(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】瘻の治療における脂肪組織由来間質幹細胞の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220221BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220221BHJP
A61L 24/10 20060101ALI20220221BHJP
A61L 17/08 20060101ALI20220221BHJP
A61L 17/14 20060101ALI20220221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220221BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220221BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220221BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20220221BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220221BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20220221BHJP
【FI】
A61K35/28
A61L27/38 100
A61L24/10
A61L17/08
A61L17/14 100
A61P43/00 101
A61P1/00
A61P1/04
A61P15/02
A61P15/00
C12N5/0775
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020088068
(22)【出願日】2020-05-20
(62)【分割の表示】P 2019018275の分割
【原出願日】2006-05-16
【審査請求日】2020-06-19
(32)【優先日】2005-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507421463
【氏名又は名称】タイジェニックス、ソシエダッド、アノニマ、ウニペルソナル
【氏名又は名称原語表記】TIGENIX S.A.U.
(73)【特許権者】
【識別番号】504434051
【氏名又は名称】ウニベルシダッド・アウトノマ・デ・マドリッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】マリア、ヘマ、フェルナンデス、ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル、アンヘル、ゴンザレス、デ、ラ、ペーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ロサ、アナ、ガルシア、カストロ
(72)【発明者】
【氏名】マリアーノ、ガルシア、アランス
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン、ガルシア、オルモ
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-523323(JP,A)
【文献】特表2002-502823(JP,A)
【文献】特表平11-510698(JP,A)
【文献】GARCIA-OLMO D,DISEASES OF THE COLON AND RECTUM,2005年07月,V48 N7,P1416-1423
【文献】GARCIA-OLMO D,INT J COLORECTAL DIS,2003年05月,V18,P451-454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 - 35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織由来間質幹細胞を含む、被験体における瘻の治療における使用のための医薬組成物であって、前記治療が、
(i)少なくとも一つの瘻管を深く掻爬すること、
(ii)該掻爬された管の内部開口部を縫合糸で閉鎖すること、
(iii)該縫合閉鎖された内部開口部に、少なくとも10×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を送達すること、および
(iv)脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の2回目の投与量を、瘻管に沿って瘻壁に注入することにより送達すること
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記工程(i)が、治療される瘻管の全部を深く掻爬することにより実施され、瘻管を満たす自然のフィブリンを得るために瘻壁を掻爬して出血誘発が引き起こされる、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
(i)掻爬用針を瘻管内に挿入し、かつ/または
(ii)治療される瘻管が人工フィブリンシーラントにより満たされない、
請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
(i)前記医薬組成物が少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を含み、
(ii)前記治療が少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を前記縫合閉鎖された内部開口部に送達することを含み、かつ/または
(iii)前記組成物における前記脂肪組織由来間質幹細胞の濃度が少なくとも5×10
6細胞/mlである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記治療が、少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞の2回目の投与量を前記縫合閉鎖された内部開口部に送達することをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
(i)前記瘻が腸瘻であるか、
(ii)前記瘻が膣瘻または子宮瘻であるか、
(iii)前記瘻が、肛門直腸瘻または肛門瘻または糞瘻、動静脈瘻、胆道瘻、頸瘻、頭蓋洞瘻、腸腸瘻、腸皮瘻、腸膣瘻、胃瘻、子宮腹腔瘻、外リンパ瘻、肺動静脈瘻、直腸膣瘻、臍瘻、気管食道瘻、膀胱膣瘻または肛門周囲瘻であるか、または
(iv)前記瘻が、肛門直腸瘻、腸直腸瘻、腸皮瘻、直腸膣瘻または膀胱膣瘻である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
(i)前記
腸瘻が直腸膣瘻、腸腸瘻、腸皮瘻または腸膣瘻であるか、または
(ii)前記
膣瘻または子宮瘻が頸瘻、直腸膣瘻、腸膣瘻または膀胱膣瘻である、
請求項6に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記瘻がクローン病の瘻である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞が、治療される前記被験体に対して同種異系であり、かつ/または
(ii)前記脂肪組織由来間質幹細胞がヒトの脂肪組織由来間質幹細胞である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、
(a)被験体から脂肪組織を採取すること、
(b)酵素消化により細胞懸濁液を得ること、
(c)前記細胞懸濁液を沈殿させて前記細胞を培養培地に再懸濁すること、
(d)前記細胞を少なくとも約10日間培養すること、および
(g)前記細胞を少なくとも2回の培養継代の間増殖させること
を含む方法により調製される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、
(i)少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回継代されるか、または
(ii)3回よりも多く継代される、
請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90および/またはCD105マーカーを発現し、かつ/または
(ii)前記脂肪組織由来間質幹細胞の15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満が、CD34、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106および/またはCD133マーカーを発現する、
請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105マーカーを発現し、CD34、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106および/またはCD133マーカーを発現しない、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、c-Kit、ビメンチンおよび/またはCD90マーカーを発現するか、
(ii)前記幹細胞の15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満が、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100および/またはケラチンマーカーを発現するか、または
(iii)前記脂肪組織由来間質幹細胞がc-Kit、ビメンチンおよびCD90マーカーを発現するが、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100およびケラチンマーカーを発現しない、
請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
被験体における瘻の治療のための医薬組成物の製造における脂肪組織由来間質幹細胞の使用であって、前記治療が、
(i)少なくとも一つの瘻管を深く掻爬すること、
(ii)該掻爬された管の内部開口部を縫合糸で閉鎖すること、
(iii)該縫合閉鎖された内部開口部に、少なくとも10×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を送達すること、および
(iv)脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の2回目の投与量を、瘻管に沿って瘻壁に注入することにより送達すること
を含む、使用。
【請求項16】
前記工程(i)が、治療される瘻管の全部を深く掻爬することにより実施され、瘻管を満たす自然のフィブリンを得るために瘻壁を掻爬して出血誘発が引き起こされる
請求項15に記載の使用。
【請求項17】
(i)掻爬用針を瘻管内に挿入し、かつ/または
(ii)治療される瘻管が人工フィブリンシーラントにより満たされない、
請求項15に記載の使用。
【請求項18】
(i)前記医薬組成物が少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を含み、
(ii)前記治療が少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞を前記縫合閉鎖された内部開口部に送達することを含み、かつ/または
(iii)前記組成物における前記脂肪組織由来間質幹細胞の濃度が少なくとも5×10
6細胞/mlである、
請求項15~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記治療が、少なくとも20×10
6個、少なくとも30×10
6個、または少なくとも40×10
6個の脂肪組織由来間質幹細胞の2回目の投与量を前記縫合閉鎖された内部開口部に送達することをさらに含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
(i)前記瘻が腸瘻であるか、
(ii)前記瘻が膣瘻または子宮瘻であるか、
(iii)前記瘻が、肛門直腸瘻または肛門瘻または糞瘻、動静脈瘻、胆道瘻、頸瘻、頭蓋洞瘻、腸腸瘻、腸皮瘻、腸膣瘻、胃瘻、子宮腹腔瘻、外リンパ瘻、肺動静脈瘻、直腸膣瘻、臍瘻、気管食道瘻、膀胱膣瘻または肛門周囲瘻であるか、または
(iv)前記瘻が、肛門直腸瘻、腸直腸瘻、腸皮瘻、直腸膣瘻または膀胱膣瘻である、
請求項15~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
(i)前記
腸瘻が直腸膣瘻、腸腸瘻、腸皮瘻または腸膣瘻であるか、または
(ii)前記
膣瘻または子宮瘻が頸瘻、直腸膣瘻、腸膣瘻または膀胱膣瘻である、
請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記瘻がクローン病の瘻である、請求項15~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞が、治療される前記被験体に対して同種異系であり、かつ/または
(ii)前記脂肪組織由来間質幹細胞がヒトの脂肪組織由来間質幹細胞である、請求項15~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、
(a)被験体から脂肪組織を採取すること、
(b)酵素消化により細胞懸濁液を得ること、
(c)前記細胞懸濁液を沈殿させて前記細胞を培養培地に再懸濁すること、
(d)前記細胞を少なくとも約10日間培養すること、および
(g)前記細胞を少なくとも2回の培養継代の間増殖させること
を含む方法により調製される、請求項15~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、
(i)少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回継代されるか、または
(ii)3回よりも多く継代される、
請求項24に記載の使用。
【請求項26】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90および/またはCD105マーカーを発現し、かつ/または
(ii)前記脂肪組織由来間質幹細胞の15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満が、CD34、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106および/またはCD133マーカーを発現する、
