(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】脱硫剤の製造方法および脱硫剤前駆体の製造方法、並びに脱硫剤前駆体
(51)【国際特許分類】
B01J 23/80 20060101AFI20220221BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20220221BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220221BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220221BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20220221BHJP
C04B 35/453 20060101ALI20220221BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220221BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20220221BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20220221BHJP
【FI】
B01J23/80 M
C04B35/622
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/18
C04B35/453
B01J20/30
B01J20/02 B
H01M8/0606
(21)【出願番号】P 2018127260
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017135591
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048069(JP,A)
【文献】特開平06-315628(JP,A)
【文献】特開平11-061154(JP,A)
【文献】特開2013-094732(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147204(WO,A1)
【文献】特表2014-514151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/281
20/30-38/74
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物および亜鉛化合物を含む第一粉末と、ニッケル化合物を含む第二粉末と、を混合して第一混合粉末を得る第一混合工程と、
前記第一混合粉末を、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程後の第一混合粉末と、アルミニウム化合物を含む第三粉末と、を混合して第二混合粉末を得る第二混合工程と、
前記第二混合粉末を混練し、押出成形して成形物を得る成形工程と、
前記成形物を焼成して、脱硫剤前駆体を得る焼成工程と、
前記脱硫剤前駆体を水素還元して、脱硫剤を得る還元工程と、
を備えることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記銅化合物が酸化銅であり、前記亜鉛化合物が酸化亜鉛である
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記アルミニウム化合物が、アルミナ一水和物または酸化アルミニウムである
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記脱硫剤前駆体におけるニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物の含有量は、前記脱硫剤前駆体全量に対して、それぞれ、下記の通りである
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
ニッケルの含有量:3質量%以上30質量%以下
銅の含有量:25質量%以上45質量%以下
亜鉛化合物の含有量(ZnO換算):30質量%以上55質量%以下
アルミニウム化合物の含有量(Al
2O
3換算):8質量%以上20質量%以下
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記粉砕工程における粉砕方法が、湿式粉砕であり、
前記湿式粉砕に用いるビーズの直径が、0.3mm以上3mm以下である
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記焼成工程における焼成温度が、300℃以上450℃以下である
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記脱硫剤前駆体の平均粒子径が、3mm以下である
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法において、
前記脱硫剤が、燃料電池に用いられる
ことを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項9】
銅化合物および亜鉛化合物を含む第一粉末と、ニッケル化合物を含む第二粉末と、を混合して第一混合粉末を得る第一混合工程と、
前記第一混合粉末を、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程後の第一混合粉末と、アルミニウム化合物を含む第三粉末と、を混合して第二混合粉末を得る第二混合工程と、
前記第二混合粉末を混練し、押出成形して成形物を得る成形工程と、
