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特許7027320ビニルモノマーの線状重合および擬環拡大重合を制御するための調節剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】ビニルモノマーの線状重合および擬環拡大重合を制御するための調節剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20220221BHJP
   C07C 291/04 20060101ALI20220221BHJP
   C07C 253/30 20060101ALI20220221BHJP
   C07C 255/64 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C08F2/38
C07C291/04
C07C253/30
C07C255/64
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018541547
(86)(22)【出願日】2016-11-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2016076596
(87)【国際公開番号】W WO2017076992
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/075750
(32)【優先日】2015-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518152947
【氏名又は名称】ディスポルテク ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ファン エス イェー イェー ヘー ステーフェン
(72)【発明者】
【氏名】アスア ホセ エメ
(72)【発明者】
【氏名】レイザ ホセ エレ
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-510208(JP,A)
【文献】特表2001-500914(JP,A)
【文献】特表2002-533548(JP,A)
【文献】Canadian Journal of Chemistry,1982年,Vol.60,p.1414-1420
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 4/58
4/72- 4/82
C07C 291/04
C07C 253/30
C07C 255/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1Hおよび1I:
【化1】
(式中
1は、任意選択的に置換されている第2級もしくは第3級のアルキルまたは第2級もしくは第3級のアラルキルを表し;
1は、-CNを表し;
2は、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、(ヘテロ)アリール、アルケニルおよびハロゲンの群から選択され得;
2、R3、R4およびR5は各々、独立して、水素原子、アルキル、アラルキル、(ヘテロ)アリール、-CN、および式C(O)OR22のカルボン酸エステルの群から選択され;
7は、水素原子、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、または、-CNを表し;
Yは橋架け基を表し、nは2、3、4、5または6であり;
1が第3級アルキルまたは第3級アラルキルを表している場合、R6は、-CNを表し;
1が第2級アルキルまたは第2級アラルキルを表している場合、R6は、第1級もしくは第2級のアルキルまたは第1級もしくは第2級のアラルキル、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR272のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリールまたはアルケニルを表し;
22、R26およびR27は各々、独立して、1~30個の炭素原子を有し、任意選択でヘテロ原子を含む、アルキルまたはアラルキルを表す)
のいずれか1つによる、ビニルモノマー重合のための調節剤化合物の使用。
【請求項2】
1が、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、3-ペンチル、tert-アミル、シクロヘキシル、2,4-ジメチル-3-ペンチル、2,2,4-トリメチル-3-ペンチル、1-アダマンチル、1-フェニルエチル、2-メチル-1-フェニル-1-プロピル、ジフェニルメチル、1-シアノシクロヘキシル、1-(メトキシカルボニル)-2-メチル-1-プロピル、1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-プロピルおよび1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-プロピルから選択される、請求項1に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項3】
1が、tert-ブチル、シクロヘキシル、2-メチル-1-フェニル-1-プロピルからなる群より、より好ましくは、tert-ブチルおよびシクロヘキシルからなる群より選択される、請求項1または2に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項4】
2、R4およびR5が各々、独立して、H、メチルおよびエチルから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項5】
3が、H、メチル、エチル、-CN、C(O)OMeまたはC(O)OEtから選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項6】
1が第2級アルキルまたは第2級アラルキルを表している場合、R6が、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジル、2-フェニルエチル、-CN、C(O)OMeおよびC(O)OEtからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項7】
1が第2級アルキルまたは第2級アラルキル(好ましくは、シクロヘキシル)を表している場合、R6は、1~30個のC原子を有する第1級もしくは第2級のアルキル、7~18個のC原子を有する第1級もしくは第2級のアラルキル、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR272のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリールまたはアルケニルを表す、請求項1~のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項8】
6が、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジル、2-フェニルエチル、イソプロピル、シクロヘキシル、1-フェニルエチル、フェニル、2-フリル、2-ピリジル、エテニル(ビニル)、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、2-フェニルエテン-1-イル、1-プロペン-1-イルおよび2-メチル-1-プロペン-1-イルからなる群より選択される、請求項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項9】
6が、-CN、フェニル、C(O)OMe、C(O)OEt、P(O)(OEt)2およびイソプロピルからなる群より選択される、請求項またはに記載の調節剤化合物の使用。
【請求項10】
7が、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CNまたは水素原子を表す、請求項1~9のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項11】
7が、水素原子、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジルおよび2-フェニルエチルからなる群より選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項12】
2が、-CN、式C(O)OR22のカルボン酸エステル、カルボン酸もしくはその塩、カルボン(carboxyl)酸アミド、(ヘテロ)アリール、アルケニルまたはハロゲンを表すものであり得る、請求項1~11のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項13】
2が、フェニル、2-フリル、2-ピリジル、エテニル(ビニル)、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、2-フェニルエテン-1-イル、1-プロペン-1-イルおよび2-メチル-1-プロペン-1-イルからなる群より選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項14】
22、R26およびR27が独立して、メチル、エチル、n-ブチル、tert-ブチル、ベンジル、シクロヘキシル、2-ヒドロキシエチル.2-アセトアセトキシエチルおよび2,3-エポキシプロピルからなる群より選択され;好ましくは、R22が、メチル、エチルおよびシクロヘキシルから選択され、R26が、メチル、ベンジルおよびtert-ブチルから選択され、R27が、エチルおよびn-ブチルから選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項15】
Yが、1,2-エタンジイル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル、1,4-ブタンジイル、1,6-ヘキサンジイル、ペンタエリスリチルおよびジペンタエリスリチルからなる群より選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項16】
下記の構造:
【化2】
(式中、Yは1,2-エタンジイルである)
のいずれか1つからなるものである、請求項1~15のいずれか1項に記載の調節剤化合物の使用。
【請求項17】
ビニルモノマーを適当な反応条件下で請求項1~16のいずれか1項で使用される調節剤化合物と重合させることによる、ビニルモノマーの重合方法。
【請求項18】
該ビニルモノマーが、式(2):
【化3】
(式中、R8は、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリールもしくはアルケニル、ハロゲン、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステルまたはカルボン酸アミドを表す)
で表される1-置換型ビニルモノマーの群から;または式(3):
【化4】
(式中、R9が任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリールもしくはアルケニル、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステルまたはカルボン酸アミドを表している場合、R10は、アルキル、最も好ましくはメチルを表すか、またはR9がハロゲンを表している場合、R10もまたハロゲンを表すか、または任意選択的に置換されているアルケニルを表す)
で表される1,1-二置換型ビニルモノマーの群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該ビニルモノマーが、式(2)の1-置換型ビニルモノマーの群および/または式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの群から選択される混合物であって、式(4):
【化5】
(式中、R12が、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリール、-CNまたはカルボン酸(その塩、エステルおよびアミドを含む)を表している場合、R11は、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリール、-CN、カルボン酸(その塩、エステルおよびアミドを含む)またはアルキルを表し、ここで、R11およびR12は任意選択で、環を形成していてもよい)
で表される1,2-二置換型ビニルモノマーの群から選択されるビニルコモノマーとの組合せでの混合物であり得る、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該ビニルモノマーが、スチレン(S)、イソプレン(I)、ブタジエン(B)、アクリル酸(AA)、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル酸メチル(MMA)および無水マレイン酸(MA)のうちの少なくとも1種類を含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
式(10):
【化6】
を有する線状ポリマーであって、式(10A)による線状ポリマーは式(1A)の調節剤化合物を使用した場合に、式(10B)によるものは(1B)を使用した場合に得られ、ただし、各場合において、いずれかのR7は第1級アルキルまたは-CNであるものとし(後者の場合はR1として第3級アルキルを有する)、他のすべての置換基は上記に規定のとおりであり、
式中、pは、該ポリマー内に組み込まれている式(2)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、pは0~100,000の範囲であり;
式中、qは、該ポリマー内に組み込まれている式(3)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、qは0~100,000の範囲であり;
式中、rは、該ポリマー内に組み込まれている式(4)の1種類以上の型のビニルコモノマー単位の平均数を表し、rは0~100,000の範囲であり;
式中、sは、シス-および/またはトランス-の1,4-および/または4,1-付加によって該ポリマー内に組み込まれている1種類以上の型のジエンモノマー単位の平均数を表し、R13は、水素原子、メチルおよび/またはハロゲンを表し、sは0~100,000の範囲であり;
ここで、p+q+r+sは少なくとも10である、
請求項19に記載の方法において調製される線状ポリマー。
【請求項22】
式(11):
【化7】
を有する環状ポリマーであって、式(11C)による単環式ポリマーは、すべての置換基および添え字は上記に規定のとおりであるが式(1C)の調節剤化合物を使用した場合に得られ、
式中、pは、該ポリマー内に組み込まれている式(2)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、pは0~100,000の範囲であり;
式中、qは、該ポリマー内に組み込まれている式(3)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、qは0~100,000の範囲であり;
式中、rは、該ポリマー内に組み込まれている式(4)の1種類以上の型のビニルコモノマー単位の平均数を表し、rは0~100,000の範囲であり;
式中、sは、シス-および/またはトランス-の1,4-および/または4,1-付加によって該ポリマー内に組み込まれている1種類以上の型のジエンモノマー単位の平均数を表し、R13は、水素原子、メチルおよび/またはハロゲンを表し、sは0~100,000の範囲であり;
ここで、p+q+r+sは少なくとも10である、
請求項19に記載の方法において調製される環状ポリマー。
【請求項23】
式(1E)、(1F)および(1H)の多官能性調節剤を使用することにより、複数の線状ポリマーセグメントが連結されて、それぞれ式(10E)、(10F)および(10H):
【化8】
の2本の枝ポリマーの線状(n=2では)、3本の枝ポリマーの星型(n=3)、4本の枝ポリマーの星型(n=4)などのポリマー構成が得られる、ただし、各場合において、いずれかのR7は第1級アルキルまたは-CN(後者の場合はR1として第3級アルキルを有する)であり、ここで、Yおよびnならびにさらなる置換基および添え字はすべて、上記に規定のとおりであるものであり、
式中、pは、該ポリマー内に組み込まれている式(2)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、pは0~100,000の範囲であり;
式中、qは、該ポリマー内に組み込まれている式(3)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、qは0~100,000の範囲であり;
式中、rは、該ポリマー内に組み込まれている式(4)の1種類以上の型のビニルコモノマー単位の平均数を表し、rは0~100,000の範囲であり;
式中、sは、シス-および/またはトランス-の1,4-および/または4,1-付加によって該ポリマー内に組み込まれている1種類以上の型のジエンモノマー単位の平均数を表し、R13は、水素原子、メチルおよび/またはハロゲンを表し、sは0~100,000の範囲であり;
ここで、p+q+r+sは少なくとも10である、
請求項19に記載の方法によって得られ得るポリマー。
【請求項24】
式(1D)、(1G)および(1I)の多官能性調節剤を使用した場合、複数の環状ポリマーが連結されて、それぞれ式(11D)、(11G)または(11I):
【化9】
(式中、すべての置換基ならびにYおよびすべての添え字は上記に規定のとおりである)
で表されるような1つのポリマー構成になり、
式中、pは、該ポリマー内に組み込まれている式(2)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、pは0~100,000の範囲であり;
式中、qは、該ポリマー内に組み込まれている式(3)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、qは0~100,000の範囲であり;
式中、rは、該ポリマー内に組み込まれている式(4)の1種類以上の型のビニルコモノマー単位の平均数を表し、rは0~100,000の範囲であり;
式中、sは、シス-および/またはトランス-の1,4-および/または4,1-付加によって該ポリマー内に組み込まれている1種類以上の型のジエンモノマー単位の平均数を表し、R13は、水素原子、メチルおよび/またはハロゲンを表し、sは0~100,000の範囲であり;
ここで、p+q+r+sは少なくとも10である、
請求項19に記載の方法によって得られ得るポリマー。
【請求項25】
物品の調製における請求項2~2のいずれか1項に記載のポリマーの使用。
【請求項26】
式中のR5がR2と同一であり、R4がR3と同一であり、Z2がZ1と同一であり、R7がHであり、式(8A)および(8E):
【化10】
(式中、Z1は、-CNを表し、ここで、R2がMeまたはEtを表している場合、R3は、第1級アルキル(例えば、Me、Et、i-Bu)を表すか、あるいはR2とR3が連接されて環(例えば、-(CH25-)になっていてもよく、R1が第3級アルキルまたは第3級アラルキル(例えば、t-Bu)を表している場合、R6は、-CNを表すか、あるいは、R1が第2級アルキルまたは第2級アラルキル(例えば、c-Hex)を表している場合、R6は、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR272のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリール(例えば、Ph)またはアルケニルを表し、R 26、R27、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
のアルコキシアミンで表されるものであり得る請求項1~16のいずれか1項に記載の式(1A)および(1E)の調節剤化合物の調製方法であって、式(6):
【化11】
(式中、R1、R6、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアルドニトロンと、式(7):
【化12】
(式中、R2、R3およびZ1は上記に規定のとおりである)
の対応するアゾ化合物との1,3-ジ-tert-ラジカル付加反応における反応による方法。
【請求項27】
請求項26に記載の式(8A)および(8E)のアルコキシアミンの調製方法において使用される式(6):
【化13】
(式中、R1、R6、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
のアルドニトロンの調製方法であって、式(5):
【化14】
(式中、R1、R6、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアミンの、式(5)のアミンおよび重炭酸ナトリウムまたは重炭酸カリウムを含有する水-アセトン混合物中での、活性成分として式(KHSO52.KHSO4.K2SO4のペルオキシ一硫酸カリウムによる酸化による方法。
【請求項28】
式(1C)および(1G):
【化15】
(式中、Z1は、-CNを表し、ここで、R2がMeまたはEtを表している場合、R3は、第1級アルキル(例えば、Me、Et、i-Bu)を表すか、あるいはR2とR3が連接されて環(例えば、-(CH25-)になっていてもよく、R1が第3級アルキルまたは第3級アラルキル(例えば、t-Bu)を表している場合、R6は、-CNを表すか、あるいはR1が第2級アルキルまたは第2級アラルキル(例えば、c-Hex)を表している場合、R6は、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR272のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリール(例えば、Ph)またはアルケニルを表し、 26、R27、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の特定のニトロン調節剤の、請求項26に従って調製されるそれぞれ式(8A)および(8E):
【化16】
(式中、R1、R2、R3、R6、Z1、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアルコキシアミンからの、金属アルコキシドまたはアミン塩基での処理による調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調節剤化合物を用いたビニルモノマーの重合方法、前記方法によって得られ得る線状および環状のポリマー、該調節剤化合物の調製方法、新規な調節剤化合物、該調節剤化合物の調製ならびにビニルモノマーの重合における該調節剤化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野の水準および存在する制限
フリーラジカル重合は、例えばモノマーの選択範囲の広さ(例えば、官能性のもの、水およびプロトン性溶媒に対する耐性など)と、比較的容易な工業化とを兼ね備えているため、ビニルモノマーの重合には圧倒的に最も重要な技術である。ポリマー構成に対する制御を伴う(ブロック、星型、超分岐など)ビニルポリマーを得ることは、古典的なフリーラジカル重合では実現可能であった。
【0003】
90年代半ばまで、ビニルポリマーの構成の制御は、リビングイオン重合技術によってのみ行なうことができた。かかるポリマーは、種々の最終使用用途において卓越した性能の点で大きな有望性を示したが、モノマーの選択における制限および生産に必要とされるストリンジェントなプロセス条件の結果としての高コストにより、工業化の範囲が制限されている。
【0004】
90年代半ば以降、精密ラジカル重合(CRP)が、CRPではリビングイオン重合の制限のいくつかが解決され得る:ストリンジェントなプロセス条件がもはや必要とされず、モノマー型に関して汎用性が大きく拡張されたため、有望な代替法として登場した。この場合、ポリマー構成は、高分子レベルで精密フリーラジカル重合によって操作され得る。いくつかの方法がCRPの実施に利用可能である。工業的実施の観点から、最も傑出した3つの技術は:
-ニトロキシド媒介性重合(NMP),この場合では、ニトロキシドがアルコキシアミンを形成することによってポリマーラジカルを可逆的に不活性化させる;
-原子移動ラジカル重合(ATRP),この場合では、金属塩錯体が(ハロゲン)原子移動によってポリマーラジカルを可逆的に不活性化させる;および
-可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT),この場合では、ジチオカルボニル化合物および関連化合物が交換連鎖移動によってポリマーラジカルを可逆的に不活性化させる
である。
【0005】
中位ないし高級な性能の特製ポリマーが作製されるその可能性に鑑みるとCRPの範囲の展開は非常に大きく進歩しているが、現在の工業化の規模は予想とはかけ離れている。鍵となる課題は、構成に対する制御を伴うポリマーを、技術的-経済的観点から現実的なプロセス条件下で、どのようにして作製するかである(Destarac,M.Macromol.React.Eng.2010,4,165-179)。
【0006】
製造業者は、典型的には特製ビニルポリマーを多目的バッチプラントで生産する。ほとんどの場合、工業的バッチラジカル重合は「半連続的に」操作される、すなわち、大部分またはほとんどのモノマーを第1段階で連続的に供給し(とりわけ、このプロセスの発熱性を制御するため)、次いで、まだ残っているほとんどの遊離モノマーを第2段階で反応させる。構成に対する制御を伴うビニルポリマーをCRP法によって工業的に生産する場合、これは、このように、占有に関して製造業者によって既に供給されている一連の他の特製ビニルポリマーとの直接競合状態にあるが、次いで古典的なラジカル重合によって生成する。
【0007】
原料および/または転換のコストの増大は高い売値を上げることによって経済的に調整可能であるが、構成に対する制御を伴うビニルポリマーの生産は、プラントの実行能に技術的に適合させる必要がある。CRPにおいて高い変換率が許容範囲のバッチ時間内で、すなわち実際面で、生産される他の生産品と異ならない時間で得られる必要がある。重合が終了したら、ポリマーは使用準備済または配合準備済でなければならない:広範囲の清浄操作は禁止である。バッチ間の一貫性および再現性が優れている必要がある。
【0008】
また、この重合方法を制御するための調節剤は、手頃な価格で複数の供給元から入手可能でなければならない(単一の供給元からの複数の支給ではない)。許容範囲のバッチ時間内で高い変換率を得るための調節剤が開発されているが、現在のところ、そのコストおよび入手可能性はすべてのCRP技術で依然として課題である。
【0009】
不安定な末端基を除去するため(ATRPおよびRAFTの場合)ならびに酸性基を導入するため(特にATRPの場合)の重合後修飾ならびに洗浄および清浄作業(触媒の金属塩錯体および末端基の転換中に形成される断片を除去するため)の必要性のためATRPおよびRAFTはあまり魅力的でない。NMPは、このような追加のプロセス工程が必要とされないため、この点において、工業的ラジカル重合において操作される多目的バッチプラントの既存の実行能に適合させるのに、より適合している。
【0010】
これまで知られているCRP法では、特に高変換率において一部終結が回避され得ず、したがって、これは末端基忠実度および構成の完全性の変動的な低下において達成される:最終使用性能がこのようなバッチ間の一貫性および再現性の固有の変動に対してどれだけ寛容であるかが鍵となる課題である。これは、業界ではCRPが半連続的に高い即時変換率で実行されるため深刻である。モノマー大量供給条件で動作させ、重合を低最終変換率で止め、続いてモノマーを除去および再利用することによる末端基忠実度および構成の完全性の保持の改善は、多目的バッチプラントの設定条件では選択肢がない。
【0011】
この点において、リビングイオン重合は、厳密な制御によって構成の完全性を高い変換率に至るまで保持することが可能であるため、CRPと比べて明白な利点を有する。したがって、構成の完全性がリビングイオン重合の場合と同様に高い変換率に至るまで等しく良好に保持され得ると同時に後者の制限が解決される次世代の調節剤化合物、好ましくはアルコキシアミン型のものを設計することが望ましかろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Destarac,M.Macromol.React.Eng.2010,4,165-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的
本発明の目的は、ビニルモノマーの新規な重合方法であって、高い変換率に至るまでほぼ完全ないし完全な構成の完全性の保持および組成に対して改善された制御を有するポリマーが得られる方法のための調節剤化合物を提供することである。
【0014】
本発明の新規性を明白に示すため、このようにして作製されるポリマーの構成および組成の制御能を、2つの様式:CRPまたはリビングイオンビニル重合技術ではまだマスターできていなかった(あるいは絶対にマスターできそうにない)明確に規定される環状ポリマー(方法と構成の組合せ)を得るための重合中における構成の完全性の保持;ならびに組成に関して、ほとんどのアルコキシアミンの先行技術で避けられていた組成物の型の1つであるメタクリル系モノマーの単独重合の制御で実証する。
【0015】
前記ポリマーの作製方法は、好ましくは業界実務と充分に適合性であり、このようにして作製されたポリマーは好ましくは使用準備済または配合準備済である。本明細書において使用されるアルコキシアミン調節剤は、そのままで添加されるか、あるいは方法の開始時に適当な前駆物質からインサイチュで定量的に生成されるかのいずれかである。好ましくは、該調節剤(前駆物質)は、容易に入手可能で安価な原料から効率的に作製されるものである。手頃な化学物質からの容易な作製により、構成および組成の制御を伴うビニルポリマーの作製がサポートされ、最終使用用途におけるこのような新規なポリマーの充分な可能性の利用が助長される。
【発明の効果】
【0016】
本発明
本目的は、ビニルモノマーの重合に適した調節剤化合物であって、式1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1Hおよび1I:
【化1】
(式中
は、任意選択的に置換されている第2級もしくは第3級のアルキルまたは第2級もしくは第3級のアラルキルを表し;
は、-CN、または式C(O)OR21のカルボン酸エステルを表し;
は、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、(ヘテロ)アリール、アルケニルおよびハロゲンの群から選択され得;
、R、RおよびRは各々、独立して、H、アルキル、アラルキル、(ヘテロ)アリール、-CN、および式C(O)OR22のカルボン酸エステルの群から選択され;
は、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CNまたは水素を表し;
Yは橋架け基を表し、nは2、3、4、5または6であり;
が第3級アルキルまたは第3級アラルキルを表している場合、Rは、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CN、または式C(O)OR26のカルボン酸エステルを表し;
が第2級アルキルまたは第2級アラルキルを表している場合、Rは、第1級もしくは第2級のアルキルまたは第1級もしくは第2級のアラルキル、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR27のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリールまたはアルケニルを表し;
21、R22、R26およびR27は各々、独立して、1~30個の炭素原子を有し、任意選択でヘテロ原子を含むアルキルまたはアラルキルを表す)
のいずれか1つによる調節剤化合物によって達成される。
【0017】
アルキル基は、線状、分枝状または環状の構造を有するものであり得る。
【0018】
アラルキル基は、1個以上の水素原子をアリール基で置き換えることによりアルキルラジカルから誘導される一価のラジカルである。
【0019】
(ヘテロ)アリール基は、芳香族環構造を有し、1個以上のヘテロ原子(O、S、N)を含有していてもよいアリールである。(ヘテロ)アリール基の例はフェニル、1-ナフチルおよび2-ナフチル、2-フリル、1-イミダゾリル、2-インドリル、2-ピリジル、1-ピロリルならびに3-チエニルである。
【0020】
構成および組成に対する制御を伴うビニルポリマーの作製の工業化において存在する主な制限はすべて、式(1A)~(1I)の化合物(本明細書において以下、まとめて式(1)の化合物と規定する)を調節剤として適用することによって解決される:
-式(1)の調節剤は、ビニル重合を、商業的に許容され得るバッチ時間で高い変換率に至るまで制御することができる;
-明確に規定される環状ビニルポリマーの最初の成功裡の調製によって証明されるように、構成の完全性の充分な保持を伴って高い変換率が得られる:したがって、バッチ同士の一貫性および再現性が優れている;
-式(1)の調節剤は、これまでは、ひどくコストが高いアルコキシアミンを使用し、着色したポリマー生成物が生じる方法でしか得られていなかったメタクリル系モノマーの単独重合を制御することができる;
-このようにして得られたポリマーは使用準備済または配合準備済である;
-式(1)の調節剤は、安価で容易に入手可能な原料から得られ得る。
【0021】
さらなる利点
環状ビニルポリマーの成功裡の調製により、式(1)の調節剤化合物が重合を制御するプロセス機構が、これまで知られているNMPおよび他のCRP技術のものと明白に区別される。なんら理論に拘束されることを望まないが、本特許の解釈上、該方法を擬環拡大重合(P-REP)と命名し、これは環状ビニルポリマーの調製に関するものである。
【0022】
これまでのCRPと比べると、組成および構成が制御されたポリマーを作製するためのビニル重合の実施における作業上の自由度が、式(1)の調節剤を使用することにより大きく拡大される。例えば、バッチ時間を最小限にするために、ビニル重合を半連続的に高い即時変換率で実行することが、ここに、反応温度の適切な選択によって実現可能になる。これは、末端基忠実度および構成の完全性が確保されているためである。
【0023】
また、ブロックコポリマーの調製では、必要なことは、第1段階のモノマーがほぼ完全に消費されたときに第2段階のモノマーの導入を開始することだけであり、構成ブロックの均一性が最大限になる。対照的に、CRPでは、末端基忠実度を保持するために、第2段階のモノマーの導入は実際面において、第1段階のモノマーの最終変換率が低い時点で開始され、有意なテーパー化、すなわち、混合組成のゾーンがもたらされ、これは、相溶化剤として作用し、最終使用用途の性能に悪影響を及ぼす場合があり得る。
【0024】
式(1)の調節剤化合物を用いた構成に対する制御を伴うビニルポリマーの作製は、リビングイオン重合と共通のこのような利点を有していると同時に、後者の制限を解決する。イオン重合では慣習的なモノマーおよび溶媒の徹底した精製、水および他のプロトン源の厳密な排除、低い反応温度などは必要でないとともに、ここでは、多種多様なモノマー、例えば官能性のもの、および溶媒、例えばプロトン性溶媒および水も同様に使用することができる。
【0025】
従来型およびこれまでの精密フリーラジカル重合のものとは相違する機構によって成長が起こるため、このようにして作製されるポリマーの立体化学構造も異なる。したがって、ビニル重合を制御するための式(1)の調節剤の使用により、ポリマーの微細組織の違い、例えば、1,3-ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)を重合させた場合の選択性の変化および本明細書に例示したようなタクティシティ富化などによってもたらされる好都合な材料特性を活用する付加的な好機が提供される。
【0026】
これまで、環状ビニルポリマーは、ひどく高い生産コストのため商業的に利用されていなかった。ここに、費用効果のある調製が入手可能になる:式(1A)の環状アルコキシアミン調節剤(本明細書に記載の式(1)の他の調節剤からインサイチュで生成する)の使用により、明確に規定される環状ビニルポリマーが直接、精密擬環拡大重合(P-REP)方法において得られる。ここに、式(1)の選択された調節剤化合物を用いて、環状ビニルポリマーを工業的に実現し、この類型のポリマーの好都合な特性を最終使用用途に活用することができる。
【0027】
式(1)の調節剤化合物.