請求項15~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記脂肪組織由来間質幹細胞が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105マーカーを発現し、CD34、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106および/またはCD133マーカーを発現しない、請求項15~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
(i)前記脂肪組織由来間質幹細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、c-Kit、ビメンチンおよび/またはCD90マーカーを発現するか、
(ii)前記幹細胞の15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満が、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100および/またはケラチンマーカーを発現するか、または
(iii)前記脂肪組織由来間質幹細胞がc-Kit、ビメンチンおよびCD90マーカーを発現するが、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100およびケラチンマーカーを発現しない、
請求項15~25のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の参照
本願は、2005年2月25日出願の米国特許出願第11/065,461号の一部継続および2005年2月14日出願の米国特許出願第11/056,241号の一部継続であり、これらの出願の開示内容は、引用することによりそのまま本明細書の一部とされる。
【0002】
発明の背景
一般に、瘻は、通常はつながっていない器官間または血管間に生じた異常な連結または通路である。瘻は体の様々な部分で発生し得る。例えば、瘻の種類は、瘻が生じる体の部位に由来し、肛門直腸瘻、すなわち肛門瘻または糞瘻(直腸または他の肛門直腸部位と皮膚表面との間)、動静脈瘻、すなわちA-V瘻(動脈と静脈との間)、胆道瘻(胆管と皮膚表面との間。多くの場合、これは胆嚢手術によって起こる)、頸瘻(子宮頸部の異常な開口)、頭蓋洞瘻(頭蓋内腔と副鼻腔との間)、腸腸瘻(enteroenteral fistula)(腸管の2つの部分の間)、腸皮瘻(腸管と皮膚表面との間。すなわち十二指腸または空腸または回腸に由来する)、腸腟瘻(腸管と膣との間)、胃瘻(胃と皮膚表面との間)、子宮腹腔瘻(子宮と腹膜腔との間)、外リンパ瘻(中耳と内耳の間にある膜間の裂け目)、肺動静脈瘻(肺の動脈と静脈との間。これにより血液の短絡が起こる)、直腸腟瘻(直腸と膣との間)、臍瘻(臍と消化管との間)、気管食道瘻(呼吸管と栄養管との間)、および膀胱腟瘻(膀胱と膣との間)が含まれる。瘻の原因としては、外傷、医療処置からくる合併症、および疾患が挙げられる。
【0003】
瘻の治療は、瘻の原因や程度によって異なるが、一般には、外科的介入を必要とする。様々な外科的処置が一般的に用いられるが、最も一般的には、瘻孔切開術、串線(排液用に瘻を開けておくために瘻の通路に通されるより糸)の留置、または直腸内フラップ手法(endorectal flap procedure)(糞便または他の物質がチャネルを再感染させないようにするために、健常組織を瘻の内側に引き寄せる)が用いられる。肛門直腸瘻の手術では、再発、再感染、および失禁などの副作用を避けられない。
【0004】
炎症性腸疾患、例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎は、肛門直腸瘻、腸腸瘻、および腸皮瘻の主要な原因である。クローン病において報告された瘻の発生率は、17%~50%に及ぶ。多くのそのような瘻は利用可能な治療に応答ないため、クローン病患者における瘻の管理は極めて困難な問題を呈し続けている。そのような瘻やそれらの再発は、罹患患者の生活の質を大幅に低下させるとても苦痛を伴う合併症である。最近の医療処置の向上(例えば、インフリキシマブ(Infliximab)(登録商標)を用いた治療)や専門的な外科的管理により複雑な手術の必要性が減少しているが、多くの患者は治癒していない。瘻の治癒の失敗は恐らくはクローン病によって影響を受けた組織の質が最適以下であるためである。実際に、クローン病の瘻は、一部の予想される最悪の状況下での創傷治癒のモデル系となっている。
【0005】
瘻のもう1つの主要な原因は、例えば、強姦によるか、または出産時に受けた損傷による膣ならびに膀胱および/または直腸の組織の外傷であり、これは直腸腟瘻および膀胱腟瘻につながる。開発途上世界中には毎年およそ100,000人の女性が閉塞性分娩中にそのような瘻(産科瘻の別名でも知られる)を経験する。閉塞性分娩中、新生児の頭による母親の骨盤への圧迫がその領域の繊細な組織への血液供給を遮断する。死滅した組織は剥離し、女性には膀胱腟瘻、時に、直腸腟瘻が残される。この穴は、結果として、尿および/または糞便の永久失禁をもたらす。国連人口基金(The United Nations Population Fund)(UNFPA)は、産科瘻患者の世界の人口が200万人を超えると推定している。この推定は、かなりの過小評価であるかもしれない。第一次外科的修復の成功率は88~93%に及ぶが、試みるたびに低下する。そのため、かなりの割合の女性は、外科的に修復され得ない産科瘻を有している。
【0006】
瘻の新規治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、特に、脂肪組織由来間質幹細胞を含有する新規な組成物が提供される。本明細書に記載の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は独特の表現型を有し、これまでに報告されている脂肪組織由来間質幹細胞組成物よりも均一性の優れた表現型を示すことから、これまでに報告された組成物よりも瘻および創傷の治療に適したものとなる。この脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、医薬品または医療用具として、例えば、縫合糸または接着剤としての機能を果たす溶液または他の物質とともに処方してよい。さらに、脂肪組織由来間質幹細胞を用いて瘻および創傷を治療する新規方法、ならびにそれを実施するためのキットが提供される。
【0008】
本発明のこれらの実施態様、他の実施態様、ならびにそれらの特徴および特性は、次の説明、図面、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明の具体的説明】
【0009】
1.定義:
本明細書において、次の用語および表現は以下に記載する意味を有するものとする。特に断りのない限り、本明細書において用いられる総ての専門用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0010】
冠詞「a」および「an」とは、1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つの)の冠詞の文法的対象物を指す。一例として、「要素(an element)」とは、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0011】
「脂肪組織」とは、いずれもの脂肪組織(fat tissue)を意味する。脂肪組織は、皮下脂肪組織部位、網/内蔵脂肪組織部位、乳房脂肪組織部位、生殖腺脂肪組織部位、または他の脂肪組織部位から得られる褐色または白色脂肪組織であってよい。好ましくは、脂肪組織は皮下白色脂肪組織である。そのような細胞は、一次細胞培養物または不死化細胞株を含んでよい。脂肪組織は、脂肪組織(fat tissue)を有するいずれの生物由来のものでもよい。好ましくは、脂肪組織は哺乳類のものであり、最も好ましくは、脂肪組織はヒトのものである。脂肪組織は、脂肪吸引手術により便宜に供給されるが、脂肪組織の供給源または脂肪組織の単離方法は本発明にとって重要ではない。被験体への自家移殖に間質細胞が望まれるならば、脂肪組織はその被験体から単離される。
【0012】
「脂肪組織由来間質幹細胞」とは、脂肪組織を起源とする間充織幹細胞を指す。
【0013】
「接着剤」とは、表面を互いに接合または結合するいずれもの物質;例えば、糊を指す。
【0014】
「細胞組成物」とは、細胞の調製物を指し、この細胞の調製物は、細胞の他に、非細胞成分、例えば、細胞培養培地、例えば、タンパク質、アミノ酸、核酸、ヌクレオチド、補酵素、酸化防止剤、金属などを含んでよい。さらに、細胞組成物は、細胞成分の増殖または生存力には影響を及ぼさず、特定の形式で細胞を提供するのに用いられる成分を、例えば、カプセル封入または医薬製剤用のポリマーマトリックスとして含み得る。
【0015】
「培養」とは、培地における細胞、生物、多細胞存在物、または組織のいずれもの増殖を指す。「培養すること」とは、そのような増殖を実現するいずれもの方法を指し、複数の工程を含んでよい。「さらに培養すること」とは、細胞、生物、多細胞存在物、または組織をある特定の増殖段階まで培養した後、別の培養方法を用いて、前記細胞、生物、多細胞存在物、または組織を新たな増殖段階まで移行させることを指す。「細胞培養」とは、in vitroでの細胞の増殖を指す。かかる培養では、細胞は増殖するが、それらの細胞により組織自体は構成されない。「組織培養」とは、組織の構造および機能を保つための、in vitroでの組織、例えば、器官原基もしくは成体器官の外植体の維持または増殖を指す。「単層培養」とは、細胞が適当な培地で、主に、互いに付着し、基質にも付着しながら増殖する培養を指す。さらに、「懸濁培養」とは、細胞が適当な培地中に懸濁されながら増殖する培養を指す。同様に、「連続流動培養」とは、細胞の増殖、例えば、生存力を維持するための、新鮮培地の連続流中での細胞または外植体の培養を指す。「馴化培地」とは、培地が、細胞により生産され、培養物中に分泌されたある特定の傍分泌因子および/または自己分泌因子を含むように改変されるように、培養細胞と接触させた期間の後に得られる、例えば、培養細胞/組織を含まない、上清を指す。「集密培養」とは、総ての細胞が接触しているために培養容器の表面全体が覆われる細胞培養であり、また、「集密培養」とは、それらの細胞が最大密度に達したことを意味するものであるが、集密状態は必ずしも分裂が停止すること、または集団のサイズが大きくならないことを意味するわけではない。
【0016】
「培養培地」または「培地」は、当技術分野で認識されており、一般には、生細胞の培養に用いられるいずれもの物質または調製物を指す。細胞培養に関して用いられる「培地」とは、細胞を取り巻く環境の成分を含む。培地は、固体、液体、気体、または相および材料の混合物であってよい。培地は、液体増殖培地、ならびに細胞増殖を支援しない液体培地を含む。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチン、およびコラーゲンマトリックスなどのゼラチン状培地も含む。例示的な気体培地としては、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体で増殖している細胞が曝される気相が含まれる。「培地」とは、たとえ細胞と接触しなかったとしても細胞培養に使用するためのものである材料も指す。言い換えれば、細菌の培養のために調製された栄養分に富んだ液体が培地である。同様に、水または他の液体と混合したときに細胞培養に適するようになる粉末混合物は、「粉末培地」とも呼ばれる。「合成培地」とは、化学的に定義された(通常精製された)成分で作られた培地を指す。「合成培地」は、特徴が明らかでない生物抽出物、例えば、酵母抽出物およびビーフブロスを含まない。「富栄養培地」とは、特定種のほとんどまたは総ての生存形態の増殖を支援するように設計された培地を含む。富栄養培地は、多くの場合、複雑な生物抽出物を含む。「高密度培養の増殖に適した培地」とは、他の条件(温度および酸素移動速度など)がかかる増殖を可能にする場合に、細胞培養物を3以上のOD600に到達させるいずれもの培地である。「基本培地」とは、特別な栄養素補給を一切必要としない多くの種類の微生物の増殖を促進する培地を指す。多くの基本培地は、一般に、4つの基本化学分類群:アミノ酸、炭水化物、無機塩、およびビタミンからなる。基本培地は、一般に、より複雑な培地の基礎をなし、基本培地に、血清、バッファー、増殖因子、脂質などの補給物が添加される。基本培地の例としては、限定されるものではないが、イーグル基本培地、最少必須培地、ダルベッコ改変イーグル培地、培地199、Nutrient Mixtures Ham’s F-10およびHam’s F-12、マッコイ5A、ダルベッコMEM/F-I 2、RPMI 1640、およびイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)が含まれる。
【0017】
「含む(comprise)」および「含むこと(comprising)」とは、さらなる要素が含まれ得るという包括的でオープンセンスな意味で用いられる。
【0018】
「分化」とは、より特殊化され、さらなる分裂または分化をする能力がない最終分化細胞になることにより近い細胞と関係があることが知られているマーカーを発現する細胞の形成を指す。例えば、膵臓に関しては、インスリンの生産量が多いβ-上皮細胞の割合が高い膵島様細胞の生産において分化を見ることができる。「さらなる」または「より大きな」分化とは、細胞が培養された起源の細胞よりも、より特殊化され、さらなる分裂または分化をする能力がない最終分化細胞になることにより近い細胞を指す。「最終分化」とは、さらなる分裂または分化をする能力がない最終分化細胞になった細胞を指す。
【0019】
「瘻」とは、通常、2つの内部器官の間の、または内部器官から体表面までに至る異常な通路または連絡もしくは連結を指す。瘻の例には、限定されるものではないが、肛門直腸瘻、すなわち肛門瘻または糞瘻、動静脈瘻、すなわちA-V瘻、胆道瘻、頸瘻、頭蓋洞瘻、腸腸瘻、腸皮瘻、腸腟瘻、胃瘻、子宮腹腔瘻 外リンパ瘻(metroperitoneal fistula perilymph)、肺動静脈瘻、直腸腟瘻、臍瘻、気管食道瘻、および膀胱腟瘻が含まれる。
【0020】
