(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】透明AlN焼結体及びその製法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/581 20060101AFI20220221BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C04B35/581
C04B35/645
(21)【出願番号】P 2018558038
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2017045765
(87)【国際公開番号】W WO2018117162
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/025085
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016247874
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
(72)【発明者】
【氏名】小林 博治
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
(72)【発明者】
【氏名】大和田 巌
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/123247(WO,A1)
【文献】特開2005-119953(JP,A)
【文献】特開昭63-134569(JP,A)
【文献】特開昭63-206360(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031510(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581
C04B 35/645
C01B 21/072
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板面がc面であり、アスペクト比が3以上の板状AlN粉末を含むAlN原料粉末に焼結助剤を混合した混合物を成形して成形体を作製する工程であって、前記板状AlN粉末の板面が前記成形体の表面に沿うように前記混合物を成形する第1工程と、
前記成形体の表面を加圧しながら非酸化雰囲気下、前記成形体をホットプレス焼成して配向AlN焼結体を得る第2工程と、
非酸化雰囲気下、前記配向AlN焼結体を常圧焼成して前記焼結助剤に由来する成分を除去することにより透明AlN焼結体を得る第3工程と、
を含む透明AlN焼結体の製法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記板状AlN粉末に含まれる粒子は、凝集せず分離している、
請求項1に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記混合物をシート状に成形したテープ成形体を複数積層して積層成形体とし、
前記第2工程では、前記積層成形体をホットプレス焼成する、
請求項1又は2に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項4】
前記AlN原料粉末は、前記板状AlN粉末のほかに球状AlN粉末を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項5】
前記焼結助剤は、CaとAlとの複合酸化物又は希土類酸化物である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項6】
前記板状AlN粉末の平均厚さは0.05~1.8μmである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項7】
前記板状AlN粉末の平均粒径は2~20μmである、
請求項1~6のいずれか1項に記載の透明AlN焼結体の製法。
【請求項8】
ロットゲーリング法によるc面配向度が70%以上、
0.6mm厚の試料としたときの波長450nmにおける直線透過率が48%以上である、多結晶構造の透明AlN焼結体。
【請求項9】
前記c面配向度が95%以上、前記直線透過率が60%以上である、
請求項8に記載の透明AlN焼結体。
【請求項10】
相対密度が99.1%以上である、
請求項8又は9に記載の配向AlN焼結体。
【請求項11】
Al及び焼結助剤以外で固溶せず粒界に偏析している不純物金属の濃度が40質量ppm以下である、
