(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】ヒドロゲルビーズを用いるDNA配列決定
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20220221BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220221BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220221BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20220221BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20220221BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220221BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220221BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C07K14/00 ZNA
C12N15/11 Z
C40B40/06
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019568595
(86)(22)【出願日】2019-02-11
(86)【国際出願番号】 US2019017521
(87)【国際公開番号】W WO2019160820
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-02-12
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】イア-シュアン・ウー
(72)【発明者】
【氏名】フィリズ・ゴルペ-ヤサル
(72)【発明者】
【氏名】タルン・クマール・クラナ
(72)【発明者】
【氏名】ビクトリア・ポピック
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ビー・イェガー
(72)【発明者】
【氏名】モスタファ・ロナギ
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0136544(US,A1)
【文献】NATURE BIOTECHNOLOGY,2017年,VOLUME 35 NUMBER 7,p. 640-646, ONLINE METHODS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C07K
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルポリマー、
還元剤の存在下で切断される可逆性ポリマー架橋剤、および
ヒドロゲルビーズ内に配置されたDNA
を含むヒドロゲルビーズを得る工程であって、ここで、該ビーズは、DNAを保持しながらビーズを通しての反応剤の拡散を可能にする細孔を含む、工程;
ヒドロゲル内に封入されたDNAを増幅させる工程;
ヒドロゲル内に封入されたDNAに対してタグメンテーションを実施して、ヒドロゲル内に封入されたDNAライブラリーを作製する工程;および
該DNAの配列を決定する工程;
を含む、DNA配列決定法。
【請求項2】
ビーズが50μmから150μmの直径を有する、請求項1に記載のDNA配列決定法。
【請求項3】
ヒドロゲルポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)-チオール/PEG-アクリレート、アクリルアミド/N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(BACy)、PEG/ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ビニルスルホン酸)(PVSA)、ポリ(L-アスパラギン酸)、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリリシン、寒天、アガロース、アルギン酸塩、ヘパリン、硫酸アルギン酸塩、硫酸デキストラン、ヒアルロン酸、ペクチン、カラギーナン、ゼラチン、キトサン、セルロース、またはコラーゲンを含む、請求項1または2に記載のDNA配列決定法。
【請求項4】
DNAが、50,000塩基対以上の長いDNA分子である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項5】
反応剤が、酵素、化合物および50塩基対未満のサイズを有するプライマーを含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項6】
反応剤が、リゾチーム、プロテイナーゼK、ランダムヘキサマー、ポリメラーゼ、トランスポザーゼ、
50塩基対未満のサイズを有するプライマー、リガーゼ、触媒酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝剤、または二価陽イオンを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項7】
還元剤が、ジチオエリスリトール(DTE)、ジチオスレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノールまたはβ-メルカプトエタノール(BME)、2-メルカプトエタノール、グルタチオン、チオグリコール酸、2,3-ジメルカプトプロパノール、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THP)、またはP-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン]プロピオン酸(THPP)である、請求項1から
6のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項8】
DNAを増幅させる工程が多重置換増幅(MDA)を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項9】
タグメンテーションが、DNAを、トランスポザーゼおよびアダプターを含むトランスポソーム複合体と接触させる工程を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載の
DNA配列決定法。
【請求項10】
固体支持体上にDNAライブラリーをシーディングすることをさらに含む、請求項1から
9のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【請求項11】
シーディングが、ヒドロゲルを切断して、該ヒドロゲルからDNAライブラリーを放出させることを含む、請求項
10に記載のDNA配列決定法。
【請求項12】
切断が、ヒドロゲルと開裂酵素ミックスを接触させることを含む、請求項
11に記載のDNA配列決定法。
【請求項13】
開裂酵素ミックスが、ジチオスレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、またはトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(THP)を含む、請求項
12に記載のDNA配列決定法。
【請求項14】
固体支持体がフローセル装置である、請求項
10から
13のいずれか一項に記載のDNA配列決定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本明細書に記載のシステム、方法および組成物は、ポリヌクレオチドの配列の決定および関連するライブラリー作製に用いるための、ヒドロゲルビーズ、およびヒドロゲルビーズ内に長いDNAを封入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
次世代シークエンサーは、1回のシークエンシングランで大量のゲノムデータを産生する強力なツールである。この大量のデータを解釈および分析することは、困難な場合がある。1塩基合成(Sequencing by synthesis:SBS)技術は、高品質のシークエンシング(配列決定)データを提供する。しかしながら、ショートリード(最大リード長が2×300bpである)が、現在のSBSケミストリーの1つの限界である。最近では、一塩基多型(single nucleotide variants:SNP)、挿入/欠失、および構造変異をより良好に捕捉するため、および改善されたゲノム識別のために、より長いDNA分子をシークエンシングすることの重要性が増している。
【発明の概要】
【0003】
概要