前記成形物を焼成して、脱硫剤前駆体を得る焼成工程と、
を備えることを特徴とする脱硫剤前駆体の製造方法。
【請求項10】
ニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む脱硫剤前駆体であって、前記脱硫剤前駆体が、前記脱硫剤前駆体全量に対して、ニッケル3質量%以上30質量%以下、銅25質量%以上45質量%以下、亜鉛化合物30質量%以上55質量%以下、およびアルミニウム化合物8質量%以上20質量%以下を含有し、下記条件[1]から[4]までの全てを満たす
ことを特徴とする脱硫剤前駆体。
[1]全細孔容積が、0.2mL/g以上である。
[2]CO吸着量が、1.5mL/g以上である。
[3]X線光電分光法による結合エネルギーから求めたNiO濃度をa(atom%)とし、Ni
2O
3濃度をb(atom%)とした場合に、下記数式(F1)の条件を満たす。
a/b≦0.33 ・・・(F1)
[4]比表面積が、100m
2/g以上である。
【請求項11】
請求項10に記載の脱硫剤前駆体において、
下記条件[5]を満たす
ことを特徴とする脱硫剤前駆体。
[5]前記脱硫剤前駆体中に含まれる窒素含有量が、200質量ppm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫剤の製造方法および脱硫剤前駆体の製造方法、並びに脱硫剤前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
脱硫剤としては、例えば、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムを担体として、ニッケルなどを担持したものが提案されている。
具体的には、銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む混合物とアルカリ物質の水溶液とを混合して沈殿を生じさせ、得られた沈殿を焼成し、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物の成形物を得た後、この成形物に鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上を含浸させ、さらに焼成し、得られた酸化物焼成体を水素還元する脱硫剤の製造方法が提案されている(特許文献1)。
また、特許文献1に記載の脱硫剤の製造方法において、含浸液を複数に分け、含浸工程を複数回行って成形物に含浸させる脱硫剤の製造方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-61154号公報
【文献】特開2013-094732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法で得られた脱硫剤は、硫黄吸着容量の点で必ずしも十分なものではなかった。そのため、脱硫剤の量を多く必要とするために、反応器が大きくなるという問題もあった。また、特許文献2に記載の方法では、含浸液を複数に分け、含浸工程を複数回行って成形物に含浸させるため、製造工程が煩雑になるという問題もある。
【0005】
本発明は、例えば銅-亜鉛-アルミニウム-ニッケル系の脱硫剤において、硫黄吸着容量を十分に増やすことができる脱硫剤の製造方法、および脱硫剤前駆体の製造方法、並びに脱硫剤前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決するため鋭意努力を重ねた結果、酸化銅-酸化亜鉛粉末と、ニッケル化合物とを混合した段階で、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕し、その後、アルミニウム化合物と混合し、押出成形することで、硫黄吸着容量を十分に増やすことができる脱硫剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本発明により硫黄吸着容量を増やすことができる理由については、必ずしも明らかではないが、本発明で得られる脱硫剤においては、銅、亜鉛およびニッケルを良好に分散でき、また、細孔径を適度な範囲とすることができるためであると本発明者らは推察する。
すなわち、本発明は、以下に示すような脱硫剤の製造方法および脱硫剤前駆体の製造方法、並びに脱硫剤前駆体を提供するものである。
【0007】
(1)銅化合物および亜鉛化合物を含む第一粉末と、ニッケル化合物を含む第二粉末と、を混合して第一混合粉末を得る第一混合工程と、前記第一混合粉末を、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の第一混合粉末と、アルミニウム化合物を含む第三粉末と、を混合して第二混合粉末を得る第二混合工程と、前記第二混合粉末を混練し、押出成形して成形物を得る成形工程と、前記成形物を焼成して、脱硫剤前駆体を得る焼成工程と、前記脱硫剤前駆体を水素還元して、脱硫剤を得る還元工程と、を備えることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(2)(1)に記載の脱硫剤の製造方法において、前記銅化合物が酸化銅であり、前記亜鉛化合物が酸化亜鉛であることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載の脱硫剤の製造方法において、前記アルミニウム化合物が、アルミナ一水和物または酸化アルミニウムであることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(4)(1)から(3)までのいずれかに記載の脱硫剤の製造方法において、前記脱硫剤前駆体におけるニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物の含有量は、前記脱硫剤前駆体全量に対して、それぞれ、下記の通りであることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
