(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】法面吹付緑化工法及び植生基材
(51)【国際特許分類】
A01G 24/22 20180101AFI20220221BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20220221BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
A01G24/22
A01G24/30
E02D17/20 102F
(21)【出願番号】P 2018161905
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2020-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】392012261
【氏名又は名称】東興ジオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-162913(JP,A)
【文献】特開平10-056877(JP,A)
【文献】特開2006-307175(JP,A)
【文献】特開2007-092513(JP,A)
【文献】特開2008-050880(JP,A)
【文献】特開2009-247307(JP,A)
【文献】特開2009-235760(JP,A)
【文献】特開2013-238028(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/22
A01G 24/30
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑化基礎工として網張工を併用せずに植生基材を傾斜地に直接吹き付ける緑化工法に用いる前記植生基材であって、
主材料となる生育基盤材と、粘土鉱物と、第1の短繊維材(A)と、第2の短繊維材(B)とを少なくとも含む混合物であり、
前記第1の短繊維材(A)と前記第2の短繊維材(B)は、相対的に、前記第1の短繊維材(A)が硬質で平均繊維長が
4.5cm±3.0cm、かつ、前記第2の短繊維材(B)が軟質で平均繊維長が
2.0cm±1.0cmであることを特徴とする植生基材。
【請求項2】
緑化基礎工として網張工を併用せずに植生基材を用いて行う法面吹付緑化工法であって、
少なくとも主材料となる生育基盤材と、粘土鉱物と、第1の短繊維材(A)と、第2の短繊維材(B)とを混合することにより植生基材を調製する工程と、
前記植生基材を傾斜地に直接吹き付ける工程とを有し、
前記第1の短繊維材(A)と前記第2の短繊維材(B)は、相対的に、前記第1の短繊維材(A)が硬質で平均繊維長が
4.5cm±3.0cm、かつ、前記第2の短繊維材(B)が軟質で平均繊維長が
2.0cm±1.0cmであることを特徴とする法面吹付緑化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化基礎工として網張工を併用する法面(斜面含む)緑化において、造成する生育基盤の強度を高めることにより、網張工を省略可能にする法面吹付緑化工法に関する。特に、金網張工(ラス張工ともいう)を省略できる植生基材吹付工法(厚層基材吹付工法ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
法面緑化工の設計・施工では、法面勾配が緩勾配である場合を除き、表層土の移動や滑落を防止し、吹き付ける生育基盤の安定維持を図り、導入植物や侵入を期待する植物の生育環境を整備することを目的に、緑化基礎工として網張工を施工した上で、植生工として植生基材吹付工や客土吹付工(客土種子吹付工ともいう)などの吹付工法で生育基盤の造成が行われる。
【0003】
吹付工法には、これらのほか長繊維又は連続長繊維などと称される長い繊維を砂質土等に混合して法面に吹き付ける吹付補強土工法がある。このような工法によっても、また厳密には基材の質によっても異なるが、植生基材を例えば10cm以上程度に厚く吹き付けすると生育基盤の自立性が高まるため、網張工が省略できる場合があることは言うまでもない。
【0004】
ここで、網張工とは地山に網状物を張る工法で、一般に金網張工と樹脂ネット張工に大別される。金網張工は剛性を有し、表層土の移動や滑落を防止、吹き付ける生育基盤の安定維持、法面地山の凍上等による剥落防止に有効なため、切土法面をはじめとする比較的勾配の急な斜面を緑化する場合に広く用いられている。一方、樹脂ネット張工は剛性がなく、凍上や落石に対する対応が困難なため、勾配の緩い盛土法面等に適用される場合が多い。
【0005】
またここで、植生工とは植物を導入する工法であり、植物の態様の観点から播種工、植栽工、植生誘導工に大別される。植生工を工法の態様から大別すると、その一つに吹付けを用いる吹付緑化工法(機械施工法ともいう)があり、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工に分類される。吹付緑化工法としては、急勾配法面でも3cm以上の生育基盤を一度に吹き付けることができる植生基材吹付工が切土法面を中心に広く採用されている。