本明細書に記載されるいくつかの態様は、DNA反応を実施するためのヒドロゲルビーズに関する。ある態様において、ヒドロゲルビーズは、ヒドロゲルポリマー前駆体、架橋剤、およびヒドロゲルビーズ内に配置されたDNAを含む。ある態様において、該ビーズは、DNAを保持しつつ、ビーズからの反応剤の拡散を可能にする細孔を含む。ある態様において、DNAは50,000塩基対以上の長いDNA分子である。
【0004】
本明細書に記載のある態様は、DNA配列決定を実施するためのフローセル装置に関する。ある態様において、フローセル装置は、固体支持体を含む。ある態様において、固体支持体は、そこに配置されたDNAを封入する分解性ヒドロゲルを有する表面を含む。ある態様において、該分解性ヒドロゲルは、ヒドロゲルからの反応剤の拡散を可能にするが、DNAが通過するにはサイズが小さい細孔を含む。
【0005】
本明細書に記載されるいくつかの態様は、DNA配列決定のためのシステムに関する。ある態様において、該システムは、フローセル装置を保持するように構成されたステージ、フローセル装置、およびシークエンシングデータを取得するための検出器を含む。
【0006】
本明細書に記載されるいくつかの態様は、DNA配列決定法に関する。ある態様において、該方法は、本明細書に記載のDNAを封入しているビーズを得ることを含む。ある態様において、該方法は、本明細書に記載のフローセル装置を提供することを含む。ある態様において、該方法は、ヒドロゲル内に封入されたDNAを増幅させること、ヒドロゲル内に封入されたDNAにタグメンテーションを実施すること、またはDNAを配列決定することをさらに含む。ある態様において、該方法は、ヒドロゲル内に封入されたDNAライブラリーを生成することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、フローセル上のライブラリー作製およびシーディングによる、長いDNAの空間インデックス付けの1態様を示す概略図である。
【
図1B】
図1Bは、長いDNA分子を封入しているヒドロゲルビーズを用いた空間インデックス付けを示す概略図である。反応剤をヒドロゲルビーズに用いて、フローセル表面上にライブラリーを空間的に産生することができる。
【
図2】
図2は、ヒドロゲルビーズ内に長いDNAを封入し、該ヒドロゲルビーズ内でライブラリーを作製し、それをフローセル装置上でクラスター化および配列決定することができる方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、約100kbのDNA断片(多重置換増幅(MDA)工程を含まない(パネル(a))か、または
タグメンテーションの前にMDA工程を含む(パネル(b)))および約10-20kbのDNA断片(パネル(c))を含む、ヒドロゲルビーズ内に封入された長いDNAのDNA配列決定のワークフローを示す概略図である。
【
図4】
図4は、MDAを含まない100kbのDNA断片からの長いDNAヒドロゲル空間インデックス付け配列決定データのストローブリード(strobed read)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、MDAを含む100kbのDNA断片の長いDNAヒドロゲル空間インデックス付けのロングリード(linked read)の線グラフを示す。
【
図6】
図6は、MDAを含む10kbのDNA断片の長いDNAヒドロゲル空間インデックス付けのロングリードの線グラフを示す。
【0008】
【
図7】
図7Aおよび7Bは、ヒドロゲルビーズ内に封入された長いDNAの空間的リード(spatial read)の線グラフを示す。
図7Aは、ヒドロゲルビーズ内に封入された細胞の空間的リードを示し、挿入図は、ヒドロゲルビーズ内の細胞を示す顕微鏡写真である。
図7Bは、ヒドロゲルビーズ内に封入された長いDNA断片の空間的リードを示し、挿入図は、該ビーズ内に封入された該断片を示す顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、ヒドロゲルビーズ内に封入された微生物種の同定を示す顕微鏡写真を示す。ヒドロゲルビーズは種々の微生物種を封入し、空間的シークエンシングリードを実施して、該微生物種を同定した。
【
図9】
図9は、ヒドロゲルビーズ内に封入されている長いDNAのバーコードリードの分布を示すグラフを示す。
【
図10】
図10Aは、ヒドロゲルビーズ内に封入された大腸菌細胞の単回ランからのショートリードおよびロングリードを示すグラフを示す。図に示すように、ロングリードはリピート領域に跨っており、新しい(de novo)配列アセンブリを改善できる。
図10Bは、空間的なロングリードおよび間質性ショートリードを示す顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。図面中、同様の記号は、一般的に、これと異なる記載がない限り、同様の成分を示している。詳細な説明、図面および特許請求の範囲に記載される例示的態様は、限定することを意図していない。本明細書に記載される主題の精神または範囲を逸脱することなく、他の態様を利用すること、および他の変更を加えることが可能である。本明細書に一般的に記載され、図面に示される本開示の側面は、多種多様な異なる構成での配置、置き換え、組み合わせ、分離、および設計が可能であることは容易に理解され、それらの全てが本明細書で明示的に企図されている。
【0010】
複数の態様は、ビーズ中に長いDNA断片を封入させて、DNA断片のヌクレオチド配列を決定するための、組成物、システムおよび方法に関する。これにより、以下に記載するように、比較的長いDNA断片を配列決定する信頼できるハイスループットな方法を創出できる。本明細書に記載の方法およびシステムは、改良された配列決定およびゲノムDNAの識別定を可能にする単一ビーズ内に封入された長いDNA断片の配列決定に関する。ある態様において、この方法は、ヒドロゲルビーズ内にDNA断片のサンプルを封入すること、DNA断片のサンプルを封入しているヒドロゲルビーズをフローセル装置上にローディングすること、ライブラリーを作製すること、作製したライブラリーをフローセル装置の表面上にリリースすること、およびリリースされたライブラリーをクラスター化および配列決定することを含む。
【0011】
ある態様において、ライブラリー作製は、封入されたDNAのタグメンテーションを含む。封入されたDNAのタグメンテーションは、長いDNA配列を短いタグメンテーションフラグメントに切断して、それを用いてフローセルの表面上にDNAクラスターを作製する。クラスターは、長いDNAのタグメンテーションフラグメントの産物であり、各々が、例えば、SBSシークエンシングを用いて配列決定され得る。単一の長いDNA分子からのクラスター群は、本明細書中、長いDNAアイランド(island)と呼ばれる。ある態様において、単一のヒドロゲルビーズは、単一の長いDNA分子または複数の長いDNA分子を封入し得る。各長いDNA分子は、単一の長いDNAアイランドを産生する。単一のヒドロゲルビーズ内の全ての長いDNAアイランドのクラスターは、本明細書中、クラスタークラウドと呼ばれる。従って、クラスタークラウドは、単一のヒドロゲルビーズ内の全てのクラスターを表し、多くの長いDNAアイランド(長いDNAアイランドのそれぞれが単一の長いDNA分子を表す)を含んでいてよく、各長いDNAアイランドは、複数のクラスターを含む。
【0012】
ビーズは、長いDNA分子または長いDNA分子を含む供給源の存在下で混合されて、該DNA分子を封入しているヒドロゲルビーズを形成する、ヒドロゲルポリマーおよび架橋剤を含み得る。ある態様において、長いDNA供給源は細胞である。ヒドロゲルビーズは、ビーズ内に長いDNAを保持しつつ、ヒドロゲルビーズからの反応剤の拡散を可能にし、それにより各ビーズ内で反応が起こるのを可能にする細孔を含み得る。
【0013】
ある態様は、長いDNAを封入しているビーズを用いて核酸反応を起こす方法、例えば、長いDNA分子のハイスループット空間インデックス付けを含む方法を含む。
図1Aに示すように、長いDNA分子からのライブラリー作製は、表面上の“クラスターパッチ(cluster patch)”としての単一の長いDNA分子からの複数のクラスターをクラスタリングおよびシーディングすることにより容易に調製することができ、次いで読み出し、空間的にマッピングすることができる。本明細書で用いる用語“長いDNA”は、300塩基対より長いDNA断片を含んでいてよい。本明細書で用いる、長いDNA断片は、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500kb以上などの1kb、2.5kb、5kb以上の長さのDNAを意味し、上記の数値のいずれか2つで定義される範囲内の長さが含まれる。
【0014】