「を含む(including)」とは、本明細書において、「限定されるものではないが、を含む(including but not limited to)」を意味するのに用いられる。「を含む(including)」および「限定されるものではないが、を含む(including but not limited to)」は同義的に用いられる。
【0021】
「マーカー」とは、その存在、濃度、活性、またはリン酸化状態が検出可能であり、細胞の表現型を確認するために用いられ得る生体分子を指す。
【0022】
「パッチ」とは、創傷または他の皮膚の破れた箇所を被覆または保護するために当てる包帯または被覆材である。
【0023】
対象の方法による治療を受ける「患者」、「被験体」、または「宿主」とは、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを意味し得る。
【0024】
表現「薬学上許容される」とは、本明細書において、妥当な効果/リスク比に見合った、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症のない、音響医学的判断の範囲内でヒトおよび動物の組織との接触に適した化合物、材料、組成物、および/または投与形を指すのに使用される。
【0025】
本明細書において、表現「薬学上許容される担体」とは、1つの器官または体の部分から別の器官または体の部分までの対象の化合物の運搬または輸送に関わる、薬学上許容される材料、組成物、または賦形剤、例えば、液体もしくは固体増量剤、希釈剤、補形薬、または溶媒封入材料を意味する。各担体は、処方物の他の成分と適合し、患者に無害であるという意味で「許容される」必要がある。「表現型」とは、サイズ、形態、タンパク質発現などのような細胞の観察可能な特徴を指す。
【0026】
「前駆細胞」とは、その細胞自体よりもより分化した後代を作出する能力を有する細胞を指す。例えば、その用語は、未分化細胞または最終分化に達していない程度に分化した細胞を指し得、これらの細胞は増殖する能力を有し、多数の母細胞を発生させる能力を有するより多くの前駆細胞を生じさせ得、その母細胞が次に分化したまたは分化可能な娘細胞を生じさせ得る。好ましい実施態様では、前駆細胞とは、全身性母細胞を指し、その子孫(後代)は多くの場合、胚細胞および組織の漸進的な多様化に起こるように、分化により、例えば、個別の形質を完全に獲得することにより異なる方向に分化する。細胞分化は、一般に、多くの細胞分裂によって起こる複雑なプロセスである。分化細胞は多能性細胞から生じ得、その多能性細胞自体は多能性細胞などから誘導される。これらの多能性細胞それぞれが幹細胞と考えられ得るが、それぞれが生じさせ得る細胞種の範囲はかなり変化し得る。一部の分化細胞はまた、より大きな発生能を有する細胞を生じさせる能力も有する。そのような能力は本来のものであり得るし、様々な因子による処理により人為的にも誘導し得る。この定義により、幹細胞は前駆細胞でもあり得、さらに最終分化細胞により近い前駆体でもあり得る
【0027】
「増殖」とは、細胞数の増加を指す。「増殖すること」および「増殖」とは、有糸分裂を受けている細胞を指す。
【0028】
本明細書において、「溶液」との用語には、その中で本発明の細胞が生き続けられる薬学上許容される担体または希釈剤が含まれる。
【0029】
脂肪組織由来幹細胞集団に関して、「実質的に純粋な」とは、細胞集団全体を構成する脂肪組織由来間質幹細胞に関して少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%純粋である脂肪組織由来幹細胞の集団を指す。言い換えると、「実質的に純粋な」とは、続いて培養および増幅を行う前の増幅していない最初の単離集団において約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満の系統委任細胞(lineage committed cells)を含む本発明の脂肪組織由来間質幹細胞の集団を指す。
【0030】
本明細書において、「支持体」とは、脂肪組織由来間質幹細胞の増殖のための支持構造体またはマトリックスとしての機能を果たし得るいずれもの装置または材料を指す。
【0031】
「縫合糸」とは、創傷を縫合するのに用いることができるスレッドもしくは繊維または他の締結材料を指す。
【0032】
本明細書において、「治療」とは、瘻または創傷を修復することだけでなく、瘻または創傷を悪化または再発させないことをも指す。
【0033】
「治療薬」または「治療用物質」とは、宿主に対する所望の生物学的作用を有し得る薬剤を指す。化学療法薬および遺伝毒性物質は、治療薬の例であり、それぞれ、生物学的なものとは対照的に化学的なものによること、または特定の作用機序により治療効果をもたらすことが一般に知られている。生物学的起源の治療薬の例としては、増殖因子、ホルモン、およびサイトカインが含まれる。様々な治療薬が当技術分野で公知であり、それらの作用によって識別され得る。ある特定の治療薬は、細胞増殖および分化を調節することができる。例としては、化学療法薬ヌクレオチド、薬物、ホルモン、非特異的(非抗体)タンパク質、オリゴヌクレオチド(例えば、標的核酸配列(例えば、mRNA配列)と結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ペプチド、およびペプチド模倣薬が含まれる。
【0034】
「創傷」とは、物理的手段によってもたらされる、組織の正常な連続性の途絶を引き起こす組織への損傷または損害である。
【0035】
2.新規脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物
一つの態様では、本発明は、ある特定の特徴、例えば、特定の表現型を有する脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物に関する。例えば、本発明の細胞組成物における脂肪組織由来間質幹細胞は、細胞表面マーカーの発現、サイズ、グルコース消費、乳酸生産、および細胞収率/生存力により特徴づけることができる。本発明のさらにもう一つの態様は、細胞成分として、特定の表現型を有する脂肪組織由来間質幹細胞、またはその後代の実質的に純粋な調製物を含む脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物に関する。本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、前駆細胞の実質的に純粋な集団を含むだけでなく、細胞培養成分、例えば、アミノ酸、金属、補酵素因子、ならびに他の間質細胞の小集団(例えば、それらの一部は本発明の細胞の後の分化によって生じる可能性がある)を含む培養培地も含み得る。さらに、他の非細胞成分には、特定の状況下、例えば、移植下、例えば、連続培養下での維持に適した、または生体材料もしくは医薬組成物としての使用に適した細胞成分を与えるものが含まれ得る。
【0036】
ある特定の実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、第4節および実施例に記載されている培養方法により作り出される。
【0037】
一つの実施態様では、脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物であって、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、もしくは99%の該幹細胞が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90、および/またはCD105マーカーを発現する、脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物が提供される。前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物のある特定の実施態様では、約15%未満、約10%未満、約5%未満、および好ましくは約4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満の前記幹細胞が、CD34 CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、および/またはCD133マーカーを発現する。
【0038】
もう一つの実施態様では、、脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物であって、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、もしくは99%の該幹細胞が、c-Kit、ビメンチン、および/またはCD90マーカーを発現する、脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物が提供される。前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物のある特定の実施態様では、約15%未満、約10%未満、約5%未満、および好ましくは約4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満の前記幹細胞が、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100、および/またはケラチンマーカーを発現する。また、c-Kit、ビメンチンおよびCD90マーカーを発現するが、CD34、第VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100およびケラチンマーカーを発現しない脂肪組織由来間質幹細胞集団も提供される。
【0039】
表面マーカーによる細胞集団の表現型の特徴づけは、通常の方法に従って行われる、細胞の個別染色(フローサイトメトリー)によるか、またはin situで細胞集団の組織学的切片を作製することにより行うことができる。抗体による表面マーカーの発現プロフィールの決定、すなわち、免疫表現型の特徴づけは、標識抗体を用いて直接的に行ってよく、または細胞マーカーの一次特異的抗体に対する二次標識抗体を用いて間接的に行ってもよく、そのようにしてシグナル増幅を行ってよい。また、抗体との結合の有無を様々な方法によって確認してもよく、それらの方法としては、限定されるものではないが、免疫蛍光顕微鏡検査法、およびX線撮影法が含まれる。同様に、フローサイトメトリー(蛍光色素のレベルを標識抗体と特異的に結合された細胞表面に存在する抗原の量と相関させる技術)により抗体の結合レベルのモニタリングを実施することも可能である。細胞集団における一連の表面マーカーの発現の違いにより、前記細胞集団の同定および単離のための方法が提供される。
【0040】
ある特定の実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、以下でさらに詳細に説明するように、例えば、医薬品または生体材料として用いるための、様々な溶液または材料中の脂肪組織由来間質幹細胞の懸濁液とされる。一つの実施態様では、前記細胞組成物は、リンゲル溶液およびHSA中の対象の脂肪組織由来間質幹細胞の懸濁液を含む。もう一つの実施態様では、前記細胞組成物は、ポリマー、糊、ゲルなどのような材料中の対象の脂肪組織由来間質幹細胞の懸濁液を含む。かかる懸濁液は、例えば、培養培地から対象の脂肪組織由来間質幹細胞を沈殿させ、それらを所望の溶液または材料中に再懸濁することにより調製してよい。細胞は、培養培地から、例えば、遠心分離、濾過、限外濾過などにより沈殿させ、および/または形を変えてよい。
【0041】
対象の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物中の対象の脂肪組織由来間質幹細胞の濃度は、少なくとも約5x106細胞/mL、少なくとも約10x106細胞/mL、少なくとも約20x106細胞/mL、少なくとも約30x106細胞/mL,または少なくとも約40x106細胞/mLであってよい。
【0042】
よって、本発明のもう一つの態様は、対象の脂肪組織由来間質幹細胞の後代、例えば、該脂肪組織由来間質幹細胞から誘導された細胞に関する。かかる後代は、脂肪組織由来間質幹細胞の次の世代、ならびに例えば、in vitroで誘導された、外植体から対象の脂肪組織由来間質幹細胞を単離した後に、それらの分化を誘導することにより発生した系統委任細胞を含み得る。ある特定の実施態様では、前記後代細胞は、その親集団から約2回、約3回、約4回、約5回、約6回、約7回、約8回、約9回、または約10回継代後に得られる。しかしながら、前記後代細胞は、その親集団から何回継代した後にでも得られる。
【0043】
ある特定の実施態様では、本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、医薬製剤、例えば、滅菌した、望ましくないウイルス、細菌、および他の病原体が存在しない、さらに発熱物質も含まない製剤の一部として提供される。すなわち、ヒトに投与するためには、対象の組成物は、FDA Office of Biologies standardsにより定められているとおり、無菌性、発熱性、ならびに一般的安全性および純度の基準を満たしていなければならない。
【0044】
ある特定の実施態様では、かかる脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒトへの移植に用いることができる。これらの細胞は、移植宿主に対して、好ましくは自己のものであるが、同種異系のものまたは異種のものである場合もある。十分な自己幹細胞を得ることは困難であるため、同種ドナーからの脂肪組織由来間質幹細胞が治療上の使用に有益な代替幹細胞供給源になり得た。骨髄間質幹細胞および脂肪組織由来間質細胞はin vitroで同種リンパ球の反応を引き起こさず、その結果として、ドナーから得られた同種の脂肪組織由来間質幹細胞は、理論的にはMHC不適合性に関係なく、いずれもの患者に用いることができることは当技術分野で知られている。
【0045】