ニッケルの含有量:3質量%以上30質量%以下
銅の含有量:25質量%以上45質量%以下
亜鉛化合物の含有量(ZnO換算):30質量%以上55質量%以下
アルミニウム化合物の含有量(Al2O3換算):8質量%以上20質量%以下
(5)(1)から(4)までのいずれかに記載の脱硫剤の製造方法において、前記粉砕工程における粉砕方法が、湿式粉砕であり、前記湿式粉砕に用いるビーズの直径が、0.3mm以上3mm以下であることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(6)(1)から(5)までのいずれかに記載の脱硫剤の製造方法において、前記焼成工程における焼成温度が、300℃以上450℃以下であることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(7)(1)から(6)までのいずれかに記載の脱硫剤の製造方法において、前記脱硫剤前駆体の平均粒子径が、3mm以下であることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(8)(1)から(7)までのいずれかに記載の脱硫剤の製造方法において、前記脱硫剤が、燃料電池に用いられることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
(9)銅化合物および亜鉛化合物を含む第一粉末と、ニッケル化合物を含む第二粉末と、を混合して第一混合粉末を得る第一混合工程と、前記第一混合粉末を、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の第一混合粉末と、アルミニウム化合物を含む第三粉末と、を混合して第二混合粉末を得る第二混合工程と、前記第二混合粉末を混練し、押出成形して成形物を得る成形工程と、前記成形物を焼成して、脱硫剤前駆体を得る焼成工程と、を備えることを特徴とする脱硫剤前駆体の製造方法。
(10)ニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む脱硫剤前駆体であって、前記脱硫剤前駆体が、前記脱硫剤前駆体全量に対して、ニッケル3質量%以上30質量%以下、銅25質量%以上45質量%以下、亜鉛化合物30質量%以上55質量%以下、およびアルミニウム化合物8質量%以上20質量%以下を含有し、下記条件[1]から[4]までの全てを満たすことを特徴とする脱硫剤前駆体。
[1]全細孔容積が、0.2mL/g以上である。
[2]CO吸着量が、1.5mL/g以上である。
[3]X線光電分光法による結合エネルギーから求めたNiO濃度をa(atom%)とし、Ni2O3濃度をb(atom%)とした場合に、下記数式(F1)の条件を満たす。
a/b≦0.33 ・・・(F1)
[4]比表面積が、100m2/g以上である。
(11)(10)に記載の脱硫剤前駆体において、下記条件[5]を満たすことを特徴とする脱硫剤前駆体。
[5]前記脱硫剤前駆体中に含まれる窒素含有量が、200質量ppm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば銅-亜鉛-アルミニウム-ニッケル系の脱硫剤において、硫黄吸着容量を十分に増やすことができる脱硫剤の製造方法、および脱硫剤前駆体の製造方法、並びに脱硫剤前駆体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における脱硫剤の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、以下説明する第一混合工程、粉砕工程、第二混合工程、成形工程、焼成工程および還元工程を備える方法である。本実施形態では、以下説明する第一粉末、第二粉末および第三粉末の3種の粉末を別々に準備する。そして、これら3種の粉末を、第一混合工程、粉砕工程および第二混合工程により混合し、成形し、焼成し、還元することにより、従来の方法で得られる銅-亜鉛-アルミニウム-ニッケル系の脱硫剤に比べて、硫黄吸着容量を十分に増やすことができる。
まず、本実施形態に用いる第一粉末、第二粉末および第三粉末について説明する。
【0010】
(第一粉末)
本実施形態に用いる第一粉末は、銅化合物および亜鉛化合物を含むものである。
本実施形態に用いる銅化合物としては、酸化銅、水酸化銅、硝酸銅および酢酸銅などが挙げられる。これらの中でも、硫黄吸着容量の向上の観点から、酸化銅が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本実施形態に用いる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛および酢酸亜鉛などが挙げられる。これらの中でも、硫黄吸着容量の向上の観点から、酸化亜鉛が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
第一粉末としては、銅化合物と亜鉛化合物とを含むものであれば格別に制限させるものではない。例えば第一粉末は、銅化合物と亜鉛化合物は混合したものであってもよく、両者を混合し、焼成したものであってもよい。これらの中でも、銅化合物と亜鉛化合物とを混合し、焼成したものが特に好ましい。なお、第一粉末としては、銅化合物と亜鉛化合物とを共沈法などに混合粉末としたものを用いてもよい。
