(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のアノード材料用コア-シェル複合粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20220221BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220221BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220221BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220221BHJP
C01B 32/318 20170101ALI20220221BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/134
C01B32/318
(21)【出願番号】P 2019542600
(86)(22)【出願日】2017-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2017052657
(87)【国際公開番号】W WO2018145733
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187207
【氏名又は名称】末盛 崇明
(72)【発明者】
【氏名】ペーター、ギグラー
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ、ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン、シュトーラー
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-216751(JP,A)
【文献】国際公開第2005/031898(WO,A3)
【文献】特開2012-169259(JP,A)
【文献】特開2003-303588(JP,A)
【文献】特表2014-514683(JP,A)
【文献】特開2006-228640(JP,A)
【文献】特開2014-183043(JP,A)
【文献】特表2007-519182(JP,A)
【文献】特開2017-069165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
H01M 4/00-4/86
C01B 32/318
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル複合粒子であって、
そのコアは、シリコン粒子を含有している、多孔質の、炭素をベースとするマトリックスであり、かつ
そのシェルは、非多孔質であり、かつ炭素をベースとし、
前記シリコン粒子が、1.5~15μmの平均粒径d
50を有し、
前記シリコン粒子の平均粒径d
50が、Mieモデルおよびシリコン粒子用分散媒体としてエタノールを使用する測定装置堀場製作所製LA950を使用して、静的レーザー光散乱によるISO13320に従い決定され、かつ
前記コア-シェル複合粒子のコアが、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、およびグラフェンから選択される導電性添加剤を、前記コア-シェル複合粒子の総重量に基づいて≦1重量%含有している、コア-シェル複合粒子。
【請求項2】
前記マトリックスの1つ以上の細孔がシリコン粒子を含有する、請求項1に記載のコア-シェル複合粒子。
【請求項3】
前記マトリックスが、50nm~22μmの平均径を有する細孔を含有し、細孔の前記平均径は走査電子顕微鏡法によって決定され、かつ前記平均径はメジアンとして定義されている、請求項1または2に記載のコア-シェル複合粒子。
【請求項4】
シリコン粒子を含有している前記マトリックスの細孔の直径の、シリコン粒子の直径に対する比率が、1.1
以上3
以下であり、
前記直径が
両方とも走査電子顕微鏡法によって決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載のコア-シェル複合粒子。
【請求項5】
前記シェル中に存在する任意の細孔が、DIN66134に従ったガス吸着を用いたBJH方法による間隙径分布により決定して<10nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のコア-シェル複合粒子。
【請求項6】
1)a)1.5~15μmの平均粒径d
50を有するシリコン粒子を、1つ以上の犠牲材で被覆すること、および/または
b)1.5~15μmの平均粒径d
50を有するシリコン粒子を、1つ以上の犠牲材と混合すること、
ここで、シリコン粒子の平均粒径d
50は、Mieモデルおよびシリコン粒子用分散媒体としてエタノールを使用する測定装置堀場製作所製LA950を使用して、静的レーザー光散乱によるISO13320に従い決定されるものであ
り、
前記犠牲材は無機または本質的に有機であり、
無機犠牲材は、元素のシリコン、マグネシウム、カルシウム、錫、亜鉛、チタンまたはニッケルの酸化物、炭酸塩、炭化物、窒化物または硫化物、あるいは元素のマグネシウム、カルシウム、錫、亜鉛、チタンまたはニッケルのケイ酸塩を含んでなり、かつ
有機犠牲材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ-tert-ブトキシスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリレート、ポリステアリン酸ビニル、ポリラウリン酸ビニル、ポリビニルアルコール、アルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ガンマ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、多糖類、メラミン樹脂類およびポリウレタン類からなる群から選択される、
2)段階1)からの生成物を、
レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、リグニン、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される1つ以上の炭素前駆体で被覆すること、
3)段階2)からの生成物を炭化して、
前記犠牲材をこの炭化段階またはさらなる段階4)で分解して放出し、多孔質複合体を形成すること、
5)このように得られた多孔質複合体を、
タール、ピッチ、ポリアクリロニトリルおよび1~20個の炭素原子を有する炭化水素からなる群から選択される、シェル用の1つ以上の炭素前駆体で被覆すること、
および
6)段階5)からの生成物を炭化すること
による、請求項1~5のいずれか一項に記載のコア-シェル複合粒子の製造方法。
【請求項7】
カソード、アノード、セパレータおよび電解質を備えてなるリチウムイオン電池であって、前記アノードが請求項1~5のいずれか一項に記載の1つ以上のコア-シェル複合粒子を含んでなるアノード材料をベースとするものである、リチウムイオン電池。
【請求項8】
満充電状態のリチウムイオン電池中の前記アノード材料中のリチウム原子のシリコン原子に対する比が≦4.0である、請求項
7に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
満充電状態のリチウムイオン電池中の前記アノード材料中のリチウム原子のシリコン原子に対する比が≦3.5である、請求項8に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
アノードのリチウム容量のカソードのリチウム容量に対する比が≧1.15である、請求項
8または9に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
満充電
状態のリチウムイオン電池中の前記アノードが、アノードの質量に基づき800~1500mAh/gで
充電される、請求項
8~10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記リチウムイオン電池のアノード材料のシリコンの容量が、シリコン1グラム当たりの最大容量の4200mAhに基づいて≦80%程度まで利用される、請求項
8~
11のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアがシリコン粒子および炭素を含み、かつシェルが炭素をベースとするものである、コア-シェル複合粒子、ならびにそのコア-シェル複合粒子の製造方法、およびリチウムイオン電池のアノード材料中でのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電力を蓄電媒体として、リチウムイオン電池は現時点で最も高いエネルギー密度を有する最も実際的に有用な電気化学エネルギー貯蔵物である。リチウムイオン電池は、携帯電子機器の分野において、道具用および輸送の電動手段、例えば自転車または自動車用に何よりも先ず使用されている。現在、そのような電池の負電極(negative electrode)(「アノード(anode)」)用材料として最も受け入れられているのがグラファイト状炭素である。しかしながら、理論的に、リチウム金属を用いて理論的に得られる電気化学容量の約10分の1にしか相当しないグラファイトのグラム当たり最大372mAhの比較的低い電気化学容量であるのが不利な点である。代替のアノード材料の開発はシリコンの使用につながった。シリコンは、リチウムとの二元電気化学的活性合金を形成し、これは非常に高いリチウム含有率および、例えばLi4.4Siの場合に、シリコンのグラム当たり4200mAhの範囲の理論的比容量を達成することができる。
【0003】
不利な点は、シリコンへのリチウムの取り込みおよびシリコンからのリチウムの放出には非常に大きな体積変化が伴うことであり、それは約300%に到達することがある。このような体積変化は、結晶子に大きな機械的応力を与えるので、結晶子は最終的に分裂することがある。この電気化学的製粉(electrochemical milling)とも呼ばれるプロセスは、活性材料中および電極構造中の電気接点損失、したがって容量損失した電極の破壊をもたらす。
【0004】
さらに、シリコンアノード材料の表面は電解質の成分と反応し、不動態化する保護層(固体電解質界面;SEI)を連続的に形成する。形成された成分は二度と電気化学的に活性にならない。そこに結合されたリチウムは、二度とシステムで利用できず、それは電池容量の明白な継続的低下をもたらす。電池の充放電過程の間のシリコンにより経験される極端な体積変化のために、SEIは規則的に破裂し、シリコンアノード材料のさらなる表面を露出させ、それはさらにSEIの形成を受ける。有用な容量に相当する満充電の電池中の移動可能なリチウムの量はカソード材料によって制限されているため、このリチウムは直ぐに消費され、電池容量は、ほんの数サイクル後にも使用で容認できない程度にまで減少する。
【0005】
多くの充放電サイクルの間の容量の減少は、容量の劣化または連続的損失と称され、一般に不可逆的である。
【0006】
炭素マトリックス中にシリコン粒子を埋め込む、一連のシリコン-炭素複合粒子は、リチウムイオン電池用アノード活性材として記載されてきた。通常この場合、小さな粒度、例えば約200nmの平均粒径d50を有するシリコン粒子が使用されてきた。この理由としてはより小さなシリコン粒子はシリコンの取り込み容量がより少なく、このためリチウムの取り込みの上でより大きなシリコン粒子よりも堆積膨張が低いため、シリコンに関連する上記の問題がより低い程度にしか生じ得ないからである。例えば、独国特許出願公開第102016202459.0号は、50~800nmの範囲に平均粒径d50を有するSi粒子を含む複合粒子について記載している。具体的には、この目的のために平均粒径が180および200nmのSi粒子が記載されている。
【0007】
比較的大きなSi粒子を有するシリコン-炭素複合粒子は特に経済的関心がもたれ、その理由としてはそれらが製粉によってより容易に利用可能(accessible)であり、小型のナノサイズのシリコン粒子よりも容易に取り扱うことができるためである。しかしながら、電気化学的製粉、SEIまたは劣化などの上記問題は、比較的大きなシリコン粒子にとって特異的な課題を意味する。炭素被膜を有するμmサイズのシリコン粒子は、例えばEP1024544に記載されている。炭素被膜は、その弾性により電気化学的製粉およびSEI形成を防止することが意図されている。多孔質複合粒子はそこに記載されていない。US20090208844は、例として膨張黒鉛が埋め込まれた炭素被膜中のμmサイズの炭素被膜を施したSi粒子を用いた類似の方法を達成しようとしている。US8394532のμmサイズのシリコン粒子の炭素被膜は、グラファイトまたは炭素繊維などの炭素粒子も含んでいる。US20080166474のμmサイズのSi粒子には、繊維および金属を含む多孔質炭素被膜が施されている。US20160172665は、1つ以上の同一のメソポーラス炭素シェルで被膜されたシリコン粒子をベースとするリチウムイオン電池用活性材について記載している。シリコン粒子の性質について、US20160172665は一般記載において特定していないものの、
図5Aおよび5Bから解るように、100nmの範囲内に一次粒子径を有する強凝集(aggregated)シリコン粒子しか具体的に開示されていない。EP1054462にはリチウムイオン電池用にアノードを構成するための様々な取り組みが教示されている。一つの実施態様において、μmサイズのシリコン粒子に非多孔質の炭素層が施されている。EP1054462のさらに一つの実施例において、μmサイズのシリコン粒子は電極被膜過程において多孔質炭素マトリックスに埋め込まれていた。
【0008】
この背景に照らして、マイクロスケールのシリコン粒子を含む複合粒子であって、リチウムイオン電池中で使用された場合、高いサイクル安定性を可能にし、より具体的には非常に最小限のSEIの形成、および/または電気化学的製粉の減少につながる複合粒子を提供することが目的である。さらに可能な場合、シリコン含有複合粒子は高い機械的安定性を有し、かつ非常に非脆性であるはずである。
【発明の概要】
【0009】
本発明はコアがシリコン粒子を含む多孔質の炭素をベースとするマトリックスであり、
シェルが非多孔質であり、1つ以上の炭素前駆体の炭化により得られ、ここでのシリコン粒子が1~15μmの平均サイズ(d50)を有するものであるである、コア-シェル複合粒子を提供する。
【0010】
シリコン粒子は、直径パーセンタイル値d50が好ましくは≧1.5μm、より好ましくは≧2μm、特に好ましくは≧2.5μmである体積基準粒度分布を有する。言及した直径パーセンタイル値d50は好ましくは≦13μm、特に好ましくは≦10μm、最も好ましくは≦8μmである。体積基準粒度分布は、本発明によれば、Mieモデルおよびシリコン粒子用分散媒体としてエタノールを使用する測定装置堀場製作所製LA950を使用して、静的レーザー光散乱によるISO 13320に従い決定することができる。
【0011】
シリコン粒子は、複合粒子中に、単離した状態または弱凝集した(agglomerated)状態で存在し得、強凝集した状態でない方が好ましい。シリコン粒子は好ましくは強凝集せず、好ましくは弱凝集せず、好ましくはナノ構造ではない。
【0012】
強凝集とは、例えばシリコン粒子の製造において最初に気相で形成されるような球状または主に球状の一次粒子が、気相プロセスにおける反応のさらなる過程の間に一緒に成長し、このように強凝集体を形成することを意味する。これらの強凝集体は反応のさらなる過程において弱凝集体を形成することができる。弱凝集体は強凝集体の緩い集合体である。弱凝集体は、典型的に使用される混練分散プロセスによって簡単に強凝集体に再び分割することができる。強凝集体は一次粒子に分割することができず、あるいはこれらのプロセスによっても部分的にしか一次粒子に分割することができない。強凝集体または弱凝集体の形態のシリコン粒子の存在は、例えば、従来の走査電子顕微鏡法(SEM)を用いて視認することができる。一方でシリコン粒子の粒度分布または粒径を決定するための静的光散乱法では強凝集体と弱凝集体とを区別することができない。
【0013】
ナノ構造ではないシリコン粒子は通常特有のBET表面積を有する。シリコン粒子のBET表面積は、好ましくは0.01~30.0m2/g、より好ましくは0.1~25.0m2/g、特に好ましくは0.2~20.0m2/g、最も好ましくは0.2~18.0m2/gである。BET表面積はDIN66131に従い決定される(窒素を使用)。
【0014】
シリコン粒子は、例えば結晶性でも非晶質状でも存在し得、好ましくは多孔質ではない。シリコン粒子は好ましくは球状または多片形の粒子である。代替としてシリコン粒子は繊維構造を有してもよいし、またはシリコン含有の薄膜もしくは被膜の形態で存在してもよいが、それほど好ましくない。
【0015】
シリコン粒子は例えば元素状シリコン、酸化ケイ素またはシリコン金属合金をベースとすることができる。元素状シリコンが好ましく、その理由としてはリチウムイオンに対して最大の貯蔵容量を有するためである。
【0016】
シリコン粒子は、好ましくは高純度ポリシリコンからなり得、また意図的にドーピングされたシリコンまたは元素汚染を有しているかもしれない冶金シリコンからもなり得る。さらに、他の金属およびケイ化物の形態の元素と共に合金にして、例えば、文献から知られた金属(例えば、Li、Sn、Ca、Co、Ni、Cu、Cr、Ti、Al、Feなど)と共に合金して存在し得る。これら合金は、二元、三元または多元であってもよい。電気化学的貯蔵容量を増加させるためには、異元素の含有率が特に少ない方が好ましい。
【0017】
コア-シェル複合粒子の炭素をベースとするマトリックスは多孔質であるので細孔を含有している。マトリックスは細孔用の枠であると考えてよい。個々の細孔は好ましくは分離されている。細孔は、溝により互いに連結されていない方が好ましい。細孔の形は例えば楕円状、伸長状、角状、多片形であってもよく、好ましくは球状である。