【0006】
これら吹付緑化工法のうち、厚みを有する生育基盤を造成する客土吹付工や植生基材吹付工を適用する場合は、前述した理由により緑化基礎工として網張工の併用が標準となり、剛性のある金網張工が一般的に採用されている。
【0007】
しかし、植生基材吹付工の場合、金網張工に要する経費比率は、吹付厚10cmの場合で約20%、5cm圧の場合で約33%、3cm厚の場合で41%にもなり、最も採用頻度が高いであろうと思われる3~5cm厚では3~4割に達する高い経費比率となっているのが実情で、経済性を高めるために、生育基盤の強度を高めて金網張工を省略できる吹付緑化工法が求められている。
【0008】
生育基盤の強度を高める方法としては、特許文献1に開示された、植生基材に短繊維材を混合することにより生育基盤の連結性を向上させる方法が実用化されている。例えば生育基盤が、単繊維繊度が0.7~120デニールでかつアスペクト比が120~1300である短繊維材(実施例では合成繊維のポリビニルアルコール系繊維)を0.2~6重量%、バーク堆肥を50重量%以上、ピートモスを2~45重量%、及び結合剤を0.1~25重量%の割合で含有する。これによりひび割れ、崩壊、脱落、流出などは生じない生育基盤の造成を実現している。
【0009】
生育基盤材の重量は、使用材料とその含水率により変動する。本出願人の保有工法で、国土交通省の公共工事等における新技術活用システム(NETIS)登録技術である植生基材吹付工「斜面樹林化工法」(登録番号:QS-980148-VE、掲載期間満了)を例に試算すると、生育基盤の総重量は概ね124~154kg/m3の範囲になる。これを基に重量換算(小数点第2位を四捨五入)すると、短繊維材の混合量0.2~6重量%は少なくとも0.2~7.4kg/m3、多くとも0.3~9.2kg/m3になるので、短繊維材を0.2~9.2kg/m3配合することにより目的とする効果が得られると考えることができる。
【0010】
別の方法として特許文献2には、吹付緑化工法に適用する有機質又は無機質の資材、肥料、侵食防止材等の配合材料を混合して調製される生育基盤材において、繊維長5~20cmの吸水性及び吸湿性を有する繊維材(実施例では椰子繊維)を、容積にして5~40%含むことを特徴とする生育基盤材が開示されている。これにより、施工後の生育基盤の乾燥に対して耐久性のある生育基盤を実現している。
【0011】
有機質系植生基材吹付工では、一般的に吹付により植生基材の容積が1/2に圧密されて生育基盤が造成されることから、出来形1000L(リットル)当たり2000Lの生育基盤材を配合する。これを基に特許文献2の生育基盤材の繊維材を容量換算すると、椰子繊維の配合量5~40容積%は100~800L/m3になる。ほぐされた椰子繊維の嵩密度は概ね0.1であることからこれをベースに重量換算すると、椰子繊維を10~80kg/m3配合することにより目的とする効果が得られると考えることができる。
【0012】
さらに非特許文献1の工法は、本出願人の保有工法で、NETIS登録技術である金網張工を省略した植生基材吹付工「ノンラス工法」(登録番号:QS-020028、掲載期間満了)であり、特許文献1及び特許文献2の技術を応用して開発実用化したものである。非特許文献1の工法には、合成樹脂短繊維材を使用する仕様と天然短繊維材を使用する仕様の2タイプがあるが、近年では多くの現場で自然環境にやさしい天然短繊維材が採用されている。
【0013】
さらに別の方法として特許文献3には、糸巻き用紙管の残糸を用いてリサイクル短繊維材を製造する方法が開示されている。複数の糸巻き用紙管から引き出された長繊維である残糸を束ねてボビンに巻き取り、ボビンに巻き取られた残糸束を切断装置で順次引き出して所定の長さに切断する。この製造方法により、繊維長が10~50mm、アスペクト比が500~7000に形成されたリサイクル短繊維材が得られる。
【0014】
特許文献3では、生育基盤材にポリエステル短繊維を1~5kg/m3配合することによって、吹き付けにより造成された緑化基盤のクラックを防止、あるいはクラックが目立たない状態にすることを実現している。しかし、モルタル・コンクリートや生育基盤の強度を増強させる効果までは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平7-327484号公報
【文献】特開平10-113069号公報
【文献】特開平2013-238028号公報
【文献】特開第2004-225330号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】吉田・古田(2002)金網張工を省略した植生基材吹付工、日本緑化工学会誌28(1)、193-196.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1と特許文献2に基づく非特許文献1の工法(工法名:ノンラス工法)は、標準仕様としてビニロン短繊維を使用する場合は2kg/m3、椰子繊維を使用する場合は8kg/m3混合することで生育基盤のつなぎ効果を高め、金網張工を省略する工法で、これまで多くの現場で採用されている。