第一粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、通常、1μm以上100μm以下であり、好ましくは、5μm以上50μm以下である。なお、第一粉末の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製の「LA-950」)を用いて測定できる。
【0012】
(第二粉末)
本実施形態に用いる第二粉末は、ニッケル化合物を含むものである。
本実施形態に用いるニッケル化合物としては、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよび酢酸ニッケルなどが挙げられる。これらの中でも、焼成時の排ガス処理または還元性の観点から、水酸化ニッケルが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
第二粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、通常、1μm以上100μm以下であり、好ましくは、5μm以上50μm以下である。なお、第二粉末の平均粒子径は、第一粉末の平均粒子径と同様の方法で測定できる。
【0013】
(第三粉末)
本実施形態に用いる第三粉末は、アルミニウム化合物を含むものである。
本実施形態に用いるアルミニウム化合物としては、アルミナ一水和物(ベーマイト;AlO(OH))、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび炭酸アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、硫黄吸着容量の向上の観点から、アルミナ一水和物、酸化アルミニウムが好ましい。
第三粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、通常、0.1μm以上100μm以下であり、好ましくは、10μm以上75μm以下である。なお、第三粉末の平均粒子径は、分級法などにより測定できる。
【0014】
次に、本製造方法における第一混合工程、粉砕工程、第二混合工程、成形工程、焼成工程および還元工程について説明する。
(第一混合工程)
第一混合工程においては、前記第一粉末と、前記第二粉末と、を混合して第一混合粉末を得る。
混合に用いる装置としては、公知の混合機を適宜用いることができる。混合機としては、高速攪拌粉体混合機、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、およびビーズミルなどが挙げられる。
第一混合工程においては、第一混合粉末の均質化の観点、および、下記粉砕工程で第一混合工程で得られたスラリーをそのまま使用できるという観点から、第一混合粉末中に水分を加えて、スラリーとしておくことが好ましい。
【0015】
(粉砕工程)
粉砕工程においては、前記第一混合粉末を、平均粒子径が5μm以下となるまで粉砕する。
ここでの粉砕方法は、乾式粉砕でもよく、湿式粉砕でもよい。ただし、第一混合工程で得られたスラリーをそのまま使用でき、また、乾式粉砕と比較してより細かく粉砕することができるという理由から、湿式粉砕を採用することが好ましい。湿式粉砕には、下記の従来公知の湿式粉砕機を用いることができる。湿式粉砕機としては、例えば、ボールミル、およびビーズミルなどが挙げられる。
湿式粉砕機を用いる場合、湿式粉砕機に用いるビーズの直径は、例えば0.05mm以上10mm以下であればよいが、第一混合粉末の平均粒子径を効率的にかつ十分に小さくするという観点から、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上3mm以下であることが特に好ましい。また、湿式粉砕機に用いるビーズの材質としては、ジルコニア、アルミナ、ガラス、およびSUSなどが挙げられる。これらの中でも、コンタミの抑制および効率性の観点から、ジルコニアが好ましい。
なお、粉砕の状態を確認するために、第一混合粉末の平均粒子径を測定してもよい。第一混合粉末の平均粒子径は、第一粉末の平均粒子径と同様の方法で測定できる。第一混合粉末の平均粒子径が、5μm以下となっていれば、スラリーの粉砕を終了し、その後、得られたスラリーを乾燥する。
【0016】
ここで、スラリーの乾燥方法としては、公知の乾燥方法を使用することができる。乾燥方法には、蒸発乾固法、真空乾燥法、減圧乾燥法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、熱風乾燥法、および振動乾燥法などがあり、必要に応じて、ろ過工程を含んでいてもよい。これらの乾燥方法の中で、粒度分布がシャープな球状粒子を調製することができることから噴霧乾燥法が好ましい。
噴霧乾燥法を用いる場合、噴霧方法としては、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法、および4流体ノズル法など公知の方法を採用することができる。
なお、回転ディスク型スプレードライヤーを使用する場合、例えば、以下の条件に設定するとよい。
乾燥ガス:空気、窒素ガスなど
乾燥ガスの入口温度:100℃以上300℃以下
サイクロン差圧:0.1kPa以上10kPa以下
スラリーの流量:1kg/h以上10kg/h以下
アトマイザ回転数:10,000rpm以上50,000rpm以下
【0017】
第一混合粉末の平均粒子径は、硫黄吸着容量の向上の観点から、5μm以下であることが必要である。また、硫黄吸着容量の向上の観点から、第一混合粉末の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。なお、第一混合粉末の平均粒子径は、第一粉末の平均粒子径と同様の方法で測定できる。
(第二混合工程)
第二混合工程においては、前記粉砕工程後の第一混合粉末と、前記アルミニウム化合物と、を混合して第二混合粉末を得る。