【0018】
細孔壁の厚さは、好ましくは4~1000nm、特に好ましくは24~900nm、最も好ましくは50~800nm(決定方法:走査電子顕微鏡法(SEM))である。細孔壁の厚さは通常2つの細孔間の最短距離であると解釈される。
【0019】
コア-シェル複合粒子の細孔体積の合計は、そこに存在しているシリコン粒子の体積の少なくとも2.5倍、特に好ましくは少なくとも2.8倍、最も好ましくは少なくとも3倍に相当する。コア-シェル複合粒子の細孔体積の合計は、そこに存在しているシリコン粒子の体積の好ましくは最大で4倍、特に好ましくは最大で3.7倍、最も好ましくは最大で3.4倍に相当する。他の実施態様において、特にリチウムイオン電池が部分的なリチウム化で操作される場合、コア-シェル複合粒子の細孔体積の合計は、そこに存在しているシリコン粒子の体積の好ましくは0.3倍~2.4倍、特に好ましくは0.6倍~2.1倍、最も好ましくは0.9倍~1.8倍に相当する。複合粒子1グラム当たりの細孔体積の合計はかさ密度(DIN51901に類似の方法でヘプタン比重瓶法によって決定)と骨格密度(DIN66137-2に従いHe比重瓶法によって決定)の逆数の差と定義される。
【0020】
マトリックスは、平均径が好ましくは≧50nm、より好ましくは≧65nm、特に好ましくは≧70nm、最も好ましくは≧100nmである細孔を含有している。マトリックスは、平均径が好ましくは≦22μm、より好ましくは≦19μm、特に好ましくは≦15μm、最も好ましくは≦12μmである細孔を含有している。
【0021】
シリコン粒子は、マトリックスの細孔内(局所的細孔(local pores))に存在していてもよく、および/またはマトリックスの細孔の外側(包括的細孔(global pores))に存在していてもよい。Si粒子は細孔内に存在していることが好ましい。
【0022】
マトリックスの包括的細孔の平均径は好ましくは≧50nm、より好ましくは≧65nm、特に好ましくは≧70nm、最も好ましくは≧100nmである。マトリックスの包括的細孔の直径は好ましくは≦6μm、より好ましくは≦5μm、特に好ましくは≦4μm、最も好ましくは3μmである。
【0023】
マトリックスの局所的細孔の平均径は好ましくは≧1μm、より好ましくは≧1.5μm、特に好ましくは≧2μm、最も好ましくは≧2.5μmである。マトリックスの局所的細孔の直径は好ましくは≦22μm、より好ましくは≦19μm、特に好ましくは≦15μm、最も好ましくは≦12μmである。
【0024】
マトリックスの細孔径の決定は走査電子顕微鏡法(SEM)によって行われる。細孔径に関する測定は、2つ、特に好ましくは3つの相互に直交する直径のうちの大きい方によって満たされることが好ましい。ここでの細孔の平均径は好ましくはメジアンによる。細孔径を決定する際に細孔中に存在するシリコン粒子の体積を細孔の体積に加える。
【0025】
細孔は1つ以上のシリコン粒子を含有し得る。シリコン粒子が存在しているマトリックスの細孔は好ましくは≦30個、特に好ましくは≦20個、さらに好ましくは≦10個のシリコン粒子、具体的には本発明に従った平均粒径d50を有するシリコン粒子を含有している。
【0026】
シリコン粒子が存在しているマトリックスの細孔の直径とシリコン粒子の直径の比率は、好ましくは≧1.1、特に好ましくは≧1.6、最も好ましくは≧1.8である。上述の直径の比率は好ましくは≦3、特に好ましくは≦2.5、最も好ましくは≦2である(決定方法:走査電子顕微鏡法(SEM))。
【0027】
マトリックスの細孔中に存在するシリコン粒子の割合は、コア-シェル複合粒子中のシリコン粒子の総数に基づき、好ましくは≧5%、より好ましくは≧20%、さらに好ましくは≧50%、特に好ましくは≧80%、最も好ましくは≧90%である(決定方法:走査電子顕微鏡法(SEM))。
【0028】
コア-シェル複合粒子のコア、またはマトリックスは、直径パーセンタイル値d50が好ましくは≧2μm、特に好ましくは≧3μm、最も好ましくは≧5μmである体積基準粒度分布を有する。d50は好ましくは≦90μm、より好ましくは≦50μm、特に好ましくは≦30μm、最も好ましくは≦20μmである。体積基準粒度分布は、本発明の目的のためにはMieモデルおよびコア粒子用分散媒体としてエタノールを使用する測定装置堀場製作所製LA950を使用して、静的レーザー光散乱によるISO13320に従い決定することができる。
【0029】
マトリックスは、通常炭素、特に結晶性または非晶質の炭素をベースとする。また結晶性または非晶質の炭素の混合物、あるいは結晶性および非晶質の部分を有する炭素も可能である。マトリックスは通常、球状、例えばボール状の形を有している。
【0030】
マトリックスは、好ましくは20~80重量%の程度、特に好ましくは25~70重量%の程度、最も好ましくは30~60重量%の程度まで炭素をベースとする。マトリックスは、好ましくはシリコン粒子を20~80重量%、特に好ましくは30~75重量%、最も好ましくは40~70重量%含有している。各場合の重量%での数字は、コア-シェル複合粒子のコアの総重量に基づくものである。
【0031】
コアの割合はコア-シェル複合粒子の総重量に基づいて、好ましくは80~95重量%、特に好ましくは85~93重量%である。
【0032】
マトリックスの炭素は、例えば1つ以上の炭素前駆体の炭化によって得られる。
【0033】
炭素前駆体は通常高い炭素含有率を有し、熱転換時炭素中に導電性構造を形成する。炭素前駆体の炭化における炭素収率は炭素前駆体の総重量に基づいて、好ましくは≧15%、特に好ましくは≧20%、最も好ましくは≧25%である。
【0034】
マトリックスの炭素前駆体は、例えばレゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、リグニンまたはポリアクリロニトリルである。
【0035】
炭素前駆体から生産された炭素は薄層の形態で細孔を覆うかまたは細孔空隙の周囲にマトリックスを形成することができる。
【0036】
さらに、コア-シェル複合粒子のコアは、元素Li、Fe、Al、Cu、Ca、K、Na、S、Cl、Zr、Ti、Pt、Ni、Cr、Sn、Mg、Ag、Co、Zn、B、P、Sb、Pb、Ge、Bi、希土類またはこれらの組み合わせをベースとした活性材を付加的に含有し得る。好ましい付加的活性材は、LiおよびSnをベースとする。付加的活性材の含有率はコア-シェル複合粒子の総重量に基づいて好ましくは≦1重量%、特に好ましくは≦100ppmである。
【0037】
コア-シェル複合粒子のコアは場合により1つ以上の導電性添加剤、例えば黒鉛、(導電性)カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、またはグラフェンを含有し得る。好ましい導電性添加剤は導電性カーボンブラックおよびカーボンナノチューブである。導電性添加剤の含有率はコア-シェル複合粒子の総重量に基づいて好ましくは≦1重量%、特に好ましくは≦100ppmである。導電性添加剤が存在していないことが最も好ましい。
【0038】
多孔質マトリックスの細孔は、例えばマトリックスを製造するための1つ以上の犠牲材を使用することにより得ることができる。
【0039】
例えば、多孔質マトリックスは、1つ以上の犠牲材と、1つ以上の炭素前駆体と、シリコン粒子との混合によって、および炭素前駆体が炭素へ少なくとも部分的に転換される後続の炭化段階によって製造することができ、この犠牲材は炭化前、炭化中または炭化後に細孔へ少なくとも部分的に転換される。
【0040】
好ましい実施態様では、1つ以上の炭素前駆体で被覆された1つ以上の犠牲材料を使用して、犠牲材料を後の時点で再度除去し、炭素前駆体ベースの被膜を犠牲材料の除去前、除去中または除去後に炭素ベースのマトリックスに転換することにより、細孔を得ることができる。この方法でも、多孔質炭素マトリックスを得ることができる。
【0041】
シリコン粒子を含有している細孔は、例えば、シリコン粒子を最初に1つ以上の犠牲材料で被覆し、得られた生成物を上述の炭素前駆体の1つ以上で被覆して、後の時点で該犠牲材料ベースの被膜を再び取り除き、該炭素前駆体ベースの被膜を犠牲材の除去前または除去中に炭素ベースのマトリックスに転換することにより得ることができる。このように細孔はシリコン粒子の周囲に形成される。所望の孔径を有するコア-シェル複合粒子が得られるように、それ自体公知の従来方法において、実質的にどのような層厚でも犠牲材を塗布することができる。
【0042】
犠牲材に基づく被膜の平均層厚は、好ましくは5~300nmの範囲、特に好ましくは20~300nmの範囲、最も好ましくは50~100nmの範囲である(決定方法:走査電子顕微鏡法(SEM))。犠牲材に基づく被膜は、少なくとも1点で、好ましくは1~300nm、特に好ましくは20~200nm、最も好ましくは50~100nmの層厚を有している(決定方法:走査電子顕微鏡法(SEM))。
【0043】