理論は別にして、本明細書に記載の方法、システムおよび組成物は、現在のライブラリー作製技術と比べて幾つかの利点が挙げられる。例えば、ある態様において、この方法は、単一ビーズを用いてサンプル調製を可能とし、ゲノムサンプルを一連の長いDNAフラグメントに断片化することが可能である。次に、その単一ビーズを、長いDNA断片が各々、フローセル表面上で互いに隣接して配置されるように該長いDNA断片を配するフローセル上の1つの特定の位置に付着させることができる。次いで、システムは、各長いDNA断片からヌクレオチド配列を決定する。それらはフローセル表面で互いに隣接しているため、システムは、この空間位置データを用いて、元のゲノムDNAの最終配列をより効率的に再構築することができる。システムは、単一細胞、長いDNA断片または染色体から直接空間的に同じ位置に配置されたリードを沈積(deposit)させることができる。ある態様において、この方法は、ライブラリー作製のための入力を減らし、PCRなしの手順を可能にする。ある態様において、この方法は、分子バーコード化の必要なく実施され得る。ある態様において、この方法は、簡素化された手順の自動化を可能にする。ある態様において、この方法は、種々の核酸アッセイおよび手順に適合する。
【0015】
ある態様は、長いDNAを封入するヒドロゲルビーズを調製する方法に関する。ある態様において、長いDNAを封入しているヒドロゲルビーズを用いて、細胞ゲノムを処理して、ビーズ内でDNAライブラリー作製を実施するのを可能し得る。ある態様において、長いDNA断片を封入しているヒドロゲルビーズは、単一の細胞を包含し、それを用いて、細胞ゲノムDNAを処理し、ビーズ内での全長DNAライブラリー作製を行うことを可能にする。
【0016】
ある態様において、ヒドロゲルビーズの細孔サイズは、長いDNA断片および作製されたDNAライブラリーが処理中にヒドロゲルビーズ内に保持され得るように、長い核酸(>300bps)を保持しつつ、酵素、化合物および小さいサイズのプライマー(<50bp)の拡散を可能にするように、操作され得る。ある態様において、特定のプライマーをヒドロゲルビーズマトリックス内で化学的に連結して、特定のゲノムDNAをハイブリダイズおよび処理することができる。次いで、単一細胞からのDNAライブラリーは、特定の領域に、例えば、ライブラリーシーディングのためにフローセル表面上に放出され得る。その後、これにより、封入された長いDNA断片に由来するフローセル上の“DNAクラスター”の空間分布が得られ、後処理中のリードアライメントが簡素化される。
【0017】
本明細書で用いる用語“反応剤”は、反応、相互作用、希釈、またはサンプルへの添加に有用な1つの反応材または2以上の反応材の混合物を記載し、例えば緩衝液、化合物、酵素、ポリメラーゼ、50塩基対未満のサイズを有するプライマー、鋳型核酸、ヌクレオチド、標識、色素、またはヌクレアーゼを含む、核酸反応に用いられる反応材を含み得る。ある態様において、反応剤としては、リゾチーム、プロテイナーゼK、ランダムヘキサマー、ポリメラーゼ(例えば、Φ29 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、Bsuポリメラーゼ)、トランスポザーゼ(例えば、Tn5)、プライマー(例えば、P5およびP7アダプター配列)、リガーゼ、触媒酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝液または二価カチオンが挙げられる。
【0018】
遺伝物質を封入しているヒドロゲルビーズ
一態様は、ヒドロゲルポリマーおよび遺伝物質を含むビーズを含む。本明細書で用いる用語“ヒドロゲル”は、有機ポリマー(天然または合成)が共有結合、イオン結合、または水素結合により架橋されて、水分子を閉じ込めてゲルを形成する、3次元の開放格子構造を形成するときに形成される物質を意味する。ある態様において、ヒドロゲルは、生体適合性ヒドロゲルであり得る。本明細書で用いる用語“生体適合性ヒドロゲル”は、生細胞に毒性がなく、閉じ込められた細胞への酸素および栄養素の十分な拡散を可能にして生存率を維持するゲルを形成するポリマーを意味する。ある態様において、ヒドロゲルポリマーは、60-90%の液体、例えば水、および10-30%のポリマーを含む。ある態様において、ヒドロゲルの含水量は約70-80%である。
【0019】
ヒドロゲルは、親水性バイオポリマーまたは合成ポリマーを架橋することにより調製され得る。従って、ある態様において、ヒドロゲルは、架橋剤を含んでいてよい。本明細書で用いる用語“架橋剤”は、適切なベースモノマーと反応したときに3次元ネットワークを形成できる分子を意味する。1以上の架橋剤を含んでよいヒドロゲルポリマーの例としては、ヒアルロン酸、キトサン、寒天、ヘパリン、硫酸、セルロース、アルギネート(硫酸化アルギン酸(alginate sulfate)を含む)、コラーゲン、デキストラン(デキストラン硫酸塩を含む)、ペクチン、カラギーナン、ポリリシン、ゼラチン(ゼラチンタイプAを含む)、アガロース、(メタ)アクリレート-オリゴラクチド-PEO-オリゴラクチド-(メタ)アクリレート、PEO-PPO-PEOコポリマー(Pluronics)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(メタアクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、PL(G)A-PEO-PL(G)Aコポリマー、ポリ(エチレンイミン)、ポリエチレングリコール(PEG)-チオール、PEG-アクリレート、アクリルアミド、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、PEG、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ビニルスルホン酸)(PVSA)、ポリ(L-アスパラギン酸)、ポリ(L-グルタミン酸)、ビスアクリルアミド、ジアクリレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルスルホン、ジエチレングリコール ジアリルエーテル、エチレングリコールジアクリレート、ポリメチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールトリアクリレート、またはエトキシ化ペンタエリトリトールテトラアクリレート、あるいはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。従って、例えば、組合せは、ポリマーおよび架橋剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)-チオール/PEG-アクリレート、アクリルアミド/N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(BACy)、またはPEG/ポリプロピレンオキシド(PPO)を含み得る。
【0020】
ある態様において、架橋剤は、ヒドロゲルポリマー中でジスルフィド結合を形成し、それによってヒドロゲルポリマーを連結する。ある態様において、ヒドロゲルポリマーは、細孔を有するヒドロゲルマトリックス(例えば、多孔性ヒドロゲルマトリックス)を形成する。これらの細孔は、ヒドロゲルビーズ内に十分大きな遺伝物質、例えば長いDNA断片を保持することができるが、反応剤などの小さな物質が該細孔を通過し、それによりヒドロゲルビーズへの出入りを可能にする。ある態様において、ポリマーの濃度と架橋剤の濃度の比を変えることにより、細孔を微調整する。ある態様において、ポリマーと架橋剤の比は、30:1、25:1、20:1、19:1、18:1、17:1、16:1、15:1、14:1、13:1、12:1、11:1、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:15、1:20、または1:30であるか、あるいは上記の比率のいずれか2つによって定義される範囲内の比率である。ある態様において、DNAプライマーまたは荷電化学材のような更なる官能材をポリマーマトリックスに移植して、多様な適用の要請を満たすことができる。
【0021】
本明細書で用いる用語“多孔率”は、開口スペース、例えば開口孔または他の開口部で構成されているヒドロゲルの体積率(fractional volume (dimension-less))を意味する。従って、多孔率は、材料内の空隙を測定し、0から100%の間の割合として、全体積に対する空隙の体積の割合である(または0から1の間)。ヒドロゲルの多孔率は、0.5から0.99の範囲、約0.75から約0.99の範囲、または約0.8から約0.95の範囲であり得る。
【0022】
ヒドロゲルは、任意の細孔径を有し得る。本明細書で用いる用語“細孔サイズ”は、孔の断面の直径または有効径を意味する。用語“細孔サイズ”はまた、複数の孔の測定値に基づく、細孔の断面の平均直径または平均有効直径を意味し得る。円形ではない断面の有効直径は、非円形断面と同じ断面積を有する円形断面の直径に等しい。ある態様において、ヒドロゲルが水和されると、ヒドロゲルが膨潤され得る。次いで、細孔のサイズは、ヒドロゲルの含水量に応じて変化し得る。ある態様において、ヒドロゲルの孔は、ヒドロゲル内に遺伝物質を保持するが反応剤は通過させるのに十分なサイズの細孔を有し得る。