混合に用いる装置としては、高速撹拌混合機、リボンミキサー、およびニーダーなどを用いることができる。
第二混合工程においては、第二混合粉末の均質化の観点から、第二混合粉末中に水分を加えておくことが好ましい。この場合、水分含有率は、1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
なお、第一混合工程および第二混合工程において、第一粉末、第二粉末および第三粉末と、これらの混合比率については、以下の条件を満たすように調整すればよい。
具体的には、得られる脱硫剤におけるニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物の含有量が、脱硫剤全量に対して、それぞれ、下記の通りとなるように、調整することが好ましい。
ニッケルの含有量:3質量%以上30質量%以下(より好ましくは、3質量%以上10質量%以下、或いは、10質量%以上30質量%以下)
銅の含有量:25質量%以上45質量%以下
亜鉛化合物の含有量(ZnO換算):30質量%以上55質量%以下
アルミニウム化合物の含有量(Al2O3換算):8質量%以上20質量%以下
【0019】
(成形工程)
成形工程においては、前記第二混合粉末を混練し、押出成形して成形物を得る。
混練および押出成形に用いる装置としては、公知の混練機および押出成形機など用いることができる。なお、本実施形態においては、硫黄吸着容量の向上の観点から、押出成形により成形物を得ることが必要である。
成形物の形状は、特に限定されないが、ビード状またはペレット状であることが好ましい。
また、このような場合、成形物の平均粒子径が、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。成形物の平均粒子径が前記範囲内であれば、焼成工程において適切な焼成を行うことができる。なお、成形物の平均粒子径は、ノギス法により測定できる。また、「成形物の平均粒子径」とは、成形物がビード状である場合には、ビードの粒子径の平均値であり、成形物がペレット状である場合には、ペレットの直径および長さのうち直径の平均値である。
【0020】
(焼成工程)
焼成工程においては、前記成形物を焼成して、脱硫剤前駆体を得る。
焼成工程における焼成温度は、硫黄吸着容量の向上の観点から、300℃以上450℃以下であることが好ましく、320℃以上380℃以下であることがより好ましい。
焼成工程における焼成時間は、通常、0.5時間以上6時間以下であり、好ましくは、1時間以上4時間以下である。
焼成工程においては、焼成の前に、乾燥を行うことが好ましい。乾燥の温度としては、通常、80℃以上160℃以下である。また、乾燥の時間としては、通常、5時間以上30時間以下である。
【0021】
(還元工程)
還元工程においては、前記脱硫剤前駆体を水素還元して、脱硫剤を得る。
水素還元の方法としては、水素と不活性ガスとの混合ガスの存在下にて、還元処理をする方法を採用できる。
混合ガス中の水素量としては、6体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上4体積%以下であることがより好ましい。
不活性ガスとしては、窒素ガスなどが挙げられる。
還元処理の温度としては、通常、150℃以上350℃以下であり、好ましくは、200℃以上300℃以下である。
前記脱硫剤前駆体は、粉砕して用いてもよい。粉砕する場合には、例えば、粒度(ASTM)を、20メッシュ以上60メッシュ以下とすればよい。
【0022】
(脱硫剤の使用方法)
本実施形態で得られる脱硫剤は、公知の吸着タイプの脱硫剤と同様にして使用できる。すなわち、前記脱硫剤を公知の吸着脱硫装置に充填し、被処理物を通過させることにより、被処理物の脱硫処理ができる。
【0023】
被処理物としては、ガスおよび油などが挙げられる。なお、本実施形態で得られる脱硫剤は、燃料電池の用途に特に好適に用いることができる。
また、この被処理物には、通常、水素ガスが添加されている。添加する水素量は、被処理物中に含まれている硫黄化合物の種類と量に応じて適宜設定できる。例えば、被処理物中の硫黄含有量がppmオーダーの量である場合には、被処理物に対する水素ガスのモル比が、0.0005以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましい。
【0024】
脱硫処理の温度は、通常、100℃以上400℃以下であり、好ましくは、150℃以上350℃以下である。なお、脱硫処理の前に、被処理物を予熱し、所定の温度としておくことが好ましい。予熱の方法としては、公知の方法を採用でき、例えば加熱器を用いる方法、脱硫ガスと熱交換する方法などが挙げられる。
【0025】
吸着脱硫装置に充填すべき脱硫剤の量は、被処理物中の硫黄含有量または使用条件などに応じて適宜設定できる。例えば、被処理物がガス状である場合には、GHSVが100h-1以上5000h-1以下の範囲となるように、脱硫剤の量を調整すればよい。また、被処理物が液状である場合には、LHSVが1h-1以上10h-1以下の範囲となるように、脱硫剤の量を調整すればよい。
【0026】
(脱硫剤前駆体の製造方法)
次に、本実施形態における脱硫剤前駆体の製造方法について説明する。
本実施形態における脱硫剤前駆体の製造方法は、前記脱硫剤の製造方法において、脱硫剤前駆体の水素還元処理を行うことなく、脱硫剤前駆体の調製までを行うことを特徴としている。すなわち、本実施形態における脱硫剤前駆体の製造方法は、前記第一混合工程、前記粉砕工程、前記第二混合工程、前記成形工程および前記焼成工程を備える方法である。本実施形態では、前記説明した第一粉末、第二粉末および第三粉末の3種の粉末を別々に準備する。そして、これら3種の粉末を、前記第一混合工程、前記粉砕工程および前記第二混合工程により混合し、成形し、焼成することにより本実施形態における脱硫剤前駆体を得ることができる。水素還元して得られる脱硫剤は酸化され易いため、通常、脱硫剤は、実用に供する直前に脱硫剤前駆体を還元処理して使用される。