【0018】
しかしながら、風の強い沿岸部や風道となる地形に位置する立地条件下で施工した場合に生育基盤が剥離したり、もともと地山に生育していた雑草が出芽して生育基盤が浮き上がって剥離したりするケースがあった。これら網張工を省略できる従来技術をより確実性の高い工法とするためには、生育基盤の強度をより増強させ、かつ従来技術と同等以上の植物の発芽生育促進効果が発揮される工法の開発が求められている。
【0019】
本発明は、法面吹付緑化工法、特に植生基材吹付工において、埋設柵などのような補助工法を併用することなく単独で3~10cm厚に吹付した場合、特に最も採用されるケースが多いといえる3~5cm乃至3~7cm厚程度に吹付した場合でも生育基盤の強度が増強されて、網張工が省略できる生育基盤の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を提供する。
・ 本発明の態様は、緑化基礎工として網張工を併用せずに植生基材を傾斜地に直接吹き
付ける緑化工法に用いる前記植生基材であって、
主材料となる生育基盤材と、粘土鉱物と、第1の短繊維材と、第2の短繊維材とを少なくとも含む混合物であり、
前記第1の短繊維材と前記第2の短繊維材は、相対的に、前記第1の短繊維材が硬質で平均繊維長が4.5cm±3.0cm、かつ、前記第2の短繊維材が軟質で平均繊維長が2.0cm±1.0cmであることを特徴とする植生基材。
・ 本発明の別の態様は、緑化基礎工として網張工を併用せずに植生基材を用いて行う法面吹付緑化工法であって、
少なくとも主材料となる生育基盤材と、粘土鉱物と、第1の短繊維材と、第2の短繊維材とを混合することにより植生基材を調製する工程と、
前記植生基材を傾斜地に直接吹き付ける工程とを有し、
前記第1の短繊維材と前記第2の短繊維材は、相対的に、前記第1の短繊維材が硬質で平均繊維長が4.5cm±3.0cm、かつ、前記第2の短繊維材が軟質で平均繊維長が2.0cm±1.0cmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、緑化基礎工として網張工(金網張工)を併用せずに植生基材を法面に吹き付ける法面吹付緑化工法において、従来技術と比較して、生育基盤の強度増強効果、耐侵食性増強効果、耐久性増強効果に優れ、かつ従来技術と同等以上の植物生育性が期待される生育基盤の造成が可能になる。
【0022】
その結果、従来技術が有していた問題である、風の強い沿岸部や風道となる地形に位置する立地条件化で施工した場合に生育基盤が剥離したり、もともと地山に生育していた雑草が出芽して生育基盤が浮き上がって剥離したりする問題が解消される。
【0023】
これらの作用効果により、本発明により緑化工事の手直し工事の発生や、再施工を余儀なくされるリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】
図2は、実施例1の調査結果(植被率、群落高、被度・群度)を示す表である。
【
図3】
図3は、実施例1の三元配置分散分析結果を示す表である。
【
図4】
図4は、バヒアグラス(BaH)の草丈の比較(二元配置分散分析)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、バヒアグラス(BaH)密度の比較(二元配置分散分析)を示すグラフである。
【
図6】
図6は、湿潤時の生育基板の強度比較(一軸圧縮強度)を示すグラフである。
【
図7】
図7は、乾燥時の生育基板の強度比較(曲げ強度)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、湿潤時と乾燥時の浸食土量の比較を示すグラフである。
【
図9】
図9は、乾燥収縮クラック間隔の比較(三元配置分散分析)を示すグラフである。
【
図10】
図10は、乾燥収縮クラック延長の比較(三元配置分散分析)を示すグラフである。
【
図11】
図11は、施工105日後に確認された生育基盤の剥離状況を比較する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明は、緑化基礎工として網張工を併用せずに植生基材を傾斜地に直接吹き付ける緑化工法に係る。その植生基材は、主材料となる生育基盤材と、粘土鉱物と、第1の短繊維材Aと、第2の短繊維材Bとを少なくとも含む混合物である。第1の短繊維材Aと第2の短繊維材Bは、相対的に、第1の短繊維材Aが硬質で平均繊維長が長く、かつ、第2の短繊維材Bが軟質で平均繊維長が短いことが特徴である。
【0026】