請求項8~10のいずれか1項に記載の配向AlN焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明AlN焼結体及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明材料としては、透明樹脂、ガラス、石英、透明YAG焼結体、透明ALON焼結体、透明スピネル焼結体などが知られている。しかし、これらの熱伝導率はいずれも30W/mK以下程度であり、透明で高い熱伝導率を有する材料は知られていなかった。一方、AlNは高い熱伝導率を有するため、放熱基板などに用いられているが、一般的な焼結体は不透明であった。AlN焼結体において、不透明である要因としては、(1)気孔、異相、固溶不純物などが存在すること、(2)AlNの結晶構造はウルツ鉱型構造であるため光学的に結晶異方性があり、結晶方位がランダムな焼結体では粒界で複屈折による散乱が生じること、などが挙げられる。
【0003】
近年、光透過性を有するAlN焼結体が開発されつつある。例えば、特許文献1では、金属不純物量、酸素濃度及び密度を制御することにより、全光線透過率が約70%、波長600nmにおける直線透過率が13.5%のAlN焼結体を得ている。また、非特許文献1では、回転磁場中で成形、焼結することにより配向AlN焼結体を作製している。この配向AlN焼結体は、ロットゲーリングを用いたc軸の配向性が0.7程度、波長600nmにおける全光線透過率が60%程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】第29回秋季シンポジウム予稿集、日本セラミックス協会発行、2016年、講演番号3B17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1のAlN焼結体はある程度の光透過性を有しているにすぎなかった。そのため、より透明なAlN焼結体の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、従来と比べてより透明なAlN焼結体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明AlN焼結体の製法は、
板面がc面である板状AlN粉末を含むAlN原料粉末に焼結助剤を混合した混合物を成形して成形体を作製する工程であって、前記板状AlN粉末の板面が前記成形体の表面に沿うように前記混合物を成形する第1工程と、
前記成形体の表面を加圧しながら非酸化雰囲気下、前記成形体をホットプレス焼成して配向AlN焼結体を得る第2工程と、
非酸化雰囲気下、前記配向AlN焼結体を常圧焼成して前記焼結助剤に由来する成分を除去することにより透明AlN焼結体を得る第3工程と、
を含むものである。
【0009】
この透明AlN焼結体の製法では、板状AlN粉末の板面(c面)が成形体の表面に沿うように成形体が成形される。この成形体には焼結助剤が含まれている。この成形体をホットプレス焼成する際、成形体の表面を加圧しながら、つまり成形体の表面と略垂直方向から成形体を加圧しながら、非酸化雰囲気下で成形体をホットプレス焼成する。すると、焼結助剤によって板状AlN粉末を含むAlN原料粉末は焼結が促進される。また、板状AlN粉末の板面(c面)は成形体の表面に沿って並んでいるため、板状AlN粉末がテンプレートとなって焼結が進行する。その結果、c面配向度の高い配向AlN焼結体が得られる。しかし、この配向AlN焼結体は、焼結助剤に由来する成分がAlN焼結粒子同士の間に存在するため透明度が低い。そこで、この配向AlN焼結体を、非酸化雰囲気下、常圧焼成して焼結助剤に由来する成分を除去する。これによって得られるAlN焼結体は、従来と比べてより透明なものとなる。
【0010】
本発明の透明AlN焼結体は、ロットゲーリング法によるc面配向度が70%以上、波長450nmにおける直線透過率が48%以上の多結晶構造のものである。
【0011】
この透明AlN焼結体は、c面配向度が高いため耐プラズマ性や圧電特性に優れる。また、直線透過率が高いため従来に比べてより透明である。更に、高熱伝導率、高屈折率、高結晶性といったAlN固有の特性はそのまま維持している。こうした透明AlN焼結体は、上述した透明AlN焼結体の製法によって好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】TGG法でAlN焼結体を製造する工程の一例を示す説明図。
【
図2】板状AlN粉末の単一粒子の画像を示す写真。
【
図3】板状AlN粉末の凝集粒子の画像を示す写真。
【
図4】板状AlN粉末の単一粒子に微細粒子が付着したものの画像を示す写真。
【
図5】1次焼成後のAlN焼結体断面の反射電子像の写真。
【
図6】2次焼成後のAlN焼結体断面の反射電子像の写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。
【0014】
本実施形態の透明AlN焼結体の製法は、
板面がc面である板状AlN粉末を含むAlN原料粉末に焼結助剤を混合した混合物を成形して成形体を作製する工程であって、前記板状AlN粉末の板面が前記成形体の表面に沿うように前記混合物を成形する第1工程と、