前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を被験体、特にヒト被験体に投与する方法は、本明細書において詳細に説明されており、それらの方法は被験体における標的部位への細胞の注入または移植を含み、該細胞は、注入または移植による、被験体への細胞の導入を容易にする送達装置に入れることができる。かかる送達装置としては、細胞および流体をレシピエント被験体の体内に注入するためのチューブ、例えば、カテーテルが含まれる。好ましい実施態様では、前記チューブは、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を被験体に所望の位置で導入することができる針、例えば、シリンジをさらに備えている。前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は様々な形態でかかる送達装置、例えば、シリンジに入れることができる。例えば、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物には、溶液に懸濁された、またはかかる送達装置に入れられる場合には支持マトリックスに埋め込まれた、脂肪組織由来間質幹細胞の組成物が含まれる。
【0046】
薬学上許容される担体および希釈剤としては、生理食塩水、水性緩衝液、溶媒、および/または分散媒が含まれる。かかる担体および希釈剤の使用は当技術分野で周知である。前記溶液は、好ましくは無菌であり、そして容易に注射できる(easy syringability)程度に流体である。前記溶液は、製造および保存の条件下で安定し、そして、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどを用いて細菌および真菌などの微生物の混入作用から保護されることが好ましい。本発明の脂肪組織由来間質幹細胞組成物である溶液は、本明細書に記載の脂肪組織由来間質幹細胞を、薬学上許容される担体または希釈剤と、必要に応じて、上記に列挙した他の成分との中に組み込み、その後、濾過滅菌を行うことによって調製することができる。
【0047】
薬学上許容される担体としての機能を果たし得る材料および溶液の一部の例としては、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン;(3)セルロース、およびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース;(4)トラガント末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)補形薬、例えば、ココア脂および坐剤用ワックス;(9)油、例えば、落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール;(11)多価アルコール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、および/またはポリアンヒドリド;ならびに(22)医薬処方物に使用される他の無毒の適合物質:が挙げられる。
【0048】
ある特定の実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、接着剤をさらに含む。ある特定の実施態様では、前記接着剤は、フィブリンベースの接着剤、例えば、フィブリンゲルまたはフィブリン糊またはフィブリンベースのポリマーもしくは接着剤、あるいは他の組織接着剤または外科用糊(例えば、シアノアクリレート、コラーゲン、トロンビン、およびポリエチレングリコールなど)である。用いてよい他の材料としては、限定されるものではないが、アルギン酸カルシウム、アガロース、タイプI、II、IVもしくは他のコラーゲンイソ型、ポリ乳酸/ポリグリコール酸、ヒアルロン酸誘導体、または他の材料が挙げられる(Perka C. et al. (2000) J. Biomed. Mater. Res. 49:305-311;Sechriest VF. et al. (2000) J. Biomed. Mater. Res. 49:534-541;Chu CR et al. (1995) J. Biomed. Mater. Res. 29:1147-1154; Hendrickson DA et al. (1994) Orthop. Res. 12:485-497)。他の実施態様では、前記接着剤は液体包帯であり、この液体包帯では前記方法の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物が液体包帯材料と混合されている。「液体包帯」とは、スプレーまたはブラシを用いて創傷に適用され、その後、蒸発により溶媒が除去されて、創傷の上に保護膜を与える、化合物、例えば、高分子材料を含む溶液である。
【0049】
本明細書ではまた、瘻または創傷の修復に用いる化合物または材料を含む脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を製造するための方法も提供される。一つの実施態様では、かかる材料を製造するための方法は、対象の細胞組成物の脂肪組織由来間質幹細胞を前記材料に懸濁することを含む。一つの実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞は培養培地から沈殿させ、それらをフィブリン糊またはゲルに再懸濁する。フィブリン糊およびゲルならびに他のフィブリンベースのポリマーおよび接着剤は当技術分野で周知であり、市販されている。例えば、市販のフィブリン糊キットはTissucol(登録商標)Duo 2.0であり、他の市販のフィブリンシーラントとしては、Crosseal(登録商標)、TISSEEL VH Fibrin Sealant(登録商標)などが挙げられる。
【0050】
本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物はまた、支持体、例えば、医療用具をコーティングするのにも用いられ得る。例えば、前記支持体は、縫合糸、スレッド、半月板修復装置、リベット、タック、ステープル、スクリュー、骨プレート、骨プレーティングシステム、手術用メッシュ、パッチ、例えば、修復パッチ、心血管パッチ、または心膜パッチ、三角巾、整形外科用ピン、癒着バリア、ステント、組織修復/再生誘導装置、関節軟骨修復装置、神経ガイド、腱修復装置、心房中隔欠損修復装置、増量または充填剤、静脈弁、骨髄スキャフォールド、半月板再生装置、靭帯および腱移植片、眼細胞インプラント、脊椎固定ケージ、代用皮膚、代用硬膜、代用骨移植片、骨ドエル(bone dowel)、創傷包帯、糊、ポリマー、または止血鉗子であってよい。
【0051】
前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を組み込むもしくは埋め込むことができ、または前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物をコーティングしてよい支持体としては、レシピエントに適合した、該レシピエントに害のない生成物に分解するマトリックスが含まれる。かかるマトリックスの例は、天然および/または合成生体分解性マトリックスである。天然生体分解性マトリックスとしては、例えば、哺乳類から得られる、凝固血漿、およびコラーゲンマトリックスが含まれる。合成生体分解性マトリックスとしては、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの合成ポリマーが挙げられる。合成ポリマーの他の例、およびこれらのマトリックスに細胞を組み込むまたは埋め込む方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第4,298,002号および米国特許第5,308,701号参照。これらのマトリックスはin vivoでの脆弱な細胞に支持および保護を与える。
【0052】
前記支持体は、当業者に公知の任意の方法によって、例えば、浸漬、噴霧、塗布、捺印などによって、細胞でコーティングしてよい。
【0053】
一つの実施態様では、前記支持体は、縫合糸、ステープル、吸収性スレッド、非吸収性スレッド、天然スレッド、合成スレッド、モノフィラメントスレッド、またはマルチフィラメントスレッド(ブレイズとも呼ばれる)である。脂肪組織由来間質幹細胞でコーティングされた、創傷を閉鎖するのに用いられる縫合糸および他の支持体を調製する好ましい方法は、2005年2月14日出願の米国特許出願第11/056,241号「Biomaterial for Suturing」で開示されており、この出願は引用することによりそのまま本明細書の一部とされる。本明細書に開示される脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、米国特許出願第11/056,241号で開示された方法で用いてよい新規組成物である。
【0054】
さらに、あらゆる前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、組成物に少なくとも一つの治療薬を組み込んでよい。例えば、組成物は、瘻または創傷の部位における炎症または疼痛の治療を助けるための鎮痛薬、または前記組成物で治療した部位の感染を予防するための抗感染薬を含んでよい。
【0055】
さらに具体的には、有用な治療薬の限定されない例としては、次の薬効分類が挙げられる:鎮痛薬、例えば、非ステロイド性抗炎症薬、オピエート作動薬、およびサリチル酸塩;抗感染薬、例えば、駆虫薬、抗嫌気性薬(antianaerobics)、抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、様々なβ-ラクタム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、キノロン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、抗抗酸菌薬、抗結核性抗抗酸菌薬、抗原虫薬、抗マラリア性抗原虫薬、抗ウイルス薬、抗レトロウイルス薬、抗疥癬薬、抗炎症薬、コルチコステロイド抗炎症薬、止痒薬/局所麻酔薬、局所性抗感染薬、抗真菌性局所性抗感染薬、抗ウイルス性局所性抗感染薬;電解薬および腎臓薬、例えば、酸性化薬、アルカリ化薬、利尿薬、炭酸脱水酵素阻害薬である利尿薬、ループ利尿薬、浸透圧利尿薬、カリウム保持性利尿薬、チアジド系利尿薬、電解質代替物、および尿酸排泄促進薬;酵素、例えば、膵酵素および血栓溶解酵素;胃腸薬、例えば、下痢止め薬、制吐薬、胃腸抗炎症薬、サリチル酸系胃腸抗炎症薬、制酸性抗潰瘍薬、胃酸ポンプ阻害薬である抗潰瘍薬、胃粘膜抗潰瘍薬、H2遮断薬である抗潰瘍薬、胆石溶解剤、消化薬、吐薬、緩下薬、および便軟化薬、ならびに運動促進薬;全身麻酔薬、例えば、吸入麻酔薬、ハロゲン化吸入麻酔薬、静脈麻酔薬、バルビツレート系静脈麻酔薬、ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬、およびオピエート作動薬である静脈麻酔薬;ホルモンおよびホルモン調整物質、例えば、堕胎薬、副腎作用物質、コルチコステロイド副腎作用物質、アンドロゲン、抗アンドロゲン、免疫生物学的薬物、例えば、免疫グロブリン、免疫抑制薬、トキソイド、およびワクチン;局所麻酔薬、例えば、アミド型局所麻酔薬およびエステル型局所麻酔薬;筋骨格薬、例えば、抗痛風性抗炎症薬、コルチコステロイド抗炎症薬、金化合物抗炎症薬、免疫抑制性抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、サリチル酸系抗炎症薬、無機物;ならびにビタミン、例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、およびビタミンK。
【0056】
上記分類の有用な治療薬の好ましいクラスとしては、(1)一般鎮痛薬、例えば、リドカインまたはその誘導体、および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である鎮痛薬(ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、およびナプロキセンを含む);(2)オピエート作動薬である鎮痛薬、例えば、コデイン、フェンタニル、ヒドロモルホン、およびモルヒネ;(3)サリチル酸系鎮痛薬、例えば、アスピリン(ASA)(腸溶性ASA);(4)H1遮断薬である抗ヒスタミン薬、例えば、クレマスチンおよびテルフェナジン;(5)抗感染薬、例えば、ムピロシン;(6)抗嫌気性抗感染薬、例えば、クロラムフェニコールおよびクリンダマイシン;(7)抗真菌性抗生物質抗感染薬、例えば、アムホテリシンB、クロトリマゾール、フルコナゾール、およびケトコナゾール;(8)マクロライド系抗生物質抗感染薬、例えば、アジスロマイシンおよびエリスロマイシン;(9)様々なβ-ラクタム系抗生物質抗感染薬、例えば、アズトレオナムおよびイミペネム;(10)ペニシリン系抗生物質抗感染薬、例えば、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、およびペニシリンV;(11)キノロン系抗生物質抗感染薬、例えば、シプロフロキサシンおよびノルフロキサシン;(12)テトラサイクリン系抗生物質抗感染薬、例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびテトラサイクリン;(13)抗結核性抗抗酸菌性抗感染薬、例えば、イソニアジド(INH)およびリファンピン;(14)抗原虫性抗感染薬、例えば、アトバクオンおよびダプソーン;(15)抗マラリア性抗原虫性抗感染薬、例えば、クロロキンおよびピリメタミン;(16)抗レトロウイルス性抗感染薬、例えば、リトナビルおよびジドブジン;(17)抗ウイルス性抗感染薬、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、インターフェロンα、およびリマンタジン;(18)抗真菌性局所性抗感染薬、例えば、アムホテリシンB、クロトリマゾール、ミコナゾール、およびナイスタチン;(19)抗ウイルス性局所性抗感染薬、例えば、アシクロビル;(20)電解薬および腎臓薬、例えば、ラクツロース;(21)ループ利尿薬、例えば、フロセミド;(22)カリウム保持性利尿薬、例えば、トリアムテレン;(23)チアジド系利尿薬、例えば、ヒドロクロロチアジド(HCTZ);(24)尿酸排泄促進薬、例えば、プロベネシド;(25)酵素、例えば、RNアーゼおよびDNアーゼ;(26)制吐薬、例えば、プロクロルペラジン;(27)サリチル酸系胃腸抗炎症薬、例えば、スルファサラジン;(28)胃酸ポンプ阻害薬である抗潰瘍薬、例えば、オメプラゾール;(29)H2遮断薬である抗潰瘍薬、例えば、シメチジン、ファモチジン、ニザチジン、およびラニチジン;(30)消化薬、例えば、パンクレリパーゼ(pancrelipase);(31)運動促進薬、例えば、エリスロマイシン;(32)エステル型局所麻酔薬、例えば、ベンゾカインおよびプロカイン;(33)筋骨格コルチコステロイド抗炎症薬、例えば、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、およびプレドニゾン;(34)筋骨格抗炎症性免疫抑制薬、例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、およびメトトレキサート;(35)筋骨格非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えば、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ケトルラック(ketorlac)、およびナプロキセン;(36)無機物、例えば、鉄、カルシウム、およびマグネシウム;(37)ビタミンB化合物、例えば、シアノコバラミン(ビタミンB12)およびナイアシン(ビタミンB3);(38)ビタミンC化合物、例えば、アスコルビン酸;および(39)ビタミンD化合物、例えば、カルシトリオール:が挙げられる。