犠牲材は無機でもよく、または好ましくは本質的に有機でもよい。
【0044】
無機犠牲材の例は、元素状のシリコン、マグネシウム、カルシウム、錫、亜鉛、チタン、ニッケルの酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、炭化物、塩化物、窒化物または硫化物である。無機犠牲材の具体例は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸マグネシウムおよび硫化ニッケルである。酸化亜鉛または硫化ニッケルは、例えば炭素熱還元によって揮発性化合物へと転換でき、放出され、また熱分解により炭酸マグネシウムへと転換できる。二酸化ケイ素および酸化マグネシウムは、酸処理による従来の方法で浸出させることができる。
【0045】
典型的な有機犠牲材は25~1000℃の範囲から選択された温度にて、≧50重量%、好ましくは≧80重量%、特に好ましくは≧90重量%の質量の損失を有する。
【0046】
有機犠牲材の例は、エチレン性不飽和モノマーのホモポリマーまたはコポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ-tert-ブトキシスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリレート、ポリステアリン酸ビニル、ポリラウリン酸ビニルまたはそれらのコポリマー;ポリビニルアルコール;エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルキレングリコール; ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドまたはそれらのコポリマーなどのポリアルキレンオキシド;ガンマ-ブチロラクトン;炭酸プロピレン;多糖類;メラミン樹脂またはポリウレタン類である。
【0047】
好ましい犠牲材は、エチレン性不飽和モノマーのポリマー、メラミン樹脂類、ポリアルキレンオキシドおよびアルキレングリコールである。特に好ましい犠牲材は、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アルキレングリコールおよびポリアルキレンオキシド、例えばポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル-エチレンコポリマー、ポリ酢酸ビニル-エチレン-アクリレート三元共重合体、スチレン-ブタジエンコポリマーおよびメラミン樹脂類からなる群から選択される。
【0048】
コア-シェル複合粒子のシェルは、通常炭素、特に非晶質炭素をベースとする。
【0049】
シェルは通常非多孔質である。本発明による炭素前駆体の炭化は、必然的に非多孔質シェルをもたらす。
【0050】
シェルの細孔は、好ましくは<10nm、特に好ましくは≦5nm、最も好ましくは≦2nmである(決定方法:DIN66134に従ったBJH方法(ガス吸着)による間隙径分布)。
【0051】
シェルは好ましくは≦2%、特に好ましくは≦1%の孔隙率である(全孔隙率の決定方法:1マイナス[かさ密度(DIN51901に従いキシレン比重瓶法によって決定)と骨格密度(DIN66137-2に従いHe比重瓶法によって決定)の比率])。
【0052】
シェルは好ましくは少なくとも部分的に、特に好ましくは完全に、コア-シェル複合粒子のコアを被包する。代替として、シェルはコアの表面に近い細孔の入り口のみに充填、または密閉、または含浸することもできる。
【0053】
シェルは、通常液体媒体、特に水性または有機の溶媒または溶液に不浸透性である。シェルは特に水性または有機の電解質に不浸透性であることが好ましい。
【0054】
コア-シェル複合粒子の液体不浸透性は好ましくは≧95%、特に好ましくは≧96%、最も好ましくは≧97%である。液体不浸透性は、例えば実施例に対して下に示された関連の決定方法に相当する方法で決定することができる。
【0055】
さらに、かさ密度(DIN 51901と類似したやり方でヘプタン比重瓶法によって決定された)と純密度(DIN66137-2に従いHe比重瓶法によって決定)の逆数の差異は、溶媒に接近することができないコア-シェル複合粒子1グラム当たりの細孔体積を示す。
【0056】
シェルの割合は、コア-シェル複合粒子の総重量に基づいて、好ましくは1~25重量%、特に好ましくは5~20重量%、最も好ましくは7~15重量%である。
【0057】
コア-シェル複合粒子のシェルはシェル用の1つ以上の炭素前駆体の炭化によって得られる。
【0058】
シェル用の炭素前駆体の例は、硬質炭素(2500~3000℃の温度で難黒鉛化性)または軟質炭素(2500~3000℃の温度で易黒鉛化性)、例えばタールまたはピッチ、特に高溶融ピッチ、ポリアクリロニトリルまたは1~20個の炭素原子を有する炭化水素をもたらす前駆体である。特に好ましいのは、メソゲンピッチ(mesogenic pitch)、メソフェーズピッチ、石油ピッチおよび無煙炭タールピッチである。
【0059】
炭化水素の例は、1~10個の炭素原子、特に1~6個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、好ましくはメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン;1~4個の炭素原子を有する不飽和炭化水素、例えばエチレン、アセチレンまたはプロピレン;ベンゼン、トルエン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタンまたはナフタレンなどの芳香族炭化水素;さらにフェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ピリジン、アントラセン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素である。
【0060】
シェル用の好ましい炭素前駆体は、メソゲンピッチ、メソフェーズピッチ、石油ピッチ、無煙炭タールピッチ、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエンである。特に好ましいのは、アセチレン、トルエン、特にエチレン、ベンゼンおよび石油ピッチまたは無煙炭タールピッチからの軟質炭素である。
【0061】
シェル用の炭素前駆体は、例えばコアまたはマトリックスに適用し、続けて炭化させることができる。1~20個の炭素原子を有する炭化水素は、好ましくはCVDプロセスによって炭化され、シェル用の他の炭素前駆体は好ましくは熱により炭化される。
【0062】
コア-シェル複合粒子は例えば単離した粒子としてか、または緩い弱凝集体として存在し得る。コア-シェル複合粒子は、多片またはフレークの形状でか、好ましくは球状の形状で生じ得る。
【0063】
コア-シェル複合粒子の直径パーセンタイル値d50での体積加重粒度分布は好ましくは≦1mm、特に好ましくは≦50μm、最も好ましくは≦20μm、好ましくは≧1.5μm、特に好ましくは≧3μm、最も好ましくは≧5μmである。
【0064】
コア-シェル複合粒子の粒度分布は好ましくは単峰性であるが、二峰性、または多峰性でもよく、かつ狭いことが好ましい。コア-シェル複合粒子の体積加重粒度分布は、(d90-d10)/d50値が好ましくは≦2.5、特に好ましくは≦2であることを特徴とする。
【0065】
シェルまたはコア-シェル複合粒子は好ましくは≦50m2/g、特に好ましくは≦25m2/g、最も好ましくは≦10m2/gのBET表面積を特徴とする(DIN66131に従い決定(窒素使用))。
【0066】
コア-シェル複合粒子のかさ密度は好ましくは≧0.8g/cm3、特に好ましくは≧0.9g/cm3、最も好ましくは≦1.0g/cm3である(DIN 51901と類似の方法でヘプタン比重瓶法によって決定)。
【0067】
コア-シェル複合粒子中に存在する炭素は専ら炭化によって得られた炭素であってもよい。あるいは炭素源としてさらなる成分を使用することもでき、例としては黒鉛、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、または他の炭素修飾物である。炭化によって得られたコア-シェル複合粒子の炭素の割合は高いことが好ましく、例えばコア-シェル複合粒子の炭素の総質量に基づいて≧40重量%、特に好ましくは≧70重量%、最も好ましくは≧90重量%である。
【0068】
コア-シェル複合粒子は、好ましくはシリコン粒子を20~90重量%、特に好ましくは25~85重量%、最も好ましくは30~80重量%含有している。炭素はコア-シェル複合粒子中に好ましくは20~80重量%、特に好ましくは25~75重量%、最も好ましくは20~70重量%で存在している。酸素、そして好ましくは窒素もコア-シェル複合粒子中に場合により存在してもよく;これらは例えばピリジンおよびピロールの単位、(N)、フラン(O)またはオキサゾール(N、O)として複素環式化合物の形態で化学結合して存在していることが好ましい。コア-シェル複合粒子の酸素含有率は、好ましくは≦20重量%、特に好ましくは≦10重量%、最も好ましくは8重量%である。コア-シェル複合粒子の窒素含有率は、好ましくは≦10重量%の範囲、特に好ましくは0.2~5重量%の範囲である。重量パーセントで示す数字は、各場合にコア-シェル複合粒子の総重量に基づき、合計すると100%となる。