前記成形体の表面を加圧しながら非酸化雰囲気下、前記成形体をホットプレス焼成して配向AlN焼結体を得る第2工程と、
非酸化雰囲気下、前記配向AlN焼結体を常圧焼成して前記焼結助剤に由来する成分を除去することにより透明AlN焼結体を得る第3工程と、
を含むものである。
【0015】
板状AlN粉末は、板面がc面であるAlN粉末である。板状AlN粉末のアスペクト比は3以上が好ましい。アスペクト比とは、平均粒径/平均厚さである。ここで、平均粒径は板面の長軸方向の長さの平均値、平均厚さは粒子の短軸長の平均値である。アスペクト比が3以上の板状AlN粉末を含むAlN原料粉末を使用することにより最終的に得られるAlN焼結体のc面配向度が高くなる。アスペクト比は5以上が好ましい。板状AlN粉末の平均粒径は、高配向化の観点からは大きい方が好ましく、2μm以上が好ましく、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましい。但し、緻密化の観点からは小さい方が好ましく、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。こうしたことから、高配向と緻密化を両立するには平均粒径が2~20μmであることが好ましい。平均厚さは、板状AlN粉末の作製しやすさの観点から、0.05μm以上が好ましく、0.07μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.8μm以上が更に好ましい。一方、板状AlN粉末の配向のしやすさの観点から、1,8μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下が更に好ましい。板状AlN粉末の平均厚さが大きすぎると、例えば、ドクターブレード等を用いて焼成前成形体の厚さを調整する際、ブレードから板状AlN粒子に加わるせん断応力を粒子側面(厚さ方向に平行な面)で受ける割合が増え、板状AlN粒子の配向が乱れることがある。こうしたことから、板状AlN粉末の作製しやすさと配向のしやすさを両立するには平均厚さが0.05~1.8μmであることが好ましい。板状AlN粉末を構成する粒子は、凝集せず分離して単一粒子になっていることが好ましい。板状AlN粉末を構成する粒子を単一粒子にするには、分級処理、解砕処理及び水簸処理の少なくとも1つの処理を採用すればよい。分級処理としては、気流分級等が挙げられる。解砕処理としては、ポット解砕、湿式微粒化方式等が挙げられる。水簸処理は、微粒粉が混入している際に採用するのが好ましい。板状AlN粉末を構成する粒子が単一粒子になっているか否かは、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製、型番FPIA-3000S)で得られる画像に基づいて判断することができる。板状AlN粉末は、高純度のものを用いることが好ましい。板状AlN粉末の純度は98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。特に、金属不純物濃度(Al以外の金属の濃度)が50質量ppm以下であり、かつ酸素濃度が1質量%以下、特に0.8質量%以下が好ましい。但し、焼結助剤と同成分又は、焼成中に揮発消失する不純物は含まれていても構わない。
【0016】
AlN原料粉末は、板状AlN粉末そのものでもよいが、板状AlN粉末と球状AlN粉末とを混合した混合AlN粉末としてもよい。球状AlN粉末の平均粒径は、板状AlN粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましく、1.5μm以下であることが好ましい。こうした混合AlN粉末をAlN原料粉末として用いる場合には、焼成時に板状AlN粉末が種結晶(テンプレート)となり、球状AlN粉末がマトリックスとなって、テンプレートがマトリックスを取り込みながらホモエピタキシャル成長する。こうした製法はTGG(Templated Grain Growth)法と呼ばれる。球状AlN粉末に対する板状AlN粉末の質量割合は、板状AlN粉末のアスペクト比や平均粒径を考慮して適宜設定すればよい。例えば板状AlN粉末の平均粒径が大きいほど球状AlN粉末に対する板状AlN粉末の質量割合を小さくしてもよい。
【0017】
焼結助剤は、AlNの焼結を促進する役割を果たす。AlNはアルミナなどと比べて焼結しにくいことから、こうした焼結助剤を加えてホットプレス焼成を行うことが好ましい。焼結助剤としては、揮発性焼結助剤が好ましい。揮発性の場合、ホットプレス焼成後の常圧焼成の際に気化して除去しやすいからである。揮発性焼結助剤としては、CaとAlとの複合酸化物又はイットリアなどの希土類酸化物を用いることが好ましい。CaとAlとの複合酸化物としては、例えばC2A,C3A,C4AなどのCaOとAl2O3とを適宜な比率で含む複合酸化物が挙げられる。焼結助剤は、板状AlN粉末と球状AlN粉末と焼結助剤の総質量に対して1~10質量%使用するのが好ましく、2~8質量%使用するのがより好ましい。
