端末支柱11の間に直列状に接続されるものであり、索体13は、端末支柱11に対して直接には締結されない。
【0030】
端末支柱11は、例えばH形鋼等によって構成され、コンクリート基礎によって支持されるものである。端末支柱11を直接コンクリートで固めて設置するものであってもよいし、コンクリート基礎に端末支柱11を受け入れる立て込み穴を形成し、これに端末支柱11を立てて、基礎に埋設したボルト等と締結することで設置するもの等であってもよい。後者の工法によれば、端末支柱11の取り換えが容易となり、メンテナンス性に優れる。
【0031】
多段的エネルギー吸収部12は、本実施形態では、防護柵1の両サイドにおいて、索体13と端末支柱11の間に設けられており、両サイドで同一(左右対称)の構成である。多段的エネルギー吸収部12は、それぞれ長さが異なる金網121~125が並列状に設けられることで構成される。
即ち、金網そのものとしては同様の(目合いや素線の線径や素線強度が同じ)ものであるが、幅方向の長さが最も短い金網121から、最も長い金網125まで、それぞれ長さが異なっている。これらの金網に対して幅方向(
図1における横方向)に引っ張り荷重が加わった場合、幅方向の長さが長い程、エネルギーをより多く吸収できる。従って、各金網121~125は、エネルギー吸収特性が異なるものである。
それぞれの金網121~125は、一端が端末支柱11に締結され、他端が連結部材14を介して各索体13に締結される。より具体的には、各索体13にクリップ止め等によって締結される各連結部材14(ワイヤロープや棒状部材)に対して、コイル18によって金網121~125の端部が締結される。
図1に示されるように、連結部材14は各金網121~125に対応して設けられ、各連結部材14の索体13に対する取り付け位置は、各金網121~125の長さに応じて、幅方向にオフセットされて配置される。
これにより、索体13と端末支柱11の間において、各金網121~125が並列状に設けられる。
【0032】
端末支柱11間に張られる金網15は、
図1(a)に示されるように、防護柵1の前面側と後面側に設けられる。また、金網15の上端側と下端側には、索体16(ワイヤロープ)が、端末支柱11間で張られる。索体16に対して金網15の上端と下端を締結することで、落石の衝突時等においても金網15の形状(面としての広がり)を保持させるものである。
また、防護柵1には、形状保持用補助支柱17も設けられる。形状保持用補助支柱17は各索体13に取り付けられることで、索体13の間隔を保持する間隔保持材であり、これも、落石の衝突時等における防護柵1の形態(索体13の間隔)を保持させるものである。
【0033】
次に、
図2を参照しつつ、本実施形態の防護柵1の落石衝突時のエネルギー吸収について説明する。
図2(a)は、
図1(a)と同様の図であり、これに対して落石Rが衝突した状態を示した概略図が
図2(b)である。
図2(b)に示されるように、防護柵1に落石Rが衝突すると、その衝突エネルギーにより、多段的エネルギー吸収部12を構成する各金網121~125に伸びが生じ、この伸びによって衝突エネルギーを吸収するものである(なお、各索体13や金網15においても伸びが生じ、これらによってもエネルギーが吸収されるものであるが、これらは従来の防護柵と同様であるため、ここでは本発明に関する部分に重点をおいて説明する)。
より具体的には、落石Rの衝突を受け止める索体13と接続された多段的エネルギー吸収部12(及び各索体13や金網15)に、落石Rの衝突エネルギーがかかり、これによって多段的エネルギー吸収部12を構成する各金網121~125に引っ張り応力がかかる。各金網121~125では金網の構造的な変形(目合いの変形等)や、金網を構成する素線自体の伸び等により、幅方向(図中の略横方向)に伸びが生じる。この際に生じる塑性変形や部材間の摩擦等によってエネルギーが消費され、これらによって衝突エネルギーが吸収されるものである。
ここで、多段的エネルギー吸収部12は、長さの異なる金網121~125によって構成されており、従って、各金網121~125において生じる伸び量は、長さの短い金網程小さくなる。即ち、各金網121~125は、目合いや素線の線径や素線強度が同じであり、伸び率としても同じものであるが、長さが異なるため、破断伸びとしては長さの短い金網程小さくなる。従って、大きな衝突エネルギーが加わった際には、短い金網121(エネルギー吸収能力が小さいもの)から順番に破断していくこととなる(なお、必ずしも破断するということではない)。この点を概念的に示したのが
図4のグラフである。各金網が多段的に破断していくことにより、多段的エネルギー吸収部12としては全体として大きなエネルギー(図中の斜線部分)を吸収することが可能なものである。