【0027】
(脱硫剤前駆体)
次に、本実施形態における脱硫剤前駆体について説明する。
本実施形態における脱硫剤前駆体は、ニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む脱硫剤前駆体であって、前記脱硫剤前駆体が、前記脱硫剤前駆体全量に対して、ニッケル3質量%以上30質量%以下、銅25質量%以上45質量%以下、亜鉛化合物30質量%以上55質量%以下、およびアルミニウム化合物8質量%以上20質量%以下を含有し、下記条件[1]から[4]までの全てを満たすことを特徴とするものである。また、本実施形態における脱硫剤前駆体は、さらに、下記条件[5]を満たすことが好ましい。
[1]全細孔容積が、0.2mL/g以上である。
[2]CO吸着量が、1.5mL/g以上である。
[3]X線光電分光法による結合エネルギーから求めたNiO濃度をa(atom%)とし、Ni2O3濃度をb(atom%)とした場合に、下記数式(F1)の条件を満たす。
a/b≦0.33 ・・・(F1)
[4]比表面積が、100m2/g以上である。
[5]前記脱硫剤前駆体中に含まれる窒素含有量が、200質量ppm以下である。
【0028】
脱硫剤前駆体の全細孔容積が0.2mL/g未満の場合には、脱硫剤の硫黄吸着容量が不十分となる。また、硫黄吸着容量の観点から、脱硫剤前駆体の全細孔容積は、0.2mL/g以上、0.7mL/g以下であることがより好ましく、0.24mL/g以上、0.35mL/g以下であることがさらに好ましい。
脱硫剤前駆体のCO吸着量が1.5mL/g未満の場合には、脱硫剤の硫黄吸着容量が不十分となる。また、硫黄吸着容量の観点から、脱硫剤前駆体のCO吸着量は、1.5mL/g以上、5.0mL/g以下であることがより好ましく、2.0mL/g以上、4.0mL/g以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の脱硫剤前駆体または脱硫剤においては、酸化ニッケルとして、NiOおよびNi2O3が含まれる。これについては、本実施形態の脱硫剤前駆体または脱硫剤の製造方法において、原料のNi(OH)2が焼成される際に、共存する他の触媒成分(ここではCu、ZnまたはAl)との相互作用が影響しているものと推察される。前記CO吸着量は、前記酸化ニッケル(NiOまたはNi2O3)が還元される容易性(CO吸着量が多い程、還元され易い)あるいはNiの表面状態((1)Niの分散性が高い程、水素化に有利、(2)Niの比表面積が高い程、水素化に有利)の指標であり、これらは脱硫剤の水素化活性に影響をあたえるため、結果として脱硫特性に相関する。
脱硫剤前駆体におけるa/bの値[NiO濃度をa(atom%)とし、Ni2O3濃度をb(atom%)とする]が0.33超である場合には、脱硫剤の硫黄吸着容量が不十分となる。また、硫黄吸着容量の観点から、脱硫剤前駆体におけるa/bの値は、0.1以上、0.33以下の範囲であることがより好ましく、0.1以上、0.30以下の範囲であることがさらに好ましい。ここで、Ni2O3はNiOに比べて還元されやすいので、前記a/bの値が0.33以下の場合、脱硫剤前駆体を還元して使用する際に、還元されてNiメタルになるNi原子の割合が、還元され難いNi原子に比べてより十分に多くなるので、水素化活性が高くなり、結果として脱硫特性が高くなるものと推察される。
脱硫剤前駆体の比表面積が100m2/g未満の場合には、脱硫剤の硫黄吸着容量が不十分となる。また、硫黄吸着容量の観点から、脱硫剤前駆体の比表面積は、100m2/g以上200m2/g以下の範囲であることがより好ましく、105m2/g以上、150m2/g以下の範囲であることがさらに好ましい。
本実施形態においては、作用機構は明らかではないものの、脱硫剤前駆体中に含まれる窒素含有量が、200質量ppm以下であれば、脱硫剤は優れた硫黄吸着性能を示すことができる。また、この様な脱硫剤前駆体をシフト反応触媒や電極触媒などの後段触媒に適用した際に、触媒の劣化低減に寄与できるものと推察される。
【0029】
脱硫剤前駆体における全細孔容積、CO吸着量、a/bの値、比表面積、および窒素含有量は、ニッケル、銅、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物の配合量、或いは、脱硫剤前駆体の製造方法または製造条件を変更することにより調整できる。なお、上記条件[1]から[5]の条件を満たすような脱硫剤前駆体は、前記本実施形態における脱硫剤前駆体の製造方法により製造できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
<脱硫剤前駆体の調製>
第一粉末としての酸化銅-酸化亜鉛粉末(CuO:ZnO=50質量%:50質量%の焼成物、日揮触媒化成社製、商品名「E44W」、平均粒子径21μm)、および、第二粉末としての水酸化ニッケル粉末(Ni(OH)2、関西触媒化学社製、商品名「水酸化ニッケル No.3」、平均粒子径:18μm)を、固形分質量比が85:15となるように、混合し、さらに、水を加えてスラリーを得た(第一混合工程)。そして、得られたスラリーを、湿式粉砕機(アシザワ・ファインテック社製、商品名「LMZ06」)を用い、以下の条件1にて、60分間湿式粉砕して、粉砕スラリーを得た。この粉砕スラリーを回転ディスク型スプレードライヤー(大川原化工機社製の「L-8型スプレードライヤー」)を用い、以下の条件2にて噴霧乾燥し、第一混合粉末(酸化銅、酸化亜鉛および水酸化ニッケルの混合粉末)を得た(粉砕工程)。ここで、得られた第一混合粉末の平均粒子径を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製の「LA-950」)を用い、粒子屈折率2.71の条件にて測定した。得られた結果を表1に示す。