【0057】
ある特定の実施態様では、前記治療薬は、細胞分化および/または増殖に影響を及ぼす増殖因子または他の分子であってよい。最終分化状態を誘導する増殖因子は当技術分野で周知であり、最終分化状態を誘導することが分かっているそのようないずれもの因子から選択してよい。本明細書に記載の方法に用いる増殖因子は、ある特定の実施態様では、天然に存在する増殖因子の変異体または断片であってよい。例えば、変異体は、保存的アミノ酸変化を起こし、その結果として得られた変異体を、上記の機能アッセイのうちの1つまたは当技術分野で公知の別の機能アッセイにおいて試験することにより作製してよい。保存的アミノ酸置換とは、類似側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり;脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループはセリンおよびトレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループはアスパラギンおよびグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループはリジン、アルギニン、およびヒスチジンであり;そして硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループはシステインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸の置換グループは:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0058】
当業者には明らかなように、ポリペプチド増殖因子の変異体または断片は、突然変異誘発(不連続な点突然変異の作製を含む)、または末端切断によるなどの従来の技術を用いて作製することができる。例えば、突然変異は、その起源であるポリペプチド増殖因子の生物活性と実質的に同じものまたは一部だけを保持する変異体を生じさせ得る。
【0059】
3.新規脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を製造する方法
脂肪組織由来間質幹細胞を含む上記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を製造する方法も提供される。一つの実施態様では、該方法は、(a)被験体から脂肪組織を採取すること;(b)酵素消化により細胞懸濁液を得ること;(c)該細胞懸濁液を沈殿させ、該細胞を培養培地に再懸濁すること;(d)該細胞を少なくとも約10日間培養すること;および(g)該細胞を少なくとも2回の培養継代の間増殖させること:を含む。
【0060】
好ましくは、前記脂肪組織由来間質幹細胞は、最終的な脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物を導入する予定の被験体の脂肪組織から単離される。しかしながら、前記間質幹細胞は、前記被験体と同じまたは異なる種のあらゆる生物から単離してよい。脂肪組織を有するあらゆる生物が可能性ある候補であり得る。好ましくは、前記生物は哺乳類であり、最も好ましくは、前記生物はヒトである。
【0061】
ある特定の実施態様では、前記細胞は、少なくとも約15日間、少なくとも約20日間、少なくとも約25日間、または少なくとも約30日間培養される。細胞は、前記細胞集団における細胞表現型の均一性を高めるために、より長く培養増殖させることが好ましい。
【0062】
ある特定の実施態様では、前記細胞は、少なくとも3回の培養継代の間培養増殖され、つまり「少なくとも3回継代される」。他の実施態様では、前記細胞は、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回継代される。細胞は、前記細胞集団における細胞表現型の均一性を高めるために、4回以上継代されることが好ましい。実際には、細胞表現型の均一性が高められ、特異な能力が維持される限り、前記細胞を無制限に培養増殖させてよい。
【0063】
細胞は、幹細胞の培養のための当技術分野で公知の任意の技術により培養してよい。様々な培養技術、ならびにそれらのスケールアップについての考察は、Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, Wiley-Liss 2000に見いだされる。ある特定の実施態様では、前記細胞は単層培養により培養される。一つの実施態様では、前記細胞は、下記実施例1に記載のとおり培養され、継代される。
【0064】
組織培養において間質細胞を支持し得るいずれもの培地を用いてよい。繊維芽細胞の増殖を支持する培養処方物としては、限定されるものではないが、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α改変最少必須培地(.alpha.MEM)、およびRoswell Park Memorial Institute Media 1640(RPMI Media 1640)などが含まれる。一般には、間質細胞および/または軟骨細胞の増殖を支持するために、上記培地に、0~20%ウシ胎児血清(FBS)または1~20%ウマ血清を添加する。しかしながら、間質細胞および軟骨細胞にFBS中必要な増殖因子、サイトカイン、およびホルモンが確認され、増殖培地中に適当な濃度で供給されるならば、合成培地を用いてもよい。本発明の方法に有用な培地には、1以上の目的の化合物を含めてよく、それらの化合物としては、限定されるものではないが、抗生物質 間質細胞の分裂促進または分化化合物が挙げられる。前記細胞は、加湿インキュベーター中31℃~37℃間の温度で増殖させる。二酸化炭素含量は2%~10%間に、酸素含量は1%~22%間に維持される。細胞はこの環境に最大4週間の間維持され得る。
【0065】
培地に補充することができる抗生物質としては、限定されるものではないが、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。化学的に定義された培養培地中のペニシリンの濃度は約10~約200単位/mlである。化学的に定義された培養培地中のストレプトマイシンの濃度は約10~約200ug/mlである。
【0066】
前記脂肪組織由来間質幹細胞は、プラスミド、ウイルス、または代替ベクター戦略を用いて、目的の核酸で安定的にもしくは一過性にトランスフェクトまたは形質導入し得る。目的の核酸としては、限定されるものではないが、修復する組織のタイプ、例えば、腸壁または膣壁に見られる細胞外マトリックス成分の生産を強化する遺伝子産物をコードするものが挙げられる。
【0067】
前記間質幹細胞への調節遺伝子を有するウイルスベクターの形質導入は、塩化セシウムバンディングまたは他の方法により精製したウイルスベクター(アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、または他のベクター)を用いて多重感染度(ウイルス単位:細胞)10:1~2000:1の間で実施することができる。細胞を、陽イオン性洗剤(例えば、ポリエチレンイミンまたはLipofectamine.TM.)の不在または存在下の血清フリーまたは血清含有培地中の前記ウイルスに1時間~24時間の間曝露する(Byk T. et al. (1998) Human Gene Therapy 9:2493-2502;Sommer B. et al. (1999) Calcif. Tissue Int. 64:45-49)。
【0068】
幹細胞にベクターまたはプラスミドを移入するのに適した他の方法としては、脂質/DNA複合体、例えば、米国特許第5,578,475号;同第5,627,175号;同第5,705,308号;同第5,744,335号;同第5,976,567号;同第6,020,202号;および同第6,051,429号に記載されているものが含まれる。好適な試薬としては、膜濾過水中の、ポリカチオン性脂質2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminium trifluoroacetate)(DOSPA)(Chemical Abstracts Registry名:N-[2-(2,5-ビス[(3-アミノプロピル)アミノ]-1-オキシペンチル}アミノ)エチル]-N,N-ジメチル-2,3-ビス(9-オクタデセニルオキシ)-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(N-[2-(2,5-bis[(3-aminopropyl)amino]-1-oxpentyl}amino)ethyl]-N,N-dimethyl-2,3-bis(9-octadecenyloxy)-1-propanaminium trifluoroacetate)と、中性脂質ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとの3:1(w/w)リポソーム処方物であるリポフェクタミンが含まれる。例示的なものは処方物Lipofectamine 2000TM(Gibco/Life Technologiesから入手可能 # 11668019)である。他の試薬としては、FuGENETM 6 Transfection Reagent(80%エタノール中の非リポソーム形態の脂質と他の化合物のブレンド、Roche Diagnostics Corp.から入手可能 # 1814443);およびLipoTAXITMトランスフェクション試薬(Invitrogen Corp.製の脂質処方物、#204110):が含まれる。幹細胞のトランスフェクションは、例えば、M. L. Roach and J. D. McNeish (2002) Methods in Mol. Biol. 185:1に記載されるように、エレクトロポレーションにより実施することができる。幹細胞に安定な遺伝子変化をもたらすのに適したウイルスベクター系は、アデノウイルスおよびレトロウイルスに基づいたものでよく、市販のウイルス成分を用いて調製してよい。
【0069】
前記間質幹細胞(the stem stromal cells)への調節遺伝子を有するプラスミドベクターのトランスフェクションは、リン酸カルシウムDNA沈降法または陽イオン性洗剤方法(Lipofectamine.TM., DOTAP)を用いる単層培養により、またはプラスミドDNAベクターを生体適合性ポリマーに直接組み込むことによる三次元培養によって、細胞に導入することができる(Bonadio J. et al. (1999) Nat. Med. 5:753-759)。
【0070】
これらの遺伝子によりコードされる機能タンパク質の追跡および検出のため、前記ウイルスまたはプラスミドDNAベクターは、容易に検出可能なマーカー遺伝子、例えば、緑色蛍光タンパク質またはβ-ガラクトシダーゼ酵素(これらはいずれも組織化学的手段により追跡することができる)を含む。
【0071】
4.瘻および創傷を治療する方法
本発明のもう一つの態様は、瘻および創傷の治療に脂肪組織由来間質幹細胞を用いるための新規方法に関する。好ましい実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞は、治療を受ける被験体の脂肪組織に由来するものとされる。他の好ましい実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞は、本明細書に記載の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物である。しかしながら、脂肪組織由来間質幹細胞の他の調製物も、本明細書に記載の方法、例えば、米国特許第6,777,231号および同第6,555,374号、ならびに2005年2月25日出願の米国特許出願第11/065,461号「Identification and Isolation of Multipotent Cells From Non-Osteochondral Mesenchymal Tissue」に記載されているものなどに用いてよい。
【0072】
一つの実施態様では、被験体における瘻を治療する方法は、(a)内部穴を縫合糸で閉鎖すること、および(b)該縫合閉鎖された内部穴に、例えば本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約10x106、少なくとも約20x106、少なくとも約30x106、または少なくとも約40x106の脂肪組織由来間質幹細胞を送達すること:を含む。例えば、細胞の初回送達が不十分である特定の実施態様では、前記方法は、(c)前記縫合閉鎖された内部穴に、例えば本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約20x106の細胞、少なくとも約30x106、または少なくとも約40x106の脂肪組織由来間質幹細胞からなる2回目の投与量を送達すること:をさらに含み得る。
【0073】
もう一つの実施態様では、前記方法に用いられる脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、もしくは99%の該幹細胞がCD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59 CD90、および/またはCD105マーカーを発現するものである。
【0074】
もう一つの実施態様では、前記方法に用いられる脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物は、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、もしくは99%の該幹細胞がc-Kit、ビメンチン、および/またはCD90マーカーを発現するものである。