短繊維材Bよりも平均繊維長が長くかつ硬質の短繊維材Aを配合して剪断抵抗力(つなぎ効果)を持たせる。さらに粘土鉱物と、短繊維材Aよりも平均繊維長が短くかつ軟質の短繊維材Bを配合することによって、吸水により生じる粘土鉱物の容積増加と膨潤圧による生育基盤の有効間隙圧縮効果と、短繊維材Aに短繊維材Bが生育基盤材を介在させた状態で相互に絡み合うことによる摩擦力増強効果との相乗効果が得られ、その結果、生育基盤の強度、耐侵食性、耐久性及び植物生育性を増強することを実現した。
【0027】
生育基盤材としては、バーク堆肥やピートモスのほか、剪定枝葉などの堆肥化物、現地発生土砂、砂質土、生チップ、堆肥化チップ、発酵汚泥コンポストなどが使用できるが、本発明は、バーク堆肥やピートモスに代表される有機質系生育基盤材を主材料に用いる有機質系植生基材吹付工に分類される工法で特に大きな効果を奏する。
【0028】
粘土鉱物は、珪酸塩鉱物を主材料とする粘土で、ベントナイト、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、タルク、ゼオライトなどが使用できる。本発明で用いる粘土鉱物は、吸水により生じる容積増加と膨潤圧による生育基盤の有効間隙圧縮効果を発揮するものであればよく、土木工事で広く採用されているベントナイトが好適である。生育基盤材に粘土鉱物を混合することにより、これが吸水して有機質基盤内の空隙を満たして侵食防止材の接合力を増大させ、さらに混合する短繊維材とA、Bの摩擦抵抗力も増大させる効果を奏する。
【0029】
短繊維材Aは、短繊維材Bよりも平均繊維長が長くかつ硬質の繊維で、吹き付ける生育基盤内に分散させることにより剪断強度を高める効果を奏する。短繊維材Aは、生育基盤材の剪断抵抗力を高めて補強を目的とする繊維で、鋼繊維、ステンレス繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、アラミド、ナイロン、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、椰子繊維、セルロース繊維などが使用できる。
【0030】
しかし、ここで重要なことは、短繊維材Aには、固化するモルタル・コンクリート等の構造物の補強ではなく、繊維による周面摩擦力が得られにくい緑化のための生育基盤を補強するという特殊性から、できる限り長い繊維を混合して基盤内に分散させる必要がある。そのため、短繊維材Aは、繊維にある程度の硬さ(腰)があり、繊維表面が平滑ではなく凹凸を有していたり、繊維が直線的ではなく屈曲していたりするなど、生育基盤内に分散させた場合にできる限り強い周面摩擦抵抗力が発現する繊維が望ましい。そのため、化学繊維と比較して繊維が直線的かつ表面が平滑ではない天然繊維が望ましく、とりわけ繊維が屈曲している椰子繊維が好適である。
【0031】
また、短繊維材Aは、比較的固い繊維であることから、繊維長が長くなるとミキサによる各種材料の攪拌混合時に供回りを生じるなどして攪拌効率が著しく悪化し、植生基材中に均一に分散させることが困難になる。施工性に支障がなく、かつ植生基材内に均一に分散させるためには、短繊維材Aの平均繊維長を4.5cm±3.0cmの範囲とすると好適である。
【0032】
短繊維材Bは、短繊維材Aよりも平均繊維長が短くかつ軟質の繊維で、吹き付ける生育基盤内に均一に分散させることにより、生育基盤材を介在させながら短繊維材Aと絡み合い、生育基盤の接合力と剪断抵抗力を増大させるとともに、乾燥収縮クラックの発生を抑制する効果を奏する。短繊維材Bを短繊維材Aと効率よく絡み合わせるためには、短繊維材Aよりも繊維長が短くかつ表面が平滑で軟質の繊維であることが重要で、繊維は極力柔らかい化学繊維が有効である。化学繊維の種類は特に限定されないが、例えば、特許文献3のリサイクル短繊維材は化学繊維の中でも強度が高いポリエステルであり、経済的にも有効である。
【0033】
短繊維材Bを平均繊維長は4.5cm±3.0cmの短繊維材Aと効率よく絡ませるためには、短繊維材Bの平均繊維長を2.0cm±1.0cmの範囲とすると好適である。
【0034】
なお、各短繊維材A、Bが硬質であるか軟質であるかの区分は、短繊維材Aと短繊維材Bとが相対的に軟質か硬質かということによる。また、各短繊維材A、Bの長さが上述した範囲よりも短いと目的とする効果が顕著でなく、長いと施工性が悪化することが問題となる。
【0035】
短繊維材の物性を例示すれば、短繊維Aは、アスペクト比100~500、伸び率10~30%、引張強さ50~800cNの天然繊維が好適で、中でもアスペクト比200~400、伸び率10~30%、引張強さ100~700cNの椰子繊維がさらに好適である。
【0036】
また、短繊維材Bは、アスペクト比500~7000、伸び率30~100%、引張強さ1~30cNの化学繊維が好適で、さらにアスペクト比1000~3500、伸び率40~60%、引張強さ2~10cNのポリエステル繊維がさらに好適である。
【0037】
