(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】疎水的に封入されたタングステン
(51)【国際特許分類】
A61M 25/098 20060101AFI20220221BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220221BHJP
A61F 2/82 20130101ALI20220221BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20220221BHJP
A61L 29/02 20060101ALI20220221BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20220221BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
A61M25/098
A61M25/00 530
A61M25/00 504
A61F2/82
A61M25/10 502
A61L29/02
A61L29/04 100
A61L29/12 100
(21)【出願番号】P 2018028735
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2021-02-10
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511193846
【氏名又は名称】クック・メディカル・テクノロジーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】COOK MEDICAL TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・エィ・ドリューズ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・タンカーズリー
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-505721(JP,A)
【文献】特開2008-307093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0130962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82- 2/97
A61M 25/00-25/18
A61L 29/12
A61L 29/18
A61L 31/12
A61L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のポリマー物質を含む本体部、および
前記第一のポリマー物質よりも疎水性が高い第二のポリマー物質を含む可視化部であって、少なくとも1つの放射線不透過性金属を含む複数の粒子を含み、前記複数の粒子が前記第二のポリマー物質と直接接触し、かつ前記第二のポリマー物質中に分散されており、前記第二のポリマー物質が前記第一のポリマー物質と直接接触している、可視化部を含
み、前記可視化部のポリマーの100%が前記第二のポリマー物質である、医療機器。
【請求項2】
前記粒子がコーティングされていない、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記少なくとも1つの放射線不透過性金属がタングステン
、パラジウム、イリジウム、金、タンタル、ビスマス、バリウム、および白金の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
少なくとも1つの放射線不透過性金属がタングステンを含む、請求項3に記載の医療機器。
【請求項5】
前記第二のポリマー物質が官能化されたポリマーである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項6】
前記官能化されたポリマーがポリオレフィンを含む、請求項5に記載の医療機器。
【請求項7】
前記官能化されたポリマーは、無水マレイン酸
を用いて官能化されたポリマーである、請求項5に記載の医療機器。
【請求項8】
前記医療機器が、カテーテルであって、それを通して形成された内腔を含むカテーテルである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項9】
前記可視化部が前記本体部に直接接合されている、請求項
8に記載の医療機器。
【請求項10】
前記第二のポリマー
物質の少なくとも一部が前記第一のポリマー
物質の少なくとも一部に直接接合されている、請求項
9に記載の医療機器。
【請求項11】
医療機器を作成する方法であって、
官能化された疎水性ポリマー中に放射線不透過性物質を分散させて、可視化要素を形成する工程であって、前記放射線不透過性物質が前記官能化された疎水性ポリマーと直接接触している、工程、および