【0023】
ある態様において、架橋剤は可逆性架橋剤である。ある態様において、可逆性架橋剤は、ヒドロゲルポリマーを可逆的に架橋することができ、切断剤(cleaver)の存在下で架橋を切断することができる。ある態様において、架橋剤は、還元剤の存在により、高温により、または電場により切断され得る。ある態様において、可逆性架橋剤は、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、ポリアクリルアミドゲルの可逆性架橋剤であり得、適切な還元剤の存在下でジスルフィド結合が破壊され得る。ある態様において、架橋剤と還元剤の接触は、架橋剤のジスルフィド結合を切断し、ヒドロゲルビーズを分解する。ヒドロゲルビーズは分解し、その中に保持された核酸などの内容物を放出する。ある態様において、架橋剤は、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100℃を超えるまで温度を上昇させることにより切断される。ある態様において、架橋剤は、ヒドロゲルビーズを還元剤と接触させることにより切断される。ある態様において、還元剤としては、ホスフィン化合物、水溶性ホスフィン、窒素含有ホフィンならびにその塩および誘導体、ジチオエリスリトール(DTE)、ジチオスレイトール(DTT)(2,3-ジヒドロキシ-1,4-ジチオールブタンのそれぞれシスおよびトランス異性体)、2-メルカプトエタノールまたはβ-メルカプトエタノール(BME)、2-メルカプトエタノールまたはアミノエタンチオール、グルタチオン、チオグリコール酸またはチオグリコール酸、2,3-ジメルカプトプロパノール、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THP)、またはP-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン]プロピオン酸(THPP)が挙げられる。
【0024】
ある態様において、温度を上げて拡散を増やすかまたは架橋剤を分解する還元剤と接触させることにより、ヒドロゲルビーズから封入された遺伝物質を放出させる。
【0025】
ある態様において、架橋剤の架橋形成は、ヒドロゲルビーズ内に複数の細孔を確立する。ある態様において、ヒドロゲルビーズにおける該細孔のサイズは調節可能であり、遺伝物質、例えば約5000塩基対以上のDNA断片を封入するが、より小さな粒子、例えば反応剤、または約50塩基対未満の小さいサイズの核酸、例えばプライマーが細孔を通過するのを可能にするように整形される(
図1Bに示す)。ある態様において、反応剤には、遺伝物質を処理するための反応剤、例えば、核酸を細胞から単離するための反応剤、核酸を増幅、バーコード化または配列決定するための反応剤、あるいは核酸ライブラリーを製造するための反応剤が含まれる。ある態様において、反応剤は、例えば、リゾチーム、プロテイナーゼK、ランダムヘキサマー、ポリメラーゼ(例えば、Φ29 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、Bsuポリメラーゼ)、トランスポザーゼ(例えば、Tn5)、プライマー(例えば、P5およびP7アダプター配列)、リガーゼ、触媒酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝剤、または二価のカチオンを含む。
【0026】
ある態様において、長いDNAは、ゲノムDNA、ウイルス核酸、細菌核酸、または哺乳動物核酸を含む。ある態様において、ヒドロゲルビーズは、長いDNAの供給源、例えば細胞を含む。ある態様において、細胞は、原核細胞または真核細胞を含む単一細胞である。ある態様において、細胞は哺乳動物細胞である。ある態様において、細胞はヒト細胞である。ある態様において、細胞は細菌細胞である。従って、
図7Aおよび7Bに示すように、この方法は、いずれかまたは両方がヒドロゲルビーズで封入されている、長いDNA断片または細胞上で行われてもよい。
【0027】
ビーズの作製方法
本明細書で提供されるいくつかの態様は、長いDNA断片を封入するビーズを作製する方法に関する。ある態様において、ヒドロゲルビーズは、ボルテックス(vortex)攪拌処理によるエマルジョンにより調製される。本明細書で用いる、ボルテックス攪拌処理によるエマルジョンとは、チューブ、バイアルまたは反応容器などの容器内でヒドロゲルポリマーを長いDNA断片または長いDNA断片の供給源と共にボルテックスすることを意味する。複数の成分が、たとえば手動または機械的なボルテックスまたは振とうによって混合され得る。ある態様において、手動混合により、直径2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140または150μmのサイズ、あるいは該値のいずれか2つで定義される範囲内のサイズを有する遺伝物質を封入するヒドロゲルビーズが得られる。ある態様において、ビーズのサイズは不均一であり、それ故に、ビーズのサイズには種々の直径のビーズが含まれる。
【0028】
ある態様において、ビーズは、マイクロ流体による液滴形成により調製される。
図1Bに示すように、マイクロ流体による液滴生成には、ゲルエマルジョン生成を補助するためのマイクロ流体デバイスの使用が含まれる。ある態様において、マイクロ流体デバイスは、所望のサイズのヒドロゲルビーズを形成するように構成され、ビーズごとに選択された量の遺伝物質を封入するように構成されたマイクロチャネルを含む。ある態様において、マイクロ流体デバイスは、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200μmの高さ、あるいは該値のいずれか2つによって定義される範囲内の高さを有する。ある態様において、マイクロ流体デバイスは、1以上のチャネルを含む。ある態様において、マイクロ流体デバイスは、水溶液流用のチャネルおよび非混和流体用のチャネルを含む。ある態様において、1以上のチャネルの幅は同一である。ある態様において、1以上のチャネルの幅は異なる。ある態様において、1以上のチャネルの幅は、20、30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145または150μmであるか、または該値のいずれか2つによって定義される範囲内の幅である。ある態様において、水溶液チャネルの幅は75μmである。ある態様において、不混和流体チャネルの幅は78μmである。当業者は、ビーズのサイズを微調整するために幅を変えることができることを認識し得る。マイクロ流体デバイスのサイズおよびチャネルの幅に加えて、水溶液チャネルおよび不混和流体チャネルの流速もヒドロゲルビーズのサイズに影響を与える可能性がある。
【0029】
ある態様において、水溶液チャネルにおける溶液の流速は、1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140または150μL/分であるか、あるいは前記値のいずれか2つにより定義される範囲内の流速である。ある態様において、不混和流体チャネルにおける不混和流体の流速は、20、30、50、80、100、150、160、170、180、190、200、225、250、275、300、325、350、375または400μL/分であるか、あるいは前記値のいずれか2つにより定義される範囲内の流速である。ある態様において、水相中の溶液はヒドロゲルポリマー、架橋剤および遺伝物質を含み、水溶液チャネルを通過して不混和流体、例えば担体オイルに、不混和流体の流速よりも遅い流速で流れ込み、それにより液滴を形成する。ある態様において、不混和流体は、鉱油、炭化水素油、シリコン油またはポリジメチルシロキサン油、あるいはそれらの混合物などのオイルである。ある態様において、遺伝物質を含むヒドロゲル液滴は、均一なサイズ分布で製剤される。ある態様において、ヒドロゲルビーズのサイズは、マイクロ流体デバイスのサイズ、1以上のチャネルのサイズ、あるいは水溶液または不混和流体のいずれかまたは両方の流速を調整することにより微調整される。ある態様において、得られるヒドロゲルビーズは、2から150μmの範囲、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140または150μm、あるいは前記値のいずれか2つにより定義される範囲内の直径を有する。
【0030】
ある態様において、遺伝物質を封入しているヒドロゲルビーズのサイズおよび均一性は、ビーズ形成前にヒドロゲルポリマーを、イソプロピルアルコールを含むアルコールなどの流体改質剤と接触させることにより、さらに制御することができる。
【0031】
ある態様において、ビーズ内に封入された長いDNA断片の量は、投入(inputted)サンプル内の長いDNA断片を希釈または濃縮することにより制御できる。長いDNA断片を含むサンプルは、ヒドロゲルポリマーと共に混合され、該長いDNA断片を含むヒドロゲルポリマーは、本明細書に記載の、ボルテックス攪拌エマルジョンまたはマイクロ流体滴生成に付される。