施工にあたっては、これらの資材のほか、通常の法面吹付緑化工法と同様に、侵食防止材(接合材)、肥料、種子などが混合される。侵食防止材は、酢酸ビニル系樹脂に代表される合成樹脂系と、セメントに代表される無機質系があるが、生育基盤の耐浸食性や耐久性を高めるためには接合力の強い無機質系の資材が好適で、例えば、植物の発芽生育を阻害しない特許文献4に記載の有機質系生育基盤材用侵食防止材などが有効である。
【0038】
[その他の効果]
本発明の副次的な作用効果として、緑化工で導入した植物の根系と短繊維材Aと短繊維材Bとの絡み合い効果による生育基盤の中長期的な強度増強効果がある。本発明は、植物根系が介在していない施工直後の状態から生育基盤の強度増強を実現したことを特徴とする。この生育基盤の強度増強効果は、これまでに実施した試験施工時における観察により、施工後は発芽した植物の根系が生育基盤材を介在させた状態で短繊維材A、Bに絡みついて伸長し、これにより植物が容易に引き抜けない状態になっていることが確かめられている。根系による土壌緊縛力はもちろん周知であるが、本発明は、従来技術と比較して、施工後の植物の根系の伸長に伴って、生育基盤の中長期的な基盤強度、耐侵食性、耐久性を増強させ、より高い効果を奏することが期待できることが示唆された。
【0039】
[施工について]
生育基盤に相対的に平均繊維長及び硬度が異なる短繊維材A、Bを配合することによって生育基盤の有効間隙圧縮効果と摩擦力増強効果の相乗効果により、生育基盤の強度増強を実現するためには、施工時に各種材料を十分に攪拌して均一に混合することが重要となる。
【0040】
吹付緑化工法では、各種材料を吹付機に直接投入して混合する形がとられる場合があるが、本発明の効果を最大限に発揮させるためには、あらかじめ各資材をシャフトレスミキサに代表される攪拌効率の高いミキサに投入して混合することが望ましい。また、侵食防止材の接合力を得るためには水を混合する必要がある。この際、加水に前もって十分攪拌混合しておくことにより、植生基材の中に短繊維材A、Bを分散させることができる。なお、水は、シャフトレスミキサによる攪拌時、あるいは攪拌後に吹付機に投入してから混合しても問題はなく、植生基材の圧送距離が長い場合は、吹き付けノズル手前で水を合流させて混合してもよい。
【実施例】
【0041】
本発明の従来技術に対する進歩性を実証した試験施工の結果を各実施例として示す。
[実施例1]圃場試験による植物生育性の検証
本発明を完成させるにあたり、本実施例に前もって植物生育に適する各種資材の好適な配合量を決定するための基礎試験を実施した。その結果、植物生育性に支障がない各種資材の混合量として、粘土鉱物(ベントナイト)を5~50kg/m3、短繊維材A(椰子繊維)を20~100L/m3、短繊維材B(ポリエステル繊維)を1~5kg/m3配合するのが望ましいとの結論が得られている。
【0042】
そのため、この配合量の範囲内において、施工性と経済性を考慮して、さらに好適な配合量の上限値と下限値を採用した試験を行った。本試験では、短繊維材Bの配合による植物生育性を再確認するため、ポリエステル短繊維材のみ配合なしの試験区を設けた。
【0043】
試験は、従来技術(特許文献1及び特許文献2に基づく非特許文献1に記載の工法)と比較して植物の生育性に問題が生じないか検証するため、従来技術1(ビニロン短繊維)と従来技術2(椰子短繊維)の2区を設定し、本発明工法については、粘土鉱物(ベントナイト)、短繊維材A(椰子繊維)、及び短繊維材B(ポリエステル繊維)の3因子I、II、IIIを組み合わせた比較試験を行った。
【0044】
施工は、実際に使用する施工機械を用いて行い、栃木県内の東興ジオテック株式会社テクニカルセンター内の実験圃場に設置した1.8m×1.8m試験区に生育基盤を吹き付けた。実験計画は次のとおりで、各試験区とも、有機質系生育基盤材(商品名:オルガソイル)2000L/m3、無機質系侵食防止材(商品名:レミコントロール)60kg/m3、及び種子(トールフェスク(TF)、クリーピングレッドフェスク(CRF)、ヤマハギ、シャリンバイ、アカメガシワ、キハダ、オオヤマザクラ)は共通である。
【0045】
図1は、実施例1の実験計画表を示す。
従来技術1:ビニロン短繊維(特許文献1の技術)
従来技術2:椰子短繊維(特許文献2の技術)
本発明:三因子実験
・要因I:粘土鉱物(ベントナイト)、
混合量(α1:10kg/m
3、α2:30kg/m
3)
・要因II:短繊維材A(椰子繊維、商品名:レミファイバー)
混合量(β1:40L/m
3、β2:80L/m
3)
・要因III:短繊維材B(ポリエステル繊維、商品名:キリファイバー)
混合量(γ1:0kg/m
3、γ2:1kg/m
3、γ3:2kg/m
3)
【0046】
従来技術1の1m3当たりの材料配合は次のとおりである。
生育基盤材(オルガソイル) 2000L
短繊維材(ビニロン繊維) 2kg
侵食防止材(レミコントロール) 60kg
緩効性肥料(ハイコントロール) 4kg
種子 1式
【0047】
従来技術2の1m3当たりの材料配合は次のとおりである。
生育基盤材(オルガソイル) 2000L