前記可視化要素を前記医療機器の機器本体に接合させる工程
を含
み、前記可視化要素のポリマーの100%が前記疎水性ポリマーである、方法。
【請求項12】
前記機器本体が、前記官能化された疎水性ポリマーよりも疎水性が低い機器ポリマーを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記官能化された疎水性ポリマー
は、無水マレイン酸
を用いて官能化されたポリマーである、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記放射線不透過性物質がタングステンを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項15】
前記タングステンが容積で前記可視化要素
の5%
~30%を占める、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記放射線不透過性物質が粉体、複数のマイクロ粒子、および複数のナノ粒子の1つとして提供される、請求項
11に記載の方法。
【請求項17】
前記医療機器がカテーテルである、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、医療機器に関する。より具体的には、本出願は、主としてポリマー物質から作成され、かつ放射線不透過性要素を組み込む、身体の内腔内で使用するためのカテーテルなどの機器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器の挿入および送達の手順は、透視検査法、血管造影図法、CTスキャン法、X線撮影法などによってモニターすることができる。放射線不透過性マーカーが、送達されるガイドワイヤ、カテーテルおよび体内植込み機器を含むがこれらに限定されない送達系の構成要素上の目印として一般的に使用される。モニタリングにより、植込みサイトにおける機器の正確な位置決めおよびその完全な配置が支援される。
【0003】
放射線不透過性要素またはマーカーは、その製造時に機器に組み込まれる。典型的には、X線を反射することが可能な金属が機器の一部に組み込まれ、それがたとえば血管内フィルターの支柱につながっている。いくつかの場合、たとえば金属製の機器のごく一部が放射線不透過性金属で構築されている場合、その構造に金属を組み込む方法が直接的である。別の場合、たとえば機器がプラスチックで作成されている場合、機器の残りの部分に類似の化学的特性を有する物質と金属とを混合する。たとえば、金属構成要素にシリコーンコーティングを施してから、シリコーン製の装置に組み込み得る。
【0004】
放射線不透過性要素として使用されてきた金属の1つのタイプがタングステンである。タングステンは高密度の金属であり、モニタリング時に信頼性のある信号を与える。タングステンを使用することはコスト効率もよく、その典型的なコストは、1キログラムあたり約25ドル未満である。しかしながら、タングステンを存在させると、それを封入したポリマーの分解を促進し得る。これは、高温および高湿度を伴い得る病院での滅菌条件下で破損につながり得る。これは、パッケージ化された機器の貯蔵寿命が相対的に短縮されることにもなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不利な環境条件に耐えることが可能であり、かつ改良された貯蔵寿命を有する、医療機器のための放射線不透過性要素を開発することが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本開示は、第一のポリマー物質を含む本体部、および第一のポリマー物質よりも疎水性が高い第二のポリマー物質を含む可視化部を含む医療機器を提供する。可視化部は、少なくとも1つの放射線不透過性金属を含む複数の粒子を含み得る。複数の粒子の少なくとも一部は、第二のポリマー物質と直接接触し、かつそれらと結合されているか、コンパウンディングされているか、またはその中に分散されている。第二のポリマー物質は、第一のポリマー物質と直接接触し得る。
【0007】
別の態様では、本開示は、医療機器を作成する方法を提供する。その方法は、官能化された疎水性ポリマー中に放射線不透過性物質を分散させて、可視化要素を形成する工程を含む。放射線不透過性物質は、官能化された疎水性ポリマーと直接接触し得る。その方法は、可視化要素を医療機器の機器本体に接合させる工程をさらに含む。
【0008】
この系のさらなる目的、特徴および利点は、本明細書に付随し、本発明の一部を形成する図面および請求項を参照して以下の記述を検討することで当業者に容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の1つの実施形態に従ってポリマー基材中にコンパウンディングされた金属粒子の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に従って構築されたカテーテルの遠位端の斜視図である。