【0018】
第1工程では、AlN原料粉末に焼結助剤を混合した混合物を成形して成形体を作製するにあたり、板状AlN粉末の板面が成形体の表面に沿うように混合物を成形する。こうすることにより、板状AlN粉末のc軸は成形体の表面と直交する方向に配列しやすくなるため、AlN焼結体のc面配向度が向上する。この場合の成形方法としては、特に限定するものではないが、例えばテープ成形、押出成形、鋳込み成型、射出成形、一軸プレス成形等が挙げられる。また、これらの成形方法により得られた成形体を複数積層することにより積層成形体としてもよい。
【0019】
第2工程では、第1工程で得られた成形体の表面を加圧しながらその成形体をホットプレス焼成して配向AlN焼結体を得る。ホットプレス焼成の前に脱脂を行ってもよい。ホットプレス焼成の雰囲気は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空などの非酸化雰囲気が好ましい。ホットプレス焼成の圧力(面圧)は、50kgf/cm2以上が好ましく、200kgf/cm2以上が好ましい。ホットプレス焼成の温度(最高到達温度)は、1800~1950℃が好ましく、1880~1920℃がより好ましい。ホットプレス焼成の時間は、特に限定するものではないが、例えば2~10時間の範囲で適宜設定すればよい。ホットプレス焼成の炉は、特に限定するものではないが、黒鉛製の炉などを用いることができる。
【0020】
第3工程では、第2工程で得られた配向AlN焼結体を常圧焼成して焼結助剤に由来する成分を除去することにより透明AlN焼結体を得る。第2工程で得られた配向AlN焼結体は、ロットゲーリング法によるc面配向度は高いが、AlN焼結粒子同士の間に焼結助剤に由来する成分を含む粒界相が存在しているため直線透過率は低い。そこで、第3工程では、AlN焼結粒子同士の間に存在する粒界相(焼結助剤に由来する成分)を除去することにより、配向AlN焼結体の直線透過率を向上させている。常圧焼成の雰囲気は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの非酸化雰囲気が好ましい。常圧焼成の温度(最高到達温度)は、1750~1950℃が好ましく、1800~1920℃がより好ましい。常圧焼成の時間は、特に限定するものではないが、例えば20~100時間の範囲で適宜設定すればよい。常圧焼成の炉は、特に限定するものではないが、AlN製のサヤなどを用いることができる。
【0021】
本実施形態の透明AlN焼結体は、ロットゲーリング法によるc面配向度が70%以上、波長450nmにおける直線透過率が48%以上である、多結晶構造体である。この透明AlN焼結体は、上述した透明AlN焼結体の製法によって好適に製造することができる。こうした透明AlN焼結体の波長600nmにおける直線透過率は、通常、波長450nmにおける直線透過率以上である。
【0022】
本実施形態の透明AlN焼結体は、c面配向度が高いため耐プラズマ性や圧電特性に優れる。そのため、半導体製造装置用部材などのように耐プラズマ性が要求される部材や高温用センサなどのように高い圧電特性が要求される部材の材料として有用である。また、直線透過率が高いため従来に比べてより透明である。更に、高熱伝導率、高屈折率、高結晶性といったAlN固有の特性はそのまま維持している。そのため、透明な高熱伝導率部材、透明な高屈折率部材、透明な高結晶性部材としても有用である。透明な高熱伝導率部材としては、超高輝度LED用蛍光体基板、固体レーザ結晶用ヒートスプレッダ、LED用透明実装基板などが挙げられる。超高輝度LED用蛍光体基板に利用すると、蛍光体が高温になりすぎて発光効率が低下するのを抑制することができる。固体レーザ結晶用ヒートスプレッダに利用すると、レーザ結晶が高温になりすぎて発振効率が低下するのを抑制することができる。LED用透明実装基板に利用すると、LEDが高温になりすぎて発光効率が低下するのを抑制することができる。透明な高屈折率部材としては、紫外レーザ用高屈折率レンズなどが挙げられる。こうしたレンズに利用すると、高光量化、短焦点化、高解像度化を実現することができる。透明な高結晶性部材としては、紫外AlN-LED形成用下地基板などが挙げられる。こうした下地基板に利用すると、機能層の高品質化・低欠陥化、高放熱化を実現することができる。
【0023】