<条件1:湿式粉砕機>
ビーズの直径:1mm
ビーズの材質:ジルコニアローター周速:12m/s
スラリー流量:1kg/min
<条件2:スプレードライヤー>
乾燥ガス:空気
乾燥ガスの入口温度:200℃
サイクロン差圧:0.7kPa
スラリーの流量:3kg/h
アトマイザ回転数:30,000rpm
次に、得られた第一混合粉末、および、第三粉末としての酸化アルミニウム(日揮触媒化成社製、商品名「Cataloid AP-1」、平均粒子径:52μm)を、固形分質量比が80:20となるように計量し、双腕式ニーダーにて混合しながらイオン交換水を徐々に加え、所定の濃度になるまで混練した(第二混合工程)。
次に、水分量が調整された混合粉末を、押し出し成形機にて2.1mmの円柱状に押出成形してペレット状の成形物を得た(成形工程)。
得られたペレット状の成形物を、120℃にて15時間乾燥し、次いで、350℃にて3時間焼成して、脱硫剤前駆体を得た(焼成工程)。
【0032】
<脱硫剤の硫黄吸着試験>
得られた脱硫剤前駆体を、粒度(ASTM)が32~42メッシュとなるように、粉砕した。その後、反応管に7mL充填し、混合ガス(水素ガス2体積%および窒素ガス98体積%)の存在下にて、250℃で4時間保持することで、水素還元処理を行って、脱硫剤を得た(還元工程)。
得られた脱硫剤に対し、試験ガスの出口濃度中の硫黄濃度が0.2質量ppm(硫黄元素換算量)を超えるまで試験ガスを流通させ、脱硫剤の硫黄吸着容量(体積%)を測定した。得られた結果を表1に示す。なお、試験条件は、以下の通りである。
試験ガス:ジメチルスルフィド(DMS)120体積ppm、ターシャルブチルメルカプタン(TBM)80体積ppm、水素ガス2.2体積%を含む窒素ガス
試験温度:250℃
GHSV:4300h-1
【0033】
<脱硫剤前駆体の定量分析>
得られた脱硫剤前駆体は、ICP分析(SIIナノテクノロジー社:SPS-5520)を用いて、Ni、Cu、亜鉛化合物、アルミニウム化合物の含有量を測定した。
具体的には試料(脱硫剤前駆体)約10gを白金皿に採取し、フッ化水素酸20mlと硝酸5mlを加えて、サンドバス上で加熱して乾固させた。乾固物に硝酸2mlを加えて溶解させ、100mlのメスフラスコに注入し、水を加えて100mlとして試料とした。この試料について、Ni、Cu、Zn、Alについて測定することで、Ni、Cu、亜鉛化合物(ZnO換算)、アルミニウム化合物(Al2O3換算)の含有量(質量%)を求めた。測定結果を表2に示す。
【0034】
<脱硫剤前駆体の窒素含有量分析>
得られた脱硫剤前駆体の窒素含有量は、試料(脱硫剤前駆体)約5gを20%NaOH溶液10mL、デバルダ合金5gを加えて、ケルダール蒸留装置で蒸留を行う。次に抽出液を200mLメスフラスコに入れ、約100mL蒸留を行い、液量を200mLとする。イオンメーター装置を使用して、アンモニアイオン電極を使用してアンモニア量を定量し、窒素換算することで窒素含有量を求めた。測定結果を表3に示す。
【0035】
<脱硫剤前駆体のCO吸着量測定>
得られた脱硫剤前駆体は、触媒評価装置(マイクロトラックベル社:BELCAT)を用いて、以下条件にて、CO吸着量を測定した。測定結果を表4に示す。
測定方法:COパルス吸着法
パルス回数:5回
前処理還元:250℃、30分
試料質量:0.15g
【0036】
<脱硫剤前駆体の比表面積測定>
得られた脱硫剤前駆体は、比表面積測定装置(マウンテック社:Macsorb HM model-1220)を用いて、以下条件にて、比表面積を測定した。測定結果を表4に示す。
測定方法:窒素吸着法(BET一点法)
前処理:300℃、1時間
ガス流量:25mL/min(混合ガス:N2/He=30/70)
試料質量:0.1g
【0037】
<脱硫剤前駆体の全細孔容積測定(Hg圧入法)>
得られた脱硫剤前駆体は、細孔分布測定装置(QUANTA CROME社:PM-33GT1LP)を用いて、以下条件にて、全細孔容積を測定した。測定結果を表4に示す。
前処理:300℃、1時間
サンプル容量:1mL
測定範囲:5~5000nm
【0038】
<脱硫剤前駆体のX線光電子分光分析:XPS>
得られた脱硫剤前駆体は、測定装置(サーモフィッシャー社:ESCALAB 220I-X)を用いて、以下条件にて、XPS測定を行った。
線源:monochromatic Al Kα線
加速電圧、電流:10KV、19.0mA
Pass Energy:20eV
Dwell Time:50ms
Energy Step Size:0.1eV
上記のX線光電子分光分析により得られたXPSスペクトルにおいて、Ni元素に起因するピーク(Ni2p3-1、Ni2p3-2)面積より、解析ソフト(サーモフィッシャー社:Avantage)を用いて、マトリックス補正されたNiO濃度をa(atom%)とし、Ni2O3濃度をb(atom%)とした場合のa/bの比率を求めた。
【0039】
(実施例2)
粉砕工程において、湿式粉砕の処理時間を40分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、第一混合粉末および脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~3に示す。