【
図3】
図2に描かれた実施形態に従ったカテーテルの層の配列の概略図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態に従ったカテーテルの円周の周りにおける放射線不透過性マーカーの配置を示す、
図2のカテーテルの横断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に従って構築された放射線不透過性の可視化要素を示す、カテーテルの遠位端の斜視図である。
【
図6】可視化要素についての加速エージング検討の結果のグラフ表示であり、引張荷重対等価月数における変化を示す。
【
図7】可視化要素についての加速エージング検討の結果のグラフ表示であり、変位対等価月数における変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において量に関連して使用される「実質的に」または「約」という用語は、表記されている量と均等である、たとえば、意図されている目的または機能のために表記されている量と均等である、表記されている量における変動が含まれる。「実質的に」またはその派生語は、有意にまたは大部分を意味すると理解されたい。
【0011】
本明細書で使用するとき、「官能化された」という用語は、有機分子、たとえばポリマーに、その有機分子の化学的性質を変化させる目的で官能基が付加された状態を表す。そのような化学的性質としては、イオン的性質、極性、疎水性/親水性などが含まれるが、これらに限定されない。「官能基」という用語は、特定の挙動を与える任意の原子または化学基と定義される。
【0012】
1つの実施形態では、機能することが可能な形態の金属、たとえば粉体または複数のナノ粒子もしくはマイクロ粒子を疎水性物質中にコンパウンディングする。その物質の疎水性が強いほど、湿分、消毒用流体、他の周辺環境の水和源に暴露されることによる亀裂または崩壊に対する抵抗性が高くなる。カテーテルおよび同様の医療機器は、ポリマーから作成されることが多いため、金属粉体がポリマー中に分散されるか、ポリマーで囲まれるか、または封入されることが好ましい。
【0013】
1つの実施形態では、疎水性物質がポリマーである。ある種の実施形態では、疎水性物質が、ナイロンに接合されるように官能化されたポリマーであり得る。「官能化されたポリマー」とは、少なくとも1つの官能基を含むか、またはそれらを含むように変性されたポリマーである。各種の官能基は、化学物質に極性、イオン電荷、疎水性/親水性、酸/塩基特性を含むがこれらに限定されないある種の化学的性質を付与するように機能する。
【0014】
可視化要素において使用される物質の相対的な疎水性は、ある種の制御された条件下で吸収される水(湿分)の量によって決めることができる。「吸収」とは、その物質のバルクまたは本体中へ浸透する湿分と定義される。より吸湿性が高い(従って疎水性が低い)ポリマーほど、より多くの湿分をそのバルクポリマー中に引き入れるであろう。この作用は、空気中の湿度と、その分子自体の化学的性質(たとえば、極性)との両方で推進される。一般的には、その中に湿分を多く引き込むほど、ポリマーの疎水性は低い。吸収された湿分の量は、たとえば重量パーセントとして測定することができる。
【0015】
水の吸収量(これから物質の疎水性を定量化することができる)は、いくつかの方法で測定することができる。1つの方法では、ポリマー組成物を100%相対湿度に暴露させることにより、最大吸収量を測定することができる。別の態様では、疎水性をISO 62の要件に従って測定することができ、これは、摂氏20度で50%の相対湿度および摂氏23度で水への材料の暴露を含む、試験条件を概述している。そのような方法では、吸収測定のための条件を一定に保つことにより、異なる物質の疎水性を比較することができる。
【0016】
本発明の実施形態に従ったポリマー中に存在させるかまたは組み込むことが可能な官能基の例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:カルボン酸、酸無水物、エステル、ハライド、アシルハライド、アミド、ニトリル、アルデヒド、ケトン、アルコール、チオール、アミン、エーテル、アルケン、スルフィド、アルキン、アルキルハライド、ニトロ基、スルホニル基など。官能基は、ポリマーに組み込まれるモノマー中に任意の割合で存在させるか、または組み込むことができる。いくつかの実施形態では、方法上においてグラフトさせるか、方法を通してグラフトさせるか、または方法からグラフトさせることにより、ポリマー中に官能基を導入することができる。官能基は、ポリマーのすべてのモノマー単位上に存在し得、またはポリマーは、官能化されたモノマー単位の部分を有し、残りに前記官能基が組み込まれていなくてもよい。いくつかの場合、ポリマーの少なくとも1つのモノマーのサブ単位に複数の官能基が含まれ得る。