該調節剤化合物は、一般式(1J):
【化2】
で表されるコア構造を有するものであり、この主鎖にいろいろな置換基を含めたものであり得る。
【0028】
該調節剤化合物は、式1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1Hおよび1I:
【化3】
(式中
は、任意選択的に置換されている第2級もしくは第3級のアルキルまたは第2級もしくは第3級のアラルキルを表し;
は、-CN、または式C(O)OR21のカルボン酸エステルを表し;
は、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、(ヘテロ)アリール、アルケニルおよびハロゲンの群から選択され得;
、R、RおよびRは各々、独立して、H、アルキル、アラルキル、(ヘテロ)アリール、-CN、および式C(O)OR22のカルボン酸エステルの群から選択され;
は、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CNまたは水素を表し;
Yは橋架け基を表し、nは2、3、4、5または6であり;
が第3級アルキルまたは第3級アラルキルを表している場合、Rは、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CN、または式C(O)OR26のカルボン酸エステルを表し;
が第2級アルキルまたは第2級アラルキルを表している場合、Rは、第1級もしくは第2級のアルキルまたは第1級もしくは第2級のアラルキル、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR27のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリールまたはアルケニルを表し;
21、R22、R26およびR27は各々、独立して、1~30個の炭素原子を有し、任意選択でヘテロ原子を含むアルキルまたはアラルキルを表す)
のいずれか1つによって規定される。
【0029】
の例としては、典型的には3~100個のC原子を含む第2級および第3級アルキルならびに第2級もしくは第3級のアラルキル基、例えば、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、3-ペンチル、tert-アミル、シクロヘキシル、2,4-ジメチル-3-ペンチル、2,2,4-トリメチル-3-ペンチルおよび1-アダマンチル;1-フェニルエチル、2-メチル-1-フェニル-1-プロピルおよびジフェニルメチルなどが挙げられる。該アルキルおよびアラルキル基は、-CN、カルボン酸エステル、ホスホン酸エステルおよびヒドロキシなどの極性置換基を含有しているものであってもよい。かかる基の例は1-シアノシクロヘキシル、1-(メトキシカルボニル)-2-メチル-1-プロピル、1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-プロピルおよび1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-プロピルである。好ましい一実施形態では、Rが、tert-ブチル、シクロヘキシル、2-メチル-1-フェニル-1-プロピルからなる群より、より好ましくは、tert-ブチルおよびシクロヘキシルからなる群より選択される。
【0030】
の例としては、-CN、および式C(O)OR21のカルボン酸エステルが挙げられる。好ましくは、Zが-CNまたはC(O)OMeを表し、より好ましくは、Zが-CNを表す。
【0031】
好ましくは、R、RおよびRは各々、独立して、H、1~30個のC原子を有するアルキル、および4~30個のC原子を有する(ヘテロ)アリールの群から選択される。好ましい一実施形態では、R、RおよびRが各々、独立して、H、メチルおよびエチルから選択される。
【0032】
は、H、1~30個のC原子を有するアルキル、4~30個のC原子を有する(ヘテロ)アリール、-CN、または式C(O)OR23のカルボン酸エステルであり得る。Rは好ましくは、H、メチル、エチル、-CN、C(O)OMeまたはC(O)OEtである。
【0033】
が第3級アルキルまたは第3級アラルキル(好ましくは、tert-ブチル)を表している場合、Rは、1~18個のC原子を有する第1級アルキル、7~18個のC原子を有する第1級アラルキル、-CN、または式C(O)OR26のカルボン酸エステルを表す。
第1級アルキルまたは第1級アラルキルとしてのRの例としては、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジルおよび2-フェニルエチルが挙げられる。
好ましくは、Rは-CN、C(O)OMe、C(O)OEtまたはメチルである。
【0034】
が第2級アルキルまたは第2級アラルキル(好ましくは、シクロヘキシル)を表している場合、Rは、1~30個のC原子を有する第1級もしくは第2級のアルキル、7~18個のC原子を有する第1級もしくは第2級のアラルキル、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR27のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリールまたはアルケニルを表す。
【0035】
第1級アルキルまたは第1級アラルキルとしてのRの例としては、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジルおよび2-フェニルエチルが挙げられる。
第2級アルキルまたは第2級アラルキルとしてのRの例としては、イソプロピル、シクロヘキシルおよび1-フェニルエチルが挙げられる。
【0036】
(ヘテロ)アリールとしてのRの例としては、フェニル、2-フリルおよび2-ピリジルが挙げられる。
アルケニルとしてのRの例としては、エテニル(ビニル)、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、2-フェニルエテン-1-イル、1-プロペン-1-イルおよび2-メチル-1-プロペン-1-イルが挙げられる。
好ましくは、Rは-CN、フェニル、C(O)OMe、C(O)OEt、P(O)(OEt)またはイソプロピル基である。
【0037】
本明細書に記載の化合物において、Rは、第1級アルキルもしくは第1級アラルキル、-CNまたは水素を表す。
第1級アルキルまたは第1級アラルキルとしてのRの例としては、メチル、エチル、1-プロピル、イソブチル、2-エチルブチル、2-エチルヘキシル、ベンジルおよび2-フェニルエチルが挙げられる。
好ましくは、Rが水素またはメチルである。
【0038】
は、-CN、式C(O)OR22のカルボン酸エステル、カルボン酸もしくはその塩、カルボン酸アミド、(ヘテロ)アリール、アルケニルまたはハロゲンを表すものであり得る。
(ヘテロ)アリールの例としては、フェニル、2-フリルおよび2-ピリジルが挙げられる。
アルケニルの例としては、エテニル(ビニル)、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、2-フェニルエテン-1-イル、1-プロペン-1-イルおよび2-メチル-1-プロペン-1-イルが挙げられる。
好ましくは、Zは、-CN、Ph、C(O)OMe、C(O)OEtまたはC(O)OHの群から選択され、より好ましくは、Zは-CNである。
【0039】
21、R22、R23、R26およびR27の例としては、メチル、エチル、n-ブチル、tert-ブチル、ベンジル、シクロヘキシル、2-ヒドロキシエチル、2-メトキシエチル、2-アセトアセトキシエチルおよび2,3-エポキシプロピルが挙げられる。
好ましい一実施形態では、R21がメチルである。
好ましい一実施形態では、R22がメチル、エチルおよびシクロヘキシルから選択される。
好ましい一実施形態では、R23がメチルおよびエチルから選択される。
好ましい一実施形態では、R26がメチル、ベンジルおよびtert-ブチルから選択される。
好ましい一実施形態では、R27がエチルおよびn-ブチルから選択される。
【0040】
調節剤化合物においてRとRもしくはRの間、および/またはRとRの間、および/またはRとRの間、および/またはRとRもしくはRの間、および/またはRとRもしくはRの間(後者の場合、最低環サイズは6)に1つ以上の環が存在していてもよい。かかる環は、例えば、R-Rおよび/またはR-Rが(CHである場合、調節剤化合物自体に存在し得、その場合、該環は不変のままである。あるいはまた、環は、RとRもしくはRの間または択一的にRとRもしくはRの間での重合の開始時にインサイチュで生成されるものであってもよく、その場合、該環は、擬環拡大重合の開始時にインサイチュで形成される式(1A)の環状のモノアルコキシアミンオリゴマーの場合のようにモノマーの挿入によって拡大し、ここで、スチレンの重合の場合、RおよびRは各々(第1級)CHであり、CHPh(CHCHPh)鎖(ここで、mは1~100,000であり得る)によって1つの環に連結される。
【0041】
n個の独立した一般式(1J)の単位が、式(1E)、(1F)、(1G)、(1H)および(1I)(式中、R、R、R、R、R、R、R、ZおよびZは上記に規定のとおりである)の多官能性化合物の場合のように、橋架け置換基Yによって1つの分子に連結されていてもよい。
【0042】
Yの例としては、限定されないが:1,2-エタンジイル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイル、1,4-ブタンジイルおよび1,6-ヘキサンジイル(n=2)ならびにペンタエリスリチル(nは4まで)およびジペンタエリスリチル(nは6まで)が挙げられる。
【0043】
重複する2つの一般式(1J)の単位が組み込まれた特別な場合は、式(1D)(式中、Rは上記に規定のとおりである)の二官能性化合物で表される。
【0044】
式(1A)の好ましい化合物としては:
【化4】
が挙げられる。
【0045】
式(1B)の好ましい化合物としては:
【化5】
が挙げられる。
【0046】
式(1C)の好ましい化合物としては:
【化6】
が挙げられる。
【0047】
式(1D)の好ましい化合物としては:
【化7】
が挙げられる。
【0048】
式(1E)、(1F)、(1G)、(1H)および(1I)の好ましい化合物としては:
【化8】
(式中、Yは1,2-エタンジイルである)
が挙げられる。
【0049】
また、本発明は、ビニルモノマーと上記に規定のいずれか1種類の調節剤との重合により新規なポリマーを得る方法に関する。
【0050】
ビニルモノマー
本発明によるポリマーの調製に使用されるビニルモノマーは好ましくは、式(2):
【化9】
(式中、Rは、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリールもしくはアルケニル、ハロゲン、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステルまたはカルボン酸アミドを表す)
で表される1-置換型ビニルモノマーの群、
または式(3):
【化10】
(式中、Rが任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリールもしくはアルケニル、-CN、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸エステルまたはカルボン酸アミドを表している場合、R10はアルキル、最も好ましくはメチルを表すか、あるいは
がハロゲンを表している場合、R10もまたハロゲンを表すか、または任意選択的に置換されているアルケニルを表す)
で表される1,1-二置換型ビニルモノマーの群
から選択される。
【0051】
ビニルモノマーは、式(2)の1-置換型ビニルモノマーの群および/または式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの群から選択される混合物であって、任意選択で式(4):
【化11】
(式中、R12が、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリール、-CNまたはカルボン酸(その塩、エステルおよびアミドを含む)を表している場合、R11は、任意選択的に置換されている(ヘテロ)アリール、-CN、カルボン酸(その塩、エステルおよびアミドを含む)またはアルキルを表し、ここで、R11およびR12は任意選択で、環を形成していてもよい)
で表される1,2-二置換型ビニルモノマーの群から選択されるビニルコモノマーとの組合せでの混合物であってもよい。
【0052】
式(2)の1-置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:スチレン(S)、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、アクリル酸およびアクリル酸エステル、例えばアクリル酸ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが好ましいモノマーとして挙げられる。
【0053】
式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:メタクリル酸およびメタクリル酸エステル、より好ましくは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)およびメタクリル酸ブチル(BMA)、ならびに他のもの、例えばメタクリロニトリルおよびα-メチルスチレンが挙げられる。
【0054】
ハロゲン化型の式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:フッ化ビニリデン、塩化ビニリデンおよびクロロプレンが挙げられる。
【0055】
反応性基を含有している式(2)の1-置換型ビニルモノマーおよび式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:アクリル酸2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシメタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジルおよびアセトアセトキシメタクリル酸エチルが挙げられる。
【0056】
式(4)の1,2-二置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:マレイン酸およびフマル酸(その(半)エステルおよびアミドを含む)、例えばマレイン酸ジメチルおよびフマル酸ジメチル、マレオニトリルおよびフマロニトリル、クロトン酸および桂皮酸(そのエステルおよびアミドを含む)、クロトノニトリル、シンナモニトリルならびにスチルベンが挙げられる。
【0057】
式中のR11とR12が環を形成している式(4)の1,2-二置換型ビニルモノマーの例としては、限定されないが:無水マレイン酸およびマレイミド、例えばそのN-置換型誘導体、例えばN-メチルマレイミドなどが挙げられる。
【0058】
好ましいモノマーとしては、スチレン(S)、イソプレン(I)、ブタジエン(B)、アクリル酸(AA)、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル酸メチル(MMA)および無水マレイン酸(MA)が挙げられる。
【0059】
式(1)の調節剤を用いた重合
式(1)の調節剤化合物は、式(2)の1-置換型ビニルモノマーと式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの、任意選択で式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーとの組合せでの重合の制御に特に適合している。本発明の新しい重合方法は、先行技術のNMPおよび他のCRP技術のものと明白に異なる:本明細書において、擬環拡大重合(P-REP)方法での環状ビニルポリマーの最初の成功裡の調製によって実証されているとおり、終結は有効に抑制されるはずである。
【0060】
終結の抑制は当業者には特に好都合である。それは、これにより、当業者が、構成に対する制御を伴う特製ビニルポリマーの作製方法が既存の工業用ラジカル重合設備で容易に実施されるような条件を設計することがここに可能になるためである。これにより、当業者が該方法を最大効率で、すなわち、プロセス全体を通して構成および組成に対する完全制御を維持しながら、すべて(またはほとんど)のモノマーを、高い即時変換率が実現可能な最短バッチ時間で得られるような速度で供給することにより実行することが可能になる。そのため、これとの関連において、この重合方法の実行のための温度の下限は、式(1)の調節剤化合物の置換基のパターンによって主に支配される。原則的には、温度の選択は、作製されたポリマーの天井温度が問題となり得る場合を除き、モノマーの選択に関して制限を提示しない。実際には、活性の低い式(1)の調節剤で高い即時変換率を最短バッチ時間で得るために重合温度が130~160℃の好ましい範囲を超える必要はなく、一方、より活性の高い調節剤では、この範囲は80~140℃である。反応温度が、使用したモノマーおよび/または媒体(溶媒もしくは分散法における連続相)の沸点の温度を超えた場合、圧力を加えなければならない場合があり得る。該重合方法は溶媒中で行なってもよく、溶媒なしで行なってもよい(その場合、ビニルモノマーが本質的に溶媒としての機能を果たす)。溶媒の例としては、芳香族溶媒(例えば、トルエンおよびキシレンなど)、またはエステル(例えば、酢酸ブチルなど)、またはエーテル(例えば、ジオキサンなど)が挙げられる。あるいはまた、重合を分散体(エマルジョン、ミニエマルジョン、マイクロエマルジョン、懸濁液)として実施してもよい。最も顕著には、より環境によい(溶液重合よりも)方法として水中で実施され得る。(高度に)水溶性のモノマーでは、該方法は、溶媒として水中で直接、または逆相エマルジョン-、-ミニエマルジョン-、-マイクロエマルジョン-もしくは-懸濁-重合として実施され得る。
【0061】
式中のRが第1級アルキルまたは-CN(後者の場合はRとして第3級アルキルを有する)である式(1A)および(1B)の調節剤を、式(2)の1-置換型ビニルモノマーおよび/または式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーと、任意選択で式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーとの組合せで接触させることにより、線状ポリマーが得られる。同様に置換されている式(1E)、(1F)および(1H)の多官能性調節剤を使用することにより((1A)および(1B)の代わりに)、複数の線状ポリマーセグメントが連結されて、2本の枝ポリマーの線状(n=2では)、3本の枝ポリマーの星型(n=3)、4本の枝ポリマーの星型(n=4)などのポリマー構成が得られる。
【0062】
が水素または-CN(後者の場合はRとして第2級アルキルを有する)を表す場合、式(1A)および(1B)の調節剤を式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーと接触させると線状ポリマーが得られる。同様に置換されている式(1E)、(1F)および(1H)の多官能性調節剤を使用することにより((1A)および(1B)の代わりに)、複数の線状ポリマーセグメントが連結されて、2本の枝ポリマーの線状(n=2では)、3本の枝ポリマーの星型(n=3)、4本の枝ポリマーの星型(n=4)などのポリマー構成が得られる。
【0063】
対照的に、Rが、水素または-CN(後者の場合はRとして第2級アルキルを有する)を表す場合、式(1A)および(1B)の調節剤を式(2)の1-置換型ビニルモノマーと、任意選択で式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーとの組合せで接触させると、式(2)の1-置換型ビニルモノマーと式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーの、任意選択で式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーとの組合せでの混合物を使用した場合と同様に、環状ポリマーが得られる。
【0064】
例えば:
【化12】
のような(1B-2)の場合、式(1A)および(1B)の調節剤は、インサイチュで対応する式(1C)(R=Hの場合)の調節剤化合物またはその位置異性体に転換されるため、環状ポリマー構造が得られる。
【0065】
このインサイチュ転換は、Rとして共役基、例えばPh(すなわち、スチレン)またはアルケニル(ジエン、例えばブタジエンおよびイソプレンの場合)を担持している式(2)の1-置換型ビニルモノマーを、そのままで(本明細書においてスチレンのP-REPで例示のとおり)または少量割合の好ましくはスチレンコモノマーを製法に含めることによってのいずれかで使用することにより最良に行なわれる:好ましくは、そのとき、スチレンは、反応性の高い式(2)の1-置換型ビニルモノマー、例えばアクリル酸およびそのエステルを重合させる場合は、モノマー組成物の少なくとも約5%の量にするが、反応性の低い式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマー(例えば、メタクリル酸メチル(本明細書において実証)など)では約1%程度の少量でもよい。
【0066】
また、環状ビニルポリマーは、直接、すなわち、式(1C)のニトロン調節剤を式(2)の1-置換型ビニルモノマーおよび/または式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマーと、任意選択で式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーとの組合せで接触させることによっても得られる。
【0067】
同様に置換されている式(1E)および(1F)の多官能性調節剤を使用することにより((1A)および(1B)の代わりに)、より好ましくは、式(1D)、(1G)および(1I)の多官能性ニトロン調節剤を使用することにより、複数の環状ポリマー環が1つのポリマー構成に連結される。
【0068】
これまで、線状対応物と比べたときの最終使用用途における環状ビニルポリマーの潜在的利点は、ひどく高い生産コストのため、利用されていなかった。本明細書に開示の方法では、存在するこのような制限が解決され、ここに、環状ビニルポリマーが、業界実務と充分に適合性の様式で作製され得る。
【0069】
式(1)の調節剤を用いた重合によって得られ得るポリマー
また、本発明は、式(10)による線状ポリマーおよび式(11)による環状ポリマーに関するものであり、これらは本発明による方法によって調製され得る。該ポリマーはホモポリマーであってもよく、2種類以上のビニルモノマーのコポリマーであってもよい。コポリマーは、モノマーを重合反応器内に供給する様式に応じて、ランダム、グラジエントおよび/または(マルチ-)ブロック構造を有するものであり得る。
【0070】
本発明は、式(10):
【化13】
による線状ポリマーに関するものであり、ここで、式(10A)による線状ポリマーは式(1A)の調節剤化合物を使用した場合に、式(10B)によるものは(1B)を使用した場合に得られ、ただし、各場合において、いずれかのRは第1級アルキルまたは-CN(後者の場合はRとしてtert-アルキルを有する)であるものとし、他のすべての置換基は上記に規定のとおりである。式中、pは、該ポリマー鎖内に組み込まれている式(2)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、pは0~100,000の範囲であり;
式中、qは、該ポリマー鎖内に組み込まれている式(3)の1種類以上の型のビニルモノマー単位の平均数を表し、qは0~100,000の範囲であり;
式中、rは、該ポリマー鎖内に組み込まれている式(4)の1種類以上の型のビニルコモノマー単位の平均数を表し、rは0~100,000の範囲であり;
式中、sは、シス-および/またはトランス-の1,4-および/または4,1-付加によって該ポリマー鎖内に組み込まれている1種類以上の型のジエンモノマー単位の平均数を表し、R13は、水素、メチルおよび/またはハロゲンを表し、sは0~100,000の範囲であり;
ここで、p+q+r+sは少なくとも10であり;
いろいろな該モノマー単位がポリマー鎖内に任意の順序で存在し得る。
【0071】
また、特別な一例の場合において、本発明は、それぞれ式中のRが水素または-CN(後者の場合はRとして第2級アルキルを有する)を表す式(1A)および(1B)の調節剤化合物を使用した場合、式(3)の1,1-二置換型モノマー(1種類または複数種)を単独重合させた場合に得られる式(10A)および(10B)の線状ポリマー(すなわち、p=r=s=0)に関する。
【0072】
また、本発明は、式(11C):
【化14】
による単環式ポリマーに関するものであり、ここで、式(11C)による単環式ポリマーは、すべての置換基および添え字は上記に規定のとおりである式(1C)の調節剤化合物を使用した場合に得られる。あるいはまた、式(1A)および(1B)の調節剤化合物を使用した場合も、式(11C)による同じ単環式ポリマーが得られるが、Rは水素であるものとする。
【0073】
式(1E)、(1F)および(1H)の多官能性調節剤を使用することにより、複数の線状ポリマーセグメントが連結されて、それぞれ式(10E)、(10F)および(10H):
【化15】
の2本の枝ポリマーの線状(n=2では)、3本の枝ポリマーの星型(n=3)、4本の枝ポリマーの星型(n=4)などのポリマー構成が得られるが、各場合において、いずれかのRは第1級アルキルまたは-CN(後者の場合はRとして第3級アルキルを有する)であるものとし、式中、Yおよびnならびにさらなる置換基および添え字はすべて、上記に規定のとおりである。
【0074】
同様に、式(1D)、(1G)および(1I)の多官能性調節剤を使用した場合、それぞれ、式(11D)、(11G)および(11I):
【化16】