短繊維材(椰子繊維) 80L
侵食防止材(レミコントロール) 60kg
緩効性肥料(ハイコントロール) 4kg
種子 1式
【0048】
図2は、実施例1の調査結果(植被率、群落高、被度・群度)を示す表である。
試験の結果、施工11ヵ月後の植被率は、粘土鉱物30kg/m
3配合区と短繊維材A80L/m
3配合区が従来技術1及び従来技術2より高くなり、群落高も粘土鉱物30kg/m
3配合区が従来技術2及び従来技術2より高くなり、植物の被度・群度も、総じて対照区1と同等あるいは優勢な種が多かった。
【0049】
この結果から、本発明を構成する材料による植生基盤は、少なくとも従来技術と同等で、むしろそれ以上の生育促進効果を有していることが確かめられた。
【0050】
図3は、実施例1の三元配置分散分析結果を示す表である。
次に、植物の樹高・草丈と密度について三元配置分散分析を行い、粘土鉱物、短繊維材A、及び短繊維材Bの配合量の効果を検証した。その結果、各要因とも一部の植物を除いて有意差は認められず、配合量の多少に対して正の関係と負の関係となったものが混在し、試験施工した各資材の配合量の範囲においては、各植物とも生育性は同等と考えて問題がないことが確かめられた。
【0051】
なお、試験施工において吹付作業を行った際、粘土鉱物30kg/m3配合区は、10kg/m3配合区と比較して吹付抵抗力が大きく、明らかに植生基材の粘性が高くなっていた。そのため、実施工における施工性を考慮すると、粘土鉱物10kg/m3配合が好適といえる。
【0052】
[実施例2]法面における植物生育性の検証
福島県内の東向きと西向きの盛土法面(法長15m、勾配1:1.4)において、外来草本類による急速緑化による従来技術1と本発明の比較試験を行った。本試験における本発明の1m3当たりの材料配合は次のとおりである。使用植物(種子)は、TF、CRF、バミューダグラス(BG)、バヒアグラス(BaH)、バーズフットトレフォイル(BFT)である。
生育基盤材(オルガソイル) 2000L
短繊維材A(椰子繊維) 40L
短繊維材B(ポリエステル繊維) 2kg
粘土鉱物(ベントナイト) 10kg
侵食防止材(レミコントロール) 60kg
緩効性肥料(ハイコントロール) 4kg
種子 1式
【0053】
施工2ヵ月後の植生は、東向法面、西向法面ともにBaHが被度5で優占する外来草本植物群落が形成され、外見的な植被率は100%で工法間の違いは認められなかった。導入種の総密度は、東向法面は1,208本/m2、西向法面は992本/m2に達し、種別の分析は種間競争が影響してあまり意味を持たないと考えられたことから、法面方位(東向き、西向き)と適用工法(従来技術1、本発明)による二元配置分散分析を行って優占種のBaHの草丈と密度を比較した。
【0054】
図4は、BaHの草丈の比較(二元配置分散分析)を示すグラフである。
草丈については、従来技術1と本発明との間に差は認められず、実施例1の結果と同様に、本発明は従来技術1と同等の生育特性を有していていることが確かめられた。
【0055】
図5は、BaHの密度の比較(二元配置分散分析)を示すグラフである。
密度については、従来技術1と本発明との間に高い確率で差(p=0.06)が認められ、本発明は植物の発芽を促進する効果があることが確かめられた。
【0056】
[実施例3]生育基盤の強度増強効果の検証
本発明の強度増強効果を検証するため、次の比較試験を行った。
従来技術1:ビニロン短繊維(特許文献1の技術)
従来技術2:椰子短繊維(特許文献2の技術)
本発明1:短繊維材A+短繊維材B 1kg/m3配合
本発明2:短繊維材A+短繊維材B 2kg/m3配合
【0057】
従来技術1と従来技術2の材料配合は実施例1と同様である。また、本試験における本発明の1m3当たりの材料配合は次のとおりである。
生育基盤材(オルガソイル) 2000L
短繊維材A(椰子繊維) 80L
短繊維材B(ポリエステル繊維) 1kg及び2kg
粘土鉱物(ベントナイト) 10kg
侵食防止材(レミコントロール) 60kg
緩効性肥料(ハイコントロール) 4kg
【0058】
試験は、実際に使用する施工機械を用いて行い、シャフトレスミキサで十分攪拌した植生基材をφ5cm×10cmのプラスチックモールドに詰めて、湿潤状態での生育基盤の強度増強効果を確認するための一軸圧縮試験用の供試体を作成した。さらに、内寸39.0cm×23.7cm、高さ7.0cmのプラスチックコンテナに植生基材を吹き付けて、乾燥状態での生育基盤の強度増強効果を確認するための曲げ試験用の供試体を作成した。供試体は室内養生し、曲げ試験ではプラスチックコンテナから基盤を脱型して幅10cmに切断したものを供試体とした。
【0059】
なお、湿潤時と乾燥時で試験方法を分けたのは、生育基盤は材齢が長くなると乾燥収縮して変形する場合があり、こうした状態になると短繊維が混入している一軸圧縮試験用の供試体の整形が困難なことによる。
【0060】
図6は、湿潤時の生育基板の強度比較(一軸圧縮強度)を示すグラフである。