本実施形態の透明AlN焼結体において、相対密度は99.1%以上が好ましく、99.8%以上がより好ましく、100%が更に好ましい。相対密度が高いほど透明性が上がり、また耐プラズマ性が向上するからである。酸素含有量は600質量ppm以下が好ましい。不純物金属含有量は40質量ppm以下が好ましい。不純物金属含有量が低いほど透明性が上がるからである。不純物金属とは、Al及び添加した焼結助剤以外で固溶せず粒界に偏析しているものをいう。c面配向度は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、100%が更に好ましい。波長450nmの直線透過率は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
【0024】
ここで、TGG法でAlN焼結体を製造する工程の一例を
図1に示す。まず、板状AlN粉末10を用意する(
図1(a)参照)。板状AlN粉末10の板面10aはc面である。次に、板状AlN粉末10と球状AlN粉末12と焼結助剤14とを混合した混合AlN粉末を用いて成形体20を作製する(第1工程、
図1(b)参照)。このとき、板状AlN粉末10の板面10a(c面)が成形体20の表面20aに沿って並ぶようにする。次に、その成形体20を、表面20aに略垂直な方向から加圧しつつ、ホットプレス焼成する(第2工程、
図1(c)参照)。すると、焼結助剤14によって板状AlN粉末10や球状AlN粉末12の焼結が促進される。また、板状AlN粉末10の板面10a(c面)は成形体20の表面20aに沿って並んでいるため、板状AlN粉末10がテンプレートとなって焼結が進行する。その結果、c面配向度の高い配向AlN焼結体30が得られる。配向AlN焼結体30のうちAlN焼結粒子32同士の間には、焼結助剤14に由来する成分を含む粒界相34が存在している。そして、非酸化雰囲気下、配向AlN焼結体30を常圧焼成して焼結助剤14に由来する成分を除去することにより透明AlN焼結体40を得る(第3工程、
図1(d)参照)。その結果、c面配向度も直線透過率も高い透明AlN焼結体40が得られる。
【実施例】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
[実験例1~35]
1.高配向AlN焼結体の製法
(1)板状AlN粉末の合成
板状アルミナ(キンセイマテック(株)製)を100g、カーボンブラック(三菱化学(株))を50g 、φ2mmのアルミナ玉石を1000g、IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)を350mL、それぞれ秤量してポリポット容器に入れ、30rpm で240分間粉砕・混合した。なお、板状アルミナとしては、平均粒径が2μm、5μm、7μmのものを用いた。平均粒径が2μmのものは平均厚さが0.08μmでありアスペクト比が25であった。平均粒径が5μmのものは平均厚さが0.07μmでありアスペクト比が70であった。平均粒径が7μmのものは平均厚さが0.1μmでありアスペクト比が70であった。その後、ロータリーエバポレータにより乾燥した。乾燥した板状アルミナ-炭素混合物を乳鉢で軽く粉砕し、カーボン製坩堝にそれぞれ100g充填し、高温雰囲気炉中にセットした。窒素を3L/ m i n 流通させながら、昇温速度200℃/hrで1600℃ まで昇温し、その温度で20時間保持した。反応終了後、自然冷却し、坩堝よりサンプルを取り出した。更に、残存している炭素を除去するためマッフル炉を用いて酸化雰囲気下、650℃で10hr熱処理し、板状AlN粉末を得た。
【0030】
なお、実験例1~35では、様々な平均粒径、平均厚さ、アスペクト比をもつ板状AlN粉末を用いたが、こうした板状AlN粉末は、形状の異なる板状アルミナ粉末を作製し、それを窒化することにより作製した。形状の異なる板状アルミナ粉末は以下のようにして作製した。まず、ギブサイト型の水酸化アルミニウムを湿式粉砕して平均粒径0.4~3μmに調整し、水酸化アルミニウム1モルに対してオルトリン酸を1.0×10-5~1.0×10-2モル添加し、スラリーを形成した。なお、水酸化アルミニウムの平均粒径を大きくするとアルミナの平均粒径が大きくなり、オルトリン酸の添加量を増加するとアスペクト比が高くなる。得られたスラリーを、スプレードライヤ(大川原化工機(株)、FL-12型)を用いて乾燥温度140℃で造粒乾燥し、原料中の水分を1wt%未満にした。得られた粉末を50wt%の水系スラリーにした後、合成温度600℃,圧力15MPaで水熱合成を行った。水熱合成後、水洗、乾燥することにより、白色のアルミナ粒子を得た。なお、オルトリン酸の一部をスラリーを形成する際に添加せず、水熱合成を行う際の水に添加することにより、アスペクト比を変えることなく、アルミナの粒径を小さくすることができる。
【0031】