(式中、すべての置換基ならびにYおよびすべての添え字は上記に規定のとおりである)
で表されるような複数の環状ポリマーが1つのポリマー構成に連結される。
【0075】
その後の重合によって式(11C)の単環式ポリマーが得られる式(1A)および(1B)の単官能性調節剤の(1C)へのインサイチュ転換に関して、式(1E)および(1F)の多官能性調節剤化合物もそのように、(1G)へのインサイチュ転換、その後の重合により式(11G)のポリマーが得られるが、各場合において、最初に重合される環状のブロックセグメントではすべて、Rは水素であり、p≠0であるものとする。
【0076】
したがって、このようにして得られる線状および環状のポリマーは新規なポリマーである。したがって、別の態様において、本発明はまた、本発明の方法によって得られ得る線状および環状のポリマー、ならびに式(2)の1-置換型ビニルモノマー、式(3)の1,1-二置換型ビニルモノマー、式(4)の1,2-二置換型ビニルコモノマーおよびその混合物の群から選択されるビニルモノマーから調製される線状および環状のポリマーに関するものである。
【0077】
式(1)の調節剤化合物の調製
式(1)の調節剤化合物は原則的には、当業者に知られた方法論の適合および統合によって調製され得る。課題は、このようにして調製される調節剤化合物の全体的なプライシングが、意図される使用に対して経済的に妥当であるかどうかである。容易に入手可能で安価な原料からの、より費用効果のある手段の必要性が依然として存在している。
【0078】
式(1B)のヒドロキシ化合物経由の式(1A)のアルコキシアミン調節剤の調製
ニトロキシド媒介性重合(NMP)のためのアルコキシアミン調節剤は、多くの様式で作製され得る(アルコキシアミン調節剤の合成態様を含むNMPに関する概説については:Nicholas,J.et al.Progr.Polym.Sc.2013,38,63-235)。より一般的で好ましい2つの方法はニトロキシドによるラジカル捕捉とニトロンによる1,3-ジラジカル捕捉である(次のセクション参照)。
【0079】
ニトロキシドラジカル捕捉によるアルコキシアミン調節剤の調製は、ニトロキシドを最初に調製すること、およびいくらか時間がかかることを必要とする。ニトロキシドは、対応するN-ヒドロキシ化合物の酸化によって最良に調製される。後者は、ニトロンへの有機金属試薬の付加によって調製される-ほとんどの前例ではグリニャール型の試薬が使用されている。あるいはまた、これは、対応する第2級アミンの酸化によって調製され得るか、またはアミンのニトロキシド化合物への直接酸化における中間体として使用され得る。
【0080】
式(1A)のアルコキシアミンは、スキーム(I)に示すように、同様の反応シーケンスによって式(1B)のヒドロキシ化合物から、ニトロキシド化合物を経由して調製され得る:
【化17】
【0081】
鍵となる工程は、好ましくは有機亜鉛試薬(一般的な概説については:Knochel,P.;Jones,P.Organozinc Reagents:A Practical Approach,Oxford University Press,1999参照)の、対応するニトロン(式(1B)のN-ヒドロキシ化合物が直接得られる)または択一的に、対応するイミンのいずれかへの付加、その後の酸化である。式(1B)のN-ヒドロキシ化合物のニトロキシド化合物への酸化は、原子移動ラジカル付加(ATRA)プロトコルを使用することにより後者と対応するブロモ化合物とのカップリングによって式(1A)のアルコキシアミンが得られる(Matyjaszewski,K.et al.Macromolecules 1998,31,5955-7に最初に報告)場合と同様に直接的である。
【0082】
ニトロンによる1,3-ジラジカル捕捉によるアルコキシアミン調節剤の調製:当該技術分野の水準
原則的には、ニトロンによる1,3-ジラジカル捕捉によるアルコキシアミン調節剤の調製は、アルコキシアミンがその後、3工程ではなく1工程で直接調製されるため、より効率的であろう。大半は、このストラテジーは、インサイチュニトロキシド媒介性重合の状況において研究されてきた(インサイチュNMP,概説については:Sciannamea,V.et al.Chem.Rev.2008,108,1104-26およびこれに挙げられた参考文献参照)。
【0083】
インサイチュNMPの過程では、アルコキシアミンをまず、N-tert-アルキルアルドニトロン(ほとんどの例では、PBNが使用されている)とラジカル重合開始剤(ほとんどの場合、アゾ化合物)から、一部のモノマーの存在下で、予備反応期間中に生成させ、その後、残りのモノマーを添加する。あるいはまた、モノマーは、予備反応期間後にだけ、ニトロンとアゾ化合物に添加する。インサイチュNMP法では低PDIの線状ポリマーが得られ得るが、この方法は、いくつかの制限を有する(Sciannamea,V.et al.Chem.Rev.2008,108,1104-26):
-(高価な)ニトロンのインサイチュ変換が非効率的であり、過剰な開始剤を必要とする;
-分子量が理論値よりも(有意に)大きい;
-ニトロン、開始剤およびモノマーの各組合せについて広範囲にわたる最適化が必要とされる;
-低PDIのポリマーを得るために低温での予備反応が必要であり、これは時間がかかり、したがって、許容され得ないバッチ時間がもたらされ得よう。
インサイチュNMPベースの方法は工業的に実施されていないようである。
【0084】
そのため、より良好なアプローチは、純粋なアルコキシアミン調節剤をN-tert-アルキルニトロンとアゾ化合物から1,3-ジラジカル捕捉によって最初に調製した後、このようにして得られた純粋なアルコキシアミンをビニル重合の制御に使用することである。注目すべきことには、このストラテジーは、成功は限定的ではあったが1回だけ追求されたことがあるようである(Zink,M.-O.et al.Macromolecules 2000,33,8106-8参照)。したがって、この転換を行なうため、およびこのようにして調製されるアルコキシアミンを利用するための良好な方法論が依然として必要とされている。
【0085】
より高温においてアゾ化合物をラジカル源として使用する場合のこれらおよび他の報告された困難さに鑑み、原子移動ラジカル付加プロトコル(ATRA,Matyjaszewski,K.et al.Macromolecules 1998,31,5955-7に最初に報告)を、基質としてニトロキシドではなくニトロンを使用し、反応を周囲温度で行なうことがまず検討された。スキーム(II)参照:
【化18】
【0086】
α-ブロモイソ酪酸メチル(R=R=Me,Z=COMe)では、このプロトコルは、Rとして-CN(実施例13)またはエステル基(実施例15)を担持している式(6A)のN-tert-アルキル(R=t-Bu)アルドニトロンを用いて良好に機能するが、後者の場合、式(8A)のアルコキシアミン生成物は使用される塩基に感受性である。対照的に、Rとしてフェニルの場合は、Rとしてのtert-ブチルを立体的にあまりきつくないシクロヘキシルで置き換えた場合であっても、ニトロンの変換はほとんど観察されない(実施例22)。α-ブロモイソブチロニトリル(R=R=Me,Z=-CN)では、Rとして-CNを担持している式(6A)のN-tert-アルキル(R=t-Bu)アルドニトロンを使用した場合であっても、ニトロンの変換は少ない(実施例11)。したがって、ATRAプロトコルによるニトロンへの1,3-ジ-tert-ラジカル付加は範囲が限られている。
【0087】
本プロトコルは、1,3-ジ-sec-ラジカル付加反応に、より適合している:例えば、式(6A)のN-tert-アルキル(R=t-Bu)アルドニトロンはすべて、Rの性質(-CN、カルボン酸エステル、ホスホン酸エステル、Ph)に関係なく2-ブロモプロピオン酸メチル(R=Me,R=H,Z=COMe)と反応し、式(8A)のアルコキシアミンは、このようにして高収率で得られ得る。対照的に、(1-ブロモエチル)ベンゼンの使用は、Rとして-CNでは成功裡であるがPhでは不成功である。このようにして調製されるアルコキシアミンの主な欠点は、酸素における第2級アルキルの存在のため、解離およびラジカル重合の開始が遅いことである。また、そのため、制御を実質的に改善するため-または少しでもこれを得るために、いくらかの遊離ニトロキシドを重合製法に含めることが必要とされる(Nicholas,J.et al.Progr.Polym.Sc.2013,38,63-235)。
【0088】
ニトロンから直接、1,3-ジラジカル捕捉によってアルコキシアミン調節剤を作製するためのこのATRAプロトコルの主な不都合点は、化学量論量の銅(塩)および配位子(PMDETA)を使用する必要性であり、これは原料コストを有意に上昇させ、所望のアルコキシアミンの有効な単離を障害し、大量の廃棄物流を生成させる。したがって、ニトロンから直接、1,3-ジ-tert-ラジカル捕捉によってアルコキシアミン調節剤を得るためのより良好な方法の必要性が依然として存在している。
【0089】
1,3-ジ-tert-ラジカル捕捉による式(8)のアルコキシアミン調節剤の調製
式(1A)および(1E)の調節剤化合物であって、式中のRがRと同一であり、RがRと同一であり、ZがZと同一であり、R=Hであり、式(8A)および(8E):
【化19】
(式中、Zは、-CN、または式C(O)OR21のカルボン酸エステルを表し、ここで、RがMeまたはEtを表している場合、Rは、第1級アルキル(例えば、Me、Et、i-Bu)を表すか、あるいはRとRが連接されて環(例えば、-(CH-)になっていてもよく、Rが第3級アルキルまたは第3級アラルキル(例えば、t-Bu)を表している場合、Rは、-CN、または式C(O)OR26のカルボン酸エステルを表すか、あるいはRが第2級アルキルまたは第2級アラルキル(例えば、c-Hex)を表している場合、Rは、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR27のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリール(例えば、Ph)またはアルケニルを表し、R21、R26、R27、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
のアルコキシアミンで表されるものであり得る調節剤化合物を調製し、本明細書に記載の化合物は、直接的で費用効果のある方法において、容易に入手可能な出発物質から好適に調製され得る。したがって、本発明の別の態様は、式(6):
【化20】
(式中、R、R、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアルドニトロンと、式(7):
【化21】
(式中、R、RおよびZは上記に規定のとおりである)
の対応するアゾ化合物との1,3-ジ-tert-ラジカル付加反応における反応による、式(8)のアルコキシアミンの調製方法に関するものである。
【0090】
以前に研究(Iwamura,M.et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,856-60)により、式(7)のアゾ化合物であるアゾビスイソブチロニトリル(R=R=Me,Z=-CN)(AIBN)およびアゾビス(イソ酪酸メチル)(R=R=Me,Z=COMe)(AIBMe)は、(第1級)N-ベンジルまたはN-フェニル置換基Rを担持しているC-フェニルアルドニトロンに対してかかる1,3-ジ-tert-ラジカル付加を示し、アルコキシアミンが妥当な単離収率で得られることが知られている(実施例23および24も参照のこと)。
【0091】
しかしながら、このようなアルコキシアミンは、スチレンの重合において調節剤として使用した場合、明確に規定されるポリマーを作製することができない(比較例51および52参照)。これは、これまでスチレンNMPにおいて成功裡であったアルコキシアミンは、2つのtert-アルキルN-置換基またはtert-アルキルとsec-アルキルN-置換基を1つずつ構造の一部として有するものであるため、予測されることである(Nicholas,J.et al.Progr.Polym.Sc.2013,38,63-235およびこれに挙げられた参考文献)。2つのsec-アルキルN-置換基を有するもの(例えば、Benoit、D.et al.J.Am.Chem.Soc.1999,121,3904-20参照)では、N-フェニルを有するものと同様、一貫してスチレンの重合を制御することができない(例えば、Greene,A.C.et al.Macromolecules 2009,42,4388-90参照)。
【0092】
そのため、候補のNMP調節剤は、tert-アルキルN-置換基とsec-アルキルN-置換基を1つずつ有するアルコキシアミンを得た場合のN-tert-アルキルアルドニトロンと式(7)のアゾ化合物との1,3-ジ-tert-ラジカル付加反応によってのみ調製され得る。N-sec-アルキルアルドニトロンを使用することにより、それでもなお、2つの第2級N-置換基を有する式(8)のアルコキシアミンが作製され、これは、現在の当該技術分野の水準の考えによると、調節剤として不成功であるはずであり、したがって、適合しないと予測された:そのため、その役割を比較のためだけに使用した(注:sec-アルキルN-置換基とtert-アルキルN-置換基を1つずつ有する、すなわち、N-sec-アルキルケトニトロンとアゾ化合物との反応による異性体のアルコキシアミンを調製する試みは、限定的な変換率を示し、したがって不成功である)。残念ながら、過去において、N-置換基としてtert-ブチルを有するC-フェニルアルドニトロンに対する1,3-ジ-tert-ラジカル付加を試みたとき、これでは、所望のアルコキシアミンを作製することができなかった:AIBNでは、ニトロキシドのみが非常に低い収率で単離された(Iwamura,M.et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,860-3;実施例17参照)。N-第2級置換基を担持しているC-フェニルアルドニトロンに対する1,3-ジ-tert-ラジカル付加の例は報告されていないようである。
【0093】
アルドニトロンにおいてフェニルを脂肪族C-置換基で置き換えた場合、より悪い結果が得られる:既知のC-イソプロピルアルドニトロンに対する1,3-ジ-tert-ラジカル付加では、ほとんど変換が示されず、したがって、N-置換基の性質に関係なく(第3級(t-Bu)、第2級(c-Hex)またはさらには第1級(i-Bu)であろうと)、アルコキシアミンを作製することができない。それに加えて、第1級C-置換基(i-Bu)を有するN-tert-ブチルアルドニトロンおよびC-置換基を有しないもの(すなわち、2-メチル-N-メチレンプロパン-2-アミンオキシド)であっても、この様式でアルコキシアミンを作製することはできない。
【0094】
そのため、残された唯一の希望は、ニトロン内への活性化基の導入である。しかしながら、N-置換基Rの性質に関係ないRとして活性化基(すなわち、-CN、エステル、ホスホネート)を担持している式(6)のアルドニトロンに対する1,3-ジ-tert-ラジカル付加に関する報告はなかった。それに加えて、かかるアルドニトロンの既知の合成方法では、このようにして作製される式(8)の候補の調節剤の全体コストが、意図されるほとんどの使用に対して受け入れがたいものとなり得よう。
【0095】
すべての先行技術に基づくと候補に希望はないが、式(8)のアルコキシアミンのかかる調製は、それにより容易に入手可能で安価な原料から効率的に作製され得るため(ただし、必須の式(6)のアルドニトロンも同様に費用効果のある様式で作製され得るものとする)、非常に魅力的である。必須の式(6)のアルドニトロンが技術的に実行可能で商業的に魅力的な様式で得られることが確保されているため(下記参照)、特別な一態様では、したがって、本発明により、式(8):
【化22】
(式中、R、R、R、R、Z、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
のアルコキシアミンを、式(6):
【化23】
(式中、R、R、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
のアルドニトロンと、式(7):
【化24】
(式中、R、RおよびZは上記に規定のとおりである)
のアゾ化合物を、溶媒中で加熱し、式(8)のアルコキシアミンを形成させることにより調製するための方法もまた提供される。
【0096】
式(8)のアルコキシアミンの調製方法において、式中、Rはtert-アルキル(例えば、t-Bu)を表し、Rは好ましくは-CNを表す。これは、それにより、式(8)のアルコキシアミンの高い変換率と良好な収率が式(6)のニトロンと式(7)の種々のアゾ化合物との反応において得られるためである。Rとしてカルボン酸エステルの場合も、本明細書において実証されているように、良い結果が同様に得られる。
【0097】
対照的に、式(6A)のニトロンにおいてアミドまたはカルボン酸の塩をRとして使用した場合、ほとんど反応は起こらない。これにより、Rがtert-アルキル(例えば、t-Bu)を表している場合に1,3-ジ-tert-ラジカル付加が成功裡であるためには、式(6)のアルドニトロンはRとして強力な活性化基を有していなければならないという考えが裏付けられる。強力な活性化基Rとしてホスホネートを有する式(6A)のニトロンの場合にアルコキシアミンが単離されないことは、反応性の欠如によるものではなく、合成条件下での生成物の安定性の欠如によるものである。
【0098】
がsec-アルキル(例えば、c-Hex)を表している場合、本発明の1,3-ジ-tert-ラジカル付加法は、任意の型の活性化基(シアノ、エステル、ホスホネート)を担持している式(6)のアルドニトロンで成功裡であり、ここでは、Rとして、本明細書に開示しているような共役基(例えば、フェニル)を有するものでも成功裡である。この付加は、該共役基内の多種多様な置換基に対して寛容であるが、注目すべき例外が1つある、すなわち、ニトロン酸素と水素結合を形成し得る位置のものである:式(6A)のニトロンにおいて、Rとして2-ヒドロキシ-または2-カルボキシフェニルでは1,3-ジ-tert-ラジカル付加は観察されないが、Rとして4-ヒドロキシフェニルでは完全な変換がみられる。
【0099】
調製中に、ある程度起こり得る副反応は式(8)のアルコキシアミンの不均化である。例えば、式(8A)のアルコキシアミンでは、これによりNOH化合物がもたらされ得、これは、Zが-CNを表す場合は安定であり、式(8B)で表されるが、Zがカルボン酸エステル基を表す場合、これは縮合によってさらに反応して式(9)のイソオキサゾリジノン化合物を形成する:
【化25】
【0100】
この副反応は、式(7)のアゾ化合物がAIBMeで最も顕著である:式(9)のイソオキサゾリジノン化合物の存在は式(8)のアルコキシアミンの容易な単離を妨げ得る。対照的に、式(7)のアゾ化合物がAIBNである場合、不均化はほとんど起こらない。
【0101】
式(8)のアルコキシアミンの調製のための反応条件、例えば、温度、化学量論および溶媒の型は、当業者によって容易に決定される。したがって、温度の選択は、主に反応条件下でのアルコキシアミンの安定性によって支配される。例えば、AIBNから誘導される式(8)のアルコキシアミンのほとんどは熱的に安定であり、したがって、温度は重要な要素ではない。対照的に、AIBMeから誘導されるものは不均化および式(9)のイソオキサゾリジノン化合物の混在を最小限にするためには、92℃以下の温度で最良に調製される。
【0102】
化学量論に関して、例えばAIBNが解離したら、形成された2つのラジカルは、籠形に結合してテトラメチルスクシノニトリル(TMSN)をもたらし得るか、または籠から逸出し、次いで式(6)のニトロンによって捕捉されて式(8)のアルコキシアミンをもたらし得るかのいずれかである。TMSNが形成される程度は温度依存性であり、化学量論に考慮する必要がある。したがって、例えば、式(6)のニトロンの完全な変換率が行なわれるためには、85~92℃の範囲の温度では1.6~1.7当量のAIBN/ニトロン官能部が好ましいが、105℃以上では1.1~1.3当量/ニトロン官能部で充分である。
【0103】
原則的には、使用される溶媒の性質に関して、式(6)のニトロンが好ましくは反応温度で完全に溶解されるものであること以外、制限はない。溶解度が低すぎる場合、可溶化が起こるのが遅すぎると反応が不完全になり得る。したがって、エステル-、エーテル-、アルコール-および芳香族-型の溶媒が一般的に好ましいが、炭化水素はあまり適しない。アルコールは、特別な場合において、これが純粋なアルコキシアミンの直接的な単離を助長する場合、さらにいっそう好ましい場合があり得る(下記参照)。溶媒の実際の選択は、反応温度の関数で最良に決定され、そのため、全体を通して穏やかな還流が維持され得る。85~92℃の範囲の反応温度では酢酸エチルおよび、任意選択でイソプロパノール(直接的な単離を助長する場合-下記参照)が最も好ましいが、105℃ではトルエンが最も好ましい。
【0104】
反応が完全である場合、主な混在物は、アゾ化合物に由来する籠形結合生成物、例えばAIBNの場合はTMSNである。多くの場合、単離は、式(8A)のアルコキシアミンが1種類の異性体である場合(すなわち、R=R)、好ましくはアルコール溶媒での再結晶によって容易に行なわれ得る。特別な場合では(実施例18参照)、純粋なアルコキシアミンは、1,3-ジ-tert-ラジカル付加反応をアルコール溶媒中、好ましくはイソプロパノール中で実行した場合、高収率で直接単離される。晶析が不成功である場合、特に、式(8)のアルコキシアミンがジアステレオマーの混合物である場合(R≠Rの場合およびすべての8Eでは)、TMSNおよび他の籠形結合生成物を除去するための確立された手順である水蒸気ストリッピングが好ましい。
【0105】
式(8A)および(8E)のアルコキシアミンの調製方法において使用される必須の式(6)のアルドニトロン:
【化26】
(式中、R、R、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
は、式(5):
【化27】
(式中、R、R、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアミンの、式(5)のアミンおよび重炭酸ナトリウムまたは重炭酸カリウムを含有する水-アセトン混合物中での、活性成分として式(KHSO.KHSO.KSOのペルオキシ一硫酸カリウムによる酸化によって最良に調製される。第2級アミンをアルドニトロンに変換させるための既知の酸化反応は、特に、Rとして活性化基(-CN、エステル、ホスホネート)を担持している式(6)のアルドニトロンを調製しようとする場合、都合が悪い。
【0106】
として活性化基を有する式(6A)のアルドニトロンを調製するためのほとんどの例はC-シアノ-アルドニトロンを伴い、m-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)を酸化剤として使用するものである(Patel,I.et al.Org.Process Res.Dev.2009,13,49-53およびこれに挙げられた参考文献参照)。mCPBAを用いてC-シアノ-N-tert-ブチルニトロンを調製することもできるが(実施例1)、その使用により、調製された調節剤化合物の全体コストが、意図されるほとんどの最終用途にとってひどく高くなる。さらに、対応するエステル置換型アルドニトロンを調製する場合、出発物質は一部しか変換されず(実施例2)、一方、対応するホスホネート置換型アルドニトロンでは生成物は形成されない(実施例3)。
【0107】
過酸化水素およびタングステン酸ナトリウム触媒(メタノール中)による酸化(Murahashi,S.et al.J.Org.Chem.1990,55,1736-44参照)は脂肪族アミンならびにベンジルアミンに有効であり、環状(プロリン)α-アミノ酸エステルの酸化に使用されているが、C-シアノ-N-tert-ブチルニトロンの合成におけるその使用によりニトロンと第1級アミドの1:1の混合物が生成した(実施例1)が、非環状のエステル置換型アミンでは収率が低い(実施例2)。
【0108】
ジメチルジオキシランは、C-アリールニトロンの合成に使用されている(Murray,R.W.et al.Ibid.1990,55,2954-7)が、その検討により、ベンジル水素がないアミンを使用すると副反応および低収率が示されることが示された。この試薬を蒸留して非常に希薄なアセトン溶液として使用する必要性に鑑みると、この方法もまた、ニトロンを工業的規模で作製するために適用する場合は非実用的である。
【0109】
インサイチュでアセトンとオキソンから二相条件下で、相間移動触媒(PTC)を用いて生成されるジメチルジオキシランでの酸化が、1例の環状のエステルについて報告されている(Baldwin,S.W.et al.Tetrahedron Lett.1998,39,6819-22)が、活性化基を有する非環状アルドニトロンC-置換型についての報告は知られていない。ごく最近では、トリフルオロメチルケトンがPTC条件下で、環状(プロリン)エステルの酸化のためにジオキシランをインサイチュで生成させるために使用された(Gella,C.et al.J.Org.Chem.2009,74,6365-7)が、使用される試薬のプライシングにより、これは商業的に実行可能な選択肢にはならない。
【0110】
さらに、ジオキシランのインサイチュ生成のためのこれらおよび他の既知の手順はすべて、希薄条件下(有機相中のアミン濃度が0.2M以下)ならびに毒性溶媒およびPTCの存在下で進められる:使用される大量の溶媒および生成する大量の廃棄物流は、コストおよび環境の両方の観点から望ましくない。また、PTCは、目的物のアルドニトロンに混在する、またはその容易な単離を妨げる場合があり得る。それに加えて、かかる手順は、シアノ基が同等の反応条件下で第1級アミドが変換されているため、C-シアノアルドニトロンには適しないであろう(Bose,D.S.et al.Syn.Commun.1997,27,3119-23参照)。