【0034】
以上のごとく、本実施形態の防護柵1によれば、多段的エネルギー吸収部12を備えることにより、衝突エネルギーの分散や吸収能力のレンジを広くすることができる。
多段的エネルギー吸収部12によってより大きなエネルギーを吸収できるため、端末支柱11やその基礎に加わるエネルギーを低減することができる。従って、端末支柱11やその基礎を比較的安価に構成することも可能となる。
加えて、各金網が多段的に破断するものであるため、金網の破断状況によって、落石によって防護柵1が受けたエネルギーを評価することが可能であり、当該情報を設置環境の評価などに役立てることができる。
また、各金網が多段的に破断するものであるため、破断したもの(或いは塑性変形の大きなもの)のみを交換するという対応も可能となり、「加わった衝撃に対して必要な分だけのメンテナンス」をすることができ、効率的な維持費とすることができる。
【0035】
また、本実施形態では、連結部材14によって各金網121~125を、各索体13に締結する構成としている。これにより、各金網121~125の端部が全体的に各索体13に締結されるため、索体13からのエネルギー伝達が、各金網121~125の端部の全体に均等に加わるため、好適である。
【0036】
なお、より大きな衝突エネルギーがかかると、多段的エネルギー吸収部12の伸び量も大きくなり、従って、張り出し量(防護柵1の変形:
図2(b)における上側への変形)も大きくなる傾向となる。
これを抑止するために、補助支柱(補助固定部)を設けるようにしてもよい。
図3にその一例を示した。
図2と同様の構成については同一の符号を用いており、ここでの説明を省略する。
図3の防護柵1は、端末支柱11の間において、均等に2本の補助支柱19を設けるものを例としている。補助支柱19は、コンクリート基礎によって支持されるものであり、索体13に対して、斜面の反対側(図中の上側)に設けられる。
各索体13は、補助支柱19に対してフリーの状態(締結されない)か、少なくとも幅方向(図中の横方向)への動きがフリーとなるように、摺動可能に取り付けられる。当該構成により、索体13から多段的エネルギー吸収部12へのエネルギー伝達が阻害されることが抑止される。
上記構成の防護柵1によれば、
図3(b)に示されるように、防護柵1の張り出し量が抑えられる。当該構成(補助支柱19を設置)は、雪崩防止柵としても好適である。雪崩防止柵の場合、積雪により恒常的に柵に負荷がかかることになるが、補助支柱19を設置することで、この負荷による雪崩防止柵の張り出し量を抑えることができる。
【0037】
なお、実施形態1では、多段的エネルギー吸収部を構成する各網体の長さが異なることにより、各網体のエネルギー吸収特性が異なるものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。例えば、各網体において網の構造を(目合い等を)異ならせることでエネルギー吸収特性が異なるものであってもよいし、各網体を構成する素線自体(線径若しくは素材強度)を異ならせることでエネルギー吸収特性が異なるものであってもよい。これらによる場合には、各網体の長さを同じにして並列状に設置するものであってよい。
ただし、本実施形態によれば、金網自体は共通のものを利用できる(金網15を含めて共通化することも可能である)ため、部材の準備や現地への搬入、施行の観点等を含めて、効率的なものとすることができ、好適である。
【0038】
また、実施形態1では、端末支柱の間で、多段的エネルギー吸収部と直列的に接続されるものを複数の索体としているが、多段的エネルギー吸収部と直列的に接続されるものを面材(網体等)としてもよい。この際に、面材における落石などの捕集能力を高めるために、面材の上部及び下部(若しくは何れか)に幅方向に延びる帯状の面材(網体等)を設けるようにしてもよい。即ち、上端部付近と下端部付近において面材が2重構造となる。単なる面材を配するだけであると、面材の上端部付近と下端部付近への落石の衝突時に、面材がめくれるようにして落石が通過してしまうおそれがあるが、上端部付近と下端部付近において面材を2重構造とすることにより、面材の上端部付近と下端部付近の剛性が高くなり、面材のめくれが抑止され、落石などの捕集能力が高まるものである。
【0039】
また、実施形態1では、多段的エネルギー吸収部を構成する各網体について、特に余長を持たせていないが、多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体について余長を有して接続するものであってもよい。
図7は、このような余長を有して網体を接続したものの一例を示す概念図(上面から見た概念図)である。