得られた板状AlN粉末は単一粒子と凝集粒子とを含んでいるため、解砕処理及び分級処理を施すことにより単一粒子を選別した。具体的には、得られた板状AlN粉末100gとφ15mmのアルミナ玉石300gとIPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLとをポリポット容器に入れ、30rpm で240分間解砕した。その後、ロータリーエバポレータにより乾燥した。乾燥した板状AlN粉末を日清エンジニアリング社製精密空気分級機(型番TC-15NSC)を用いて、分級した。分級点は平均粒径と同じサイズを設定し、分級後微粒を原料とした。最終的に得られた板状AlN粉末を湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製、FPIA-3000S)を使用してAlN粉末の画像を観察し、単一粒子であることを確認した。この装置によって得られるAlN粉末の画像の一例を
図2~
図4に示す。
図2は単一粒子の画像、
図3は凝集粒子の画像、
図4は単一粒子に微細粒子が付着したものの画像である。これらの画像の下に表示されている数値は板面の長軸方向の長さつまり粒径(μm)を示す。ここでは、単一粒子に微細粒子が付着したものも、単一粒子とみなした。なお、板状AlN粉末の平均粒径や平均厚さは、使用した板状アルミナ粉末と同じとみなした。
【0032】
(2)焼結助剤(Ca-Al-O系助剤)の合成
C3Aは、以下のようにして合成した。まず、炭酸カルシウム(白石(株)製、Silver-W)56g、γ―アルミナ(大明化学工業(株)製、TM-300D)19g、φ15mmのアルミナ玉石1000g、IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)125mLをポリポット容器に入れ、110rpm で120分間粉砕・混合した。その後、ロータリーエバポレータにより乾燥し、混合粉末を調製した。この混合粉末をアルミナ製坩堝に70g充填し、大気炉中にセットした。昇温速度200℃/hrで1250℃ まで昇温し、その温度で3時間保持した。反応終了後、自然冷却し、坩堝よりサンプルを取り出した。C2Aは、炭酸カルシウム47g、アルミナ24gを用いて上記と同様に合成し、C3AとC12A7から構成される助剤とした。また、C4Aは、C3Aを40gとCaCO3を15g混合して合成した。なお、C3A,C2A,C4AのCaO/Al2O3(モル比)はそれぞれ3,2,4である。
【0033】
(3)混合粉末の調合
上記(1)で得られた板状AlN粉末と、市販の球状AlN粉末(トクヤマ(株)製、Fグレード、平均粒径1.2μm)と、上記(2)で得られたCa-Al-O系助剤とを、それぞれ表1,2に示す質量割合で合計20gとなるように秤量した。これらを、φ15mmのアルミナ玉石300gとIPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLと共にポリポット容器に入れ、30rpm で240分間粉砕・混合した。その後、ロータリーエバポレータにより乾燥し、混合粉末を調製した。
【0034】
(4)積層成形体の作製
上記(3)で調製した混合粉末100質量部に対し、バインダとしてポリビニルブチラール(品番BM-2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2-エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP-O30、花王製)2質量部と、分散媒として2-エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを用いてテープ成形体を作製した。すなわち、板状AlN粉末の板面(c面)がテープ成形体の表面に沿って並ぶように、ドクターブレード法によってスラリーをPETフィルムの上に乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状のテープ成形体に成形した。得られたテープ成形体を直径20mmの円形に切断した後40枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm2の圧力にて静水圧プレスを行い、円板状の積層成形体を得た。
【0035】
(5)1次焼成
上記(4)で得られた積層成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。実験例1~15,17~35では、それぞれ表3,4に示す1次焼成条件にしたがって1次焼成を行い、1次焼成後のAlN焼結体を得た。すなわち、脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1800~1900℃で2~10時間、面圧200kgf/cm2という条件で焼成し、1次焼成後のAlN焼結体を得た。なお、ホットプレス時の加圧方向は、積層成形体の積層方向(テープ成形体の表面と略垂直方向)とした。また、焼成温度から降温する際は室温までプレス圧を維持した。実験例16では、表3に示すように、得られた脱脂体を常圧、窒素中、焼成温度(最高到達温度)1880℃で5時間という条件で焼成し、1次焼成後のAlN焼結体を得た。
【0036】
(6)2次焼成