【0111】
したがって、特別な一態様では、本発明によりまた、式(6):
【化28】
のアルドニトロンの、式(5):
【化29】
の対応するアミンからの調製のための改善された方法であって、式(5)の対応するアミンの、式(5)のアミンと重炭酸ナトリウムもしくは重炭酸カリウムまたは重炭酸ナトリウムを含有するアセトン-水混合物に添加される固体のオキソンによる酸化による方法を提供する。オキソンは(KHSO.KHSO.KSOの商標名であり、これは、ペルオキシ一硫酸カリウムを活性成分として含有している(Dupontから市販;択一的に、同じ配合物がEvonikから商標名Caroatで入手可能である)。
【0112】
先行技術と比較すると、相間移動触媒もさらなる有機溶媒も不要であるが、本発明による酸化は、10倍の(またはそれより高い)濃度のアミン化合物(典型的には1.5Mから2Mに至るまで)で行なわれ得、したがって大量の溶媒の必要性が低減され、この方法が環境によりよいものとなる。アセトンをブタノンで置き換えた場合、その他の点では同一の条件下において不完全な変換率がみられ、アセトンの使用が極めて重要であることを示す。使用される塩基の性質は重要ではなく:例えば、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウムはどちらも等しく良好に使用され得る。
【0113】
式(5)においてRとして活性化基(-CN、エステル、ホスホネート)を担持しているN-tert-アルキルアミンの変換では、約40℃より下の反応温度が好ましい。対応するN-sec-アルキルアミンの変換では、25℃前後またはそれより下の反応温度が好ましい。式(6)のアルドニトロンは、それ自体は既知の抽出手順および晶析手順を用いて容易に単離され、後続の反応(例えば、以下の反応II)で使用されるのに充分に純粋な形態で得られる。
【0114】
式(1C)のニトロン調節剤の調製
式(1C)のニトロンは、当該技術分野で知られた方法を用いて調製され得る。この目的のため、最も一般的な方法は、ヒドロキシルアミン化合物とカルボニル化合物の縮合反応によるものである(実施例35および36に実例を示す)。具体的な場合の一例では、これは、ヒドロキシルアミン化合物とアルキンから付加-互変反応によって作製され得る(Nguyen,T.B.et al.Org.Lett.2008,10,4493-6;実施例34において使用)。このような方法は、ヒドロキシルアミン化合物(市販される場合)のプライシングが、意図されるあらゆる最終用途にとってひどく高くなるため、工業的観点からあまり好ましくない。それに加えて、本発明との関連において、Rとしてカルボン酸エステル基を担持している式(1C)のニトロンのみがこの様式で得られ得る。
【0115】
式(8A)および(8E)のアルコキシアミン調節剤からの式(1C)および(1G)の特定のニトロン調節剤の調製
式(1C)および(1G):
【化30】
(式中、Zは、-CN、または式C(O)OR21のカルボン酸エステルを表し、ここで、RがMeまたはEtを表している場合、Rは、第1級アルキル(例えば、Me、Et、i-Bu)を表すか、あるいはRとRが連接されて環(例えば、-(CH-)になっていてもよく、Rが第3級アルキルまたは第3級アラルキル(例えば、t-Bu)を表している場合、Rは、-CN、または式C(O)OR26のカルボン酸エステルを表すか、あるいはRが第2級アルキルまたは第2級アラルキル(例えば、c-Hex)を表している場合、Rは、-CN、式C(O)OR26のカルボン酸エステルもしくは式P(O)(OR27のホスホン酸エステル、(ヘテロ)アリール(例えば、Ph)またはアルケニルを表し、R21、R26、R27、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の特定のニトロン調節剤が、直接的で費用効果のある方法において、容易に入手可能な出発物質から好適に調製され得る。したがって、本発明の別の態様は、式(1C)および(1G)の特定のニトロン調節剤の、それぞれ式(8A)および(8E):
【化31】
(式中、R、R、R、R、Z、Yおよびnは上記に規定のとおりである)
の対応するアルコキシアミンからの、金属アルコキシドまたはアミン塩基での処理による調製方法に関するものである。
【0116】
先行技術がないこの転換を行なうために、強力な塩基(例えば、金属水素化物、例えば水素化ナトリウム、または金属アミド、例えばリチウムジイソプロピルアミド)を、空気と水を厳密に排除した条件下で使用する必要はない:金属アルコキシド塩基(例えば、カリウムtert-ブトキシドまたはナトリウムメトキシド)の極性非プロトン性溶媒中、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中での使用で充分である。Rとして-CNでは触媒量の塩基で充分であるが、Rとしてエステルまたはホスホネートの使用は化学量論量の金属アルコキシド塩基を必要とし、一方、Rとしてフェニルでは少なくとも2当量の塩基が必要である。注目すべきことには、一般的に、Rとして-CNでは、準化学量論量の弱い有機アミン塩基(例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス-7-エン(DBU)など)(有機溶媒中)であってもこの転換が行なわれ得、場合によっては、Rとしてカルボン酸エステルを使用した場合でも観察される。
【0117】
反応温度は重要ではないようであり、水または酸素を厳密に排除する必要も全くない。式(8A)および(8E)のアルコキシアミンを対応する式(1C)および(1G)のニトロンに転換させるためのこの方法は高収率および高効率で行なわれ得、したがって、商業的に魅力的で容易に入手可能な出発物質からの式(1C)および(1G)のニトロンの入手がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
図1】時間の関数としてのモノマー変換率の推移およびスチレンの重合変換率の関数としての数平均分子量の推移を開示する。
図2】時間の関数としてのモノマー変換率の推移およびメタクリル系の重合変換率の関数としての数平均分子量の推移を開示する。
【発明の詳細な説明】
【0119】
次に、本発明を、以下の実施例によって説明するが、これらに限定されない。
【実施例
【0120】
実施例
(合成総論)
市販品等級の試薬、溶媒、開始剤およびモノマーは、Aldrich、WakoおよびTCIから購入し、特に記載のない限り、受領したままの状態で使用した。1,3,5-トリシクロヘキシルヘキサヒドロ-1,3,5-s-トリアジンは、Bujnowski,K.et al.ARKIVOC 2008,106-14に従って調製し、再結晶後の収率は85%であった。アゾ開始剤アゾビス(α-エチルブチロニトリル)(AEBN)は、Dox,A.W.J.Am.Chem.Soc.1925,47,1471-7に従って調製した。N-(2-メチル-1-フェニルプロピル)ヒドロキシルアミンは、イソブチロフェノンから、そのオキシムのシアノ水素化ホウ素ナトリウムでの還元によって調製し、p-トルエンスルホン酸塩として単離した。
【化32】
【0121】
2-((tert-ブチル(1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル)アミノ)-オキシ)-2-メチルプロパン酸(Arkemaにより商標名Bloc Builder(登録商標)MA調節剤で商品化されている)は、文献の手順に従って調製した。NMRスペクトルは、Bruker Avance DPX 300分光計で、溶媒としてCDCl中で298Kにて、または実施例18~24のアルコキシアミンの完全特性評価では、トルエン-d8中で368Kにて(周囲温度で記録した場合、強いブロードニングのため)記録した。Rがベンジル(Bn)である実施例9-23-32(および51)ならびにRがフェニル(Ph)である10-24-33(および52)は、それぞれ第1級アラルキルおよびアリールが適用されているため比較例である。
【0122】
オキソンでの酸化を用いた式(6A)のアルドニトロンの合成
実施例1~10には、第2級アミンからの、オキソンを酸化剤として用いる代表的なアルドニトロン化合物、特に、シアノ-、エステル-およびホスホネート-型の活性化基を担持しているものの調製を開示する。これは、反応(I)によって模式的に示される:
【化33】
【0123】
実施例1:(Z)-N-(シアノメチレン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
工程1:撹拌バーを備えた500mL容三角フラスコ内に、252mL(3当量)のtert-ブチルアミンと150mLの酢酸エチルを仕込み、フラスコを水浴中で冷却した。これに、60.4g(50.6mL,0.8mol)のクロロアセトニトリルを30分間で滴下し、得られた混合物を室温で3日間撹拌した。反応混合物を、250mLの酢酸エチルの補助を伴って濾過した。濾液を水、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、揮発性物質をエバポレートし、そのままでさらなる使用に適した98%より高い純度(H NMR)の73.6g(82%)の無色の液状物を得た。H NMR δ 1.11(s,9 H,t-Bu),1.17(br,1 H,N-H),3.53(s,2 H,CH);13C NMR δ 28.91(t-Bu),31.17(CH),51.51(C-N),119.90(C≡N).
注:択一的に、Exner,L.J.et al.J.Am.Chem.Soc.1953,75,4841-2に従って同様の品質の物質が86%収率で調製され、酸化工程で成功裡に使用された。
【0124】
工程2:450mLのアセトンに溶解させた工程1の生成物を、450mLの水中の250gの重炭酸ナトリウムの機械的撹拌溶液/懸濁液を入れた2L容ビーカーに添加した。460gのオキソン(1.13モル当量)を約10gずつ少量に分けて1時間にわたって添加し;少量の砕氷を時々、添加して温度を約40℃より下に維持した。オキソンの添加が終了した後、撹拌を1時間、継続した。次に400mLの酢酸エチルを添加し、5分間撹拌した後、反応混合物を相分離させ、その後、上層をデカンテーションした;これを、200mLの分割量の酢酸エチルを用いて3回繰り返した。次に、合わせた有機相をブラインで2回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過溶媒をエバポレーションによって除去した後、赤みがかった液状物を得た。これは、放置すると晶析され得る。収量70.6g(2工程で85%または70%).得られた生成物は、さらなる使用のために充分に純粋である。H NMR δ 1.54(s,9 H,t-Bu),6.85(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 28.16(t-Bu),74.78(C-N),103.88(C=N),112.98(C≡N).
注:これまで、m-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)がシアノメチルアミンの酸化に使用されている(Patel,I.et al.Org.Process Res.Dev.2009,13,49-53およびこれに挙げられた参考文献):が、このニトロンがmCPBAの酸化によって調製される場合があり得、mCPBAのプライシングがこの方法の商業的な魅力を低下させている。N-シアノメチルアミンに適用した場合、メタノール中での過酸化水素とタングステン酸ナトリウム触媒による酸化(最初にMurahashi,S.et al.J.Org.Chem.1990,55,1736-44によって報告された)により所望のニトロンと対応する第1級アミドとの1:1の混合物が生成し、したがって収率は許容不可能に低くなった。
【0125】
実施例2:(Z)-N-(2-メトキシ-2-オキソエチリデン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
工程1:撹拌バーを備えた1L容三角フラスコ内に300mL(約4当量)のtert-ブチルアミンと550mLのtert-ブチルメチルエーテルを仕込み、この溶液を氷浴中で冷却した。この撹拌溶液に、110.1g(68.2mL;0.72mol)のブロモ酢酸メチルを約90分間で滴下し、次いで、得られた混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を、275mLのtert-ブチルメチルエーテルの補助を伴って濾過し、揮発性物質をエバポレーションによって除去し、そのままでさらなる使用に適した99%より高い純度( NMR)の96.2g(92%)のわずかに着色した液状物を得た。H NMR δ 1.08(s,9 H,t-Bu),1.50(br,1 H,N-H),3.38(s,2 H,CH),3.70(s,3 H,OMe);13C NMR δ 28.96(t-Bu),44.99(CH),50.45(C-N),52.06(OMe),173.68(C=O).
【0126】
工程2:実施例1に記載の一般製法に従い、工程1の粗製生成物および250gの重炭酸ナトリウム(450mLずつのアセトンおよび水中)の使用、次いで460gのオキソンの分割添加により、後処理後、粗製ニトロンをわずかに黄色の液状物として74.0g(73%)の収量で得た。H NMR δ 1.50(s,9 H,t-Bu),3.76(s,3 H,OMe),7.25(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 28.26(t-Bu),51.93(OMe),74.89(C-N),121.16(C=N),161.46(C=O).
注:適切なブロモ酢酸エステルを出発物質にして、この2工程手順は、a.o.、エチル(94%および82%)、ベンジル(99%および88%)ならびにtert-ブチル(それぞれ、工程1では93%および工程2では88%)エステル-置換型N-tert-ブチルアルドニトロンの調製にも同様に等しく使用され得る。メチルエステルでは、メタノール中での過酸化水素およびタングステン酸ナトリウム触媒による酸化(Murahashi,S.et al.J.Org.Chem.1990,55,1736-44参照)によりニトロンが約10%の単離収率で得られ、これは、本発明の方法によって得られるものよりはるかに低い。エチルエステルでは、シアノメチルアミンの酸化で成功裡であった製法(Patel,I.et al.Org.Process Res.Dev.2009,13,49-53およびこれに挙げられた参考文献参照)におけるm-クロロ-ペルオキシ安息香酸(mCPBA)の使用では、このアミンの一部変換しか得られず、カラムクロマトグラフィー後に単離されたニトロンの収率は40%より低かった。
【0127】
実施例3:(Z)-N-((ジエトキシホスホリル)メチレン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
工程1:1L容の丸底フラスコ内に110.5g(0.80mol)の亜リン酸ジエチル、400mLのトルエン、110mL(1.3当量)のtert-ブチルアミン、1.6g(1mol%)のp-トルエンスルホン酸水和物および24gのパラホルムアルデヒドを仕込んだ。このフラスコにディーン・スターク・トラップおよび還流冷却器を塩化カルシウム管とともに装着し、内容物を撹拌し、窒素雰囲気下で約1.5時間、加熱還流した。約70℃まで冷却した後、10gの重炭酸ナトリウムを添加し、次いで反応混合物をさらに0.5時間還流した。室温まで冷却した後、反応液を濾過し、次いで、溶媒および他の揮発性物質をエバポレートした。このようにして得られた生成物は、約30%のヒドロキシメチルホスホン酸ジエチルを含有していた。酸性化の後、洗浄および中和によってこの成分のほとんどを除去し、アミンを107.4g(60%)の収量で得た。H NMR δ 1.04(s,9 H,t-Bu),1.28(t,6 H,OEt),1.5-2.5(br,1 H,N-H),2.86(d,2 H,HP=15,CHP),4.10(m,4 H,OEt);13C NMR δ 16.42(d,CP=6,OEt),28.26(t-Bu),38.49(d,CP=151,CHP),51.04(d,CP=15,C-N),62.20(d,CP=6,OEt);31P NMR δ 28.57.
【0128】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い、工程1の粗製生成物および170gの重炭酸ナトリウム(350mLずつのアセトンおよび水中)の使用、次いで330gのオキソンの分割添加により、後処理後、91%収率でニトロンをほぼ無色の液状物として得た。H NMR δ 1.33(t,6 H,OEt),1.51(s,9 H,t-Bu),4.25(五重項,4 H,OEt),6.94(d,1 H,HP=26,HC=N);13 NMR δ 16.37(d,CP=6,OEt),28.19(t-Bu),63.21(d,CP=6,OEt),73.34(d,CP=8,C-N),121.31(d,CP=211,C=N);31P NMR δ 8.64.
注:シアノメチルアミンの酸化に成功裡であったm-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)の使用(Patel,I.et al.Org.Process Res.Dev.2009,13,49-53およびこれに挙げられた参考文献参照)により出発物質アミンは完全に変換されたが、所望のニトロンは全く得られなかった。
【0129】
実施例4:(Z)-N-ベンジリデン-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド(PBN)
工程1:実施例2の場合と同様にして、136.8g(95.2mL,0.8mol)の臭化ベンジルの使用により、後処理後、128.0g(98%)の無色の液状物を得、これは、次の工程のために充分に純粋である:これに含まれているビス-アルキル化生成物(δ 3.66)は2%未満である。H NMR δ 1.14(s,9 H,t-Bu),1.0-1.4(br,1 H,N-H),3.69(s,2 H,CH),7.20-7.45(m,5 H,Ph);13C NMR δ 29.16(t-Bu),47.27(CH),50.64(C-N),126.68,128.30および128.36(各々、C-H,Ph),141.52(q-C,Ph).
【0130】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い、工程1の粗製生成物および300gの重炭酸ナトリウム(500mLずつのアセトンおよび水中)の使用、次いで530gのオキソンの分割添加により、後処理後、119.1g(90%)の粗製ニトロンを得た。n-ヘプタン-酢酸エチル(7:1 v/v)での再結晶により、第1収量の純粋PBNを得た。濾液のエバポレーション後、再結晶により第2収量を得た。PBNの総収量:102.1g(2工程で72%).H NMR δ 1.61(s,9 H,t-Bu),7.40(m,3 H,Ph),7.53(s,1 H,HC=N),8.28(m,2 H,Ph);13C NMR δ 28.48(t-Bu),70.93(C-N),128.53,128.88および130.17(各々、C-H,Ph),129.84(C=N),131.22(q-C,Ph).
【0131】
実施例5:(Z)-N-(シアノメチレン)シクロヘキサンアミンオキシド
工程1(すなわち、Exner,L.J.et al.J.Am.Chem.Soc.1953,75,4841-2として公開された研究のマイナーな適合):125.3g(0.66mol)のメタ重亜硫酸ナトリウムを200mLの水中に含む溶液に、97.4gの≧37.0%のホルマリン(≧1.2mol)を添加し(発熱性)、この溶液を70℃で45分間加熱した。60℃まで冷却した後、126.0g(1.27mol)のシクロヘキシルアミンを急速に添加し、撹拌をその温度で0.5時間継続した。室温まで冷却した後、62.5g(1.275mol)のシアン化ナトリウムを250mLの水中に含む溶液を1時間で滴下し、撹拌を4時間継続した。水およびトルエン(500mLずつ)を添加し、層を分離させた。水層を250mLのトルエンでもう1回、抽出した。合わせた有機層を水とブラインで洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒をエバポレートし、155.9(94%)の生成物を無色の液状物として得た。これは次の工程のために充分に純粋である。これに含まれているビス-アルキル化生成物(δ 3.67)は2%未満である:H NMR δ 0.99-1.34(m,6 H)および1.54-1.85(m,5 H)(c-HexおよびN-H),2.64(tt,1 H,CHN),3.58(s,2 H,CHN);13C NMR δ 24.59,26.05,32.77および34.49(c-Hex),55.32(CHN),118.30(C≡N).
【0132】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い(試薬をわずかにより過剰にした)、工程1の粗製生成物および470gの重炭酸カリウム(600mLずつのアセトンおよび水中)を使用、次いで、830gのオキソンを2時間で分割添加。シクロヘキサン-酢酸エチル(3:1 v/v)での再結晶により、第1収量のニトロンを得た。濾液をエバポレートした後、再結晶により第2収量を得た。総収量:126.2g(75%)の1種類の異性体としてのニトロン.H NMR δ 1.13-1.36(m,3 H)および1.60-2.04(m,7 H)(c-Hex),3.92(tt,1 H,HC-N),6.79(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 24.71,24.75および31.25(c-Hex),76.53(HC-N),105.26(HC=N),112.66(C≡N).
注:アセトンを、標準的な操作条件下でメチルエチルケトンに置き換えた場合、後処理後、30%までものヒドロキシルアミン中間体が存在した。したがって、オキソンを用いた酸化にはアセトン-水混合物の使用が好ましい。
【0133】
実施例6:(Z)-N-(2-エトキシ-2-オキソエチリデン)シクロヘキサンアミンオキシド
工程1:撹拌バーを備えた1L容三角フラスコ内に、365mL(4当量)のシクロヘキシルアミンと500mLのトルエンを仕込み、この溶液を氷浴中で冷却した。この撹拌溶液に、約2時間で133.6g(88.7mL;0.8mol)のブロモ酢酸エチルを滴下し、得られた混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を、250mLのトルエンの補助を伴って濾過し、次いで揮発性物質をエバポレートした。残留シクロヘキシルアミンをトルエンとの共エバポレーションによって除去した。これにより139.3g(95%)の生成物を無色の液状物として得、これは次の工程のために充分に純粋であった。これに含まれているビス-アルキル化生成物(δ 3.48)は0.5%未満であった。H NMR δ・0.90-1.2(m,6 H)および1.50-1.80(m,5 H)(c-HexおよびN-H),1.19(t,2 H,OEt),2.32(tt,1 H,CHN),3.34(s,2 H,CHN),4.10(q,2 H,OEt);13C NMR δ・14.26(OEt),24.89,26.10,33.36および48.34(c-Hex),56.47(CHN),60.71(OEt),172.89(C=O).
【0134】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い、工程1の粗製生成物および320gの重炭酸ナトリウム(500mLのアセトン/1000mLの水中)の使用、次いで、2.5時間での600gのオキソンの周囲温度での分割添加。後処理後、粗製ニトロンをn-ヘプタン-酢酸エチル(7:1 v/v)で再結晶させ、83.2g(2工程で52%)の(Z)生成物(5%の(E)異性体を含有)を得た(H NMR δ・5.50(CH-N)および7.08(HC=N))。H NMR(Z)δ 1.24(t,3 H,OEt),1.10-1.39(m,3 H),1.62(m,1 H)および1.75-2.00(m,6 H)(c-Hex),3.78(tt,1 H,HC-N),4.19(q,2 H,OEt),7.11(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 14.28(OEt),24.89,24.89および31.21(c-Hex),60.86(OEt),78.13(HC-N),123.53(HC=N),160.41(C=O).
注:適切なブロモ酢酸エステルを出発物質にして、この2工程手順は、a.o.、メチル(48%)、ベンジル(50%)およびtert-ブチル(2工程で54%)のC-エステルN-シクロヘキシルアルドニトロンの調製にも同様に等しく使用され得る。
【0135】
実施例7:(Z)-N-((ジエトキシホスホリル)メチレン)シクロヘキサンアミンオキシド
工程1:95.0g(0.285mol)の再結晶1,3,5-トリシクロヘキシルヘキサヒドロ-1,3,5-s-トリアジンと130.0g(0.94mol;3.3当量)の亜リン酸ジエチルを100mLのシクロヘキサン中で一晩還流した。溶媒をエバポレートし、次の工程での使用に充分に純粋な粗製アミンを得た。H NMR δ 0.90-1.30(m,6 H)および1.43-1.78(m,5 H)(c-HexおよびN-H),1.24(t,6 H,OEt),2.36(tt,1 H,HC-N),2.90(d,2 H,HP=12,CHP),4.05(m,4 H,OEt);13C NMR δ 16.55(d,CP=6,OEt),24.87,26.15および33.09(c-Hex),42.43(d,CP=153,CHP),57.79(d,CP=15,HC-N),62.10(d,CP=7,OEt);31P NMR δ 28.20.