図7の例は、面材若しくは索体13´に対して、多段的エネルギー吸収部12´を設けているものである。面材若しくは索体13´の所定範囲をショートカットするようにして網体121´を設け、これにより、面材若しくは索体13´が所定範囲において余長を有するように構成されている。また、同範囲において、網体122´、網体123´が余長を有して接続される。当該構成により、衝突エネルギーが、当初は網体121´においてより集中的に吸収され、網体121´の破断等により次に網体122´で衝突エネルギーが吸収され、これが順次各網体で起こっていくことになる(
図7の構成によれば、最終的には面材若しくは索体13´によって必要強度が確保される)。
当該構成の多段的エネルギー吸収部において相互に並列状に接続される複数の網体の内、余長を有して接続される網体が、余長を有さない網体に対して、伸び率若しくは変形率が小さくなるようにしてもよい。さらに、各網体の伸び率若しくは変形率に応じて各網体の余長を変化させるように(伸び率若しくは変形率が小さい網体ほど余長を小さくする等)してもよい。
【0040】
実施形態1では、多段的エネルギー吸収部が、防護柵の両サイドで同様の構成であるものを例としているが、両サイドで相違するものであってもよく、どちらか一方のサイドにのみ多段的エネルギー吸収部を設けるようなものであってもよい。
また、多段的エネルギー吸収部が、端末支柱と索体の間に設けられるものを例としているが、これに限られるものではなく、端末支柱の間に、多段的エネルギー吸収部と索体若しくは面材が直列状に接続されているものであればよい。例えば、索体若しくは面材が両サイドに設けられ、これらの両サイドの索体若しくは面材を連結するように、中間部において多段的エネルギー吸収部が設けられるようなものであってもよい。このような変形例の一例を
図8に示した。
図8(概念図)に示す防護柵1´´は、両端部において立設される端末支柱(固定部)11´´と、エネルギー吸収特性が異なる複数の金網121´´~123´´が相互に並列状に接続されることにより構成された多段的エネルギー吸収部12´´と、横方向に張られる金網M1及びM2と、形状保持用補助支柱17´´と、形状保持用補助支柱17´´間の上端側と下端側に張られる索体13´´と、補助支柱19´´と、横方向に張られる金網M1及びM2の上部と下部にそれぞれ幅方向に延びる帯状の金網M3、M4と、を備える。
横方向に張られる金網M1とM2は同様の金網(面材)であり、防護柵1´´は、端末支柱11´´の間において金網M1とM2と、多段的エネルギー吸収部12´´が直列状に接続されている。金網M1とM2は、多段的エネルギー吸収部12´´の金網121´´~123´´よりも高強度の(変形率が少ない)金網である。防護柵1´´は、端末支柱11´´の間で基本的には金網のみを配する構成である。ただし、金網だけの構成であると上端部付近と下端部付近への落石の衝突時に、面材がめくれるようにして落石が通過してしまうおそれがあるため、上端側と下端側に索体13´´が張られた形状保持用補助支柱17´´と、帯状の金網M3、M4と、を備えている。これにより、金網のM1の面としての広がりを保持させ、柵面としてより全体での変形につなげることで、効果的に落石を捉えるものである。
【0041】
実施形態1では、多段的エネルギー吸収部が、防護柵の両サイドに設けられるものを例としているが、端末支柱(固定部)の間に設けられる多段的エネルギー吸収部の数は任意に設定されるものであってよい。例えば、索体(若しくは面材)と、多段的エネルギー吸収部が、交互に繰り返して直列状に接続されるもの等であってよい。このように多段的エネルギー吸収部を複数設ける場合、多段的エネルギー吸収部が所定間隔ごとに設けられるようにしてもよい。多段的エネルギー吸収部の設置位置に偏りがあると、これから遠い位置に落石があった場合、多段的エネルギー吸収部によるエネルギー吸収効果が低減するおそれがあるが、多段的エネルギー吸収部を所定間隔ごとに設けることにより、防護柵に対する落石の衝突の位置によらずに、多段的エネルギー吸収部による所定のエネルギー吸収効果を得ることができる。
また、実施形態1では、金網15や索体16を設けるものを例としているが、金網15や索体16を設けないものであってもよい。
【0042】
<実施形態2>
実施形態1では、本発明の概念である“多段的エネルギー吸収”を、防護柵(防護施設としての一例)に適用したものを例として説明したが、本発明の“多段的エネルギー吸収”は、より広範な用途に適用することができる。
実施形態2は、本発明の“多段的エネルギー吸収”の別の利用例を示すものであり、エネルギー吸収面材として適用したものである。
【0043】
図5(a)は、本実施形態のエネルギー吸収面材20を上面側から見た図である。
多段的エネルギー吸収部12の構成の概念は実施形態1と同様であるため、ここでの説明を省略する。