【0069】
コア-シェル複合粒子は場合により追加の成分、例えば金属(例えば銅)、酸化物、炭化物、または窒化物などの不活性材に基づく成分を含有し得る。それによって電気化学的安定性は積極的に影響を受ける場合がある。不活性材の割合は、コア-シェル複合粒子の総重量に基づいて好ましくは≦10重量%、より好ましくは≦5重量%、特に好ましくは≦1重量%である。最も好ましいのはそのような不活性材が存在していないことである。
【0070】
本発明は、さらに
1)a)1~15μmの平均粒径を有するシリコン粒子を、1つ以上の犠牲材で被覆すること、および/または
b)1~15μmの平均粒径を有するシリコン粒子を、1つ以上の犠牲材と混合すること、
2)段階1)からの生成物を1つ以上の炭素前駆体で被覆すること、
3)段階2)からの生成物を炭化して、
犠牲材をこの炭化段階またはさらなる段階4)で分解して放出し、多孔質複合体を形成すること、
5)このように得られた多孔質複合体をシェルのための1つ以上の炭素前駆体で被覆すること、
6)段階5)からの生成物を炭化すること、および続けて
7)場合により、例えばふるいまたは選別などの典型的な分級技術によってふるい下またはふるい上の粒子を除去すること
によるコア-シェル複合粒子の製造方法を提供する。
【0071】
段階1a)での被覆は、例えばシリコン粒子および犠牲材を含有している分散液から犠牲材を沈殿させることによって実施することができる。このとき、犠牲材はシリコン粒子上に成膜する。このように被覆されたシリコン粒子は後のろ過、遠心分離および/または乾燥によって単離することができる。あるいは、従来の方法でシリコン粒子を犠牲材へ重合することができる。
【0072】
段階1b)のための犠牲材は好ましくは粒子の形態で存在している。犠牲材の粒子は結晶化または重合による従来の方法で得ることができる。段階1b)のための犠牲材の粒子は通常シリコンを一切含有していない。段階1b)からの生成物は通常犠牲材の粒子とシリコン粒子の混合物である。シリコン粒子は、通常犠牲材の粒子の被膜を一切有しない。
【0073】
段階2)での炭素前駆体との被覆は段階1a)に対して記載されたものと類似の方法によって実行することができる。
【0074】
段階3)における炭化は、例えば好ましくは400~1400℃の温度、特に好ましくは500~1100℃の温度、最も好ましくは700~1000℃の温度で熱的に実行することができる。このとき従来の反応装置および他の慣習的な反応条件を使用することができる。
【0075】
有機犠牲材または無機犠牲材、例えばカーボネート、酸化物または硫化物は、段階3)において、またはさらなる熱処理4)において分解することができる。代替として、段階4)において犠牲材、特にSiO2またはMgOなどの無機犠牲材を、例えば塩酸、酢酸またはフッ化水素酸を用いた浸出により放出することができる。
【0076】
炭素前駆体として1~20個の炭素原子を有している炭化水素の場合には、段階5)における被覆を従来のCVDプロセスによって実行することができる。本発明に従い使用される他のシェルのための炭素前駆体の場合には、段階1a)に対して記載されているように多孔質複合体を被膜することができる。
【0077】
段階6)における炭化は、好ましくは熱処理によって段階3)に対して記載されたものと類似の方法で実行することができる。
【0078】
個々の被覆または炭化の工程、あるいは段階4)は、他の点では当技術分野における当業者に知られているように、従来の装置においてそれ自体知られた方法で実行することができる。
【0079】
本発明は、リチウムイオン電池用の電極材料、特にアノード材料における本発明によるコア-シェル複合粒子の使用、特にリチウムイオン電池の陰極を製造するための使用をさらに提供する。
【0080】
電極材料は好ましくは1つ以上のバインダー、場合により黒鉛、場合により1つ以上のさらなる電気導電性成分、場合により1つ以上のコア-シェル複合粒子が存在することを特徴とする1つ以上の添加剤を含む。
【0081】
電極材料に好ましい配合物は、コア-シェル複合粒子を好ましくは50~95重量%、特に60~85重量%含有し;さらなる電気導電性成分を0~40重量%、特に0~20重量%含有し;黒鉛を0~80重量%、好ましくは5~30重量%含有し;バインダーを0~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは5~15重量%含有し;場合により添加剤を0~80重量%、特に0.1~5重量%含有し、この場合の重量パーセントで示す数字はアノード材料の総重量に基づくものであり、アノード材料のすべての成分の割合は合計すると100重量%となる。
【0082】
本発明は、カソード、アノード、セパレータおよび電解質を含むリチウムイオン電池であって、アノードが本発明によるコア-シェル複合粒子を含むことを特徴とするリチウムイオン電池をさらに提供する。
【0083】
リチウムイオン電池の好ましい実施態様において、満充電されたリチウムイオン電池のアノード材料は部分的にしかリチウム化されていない。
【0084】
本発明は、カソード、アノード、セパレータおよび電解質を含むリチウムイオン電池の充電方法であって、アノードが本発明によるコア-シェル複合粒子を含み、かつアノード材料がリチウムイオン電池の満充電中に部分的にしかリチウム化されないことを特徴とする方法をさらに提供する。
【0085】
本発明は、リチウムイオン電池中の本発明によるアノード材料の使用であって、満充電状態のリチウムイオン電池中のアノード材料が部分的にしかリチウム化されないような構成である、使用をさらに提供する。
【0086】
コア-シェル複合粒子と同様に、例えばWO2015/117838またはドイツ特許出願番号第102015215415.7号の特許出願に記載のように、電極材料およびリチウムイオン電池を、これらの目的に一般的な出発原料を使用し、かつ電極材料およびリチウムイオン電池を生産するためのその目的に慣例的な方法を用いて製造してもよい。
【0087】
リチウムイオン電池はアノードの材料(アノード材料)、特にコア-シェル複合粒子が満充電されたリチウムイオン電池において部分的にしかリチウム化されないように構築または構成されることが好ましく、および/またはそのように操作されることが好ましい。満充電されたという表現は、電池のアノード材料、特にコア-シェル複合粒子が、最大限にリチウム化される電池の状態を指す。アノード材料のリチウム化とは、アノード材料中の活性材粒子、特にコア-シェル複合粒子のリチウムの最大取り込み量が使い尽くされていないことを意味する。
【0088】
リチウムイオン電池のアノード中のリチウム原子のシリコン原子に対する比率(Li/Si比率)は、例えば電荷流量によって設定することができる。アノード材料、またはアノード材料中のシリコン粒子のリチウム化度は、通過した電荷に比例する。この変化形では、リチウムのアノード材料の容量はリチウムイオン電池の充電中に完全に使い尽くさない。これはアノードの部分的なリチウム化をもたらす。
【0089】
代替の好ましい変化形では、リチウムイオン電池のLi/Si比率はアノード対カソード比(セルバランス)によって設定される。このとき、リチウムイオン電池はアノードのリチウム取り込み量が、好ましくはカソードのリチウム放出能力より大きいように設計されている。これによって完全に使い尽くされないアノードのリチウム取り込み量、即ち満充電した電池中で部分的にしかリチウム化されないアノード材料がもたらされる。
【0090】
リチウムイオン電池において、アノードのリチウム容量のカソードのリチウム容量に対する比率(アノード対カソード比)は、好ましくは≧1.15、特に好ましくは≧1.2、最も好ましくは≧1.3である。ここでリチウム容量という表現は好ましくは利用可能なリチウム容量を指す。利用可能なリチウム容量は、リチウムを可逆的に貯蔵するための電極の能力の指標である。利用可能なリチウム容量の決定は、例えばリチウムに関する電極の半電池測定によって実行することができる。利用可能なリチウム容量はmAhで決定される。利用可能なリチウム容量は、一般に0.8V~5mVの電圧窓におけるC/2の充放電速度における測定された脱リチウム化容量に相当する。ここでのC/2におけるCは、電極被膜の理論的比容量を指す。アノード対カソード比を決定するための実験的方法に関する詳細は、下記の副題「b)アノード対カソード比(A/K)を調整するための容量決定」下の例4に対して見出すことができる。
【0091】
アノードは、アノードの質量に基づいて好ましくは≦1500mAh/g、特に好ましくは≦1400mAh/g、最も好ましくは≦1300mAh/gに充電される。アノードは、アノードの質量に基づいて好ましくは少なくとも600mAh/g、特に好ましくは≧700mAh/g、最も好ましくは≧800mAh/gに充電される。これらの数字は好ましくは満充電されたリチウムイオン電池に対するものである。