【0017】
1つの実施形態では、疎水性物質であるポリマーとして以下のものが挙げられる:ポリオレフィン、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン-1、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、およびエチレンプロピレンジエンモノマーゴムの少なくとも1つ。好適なポリマーとしては、直鎖状または分岐鎖状のポリマーが挙げられる。ポリエチレンの場合、ポリエチレンの好適なサブタイプとしては、低密度、中密度、高密度、および超高分子量ポリエチレンが挙げられる。疎水性物質にはコポリマー(ブロックコポリマーも含む)も含まれる。
【0018】
1つの実施形態では、官能化されたポリマーが無水マレイン酸を用いて官能化され得る。ある種の実施形態では、疎水性物質には、無水マレイン酸を用いて官能化されたポリオレフィン、たとえば無水マレイン酸をグラフトされた線状低密度ポリエチレンが含まれ得る。そのようなポリマーとしては、ADMERの商品名で販売されているものが挙げられる。
【0019】
いくつかの場合、その中に可視化要素が組み込まれる医療機器が、少なくとも1つの官能化された疎水性ポリマーに加えて第二のポリマーから作成される。いくつかの場合、機器がエラストマー、たとえばポリエーテルブロックアミド(PEBA)から作成され得る。他の実施形態では、機器がポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、およびポリカーボネートエステルアミドの少なくとも1つから作成され得る。
【0020】
機器にPEBAが含まれている場合、たとえば機器本体の機械的性質により密接に適合するであろう物質を作り出すのが好ましい。そのような場合、機器のベース物質(PEBA)を官能化された疎水性ポリマーと混合することができ、それにより環境からの影響に対する抵抗性が備わり、貯蔵寿命が改良されながらも、機器の残りの部分と類似の機械的性質が得られる。いくつかの実施形態では、可視化要素のポリマー特性は、100%の官能化された疎水性ポリマーであり得る。別の実施形態では、可視化要素のポリマー特性は、それぞれ約3%~約100%の官能化された疎水性ポリマーと、約97%~約0%の、残りを構成している機器のベースポリマーとであり得る。官能化された疎水性ポリマーが可視化要素の約4%~約90%、または約5%~約80%、または約7.5%~約75%、または約10%~約70%、または約20%~約50%、または約25%~約40%、または任意のそれらの間のパーセントであり、機器を主として構成しているベースポリマーが組成物の残りを構成し得る。
【0021】
放射線不透過性金属としては、密度およびコストの面からタングステンが好ましい。タングステンは、粉体として、またはマイクロ粒子もしくはナノ粒子として入手することが可能であるが、それらのいずれであっても、可視化要素の官能化された疎水性ポリマーとコンパウンディングするか、その中に分散させるか、または他に組み合わせることができる。可視化部のタングステン含量は、容積で約5%~約30%または重量で約80%までとし得る。いくつかの場合、可視化要素のタングステン含量が容積で約17%であり得る。
【0022】
1つの実施形態において、無水マレイン酸-官能化ポリオレフィンの100%のポリマー組成物、たとえばADMER中にタングステン粉体を分散させると、予想外の好結果が得られ、環境因子、たとえば湿分、過酸化水素処理および高温に対する良好な耐久性が得られ、さらに貯蔵寿命が長くなることが見出された。そのような知見を以下の実施例1および
図6~7に示す。
【0023】
図1は、複数の放射線不透過性金属粒子12がポリマー基材14中に分散されているポリマー/金属層10の実施形態を示す。この図は必ずしも縮尺通りではない。それらの放射線不透過性粒子は、X線反射性であり、医療機器に組み込むと、X線撮影法、透視検査法、または他の有用な可視化方法を用いて医師が見ることができる。1つの実施形態では、金属粒子12がタングステンであり得るが、放射線不透過性の特性を有する少なくとも1つの他の金属、非限定的に挙げれば、たとえばパラジウム、イリジウム、金、タンタル、ビスマス、バリウム、および白金が含まれ得る。金属粒子12は、粉体から得られたものであり得、またはナノ粒子もしくはマイクロ粒子であり得、またはその物質を簡単に扱えるようにした他の任意の形態であり得る。
【0024】