【0136】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い、工程1の粗製生成物および350gの重炭酸ナトリウム(500mLずつのアセトンおよび水中)の使用、次いで、周囲温度で630gのオキソン2時間での分割添加により、粗製ニトロンを、(Z)異性体と(E)異性体の95:5の混合物(5%の未確認生成物(31P NMR δ 28.92)を含有)として得た。n-ヘプタン-酢酸エチル(8:1 v/v)での再結晶により第1収量のニトロンを得た。濾液のエバポレーション後、再結晶により第2収量を得た。総収量:160.8g(2工程で72%)のワックス状の結晶としての(Z)-ニトロン(1%の(E)-異性体を含有)(H NMR δ 6.80(d);31P NMR δ 6.97)。H NMR(Z)δ 1.05-1.35(m,3 H),1.57-1.86(m,5 H)および1.95-2.05(m,2 H)(c-Hex),1.27(t,6 H,OEt),3.76(m,1 H,HC-N),4.18(m,4 H,OEt),6.78(d,1 H,HP=15,HC=N);13C NMR δ 16.50(d,CP=6,OEt),24.91,25.00および31.55(c-Hex),63.30(d,CP=6,OEt),77.00(d,CP=8,HC-N),123.32(d,CP=209,HC=N);31P NMR δ 7.70.
【0137】
実施例8:(Z)-N-ベンジリデンシクロヘキサンアミンオキシド
工程1:撹拌バーを備えた1L容三角フラスコ内に、360mL(約3.5当量)のシクロヘキシルアミンと500mLの酢酸エチルを仕込み、この溶液を氷浴中で冷却した。この撹拌溶液に、約2.0時間で153.9g(107.0mL;0.9mol)の臭化ベンジルを滴下し、得られた混合物を周囲温度で一晩撹拌した。反応混合物を、500mLのトルエンの補助を伴って濾過した。濾液を水とブラインで洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、揮発性物質をエバポレートした。残留シクロヘキシルアミンをトルエンとの共エバポレーションによって除去した。これにより、186.6g(98%)の生成物を、次の工程のために充分に純粋な無色の液状物として得た。これに含まれているビス-アルキル化生成物(δ 3.60)は2%未満であった。H NMR δ 1.01-1.32(m,6 H)および1.53-1.93(m,5 H)(c-HexおよびN-H),2.46(tt,1 H,HC-N),3.78(s,2 H,CHPh),7.20-7.55(m,5 H,Ph);13C NMR δ 25.19,26.40および33.77(c-Hex),51.25(HC-N),56.36(CHPh),126.96,128.23および128.52(C-H,Ph),141.23(q-C,Ph).
【0138】
工程2:実施例1に開示した一般製法に従い、工程1の粗製生成物および410gの重炭酸カリウム(500mLのアセトン/1000mLの水中)の使用、次いで、周囲温度での700gのオキソンの2.5時間での分割添加(最初の抽出に使用した500mLの酢酸エチルを、ここでオキソンの添加の60%終了時に、形成されたニトロンの沈殿による気泡形成を相殺するために添加)により粗製生成物を得、これをn-ヘプタン-酢酸エチル(7:1 v/v)で再結晶させた。収量:110.3g(60%)の1種類の異性体としてのニトロン.H NMR δ 1.11-1.39(m,3 H),1.60(m,1 H)および1.83-2.12(m,6 H)(c-Hex),3.79(tt,1 H,HC-N),7.28-7.38(m,3H,Ph),7.38(s,1 H,HC=N),8.21(m,2 H,Ph);13C NMR δ 25.12,25.12および31.22(c-Hex),75.69(HC-N),128.48,128.59および130.06(C-H,Ph),130.95(q-C,Ph),132.19(C=N).
【0139】
実施例9(比較例):(Z)-N-ベンジリデン-1-フェニルメタンアミンオキシド
実施例1に開示した一般製法に従い、101g(0.51mol)のジベンジルアミン、225gの重炭酸ナトリウム(400mLずつのアセトンおよび水中)の使用、次いで、375gのオキソンの周囲温度での分割添加により、後処理後、粗製ニトロンをほぼ定量的収率で得た。n-ヘプタン-酢酸エチル(1:1 v/v)での再結晶により第1収量の純粋な生成物を得た。濾液のエバポレーション後、再結晶により第2収量を得た。合計収量:99.8g(92%).H NMR δ 5.02(s,2 H,CH),7.30-7.50(m,9 H),8.19(m,2 H);13C NMR δ 71.35(CHN),128.54,128.69,129.04,129.04,129.28および130.50(各々、C-H,Ph),130.58および133.43(各々、q-C,Ph),134.28(HC=N).
【0140】
実施例10(比較例):(Z)-N-ベンジリデンアニリンオキシド
実施例1に開示した一般製法に従い、122.8g(0.67mol)のN-フェニルベンジルアミン、280gの重炭酸ナトリウム(450mLずつのアセトンおよび水中)から、次いで、480gのオキソン(250mLの酢酸エチルを、オキソンの添加の75%終了時に形成されたニトロンの沈殿による気泡形成を相殺するために添加する)の分割添加により、後処理およびエタノールでの晶析後、44.8g(34%)の濃い緑色のニトロンを得た。H NMR δ 7.38-7.48(m,6 H),7.72-7.77(m,2 H)および8.35-8.42(m,2 H)(Ph),7.90(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 121.90,128.79,129.18,129.30,130.06および131.06(各々、C-H,Ph),130.86および149.26(各々、q-C,Ph),134.68(HC=N).
【0141】
実施例1~10の結果の考察
驚くべきことに、強力な活性化基、例えば-CN、カルボン酸エステルまたはホスホネートエステルを有するアルドニトロンC-置換型は、出発物質のアミンと重炭酸ナトリウムまたは重炭酸カリウムのみを含有するアセトン-水混合物を使用し、固体のオキソンを反応液に供給する酸化により、モルスケールで良好ないし優れた収率で容易に効率的に調製されることがわかった。この手順では相間移動触媒の使用が不要である。また、さらなる有機溶媒(環境の観点からあまり望ましくない)も必要でない。この反応は、有意に高い濃度の出発アミン(典型的には、1.5Mから2Mまで)で、すなわち、これまで報告されているものの10倍以上もの濃度で行なうことができる。生成物は抽出によって容易に単離することができ、充分に純粋であり、そのため、さらに精製せずに直接使用され得る。
【0142】
このようにして、C-シアノ置換型アルドニトロン(実施例1および5)、C-エステル置換型アルドニトロン(実施例2および6)ならびにC-ホスホネート置換型アルドニトロン(実施例3および7)が、ここに、その対応する第2級アミンから、これまで知られているものよりもロバストで、規模拡大可能であり、経済的に実行可能な酸化方法で入手可能になる。C-シアノアルドニトロンに関して、この手順では、文献(Bose,D.S.et al.Syn.Commun.1997,27,3119-23参照)から予測され得たような、第1級アミドニトロン共生成物の形成がなんらもたらされないことは驚くべきことである。C-エステル置換型およびC-ホスホネート置換型アルドニトロンに関して、対応する第2級アミンの直接酸化によるこれらの入手は前例がなく、上記のような既知の酸化方法でみられる困難さに鑑みると予想外である。
【0143】
また、この手順は、第3級(実施例4)、第2級(実施例8)または第1級(比較例9)N-置換基を担持しているC-フェニルアルドニトロンに有用であり、N-フェニル置換基(比較例10)を有するC-フェニルアルドニトロンにも同様に有用であり、それにより、この方法は、多種多様なアルドニトロンの調製のための多用途の方法となっている。
【0144】
1.3-ジ-tert-ラジカル付加による式(8A)のアルコキシアミン調節剤の合成
実施例11~14および19~21には、このようにして得られたニトロンからの、2種類の第3級ラジカルの1,3-付加による代表的なアルコキシアミンの直接調製を開示し、後者は好ましくは、本発明によるアゾ化合物の熱分解によって生成するものである。これは反応(II)によって模式的に示される:
【化34】
【0145】
比較例13、15~17および22は、変換が限定的であるため(実施例16および17)、および/または反応条件下での目的のアルコキシアミンの完全な不安定性(実施例15A)もしくは部分的不安定性(実施例13A、16、17および22A)のため、反応(II)による不成功の1.3-ジ-tert-ラジカル付加としてリストに挙げる。比較例23および24は、既知のアルコキシアミン化合物の調製を示す(Iwamura,M.et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,856-60)。
【0146】
アルコキシアミンの合成についての本発明の詳述において、1,3-ジ-tert-ラジカル付加の際にアルコキシアミン内にニトロン炭素以外にさらなる不斉中心が作出されないようなアゾ開始剤の選択を行なった。これは、なんら、他のアゾ開始剤化合物について選択の制限を示すことを意図するものではない:結果の表示を容易にするために使用するにすぎない。したがって、本明細書に開示している実施例では、以下の3種類の式(7)のアゾ開始剤:アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN:Z=-CN、R=R=Me)、アゾビス(α-エチルブチロニトリル)(AEBN:Z=-CN、R=R=Et)およびアゾビス(イソ酪酸メチル)(AIBMe:Z=COMe、R=R=Me)が使用される。
【0147】
実施例11:3-(tert-ブチル(2-シアノプロパン-2-イルオキシ)アミノ)-2,2-ジメチルスクシノニトリル
実施例1に従って調製された18.92g(0.15mol)のニトロンおよび40.64g(1.65当量)のAIBN(250mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。溶媒のエバポレーション、次いでイソプロパノールでの再結晶および冷蔵庫内での冷却により、10~20%のテトラメチルスクシノニトリル(TMSN)が混在した約80%のアルコキシアミンが回収された。この物質を高温イソプロパノールに溶解させ、溶液を室温までゆっくり冷却すると、濾過後に純粋なアルコキシアミンが得られた。収量:26.0g(66%).H NMR δ 1.26(s,9 H,t-Bu),1.50,1.61,1.82および1.82(各々、s,3 H,Me),3.77(s,1 H,HC-N);13C NMR δ 24.51,26.13,28.18および28.18(各々、Me),26.61(t-Bu),36.25(CMe),61.98(HC-N),63.08(C-N),76.58(C-O),113.46,121.09および122.12(各々、C≡N).
注:水蒸気ストリッピング-TMSNを除去するための業界で確立された実務-また、純粋なアルコキシアミンを得るために、イソプロパノールでの事前の1回の晶析が使用される場合もあり得る。反応は、還流下、トルエン中で、1.3当量のAIBNを少量に分けて供給することにより等しく良好に実行できた。原子移動ラジカル付加(ATRA)(実施例13Bと同様の手順、ここではα-ブロモイソブチロニトリルを使用)において、実施例1の出発ニトロンは14%しか実施例11のアルコキシアミンに変換されず、一方、残りのα-ブロモイソブチロニトリルはTMSNに変換された。
【0148】
実施例12:3-(tert-ブチル(3-シアノペンタン-3-イルオキシ)アミノ)-2,2-ジエチルスクシノニトリル
実施例1に従って調製された5.68g(45mmol)のニトロンおよび15.86g(1.6当量)のAEBN(75mLのトルエン中)を86℃(浴温度)で一晩撹拌した。H NMRにより、変換は約90%であることが示された。溶媒のエバポレーション、次いでイソプロパノールでの再結晶および冷凍庫内での冷却により、濾過後、5.40g(38%)のアルコキシアミンを針状物として得た。H NMR δ 1.06,1.11,1.13および1.18(各々、t,3 H,CHCH),1.28(s,9 H,t-Bu),1.55(m,1 H),1.86-2.15(m,5 H)および2.18-2.34(m,2 H)(CHCH),4.04(s,1 H,HC-N);13C NMR δ 7.92,8.28,8.93および9.13(各々、CHCH),25.28,28.24,29.32および30.64(各々、CHCH),26.98(t-Bu),45.38(CEt),58.70(HC-N),63.88(C-N),84.50(C-O),113.96,119.45および120.64(各々、C≡N).
注:1つの実験では、1.6当量のAEBNを固形物として少量に分けて、105℃(浴温度)で0.5時間添加し、加熱を16時間継続した:変換は90%であり、アルコキシアミンとNOH化合物の1:1の混合物が得られた。また、不均化において共形成された2-エチルブト-2-エンニトリルも観察された(2種類の異性体δ 6.18および6.36(各々、br q,CH=))。
【0149】
実施例13:3-(tert-ブチル(1-メトキシ-2-メチル-1-オキソプロパン-2-イルオキシ)アミノ)-3-シアノ-2,2-ジメチルプロパン酸メチル
手順A:5.68g(45mmol)の実施例1に従って調製されたニトロンおよび12.95g(1.25当量)の2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(AIBMe)(75mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。H NMRにより、最終変換は92%であり、75%は所望のアルコキシアミンであり、17%は、アルコキシアミンからNOH化合物への不均化、その後の環化によって形成された2-(tert-ブチル)-4,4-ジメチル-5-オキソイソオキサゾリジン-3-カルボニトリル(δ 4.06(s,1H,H-3))と、不均化において形成されたメタクリル酸メチルへの出発ニトロンの双極子付加環化によって形成された2-(tert-ブチル)-3-シアノ-5-メチルイソオキサゾリジン-5-カルボン酸メチル(δ 2.48,3.20および3.96(各々、dd,1H,H-3およびH-4))との1:1の混合物からなることが示された。選択的晶析による純粋なアルコキシアミンの単離は実現可能でなかった。
【0150】
手順B,原子移動ラジカル付加(ATRA)の使用:7.57g(60mmol)の実施例1に従って調製されたニトロンおよび30.2g(2.9当量)のPMDETA(ペンタメチルジエチレントリアミン)(100mLの窒素フラッシング済メタノール中)に、16.25gの臭化銅(I)と2.70gの銅粉末(2.6当量の銅)の混合物を添加した。この撹拌溶液に、室温にて0.5時間で、27.15g(2.5当量)のα-ブロモイソ酪酸メチルを20mLの窒素フラッシング済メタノール中に含む溶液を添加し、反応液を一晩撹拌し、このとき、出発ニトロンは完全に変換された。反応液を250mLの50%飽和水性塩化アンモニウム中に注入し、250mLのジクロロメタンを添加した。分離後、その水を125mL分割量のジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機画分を50%飽和水性塩化アンモニウムで2回、ブラインで1回、洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒を真空除去した。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー、続いてイソプロパノールでの再結晶により精製し、第1収量の純粋なアルコキシアミンを得た。濾液のエバポレーションおよび再度イソプロパノールでの再結晶により第2収量を得た。合計収量:12.62g(64%)の白色結晶.H NMR δ 1.11(s,9 H,t-Bu),1.28(s,6 H),1.46(s,3 H)および1.49(s,3H)(各々、Me),3.66および3.68(各々、s,3 H,OMe),4.28(s,1 H,HC-N);13C NMR δ 21.77,23.88,24.28および24.45(各々、Me),26.46(t-Bu),46.61(CMe),51.77および52.12(各々、OMe),61.29(HC-N),62.82(C-N),78.68(C-O),115.80(C≡N),174.57および175.19(各々、C=O).
【0151】
実施例14:2-(tert-ブチル(2-シアノプロパン-2-イルオキシ)アミノ)-3-シアノ-3-メチルブタン酸メチル
23.88g(0.15mol)の実施例2に従って調製されたニトロンおよび40.64g(1.65当量)のAIBN(250mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。H NMRにより、アルコキシアミンと1種類の環状付加物の96:4の混合物への出発ニトロンの完全変換が示された(基準試料との比較によって同定:下記の注釈参照)。溶媒のエバポレーション、次いでイソプロパノールでの再結晶および冷蔵庫内での冷却により、20~30%のTMSNが混在した約80%のアルコキシアミンを得た。イソプロパノールでの2~3回のさらなる再結晶により、純粋なアルコキシアミンを白色結晶として25.80g(58%)で得た。 NMR δ 1.26(s,9 H,t-Bu),1.35,1.48,1.71および1.82(各々、s,3 H,Me),3.55(s,1 H,HC-N),3.75(s,3 H,OMe);13C NMR δ 25.68,26.22,26.45および28.42(各々、Me),27.66(t-Bu),34.33(CMe),51.61(OMe),62.92(C-N),71.33(HC-N),77.09(C-O),121.35および124.59(各々、C≡N),166.77(C=O).
注:105℃において、環状付加物に対するアルコキシアミンの比は92:8であったが、この場合、4%のNOH不均化生成物が観察された:δ 5.67(br,NOH)および3.52(HC-N)。出発ニトロンを2当量のメタクリロニトリルとともにトルエン中で90℃にて6時間、加熱することにより、95:5の比の2種類のジアステレオ異性体環状付加物の形成を伴う完全変換を得た。主生成物:H NMR δ 1.14(s,9 H,t-Bu),1.69(s,3 H,Me),2.65,2.90および4.09(各々、dd,1 H,H-3およびH-4),3.74(s,3 H,OMe)。
【0152】
実施例15:3-(tert-ブチル((1-メトキシ-2-メチル-1-オキソプロパン-2-イル)オキシ)アミノ)-2,2-ジメチルコハク酸ジメチル
手順A:7.16g(45mmol)の実施例2に従って調製されたニトロンおよび12.95g(1.25当量)のAIBMe(75mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。H NMR解析により、すべてのニトロンが変換されたこと、しかしながら、所望のアルコキシアミン(δ 4.26(HC-N)-下記参照)は全く存在しなかったことが示された。変換ニトロンの80%を占める主成分は2-(tert-ブチル)-4,4-ジメチル-5-オキソイソオキサゾリジン-3-カルボン酸メチルであった(δ 1.12(s,9 H,t-Bu),1.24および1.34(各々、s,3 H,Me),3.75(s,3 H,OMe),および3.85(s,1 H,H-3))。
【0153】
一部において、この成分は、アルコキシアミンのNOHへの不均化、その後の環化によって形成された。不均化において共形成されたMMAは、1,3-双極子付加環化によって20%のニトロンを消費し、2種類の異性体(9:1の比)の2-(tert-ブチル)-5-メチルイソオキサゾリジン-3,5-ジカルボン酸ジメチルが得られた(主生成物δ 1.06(s,9 H,t-Bu)、1.53(s,3 H,5-Me)、2.39および2.96(各々、dd,1 H,H-4)、3.71および3.71(各々、s,3 H,OMe)、H-3 不明瞭)。また、MMAはアルコキシアミンのC-O結合内にも挿入されたが、そのようにして形成された新たなアルコキシアミンも同様に不均化を受け、同じ環化生成物(該形成の30%を占める)ならびに既知の(Wilkinson,T.S.et al.J.Coll.Interfac.Sci.2001,237,21-7参照)MMA不飽和二量体の2,2-ジメチル-4-メチレンペンタン二酸ジメチル(δ 1.13(s,6 H,Me),2.58(d,2 H,CH),3.61および3.70(各々、s,3 H,OMe),5.49(br s)および6.18(d)(=CH))と、おそらく不飽和MMA三量体(δ 2.51(m,CH)、5.46(br s)および6.16(d)(=CH))が得られ、該三量体に対する該二量体の比は約7:1であった。単離は試みなかった。
【0154】
手順B,原子移動ラジカル付加(ATRA)の使用:9.55g(60mmol)の実施例2に従って調製されたニトロンおよび30.2g(2.9当量)のPMDETA(ペンタメチルジエチレントリアミン(100mLの窒素フラッシング済メタノール中)に、16.25gの臭化銅(I)と2.70gの銅粉末(2.6当量の銅)の混合物を添加した。この撹拌溶液に、室温にて0.5時間で、27.15g(2.5当量)のα-ブロモイソ酪酸メチルを20mLの窒素フラッシング済メタノール中に含む溶液を添加し、反応液を一晩撹拌し、このとき、出発ニトロンは完全に変換された。反応液を250mLの50%飽和水性塩化アンモニウム中に注入し、250mLのジクロロメタンを添加した。分離後、その水を125mL分割量のジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機画分を50%飽和水性塩化アンモニウムで2回、ブラインで1回、洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒を真空除去した。H NMR解析により、2,2,3,3-テトラメチルコハク酸ジメチル(δ 1.20、3.60)の他に、所望のアルコキシアミンも主成分であることが示された(δ 1.14(s,9 H,t-Bu),1.20,1.31,1.47および1.51(各々、s,3 H,Me),3.62,3.62および3.65(各々、s,3 H,OMe),4.26(s,1 H,CH-N))。しかしながら、最初に形成されたアルコキシアミンの約30%が2-(tert-ブチル(ヒドロキシ)アミノ)-2-メトキシ-3,3-ジメチルコハク酸ジメチルに変換されていた:δ 1.14(s,9 H,t-Bu),1.42および1.45(各々、s,3 H,Me),3.42,3.66および3.71(各々、s,3 H,OMe),4.9(br,1 H,OH)。目的のアルコキシアミンは純粋な状態で単離することができなかった。
注:副生成物2-(tert-ブチル(ヒドロキシ)アミノ)-2-メトキシ-3,3-ジメチルコハク酸ジメチルは、式(8)のアルコキシアミンの式(1B)のニトロンへの塩基誘導型転換(以下に開示のとおり)、その後の該ニトロンへのメタノール付加の正味の結果である。
【0155】
実施例16:(1-(tert-ブチル((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)アミノ)-2-シアノ-2-メチルプロピル)ホスホン酸ジエチル
実施例3に従って調製された10.67g(45mmol)のニトロンおよび11.82g(1.6当量)のAIBN(75mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。31P NMR解析により、変換はせいぜい約60%である:が、アルコキシアミン(δ 20.68)が形成され、反応混合物中におけるその存在によって出発ニトロンの50%より少ない変換が説明され、主生成物成分は、ホスファイト型またはホスフェート型の生成物を示唆するシフトを有することが示された。高AIBN負荷量および/または高温は有益ではなかった:出発ニトロンの変換は増大したが、おそらく目的のアルコキシアミン生成物であるものの相対的割合はさらにいっそう減少した。
【0156】
実施例17:3-(tert-ブチル((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパンニトリル
7.98g(45mmol)の実施例4に従って調製されたニトロンおよび11.86g(1.6当量)のAIBN(75mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。反応混合物のH NMR解析により、変換は良くてわずか24%であり、目的のアルコキシアミン(δ 3.72)は7%しか存在しないことが示された。少量の未確認成分(δ 4.09 2%)の他に、主生成物(15%で存在)はおそらく、アルコキシアミンの不均化の際に形成されたNOH化合物3-(tert-ブチル(ヒドロキシ)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパンニトリルであった(δ 0.96(t-Bu),3.62(CH-N),4.73(OH))。不均化において共形成されたメタクリロニトリルは優先的にアルコキシアミンのC-O結合内に挿入された(1,3-双極子付加環化においてニトロンと反応したのではなく)が、そのようにして形成された新たなアルコキシアミンは完全に不均化を受けた:不均化において共形成された2,2-ジメチル-4-メチレンペンタンジニトリル(δ 5.99および6.15(=CH))が3%で存在した。単離は試みなかった。
【0157】
実施例18:3-(((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)(シクロヘキシル)アミノ)-2,2-ジメチルスクシノニトリル
45.66g(0.3mol)の実施例5に従って調製されたニトロンおよび81.3g(1.65当量)のAIBN(500mLのイソプロパノール中)を6時間、92℃(油浴温度)で撹拌した。加熱および撹拌のスイッチを切り、混合物を室温までゆっくり放冷した。結晶を濾過によって収集し、イソプロパノールで洗浄し、風乾した。収量:76.15g(88%)の白色結晶としての純粋なアルコキシアミン.H NMR δ 0.85-1.75(m,9 H)および2.45(m,1 H)(c-Hex),1.19,1.20,1.28および1.38(各々、s,3 H,Me),3.36(br tt,1 H,HC-N,c-Hex),3.54(br s,1 H ,HC-N);13C NMR δ 24.92,25.85,26.03,26.03,26.30,26.45,27.08,27.58および32.87(c-Hexおよび4 Me),36.25(CMe),63.07および65.77(各々、CH-N),73.60(C-O),114.86,121.55および121.68(各々、C≡N).