【0092】
シリコンのリチウム化度またはリチウムのためのシリコンの容量の利用(Si容量使用α)は、例えば公開番号WO17025346A1の特許出願の、11ページ、第4行目から12ページ、第25行目におけるように、特にSi容量使用αについてそこで言及されている式ならびに「脱リチウム化容量βの決定(Determination of the delithiation capacity β)」および「重量でのSi率ωSiの決定(Determination of the Si proportion by weight ωSi)」という題名下の補足情報を用いて決定することができる。
【0093】
部分的なリチウム化の場合において、リチウムイオン電池の満充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは≦3.5、特に好ましくは≦3.1、最も好ましくは≦2.6である。リチウムイオン電池の満充電状態のアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは≧0.22、特に好ましくは≧0.44、最も好ましくは≧0.66である。
【0094】
リチウムイオン電池のアノード材料のシリコンの容量は、シリコン1グラム当たりの容量4200mAhに基づいて、好ましくは≦80%程度まで、特に好ましくは≦70%程度まで、最も好ましくは≦60%程度まで利用される。
【0095】
本発明のコア-シェル複合粒子は著しく改善された電気化学的挙動を示し、高い体積容量(volumetric capacities)および優れた使用特性を有するリチウムイオン電池をもたらす。シェルまたはコア-シェル複合粒子はリチウムイオンおよび電子に対して浸透性があるので電荷輸送を可能にする。リチウムイオン電池中のSEIは、本発明の複合粒子で大幅に減少することができ、本発明による複合粒子の設計によって剥がれ落ちることはもはやなく、または剥がれ落ちる程度は少なくともはるかに少ない。これらはすべて、対応するリチウムイオン電池の部分の高いサイクル安定性につながる。有利な結果は、本発明によるコア-シェル複合粒子の構成によってもたらされる。これらの有利な結果のさらなる改善は電池が部分的な充電で操作される場合に達成することができる。これらの特徴は相乗効果的なやり方で作用する。
【0096】
複合粒子の本発明による炭素ベースはコア-シェル複合粒子の導電性に有利であり、このためリチウムおよび電子両方のシリコンに基づいた活性材への輸送を確保する。シリコン粒子とマトリックスの細孔壁との間の直接の接触を通じてシリコンへの電荷輸送を促進することが可能であり、特にシリコン粒子とマトリックスとの間に化学的付着がある場合に可能である。
【0097】
また本発明のコア-シェル複合粒子は驚くほど安定していて機械的に強健であり、特に高い圧縮安定性および高い剪断安定性を有する。
【0098】
最後に、本発明による複合粒径分布によって材料の加工可能性を改善して電極インクおよび電極被膜を形成し、かつ電極中の粒子の均質な分布を達成することができる。
【0099】
以下の例は、本発明を説明する役割を果たすものとする。
【0100】
特徴化のために以下の分析的方法および装置を使用した。
【0101】
走査電子顕微鏡法(SEM/EDX):
Zeiss Ultra 55走査電子顕微鏡およびINCA x-sight エネルギー分散X線分光計を使用して顕微による研究を実施した。試料は、帯電現象を防止するために検査の前にBaltec SCD500スパッタ/炭素被膜を使用して蒸着により炭素で被膜した。図中に示されるコア-シェル複合粒子の断面は6kVでのLeica TIC 3Xイオン・カッターを使用して作成された。
【0102】
無機分析/元素分析:
例において報告されたCの含有率はLeco CS 230分析器を使用して決定され、Leco TCH-600分析器を使用してO、および適切な場合にはNおよびH含有率を決定した。得られたコア-シェル複合粒子中に示された他の元素の定性的および定量的な決定は、ICP(誘導結合プラズマ)、発光分析法(Perkin Elmer製Optima 7300 DV)を用いて実施した。試料は、この目的のためにマイクロ波(Anton Paar製Microwave3000)中で酸(HF/HNO3)を用いて消化した。ICP-OES決定はISO 11885「水質-誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)による選択元素の決定(Water quality - Determination of selected elements by inductively coupled plasma optical emission spectrometry(ICP-OES))(ISO11885:2007);ドイツ語版ENISO11885:2009」に基づき、これは酸性水溶液(例えば酸性化水道水、廃水および他の水サンプル、土壌および沈殿物の王水抽出物)を検査するために使用される。
【0103】
粒径決定:
粒度分布の決定は、本発明の目的のために、堀場製作所製LA950を使用して、静的レーザー光散乱を用いてISO13320に従い実施した。試料の調製において、個々の粒子の代わりに弱凝集体のサイズを測定しないように測定溶液中で粒子の分散を確保するために特別な注意を払う必要があった。ここで検証されたコア-シェル複合粒子の場合には、粒子をエタノール中で分散させた。この目的のために、分散液は、必要に応じて測定前に4分間、超音波プローブLS24d5を使用してHielscher研究室超音波装置モデルUIS250v内で250Wの超音波での処理を行った。
【0104】
BET法による表面測定:
材料の比表面積は、BET法により、Sorptomatic 199090機器(Porotec製)またはSA-9603MP機器(堀場製作所)にて窒素を使用し、ガス吸着によって測定した。
【0105】
液体培体のSi接近容易性(液体不透性):
液体培体に対するコア-シェル複合粒子中のシリコンの接近容易性の決定は、既知のシリコン含有率(元素分析から)を有する材料に対する以下の試験法によって実施した:
第一に、0.5~0.6gのコア-シェル複合粒子を超音波によってNaOH(4M;H2O)およびエタノール(1:1容積)の混合物20ml中で分散し、続けて40℃で120分間撹拌した。複合粒子は200nmのナイロン薄膜を通してろ過し、水で洗浄して中性のpHにし、続けて乾燥室内で100℃/50~80mbarにて乾燥した。NaOH処理後のシリコン含有率を決定し、試験前のSi含有率と比較した。≦5%のSi含有率相対変化では、複合構造は不浸透とみなされた(≧95%の不浸透性に一致)。
【0106】
純密度:
純密度(=骨格密度、即ち孔空隙を除いた体積に基づく多孔質固体の密度)はDIN66137-2に従いHe比重瓶法によって決定した。
【0107】
かさ密度:
かさ密度(=孔空隙を含む体積に基づいた多孔質固体の密度)は、規格DIN51901「炭素質材料の試験-キシレン法による密度の決定-固体材料」に基づいた方法によって、少なくとも2回の測定の平均としてヘプタン中の複合体粉末の分散液に対して比重瓶法によって決定された。
【0108】
理論的比容量:
得られたコア-シェル複合粒子の理論的比容量は、例において報告されているように実験的に決定されたのではなく、材料の元素組成から計算された。このとき純成分の次の容量を計算の基礎として使用した:Si 4200mAh/g;(非晶質)炭素 200mAh/g;N(非晶質Cマトリックスの一部として)200mAh/g。さらに、計算において、複合体のO含有物がSiO2の形態で存在していたためにSiO2含有物により活性シリコンの寄与が低減したことが推測された。
【実施例】
【0109】
以下の材料を商業的供給源から調達または社内で製造し、それ以上の精製を行うことなく直接使用した:
シリコン粉末A(多片様、非強凝集Si粒子、d50=800nm、撹拌ボールミル内でのエタノール(固形分20重量%)中の湿式製粉および後の乾燥によって製造);
シリコン粉末B(多片様、非強凝集Si粒子、d50=4.5μm、流動床ジェットミル中で乾燥フライスにより製造);
ピッチ(高溶融;軟化点235℃)。
【0110】
例1:
コア-シェル複合粒子(非多孔質シェル、広域孔隙率を有するコア、d50=4.5μmのSi粒子):
a)犠牲材粒子の製造
20.8gのメラミン(Sigma-Aldrich製、#M2659)および29.6gのホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich製、252549;37%濃度水溶液80.0g)を1時間50℃で撹拌した。次に1200mlの稀硝酸(pH3.5)を加え、混合物を50分間100℃で撹拌した。冷却を行った後、上澄み溶液を移し、固体を15時間100℃で乾燥させた。これによって1~2μmの直径D50を有する球状メラミン樹脂粒子25.9gがもたらされた。