実験例1~15,17~35では、それぞれ表3,4に示す2次焼成条件にしたがって1次焼成後のAlN焼結体の焼成を行い、2次焼成後のAlN焼結体を得た。すなわち、上記(5)で得られた1次焼成後のAlN焼結体の表面を研削してφ20mm、厚さ1.5mmの形状のサンプルを作製した。このサンプルを窒化アルミニウム製のサヤに充填し、雰囲気炉にて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1900℃で75時間で焼成し、2次焼成後のAlN焼結体を得た。実験例16では、表3に示すように、1次焼成後のAlN焼結体を研削してφ20mm、厚さ1.5mmの形状のサンプルを作成した。このサンプルを窒化アルミニウム製のサヤに充填し、雰囲気炉にて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1880℃で50時間焼成し、2次焼成後のAlN焼結体を得た。
【0037】
2.評価方法
(1)成形体のc面配向度
得られたAlN積層成形体の配向度を確認するため、円板状のAlN積層成形体の上面に対して平行になるようにXRD装置にセットして、X線を照射しc面配向度を測定した。XRD装置(リガク製、RINT-TTR III)を用い、2θ=20~70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件で測定した。c面配向度f(%)は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式により算出した。式中、Pは得られたAlN積層成形体のXRDから得られた値であり、P0は標準AlN(JCPDSカードNo.076-0566)から算出された値である。なお、(hkl)として、(100),(002),(101),(102),(110),(103)を使用した。
f={(P-P0)/(1-P0)}×100
P0=ΣI0(002)/ΣI0(hkl)
P=ΣI(002)/ΣI(hkl)
【0038】
(2)1次及び2次焼成後のAlN焼結体の不純物金属量及び酸素量
不純物金属量は、JIS R1649に準拠した加圧硫酸分解法にて、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置(日立ハイテクサイエンス製 PS3520UV-DD)を使用して分析した。ここでは、不純物金属として、Si,Fe,Ti,Ca,Mg,K,Na,P,Cr,Mn,Ni,Zn,Ga,Y,Zrについて測定した。酸素量は、JIS R1675(ファインセラミックス用AlN微粉末の化学分析方法)に従い、不活性ガス融解-赤外線吸収法で測定した。これらの単位は質量ppmである。
【0039】
(3)1次及び2次焼成後のAlN焼結体の相対密度測定
JIS R1634(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)に従い、かさ密度を測定し、理論密度を3.260として、相対密度を算出した。
【0040】
(4)1次及び2次焼成後のAlN焼結体のc面配向度
得られたAlN焼結体の配向度を確認するため、円板状のAlN焼結体の上面に対して平行になるように研磨加工した後、その研磨面に対してX線を照射しc面配向度を測定した。XRD装置(リガク製、RINT-TTR III)を用い、2θ=20~70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件で測定した。c面配向度f(%)は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式により算出した。式中、Pは得られたAlN焼結体のXRDから得られた値であり、P
0
は標準AlN(JCPDSカードNo.076-0566)から算出された値である。なお、(hkl)として、(100),(002),(101),(102),(110),(103)を使用した。
f={(P-P0)/(1-P0)}×100
P0=ΣI0(002)/ΣI0(hkl)
P=ΣI(002)/ΣI(hkl)
【0041】
(5)2次焼成後のAlN焼結体の粒径測定
得られたAlN焼結体を、10mm×10mmの大きさに切り出し、φ68mmの金属製定盤の最外周部に90°おきに4個固定し、粒径が9μm及び3μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを滴下した銅製ラッピング盤により研磨し、コロイダルシリカを含むスラリーを滴下したバフ盤で300分間研磨した。その後、研磨後の10mm×10mm×0.5mm厚の試料をアセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した。得られた表面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-6390)にて撮影した。観察する倍率は、具体的には、倍率1000倍で撮影した写真から切片法により測定し、AlN焼結粒子の平均粒径を求めた。