一軸圧縮試験(n=9)の結果についてTukeyの多重比較検定を行った結果、湿潤時(含水比160.6%)の生育基盤は、従来技術1と、従来技術2と、本発明の短繊維材B配合量1kg/m
3との間に差はみられなかったが、短繊維材Bを2kg/m
3配合した場合は、従来技術1と従来技術2との間にはともに高い確率で有意差(前者p<0.01、後者p=0.08)が認められた。
【0061】
また、短繊維材B配合量1kg/m3と、配合量2kg/m3との間にも有意差(p<0.05)が認められ、生育基盤が湿潤な状態、つまり施工後後間もない状態でも、短繊維材Bを2kg/m3配合することにより、生育基盤の強度を短繊維材Aのみの場合と比較して18%程度向上できることが確かめられた。
【0062】
図7は、乾燥時の生育基板の強度比較(曲げ強度)を示すグラフである。
曲げ試験(n=5)の結果についてTukeyの多重比較検定を行った結果、乾燥時(含水比35.9%)の生育基盤は、従来技術1と従来技術2との間、及び本発明の短繊維材B配合量1kg/m
3と配合量2kg/m
3と間に有意者認められず同等であることが確かめられた。
【0063】
次に、従来技術と本発明を比較すると、従来技術1と、本発明の短繊維材B配合量1kg/m3及び配合量2kg/m3との間には有意差(前者p<0.01、後者p<0.05)が認められ、強度は43~50%増強されていた。また、従来技術2と、本発明の短繊維材B配合量1kg/m3及び配合量2kg/m3との間にも高い確率で有意差(前者p<0.05、後者p=0.11)が認められ、強度は30~37%増強されていた。
【0064】
図6及び
図7に示された結果から、短繊維材Aと短繊維材Bを組み合わせることにより、生育基盤の強度を短繊維材Aのみの場合と比較して、乾燥時の強度を大きく向上できることが確かめられた。
【0065】
[実施例4]生育基盤の耐侵食性増強効果の検証
本発明の生育基盤の強度増強効果を検証するため、次の比較試験を行った。実験計画と各試験区の材料配合は実施例3と同様である。
従来技術1:ビニロン短繊維(特許文献1の技術)
従来技術2:椰子短繊維(特許文献2の技術)
本発明1:短繊維材A+短繊維材B 1kg/m3配合
本発明2:短繊維材A+短繊維材B 2kg/m3配合
【0066】
試験は、実際に使用する施工機械を用いて行い、シャフトレスミキサで十分攪拌した植生基材を内寸39.0cm×23.7cm、高さ7.0cmのプラスチックコンテナに植生基材を吹き付けて供試体を作成した。供試体は室内でシート養生し、降雨実験装置を用いて、基盤湿潤時(概ね養生1週間後)と基盤乾燥時(概ね養生5週間後)に、雨量100mm/h、雨滴径2.5mm(振動モーター回転数500rpm)の人工降雨を1時間降らせた。
【0067】
図8は、湿潤時と乾燥時の浸食土量の比較を示すグラフである。
試験の結果、基盤湿潤時(n=3)には、従来技術1と、本発明の短繊維材B配合量1kg/m
3との間には差は認められなかったが、短繊維材B配合量2kg/m
3との間には高い有意差(p<0.01)が認められ、11.7倍の耐侵食性を発揮していることが確かめられた。また、従来技術2と本発明との間には高い有意差(p<0.01)が認められ、短繊維材B配合量1kg/m
3は1.9倍、2kg/m
3配合は23.2倍という高い耐侵食性を発揮していることが確かめられた。
【0068】
一方、基盤乾燥時(n=3)には、すべての試験区間において差は小さくなり、従来技術1と本発明との間に差は認められなかったが、従来技術2と、本発明の短繊維材B配合量1kg/m3との間(p=0.24)及び短繊維材B配合量2kg/m3との間(p=0.18)には比較的高い確率で差が認められ、1.5~1.6倍の浸食防止効果が発揮されることが確かめられた。
【0069】
以上の結果から、本発明においては、短繊維材Bの配合量を2kg/m3とすることで、基盤湿潤時、基盤乾燥時ともに、生育基盤の耐侵食性向上効果が発揮できることが確かめられた。
【0070】
[実施例5]生育基盤の耐久性の検証
本発明の生育基盤の耐久性(?離防止効果)を検証するため、法長4m、勾配1:1.0の盛土法面を使用して、岩盤法面(北西向き疑似岩盤法面)と土砂法面(南東向き)において次の比較試験を行った。岩盤法面は、30cm×30cmのコンクリートブロックを節理間隔5mm程度となるように空張りした疑似岩盤法面である。生育基盤の吹付厚は、岩盤法面は5cm厚、土砂法面は3cm厚で施工した。
【0071】
なお、実施例1~実施例3の結果から、従来技術1と従来技術2はほぼ同等であること、及び本発明における短繊維材Bの配合量は、1kg/m3配合よりも2kg/m3配合の方が好適なことが確かめられたことから、対照区として、金網張工を併用した有機質系厚層基材吹付工(短繊維材は配合していない)と、従来技術2を設定した。
【0072】
金網張工+有機質系植生基材吹付工
本発明:短繊維材A+短繊維材B
従来技術2:椰子短繊維(特許文献2の技術)
【0073】