【0111】
b)シリコン粒子、および例1aからの生成物の炭素前駆体での被膜
15gのシリコン粉末B(d50=4.5μm)および例1aからの6.5gのメラミン樹脂粒子を超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:30分)を用いて分散させ、8.2gのレゾルシノール(Sigma-Aldrich製、W358908)および6.7gのホルムアルデヒド(37%濃度水溶液18.1g)を撹拌しながら添加した。続けて、4mlのアンモニア(32%)を加えることによりpHをpH7に設定し、混合物を4時間90℃で加熱した。冷却後、懸濁液を丸形フィルター(粒子保持20μm)に通してろ過し、イソプロパノールで固体を洗浄し、15時間100℃(80mbar)で乾燥させた。29.8gの褐色固体が得られた。
【0112】
c)炭素前駆体の炭化
例1bにおいて得られた生成物の29.8gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:加熱速度10℃/分、温度1000℃、保持時間180分、N2/H2流量360ml/分。冷却後、19.4gの黒色粉末が得られた。
【0113】
d)例1cからの生成物のシェル用炭素前駆体での被覆
超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:30分)を用いて例1cからの生成物の19.4gを350mlのp-キシレン中で3.9gのピッチ(高溶融;軟化点235℃)と一緒に分散させた。その懸濁液を90分間還流下で撹拌した。冷却後、回転蒸発器で減圧下にて溶媒を除去した。
【0114】
e)シェル用の炭素前駆体の炭化
例1dにおいて得られた生成物の22.6gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:第一に加熱速度10℃/分、温度300℃;次いですぐにさらに加熱速度5℃/分、温度550℃;次いですぐにさらに加熱速度10℃/分、1000℃、保持時間3時間、N2/H2流量360ml/分。冷却後、20.8gの黒色粉末が得られ、これを湿式ふるいにかけることによって過大サイズのものを取り除いた。不浸透性の外部C被膜およびd99<20μmの粒径を有する8.8gの多孔質コア-シェル複合粒子が得られた。
【0115】
元素組成:Si 60.0重量%;C 35.3重量%;O 1.22重量%;N 0.81重量%。
粒度分布:単峰性;d10:7.7μm、d50:12.3μm、d90:18.6μm;(d90-d10)/d50=0.9;
比表面積(BET)=0.86m2/g;
Si不浸透性:100%(液密);
かさ密度:1.90g/cm3;
純密度:2.08g/cm3;
隔絶(inacessible)細孔体積:0.05cm3/g;
理論的比容量:2547mAh/g。
【0116】
図1は、例1eからのコア-シェル複合粒子を通したSEM断面を示す(倍率7500)。シリコン粒子およびマクロ孔空隙は炭素マトリックスに埋め込まれている。後者は、対応するリチウムイオン電池のリチウム化時にシリコンの体積膨張を緩衝することができる。
【0117】
例2:
コア-シェル複合粒子(非多孔質シェル、局所孔隙率を有するコア、d50=4.5μmを有するSi粒子):
a)Siの犠牲材での被覆
15.0gのシリコン粉末B(d50=4.5μm)を90mlの水に入れ、超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:45分)を用いて分散させた。続けて得られた懸濁液を50℃にて、同様に50℃であって5.2gのメラミンおよび7.4gのホルムアルデヒド(37%濃度水溶液20.0g)からなる溶液に加え、1時間55℃にて撹拌した。次いで300mlの稀硝酸(pH3.5)を加え、混合物を60分間100℃で撹拌した。
【0118】
b)例2aからの生成物の炭素前駆体での被覆
撹拌しながら例2aからの生成物に8.2gのレゾルシノールおよび6.7gのホルムアルデヒド(37%濃度水溶液18.1g)を加えた。続けて2mlのアンモニア(32%)の添加によってpHをpH7に設定し、混合物を4時間70℃で加熱した。冷却後、懸濁液を丸形フィルター(粒子保持20μm)に通してろ過し、固体をイソプロパノールで洗浄し、15時間100℃(80mbar)で乾燥した。32.8gの褐色固体が得られた。
【0119】
c)炭素前駆体の炭化
例2bにおいて得られた生成物の32.5gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:加熱速度10℃/分、温度1000℃、保持時間180分、N2/H2流量360ml/分。冷却後、21gの黒色粉末が得られた。
【0120】
d)例2cからの生成物のシェル用炭素前駆体での被膜
超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:30分)を用いて例2cからの生成物の20.2gを350mlのp-キシレン中で4.4gのピッチ(高溶融;軟化点235℃)と一緒に分散させた。その懸濁液を90分間還流下で撹拌した。冷却後、回転蒸発器で減圧下にて溶媒を除去した。
【0121】
e)シェル用の炭素前駆体の炭化
例2dにおいて得られた生成物の21.2gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:第一に加熱速度10℃/分、温度300℃;次いですぐにさらに加熱速度5℃/分、温度550℃;次いですぐにさらに加熱速度10℃/分、1000℃、保持時間3時間、N2/H2流量360ml/分。冷却後、19.2gの黒色粉末が得られ、これを湿式ふるいにかけることによって過大サイズのものを取り除いた。不浸透性の外部C被膜およびd99<20μmの粒径を有する16.6gの多孔質コア-シェル複合粒子が得られた。
【0122】
元素組成:Si 52重量%;C 43.2重量%;O 0.78重量%;N 2.89重量%;
粒度分布:単峰性;d10:5.4μm、d50:8.4μm、d90:13.0μm;(d90-d10)/d50=0.9;
比表面積(BET)=2.7m2/g;
かさ密度:1.99g/cm3;
純密度:2.29g/cm3;
隔絶細孔体積:0.07cm3/g;
理論的比容量:2247mAh/g。
【0123】
図2は、例3eからのコア-シェル複合粒子を通したSEM断面を示す(倍率7500)。シリコン粒子は、対応するリチウムイオン電池のリチウム化の上でシリコンの体積膨張を緩衝することができる局所マクロ孔空隙に埋め込まれている。
【0124】
比較例3:
コア-シェル複合粒子(非多孔質シェル、局所孔隙率を有するコア、d50=800nmを有するSi粒子):
a) Siの犠牲材での被覆
9.4gのシリコン粉末A(d50=800nm)を、数滴のエタノールの添加とともに90mlの水中に入れ、超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:45分)を用いて分散させた。続けて得られた懸濁液を50℃にて同様に50℃であって5.2gのメラミンおよび7.4gのホルムアルデヒド(37%濃度水溶液20.0g)からなる溶液に加え、混合物を1時間50℃にて撹拌した。続いて300mlの稀硝酸(pH3.5)を加え、混合物を50分間90℃で撹拌した。冷却後、懸濁液を、丸形フィルター(粒子保持20μm)を通してろ過し、固体をエタノールで洗浄し、15時間100℃にて乾燥させた(80mbar)。16.5gの褐色固体が得られた。
【0125】
b)例3aからの生成物の炭素前駆体での被覆
超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:30分)を用いて例3aからの生成物の15.0gを350mlのイソプロパノール中に分散させ、撹拌しながら16.1gのレゾルシノールまたは13.2gのホルムアルデヒド(37%濃度水溶液35.6g)を加えた。続いてpHは、5mlのアンモニア(32%)を添加することによってpH 7に設定し、混合物は4時間90℃で加熱した。冷却後、懸濁液は丸形フィルター(粒子保持20μm)を通してろ過し、固体はイソプロパノールで洗浄し、15時間100℃(80mbar)で乾燥させた。33.4gの褐色固体を得た。
【0126】
c)炭素前駆体の炭化
例3bにおいて得られた生成物の33.6gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:加熱速度10℃/分、温度1000℃、保持時間180分、N2/H2流量200ml/分。冷却後、18.9gの黒色粉末が得られた。
【0127】
d)例3cからの生成物のシェル用炭素前駆体での被覆
超音波(Hielscher UIS250V;振幅80%、サイクル:0.75;持続:30分)を用いて例3cからの生成物の18.7gを350mlのp-キシレン中で3.7gのピッチ(高溶融;軟化点235℃)と一緒に分散させた。その懸濁液を90分間還流下で撹拌した。冷却後、回転蒸発器で減圧下にて溶媒を除去した。