注:反応は、固体のAIBN(1.3当量)を少量に分けて、ニトロンを:1)トルエン中に含む還流溶液を105℃で供給した後、エバポレーションおよびイソプロパノールでの1回の晶析により;または2)1-ブタノール中に含む還流溶液を115℃で供給した後、室温までゆっくり冷却し、純粋なアルコキシアミンの結晶を直接、収集することにより、同様の収率で等しく良好に実行できたが、より速やかであり、消費されるアゾ開始剤は少ない。
【0158】
実施例19:3-シアノ-2-(((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)(シクロヘキシル)アミノ)-3-メチルブタン酸エチル
29.9g(0.15mol)の実施例6に従って調製されたニトロンおよび40.6g(1.65当量)のAIBN(250mLのトルエン中)を6時間、92℃(油浴温度)で撹拌した。粗製反応混合物中の90%までのTMSNを水蒸気ストリッピングによって除去することができたが、アルコキシアミンは、結晶性ではあったが、晶析によってTMSN無含有の状態で得ることはできなかった。H NMR δ 1.00-1.14(m,1 H),1.25-1.60(m,5 H),1.67-1.76(m,2 H)および1.86-1.96(m,2 H)(c-Hex),1.08(br t,3 H,OEt),1.20,1.34,1.43および1.46(各々、s,3 H,4 Me),3.63および3.67(各々、br,1 H,HC-N),3.97-4.05(m,2 H,OEt);13C NMR δ 14.14(OEt),25.72,26.39,26.49,26.58,26.75,27.10,29.59および33.40br)(c-Hexおよび4 Me),34.49(CMe),61.10(OEt),64.15(br)および73.60(各々,HC-N),73.48(C-O),121.91および123.09(各々、C≡N),168.56(C=O).
【0159】
実施例20:(2-シアノ-1-(((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)(シクロヘキシル)アミノ)-2-メチルプロピル)ホスホン酸ジエチル
39.5g(0.15mol)の実施例7に従って調製されたニトロンおよび41.85g(1.7当量)のAIBN(250mLのトルエン中)を6時間、92℃(油浴温度)で撹拌した。粗製反応混合物中に存在した90%までのTMSNを水蒸気ストリッピングによって除去することができたが、純粋なアルコキシアミンを得ることはできず、これは、この生成物が晶析時のすべての試行に抵抗したためであった。
【0160】
実施例21:3-(((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)(シクロヘキシル)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパンニトリル
24.39g(0.12mol)の実施例8に従って調製されたニトロンおよび32.51g(1.65当量)のAIBN(250mLのトルエン中)を、92℃(浴温度)で6時間、撹拌した。溶媒のエバポレーション、生成物の高温イソプロパノール中への再溶解および室温までのゆっくりの冷却により第1収量を得た。濾液のエバポレーションおよびメタノールでの再結晶により第2収量を得た。総収量:29.44g(72%)の結晶性アルコキシアミン.H NMR δ 0.74-1.75(m,10 H,c-Hex),0.91,1.38,1.49および1.57(各々、s,3 H,Me),3.54(tt,1 H,HC-N),3.5-4.2(br,1 H,HCPh),7.03-7.14(m,3 H)および7.55-7.65(m,2 H)(Ph);13 NMR δ 26.39,26.47,26.71,26.81,27.26,27.39,28.32(br),29.31および34.03(br)(c-Hexおよび4 Me),35.53(CMe),63.69(C-H,c-Hex),72.37(C-O),72.25(br,CHPh),122.47および124.84(各々、C≡N),128.40,128.54および131.13(各々、C-H,Ph),136.97(br q-C,Ph).
注:一部の場合では、収集された生成物はなお、微量のTMSNを含有していた:これは、イソプロパノールでの最終晶析によって有効に除去された。反応は、還流下、トルエン中で、1.3当量のAIBNを少量に分けて供給することにより等しく良好に実行できた。あるいはまた、水蒸気ストリッピング-TMSNを除去するための確立された業界実務-の後、イソプロパノールでの1回の再結晶が、純粋なアルコキシアミンを得るために使用され得る。
【0161】
実施例22:3-(シクロヘキシル((1-メトキシ-2-メチル-1-オキソプロパン-2-イル)オキシ)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパン酸メチル
手順A:9.15g(45mmol)の実施例8に従って調製されたニトロンおよび16.58g(1.6当量)のAIBMe(75mLのトルエン中)を92℃(浴温度)で6時間撹拌した。H NMR解析により、変換が90%に近いこと、および目的のアルコキシアミンが主成分であることが示された。しかしながら、20%のアルコキシアミンはNOHへの不均化の後、環化を受け、2-シクロヘキシル-4,4-ジメチル-3-フェニルイソオキサゾリジン-5-オンが得られた(δ 2.71(tt,1 H,CH-N)、および4.14(s,1 H,H-3))。不均化において共形成されたMMAは他のアルコキシアミンのC-O結合内に優先的に挿入された(1,3-双極子付加環化においてニトロンと反応するのではなく)が、そのようにして形成された新たなアルコキシアミンは完全に不均化を受け、上記のものと同じ環化生成物(該形成の約40%を占める)ならびに既知の(Wilkinson,T.S.et al.J.Coll.Interfac.Sci.2001,237,21-7参照)MMA不飽和二量体2,2-ジメチル-4-メチレンペンタン二酸ジメチル(δ 2.58(d,2 H,CH),5.49(br s)および6.18(d)(=CH))と、おそらく不飽和MMA三量体(δ 5.46(br s)および6.16(d)(=CH))が得られた。分別結晶による単離は不成功であった。
【0162】
手順B,原子移動ラジカル付加(ATRA)の使用:12.20g(60mmol)の実施例8に従って調製されたニトロンおよび30.2g(2.9当量)のPMDETA(ペンタメチルジエチレントリアミン)(100mLの窒素フラッシング済メタノール中)に、16.25gの臭化銅(I)と2.70gの銅粉末(2.6当量の銅)の混合物を添加した。この撹拌溶液に、室温にて0.5時間で、27.15g(2.5当量)のα-ブロモイソ酪酸メチルを20mLの窒素フラッシング済メタノール中に含む溶液を添加し、反応液を一晩撹拌した。反応液を250mLの50%飽和水性塩化アンモニウム中に注入し、次いで、250mLのジクロロメタンを添加した。分離後、その水を125mL分割量のジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機画分を塩化アンモニウムの50%飽和水溶液で2回、ブラインで1回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を除去し、濾過後、真空除去した。H NMR解析により、すべてのα-ブロモイソ酪酸メチルが変換されたが、ほとんどは2,2,3,3-テトラメチルコハク酸ジメチルに変換され、一方、80%のニトロンは反応せず:20%だけが目的のアルコキシアミンに変換されたことが示された。単離は試みなかった
【0163】
実施例23(比較例):3-(ベンジル((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパンニトリル
9.51g(45mmol)の実施例9に従って調製されたニトロンおよび11.82g(1.6当量)のAIBN(90mLのトルエン中)を6時間、92℃(浴温度)で撹拌した。溶媒のエバポレーションおよびメタノールでの再結晶により、11.47g(73%)のアルコキシアミンを微細針状物として得た。H NMR δ 0.89,1.05(br),1.21および1.63(各々、s,3 H,Me),3.33および4.64(各々、d,1 H,CHPh),4.00(br s,1 H,HC-N),6.79-7.22(m,8 H)および7.57(br d,2 H)(Ph);13C NMR δ 25.81,27.40,27.52および27.96(各々、Me),35.08(CMe),59.98(CH-N),72.49(C-O),75.99(CH-N),122.36および124.92(各々、C≡N),128.00,128.52,128.64,128.86,130.77および131.77(各々、C-H,Ph),134.26および137.96(各々、q-C,Ph).
注:この化合物(しかしながら、その後、46%収率で単離されたと報告されている)は、Iwamura,S.et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,856-60の研究により既知のものである。
【0164】
実施例24(比較例):3-(((2-シアノプロパン-2-イル)オキシ)(フェニル)アミノ)-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパンニトリル
8.88g(45mmol)の実施例10に従って調製されたニトロンおよび11.82g(1.6当量)のAIBN(90mLのトルエン中)を6時間、92℃(浴温度)で撹拌した。溶媒をエバポレートし、メタノールで2回、再結晶させることにより、10.45g(70%)のアルコキシアミンを黄緑色の結晶として得た。H NMR δ 0.90,1.17,1.52および1.73(各々、s,3 H,Me),3.46(br s,1 H,HC-N),6.78-7.08(m,8 H)および7.14-7.19(m,2 H)(Ph);13C NMR δ 26.32,27.64,27.91および27.91(各々、Me),35.26(CMe),75.35(C-O),86.64(CH-N),121.39および124.36(各々、C≡N),123.99,126.59,128.02,128.59,128.74および131.68(各々、C-H,Ph),133.99および151.87(各々、q-C,Ph).
注:この化合物(しかしながら、その後、63%収率で単離されたと報告されている)は、Iwamura,S.et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,856-60の研究により既知のものである。
【0165】
実施例11~24の結果の考察
C-シアノ-N-tert-ブチルニトロンおよび1.65当量のAIBNを92℃で使用すると(実施例11)、定量的1.3-ジ-tert-ラジカル付加が起こり、アルコキシアミンが、存在する唯一の生成物である(TMSNの他に)。還流下のトルエン中であっても、アルコキシアミンは、形成される唯一の生成物である:NOH化合物をもたらす不均化の形跡は見出されない。AEBNの使用(実施例12)は86℃において、主成分として目的のアルコキシアミンとともに少量(4%)のNOH化合物を生成させるが、105℃で行なった場合、アルコキシアミンとNOH化合物が等量で存在する。どちらの場合も、アルコキシアミンは、分別結晶によって純粋な状態で容易に得られる。
【0166】
また、立体的により込み合ったC-エステル-置換型N-tert-ブチルニトロンと1.65当量のAIBNでは92℃において(実施例14)、1,3-ジ-tert-ラジカル付加が優勢な経路であり、消費されたニトロンの96%を占める:存在する残りの4%は、ニトロンとメタクリロニトリルとの1種類の1,3-双極子環状付加物である。トルエン中、105℃では、4%のNOH化合物も形成される。この場合も、アルコキシアミンは、分別結晶によって純粋な状態で容易に得られる。
【0167】
対照的に、C-フェニル-N-tert-ブチルニトロン(PBN)と1.6当量のAIBNとの92℃での反応(実施例17)では、出発ニトロンの変換はわずか25%であり、主生成物(15%)はNOH不均化化合物である。C-フェニルを、立体的にあまりきつくない活性化性の強いC-ホスホネートで置き換えた場合(実施例16)、出発ニトロンの変換は増大するが60%までにすぎない。さらに、目的のアルコキシアミンと思われるものは変換ニトロンの50%未満であり、この生成物は、この反応条件下では安定ではないようである。
【0168】
したがって、活性化基または共役基によるC-置換型のN-tert-アルキルアルドニトロンへのシアノ官能性アゾ開始剤AIBNおよびAEBNの1,3-ジ-tert-ラジカル付加に関する実施例により、AIBNを使用した場合、-CNおよびエステル基のみが有効であり、不均化を伴わず、伴ったとしてもほとんどなしで良好な収率でアルコキシアミン調節剤化合物が生成し得ることが教示される。
【0169】
N-第2級置換基の一例としてシクロヘキシルとの92℃でのAIBNの使用では、目的のアルコキシアミン調節剤化合物が、-CN(実施例18)またはエステル基(実施例19)によるC-置換型のニトロンの場合だけでなく、ここでは、ホスホネート(実施例20)またはフェニル(実施例21)を有するものの場合でも単独の生成物として生成する。注目すべきことには、還流下、トルエン中であっても、最初に形成されたアルコキシアミンの不均化によって形成されるNOH化合物の兆候は、これらのいずれの系でも検出され得ない。
【0170】
N-ベンジル(比較例23)またはN-フェニル(比較例24)置換基を担持しているC-フェニルニトロンへのAIBNの付加は、トルエン中、92℃で容易に起こり、アルコキシアミンは、晶析によって純粋な状態で良好な収率で容易に得られる。どちらの化合物も、Iwamura,S.et al.(Bull.Chem.Soc.Jpn.1970,43,856-60)の研究により既知である。
【0171】
式(6)のニトロンへの1,3-ジ-tert-ラジカル付加による式(8)のアルコキシアミンの調製においてAIBN(および他のシアノ官能性アゾ開始剤)を使用した場合の多用途性とは対照的に、エステル-置換型アゾ開始剤AIBMeの使用でも入り混じった結果が得られる。トルエン中、92℃においてC-シアノ-N-tert-ブチル-(実施例13A)およびC-フェニル-N-シクロヘキシルニトロン(実施例22A)とAIBMeでもなお、目的のアルコキシアミンが主生成物成分として得られるが、C-エステル-置換型N-tert-ブチルニトロンは、完全に変換されているが、何も示さない(実施例15A)。代わりに、80%のニトロンは、最初に形成されたアルコキシアミンのNOH化合物(およびMMA)への不均化、その後の環化によって形成される式(9)(R=t-Bu、R=R=Me、R=C(O)OMe)の2-(tert-ブチル)-4,4-ジメチル-5-オキソイソオキサゾリジン-3-カルボン酸メチルとして見出される。この副反応は、それぞれ、実施例13Aおよび22Aの変換ニトロンの17%および20%を占め、これらの場合においてアルコキシアミン調節剤の効率的な単離を妨げる。
【化35】
(9)
【0172】
したがって、式(6A)のアルドニトロンへのAIBMeなどのエステル官能性アゾ開始剤の1,3-ジ-tert-ラジカル付加による式(8A)のアルコキシアミンの調製方法はあまり好ましくない。
【0173】
このようなアルコキシアミンを調製するための代替法、すなわち、α-ブロモイソ酪酸メチルをラジカル源として使用する周囲温度(約25℃)での原子移動1,3-ジ-tert-ラジカル付加(ATRA)が想定され得る。C-シアノ-N-tert-ブチルニトロンでは、目的のアルコキシアミンが純粋な化合物として得られ得る(実施例13)。しかしながら、C-エステル-置換型N-tert-ブチルニトロンでは完全な変換が行なわれるが、副生成物の形成によって目的のアルコキシアミンの純粋な状態での単離が妨げられる(実施例15B)。C-フェニル-置換型N-シクロヘキシルニトロンでは、アルコキシアミンへの変換が良くて20%と限定的である(実施例22B)。
【0174】
したがって、かくして、アルコキシアミンの調製は、式(6A)のアルドニトロンと式(7)のアゾ開始剤化合物との反応により式(8A)の対応するアルコキシアミンが形成されることによって行なわれ得ることが実証された。
【0175】
式(1C)のニトロンの合成
実施例25~36に、式(1C)のニトロンを調製するための2つの方法を示す。実施例25~33に、第1の方法、すなわち、式(8A)のアルコキシアミン(実施例11~24に開示)の塩基処理による式(1C)の特定のニトロンへの転換を開示する。この転換は、反応(III):
【化36】
によって模式的に示される。実施例25~31は成功裡であったが、比較例32および33はそうではなかった。工業的観点から、ヒドロキシルアミン化合物からの付加(実施例34)または縮合(実施例35および36)反応によるニトロン(1C)の調製はあまり好ましくない。この方法は、ヒドロキシルアミン化合物(市販された場合)のプライシングが、意図される最終用途にとってひどく高くなるため、価値は限定的である。さらに、本発明との関連において、Rとしてカルボン酸エステル基を担持している一般式(1C)のニトロンのみがこの様式で入手可能である。それでもなお、実施例34の生成物は、ニトロン内のα-炭素にZとしてエステル置換基のみを担持している一般式(1C)のニトロンを表すため、具体的に含めた(R=R=H)。実施例35および36に従って調製される構造的に関連しているニトロンはα-位に活性化官能部がなく、重合実験において比較例として使用する。
【0176】
実施例25:(E)-N-(1,2-ジシアノ-2-メチルプロピリデン)シクロヘキサンアミンオキシド
72.1g(0.25mol)の実施例18に従って調製されたアルコキシアミンを200mLのDMF中に含む懸濁液に、撹拌および水浴中での冷却下で、0.42gおよび15分後にさらに0.42g(合計3mol%の塩基)の固体のカリウムtert-ブトキシドを添加した。すべてのアルコキシアミンは速やかに溶解し、透明な黄色溶液が形成された。3時間後、反応液を、250mLの50%飽和水性塩化アンモニウムと150mLのtert-ブチルメチルエーテルの氷冷混合物中に注入した。層を分離し、水層を75mL分割量のtert-ブチルメチルエーテルで2回抽出した。収集した有機画分を水で2回、ブラインで1回、洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒を真空下で除去した。ほぼ定量的収率で黄色液状物として得られた粗製生成物には、約5%の未知の化合物が含有されており、暫定的にアセトンシアノヒドリンとして帰属させた(H NMR δ 1.58(s);13C NMR δ 29.41)。n-ペンタンでの再結晶により第1収量の純粋な生成物を得た。濾液のエバポレーション後、再結晶により第2収量を得た。総収量:43.7g(80%)の明黄色結晶.H NMR δ 1.20-1.85(m,10 H,c-Hex),1.62(s,6 H,Me),3.68(tt,1 H,HC-N);13C NMR δ 23.88,25.34および33.15(c-Hex),24.73(CMe),40.44(CMe),67.39(CH-N),108.17および120.29(各々、C≡N),140.27(C=N).
注:この転換はTHF中で、10mol%のDBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス-7-エン)を塩基触媒として使用し、反応液を一晩撹拌して等しく良好に行なうことができた。先のとおりの後処理および再結晶により純粋な生成物を78%収率で得た。
【0177】
実施例26:(E)-N-(1,2-ジシアノ-2-メチルプロピリデン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、15.74g(60mmol)の実施例11に従って調製されたアルコキシアミンを使用することにより、後処理後、10.94g(94%)の粗製ニトロン生成物を黄色液状物として得、これには6%の未知の化合物が含有されており、暫定的にアセトンシアノヒドリンとして帰属させた(H NMR δ 1.58(s);13C NMR δ 29.41)。冷凍庫内でのn-ペンタンでの再結晶および低温での濾過によるさらなる精製を行なった。このニトロンは周囲温度で黄色液状物である。H NMR δ 1.39(s,9 H,t-Bu),1.60(s,6 H,CMe);13C NMR δ 24.65(CMe),29.13(t-Bu),42.42(CMe),59.30(C-N),109.77および120.46(各々、C≡N),137.63(C=N).
【0178】
実施例27:(E)-N-(1-シアノ-3-メトキシ-2,2-ジメチル-3-オキソプロピリデン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、6.57g(20mmol)の実施例13に従って調製されたアルコキシアミンおよび合計0.225g(10mol%)のカリウムtert-ブトキシド(50mLのDMF中)を使用することにより、一晩撹拌および後処理後、4.04g(89%)のニトロンを無色の液状物として得た。H NMR δ 1.35(s,9 H,t-Bu),1.41(s,6 H,CMe),3.69(s,3 H,OMe);13C NMR δ 23.04(CMe),29.19(t-Bu),52.05(CMe),52.72(OMe),58.26(C-N),111.31(C≡N),141.11(C=N),174.06(C=O).
【0179】
実施例28:(E)-N-(3-シアノ-1-メトキシ-3-メチル-1-オキソブタン-2-イリデン)-2-メチルプロパン-2-アミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、8.86g(30mmol)の実施例14に従って調製されたアルコキシアミンを使用したが、ここでは、化学量論量のナトリウムメトキシド(50mLのDMF中)を使用し、一晩撹拌することにより、後処理後、5.78g(85%)のニトロンをわずかに黄色の液状物として得た。H NMR δ 1.25(s,9 H,t-Bu),1.56(s,6 H,CMe),3.84(s,3 H,OMe);13C NMR δ・25.71(CMe),29.61(t-Bu),40.26(CMe),52.17(OMe),57.69(C-N),122.45(C≡N),137.72(C=N),166.38(C=O).
【0180】
実施例29:(E)-N-(3-シアノ-1-エトキシ-3-メチル-1-オキソブタン-2-イリデン)シクロヘキサンアミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、17.10g(正味50mmol)の実施例19に従って調製されたアルコキシアミンを使用したが、ここでは、化学量論量のナトリウムエトキシド(100mLのDMF中)を使用し、一晩撹拌することにより、後処理後、11.24g(82%)ニトロン生成物を得た。これには約5%のTMSN(出発物質中に存在)が含有されている。TMSNは支障がないため、この物質は重合にそのままで使用することができる。分析により純粋なニトロンが、カラムクロマトグラフィー後に、わずかに黄色の液状物として9.90g(74%)で得られた。H NMR δ 1.32(t,3 H,OEt),1.54(s,6 H,CMe),1.18-1.26(m,3 H),1.38-1.47(m,2 H),1.52-1.61(m,3 H)および1.68-1.76(m,2 H)(c-Hex),3.17(m,1 H,HC-N),4.31(q,2 H,OEt);13C NMR δ 14.29(OEt),24.05,25.52および33.31(c-Hex),25.52(CMe),38.78(CMe),61.68(OEt),63.38(HC-N),122.11(C≡N),157.95(C=N),163.50(C=O).
【0181】
実施例30:(E)-N-(2-シアノ-1-(ジエトキシホスホリル)-2-メチルプロピリデン)シクロヘキサンアミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、12.20g(正味30mmol)の実施例20に従って調製されたアルコキシアミンを使用したが、ここでは、化学量論量のナトリウムエトキシド(50mLのDMF中)を使用し、一晩撹拌することにより、後処理後、約12%の(Z)異性体および5%のTMSN(出発物質中に存在)を含有する8.20g(80%)の(E)ニトロンを得た。TMSNは支障がないため、この物質は重合にそのままで使用することができる。カラムクロマトグラフィー後、純粋なニトロンが無色の液状物として7.00g(74%)で、(E)異性体と(Z)異性体の92:8の混合物として得られた。主生成物の(E)異性体:H NMR δ 1.32(t,6 H,OEt),1.57(s,6 H,CMe),1.18-1.36(m,3 H),1.38-1.47(m,2 H),1.52-1.63(m,3 H)および1.70-1.78(m,2 H)(c-Hex),4.07(m,1 H,HC-N),4.31(m,4 H,OEt);13C NMR δ 16.51(d,CP=6,OEt),23.90,25.74および33.32(c-Hex),25.69(CMe),42.00(d,CP=40,CMe),62.65(d,CP=6,OEt),63.09(d,CP=15,HC-N),123.00(s,CP=0,C≡N),158.68(d,CP=141,C=N);31P NMR δ 1.70;副生成物の(Z)異性体 部分データ:H NMR δ 1.49(s,6 H,CMe),4.80(m,1 H,HC-N);13C NMR δ 16.51(OEt),23.57(CMe),23.92,25.66および33.2(c-Hex),44.40(s,CP=0,CMe),62.61(d,CP=6,OEt),62.92(d,CP=15,HC-N),121.55(s,CP=0,C≡N),159.09(d,CP=141,C=N);31P NMR δ 0.64.
【0182】
実施例31:(Z)-N-(2-シアノ-2-メチル-1-フェニルプロピリデン)シクロヘキサンアミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、10.18g(30mmol)の実施例21に従って調製されたアルコキシアミンおよび7.40g(2.2当量)のカリウムtert-ブトキシド(50mLのDMF中)を使用し、一晩撹拌することにより、後処理後、7.30g(90%)の粗製ニトロンを赤みがかった液状物として得、これは、放置すると晶出した。H NMR δ 1.00-1.11(m,2H)、1.15-1.25(m,1 H),1.38-1.55(m,5 H)および1.63-1.71(m,2 H)(c-Hex),1.51(s,6 H,CMe)、2.89(tt,1 H,HC-N),7.03-7.07(m,2 H)および7.35-7.43(m,3 H)(Ph);13C NMR δ 24.15,25.73および33.54(c-Hex),25.89(CMe),41.84(CMe),60.99(HC-N),123.64(C≡N),127.47,128.57および128.72(各々、C-H,Ph),135.16(q-C,Ph),165.56(C=N).