放射線不透過性金属粒子は、コーティングしない形態でポリマー物質中に混合し得る。本明細書で使用するとき、粒子の外側表面が金属的な性質を有するか、または他にポリマー物質中に分散させる前に他の物質、たとえばポリマーによって封入されるか、取り囲まれるか、または包埋されていない場合、その粒子は「コーティングされていない」とみなす。その中に複数の粒子を分散させた大量のポリマーは、「コーティング」とはみなさない。むしろ、「コーティング」は、金属を含む核の上を不連続に被覆されたものと考えられ、それによってコーティングされた粒子が形成され、次いで、それが可視化要素を構築するのに使用される。本発明の検討からの予想外の発見であるが、コーティングされていない金属粒子、特にタングステンの粉体、ナノ粒子およびマイクロ粒子を官能化された疎水性ポリマー中に分散させると、いずれも医療機器本体の(親水性がより高い)ベースポリマーに確実に付着し、より高い温度、より高い湿度の環境に暴露させても他の配合物に比較して弾性がある。
【0025】
本開示の実施形態に従った可視化物質を作成するために使用される組成物は、任意の方法で作成することができる。ある場合、官能化された疎水性物質と金属粉体とを、2軸スクリューエクストルーダを使用して組み合わせ、そのようにして得られた物質を集め、予備作成した機器の受け入れ部分に入れる。
【0026】
機器の構築において、可視化要素の第二のポリマーの少なくとも一部が機器本体のベース物質と直接接触している。いくつかの実施形態では、第二のポリマーが、機器本体のポリマーも含めて機器本体に化学的または物理化学的に接合されている。
【0027】
機器本体のベースポリマーなどの第二のポリマーが可視化要素に組み込まれている場合、ベースポリマーと官能化された疎水性ポリマーとを最初に組み合わせてから金属を加えるか、または最初に金属を官能化された疎水性ポリマーとブレンドしてから、第二の(機器ベースの)ポリマーをその混合物中にブレンドし得る。
【0028】
本開示の方法は、たとえばタングステンなどの金属をバルクで取り扱うことが可能となるため、特に有用であり得る。その方法では、個々の粒子にコーティングを施す必要がなく、ミクロンサイズの(またはそれを下回る)粒子を単一のバルクとする処理工程が省略され、それによりワークフローが単純化され、損失が最小となり、効率が向上する。この手順には、金属、たとえばタングステンを官能化された疎水性ポリマーの少なくとも一部と直接接触させることが含まれる。
【0029】
いくつかの場合、本開示に従って作成される機器は、
図2に示されるようなカテーテルであり得る。カテーテル20は機器本体22を有し、その遠位端26に向かって複数の放射線不透過性の可視化要素28が包埋されている。カテーテル20は、その長さ方向に設けられた内腔24をさらに有する。この場合、放射線不透過性要素28は、機器を通して実質的に長さ軸に平行に延びる直線状または矩形部分として描かれているが、この形状以外にも、たとえば、機器本体の少なくとも一部を円周状に取り囲んで配した円状または半円状可視化要素28などの多くの設計が考えられる。
【0030】
カテーテルの可視化要素での1つの可能な層の形状を
図3に示す。機器の大部分を構成している、第一のポリマー物質34で作成されたベース層30が、カテーテル20の外側表面を構成する外側層である。可視化要素層32は、この実施形態では内側層であり、官能化された疎水性ポリマーを含むポリマー層36中に分散された放射線不透過性粒子38を含む。この配列では、可視化要素が機器の内腔に暴露され、カテーテル内を通過する流体が可視化要素と接触することが可能である。しかしながら、たとえば、可視化要素がカテーテルの外側層にあるか、または可視化要素がベース物質の内側層と外側層との間に位置しているなど、他の配置も可能である。
【0031】
図4は、
図2のカテーテルの横断面図である。この図から、カテーテル20は、機器の円周の周りに実質的に等間隔で配置された4つの可視化要素を有することがわかる。任意の数の要素が使用され得、また先に説明したように、それらの配置は、図示されているような直線状要素と異なり得る。
【0032】
図5は、本発明の別の実施形態の原理に従ったカテーテル120の遠位端126の斜視図である。この実施形態では、可視化要素128は、カテーテル120の長さ方向の軸の周りを囲む円状の帯として配置され、機器本体122中に包埋されている。
図5では、3本の可視化要素128が描かれているが、機器120では、任意の数のそのような帯を用いることができる。
【0033】