【0032】
ある態様において、ヒドロゲルビーズは、ヌクレオチドで官能化(functionalize)されている。ある態様において、ヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドまたはポリTヌクレオチドである。ある態様において、ヌクレオチドは、ヒドロゲルビーズに結合され、官能化されたビーズは、目的のヌクレオチドの標的化された捕捉に用いられ得る。
【0033】
ヒドロゲルビーズ内の長いDNA断片の処理方法
いくつかの態様は、ヒドロゲルビーズにおいて長いDNA分子を調製および処理するためのフロー図を示す
図2に示されるように、ビーズ内で長いDNA断片を処理する方法を含む。第一工程において、例えばゲノムデータまたは細胞由来のDNAサンプルを、ヒドロゲルビーズ内に封入する。ある態様において、長いDNA断片は、ヒドロゲルビーズ内に保持され、反応剤はヒドロゲルビーズの細孔を通過できる。ある態様において、反応剤としては、溶解剤、核酸精製剤、
タグメンテーション剤、PCR反応剤、または遺伝物質の処理に用いられる他の反応剤が挙げられ得る。従って、ヒドロゲルビーズは、反応剤に対するバリアをヒドロゲルビーズの内外に通過可能にする一方で、長いDNA断片をビーズ内に保持する、ヒドロゲルビーズ内の長いDNA断片の制御された反応のための微小環境を提供する。DNAがビーズ内に封入されると、該プロセスは、サンプルをフローセルにロードして、ライブラリー作製プロセスで長いDNA断片を作製できる次の段階に進む。
【0034】
本明細書で用いる用語“タグメンテーション”は、トランスポゾン末端配列を含むアダプターと結合されたトランスポザーゼ酵素を含むトランスポソームによるDNAの修飾を意味する。タグメンテーションの結果、DNAの断片化および二本鎖フラグメントの両鎖の5’末端へのアダプターのライゲーションが同時に起こる。トランスポザーゼ酵素を除去するための精製工程の後、さらなる配列が、例えば、PCR、ライゲーション、または当業者に知られている何らかの他の好適な方法により、適合断片の末端に付加され得る
【0035】
ある態様において、全体のDNAライブラリー作製は、ヒドロゲルマトリックス内にgDNAおよびそのライブラリー産物を保持しながら、多孔質を通してヒドロゲルを通過させることにより、複数の反応剤交換と共に、フローセルに結合されたヒドロゲルビーズの内部でシームレスに行うことができる。ヒドロゲルは、様々な生化学反応をサポートするために95℃までの高温に数時間耐えることができる。
【0036】
プロセスの次のステップでは、前記ライブラリー作製からの長いDNA断片を封入したヒドロゲルビーズを処理して、該ビーズから長いDNA断片を放出、精製および分離する。したがって、例えば、ヒドロゲルビーズを溶解緩衝液と接触させる。本明細書で用いる“溶解”とは、細胞RNAまたはDNAへのアクセスまたは放出を促進する細胞壁またはウイルス粒子の崩壊(perturbation)または変化を意味する。細胞壁の完全な破壊も分解も、溶解に不可欠な要件ではない。用語“溶解緩衝液”とは、少なくとも1つの溶解剤を含む緩衝液を意味する。一般的な酵素溶解剤には、リゾチーム、グルコラーゼ、ザイモロース、リチカーゼ、プロテイナーゼK、プロテイナーゼE、ならびにウイルスエンドリシンおよびエキソリシンが含まれるが、これらに限定されない。従って、例えば、ビーズ中の細胞の溶解は、リゾチームおよびプロテイナーゼKなどの溶解剤をヒドロゲルビーズ内に導入することにより、行うことができる。ここで、細胞からのgDNAは、ビーズ内に含まれる。ある態様において、溶解処理後、単離された核酸は、ヒドロゲルビーズ内に保持され、さらなる処理に用いられ得る。
【0037】
本明細書で用いる用語“単離された(isolated)”、“単離する(to isolate)”、“単離(isolation)”、“精製された(purified)”、“精製する(to purify)”、“精製(purification)”ならびに文法的に等価な用語は、本明細書で用いられるとき、他にこれと異なる記載がされない限り、そこから物質が単離される、サンプルまたは供給源(例えば、細胞)からの少なくとも1つの汚染物質(例えばタンパク質および/または核酸配列)の量の減少を意味する。従って、精製の結果、“富化”、例えば、サンプル中の所望のタンパク質および/または核酸配列の量の増加がもたらされる。
【0038】
ある態様において、封入された核酸は、ヒドロゲルビーズ内で完全にまたは一部分配列決定される。封入された核酸は、何らかの好適な配列決定法、例えば、合成による配列決定、ライゲーションによる配列決定、ハイブリダイゼーションによる配列決定、ナノポアシークエンシングなどを含む直接的配列決定により配列決定され得る。
【0039】
本明細書で提供されるいくつかの態様は、長いDNA断片に対して有効な1塩基合成(sequencing-by-synthesis (SBS))法に関する。SBSにおいて、核酸鋳型(例えば、ターゲット核酸またはそのアンプリコン)に沿った核酸プライマーの伸長が、鋳型内のヌクレオチドの配列を決定するためにモニターされる。基礎となる化学プロセスは、ポリマー化であり得る(例えば、ポリメラーゼ酵素により触媒される)。特定のポリメラーゼベースのSBS態様において、蛍光標識されたヌクレオチドが、プライマーに追加されたヌクレオチドの順序とタイプの検出を用いて、該鋳型の配列を決定できるように、鋳型に依存する方法でプライマーに付加される(それにより、プライマーを延長する)。
【0040】
1以上の増幅され封入された核酸を、サイクルでの反応剤の反復送達を伴う、SBSまたは他の検出技術に供することができる。例えば、最初のSBSサイクルを開始するために、1以上の標識されたヌクレオチド、DNAポリメラーゼなどを、1以上の増幅された核酸分子を含むヒドロゲルビーズに/を通して流すことができる。プライマーの伸長により標識ヌクレオチドが取り込まれる部位を検出することができる。要すれば、ヌクレオチドは、ヌクレオチドがプライマーに添加されると、さらなるプライマー伸長を終結させる可逆的終結特性をさらに含み得る。例えば、可逆的ターミネーター部分を有するヌクレオチド類縁体を、その部分を除去するために脱ブロッキング剤が送達されるまで後続の伸長が生じないように、プライマーに付加することができる。従って、可逆的終結を用いる態様では、脱ブロッキング剤がフローセルに送達され得る(検出を行う前後に)。種々の送達工程間で洗浄が行われ得る。次いで、サイクルをn回繰り返して、プライマーをnヌクレオチド伸長し、それにより長さnの配列を検出することができる。本発明の方法により生成されるアンプリコンでの使用に容易に適合させることができる例示的なSBS法、流体システムおよび検出プラットフォームは、例えば、Bentleyらの、Nature 456:53-59 (2008)、WO04/018497;米国特許第7,057,026号;WO91/06678;WO07/123744;米国特許第7,329,492号;米国特許第7,211,414号;米国特許第7,315,019号;米国特許第7,405,281号、およびUS2008/0108082(各文献は引用により本明細書中に包含される)に記載されている。
【0041】
パイロシークエンス法などの循環式反応を用いる他の配列決定法を用いることができる。パイロシークエンス法は、特定のヌクレオチドが新生核酸鎖に組み込まれているため、無機ピロホスフェート(PPi)の放出を検出する(Ronaghi, et al., Analytical Biochemistry 242(1), 84-9 (1996); Ronaghi, Genome Res. 11(1), 3-11 (2001); Ronaghi et al. Science 281(5375), 363 (1998);米国特許第6,210,891号;米国特許第6,258,568号および米国特許第6,274,320号、各文献は引用により本明細書中に包含される)。パイロシークエンス法において、放出されたPPiは、ATPスルフリラーゼによってアデノシン三リン酸(ATP)に直ちに変換されることにより検出され得て、精製されたATPのレベルは、ルシフェラーゼにより生成されたフォトン(光子)により検出され得る。従って、配列決定反応は、発光検出システムによりモニターできる。蛍光ベースの検出システムに用いられる励起放射線源は、パイロシークエンス法には必要ない。本明細書の記載に従って生成されたアンプリコンへのパイロシークエンスの適用に適合させることができる有用な流体システム、検出器および手順は、例えば、WIPO特許出願番号PCT/US11/57111、US 2005/0191698 A1、米国特許第7,595,883号、および米国特許第7,244,559号(各文献は引用により本明細書中に包含される)に記載されている。
【0042】