【0075】
本発明の細胞を被験体、特にヒト被験体に投与する一般的な方法は、その一部については本明細書において詳細に記載されており、それらの方法は被験体における標的部位への細胞の注入または移植を含み、本発明の細胞は、注入または移植による、被験体への細胞の導入を容易にする送達装置に入れることができる。かかる送達装置としては、細胞および流体をレシピエント被験体の体内に注入するためのチューブ、例えば、カテーテルが挙げられる。好ましい実施態様では、前記チューブは、本発明の細胞を被験体に所望の位置で導入することができる針、例えば、シリンジをさらに備えている。本発明の細胞は様々な形態でかかる送達装置、例えば、シリンジに入れることができる。例えば、細胞は、溶液に懸濁することができ、またはかかる送達装置に入れられる場合には支持マトリックスに埋め込むことができる。薬学上許容される担体および希釈剤としては、生理食塩水、水性緩衝液、溶媒、および/または分散媒が挙げられる。かかる担体および希釈剤の使用は当技術分野で周知である。前記溶液は、好ましくは無菌であり、そして容易に注射できる程度に流体である。前記溶液は、製造および保存の条件下で安定し、そして、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどを用いて細菌および真菌などの微生物の混入作用から保護されることが好ましい。本発明の溶液は、本明細書に記載の前駆細胞を、薬学上許容される担体または希釈剤と、必要に応じて、上記に列挙した他の成分との中に組み込み、その後、濾過滅菌を行うことによって調製することができる。
【0076】
他の実施態様では、被験体における瘻を治療する方法は、(a)内部穴を、例えば、対象の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の、脂肪組織由来間質幹細胞を含む縫合糸で閉鎖すること:を含む。前記対象の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物中の細胞でコーティングされたかかる縫合糸は、引用することにより本明細書の一部とされる、2005年2月14日出願の米国特許出願第11/056,241号に詳細に記載されている。
【0077】
前記方法は、いくつかの実施態様では、(d)少なくとも一つの瘻管を深く掻爬すること;(e)該瘻管に材料を充填すること:をさらに含み得る。ある特定の実施態様では、前記方法は、前記材料に、例えば、対象の細胞組成物の、少なくとも約10×106の脂肪組織由来間質幹細胞を送達することをさらに含み得る。好ましくは、前記材料はフィブリンベースのポリマーまたは接着剤、例えば、フィブリン糊またはゲルである。ある特定の実施態様では、例えば、前記材料が前記脂肪組織由来幹細胞含有組成物を含むように、投与量の少なくとも約10×106の脂肪組織由来間質幹細胞が前記材料内にすでに含まれている。
【0078】
さらなる実施態様では、被験体における瘻を治療する方法は、
(i)少なくとも一つの瘻管を深く掻爬すること
(ii)該掻爬された管の内部開口部を縫合糸で閉鎖すること
(iii)該縫合閉鎖された内部開口部に、例えば、本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約10×106、少なくとも約20×106、少なくとも約30×106、または少なくとも約40×106の脂肪組織由来間質幹細胞を送達することを含む。
【0079】
例えば、細胞の初回送達が不十分である特定の実施態様では、前記方法は、
(iv)前記縫合閉鎖された内部穴に、例えば本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約20x106の細胞、少なくとも約30x106、または少なくとも約40x106の脂肪組織由来間質幹細胞からなる2回目の投与量を送達すること
をさらに含み得る。
【0080】
工程(i)は、治療する総ての瘻管を深く掻爬することにより実施されることが好ましく、例えば、掻爬用針を瘻管内に挿入し、瘻壁を掻爬することにより出血誘発を引き起こして、自然のフィブリンを得、そのフィブリンが瘻管に満ちる。本発明者らによる最近の臨床研究での結果、この掻爬方法により生じる自然のフィブリンは、人工フィブリンシーラントの使用と比べて好ましい選択肢であるということが分かっており、それゆえ、本発明の方法の好ましい実施態様では、治療する瘻管にかかる材料を充填しない。
【0081】
工程(iv)は、細胞、例えば、脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の、瘻管に沿って瘻壁への注入による、局所送達により実施されることが好ましい。例えば、3cmの瘻管に沿って1000万細胞を2回注入する。
【0082】
本発明の方法は、あらゆる瘻の治療に用いてよく、そのような瘻としては、限定されるものではないが、肛門直腸瘻、すなわち肛門瘻または糞瘻、動静脈瘻、すなわちA-V瘻、胆道瘻、頸瘻、頭蓋洞瘻、腸腸瘻、腸皮瘻、腸腟瘻、胃瘻、子宮腹腔瘻 外リンパ瘻(metroperitoneal fistula perilymph)、肺動静脈瘻、直腸腟瘻、臍瘻、気管食道瘻、および膀胱腟瘻が挙げられる。好ましくは、前記方法は、腸瘻、例えば、腸をそれ自体と、あるいは別の器官と連結するもの(直腸腟瘻、腸腸瘻、腸皮瘻、および腸腟瘻など)の治療に用いてよい。もう一つの好ましい実施態様では、前記方法は、膣瘻または子宮瘻、例えば、膣または子宮をそれ自体と、あるいは別の器官と連結するもの(頸瘻、直腸腟瘻、腸腟瘻、および膀胱腟瘻など)の治療に用いてよい。
【0083】
瘻は、当技術分野で公知の任意の方法により、例えば、切開、カテーテルなどにより外科的修復が行われ得る。
【0084】
もう一つの実施態様では、被験体における創傷を治療する方法は、(a)創傷を縫合糸で閉鎖すること、および(b)該縫合閉鎖された創傷に、例えば脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約10x106、少なくとも約20x106、少なくとも約30x106、または少なくとも約40x106の脂肪組織由来間質幹細胞を送達すること:を含む。例えば、細胞の初回送達が不十分である特定の実施態様では、前記方法は、(c)前記縫合閉鎖された創傷に、例えば脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物において、少なくとも約20x106の細胞、少なくとも約30x106、または少なくとも約40x106の脂肪組織由来間質幹細胞からなる2回目の投与量を送達すること:をさらに含み得る。他の実施態様では、前記創傷に、本発明の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物、例えば、材料(例えば、接着剤または糊である)が前記細胞組成物を含むように、例えば、前記材料内に含まれた投与量の少なくとも約10x106の脂肪組織由来間質幹細胞を充填してよい。他の実施態様では、被験体における創傷を治療する方法は、(a)創傷を、例えば、対象の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の、脂肪組織由来間質幹細胞を含む縫合糸で閉鎖すること:を含む。前記対象の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物の細胞でコーティングされたかかる縫合糸は、上記に、そして引用することにより本明細書の一部とされる、2005年2月14日出願の米国特許出願第11/056,241号に詳細に記載されている。
【0085】
上記の方法は、治療を受けている被験体に治療薬を、例えば全身的にまたは縫合部位に局所的に、投与することをさらに含み得る。ある特定の実施態様では、前記脂肪組織由来間質幹細胞は、上記のように、治療薬を含む脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物に処方される。他の実施態様では、前記治療薬は、別々に、例えば、前記方法と同時に、前記方法を実施する前に、または前記方法を実施した後に投与される。いくつかの実施態様では、前記治療薬は、前記方法を被験体に実施する前、その間、およびその後に、その被験体に投与される。例示的な治療薬は上述している。好ましい実施態様では、クローン病の治療のための治療薬は被験体に投与される。例示的なクローン病治療薬は、抗炎症薬(メサラミンを含む薬剤など)、免疫抑制薬(6-メルカプトプリンおよびアザチオプリンなど);生物学的製剤(インフリキシマブ(Remicade(登録商標))など)、抗生物質、および下痢止め薬(ジフェノキシラート、ロペラミド、およびコデインなど)である。
【0086】
同種幹細胞を用いる実施態様では、補助的治療を必要とする場合がある。例えば、GVHDを予防するために、当技術分野で公知の方法に従って、治療の前、その間、および/またはその後に免疫抑制薬を投与してよい。また、投与の前に、当技術分野で公知の方法に従って、被験体から細胞への、またはその逆の場合の免疫反応を抑制するように細胞を改変してもよい。
【0087】
いずれの治療薬の投与量も、患者の徴候、年齢、および体重、治療または予防する障害の性質および重篤度、投与の経路、ならびに薬剤の形態によって変わる。対象の処方物はいずれも1回量または分割量で投与してよい。治療薬の投与量は、当業者に公知の技術により、または本明細書において教示するように、容易に決定し得る。また、2つ以上の治療薬の混合物を投与してもよく、または複数の治療薬を別個の組成物として投与してもよい。
【0088】
治療薬は、経口的に、非経口的に、吸入噴霧による、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、経頬的に、経膣的に、または移植レザバーを介して投与することができる。本明細書において、非経口とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、くも膜下腔内、病巣内、および頭蓋内の注入または輸注技術を含む。
【0089】
特定の患者において最も効果的な治療をもたらす任意の特定の薬剤の正確な投与時間および量は、特定の化合物の活性、薬物動態学、およびバイオアベイラビリティ、患者の生理学的状態(年齢、性別、疾患の種類および病期、一般健康状態、特定の投与量に対する反応性、および薬物治療の種類を含む)、投与の経路などによって変わる。治療を最適化するために、本明細書において示すガイドラインを用いて、例えば、投与の最適な時期および/または量を決定し得、その決定には、被験体をモニタリングし、投与量および/またはタイミングを調整することからなるルーチン実験以上のものを必要としない。
【0090】
被験体が治療を受けている間、患者の健康状態を24時間の間、所定の時期に1以上の関連した指標を測定することによりモニタリングし得る。かかるモニタリングの結果に応じて、補給物、量、投与の時期、および処方を含む治療を最適化し得る。改善の程度を確認するために、同じパラメーターを測定することにより、定期的に患者を再評価し得、そのような最初の再評価は、一般に、療法開始から4週間後に行い、その後の再評価は治療期間中4~8週間おきに、さらにその後3ヶ月おきに行う。療法は数週間または何年続けてもよく、最低1ヶ月がヒトに対する療法の一般的な長さである。これらの再評価に基づいて、投与する薬剤の量、場合によっては、投与の時期も調整し得る。
【0091】
治療は、化合物の最適用量に満たないより低用量で開始してよい。その後、最適な治療効果が得られるまで、その用量を少しずつ増やしてよい。
【0092】
異なる成分の効果の発現および継続期間は形式的なものであり得るため、いくつかの治療薬を併用することにより任意の個別成分の必要な用量が減少する可能性がある。かかる併用療法では、異なる活性薬剤を一緒にまたは別々に、および同時にまたは1日以内の異なる時間に送達してよい。
【0093】
対象の化合物の毒性および治療効力は、例えば、LD50およびED50を決定するために、細胞培養物または実験動物において標準的な薬学的手順により決定してよい。高い治療指数を示す組成物が好ましい。有害な副作用を示す化合物を用いてもよいが、副作用を軽減するために、薬剤を所望の部位に向ける送達系を設計する際には注意を払う必要がある。
【0094】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトに用いる様々な用量を処方するのに用いてよい。あらゆる治療薬、あるいはその中のあらゆる成分の用量は、ほとんどまたは全く毒性のないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、使用する投与形および利用する投与経路に応じて、この範囲内で異なる。本発明の薬剤の場合、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定し得る。用量は、細胞培養物で決定されるIC50(すなわち、徴候の最大阻害の50%を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて処方し得る。かかる情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定してもよい。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定し得る。
【0095】
5.キット
他の実施態様では、本発明は、前記脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物と、所望により、それらの使用説明書を含むキットに関する。本発明の医薬組成物および生体材料を含むキットもまた、本発明の範囲内である。キットの成分は、上述の方法を手動で実施するために、または部分的もしくは完全に自動で実施するためにパッケージングし得る。かかるキットは、例えば、療法、修復、生体材料の調製および他の用途なと広く利用し得る。
【実施例】
【0096】
本発明を一般的に説明してきたが、次の実施例を参照することによってより理解しやすくなるであろう。これらの実施例は、本発明のある特定の態様および実施態様を例示する目的でのみ示すものであり、本発明を制限するものではない。
【0097】
実施例1:改良された均一性を有する、脂肪吸引物からの幹細胞の調製