本実施形態のエネルギー吸収面材20は、網体(面材)21の両端部において、多段的エネルギー吸収部12が直列的に接続されることで構成される。即ち、多段的エネルギー吸収部12を構成する各網体121~123の端部がそれぞれ網体21に対して締結される。各網体121~123の網体21への締結は、実施形態1のコイル18を用いる等、適宜周知の方法で締結すればよい。
【0044】
本実施形態のエネルギー吸収面材20によれば、金網等の面材が利用される多くのシーンに適用することが可能であり、多段的エネルギー吸収部12を備えることにより、衝突エネルギーの分散や吸収能力のレンジを広くすることができる。
図5(b)には、本実施形態のエネルギー吸収面材20を、斜面の落石防護網(斜面上に点在する風化して脆くなった露岩や道路への転石を予防するために、斜面に沿って金網を張るもの)として利用した例(防護施設としての一例)を示した。
図5(b)に示されるように、従来の金網を落石防護網として設置するのと同様に、縦や横に控ロープ24を張ってこれをアンカー25で固定すると共に、多段的エネルギー吸収部12の他端側(網体21との締結と逆側)を、押さえ治具22と押さえアンカー23(固定部)によって地面に固定する。即ち、多段的エネルギー吸収部12の端部部分を上面から押さえる各押さえ治具22を、押さえアンカー23によって固定するものである。多段的エネルギー吸収部12の他端側の固定は、ここで例示したものに限られないが、なるべく多段的エネルギー吸収部12の他端側の全長にわたって均等に固定することが好ましい。
【0045】
実施形態2では、多段的エネルギー吸収部が、面材の両サイドで同様の構成であるものを例としているが、両サイドで相違するものであってもよく、どちらか一方のサイドにのみ多段的エネルギー吸収部を設けるようなものであってもよい。また、多段的エネルギー吸収部と面材が直列状に接続されているものであればよく、例えば、面材が両サイドに設けられ、これらの両サイドの面材を連結するように、中間部において多段的エネルギー吸収部が設けられるようなものであってもよい。または、多段的エネルギー吸収部と面材の繰り返し構造としたもの等であってもよい。
また、実施形態1で述べたように、多段的エネルギー吸収部を所定間隔ごとに設けるようにしてもよいし、相互に並列状に接続される複数の網体の内の少なくとも一部の網体を、余長を有して接続する等してもよい(この際に、各網体の伸び率若しくは変形率に応じて各網体の余長を変化させる等してもよい)。
【0046】
<実施形態3>
実施形態3は、本発明の“多段的エネルギー吸収”の別の利用例を示すものであり、エネルギー吸収装置として適用したものである。
図6は、本実施形態のエネルギー吸収装置30を示す図である。
エネルギー吸収装置30は、エネルギー吸収特性が異なる複数の金網(緩衝部材)331~333と、当該金網331~333を相互に並列状に接続する端末部材31、32と、によって構成される。
【0047】
本実施形態では緩衝部材が金網によって構成され、これらの金網331~333の長さがそれぞれ異なることにより、エネルギー吸収特性が異なるものである。
端末部材31、32は、それぞれ金網331~333の端部が締結される部材であり、係止部311、321がそれぞれ形成される。
エネルギー吸収装置30は、係止部311、321に例えば他の施設のワイヤロープを締結する等して、エネルギーを吸収させる装置として使用するものであり、その概念としては実施例1や2と同様で、これにより、エネルギーの吸収能力のレンジを広くすることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、緩衝部材として金網を例にして説明したが、これに限るものではなく、用途に合わせて緩衝部材として機能し得るもの(例えばワイヤロープ等)であればよい。
また、ここでは、長さを変えることでエネルギー吸収特性を異ならせるものを例としたが、各種の寸法(例えば、太さ(断面積)や、構造体である場合にはその構造)を変えることでエネルギー吸収特性が異ならせるものであってよく、また、素材自体を変えることで素材強度を異ならせることにより、エネルギー吸収特性が異ならせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1...落石防護柵(防護柵)
11...端末支柱(固定部)
12...多段的エネルギー吸収部
121~125...金網(網体)
13...索体
14...連結部材
15...金網(面材)
19...補助支柱(補助固定部)
20...エネルギー吸収面材
21...網体(面材)
30...エネルギー吸収装置
31、32...端末部材
331~333...金網(緩衝部材)