【0183】
実施例32(比較例):(Z)-N-(2-シアノ-2-メチル-1-フェニルプロピリデン)-1-フェニルメタンアミンオキシド
実施例25の場合と同様にして、10.42g(30mmol)の実施例23に従って調製されたアルコキシアミンおよび7.40g(2.2当量)のカリウムtert-ブトキシド(50mLのDMF中)を使用し、一晩撹拌することにより、後処理後、6.85g(82%)の赤みがかった液状物を得た。しかしながら、生成物には所望のニトロンが全く含有されておらず、その異性体(Z)-N-ベンジリデン-2-シアノ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミンオキシドであった:H NMR δ 1.37および1.42(各々、s,3 H,Me),4.23(s,1 H,HC-N),7.26-7.48(m,6 H),7.55(br d,2 H)および7.87(m,2 H)(Ph),8.34(s,1 H,HC=N);13C NMR δ 23.83および24.37(各々、Me),34.44(CMe),80.72(HC-N),124.02(C≡N),128.07,128.19,128.55,128.57,128.57および131.11(各々、C-H,Ph),135.75および139.15(各々、q-C,Ph),162.29(HC=N).単離は試みなかった。
【0184】
実施例33(比較例):(Z)-N-(2-シアノ-2-メチル-1-フェニルプロピリデン)アニリンオキシド
実施例25の場合と同様にして、10.0g(30mmol)の実施例24に従って調製されたアルコキシアミンおよび7.40g(2.2当量)のカリウムtert-ブトキシド(50mLのDMF中)を使用、および一晩撹拌。H NMR解析により、所望の生成物が形成されているが、この生成物は2,2-ジメチル-3-オキソ-3-フェニルプロパンニトリルおよびN-フェニルヒドロキシルアミンに部分加水分解されていることが示された。また、一部のこのアルコキシアミンは、この反応条件下でNOH化合物に変換されていた。単離は試みなかった。
【0185】
実施例34:(E)-N-(1,4-ジメトキシ-1,4-ジオキソブタン-2-イリデン)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミンオキシド
10.12g(30mmol)の4-メチルベンゼンスルホン酸N-(2-メチル-1-フェニルプロピル)ヒドロキシルアミンおよび2.71gの酢酸ナトリウムを100mLのメタノール中に含む撹拌溶液に、1時間で室温にて、4.26g(30mmol)のアセチレンジカルボン酸ジメチルを20mLのメタノール中に含む溶液を滴下した。1時間の撹拌後、反応混合物を250mLの水中に注入し、次いで100mL分割量のジクロロメタンで3回抽出した。収集した有機画分を50%飽和水性重炭酸塩およびブラインで洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒をエバポレーションによって除去した。粗製生成物を高温石油エーテルに溶解させ、濾過した。冷蔵庫内での冷却後、生成物を濾過によって収集した。収量:6.92g(75%)のオフホワイト色の結晶.H NMR δ 0.72および1.01(各々、d,3 H,Me),2.74(m,1 H,CHMe),3.61(s,3 H,OMe),3.65(AA’,2 H,CH),3.82(s,3 H,OMe),6.54(d,1 H,HC-N),7.26-7.33(m,3 H)および7.52-7.58(m,2 H)(Ph);13C NMR δ 19.55および19.69(CHMe),31.84(CHMe),35.01(CH),52.18および52.91(各々、OMe),80.49(HC-N),128.48,128.81および129.19(各々、CH,Ph),135.36(C=N),137.17(q-C,Ph),162.33および168.77(各々、C=O).
【0186】
実施例35(比較例):(E)-N-(1-メトキシ-1-オキソプロパン-2-イリデン)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミンオキシド
実施例34の場合と同様にしたが、ここでは、4.08g(1.2当量)のピルビン酸メチルを添加し、一晩撹拌:後処理およびn-ヘプタンとの共エバポレーションによる過剰のピルビン酸メチルのストリッピング後、生成物をほぼ定量的収率で黄色液状物として得た。H NMR δ 0.71および0.95(各々、d,3 H,Me),2.17(s,3 H,Me),2.78(m,1 H,CHMe),3.82(s,3 H,OMe),6.31(d,1 H,HC-N),7.28-7.35(m,3 H)および7.56-7.61(m,2 H)(Ph);13C NMR δ 15.63(MeC=N),19.42および20.00(CHMe),31.53(CHMe),52.66(OMe),80.03(HC-N),128.42,128.66および129.24(各々、CH,Ph),137.36(q-C,Ph),138.22(C=N),163.59(C=O).
【0187】
実施例36(比較例):(E)-N-(1,5-ジメトキシ-1,5-ジオキソペンタン-2-イリデン)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミンオキシド
実施例34の場合と同様にしたが、ここでは、5.40g(1.03当量)の2-オキソグルタル酸ジメチルを添加し、一晩撹拌:出発物質のうち60%だけが反応した。1当量の酢酸を含有しているn-ヘプタンでの晶析、室温まで、次いで冷蔵庫内での冷却により、濾過および風乾後、4.82g(52%)の所望のニトロンを得た。H NMR δ 0.69および0.94(各々、d,3 H,Me),2.52(t,2 H)および2.91(m,2 H)(CHCH),2.74(m,1 H,CHMe),3.56および3.82(各々、s,3 H,OMe),6.23(d,1 H,HC-N),7.22-7.32(m,3 H)および7.52-7.58(m,2 H)(Ph);13C NMR δ 19.44および19.80(CHMe),24.93および28.65(各々、CH),31.52(CHMe),51.76および52.77(各々、OMe),80.33(HC-N),128.44,128.71および129.13(各々、CH,Ph),137.26(q-C,Ph),140.18(C=N),163.32および173.17(各々、C=O).
【0188】
実施例25~33の結果の考察
驚くべきことに、Rとして活性化基を有する式(1C)のニトロン調節剤は、式(8A)のアルコキシアミン調節剤から1,3-脱離反応により、触媒性量(Rとして-CN)または化学量論量(Rとしてエステルまたはホスホネート)の金属アルコキシド塩基を用いて、DMFなどの極性非プロトン性媒体中で容易に調製される(実施例25~30)。共役基(RとしてPh)を有する場合であっても、この変換は成功裡に実行され得る、ただし、N-置換基Rは第2級アルキルであり、少なくとも2当量の金属アルコキシド塩基が使用されるものとする(実施例31)。対照的に、N-置換基Rとしてベンジル(比較例32)またはフェニル(比較例33)では、この転換は不成功であった。
【0189】
したがって、かくして、式(1A)(式中、R=H)のアルコキシアミン調節剤からの式(1C)の特定のニトロン調節剤の調製は、式(8A)のアルコキシアミンを塩基で処理して式(1C)の対応するニトロン調節剤を形成させることにより行なわれ得ることが実証された。
【0190】
重合総論
市販品等級のモノマーを減圧下で蒸留し、次いで窒素雰囲気下で冷蔵庫内に、使用時まで保存した。溶液重合に使用した溶媒:トルエンpa(Tol)、アニソール99%(Ani)、tert-ブチルベンゼン99%(tBB)および酢酸プロピル≧99.5%(PrAc)を、受領したままの状態で使用した。
【0191】
重合製法を表1および2にまとめて示す。重合調節剤R(式(8)または(1C)の化合物)、モノマーM(式(2)および/または式(3)のビニルモノマー)ならびに任意選択で溶媒Sを、撹拌バーを入れた細口瓶内に計り入れ、フラスコをセプタムで密封した。調節剤化合物を完全に溶解させた後、内部の液状物に達する窒素供給ニードルおよび排出ニードルを取り付けた。内容物に、撹拌下で窒素を15分間パージした。
【0192】
重合は、撹拌バー、窒素供給ニードルを伴うセプタム、窒素排出管または乾燥用塩化カルシウム管を伴う効率的な(ジャケットコイル)還流冷却器および内部温度読み取りデバイスを備えた100mL容(塊状)または250mL容(溶液)三つ口丸底フラスコ内で行なった。反応器への仕込みの前に、フラスコを、重合が行なわれる温度まで予熱した油浴中に降下させ、反応器に窒素を15分間フラッシングした。
【0193】
次いで、調節剤をモノマー(および任意選択で溶媒)中に含む溶液を、予熱したフラスコ内に仕込み、内容物を低速窒素流下で撹拌した。温度を所望の内部反応温度まで急速に上昇させ、実験の持続期間中、この温度に維持した。メタクリル系モノマーでは、表2に報告した反応温度は還流時のものであった:この実験設備では明らかに反応器内で少量の圧力降下が引き起こされ、これにより、このモノマー(および任意選択で溶媒)の還流が、報告されている常圧でのその沸点よりわずかに低い温度で引き起こされた。
【0194】
変換率(c)を重量測定により、0時間後、0:15時間の一定間隔で(0時間は、重合混合物の内部温度が意図した反応温度より約10度低くなった時間を自由裁量で選択する)、使い捨てシリンジによって約2~3mLのアリコートを抜き出すことにより求めた。一般に、モニタリングは、重合混合物の粘度増大によって代表的な試料採取が妨げられるまで継続した。試料はすべて、重量が一定になるまで、60℃に維持した通気炉内で乾燥させた。
【0195】
重合が制御状態である場合、変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、数平均分子量であるMも、変換率とともにそのように増大する(関連する実施例については図1および2参照)。時間に対する<ln 1/(1-c)>のプロットの線形領域から、重合の一次速度定数kapp(h-1)を得た(表1~2参照)。この定数により、高い変換率を得るために必要とされるバッチ時間の即座の評価が可能である:すなわち、<ln 1/(1-c)>が3.0~3.5の値は、それぞれ95~97%を超える変換に相当する。
【0196】
変換率から、調節剤化合物の効率100%と仮定して線状ポリマーの理論数平均分子量Mn,calc linを計算した。論考するように、スチレンの重合およびスチレンとのメタクリル系の共重合では、実測値のMn,calc linに対するMの比が1より(有意に)小さいことは、生成したポリマーの環状の性質の証拠、したがって、この作製方法が新規な方法(本特許において擬環拡大重合(P-REP)と称する)である証拠と解釈され得る。
【0197】
対照的に、以下の比較例に記載のような、線状ポリマーを作製するための充分に精密なニトロキシド媒介性重合(NMP)方法では、Mn,calc linに対するMの比は(わずかに)1より大きい:開始剤の効率は、一部の少量の調節剤化合物が該方法の開始時に消費され、安定ラジカル効果(PRE)-終結を抑制する成長に有利なニトロキシド余剰の低減が確立されるため100%より低い。
【0198】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるポリマー特性評価のため、約0.3w%のトルエンを含むTHFにmLあたり約2.4mgの乾燥ポリマーを溶解させ、このようにして得られたポリマー溶液をバイアル内に、Acrodisc(登録商標)シリンジフィルター(ナイロン膜;細孔径0.2μm)を用いて濾過することにより試料を調製した。SECのための設備は、ポンプ、示差屈折率検出器(Waters 2410)、および直列の3つのカラム(Styragel HR2、HR4およびHR6、細孔径は10~10Åの範囲)からなるものであった。SEC解析は35℃で、THFを溶媒として用いて1mL/分の流速で行なった。較正のため、低い多分散指数(PDI)の一組の線状ポリスチレン(PS)標品を使用した。ユニバーサル較正を適用し、以下のMHS定数:α 0.704およびK 15.8×10-5dL.g-1(PS)およびα 0.69およびK 12.2×10-5dL.g-1(pMMA)(Mori,S.and Barth,H.G.Size Exclusion Chromatography,Springer,1999,p.201参照);ならびにα 0.714およびK 9.7×10-5dL.g-1(pEMA,30℃;Hutchinson,R.A.et al.Macromolecules 1997,30,3490-3参照)を使用した。
【0199】
重合手順およびその後のSECによる解析のロバスト性を、塊状の線状のスチレン重合体を112℃で流し、調節剤として2-((tert-ブチル(1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル)アミノ)オキシ)-2-メチルプロパン酸(別名BlockBuilder(登録商標)MA,BBと略記)を使用することにより検証した。これらの結果を以下に実施例37(比較例)として含める。
【0200】
スチレンの精密擬環拡大重合(P-REP)
表1(実施例38~50)に、調節剤として式(8A)のアルコキシアミンまたは式(1C)のニトロンによって制御され、環状ポリスチレン(cPS)を作製するための1-置換型ビニルモノマーであるスチレン(2;R=Ph)の新しい擬環拡大重合(P-REP)方法の製法および結果を開示する。以前から知られている2種類のアルコキシアミン(上記に比較例23および24として含めた)では、明確に規定されるcPS(独占的)を作製することができず、したがって比較例である(実施例51および52)。
【0201】
本実施例の結果は、線状PSを得るためのニトロキシド媒介性重合(NMP)の調節剤としてのアルコキシアミンである2-((tert-ブチル(1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル)アミノ)オキシ)-2-メチルプロパン酸(BBと略記)の既知の使用を記載した比較例37のものと明白に異なる。実施例37により、さらに、本明細書で使用した重合およびSEC解析の一般的な手順がロバストであることが確立される。
【0202】
実施例37(比較例):調節剤としてBBを用いた112℃でのスチレンの塊状NMP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、一方、数平均分子量(M)は変換率とともに線形に増大し、多分散指数(PDI)は限界値1.10まで急速に低下した(図1)。したがって、アルコキシアミン調節剤BBによって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であった。実施例37の結果は文献の前例と整合している(例えば:Nicolas,J.et al.Macromol.2004,37,4453-63参照)。
【0203】
重合全体を通して、Mは、Mn,calc linよりも約4~5%高かった(ニトロキシド媒介性重合(NMP)方法における重合開始時の一部終結で安定ラジカル効果(PRE)-終結を抑制する成長に有利なニトロキシド余剰の低減が確立されることによって引き起こされた)。この場合も、この所見は文献の前例と整合している。
【0204】
11300Dおよび27400Dを有する試料でのレオロジーの測定により、各場合において、ゴム状態での損失弾性率(G’)は、線状PS鎖について予測されたとおり、2乗に対する度数(frequency to the power 2)に比例することが明らかになった。
【0205】
実施例38:調節剤として実施例14のアルコキシアミンを用いた122℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、一方、Mは変換率とともに線形に増大し、PDIは限界値1.15まで低下した(図1)。したがって、実施例14のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であった。
【0206】
比較例37の結果とは対照的に、この重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より有意に小さかった。したがって、このようにして作製されたポリスチレンは線状ポリマーではなかった。
【0207】
見かけM6000Dおよび20200Dを有する試料でのレオロジーの測定により、各々について、ゴム状態での損失弾性率(G’)は1.5乗に対する度数に比例することが明らかになった。これにより、このようにして作製されたポリスチレンは、独占的でないにしてもほとんどが環状(cPS)であるため、比較例37のものと区別される(Santangelo,P.G.et al.Macromolecules 2001,34,9002-5参照)。そのため、実施例38は、この環状ビニルポリマーの新規な制御型合成の最初の成功裡のケースを表し、これを本特許において擬環拡大重合と称する。
注:環状PSの流体力学的容積は、同じ鎖長のその線状対応物よりも0.71倍小さい(Roovers,J.In Cyclic Polymers;Semlyen,J.A(Ed.);Kluwer,2.Ed.,2000;pp.347-84参照)。Mn,calc linに対する見かけMの比をPDIで割り算した場合、実施例38のほとんどの試料で約0.71の比が得られる。これにより、さらに、存在しているほとんど(すべてではないにしても)のポリマーの性質が環状であることが確認される(Mn,calc linの上記の定義はPDIが1.00を含意しているため、この補正は正当化される)
【0208】
実施例39:調節剤として実施例28のニトロンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例28のニトロン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。実施例39においてより低温で補正した場合、実施例38の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
【0209】
実施例40:調節剤として実施例29のニトロンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例29のニトロン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。その他の点は同一の条件下では、実施例39の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
【0210】
実施例41:調節剤として実施例14のアルコキシアミンを用いた126℃でのスチレンの溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に1.2の値(すなわち約70%変換)まで増大した;その後、これは加速を示した。依然として、Mは変換率とともに線形に増大し(少なくとも92.5%変換まで)、PDIは最終値1.09まで低下した(図1)。したがって、実施例14のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの溶液状での重合は制御状態であった。
実施例38の場合と同様、重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より充分に下であった。したがって、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0211】
実施例42:調節剤として実施例11のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例11のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。
52.49%変換における見かけMは16350D(PDI 1.70)であり、一方、18505Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1より充分に下であったため、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0212】
実施例43:調節剤として実施例17のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例17のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。実験誤差の範囲内およびその他の点では同一の条件下で、実施例42の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
52.63%変換における見かけMは15795D(PDI 2.30)であり、一方、18514Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1より充分に下であったため、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0213】
実施例44:調節剤として実施例25のニトロンを用いた112℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例25のニトロン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。実施例44においてより低温で補正した場合、実施例43の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
【0214】
実施例45:調節剤として実施例26のニトロンを用いた112℃でのスチレンの溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例26のニトロン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの溶液状での重合は制御状態であることが示された。実施例45においてより低濃度で補正すると、実施例42の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
【0215】
実施例46:調節剤として実施例12のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例12のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。
53.91%変換における見かけMは17455D(PDI 1.68)であり、一方、18955Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1より下であったため、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0216】
実施例47:調節剤として実施例13のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例13のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。
52.82%変換における見かけMは13192D(PDI 1.43)であり、一方、18541Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1より充分に下であったため、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0217】
実施例48:調節剤として実施例27のニトロンを用いた120℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例27のニトロン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。実施例48においてより高濃度で補正すると、実施例47の場合と同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)がみられた。
【0218】
実施例49:調節剤として実施例21のアルコキシアミンを用いた112℃でのスチレンの塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例21のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの塊状での重合は制御状態であることが示された。
70.59%変換における見かけMは16849D(PDI 1.78)であり、一方、24662Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1より充分に下であったため、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0219】
実施例50:調節剤として実施例21のアルコキシアミンを用いた122℃でのスチレンの溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に1.2の値(すなわち約70%変換)まで増大した;その後、これは加速を示した。依然として、Mは、全範囲にわたって変換率とともに少なくとも97.10%変換まで線形に増大し、PDIは最終値1.33まで低下した(図1)。したがって、実施例21のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるスチレンの溶液状での重合は制御状態であった。重合のほぼ全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より小さかった。したがって、このようにして作製されたPSは環状であり、その作製方法は、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例であった。
【0220】
実施例51(比較例):調節剤として実施例23のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大した。しかしながら、Mは、約35%変換まで17~20kD、すなわち、Mn,calc linよりはるかに上(PDIは1.3前後)でいくぶん定常的であった。Mは約35%変換より上には増大しなかったが、分布のブロードニングが併存した。したがって、このようにして作製されたPSは環状ではなく、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例ではなかった。
【0221】
実施例52(比較例):調節剤として実施例24のアルコキシアミンを用いた120℃でのスチレンの塊状重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大した。しかしながら、52.82%変換におけるMは31800D(PDI 3.09)であり、一方、18402Dが計算値(Mn,calc lin)であった。比M/Mn,calcが1よりはるかに上であるため、作製されたPSは(独占的に)環状ではなく、したがって、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)方法の一実施例ではなかった。
【0222】
実施例37~52の結果の考察(表1および図1
線状PSを得るために調節剤として2-((tert-ブチル(1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル)アミノ)オキシ)-2-メチルプロパン酸(BBと略記)を使用するニトロキシド媒介性重合(NMP)である比較例37の結果は文献の前例に従うものである。したがって、この結果により、重合手順およびその後のSECによる解析がロバストであることが確立される。したがって、式(8A)のアルコキシアミン調節剤および式(1C)のニトロン調節剤を使用した場合の実験38~50の予想外の結果は人為的ではない。
【0223】
実施例14のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)はBBと構造的に関連している。その違いは、BBにおけるジエトキシホスホリルの置き換えがいくぶん小さいメトキシカルボニルによるもの、特に、脂肪族部分におけるシアノの導入(式(8A):Z=-CN)であることである。酸素における置換基の違いは、文献により、どちらの型もラジカル重合において速やかな解離および開始を助長するものであることが知られているため、全く重要でない。
【0224】
比較例37と同様、スチレンの塊状重合において実施例14のアルコキシアミン調節剤を使用した場合(実施例38)、変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、Mも変換率とともに増大するが、PDIは最終値1.15よりわずかに高い値まで低下する。驚くべきことであり予想外なことに、実施例38では、Mn,calc linに対する見かけMの比は重合全体を通して1より有意に小さく、これは比較例37の結果(1より上の比)とは著しく対照的である。したがって、実施例38に従って作製されるポリスチレンは線状にはなり得ない。レオロジーの測定により、重合全体を通して存在するポリマー、したがって、このようにして作製される最終ポリマーは、独占的でないにしてもほとんどが低PDIの環状ポリスチレン(cPS)であることが確立された。そのため、その製造は、このビニルモノマーの、前例がない充分に精密擬環拡大重合(P-REP)方法の最初の例である。
【0225】
次いで、見かけMとMn,calc lin間の不一致は容易に説明される。環状ポリマーの方が流体力学的容積が小さいため(Roovers,J.In Cyclic Polymers;Semlyen,J.A(Ed.);Kluwer,2.Ed.,2000;pp.347-84参照)、環状PSは同じ重合度のその線状対応物より後に溶出される。SECにおけるユニバーサル較正は線状PS標品に基づいたものであるため、cPSのMは真の値の70~75%にしか帰属されない。式(8A)の他のアルコキシアミンを、スチレンを塊状で重合するために使用した場合、同様の挙動を示し、したがって、これは、環状ポリスチレンを作製するためのその普遍性および多用途性を、精密擬環拡大重合(P-REP)方法において示す。
【0226】
N-置換基Rとして第3級アルキル(t-Bu)を有するが、ここではRとして-CNを有する式(8A)のアルコキシアミンの3つのさらなる実施例は、時間に対する変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)のプロットにおける線形性および1より充分に小さいMn,calc linに対する見かけMの比を示す。したがって、このようにして作製されたポリマーは環状であり、その作製は、精密擬環拡大重合(P-REP)方法によるものである。実施例38の場合と同様に、実施例42および46では、式(8A)においてZとして-CNを有するアルコキシアミンを使用する。実施例47により、この方法は、Zとしてエステル基(COMe)を有する式(8A)のアルコキシアミンを用いて等しく良好に実行され得ることが教示される。