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様にして第一混合粉末を作製し、この第一混合粉末および、第三粉末としての酸化アルミニウム(日揮触媒化成社製、商品名「Cataloid AP-1」、平均粒子径:52μm)を、固形分質量比が80:20となるように計量し、ヘンシェルミキサーにて混合しながらイオン交換水を徐々に加え、所定の濃度になるまで混練した(第二混合工程)。次に、水分量が調整された混合粉末を、押し出し成形機にて1.5mmの円柱状に押出成形し、その後マルメライザーにて1.0~2.0mmの球状(ビード)成形物を得た(成形工程)。得られた球状(ビード)成形物を、実施例1と同様に乾燥、焼成を行い、脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~4に示す。
【0041】
(実施例4)
第一粉末としての酸化銅-酸化亜鉛粉末(CuO:ZnO=50質量%:50質量%の焼成物、日揮触媒化成社製、商品名「E44W」、平均粒子径21μm)、および、第二粉末としての水酸化ニッケル粉末(Ni(OH)2、関西触媒化学社製、商品名「水酸化ニッケル No.3」、平均粒子径:18μm)を、固形分質量比が80:20となるように、混合した以外は実施例1と同様にして第一混合粉末を作製し、この第一混合粉末を用いた以外は実施例3と同様にして脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~3に示す。
【0042】
(比較例1)
粉砕工程を行わずに、第一混合粉末を作製した以外は、実施例1と同様にして、第一混合粉末および脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~4に示す。
【0043】
(比較例2)
粉砕工程において、湿式粉砕の処理時間を5分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、第一混合粉末および脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~4に示す。
【0044】
(比較例3)
酸化銅-酸化亜鉛粉末(CuO:ZnO=50質量%:50質量%の焼成物、日揮触媒化成社製、商品名「E44W」、平均粒子径21μm)と酸化アルミニウム(日揮触媒化成社製、商品名「Cataloid AP-1」、平均粒子径:52μm)とを混合し、打錠成型機を用いて、直径3mmのタブレット成型物を得た。得られたタブレット成型物を350℃で3時間焼成することで焼成品を得た。次いで、得られた焼成品に硝酸ニッケル水溶液(ニッケル濃度:5質量%)を含浸し乾燥した後、350℃で焼成することを3回繰り返すことで脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~3に示す。
【0045】
(比較例4)
粉砕工程において、湿式粉砕機に代えて、卓上ボールミルを用いて以下の条件3にてボールミル粉砕を20時間行い、粉砕スラリーを得た以外は、実施例1と同様にして、第一混合粉末および脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1および3に示す。
<条件3:卓上ボールミル>
ビーズの直径:5mm
ビーズの材質:ジルコニア
回転数:40rpm
【0046】
(比較例5)
硫酸銅五水和物(関東化学社)261gと硫酸亜鉛七水和物(関東化学社)424gをイオン交換水600gへ加え、撹拌し、溶解させた溶液を、炭酸ナトリウム(関東化学社)302gをイオン交換水911gへ加え、撹拌し、溶解させた溶液に、よく撹拌しながら滴下してスラリーを得た。得られたスラリーを濾過し、イオン交換水を掛けて良く洗浄することで銅-亜鉛の水酸化物を得た。得られた銅-亜鉛の水酸化物を120℃にて15時間乾燥し、さらに400℃にて2時間焼成して、酸化銅-酸化亜鉛粉末(CuO:ZnO=40質量%:60質量%の焼成物)を調製した。次に得られた酸化銅-酸化亜鉛粉末(CuO:ZnO=40質量%:60質量%の焼成物)と酸化アルミニウム(日揮触媒化成社製、商品名「Cataloid AP-1」、平均粒子径:52μm)とを混合し、打錠成型機を用いて、直径3mmのタブレット成型物を得た。得られたタブレット成型物を350℃で3時間焼成することで焼成品を得た。次いで、得られた焼成品に硝酸ニッケル水溶液(ニッケル濃度:5質量%)を含浸し乾燥した後、350℃で焼成することを3回繰り返すことで脱硫剤前駆体を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った結果を表1~4に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明の脱硫剤の製造方法で得られる脱硫剤を用いた場合(実施例1および2)には、硫黄吸着容量を十分に増やすことができることが確認された。
これに対し、粉砕工程を行わなかった場合(比較例1)、および粉砕工程における湿式粉砕が不十分であった場合(比較例2および4)には、第一混合粉末の平均粒子径が大きく、硫黄吸着容量が不十分であることが分かった。また、打錠成型機により作製した銅-亜鉛-アルミニウム-ニッケル系の脱硫剤を用いた場合(比較例3)には、硫黄吸着容量が不十分であることが分かった。
また、表1および表4に示す結果からも明らかなように、本発明の脱硫剤前駆体からなる脱硫剤を用いた場合(実施例1および3)は、硫黄吸着容量を十分に増やすことができることが確認された。
これに対し、脱硫剤前駆体におけるa/bの値が大きすぎる場合(比較例1および2)には、硫黄吸着容量が不十分であることが分かった。また、CO吸着量、比表面積および全細孔容積が小さすぎる場合(比較例5)には、硫黄吸着容量が不十分であることが分かった。