局所麻酔および全身鎮静を使って、脂肪吸引により脂肪組織を得た。小さな切開(直径0.5cm未満)を通して、先端に中空の短い太い針の付いたカニューレを皮下腔に挿入した。脂肪組織を機械的破砕するために、穏やかに吸引しながら、カニューレを脂肪組織、腹部壁コンパートメントを通して動かした。失血を最小限に抑えるために、食塩溶液と血管収縮薬のエピネフリンをその脂肪組織コンパートメントに注入した。このようにして、治療する各患者から生の脂肪吸引物80~100mlを得た。
【0098】
未処理の脂肪吸引物を滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Gibco BRL, Paisley, Scotland, UK)で十分に洗浄して、血液細胞、生理食塩水、および局所麻酔薬を除去した。細胞外マトリックスを平衡塩類溶液(5mg/ml;Sigma, St. Louis, USA)中のタイプIIコラゲナーゼ(0.075%;Gibco BRL)の溶液で37℃で30分間消化して、細胞画分を遊離した。次いで、等量の10%ウシ胎児血清(FBS;Gibco BRL)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco BRL)を添加することによりコラゲナーゼを不活性化した。細胞の懸濁液を250xgで10分間遠心分離した。赤血球を溶解するために、細胞を0.16M NH4Clに再懸濁し、室温で(RT)10分間置いておいた。この混合物を250xgで遠心分離し、細胞を10%FBSおよび1%アンピシリン/ストレプトマイシン混合物(Gibco, BRL)を添加したDMEMに再懸濁し、その後、それらを100mm組織培養皿に10~30x103細胞/cm2の濃度でプレーティングした。
【0099】
細胞を空気中5%CO2雰囲気中37℃で24時間培養した。その後、皿をPBSで洗浄して、付着していない細胞と細胞断片を除去した。これらの細胞は、およそ80%集密状態に達するまで、同じ培地中、同じ条件下で培養により維持し、3~4日おきに培養培地を交換した。細胞を、次いで、トリプシン-EDTA(Gibco BRL)を用いて、1:3希釈(およそ約5~6x103細胞/cm2の細胞密度に相当する)で継代した。我々は、移植には継代1~3代の間の細胞を用いたが、均一性の高い細胞集団を単離するためには3回以上継代した細胞が好ましい。細胞の特徴づけは、1~9代目の細胞を用いて実施した。
【0100】
実施例2:改良された均一性を有する、脂肪吸引物からの幹細胞の特徴づけ
免疫蛍光染色により細胞を特徴づけるため、細胞を、24-ウェルプレートのガラスカバースリップ上の、10%FBSを添加したDMEMに低密度でプレーティングした。免疫組織化学研究では、細胞をPBSで洗浄し、アセトンで-20℃で10分間固定した。a-アクチンの染色では、細胞をでRTで10分間固定した。4%ヤギ血清および0.1%Triton X-100を含有するPBSでブロックした後、細胞を、次の細胞マーカーに対する一次抗体(示した希釈度のもの)とともに4℃で一晩インキュベートした[(i)α-アクチン;Dako, Glostrup, Denmark;1/50;(ii)ビメンチン;Sigma, St. Louis, USA;1/200;(iii)CD90;CYMBUS, Biotechnology LTD, Chandlers Ford, Hants, UK;1/50;(iv)第VIII因子;Dako;1/100;(v)CD34;Chemicon, CA, USA;1/100;(vi)c-Kit;Chemicon;1/100;(vii)デスミン;Dako;1/100;(viii)サイトケラチン;Dako;1/100、および(ix)S-100;Dako;1/50]。次いで、細胞を適当なフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を結合した、またはテトラメチルローダミンイソチオシアネートクロリド(TRITC)を結合した二次抗体(Sigma;1/50)とともにRTで45分間インキュベートした。我々は陰性対照については一次抗体を省略した。核を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で対比染色した。その後、細胞をMobiglow (MoBiTec, Gottingen, Germany)に取り付け、落射蛍光顕微鏡 Eclipse TE300 (Nikon, Tokyo, Japan)を用いて観察した。我々は、いずれの場合にも、様々な領域の免疫陽性細胞の数を決定し、それらの数を染色された核の数と比較した。Spotlカメラ(Diagnostic Instruments Inc., Tampa, FL, USA)を通してランダムに選択した領域をコンピューター(MacIntosh G3; Apple Computer Ink., Cupertino, Ca, USA)にエキスポートした。様々な抗体を用いた免疫染色の陽性対照として、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、およびヒト滑膜繊維芽細胞を用いた。
【0101】
継代1代目で、高い割合(90~95%)の脂肪由来間質幹細胞が、間葉系細胞骨格細胞(mesenchymal cytoskeletal cells)のマーカーであるビメンチンを発現した(
図1)。ビメンチンの発現は継代9代まで(継代9代を含む)同じレベルに維持された。しかしながら、他のマーカーのレベルは、時間とともに低下した。例えば、継代1代目のLPA由来細胞の17%に見られたa-アクチンは、継代7代目でもはや検出できなかった。内皮細胞のマーカーであるフォン・ウィルブランド因子(von Willebrandt factor)(第VIII因子)、およびCD34は、内皮細胞の表面でも見られ、継代1~3代目にのみ検出された(それぞれ、7%および12%免疫陽性細胞)。一方、細胞増殖のマーカーであるc-Kit(CD117)の発現は、時間とともに高まり、継代4代以降99%免疫陽性細胞であった(
図2)。初期におよそ80%のLPA由来細胞で発現された、繊維芽細胞マーカーであるCD90は、継代6代からは99%の細胞で見られた(
図3)。神経外胚葉マーカーであるS100または外胚葉マーカーであるケラチンの発現は、どの時点においてもLPA由来細胞で観察されなかった。継代回数が増えるとともに観察されるマーカーの変化より、得られる細胞調製物の均一性が高まることが示される。
【0102】
細胞増殖を定量するため、細胞を5x103細胞/cm2の濃度で24-ウェルプレートにプレーティングした。細胞が基質に接着した後(3時間)、培養培地を1%抗生物質と0.5%、2%、5%、または10%FBSを補給したDMEMと交換した。各バッチの血清を試験するための陽性対照として、ヒト滑膜繊維芽細胞も培養し、それらの増殖速度を測定した。培地は2日おきに交換した。24時間間隔で、細胞を1%グルタルアルデヒドで固定し、1ウェル当たりの細胞数を、クリスタルバイオレットでの核染色後、595nmでの吸光度をモニタリングすることにより測定した。標準曲線を作成して、1ウェル当たりの細胞数と595nmでの吸光度との関係をはっきりさせした(r2=0.99)。
【0103】
7つの脂肪吸引物(LPA)総てから生存脂肪組織由来間質細胞を単離し、培養することに成功した。これらの細胞を培養増殖させ、7~10日間隔で継代した。場合によっては、細胞を凍結保存し、移植前に解凍した。脂肪組織由来間質幹細胞(ADSC)の増殖速度は血清濃度に依存し、増殖は5%~10%間のFBSで最大となる(
図4)。これらの血清濃度での平均集団倍加時間は37.6±0.6時間であり、同じ条件下で培養したヒト滑膜繊維芽細胞の集団倍加時間(35.6±1.4時間;p>0.05;t検定;3つの独立した試験の結果)との有意差はなかった。
【0104】
より標準化された、主観性の少ない方法で細胞を解析するために、細胞を蛍光活性化セルソーター(FACS)解析にも供した。一般に、フローサイトメトリー解析では、蛍光マーカーと直接的に(共有結合により)または間接的に(二次蛍光標識抗体)結合された抗体による表面抗原の検出が可能である。一方、上記の免疫組織化学解析では、細胞を易透化し、その後、抗体で染色することが必要であった。そのため、後者の解析は、標的タンパク質および抗体に応じた、個々に最適化されたプロトコールを必要とする。さらに、細胞膜が易透化されるため、内部(非膜結合)タンパク質と細胞外マーカータンパク質(extracelular marker proteins)を識別することはできない。すなわち、免疫組織化学解析では、タンパク質マーカーが発現されているかどうかを知ることはできるが、それが細胞表面で発現されているのかまたは細胞内で発現されているのかを見分けることはできない。
【0105】
表面抗原の検出のためのイムノサイトメトリーに用いられるプロトコールは標準化され、必要なのは適当な陰性対照だけである。さらに、FACS解析は、陽性細胞(表面抗原を発現する細胞)の割合、および発現レベル(一つの細胞におけるいくつかまたは多くの表面抗原)の評価を可能にする。これらの評価は、免疫組織化学を用いた主観的なものに過ぎず、試験によって異なる可能性があるが、このようなことはFACS解析では起こらない。
【0106】
このような細胞免疫表現型特徴づけは、新たに単離された細胞において、培養期間の後に、例えば、培養の7日目、培養の4週間後、そして培養の3ヶ月後に実施し得る。異なる時間に表面マーカーを解析することで、培養期間中の表現型の均一性の評価が可能となる。この解析の例と、培養0~3ヶ月の健常なドナー3名から得たサンプルから得られた表現型を示すデータは、引用することにより本明細書の一部とされる、2005年2月25日出願の米国特許出願第11/065,461号に詳細に記載されている。
【0107】
上記の方法による単離後、患者のうちの1名からの脂肪由来間質幹細胞を一連の表面マーカーの存在/不在に関して特徴づけた。これを行うために、次の表面マーカーの発現をフローサイトメトリーによりモニタリングした:
【0108】
インテグリン:CD11b、CD18、CD29、CD49a、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD61、CD104。
【0109】
造血マーカー:CD3、CD9、CD10、CD13、CD16、CD14、CD19、CD28、CD34、CD38、CD45、CD90、CD133、グリコホリン(glicoforine)。
【0110】
増殖因子受容体:CD105、NGFR。
【0111】
細胞外マトリックス受容体:CD15、CD31、CD44、CD50、CD54、CD62E、CD62L、CD62P、CD102、CD106、CD146、CD166。
【0112】
その他:CD36、CD55、CD56、CD58、CD59、CD95、HLA-I、HLA-II、β2-ミクログロブリン。
【0113】
特徴づけする細胞をトリプシンで穏やかに消化することによって採取し、PBSで洗浄し、解析する表面マーカーの1つ1つに対するフルオレセイン(FITC)またはフィコエリトリン(PE)標識抗体マーカーとともに4℃で30分間インキュベートした。細胞マーカーを洗浄し、すぐにEpics-XL サイトメーター(Coulter)を用いて解析した。対照として、FITCまたはPE標識した対応する同位元素の非特異的抗体で染色した細胞を用いた。
【0114】
表面マーカーの発現プロフィールの解析から(
図7A/7B)、どのマーカーが細胞集団を明確にし、その細胞集団を同定し、他の種類の細胞と識別することを可能にするかを判断するのに用いた基準は以下であった:
【0115】
1.引用することにより本明細書の一部とされる、2005年2月25日出願の米国特許出願第11/065,461号において健常なドナーの脂肪由来間質幹細胞を用いて行われた実験法において、培養期間中にサンプルによってまたは経時的に異なるマーカーを捨てる。
【0116】
2.特定細胞種に特徴的なマーカー(例えば、CD3はリンパ球だけに限定されるマーカーである)を捨て、生物学的関連性の関数としてマーカーを選択する。
【0117】
これらの基準を適用して、多能性幹細胞集団は、CD9+、CD10+、CD13+、CD29+、CD44+、CD49A+、CD51+、CD54+、CD55+、CD58+、CD59+、CD90+、およびCD105+に対して陽性であり;かつCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106、およびCD133の発現に欠けていると特徴づけられる。
【0118】
実施例3:瘻の治療に用いるフィブリン糊を含む幹細胞の調製
臨床用途では、上記で調製された細胞は3回以下の継代後に用い得る(
図3)が、より高い均一性を有する細胞調製物を得るためには、上記のように、2回以上継代後に用いることが好ましい。臨床用の細胞培養物を37℃で3分間トリプシン処理した。FBSを加えたDMEMを添加することによりトリプシン処理を停止させ、この懸濁液を110xgで5分間遠心分離した。細胞をPBSで洗浄し、この懸濁液を再度150xgで5分間遠心分離した。細胞を、1~2mlのリンガー乳酸溶液中3~30x10
6細胞/ml間に再懸濁し、適切なシリンジに入れた。所望により、リンガー乳酸溶液にヒト血清アルブミン(HSA)を添加してよい。
【0119】
ある特定のケースでは、瘻管の閉塞を高めることを目指して、キットの2つの成分を組み合わせる前に、細胞の半分をフィブリン糊キット(Tissucol(登録商標) Duo 2.0; Baxter, Madrid, Spain)のトロンビン成分に再懸濁した。瘻開口部を塞ぐためのフィブリン糊の使用は当技術分野で公知であるが、瘻の独立型治療としては有効ではない。フィブリン糊を本明細書に記載の脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物に加えることで、細胞を局所的に保持する働きをし、我々は細胞がフィブリン糊およびゲル内で十分に増殖することを観察した。
【0120】
実施例4:脂肪吸引物からの幹細胞の調製物を用いた、瘻を修復するための改善された外科的処置
我々は、クローン病の瘻の治療のための上記脂肪組織間質幹細胞組成物を用いた自己幹細胞移植の実現可能性および安全性を検証するように設計された第1相臨床試験を実施した。このプロトコールは2002年4月12日にthe Clinical Trial and Ethics Committee of La Paz Hospitalにより認可され、詳細なインフォームドコンセント用紙を作成して、患者により署名を受けた。The Ethics Committeeは、臨床試験の間の研究の進行に関する情報を耐えず提供し続けた。
【0121】
方法