いくつかの態様は、DNAポリメラーゼ活性のリアルタイムモニタリングを含む方法に有用であり得る。例えば、ヌクレオチドの取り込みは、フルオロフォアを担持するポリメラーゼとγ-リン酸標識ヌクレオチドとの間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)相互作用により、またはゼロモード導波路(zero mode waveguides (ZMW))を用いて検出できる。FRETベースの配列決定のための技術および反応剤は、例えば、Leveneらの、Science 299, 682-686 (2003); Lundquistらの、Opt. Lett. 33, 1026-1028 (2008); Korlachらの、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 1176-1181 (2008)(これらの文献の開示内容は引用により本明細書中に包含される)に記載されている。
【0043】
いくつかのSBSの態様には、伸長産物へのヌクレオチドの取り込みの際に放出される陽子(プロトン)の検出が含まれる。例えば、放出されたプロトンの検出に基づく配列決定では、市販の電気検出器(electrical detector)および関連技術を用いることができる。そのような配列決定システムの例は、パイロシークエンシング(例えば、Rocheの子会社である454 Life Sciencesから市販のプラットフォーム)、γ-リン酸標識ヌクレオチドを用いるシークエンシング(例えば、Pacific Biosciencesから市販のプラットフォーム)およびプロトン検出を用いるシークエンシング(例えば、Life Technologiesの子会社であるIon Torrentから市販のプラットフォーム)、あるいはUS 2009/0026082 A1;US 2009/0127589 A1;US 2010/0137143 A1;またはUS 2010/0282617 A1(各文献は、引用により本明細書中に包含される)に記載されているシークエンス法およびシステムである。動的排除(kinetic exclusion)を用いて標的核酸を増幅するための本明細書に記載の方法は、プロトンの検出に用いられる基質に容易に適用することができる。より具体的には、本明細書に記載の方法を用いて、プロトンを検出するために用いられるアンプリコンのクローン集団を生成することができる。
【0044】
別の配列決定技術は、ナノポアシークエンシングである(例えば、Deamer et al. Trends Biotechnol. 18, 147-151 (2000); Deamer et al. Acc. Chem. Res. 35:817-825 (2002); Li et al. Nat. Mater. 2:611-615 (2003)を参照のこと。それらの開示内容は引用により本明細書中に包含される)。いくつかのナノポアの態様において、標的核酸または標的核酸から除去された個々のヌクレオチドは、ナノポアを通過する。核酸またはヌクレオチドがナノポアを通過すると、孔の電気伝導度の変動を測定することにより、各ヌクレオチドタイプを特定できる(米国特許第7,001,792号;Soni et al. Clin. Chem. 53, 1996-2001 (2007); Healy, Nanomed. 2, 459-481 (2007); Cockroft et al. J. Am. Chem. Soc. 130, 818-820 (2008)(それらの開示内容は引用により本明細書中に包含される)。
【0045】
本明細書に記載の検出に適用することができるアレイベースの発現および遺伝子型分析の例示的な方法は、米国特許第7,582,420号;同第6,890,741号;同第6,913,884号または同第6,355,431号あるいは米国特許出願2005/0053980 A1; 2009/0186349 A1またはUS 2005/0181440 A1(それぞれ引用により本明細書中に包含される)に記載されている。
【0046】
本明細書に記載の、核酸を単離、増幅および配列決定する方法において、種々の反応剤が核酸の単離および生成のために用いられる。かかる反応剤としては、例えば、リゾチーム、プロテイナーゼK、ランダムヘキサマー、ポリメラーゼ(例えば、Φ29 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、Bsuポリメラーゼ)、トランスポザーゼ(例えば、Tn5)、プライマー(例えば、P5およびP7アダプター配列)、リガーゼ、触媒酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝液または二価のカチオン類が挙げられ得る。これらの反応剤はヒドロゲルビーズの細孔を通過するが、一方で、遺伝物質はヒドロゲルビーズ内に保持される。本明細書に記載の方法の利点は、ヒドロゲルビーズ内の核酸の処理のために封入された微小環境を提供することである。これは、標的核酸の迅速かつ効率的な単一細胞処理を可能にする。
【0047】
アダプターには、シークエンシングプライマー部位、増幅プライマー部位、および複数のインデックス配列(indexes)が含まれ得る。本明細書で用いる“インデックス配列(index)”は、分子識別子および/またはバーコードとして核酸をタグ付けするために、および/または核酸の供給源を同定するために用いられ得る、ヌクレオチド配列を含み得る。ある態様において、インデックス配列を用いて単一の核酸、または核酸の亜集団を特定することができる。ある態様において、核酸ライブラリーは、ヒドロゲルビーズ内で調製され得る。ある態様において、ヒドロゲルビーズ内に封入された単一細胞は、例えば、連続性保存転位(CPTSeq)法を用いて、単一細胞のコンビナトリアルインデックス付けに用いられてもよい。ある態様において、単一細胞由来のDNAは、WGA増幅後に複数の単一細胞を、バーコード化されたトランスポゾンを担持し、それを還元剤と接触させることによりゲルマトリックスが溶解される、例えばバーコード化するためのゲノムDNAを放出する別のビーズと共に封入することによりバーコード化され得る。
【0048】
本明細書に記載の“空間インデックス付け”法および技術の態様は、データ分析を短縮化し、複数の単一細胞および長いDNA分子からのライブラリー作製のプロセスを簡易化する。単一細胞シークエンシングのための既存のプロトコルは、細胞を効率的に物理的に分離し、単離された各細胞を一意的にバーコード化し、すべてをプールしつつ配列決定を行う必要がある。合成された長い読み出しのための現在の方法もまた、複雑なバーコード化工程を要し、各バーコード化されたフラグメントをプールしつつ配列決定を行い、データ分析を各バーコード化された細胞からの遺伝子情報が区別できるようにする必要がある。これらの長いプロセスの間、遺伝物質の損失もあり、それは配列の脱落を引き起こす。本明細書に記載の態様は、プロセスを短縮するのみならず、複数の単一細胞のデータ解像度の向上をもたらす。さらに、本明細書に記載の態様は、新しい生物のゲノムのアセンブリを単純化する。本明細書に記載の態様は、まれな遺伝子変異および突然変異の共起(co-occurrence)を明らかにするために用いられ得る。ある態様において、放出までヒドロゲルビーズに閉じ込められたDNAライブラリーは、放出プロセスおよびヒドロゲル製造を制御することにより、表面に放出されるフラグメントのサイズを制御する機会を提供する。
【0049】
ある態様において、表面はフローセル装置である。ある態様において、フローセルは、ウェル、溝、またはパターンを有するカスタムフローセル装置である。ある態様において、フローセルは、パターン化表面を含む。ある態様において、パターン化表面は、ウェルを含む。ある態様において、ウェルは、約10μmから約50μmの直径、例えば10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、または50μmの直径、あるいは上記値のいずれか2つにより定義される範囲内の直径であり、かつ、約0.5μmから約1μmの深さ、例えば0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、または1μmの深さ、あるいは上記値のいずれか2つにより定義される範囲内の深さであるある態様において、該ウェルは、疎水性材料で構成される。ある態様において、疎水性材料としては、非晶質フルオロポリマー、例えばCYTOP、Fluoropel(登録商標)、またはTeflon(登録商標)が挙げられる。
【0050】
ある態様において、ライブラリーは、アダプター配列におけるプライマー部位を用いて増幅することができ、また、アダプター配列における配列決定プライマー部位を用いて配列決定することができる。ある態様において、アダプター配列は、核酸の供給源を識別するための指標を含み得る。後続の増幅工程の効率は、プライマーダイマーの形成により低下する可能性がある。後続の増幅工程の効率を高めるために、ライゲーション産物から非連結一本鎖アダプターを除去してよい。
【0051】
ヒドロゲルビーズを用いた核酸ライブラリーの作製