【0042】
(6)1次及び2次焼成後のAlN焼結体の断面観察
得られたAlN焼結体の任意の断面をダイヤモンド砥粒を用いて予備研磨した後、クロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子製、SM-09010)で研磨した。CPはイオンミリングの範疇に属する。得られた断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-6390)にて倍率2000倍で反射電子像を撮影した。
【0043】
(7)2次焼成後のAlN焼結体の直線透過率
得られたAlN焼結体を、10mm×10mmの大きさに切り出し、φ68mmの金属製定盤の最外周部に90°おきに4個固定し、粒径が9μm及び3μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを滴下した銅製ラッピング盤により研磨し、コロイダルシリカを含むスラリーを滴下したバフ盤で300分間研磨した。その後、研磨後の10mm×10mm×0.6mm厚の試料をアセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した後、分光光度計(Perkin Elmer製、Lambda900)を用いて波長450nmにおける直線透過率を測定した。なお、一部の実験例では、波長600nmにおける直線透過率も測定した。
【0044】
3.結果と評価
表3,4に1次焼成後のAlN焼結体及び2次焼成後のAlN焼結体の評価結果を示す。実験例1~15,17~19,21,23~35では、2次焼成後のAlN焼結体は、c面配向度が70%以上と高く、波長450nmにおける直線透過率が48%以上と高いものであった。一方、実験例16では、成形体を焼成する際にホットプレス焼成ではなく常圧焼成を採用したため、2次焼成後のAlN焼結体のc面配向度は47%と低く、直線透過率は1%しかなかった。また、実験例20,22では、使用した板状AlN粉末のアスペクト比が3未満だったため、c面配向度がそれぞれ13%、42%と低かった。
【0045】
実験例1~15,17~19,21,23~35で得られた2次焼成後のAlN焼結体は、c面配向度が70%以上と高いため耐プラズマ性や圧電特性に優れる。そのため、半導体製造装置用部材などのように耐プラズマ性が要求される部材や高温用センサなどのように高い圧電特性が要求される部材の材料として有用である。また、波長450nmにおける直線透過率が48%以上であるため、従来に比べてより透明である。更に、高熱伝導率、高屈折率、高結晶性といったAlN固有の特性はそのまま維持している。そのため、透明な高熱伝導率部材、透明な高屈折率部材、透明な高結晶性部材としても有用である。また、実験例1~15,17~19,21,23~35では、非特許文献1のような回転磁場を利用するのではなく、ホットプレス焼成を利用するものであるため、回転磁場を利用する場合に比べてc面配向度の高いAlN焼結体を低コストで製造することができる。
【0046】
実験例3の1次焼成後のAlN焼結体の反射電子像の写真を
図5に示す。
図5では、黒っぽく見える部分がAlNであり、白い斑点(2つ)がAlN焼結粒子同士の間の粒界相に含まれるCa-Al系酸化物(Caは焼結助剤に由来する成分)である。Ca-Al系酸化物は、平均原子量がAlNよりも大きいため、AlNと比べて明るく見える。そのため、目視で容易に区別することができる。同じく実験例3の2次焼成後のAlN焼結体の反射電子像の写真を
図6に示す。
図6では、白い斑点すなわちCa-Al系酸化物が消失し、全体がAlNになった。そのほかの実験例(実験例16を除く)でも、同様の反射電子像の写真が得られた。
【0047】
なお、実験例1~15,17~19,21,23~35が本発明の実施例に相当し、実験例16,20,22が比較例に相当する。これらの実験例は、本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
本出願は、2016年12月21日に出願された日本国特許出願第2016-247874号及び2017年7月10日に出願された国際出願PCT/JP2017/025085を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の配向AlN焼結体は、例えば耐プラズマ性材料や圧電材料として利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 板状AlN粉末、10a 板面(c面)、12 球状AlN粉末、14 焼結助剤、20 成形体、20a 表面、30 配向AlN焼結体、32 AlN焼結粒子、34 粒界相、40 透明AlN焼結体。