【0128】
e)シェル用の炭素前駆体の炭化
例3dにおいて得られた生成物の18.7gを石英ガラス製ボート(QCS GmbH製)に置き、不活性ガスとしてN2/H2下、タイプNのサンプルエレメントを含むカスケード制御を使用して、3ゾーン式管炉(TFZ 12/65/550/E301;Carbolite GmbH製)中で炭化した:第一に加熱速度10℃/分、温度300℃;次いですぐにさらに加熱速度5℃/分、温度550℃;次いですぐにさらに加熱速度10℃/分、1000℃、保持時間3時間、N2/H2流量360ml/分。冷却後、20.0gの黒色粉末が得られ、これを湿式ふるいにかけることによって過大サイズのものを取り除いた。不浸透性の外部C被膜およびd99<20μmの粒径を有する15.4gの多孔質コア-シェル複合粒子が得られた。
【0129】
元素組成:Si 33.7重量%;C 58.9重量%; O 4.86重量%;N 1.18重量%;
粒度分布:単峰性;d10:11.0μm、d50:16.6μm、d90:23.8μm;(d90-d10)/d50=0.8;
比表面積(BET)=5.8m2/g;
Si不浸透性:98%(液密);
かさ密度:1.83g/cm3;
純密度:2.12g/cm3;
隔絶細孔体積:0.08cm3/g;
理論的比容量:1356mAh/g。
【0130】
図3は、例3eからのコア-シェル複合粒子を通したSEM断面を示す(倍率7500)。シリコン粒子は、対応するリチウムイオン電池のリチウム化の上でシリコンの体積膨張を緩衝することができる局所マクロ孔空隙に埋め込まれている。
【0131】
例4:
コア-シェル複合粒子の電気化学的特徴化:
a)例1~3からのコア-シェル複合粒子を含有している電極層の製造:
0.17gの導電性カーボンブラック(Imerys製、Super C65)、3.0gの水、および6.05gの1.4重量%の濃度のカルボキシルメチルセルロースナトリウム水溶液(Daicel製、等級1380)を高速ミキサーによって4.5m/sの周速で5分間分散させ、17m/sの周速で30分間、冷却しながら20℃にて分散させた。0.21gのSBRバインダー(スチレン-ブタジエンコポリマー、H2O中40%)を続けて添加し、その後その混合物を30分間17m/sの周速で再び分散させた。続けて3.0gのコア-シェル複合粒子を加え、5分間4.5m/sの周速で混ぜ込み、次に12m/sの周速でさらに30分間分散させた。脱気後に分散液を、規定のギャップ高さを有するフィルム延伸枠(Erichsen製、モデル360)を用いて0.030mmの厚さの銅箔(Schlenk Metallfolien製、SE-Cu58)に塗布した。このように製造された電極被膜は、続けて80℃および1barの大気圧にて60分間乾燥させた。
得られた電極の理論的電極比容量は、電極中のそれらの重量比率により重み付けられた、一緒に添加された電極成分の理論的比容量から得られる。本場合において、コア-シェル複合粒子しか比電極容量に寄与しない。導電性カーボンブラック、Naカルボキシメチルセルロースおよびバインダーには比容量がない。様々な電極の理論的比容量は表1に列挙される。
【0132】
【0133】
b)アノード対カソード比(A/K)を調整するための容量決定:
フルセル配置における所望のアノード対カソード比を調整するため、それぞれの電極被膜を、先ず、対極としての金属リチウム(Dm=12mm;Albemarle製;厚さ500μm;電池グレード)の反対側に作用電極(Dm=12mm)として打ち抜かれたTセル(Swagelok製 316Lステンレス鋼を取り付けたTネジ;チューブ継手1/2インチ;PFAシール)に導入した(半電池)。
120μlの電解液を含浸したガラス繊維ろ紙(Whatman製、GDタイプD)はセパレーター(Dm=13mm)としての機能を果たした。使用された電解液は、2重量%のビニレンカーボネート(VC)と混合した炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC)の3:7(v/v)混合物中の1.0モル濃度の六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)からなった。
電池の組立てをグローブボックス(<1ppm H2O、O2;MBraun製)内で行った;使用された全構成要素の乾燥物質における含水率は20ppm未満であった。
【0134】
容量測定を、20℃においてBaSyTec CTS試験スタンドで行った。
第一サイクルにおいてC/25およびその後の2サイクルにおいてC/2のレートで定電流を使用してcc/cv(定電流/定電圧)法により、アノードのリチウム化を行った。リチウム化/脱リチウム化のための電位窓を、C/25またはC/2に対してリチウム基準5mVおよび1.5Vまたは0.8V間で設定した。リチウム基準5mVの下限電圧に達した後、電流がC/100未満になるまで定電圧において充電を続けた。それぞれの上限電圧に達するまで、第一サイクルにおいてC/25およびその後の2サイクルにおいてC/2の定電流を使用してcc(定電流)法により、電池の放電を行った。
第二放電サイクルにおける脱リチウム化容量を電極の利用可能なリチウム容量として使用する。
アノード被膜の所望の容量を、様々な被膜重量によって調整し、カソード被膜との組合せで、所望のアノード対カソード比をこの方法で得た。
【0135】
c)Liイオン電池の組立ておよび電気化学的特性:
ボタン電池(タイプCR2032、宝泉株式会社製)内の2電極配置においてフルセルで電気化学的試験を行った。記載されている電極被膜を対極または負電極(Dm=15mm)として打ち抜き、94.0重量%の含有率および14.82mg/cm2の単位面積当たりの平均重量を有する酸化リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト6:2:2をベースとするコーティングを作用電極または正電極(Dm=15mm)として使用した。120μlの電解液を含浸したガラス繊維ろ紙(Whatman製、GDタイプD)はセパレーター(Dm=16mm)としての機能を果たした。使用された電解液は、2重量%のビニレンカーボネート(VC)と混合した炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC)の3:7(v/v)混合物中の1.0モル濃度の六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)からなった。電池の組立てをグローブボックス(<1ppm H2O、O2;MBraun製)内で行った;使用された全構成要素の乾燥物質における含水率は20ppm未満であった。
【0136】
電気化学試験を20℃で行った。第一サイクルにおいて5mA/g(C/25に相当)およびその後のサイクルにおいて60mA/g(C/2に相当)の定電流で、定電圧において4.2Vの電圧限界に達した後電流が1.2mA/g(C/100に相当)または15mA/g(C/8に相当)未満になるまで、BaSyTec CTS試験スタンドを用いてcc/cv(定電流/定電圧)法により、電池の充電を行った。3.0Vの電圧限界に達するまで、第一サイクルにおいて5mA/g(C/25に相当)およびその後のサイクルにおいて60mA/g(C/2に相当)の定電流でcc(定電流)法により、電池の放電を行った。選択された比電流は、正電極の被膜重量に基づくものである。
【0137】
処方に依存して、リチウムイオン電池のアノード対カソード比(セルバランス)は、アノードの完全または部分的リチウム化に対応する。試験結果を表2に纏めている。
【0138】
【0139】
本発明(例2)による粒径d50を有しているSi粒子をベースとする本発明によるコア-シェル複合粒子は、粒径d50が<1μmであるSi粒子をベースとするコア-シェル複合粒子(比較例3)よりも著しく安定したサイクル挙動を有している。
さらに、A/K比率が増加するにつれサイクル安定が相当に増加したので、コア-シェル複合粒子のリチウム化がより低かった。
【0140】
例5:
コア-シェル複合粒子の機械的安定性:
例1eからのコア-シェル複合粒子を例4aに記載の電極へと加工した。100μmのギャップ幅を有するフィルム延伸枠を使用することで、1.79mg/cm2の荷重で34μmの乾燥薄膜厚を達成することができた。これは0.53g/cm3の電極密度に相当する。
油圧タブレットプレス機(Specac製)を用いて打ち抜かれた電極(φ15mm)を連続した三段階の強度(9kN-->18kN-->135kN)で圧縮した。3つの測定を平均して、得られた電極密度として1.12g/cm3を得ることができた。
【0141】
圧縮は
図4(非圧縮)および
図5(圧縮)において示されるSEM面においても明白である。電極構造中の包括的細孔は電極の圧縮後(
図5)でさえも明白であり、これは本発明によるコア-シェル複合粒子の部分の高い剪断安定性および圧縮安定性を示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0142】