本発明の実施形態の原理に従って構築されるカテーテルの1つの可能な用途は、体内植込み機器の送達系における使用である。機器送達系は、ヒトまたは獣医学的な患者の血管系中に植込み可能な医療機器を送達するための、Seldinger法またはそれに関連する経皮的挿入法で使用することができる。そのような系では、ステント、ステントグラフト、フィルター、オクルダー、弁などの医療機器の植込みの部位を拡張させるために、血管系中に挿入されるガイドワイヤを使用し得る。導入シースをガイドワイヤの一部の上に配置して、導入シース中を通して、その遠位端の向こうまでガイドワイヤに沿ってカテーテルを挿入し得る。医療機器は、植込み部位に到達するまでカテーテルの遠位端に含まれている。次いで、医療機器をカテーテルの遠位端から分離して、定置させる。カテーテルの遠位端に放射線不透過性要素が存在していることにより、機器が最終的に植込まれる位置についての情報が得られ、送達が支援される。本発明の原理に従って構築されたカテーテルの他の用途としては、流体の注入もしくは抜き出し、または薬剤の送達が挙げられる。
【0034】
カテーテルが説明されてきたが、本明細書に説明したような可視化部を多くの他の医療機器に組み込むこともできる。そのような機器としては、バルーン、バルーンカテーテル、ステント、閉塞用器具、および血管内フィルターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
以下の実施例において、異なる2つの親水性ポリマー配合物(重量で20%のPEBA)から作成された可視化要素と、官能化された疎水性ポリマー(重量で20%のADMER)の可視化要素とを比較して説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1:第一のPEBA(20重量%)、第二のPEBA(20重量%)、および官能化された疎水性ポリマー(ADMER、20重量%)から作成された可視化要素を、加速エージングプログラムの一環として高温(摂氏約60度)および高湿度(約75%の相対湿度)に暴露させた。しかしながら、場合により、7%相対湿度という低い相対湿度が試験に適し得る。
【0037】
すべての可視化要素に重量で約80%のタングステンが含まれていた。試験した可視化要素は、完全に可視化物質(すなわち、ポリマー、この場合、PEBAまたはADMERのいずれかの中にコンパウンディングされたタングステン)から作成された、単一の内腔を有する押出し加工チューブの形態であった。PEBAチューブは、約0.0550インチの外径および約0.0395インチの内径を有する。ADMERチューブは、約0.066インチの外径および約0.045インチの内径を有する。
【0038】
暴露期間は、約12加速エージング等価月数であり、3加速エージング等価月数ごとのサンプルについて、引張荷重(単位、ポンド、
図6)および変位(単位、インチ、
図7)の両方を測定した。加速エージングプログラムは、医療機器産業界で公知の方法、たとえば、物質の劣化に含まれる化学反応がArrhenius反応速度関数に従うと説明しているASTM F1980に記載されているように、Arrhenius式から誘導される計算を使用して修正し得る。そのようなプログラムでは、試験を支配している等式は、AAF=Q
10^(T
AA-T
RT)/10)であり、ここで、AAFは、加速エージングファクターを表し、Q
10は、温度10℃上昇または下降についてのエージングファクターを表し、T
AAは、加速エージング温度(単位、摂氏、度)、およびT
RTは周囲温度(単位、摂氏、度)を表す。ここで使用したプロトコールでは、Q
10=2.0であり、T
RTは摂氏22度であり、これは、1日の実験時間が60℃の試験温度での加速エージングの約13.93日と等価であることを意味する。
【0039】
PEBAの可視化要素では、初期に対する相対引張荷重が最初の(3ヶ月)の時点で急速に低下して初期値の40%未満に達し、試験の全期間で低いままであった(
図6参照)。それとは対照的に、驚くべきことに、官能化された疎水性ポリマーの可視化要素は、高温および高湿度に12ヶ月の等価暴露をさせても、初期と同等の引張荷重特性を実質的に有していた(
図6)。変位試験でも同様の結果が観察された(
図7参照)。両方を考え合わせると、これらの試験は、官能化された疎水性ポリマーをその中に直接コンパウンディングし、前記ポリマーと直接接触しているタングステンと共存させると、予想外にも、たとえば湿分および高温などの環境因子に対する良好な抵抗性を有する改良された配合物が得られることを示唆する。
【0040】
当業者であれば容易に理解するように、上記の記述は、本出願の原理の実施を説明するものである。本明細書の記述は、以下の請求項において定義されるように、その系が本出願の趣旨を逸脱することなく容易に修正、変更および変化され得ることにおいて、本出願の範囲を限定することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0041】
10 ポリマー/金属層
12 金属粒子
14 ポリマー基材
20 カテーテル
22 機器本体
24 内腔
26 遠位端
28 放射線不透過性要素
30 ベース層
32 可視化要素層
34 第一のポリマー物質
36 ポリマー層
38 放射線不透過性粒子
120 カテーテル
122 機器本体
126 遠位端
128 可視化要素