本明細書に記載のシステム、方法および組成物のいくつかの態様は、アダプターが標的核酸に連結されている方法を含む。アダプターには、配列決定プライマー結合部位、増幅プライマー結合部位、およびインデックスを含めることができる。例えば、アダプターは、P5配列、P7配列、またはそれらの相補体を含み得る。本明細書で用いる、P5配列は、配列番号1(AATGATACGGCGACCACCGA)で定義される配列を含み、P7配列は、配列番号2(CAAGCAGAAGACGGCATACGA)で定義される配列を含む。ある態様において、P5またはP7配列はさらに、スペーサーポリヌクレオチドを含んでいてよく、これは約1から20ヌクレオチド長、例えば1から15、または1から10ヌクレオチド長、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10ヌクレオチド長である。ある態様において、スペーサーは、10個のヌクレオチドを含む。ある態様において、スペーサーは、ポリTスペーサー、例えば10Tスペーサーである。スペーサーヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの5’末端に含まれていてよく、それは、ポリヌクレオチドの5’末端との結合により適当な支持体に結合され得る。結合は、ポリヌクレオチドの5’末端に存在するホスホロチオエートなどの硫黄含有求核反応剤により達成され得る。ある態様において、ポリヌクレオチドは、ポリTスペーサーおよび5’ ホスホロチオエート基を含み得る。従って、ある態様において、P5配列は、5’ホスホロチオエート-TTTTTTTTTTAATGATACGGCGACCACCGA-3’であり、ある態様において、P7配列は、5’ホスホロチオエート-TTTTTTTTTTCAAGCAGAAGACGGCATACGA-3’である。
【0052】
インデックスは、核酸分子の供給源を特定するのに有用であり得る。ある態様において、アダプターを改変して、例えば一方または両方の末端でアダプターの伸長を防ぐブロッキング基を付加することにより、コンカテマーの形成を防ぐことができる。3’ブロッキング基の例としては、3’-スペーサーC3、ジデオキシヌクレオチド、および基質への付着基が挙げられる。5’ブロッキング基の例としては、脱リン酸化5’ヌクレオチド、および基質への付着基が挙げられる。
【0053】
アダプターとしては、核酸、例えば一本鎖核酸が挙げられる。アダプターは、約5ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長、90ヌクレオチド長、100ヌクレオチド長未満、以上またはそれと等しい長さを有するか、あるいは上記サイズのいずれか2つに定義される範囲の長さの短い核酸を含み得る。ある態様において、アダプターは、ヒドロゲルビーズの孔を通過するのに十分小さいサイズである。標的核酸としてはDNA、例えばゲノムまたはcDNA;RNA、例えばmRNA、sRNAまたはrRNA;あるいは、DNAとRNAのハイブリッドが挙げられる。核酸は、ヒドロゲルビーズ内に封入された単一細胞から単離され得る。核酸は、ホスホジエステル結合を含んでいてよく、例えばホスホラミド、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、O-メチルホスホロアミダイトおよびペプチド核酸主鎖および結合を含む、他のタイプの主鎖を含んでいてよい。核酸は、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの任意の組合せ、ならびにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンタニン、ヒポキサンタニン、イソシトシン、イソグアニン、およびニトロピロール(3-ニトロピロールを含む)およびニトロインドール(5-ニトロインドールを含む)などの塩基類縁体を含む塩基の任意の組合せを含んでいてよい。ある態様において、核酸は、少なくとも1つの非特異的塩基(promiscuous base)を含み得る。非特異的塩基は、2以上の異なるタイプの塩基と塩基対形成することができ、例えば、ゲノムDNAサンプルなどの複雑な核酸サンプルにおけるランダムハイブリダイゼーションに用いられるオリゴヌクレオチドプライマーまたはインサートに含まれるとき、有用であり得る。非特異的塩基の例としては、アデニン、チミンまたはシトシンと対になり得るイノシンが挙げられる。他の例としては、ヒポキサンチン、5-ニトロインドール、アシル 5-ニトロインドール、4-ニトロピラゾール、4-ニトロイミダゾールおよび3-ニトロピロールが挙げられる。少なくとも2、3、4またはそれ以上の種類の塩基と塩基対を形成できる非特異的塩基を用いることができる。
【0054】
方法の一例としては、後続のライゲーション工程においてコンカテマーの形成を阻止するために標的核酸の5’末端を脱リン酸化すること;リガーゼを用いて、脱リン酸化された標的の3’末端に第1のアダプターを連結すること、ここで、第1のアダプターの3’末端はブロックされている;連結された標的の5’末端を再リン酸化すること;一本鎖リガーゼを用いて、脱リン酸化された標的の5’末端に第2のアダプターを連結させること、ここで、第2のアダプターの5’末端はリン酸化されていない、を含む。
【0055】
別の例としては、核酸を5’エキソヌクレアーゼで部分的に消化して、一本鎖3’オーバーハングと二本鎖核酸を形成することが挙げられる。3’ブロッキング基を含むアダプターは、3’オーバーハングを有する二本鎖核酸の3’末端に連結され得る。連結されたアダプターを含む3’オーバーハングを有する二本鎖核酸を脱ハイブリダイゼーション(dehybridized)して、一本鎖核酸を形成することができる。リン酸化されていない 5’末端を含むアダプターは、一本鎖核酸の5’末端に連結され得る。
【0056】
核酸の5’ヌクレオチドなどの核酸を脱リン酸化する方法としては、核酸をホスファターゼと接触させることが挙げられる。ホスファターゼの例としては、仔ウシ腸ホスファターゼ、エビアルカリホスファターゼ、アンタークティック・ホスファターゼ(antarctic phosphatase)、およびAPEXアルカリホスファターゼ(Epicentre)が挙げられる。
【0057】
核酸を連結する方法としては、核酸とリガーゼを接触させることが挙げられる。リガーゼの例としては、T4 RNAリガーゼ1、T4 RNAリガーゼ2、RtcBリガーゼ、メタノバクテリウム属RNAリガーゼ、およびTS2126 RNAリガーゼ(CIRCLIGASE)が挙げられる。
【0058】
核酸の5’ヌクレオチドなどの核酸をリン酸化する方法としては、核酸をキナーゼと接触させることが挙げられる。キナーゼの例としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼが挙げられる。
【0059】
本明細書に記載の態様は、核酸ライブラリーが単一の反応体積で調製されるように、ヒドロゲルビーズにおける該核酸ライブラリーの作製に関する。
【0060】
本明細書に記載のシステムおよび方法の態様には、遺伝物質を封入するヒドロゲルビーズを製造するための、ヒドロゲルポリマー、架橋剤または微小流体デバイスのいずれか1以上を含み、かつ細胞溶解ならびに核酸増幅および配列決定のための反応剤、あるいは本明細書に記載され、遺伝子物質のそれぞれの処理に用いられる、リゾチーム、プロテイナーゼK、ランダムヘキサマー、ポリメラーゼ(例えば、Φ29 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、Bsuポリメラーゼ)、トランスポザーゼ(例えば、Tn5)、プライマー(例えば、P5およびP7アダプター配列)、リガーゼ、触媒酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝液、または二価カチオンを含む、核酸ライブラリー作製のための反応剤、を含む、遺伝物質を処理するのに有用な成分をさらに含む、キットが含まれる。
【実施例】
【0061】
実施例
実施例1-ヒドロゲルビーズの調製
この実施例は、マイクロ流体液滴発生器を用いて長いDNA断片を封入しているヒドロゲルビーズを調製する1つの態様を示す。
【0062】
液滴発生器を用いてヒドロゲルビーズを製造した。長いDNA断片を含むサンプルをポリマー前駆体と共に混合し、該混合物を、カートリッジ上のサンプルリザーバーに負荷した。2分以内に、長いDNAを含む約50,000個のヒドロゲルビーズが各チャネルから作製された(8個の独立したサンプルに対する8チャネルを各カートリッジで処理する)。長いDNAヒドロゲルビーズをフローセル上に負荷し、そこでヒドロゲルビーズをハンズフリーライブラリーの作製のために内部に固着させた(100μmの高さのチャネルおよび120μmの直径のヒドロゲルビーズ)。Nextera酵素および反応剤をフローセルに接触させ、ヒドロゲルビーズ内に包埋された長いDNAを接触させて、ライブラリーを形成した。その後、ライブラリーをフローセル上にシーディングした。ライブラリーシーディング中、ビーズ間の空隙を埋めるためにオイルを負荷し、ライブラリーの拡散を促進するためにフローセルを加熱した。オイルの存在下で、シーディングは、各ヒドロゲルビーズのフットプリントに近接して生じた(120μmまでの直径のヒドロゲルビーズ、ライブラリーシーディングは、およそ120μm直径の領域に限定された)。