【0227】
スチレンの塊状重合に関する2つのさらなる実施例は、本発明の範囲に、N-置換基Rとして第2級アルキル(c-Hex)を有する式(8A)のアルコキシアミン:-CNを有する式(8A)のアルコキシアミンが使用された実施例43およびRとしてフェニルを有する実施例49もまた包含されることを示す。
対照的に、アルコキシアミンにおいてN-置換基としてベンジル(比較例51)またはフェニル(比較例52)の場合では、(明確に規定される)環状ポリマーは作製されない。
【0228】
重合全体を通して存在するポリマーが環状の性質であることは、環状の開始アルコキシアミン種が速やかに定量的にインサイチュで、式(8A)のアルコキシアミンから、おそらく対応する式(1C)のニトロンを介して、方法の開始時に形成されることを要する。これがインサイチュで形成されたら、式(1C)のニトロンがニトロン炭素においてスチレンのオリゴマー化を開始させ:このようにして形成されたジラジカル種は、各々、1つのニトロキシドラジカル末端と1つのスチレンラジカル末端を有し、主として分子内結合を示し、インサイチュで、式中のRおよびRが各々、(第1級)CHであり、CHPh(CHCHPh)鎖によって1つの環に連結された式(1A)の環状のモノアルコキシアミンオリゴマー種をもたらす。
【0229】
ある程度は、2つ(3つなど)のジラジカル種のヘッドトゥーテールカップリングによる分子間結合も起こり、単環式ジ(トリなど)アルコキシアミンオリゴマーが得られる。したがって、最適未満の制御のサインとしてではなく、このような種が形成される程度は、本明細書に開示の一部の実施例においてなぜPDIが1.5より上であったのかを説明している。この考えの裏付けは、塊状および溶液状でのS P-REPの結果を比較した場合に見出される(実施例38と41;49と50):溶液状では低PDIが得られ、これは、式(1C)のニトロン調節剤を経由する環状の開始アルコキシアミン種への式(8A)のアルコキシアミン調節剤のインサイチュ転換が、この場合では、より低濃度で起こり、したがって、分子間結合よりも環状のモノアルコキシアミンが得られるなおさらなる分子内結合の方が有利となり、環状のジ(トリなど)アルコキシアミンオリゴマー種が得られるためである。次いで、式(1C)のニトロンがおそらくインサイチュで、式(8A)のアルコキシアミンの式(1A)の環状アルコキシアミンオリゴマーへの転換の中間体として形成され次いで、これが擬環拡大重合(P-REP)を開始させて制御する。この考えを支持して、式(1C)のニトロンは実際に、時間に対する変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)のプロットにおける線形性(表1:実施例39、40、44、45および48)によって証明されるように、スチレンの重合を開始させて制御し得る。それに加えて、濃度および/または温度の差に対して補正した場合、式(1C)の各ニトロンは、式(8)のそのアルコキシアミン対応物がスチレンのP-REPにおいてそうであるように、同様の重合一次速度定数kapp(時間-1)を示す(表1の以下の実施例のペア:39と38、45と42、44と43、48と47を参照のこと)。式(8A)のアルコキシアミン(式(1C)のニトロンを経由する式(1A)の環状アルコキシアミンオリゴマーへのインサイチュ転換による)が、本明細書に開示のMおよびPDIに対して制御されたレベルを有する環拡大重合(REP)方法を開始させて制御することができ、したがって、独占的でないにしてもほとんどが環状の性質のポリマーの入手をもたらすということは前例がない。実際、これは、事前に形成させた環状アルコキシアミンをREPの制御に使用することが記載された先行技術のあらゆる報告例に基づくと、完全に予想外である(Ruehl,J.et al.J.Polym.Sc.,Part A:Polym.Chem.2008,46,8049-69;Narumi,A.et al.Ibid.2010,48,3402-16;Nicolaye,R.et al.Macromol.2011,44,240-7参照)。
【0230】
明確に規定される線状ポリマーを作製するためのフリーラジカルニトロキシド媒介性重合(NMP)の2つの固有の特徴が、全体を通して、重合および鎖間のニトロキシド交換反応の開始時の安定ラジカル効果(PRE-終結を抑制する成長に有利なニトロキシド余剰の低減)を確立している。このニトロキシド余剰の低減は、PREの確立において一部終結によってそのまま付加されるか、インサイチュで生じるかのいずれかである。
【0231】
これらの同じ特徴により、任意の環状アルコキシアミン系を用いて明確に規定される環状ポリマーを作製するためのフリーラジカルNMP-型の環拡大重合(REP)法を設計した場合、完全な不成功がもたらされる。PREを確立する開始時の結合による終結により、少量割合の線状のジニトロキシドがもたらされる。次いで、ニトロキシド交換反応により、環のオリゴマー化および(最初に形成された少量割合の線状のジニトロキシドにより)有意な重量分率の非常に高い分子量の線状ポリマーがもたらされる。この結果は、変換率から計算されたものをはるかに超えるMおよび高PDIを有する環状ポリマーと線状ポリマーの明確に規定されないブレンドである:構成の完全性の低下は低変換率のときであっても優勢である(Nicolaye,R.et al.Macromol.2011,44,240-7の図5および表2参照)。したがって、精密フリーラジカルNMP-型のREP法によって環状ビニルポリマーを作製することはできないと結論付けなければならない。
【0232】
対照的に、本明細書に開示のスチレンのP-REPに関する実施例では、構成の完全性に対する制御は全体を通して維持されている:Mは一貫して、線状の鎖での変換率から計算されたものより小さいままであり、90%を超える変換率の場合であってもブロードニングの兆候はみられない(実施例41と50参照)。その結果、交換反応は全く役割を果たし得ず、したがって、本明細書に開示の環状ビニルポリマーを作製するためのP-REP法における成長機構は、フリーラジカルNMP-型のものではあり得ないが、ある種の挿入機構を伴っているはずである。
【0233】
本明細書に開示の式(8)のアルコキシアミンおよび式(1C)のニトロンからインサイチュで形成される環状アルコキシアミンオリゴマーの特有の特徴はZ置換基の存在である。先行技術のすべての環状アルコキシアミンにはないため、この基が明らかに、本明細書に開示の方法における制御の確立において重要な役割を果たしている。
【0234】
この考えは、実施例34~36に従って調製されたニトロンを用いた、溶液(溶媒としてトルエン,65% R+M,0.004 R/M,112℃)中でのn-アクリル酸ブチル(2,BA:R=C(O)OBu)のP-REPでの結果によって確証される。実施例34のニトロン(R=sec-アルキル、R=R=H、R=Z=C(O)OMeである式(1C)の調節剤)はBAの溶液重合を制御できる(kapp 0.385時間-1)が、比較例35(エステル基がない)および36(エステル基の鎖内に1個多くの炭素を有する)のニトロンは、それぞれ2.0%および1.7%の限定的な変換率を示すため、明らかにそうでない(注:ここでは、Sの自己開始による変換に対する歪曲性の寄与(あれば)を排除するためにBAを使用した)
【化37】
【0235】
これまで、種々の最終使用用途における線状対応物と比べたときの環状ビニルポリマーの潜在的利点は、ひどく高い生産コストのため利用されていなかった。これまで利用可能な唯一の方法は、線状物の混在の程度を最小限にするために分子内反応に有利な条件下での、事前に形成した線状ポリマーのα,ω-末端カップリングによるものである(概説については、Jia,Z.et al.J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2012,50,2085-97参照)。
【0236】
近年、進歩はしているが、これまで知られている方法論はすべて、依然として、以下の欠点短所:
-プロセスが多工程、複雑および時間のかかる手順:線状ポリマーの合成、鎖末端転換およびα,ω-末端カップリングによる閉環である;
-閉環工程では、多くの場合で反応時間が長く、(超)高希釈が常に必要とされ;例えば、固形分は、わずか約20~30の重合度を有するポリマーで、典型的には良くて約1%(多くの場合ではずっと低い)(ほとんどの工業的用途ではより高分子量が必要とされ、なおさらなる希釈が必要とされる);
-関与する工程のいくつかの後で、a.o.鎖末端転換およびα,ω-末端カップリングの両方で使用された大過剰の試薬ならびに後者の工程で使用された莫大な量の溶媒を除去するために精製が必要とされる;これは、コストの観点ならびに作業上および環境面の観点の両方から明らかに望ましくない
のうちの少なくとも1つ、だが多くの場合はすべてに悩まされている。
【0237】
対照的に、本明細書に開示の方法では、存在するこのような制限のすべてが解決される。例えば、本明細書に開示の実施例41では、独占的でないにしてもほとんどが環状ポリスチレンであり、300を超える重合度および低PDIを有するポリマーが、高変換率で高固形分の溶液環拡大重合方法において1工程で4時間のバッチ時間にて作製され、最終精製として通常の揮発性物質除去が必要とされるにすぎない。
【0238】
したがって、ここに、環状ビニルポリマーを業界実務と充分に適合性の様式で作製することができる。本明細書に開示の式(8A)および(1C)の調節剤は安価で容易に入手可能な原料から得られ得るため、工業的規模でのその適用により、ここに、費用効果のある様式での環状ビニルポリマーの作製が可能になり、そのため、最終使用用途における環状ビニルポリマーの充分な可能性を充分に利用することができる。
【0239】
この目的のためには、一部の塊状REP法でみられた高PDIは、本発明の限定としていかなる様式でもみられてはならない:本目的がPDIについて気にしない環状ビニルポリマーを調製することであるならば、調節剤として本明細書に開示の式(8A)のアルコキシアミンまたは式(1C)のニトロン(その組合せを含む)を使用する塊状ビニルREPは実行可能な方法である。業界実務では、これは、分散重合法または(ミニ)エマルジョン重合法によるミニ塊状系においてより容易に行なわれ得る。
【0240】
他方で、本目的が低PDIの環状ビニルポリマーを調製することであるならば、当業者はこれを、本明細書において既に示しているように、実験パラメータ、例えば濃度および温度を適正に調整することによって達成することができよう(実施例38と41;実施例49と50を比較)。
【0241】
あるいはまた、特に式(1C)のニトロン調節剤を使用した場合に好適には、当業者は、この方法を2段階で行なうことができる:第1段階では、式(8A)のアルコキシアミンまたは式(1C)のニトロンの溶液を一部の少量のモノマーと、環状のモノアルコキシアミンオリゴマーのインサイチュ形成が(ほぼ)排他的に起こるような条件下で短時間、接触させる。このようにして得られた環状プレポリマーに、次いで第2段階においてさらなるモノマーを添加し、このとき、当業者は、PDIに対して適切な制御を伴って環状プレポリマーを目的の分子量まで成長させることができる。または、任意選択で、当業者は、得られた環状プレポリマーのモノマー中の溶液を用いて、REPを、例えば分散重合法または(ミニ)エマルジョン重合法によるミニ塊状系にて実施する場合、溶媒の使用を省くこともできる。
【0242】
メタクリル系の精密線状単独重合および擬環拡大共重合
表2(実施例55~59)は、式(8A)のアルコキシアミンを用いて線状ホモポリマーを形成するための1,1-二置換型ビニルモノマー(3)であるメタクリル酸メチル(R=C(O)OMe;R10=Me;MMA)およびメタクリル酸エチル(R=C(O)OEt;R10=Me;EMA)の単独重合方法の製法および結果を示す。一部の式(8A)のアルコキシアミン(実施例53および54参照)は制御状態でなく、したがって比較例である。
【0243】
少量重量分率のスチレンをメタクリル系の重合製法に含めると、線状ホモポリマーの作製の先行技術のほとんどのアルコキシアミンで示される制御の欠如を解決することが知られているストラテジーもまた、式(8A)のアルコキシアミンを使用した場合、成功裡であるが、先行技術とは対照的に、すべての式(8A)のアルコキシアミンで環状ポリマーが生成する(実施例60~65)。したがって、これらの実施例は本明細書に開示の精密擬環拡大重合(P-REP)法のさらなる実例を表す。
【0244】
実施例53(比較例):実施例14のアルコキシアミンを用いた97℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大するのではなく、限界値である約31%まで急速に上昇した(図2)。これにより、溶液状でのMMAの単独重合は実施例14のアルコキシアミンによって開始されるが制御されないことが示された。
【0245】
実施例54(比較例):実施例13のアルコキシアミンを用いた97℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大するのではなく、限界値である約39%まで急速に上昇した。これにより、MMAの単独重合は実施例13のアルコキシアミンによって開始されるが制御されないことが示された。
【0246】
実施例55:調節剤として実施例11のアルコキシアミンを用いた97℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、Mは変換率とともに線形に増大し(図2)、実施例11のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される溶液状でのMMAの単独重合は制御状態であることが示された。初期では1.3前後であるが、変換が約40%を超えると限界値1.5までのPDIの進展が起こった。比M/Mn,calcが重合全体を通して1より上であったため、このようにして作製されたPMMAは線状であった。
【0247】
実施例56:調節剤として実施例12のアルコキシアミンを用いた97℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、Mは変換率とともに少なくとも97.09%変換まで線形に増大し(図2)、実施例12のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される溶液状でのMMAの単独重合は制御状態であることが示された。初期では1.2前後であるが、変換が約70%を超えると限界値1.5までのPDIの進展が起こった。比M/Mn,calcが重合全体を通して1より上であったため、このようにして作製されたPMMAは線状であった。
【0248】
実施例57:調節剤として実施例17のアルコキシアミンを用いた97℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例17のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される溶液状でのMMAの単独重合は制御状態であることが示された。濃度の違いを考慮すると、この実施例に開示した実施例17のアルコキシアミン調節剤によって媒介されるMMAの溶液重合は、実施例55に開示した実施例11のアルコキシアミンによって媒介されるものよりも有意に遅かった。これは、実施例17のアルコキシアミンにおける立体障害の低減を反映している。
【0249】
実施例58:調節剤として実施例17のアルコキシアミンを用いた108℃でのEMAの塊状単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、実施例17のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるEMAの塊状単独重合は制御状態であることが示された。
【0250】
実施例59:調節剤として実施例21のアルコキシアミンを用いた98~9℃でのMMAの溶液単独重合
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、Mは変換率とともに線形に増大し(図2)、実施例21のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される溶液状でのMMAの単独重合は制御状態であることが示された。初期では1.35まで低下したが、変換が65%を超えると限界値1.5までのPDIの進展が起こった。比M/Mn,calcが重合全体を通して1より上であったため、このようにして作製されたPMMAは線状であった。
【0251】
実施例60:調節剤として実施例14のアルコキシアミンを用いた96℃でのMMA-S(4.4w%)の塊状P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、Mは変換率とともに線形に増大し、4.4w%のスチレンを含有しており、実施例14のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるMMAの塊状重合は制御状態であることが示された。
【0252】
重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より小さかった。したがって、このようにして作製されたコポリマーは主として環状であり、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法の一実施例であった。
【0253】
実施例61:調節剤として実施例14のアルコキシアミンを用いた108℃でのEMA-S(4.5w%)の溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、一方、Mは変換率とともに線形に増大し(図2)、4.5w%のスチレンを含有しており、実施例14のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるEMAの溶液重合は制御状態であることが示された。
【0254】
重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より充分に下であった。したがって、このようにして作製されたコポリマーは主として環状であり、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法の一実施例であった。
【0255】
実施例62:調節剤として実施例21のアルコキシアミンを用いた98~9℃でのMMA-S(4.4w%)の溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、2つの領域(図2):約65%変換までのMMA-S共重合およびそれ以降のMMA単独重合が示された。Mは変換率とともに少なくとも90%まで線形に増大し(図2)、実施例21のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される溶液重合は制御状態であることが示された。
【0256】
重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より小さかった。したがって、このようにして作製されたポリマーは主として環状であり、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法の一実施例であった。
【0257】
実施例60および61ならびに上記に開示したスチレンのP-REPの実施例と比較すると、M/Mn,calc linは有意に小さく、したがって、見かけMはさらにいっそう小さくなった。本発明のP-REP法はある種の挿入機構を伴うものであるため、このようにして作製された環状のPMMA(コ)ポリマーにおいてある程度のタクティシティ富化が起こったのであろう:そのため、これは、流体力学的容積、したがって見かけMのさらなる低下の説明となり得よう。
【0258】
実施例63:調節剤として実施例21のアルコキシアミンを用いた98~9℃でのMMA-S(1.1w%)の溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、2つの領域:約50%変換までのMMA-S共重合およびそれ以降のMMA単独重合が示された。Mは変換率とともに少なくとも90%まで線形に増大し、実施例21のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介されるこの溶液重合は制御状態であることが示された。
【0259】
重合全体を通して、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より小さかった。したがって、このようにして作製されたポリマーは主として環状であり、その作製方法は本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法の一実施例であった。
【0260】
実施例60および61ならびに上記に開示したスチレンのP-REPの実施例と比較したが、実施例62の場合と同様に、M/Mn,calc linは有意に小さく、したがって、見かけMはさらにいっそう小さくなった。本発明のP-REP法はある種の挿入機構を伴うものであるため、このようにして作製された環状のPMMA(コ)ポリマーにおいてある程度のタクティシティ富化が起こったのであろう:そのため、これは、流体力学的容積、したがって見かけMのさらなる低下の説明となり得よう。
【0261】
実施例64:調節剤として実施例11のアルコキシアミンを用いた98~9℃でのMMA-S(4.0w%)の溶液P-REP
変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は時間とともに線形に増大し、2つの領域:約35%変換までのMMA-S共重合およびそれ以降のMMA単独重合が示された。注目すべきことには、Mは変換率とともに線形に増大したが、2つの相違する領域においてもそうであった(下記参照)。それでもなお、この組合せの結果では、やはり、実施例11のアルコキシアミン調節剤(本明細書に開示のもの)によって媒介される4.0w%スチレン含有MMAの溶液重合は制御状態であることが示された。
【0262】
注目すべきことには、Mは2つの相違する領域:約25%変換までの領域と25%以降の領域で変換率とともに線形に増大し、各場合において、1より有意に大きいMn,calc linに対する見かけMの比が示された;が、PDIは第1領域での方がいくぶん広く(約1.2~1.3)、第2領域全体では約1.1と低かった。
【0263】
実施例62および63の場合と同様、おそらく、この環状の(コ)ポリマーにおけるタクティシティ富化がこの特異な挙動の核心である。ここで、長いPMMAホモポリマーセグメントおよびおそらくこのセグメントにおける高レベルのタクティシティ富化のため、おそらく鎖間会合が起こり、SECに使用した溶媒(THF)中で持続した。低PDIに鑑みると、会合した鎖の数は充分に規定されると思われ、実施例64において一時的に4:M/4Mn,cal linとなり、次いで、実施例64におけるおそらく高レベルのタクティシティ富化により実施例62および63のM/Mn,cal linよりいくぶん小さくなる。
【0264】
したがって、この解釈に鑑み、先の実施例から類推して、このようにして作製されたポリマーは、やはり、主に環状であるとみなされ、その作製方法は本明細書に開示の擬環環拡大重合(P-REP)法の一実施例であるとみなされた。
【0265】
実施例53~64の結果の考察(表2および図2
先行技術のほとんどのアルコキシアミンはメタクリル系モノマーの単独重合を制御することができない。概説については、Nicholas,J.et al.(Progr.Polym.Sc.2013,38,63-235)参照)。例外は、N-置換基として芳香族基を有するものである(Guillaneuf,Y.et al.Macromolecules 2007,40,3108-14;Greene,A.C.et al.Ibid.2010,43,10320-5参照)。しかしながら、このようなものは、その製造コストがひどく高く、重合速度が遅すぎ、生成するポリマーが、含まれているアルコキシアミン(の断片)のため着色しており、したがって使用準備済または配合準備済でないため、実用的工業的関心がもたれていない。
【0266】
ごく最近、Detrembleur et al.(Polym.Chem.2014,5,335-40)により、N-置換基として芳香族基を有するものではないアルコキシアミンがMMA単独重合を制御できるという最初の例が報告された。しかしながら、インサイチュNMP法であるため、この方法は、前述のすべての制限に悩まされる(Sciannamea,V.et al.Chem.Rev.2008,108,1104-26)。したがって、存在するこのような制限が解決されるアルコキシアミンの必要性が依然として存在している。
【0267】
式(8A)のアルコキシアミンは、N-置換基Rとして芳香族基を有するものではないが第3級アルキル(例えば、t-Bu)または第2級アルキル(例えば、c-Hex)のいずれかを有している。したがって、驚くことではないが、実施例14のアルコキシアミン(本明細書に開示のもの)はMMA単独重合を開始させるが制御はしない(表2の実施例53;図2参照)。同様の結果が、実施例13のアルコキシアミンを使用した場合でも得られる(実施例54)。
【0268】
したがって、他の式(8A)のアルコキシアミンがメタクリル系モノマーの単独重合を制御することは驚くべき予想外のことである(実施例55~59;図2参照)。さらに、これらは、高い変換率に至るまで、先行技術のN-アリール系で報告されているものをはるかに超える速度で制御する。
【0269】
成功裡の式(8A)のアルコキシアミンの特有の特徴はZ置換基として-CNの存在であり:先行技術のアルコキシアミンにはなく、これが、線状ポリマーを得るためのメタクリル系モノマーの単独重合においてなんらかの緩和性の影響を有しているはずである。式(8A)のアルコキシアミンの第3級アルキルRとしてt-Buでは、Zとしての-CNは、Rとして-CNではこの影響を及ぼすことができる(実施例11および12の場合)が、エステルではできない(実施例14の場合;しかしながら、(1A-3)のRとして立体的にわずかにあまりきつくない1-シアノシクロヘキシルではできる)。式(8A)のRとしてc-Hexでは、Zとしての-CNは、実施例17のアルコキシアミン(-CNを有する)および実施例18のもの(フェニルを有する)はどちらもメタクリル系モノマーの単独重合を制御することができるため、Rの性質に関係なくこれができるようである。
【0270】
本明細書に開示のように、式(8A)のアルコキシアミン調節剤は安価で容易に入手可能な原料から容易に得られ得る。したがって、その使用により、工業的規模でのアルコキシアミンの適用において存在している制限が解決され得る、すなわち、線状ポリマーを作製するためのメタクリル系および他の1,1-二置換型モノマーの単独重合が助長され得る。
【0271】
少量重量分率のスチレンをコモノマーとして含めることにより、メタクリル系の単独重合ではできないアルコキシアミンに対する制御が確立される(Charleux,B.et al.Macromolecules 2005,38,5485-92参照)。他のコモノマーもこの目的に使用されている(Nicholas,J.et al.Progr.Polym.Sc.2013,38,63-235参照)。
【0272】
このアプローチを実施例14のアルコキシアミンで使用した場合、この場合は、実施例60および61によって証明されるように、制御が実際に確立され得る(表2;図2参照):実施例53の結果とは対照的に、変換率(<ln 1/(1-c)>として示される)は、ここでは時間とともに線形に増大し、Mも変換率とともに増大する。驚くべきことに、すべての先行技術とは対照的だがスチレンのP-REPの実施例38および41(本明細書に開示のもの)の場合と同様:実施例14のアルコキシアミンを実施例60および61のメタクリル系の共重合に使用した場合、Mn,calc linに対する見かけMの比は1より充分に小さい。したがって、このようにして作製されたコポリマーは主として環状である。
【0273】
それに加えて、線状ポリマーを得るためのメタクリル系モノマーの単独重合を制御する式(8A)のアルコキシアミン(上記参照)では、少量重量分率のスチレンを含めた場合も主として環状のコポリマーが生成する(実施例62~64,図2参照)。したがって、式(8A)のアルコキシアミンはすべて、スチレンとのメタクリル系の共重合に使用した場合、主として環状のコポリマーが生成する。
【0274】
メタクリル系の単独重合を制御することができる式(8A)のアルコキシアミンでは、スチレン対アルコキシアミンの比が約2.5対1(実施例63)で充分であり得る。実際には、より多くの量が得策のようであり、これが、このプロセスの開始時の不飽和PMMAオリゴマーの形成を抑制するようであり(付加-開裂連鎖移動剤としての機能を果たすその能力によって)(Moad,G.et al.In The Chemistry of Radical Polymerization;Elsevier,2.Ed,2006;pp321-2参照)、その存在により、このプロセスにおいてその後、いくらかの環の切断がもたらされ、したがって、最終の環状ポリマー中の線状生成物の混在がもたらされ得るのかもしれない。
【0275】
本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法において、このようにして作製される環状(コ)ポリマーのタクティシティ富化が起こり得るということは、初めて示されたものである(実施例62~64参照)。したがって、ビニル(コ)ポリマーの環状の性質の結果として線状対応物と比べたときの潜在的利点に加えて、本明細書に開示の擬環拡大重合(P-REP)法におけるメタクリル系モノマーの使用により、タクティシティ富化によってもたらされる潜在的利点が最終使用用途において活用される付加的な好機が提供される。
【0276】
実施例62により、約250の重合度を有し、大部分がメタクリル系モノマーからなるかかる環状コポリマーの作製は、溶液法で55%ポリマー含有量にて、4時間のバッチ時間で98%の(外挿)変換率にて、最終精製工程として通常の揮発性物質除去が必要とされるにすぎず、したがって業界実務と充分に適合性の様式で実施可能であり得ることが明らかである。式(8A)および(1C)の調節剤は安価で容易に入手可能な原料(本明細書に開示)から容易に得られ得るため、工業的規模でのその適用により、ここに、費用効果のある様式でのこの型の環状ビニルコポリマーの作製が可能になる。
【表1-1】
【表1-2】
【表2-1】
【表2-2】
図1
図2