従来技術2の材料配合はこれまでの実施例と同様である。また、本試験における本発明の1m3当たりの材料配合は次のとおりである。
生育基盤材(オルガソイル) 2000L
短繊維材A(椰子繊維) 80L
短繊維材B(ポリエステル繊維) 2kg
粘土鉱物(ベントナイト) 10kg
侵食防止材(レミコントロール) 60kg
緩効性肥料(ハイコントロール) 4kg
【0074】
各試験区とも、有機質系生育基盤材(商品名:オルガソイル)2000L/m3、無機質系侵食防止材(商品名:レミコントロール)60kg/m、及び緩効性肥料(商品名:ハイコントロール)4kg/m3)は共通である。調査は、46日後と105日後に3箇所/試験区の調査プロットを設定し、乾燥収縮クラック間隔、単位面積当たりの乾燥収縮クラック延長の測定、及び生育基盤の?離状況を観察した。
【0075】
図9は、乾燥収縮クラック間隔の比較(三元配置分散分析)を示すグラフである。
乾燥収縮クラック間隔について、法面条件(岩盤法面、土砂法面)、適用工法(金網張工を併用した植生基材吹付工、本発明、従来技術2)、及び経過日数(46日後、105日後)の3因子について三元配置分散分析を行った。その結果、法面条件、適用工法、経過日数の各要因ともに高い有意差(それぞれp<0.01、p<0.05、p<0.01)が認められ、Tukeyの多重比較検定の結果、金網を併用した植生基材吹付工と従来技術2との間の差は小さいが(p=0.46)、本発明と金網を併用した植生基材吹付工との間、及び本発明と従来技術2との間には有意差(p<0.05)が認められた。
【0076】
乾燥収縮クラック間隔は、法面条件や経過日数によっても差が生じるが、本発明は他の試験区と比較して優れたクラック抑制効果を有していることが確かめられた。また、本発明のクラック抑制効果を法面条件別に比較すると、金網張工を併用した植生基材吹付工と比較して岩盤法面で54~64%、土砂法面で87~93%に、従来技術2と比較して岩盤法面で76~83%、土砂法面で67~72%に減少させる効果が認められた。
【0077】
図10は、乾燥収縮クラック延長の比較(三元配置分散分析)を示すグラフである。
乾燥収縮クラック延長について、法面条件(岩盤法面、土砂法面)、適用工法(金網張工を併用した植生基材吹付工、本発明、従来技術2)、及び経過日数(46日後、105日後)の3因子について三元配置分散分析を行った。その結果、法面条件、適用工法、経過日数の各要因ともに顕著な差(それぞれp=0.06、p<0.05、p=0.20)が認められ、Tukeyの多重比較検定の結果、本発明と従来技術2の間の差(p=0.25)は少なかったが、本発明と金網張工を併用した植生基材吹付工の間には高い有意差(p<0.05)が認められ、本発明は金網張工を併用した一般的な植生基材吹付工と比較しても優れたクラック抑制効果を有し、従来技術2と比較しても比較的高い確率で差があることが確かめられた。
【0078】
乾燥収縮クラック延長は、法面条件や経過日数によっても差が生じるが、本発明は、これら対照区と比較して優れたクラック抑制効果を有していることが確かめられた。また、本発明のクラック抑制効果を法面条件別に比較すると、金網張工を併用した植生基材吹付工と比較して、岩盤法面で31~37%、土砂法面で42~43%に、従来技術2と比較して、岩盤法面で45~71%、土砂法面で65~76%に減少させる効果が認められた。
【0079】
金網張工を併用した植生基材吹付工のクラック間隔とクラック延長が最も大きくなった原因として、生育基盤の乾燥収縮に伴って、金網の網目に沿ってクラックが生じたことがあげられる。このような現象は、特に生育基盤の吹付厚が薄い場合に発生しやすい。本発明を、金網張工を併用した植生基材吹付工として施工した場合には、金網に沿ったクラックの発生を抑制する効果も期待できる。
【0080】
図11は、施工105日後に確認された生育基盤の剥離状況を比較する写真である。
なお、金網張工を省略した植生基材吹付工が有する問題として、現場によっては吹き付けた生育基盤が風で?離したり、宿根雑草の出芽で生育基盤が持ち上げられて?離したりする問題がある。今回の試験の105日後の調査時に、土砂法面において従来技術2の試験区で生育基盤の?離が観察されたのに対し、本発明と金網張工を併用した植生基材吹付工の試験区では全く?離は認められなかった。この結果から、本発明は従来技術2と比較して優れた生育基盤の?離抑制効果があり、3cm厚という薄い吹付厚でも十分な効果が発揮されることが確かめられた。
【0081】
[実施例6]
以上を総合すると、本発明は、少なくとも次の配合の場合に目的とする作用効果を奏することができる。なお、下記記載以外の侵食防止材、肥料、及び種子の配合量は設計事項である。
生育基盤材 2000L
短繊維材A 20~100L
短繊維材B 1~5kg
粘土鉱物 5~50kg
【0082】
さらに好適には、次の配合の場合に目的とする作用効果を奏する。
生育基盤材 2000L
短繊維材A 40~80L
短繊維材B 1~2kg
粘土鉱物 10~30kg