【0063】
長いDNA分子を負荷し、ヒドロゲルビーズ(直径約120μm)中に捕捉させ、ライブラリー作製を、ヒドロゲルビーズの内部に包埋されたこれらの長いDNA分子に直接実施した。その結果、特定の長いDNA分子からの全てのDNAライブラリーは、同一のヒドロゲルビーズ内に保持された。次いで、ライブラリーをヒドロゲルビーズからフローセル表面上に放出させて、該フローセル表面上のグループとしてそれらをシーディングした。フローセル上の“クラスターパッチ”として、共にグループ化された長いDNA分子からクラスターを放出させた。単一の長いDNA分子からの単一のパッチを内部に有するクラスターは、高い精度およびより少ない足場ギャップを有するゲノムの再構築を簡易化する。
【0064】
実施例2-長いDNA空間インデックス
この実施例は、MDAを有する、または有しないヒドロゲルビーズ内に封入された100kbの長いDNA断片のストローブ・リードの1つの態様を示す。
【0065】
ヒドロゲルビーズを、約100kbのCorriell ゲノムDNAの存在下でポリマーを混合し、微小液滴発生器を用いてヒドロゲルビーズを形成することにより調製した。DNA断片を、封入している形成されたヒドロゲルビーズをフローセル装置上に配置して、フローセルを反応剤と接触させることにより、DNAに空間インデックス配列決定を行った。ビーズは分解され、フローセル装置上にクラスターが形成された。
図5に示すように、長いDNAアイランド当たりの平均クラスターは約33であって、平均の長いDNAアイランドのサイズは、64000塩基対であり、ビーズ当たり約405個の長いDNAアイランドがあった。
【0066】
ヒドロゲルビーズの第2のセットを、約100kbのCorriell ゲノムDNAの存在下でポリマーを混合し、微小液滴発生器を用いてヒドロゲルビーズを形成することにより調製した。DNA断片を封入している形成されたヒドロゲルビーズをフローセル装置上に配置して、フローセルを反応剤と接触させることにより、DNAに空間インデックス配列決定を行った。MDAを
タグメンテーション前に行った。ビーズは分解され、フローセル装置上にクラスターが形成された。
図6に示すように、長いDNAアイランド当たりの平均クラスターは約85に増加し、平均の長いDNAアイランドサイズは58000塩基対であって、ビーズ当たり約166の長いDNAアイランドがあった。
【0067】
ヒドロゲルビーズの第3のセットを、約10kbのCorriell ゲノムDNAの存在下でポリマーを混合し、微小液滴発生器を用いてヒドロゲルビーズを形成することにより調製した。DNA断片を封入している形成されたヒドロゲルビーズをフローセル装置上に配置して、フローセルを反応剤と接触させることにより、空間インデックス配列決定を実施した。MDAを
タグメンテーション前に行った。ビーズは分解され、フローセル装置上にクラスターが形成された。
図7に示すように、長いDNAアイランド当たりの平均クラスターは約57であって、平均の長いDNAアイランドサイズは10461塩基対であって、ビーズ当たり約85の長いDNAアイランドがあった。
【0068】
実施例3-微生物種の複合混合物におけるメタゲノム
この実施例は、ヒドロゲル内に封入された単一細胞微生物を同定する1つの態様を示す。
【0069】
ヒドロゲルビーズを、微小液滴発生器を用いて本明細書に記載のとおりに調製した。ポリマー材を、L.ガセリ菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、バクテロイデス属菌、アシネトバクター・バウマニー、A群溶血性レンサ球菌、およびアクネス菌を含む多数の微生物を含むサンプルと混合した。その後、封入された細胞を溶解し、ライブラリー作製を行い、それにより、ヒドロゲルビーズが分解され、ライブラリーが表面上に沈積した。
図9に示す通り、フローセル装置上でのその空間的な区画化により、各微生物を同定することが可能であった。従って、封入反応および後続の核酸反応により、ミニ-メタゲノムアッセイにおいてリード区画化を用いて複合混合物中の微生物種の菌株レベルの識別が可能となる。
【0070】
実施例4-フローセル空間インデックス付け
この実施例は、フローセル上の空間インデックスの1つの態様を実証する。
【0071】
フローセル装置を入手し、200μlのPR2で洗浄した。プロセシングのためのビーズもPR2で洗浄した。希釈したヒドロゲルをPR2中で調製した。希釈度を上げると、ヒドロゲル間の間隔が増した。ヒドロゲルをフローセル上に埋め込み、該フローセルへの気泡の導入を回避した。200μl PR2を該フローセルに流して、ビーズが固定されたままで該工程を実施するのを可能にした。100μlのRSBを、フローセルを通して流した。
【0072】
タグメンテーションミックスを、25μlのタグメンテーション反応剤、23μlのRSB、および2μlの酵素を混合することにより調製した。タグ付断片化ミックスを狭いチャネルに導入して、注入口の気泡発生の可能性を除去した。次いで、タグメンテーションミックスをゆっくりと注入口に注いだ。フローセルを密封し、55℃にて10分間インキュベートした。
【0073】
反応停止緩衝液ミックスを、25μlのタグメンテーション緩衝液、25μlのRSB、および10μlの停止緩衝液を混合することにより調製した。該停止緩衝液ミックスを、ゆっくりと気泡を発生させることなくフローセル上に流し、室温にて5分間インキュベートした。インキュベーション後、200μlのPR2を、該装置に流した。
【0074】
NPMを、175μlのRSBおよび75μlのNPMを混合することにより調製した。NPMミックスをゆっくりと気泡を生じさせることなくフローセル装置上に流し、室温にて3分間インキュベートした。200μlの界面活性剤含有オイルをフローセル装置に流した。顕微鏡写真から、ヒドロゲルはNPMミックスおよびオイルで囲まれていることが明らかであった。フローセルを密封し、ギャップ充填反応のために72℃にて3分間インキュベートした。
【0075】
20-30μlの界面活性剤含有オイルおよびDTT含有オイル(29/2比)をフローセル装置に流し、該装置を密封した。開始温度放出プロセスは、90℃で3分間、60℃で5分間、40℃で2分間、および20℃で2分間であった。フローセルを400μlのPR2および200μlのCLMで洗浄した。次いで、フローセルを400μlのPR2で洗浄した。ここで、phixシーディングが望まれ、Phixは2-3pM濃度で調製され、phixライブラリーを装置上に流し、室温で5分間インキュベートした。フローセルを200μlのPR2で洗浄した。100-200μlのAMXを1回目の伸長のために流し、50℃にて5分間インキュベートした。フローセルをPR2で洗浄し、24または30サイクルの増幅を行った。
【0076】
本明細書に記載の態様、実施例および図面は、溶解からライブラリー作製までのプロセス中に遺伝物質を物理的に閉じ込められた空間に保存するための組成物、方法、およびシステムを提供する。いくつかの態様は、限られたスペース内のフローセルの表面上に放出されると、単一の長いDNA分子または単一の細胞からそれに由来するライブラリーを提供する。一旦、個々のコンパートメントにおいて単一のDNA分子または単一細胞からライブラリーがフローセルの表面上に放出されると、各コンパートメントからの該ライブラリーは、互いに近接してシーディングされる。
【0077】
本明細書で用いる用語“含む(comprising)”は、“含有する(including)”、“包含(containing)”または“によって特徴付けられる(characterized by)”と同様の意味を有し、包括的またはオープンエンドであり、さらなる、列挙されなかった要素または方法の工程を排除しない。
【0078】
本明細書は本発明のいくつかの方法および材料を開示している。本発明は、方法および材料の修飾、ならびに製造方法および装置の変更の影響を受けやすい。かかる修飾は、本明細書に記載の詳細な説明の考察または本発明の実施から当業者に明らかである。従って、本発明は、本明細書に記載された特定の態様に限定されることを意図するものではなく、本発明の真の範囲および精神内にあるすべての修飾および代替を網羅するものである。
【0079】
公開および未公開特許出願、特許および参考文献を含むが、これらに限定されない、本明細書に引用される全ての文献は、それらの内容全体を引用により本明細書中に包含され、それにより本明細書の一部を構成している。引用により包含させる刊行物および特許または特許出願が、本明細書に包含される開示と矛盾する場合は、本明細書は、そのような矛盾する資料に優先し、および/または優先することを意図される。
【配列表】