患者は、次の試験対象患者基準に従って選択した:19歳以上であること;試験の少なくとも5年前にクローン病と診断を受けていること;医療処置に不応性であり、古典的な手術による処置に少なくとも2回失敗している1以上の複雑な、クローン病の瘻(腸皮瘻、括約筋上痔瘻、および/または直腸腟瘻)が存在していること;かつインフォームドコンセント用紙に署名があり参加に同意していること。試験除外基準は以下のとおりである:試験対象患者基準に満たないこと;精神障害者;極度のやせすぎ;局所麻酔薬に対するアレルギー;癌の診断前;およびエイズ。
【0122】
本研究には5名の患者(番号001~005)を登録した。3名の男性と2名の女性を含み、平均年齢は35.1±2.4歳(範囲:31.2~37.5歳)であった。9つの細胞移植を実施した:直腸腟瘻に3つ;腸皮瘻に5つ(1名の患者の異なる瘻に4つ;および括約筋上肛門周囲瘻に1つ。全ての腸皮瘻は低流動性-1日当たり50cc未満-であり、腹壁に位置した(表1)。この処置と同時に、中心静脈栄養法(Total Parenteral Nutrition)、Remicaid、またはOctreotrideで処置した患者はいなかった。患者001および002では、最初の脂肪吸引後、低温保存で生き延びた幹細胞はなかったため、2つの脂肪吸引処置を必要とした。
【0123】
培養細胞に細菌が混入したことを理由に1名の患者を排除した。我々は、4名の患者の9つの瘻に、継代3代目までの自己の脂肪組織由来間質幹細胞(ADSC)を接種した。接種を行った8つの瘻を週1回少なくとも8週間追跡調査した。6つの瘻では、第8週目の終わりに外部開口部が上皮で覆われており、このようなことから、これらの瘻は治癒したと見なされた(75%)。他の2つの瘻では、流出の減少を伴う外部開口部の不完全な閉鎖が起こっただけであった(治癒せず;25%)。いずれの患者においても追跡調査期間(少なくとも6ヶ月~2年以内)の終わりに悪影響は認められなかった。
【0124】
腸皮瘻の場合では、総ての管を深く掻爬した。直腸腟瘻の場合では、我々は膣アプローチを用い、後腟壁の剥離を行った。裂け目を完全に分離し、直腸への開口部を3/0吸収性ステッチで閉鎖した。直腸の粘膜はクローン病により損傷を受けており、極めて脆弱であった。肛門周囲瘻の場合では、主要な管から円筒形に抜き取り、硬化粘膜を通して直腸の穴を3/0吸収性ステッチで閉鎖した。
【0125】
腸皮瘻の場合では、我々は、針を用いて、細胞を
管の壁に注入した。直腸腟瘻および肛門周囲瘻の場合では、我々は細胞を縫合された内部開口部の近くの直腸粘膜に注入した。総ての場合において、我々は注入後の注入部位で液体の詰まった水疱を観察した(
図5)。注入した細胞の数は培養細胞の増殖に応じて3~30
×10
6の範囲であった(
図3)。
【0126】
接種材料の調製開始から注入終了までの時間は、総ての場合において、90分間未満であった。腸皮瘻の場合では、管にフィブリン糊を充填した後、皮膚を縫合した。直腸腟瘻の場合では、前位縫合膣皮弁を作成した。副管が検出されたら、それらにもフィブリン糊を充填した。
【0127】
術後に包帯を当てなかった。水分摂取は処置の12時間後に、固形食はその6時間後に開始した。手術の1~3日後に患者を解散させ、外来で追訪の予定を決めた。
【0128】
2つの組織病理学的サンプルを得た。腸皮瘻の部位から1検体(患者番号002)を得た(移植組織番号2の7ヶ月後および移植組織番号3の10日後)。別の検体(患者番号001)を直腸腟壁から、最初の移植の1年後(移植組織番号1)、移植組織番号6に関する外科的処置中に得た。これらの検体をパラフィン包埋し、切片にし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、評価した。
【0129】
週1回の追跡調査の術後8週間の予定を決めた。前の観察とは関係なく、8週間後に外部開口部が完全に上皮化したことが明らかである場合には患者を治癒したと見なした。8週間後、月1回の追跡調査を少なくとも6ヶ月~2年以内の間行った。
【0130】
結果
本研究には5名の患者が参加し、7種の脂肪吸引を実施した(
図3)。患者番号003は、培養した脂肪吸引細胞にグラム陽性菌の混入が発見されたために、移植処置中に本試験から排除した。細菌はOerkovia xanthineolyticaと特定した。患者002の腸皮瘻は、急性敗血症を起こした新規エンテロベシキュラー瘻(enterovesicular fistula)の緊急腹部手術のために、本試験から排除した。開腹には移植部位の切除が必要であったため、この場合において、我々は最小8週間の追跡調査スケジュールを忠実に守ることができなかった。
【0131】
4名の患者の9つの瘻に、3回以内の継代後のADSCを接種した(
図3)。8つの瘻は、本研究における維持に適していると見なされ、少なくとも8週間追跡調査した(
図3)。6つの瘻では、外部開口部が第8週までに上皮で覆われ、これらの瘻は治癒したと見なされた(75%)(
図6)。他の2つの瘻では、患者によって報告があったとおり、流出の減少を伴う外部開口部の不完全な閉鎖が起こっただけであった(25%;治癒せず;
図3)。注入した細胞の数または培養時間と処置の成功との間には直接の関係はなかった。また、患者の性別または年齢と治癒との間にも直接の関係はなかった。我々が行ったその後の研究によれば、初回投与量の20x10
6細胞が適切であるということを示している。我々は、初回投与量が不十分であるという事象においては2回目投与量の40x10
6細胞を用いてよいと決めた。我々は細胞数が多いほど組織修復により良い治療効果があるということを観察したことから、細胞投与量がより多いことが好ましいとする。
【0132】
処置する9つ総ての瘻では、特別な技術的問題もなく、外科的処置および移植処置が実施された。調査したいずれのケースにおいても、差し迫った有害反応(例えば、アナフィラキシー、アレルギー反応)は観察されなかった。
【0133】
手術の7ヶ月後(腸皮瘻)および1年後(直腸腟瘻)に2つの組織病理学的サンプルを得た。組織病理学的切片全体において細胞学的形質転換は検出されなかった。
【0134】
考察
これまでの報告において、我々は、医療処置に不応性であった再発性直腸腟瘻を有する若い女性についての細胞による治療の成功を記載した。それを受けて、我々は、不応性の、クローン病の瘻の治療のためのかかる自己脂肪組織間質幹細胞移植(オリジナルのプロトコールの改良を含む)の実現可能性および安全性を評価するため、さらに脂肪組織間質幹細胞のフィブリン糊との併用を検証するために本第1相臨床試験を設計した。
【0135】
我々は、幹細胞の供給源として、筋肉分化能力と、瘻が筋移植に良好に反応するという事実から、脂肪組織を選んだ。さらに、脂肪吸引脂肪は大量に入手可能であり、患者への悪影響を最小限に抑えて、採取することができる。他のグループは骨髄由来幹細胞を用いたが、そのようなケースでは、一部の患者(心筋梗塞を有する患者など)には危険な細胞動員処置が必要である。我々の研究では、総ての脂肪吸引処置によって、臨床的に有用な数の、幹細胞の特徴を有する細胞が得られる。
【0136】
我々は、予定されたプログラムに従って我々の患者を追跡調査をし、8つの処置のうち6つの処置で完全治癒を観察した。クローン病は、組織の脆弱性とこれらの患者における治癒に関連する深刻な問題から、瘻への外科的アプローチにとって最悪な条件を与えるということに留意することが重要である。我々の患者は、医療処置やこれまでの少なくとも2回の外科的処置に不応性であったが、我々の治療が大きな効果を上げると思われたことから選ばれた。それでもなお、クローン病が新たに発生するといかなる患者においても新たな瘻がなお生じる可能性があり、その患者はその患者の凍結保存した自己細胞を用いて再び治療することが必要となる。
【0137】
ADSC移植治療の成功の根底にある生物学的機構はまだ分かっていない。幹細胞は、結合組織、筋肉組織、または瘢痕組織に分化する可能性がある。また、幹細胞による増殖因子の分泌は、創傷治癒を促進する可能性もある。我々は、組織病理学的検査を行った瘻の典型的な瘢痕組織を見たが、移植されたものと局所的結合組織細胞とを識別することができない。我々は、我々の治療を用いた症例の75%において完全治癒を観察した。
【0138】
参照文献
本発明の実施には、特に断りのない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を使用し、それらの技術は当技術分野の技量の範囲内である。かかる技術は文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch and ManiatisによるMolecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989);DNA Cloning, Volumes I and II (D. N. Glover ed., 1985);Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984);Mullis et al. 米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984);Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984);Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986);B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology, VoIs. 154 and 155 (Wu et al. eds.), Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987);Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986);Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 1986)参照。
【0139】
本明細書において記載した総ての刊行物および特許は、以下に記載されている細目も含め、個々の刊行物または特許が引用することにより本明細書の一部とされることが具体的にかつ個々に示される場合と同様に、引用することによりそのまま本明細書の一部とされる。争議が持ち上がった際には、本願は、本明細書におけるあらゆる定義を含め、これを統制する。
【0140】
【0141】
均等
本発明は、特に、瘻を治療および予防するための方法および組成物を提供する。本発明の特定の実施態様を論じてきたが、上記の詳述は例示するものであり、限定するものではない。本発明の多くの変形形態は、当業者には本明細書を読み返すことにより明らかになる。添付の特許請求の範囲は、かかる総ての実施態様および変形形態を主張するものではなく、本発明の十分な範囲は、特許請求の範囲をそれらの十分な範囲の等価物とともに、そして上記の詳述をかかる変形形態とともに参照することにより決定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0142】
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図1】免疫蛍光染色による実施例1の方法により単離された細胞の特徴づけの結果を示す図である。免疫陽性細胞の出現頻度は以下のとおり示す:-,5%未満;+/-,6~15%;+,16~50%;++,51~85%;および+++,86~100%。P、継代数。
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図2】脂肪組織由来間質幹細胞の間接免疫蛍光による特徴づけを示す図である。患者番号001の細胞は移植組織番号6に続いて6回継代された細胞であった。青色はDAPIで染色された核を示す。(A)CD90;(B)c-Kit;および(C)ビメンチン。
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図3】本発明の特定の方法および組成物を用いて得られた臨床結果を要約した図である。F,女性;M,男性;NI,移植なし;NA,解析せず。
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図4】異なる濃度のFBS(図のように、0.5%、2.5%、および10%)での脂肪吸引物由来細胞の増殖曲線を示す図である。ヒト滑膜繊維芽細胞を5%または10%FBSのいずれかの存在下で培養した。595nmでの吸光度に関しては、細胞数±SDを示す。データは、代表的な試験を三連のウェルでで行ったものである。
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図5】縫合された内部開口部の近くに細胞を注入した後の直腸粘膜の水疱を示す図である。
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図6】細胞注入の前(A)およびその8週間後(B)の瘻の写真である。
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図7A】継代6代目で、本研究に参加している患者の脂肪吸引サンプルから単離された細胞から得られた表面マーカー(CD3、CD9、CD10、CD11b、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD28、CD29、CD31、CD34、CD36、CD38、CD44、CD45、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、およびCD49f)のプロフィールに対応する蛍光イムノサイトメトリー(fluorescence immunocytometry)のヒストグラムである。
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図7B】継代6代目で、本研究に参加している患者の脂肪吸引サンプルから単離された細胞から得られた表面マーカー(CD,50 CD51、CD54、CD55、CD56、CD58、CD59、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD90、CD95、CD102、CD104、CD105、CD106、CD133、CD166、グリコホリナ(glicoforina)、β2ミクログロブリン(β2 microglobuline)、HLA I、HLA II、およびNGFR)のプロフィールに対応する蛍光イムノサイトメトリーのヒストグラムである。